(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020433
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】水素の製造方法、アンモニア含有ガスの処理材および処理材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/04 20060101AFI20230202BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20230202BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20230202BHJP
B01J 23/46 20060101ALI20230202BHJP
B01J 23/42 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C01B3/04 B
B01J37/04 102
B01J37/08
B01J23/46 301M
B01J23/42 M
B01J23/46 311M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125795
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】千葉 彩香
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】臼井 啓皓
(72)【発明者】
【氏名】阿部 信彦
(72)【発明者】
【氏名】柳谷 昌平
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 章
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA15
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA10A
4G169BA10B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BC71A
4G169BC71B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CB81
4G169DA06
4G169EC22X
4G169EC22Y
4G169ED05
4G169FB06
4G169FB13
4G169FB30
4G169FC07
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】長時間の使用であっても触媒活性を低下させず高い分解率で容易にアンモニア含有ガスを水素へ転化可能にすることを可能にした水素の製造方法、アンモニア含有ガスの処理材および処理材の製造方法を提供する。
【解決手段】触媒層を200℃以上700℃以下に加熱する工程と、加熱された前記触媒層にアンモニア含有ガスを通し、アンモニアを窒素ガスと水素ガスに分解する工程と、を含み、前記触媒層には、γ-アルミナおよびθ-アルミナのうち、少なくとも1種以上、および、粘土化合物の焼結物を含む複合体と、前記複合体により担持される金属と、を備える処理材を用いることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒層を200℃以上700℃以下に加熱する工程と、
加熱された前記触媒層にアンモニア含有ガスを通し、アンモニアを窒素ガスと水素ガスに分解する工程と、を含み、
前記触媒層には、γ-アルミナおよびθ-アルミナのうち少なくとも1種以上、および、粘土化合物の焼結物を含む複合体と、前記複合体により担持される金属と、を備える処理材を用いることを特徴とする水素の製造方法。
【請求項2】
前記複合体には、前記γ-アルミナおよびθ-アルミナの合計量が30質量%以上70質量%以下含まれていることを特徴とする請求項1記載の水素の製造方法。
【請求項3】
前記金属は、ルテニウム、白金およびロジウムからなる群より選ばれる1または複数の組み合わせであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の水素の製造方法。
【請求項4】
前記複合体に対し、前記金属が0.001質量%以上10質量%未満であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の水素の製造方法。
【請求項5】
前記アンモニア含有ガスは、酸素を含まない湿ガスであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の水素の製造方法。
【請求項6】
γ-アルミナおよびθ-アルミナのうち少なくとも1種以上、および、粘土化合物を含む成型体の焼結物である複合体と、
前記複合体により担持される金属と、を備え、
前記複合体に対し、前記金属が0.001質量%以上10質量%未満であることを特徴とするアンモニア含有ガスの処理材。
【請求項7】
γ-アルミナおよびθ-アルミナのうち少なくとも1種以上と粘土化合物とを前記γ-アルミナおよびθ-アルミナの合計の含有量が30質量%以上70質量%以下となるように混錬して混錬物を得る工程と、
前記混錬物を成形する工程と、
前記成形で得られた成形体を900℃以上1200℃以下で焼成する工程と、
前記焼成により得られた焼成体に対し、0.001質量%以上10質量%未満の金属を担持させる工程と、を含むことを特徴とするアンモニア含有ガスの処理材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素の製造方法、アンモニア含有ガスの処理材および処理材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脱炭素社会の実現に向け、クリーンエネルギーとしてCO2フリー水素が着目されている。しかしながら、水素は密度や融点が低いことから、大量の水素を効率的に貯蔵および輸送することが困難である。水素エネルギーの利用を進める上では、上記課題の解決が必須であるとして、水素エネルギーキャリアとなりうる物質の研究が盛んに行われている。
【0003】
アンモニアは、10気圧程度で容易に液化する上に、1分子中に3原子の水素が含まれていることから、優れた水素エネルギーキャリアとして着目されている。また、近年では、国内外においてアンモニアを原料として高純度水素を製造する水素ステーションの開発が進められており、アンモニアを効率的に水素へ転化させる触媒の需要が高まっている。そのため、水素へ転化させるアンモニア含有ガスの分解触媒についての研究が進められている(特許文献1~3を参照)。
【0004】
また、排水処理技術として、γ-アルミナまたはθ-アルミナから選択されるアルミナおよび各種粘土を原料とするアルミノシリケートを含むアンモニア含有水処理材が提案されており、処理材に金属を担持させることも提案されている(特許文献4~6を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5380233号明細書
【特許文献2】国際公開第2019/188219号
【特許文献3】特許第6795804号明細書
【特許文献4】特開2017-164671号公報
【特許文献5】特開2019-171311号公報
【特許文献6】特開2020-049472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水素へ転化させるアンモニア含有ガスの分解触媒として、γ-アルミナやゼオライトの担体にルテニウム等の貴金属を担持した触媒が広く知られている。しかしながら、γ-アルミナを担体とする触媒は、耐アルカリ性が低く、水蒸気を含むアルカリ性ガスに長時間暴露されると、水和反応が進行して比表面積の小さいベーマイトへ変質してしまう。これにより、触媒強度が低下し、触媒本体の劣化や活性度低下を引き起こす恐れがある。また、ゼオライトを担体とする触媒は、ゼオライト担体の酸点を発現させるために、触媒充填後に100℃程度の不活性ガスを通気させる前処理を行なう必要がある。
【0007】
一方、すでにあるアンモニア含有水処理材を転用することも考えられるが、液体と気体とでは密度や処理対象を取り巻く状態が異なる上に、排水処理では過酸化水素の添加や高圧化での反応が必要になることから、処理条件も大きく異なる。また、特許文献4~6では、水素への転化について、十分な検討がなされていない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、長時間の使用であっても触媒活性を低下させず高い分解率で容易にアンモニア含有ガスを水素へ転化可能にする水素の製造方法、アンモニア含有ガスの処理材および処理材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の水素の製造方法は、触媒層を200℃以上700℃以下に加熱する工程と、加熱された前記触媒層にアンモニア含有ガスを通し、アンモニアを窒素ガスと水素ガスに分解する工程と、を含み、前記触媒層には、γ-アルミナおよびθ-アルミナのうち少なくとも1種以上、および、粘土化合物の焼結物を含む複合体と、前記複合体により担持される金属と、を備える処理材を用いることを特徴としている。このように、触媒層には、γ-アルミナおよびθ-アルミナのうち少なくとも1種以上、および、粘土化合物の焼結物を含む複合体と、複合体により担持される金属と、備える処理材を用いることから、また、長時間の使用であっても触媒活性が低下することなく、高い分解率でアンモニア含有ガスを分解可能とし、前処理等の特別な操作を必要とせず、容易に水素へ転化させることを可能とする。
【0010】
(2)また、本発明の水素の製造方法は、前記複合体に、前記γ-アルミナが30質量%以上70質量%以下含まれていることを特徴としている。これにより、十分な比表面積を維持できるとともに、強アルカリ性の湿ガスや、強アルカリ性の水滴を含む霧状体に曝されても変質しない。
【0011】
(3)また、本発明の水素の製造方法は、前記金属が、ルテニウム、白金およびロジウムからなる群より選ばれる1または複数の組み合わせであることを特徴としている。これにより、高い分解率でアンモニアの分解を達成できる。
【0012】
(4)また、本発明の水素の製造方法は、前記複合体に対し、前記金属が0.001質量%以上10質量%未満であることを特徴としている。これにより、低コストで高いアンモニア分解率を達成できる。
【0013】
(5)また、本発明の水素の製造方法は、前記アンモニア含有ガスが、酸素を含まない湿ガスであることを特徴としている。これにより、アンモニアから水素への転化率を高くすることができる。
【0014】
(6)また、本発明のアンモニア含有ガスの処理材は、γ-アルミナおよびθ-アルミナのうち少なくとも1種以上、および、粘土化合物を含む成形体の焼結物である複合体と、前記複合体により担持される金属と、を備え、前記複合体に対し、前記金属が0.001質量%以上10質量%未満であることを特徴としている。これにより、低コストで高いアンモニア分解率を達成できる。
【0015】
(7)また、本発明のアンモニア含有ガスの処理材の製造方法は、γ-アルミナおよびθ-アルミナのうち少なくとも1種以上と粘土化合物とを前記γ-アルミナおよびθ-アルミナの合計の含有量が30質量%以上70質量%以下となるように混錬して混錬物を得る工程と、前記混錬物を成形する工程と、前記成形で得られた成形体を900℃以上1200℃以下で焼成する工程と、前記焼成により得られた焼成体に対し、0.001質量%以上10質量%未満の金属を担持させる工程と、を含むことを特徴としている。これにより、長時間の使用であっても触媒活性が低下することなく、高い分解率でアンモニア含有ガスを分解可能とし、前処理等の特別な操作を必要とせずに、容易に水素へ転化させることが可能な処理材を製造できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、長時間の使用であっても触媒活性が低下することなく、高い分解率でアンモニア含有ガスを分解可能とし、容易に水素へ転化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】アンモニア分解試験に用いる装置の概略図である。
【
図2】ルテニウム1質量%担持試料によるアンモニア分解反応を終えた後のガスに対して、ガスクロマトグラフィーを用いて、アンモニア分解率と水素の組成比を算出した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
[処理材の構成]
アンモニア含有ガスの処理材は、γ-アルミナおよびθ-アルミナのうち少なくとも1種以上と粘土化合物の焼結物とを含む。γ-アルミナは、スピネル型の結晶構造を有しており、その粒子の比表面積は、α-アルミナに比べて大きい。処理材の比表面積が大きいとアンモニア分解性能を高めることができる。
【0019】
アンモニア含有ガスの処理材のアルミナの含有量が少なすぎると、その比表面積を十分に高めることができない。一方、アルミナの含有量が多すぎると、耐アルカリ性が低下する。これらの理由から、処理材におけるアルミナの含有量は、30質量%~70質量%、好ましくは、35質量%~70質量%、より好ましくは40質量%~60質量%である。
【0020】
粘土化合物の焼結物は、粘土化合物を焼結させることで得られる。粘土化合物としては、カオリナイト、ムライト、イライト等のアルミノケイ酸塩や、アルミノケイ酸塩を多く含有する蛙目粘土、笠岡粘土、木節粘土、信楽士等の陶土等が挙げられる。これらは、単一または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、高いアンモニア分解能が得られることから、蛙目粘土を用いることが好ましい。これらの粘土化合物を900℃から1200℃の温度で焼成することで、粘土化合物の焼結物が得られる。粘土化合物の焼結物は、γ-アルミナおよびθ-アルミナの焼結促進およびアンモニア水による水和抑制に効果がある。
【0021】
アンモニア含有ガスの処理材は、さらにシリカを含み得る。シリカは、二酸化ケイ素(SiO2)であり、原料である粘土化合物中に含まれている石英、焼成により生成するクリストバライトやシリカとアルカリ成分と反応したガラス状のシリカ等が挙げられる。これらのシリカは、処理材中に1種以上に含有される。処理材においては、γ-アルミナおよびθ-アルミナのうち少なくとも1種以上、粘土化合物の焼結物およびシリカが複合体を形成し、複合体が金属の担体となっている。
【0022】
複合体における粘土化合物の焼結物の含有量は、アルミナの量に応じて適宜調整できる。例えば、複合体中のアルミナの含有量を30質量%~70質量%にする場合、粘土化合物の焼結物の含有量(シリカを含む場合はシリカとの合計量)を70質量%~30質量%に調整できる。なお、ここでの粘土化合物の焼結物の含有量とは、製造時における粘土化合物を105℃で乾燥した後の質量のことを指す。
【0023】
複合体は、活性成分として金属を担持している。担持される金属としては、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、インジウム、イリジウム、金、銀、コバルト、銅、ニッケル、タングステンおよびこれらの金属の水不溶性または水難溶性の化合物が挙げられる。具体的には、一酸化コバルト、一酸化ニッケル、二酸化ルテニウム、三酸化二ロジウム、一酸化パラジウム、二酸化イリジウム、酸化第二銅、二酸化タングステン等の酸化物、二塩化ルテニウム、二塩化白金等の塩化物、硫化ルテニウム、硫化ロジウム等の硫化物、硝酸ロジウム、硝酸ニッケル、硝酸ルテニウム、硝酸銅、硝酸銀等の硝酸塩、へキサクロロ白金酸六水和物、塩化ヘキサアンミンルテニウム、塩化ルテニウム、ジアンミン亜硝酸パラジウム等の錯体等を挙げられる。金属の担持量は、アンモニア分解性能とコストのバランスから、担体の重量の0.001質量%~10質量%、好ましくは0.01質量%~10質量%であり、より好ましくは、0.05質量%~10質量%であり、特に好ましくは0.5質量%~10質量%である。
【0024】
アンモニア含有ガス処理材は、様々な形状とすることができる。アンモニア含有ガス処理材の形状としては、特に限定されないが、球状、ペレット状、円柱状、直方体状、筒状、破砕片状、ハニカム状、粉末状等が挙げられる。
【0025】
[処理材の製造方法]
アンモニア含有ガス処理材は、γ-アルミナおよびθ-アルミナのうち少なくとも1種以上を与える化合物と、粘土化合物を混練して混練物を得る工程と、混練物を成形した後、成形体を900℃~1200℃の温度で焼成する工程を含む製造方法により製造される。
【0026】
「γ-アルミナを与える化合物」とは、γ-アルミナ、または焼成によってγ-アルミナを生成する化合物のことを意味する。焼成によってγ-アルミナを生成する化合物としては、特に限定されないが、ギブサイト、ダイアスポア、ベーマイト等の水酸化物、硝酸アルミニウム等の硝酸塩、塩化アルミニウム等の塩化物等が挙げられる。γ-アルミナを与える化合物は、単一または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、「θ-アルミナを与える化合物」とは、θ-アルミナ、又は焼成によってθ-アルミナを生成する化合物のことを意味する。焼成によってθ-アルミナを生成する化合物としては、特に限定されないが、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。
【0027】
上記の原料を混練して混練物を得る場合、混練性およびその後の成形性を確保する観点から、水、1,3-ブタンジオール等の溶剤を混練物に配合してもよい。混練方法としては、通常用いられる混練機等を用いて行なうことができる。
【0028】
原料の配合割合としては、アンモニア含有ガス処理材中のγ-アルミナおよびθ-アルミナの合計の含有量を30質量%~70質量%、好ましくは、35質量%~70質量%、より好ましくは40質量%~70質量%とするために、混練物の固形分中のγ-アルミナおよびθ-アルミナを与える化合物の合計の含有量を30質量%~70質量%、好ましくは、35質量%~70質量%、より好ましくは40質量%~60質量%に設定する。
【0029】
γ-アルミナおよびθ-アルミナの粒度は、比表面積を維持しつつ、アルミナの焼結による消失を低減するために、平均粒径(D50)が50μm以下であることが好ましく、10~30μmがより好ましい。
【0030】
一方、混練物の固形分中の粘土化合物の含有量は、105℃で乾燥した後において、γ-アルミナの含有量に応じて30質量%~70質量%、好ましくは35質量%~65質量%、より好ましくは、40質量%~60質量%とすることができる。
【0031】
また、粘土化合物は、アンモニア分解性能を維持しつつ、耐アルカリ性を保持するために、平均粒径(D50)が100μm以下であることが好ましく、10~50μmがより好ましい。
【0032】
混練物の成形方法としては、作製する処理材の形状に応じて適切な方法を選択できる。例えば、混練物を球状の成形体に成形する場合、造粒機等を用いて成形すればよい。また、混練物を円柱状、直方体状、筒状、ハニカム状等の成形体に成形する場合、押出成形機等を用いて成形すればよい。混練物を成形した後、成形体を直ぐに焼成してもよいが、クラック等の発生を防止する観点から、必要に応じて焼成前に乾燥を行ってもよい。なお、原料に粘土化合物が含有されているから、成形性に優れている。そのため、バインダーを添加しなくても、容易に成形が可能である。
【0033】
成形体の焼成は、900℃~1200℃の温度で行う。このような温度範囲で焼成を行うことにより、強度を高めつつ、γ-アルミナおよびθ-アルミナの比表面積を維持したアンモニア含有ガス処理材を得ることが可能になる。
【0034】
焼成温度が900℃未満であると、アンモニア含有ガスの処理材の強度が低下し、形状が崩れ易い。一方、焼成温度が1200℃を超えると、γ-アルミナおよびθ-アルミナが相転移してコランダム構造のα-アルミナとなり、アルミナの焼結が進行するため、アンモニア含有ガス処理材の比表面積が低下してしまう。焼成方法としては、特に限定されず、公知の焼成装置を用いて行うことができる。焼成装置としては、バッチ炉、トンネル窯、ロータリーキルン等を用いることができる。
【0035】
次に、このようにして得られた複合体は、成型物のまま用いてもよいし、必要に応じて粉砕してもよい。粉砕する場合の粉砕方法は、ジョークラッシャー、ボールミル等が挙げられる。また、粉砕物は、比表面積と通気性を維持するために、複合体の最大粒径が500μm以下であることが好ましく、300μmがより好ましい。または、平均粒径(D50)が300μm以下であることが好ましく、50μm~200μmがより好ましい。
【0036】
次に、このようにして得られた複合体に金属を担持させる。金属の担持方法は問わないが、例えば金属水溶液に含侵する方法が挙げられる。金属水溶液に含侵する方法は、まず、金属イオン含有水溶液に複合体を含浸させる。含浸後に、エバポレータ、遠心分離装置(低速回転)等を用いて複合体に付着した水分を飛ばし、焼成することで複合体に金属を担持させることができる。例えば、ルテニウムを担持させる場合には、塩化ヘキサアンミンルテニウム溶液に複合体を含浸させ、水分を除去し、300~500℃程度で2時間焼成する。
【0037】
なお、水分除去は、焼成前に、温風を当てたり、乾燥機に入れたりする方法で、風乾により資材表面の過剰な水分を除去することも有効である。特に、焼成温度を段階的に上げずに複合体を焼成する場合、事前に風乾を行うことで高い熱効率で焼成できる。
【0038】
また、除去した金属イオン含有水溶液は回収し、繰り返し使用できる。焼成後に焼成体を水素還元してもよい。水素還元は、例えば、焼成体に対し500℃の10%水素含有ガスを流通させることで可能である。水素還元は、特に触媒活性が低下した触媒に実施することで、活性が向上する。
【0039】
上記の製造方法で得られた処理材にアンモニア含有ガスを通過させることでアンモニア含有ガス中のアンモニアを分解することができる。
【0040】
[水素の製造方法]
アンモニア含有ガスの処理材を用いた水素の製造方法を説明する。まず、処理材を触媒層として装置に保持させる。そして、処理材を200~700℃の所定の温度に加熱し、触媒層にアンモニア含有ガスを通気する。処理材の分量は、担持される金属で決まる分解率に応じて調整することが好ましい。
【0041】
アンモニア含有ガスのアンモニア濃度は、特に問わない。アンモニア含有ガスの投入量は、空間速度SVが5000h-1以上でもよく、さらに10000h-1以上、最大で15000h-1~30000h-1であってもよい。いずれの投入量であっても、工業的に水素製造する際に十分なアンモニア分解率が得られる。
【0042】
このとき、アンモニア含有ガスは、酸素を含まない湿ガスであっても良い。このようなアンモニア含有ガスの生成方法としては、アンモニア含有水に酸素を含まないガスをバブリングさせることや、アンモニア含有水にアルカリを投入すること、アンモニアガスに水蒸気を噴射すること等が挙げられる。ここで湿ガスとは水分を含むガスのことであり、極端にはガスを100℃未満で投入する際は強アルカリ性の水滴とを含む霧状体となっていてもよい。
【0043】
また、アンモニア含有ガスは、アンモニアの一部に少量の酸素が添加されていてもよい。少量の酸素を添加する部分酸化法によっても、水素を製造することが可能である。部分酸化法を用いた水素の製造方法では、アンモニア含有ガスが酸素を含む乾燥ガスであることが好ましい。ここで乾燥ガスとは、水分を含まないガスのことであり、露点が-47.5℃程度のガスを指す。部分酸化法では、反応過程において水蒸気が生じるが、本発明の処理材であれば処理材が変質しない。
【0044】
アンモニアから転化することで生成された水素は、吸着法や膜分離法といった公知の技術を用いて、精製されてもよい。これにより、高純度の水素を生成することができる。このようにして、長時間の使用であっても、高い分解率でアンモニア含有ガスを分解可能とする。また、前処理等を必要とせずに、容易に水素へ転化させることができる。
【0045】
[実施例]
1.1実験方法
(1)試料作製
【0046】
(粉末状試料の調製)
γ‐アルミナおよび粘土化合物の焼結物を含む複合体を乳鉢で250μm以下に粉砕した。これを約0.3g精秤してナスフラスコに入れ、5.94mlの蒸留水を加えた。90℃に加熱後、1.26×10-2mol/lの塩化ヘキサンアンミンルテニウム溶液1.95mlを滴下して90℃を保持したまま1時間撹拌した。ルテニウム溶液を含浸させた後、含水量を計測し、エパポレータで蒸発乾固させ、次いで空気中で500℃を保持したまま2時間焼成することで、粉末状の1質量%ルテニウム試料を調製した。
【0047】
(2)アンモニア分解試験
図1は、アンモニア分解試験に用いた実験装置1の概略図である。内径10mm、長さ400mmの石英ガラス管11内に、石英ウール15で挟み込んだ0.5gの試料13を入れ、長さ80mm(体積0.628cm
3)の触媒層とした。石英ガラス管11は、管状電気炉17内に設置し、触媒層温度を調節した。
【0048】
アンモニア含有ガスは、28%アンモニア水300mlを900ml容量のガラス容器40に入れ、窒素ボンベ20を用いて窒素ガスを供給し、発生させたものを用いた。ガス流量はマスフローコントローラ30で100ml/minとなるように調節した。触媒層を300~700℃に加熱して1時間経過後に、流量調節した窒素ガスをアンモニア水にバブリングして、アンモニア含有ガスを触媒層に通過させた。このとき、空間速度SVは、18200h-1であった。触媒層を通過したガスを回収し、ガスクロマトグラフィーにて反応ガスのアンモニア濃度と水素濃度を測定し、アンモニア分解率ならびに水素組成比を算出した。
【0049】
1.2結果と考察
調整した1質量%ルテニウム担持試料に、アンモニア水に窒素ガスをバブリングして発生させたアンモニア含有ガスを通過させ、アンモニアの分解による水素の生成を試みた。一般に、酸素がない条件下では、アンモニアは以下のように水素と窒素に分解する。
2NH3→N2+3H2 …(1-1)
【0050】
また、上記式に従って、すべてのアンモニアが水素と窒素に転化した場合、理論上の水素の組成比は以下のように75%となる。そこで、ガスクロマトグラフィーを用いて、アンモニア分解反応を終えた後の反応ガスを回収し、アンモニア濃度と水素濃度を測定し、アンモニア分解率ならびに水素組成比を算出した。
【数1】
【0051】
図2は、触媒層の温度を400~700℃に変化させた際の、アンモニア分解率と水素組成比を示すグラフである。温度の上昇に伴って、アンモニア分解率が高まっていき、触媒層の温度が500℃以上の際に、90%以上のアンモニア分解率を達成することを確認した。また、水素の組成比については、温度によらず、75%程度であることが明らかになった。すなわち、水素の組成比は、理論値とほぼ一致しており、実質的にすべてのアンモニアを水素に転化していることを確認できた。
【0052】
2.1実験方法
(1)試料作製
(粉末状試料の調製)
【0053】
γ‐アルミナまたはθアルミナおよび粘土化合物の焼結物を含む複合体を乳鉢で250μm以下に粉砕した。これを約0.3g精秤してナスフラスコに入れ、5.94mlの蒸留水を加えた。90℃に加熱後、1.26×10-2mol/lの塩化ヘキサンアンミンルテニウム溶液1.95mlを滴下して90℃を保持したまま1時間撹拌した。ルテニウム溶液を含浸させた後、含水量を計測し、エパポレータで蒸発乾固させ、次いで空気中で500℃を保持したまま2時間焼成することで、粉末状の1質量%ルテニウム試料を調製した。
【0054】
同様の手法で、5.85×10-2mol/lの硝酸ロジウム(III)、7.72×10-3mol/lのヘキサクロロ白金酸溶液を粉末状の試料に含浸させて担持した。
γ‐アルミナまたはθアルミナおよび粘土化合物としては、以下のものを使用した。
(アルミナ)
γ-アルミナ :日本軽金属社製「C20」 平均粒径(D50)15~25μm
:水澤化学社製「活性アルミナGB」球状品のものを乳鉢で粉砕して使用
θ-アルミナ :日本軽金属社製「C40」 平均粒径(D50)15~25μm
(粘土化合物)
蛙目粘土 :河鈴窯業合資会社製 平均粒径(D50)20~50μm
笠岡粘土 :カネサン工業社製 250メッシュ(62μm)95%通過品
【0055】
(2)アンモニア分解試験
図1は、アンモニア分解試験に用いた実験装置1の概略図である。内径10mm、長さ400mmの石英ガラス管11内に、石英ウール15で挟み込んだ0.5gの試料13を入れ、長さ80mm(体積0.628cm
3)の触媒層とした。石英ガラス管11は、管状電気炉17内に設置し、触媒層温度を調節した。
【0056】
アンモニア含有ガスは、2.8%または28%アンモニア水300mlを900ml容量のガラス容器40に入れ、窒素ボンベ20を用いて窒素ガスを供給し、発生させたものを用いた。ガス流量はマスフローコントローラ30で100ml/minとなるように調節した。触媒層を100~700℃に加熱して1時間経過後に、流量調節した窒素ガスをアンモニア水にバブリングして、アンモニア含有ガスを触媒層に通過させた。このとき、空間速度SVは、18200h-1であった。触媒層の入口には、3方コック50を設け、触媒層の入口側の濃度評価に用いた(Inlet)。触媒層を通過したガスは、蒸留水250mlを入れたメスシリンダ60に、10分間バブリングさせ、溶液中のアンモニア濃度を分析した(Outlet)。
【0057】
(3)アンモニア濃度評価
アンモニア濃度はJIS K 0400-42-60:2000の吸光光度法により測定した。触媒層通過前後のアンモニアガスの濃度変化より、アンモニア分解率を算出した。
【0058】
(a)吸光度測定用試料の調製
(発色試薬の調製)
サリチル酸ナトリウム13.0gおよびクエン酸三ナトリウム二水和物13.0gを少量の蒸留水に溶解させた後、乳鉢で粉砕したペンタシアノニトロシル鉄(III)酸ナトリウム二水和物0.097gを加え、メスフラスコを用いて100mlに希釈した。
【0059】
(ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム溶液の調製)
水酸化ナトリウム3.2gを少量の蒸留水に溶解させた後、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム二水和物0.2gを加え、メスフラスコを用いて100mlに希釈した。
【0060】
(標準液の調製)
塩化アンモニウム0.3819gを少量の蒸留水に溶解させた後、メスフラスコを用いて100mlに希釈し、1000ppmアンモニウム態窒素標準液を調整した。調整した1000ppmアンモニウム態窒素標準液をもとに、100ppmアンモニウム態窒素標準液および1ppmアンモニウム態窒素標準液を調整した。
【0061】
(b)吸光度測定
アンモニアガスを捕集した試料溶液1mlを100mlに希釈し、この溶液を50mlメスフラスコに40ml取り、発色試薬およびジクロロイソシアヌル酸ナトリウム溶液をそれぞれ4mlずつ加えたのち、50mlに調整した後、10分静置し発色させたものを、吸光光度計を用いて、アンモニア濃度を測定した。
【0062】
アンモニア分解率は、以下式より算出した。
【数2】
Conversion:アンモニア分解率
C
inlet:触媒層通過前のガス中のアンモニア濃度
C
outlet:触媒層通過後のガス中のアンモニア濃度
【0063】
2.2結果
(1)各種材料で作製された試料のアンモニア分解性能
表1に、触媒層の温度500℃、アンモニア水の濃度2.8%の設定条件下、各種材料で作製した触媒担体に、ルテニウムを1質量%担持した試料を用いたアンモニア分解試験結果を示す。表1に示すように、試料1~9では、アンモニア分解率が90%以上であった。また、γ-アルミナを用いている試料2、4は、γ-アルミナを用いている試料8、9よりもアンモニア分解率が高かった。蛙目粘土を用いている試料1~5は、笠岡粘土を用いている試料6、7よりもアンモニア分解率が高かった。これらのことから、アルミナはγ-アルミナが好ましく、粘土化合物は蛙目粘土が好ましいといえる。
【表1】
【0064】
(2)各種金属担持試料のアンモニア分解性能
表2に、触媒層の温度500℃、アンモニア水の濃度2.8%の設定条件下、各種金属を1.0質量%担持した試料とルテニウム担持量を0.05~1.0質量%まで変化させた試料を用いたアンモニア分解試験結果を示す。なお、各試料の触媒担体は、γ-アルミナが40%、蛙目粘土が60%の配合量で作製した。
【表2】
【0065】
表2に示すように、ルテニウムの担持量が0.05質量%であっても、90%以上のアンモニア分解率を達成することを確認した。また、ルテニウム担持試料と同様に、ロジウム担持試料でも90%以上のアンモニア分解率を達成することを確認した。白金担持試料でも、66%程度のアンモニアを分解することが明らかとなった。
【0066】
表3に、アンモニア水の濃度を2.8%に固定し、触媒層の温度を100~700℃に変化させた際の、ルテニウム、ロジウムおよび白金1質量%担持試料のアンモニア分解率(%)を示す。なお、各試料の触媒担体は、γ-アルミナが40%、蛙目粘土が60%の配合量で作製した。
【表3】
【0067】
すべての試料において、触媒層を200℃以上加熱することで、10%以上のアンモニアを分解可能であることを確認した。なお、本実施例では、空間速度SVを18200h-1と高く設定しており、工業的に水素製造する際に十分なアンモニア分解率を発揮すると考えられる。また、ルテニウムおよびロジウム1質量%担持試料では、触媒層を500℃以上に加熱することで、90%以上のアンモニア分解率を達成することを確認した。
【0068】
(3)各種触媒担体のアンモニア分解性能評価
表4に、アンモニア水の濃度を28%に固定し、触媒層の温度を500~700℃に変化させた際の、各種触媒担体にルテニウム1質量%担持させた試料のアンモニア分解率(%)を示す。実施例として、試料2と同じ条件で作製された試料を用いた。比較例1~3は、γ-アルミナ、酸化マグネシウムおよびシリカからなる触媒担体であることを除いて、実施例と同様の条件で作製した。
【表4】
【0069】
各比較例における触媒担体の材料としては、以下のものを使用した。
γ-アルミナ(γ-Al2O3) :日本軽金属社製、商品名「C20」
酸化マグネシウム試薬(MgO) :富士フィルム和光純薬社製
二酸化珪素試薬(SiO2) :関東化学社製
【0070】
表4に示すように、実施例は、触媒層の温度を500~700℃加熱することで、95%以上のアンモニア分解率を達成することを確認した。また、実施例は、どの温度帯においても、比較例よりも高い分解率を示すことが明らかになった。
【0071】
(4)耐久性評価
表5に、触媒層の温度500℃、アンモニア水の濃度28%の設定条件下、アンモニア含有ガスを20時間連続で通気させた際の、各種触媒担体にルテニウムを1質量%担持させた試料のアンモニア分解率(%)を示す。
【表5】
【0072】
表5に示すように、実施例では、20時間連続で通気させても、アンモニア分解率が低下しないことを確認した。一方、比較例では、20時間連続で通気させると、アンモニア分解率が低下することが明らかとなった。これは、γ-アルミナの水和反応が進行し、ベーマイトが生成されたことによるものと考えられる。
【0073】
以上より、本発明の水素の製造方法は、長時間の使用であっても触媒活性が低下することなく、高い分解率でアンモニア含有ガスを分解可能とし、前処理等の特別な操作を必要とせずに、容易に水素へ転化させることができることが確かめられた。
【符号の説明】
【0074】
1 実験装置
11 石英ガラス管
13 試料
15 石英ウール
17 管状電気炉
20 窒素ボンベ
30 マスフローコントローラ
40 ガラス容器
50 3方コック
60 メスシリンダ