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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023002049
(43)【公開日】2023-01-10
(54)【発明の名称】βグルカン産生微生物の培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/16 20060101AFI20221227BHJP
【FI】
C12N1/16 A
C12N1/16 D
C12N1/16 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021103050
(22)【出願日】2021-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000118578
【氏名又は名称】伊藤忠製糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】郡上 彰
(72)【発明者】
【氏名】近藤 修啓
(72)【発明者】
【氏名】平林 克樹
(72)【発明者】
【氏名】竹内 基雄
(72)【発明者】
【氏名】和藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】大塚 隆一
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA72X
4B065BB12
4B065BB16
4B065BB20
4B065BB27
4B065BC12
4B065BC13
4B065CA22
4B065CA41
4B065CA50
(57)【要約】      (修正有)
【課題】黒酵母培養液において、臭いの残存が少なくかつ生産量の低下を招かない、培地及び培養方法を提供する。
【解決手段】黒酵母の培養方法であって、豆に由来する組成物を窒素源として使用することを特徴とする培養方法である。前記豆に由来する組成物が、大豆おから、又はエンドウ豆パウダーであることが好ましい。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒酵母の培養方法であって、
豆に由来する組成物を窒素源として使用することを特徴とする培養方法。
【請求項2】
前記豆に由来する組成物が大豆おから、又はエンドウ豆パウダーであることを特徴とする請求項1記載の培養方法。
【請求項3】
黒酵母の培地であって、
豆に由来する組成物を窒素源として添加することを特徴とする培地。
【請求項4】
前記豆に由来する組成物が大豆おから、又はエンドウ豆パウダーであることを特徴とする請求項3記載の培地。
【請求項5】
前記豆に由来する組成物、ショ糖、ビタミンCを含む請求項3、又は4記載の培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、βグルカンを産生する微生物、特に黒酵母Aureobasidium pullulansの培養方法、及び培地に関する。
【背景技術】
【0002】
βグルカンは植物、菌類、細菌など自然界に広く分布することが知られている。アガリクス、メシマコブ、霊芝などのキノコ、ビール酵母、パン酵母、黒酵母などの酵母に由来するβグルカンは、強い免疫賦活作用、制癌作用、抗ウイルス活性、抗菌活性があることが知られており、食品、サプリメントや化粧料などに活用されている。
【0003】
βグルカンは、ビール酵母、パン酵母、黒酵母といった酵母の細胞壁に特に多く含まれており、これら酵母を培養して精製されることが多い。なかでも、黒酵母から精製されるβグルカンは免疫賦活作用が強く、また保水作用が強いことから、サプリメントだけではなく食品改質材、化粧料等としても広く活用されている。
【0004】
キノコや酵母細胞壁から抽出されるβグルカンは不溶性であるのに対し、黒酵母では、細胞外に水溶性のβグルカンを生産する菌株がある。細胞外に産生される黒酵母のβグルカンは抽出操作が不要であり、さらに水溶性であることから比較的安価に精製できるという利点がある。黒酵母βグルカンは、免疫賦活作用が強いという機能的な特徴だけではなく、生産性の面においても優れていることから、予防医学に活用できる機能性食品の素材として、また、化粧料の素材として広く活用されている。
【0005】
黒酵母は、米糠培地や半合成培地など種々の培地を用いた培養方法がある(非特許文献1、2)。特に、工業生産する場合には、βグルカンの生産性、精製のしやすさが培養方法によって異なることから培地や培養方法については、検討が重ねられている。特に、窒素源は生産性に大きくかかわることから、検討が重ねられており、米糠を窒素源とした方法が主流となっている。また、無機塩や酵母エキス等を使用した培地を用いた場合には、コストがかかることも、工業生産の際に米糠培地が用いられる理由となっている。
【0006】
しかし、米糠を窒素源として培養すると米糠に由来する特有の臭いが培養液に残存し、不快感を与えることが問題となっている。特に、サプリメントとして提供される培養液ゲル製品は、臭いを不快と感じる者が多く、臭いの除去が課題となっている。しかし、臭いを除去するためには、高価な活性炭フィルターなどの使用が必要となり、製品価格が高くなるという問題がある。また、他の窒素源、例えば無機塩などを使用して培養した場合には、βグルカンの生産量低下を招くことから好ましくない。そのため、臭いの残存が少なく、かつ生産量の低下を招かない、米糠に代わる窒素源、及び培養方法が必要となっている。すでに、米糠の代わりに、乳酸生産菌の菌体あるいはその派生物を栄養源として培養する方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2014/013793号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kimura Y., et al., 2006, Anticancer Res. Vol.26, pp.4131-4142.
【非特許文献2】宮脇 香織 他、2010年、生物工学、第88巻、第12号、第634-641頁
【非特許文献3】水野 卓、岩田 賢彦、1964年、日本食品工業学会誌、第11巻、第9号、第395-399頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
乳酸生産菌やその派生物を培地に加えることにより、米糠特有の臭いの問題は解決できるものの、乳酸生産菌の培養、さらに黒酵母の培地に入れる場合には死菌とすることが望ましいことから、乳酸生産菌を加熱処理するなどの工程が必要となり、手間やコストがかかるという問題があった。
【0010】
本発明は、培養液の臭いを低減させることができ、米糠の代わりとなる黒酵母の培地に添加する窒素源を探索することを課題とする。さらに、米糠特有の臭いの問題を解決するだけではなく、生産性、コスト等、工業的に生産するために必要な課題をもクリアできる培地、培養方法を提供することを課題とする。
【発明の効果】
【0011】
豆由来の組成物を窒素源として用いることで、従来の米糠を窒素源としていたβグルカンの培養方法と比べ臭いや着色が抑えられた培養液を得ることができる。また、生産性においても、大豆由来の窒素源を利用して黒酵母を培養した培養液では、米糠を窒素源とした場合と比べ、βグルカン収量が増加しており、生産性のうえでも優れた製造方法であることが示された。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の培養方法、及び培地に関する。
(1)黒酵母の培養方法であって、豆に由来する組成物を窒素源として使用することを特徴とする培養方法。
(2)前記豆に由来する組成物が大豆おから、又はエンドウ豆パウダーであることを特徴とする(1)記載の培養方法。
(3)黒酵母の培地であって、豆に由来する組成物を窒素源として添加することを特徴とする培地。
(4)前記豆に由来する組成物が大豆おから、又はエンドウ豆パウダーであることを特徴とする(3)記載の培地。
(5)前記豆に由来する組成物、ショ糖、ビタミンCを含む(3)、又は(4)記載の培地。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】米糠培地、大豆おから培地、エンドウ豆培地で黒酵母を培養し、それぞれの培養液における多糖生産量の経時的な変化を示す図。
図2】各培地で黒酵母を培養し、培養7日目における多糖量を示す図。
図3】各培養液の420nmでの吸光度の経時的推移を示す図。
図4】各培養液の420nmでの吸光度の経時的推移を多糖量あたり(%)で示した図。
図5】各培養液の培養14日目の420nmと720nmの吸光度を多糖量あたり(%)で示した図。
図6】モニター試験による各培養液の臭いの強度を評価したグラフ。
図7】モニター試験による各培養液の臭いの風味を評価したグラフ。
図8】各培養液に含まれる成分を液体クロマトグラフィーによって解析を行った図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
βグルカンには、グルコースがβ1‐3型の結合で連なった多糖と、β1‐4型で連なった多糖であるセルロースとがある。一般にβグルカンといった場合には通常β1‐3型のグルカンを指す。本願明細書でも特に断りのない限り、βグルカンと記載する場合には、β1‐3型のグルカンを指す。
【0015】
本発明で、豆とはマメ科植物の種子のことをいい、豆に由来する窒素源とは、実施例で使用したおから、あるいは豆をパウダー状にしたものなど、どのような形態であっても構わない。ここで、おからとは、豆から豆乳を搾った残渣をいう。「パウダー」という場合には、乾燥させた豆を粉末にしたものをいう。豆の種類としては、実施例で示した大豆、エンドウ豆に限らず、豆であればよく、豆の種類は問わない。入手しやすい大豆おから、あるいは豆をパウダー状にした製品としては、例えば、ひよこ豆、いんげん豆、そら豆、ピーナッツ、大豆をパウダー状にした製品を使用することができるがこの限りではない。以下の実施例でデータを示して詳細に説明するが、タンパク質に富んだ豆である大豆由来の組成物を用いると生産性の向上をもたらすことが明らかとなった。また、エンドウ豆パウダーを使用することにより、生産性の点では米糠を窒素源とした場合と同等であるが、著しい臭いの改善、着色量の低下が認められた。したがって、大豆おから、あるいはエンドウ豆パウダーを使用することが好ましい。
【0016】
以下の明細書において、培養液とは、黒酵母を培養した培養液を指す。また、培地とは、黒酵母を培養する前のものを指す。各培地、培養液は、窒素源で区別することとする。例えば、大豆おからを使用した培地は、「大豆おから培地」、大豆おから培地で黒酵母を培養し得られた培養液は「大豆おから培養液」という。黒酵母により産生されるβグルカンは、細胞外に産生されることから、培養液を濃縮、精製して製造する。
【0017】
[黒酵母の培養方法]
下記の組成の通り培地をフラスコに200ml調整し、105℃で10分間の滅菌を行った後、黒酵母(Aureobasidium pullulans、微工研寄託第4257菌(FERM-P No.4257、ATCC.No.20524菌))を植菌し、振とうチャンバー機用チャンバー内で温度23℃、振とう速度100rpmで前培養を7日程行った。その後同様の培地条件および培養条件で、ジャーファメンターを用い、3L程度の培養を14日間行った。前培養は、振とう機用低温恒温チャンバーFMC-1000型)、振とう機マルチシェーカー(東京理化機器株式会社、MMS-5020型)、本培養は、ミニジャーファメンター(株式会社高杉製作所、TS-M10L型)を用いて培養した。
【0018】
なお、工業的に生産する場合にも、基本的に同様の条件で培養を行っている。具体的には、現在のところ米糠培地(表3)を用いて、温度は25度以下に制御し、100Lの前培養を3日~7日実施し、その後1000Lスケールで7~10日程度培養して培養液を得ている。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
【表3】
【0022】
なお、ショ糖は伊藤忠製糖株式会社、おからパウダーは株式会社おとうふ工房いしかわ、エンドウ豆パウダーは不二製油株式会社、米糠はJAあいち中央、ビタミンCは和光純薬株式会社から得て、培地を作製した。いずれの培地もpH5.2に調整して培養を行った。各培地組成で培養した培養液を多糖生産量、着色具合、臭いの評価を行い、それぞれ評価した。
【0023】
ここでは、通常使用されている米糠の量に合わせて、大豆おから、エンドウ豆パウダーは、ともに0.2%を含む培地を作製しているが、0.1%以上、1%以下の範囲で加えることが可能である。培養液に生じる「臭い」は窒素源によると考えられることから、培地に含有させる窒素源が少なければ臭いの発生は少なくなると考えられる。しかし、0.1%より少ない場合には、黒酵母の増殖が低減され、多糖量の生産が減少する恐れがある。また、1%より高い場合には、黒酵母の増殖の点では問題なく、多糖の生産性も高いと考えられるが、臭いが強くなることから望ましくない。
【0024】
[多糖生産量の評価]
多糖生産量の測定方法は以下の方法を用いた。
1.各培養液の液量(a)に対し3倍量の無水エタノールを添加し(終濃度75%)、多糖成分を沈殿させ吸引濾過で回収する。
2.回収した多糖を、適当量の無水エタノールですすぎ、再度吸引濾過で回収する。
3.回収した多糖を水に懸濁させ、均等に分散し、懸濁液(全体量をbとする)中の糖質量をフェノール硫酸法(非特許文献3)を用いて測定する。この時測定された値を多糖の濃度とする。
4.懸濁液中に含まれる多糖量(c)を計算し、最初にエタノールを加えた際の培養液量で割り戻すことで培養液中の多糖生産量(%)とした。
計算式は以下のとおりである。
多糖生産量(%)=c(g換算)/a(g換算)×100
c=フェノール硫酸で算出された糖量(mg/mL)×b懸濁液の全体量(ml)
なお、フェノール硫酸法は、測定波長 495nmにより、プレートリーダー(株式会社テカンジャパン、infinite M Nano)を用いて吸光度を測定した。
【0025】
結果を図1図2に示す。図1は、各培地で培養し、経時的な多糖量生産量の変化を、図2は培養7日目における多糖量を示している。図1に示すように、大豆おから培地で培養した場合の多糖量と、米糠培地、あるいはエンドウ豆培地で培養した場合とを比べると、大豆おから培地で産生される多糖量は、全測定期間中にわたり高い生産量を示していた。これに対し、エンドウ豆培地で培養した場合には、7日目における多糖量は米糠培地で培養した場合と同等であったが、最終的な多糖量の生産量は低かった。
【0026】
各培地で産生される7日目の多糖量を比較すると、大豆おから培地を使用した場合には、7日目の多糖量の生産量は他の培地に比べて突出して多く、米糠培地とエンドウ豆培地で培養した場合は同等であった(図2)。上述のとおり、工業的に生産する場合には、前培養の後、7~10日程度培養し、培養液を回収している。生産効率を考えると長期間の培養期間は望ましくないことから、7日目の多糖生産量が重要である。図2に示した7日目の多糖生産量において、大豆おから培地での培養は生産量が突出して多いことは工業的に重要な意味を持つ。また、エンドウ豆培地も米糠培地と遜色ない多糖生産量となっており、エンドウ豆培地を使用した多糖生産量は工業的にも十分な量の生産性であるということができる。
【0027】
[着色具合の測定]
培養液の着色具合については、上記と同じプレートリーダーを使用し、砂糖の色価測定に使用する波長である420nmと720nmの吸光度測定を行うことで評価を行った。また、培養液中の多糖量の増加に依存して着色が進むが、おからや米糠などに由来する培養液中の浮遊物が吸光度測定に影響し測定値が安定しない場合には、測定前に培養液を遠心分離し(4℃、13,420×g、600秒)、遠心上清の吸光度を測定することで評価を行った。
【0028】
各培地を用いて黒酵母を培養し、経時的に培養液の吸光度の測定を行った(図3)。培養液は遠心をせずに吸光度の測定を行った。培養期間中を通じて、420nmの吸光度は、大豆おから培養液、米糠培養液、エンドウ豆培養液の順に低くなっていた。なお、ここでは示さないが、720nmで測定した吸光度も同様の傾向を示していた。各培地を用いて黒酵母を培養し、培養開始4日目、7日目、14日目の培養液の吸光度及び多糖量を測定し、多糖量あたりの吸光度に換算した(図4)。培養液は遠心を行い、吸光度を測定した。多糖量あたりの吸光度に換算した場合には、大豆おから培地による培養液は、培養7日目では米糠培地による培養液と同程度、14日目になると米糠培地による培養液と比べ着色料は低い値となっていた(図4)。また、エンドウ豆培養液の吸光度は、培養液自体でも、多糖量あたりに換算した場合でも、いずれも14日間を通じて最も低く推移していた(図3、4)。培養14日目の多糖量あたりの420nmと720nmの吸光度は、米糠培養液が最も高く、大豆おから培養液、エンドウ豆培養液の順となっていた(図5)。
【0029】
[臭いの評価]
20人のモニターにより、臭いの「強度」と「風味」についてアンケート形式でスコア化し評価してもらった。米糠培地、大豆おから培地、エンドウ豆培地で14日間培養した培養液を褐色のガラス瓶に入れ、常温にしておく。被験者には、何の培養液であるかは分からない状態で順に臭いをかいでもらい、臭いの「強度」と「風味」について評価を行ってもらった。平均スコア算出後、統計処理を行い群間比較による有意差検定を行った。「強度」と「風味」に関する評価基準は下記のとおりである。
【0030】
【表4】
【0031】
図6に示すように、臭いの強度に関しては、大豆おから培養液、エンドウ豆培養液は、米糠培養液と比較しいずれもスコアの低減が見られ有意差が確認できた。大豆おから培養液、エンドウ豆培養液の両区間での有意差は認められなかった。臭いについては、個人差の大きい感覚であることからバラツキも大きいが、大豆おから培養液、エンドウ豆培養液では、「何のにおいかが判る」程度であり、気になる臭いとして捉えられていないことが分かる。図7に示すように、臭いの風味の評価に関しては、スコアは米糠培養液、大豆おから培養液、エンドウ豆培養液の順に小さくなるが、いずれの群間にいても有意差は認められなかった。しかし、米糠培養液は臭いが強いこともあり不快と感じる者が多くなっているのに対し、大豆おから培養液、エンドウ豆培養液では、さほど不快の程度は高くなく、「やや不快」の範囲にとどまっていた。さらに、エンドウ豆培養液に関しては、「やや怪」と感じる者もおり、大豆おから培養液、エンドウ豆培養液では臭いの問題はほぼ解決しているものと考えられる。
【0032】
[培養液の成分解析]
上記実験結果が示すように、各培地で培養した黒酵母の培養液が、着色、臭いにおいて異なっていることから、培地によって、異なる成分が存在し、それが着色、臭いの原因となっていると考えられた。そこで、液体クロマトグラフィーによって、各培養液の成分の解析を行った。試料の作成、測定条件は以下のとおりである。
【0033】
[抽出条件(サンプルの前処理)]
14日間培養を行った各培養液500mLをエバポレーターで濃縮後、凍結乾燥機を用い水分を乾燥させた。乾燥させた粉末に、メタノールを40mL加え、ボルテックスミキサーにて攪拌したのち、超音波にて5分ソニケーションした。その後再度、ボルテックスミキサーで懸濁し、懸濁サンプルを遠心分離し(3,000rpm、10分)、上澄みを回収した。回収した溶液に、再度、メタノールを40mL加え、同様の操作を行い、再度上澄みを回収し、回収した上澄みをエバポレーターで濃縮し乾固させた後、200μLのメタノールを加え溶解し、UPLC(登録商標)の測定サンプルとした。
【0034】
[UPLC測定条件]
装置:Waters 超高速液体クロマトグラフィーシステムAcquity UPLC I-classシステム
カラム:Waters BEH C18 150mm
流速:0.5mL/min
カラム温度:30℃
検出波長 :260nm
溶媒 :A液(水:アセトニトリル:酢酸=85.5:14:0.5)
B液(水:アセトニトリル:酢酸=59.5:40:0.5)
溶出条件 :0分-3分 A液 75%:B液 25%
3分-4分 A液 50%:B液 50%
4分-5分 A液 25%:B液 75%
5分-6分 A液 15%:B液 85%
6分-7分 A液 0%:B液 100%
7分-8分 A液 75%:B液 25%
【0035】
図8に示すように、米糠培地で黒酵母を培養した培養液には、多くの夾雑物が含まれているのに対し、大豆おから培地で培養した培養液やエンドウ豆培地で培養した培養液では、検出されるピークが少なかった。また、大豆おから培養液、エンドウ豆培養液のクロマトグラムは類似しているのに対し、米糠培養液のクロマトグラムは大きく異なっていた。さらに、大豆おから培養液で5.53付近に特徴的なピークが検出されたことから、大豆イソフラボンスタンダードを用いてピークの同定を行った。その結果、5.53付近の特徴的なピークは、イソフラボンの一種であるゲニステインであることが明らかとなった。これらクロマトグラムは、培地の組成に由来する臭い、着色の違いを反映するものと考えられる。エンドウ豆培養液では、特徴的なピークは検出されていないが、抽出条件やクロマトグラフィーの条件を変えることにより、特有のクロマトグラム、ピークが検出できるものと考えられる。
【0036】
上記示してきたように、豆由来の窒素源を使用することにより、米糠培地で培養した培養液で問題となっている黒酵母培養液の臭い、着色の低減を図ることができる。特に、エンドウ豆培地を用いることにより、臭い、着色は顕著に低下させることができる。また、大豆おからを使用することによって、米糠培地を使用した場合と比較して、臭いが抑制され、多糖生産量も高く、多糖量あたりの着色の低い培養液を製造することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8