(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020621
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】滅菌装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/04 20060101AFI20230202BHJP
A47J 31/60 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
A61L2/04
A47J31/60 105
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126091
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】000157946
【氏名又は名称】岩井機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089026
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 高明
(72)【発明者】
【氏名】松本 充博
(72)【発明者】
【氏名】正 健次
(72)【発明者】
【氏名】粟田 亮一
【テーマコード(参考)】
4B104
4C058
【Fターム(参考)】
4B104AA02
4B104BA43
4B104EA10
4C058AA21
4C058BB03
4C058DD02
4C058DD13
(57)【要約】
【課題】各種ジュース等、製品液の粘性が比較的高い場合にあっても製品液水押し用の水の滅菌を良好に行い、滅菌ブレイクの発生を抑制する。
【解決手段】
原料液と水とが混合された規定濃度の製品液の滅菌又は殺菌処理を行う滅菌装置であって、製品液を加熱滅菌する熱交換器を備える。熱交換器は、製品液が流通する製品液流通管路と、製品液流通管路の径方向外方に、製品液流通管路を包囲して配置され、製品液とは異なる温度の熱媒液が流通する熱媒液流通管とを有し、製品液流通管路に水を供給して前記製品液を製品液流通管路から払拭する際の水の加熱温度を、前記製品液の製造時における設定加熱温度よりも高い温度に設定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液と水とが混合された規定濃度の製品液の滅菌又は殺菌処理を行う滅菌装置であって、
前記滅菌装置は、前記製品液を加熱滅菌する熱交換器を備え、
前記熱交換器は、
前記製品液が流通する製品液流通管路と、
前記製品液流通管路の径方向外方に、前記製品液流通管路を包囲して配置され、前記製品液とは異なる温度の熱媒液が流通する熱媒液流通管とを有し、
前記製品液流通管路に水を供給して前記製品液を前記製品液流通管路から払拭する際の前記水の加熱温度を、前記製品液の製造時における設定加熱温度よりも高い温度に設定することを特徴とする滅菌装置。
【請求項2】
前記滅菌装置は、
前記熱交換器の上流に設けられ、前記製品液を貯留するバランスタンクをさらに備え、
前記熱交換器は、
前記バランスタンクから送出された前記製品液を加熱する加熱部と、
前記加熱部の下流に設けられ、前記製品液を前記加熱部による加熱後の温度に維持するホールディングチューブ部とを有し、
前記加熱部の下流には、温度検知部が設けられ、
前記温度検知部により検知された前記製品液の温度に基づき、前記加熱部による前記水の加熱温度を制御することを特徴とする、請求項1に記載の滅菌装置。
【請求項3】
前記加熱部は、
前記バランスタンクから送出された前記製品液を加熱する第1加熱部と、
前記第1加熱部の下流側で、前記第1加熱部と前記ホールディングチューブ部との間に設けられた第2加熱部とを含み、
前記製品液流通管路に水を供給して前記製品液を前記製品液流通管路から払拭する際の前記第1加熱部による加熱温度を、前記製品液の製造時における設定加熱温度よりも高い温度に設定することを特徴とする、請求項1または2に記載の滅菌装置。
【請求項4】
前記製品液を水により払拭する際の加熱温度は、前記製品液の製造時における設定加熱温度を基準として設定されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の滅菌装置。
【請求項5】
前記製品液を払拭する際の加熱温度は、前記製品液の製造時における設定加熱温度よりも10℃以上高い温度に設定されることを特徴とする、請求項4に記載の滅菌装置。
【請求項6】
前記製品液を水により払拭する際の加熱温度は、前記製品液の粘度に応じて異なることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の滅菌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品液を熱処理により滅菌する滅菌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種ジュース、牛乳またはお茶等の液体製品の製造においては、製造の過程で雑菌または細菌が製造後の製品液に混入することのないように、製造ラインの途中で製品液に厳密な滅菌処理を施す。製品液の滅菌処理を行う装置として、製品液が流れる製品液管路と熱媒液が流れる熱媒液流通管路とを、熱伝導性を有する管壁により管径方向において互いに区画し、製品液管路を流れる製品液と熱媒液流通管路を流れる熱媒体との間で熱交換を生じさせて製品液の滅菌(この場合の滅菌は、特に「間接滅菌」と呼ばれる)を行うように構成されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一つの種類の製品液の製造を終え、異なる種類の製品液に切り替える場合、即ち、製品液管路を通じて製造する飲料を各種ジュースから乳飲料等に切り替える場合は、切替前の旧製品液の残滓と切替後の新製品液とが混合することのないように、製品液管路に旧製品液に代えて水を導入する。
これにより、製品液管路に残存する旧製品液を水により製品液管路から押し出すようにして払拭する。この操作は、「製品液水押し」と呼ばれ、「製品液水押し」は、製品液の品質を確保するうえで非常に重要な工程である。
「製品液水押し」は、製品液の切替時に管内洗浄を目的として行うほか、製造ラインに生じた不具合により製品液の滅菌又は殺菌処理を一時的に停止させる必要がある場合にも行う。例えば、充填機等、製造ラインの下流側に備わる設備の不具合によりアセプティックサージタンクが製品液で満杯になり、アセプティックサージタンクに対する製品液の供給を待機しなければならない場合や、製品液の調製が間に合わず、バランスタンクから製品液管路への製品液の導入を中断しなければならない場合である。
【0005】
ここで、「製品液水押し」に用いる水(以下「製品液水押し用の水」または単に「水」という)にも、滅菌処理前には雑菌または細菌が存在する可能性がある。従って、熱媒液流通管路を流れる熱媒体との熱交換により製品液水押し用の水に関しても滅菌又は殺菌を行う必要があるが、この水の温度が滅菌又は殺菌可能な温度に到達しなかったり、滅菌又は殺菌可能な温度に一度は到達したものの、その後低下してしまい、充分な時間に亘ってその温度を維持することができなかった場合には、製品液管路の内部が水に繁殖した雑菌または細菌により汚染される可能性がある。このような事態を「滅菌ブレイク」と称する。
滅菌ブレイクの事態が発生すると製品液管路に残存する製品液を全て廃棄することが必要となるうえ、製品液の滅菌又は殺菌処理を再開するには、製造ラインのうち、滅菌又は殺菌処理にかかる部分およびその下流側の部分全体を滅菌又は殺菌しなおすことが必要となるため、製品液の損失が大きく、生産効率の大幅な低下を招くと共に生産コストが嵩むこととなる。
【0006】
ここで、各種ジュース等、固形物を含む飲料や、ソース、ケチャップ等の調味料を含む流体食品を製造する場合や、牛乳または乳飲料を製造する場合等、製品液の粘性が水よりも高い場合は、製品液管路に残存する製品液の管壁内面に対する流体抵抗(圧力損失)が大きいことから、製品液水押しに際して製品液が製品液管路の管壁内面近傍に停滞する。
従って、製品液管路の管内洗浄のために水を導入すると、管内流路のうち、製品液の残滓が停滞している領域以外の空間、具体的には、管内の径方向中央付近の空間を水が流れ、その周囲に製品液が残存する状態となる。この状態は、「中抜け」と呼ばれる。中抜けの状態では、管内の径方向中央付近の空間を、管軸方向に沿って細長く伸びた紡錘状の流速分布をもって水が流れ、残存する製品液がこれを包囲することとなる。このような状態が製品液管路の管内で連続的に発生しながら、移動していくようにして製品液水押しが進行する。
【0007】
「中抜け」の事態が生じた場合は、管壁内面近傍に停滞する製品液、即ち、製品液の残滓が相応の厚みを有し、熱媒体と水との間の熱交換の障害となる。これにより、管内を流れる水の加熱が妨げられることにより、水が滅菌又は殺菌に必要な温度にまで加熱されず、滅菌ブレイクの発生が促される懸念がある。この場合においても、製造時における滅菌又は殺菌未達の場合と同様に、製造ラインを構成する機械自体の洗浄、滅菌からやりなおすことが必要となり、損失および生産効率の観点から不利がある。
【0008】
このような実情に鑑み、本発明は、各種ジュース、固形物を含む飲料、または牛乳、ソース、ケチャップ等の調味料を含む流体食品等、製品液の粘性が比較的高い場合にあっても製品液水押し用の水の滅菌を良好に行い、滅菌ブレイクの発生を抑制することのできる滅菌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、原料液と水とが混合された規定濃度の製品液の滅菌又は殺菌処理を行う滅菌装置であって、製品液を加熱滅菌する熱交換器を備える。熱交換器は、製品液が流通する製品液流通管路と、製品液流通管路の径方向外方に、製品液流通管路を包囲して配置され、前記製品液とは異なる温度の熱媒液が流通する熱媒液流通管とを有し、製品液流通管路に水を供給して前記製品液を製品液流通管路から払拭する際の水の加熱温度を、前記製品液の製造時における設定加熱温度よりも高い温度に設定することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の滅菌装置は、前記滅菌装置は、前記熱交換器の上流に設けられ、前記製品液を貯留するバランスタンクをさらに備え、前記熱交換器は、前記バランスタンクから送出された前記製品液を加熱する加熱部と、前記加熱部の下流に設けられ、前記製品液を前記加熱部による加熱後の温度に維持するホールディングチューブ部とを有し、前記加熱部の下流には、温度検知部が設けられ、前記温度検知部により検知された前記製品液の温度に基づき、前記加熱部による前記水の加熱温度を制御することを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の滅菌装置は、加熱部が、バランスタンクから送出された製品液を加熱する第1加熱部と、第1加熱部の下流側で、第1加熱部とホールディングチューブ部との間に設けられた第2加熱部とを含み、製品液流通管路に水を供給して前記製品液を製品液流通管路から払拭する際の第1加熱部による加熱温度を、前記製品液の製造時における設定加熱温度よりも高い温度に設定することを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の滅菌装置は、前記製品液を払拭する際の加熱温度が、前記製品液の製造時における設定加熱温度を基準として設定されることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の滅菌装置は、前記製品液を払拭する際の加熱温度が、前記製品液の製造時における設定加熱温度よりも10℃以上高い温度に設定されることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の滅菌装置は、前記製品液を払拭する際の加熱温度は、前記製品液の粘度に応じて異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、製品液流通管路に水を供給して前記製品液を製品液流通管路から払拭する際の水の加熱温度を、前記製品液の製造時における設定加熱温度よりも高い温度に設定することにより、製品液流通管路の管壁内面近傍に停滞する製品液(製品液の残滓)により熱媒液から水への熱の伝達が妨げられる事態を解消し、製品液水押し用の水の滅菌が適切に行われることから、製品液水押し用の水の滅菌が阻害されることによる滅菌ブレイクの発生を抑制することが可能となる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、バランスタンクを設けるとともに、熱交換器を構成する要素として、加熱部およびホールディングチューブ部を設け、加熱部の下流に設けられた温度検知部により検知された製品液の温度に基づき、水の加熱温度を制御することにより、熱交換器(即ち、加熱部)による実際の加熱状態に応じて水の加熱温度を過不足なく適切に制御し、製品液水押し用の水の滅菌処理を確実に行い、製品液水押し時における滅菌ブレイクの発生をより確実に抑制することが可能となる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、熱交換器の加熱部として第1加熱部および第2加熱部を設け、製品液流通管路に水を供給して前記製品液を製品液流通管路から払拭する際の第1加熱部による加熱温度を、前記製品液の製造時における設定加熱温度よりも高い温度に設定することにより、製品液流通管路に残存する製品液の粘性が顕著に現れやすい箇所での加熱温度を積極的に上昇させることができるため、いわゆる「中抜け」の状態が発生した場合であっても、製品液水押し時における滅菌ブレイクの発生を抑制することが可能となる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、製品液を払拭する際の加熱温度を、前記製品液の製造時における設定加熱温度を基準として設定することにより、適切な加熱温度を設定可能とし、製品液水押し時における滅菌ブレイクの発生を抑制することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、製品液を払拭する際の加熱温度を、前記製品液の製造時における設定加熱温度よりも10℃以上高い温度に設定することにより、製品液を払拭する際の水の温度低下を適切に反映させた加熱温度を設定可能とし、製品液水押し時における滅菌ブレイクの発生を抑制することができる。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、製品液を払拭する際の加熱温度を、前記製品液の粘度に応じて異なる温度に設定することにより、「中抜け」の発生状況を適切に反映させた加熱温度の設定が可能となり、製品液水押し時における滅菌ブレイクの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る滅菌装置が備わる液体製品製造装置の全体的な構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、同上実施形態に係る滅菌装置の構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、同上実施形態に係る滅菌装置の作動状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付の図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る滅菌装置130が備わる液体製品製造装置100の全体的な構成を示す概略図である。
【0024】
液体製品製造装置100は、各種ジュース、乳飲料、ソース、ケチャップ等の調味料を含む流体食品等の液体製品を製造するものであり、各種ジュース等の製品液の流れの方向に上流側から順に、原料液タンク110、ブレンダ120、滅菌装置130、アセプティックサージタンク133、および充填機140を備える。
図1は、滅菌装置130として分類される要素の範囲を、二点鎖線により模式的に示す。液体製品製造装置100は、さらに、滅菌装置130の動作を制御する制御システム200を備える。制御システム200の構成および動作については後述する。
【0025】
原料液タンク110は、製品液の原料となる液体(以下「原料液」と称する)を貯留する。
【0026】
ブレンダ120は、原料液タンク110から供給される原料液と水(液体製品用の水であり、製品液水押し用の水とは異なる)とを計量しながら混合して、規定濃度の混合液を調製し、この混合液を製品液として送出する。製品液濃度はブレンダ120内において均一化される。
【0027】
滅菌装置130は、製品液の流れの方向に上流側から順に、バランスタンク131、熱交換器132を備え、ブレンダ120から送出された製品液を熱処理により加熱滅菌する。
【0028】
バランスタンク131は、ブレンダ120から送出された製品液を貯留する。
【0029】
熱交換器132は、熱媒液を高温側流体とし、バランスタンク131から供給される製品液を低温側流体として作動する。そして、低温側管路である製品液流通管路を流れる製品液と、高温側管路である熱媒液流通管を流れる熱媒液との熱交換により、熱媒液が有する熱を製品液に移動させ、製品液を加熱し、その熱をもって製品液の滅菌処理を実施する。
【0030】
アセプティックサージタンク133は、熱交換器132による滅菌後の製品液を滅菌状態で貯留するように構成されている。
【0031】
充填機140は、アセプティックサージタンク133から製品液の供給を受け、製品液を缶またはボトル等の図示しない容器に充填する。
【0032】
熱交換器130の制御システム200は、温度検知部201、演算部202および温調部203を備える。
【0033】
温度検知部201は、熱交換器132の出口部における製品液の温度、即ち、熱交換器132に対してその下流側に接続された製品液流通管路を流れる製品液の温度を検知する。温度検知部201は温度センサにより形成され、本実施形態に係る「温度検知部」に相当する。
【0034】
演算部202は、温度検知部201により検知された製品液の温度を入力し、これをもとに熱交換器132の動作に関する所定の演算制御を実行する。演算部202は、演算の結果に応じた制御指令を生成し、次の温調部203に出力する。本実施形態において、演算部202は、温調部203に対する制御指令を電気的な信号として生成する。
【0035】
温調部203は、演算部202により出力された制御指令に応じて作動し、熱媒液との熱交換による製品液の加熱状態を調節する。例えば、製品液の温度が設定加熱温度よりも低い場合は、熱媒液の流量を増大させたり、熱媒液の温度を上昇させて、熱媒液から製品液に伝わる熱量を増大させ、製品液の更なる加熱を促進する。これに対し、製品液の温度が設定加熱温度よりも高い場合は、熱媒液の流量を減少させたり、熱媒液の温度を低下させ、熱媒液から製品液に伝わる熱量を減少させ、製品液の加熱を抑制する。
【0036】
図2は、本実施形態に係る滅菌装置130の構成を示す模式図である。
【0037】
本実施形態では、熱交換器132として、製品液の流れの方向に互いに前後して配置された2つの熱交換器、即ち、第1熱交換器132aおよび第2熱交換器132bを備えるとともに、ホールディングチューブ134および、2つの熱交換器132a、132bとは異なる3つの熱交換器135a~135cを備える。
【0038】
第1熱交換器132aおよび第2熱交換器132bは、いずれも製品液を熱媒液との熱交換により加熱するものであり、夫々本実施形態に係る「第1加熱器」、「第2加熱器」に相当する。
第1熱交換器132aおよび第2熱交換器132bは、内外二重管構造をなし、内方の製品液流通管路を製品液が流れ、その外方に製品液流通管路を包囲するように配置された熱媒液流通管を熱媒液が流れる。
第1および第2熱交換器132a、132bは、製品液を熱媒液との熱交換により加熱するものであるから、製品液よりも熱媒液の方が高温である。本実施形態では、常温(例えば、20℃)の製品液を、第1熱交換器132aを介して、例えば、80℃にまで加熱するとともに、第1熱交換器132aによる加熱後の製品液を、例えば、第2熱交換器132bを介して130℃にまで加熱する。
【0039】
ホールディングチューブ134は、第2熱交換器132bから送出された製品液を所定流量で所定時間に亘って滅菌に必要な温度に保持する。滅菌温度は、例えば、100℃以上の温度で、所定の滞留時間に亘って加熱滅菌される。本実施形態では、ホールディングチューブ134において、製品液を130℃で所定時間に亘って保持し、その間に製品液の滅菌を完遂する。ホールディングチューブ134は、本実施形態に係る「ホールディングチューブ部」に相当する。
【0040】
熱交換器135a~135cは、滅菌後の製品液を熱媒液との熱交換により最終的に常温以下の温度にまで冷却する。
熱交換器135a~135cは、第1および第2熱交換器132a、132bと同様に内外二重管構造をなし、内方の製品液流通管路を製品液が流れ、外方の熱媒液流通管を熱媒液が流れる。
ホールディングチューブ134から送出された滅菌後の製品液を高温側流体とし、熱冷媒液を低温側流体として作動することにより、製品液を常温に向けて段階的に冷却する。
【0041】
本実施形態では、バランスタンク131からアセプティックサージタンク133との間に3つのポンプ136a~136cを備え、これら3つのポンプ136a~136cはロータリーポンプにより構成されている。
【0042】
第1ポンプ136aは、バランスタンク131と第1熱交換器132aとの間に配置され、バランスタンク131から送出された製品液を第1熱交換器132aに圧送する。第1ポンプ136aの作動は、本実施の形態にあっては、第1熱交換器132aの下流に配置され、製品液管路内の圧力を検知してポンプの作動をフィードバック制御する製品液管路内圧力検知制御部(図示せず)により作動制御される。
本実施形態では、製品液を常圧における水の沸点(100℃)を超える温度にまで加熱することから、沸騰による製品液の気化を防止するための「沸騰抑制圧」及び、製品液管路内の製品液に熱媒液が混入することを排除するための「安全背圧」を確保できるように、各ポンプ136a、136b、136cの作動を制御して、製品液管路内を所定の加圧状態となるように調整する。
【0043】
第2ポンプ136bは、熱交換器132aと第2熱交換器132bとの間に配置され、第1熱交換器132aによる加熱後の製品液を第2熱交換器132bに圧送する。第2ポンプ136bの作動は、本実施の形態にあっては、第1ポンプ136aの下流側において第1熱交換器132aとの間に設けられた、製品液管路内の流量を検知してポンプの作動をフィードバック制御する流量検知制御部(図示せず)により作動制御される。
【0044】
第3ポンプ136cは、熱交換器135cと図示しないアセプティックサージタンク133との間に配置され、熱交換器135a~135cによる冷却後の製品液をアセプティックサージタンク133に圧送する。第3ポンプ136cの作動は、例えば、製品液が最も下流側の熱交換器135cを通過する際の熱交換器135c下流の製品液流通管路内の圧力を検知してポンプの作動をフィードバック制御する製品液管路内圧力検知制御部(図示せず)により作動制御される。
【0045】
本実施形態では、制御システム200を構成する要素として、第1および第2熱交換器132a、132bのそれぞれに対して温度検知部(第1温度検知部201a、第2温度検知部201b)、演算部(第1演算部202a、第2演算部202b)および温調部(第1温調部203a、第2温調部203b)が設けられる。
【0046】
第1温度検知部201aは、第1熱交換器132aの出口部における製品液の温度を検知する。第1演算部202aは、第1温度検知部201aにより検知された製品液の温度をもとに、第1熱交換器132aを通過する熱媒液の温度を制御する。本実施形態では、第1温調部203aは弁装置であって、第1演算部202aは、検知された製品液の温度を製品液の製造時における設定加熱温度に近づけるように、第1温調部203aの弁の開度を制御する。
【0047】
他方で、第2温度検知部201bは、第2熱交換器132bの出口部における製品液の温度を検知する。第2演算部202bは、第2温度検知部201bにより検知された製品液の温度をもとに、第2熱交換器132bを通過する熱媒液の温度を制御する。第2温調部203bも第1温調部203aと同様に弁装置であり、第2演算部202bは、検知された製品液の温度を製品液の製造時における設定加熱温度となるようにする。既に述べたところであるが、第2演算部202bに関して定められる製品液の設定加熱温度は、第1演算部202bに関して定められる製品液の設定加熱温度よりも高い。
【0048】
ここで、一つの種類の製品液(例えば、各種ジュース)の製造を終え、異なる種類の製品液(例えば、乳飲料)に切り替える場合は、旧製品液である各種ジュースの残滓と新製品液である乳飲料とが混合することのないように、製品液流通管路に水を供給し、管路内部に残存する旧製品液を水により押し出すようにして払拭する製品液水押し作業を行う。
製品液水押し作業は、製品液の切替時のほか、製造ラインに生じた不具合により製品液の滅菌処理を一時的に停止させる際に行う場合がある。例えば、充填機140の不具合によりアセプティックサージタンク133が製品液で満杯になった場合や、ブレンダ120による製品液の調製が間に合わず、バランスタンク131から熱交換器132への製品液の導入が中断される場合である。製品液流通管路に水を循環させることにより、アセプティックサージタンク133に対する製品液の供給を待機したり、熱交換器132への製品液の導入が再開されるのを待ったりする。
【0049】
ここで、製品液水押しに用いる水にも、滅菌処理前には雑菌または細菌が存在する可能性があることから、製品液水押し用の水についても滅菌を行う必要がある。そして、仮にこの水の温度が第2熱交換器132bを通過した後にあってもなお滅菌可能な温度に到達しなかったり、滅菌可能な温度に一度は到達したものの、その後低下して、充分な時間に亘ってその温度を維持することができなかったりすると、ホールディングチューブ134およびその下流側に続く製品液流通管路の内部が雑菌または細菌により汚染され、滅菌ブレイクの事態となる。
【0050】
ここで、各種の固形物を含むジュース、乳製品等の飲料を製造する場合等、製品液の粘性が水よりも高い場合は、製品液流通管路に残存する製品液の管壁内面に対する流体抵抗(即ち、圧力損失)が比較的大きく、製品液水押しに際して製品液が製品液流通管路の管壁内面近傍に停滞する。従って、製品液の切り替えに際して管内洗浄のために水を導入すると、管内流路のうち、製品液の残滓が停滞している領域以外の空間、具体的には、管内の径方向中央付近の空間を水が流れ、その周囲に製品液が残存する、いわゆる「中抜け」の状態となる。
【0051】
「中抜け」が生じた場合は、管壁内面近傍に停滞する製品液、即ち、製品液の残滓が熱媒液と製品液水押し用の水との間の熱交換の障害となり、これにより、管内を流れる水の加熱が妨げられることにより、水が滅菌に必要な温度にまで加熱されず、「滅菌ブレイク」の事態の発生が促される懸念がある。そして、滅菌ブレイクが生じると、製造時における滅菌未達の場合と同様に、製造ラインを構成する機械自体の洗浄滅菌からやりなおすことが必要となり、損失および生産効率の観点から不利がある。
【0052】
このような実情に鑑み、本実施形態では、各種固形物を含むジュース、乳製品等、製品液の粘性が比較的高い場合にあっても製品液水押し用の水の滅菌を良好に行うことを可能とし、滅菌ブレイクの発生を抑制する。
【0053】
具体的には、製品液水押しを行う際、特に旧製品液の滅菌又は殺菌処理を停止または中断し、製品液水押しを開始する際に、第1熱交換器132aによる水の加熱温度を、製品液(即ち、旧製品液)の製造時における設定加熱温度よりも高い温度に設定する。
【0054】
図3は、本実施形態に係る滅菌装置130の作動状態を示す説明図であり、横軸に時間を示し、縦軸に製品液流通管路内の温度を夫々示す。図中符号Tw1は、第1熱交換器132a下流の製品液流通管路内の温度を、Tw2は、第2熱交換器132b下流の製品液流通管路内の温度を夫々示し、図中符号dTは、第1熱交換器132a下流の製品液流通管路内の温度の、製品液の製造時に対する上昇幅を示す。
演算制御部202がフィードフォワード系の制御設計である場合は、上昇幅dTは、製造時における実際温度(温度検出部201により検知される温度)からの上昇幅となり、フィードバック系の制御設計である場合は、上昇幅dTは、製造時における目標温度からの上昇幅となる。
【0055】
製品液水押しを開始した後、製品液水押し用の水が製品液流通管路を流れ、第1熱交換器132aの出口部に到達し(時刻t1)、製品液流通管路の内部で先に述べた「中抜け」の状態が生じると、管内の管壁内面近傍に残存する製品液により、熱媒液流通管を流れる熱媒液から製品液流通管路を流れる製品液水押し用の水への熱の伝達が阻害され、温度Tw1が低下する事態が発生する。
これと同様の現象が、第2熱交換器132bの出口部でも生じるが(時刻t2)、温度Tw2の低下幅は、第1熱交換器132aの出口部における低下幅よりも小さい。これは、第2熱交換器132bの出口部では、管内に残存する製品液の温度が高く、製品液と水との粘性の差が現象として現れにくい傾向にあることによる。
【0056】
本実施形態では、第1熱交換器132aによる加熱温度を上昇させ、第1熱交換器132aの出口部における水の温度Tw1を強制的に上昇させる。具体的には、第1熱交換器132aに供給される熱媒液の温度Th1を上昇させる。
【0057】
水の温度Tw1を上昇させる方法は、これに限定されるものではなく、第1熱交換器132aに供給される熱媒液の流量を増大させることに従っても可能であるし流量と温度との双方を変化させることに従っても可能である。熱媒液の温度Th1は、水の温度Tw1の実際の低下幅または低下率に応じて適宜に調節することも可能であるが、本実施形態では、単に一定温度だけ上昇させることとする。
【0058】
本実施形態に係る滅菌装置130およびこれを備える液体製品製造装置100は、以上のように構成され、本実施形態により得られる効果について、以下に説明する。
【0059】
本実施形態では、製品液流通管路に製品液水押し用の水を供給して製品液を製品液流通管路から払拭する際の水の加熱温度を、製品液の製造時における設定加熱温度よりも高い温度に設定することにより、製品液流通管路の管壁内面近傍に停滞する製品液により熱媒液から水への熱の伝達が妨げられ、水の滅菌が阻害されることによる「滅菌ブレイク」の発生を抑制することが可能となる。
【0060】
バランスタンク131およびアセプティックサージタンク133を設けるとともに、熱交換器132を構成する要素として、第1熱交換器132a、第2熱交換器132bおよびホールディングチューブ134を設け、第1および第2熱交換器132a、132bの下流に設けられた温度検知部201a、201bにより検知された製品液の温度Tw1、Tw2に基づき、水の加熱温度を制御することにより、熱交換器132a、132b(即ち、加熱部)による実際の加熱状態に応じて水の加熱温度を過不足なく適切に制御し、製品液水押し用の水の滅菌処理を確実に行い、製品液水押し時における滅菌ブレイクの発生をより確実に抑制することが可能となる。
【0061】
熱交換器132の加熱部として第1熱交換器132aおよび第2熱交換器132bを設け、製品液流通管路に水を供給して製品液を製品液流通管路から払拭する際の第1熱交換器132aによる加熱温度を、製品液の製造時における設定加熱温度よりも高い温度に設定することにより、製品液流通管路に残存する製品液の粘性が顕著に現れやすい箇所での加熱温度を積極的に上昇させることができ、中抜けの状態を緩和し、製品液水押し時における「滅菌ブレイク」の発生を抑制することが可能となる。
【0062】
製品液水押しにより製品液を払拭する際の加熱温度を、製品液の製造時における設定加熱温度(例えば、
図3に示す製品液流通管路を流れる製品液の実際の温度Tw1)よりも10℃以上高い温度に設定することにより、製品液を払拭する際の水の温度低下を適切に反映させた加熱温度を設定可能とし、製品液水押し時における「滅菌ブレイク」の発生を抑制することができる。
【0063】
以上の説明では、製品液の製造後、製品液水押し用の水で製品液を払拭する際の加熱温度を、製品液流通管路内の温度Tw1、Tw2の変化に応じて調節したり、温度Tw1、Tw2の変化によらず一定に固定したりしたが、製品液(即ち、旧製品液)の製造時における設定加熱温度をもとに可変に設定することとしてもよい。具体的には、第1熱交換器132aの出口部における製造時の製品液温度Tw1に応じて設定することとし、製造時の製品液温度Tw1が低いときほど粘性の影響が顕著となり、中抜けの症状が重いと判断して、第1熱交換器132aによる加熱温度を大幅に上昇させるのである。
【0064】
このように、製品液を払拭する際の加熱温度を、製品液の製造時における設定加熱温度を基準として設定することにより、実際の中抜けの発生状況に応じた適切な加熱温度を設定可能とし、製品液水押し時における滅菌ブレイクの発生を抑制することができる。
【0065】
さらに、製品液を払拭する際の加熱温度を、製品液の製造時における設定加熱温度を基準として設定する場合に、加熱温度の上昇幅を10℃以上とすることにより、製品液を払拭する際の水の温度低下を適切に反映させて、熱媒液から製品液水押し用の水へ伝わる熱量を充分に確保可能とし、製品液水押し時における滅菌ブレイクの発生を抑制することができる。
【0066】
さらに、製品液(即ち、旧製品液)の粘性を予め把握しておき、製品液を払拭する際の加熱温度を、製品液ごとにその粘度に応じて異なる温度に設定することも可能である。
【0067】
このように、製品液を払拭する際の加熱温度を、製品液の粘度に応じて異なる温度に設定することにより、実際の中抜けの発生状況を適切に反映させた加熱温度を設定可能とし、製品液水押し時における滅菌ブレイクの発生を抑制することができる。
【0068】
上記実施の形態における滅菌装置の具体的構成に関しては上記実施の形態には限定されず、本発明の課題を解決できる構成であればよい。また、製品液を払拭する際の加熱温度に関しては、上記実施の形態においては10℃の場合を例に説明したが、製品液の粘性により温度条件を変更することが必要であり、上記温度条件には限定されない。
【符号の説明】
【0069】
100…液体製品製造装置
110…原料液タンク
120…ブレンダ
130…滅菌装置
131…バランスタンク
132…熱交換器
132a…第1熱交換器
132b…第2熱交換器
133…アセプティックサージタンク
134…ホールディングチューブ
135a~135c…熱交換器
136a…第1ポンプ
136b…第2ポンプ
136c…第3ポンプ
140…充填機
200…制御システム
201…温度検知部
201a…第1温度検知部
201b…第2温度検知部
202…演算部
202a…第1演算部
202b…第2演算部
203…温調部
203a…第1温調部
203b…第2温調部
【手続補正書】
【提出日】2022-11-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液と水とが混合された粘性が水よりも高い規定濃度の製品液の滅菌又は殺菌処理を行う滅菌装置であって、
前記滅菌装置は、前記製品液を加熱滅菌する熱交換器を備え、
前記熱交換器は、
前記製品液が流通する製品液流通管路と、
前記製品液流通管路の径方向外方に、前記製品液流通管路を包囲して配置され、前記製品液とは異なる温度の熱媒液が流通する熱媒液流通管とを有し、
前記製品液流通管路に水を供給して前記製品液を前記製品液流通管路から払拭する際の前記水の加熱温度を、前記製品液の製造時における設定加熱温度よりも高い温度に設定することを特徴とする滅菌装置。
【請求項2】
前記滅菌装置は、
前記熱交換器の上流に設けられ、前記製品液を貯留するバランスタンクをさらに備え、
前記熱交換器は、
前記バランスタンクから送出された前記製品液を加熱する加熱部と、
前記加熱部の下流に設けられ、前記製品液を前記加熱部による加熱後の温度に維持するホールディングチューブ部とを有し、
前記加熱部の下流には、温度検知部が設けられ、
前記温度検知部により検知された前記製品液の温度に基づき、前記加熱部による前記水の加熱温度を制御することを特徴とする、請求項1に記載の滅菌装置。
【請求項3】
前記加熱部は、
前記バランスタンクから送出された前記製品液を加熱する第1加熱部と、
前記第1加熱部の下流側で、前記第1加熱部と前記ホールディングチューブ部との間に設けられた第2加熱部とを含み、
前記製品液流通管路に水を供給して前記製品液を前記製品液流通管路から払拭する際の前記第1加熱部による加熱温度を、前記製品液の製造時における設定加熱温度よりも高い温度に設定することを特徴とする、請求項2に記載の滅菌装置。
【請求項4】
前記製品液を水により払拭する際の加熱温度は、前記製品液の製造時における設定加熱温度を基準として設定されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の滅菌装置。
【請求項5】
前記製品液を払拭する際の加熱温度は、前記製品液の製造時における設定加熱温度よりも10℃以上高い温度に設定されることを特徴とする、請求項4に記載の滅菌装置。
【請求項6】
前記製品液を水により払拭する際の加熱温度は、前記製品液の粘度に応じて異なることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の滅菌装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品液を熱処理により滅菌する滅菌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種ジュース、牛乳またはお茶等の液体製品の製造においては、製造の過程で雑菌または細菌が製造後の製品液に混入することのないように、製造ラインの途中で製品液に厳密な滅菌処理を施す。製品液の滅菌処理を行う装置として、製品液が流れる製品液管路と熱媒液が流れる熱媒液流通管路とを、熱伝導性を有する管壁により管径方向において互いに区画し、製品液管路を流れる製品液と熱媒液流通管路を流れる熱媒体との間で熱交換を生じさせて製品液の滅菌(この場合の滅菌は、特に「間接滅菌」と呼ばれる)を行うように構成されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一つの種類の製品液の製造を終え、異なる種類の製品液に切り替える場合、即ち、製品液管路を通じて製造する飲料を各種ジュースから乳飲料等に切り替える場合は、切替前の旧製品液の残滓と切替後の新製品液とが混合することのないように、製品液管路に旧製品液に代えて水を導入する。
これにより、製品液管路に残存する旧製品液を水により製品液管路から押し出すようにして払拭する。この操作は、「製品液水押し」と呼ばれ、「製品液水押し」は、製品液の品質を確保するうえで非常に重要な工程である。
「製品液水押し」は、製品液の切替時に管内洗浄を目的として行うほか、製造ラインに生じた不具合により製品液の滅菌又は殺菌処理を一時的に停止させる必要がある場合にも行う。例えば、充填機等、製造ラインの下流側に備わる設備の不具合によりアセプティックサージタンクが製品液で満杯になり、アセプティックサージタンクに対する製品液の供給を待機しなければならない場合や、製品液の調製が間に合わず、バランスタンクから製品液管路への製品液の導入を中断しなければならない場合である。
【0005】
ここで、「製品液水押し」に用いる水(以下「製品液水押し用の水」または単に「水」という)にも、滅菌処理前には雑菌または細菌が存在する可能性がある。従って、熱媒液流通管路を流れる熱媒体との熱交換により製品液水押し用の水に関しても滅菌又は殺菌を行う必要があるが、この水の温度が滅菌又は殺菌可能な温度に到達しなかったり、滅菌又は殺菌可能な温度に一度は到達したものの、その後低下してしまい、充分な時間に亘ってその温度を維持することができなかった場合には、製品液管路の内部が水に繁殖した雑菌または細菌により汚染される可能性がある。このような事態を「滅菌ブレイク」と称する。
滅菌ブレイクの事態が発生すると製品液管路に残存する製品液を全て廃棄することが必要となるうえ、製品液の滅菌又は殺菌処理を再開するには、製造ラインのうち、滅菌又は殺菌処理にかかる部分およびその下流側の部分全体を滅菌又は殺菌しなおすことが必要となるため、製品液の損失が大きく、生産効率の大幅な低下を招くと共に生産コストが嵩むこととなる。
【0006】
ここで、各種ジュース等、固形物を含む飲料や、ソース、ケチャップ等の調味料を含む流体食品を製造する場合や、牛乳または乳飲料を製造する場合等、製品液の粘性が水よりも高い場合は、製品液管路に残存する製品液の管壁内面に対する流体抵抗(圧力損失)が大きいことから、製品液水押しに際して製品液が製品液管路の管壁内面近傍に停滞する。
従って、製品液管路の管内洗浄のために水を導入すると、管内流路のうち、製品液の残滓が停滞している領域以外の空間、具体的には、管内の径方向中央付近の空間を水が流れ、その周囲に製品液が残存する状態となる。この状態は、「中抜け」と呼ばれる。中抜けの状態では、管内の径方向中央付近の空間を、管軸方向に沿って細長く伸びた紡錘状の流速分布をもって水が流れ、残存する製品液がこれを包囲することとなる。このような状態が製品液管路の管内で連続的に発生しながら、移動していくようにして製品液水押しが進行する。
【0007】
「中抜け」の事態が生じた場合は、管壁内面近傍に停滞する製品液、即ち、製品液の残滓が相応の厚みを有し、熱媒体と水との間の熱交換の障害となる。これにより、管内を流れる水の加熱が妨げられることにより、水が滅菌又は殺菌に必要な温度にまで加熱されず、滅菌ブレイクの発生が促される懸念がある。この場合においても、製造時における滅菌又は殺菌未達の場合と同様に、製造ラインを構成する機械自体の洗浄、滅菌からやりなおすことが必要となり、損失および生産効率の観点から不利がある。
【0008】
このような実情に鑑み、本発明は、各種ジュース、固形物を含む飲料、または牛乳、ソース、ケチャップ等の調味料を含む流体食品等、製品液の粘性が比較的高い場合にあっても製品液水押し用の水の滅菌を良好に行い、滅菌ブレイクの発生を抑制することのできる滅菌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、原料液と水とが混合された粘性が水よりも高い規定濃度の製品液の滅菌又は殺菌処理を行う滅菌装置であって、製品液を加熱滅菌する熱交換器を備える。熱交換器は、製品液が流通する製品液流通管路と、製品液流通管路の径方向外方に、製品液流通管路を包囲して配置され、前記製品液とは異なる温度の熱媒液が流通する熱媒液流通管とを有し、製品液流通管路に水を供給して前記製品液を製品液流通管路から払拭する際の水の加熱温度を、前記製品液の製造時における設定加熱温度よりも高い温度に設定することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の滅菌装置は、前記滅菌装置は、前記熱交換器の上流に設けられ、前記製品液を貯留するバランスタンクをさらに備え、前記熱交換器は、前記バランスタンクから送出された前記製品液を加熱する加熱部と、前記加熱部の下流に設けられ、前記製品液を前記加熱部による加熱後の温度に維持するホールディングチューブ部とを有し、前記加熱部の下流には、温度検知部が設けられ、前記温度検知部により検知された前記製品液の温度に基づき、前記加熱部による前記水の加熱温度を制御することを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の滅菌装置は、加熱部が、バランスタンクから送出された製品液を加熱する第1加熱部と、第1加熱部の下流側で、第1加熱部とホールディングチューブ部との間に設けられた第2加熱部とを含み、製品液流通管路に水を供給して前記製品液を製品液流通管路から払拭する際の第1加熱部による加熱温度を、前記製品液の製造時における設定加熱温度よりも高い温度に設定することを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の滅菌装置は、前記製品液を払拭する際の加熱温度が、前記製品液の製造時における設定加熱温度を基準として設定されることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の滅菌装置は、前記製品液を払拭する際の加熱温度が、前記製品液の製造時における設定加熱温度よりも10℃以上高い温度に設定されることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の滅菌装置は、前記製品液を払拭する際の加熱温度は、前記製品液の粘度に応じて異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、製品液流通管路に水を供給して粘性が水よりも高い規定濃度の前記製品液を製品液流通管路から払拭する際の水の加熱温度を、前記製品液の製造時における設定加熱温度よりも高い温度に設定することにより、製品液流通管路の管壁内面近傍に停滞する製品液(製品液の残滓)により熱媒液から水への熱の伝達が妨げられる事態を解消し、製品液水押し用の水の滅菌が適切に行われることから、製品液水押し用の水の滅菌が阻害されることによる滅菌ブレイクの発生を抑制することが可能となる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、バランスタンクを設けるとともに、熱交換器を構成する要素として、加熱部およびホールディングチューブ部を設け、加熱部の下流に設けられた温度検知部により検知された製品液の温度に基づき、水の加熱温度を制御することにより、熱交換器(即ち、加熱部)による実際の加熱状態に応じて水の加熱温度を過不足なく適切に制御し、製品液水押し用の水の滅菌処理を確実に行い、製品液水押し時における滅菌ブレイクの発生をより確実に抑制することが可能となる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、熱交換器の加熱部として第1加熱部および第2加熱部を設け、製品液流通管路に水を供給して前記製品液を製品液流通管路から払拭する際の第1加熱部による加熱温度を、前記製品液の製造時における設定加熱温度よりも高い温度に設定することにより、製品液流通管路に残存する製品液の粘性が顕著に現れやすい箇所での加熱温度を積極的に上昇させることができるため、いわゆる「中抜け」の状態が発生した場合であっても、製品液水押し時における滅菌ブレイクの発生を抑制することが可能となる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、製品液を払拭する際の加熱温度を、前記製品液の製造時における設定加熱温度を基準として設定することにより、適切な加熱温度を設定可能とし、製品液水押し時における滅菌ブレイクの発生を抑制することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、製品液を払拭する際の加熱温度を、前記製品液の製造時における設定加熱温度よりも10℃以上高い温度に設定することにより、製品液を払拭する際の水の温度低下を適切に反映させた加熱温度を設定可能とし、製品液水押し時における滅菌ブレイクの発生を抑制することができる。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、製品液を払拭する際の加熱温度を、前記製品液の粘度に応じて異なる温度に設定することにより、「中抜け」の発生状況を適切に反映させた加熱温度の設定が可能となり、製品液水押し時における滅菌ブレイクの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る滅菌装置が備わる液体製品製造装置の全体的な構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、同上実施形態に係る滅菌装置の構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、同上実施形態に係る滅菌装置の作動状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付の図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る滅菌装置130が備わる液体製品製造装置100の全体的な構成を示す概略図である。
【0024】
液体製品製造装置100は、各種ジュース、乳飲料、ソース、ケチャップ等の調味料を含む流体食品等の液体製品を製造するものであり、各種ジュース等の製品液の流れの方向に上流側から順に、原料液タンク110、ブレンダ120、滅菌装置130、アセプティックサージタンク133、および充填機140を備える。
図1は、滅菌装置130として分類される要素の範囲を、二点鎖線により模式的に示す。液体製品製造装置100は、さらに、滅菌装置130の動作を制御する制御システム200を備える。制御システム200の構成および動作については後述する。
【0025】
原料液タンク110は、製品液の原料となる液体(以下「原料液」と称する)を貯留する。
【0026】
ブレンダ120は、原料液タンク110から供給される原料液と水(液体製品用の水であり、製品液水押し用の水とは異なる)とを計量しながら混合して、規定濃度の混合液を調製し、この混合液を製品液として送出する。製品液濃度はブレンダ120内において均一化される。
【0027】
滅菌装置130は、製品液の流れの方向に上流側から順に、バランスタンク131、熱交換器132を備え、ブレンダ120から送出された製品液を熱処理により加熱滅菌する。
【0028】
バランスタンク131は、ブレンダ120から送出された製品液を貯留する。
【0029】
熱交換器132は、熱媒液を高温側流体とし、バランスタンク131から供給される製品液を低温側流体として作動する。そして、低温側管路である製品液流通管路を流れる製品液と、高温側管路である熱媒液流通管を流れる熱媒液との熱交換により、熱媒液が有する熱を製品液に移動させ、製品液を加熱し、その熱をもって製品液の滅菌処理を実施する。
【0030】
アセプティックサージタンク133は、熱交換器132による滅菌後の製品液を滅菌状態で貯留するように構成されている。
【0031】
充填機140は、アセプティックサージタンク133から製品液の供給を受け、製品液を缶またはボトル等の図示しない容器に充填する。
【0032】
熱交換器130の制御システム200は、温度検知部201、演算部202および温調部203を備える。
【0033】
温度検知部201は、熱交換器132の出口部における製品液の温度、即ち、熱交換器132に対してその下流側に接続された製品液流通管路を流れる製品液の温度を検知する。温度検知部201は温度センサにより形成され、本実施形態に係る「温度検知部」に相当する。
【0034】
演算部202は、温度検知部201により検知された製品液の温度を入力し、これをもとに熱交換器132の動作に関する所定の演算制御を実行する。演算部202は、演算の結果に応じた制御指令を生成し、次の温調部203に出力する。本実施形態において、演算部202は、温調部203に対する制御指令を電気的な信号として生成する。
【0035】
温調部203は、演算部202により出力された制御指令に応じて作動し、熱媒液との熱交換による製品液の加熱状態を調節する。例えば、製品液の温度が設定加熱温度よりも低い場合は、熱媒液の流量を増大させたり、熱媒液の温度を上昇させて、熱媒液から製品液に伝わる熱量を増大させ、製品液の更なる加熱を促進する。これに対し、製品液の温度が設定加熱温度よりも高い場合は、熱媒液の流量を減少させたり、熱媒液の温度を低下させ、熱媒液から製品液に伝わる熱量を減少させ、製品液の加熱を抑制する。
【0036】
図2は、本実施形態に係る滅菌装置130の構成を示す模式図である。
【0037】
本実施形態では、熱交換器132として、製品液の流れの方向に互いに前後して配置された2つの熱交換器、即ち、第1熱交換器132aおよび第2熱交換器132bを備えるとともに、ホールディングチューブ134および、2つの熱交換器132a、132bとは異なる3つの熱交換器135a~135cを備える。
【0038】
第1熱交換器132aおよび第2熱交換器132bは、いずれも製品液を熱媒液との熱交換により加熱するものであり、夫々本実施形態に係る「第1加熱器」、「第2加熱器」に相当する。
第1熱交換器132aおよび第2熱交換器132bは、内外二重管構造をなし、内方の製品液流通管路を製品液が流れ、その外方に製品液流通管路を包囲するように配置された熱媒液流通管を熱媒液が流れる。
第1および第2熱交換器132a、132bは、製品液を熱媒液との熱交換により加熱するものであるから、製品液よりも熱媒液の方が高温である。本実施形態では、常温(例えば、20℃)の製品液を、第1熱交換器132aを介して、例えば、80℃にまで加熱するとともに、第1熱交換器132aによる加熱後の製品液を、例えば、第2熱交換器132bを介して130℃にまで加熱する。
【0039】
ホールディングチューブ134は、第2熱交換器132bから送出された製品液を所定流量で所定時間に亘って滅菌に必要な温度に保持する。滅菌温度は、例えば、100℃以上の温度で、所定の滞留時間に亘って加熱滅菌される。本実施形態では、ホールディングチューブ134において、製品液を130℃で所定時間に亘って保持し、その間に製品液の滅菌を完遂する。ホールディングチューブ134は、本実施形態に係る「ホールディングチューブ部」に相当する。
【0040】
熱交換器135a~135cは、滅菌後の製品液を熱媒液との熱交換により最終的に常温以下の温度にまで冷却する。
熱交換器135a~135cは、第1および第2熱交換器132a、132bと同様に内外二重管構造をなし、内方の製品液流通管路を製品液が流れ、外方の熱媒液流通管を熱媒液が流れる。
ホールディングチューブ134から送出された滅菌後の製品液を高温側流体とし、熱冷媒液を低温側流体として作動することにより、製品液を常温に向けて段階的に冷却する。
【0041】
本実施形態では、バランスタンク131からアセプティックサージタンク133との間に3つのポンプ136a~136cを備え、これら3つのポンプ136a~136cはロータリーポンプにより構成されている。
【0042】
第1ポンプ136aは、バランスタンク131と第1熱交換器132aとの間に配置され、バランスタンク131から送出された製品液を第1熱交換器132aに圧送する。第1ポンプ136aの作動は、本実施の形態にあっては、第1熱交換器132aの下流に配置され、製品液管路内の圧力を検知してポンプの作動をフィードバック制御する製品液管路内圧力検知制御部(図示せず)により作動制御される。
本実施形態では、製品液を常圧における水の沸点(100℃)を超える温度にまで加熱することから、沸騰による製品液の気化を防止するための「沸騰抑制圧」及び、製品液管路内の製品液に熱媒液が混入することを排除するための「安全背圧」を確保できるように、各ポンプ136a、136b、136cの作動を制御して、製品液管路内を所定の加圧状態となるように調整する。
【0043】
第2ポンプ136bは、熱交換器132aと第2熱交換器132bとの間に配置され、第1熱交換器132aによる加熱後の製品液を第2熱交換器132bに圧送する。第2ポンプ136bの作動は、本実施の形態にあっては、第1ポンプ136aの下流側において第1熱交換器132aとの間に設けられた、製品液管路内の流量を検知してポンプの作動をフィードバック制御する流量検知制御部(図示せず)により作動制御される。
【0044】
第3ポンプ136cは、熱交換器135cと図示しないアセプティックサージタンク133との間に配置され、熱交換器135a~135cによる冷却後の製品液をアセプティックサージタンク133に圧送する。第3ポンプ136cの作動は、例えば、製品液が最も下流側の熱交換器135cを通過する際の熱交換器135c下流の製品液流通管路内の圧力を検知してポンプの作動をフィードバック制御する製品液管路内圧力検知制御部(図示せず)により作動制御される。
【0045】
本実施形態では、制御システム200を構成する要素として、第1および第2熱交換器132a、132bのそれぞれに対して温度検知部(第1温度検知部201a、第2温度検知部201b)、演算部(第1演算部202a、第2演算部202b)および温調部(第1温調部203a、第2温調部203b)が設けられる。
【0046】
第1温度検知部201aは、第1熱交換器132aの出口部における製品液の温度を検知する。第1演算部202aは、第1温度検知部201aにより検知された製品液の温度をもとに、第1熱交換器132aを通過する熱媒液の温度を制御する。本実施形態では、第1温調部203aは弁装置であって、第1演算部202aは、検知された製品液の温度を製品液の製造時における設定加熱温度に近づけるように、第1温調部203aの弁の開度を制御する。
【0047】
他方で、第2温度検知部201bは、第2熱交換器132bの出口部における製品液の温度を検知する。第2演算部202bは、第2温度検知部201bにより検知された製品液の温度をもとに、第2熱交換器132bを通過する熱媒液の温度を制御する。第2温調部203bも第1温調部203aと同様に弁装置であり、第2演算部202bは、検知された製品液の温度を製品液の製造時における設定加熱温度となるようにする。既に述べたところであるが、第2演算部202bに関して定められる製品液の設定加熱温度は、第1演算部202bに関して定められる製品液の設定加熱温度よりも高い。
【0048】
ここで、一つの種類の製品液(例えば、各種ジュース)の製造を終え、異なる種類の製品液(例えば、乳飲料)に切り替える場合は、旧製品液である各種ジュースの残滓と新製品液である乳飲料とが混合することのないように、製品液流通管路に水を供給し、管路内部に残存する旧製品液を水により押し出すようにして払拭する製品液水押し作業を行う。
製品液水押し作業は、製品液の切替時のほか、製造ラインに生じた不具合により製品液の滅菌処理を一時的に停止させる際に行う場合がある。例えば、充填機140の不具合によりアセプティックサージタンク133が製品液で満杯になった場合や、ブレンダ120による製品液の調製が間に合わず、バランスタンク131から熱交換器132への製品液の導入が中断される場合である。製品液流通管路に水を循環させることにより、アセプティックサージタンク133に対する製品液の供給を待機したり、熱交換器132への製品液の導入が再開されるのを待ったりする。
【0049】
ここで、製品液水押しに用いる水にも、滅菌処理前には雑菌または細菌が存在する可能性があることから、製品液水押し用の水についても滅菌を行う必要がある。そして、仮にこの水の温度が第2熱交換器132bを通過した後にあってもなお滅菌可能な温度に到達しなかったり、滅菌可能な温度に一度は到達したものの、その後低下して、充分な時間に亘ってその温度を維持することができなかったりすると、ホールディングチューブ134およびその下流側に続く製品液流通管路の内部が雑菌または細菌により汚染され、滅菌ブレイクの事態となる。
【0050】
ここで、各種の固形物を含むジュース、乳製品等の飲料を製造する場合等、製品液の粘性が水よりも高い場合は、製品液流通管路に残存する製品液の管壁内面に対する流体抵抗(即ち、圧力損失)が比較的大きく、製品液水押しに際して製品液が製品液流通管路の管壁内面近傍に停滞する。従って、製品液の切り替えに際して管内洗浄のために水を導入すると、管内流路のうち、製品液の残滓が停滞している領域以外の空間、具体的には、管内の径方向中央付近の空間を水が流れ、その周囲に製品液が残存する、いわゆる「中抜け」の状態となる。
【0051】
「中抜け」が生じた場合は、管壁内面近傍に停滞する製品液、即ち、製品液の残滓が熱媒液と製品液水押し用の水との間の熱交換の障害となり、これにより、管内を流れる水の加熱が妨げられることにより、水が滅菌に必要な温度にまで加熱されず、「滅菌ブレイク」の事態の発生が促される懸念がある。そして、滅菌ブレイクが生じると、製造時における滅菌未達の場合と同様に、製造ラインを構成する機械自体の洗浄滅菌からやりなおすことが必要となり、損失および生産効率の観点から不利がある。
【0052】
このような実情に鑑み、本実施形態では、各種固形物を含むジュース、乳製品等、製品液の粘性が比較的高い場合にあっても製品液水押し用の水の滅菌を良好に行うことを可能とし、滅菌ブレイクの発生を抑制する。
【0053】
具体的には、製品液水押しを行う際、特に旧製品液の滅菌又は殺菌処理を停止または中断し、製品液水押しを開始する際に、第1熱交換器132aによる水の加熱温度を、製品液(即ち、旧製品液)の製造時における設定加熱温度よりも高い温度に設定する。
【0054】
図3は、本実施形態に係る滅菌装置130の作動状態を示す説明図であり、横軸に時間を示し、縦軸に製品液流通管路内の温度を夫々示す。図中符号Tw1は、第1熱交換器132a下流の製品液流通管路内の温度を、Tw2は、第2熱交換器132b下流の製品液流通管路内の温度を夫々示し、図中符号dTは、第1熱交換器132a下流の製品液流通管路内の温度の、製品液の製造時に対する上昇幅を示す。
演算制御部202がフィードフォワード系の制御設計である場合は、上昇幅dTは、製造時における実際温度(温度検出部201により検知される温度)からの上昇幅となり、フィードバック系の制御設計である場合は、上昇幅dTは、製造時における目標温度からの上昇幅となる。
【0055】
製品液水押しを開始した後、製品液水押し用の水が製品液流通管路を流れ、第1熱交換器132aの出口部に到達し(時刻t1)、製品液流通管路の内部で先に述べた「中抜け」の状態が生じると、管内の管壁内面近傍に残存する製品液により、熱媒液流通管を流れる熱媒液から製品液流通管路を流れる製品液水押し用の水への熱の伝達が阻害され、温度Tw1が低下する事態が発生する。
これと同様の現象が、第2熱交換器132bの出口部でも生じるが(時刻t2)、温度Tw2の低下幅は、第1熱交換器132aの出口部における低下幅よりも小さい。これは、第2熱交換器132bの出口部では、管内に残存する製品液の温度が高く、製品液と水との粘性の差が現象として現れにくい傾向にあることによる。
【0056】
本実施形態では、第1熱交換器132aによる加熱温度を上昇させ、第1熱交換器132aの出口部における水の温度Tw1を強制的に上昇させる。具体的には、第1熱交換器132aに供給される熱媒液の温度Th1を上昇させる。
【0057】
水の温度Tw1を上昇させる方法は、これに限定されるものではなく、第1熱交換器132aに供給される熱媒液の流量を増大させることに従っても可能であるし流量と温度との双方を変化させることに従っても可能である。熱媒液の温度Th1は、水の温度Tw1の実際の低下幅または低下率に応じて適宜に調節することも可能であるが、本実施形態では、単に一定温度だけ上昇させることとする。
【0058】
本実施形態に係る滅菌装置130およびこれを備える液体製品製造装置100は、以上のように構成され、本実施形態により得られる効果について、以下に説明する。
【0059】
本実施形態では、製品液流通管路に製品液水押し用の水を供給して製品液を製品液流通管路から払拭する際の水の加熱温度を、製品液の製造時における設定加熱温度よりも高い温度に設定することにより、製品液流通管路の管壁内面近傍に停滞する製品液により熱媒液から水への熱の伝達が妨げられ、水の滅菌が阻害されることによる「滅菌ブレイク」の発生を抑制することが可能となる。
【0060】
バランスタンク131およびアセプティックサージタンク133を設けるとともに、熱交換器132を構成する要素として、第1熱交換器132a、第2熱交換器132bおよびホールディングチューブ134を設け、第1および第2熱交換器132a、132bの下流に設けられた温度検知部201a、201bにより検知された製品液の温度Tw1、Tw2に基づき、水の加熱温度を制御することにより、熱交換器132a、132b(即ち、加熱部)による実際の加熱状態に応じて水の加熱温度を過不足なく適切に制御し、製品液水押し用の水の滅菌処理を確実に行い、製品液水押し時における滅菌ブレイクの発生をより確実に抑制することが可能となる。
【0061】
熱交換器132の加熱部として第1熱交換器132aおよび第2熱交換器132bを設け、製品液流通管路に水を供給して製品液を製品液流通管路から払拭する際の第1熱交換器132aによる加熱温度を、製品液の製造時における設定加熱温度よりも高い温度に設定することにより、製品液流通管路に残存する製品液の粘性が顕著に現れやすい箇所での加熱温度を積極的に上昇させることができ、中抜けの状態を緩和し、製品液水押し時における「滅菌ブレイク」の発生を抑制することが可能となる。
【0062】
製品液水押しにより製品液を払拭する際の加熱温度を、製品液の製造時における設定加熱温度(例えば、
図3に示す製品液流通管路を流れる製品液の実際の温度Tw1)よりも10℃以上高い温度に設定することにより、製品液を払拭する際の水の温度低下を適切に反映させた加熱温度を設定可能とし、製品液水押し時における「滅菌ブレイク」の発生を抑制することができる。
【0063】
以上の説明では、製品液の製造後、製品液水押し用の水で製品液を払拭する際の加熱温度を、製品液流通管路内の温度Tw1、Tw2の変化に応じて調節したり、温度Tw1、Tw2の変化によらず一定に固定したりしたが、製品液(即ち、旧製品液)の製造時における設定加熱温度をもとに可変に設定することとしてもよい。具体的には、第1熱交換器132aの出口部における製造時の製品液温度Tw1に応じて設定することとし、製造時の製品液温度Tw1が低いときほど粘性の影響が顕著となり、中抜けの症状が重いと判断して、第1熱交換器132aによる加熱温度を大幅に上昇させるのである。
【0064】
このように、製品液を払拭する際の加熱温度を、製品液の製造時における設定加熱温度を基準として設定することにより、実際の中抜けの発生状況に応じた適切な加熱温度を設定可能とし、製品液水押し時における滅菌ブレイクの発生を抑制することができる。
【0065】
さらに、製品液を払拭する際の加熱温度を、製品液の製造時における設定加熱温度を基準として設定する場合に、加熱温度の上昇幅を10℃以上とすることにより、製品液を払拭する際の水の温度低下を適切に反映させて、熱媒液から製品液水押し用の水へ伝わる熱量を充分に確保可能とし、製品液水押し時における滅菌ブレイクの発生を抑制することができる。
【0066】
さらに、製品液(即ち、旧製品液)の粘性を予め把握しておき、製品液を払拭する際の加熱温度を、製品液ごとにその粘度に応じて異なる温度に設定することも可能である。
【0067】
このように、製品液を払拭する際の加熱温度を、製品液の粘度に応じて異なる温度に設定することにより、実際の中抜けの発生状況を適切に反映させた加熱温度を設定可能とし、製品液水押し時における滅菌ブレイクの発生を抑制することができる。
【0068】
上記実施の形態における滅菌装置の具体的構成に関しては上記実施の形態には限定されず、本発明の課題を解決できる構成であればよい。また、製品液を払拭する際の加熱温度に関しては、上記実施の形態においては10℃の場合を例に説明したが、製品液の粘性により温度条件を変更することが必要であり、上記温度条件には限定されない。
【符号の説明】
【0069】
100…液体製品製造装置
110…原料液タンク
120…ブレンダ
130…滅菌装置
131…バランスタンク
132…熱交換器
132a…第1熱交換器
132b…第2熱交換器
133…アセプティックサージタンク
134…ホールディングチューブ
135a~135c…熱交換器
136a…第1ポンプ
136b…第2ポンプ
136c…第3ポンプ
140…充填機
200…制御システム
201…温度検知部
201a…第1温度検知部
201b…第2温度検知部
202…演算部
202a…第1演算部
202b…第2演算部
203…温調部
203a…第1温調部
203b…第2温調部