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特開2023-20403造形物の伝熱計算方法、造形物の伝熱計算装置、造形物の製造方法、造形物の製造装置及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020403
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】造形物の伝熱計算方法、造形物の伝熱計算装置、造形物の製造方法、造形物の製造装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/18 20060101AFI20230202BHJP
   B23K 9/04 20060101ALI20230202BHJP
   B23K 9/032 20060101ALI20230202BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20230202BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230202BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20230202BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20230202BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20230202BHJP
【FI】
G01N25/18 L
B23K9/04 Z
B23K9/04 G
B23K9/032 Z
B23K31/00 Z
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/00
B33Y50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125749
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】近口 諭史
(72)【発明者】
【氏名】黄 碩
【テーマコード(参考)】
2G040
4E081
【Fターム(参考)】
2G040AA01
2G040AB08
2G040BA08
2G040BA22
2G040CA02
2G040EA03
2G040EC01
2G040EC09
2G040HA16
2G040ZA08
4E081BB05
4E081CA01
4E081CA10
4E081CA11
4E081CA14
4E081DA14
4E081DA74
4E081EA24
(57)【要約】
【課題】演算負担の増加を抑制しつつ必要な計算精度を維持して、伝熱計算を高速に実施する。
【解決手段】造形物の伝熱計算方法は、造形物の形状を複数の要素に分割した解析形状モデルを求める工程と、造形計画から熱源からの入熱、ビード形成軌道及びビード物性の情報を含む造形条件を取得する工程と、解析形状モデルの複数の要素のうち、溶着ビードが形成される熱源の位置を中心とした温度計算領域に含まれる要素を、伝熱計算の計算対象要素に選定する工程と、造形条件に基づいて熱源からの熱が計算対象要素に伝熱される熱収支による、温度計算領域の温度分布を求める工程と、解析形状モデルにおける熱源の位置をビード形成軌道に沿って移動させ、熱源の移動先位置を中心とした温度計算領域に含まれる計算対象要素の選定、及びその温度計算領域の温度分布の計算を繰り返して、造形物の造形途中の温度履歴を求める工程と、を有する、
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された造形計画に基づいて溶着ビードを積層して造形物を造形する際の、前記溶着ビードを形成する熱源から前記造形物への伝熱を計算する造形物の伝熱計算方法であって、
前記造形物の形状を複数の要素に分割した解析形状モデルを求める工程と、
前記造形計画から前記溶着ビードを形成する熱源からの入熱、前記溶着ビードのビード形成軌道及びビード物性の情報を含む造形条件を取得する工程と、
前記解析形状モデルの複数の要素のうち、前記溶着ビードが形成される前記熱源の位置を中心とした温度計算領域に含まれる要素を、伝熱計算の計算対象要素に選定する工程と、
前記造形条件に基づく前記熱源からの熱が前記計算対象要素に伝熱される熱収支による、前記温度計算領域の温度分布を求める工程と、
前記解析形状モデルにおける前記熱源の位置を前記ビード形成軌道に沿って移動させ、前記熱源の移動先位置を中心とした前記温度計算領域に含まれる前記計算対象要素の選定、及び当該温度計算領域の前記温度分布の計算を繰り返して、前記造形物の造形途中の温度履歴を求める工程と、
を有する、
造形物の伝熱計算方法。
【請求項2】
前記温度計算領域の大きさを、前記要素が前記熱源から受ける熱量、又は前記要素の前記熱源までの距離に対する温度の変化量のうち少なくとも一方に応じて設定する、
請求項1に記載の造形物の伝熱計算方法。
【請求項3】
前記温度計算領域には、前記熱源から受ける熱量が周囲より大きい前記要素、又は前記熱源までの距離に対する温度の変化量が周囲より大きい前記要素が含まれる、
請求項2に記載の造形物の伝熱計算方法。
【請求項4】
前記温度計算領域は、前記ビード形成軌道に沿って延び、前記熱源の位置を中心軸とする軸直交断面が円形の仮想立体内に含まれる前記計算対象要素からなる領域である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の造形物の伝熱計算方法。
【請求項5】
前記仮想立体の半径又は軸方向長さの少なくとも一方のサイズを変更した場合に、変更後のサイズで計算される前記温度分布と、変更前のサイズで計算される前記温度分布との温度差が、予め定めた閾値より小さくなる範囲で前記サイズを大きく設定する、
請求項4に記載の造形物の伝熱計算方法。
【請求項6】
前記温度分布を計算する工程は、前記温度計算領域の内側と外側との間における熱の境界条件を、伝熱が生じない断熱条件で計算する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の造形物の伝熱計算方法。
【請求項7】
前記温度分布を計算する工程は、前記温度計算領域の内側と外側との間における熱の境界条件を、伝熱が生じる伝熱条件で計算する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の造形物の伝熱計算方法。
【請求項8】
前記温度分布を計算する工程は、
前記温度計算領域の外側に配置される複数の前記要素を、単一の外側要素とみなし、
前記温度計算領域の内側と外側との間における熱収支を、前記温度計算領域の内側に配置される複数の前記要素と前記単一の外側要素との間で求める、請求項7に記載の伝熱計算方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の造形物の伝熱計算方法を用いて決定した前記造形計画に基づいて前記造形物を製造する造形物の製造方法。
【請求項10】
予め設定された造形計画に基づいて溶着ビードを積層して造形物を造形する際の、前記溶着ビードを形成する熱源から前記造形物への伝熱を計算する造形物の伝熱計算装置であって、
前記造形物の形状を複数の要素に分割した解析形状モデルを求めるモデル生成部と、
前記造形計画から前記溶着ビードを形成する熱源からの入熱、前記溶着ビードのビード形成軌道及びビード物性の情報を含む造形条件を取得する造形条件取得部と、
前記解析形状モデルの複数の要素のうち、前記溶着ビードが形成される前記熱源の位置を中心とした温度計算領域に含まれる要素を、伝熱計算の計算対象要素に選定する対象要素選定部と、
前記造形条件に基づく前記熱源からの熱が前記計算対象要素に伝熱される熱収支による、前記温度計算領域の温度分布を求める温度分布算出部と、
前記解析形状モデルにおける前記熱源の位置を前記ビード形成軌道に沿って移動させ、前記熱源の移動先位置を中心とした前記温度計算領域に含まれる前記計算対象要素の選定、及び当該温度計算領域の前記温度分布の計算を繰り返して、前記造形物の造形途中の温度履歴を求める温度履歴算出部と、
を備える、
造形物の伝熱計算装置。
【請求項11】
請求項10に記載の造形物の伝熱計算装置を用いて決定した前記造形計画に基づいて前記造形物を製造する造形物の製造装置。
【請求項12】
予め設定された造形計画に基づいて溶着ビードを積層して造形物を造形する際の、前記溶着ビードを形成する熱源から前記造形物への伝熱を計算する造形物の伝熱計算方法の手順をコンピュータに実行させるプログラムであって、
コンピュータに、
前記造形物の形状を複数の要素に分割した解析形状モデルを求める機能と、
前記造形計画から前記溶着ビードを形成する熱源からの入熱、前記溶着ビードのビード形成軌道及びビード物性の情報を含む造形条件を取得する機能と、
前記解析形状モデルの複数の要素のうち、前記溶着ビードが形成される前記熱源の位置を中心とした温度計算領域に含まれる要素を、伝熱計算の計算対象要素に選定する機能と、
前記造形条件に基づく前記熱源からの熱が前記計算対象要素に伝熱される熱収支による、前記温度計算領域の温度分布を求める機能と、
前記解析形状モデルにおける前記熱源の位置を前記ビード形成軌道に沿って移動させ、前記熱源の移動先位置を中心とした前記温度計算領域に含まれる前記計算対象要素の選定、及び当該温度計算領域の前記温度分布の計算を繰り返して、前記造形物の造形途中の温度履歴を求める機能と、
を実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形物の伝熱計算方法、造形物の伝熱計算装置、造形物の製造方法、造形物の製造装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接等の溶接技術によって形成される溶着ビードを積層して、所望の形状の造形物を作製する積層造形方法が知られている(例えば、特許文献1)。
特許文献1には、溶接プロセス途中の温度と形状変化とを熱流体解析することで、適切な造形条件を設定することが記載されている。この熱流体解析は、熱源(アーク)を移動させながら基板上に溶着ビードを形成する際の、温度の時間変化を求めている。また、この解析では、固定した基板上で熱源を移動させて溶着ビードを形成するラグランジュ標記での座標系ではなく、熱源を固定して基板を相対的に移動させて溶着ビードを形成するオイラー表記の座標系が用いられる。そして、オイラー表記の座標系の定常解における温度の空間変化を、固定した基板上で熱源を移動させて溶融ビードを形成する際の温度の時間変化に換算している。
【0003】
また、特許文献1での熱流体解析においては、モデル全体の要素サイズと、アーク発生位置(ワイヤ供給位置)における細メッシュ領域の要素サイズとの急激な変化による計算不安定性を回避するため、双方の間に中間の要素サイズの領域を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-44541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなコンピュータを用いて熱収支を計算する伝熱計算においては、計算に用いる形状モデルを複数の要素に分割してマトリクス計算を行っている。しかし、積層造形する造形物の形状が複雑化、大型化するに従って、形状モデルを分割した要素数は増加する。また、計算精度を向上させるためには、より細かく要素分割することが求められる。このような要素数の増加によって計算負担が増大し、計算時間が長くなったり、高い演算性能を有するコンピュータが必要になったりする等の問題が生じてしまう。
【0006】
そこで本発明は、演算負担の増加を抑制しつつ必要な計算精度を維持して、伝熱計算を高速に実施できる、造形物の伝熱計算方法、造形物の伝熱計算装置、造形物の製造方法、造形物の製造装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 予め設定された造形計画に基づいて溶着ビードを積層して造形物を造形する際の、前記溶着ビードを形成する熱源から前記造形物への伝熱を計算する造形物の伝熱計算方法であって、
前記造形物の形状を複数の要素に分割した解析形状モデルを求める工程と、
前記造形計画から前記溶着ビードを形成する熱源からの入熱、前記溶着ビードのビード形成軌道及びビード物性の情報を含む造形条件を取得する工程と、
前記解析形状モデルの複数の要素のうち、前記溶着ビードが形成される前記熱源の位置を中心とした温度計算領域に含まれる要素を、伝熱計算の計算対象要素に選定する工程と、
前記造形条件に基づく前記熱源からの熱が前記計算対象要素に伝熱される熱収支による、前記温度計算領域の温度分布を求める工程と、
前記解析形状モデルにおける前記熱源の位置を前記ビード形成軌道に沿って移動させ、前記熱源の移動先位置を中心とした前記温度計算領域に含まれる前記計算対象要素の選定、及び当該温度計算領域の前記温度分布の計算を繰り返して、前記造形物の造形途中の温度履歴を求める工程と、
を有する、
造形物の伝熱計算方法。
(2) (1)に記載の造形物の伝熱計算方法を用いて決定した前記造形計画に基づいて前記造形物を製造する造形物の製造方法。
(3) 予め設定された造形計画に基づいて溶着ビードを積層して造形物を造形する際の、前記溶着ビードを形成する熱源から前記造形物への伝熱を計算する造形物の伝熱計算装置であって、
前記造形物の形状を複数の要素に分割した解析形状モデルを求めるモデル生成部と、
前記造形計画から前記溶着ビードを形成する熱源からの入熱、前記溶着ビードのビード形成軌道及びビード物性の情報を含む造形条件を取得する造形条件取得部と、
前記解析形状モデルの複数の要素のうち、前記溶着ビードが形成される前記熱源の位置を中心とした温度計算領域に含まれる要素を、伝熱計算の計算対象要素に選定する対象要素選定部と、
前記造形条件に基づく前記熱源からの熱が前記計算対象要素に伝熱される熱収支による、前記温度計算領域の温度分布を求める温度分布算出部と、
前記解析形状モデルにおける前記熱源の位置を前記ビード形成軌道に沿って移動させ、前記熱源の移動先位置を中心とした前記温度計算領域に含まれる前記計算対象要素の選定、及び当該温度計算領域の前記温度分布の計算を繰り返して、前記造形物の造形途中の温度履歴を求める温度履歴算出部と、
を備える、
造形物の伝熱計算装置。
(4) (3)に記載の造形物の伝熱計算装置を用いて決定した前記造形計画に基づいて前記造形物を製造する造形物の製造装置。
(5) 予め設定された造形計画に基づいて溶着ビードを積層して造形物を造形する際の、前記溶着ビードを形成する熱源から前記造形物への伝熱を計算する造形物の伝熱計算方法の手順をコンピュータに実行させるプログラムであって、
コンピュータに、
前記造形物の形状を複数の要素に分割した解析形状モデルを求める機能と、
前記造形計画から前記溶着ビードを形成する熱源からの入熱、前記溶着ビードのビード形成軌道及びビード物性の情報を含む造形条件を取得する機能と、
前記解析形状モデルの複数の要素のうち、前記溶着ビードが形成される前記熱源の位置を中心とした温度計算領域に含まれる要素を、伝熱計算の計算対象要素に選定する機能と、
前記造形条件に基づく前記熱源からの熱が前記計算対象要素に伝熱される熱収支による、前記温度計算領域の温度分布を求める機能と、
前記解析形状モデルにおける前記熱源の位置を前記ビード形成軌道に沿って移動させ、前記熱源の移動先位置を中心とした前記温度計算領域に含まれる前記計算対象要素の選定、及び当該温度計算領域の前記温度分布の計算を繰り返して、前記造形物の造形途中の温度履歴を求める機能と、
を実現させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、演算負担の増加を抑制しつつ必要な計算精度を維持して、伝熱計算を高速に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、造形物を製造する積層造形装置の全体構成図である。
図2図2は、造形途中の溶着ビードの温度解析機能を有する制御部の機能ブロック図である。
図3図3は、溶着ビードを形成する様子を模式的に示す説明図である。
図4図4は、ベースプレートと、溶着ビードを積層して形成される造形物とを多数の要素に分割した様子を模式的に示す造形物の一部断面図である。
図5図5は、溶着ビードと解析形状モデルの計算領域との関係を示す説明図である。
図6図6は、解析形状モデルの複数の要素のうち、温度計算領域に設定された計算対象要素を示す説明図であって、(A)は解析形状モデルを溶接方向から見た模式的な部分正面図であり、(B)は、溶接方向に直交する方向から見た模式的な部分側面図である。
図7図7は、温度計算領域を設定するための各要素の伝熱による温度分布を示す模式図である。
図8図8は、温度計算領域の形状を(A)~(C)に模式的に示す説明図である。
図9図9は、伝熱計算の手順を段階的に示すフローチャートである。
図10図10は、入熱位置の付近の解析形状モデルの要素の一部を、溶接方向に直交する方向から見た模式的な説明図である。
図11図11は、熱源位置を移動させる様子を(A),(B)に示す説明図である。
図12図12は、入熱位置の付近の解析形状モデルの要素の一部を、溶接方向に直交する方向から見た模式的な図であって、計算対象要素と温度計算領域以外の要素との境界を、伝熱を生じる伝熱条件に適用した場合の説明図である。
図13図13は、図12に示す解析形状モデルの温度計算領域についての熱収支を模式的に示す説明図である。
図14図14は、造形物を形成する各ビード形成パスに対して、各種条件で行った伝熱計算により、基準温度に到達するまでの冷却時間を求めた結果を模式的に示すグラフである。
図15図15は、解析形状モデルの計算途中の温度分布を濃淡で示した伝熱計算の結果を示す説明図である。
図16図16は、温度計算領域内の各計算対象要素の温度分布を濃淡で示した伝熱計算の結果を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態においては、予め設定された造形計画に基づいて溶着ビードを積層して造形物を造形する際の、造形物が受ける熱量を計算する。この熱量は、溶着ビードを形成する熱源から造形物への伝熱によるもので、以下に詳細に説明する。
【0011】
まず、溶着ビードを積層して造形物を造形する積層造形装置について説明する。
(積層造形装置の構成)
図1は、造形物を製造する積層造形装置の全体構成図である。
積層造形装置100は、造形部11と、造形部11を制御する制御部13とを備える。
造形部11は、先端軸に溶接トーチ15を有する溶接ロボット17と、溶接ロボット17を駆動するロボット駆動部21と、溶接トーチ15へ溶加材(溶接ワイヤ)Mを供給する溶加材供給部23と、溶接電流及び溶接電圧を供給する溶接電源部25と、を備える。
【0012】
(造形部)
溶接ロボット17は、多関節ロボットであり、ロボットアームの先端軸に取り付けた溶接トーチ15の先端には溶加材Mが支持される。溶接トーチ15の位置や姿勢は、ロボット駆動部21からの指令により、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能になっている。図示はしないが、ロボットアームの先端軸には、溶接トーチ15をウィービング動作させるウィービング機構が設けられていてもよい。
【0013】
溶接トーチ15は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給されるガスメタルアーク溶接用のトーチである。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層造形物に応じて適宜選定される。
【0014】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶接電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。溶接トーチ15は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。
【0015】
溶加材供給部23は、溶加材Mが巻回されたリール27を備える。溶加材Mは、溶加材供給部23からロボットアーム等に取り付けられた繰り出し機構(不図示)に送られ、必要に応じて繰り出し機構により正逆送給されながら溶接トーチ15へ送給される。
【0016】
溶加材Mとしては、あらゆる市販の溶接ワイヤを用いることができる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定される溶接ワイヤが利用可能である。さらに、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル基合金等の溶加材Mを、求められる特性に応じて使用できる。
【0017】
ロボット駆動部21は、溶接ロボット17を駆動して溶接トーチ15を移動させる。また、溶接トーチ15の移動とともに、連続供給される溶加材Mが、溶接電源部25からの溶接電流及び溶接電圧によって溶融する。
【0018】
つまり、溶接ロボット17は、アークを発生させつつワイヤ状の溶加材Mを溶融及び凝固させる溶接トーチ15をアーム先端に保持し、溶接トーチ15を移動させながら、溶接トーチ15に連続送給される溶加材Mをアークにより溶融及び凝固させ、母材であるベースプレート29上に溶加材Mの溶融凝固体である溶着ビードBを形成する。
【0019】
(制御部)
制御部13は、図示は省略するが、入出力部と、記憶部と、演算部とを含んで構成されるコンピュータ装置である。
入出力部には、溶接ロボット17、溶接電源部25及び溶加材供給部23等が接続される。記憶部には、後述する駆動プログラムを含む各種の情報が記憶される。記憶部は、ROM,RAM等のメモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等のドライブ装置、CD、DVD、各種メモリーカード等の記憶媒体に例示されるストレージからなり、各種情報の入出力が可能となっている。制御部13には、作製しようとする造形物に応じた造形プログラムが、ネットワーク等の通信線、又は各種の記憶媒体等を介して入力される。この造形プログラムは、溶着ビードBを形成するビード形成軌道及び溶接条件を定めた造形計画に基づいて作成され、多数の命令コードにより構成される。
【0020】
制御部13は、記憶部に記憶された造形プログラムを実行して、溶接ロボット17、溶加材供給部23及び溶接電源部25等を駆動し、造形プログラムに応じた溶着ビードBを形成する。つまり、制御部13は、ロボット駆動部21により溶接ロボット17を駆動させて、造形プログラムに設定された溶接トーチ15の軌道(溶接軌道)に沿って溶接トーチ15を移動させるとともに、設定された溶接条件に応じて溶加材供給部23及び溶接電源部25を駆動して、溶接トーチ15の先端の溶加材Mをアークによって溶融、凝固させる。このように、造形プログラムに基づいて溶着ビードBを順次に積層することで、所望の3次元形状の造形物Wが造形される。
【0021】
造形プログラムは、制御部13又は他のコンピュータ装置により作成される。具体的には、制御部13は、取得した3次元形状データに応じて造形形状を決定し、その造形形状を溶着ビードBで形成するための積層計画を作成する。溶着ビードBを形成する条件には、溶接トーチ15を移動させる溶接パス(トーチの軌道)を決定する造形計画を作成すること、アークを加熱源として溶着ビードBを形成する際の、溶接電流、アーク電圧、溶接速度、溶加材の供給速度、トーチ角、冷却時間、シールドガスの組成や流量等の溶接条件を設定すること、が含まれる。
【0022】
更に具体的には、制御部13は、3次元形状データから造形物Wの造形形状を決定し、この造形形状を垂直方向に複数のビード層に分割し、各ビード層に対応して、それぞれ溶接トーチ15を移動させるビード形成パスを含む軌道を求める。ビード形成パス及び軌道は、所定のアルゴリズムに基づく演算等により決定される。ビード形成パスの情報としては、例えば、溶接トーチ15を移動させる経路の空間座標、経路の半径、経路長等の経路の情報や、形成する溶着ビードBのビード幅やビード高さ等のビード情報等が含まれる。ビード層の高さは、溶接条件により設定される溶着ビードBの高さに応じて決定される。
【0023】
制御部13は、上記した造形プログラムを実行して造形物Wを造形する機能と、造形プログラムを生成する機能との他に、作成された造形プログラムに基づいて造形処理を模擬的に再現して、造形途中の造形物の温度履歴、温度分布等を解析する機能を備えていてもよい。この温度解析機能は、制御部13が有していてもよいが、制御部13にネットワーク又は通信回線等を介して接続される他のコンピュータ装置に含まれる制御部(不図示)が有する構成であってもよい。
【0024】
図2は、造形途中の溶着ビードの温度解析機能を有する制御部13の機能ブロック図である。
制御部13(他の制御部の場合も同様)は、それぞれ詳細を後述する、モデル生成部31と、造形条件取得部33と、対象要素選定部35と、温度分布算出部37と、温度履歴算出部39と、を備える。制御部13が備える上記した各構成は、入力された造形物の情報に基づいて、伝熱計算を行った解析結果を不図示のモニタに出力したり、解析データを出力したりして、解析結果を操作者に伝える。操作者は、出力された解析結果に応じて造形プログラムを必要に応じて修正する。
【0025】
図3は、溶着ビードBを形成する様子を模式的に示す説明図である。
溶接トーチ15を溶接方向WDに移動させながら、溶接トーチ15から突出した溶加材Mの先端にアークを発生させる。発生したアークは溶加材Mを溶融させ、ベースプレート29上に溶接方向WDに沿った溶着ビードBを形成させる。ここで、溶着ビードBを形成する際の、アークによる入熱部周囲の熱分布を求めるための解析形状モデルMDを設定する。この解析形状モデルMDは、ベースプレート29及びベースプレート29上で造形物となる溶着ビードBの全体形状をモデル形状とし、このモデル形状を多数の要素に分割することで設定される。
【0026】
図4は、ベースプレート29と、溶着ビードBを積層して形成される造形物Wとを多数の要素に分割した様子を模式的に示す造形物の一部断面図である。
解析形状モデルMDは、ベースプレート29と造形物Wとの外形状を、例えば多数の直方体の要素Emに分割して構成される。つまり、複数の要素Emの集合体がベースプレート29と造形物Wの伝熱計算に用いる形状モデルとなる。
【0027】
図5は、溶着ビードBと解析形状モデルMDの計算領域との関係を示す説明図である。
本実施形態においては、解析形状モデルMDの形状の全体を計算に用いるのではなく、形状の一部のみを計算に用いる手法を採用する。本明細書では、解析形状モデルMDのうち、計算に用いる領域を「計算領域」という。
【0028】
温度計算領域CAの外縁は、ここでは図5に示すように溶着ビードBを形成する入熱位置(アーク位置)Pを円の中心とする半径rの円柱体の軸方向両端に、半径rの半球体がそれぞれ接続された形状に設定する。温度計算領域CAの軸方向長さLmは、形成される溶着ビードBの長手方向の長さLbに、半径rの2倍値を加えた長さ(Lm=Lb+2r)となる。この仮想立体の温度計算領域CA内に配置される複数の要素が、伝熱計算の計算対象要素となる。
【0029】
図6は、解析形状モデルMDの要素のうち、温度計算領域CAに設定された計算対処要素を示す説明図であって、(A)は解析形状モデルMDを溶接方向WDから見た模式的な部分正面図であり、(B)は、溶接方向WDに直交する方向から見た模式的な部分側面図である。
【0030】
図6の(A)には、入熱位置Pを中心とした温度計算領域CAに含まれる要素Emのうち、溶着ビードBを含む金属部分を計算対象要素Emcとして示している。温度計算領域CA内の要素のうち計算対象要素Emc以外の要素は、中空(空気)の部分である。この中空部分の要素については、伝熱計算を簡略化するため、計算対象要素Emcとの間を断熱の境界条件にして、計算から実質的に除外する。又は計算対象要素Emcとの間に所定の放熱が存在するように計算してもよい。
【0031】
ここで示す計算対象要素Emcは、解析形状モデルMDを正面視した場合に、半円形に近い領域内に配置される。
【0032】
また、温度計算領域CAの形状は、図6の(B)に示すように、溶接方向WDに沿って延びている。温度計算領域CAの長手方向(溶接方向WD)の先端部と後端部は、半径rの半球形状となっている。
【0033】
上記した温度計算領域CAの半径rと軸方向距離Lmは、予め定めた規定値に設定することもできるが、入熱による影響範囲に応じて設定してもよい。つまり、温度計算領域CAの半径rについては、半径rの値が大きいほど計算する要素数が増えるので温度の計算精度は向上するが、計算時間が増加する。一方、半径rの値が小さいほど計算する要素数が減るので計算時間を短縮できるが、計算精度が減少する。軸方向距離Lmについても同様である。そこで、半径r、軸方向距離Lmについては、溶接ビードのアーク位置(入熱位置)を中心とする温度分布に応じて決定してもよい。
【0034】
図7は、温度計算領域CAを設定するための各要素の伝熱による温度分布を示す模式図である。
例えば、図6の(A)に示す温度計算領域CAの半径r、及び図6の(B)に示す計算領域の軸方向長さLmは、図7に示す各要素の温度分布に応じて設定される。即ち、最大温度Taとその温度分布に応じて温度計算に大きな影響を及ぼさないと考えられる下限温度Tb以上の範囲の長さに設定する。
【0035】
その他にも、予め要素試験等から取得した温度分布の情報に基づいて、温度分布の傾きが所定の閾値となる位置から入熱位置までの距離を半径rの値としてもよい。また、軸方向長さLmについてもこの半径rと同様にしてサイズを決定してもよい。
更に、予め複数種類の半径rの値を設定しておき、造形物全体の1~2割まで造形が進行したときの造形物の温度履歴の結果を比較して、蓄熱温度の収束が良好となる値を選定してもよい、
【0036】
上記した温度計算領域CAの形状は、溶着ビードのビード形成軌道(パスPSともいう)に応じて変化する。
図8は、温度計算領域CAの形状を(A)~(C)に模式的に示す説明図である。
図8の(A)はパスPSが湾曲している場合の温度計算領域CAを示している。この場合の温度計算領域CAは、軸方向に沿って湾曲しており、半径rの断面円形となる領域と、軸方向両端の半径rの半球状の領域とを有している。
【0037】
図8の(B)に示す温度計算領域CAは、軸方向両端の半球状の領域に代えて、軸方向に沿った全領域で半径rの断面円形となる略円筒形状としている。また、図8の(C)に示す温度計算領域CAは、パスPSが屈曲する場合の形状を示しており、この場合も全領域で図8の(B)と同様に軸方向に沿った全領域で半径rの断面円形となる形状としている。このように、温度計算領域CAの形状は、パスPSに沿って適宜に変更される。
【0038】
次に、上記した解析形状モデルMDを用いた伝熱計算の具体的な手順を、図2も参照しながら説明する。
図9は、伝熱計算の手順を段階的に示すフローチャートである。
まず、制御部13のモデル生成部31は、例えば、造形しようとする造形物のCADデータである3次元形状データを取得し、前述した解析形状モデルMDを生成する(S1)。
【0039】
次に、造形条件取得部33は、造形しようとする造形物の造形手順及び造形条件を定めた造形計画(造形プログラム)を参照して、溶着ビードを形成する熱源からの入熱(溶接電流、溶接電圧、溶接速度、溶加材供給速度等)、溶着ビードのビード形成軌道及びビード物性(熱伝導率、温度等)の情報を含む、温度解析に際して必要となる造形条件を取得する(S2)。
【0040】
次に、対象要素選定部35は、解析形状モデルMDの要素のうち、溶着ビードが形成される熱源の位置を中心とした複数の要素を、伝熱計算の計算対象要素に選定する。また、選定された伝熱計算の計算対象要素と、他の要素との境界条件を設定する(S3)。
【0041】
図10は、入熱位置Pの付近の解析形状モデルMDの要素の一部を、溶接方向WDに直交する方向から見た模式的な説明図である。
ここでは、アークによる溶着ビードの形成し始めの状態を想定して、入熱位置Pを中心とした断面円形の温度計算領域CAに含まれる要素を、伝熱計算の計算対象要素Emcとする(図10にハッチング部分で示す要素)。また、計算対象要素Emcと、温度計算領域CA以外の他の要素Emとの境界を境界線BDLで示している。
【0042】
各要素の形状及びサイズは、造形物のサイズ、伝熱計算の目標精度に応じて適宜に設定される。ここでは、計算対象要素Emcと他の要素Emとの境界に、双方の熱収支のない断熱条件を適用する。
【0043】
次に、熱源の位置となる入熱位置Pを中心に3次元伝熱計算を行う(S4)。つまり、造形物の造形条件に基づいて、熱源からの入熱が計算対象要素Emcに伝熱されるが、この熱収支による温度計算領域CAの温度分布を求める。この伝熱計算に、以下の3次元伝熱基本式である式(1)を用いて計算してもよい。
【0044】
【数1】
【0045】
式(1)は、いわゆる陽解法FEM(Finite Element Method)による伝熱解析の基本式である。式(1)の各パラメータは以下のとおりである。
H:エンタルピ
C:節点体積の逆数
K:熱伝導マトリックス
F:熱流束
Q:体積発熱
【0046】
溶着ビード形成時の入熱量は、体積発熱又は熱流束のパラメータに入力する。これによれば、エンタルピを未知数とすることにより、潜熱放出等の非線形現象を精度よく計算できる。
【0047】
そして、熱源位置となる入熱位置P及び温度計算領域CAを溶接速度V、ビード形成軌跡(パス)に従って移動させ、熱源を起点とする伝熱計算を逐次更新させる(S5)。
図11は、熱源位置を移動させる様子を(A),(B)に示す説明図である。
図11の(A)においては、解析形状モデルMDの一端側で熱源となるアークが発生したとして、前述した入熱位置Pを中心とする温度計算領域CAを設定する。そして、この状態で伝熱計算を行い、温度計算領域CA内の温度分布を求める。
【0048】
次に、溶接トーチの移動によりアーク発生位置が移動したとして、入熱位置Pを溶接方向WDに沿って移動させる。図11の(B)においては、入熱位置Pが移動して、これに伴って温度計算領域CAも移動している。ただし、温度計算領域CAの形状は、入熱位置Pが高温になって熱影響範囲が広がることから、軸方向長さが延長された形状となる。入熱位置Pのそれぞれの移動先で、温度計算領域CAの温度分布を求める。このように、造形開始から造形終了までの計算結果を更新することで、造形物全体の温度分布、及び温度履歴を求めることができる。
【0049】
この伝熱計算によれば、温度計算領域CAが熱源から所定の範囲内に限定されるため、解析形状モデルの全体を一度に計算する場合と比較して計算負担を軽減できる。よって、伝熱計算に必要とされる計算時間を大幅に短縮できる。また、ビード形成軌道に沿った柱状体(上記した円柱のほか、角柱等であってもよい)により溶着ビードの形状を模擬することで、ビード断面の形状を精緻に再現する場合と比較して、要素の生成を単純化でき、計算の高速化に寄与できる。
【0050】
温度計算領域CAの形状、大きさは、要素試験結果があれば、その情報を参照して適切に設定できる。また、要素試験結果がない場合でも、半径r、軸方向距離Lm等のパラメータを、適切な精度を保ちつつ計算を高速化できるように簡単に調整できる。
【0051】
上記では、計算対象要素Emcと他の要素Emとの境界条件を断熱条件とした例であるが、境界条件はこれに限らない。
図12は、入熱位置Pの付近の解析形状モデルMDの要素の一部を、溶接方向WDに直交する方向から見た模式的な図であって、計算対象要素と温度計算領域CA以外の要素との境界を、伝熱を生じる伝熱条件に適用した場合の説明図である。
【0052】
温度計算領域CAの内部と外部との間の境界条件として、熱伝達、熱伝導等の伝熱を生じる伝熱条件で設定してもよい。その場合、温度計算領域CA以外の要素を巨大な1要素(格子)とみなして、その外部巨大要素41との伝熱による熱収支を計算してもよい。こうすることで、計算量の増大を抑えつつ蓄熱と放熱とを再現した計算が行える。また、温度計算領域CAを狭めた場合に、前述した断熱条件では過剰に蓄熱が発生する問題を解消できる。
【0053】
図12に例示する解析形状モデルMDにおいては、温度計算領域CAの境界線BDLには、計算対象要素Emc~Emc11が接面している。
図13は、図12に示す解析形状モデルMDの温度計算領域CAについての熱収支を模式的に示す説明図である。
ここで、外部巨大要素41との境界(境界線BDL)における熱収支を計算する。外部巨大要素41との境界における外向き法線方向の熱流束qは、式(2)で求められる。
【0054】
【数2】
【0055】
ただし、
elem:外部巨大要素の体積
k:外部巨大要素との境界での熱伝導率
elem:外部巨大要素の温度
:外部巨大要素と接する計算対象要素Emcの温度
i:計算対象要素Emcの番号
なお、αはフィッティングパラメータであり、任意の値を採用できる。
【0056】
そして、外部巨大要素との境界における熱収支の計算(Telemの計算)は、次のとおりである。
【0057】
【数3】
【0058】
ここで、
ΔHelem:外部巨大要素のエンタルピ変化量
elem:外部巨大要素の体積
Δt:時間刻み幅
k:外部巨大要素との計算対象要素との境界での熱伝導率
h:外部巨大要素と外空気との間の熱伝導率
Tpelem:前時刻の外部巨大要素の温度
Tp:前時刻の外部巨大要素と接する計算対象要素Emcの温度
inf:周囲温度
:外部巨大要素と接する計算対象要素Emcが外部巨大要素と接する面の面積
out:外部巨大要素が物体外部と接する面の面積
n:外部巨大要素と接する計算対象要素Emcの数
ΔQdelete:熱源の移動により温度計算領域CAから外れる計算対象要素が有する熱量
ΔQentory:熱源の移動により再度温度計算領域CAに入る要素が有する熱量
【0059】
上記の境界条件を伝熱条件とした場合には、断熱条件の場合と比較して計算量が増加するが、温度計算領域CA以外の要素を1つの外部巨大要素として扱うため、計算負担の軽減が図れる。また、計算領域外を外部巨大要素として捉えたうえで熱収支を計算することで、蓄熱や放熱を高精度に再現した計算が行える。これにより、短い計算時間で、信頼性の高い伝熱計算が可能となる。
【0060】
<伝熱計算の例>
ここで、上記の境界条件を断熱条件とした場合と、伝熱条件とした場合と、温度計算領域を設定せずに全領域で計算した場合とで、伝熱計算を実施した結果を比較した。
用いた解析形状モデルと計算条件は、次のとおりである。
パス数:1275
パス間の冷却温度:降温させて300℃になるまで保持
計算要素タイプ:ヘキサ型要素
要素数:135000個
全接点数:143055個
【0061】
図14は、造形物を形成する各ビード形成パスに対して、各種条件で行った伝熱計算により、基準温度に到達するまでの冷却時間を求めた結果を模式的に示すグラフである。
温度計算領域を設定せずに造形物の形状の全領域で計算した結果は、計算時間に長い時間を要したが精度の高い計算結果が得られている。そこで、この全領域で計算した結果を基準にして各条件の結果を比較する。
【0062】
境界条件を断熱条件(断熱モデル)にして、温度計算領域に分割して計算した場合、温度計算領域の半径rを20mmとした場合は、全領域で計算した結果と比較して著しく長い冷却時間となっており、冷却状況を再現できていないことがわかる。
【0063】
また、温度計算領域を拡大して半径rを60mmとすると、全領域で計算した結果に近い結果が得られ、全領域で計算した場合と同程度の冷却状況を再現できている。
【0064】
一方、境界条件を伝熱条件(伝熱モデル)にして、半径rが20mmの温度計算領域に分割して計算した場合には、断熱モデルで半径rを60mmとして計算した場合よりも更に全領域で計算した場合に近くなった。この場合には、全領域で計算した場合と殆ど変わらない冷却状況を再現できている。
【0065】
なお、本計算例での計算時間(計算開始から10000秒経過するまでの時間)は、全領域計算する場合では551秒であったところ、温度計算領域を分割した伝熱モデルでは431秒であった。ただし、計算時間は計算対象によって大きく変化し、計算格子数が増加するほど両者の差は大きくなる傾向が認められた。本計算例では、時間の経過とともに計算対象要素の数が増加して、計算開始後の10000秒経過時点での格子数は、約20000個であった。
【0066】
図15は、解析形状モデルの計算途中の温度分布を濃淡で示した伝熱計算の結果を示す説明図である。図16は、温度計算領域内の各計算対象要素の温度分布を濃淡で示した伝熱計算の結果を示す斜視図である。
図15図16から、入熱位置からの熱が周囲の要素に伝熱された様子が再現されていることがわかる。
【0067】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせること、及び明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0068】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 予め設定された造形計画に基づいて溶着ビードを積層して造形物を造形する際の、前記溶着ビードを形成する熱源から前記造形物への伝熱を計算する造形物の伝熱計算方法であって、
前記造形物の形状を複数の要素に分割した解析形状モデルを求める工程と、
前記造形計画から前記溶着ビードを形成する熱源からの入熱、前記溶着ビードのビード形成軌道及びビード物性の情報を含む造形条件を取得する工程と、
前記解析形状モデルの複数の要素のうち、前記溶着ビードが形成される前記熱源の位置を中心とした温度計算領域に含まれる要素を、伝熱計算の計算対象要素に選定する工程と、
前記造形条件に基づく前記熱源からの熱が前記計算対象要素に伝熱される熱収支による、前記温度計算領域の温度分布を求める工程と、
前記解析形状モデルにおける前記熱源の位置を前記ビード形成軌道に沿って移動させ、前記熱源の移動先位置を中心とした前記温度計算領域に含まれる前記計算対象要素の選定、及び当該温度計算領域の前記温度分布の計算を繰り返して、前記造形物の造形途中の温度履歴を求める工程と、
を有する、
造形物の伝熱計算方法。
この造形物の伝熱計算方法によれば、温度計算領域が熱源から所定の範囲内に限定されるため、解析形状モデルの全体を一度に計算する場合と比較して計算負担を軽減できる。よって、伝熱計算に必要とされる計算時間を大幅に短縮できる。
【0069】
(2) 前記温度計算領域の大きさを、前記要素が前記熱源から受ける熱量、又は前記要素の前記熱源までの距離に対する温度の変化量のうち少なくとも一方に応じて設定する、(1)に記載の造形物の伝熱計算方法。
この造形物の伝熱計算方法によれば、要素が受ける熱量又は温度の変化量に応じて温度計算領域の大きさが設定されるため、必要な計算精度が効率よく得られるようになる。
【0070】
(3) 前記温度計算領域には、前記熱源から受ける熱量が周囲より大きい前記要素、又は前記熱源までの距離に対する温度の変化量が周囲より大きい前記要素が含まれる、(2)に記載の造形物の伝熱計算方法。
この造形物の伝熱計算方法によれば、温度に殆ど影響を及ぼさない領域の計算を省くことができる。
【0071】
(4) 前記温度計算領域は、前記ビード形成軌道に沿って延び、前記熱源の位置を中心軸とする軸直交断面が円形の仮想立体内に含まれる前記計算対象要素からなる領域である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の造形物の伝熱計算方法。
この造形物の伝熱計算方法によれば、軸直交断面が円形の仮想立体内の計算対象要素を限定的に用いることで、効率よく伝熱計算を行える。
【0072】
(5) 前記仮想立体の半径又は軸方向長さの少なくとも一方のサイズを変更した場合に、変更後のサイズで計算される前記温度分布と、変更前のサイズで計算される前記温度分布との温度差が、予め定めた閾値より小さくなる範囲で前記サイズを大きく設定する、(4)に記載の造形物の伝熱計算方法。
この造形物の伝熱計算方法によれば、実際に計算された温度分布によりサイズを決定するため、仮想立体のサイズをより適正に設定できる。
【0073】
(6) 前記温度分布を計算する工程は、前記温度計算領域の内側と外側との間における熱の境界条件を、伝熱が生じない断熱条件で計算する、(1)~(5)のいずれか1つに記載の造形物の伝熱計算方法。
この造形物の伝熱計算方法によれば、断熱条件で計算することで計算負担が低減され、伝熱計算の計算時間を短縮できる。
【0074】
(7) 前記温度分布を計算する工程は、前記温度計算領域の内側と外側との間における熱の境界条件を、伝熱が生じる伝熱条件で計算する、(1)~(5)のいずれか1つに記載の造形物の伝熱計算方法。
この造形物の伝熱計算方法によれば、伝熱条件で計算することで高精度な伝熱計算が行え、より正確な温度分布、温度履歴が求められる。
【0075】
(8) 前記温度分布を計算する工程は、
前記温度計算領域の外側に配置される複数の前記要素を、単一の外側要素とみなし、
前記温度計算領域の内側と外側との間における熱収支を、前記温度計算領域の内側に配置される複数の前記要素と前記単一の外側要素との間で求める、(7)に記載の造形物の伝熱計算方法。
この造形物の伝熱計算方法によれば、伝熱現象による影響を簡易的に反映させることができる。その結果、断熱条件で必要とする温度計算領域よりも計算要素数が少なくて済むので、計算要素数を節約した分だけ計算時間を短縮できる。
【0076】
(9) (1)~(8)のいずれか1つに記載の造形物の伝熱計算方法を用いて決定した前記造形計画に基づいて前記造形物を製造する造形物の製造方法。
この造形物の製造方法によれば、伝熱特性を考慮した造形計画を作成でき、より高品位な造形物を製造できる。
【0077】
(10) 予め設定された造形計画に基づいて溶着ビードを積層して造形物を造形する際の、前記溶着ビードを形成する熱源から前記造形物への伝熱を計算する造形物の伝熱計算装置であって、
前記造形物の形状を複数の要素に分割した解析形状モデルを求めるモデル生成部と、
前記造形計画から前記溶着ビードを形成する熱源からの入熱、前記溶着ビードのビード形成軌道及びビード物性の情報を含む造形条件を取得する造形条件取得部と、
前記解析形状モデルの複数の要素のうち、前記溶着ビードが形成される前記熱源の位置を中心とした温度計算領域に含まれる要素を、伝熱計算の計算対象要素に選定する対象要素選定部と、
前記造形条件に基づく前記熱源からの熱が前記計算対象要素に伝熱される熱収支による、前記温度計算領域の温度分布を求める温度分布算出部と、
前記解析形状モデルにおける前記熱源の位置を前記ビード形成軌道に沿って移動させ、前記熱源の移動先位置を中心とした前記温度計算領域に含まれる前記計算対象要素の選定、及び当該温度計算領域の前記温度分布の計算を繰り返して、前記造形物の造形途中の温度履歴を求める温度履歴算出部と、
を備える、
造形物の伝熱計算装置。
この造形物の伝熱計算装置によれば、温度計算領域が熱源から所定の範囲内に限定されるため、解析形状モデルの全体を一度に計算する場合と比較して計算負担を軽減できる。よって、伝熱計算に必要とされる計算時間を大幅に短縮できる。
【0078】
(11) (10)に記載の造形物の伝熱計算装置を用いて決定した前記造形計画に基づいて前記造形物を製造する造形物の製造装置。
この造形物の製造装置によれば、伝熱特性を考慮した造形計画を作成でき、より高品位な造形物を製造できる。
【0079】
(12) 予め設定された造形計画に基づいて溶着ビードを積層して造形物を造形する際の、前記溶着ビードを形成する熱源から前記造形物への伝熱を計算する造形物の伝熱計算方法の手順をコンピュータに実行させるプログラムであって、
コンピュータに、
前記造形物の形状を複数の要素に分割した解析形状モデルを求める機能と、
前記造形計画から前記溶着ビードを形成する熱源からの入熱、前記溶着ビードのビード形成軌道及びビード物性の情報を含む造形条件を取得する機能と、
前記解析形状モデルの複数の要素のうち、前記溶着ビードが形成される前記熱源の位置を中心とした温度計算領域に含まれる要素を、伝熱計算の計算対象要素に選定する機能と、
前記造形条件に基づく前記熱源からの熱が前記計算対象要素に伝熱される熱収支による、前記温度計算領域の温度分布を求める機能と、
前記解析形状モデルにおける前記熱源の位置を前記ビード形成軌道に沿って移動させ、前記熱源の移動先位置を中心とした前記温度計算領域に含まれる前記計算対象要素の選定、及び当該温度計算領域の前記温度分布の計算を繰り返して、前記造形物の造形途中の温度履歴を求める機能と、
を実現させるためのプログラム。
このプログラムによれば、温度計算領域が熱源から所定の範囲内に限定されるため、解析形状モデルの全体を一度に計算する場合と比較して計算負担を軽減できる。よって、伝熱計算に必要とされる計算時間を大幅に短縮できる。
【符号の説明】
【0080】
11 造形部
13 制御部
15 溶接トーチ
17 溶接ロボット
21 ロボット駆動部
23 溶加材供給部
25 溶接電源部
27 リール
29 ベースプレート
31 モデル生成部
33 造形条件取得部
35 対象要素選定部
37 温度分布算出部
39 温度履歴算出部
41 外部巨大要素
B 溶着ビード
BDL 境界線
CA 温度計算領域
Em 要素
Emc 計算対象要素
M 溶加材(溶接ワイヤ)
MD 解析形状モデル
入熱位置
W 造形物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16