(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023002059
(43)【公開日】2023-01-10
(54)【発明の名称】干し芋の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/10 20160101AFI20221227BHJP
【FI】
A23L19/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021103060
(22)【出願日】2021-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英樹
(72)【発明者】
【氏名】河村 和彦
【テーマコード(参考)】
4B016
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LC06
4B016LE03
4B016LG06
4B016LP05
4B016LP08
(57)【要約】
【課題】美味しい干し芋を製造できる干し芋の製造方法を提供する。
【解決手段】干し芋を製造する際、次のような加熱工程と温度保持工程と乾燥工程とが行われる。加熱工程では、芋を0.5~2.0時間、蒸すことによって加熱する。温度保持工程では、加熱工程後に上記芋を密閉状態のもとで6~48時間、50~85℃の温度に保持する。乾燥工程では、温度保持工程の後に上記芋を乾燥させる。この方法によれば、加熱工程で芋を0.5~2.0時間、蒸して加熱することにより、芋に含まれる澱粉が効果的に糊化して芋の甘みが増す。更に、温度保持工程で芋を密閉状態のもとで6~48時間、50~85℃の温度に保持することにより、芋に含まれる酵素が効果的に活性化し、その酵素の働きにより芋の成分に変化が生じて芋に酸味が加わる。以上により、美味しい干し芋を製造することができる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芋を0.5~2.0時間、蒸すことによって加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後に前記芋を密閉状態のもとで6~48時間、50~85℃の温度に保持する温度保持工程と、
前記温度保持工程の後に前記芋を乾燥させる乾燥工程と、
を行う干し芋の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程では、前記芋の温度を35~55℃に保持する揮発期間と、前記芋の温度を5~25℃に保持する寝かし期間と、を交互に繰り返す請求項1に記載の干し芋の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干し芋の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
干し芋を製造する際には、次のような加熱工程及び乾燥工程が行われる。すなわち、加熱工程では、低温貯蔵により糖化した芋(サツマイモ)を加熱することにより、その芋に含まれる澱粉を糊化(アルファー化)させる。乾燥工程では、加熱工程後の芋を乾燥させることにより、その芋に含まれる水分を減らす。特許文献1~4には、加熱工程での芋の加熱、及び、乾燥工程での芋の乾燥についての様々なやり方が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6519757号公報
【特許文献2】特許第6648203号公報
【特許文献3】特許第5810360号公報
【特許文献4】特許第3162669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~4に示されるように干し芋には様々な製造方法があり、製造方法の違いによって干し芋の味が変わる。このため、美味しい干し芋を製造する方法に関しては、更なる改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する干し芋の製造方法では、次のような加熱工程と温度保持工程と乾燥工程とが行われる。加熱工程では、芋を0.5~2.0時間、蒸すことによって加熱する。温度保持工程では、加熱工程後に上記芋を密閉状態のもとで6~48時間、50~85℃の温度に保持する。乾燥工程では、温度保持工程の後に上記芋を乾燥させる。
【0006】
この方法によれば、加熱工程で芋を0.5~2.0時間、蒸して加熱することにより、芋に含まれる澱粉が効果的に糊化して芋の甘みが増す。更に、温度保持工程で芋を密閉状態のもとで6~48時間、50~85℃の温度に保持することにより、芋に含まれる酵素が効果的に活性化し、その酵素の働きにより芋の成分に変化が生じて芋に酸味が加わる。以上により、美味しい干し芋を製造することができる。
【0007】
上記干し芋の製造方法において、乾燥工程は、芋の温度を35~55℃に保持する揮発期間と、芋の温度を5~25℃に保持する寝かし期間と、を交互に繰り返すものとすることが考えられる。
【0008】
この方法によれば、乾燥工程における揮発期間中に芋に含まれる水分が蒸発し、乾燥工程における寝かし期間中に芋の中心付近の水分が芋の外面に向けて移動する。このため、乾燥工程で揮発期間と寝かし期間とを繰り返すことにより、芋の水分を効果的に外に放出して芋を速やかに乾燥させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、干し芋の製造方法の一実施形態について、
図1~
図8を参照して説明する。
この実施形態の干し芋の製造方法では、次のような加熱工程、温度保持工程、及び乾燥工程が行われる。
【0011】
[加熱工程]
この工程では、芋(サツマイモ)を蒸し器で蒸すことによって加熱する。このときの芋の蒸し時間としては、例えば0.5~2.0時間とすることが考えられ、0.5~1.0とすることが好ましく、0.5時間とすることがより好ましい。
【0012】
[温度保持工程]
この工程では、加熱工程後の上記芋を、密閉状態のもとで、所定の保持時間の間、所定の保持温度に保つように温風に晒されるようにする。上記保持時間としては、例えば6~48時間とすることが考えられ、12~36時間とすることが好ましく、24時間とすることがより好ましい。上記保持温度としては、例えば50~85℃とすることが考えられ、65~80℃とすることが好ましく、75℃とすることがより好ましい。
【0013】
[乾燥工程]
この工程では、温度保持工程の終了後に芋を乾燥させる。こうした芋の乾燥は、皮をむいた芋を所定の形状にカットした状態で行われる。芋の皮むき及びカットは、温度保持工程の開始前または終了後に行うことが考えられる。上記芋の乾燥は、カットした状態の芋を、所定の温度まで上昇させて保持する揮発期間と、その揮発期間中の温度よりも低い温度に低下させて保持する寝かし期間と、を交互に繰り返すことによって行われる。
【0014】
上記揮発期間の長さは、例えば1.0時間とすることが考えられる。また、上記揮発期間中における芋の温度としては、例えば35~55℃とすることが考えられ、40~50℃とすることが好ましく、45℃とすることがより好ましい。上記寝かし期間の長さは、例えば3.0時間とすることが考えられる。また、上記寝かし期間中における芋の温度としては、例えば5~25℃とすることが考えられ、10~20℃とすることが好ましく、15℃とすることがより好ましい。
【0015】
次に、芋の加熱方法及び加熱時間による味の違いを検証するための実験Aについて述べる。
この実験Aでは、芋の加熱方法として茹で、蒸し、焼きをそれぞれ行う。そして、それぞれの加熱方法で75℃に加熱したときの芋の糖度、及び、75℃に加熱した状態で0.5時間、1.0時間、2.0時間経過したときの芋の糖度を、それぞれ3回ずつ測定する。また、それぞれの加熱方法で用いる芋が生のときの同芋の糖度も3回測定する。
【0016】
この実験Aの結果を
図1~
図6に示す。
図1及び
図2は芋の加熱方法として茹でを採用した場合の実験結果を示し、
図3及び
図4は芋の加熱方法として蒸しを採用した場合の実験結果を示し、
図5及び
図6は芋の加熱方法として焼きを採用した場合の実験結果を示している。
【0017】
実験Aの結果から分かるように、茹でによって芋を加熱した場合、蒸し及び焼きによって芋を加熱した場合と比較して、芋に含まれる糖度(平均値)が低くなる。これは、茹でによる芋の加熱の場合、芋に含まれる澱粉が加熱によって糊化した後、芋の茹で汁に糖分が溶け出して芋に含まれる糖分が減少するためと考えられる。また、焼きによる芋の加熱の場合、加熱時間によっては、蒸しによって芋を加熱した場合よりも、芋の糖度(平均値)が低下することがある。
【0018】
従って、干し芋を製造するための上記加熱工程では、茹で、蒸し、焼きといった加熱方法のうち、蒸しを採用することが好ましいということが分かる。また、加熱工程で芋を蒸すことによって加熱する時間としては、0.5~2.0時間を採用することが可能である。なお、干し芋の製造効率を向上させる観点では、上記加熱工程で芋を蒸すことによって加熱する時間を短くすることが好ましい。
【0019】
次に、芋の加熱後に温度保持期間を設けた場合と設けない場合とでの味の違いを検証するための実験Bについて述べる。
この実験Bでは、芋を0.5時間加熱した後、その芋を密閉状態のもとで温風に晒すことにより芋の温度を50~85℃となるように24時間保持し、24時間が経過した時点での芋の糖度を3回測定する。更に、このときの芋の糖度の比較対象として、芋を茹で、蒸し、焼きという加熱方法でそれぞれ1.0時間加熱し、1.0時間経過したときの芋の糖度を各加熱方法毎に3回測定する。また、生のときの芋の糖度も3回測定する。この実験Bの実験結果を
図7及び
図8に示す。
【0020】
実験Bの結果から分かるように、芋を0.5時間加熱した後、その芋を密閉状態のもとで温風に晒すことにより芋の温度を50~85℃となるように24時間保持した場合、芋を1.0時間蒸したり焼いたりしただけの場合とほぼ同等の糖度が得られる。
【0021】
芋を蒸した後に温度保持期間(実験Bでは24時間)を設けた場合と、そうした温度保持時間を設けずに芋を1.0時間蒸しただけの場合とで、出来た芋を食べ比べてみると、互いに異なる美味しさがあることが分かった。これは、温度保持期間中、芋に含まれる酵素が効果的に活性化し、その酵素の働きにより芋の成分に変化が生じて芋に酸味が加わるためと考えられる。
【0022】
従って、芋を蒸した後に所定の温度保持期間を設けることは、芋を蒸しただけの場合とは異なる美味しさを得るために有効であると言える。なお、実験Bでは上記温度保持期間を24時間としたが、ある程度の範囲で温度保持時間を増減させても、上述した芋の美味しさが得られるようになると考えられる。
【0023】
次に、本実施形態の干し芋の製造方法の作用効果について説明する。
(1)加熱工程で芋を0.5~2.0時間、蒸して加熱することにより、芋に含まれる澱粉が効果的に糊化して芋の甘みが増す。更に、温度保持工程で芋を密閉状態のもとで24時間、50~85℃の温度に保持することにより、芋に含まれる酵素が効果的に活性化し、その酵素の働きにより芋の成分に変化が生じて芋に酸味が加わる。以上により、美味しい干し芋を製造することができる。
【0024】
(2)乾燥工程では、芋の温度を35~55℃に保持する揮発期間と、芋の温度を5~25℃に保持する寝かし期間とが交互に繰り返される。その結果、乾燥工程における揮発期間中に芋に含まれる水分が蒸発し、乾燥工程における寝かし期間中に芋の中心付近の水分が芋の外面に向けて移動する。このため、上述したように乾燥工程で揮発期間と寝かし期間とを繰り返すことにより、芋の水分を効果的に外に放出して芋を速やかに乾燥させることができる。
【0025】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・乾燥工程での揮発期間を1.0時間としたが、この時間を適宜変更してもよい。
【0026】
・乾燥工程での寝かし期間を3.0時間としたが、この時間を適宜変更してもよい。
・乾燥工程を揮発時間と寝かし期間との繰り返しにより実現したが、それ以外の仕方で実現してもよい。例えば、温風を連続的に吹き付けることによって乾燥工程を行ったり、自然乾燥によって乾燥工程を行ったりしてもよい。