(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020632
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】ノック式筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 24/08 20060101AFI20230202BHJP
【FI】
B43K24/08 110
B43K24/08 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126110
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】石川 淳
【テーマコード(参考)】
2C353
【Fターム(参考)】
2C353HA01
2C353HA09
2C353HC04
2C353HG04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ノック操作時におけるノック音を低減することが可能なノック式筆記具の提供。
【解決手段】軸筒内に、カム部材3と、回転カム4と、筆記体と、該筆記体を後方に付勢する弾発体と、を備え、回転カム4は、前端が筆記体の後端部に連接するとともに、カム溝23に沿って前後に移動可能に構成され、カム溝23が、前後方向に延びるカム壁26と、カム壁26に連設されカム突起41が摺接する第一カム傾斜面27と、第一カム傾斜面27に連設されカム突起41が当接する当接部24aを有する係止部24と、当接部24aに連設されカム突起41が摺接する第二カム傾斜面28と、を備え、カム部材3の噛合部32は、前端に形成された頂部32aと、後端に形成された底部32dと、を有し、カム溝23の溝幅をMとし、カム突起41の周方向の突起幅をSとしたとき、0.4M<S<0.8Mの関係式を満たす。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒内に、前後方向に延びる複数のカム溝と、前記カム溝に沿って前後に摺動可能な摺動突起を有するカム部材と、前記カム部材の前端に形成され軸心方向に対する傾斜面で構成された凹凸状の噛合部と、後端に前記カム部材の噛合部に噛み合う被噛合部が設けられ前記カム溝に係合するカム突起を周側部に有する回転カムと、前記カム部材を押圧するためのノック体と、前部に筆記先端部を備えた筆記体と、前記筆記体を後方に付勢する弾発体と、を備え、
前記回転カムは、前端が前記筆記体の後端部に連接するとともに、前記カム溝に沿って前後に移動可能に構成され、
前記ノック体をノック操作することにより、前記弾発体により後方へ付勢された前記筆記体の筆記先端部を、前記軸筒の前端開口部より出没させる構造のノック式筆記具であって、
前記カム溝が、前後方向に延びるカム壁と、該カム壁の前端に連設され前記カム突起が摺接する第一カム傾斜面と、前記第一カム傾斜面の側端に連設され前記カム突起が当接する当接部を有する係止部と、前記当接部の前端に連設され前記カム突起が摺接する第二カム傾斜面と、を備え、
前記カム部材の噛合部は、前端に形成された頂部と、後端に形成された底部と、を有し、
前記カム溝の溝幅をMとし、前記カム突起の周方向の突起幅をSとしたとき、0.4M<S<0.8Mの関係式を満たすことを特徴とするノック式筆記具。
【請求項2】
前記頂部の周方向における位置と前記摺動突起の周方向における中心位置との軸方向におけるズレ幅をWとし、隣り合う前記カム溝同士のピッチ間隔をPとしたとき、W<(P-M)/4の関係式を満たすことを特徴とする請求項1に記載のノック式筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カム溝と、カム部材と、回転カムおよびノック体とで構成されたノック式繰出機構を有したノック式筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、軸筒内に設けられたカム溝と、カム溝に係合する突起を周側部に有し、凹凸部を先端に有し、カム溝に沿って前後に移動可能に設けた固定カム(カム部材)と、カム溝に係合するカム突起を周側部に有し、固定カムの凹凸部に噛合う噛合部を有し、前端で筆記体の後端部に直接的または間接的に連接し、後端で固定カムに連接しカム溝に沿って前後に移動可能に設けた回転カムと、固定カムを押圧するためのノック体で構成されたノック機構を備え、ノック体をノック操作することにより、軸筒内に配したコイルスプリングにより後方へ付勢された筆記体の筆記先端部を軸筒の前端開口部より出没させる構造のノック式筆記具は知られている。
こうしたノック式筆記具においては、ノック体を押圧すると、ノック体に押圧された固定カムは、固定カムに設けた突起がカム溝に係合しているので回転することなく前進し、固定カムにより押圧された前記回転カムも、回転カムに設けたカム突起がカム溝に係合しているので、回転することなく前進する。この際、回転カムに当接した筆記体も連動して前進し、筆記先端部が軸筒の前端開口部から突出される。回転カムに設けたカム突起がカム溝の先端に来ると、回転カムが回転してカム突起がカム溝の係止部に係止し、回転カムの後退は抑制されるので、ノック体の押圧をやめても筆記先端部は軸筒の前端開口部から突出した状態を維持する。
筆記先端部を軸筒内に没入させるには、再度ノック体を押圧して回転カムを前進させることにより、回転カムは回転してカム溝の係止部との係止を解除する。それにより、回転カムおよび固定カムはバネにより後端側へ付勢された筆記体を介して後方へ押圧されるので後退し、筆記体も後退して筆記先端部は軸筒内に没入する。
【0003】
しかし、こうしたノック式筆記具においては、筆記体の筆記先端部を軸筒の前端開口部から突出させるためのノック操作時や、筆記体の筆記先端部を軸筒内に没入させるためのノック操作時において、カム溝とカム突起とが衝突することによる衝撃音が発生していた。
ここで衝撃音の発生する機構について、
図14及び
図15を用いて簡単に説明する。
図14は、従来のノック式筆記具のペン先部突出動作時におけるカム溝と固定カムと回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図であり、
図14(a)から
図14(f)に各動作段階におけるカム溝と固定カムと回転カムとの位置関係を順に示した図であり、
図15は、従来のノック式筆記具のペン先部没入動作時におけるカム溝と固定カムと回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図であり、
図15(a)から
図15(g)に各動作段階におけるカム溝と固定カムと回転カムとの位置関係を順に示した図である。
図14及び
図15においては、上方(ノック体側)を後方と表現し、下方(ペン先部側)を前方と表現する。
【0004】
図14(a)は、従来のノック式筆記具において、ペン先部が軸筒内に没入された収納状態における、カム溝23と固定カム203と回転カム4との位置関係を示しており、固定カム203の摺動突起231が、カム溝23の第一カム壁26aと第二カム壁26bとの隙間となる深いカム溝23aの後方に位置した状態である。
この状態からノック体(図示せず)を前方に押圧すると、ノック体と一体になった固定カム203は深いカム溝23aに係合した摺動突起231に導かれて回転することなく前進し、固定カム203に連接した回転カム4は深いカム溝23aに係合したカム突起41に導かれて同じように回転することなく前進する。
回転カム4のカム突起41が深いカム溝23aの先端に達して該深いカム溝23aから離脱すると(
図14(b))、固定カム203の前端の噛合部232の頂部232aは、カム突起41の前端に形成された傾斜面43の中間部に位置しており、回転カム4が軸筒内に配したコイルスプリング(図示せず)により後方へ付勢されたレフィル(図示せず)の後端部と当接していることから、当該回転カム4は後方へ後退しようとして、固定カム203の噛合部232の第一斜面232bに沿って滑り、
図14における左側へ回転し、カム突起41の傾斜面43の後端頂部44が噛合部232の第一斜面232bの底部232cに当接して一度目の衝突音が発生する(
図14(c))。この際、
図14(b)における長さL1分カム突起41が後方へ移動することで衝突音が発生する。
ここで、ノック体の前進を解除すると、コイルスプリングにより後方へ付勢された回転カム4に押されて固定カム203が後退し、回転カム4の傾斜面43が第一カム傾斜面27に当接する(
図14(d))。そして、回転カム4のカム突起41は、
図14において左上がりの第一カム傾斜面27の表面を摺動し、同時に、
図14において左下がり固定カム203の第二斜面232cをカム突起4が後方へ押圧しながら表面を摺動するため、固定カム203及び回転カム4をゆっくり後方へ移動させ、カム突起41の後端頂部44と固定カム203の頂部232aが当接する位置まで後退する(
図14(e))。そして、固定カム203の頂部232aが第一カム傾斜面27より後方へ移動すると、頂部232aが第一カム斜面27を滑り、第一カム斜面27と該第一カム斜面27に連設され軸心に沿った方向に形成された当接部24aとで構成された係止部24に係止され筆記状態となる(
図14(f))。この際、カム突起41は前記コイルスプリング(図示せず)の弾発力にて第一カム傾斜面27を摺動した後に当接部24aに衝接し、2度目の衝突が発生する。そして、
図14(e)の長さL2分カム突起が移動することで2度目の衝突音が発生する。
【0005】
次に、
図8(a)は、従来のノック式筆記具において、ペン先部が突出した筆記状態における、カム溝23と固定カム203と回転カム4との位置関係を示しており、回転カム4のカム突起41が固定カム203の係止部24に係合した状態である。
この状態からノック体(図示せず)を前方に押圧すると、ノック体と一体になった固定カム203はカム溝23に係合した摺動突起231に導かれて回転することなく前進し、固定カム203に連接した回転カム4は係止部24の当接部24aに係合したカム突起41に導かれて同じように回転することなく前進する。
カム突起41が当接部24aの先端に達して係止部26から離脱すると(
図15(b))、固定カム203の前端の噛合部232の頂部232aは、カム突起41の前端に形成された傾斜面43の中間部に位置しており、回転カム203が軸筒内に配したコイルスプリング(図示せず)により後方へ付勢されたレフィル(図示せず)の後端部と当接していることから、当該回転カム203は後方へ後退しようとして、固定カム203の凹凸部の第一斜面232bに沿って
図15における左側へ回転し、カム突起41の傾斜面43の後端頂部44が噛合部232の第一斜面232bの底部232dに当接してペン先部没入時における1度目の衝突音が発生する(
図15(c))。この際、ペン先部突出動作時と同様に、
図15(b)の長さL’1分カム突起41が移動することで1回目の衝突音が発生する。
ここで、ノック体の前進を解除すると、コイルスプリングにより後方へ付勢された回転カム4に押されて固定カム203が後退し、回転カム4の傾斜面43が第二カム傾斜面28に当接する(
図15(d))。そして、回転カム4のカム突起41は、
図15において左上がりの第二カム傾斜面28の表面を摺動し、同時に、
図15において左下がり固定カム203の第二斜面232cをカム突起41が後方へ押圧しながら表面を摺動するため、固定カム203及び回転カム4をゆっくり後方へ移動させ、カム突起41の後端頂部44と固定カム203の頂部232aが当接する位置まで後退する(
図15(e))。そして、固定カム203の頂部232aが後方へ移動すると、前記コイルスプリング(図示せず)の弾発力にて後方に付勢されたカム突起41が第二カム傾斜面28を滑り、カム突起41がカム溝23の第二カム壁26bに衝接し、2度目の衝突が発生する(
図15(f))。この際、
図15(e)の長さL’2分カム突起が移動することでペン先没入動作時における2度目の衝突音が発生する。その後、回転カム4のカム突起41は深いカム溝23aに係合したまま後方に後退する(
図15(g))。
【0006】
前記ノック式筆記具のペン先部突出動作時及びペン先部没入動作時にそれぞれ発生する2回の衝突音は、ノック音とも呼ばれ、使用者自身にとって筆記体の出没状態を確認する意味もあり、必ずしも不快なものではないが、例えば会議中等の僅かな音でも響く環境下においては、そのノック音が気になる場合がある。また、高価格な筆記具に至っては、大きいノック音は高級感を損ねるという問題がある。
【0007】
そこで、ノック音を低減するために、筆記体を後方へ付勢するバネの弾発力を低減することで、カム溝の当接面に回転カムのカム突起とが衝突する勢いを和らげることも考えられるが、そうすると、使用者がノック式筆記具をポケットに挿着した状態でノック体に触れただけで、筆記体の筆記先端部が軸筒の前端開口部から突出してしまい、筆記先端部がポケットなどの布地に接触して衣類などをインキで汚してしまうおそれがある。
【0008】
なお、特許文献1(特開2009-255426号)では、回転カムと筆記体の後端部との間に回転抑制部材を介在させて、ノック操作時の回転カムの回転の際の回転力や回転スピードを弱めたことを特徴としたノック式筆記具が開示されている。
【0009】
また、特許文献2(特開2009-255427号公報)では、回転カムと筆記体との間に、少なくとも一部が軸筒の内壁面に当接するように回転抑制部材を介在し、および/または筆記体の周側面に、少なくとも一部が軸筒の内壁面に当接するように回転抑制部材を設けて、ノック操作時の回転カムの回転力や回転スピードを弱めたことを特徴とするノック式筆記具が開示されている。
【0010】
また、特許文献3(特開2009-292070号公報)では、回転カムの後端に、ノック体内に位置する軸部を設けるとともに、ノック体の内壁面と軸部の外表面との間に、回転抑制部材を、ノック体の内壁面と軸部の外表面の両方に当接するように配設し、ノック操作時における回転カムの回転力や回転速度を弱めたことを特徴とするノック式筆記具が開示されている。
【0011】
しかしながら、上記特許文献1~3の構造では、ノック操作時において、回転カムの回転力や回転速度が回転抑制部材により常に弱められることになるため、筆記体の筆記先端部を軸筒の前端開口部から突出させるためのノック操作を行った場合に、本来は回転カムが回転して回転カムのカム突起がカム溝の係止部に係止し、筆記先端部が軸筒の前端開口部から突出した状態が維持されるところを、回転カムが回転しきれずに、カム突起が係止部に係止されず、結果筆記先端部の突出状態が維持できないという問題が生じるおそれがあった。
また、筆記体の筆記先端部を軸筒内に没入させるためのノック操作を行った場合にも、同様に筆記先端部を軸筒内に没入させることができなくなるおそれがあった。
さらに、前記特許文献1~3の構造では、部品点数が多くなり構造が複雑になってしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009-255426号公報
【特許文献2】特開2009-255427号公報
【特許文献3】特開2009-292070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題を鑑みて、簡単な構造で、筆記体の筆記先端部を軸筒の前端開口部から出没させるためのノック操作時におけるノック音を低減することが可能なノック式筆記具を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、軸筒内に、前後方向に延びる複数のカム溝と、前記カム溝に沿って前後に摺動可能な摺動突起を有するカム部材と、前記カム部材の前端に形成され軸心方向に対する傾斜面で構成された凹凸状の噛合部と、後端に前記カム部材の噛合部に噛み合う被噛合部が設けられ前記カム溝に係合するカム突起を周側部に有する回転カムと、前記カム部材を押圧するためのノック体と、前部に筆記先端部を備えた筆記体と、前記筆記体を後方に付勢する弾発体と、を備え、
前記回転カムは、前端が前記筆記体の後端部に連接するとともに、前記カム溝に沿って前後に移動可能に構成され、
前記ノック体をノック操作することにより、前記弾発体により後方へ付勢された前記筆記体の筆記先端部を、前記軸筒の前端開口部より出没させる構造のノック式筆記具であって、
前記カム溝が、前後方向に延びるカム壁と、該カム壁の前端に連設され前記カム突起が摺接する第一カム傾斜面と、前記第一カム傾斜面の側端に連設され前記カム突起が当接する当接部を有する係止部と、前記当接部の前端に連設され前記カム突起が摺接する第二カム傾斜面と、を備え、
前記カム部材の噛合部は、前端に形成された頂部と、後端に形成された底部と、を有し、
前記カム溝の溝幅をMとし、前記カム突起の周方向の突起幅をSとしたとき、0.4M<S<0.8Mの関係式を満たすことを特徴とするノック式筆記具である。
【0015】
本発明によれば、筆記体の筆記先端部を軸筒の前端開口部から突出させるためのノック操作時において、カム溝の溝幅Mよりカム突起の周方向の突起幅Sを小さく形成することで、カム部材が前後動する際に周方向に微小に回転させることができる。これにより筆記体の繰り出し及び没入操作時において、回転カムのカム突起とカム部材の底部が当接する際に発生する1回目の衝突音(ノック音)と、回転カムのカム突起と当接部とが当接する際に発生する2回目の衝突音(ノック音)を、衝突時に移動する回転カムの移動量を減らすことで低減することが可能となる。この際における、カム溝の溝幅をMと、カム突起の周方向の突起幅Sとの関係は、0.4M<S<0.8Mの関係式を満たすことで、作動時に必要な摺動突起の強度と、ノック操作時に発生するノック音の低減効果が得られる。
【0016】
また、前記頂部の周方向における位置と前記摺動突起の周方向における中心位置との軸方向におけるズレ幅をWとし、隣り合う前記カム溝同士のピッチ間隔をPとしたとき、W<(P-M)/4の関係式を満たすように構成してもよく、この場合、ズレ幅Wを回転カムの回転方向に対して反対側にずらすことで1回目の衝突音(ノック音)を大きく減衰させることができ、ズレ幅Wを回転カムの回転方向側にずらすことで2回目の衝突音(ノック音)を大きく減衰させることができる。このため、主に減衰させたい衝突音を選らんで減衰させることができる。また、上記関係式を満たすことで、カム部材が前後動した際に回動しても、回転カムとカム溝とカム部材との間のカム動作が正常に行われることから好適である。
【0017】
本発明におけるノック式筆記具は、前記のようにカム溝、カム部材、回転カムおよびノック体とで構成されたものであるが、カム部材は、ノック体と別体で形成したものであってもよいし、カム部材の後方にノック部(ノック体)を一体に形成したものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡単な構造で、筆記体の筆記先端部を軸筒の前端開口部から出没させるためのノック操作時におけるノック音を低減することが可能なノック式筆記具を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第一の実施形態のノック式筆記具において、ペン先部を没入させた状態を示す縦断面図である。
【
図2】
図1のノック式筆記具におけるカム部材の側面図である。
【
図3】
図1のノック式筆記具における回転カムの側面図である。
【
図4】
図1のノック式筆記具において、ペン先部を突出維持させた状態を示す縦断面図である。
【
図5】
図1におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図の一部拡大図である。
【
図6】
図1のノック式筆記具において、ペン先部突出動作時におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図であり、
図6(a)から
図6(h)に各動作段階におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を順に示した図である。
【
図7】
図4のノック式筆記具において、ペン先部没入動作時におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図であり、
図7(a)から
図7(h)に各動作段階におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を順に示した図である。
【
図8】本発明の第二の実施形態のノック式筆記具において、ペン先部を没入させた状態を示す縦断面図である。
【
図9】
図8のノック式筆記具におけるカム部材の側面図である。
【
図10】
図8のノック式筆記具において、ペン先部を突出維持させた状態を示す縦断面図である。
【
図11】
図8のノック式筆記具において、カム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図の一部拡大図である。
【
図12】
図8のノック式筆記具において、ペン先部突出動作時におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図であり、
図12(a)から
図12(h)に各動作段階におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を順に示した図である。
【
図13】
図10のノック式筆記具において、ペン先部没入動作時におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図であり、
図13(a)から
図13(h)に各動作段階におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を順に示した図である。
【
図14】従来のノック式筆記具のペン先部突出動作時におけるカム溝と固定カムと回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図であり、
図14(a)から
図14(f)に各動作段階におけるカム溝と固定カムと回転カムとの位置関係を順に示した図である。
【
図15】従来のノック式筆記具のペン先部没入動作時におけるカム溝と固定カムと回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図であり、
図15(a)から
図15(g)に各動作段階におけるカム溝と固定カムと回転カムとの位置関係を順に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本実施の形態におけるノック式筆記具を詳細に説明する。
【0021】
実施形態1
図1は、本発明の第一の実施形態のノック式筆記具において、ペン先部を没入させた状態を示す縦断面図であり、
図2は、
図1のノック式筆記具におけるカム部材の側面図であり、
図3は、
図1のノック式筆記具における回転カムの側面図であり、
図4は、
図1のノック式筆記具において、ペン先部を突出維持させた状態を示す縦断面図であり、
図5は、
図1におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図の一部拡大図であり、
図6は、
図1のノック式筆記具において、ペン先部突出動作時におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図であり、
図6(a)から
図6(h)に各動作段階におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を順に示した図であり、
図7は、
図4のノック式筆記具において、ペン先部没入動作時におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図であり、
図7(a)から
図7(h)に各動作段階におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を順に示した図である。
なお、図面の説明においては、上方(ノック体側)を後方と表現し、下方(ペン先部側)を前方と表現する。
【0022】
本実施形態1のノック式筆記具1は、後軸22の前方に前軸21が螺合されて軸筒2を構成し、軸筒2内に収容したボールペンレフィル5(筆記体)が前軸21に係止したコイルスプリング6(弾発体)で後方へ弾発され、軸筒2内に設けた複数のカム溝23に沿って摺動可能な複数の摺動突起31を有するカム部材3を有し、カム部材3の前方でカム溝23を摺動して回転し該カム溝23の前端部に設けた係止部24に係止されるカム突起41を有した回転カム4とを有している。カム部材3と回転カム4とは、カム部材3に形成した軸心方向に対する傾斜面で構成された凹凸状の噛合部32に、回転カム4に形成した前記噛合部32にかみ合う被噛合部42をかみ合わせて縦列配置されている。
ノック式筆記具1は、カム部材3のノック部33を押動することにより回転カム4を摺動させると共に、回転カム4の回転に伴い、軸筒4内に収容したボールペンレフィル5のペン先部51(筆記先端部)を前軸21の前端開口部21aから出没させる。
【0023】
ノック式筆記具1は、軸筒2の後部に、ノック部33をノック操作することにより作動する回転カム機構が設けられている。回転カム機構は、軸筒4の内面25の円周上に等間隔で形成したカム溝23と、後軸22の後端に形成した後端開口部22aから突出した筒状の前記カム部材3と、カム部材3の前方に配した筒状の前記回転カム4とで構成してある。
【0024】
カム溝23について詳述する。
図2及び
図5に示すように、カム溝23は、深いカム溝23aと浅いカム溝23bとが交互に並んで配置されており、両側面にはカム壁26として、第一カム壁26aと第二カム壁26bを有している。そして、第二カム壁26bの前端には周方向に傾斜して延びる第一カム傾斜面27の一端が連設され、第一カム傾斜面27の他端部には前記カム突起41が係止する係止部24が形成される。係止部24には第一カム傾斜面27に連設し、軸方向軸方向に沿って前方に延びる当接部24aを有しており、当接部24aにカム突起41が当接することで、該カム突起41は係止部24に係止される。尚、浅いカム溝23bにはカム突起41が入らない深さで形成されている。また、当接部24aの前端には周方向に傾斜して延びる第二カム傾斜面28の一端が連設され、第二カム傾斜面28の他端部は深いカム溝23aの第一カム壁26aの前端に連設されている。
【0025】
カム部材3について詳述する。
図5に示すように、カム部材3は、先端に凹凸状の噛合部32を有し、外面には、カム溝23に係合する複数の摺動突起31の中心を、噛合部32の頂部32aに対して
図5における右方向(回転カム4の回転方向の反対方向)に少しずらした位置(ズレ幅W)になるよう円周上に等間隔で設けてある。また、噛合部32は
図5において頂部32aから左上がりの第一斜面32bと、第一斜面32bから連設され、左下がりの第二斜面32cを有しており、第一斜面32bと第二斜面32cとの接合点には谷部になる底部32dが形成される。さらに、摺動突起31の周方向における突起幅Sは、カム溝23の溝幅Mに対して、摺動に必要とする以上に小さく形成されており、これにより、カム部材3はカム溝23(軸筒2)に対して周方向に微小に回動可能に構成される。尚、溝幅Mと突起幅Sとの関係は、0.4M<S<0.8Mの関係式を満たすことが好ましく、この場合、0.4M<Sとすることで摺動突起31の強度を確保して連続的に使用しても摺動突起が破損することを防止できる。また、S<0.8Mとすることでカム部材3が回動する範囲を確保できることからノック音の十分な低減効果が得られる。本実施形態では、カム部材3の突起幅S=0.65mm、カム溝の溝幅M=1.30mmで形成してあり、前記関係式を満たしている。また、カム部材3の後端部には、ノック操作するためのノック部33(ノック体)が一体的に設けられている。
【0026】
また、
図5に示すように、前述したカム部材3の頂部32aの周方向における位置と摺動突起31の周方向における中心位置との軸方向におけるズレ幅をWとし、隣り合うカム溝23同士(深いカム溝23aと浅いカム溝23b)のピッチ間隔をPとしたとき、W<(P-M)/4の関係式を満たすように構成することが好ましく、これにより、カム部材3が前後動した際に微小に回動しても、回転カム4とカム溝23とカム部材3との間のカム動作が正常に行われるため好適である。本実施形態では、カム溝23の溝幅M=1.30mm、カム溝23のピッチ間隔P=3.08、ズレ幅W=0.33mmで形成してあり、前記関係式を満たしている。
【0027】
次に、
図1から
図6を用いて、本実施形態1のノック式筆記具1におけるノック部33を前方に押圧するノック操作で、回転カム機構を作動させ、ボールペンレフィル5のペン先部51を軸筒2の前端開口部21aから繰り出すペン先部突出動作動作と、その際に発生するノック音が軽減される状況を説明する。
【0028】
図1に示すノック式筆記具1は、軸筒2の後端開口部22aから突出したカム部材3のノック部33(ノック体)を軸筒2の前方へ押動すると、カム部材3が、軸筒2の内面25に形成した深いカム溝23aと浅いカム溝23bに係合した摺動突起31に導かれて前進し、カム部材3の噛合部32に連接した回転カム4は、深いカム溝23aに係合したカム突起41に導かれて前進する(
図5及び
図6(a)参照)。この際、カム突起41は深いカム溝23aに係合している状態のため周方向に回転することはなく、カム部材3は噛合部32の第一斜面32bがカム突起41の傾斜面43に連接しているため、
図6における右方向へ力が掛かり、カム部材3の摺動突起31が深いカム溝23aの第一カム壁26aに摺接しながら前進する。そして、カム突起41が、深いカム溝23aの先端に達して深いカム溝23aから離脱すると、カム部材3の噛合部32の頂部32aは、回転カム4の被噛合部42の傾斜面43の前端側に位置する(
図6(b)参照)。このとき、回転カム4は、前軸21に係合したコイルスプリング6(弾発体)で後方へ弾発されたボールペンレフィル5に当接しているので、後方へ後退しようとして右側から左側に回転し(
図6において、被噛合部42の傾斜面42が右下がりのため)、回転カム4の被噛合部42はカム部材3の噛合部32の第一斜面32bを滑って回転し、カム突起4の後端頂部44が噛合部32の底部32dに衝接し、1回目の衝突が発生する(
図6(c))。この際、
図6(b)の長さL1A分だけカム突起3が軸方向に移動することで衝突音(ノック音)が発生する。この長さL1Aは、
図14(b)の従来のノック式筆記具のカム構造におけるカム突起203と噛合部232の底部232dとが衝突する際のカム突起203の移動する長さL1より小さいため、その分位置エネルギーが減少し、本実施形態におけるペン先部突出動作時の1回目の衝突音(ノック音は)は従来のカム構造に比べて軽減される。尚、
図14及び
図15の従来のノック式筆記具におけるカム構造は、本実施形態1とは摺動突起231の突起幅、及び摺動突起231の中心と頂部232aとのズレ幅以外は、同寸法、同構造で構成されている。
そして、摺動突起31と第二カム壁26bとの間には隙間があるため、衝突時の衝撃でカム部材3と回転カム4は共に
図6における左方向へ微小に回転する(
図6(d))。このカム部材3の回転が緩衝となることで、カム突起4の端頂部44が噛合部32の底部32dとの衝突時の衝撃はさらに減小されるため、1回目のノック音がさらに小さくなる。
【0029】
ここで、ノック部33への前方への押圧を解除すると、コイルスプリング6により後方へ付勢された回転カム4に押されてカム部材3が後退し、回転カム4の後端頂部44が第一カム傾斜面27に当接する(
図6(e))。そして、回転カム4のカム突起41は、
図6において左上がりの第一カム傾斜面27の表面を摺動し、同時に、
図6において左下がり(前方側に傾斜)のカム部材3の第二斜面32cをカム突起41が後方へ押圧しながら表面を摺動することでカム部材3及び回転カム4をゆっくり後方へ移動させ、カム突起41の後端頂部44とカム部材3の頂部32aが当接する位置まで後退する(
図6(f))。そして、カム部材3の頂部32aが後方へ移動すると、回転カム4の被噛合部42は第一カム傾斜面27を滑って回転し、カム突起4の側面が当接部24aに衝接し、2回目の衝突が発生する(
図6(g))。この際、
図6(f)の長さL2A分だけカム突起3が軸方向に移動することで2回目の衝突音(ノック音)が発生する。この長さL2Aは、
図14(e)の従来のノック式筆記具のカム構造におけるカム突起41と当接部24aとが衝接する際のカム突起の移動する長さL2と略同等であるため、本実施形態におけるペン先部突出動作時の2回目の衝突音(ノック音は)は従来のカム構造に比して変化しない。そして、カム突起41は係止部26に係止された状態となり、
図4に示すように、ボールペンレフィル5のペン先部51が前軸21の前端開口部21aから突出した状態が維持される筆記状態となる。
【0030】
次に、
図1から
図5、及び
図7を用いて、本実施形態1のノック式筆記具1におけるノック部33を前方に押圧するノック操作で、回転カム機構を作動させ、
図4の状態からボールペンレフィル5のペン先部51が軸筒2の前端開口部21aに没入するペン先部没入動作と、その際に発生するノック音が軽減される状況を説明する。
【0031】
図4及び
図7(a)に示すノック式筆記具1は、軸筒2の後端開口部22aから突出したカム部材3のノック部33(ノック体)を軸筒4の前方へ押動すると、カム部材3が、軸筒2の内面25に形成した深いカム溝23aと浅いカム溝23bに係合した摺動突起31に導かれて前進し、カム部材3の噛合部32に連接した回転カム4は、当接面25に係合したカム突起51に導かれて同じように回転することなく前進する(
図7(a)参照)。この際、カム部材3は噛合部32の第一斜面32bがカム突起41の傾斜面43に連接しているため、
図7における右方向へ力が掛かり、カム部材3の摺動突起31が第一カム壁26aに摺接しながら前進する。そして、カム突起41が、当接部24aの先端に達して該当接部24aから離脱した際、カム部材3の噛合部32の頂部32aは、回転カム4の傾斜面43の前方側に位置する(
図7(b))。このとき、回転カム4は、前軸21に係合したコイルスプリング6(弾発体)で後方へ弾発されたボールペンレフィル5に当接しているので、後方へ後退しようとして右側から左側に回転し(
図7において、被噛合部42の傾斜面43が右下がりのため)、回転カム4の被噛合部42はカム部材3の噛合部32の第一斜面32bを滑って、カム突起4の後端4が噛合部32の底部32dに衝接し、ペン先部没入動作時における1回目の衝突が発生する(
図7(c))。この際、
図7(b)の長さL’1A分だけカム突起3が軸方向に移動することで衝突音(ノック音)が発生する。この長さL’1Aは、
図15(b)の従来のノック式筆記具のカム構造におけるカム突起41と噛合部232の底部232dとが衝突する際のカム突起41の移動する長さL’1より小さいため、その分移動前の位置エネルギーが減少し、本実施形態におけるペン先部没入動作時の1回目の衝突音(ノック音は)は軽減される。尚、L’1Aは
図6(b)のL1Aと略同等であることから、ペン先の繰り出し時と同等に没入時も同様に1回目のノック音が軽減される。
そして、衝突時の衝撃でカム部材3と回転カム4は共に
図7における左方向へ微小に回転した状態となる(
図7(d))。このカム部材の回転により、カム突起4の後端4が噛合部32の底部32dとの衝突時の衝撃はさらに減衰されるため、1回目のノック音がさらに小さくなる。
【0032】
ここで、ノック部33への前方への押圧を解除すると、コイルスプリング6により後方へ付勢された回転カム4に押されてカム部材3が後退し、回転カム4の傾斜面43が第二カム傾斜面28に当接する(
図7(e))。そして、回転カム4のカム突起41は、
図7において左上がりの第二カム傾斜面28の表面を摺動し、同時に、
図7において左下がり(前方側に傾斜)のカム部材3の第二斜面32cをカム突起41が後方へ押圧しながら表面を摺動するため、カム部材3及び回転カム4をゆっくり後方へ移動させ、カム突起41の後端頂部44とカム部材3の頂部32aが当接する位置まで後退する(
図7(f))。そして、カム部材3の頂部32aがさらに後方へ移動すると、回転カム4の被噛合部42は第二カム傾斜面28を滑って、カム突起4の側面が第二カム壁26bに衝接し、2回目の衝突が発生する(
図7(g))。この際、
図7(f)の長さL’2A分だけカム突起3が軸方向に移動することで2回目の衝突音(ノック音)が発生する。この長さL’2Aは、
図15(e)の従来のノック式筆記具のカム構造におけるカム突起41と第二カム壁26bとが衝接する際のカム突起41の移動する長さL2と略同等であるため、本実施形態におけるペン先部没入動作時の2回目の衝突音(ノック音は)は従来のカム構造に比して変化しない。そして、カム突起41は深いカム溝23aに沿って後方へ後退し、ボールペンレフィル5のペン先部51が前軸21の前端開口部21aから没入した
図1の非使用状態に戻る。この際、カム部材3は噛合部32の第一斜面32bがカム突起41の傾斜面43に連接しているため、その自重で傾斜面43をすべり
図7の右方向へ回転し、摺動突起31の側面が第一カム壁26aに当接した状態で止まる(
図7(h))。
【0033】
すなわち本実施形態1では、摺動突起31の中心を、噛合部32の頂部32aに対して
図5における右方向(回転カム4の回転方向の反対方向)にズレ幅Wでずらした位置で形成することにいり、ノック操作におけるペン先部51の突出動作時と没入動作時の両方において、1回目のノック音が軽減されるものとなった。
【0034】
実施形態2
図8は、本発明の第二の実施形態のノック式筆記具において、ペン先部を没入させた状態を示す縦断面図であり、
図9は、
図8のノック式筆記具におけるカム部材の側面図であり、
図10は、
図8のノック式筆記具において、ペン先部を突出維持させた状態を示す縦断面図であり、
図11は、
図8のノック式筆記具において、カム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図の一部拡大図であり、
図12は、
図8のノック式筆記具において、ペン先部突出動作時におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図であり、
図12(a)から
図12(h)に各動作段階におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を順に示した図であり、
図13は、
図10のノック式筆記具において、ペン先部没入動作時におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を示すカム部展開概念図であり、
図13(a)から
図13(h)に各動作段階におけるカム溝とカム部材と回転カムとの位置関係を順に示した図である。
尚、実施形態2において実施形態1と同様の構造の部分には同じ符号を付記し、説明を一部省略する。また、図面の説明においては、上方(ノック体側)を後方と表現し、下方(ペン先部側)を前方と表現する。
【0035】
本実施形態2のノック式筆記具100は、
図8に示すように、後軸22の前方に前軸21が螺合されて軸筒2を構成し、軸筒2内に収容したボールペンレフィル5(筆記体)が前軸21に係止したコイルスプリング6(弾発体)で後方へ弾発され、軸筒2内に設けた複数のカム溝23に沿って摺動可能な複数の摺動突起131を有するカム部材103を有し、カム部材103の前方でカム溝23を摺動して回転し該カム溝23の前端部に設けた係止部24に係止されるカム突起41を有した回転カム4とを有している。カム部材103と回転カム4とは、カム部材103に形成した軸心方向に対する傾斜面で構成された凹凸状の噛合部132に、回転カム4に形成した前記噛合部132にかみ合う被噛合部42をかみ合わせて縦列配置されている。
ノック式筆記具100は、カム部材103のノック部133を押動することにより回転カム4を摺動させると共に、回転カム4の回転に伴い、軸筒4内に収容したボールペンレフィル5のペン先部51を前軸21の前端開口部21aから出没させる。
【0036】
本実施形態のカム部材103について詳述する。
図9及び
図11に示すように、カム部材103は、先端に凹凸状の噛合部132を有し、外面には、カム溝2bに係合する複数の摺動突起131の中心を、噛合部32の頂部32aに対して
図11における左方向(回転カム4の回転方向)に少しずらした位置にするよう円周上に等間隔で設けてある。また、噛合部132は
図11において頂部132aから左上がりの第一斜面132bと、第一斜面132bから連設され、左下がりの第二斜面132cを有しており、第一斜面132bと第二斜面132cとの接合点には谷部となる底部132dが形成される。さらに、摺動突起131の周方向における突起幅Sはカム溝23の溝幅Mに対して、摺動に必要とする以上に小さく形成されており、これにより、カム部材3はカム溝23(軸筒2)に対して周方向に微小に回動可能に構成される。尚、本実施形態においてもカム溝23の溝幅Mと摺動突起131の突起幅Sとの関係は、0.5M<S<0.8Mの関係式を満たすことが好ましく、この場合、摺動突起131の強度を確保しつつ、カム部材103が回動する範囲を確保できる。本実施形態では、カム部材103の摺動部材131の突起幅S=1.9mm、カム溝の溝幅M=3.08mmで形成してあり、前記関係式を満たしている。
【0037】
また、
図9に示すように、本実施形態にいても前述したカム部材3の頂部32aの周方向における位置と摺動突起31の周方向における中心位置との軸方向におけるズレ幅をWとし、隣り合うカム溝23同士(深いカム溝23aと浅いカム溝23b)のピッチ間隔をPとしたとき、W<(P-M)/4の関係式を満たすように構成してある。本実施形態では、カム溝23の溝幅M=1.30mm、カム溝23のピッチ間隔P=3.08、ズレ幅W=0.24mmで形成してあり、前記関係式を満たしている。
【0038】
次に、
図8から
図12を用いて、本実施形態1のノック式筆記具100におけるノック部133を前方に押圧するノック操作で、回転カム機構を作動させ、ボールペンレフィル5のペン先部51を軸筒2の前端開口部21aから繰り出すペン先部突出動作と、その際に発生するノック音が軽減される状況を説明する。
【0039】
図8に示すノック式筆記具100は、軸筒2の後端開口部22aから突出したカム部材103のノック部133(ノック体)を軸筒4の前方へ押動すると、カム部材103が、軸筒2の内面25に形成した深いカム溝23aと浅いカム溝23bに係合した摺動突起131に導かれて前進し、カム部材103の噛合部132に連接した回転カム4は、深いカム溝23aに係合したカム突起41に導かれて前進する(
図11及び
図12(a)参照)。この際、カム突起41は深いカム溝23aに係合している状態のため周方向に回転することはなく、カム部材103は噛合部132の第一斜面132bがカム突起41の傾斜面43に連接しているため、
図12における右方向へ力が掛かり、カム部材103の摺動突起131が深いカム溝23aの第一カム壁26aに摺接しながら前進する。そして、カム突起41が、深いカム溝23aの先端に達して深いカム溝23aから離脱すると、カム部材103の噛合部132の頂部132aは、回転カム4の被噛合部42の傾斜面43の中間部に位置する(
図12(b))。このとき、回転カム4は、前軸21に係合したコイルスプリング6(弾発体)で後方へ弾発されたボールペンレフィル5に当接しているので、後方へ後退しようとして右側から左側に回転し(
図12において、被噛合部42の傾斜面42が右下がりのため)、回転カム4の被噛合部42は噛合部132の第一斜面132bを滑って、カム突起4の後端4が噛合部132の底部132dに衝接し、1回目の衝突が発生する(
図12(c))。この際、
図12(b)の長さL1B分だけカム突起3が軸方向に移動することで衝突音(ノック音)が発生する。この長さL1Bは、
図14(b)の従来のノック式筆記具のカム構造におけるカム突起203と噛合部232の底部232dとが衝突する際のカム突起203の移動する長さL1と略同等であるため、本実施形態における1回目の衝突音(ノック音は)は従来のカム構造に比して変化しない。しかしながら、摺動突起131と第二カム壁26bとの間には隙間があるため、衝突時の衝撃でカム部材103と回転カム4は共に
図12における左方向へ微小に回転する(
図12(d))。このカム部材103の回転が衝突時の衝撃を和らげることにより、カム突起4の後端4が噛合部132の底部132dとの衝突時の衝撃は少し減衰されるため、衝突音が小さくなり、結果的に1回目のノック音は少し減少する。
【0040】
ここで、ノック部133への前方への押圧を解除すると、コイルスプリング6により後方へ付勢された回転カム4に押されてカム部材103が後退し、回転カム4の傾斜面43が第一カム傾斜面27に当接する(
図12(e))。そして、回転カム4のカム突起41は、
図12において左上がりの第二カム傾斜面28の表面を摺動し、同時に、
図12において左下がり(前方側に傾斜)のカム部材103の第二斜面132cをカム突起41が後方へ押圧しながら表面を摺動するため、カム部材3及び回転カム4をゆっくり後方へ移動させ、カム突起41の後端頂部44とカム部材103の頂部132aが当接する位置まで後退する(
図12(f))。そして、カム部材3の頂部32aがさらに後方へ移動すると、回転カム4の被噛合部42は第二カム傾斜面28を滑って、カム突起4の側面が当接部24aに衝接し、2回目の衝突が発生する(
図12(g))。この際、
図12(f)の長さL2B分だけカム突起3が軸方向に移動することで2回目の衝突音(ノック音)が発生する。この長さL2Bは、
図14(e)に示す従来のノック式筆記具のカム構造におけるカム突起203と当接部24aとが衝接する際のカム突起203の移動する長さL2よりも小さいため、その分、移動前の位置エネルギーが減少し、本実施形態における2回目の衝突音(ノック音)は従来より軽減される。そして、カム突起41は係止部26に係止された状態となり、
図10に示すようにボールペンレフィル5のペン先部51が前軸21の前端開口部21aから突出した状態が維持される筆記状態となる。尚、カム部材103は、噛合部132の第一斜面32bがカム突起41の傾斜面43に連接しているため、その自重で傾斜面43をすべり
図12の右方向へ回転し、摺動突起31の側面が第一カム壁26aに当接した状態で止まる(
図12(h))。
【0041】
次に、
図8から
図10、及び
図12を用いて、本実施形態2のノック式筆記具100におけるノック部133を前方に押圧するノック操作で、回転カム機構を作動させ、
図10の状態からボールペンレフィル5のペン先部51が軸筒2の前端開口部21aに没入するペン先部没入動作と、その際に発生するノック音が軽減される状況を説明する。
【0042】
図10及び
図13(a)に示すノック式筆記具100は、軸筒2の後端開口部22aから突出したカム部材3のノック部133(ノック体)を軸筒2の前方へ押動すると、カム部材103が、軸筒2の内面25に形成した深いカム溝23aと浅いカム溝23bに係合した摺動突起131に導かれて前進し、カム部材103の噛合部132に連接した回転カム4は、当接部24aに係合したカム突起51に導かれて同じように回転することなく前進する。(
図13(a)参照)。この際、カム部材103は噛合部32の第一斜面32bがカム突起41の傾斜面43に連接しているため、
図13における右方向へ力が掛かり、カム部材3の摺動突起31が第一カム壁26aに摺接しながら前進する。そして、カム突起41が、当接部24aの先端に達して該当接部24aから離脱すると、カム部材103の噛合部132の頂部132aは、回転カム4の被噛合部42の傾斜面43の中間部に位置する(
図13(b))。このとき、回転カム4は、前軸21に係合したコイルスプリング6(弾発体)で後方へ弾発されたボールペンレフィル5に当接しているので、後方へ後退しようとして右側から左側に回転し(
図13において、被噛合部42の傾斜面42が右下がりのため)、回転カム4の被噛合部42は噛合部132の第一斜面132bを滑って、カム突起4の後端4が噛合部132の底部132dに衝接し、1回目の衝突が発生する(
図13(c))。この際、
図13(b)の長さL’1B分だけカム突起103が軸方向に移動することで衝突音(ノック音)が発生する。この長さL’1Bは、
図15(b)の従来のノック式筆記具のカム構造におけるカム突起41と噛合部232の底部232dとが衝突する際のカム突起41の移動する長さL’1と略同等であるため、本実施形態2におけるペン先部没入動作時の1回目の衝突音(ノック音は)は従来のカム構造に比して変化しない。しかしながら、摺動突起131と第二カム壁26bとの間には隙間があるため、衝突時の衝撃でカム部材103と回転カム4は共に
図13における左方向へ微小に回転する(
図13(d))。このカム部材103の回転が衝突時の衝撃を和らげることにより、カム突起4の後端4が噛合部132の底部132dとの衝突時の衝撃は少し減衰されるため、衝突音が小さくなり、結果的に1回目のノック音は少し減少する。
【0043】
ここで、ノック部133への前方への押圧を解除すると、コイルスプリング6により後方へ付勢された回転カム4に押されてカム部材103が後退し、回転カム4の傾斜面43が第二カム傾斜面28に当接する(
図13(e))。そして、回転カム4のカム突起41は、
図12において左上がりの第二カム傾斜面28の表面を摺動し、同時に、
図13において左下がり(前方側に傾斜)の第二斜面132cをカム突起41が後方へ押圧しつつ表面を摺動するため、カム部材3及び回転カム4をゆっくり後方へ移動させ、カム突起41の後端頂部44とカム部材103の頂部132aが当接する位置まで後退する(
図13(f))。そして、カム部材103の頂部132aがさらに後方へ移動すると、回転カム4の被噛合部42は第二カム傾斜面28を滑って、カム突起4の側面が第二壁部26bに衝接し、2回目の衝突が発生する(
図13(g))。この際、
図13(f)の長さL’2B分だけカム突起41が軸方向に移動することで2回目の衝突音(ノック音)が発生する。この長さL’2Bは、
図15(e)に示す従来のノック式筆記具のカム構造におけるカム突起41と当接部24aとが衝接する際のカム突起41の移動する長さL’2よりも小さいため、その分、移動前の位置エネルギーが減少し、本実施形態におけるペン先部没入動作時の2回目の衝突音(ノック音は)は従来より軽減される。そして、カム突起41は深いカム溝23aに沿って後方へ後退し、ボールペンレフィル5のペン先部51が前軸21の前端開口部21aから没入した
図8の状態に戻る。この際、カム部材103は噛合部132の第一斜面132bがカム突起41の傾斜面43に連接しているため、カム部材103は、その自重で傾斜面43をすべり
図13の右方向へ回転し、摺動突起131の側面が第一カム壁26aに当接した状態で止まる(
図13(h))。
【0044】
すなわち本実施形態2では、摺動突起31の中心を、噛合部32の頂部32aに対して
図11における右方向(回転カム4の回転方向)にズレ幅Wでずらした位置で形成することにより、ノック操作におけるペン先部51の突出動作時と没入動作時の両方において、1回目のノック音が少し軽減され、2回目のノック音が大きく減少されたものとなった。
【0045】
以上により、本発明では、カム溝の溝幅Mと摺動突起の突起幅Sとの関係を、0.4M<S<0.8Mの関係式を満たすように構成することで、ノック時(ペン先部突出動作及びペン先部没入動作)における1回目のノック音、または、2回目のノック音を軽減することができるものとなった。
また、本発明ではカム部材の頂部の周方向における位置と摺動突起の周方向における中心位置との関係を、カム部材の頂部を摺動突起に対して、回転カムの回転方向の反対側にずらすことで1回目のノック音を大きく減衰させることができ、回転カムの回転方向側にずらすことで2回目のノック音を大きく減衰させることができる。
また、カム部材3の頂部32aの周方向における位置と摺動突起31の周方向における中心位置との軸方向におけるズレ幅をWとし、隣り合うカム溝23同士(深いカム溝23aと浅いカム溝23b)のピッチ間隔をPとしたとき、W<(P-M)/4の関係式を満たすように構成することで、カム部材が前後動した際にカム溝内で回動しても、回転カムとカム溝とカム部材との間のカム動作が正常に行うことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、軸筒内に配したカム溝、固定カム、回転カム、およびノック体とで構成されたノック機構を有した、ボールペンやマーカー等のノック式筆記具や、描画用の固形芯を備えた描画具、修正液等を収容した塗布具、化粧液などを収容したノック式の化粧具等において、ノック操作時に発生するノック音を低減する場合に利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1…ノック式筆記具、
2…軸筒、21…前軸、21a…前端開口部、22…後軸、22…後端開口部、
23…カム溝、23a…深いカム溝、23b…浅いカム溝、24…係止部、
24a…当接部係止部、25…内面、26…カム壁、26a…第一カム壁、
26b…第二カム壁、27…第一カム傾斜面、28…第二カム傾斜面、
3…カム部材、31…摺動突起、32…噛合部、32a…頂部、32b…第一斜面、
32c…第二斜面、32d…底部、33…ノック部、
4…回転カム、41…カム突起、42…被噛合部、43…傾斜面、44…後端頂部、
5…ボールペンレフィル(筆記体)、51…ペン先部(筆記先端部)、
6…コイルスプリング(弾発体)、
100…ノック式筆記具、
103…カム部材、131…摺動突起、132…噛合部、132a…頂部、
132b…第一斜面、132c…第二斜面、132d…底部、133…ノック部、
203…カム部材、231…摺動突起、232…噛合部、232a…頂部、
P…カム溝のピッチ間隔、
M…カム溝の溝幅、
S…摺動突起の突起幅、
W…カム部材の頂部と摺動突起のズレ幅。