(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020580
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】標的核酸の検出方法及び核酸-プローブーキャリア複合体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20230202BHJP
C12Q 1/689 20180101ALI20230202BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20230202BHJP
C12Q 1/6834 20180101ALI20230202BHJP
【FI】
C12N15/09 Z ZNA
C12Q1/689 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6834 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126018
(22)【出願日】2021-07-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年3月3日、日本化学会第101春季年会(2021)のウェブサイト中の予稿集PDFダウンロードページ内のアドレス(https://confit.atlas.jp/guide/event-img/csj101st/csj101st_APA_20210322/proceedings) 〔刊行物等〕 令和3年3月22日、日本化学会第101春季年会(2021)のウェブサイト中の[A25-4am-14]光架橋性プローブ修飾磁気粒子を用いた高効率なRNA回収技術の確立」のアドレス(https://confit.atlas.jp/guide/event/csj101st/subject/A25-4am-14/tables?cryptoId=)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡部 綾子
(72)【発明者】
【氏名】成畑 彩香
(72)【発明者】
【氏名】坂元 博昭
(72)【発明者】
【氏名】末 信一朗
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼村 映一郎
(72)【発明者】
【氏名】矢嶋 修登
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS40
(57)【要約】
【課題】標的核酸の確実な捕捉と夾雑物の効率的な除去とともに、感染症病原体の検出に有利な、標的核酸の分離・検出する技術を提供する。
【解決手段】 標的核酸の検出方法は、(a)固相キャリアと、固相キャリアに固定化された、標的核酸に特異的にハイブリダイズする捕捉用配列と光照射により前記標的核酸中の塩基との間で共有結合を形成可能な光反応性基とを備えるプローブと、前記プローブの前記捕捉用配列に対するハイブリダイゼーションと前記光反応性基に基づく共有結合とにより前記プローブに結合した前記標的核酸と、を備える、複合体を、前記標的核酸を含有する可能性のある被験試料中において形成して、前記標的核酸を捕捉する工程、(b)前記被験試料から、前記共有結合と前記固相キャリアとを利用して、前記複合体を分離する分離工程、及び(c)前記固相キャリア上の前記標的核酸を鋳型とする核酸増幅反応を実施する核酸増幅工程、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸の検出方法であって、
(a)固相キャリアと、固相キャリアに固定化された、標的核酸に特異的にハイブリダイズする捕捉用配列と光照射により前記標的核酸中の塩基との間で共有結合を形成可能な光反応性基とを備えるプローブと、前記プローブの前記捕捉用配列に対するハイブリダイゼーションと前記光反応性基に基づく共有結合とにより前記プローブに結合した前記標的核酸と、を備える、複合体を、前記標的核酸を含有する可能性のある被験試料中において形成して、前記標的核酸を捕捉する工程、
(b)前記被験試料から、前記共有結合と前記固相キャリアとを利用して、前記複合体を分離する分離工程、及び
(c)前記固相キャリア上の前記標的核酸を鋳型とする核酸増幅反応を実施する核酸増幅工程、
を備える、方法。
【請求項2】
前記工程(a)は、前記標的核酸と前記プローブとのハイブリダイゼーションを実施後に前記共有結合を形成し、前記標的核酸と前記プローブとのハイブリダイズ及び共有結合産物を取得し、その後、前記ハイブリダイズ及び共有結合産物の前記プローブを前記固相キャリアに固定化する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(a)は、前記固相キャリアに固定化された前記プローブと前記標的核酸とのハイブリダイゼーションを実施後、前記共有結合を形成する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記固相キャリアは、粒子状体である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記固相キャリアは、磁気ビーズである、請求項1~4ののいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記工程(b)は、前記捕捉用配列と前記標的核酸との特異的ハイブリダイゼーションを解消する条件下で前記複合体を分離する工程である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記工程(b)は、前記固相キャリアが粒子状体であり、前記複合体が備える大きさ、比重、電荷又は磁性により、前記複合体を分離することを含む、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記プローブは、その5’末端側に前記固相キャリアに固定化する要素を備え、前記ハイブリダイズ配列の3’末端側に1又は2以上の前記光反応性基を備える、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記工程(c)の前記核酸増幅反応は、PCRである、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記標的核酸は、感染症病原菌由来の核酸である、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
標的核酸の分離方法であって、
(a)固相キャリアと、固相キャリアに固定化され、標的核酸に特異的にハイブリダイズする捕捉用配列と前記標的核酸中の塩基との間で共有結合を形成可能な光架橋性基とを備えるプローブと、前記プローブの前記ハイブリダイズ配列に対するハイブリダイゼーションと前記光反応性基に基づく共有結合とにより前記プローブに結合した前記標的核酸と、を備える、複合体を、前記標的核酸を含有する可能性のある被験試料中において形成する工程、及び
(b)前記被験試料から前記複合体を分離する工程、
を備える、方法。
【請求項12】
標的核酸-プローブ-固相キャリア複合体であって、
固相キャリアと、
固相キャリアに固定化された、標的核酸に特異的にハイブリダイズする捕捉用配列と前記標的核酸中の塩基との間で共有結合を形成可能な光反応性基とを備えるプローブと、
少なくとも、前記捕捉用配列とのハイブリダイゼーションにより前記プローブに結合された前記標的核酸と、
を備える、複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、標的核酸の検出方法及び標的核酸-プローブ-キャリア複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
COVID-19などに代表される種々の感染症の検査は、特異性及び検出感度の点からPCRでの実施が推奨されている。PCRでは原理的には1個のウイルス検出が可能であるものの、実際は抽出工程での収率、夾雑物による逆転写反応やPCRの阻害により感度が低下し偽陰性が発生する場合がある。したがって、標的核酸(DNAやRNA)を確実に捕捉でき、かつ夾雑物を確実に除去する技術の開発が求められている。
【0003】
また、コロナウイルスやインフルエンザウイルスなどでは、遺伝子変異が病原性に影響を及ぼすため、抗原や標的核酸の有無だけでなくその遺伝子配列の変異を検出する必要がある。
【0004】
PCR検査の前処理としての検体からの核酸回収には、シリカビーズを用いたスピンカラム法、有機溶媒を用いた抽出方法、磁気ビーズ法などが知られている。また、光照射により架橋を形成する光反応性基を含むプローブを用いた、固相を介した標的核酸の検出法が開示されている(特許文献1~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/140890号
【特許文献2】国際公開第2014/034753号
【特許文献3】国際公開第2014/142020号
【特許文献4】特開2015-73523号公報
【特許文献5】国際公開第2016/010047号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スピンカラムによる抽出では、検体中の総RNAが回収されるため標的ウイルスRNA(以下、標的RNA)の濃度が相対的に小さくなってしまう。標的RNAを特異的に捕捉するために、核酸プローブを修飾した磁気ビーズを用いる方法も開発されている。標的RNAに特異的な配列を持つ核酸プローブは、水素結合によって標的RNAを捕捉する。標的RNAを結合させたまま磁気粒子を磁石で回収できるため、洗浄や回収は専門の機器を必要とせず、どこでも作業を行うことが可能である。しかし、核酸プローブ修飾粒子を用いる方法では、標的核酸が静電的相互作用や疏水性相互作用によって、粒子表面やプローブに非特異的に吸着する可能性が考えられる。これらの非特異的な吸着物質除去には変性剤や界面活性剤による洗浄が有効であるが、同時に核酸プローブとの水素結合によって捕捉された標的核酸も同時に脱離してしまう。従来の水素結合に基づくハイブリダイゼーションによる捕捉では、標的RNAの確実な捕捉や洗浄による十分な夾雑物除去はできていない。こうした問題は、DNAの抽出においても同様に発生する。
【0007】
また、特許文献1~5に開示された方法では、複数のプローブを、標的核酸及び/又は他のプローブと特異的に会合するように設計しなければならず、標的核酸中の検出箇所の選定に制限があった。この制限は、新型コロナウイルスなど遺伝子変異が起きやすく、変異が病原性に影響するため変異の有無を調べる必要があるような感染症の検査に対しては非常に不利になることがあった。以上のことから、特許文献1~5にて開示されている方法では、プローブの配列設計に時間を要したり、適切な配列が見いだせないなどの理由で遺伝子変異の検出や同定が困難な場合があった。
【0008】
本明細書は、標的核酸の確実な捕捉と夾雑物の効率的な除去とともに、感染症病原体の検出に有利な、標的核酸の分離・検出する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、光反応性基を導入したプローブを用いて、標的核酸-光架橋反応性プローブ-固相キャリアの複合体を形成し、この複合体をプローブによる共有結合と固相キャリアの特性とを利用して分離回収し、分離された複合体に保持された標的核酸を鋳型として核酸増幅反応を行うことで、上記した課題を解決できることを見出した。本明細書は、以下の手段を提供する。
【0010】
[1]標的核酸の検出方法であって、
(a)固相キャリアと、固相キャリアに固定化された、標的核酸に特異的にハイブリダイズする捕捉用配列と光照射により前記標的核酸中の塩基との間で共有結合を形成可能な光反応性基とを備えるプローブと、前記プローブの前記捕捉用配列に対するハイブリダイゼーションと前記光反応性基に基づく共有結合とにより前記プローブに結合した前記標的核酸と、を備える、複合体を、前記標的核酸を含有する可能性のある被験試料中において形成して、前記標的核酸を捕捉する捕捉工程、
(b)前記被験試料から、前記共有結合と前記固相キャリアとを利用して、前記複合体を分離する分離工程、及び
(c)前記固相キャリア上の前記標的核酸を鋳型とする核酸増幅反応を実施する核酸増幅工程、
[2]前記工程(a)は、前記標的核酸と前記プローブとのハイブリダイゼーションを実施後に前記共有結合を形成し、前記標的核酸と前記プローブとのハイブリダイズ及び共有結合産物を取得し、その後、前記ハイブリダイズ及び共有結合産物の前記プローブを前記固相キャリアに固定化する工程である、[1]に記載の方法。
[3]前記工程(a)は、前記固相キャリアに固定化された前記プローブと前記標的核酸とのハイブリダイゼーションを実施後、前記共有結合を形成する工程である、[1]に記載の方法。
[4]前記固相キャリアは、粒子状体である、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記固相キャリアは、磁性粒子である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記工程(b)は、前記捕捉用配列と前記標的核酸との特異的ハイブリダイゼーションを解消する条件下で前記複合体を分離する工程である、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記工程(b)は、前記固相キャリアが粒子状体であり、前記複合体が備える大きさ、比重、電荷又は磁性により、前記複合体を分離することを含む、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]前記プローブは、その5’末端側に前記固相キャリアに固定化する要素を備え、前記ハイブリダイズ配列の3’末端側に1又は2以上の前記光反応性基を備える、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]前記工程(c)の前記核酸増幅反応は、PCRである、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]前記標的核酸は、感染症病原菌由来の核酸である、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]標的核酸の分離方法であって、
(a)固相キャリアと、固相キャリアに固定化され、標的核酸に特異的にハイブリダイズする捕捉用配列と前記標的核酸中の塩基との間で共有結合を形成可能な光架橋性基とを備えるプローブと、前記プローブの前記ハイブリダイズ配列に対するハイブリダイゼーションと前記光反応性基に基づく共有結合とにより前記プローブに結合した前記標的核酸と、を備える、複合体を、前記標的核酸を含有する可能性のある被験試料中において形成して、前記標的核酸を捕捉する捕捉工程、及び
(b)前記被験試料から前記複合体を分離する分離工程、
を備える、方法。
[12]標的核酸-プローブ-固相キャリア複合体であって、
固相キャリアと、
固相キャリアに固定化された、標的核酸に特異的にハイブリダイズする捕捉用配列と前記標的核酸中の塩基との間で共有結合を形成可能な光反応性基とを備えるプローブと、
少なくとも、前記捕捉用配列とのハイブリダイゼーションにより前記プローブに結合された前記標的核酸と、
を備える、複合体。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】標的核酸の検出方法のフローの一例を示す図である。
【
図2】実施例における標的核酸の検出プロセスを示す図である。
【
図3】標的DNAと国立感染症研究所等におけるRT-PCRのプライマー配列について示す図である。
【
図4】実施例における標的DNA、プローブ及びプライマーを示す図である。
【
図5】実施例における試料(a)~(d)の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書は、標的核酸の検出方法、標的核酸の分離方法、標的核酸-プローブ-固相キャリア複合体に関する。本明細書に開示される標的核酸の検出方法(以下、単に、検出方法ともいう。)によれば、標的核酸を、特異的ハイブリダイゼーションと光反応性基に基づく共有結合とでプローブに結合させたハイブリダイズ/共有結合産物を固相キャリア上に備える、標的核酸-プローブ-固相キャリア複合体を形成する。こうすることで、被験試料中の標的核酸を、特異的ハイブリダイゼーションと共有結合によって、複合体の形態で、効率的に、特異的に、確実に固相キャリア上に捕捉することができる。また、プローブは、ハイブリダイゼーション及び共有結合により標的核酸を捕捉するものであり検出を意図するものではないため、その配列設計の自由度を向上させることができる。
【0013】
かかる複合体を、共有結合及び固相キャリアを利用して被験試料から分離することで、標的核酸を共有結合で固相キャリアに保持しつつ、夾雑物を簡易に除去することができる。
【0014】
さらに、固相キャリア上の標的核酸を鋳型として核酸増幅反応により標的核酸を増幅することで、効率的で確度の高い標的核酸の増幅が可能となる。核酸増幅反応では、捕捉した標的核酸に対して標的配列を検出可能にプライマーやプローブを設計できるため、標的配列を含む標的核酸をの検出のほか、遺伝子変異やその同定のためのプライマーやプローブ設計も容易に行うことができる。
【0015】
本明細書に開示される技術は、医療分野、衛生分野、環境分野、農業分野、工業分野、研究分野など、遺伝子や生物が関連する技術分野において有用である。
【0016】
以下、本明細書に開示される標的核酸の検出方法等について詳細に説明する。
【0017】
なお、本明細書において、被験試料とは、特に限定されない。被験試料は、目的とする標的核酸が含有される可能性のある試料であればよい。例えば、天然ないし生体から採取したままの試料のほか、こうした試料を粗精製ないし精製した試料、こうした試料中のDNAないしRNAを抽出した試料及びこうした試料中のDNA又はRNAを、公知の核酸増幅方法等によりその含有量を増大させたり逆転写させたりした試料であってもよい。
【0018】
被験試料は、例えば、ヒト、家畜などの各種動物から人為的に採取され又は自然に分離された、血液、尿、唾液などの各種の生体由来の液性試料、細胞試料及び組織試料並びにこれらについて核酸の抽出・増幅・逆転写等された加工試料が含まれる。また、被験試料には、植物又はウイルスを含むその他の生物から人為的に採取された又は自然に分離された種々の部分又は形態の各種試料が含まれる。また、被験試料には、標的核酸を含む可能性のある食品や飲料、加工品、物品などが含まれる。
【0019】
また、本明細書において、核酸とは、生物(ウイルスを含む。以下、同じ。)が保持するDNA及びRNAである天然核酸のほか、人工的に合成された核酸であってもよい。核酸は、少なくともその一部に本明細書に開示されるプローブと共有結合を形成する塩基を備えている。DNAとしては、特に限定されないで、生物が保持しうる天然由来のDNAのほか、生物に対して人工的に導入されたDNAであってもよい。例えば、ゲノムDNAのほかプラスミドなどのベクター上におけるDNAが含まれる。また、RNAとしては、特に限定されないで、生物が保持しうる天然由来のRNAのほか、外部か生物に導入されたRNAであってもよい。RNAは、例えば、mRNA、tRNA、rRNA、siRNAやmiRNAなどのncRNA、リボザイム及び二本鎖RNA等が含まれる。
【0020】
標的核酸は、検出しようとする標的配列を含む核酸である。標的核酸としては、例えば、その生物における特定の遺伝子に関連する配列、その生物個体を特徴付ける遺伝子に関連する変異及びその他の配列、その動物や植物における疾患や病原体を特徴付ける配列、当該配列上の変異、その他の特徴を有する配列等を標的配列として含んでいる。
【0021】
標的核酸としては、例えば、感染症などの疾患の病原体や、遺伝子変異の判定が必要な感染症などの疾患の病原体が挙げられる。かかる病原体としては、例えば、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、腸管出血性大腸菌、赤痢菌、サルモネラ属菌、カンピロバクタージェジュニ及びコリ、及び腸炎ビブリオ、ヒトパルボウイルス、B型およびC型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルスなど等が挙げられる。
【0022】
捕捉対象である標的核酸は、特に限定するものではなく、用途や標的とする核酸の種類によっても異なる。標的核酸の長さは、例えば、数十merから数千mer程度、また例えば、20mer~3000merであり、また例えば、20mer~2000merであり、また例えば、20mer~1500merであり、また例えば、20mer~1000merである。
【0023】
(標的核酸の検出方法)
<工程(a):複合体の形成による標的核酸の捕捉>
本明細書に開示される標的核酸の検出方法は、
図1に示すように、工程(a)として、所定の複合体を、前記標的核酸を含有する可能性のある被験試料中において形成する、標的核酸の捕捉工程、を備えることができる。
【0024】
(複合体)
複合体は、固相キャリアと、固相キャリアに固定化された、標的核酸に特異的にハイブリダイズする捕捉用配列と光照射により前記標的核酸中の塩基との間で共有結合を形成可能な光反応性基とを備えるプローブと、前記プローブの前記捕捉用配列に対するハイブリダイゼーションと前記光反応性基に基づく共有結合とにより前記プローブに結合した前記標的核酸と、を備えることができる。工程(a)で形成する複合体の各要素について、まず、説明する。
【0025】
(プローブ)
プローブは、天然の五炭糖又は人工的な骨格単量体が連結された骨格を有する一本鎖核酸として準備される。天然の五炭糖としては、デオキシリボース又はリボースが挙げられる。人工的な骨格単量体としては、特に限定するものではないが、五炭糖の誘導体のほか、例えば、D-トレオニノールなどの公知の人工的な骨格単量体が挙げられる。プローブは、概して、デオキシリボース又はその誘導体若しくはD-トレオニノールを構成単位として構成される。プローブは、こうした骨格単量体が、リン酸ジエステル結合又はその他の類似する連結基による結合によって連結された骨格を有している。
【0026】
プローブは、五炭糖の1’位の炭素原子又は人工的骨格単量体において五炭糖の1’位に相当する炭素原子に、天然塩基及び/又は修飾された塩基を備えている。また、プローブは、前記1’位の炭素原子などに、後述する光反応性基を備えている。プローブは、一続きの塩基配列を備えており、プローブが有する塩基配列の少なくとも一部は、被験試料中の標的核酸と特異的にハイブリダイズして捕捉するための捕捉用配列を構成している。
【0027】
捕捉用配列は、標的核酸を含む核酸の一部の塩基配列に対して特異的にハイブリダイズ可能な程度の相補性を有している。捕捉用配列は、本検出方法において、標的核酸のうち後段で増幅対象となる標的配列にハイブリダイズするものではなく、かかる標的配列を含む標的核酸を捕捉するものであればよい。したがって、捕捉用配列は、標的核酸中の標的配列以外の任意の塩基配列(以下、捕捉対象配列ともいう。)に対して特異的にハイブリダイズ可能な塩基配列である。当業者であれば、複合体形成時の温度などを適宜考慮して、捕捉用配列の長さや配列を設定することができる。
【0028】
捕捉用配列は、少なくとも1個の光反応性基を備える。光反応性基は、捕捉用配列の少なくとも1個の塩基を置換するように、1’位炭素原子に結合するように備えられていてもよいし、他の形態で備えられていてもよい。光反応性基を含んだ捕捉用配列の捕捉対象配列の相補配列に対する同一性は、例えば、80%以上であり、また例えば、85%以上であり、また例えば、90%以上であり、また例えば、95%以上であり、また例えば、96%以上であり、また例えば、98%以上であり、また例えば、99%以上である。また、光反応性基が捕捉用配列の塩基を置換して備えられる場合、光反応性基を除く捕捉用配列の前記相補配列に対する同一性は、例えば、90%以上であり、また例えば95%以上であり、また例えば、98%以上の同一性であり、また例えば、99%以上であり、また例えば、100%である。
【0029】
なお、本明細書において、塩基配列又はアミノ酸配列の同一性又は類似性とは、当該技術分野で知られているとおり、配列を比較することにより決定される、2以上のタンパク質あるいは2以上のポリヌクレオチドの間の関係である。当該技術で“同一性 ”とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きのそのような配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の配列不変性の程度を意味する。また、類似性とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きの部分的な配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の相関性の程度を意味する。より具体的には、配列の同一性と保存性(配列中の特定アミノ酸又は配列における物理化学特性を維持する置換)によって決定される。なお、類似性は、後述するBLASTの配列相同性検索結果においてSimilarity と称される。同一性及び類似性を決定する方法は、対比する配列間で最も長くアラインメントするように設計される方法であることが好ましい。同一性及び類似性を決定するための方法は、公衆に利用可能なプログラムとして提供されている。例えば、AltschulらによるBLAST (Basic Local Alignment Search Tool) プログラム(たとえば、Altschul SF, Gish W, Miller W, Myers EW, Lipman DJ., J. Mol. Biol., 215: p403-410 (1990), Altschyl SF, Madden TL, Schaffer AA, Zhang J, Miller W, Lipman DJ., Nucleic Acids Res. 25: p3389-3402 (1997))を利用し決定することができる。BLASTのようなソフトウェアを用いる場合の条件は、特に限定するものではないが、デフォルト値を用いるのが好ましい。
【0030】
捕捉用配列の長さは特に限定するものではないが、捕捉用配列が長すぎると、Tm値が高くなりすぎて洗浄が困難になり、短かすぎると標的核酸に対する特異性が低下する。これらのことから、捕捉用配列は、例えば、10mer以上50mer以下であり、また例えば、15mer以上50mer以下であり、また例えば、20mer以上35mer以下である。
【0031】
光反応性基は、特に限定するものではないが、3 - シアノビニルカルバゾール基及びその誘導体( WO2009/066447( EP2216338, US 2010-274000 A)、Yoshinaga Yoshimura et al., Organic Letters 10:3227-3230(2008))、p - カルバモイルビニルフェノール基(Takehiro Ami et al., Organic & Biomolecular Chemistry 5:2583-2586(2007))、4,5',8-トリメチルソラレン基(Akio Kobori et al., Chemistry Letters 38:272-273(2009))並びにN3 -メチル-5-シアノビニルウラシル基(Kenzo Fujimoto et al., Chemical Communications: 3177-3179(2005))、ピラノカルバゾール(特開2019-26569号公報及びWO2019/022158)が挙げられる。これらはいずれも光照射により、当該光反応性基と対合する捕捉対象配列中の塩基(対合塩基)の3’側に隣接する塩基位置(+1位:対合塩基から塩基一個分3’側にずれた位置)のピリミジン塩基のピリミジン環との間で架橋構造を形成する。なかでも、反応速度の観点から3‐シアノビニルカルバゾールが、可視光照射により架橋構造を形成できる観点からピラノカルバゾールが挙げられる。
【0032】
3-シアノビニルカルバゾールを用いた場合には、当該分子と対合する標的配列中の塩基の3’側に隣接する塩基位置(+1位:対合塩基から塩基一個分3’側にずれた位置)のピリミジン塩基のピリミジン環との間で架橋構造を形成する。3-シアノビニルカルバゾールを修飾したヌクレオシド(CNV K(デオキシリボース修飾体)、CNV D(D-トレオニノール修飾体)(いずれも、日華化学株式会社製)はいずれも他の光反応性基を比較して、反応速度が速く架橋効率に優れる。
【0033】
架橋構造を形成するピリミジン塩基は、特に限定しないが、標的核酸がDNAであれば、チミン(T)又はシトシン(C)であり、RNAであれば、シトシン(C)又はウラシル(U)である。なお、これらの塩基は、光反応性基と光架橋が可能な限り修飾されていてもよく、5-メチルシトシン、5-ヒドロキシメチルシトシン等が挙げられる。
【0034】
光反応性基は、捕捉対象配列中の例えば、ピリミジン塩基の5’側に隣接する塩基位置(-1位)の塩基に対合する任意の塩基を置換するように捕捉用配列に備えられる。換言すると、光反応性基は、捕捉用配列において、プリン塩基(アデニン(A)又はグアニン(G))の3’側に隣接する塩基位置(+1位)の任意の塩基を置換するように備えられる。
【0035】
当業者であれば、DNAやRNA中に光反応性基を備えるプローブを、上記各種文献のほか、特開2016-145229号公報、特開2017-210448号公報及び特開2019-26569号公報等において記載されており、これらの公報及び本願出願時のDNA等の合成技術に関する技術常識及び周知技術に基づいて容易に合成することができる。
【0036】
プローブにおける光反応性基の個数は、特に限定するものではなく、捕捉用配列の長さなどによっても異なるが、捕捉用配列が10~100mer程度のとき、例えば、1個以上10個以下であり、また例えば、1個以上6個以下であり、また例えば、1個以上5個以下であり、また例えば、1個以上4個以下であり、また例えば、1個以上3個以下であり、また例えば、1個以上2個以下であり、また例えば、1個である。一つのプローブ中に2個以上の光反応性基が連続する部位を備える場合であって、さらに追加の光反応性基を備える場合、連続する共有結合性基から少なくとも10塩基以上離間して追加の共有結合性基を備えることが好ましい。
【0037】
また、光反応性基は、捕捉用配列の総塩基数の20%以下とすることができる。20%を超えると、捕捉用配列のハイブリダイズの特異性を低下させることになるからである。
【0038】
また、プローブにおける光反応性基の位置は、特に限定するものではないが、例えば、5’末端側及び/又は3’末端側であり、プローブの捕捉用配列に対するハイブリダイゼーションをできるだけ抑制しない位置とすることができる。典型的には、5’末端側領域又は3’末端側領域である。ここで、5’末端側領域とは、例えば、5’末端の端末から捕捉用配列の全塩基数の20%以内の数の塩基内であり、3’末端側領域とは、例えば、3’末端の端末から捕捉用配列の全塩基数の20%以内の数の塩基内である。また、光反応性基は、例えば、5’末端側であれば、その末端より内側にあればよく、3’末端側であれば、少なくとも1個以上内側に存在していればよい。
【0039】
また、光反応性基の位置は、例えば、捕捉用配列が10mer以上100mer程度であれば、その捕捉用配列の中央部分、すなわち、本プローブの5’末端及び3’末端からそれぞれ捕捉用配列の塩基長の25%を超える範囲内にあってもよい。捕捉用配列が一定の長さ以上であれば、捕捉用配列の中央部分にあっても、捕捉対象配列との特異的ハイブリダイゼーションを阻害しないでハイブリダイゼーション及び光架橋が可能である。
【0040】
プローブは、固相キャリアに固定化する要素(固定化要素)を備えている。かかる固定化要素としては、核酸-核酸間の特異的ハイブリダイゼーションよりも強固な固定化状態を形成できるものであることが好ましい。このような固定化状態を形成できるプローブ-固相キャリアの結合様式としては、例えば、ビオチン-ストレプトアビジン、-アビジン、-ニュートラアビジンなどの非共有結合性相互作用のほか、公知の種々の共有結合性の化学結合が挙げられる。例えば、DNA等を固相キャリアに固定化する方法は公知である。共有結合性の化学結合としては、例えば、プローブと固相キャリアの表面にそれぞれ化学結合を形成可能な官能基を導入しておき、これらの官能基間に化学結合を形成する方法が挙げられる。かかる化学結合としては、プローブに導入したアミノ基、SH基、カルボキシル基などと、固相キャリア上のNHSエステル若しくはアルデヒド基、マレイミド基若しくはヨードアセチル基、カルボジイミドで活性化されたアミノ基等が挙げられる。固相キャリアに対する修飾は、シランカップリング剤による表面処理を用いることもできる。このほか、チオールと金とを用いた相互作用も挙げられる。固相キャリアとの固定化要素は、プローブの5’末端側及び3’末端側のいずれに備えられていてもよい。
【0041】
(固相キャリア)
固相キャリアは、プローブを固定化可能に形成された固体であれば、その形状、材質等は特に限定されるものではない。例えば、ビーズ等の粒子状体であって水などの水性媒体に懸濁可能であり、かつ一般的な固液分離処理によって液体と分離可能な粒子状体であってもよい。また、メンブレンやチップなどのシート状体又は平板状体であってもよい。
【0042】
固相キャリアは固相であることから、液性の被験試料から、遠心分離、ろ過、振り切りなどの一般的な固液分離などによって分離できる。なかでも、粒子状体の固相キャリアは、こうした固液分離法のほか、粒子状体が保持する特性、例えば、比重、大きさ、形状、荷電量及びその磁性に基づいて分離されうる点において有利である。なかでも、磁性粒子の場合には、遠心分離操作及びその後の回収操作を伴うことなく容易に固相キャリアを分離回収できる点及び被験試料の拡散を容易に抑制できる点において好ましい。
【0043】
かかる固相キャリアとしては、具体的には、例えば、磁気ビーズ、シリカビーズ、アガロースゲルビーズ、ポリアクリルアミド樹脂ビーズ、ラテックスビーズ、プラスチックビーズ、セラミックスビーズ、ジルコニアビーズなどの粒子状体、シリカメンブレンなどのシート状体、シリカフィルター、プラスチックプレートなどの平板状体が挙げられる。固相キャリアは、既述のとおり、プローブを固定化するための、プローブ側の固定化要素と相互作用可能な固定化要素を備えている。固相キャリアにおける固定化要素については、既に説明したとおりであり、NHSエステル若しくはアルデヒド基、マレイミド基若しくはヨードアセチル基、カルボジイミドで活性化可能なアミノ基等が挙げられる。こうした固相キャリアに対する修飾は、固相キャリアの材料に応じて、固相キャリアの材料として、あるいは、コーティングや固相キャリアの材料自体に対する表面修飾などとして適宜行われる。
【0044】
(複合体の形成)
複合体は、標的核酸とプローブとのハイブリダイゼーション及び共有結合の形成並びにプローブの固相キャリアへの固定化により複合体が形成される。特に限定するものではないが、複合体の形成は、例えば、以下の3種の態様で実現される。
【0045】
(態様1)
この方法は、被験試料中において、標的核酸とプローブとのハイブリダイゼーションを実施し、その後光照射により光反応性基による共有結合を形成して、標的核酸とプローブとのハイブリダイズ及び共有結合産物(ハイブリダイズ/共有結合産物)を取得し、その後、ハイブリダイズ/共有結合産物のプローブを固相キャリアに固定化することにより、複合体を形成する。この方法によれば、ハイブリダイゼーション及び光照射による共有結合の形成は、いずれも、液性媒体中で、固相キャリアの不存在下に行うため、ハイブリダイゼーションによる塩基対合と光照射による共有結合を効率的に形成できる。
【0046】
(ハイブリダイゼーション)
標的核酸とプローブとのハイブリダイゼーションは、特に限定されるものではなく、プローブのTm値等を考慮した上で、温度、pH、塩濃度、緩衝液等の通常の条件下で被験試料を含む液相にて行うことができる。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーについては適宜設定できる。例えば、高精度に標的核酸のみを捕捉する観点からは、ハイブリダイゼーションはストリンジェントな条件で行うことが好ましい。
【0047】
高ストリンジェンシーなハイブリダイゼーションは、例えば、30℃~60℃程度の温度条件(プローブのTmより5℃~10℃ 程高い温度条件)、1M未満の塩濃度条件等が挙げられる。なお、ハイブリダイゼーションは、必ずしも、高ストリンジェンシーで必ずしも行う必要がない。一般的なハイブリダイゼーションは、Tmより10~25℃程度低い温度でって、25℃以上40℃以下、また例えば、30℃以上40℃以下で実施することができる。
【0048】
また、ハイブリダイゼーションの実施にあたり、プローブの光反応性基の光架橋を回避する必要がある。したがって、光反応性基の種類に応じ、必要に応じて、光を遮断した状態でハイブリダイゼーションを実施する。
【0049】
(光照射による共有結合の形成)
標的核酸とプローブとの間に光反応性基による共有結合を形成するための光照射条件は、用いる光反応性基の種類等によって決定される。概して、光照射に用いる光は、例えば、340~550nmの波長を有し、また例えば、350~450nmにの波長を有している。例えば、特開2016-145229号公報に開示される光反応性基を用いる場合には、330~380nm、同340~380nm、同350~380nm、360~380nmに有する光とすることができる。また、特開2019-26569号公報及びWO2019/0022158に開示される光反応性基を用いる場合には、例えば、350~600nm、また例えば、400~600nm、また例えば、400~550nm、また例えば、400~450nmの光を照射することができる。
【0050】
光照射の際の温度や時間は特に限定するものではないが、例えば、0℃~50℃また例えば、0~40℃、また例えば、0~30℃、また例えば、0~20℃、また例えば、0~10℃、また例えば、0~5℃である。また、時間は、例えば、1~120秒間、また例えば、1~60秒間などとすることができる。
【0051】
光照射によれば、光反応性を含む捕捉用配列が捕捉対象配列に適切にハイブリダイズした状態で、捕捉対象配列の対合塩基の+1位側にあるピリミジン塩基との間で高い特異性で架橋構造を形成する。ミスマッチがある場合には、捕捉用配列と捕捉対象配列の架橋対象であるピリミジン塩基が架橋可能な位置関係を構成しにくく、適切な光照射を行っても、架橋構造が形成され難い。このため、正しいハイブリダイズをしたプローブと標的核酸との間において特異的に架橋構造が形成される。
【0052】
(プローブの固相キャリアへの固定化)
プローブを固相キャリアに固定化するには、プローブに予め備えられた結合要素と、固相キャリア上の結合要素とを、相互作用可能な状態で接触させる。例えば、プローブがビオチン修飾されている場合、プローブとストレプトアビジンで修飾された固相キャリアとを、生理的条件下で撹拌等することで、プローブの固相キャリアへの固定化が実現される。そのほか、プローブ及び固相キャリアのそれぞれに準備された結合要素に適した反応を行うことで、プローブの固相キャリアへの固定化が実現される。プローブの固相キャリアへの固定化のための結合様式、結合要素及び方法等については、既述のとおりであり、当業者であれば、適宜結合様式等を選択し、固定化を実施できる。
【0053】
(態様2)
この方法では、被験試料中において、固相キャリアに固定化されたプローブを準備し、固相キャリアに固定化されたプローブと標的核酸とのハイブリダイゼーションを実施し、その後光照射により光反応性基による共有結合を形成して、標的核酸-プローブのハイブリダイズ及び共有結合産物(ハイブリダイズ/共有結合産物)を取得することにより、複合体を形成する。この方法によれば、プローブが予め固相キャリアに固定化されているため、プローブを固相キャリアに固定化する反応によって、固相キャリアに保持されたプローブや標的核酸が影響を受けがたく、操作も簡素化できる。なお、固相キャリアにプローブを固定化する操作を行って、その後に、プローブと標的核酸とのハイブリダイゼーションを実施してもよい。この方法における、ハイブリダイゼーション、光照射による共有結合の形成及びプローブの固相キャリアへの固定化は、態様1で説明したのと同様の態様で実施することができる。
【0054】
(態様3)
この方法では、被験試料中において、プローブと標的核酸とのハイブリダイゼーションを実施し、その後、固相キャリアにプローブを固定化し、固定化後に、固相キャリア上の標的核酸-プローブハイブリダイズ産物に光照射して光反応性基による共有結合を形成して、固相キャリア上に標的核酸-プローブのハイブリダイズ及び共有結合産物(ハイブリダイズ/共有結合産物)を取得することにより、複合体を形成する。この方法における、ハイブリダイゼーション、光照射による共有結合の形成及びプローブの固相キャリアへの固定化は、態様1で説明したのと同様の態様で実施することができる。
【0055】
<工程(b):複合体の分離>
工程(b)は、
図1に示すように、被験試料から、共有結合(プローブと標的核酸との間の共有結合)と固相キャリアとを利用して、標的核酸を捕捉した複合体を分離する工程である。被験試料には、プローブと非特異的に結合する核酸や、そのほか、後段の核酸増幅反応等に影響を与える可能性のある夾雑物が存在する可能性がある。工程(b)では、標的核酸を共有結合によりプローブに捕捉させた状態で固相キャリアの少なくとも固体性を利用して、複合体を確実にかつ効率的に分離しかつ回収することができる。
【0056】
共有結合を利用することで、複合体に付随する、非特異的ハイブリダイゼーションなどによる核酸夾雑物を排除し、標的核酸を選択的に捕捉している複合体を分離できる。具体的には、複合体を標的核酸とプローブとの非特異的ハイブリダイゼーションを解消するような変性条件に曝すことにより、非特異的ハイブリダイゼーションによって結合した標的核酸以外の核酸が除去された複合体を分離することができる。変性条件は、非特異的ハイブリダイゼーションを解消するのみならず、特異的なハイブリダイゼーションを解消する条件であってもよい。かかる条件により、特異的にハイブリダイズしているが共有結合により架橋されていないハイブリダイズ産物を除去することができる。
【0057】
変性条件を形成するための変性剤は、例えば、ホルムアミド、ジメチルホルムアミドなどアルデヒド類、ピリジン類、ピペリジン類、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン及びアセトニトリルなどの溶剤が挙げられる。
【0058】
また、尿素、テトラメチルアンモニウムクロライドなどのアルキルアミン類、NaOHなどのアルカリ、ヨウ化物イオン、グアニジン、過酸化物、チオ硫化物等が挙げられる。これらの変性剤は、pHや塩基等を調整することができるが、適当な溶媒に溶解して用いることができる。溶媒としては、例えば、生体適合性のあるリン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液、純水などの水性媒体のほか、既に説明した変性剤としての溶媒などを用いることができる。
【0059】
さらに、変性剤は、界面活性剤を含む水溶液(SDS、Tween-20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート)、Tween-80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート)、Triton X-100(ポリ(オキシエチレン)オクチルフェニルエーテル)、Triton X-114(ポリ(オキシエチレン)オクチルフェニルエーテル)、NP-40、Octyl Glucosideなど)を用いることができる。これらの界面活性剤は、固相キャリア上の種々の夾雑物を除去することができる。また、一本鎖核酸を安定分散できる。
【0060】
これらのなかでも、ホルムアミド、尿素、グアニジン、SDS、Tween系界面活性剤を好適に用いることができる。これらは、固相キャリア表面に残留し難いからである。
【0061】
変性剤を2種以上組み合わせて用いることができる。同種の又は異なる変性剤を2種類以上同時に用いていてもよい、例えば、6Mなどの尿素水溶液でハイブリダイズ産物を融解させた後、一旦、TEバッファなどで洗浄し、次いで、界面活性剤溶液で、固相キャリア表面に非特異的に吸着している夾雑物を除くとともに、分離した一本鎖核酸を安定分散させることで、再会合を抑制するというように、段階的に変性してもよい。
【0062】
変性剤として溶剤を用いる場合、変性剤の種類のほか、変性剤の濃度及び同時に用いる希釈剤によっても、変性条件を調整することができる。変性剤としての溶媒は、特に限定するものではないが、例えば、40体積%以上、また例えば、50体積%以上、また例えば、60体積%、また例えば、70体積%以上、また例えば、80体積%以上、また例えば、90体積%以上、また例えば、95体積%以上、また例えば、100体積%の溶液として用いることができる。好適には、70体積%以上、80体積%以上である。また、希釈剤としては、例えば、生体適合性のある、リン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液であってもよいが、よりストリンジェンシーの高い水(純水など)の水系媒体とすることができる。すなわち、水系媒体混液とすることができる。変性剤として溶媒を用いる場合には、希釈剤の種類によっても、例えば、緩衝液に替えて純水を用いることによっても、予想を超えて変性条件の強度を大きくすることができる。
【0063】
例えば、溶媒であるホルムアミド(FA)を用いる場合、50体積%FA水溶液又は緩衝液溶液、60体積%FA水溶液又は緩衝液溶液、70体積%FA水溶液又は緩衝液溶液、80体積%FA水溶液又は緩衝液溶液などを用いることができる。好ましくは、50体積%以上のFA水溶液又は緩衝液溶液であり、さらに好ましくは、60体積%以上のFA水溶液又は緩衝液溶液であり、さらに、好ましくは80体積%以上のFA水溶液又は緩衝液溶液である。また、FAを用いない場合には、FAが、例えば、60体積%以上又は60体積%超の水溶液又は緩衝液溶液などの水系媒体混液、80体積%以上又は80体積%超の水溶液又は緩衝液溶液などの水系媒体混液と同等以上の変性効果を有する変性剤(変性液)を用いることが好適である。
【0064】
変性工程に適用する温度条件は、当該条件単独で、変性工程を実施することができるが、他の全ての変性要因において温度条件を伴う。したがって、変性工程に適用する温度条件は、変性工程に適用される変性要因の種類やその程度などの変性強度に応じて適宜設定される。例えば、変性要因として、溶媒などの変性剤を用いる場合、適用される温度条件は、特段の温度制御をすることなく、本検出方法を実施する場所の温度であって、特段の加温も冷却もしない温度(本明細書において、当該温度を室温ともいう。)以上で実施することができる。本明細書において「室温」とは、例えば、1℃以上35℃以下であり、また例えば、1℃以上30℃以下であり、また例えば、10℃以上30℃以下であり、また例えば、15℃以上25℃以下である。かかる室温での変性工程は、特に、in situハイブリダイゼーションなどを実施した組織などの被験試料に対する障害が抑制されている点において好適であるほか、特別な温度制御装置等を要しない点において有利である。変性工程における温度条件は、例えば、20℃以上、また例えば、30℃以上、また例えば、35℃以上、また例えば、40℃以上、また例えば、50℃以上などとすることができる。一方、上限としては、例えば、70℃以下、また例えば、60℃以下などとすることができる。温度条件は、また例えば、室温を超えた温度であってもよく、40℃以上60℃以下であってもよい。
【0065】
また、変性要因として、温度を用いる場合、例えば、30℃以上90℃以下、また例えば、40℃以上90℃以下、50℃以上90℃以下、70℃以上90℃以下などとすることができる。例えば、70℃以上90℃以下の強い温度条件を採用する場合には、変性剤を使用しなくても、水又は緩衝液のみであっても、真正架橋ハイブリダイズ産物のみを維持することができる。
【0066】
固相キャリアを利用して複合体を分離するには、例えば、固相キャリアの固体性のほか、大きさ、比重、電荷又は磁性により複合体を分離する。固相キャリアは、その固体性により、遠心分離やろ過で分離できるほか、篩過や流路(大きさ)、密度勾配遠心(比重)、電気泳動(電荷)及び磁気分離(磁性)によって分離できる。なかでも、磁気分離は、簡易な操作で確実にかつ被験試料などの飛沫の拡散を抑制して複合体を分離し回収できる点において有利である。したがって、固相キャリアとして磁性粒子を用い、分離操作として磁気分離を用いることが好適である。磁気分離には、公知の磁気分離手段を適宜用いることができる。
【0067】
以上の工程(b)により、標的核酸を少なくとも共有結合により固相キャリア上のプローブに捕捉した複合体を得ることができる。標的核酸とプローブとの間のハイブリダイズは、これらが共有結合されていれば、ハイブリダイズ可能な条件において適宜形成される。
【0068】
<工程(c):核酸増幅>
工程(c)は、
図1に示すように、分離した固相キャリア上の標的核酸を鋳型とする核酸増幅反応を実施する工程である。工程(c)では、標的核酸を鋳型として、標的核酸中の標的配列を増幅することで、その増幅産物の形成又は増幅産物中の標的配列の検出により、標的配列を有する標的核酸を検出することができる。標的核酸は、共有結合により固相キャリアに捕捉された状態であるため、核酸増幅反応による熱サイクルに抗して鋳型核酸は維持され、鋳型として機能する。工程(c)における核酸増幅反応では、プライマー、必要に応じて用いるプローブを、検出しようとする標的配列に対して高い自由度で設計できる。このため、標的配列を含む標的核酸の検出のほか、遺伝子変異やその同定を容易に行うことができる。
【0069】
核酸増幅反応は、核酸増幅反応のための媒体の存在下、工程(b)において分離した複合体に対して、プライマー、各種ヌクレオチド、耐熱性ポリメラーゼなどを添加することで実施することができる。
【0070】
ここで、核酸増幅反応は、PCRのほか、リアルタイムPCR、デジタルPCRなど公知の種々のPCRを適宜選択して適用することができる。こうすることで、標的核酸の検出や定量が可能となる。また、標的核酸がRNAの場合には、逆転写反応と、リアルタイムPCRと、を同時にあるいは順次実施することで、標的RNAの検出ほか、定量も可能となる。さらに、核酸増幅反応におけるプライマーの設計や必要に応じて用いる検出用プローブの設計によれば、特定の塩基配列の検出も可能である。したがって、ウイルスなどの変異スピードの早い生物を標的核酸とする、標的核酸の捕捉用配列、核酸増幅反応におけるプライマーやプローブ等を高い自由度で設計することができる。
【0071】
さらに、得られた増幅産物を、電気泳動、プローブハイブリダイゼーション、クロマトグラフィー、ラテラルフローデバイス等に適用することで、標的核酸の定量や標的配列の同定も可能である。
【0072】
以上のとおり、本検出方法によれば、標的核酸-プローブ-固相キャリア複合体を被験試料中の標的核酸を確実にかつ簡易に捕捉するとともに、被験試料由来の夾雑物を容易に排除でき、しかも固相キャリア上に標的核酸を捕捉した状態で、確度の高い核酸増幅反応を実施できる。また、この検出方法によれば、速やかにかつ必要な器具や装置を少なくして標的核酸を検出できる。
【0073】
(標的核酸の増幅方法、分離方法)
本明細書によれば、本検出方法の工程(a)~(c)を備える、標的核酸の増幅方法も提供される。また、本明細書によれば、上記工程(a)及び(c)を備える、標的核酸の分離方法も提供される。これらの増幅方法及び分離方法における各工程は、標的核酸の検出方法における各工程の態様を適用することができる。
【0074】
(標的核酸-プローブ-固相キャリア複合体)
本明細書に開示される複合体は、固相キャリアと、固相キャリアに固定化された、標的核酸に特異的にハイブリダイズする捕捉用配列と前記標的核酸中の塩基との間で共有結合を形成可能な光反応性基とを備えるプローブと、少なくとも、前記捕捉用配列とのハイブリダイゼーションにより前記プローブに結合された前記標的核酸と、を備えることができる。こうした複合体は、標的核酸の分離、増幅、検出のための複合体として有用である。
【0075】
また、複合体は、さらに、光反応性基による共有結合により標的核酸とプローブとが結合されていてもよい。かかる複合体は、共有結合で標的核酸がプローブに結合されているため、非特異的ハイブリダイゼーションによる核酸やその他の夾雑物を容易に除去可能となっており、固相キャリア上でのより確度の高い核酸増幅反応が可能となっている。なお、複合体における各要素及び複合体の形成方法は、標的核酸の検出方法において説明した複合体の各要素及び形成方法の各種態様を適用することができる。
【実施例0076】
以下、本明細書の開示をより具体的に説明するために具体例としての実施例を記載する。以下の実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであって、その範囲を限定するものではない。
MRSA由来ゲノムDNAの抽出はNucleoBond AXG 500、NucleoBond Buffer Set IIIを用い、取扱説明書に従い行った。精製したMRSAのゲノムDNAを超音波洗浄機で1h切断した。この切断したMRSAのゲノムDNA断片を夾雑物として用いた。
試料(b)の作製について説明する。1μMの標的DNA10μlに切断したMRSAのゲノムDNA断片を標的DNAと同濃度である1μMになるように添加した後、この溶液を90℃、5 min加熱を行い絡み合っている可能性があるDNAを解離させた。その後、3μMのプローブ溶液を10μlを混合し、55℃で90 minインキュベートすることで標的DNAとプローブをハイブリダイゼーションさせた。ハイブリダイゼーションさせたDNA複合体を氷上で366 nmの光を5分間照射した。
そこに磁性粒子溶液10μlを混合し、室温で15分間ゆっくりと回転させながらビオチン-アビジン結合によりハイブリダイゼーション産物を磁気粒子表面へ固定化した。
試料(a)を、磁気ビース、プローブ及び光照射を行わない以外は、試料(b)と同様にして作製した。また、試料(c)を、プローブを用いない以外は、試料(b)と同様にして作製し、試料(d)を、光照射を行わない以外は、試料(b)と同様にして作製した。
チューブ内の各試料に、それぞれ50μlの反応液を添加し、PCR装置(Thermal Cycler RECT-240)より94℃で2分間プレヒーティングを行い、94℃で15秒、60℃で2秒、74℃で4秒のサイクルを25サイクル行った。
夾雑物存在下でも、ハイブリダイゼーションと光架橋による共有結合により、簡易にかつ確実に標的核酸を、捕捉し、分離し、増幅できることがわかった。また、標的DNA-プローブ-磁性粒子複合体に適用する夾雑物除去のための変性条件によっては、光架橋による共有結合によらないで特異的ハイブリダイゼーションによって捕捉された標的DNAが固相キャリア上に捕捉されたままになることもわかった。しかしながら、あくまで特異的ハイブリダイゼーションによる標的DNAの捕捉であること、及び、光架橋によれば特異的ハイブリダイゼーションの場合よりも、さらに1.33倍の標的DNAが回収されることから、このような特異的ハイブリダイズ産物は、本明細書に開示される標的核酸に関する技術の有用性を阻害するものではないことは明らかである。
以上のことから、実施例での検出プロセスによって、標的DNAを夾雑物存在下でも簡易にかつ確実に捕捉し、分離し、増幅できることがわかった。これにより、本明細書に開示される、標的核酸に関する技術の有用性を確認できた。