(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020487
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/26 20060101AFI20230202BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230202BHJP
B05D 3/06 20060101ALI20230202BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20230202BHJP
B41M 1/12 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
B05D1/26 A
B05D7/24 301T
B05D3/06 C
B05D3/06 Z
B05D3/00 D
B41M1/12
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125873
(22)【出願日】2021-07-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】592193203
【氏名又は名称】大平印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉岡 明彦
(72)【発明者】
【氏名】木内 茂夫
【テーマコード(参考)】
2H113
4D075
【Fターム(参考)】
2H113AA01
2H113AA04
2H113BA10
2H113BB02
2H113BB06
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2H113FA45
4D075AC45
4D075AC76
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4D075BB07Z
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4D075EA06
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4D075EC37
(57)【要約】
【課題】水性インキを用いるシルクスクリーン印刷において塗膜が素早く乾燥することができる印刷物の製造方法を提供すること。
【解決手段】印刷物の製造方法であって、印刷物は、基材と、光硬化性水性樹脂組成物の硬化物を含む印刷層とを備え、光硬化性水性樹脂組成物の塗膜をシルクスクリーン印刷により基材上に形成する塗膜形成工程と、光硬化性水性樹脂組成物の塗膜に活性エネルギー線を照射する露光工程とを含み、露光工程において、活性エネルギー線の光源を備えるチャンバ内の温度を10℃以上70℃以下とする印刷物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷物の製造方法であって、
前記印刷物は、基材と、光硬化性水性樹脂組成物の硬化物を含む印刷層とを備え、
前記光硬化性水性樹脂組成物の塗膜をシルクスクリーン印刷により前記基材上に形成する塗膜形成工程と、
前記光硬化性水性樹脂組成物の塗膜に活性エネルギー線を照射する露光工程と
を含み、
前記露光工程において、前記活性エネルギー線の光源を備えるチャンバ内の温度を10℃以上70℃以下とする、印刷物の製造方法。
【請求項2】
前記チャンバ内において、前記光源から前記基材に向かって温度10℃以上70℃以下のダウンフローの気流が流れる、請求項1に記載の印刷物の製造方法。
【請求項3】
前記露光工程において、前記光硬化性水性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射するときの前記光源と前記基材との最短距離は5cm以上80cm以下である、請求項1または2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項4】
前記露光工程において、前記基材に張力をかけながら前記光硬化性水性樹脂組成物の塗膜に前記活性エネルギー線を照射する、請求項1~3のいずれか一項に記載の印刷物の製造方法。
【請求項5】
前記基材は、前記基材の搬送方向下流側が高くなるように傾斜させた搬送経路により前記チャンバ内に搬送され、前記基材の搬送方向下流側が低くなるように傾斜させた搬送経路により前記チャンバ内から搬出される、請求項1~4のいずれか一項に記載の印刷物の製造方法。
【請求項6】
前記基材は多孔質フィルムである、請求項1~5のいずれか一項に記載の印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷物を製造するためにシルクスクリーン印刷が用いられることが多い(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、環境への配慮から、シルクスクリーン印刷用インキとして水性インキの使用が検討されている。シルクスクリーン印刷では比較的大きい厚みの塗膜が形成されることが多い。そのため、シルクスクリーン印刷に水性インキを用いた場合、塗膜中に含まれる水分量が多くなり、塗膜の乾燥に比較的長い時間を要することとなる。
【0005】
本発明の目的は、水性インキを用いるシルクスクリーン印刷において塗膜を素早く乾燥することができる印刷物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の印刷物の製造方法を提供する。
[1] 印刷物の製造方法であって、
前記印刷物は、基材と、光硬化性水性樹脂組成物の硬化物を含む印刷層とを備え、
前記製造方法は、
前記光硬化性水性樹脂組成物の塗膜をシルクスクリーン印刷により前記基材上に形成する塗膜形成工程と、
前記光硬化性水性樹脂組成物の塗膜に活性エネルギー線を照射する露光工程と
を含み、
前記露光工程において、前記活性エネルギー線の光源を備えるチャンバ内の温度を10℃以上70℃以下とする、印刷物の製造方法。
[2] 前記チャンバ内において、前記光源から前記基材に向かって温度10℃以上70℃以下のダウンフローの気流が流れる、[1]に記載の印刷物の製造方法。
[3] 前記露光工程において、前記光硬化性水性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射するときの前記光源と前記基材との最短距離は5cm以上80cm以下である、[1]または[2]に記載の印刷物の製造方法。
[4] 前記露光工程において、前記基材に張力をかけながら前記光硬化性水性樹脂組成物の塗膜に前記活性エネルギー線を照射する、[1]~[3]のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
[5] 前記基材は、前記基材の搬送方向下流側が高くなるように傾斜させた搬送経路により前記チャンバ内に搬送され、前記基材の搬送方向下流側が低くなるように傾斜させた搬送経路により前記チャンバ内から搬出される、[1]~[4]のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
[6] 前記基材は多孔質フィルムである、[1]~[5]のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、水性インキを用いるシルクスクリーン印刷において塗膜を素早く乾燥することができる印刷物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】印刷物の一例を模式的に示す概略断面図である。
【
図2】本発明の製造方法に用いる装置の一例を模式的に示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の全ての図面においては、各構成要素を理解し易くするために縮尺を適宜調整して示しており、図面に示される各構成要素の縮尺と実際の構成要素の縮尺とは必ずしも一致しない。
【0010】
<印刷物の製造方法>
本発明の一態様に係る印刷物の製造方法は、基材と、光硬化性水性樹脂組成物の硬化物を含む印刷層とを備える印刷物の製造方法であり、光硬化性水性樹脂組成物の塗膜(以下、簡略のため単に塗膜ともいう)をシルクスクリーン印刷により基材上に形成する塗膜形成工程と、光硬化性水性樹脂組成物の塗膜に活性エネルギー線を照射する露光工程とを含み、露光工程において、活性エネルギー線の光源を備えるチャンバ内の温度を10℃以上70℃以下とする。
【0011】
[印刷物]
印刷物は、基材と、光硬化性水性樹脂組成物の硬化物を含む印刷層とを備える。
図1を参照しながら印刷物について説明する。
図1に示す印刷物10は、印刷層1と基材2とを備える。
図1に示すように基材2の片側にのみ印刷層1を備えていてもよいが、基材2の両側に印刷層を備えていてもよい。
【0012】
印刷物10は、枚葉状であってよく、長尺状であってもよい。印刷物10が枚葉状である場合、印刷物10の形状は特に制限されないが、例えば方形状であってよく、好ましくは正方形および長方形である。
【0013】
印刷物10の用途は特に制限はなく、例えばラベル、パッケージ、包装フィルム、名刺、葉書、パンフレット、カタログ、チラシ、はがき、しおり、カレンダー、書籍、等であってよい。また、本発明により製造される印刷物10は、後述する機能性シート、例えば防虫シート、芳香性シート、抗菌シート、装飾シート等に好適である。
【0014】
[基材]
印刷物10に含まれる基材2の層構成、材料および機能は、印刷物10の用途に応じて適宜選択して用いることができる。基材2は、フィルム状基材であることができる。本明細書においてはフィルム状基材はシート状基材の概念をも包含する。また、基材2は、シルクスクリーン印刷により印刷層1を設けることができる場合には、立体的な形状を有していてもよい。基材2は、透光性を有していてもよいし、透光性を有していなくてもよい。また、基材2は着色されていてもよい。基材2は、印刷層1との密着性やデザイン性の観点から基材2の表面にエンボス加工等により凹凸を有していてもよい。基材2は、単層構造であってよく、多層構造であってもよい。
【0015】
基材2は、例えば熱可塑性樹脂、紙、木材、金属、ガラス、天然皮革、合成皮革、繊維製品等からできていてよい。基材2の厚みは例えば10μm以上5000μm以下であってよい。中でも柔軟性、耐久性に優れることから好ましくは熱可塑性樹脂からなる基材である。本発明の製造方法によれば、チャンバ内の温度を比較的低く設定することができるため、活性エネルギー線の照射による熱や塗膜の硬化により収縮し易い基材を用いた場合でも、基材の収縮を抑制し、印刷物を製造することができる。
【0016】
熱可塑性樹脂としては、例えばポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、セルロース系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂[ポリエチレン(LLDPE:低密度ポリエチレン、HDPE:高密度ポリエチレン)やポリプロピレン(CPP:無延伸ポリプロピレン、OPP:二軸延伸ポリプロピレン)]、塩化ビニル系樹脂、アミド系樹脂、イミド系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。熱可塑性樹脂からなる基材の厚みは、印刷物の用途に応じて適宜選択し得るが、例えば50μm以上1000μm以下等であってよい。
【0017】
基材2は、多孔質フィルムであってもよい。基材2が多孔質フィルムであることにより、後述する機能性粒子が取り込み易くなり、結果、機能性粒子が持つ機能を長期間にわたり発揮され易くすることができる。一方、多孔質フィルムは活性エネルギー線の照射による熱や塗膜の硬化により収縮し易い傾向にある。しかしながら、本発明の製造方法によれば、基材が多孔質フィルムである場合でも基材の収縮を抑制しながら塗膜を素早く乾燥して印刷物を製造することができる。基材2が多孔質フィルムである印刷物10は後述の機能性粒子を包含し易いため、機能性シートとして好適である。多孔質フィルムが持つ孔は、例えば走査型電子顕微鏡で観察することができる。多孔質フィルムが有する平均孔径は、例えば10nm以上100μm以下であることができる。多孔質フィルムは市販品を用いることができる。市販品の例としては、プロポア(3M)、サンマップ(日東電工株式会社)等が挙げられる。
【0018】
[印刷層]
印刷層1は、光硬化性水性樹脂組成物の硬化物を含む。印刷層1は、基材2上に形成された均一な厚みを有する硬化膜であることができる。印刷層1は、基材2の表面全体を覆うように形成された硬化膜であってもよいし、印刷物にデザイン性を持たすためや情報を表示するために絵柄や文字等を表すように形成された硬化膜であってもよい。印刷層1は、単層構造であってよく、多層構造であってもよい。印刷層1は、透光性を有していてもよいし、透光性を有していなくてもよい。また、印刷層1は着色されていてもよい。
【0019】
印刷層1はまた、印刷物10の機能に応じて後述する機能性粒子を含有していてもよい。機能性粒子が発揮する機能としては、例えば芳香性機能、撥水性機能、抗菌性機能、抗酸化機能、防虫機能、耐熱性機能等が挙げられる。本発明の製造方法によれば、シルクスクリーン印刷により比較的大きい厚みの塗膜を形成することができる。したがって、本発明の製造方法において機能性粒子を含む光硬化性水性樹脂組成物を用いて印刷物を製造した場合、印刷物に機能性粒子を多く含ませることができる。機能性粒子を多く含む印刷物は、機能性粒子が持つ機能を長時間発揮することができるため、機能性シートとして好適である。
【0020】
印刷層1の厚みは印刷物の用途に応じて適宜選択し得る。印刷層1が単層構造である場合、印刷層1の厚みの下限は例えば1μm以上であってよく、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上、特に好ましくは50μm以上である。印刷層1が単層構造である場合、印刷層1の厚みの上限は例えば500μm以下であってよく、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは150μm以下、特に好ましくは100μm以下である。
【0021】
印刷層1が多層構造である場合、印刷層1の厚みの下限は例えば2μm以上であってよく、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは40μm以上、特に好ましくは100μm以上である。印刷層1が多層構造である場合、印刷層1の厚みの上限は例えば1000μm以下であってよく、好ましくは600μm以下、より好ましくは400μm以下、さらに好ましくは300μm以下、特に好ましくは200μm以下である。
【0022】
[光硬化性水性樹脂組成物]
光硬化性水性樹脂組成物は、水と、バインダー樹脂と、光重合性化合物と、光重合開始剤とを含むことができる。光硬化性水性樹脂組成物は、機能性粒子、着色剤、レベリング剤等をさらに含むことができる。さらに、光硬化性水性樹脂組成物は、本発明の効果が損なわれない範囲でシルクスクリーン印刷に用いるインキに用いることができることが従来から知られている添加剤を含むことができる。光硬化性水性樹脂組成物を用いることにより、比較的固形分の低い場合でも、活性エネルギー線の照射により水を含む塗膜を素早く乾燥させることができる。
【0023】
光硬化性水性樹脂組成物の固形分は、例えば1質量%以上40質量%以下であってよく、好ましくは10質量%以上30質量%以下であってよい。固形分は、光硬化性水性樹脂組成物の質量に対する光硬化性水性樹脂組成物の質量から水の質量を除いた質量の割合である。
【0024】
バインダー樹脂は、例えばアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等であることができる。中でも取り扱い性および入手容易性の観点からアクリル系樹脂が好ましい。アクリル系樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量は通常1万以上であり、例えば1万以上200万以下であってよい。ポリスチレン換算の重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法により測定される。
【0025】
バインダー樹脂は、水溶性バインダーであってよく、水中に分散されたエマルションの形態であることが好ましい。エマルションは、例えば水中での乳化重合により作製されたアクリル系エマルション、ウレタン系エマルション等が挙げられる。
【0026】
光硬化性水性樹脂組成物中のバインダー樹脂の含有率は、光硬化性水性樹脂組成物の固形分の総量に対して、例えば5質量%以上90質量%以下であってよく、好ましくは40質量%以上60質量%以下である。
【0027】
光重合性化合物は、後述する光重合開始剤から発生した活性ラジカル、酸等によって重合し得る化合物、例えば、エチレン性不飽和結合を有する化合物等が挙げられ、好ましくは(メタ)アクリル酸エステル化合物である。中でも、光重合性化合物は、エチレン性不飽和結合を3つ以上有する重合性化合物であることが好ましい。光重合性化合物の重量平均分子量は、例えば150以上3000以下であることができる。
【0028】
光重合性化合物は、単官能性であってよく、多官能性であってよい。光重合性化合物が多官能性である場合、光重合性化合物は2官能性以上6官能性以下であることができる。
【0029】
光重合性化合物としては、市販品を用いることができる。市販品の例としては、新中村化学工業製NKエステル等が挙げられる。
【0030】
光硬化性水性樹脂組成物中の光重合性化合物の含有率は、光硬化性水性樹脂組成物の固形分の総量に対して、例えば5質量%以上90質量%以下であってよく、好ましくは40質量%以上60質量%以下である。
【0031】
光重合開始剤は、光や熱の作用により活性ラジカル、酸等を発生し、重合を開始しうる化合物であることができる。光重合開始剤としては、例えばオキシム化合物、ビイミダゾール化合物、トリアジン化合物およびホスフィン化合物等が挙げられる。具体的には、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ベンゾイル-2-プロパノール等を用いることができる。光重合性開始剤としては、市販品を用いることができる。市販品の例としては、Omnirad819(IGM)等が挙げられる。
【0032】
光硬化性水性樹脂組成物中の光重合開始剤の含有率は、光硬化性水性樹脂組成物の固形分の総量に対して、例えば1質量%以上30質量%以下であることができる。
【0033】
光硬化性水性樹脂組成物は、印刷層の機能に応じて機能性粒子を含むことができる。機能性粒子としては、例えば炭(コウゾ炭、ミツマタ炭等)、茶葉、グリッター(ポリエステル等から成る光輝性フィルムやホイルを所望の粒子径にカットしたもの)、灰(香炉灰等)、乾燥した植物片(竹粉等)、金属(アルミ、亜鉛、銅、金、銀、黒鉛等)、合成香料、天然香料、抗菌剤、防虫剤、フッ素およびフッ素化合物等の粒子が挙げられる。機能性粒子の平均粒径は、例えば10nm以上100μm以下であってよい。
【0034】
光硬化性水性樹脂組成物中の機能性粒子の含有率は、光硬化性水性樹脂組成物の固形分の総量に対して、例えば50質量%までの量で用いることができ、好ましくは35質量%以下である。
【0035】
着色剤は染料であっても顔料であってもよい。着色剤としては、公知の染料および顔料を用いることができ、例えば、カラーインデックス(The Society of Dyers and Colourists 出版)および染色ノート(色染社)に記載されている染料および顔料が挙げられる。着色剤は単独で用いてもよく、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
光硬化性水性樹脂組成物中の着色剤の含有率は、光硬化性水性樹脂組成物の固形分の総量に対して、例えば20質量%までの量で用いることができる。
【0037】
[塗膜形成工程]
塗膜形成工程において、光硬化性水性樹脂組成物の塗膜をシルクスクリーン印刷により基材上に形成する。シルクスクリーン印刷によれば、塗膜を比較的大きい厚みで形成することができる、得られる印刷層の厚みを比較的大きくし易くすることができる。光硬化性水性樹脂組成物の塗膜の厚み(塗布直後の厚み)は、例えば3μm以上500μm以下であってよい。光硬化性水性樹脂組成物を塗膜の上に塗布することにより、多層の塗膜とすることもできる。
【0038】
シルクスクリーン印刷は、メッシュを有するスクリーンマスクを用いて行う。シルクスクリーン印刷は、例えば平面な状態に保持した基材上にスクリーンマスクをセットし、スクリーンマスク上に滴下した光硬化性水性樹脂組成物をスキージの摺動によってスクリーンマスクのメッシュから押し出し、メッシュを通過した光硬化性水性樹脂組成物を基材上に転写し、光硬化性水性樹脂組成物の塗膜を基材上に形成することができる。メッシュのない部分は光硬化性水性樹脂組成物が通過することができないため、基材上に塗膜は形成されない。
【0039】
スクリーンマスクは、例えばポリエステル製やステンレス製であることができる。塗膜の厚みは、スクリーンマスクの厚み、メッシュ径、メッシュ密度、光硬化性水性樹脂組成物の固形分により調節することができる。スクリーンマスクの厚み(紗厚)は、例えば1μm以上1mm以下であってよい。スクリーンマスクのメッシュ径(線径)は例えば5~200μm、オーブニングは例えば10~300μm、エリアは例えば25~75%、インク容量は例えば5~150μmであってよい。メッシュ部の形状は、印刷する印刷層の形状に応じて設けることができる。
【0040】
光硬化性水性樹脂組成物の塗膜を基材上に形成する前に密着性を高める観点から基材表面にプラズマ処理、コロナ処理、または紫外線処理等の親水化処理を施すことができる。また、基材上に、プライマー層等を設けることもできる。
【0041】
基材の両側に印刷層を形成する場合、一方側に塗膜を形成し、硬化させた後、他方側に塗膜を形成し、硬化させることができるし、または両面に同時または逐次塗膜を形成した後、同時または逐次硬化させることもできる。
【0042】
基材が長尺状である場合、ロール状に巻かれた長尺状基材を巻出しながら長尺状基材を搬送させ、スクリーン印刷を行った後、露光工程により硬化させて、ロール状に巻き取るロールツーロール方式で行うことができる。
【0043】
塗膜工程は、異物の付着予防、塗膜の均一性の確保等の観点からクリーンルーム内で行うことが好ましい。クリーンルーム内は例えば温度20℃以上30℃以下、相対湿度50%以上70%以下にコンディショニングされていてよい。
【0044】
本発明の製造方法によれば、塗膜形成工程後すぐに、光硬化性水性樹脂組成物の塗膜が形成された基材を露光工程に処することができるため、印刷物の生産性を高め易くすることができる。
【0045】
塗膜形成工程後、露光工程前に、塗膜の乾燥を早めることを目的として、塗膜を予備乾燥させる予備乾燥工程を設けてもよい。予備乾燥工程は、例えば塗膜への温風吹付けまたは赤外線照射等により行うことができる。
【0046】
[露光工程]
露光工程において、光硬化性水性樹脂組成物の塗膜に活性エネルギー線を照射する。活性エネルギー線は、例えば紫外線、電子線であることができる。光源としては、250nm以上450nm以下の波長の光を発生する光源を用いることができる。また、350nm未満の波長域の光をカットするフィルタを用いたり、436nm付近、408nm付近、365nm付近の光を取り出すバンドパスフィルタを用いて選択的に取り出したりしてもよい。具体的には、水銀灯、発光ダイオード、メタルハライドランプ、ハロゲンランプ等が挙げられる。
【0047】
活性エネルギー線の照射は、光源を備えるチャンバ(以下、簡略のため単にチャンバともいう)内において行われる。チャンバ内の温度は通常、10℃以上70℃以下に設定される。本発明者によれば、チャンバ内の温度を上記範囲内とすることにより、基材の収縮を抑制しながら、光硬化性水性樹脂組成物の塗膜を素早く乾燥することができることが見出された。光硬化性水性樹脂組成物の塗膜が上記範囲のような比較的低いチャンバ内温度により乾燥できることは意外なことであった。これは、光硬化性水性樹脂組成物の塗膜において、光硬化反応が進むことにより生じる反応熱により塗膜内の水分の蒸発が促進され、水分が蒸発し易くなるためであると考えられる。チャンバ内の温度は好ましくは10℃以上50℃以下、より好ましくは15℃以上35℃以下である。
【0048】
チャンバ内の温度を上記範囲内にする観点および基材の温度上昇を抑制する観点から、チャンバ内において、光源から基材に向かって温度10℃以上70℃以下のダウンフローの気流を発生させることができる。気流の温度は、好ましくは10℃以上50℃以下、より好ましくは15℃以上35℃以下である。気流が基材の表面全体を覆うようにするために好ましくは光源上部に空気吹出口を設け、基材下に吸気口を設けることができる。
【0049】
塗膜に活性エネルギー線を照射するときの光源と基材との最短距離は、例えば5cm以上80cm以下であってよく、基材の収縮、塗膜の乾燥の観点から好ましくは10cm以上50cm以下である。
【0050】
塗膜への活性エネルギー線の照射は、基材に張力を掛けながら露光工程を行うことができる。これにより、光硬化性水性樹脂組成物の塗膜が硬化により収縮した場合でも、基材の収縮が抑制され易くすることができる。張力は、基材の搬送方向に平行な方向に掛けてよく、基材の幅方向(基材の搬送方向に対し垂直な方向)に掛けてよく、これらの方向の両方に掛けてもよい。照射する活性エネルギー線の照度は、例えば100mW/cm2以上400mW/cm2以下であってよい。活性エネルギー線の照射量(積算光量)は、例えば100mJ以上900mJ以下であってよい。出力は例えば100W以上200W以下であってよい。
【0051】
基材が長尺状である場合、基材の搬送方向に平行な方向に張力を掛ける方法としては、例えばチャンバ前後にダンサーロールまたはニップロールを設置する方法等が挙げられる。上記ダンサーロールおよびニップロールは塗膜が損傷しないように基材端部とのみ接触するものであることが好ましい。基材の幅方向に張力を掛ける方法としては、例えば基材の端をクリップで掴んで引っ張りながら塗膜に活性エネルギー線を照射する方法等が挙げられる。
【0052】
基材が枚葉状フィルムである場合、基材に張力を掛ける方法としては、例えば基材の搬送方向および幅方向のいずれかまたは両方に張力が掛かるように基材の端を治具に固定して治具に固定した状態で塗膜に活性エネルギー線を照射する方法が挙げられる。
【0053】
基材に掛ける張力はいずれの方向においても例えば3N以上10N以下であってよい。基材が長尺状である場合、チャンバ後において基材に掛ける張力が、チャンバ前において基材に掛ける張力より高くなるように設定することができる。搬送速度は例えば0.1m/分以上5m/分以下であってよい。
【0054】
基材の収縮を抑制する観点から、例えば吸引装置を基材下に設け、基材を搬送するメッシュ状搬送コンベアベルトを介して上記吸引装置により基材を吸引してメッシュ状搬送コンベアベルトに固定しながら塗膜に活性エネルギー線を照射することもできる。
【0055】
基材は、基材の搬送方向下流側が高くなるように傾斜させた搬送経路によりチャンバ内に搬送することができる。また、基材は、基材の搬送方向下流側が低くなるように傾斜させた搬送経路によりチャンバ内から搬出することができる。これにより、チャンバ内に外気が流れ込むことによりチャンバ内の温度の変化を抑制することができる。搬送経路の傾斜角は例えば1°以上90°以下であってよい。
【0056】
本発明の製造方法は水溶性バインダーにモノマーや開始剤を加えて作製する工程をさらに含むことができる。
【0057】
本発明の製造方法に用いる製造装置について
図2を参照しながら説明する。
図2は、長尺状基材を用いて長尺状印刷物を製造する製造装置の一例を示す。ロール状に巻かれた長尺状基材2は、巻き出された後、搬送経路上の設置されたガイドロール51に沿って搬送される。次いでシルクスクリーン印刷装置31により基材2上に塗膜3が形成され、光源42を備えるチャンバ41内に搬送され、光源42より塗膜3に向けて活性エネルギー線を照射し、塗膜3を硬化して印刷層1を形成し、得られた印刷物10はロール状に巻き取られる。チャンバ41は、空気吹出口43および吸気口44が配置される。基材2に張力を掛けるためチャンバ41前後にニップロール52が配置される。
図2に示すようにチャンバ内への搬入経路および搬出経路は傾斜させることができる。
【実施例0058】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。例中の「%」および「部」は、特記のない限り、質量%および質量部である。
【0059】
[光硬化性水性樹脂組成物1の調製例]
水溶性バインダー(新中村化学工業株式会社、アクリル系樹脂、固形分25質量%)100質量部に対し、光重合性化合物(新中村化学工業株式会社、NKエステル AT-TMP-L、4官能性)15質量部、光重合開始剤(IGM、Omnirad819)1.5質量部を混合し、水性樹脂分散体を得た。
【0060】
<実施例1>
基材フィルム(低密度ポリエチレン多孔質フィルム)上にスクリーンマスク(中沼アートスクリーン株式会社、メッシュ数80、線径71μm、オープニング247μm、エリア60%、紗厚115μm、インク容量75μm)のメッシュが密着するように設置した。設置したスクリーンマスク上に光硬化性水性樹脂組成物1を滴下し、スキージを用いて基材フィルム上に光硬化性水性樹脂組成物をメッシュより押し出し、塗膜を形成した。
【0061】
スクリーンマスクを基材フィルムから取り外した後、光硬化性水性樹脂組成物が塗布された基材フィルムの長辺側をカプトンテープを用いて3~10Nの張力をかけながら治具(厚み5mmのアクリル板)に固定した。基材フィルムを治具に固定したままコンベアベルトに載せ、基材フィルムの搬送方向下流側が高くなるように傾斜させながらチャンバ内に搬送した。チャンバは、光源と、光源上部に設置された空気吹出口と、光源下に設置されたコンベアベルトと、コンベアベルト下に吸気口とを備えていた。基材フィルムをコンベアベルトにより搬送させながら光源下を通過させて光硬化性水性樹脂組成物に紫外線を照射した。チャンバ内でのコンベアベルト上の基材フィルムの搬送速度は3m/分であり、光源と基材フィルムとの距離は270mmであり、出力140Wで光源直下での基材フィルム上での紫外線照度は242mW/cm2であり、チャンバ内で光硬化性水性樹脂組成物に照射される紫外線の積算光量は720mJであり、空気吹出口からのエアは、光源から基材フィルムに向かうダウンフローの気流であった。チャンバ内温度62℃で紫外線を照射した。その後、基材フィルムの搬送方向下流側が低くなるように90°の角度でチャンバ内から搬出し、治具を取り外し、印刷物を得た。得られた印刷物について、以下の評価基準にて評価を行った。塗膜の乾燥状態は触診により確認し、基材の収縮(シワ)の発生の有無は目視により確認した。結果を表1に示す。
【0062】
〇:塗膜が乾燥し、基材の収縮(シワ)が抑制されている。
【0063】
×:塗膜が乾燥していないか、又は基材に収縮(シワ)が発生している。
【0064】
<実施例2、比較例1~3>
表1に示す露光条件により硬化させて印刷物を作製したこと以外は実施例1と同様にして印刷物を作製した。結果を表1に示す。
【0065】
1 印刷層、2 基材、3 塗膜、10 印刷物、31 シルクスクリーン印刷装置、41 チャンバ、42 光源、43 空気吹出口、44 吸気口、51 ガイドロール、52 ニップロール
前記露光工程において、前記光硬化性水性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射するときの前記光源と前記基材との最短距離は5cm以上80cm以下である、請求項1または2に記載の印刷物の製造方法。
前記露光工程において、前記基材に張力をかけながら前記光硬化性水性樹脂組成物の塗膜に前記活性エネルギー線を照射する、請求項1~3のいずれか一項に記載の印刷物の製造方法。