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特開2023-20700牛伝染性リンパ腫の病勢の検査方法、プライマー、及び牛伝染性リンパ腫の病勢の検査キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020700
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】牛伝染性リンパ腫の病勢の検査方法、プライマー、及び牛伝染性リンパ腫の病勢の検査キット
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20230202BHJP
   C12Q 1/6886 20180101ALI20230202BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20230202BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20230202BHJP
【FI】
C12N15/09 Z ZNA
C12Q1/6886 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126204
(22)【出願日】2021-07-30
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(71)【出願人】
【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 賢文
(72)【発明者】
【氏名】松尾 美沙希
(72)【発明者】
【氏名】小林 朋子
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA07
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
(57)【要約】
【課題】簡易かつ迅速に牛伝染性リンパ腫の病勢を評価可能な、牛伝染性リンパ腫の病勢の検査方法、前記検査方法に使用可能なプライマー、及び検査キットの提供。
【解決手段】(a)牛伝染性リンパ腫ウイルスに感染したホスト動物の感染細胞試料を調製する工程、(b)感染細胞のゲノムDNAを鋳型として、牛伝染性リンパ腫ウイルスのプロウイルスDNA及びホスト動物のゲノムDNAの両方を含むゲノム境界領域のDNA断片を増幅する工程、(c)DNA断片のサンガーシーケンシングを行い、サンガーシーケンシングによるスペクトルデータを取得する工程、(d)スペクトルデータに基づいて、DNA断片における、プロウイルスDNAに由来する領域と、ホスト動物のゲノムDNAに由来する領域とを特定し、ホスト動物のゲノムDNAに由来する領域のクローン性を判定する工程等、を含む牛伝染性リンパ腫の病勢の検査方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)牛伝染性リンパ腫ウイルスに感染したホスト動物の感染細胞試料を調製する工程と、
(b)前記感染細胞のゲノムDNAを鋳型として、前記牛伝染性リンパ腫ウイルスのプロウイルスDNA及び前記ホスト動物のゲノムDNAの両方を含むゲノム境界領域のDNA断片を増幅する工程と、
(c)前記DNA断片のサンガーシーケンシングを行い、前記サンガーシーケンシングによるスペクトルデータを取得する工程と、
(d)前記スペクトルデータに基づいて、前記DNA断片における、前記プロウイルスDNAに由来する領域と、前記ホスト動物のゲノムDNAに由来する領域とを特定し、前記ホスト動物のゲノムDNAに由来する領域の均一性を判定する工程と、
(e)前記ホスト動物のゲノムDNAに由来する領域の均一性に基づいて、前記ホスト動物における牛伝染性リンパ腫の病勢を判定する工程と、
を含む、牛伝染性リンパ腫の病勢の検査方法。
【請求項2】
前記(b)の工程において、下記(i)~(iv)からなる群より選択される少なくとも1種のプライマーを用いる、請求項1に記載の牛伝染性リンパ腫の病勢の検査方法:
(i)配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列を有するプライマー;
(ii)牛伝染性リンパ腫ウイルスのゲノムDNAにおいて、配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列を含むプライマーが特異的にアニーリングする領域に、特異的にアニーリングするプライマー;
(iii)配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列において、1個又は複数個のヌクレオチドが、欠失、付加、又は置換されたヌクレオチド配列を有し、且つ牛伝染性リンパ腫ウイルスのゲノムDNAに特異的にアニーリングするプライマー;及び
(iv)配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列と、90%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、且つ牛伝染性リンパ腫ウイルスのゲノムDNAに特異的にアニーリングするプライマー。
【請求項3】
前記(b)の工程が、
(b1)前記感染細胞のゲノムDNAを鋳型として、前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングする第1のプライマーを用いて、DNA伸長反応を行う工程と、
(b2)前記(b1)の工程で生成された第1のDNA断片を精製する工程と、
(b3)前記第1のDNA断片に第1のアダプターを付加する工程と、
(b4)前記第1のアダプターが付加された前記第1のDNA断片を鋳型として、前記第1のアダプターに特異的にアニーリングし、且つ第2のアダプターを含む第2のプライマーを用いて、DNA伸長反応を行う工程と、
(b5)前記(b4)の工程で生成された第2のDNA断片を精製する工程と、
(b6)前記(b5)の工程で精製された第2のDNA断片を鋳型として、前記第2のDNA断片が含む前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングする第3のプライマーと、前記第2のアダプターに特異的にアニーリングする第4のプライマーを用いて、核酸増幅反応を行う工程と、
を含む、請求項1又は2に記載の牛伝染性リンパ腫の病勢の検査方法。
【請求項4】
前記(b)の工程が、前記(b6)の工程の後、さらに、
(b7)前記(b6)の工程で得られた第3のDNA断片を鋳型として、前記第3のDNA断片が含む前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングする第5のプライマーと、前記第2のアダプターに特異的にアニーリングする第6のプライマーを用いて、核酸増幅反応を行う工程、
を含む、請求項3に記載の牛伝染性リンパ腫の病勢の検査方法。
【請求項5】
下記(i)~(iv)からなる群より選択される少なくとも1種のプライマー:
(i)配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列を有するプライマー;
(ii)牛伝染性リンパ腫ウイルスのプロウイルスDNAにおいて、配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列を含むプライマーが特異的にアニーリングする領域に、特異的にアニーリングするプライマー;及び
(iii)配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列において、1個又は複数個のヌクレオチドが、欠失、付加、又は置換されたヌクレオチド配列を有し、且つ前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングするプライマー;及び
(iv)配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列と、90%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、且つ前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングするプライマー。
【請求項6】
請求項5に記載のプライマーを含む、牛伝染性リンパ腫の病勢の検査キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牛伝染性リンパ腫の病勢の検査方法、プライマー、及び牛伝染性リンパ腫の病勢の検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
牛は、牛乳及び食肉などの重要な食料資源である。近年、日本の肉用牛及び乳製品の質の高さが世界的にも評価されており、日本のみならず海外でもその需要が年々増加している。世界的にも、酪農及び肉用牛の生産は、畜産業界の中でも、極めて大きなシェアを占めている。
【0003】
牛伝染性リンパ腫ウイルス(Bovine Leukemia Virus:BLV)は、牛のBリンパ球に感染するウイルスである。BLVは、一部の感染牛でリンパ腫を引き起こす病原性を有する。60~70%の感染牛は無症状で病気を発症しないが、30%の感染牛で持続性リンパ球増多症を発症し、数%の感染牛でリンパ腫を発症する。
【0004】
近年、日本ではBLVの感染率、及び伝染性リンパ腫の発症数ともに増加傾向にあり、その対策の必要性が増している。日本では、BLV感染だけでリンパ腫を発症していない牛は、食肉として市場に流通する。しかしながら、と畜検査時に伝染性リンパ腫の発症を認めると家畜伝染病予防法の規定により全部廃棄となる。そのため、伝染性リンパ腫の発症は、生産農家にとって大きな経済的損失をもたらす。
【0005】
伝染性リンパ腫の発症を検知するためには、正確な診断が必要である。しかしながら、重要な問題にも関わらず、伝染性リンパ腫の診断は、獣医師による肉眼的又は触知によるリンパ節腫大の有無の確認により行われているのが現状である。そのため、診断精度は高くない。
【0006】
BLV感染牛の検査方法としては、BLVのプロウイルス量を定量する核酸検査法が用いられている(例えば、特許文献1)。しかしながら、BLVのプロウイルスDNA量は、BLV感染細胞数を反映するが、腫瘍化した細胞数を評価することはできない。
【0007】
また、次世代シーケンサー解析により、BLV感染細胞のクローナリティを評価する方法が提案されている(非特許文献1)。しかしながら、次世代シーケンサーは、高価であり、汎用性が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-180351号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nicolas A. Gillet et al., Massive Depletion of Bovine Leukemia Virus Proviral Clones Located in Genomic Transcriptionally Active Sites during Primary Infection. PLoS Pathog. 2013;9(10):e1003687.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、BLVのプロウイルスを定量する方法は、腫瘍化した細胞数を定量することができず、牛伝染性リンパ腫の病勢を評価することはできない。また、次世代シーケンサー解析を用いる方法は、高コストであり、実用的に用いることは困難である。
そのため、簡易かつ迅速に牛伝染性リンパ腫の病勢を評価可能な検査技術が求められている。
【0011】
そこで、本発明は、簡易かつ迅速に牛伝染性リンパ腫の病勢を評価可能な、牛伝染性リンパ腫の病勢の検査方法、前記検査方法に使用可能なプライマー、及び検査キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の態様を含む。
[1](a)牛白血病牛伝染性リンパ腫ウイルスに感染したホスト動物の感染細胞試料を調製する工程と、(b)前記感染細胞のゲノムDNAを鋳型として、前記牛白血病牛伝染性リンパ腫ウイルスのプロウイルスDNA及び前記ホスト動物のゲノムDNAの両方を含むゲノム境界領域のDNA断片を増幅する工程と、(c)前記DNA断片のサンガーシーケンシングを行い、前記サンガーシーケンシングによるスペクトルデータを取得する工程と、(d)前記スペクトルデータに基づいて、前記DNA断片における、前記プロウイルスDNAに由来する領域と、前記ホスト動物のゲノムDNAに由来する領域とを特定し、前記ホスト動物のゲノムDNAに由来する領域の均一性を判定する工程と、(e)前記ホスト動物のゲノムDNAに由来する領域の均一性に基づいて、前記ホスト動物における牛伝染性リンパ腫の病勢を判定する工程と、を含む、牛伝染性リンパ腫の病勢の検査方法。
[2]前記(b)の工程において、下記(i)~(iv)からなる群より選択される少なくとも1種のプライマーを用いる、[1]に記載の牛伝染性リンパ腫の病勢の検査方法:(i)配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列を有するプライマー;(ii)牛白血病牛伝染性リンパ腫ウイルスのゲノムDNAにおいて、配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列を含むプライマーが特異的にアニーリングする領域に、特異的にアニーリングするプライマー;(iii)配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列において、1個又は複数個のヌクレオチドが、欠失、付加、又は置換されたヌクレオチド配列を有し、且つ牛白血病牛伝染性リンパ腫ウイルスのゲノムDNAに特異的にアニーリングするプライマー;及び(iv)配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列と、90%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、且つ牛白血病牛伝染性リンパ腫ウイルスのゲノムDNAに特異的にアニーリングするプライマー。
[3]前記(b)の工程が、(b1)前記感染細胞のゲノムDNAを鋳型として、前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングする第1のプライマーを用いて、DNA伸長反応を行う工程と、(b2)前記(b1)の工程で生成された第1のDNA断片を精製する工程と、(b3)前記第1のDNA断片に第1のアダプターを付加する工程と、(b4)前記第1のアダプターが付加された前記第1のDNA断片を鋳型として、前記第1のアダプターに特異的にアニーリングし、且つ第2のアダプターを含む第2のプライマーを用いて、DNA伸長反応を行う工程と、(b5)前記(b4)の工程で生成された第2のDNA断片を精製する工程と、(b6)前記(b5)の工程で精製された第2のDNA断片を鋳型として、前記第2のDNA断片が含む前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングする第3のプライマーと、前記第2のアダプターに特異的にアニーリングする第4のプライマーを用いて、核酸増幅反応を行う工程と、を含む、[1]又は[2]に記載の牛伝染性リンパ腫の病勢の検査方法。
[4]前記(b)の工程が、前記(b6)の工程の後、さらに、(b7)前記(b6)の工程で得られた第3のDNA断片を鋳型として、前記第3のDNA断片が含む前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングする第5のプライマーと、前記第2のアダプターに特異的にアニーリングする第6のプライマーを用いて、核酸増幅反応を行う工程を含む、[3]に記載の牛伝染性リンパ腫の病勢の検査方法。
[5]下記(i)~(iv)からなる群より選択される少なくとも1種のプライマー:(i)配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列を有するプライマー;(ii)牛白血病牛伝染性リンパ腫ウイルスのプロウイルスDNAにおいて、配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列を含むプライマーが特異的にアニーリングする領域に、特異的にアニーリングするプライマー;及び(iii)配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列において、1個又は複数個のヌクレオチドが、欠失、付加、又は置換されたヌクレオチド配列を有し、且つ前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングするプライマー;及び(iv)配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列と、90%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、且つ前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングするプライマー。
[6][5]に記載のプライマーを含む、牛伝染性リンパ腫の病勢の検査キット。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡易かつ迅速に牛伝染性リンパ腫の病勢を評価可能な、牛伝染性リンパ腫の病勢の検査方法、前記検査方法に使用可能なプライマー、及び検査キットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】伝染性リンパ腫発症牛と非発症牛における感染細胞の状態を説明する図である。
図2】1実施形態の検査方法の原理を説明する模式図である。
図3】1実施形態の検査方法の工程(b)の一例を示す模式図である。
図4】伝染性リンパ腫非発症牛、リンパ球増多症牛、及び伝染性リンパ腫発症牛におけるゲノム境界領域のホスト側DNAの均一性を評価した結果を示す図である。Aは、サンガーシーケンシングのスペクトルデータを示す。Bは、サンガーシーケンシングのスペクトルデータをEditRで解析した結果を示す。
図5】伝染性リンパ腫非発症牛、リンパ球増多症牛、及び伝染性リンパ腫発症牛におけるゲノム境界領域のホスト側DNAの均一性を評価した結果を示す図である。Aは、サンガーシーケンシングのスペクトルデータをEditRで解析した結果を示す。Bは、次世代シーケンサー(Next Generation Sequencer:NGS)解析により、感染細胞の均一性を評価した結果を示す。
図6】経時的に、BLV感染牛のゲノム境界領域のホスト側DNAの均一性を評価した結果を示す図である。「NGS解析」は、NGS解析による感染細胞の均一性を評価した結果を示す。「PVL(%)」は、リアルタイムPCRによるプロウイルス量の定量結果を示す。「IS」は、BLVプロウイルスの挿入サイト数を示す。
図7】経時的に、BLV感染牛のゲノム境界領域のホスト側DNAの均一性を評価した結果を示す図である。図6とは異なる症例である。
図8】経時的に、BLV感染牛のゲノム境界領域のホスト側DNAの均一性を評価した結果を示す図である。図6及び図7とは異なる症例である。
図9】経時的に、BLV感染牛のゲノム境界領域のホスト側DNAの均一性を評価した結果を示す図である。図6図8とは異なる症例である。
図10】12症例の伝染性リンパ腫発症牛、及び11症例の伝染性リンパ腫非発症牛若しくはリンパ球増多症牛において、ゲノム境界領域のホスト側DNAの均一性を評価した結果を示す図である。NGS解析による多様性評価結果と、クローンインデックス値とを併記した。
図11】伝染性リンパ腫発症牛と伝染性リンパ腫非発症牛との間で、クローンインデックス値を比較したグラフを示す。
図12】伝染性リンパ腫発症牛と伝染性リンパ腫非発症牛との間で、BLVプロウイルス量を比較したグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[定義]
「ホスト動物」とは、BLVの感染対象となる動物をいう。BLVのホスト動物は、BLVが感染可能であれば、特に限定されない。ホスト動物は、非ヒト動物であり、例えば、牛、水牛、カピバラ、羊等が挙げられるが、これらに限定されない。
「感染細胞」とは、BLVのプロウイルスがホスト動物のゲノムDNAに組み込まれたホスト動物の細胞をいう。
「牛伝染性リンパ腫の病勢」とは、牛伝染性リンパ腫の発症状態をいう。典型的には、牛伝染性リンパ腫を発症すると、リンパ腫が発生する。「牛伝染性リンパ腫の病勢の検査」には、牛伝染性リンパ腫の発症状態を判定すること、及び牛伝染性リンパ腫の発症リスクを判定すること、を包含する。
【0016】
「ゲノム境界領域」とは、感染細胞のゲノムDNAにおいて、ホスト動物ゲノムDNAに組み込まれたBLVプロウイルスのDNAと、ホスト動物ゲノムDNAと、が連結している領域をいう。ゲノム境界領域では、BLVプロウイルスのDNAと、ホスト動物ゲノムDNAとの両方が存在する。ゲノム境界領域におけるBLVプロウイルスのDNAを、「プロウイルス側DNA」又は「プロウイルス側配列」という場合がある。ゲノム境界領域におけるホスト動物ゲノムのDNAを、「ホスト側DNA」又は「ホスト側配列」という場合がある。
【0017】
「サンガーシーケンシング」とは、サンガー法(Sanger, F., et al. (1975))の原理に基づく配列解析をいう。サンガー法では、ddNTP(2’,3’-ジデオキシヌクレオチド)によるDNA鎖伸長反応の停止を利用する。DNAポリメラーゼは、4種類のヌクレオチド(dNTP:dATP、dTTP、dGTP、dCTP)の存在下で、DNA鎖を伸長する。DNA鎖伸長反応を、ddNTP(2’,3’-ジデオキシヌクレオチド;ddATP、ddTTP、ddGTP、ddCTP)の存在下で行うと、ddNTPが取り込まれたところでDNA伸長反応が停止する。これにより、1塩基毎に長さが異なる様々な鎖長のDNA断片が得られる。これらのDNA断片の3’末端には、ddNTPが取り込まれている。ddATP、ddTTP、ddGTP、及びddCTPをそれぞれ異なる蛍光色素で標識しておくと、蛍光色素を識別することで、前記DNA断片の3’末端に取り込まれたddNTPを識別することができる。この3’末端に取り込まれたddNTPの種類を読み取ることで、配列解析を行うことができる。
【0018】
「サンガーシーケンシング反応」とは、4種のdNTP、及び各蛍光色素で標識された4種のddNTPの存在下で、DNA伸長反応を行う反応をいう。
「サンガーシーケンシング用シーケンサー」とは、サンガーシーケンシング反応により得られた反応物から、配列データを取得する機能を備えたシーケンサーをいう。サンガーシーケンシング用シーケンサーでは、サンガーシーケンシング反応により得られたDNA断片を鎖長毎に分離し、各鎖長のDNA断片の3’末端に存在するddNTPを蛍光色素により識別することにより、配列データを取得する。
【0019】
「サンガーシーケンシングによるスペクトルデータ」(以下、単に「スペクトルデータ」ともいう)とは、サンガーシーケンシング反応の反応物を、サンガーシーケンシング用シーケンサーで分析することで得られる蛍光スペクトルデータをいう。サンガーシーケンシング用シーケンサーでは、DNA鎖長毎に蛍光標識を識別し、鎖長の短い順から蛍光シグナルを配列した蛍光スペクトルデータとして出力する。単一配列のDNA断片のサンガーシーケンシングを行った場合、同じ鎖長の3’末端に取り込まれるddNTPは同一であり、同一の蛍光標識が検出される。そのため、スペクトルデータの波形は略単一となる。一方、一部の配列が異なるDNA断片のサンガーシーケンシングを行った場合、スペクトルデータは、配列が異なる位置では、複数のピークが混在する波形となる。
【0020】
「特異的にアニーリング」するとは、核酸増幅反応で通常用いられるアニーリング条件において、アニーリング対象のヌクレオチド配列にアニーリングし、それ以外のヌクレオチド配列にはアニーリングしないことをいう。核酸増幅反応で通常用いられるアニーリング条件としては、例えば、塩濃度1.5~2.5mM、アニーリング温度50~70℃が挙げられる。アニーリング温度は、プライマーのTm値に基づいて設定してもよい。例えば、Tm値から2~3度程度低い温度をアニーリング温度として設定してもよい。
【0021】
ヌクレオチド配列どうしの配列同一性は、2つのヌクレオチド配列を、対応するヌクレオチドが最も多く一致するように、挿入及び欠失に当たる部分にギャップを入れながら並置し、得られたアラインメント中のギャップを除くヌクレオチド配列全体に対する一致したヌクレオチドの割合として求められる。ヌクレオチド配列同士の配列同一性は、当該技術分野で公知の各種相同性検索ソフトウェアを用いて求めることができる。例えば、ヌクレオチド配列の配列同一性の値は、公知の相同性検索ソフトウェアBLASTNにより得られたアライメントを元にした計算によって得ることができる。
【0022】
[牛伝染性リンパ腫の病勢の検査方法]
本開示の第1の態様は、牛伝染性リンパ腫の病勢の検査方法である。1実施形態において、本開示の検査方法は、下記(a)~(e)の工程を含む。
(a)牛伝染性リンパ腫ウイルスに感染したホスト動物の感染細胞試料を調製する工程。
(b)前記感染細胞のゲノムDNAを鋳型として、前記牛伝染性リンパ腫ウイルスのプロウイルスDNA及び前記ホスト動物のゲノムDNAの両方を含むゲノム境界領域のDNA断片を増幅する工程。
(c)前記DNA断片のサンガーシーケンシングを行い、前記サンガーシーケンシングによるスペクトルデータを取得する工程。
(d)前記スペクトルデータに基づいて、前記DNA断片における、前記プロウイルスDNAに由来する領域と、前記ホスト動物のゲノムDNAに由来する領域とを特定し、前記ホスト動物のゲノムDNAに由来する領域の均一性を判定する工程。
(e)前記ホスト動物のゲノムDNAに由来する領域の均一性に基づいて、前記ホスト動物における牛伝染性リンパ腫の病勢を判定する工程。
【0023】
牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)は、レトロウイルス科デルタレトロウイルス属に分類され、伝染性牛伝染性リンパ腫の原因となるウイルスである。BLVが、ホスト動物に感染すると、ホスト動物の細胞のゲノムDNAに、BLVのプロウイルスが組込まれる。BLVは、主に、Bリンパ球に感染する。ホスト動物ゲノムDNAにおいて、BLVプロウイルスが組込まれる位置は、特に限定されていない。そのため、感染細胞により、BLVプロウイルスの挿入位置は異なり得る。
【0024】
図1は、ホスト動物におけるBLV感染細胞の状態を示す模式図である。図1に示す感染細胞集団は、伝染性リンパ腫非発症動物及び伝染性リンパ腫発症動物のいずれにおいても、感染細胞の割合は100%である。
一方、伝染性リンパ腫の病勢が進んでいない状態(伝染性リンパ腫非発症)の場合、BLVプロウイルスの挿入位置が異なる多様な感染細胞が存在する。しかし、伝染性リンパ腫を発症し、特定の感染細胞が腫瘍性に増殖すると、感染細胞の多様性が失われる。そのため、伝染性リンパ腫発症動物では、特定の感染細胞にほぼ占有された状態となる。図1には、NGS解析による感染細胞の多様性評価結果の典型例を併記している。典型的なNGS解析結果では、伝染性リンパ腫非発症動物では感染細胞の多様性が高く、伝染性リンパ腫発症動物では単一クローンの感染細胞で占められる。
【0025】
図2は、1実施形態の検査方法の原理を説明する図である。伝染性リンパ腫非発症動物では、BLVプロウイルスの挿入位置が異なる多様な感染細胞が存在する。BLVプロウイルスの配列は既知であるため、BLVプロウイルス配列から、BLVプロウイルスのホスト動物ゲノムにおける挿入位置を特定することができる。
BLVプロウイルスDNAとホスト動物ゲノムDNAとのゲノム境界領域において、プロウイルス側DNAは各感染細胞で共通である。一方、ホスト側DNAは、プロウイルスの挿入位置に応じて異なっている。
伝染性リンパ腫非発症動物では、感染細胞の多様性が高いため、ゲノム境界領域におけるホスト側DNAには多様性がある。そのため、サンガーシーケンシングによるスペクトルデータは、ホスト側DNAでは、各ヌクレオチド位置において、各塩基に対応する4種の蛍光色素ピークが混在した波形となる。
伝染性リンパ腫発症動物では、感染細胞のクローン性が高いため、ゲノム境界領域におけるホスト側DNAには多様性がない。そのため、サンガーシーケンシングによるスペクトルデータは、ホスト側DNAでも、各ヌクレオチド位置において、略単一の塩基に対応する蛍光色素ピークが形成される波形となる。
【0026】
したがって、ゲノム境界領域のスペクトルデータを取得することにより、感染細胞の多様性を評価することができる。また、感染細胞の多様性から、伝染性リンパ腫の病勢を評価することができる。
なお、本明細書では、工程(b)で得らえるDNA断片において、ホスト動物ゲノムDNAのヌクレオチド配列を有する領域をホスト動物ゲノムDNA又はホスト側DNAという場合がある。工程(b)で得らえるDNA断片において、BLVプロウイルスDNAのヌクレオチド配列を有する領域をBLVプロウイルスDNA又はプロウイルス側DNAという場合がある。
【0027】
<工程(a)>
工程(a)では、牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)に感染したホスト動物の感染細胞試料を調製する。
【0028】
ホスト動物がBLVに感染しているか否かは、公知の方法で確認することができる。例えば、BLVのプロウイルスに特異的にアニーリングするプライマーを用いてBLVプロウイルスのDNAを増幅する方法;BLVのタンパク質に特異的に結合する抗体を用いて
BLVを検出する方法等が挙げられる。
【0029】
BLVは、主にB細胞に感染するため、通常、ホスト動物から血液を採取することにより、感染細胞試料を得ることができる。血液は、例えば、密度勾配遠心方等を用いて、単核細胞成分を分離してもよい。
【0030】
感染細胞試料を調製後、感染細胞からゲノムDNAを抽出してもよい。ゲノムDNAの抽出は公知の方法で行うことができる。あるいは、感染細胞を破砕した細胞破砕液を調製し、工程(b)に供してもよい。
【0031】
<工程(b)>
工程(b)では、感染細胞のゲノムDNAを鋳型として、牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)のプロウイルスDNA及びホスト動物のゲノムDNAの両方を含むゲノム境界領域のDNA断片を増幅する。
【0032】
ゲノム境界領域において、ホスト側DNAは通常不明である。一方、BLVプロウイルス側DNAは既知である。そのため、ゲノム境界領域におけるプロウイルス側DNAに特異的にアニーリングするプライマーを用いることにより、ゲノム境界領域のDNA断片を増幅することができる。
【0033】
ゲノム境界領域は、BLVプロウイルスの3’末端側に設定してもよく、5’末端側に設定してもよい。1実施形態において、ゲノム境界領域は、BLVプロウイルスの3’末端側に設定する。ゲノム境界領域を、BLVプロウイルスの3’末端側に設定することにより、プロウイルス側DNAに特異的にアニーリングするフォワードプライマーを用いて、ホスト側DNA方向にDNA伸長反応を行うことができる。DNA伸長反応により得られたDNA鎖は、3’末端にアダプターを付加してもよい。3’末端にアダプターを付加することにより、当該アダプターに特異的にアニーリングするリバースプライマーと、プロウイルス側DNAに特異的にアニーリングするフォワードプライマーとを用いて、ゲノム境界領域の核酸増幅反応を行うことができる。
アダプター配列は、特に限定されず、任意のものを用いることができる。ゲノム境界領域のDNA断片を特異的に増幅するために、アダプターは、プロウイルス及びホスト動物ゲノムに存在しない配列を有することが好ましい。アダプター配列を付加する前又は付加した後に、DNA断片を精製してもよい。この場合、アダプター配列には、プロウイルス及びホスト動物ゲノムに存在する配列を用いてもよい。アダプター配列としては、例えば、ポリA配列等が挙げられる。
【0034】
(プライマー)
工程(b)で用いるプライマーは、ゲノム境界領域のプロウイルス側配列に基づいて設計することができる。BLVは、全ゲノムが解読されており、NCBI等の配列データベースに登録されている。そのため、それらの配列データベースから、BLVゲノム配列及びプロウイルス配列を取得することができる。
【0035】
ゲノム境界領域のプロウイルス側DNAに特異的にアニーリングするフォワードプライマーとしては、例えば、下記(i)~(iv)のプライマーが挙げられる。
(i)配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列を有するプライマー。
(ii)牛伝染性リンパ腫ウイルスのプロウイルスDNAにおいて、配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列を含むプライマーが特異的にアニーリングする領域に、特異的にアニーリングするプライマー。
(iii)配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列において、1個又は複数個のヌクレオチドが、欠失、付加、又は置換されたヌクレオチド配列を有し、且つ前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングするプライマー。
(iv)配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列と、90%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、且つ前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングするプライマー。
【0036】
前記(i)~(iv)のプライマーは、BLVプロウイルスの3’LTR又はその直近領域に特異的にアニーリング可能なプライマーである。(i)~(iv)のプライマーは、公知のBLVが共通して有する配列に特異的にアニーリングすることができる。そのため、幅広い範囲のBLVに適用することができる。
【0037】
前記(iii)において、「複数個」としては、例えば、2~6個、2~5個、2~3個、又は2個が挙げられる。
前記(iv)において、配列同一性としては、例えば、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上が挙げられる。
【0038】
プライマーの長さは、特に限定されず、核酸伸長反応で通常用いられる長さとすることができる。プライマーの長さの下限値としては、例えば、15mer以上、16mer以上、17mer以上、18mer以上、又は19mer以上が挙げられる。プライマーの長さの上限値としては、例えば、30mer以下、29mer以下、28mer以下、27mer以下、26mer以下、又は25mer以下が挙げられる。これらの上限値及び下限値は任意に組合せ可能である。
【0039】
(工程(b)の例)
工程(b)は、DNA伸長反応、DNA断片の精製、ネステッドPCR等の公知の手法を組み合わせて実施してもよい。
図3は、工程(b)の一例を説明する模式図である。図3に示す方法では、工程(b)は、以下の(b1)~(b7)の工程を含む。
(b1)前記感染細胞のゲノムDNAを鋳型として、前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングする第1のプライマーを用いて、DNA伸長反応を行う工程。
(b2)前記(b1)の工程で生成された第1のDNA断片を精製する工程。
(b3)前記第1のDNA断片に第1のアダプターを付加する工程。
(b4)前記第1のアダプターが付加された前記第1のDNA断片を鋳型として、前記第1のアダプターに特異的にアニーリングし、且つ第2のアダプターを含む第2のプライマーを用いて、DNA伸長反応を行う工程。
(b5)前記(b4)の工程で生成された第2のDNA断片を精製する工程。
(b6)前記(b5)の工程で精製された第2のDNA断片を鋳型として、前記第2のDNA断片が含む前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングする第3のプライマーと、前記第2のアダプターに特異的にアニーリングする第4のプライマーを用いて、核酸増幅反応を行う工程。
(b7)前記(b6)の工程で得られた第3のDNA断片を鋳型として、前記第3のDNA断片が含む前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングする第5のプライマーと、前記第2のアダプターに特異的にアニーリングする第6のプライマーを用いて、核酸増幅反応を行う工程。
【0040】
工程(b1):
工程(b1)では、感染細胞のゲノムDNAを鋳型として、プロウイルスDNAに特異的にアニーリングする第1のプライマーを用いて、DNA伸長反応を行い、一本鎖DNA断片を得る。
【0041】
図3中、第1のプライマーはF1で表される。第1のプライマーF1は、ゲノム境界領域のプロウイルス側DNAに特異的にアニーリングするフォワードプライマーである。第1のプライマーF1は、プロウイルス側DNAにアニーリングし、ホスト側DNAへのDNA伸長反応の起点となる。図3の例では、第1のプライマーF1は、プロウイルスDNAの3’LTR直近の領域にアニーリングする。
第1のプライマーとしては、例えば、配列番号1に記載のヌクレオチド配列を有するプライマー、及びその改変プライマー(例えば、前記(ii)~(iv))が挙げられる。
【0042】
第1のプライマーF1は、後の工程でDNA断片を精製するために、結合対の第1要素で標識化してもよい。「結合対」とは、互いに結合する2つの分子(1対の分子)をいう。結合対の「第1要素」とは、結合対を構成する1対の分子のうちの一方の分子をいう。結合対の「第2要素」とは、結合対を構成する1対の分子のうちの他方の分子をいう。結合対の例としては、例えば、ビオチン若しくはその誘導体及びアビジン若しくはその誘導体(ストレプトアビジン、ニュートラアビジン等);抗原及び抗体若しくは抗体断片;リガンド及び受容体等が挙げられる。1実施形態において、第1のプライマーF1は、ビオチン標識されている。
【0043】
DNA伸長反応は、公知の方法により行うことができる。ゲノムDNAの切断処理等を行ってもよい。切断処理は、制限酵素による切断、DNA伸長反応に用いる反応液は、dNTP、DNAポリメラーゼ、第1のプライマー、及び感染細胞のゲノムDNA、及びマグネシウム塩等を含むことができる。DNA伸長反応は、プレ変性(例えば、94~98℃、1~5分)を行った後、変性(例えば、94~98℃、5~20秒)、及び伸長(例えば、70~75℃、30~100秒)のサイクルを繰り返すことにより、行うことができる。DNA伸長反応の結果、プロウイルス側DNAとホスト側DNAとを含む第1のDNA断片が生成される。第1のDNA断片は、DNA伸長反応後に変性することにより、1本鎖DNAとして取得してもよい。
【0044】
工程(b2):
工程(b2)では、前記(b1)の工程で生成された第1のDNA断片を精製する。
【0045】
第1のDNA断片の精製は、公知の方法で行うことができる。例えば、市販のDNA精製カラムを用いることができる。第1のDNA断片の精製を行うことにより、未反応の第1のプライマー及び感染細胞のゲノムDNAを除去することができる。
【0046】
工程(b3):
工程(b3)では、第1のDNA断片に第1のアダプターを付加する。
【0047】
第1のアダプターは、任意のものを用いることができる。第1のDNA断片に対する第1のアダプターの付加は、公知の方法により行うことができる。1実施形態において、第1のアダプターは、通常、第1のDNA断片の3’末端に付加される。
第1のアダプターとしては、例えば、ポリA配列が挙げられる。第1のアダプターとしてのポリA配列は、例えば、TdT(Terminal Deoxynucleotidyl Transferase)、及びdATPを用いて、第1のDNA断片の3’末端に付加することができる。TdTは、1本鎖又は2本鎖DNAの3’-OH末端にデオキシヌクレオチドを付加する反応を触媒する。第1のDNA断片の3’末端に対するポリA付加反応の反応液は、例えば、dATP、TdT、第1のDNA断片、及びコバルト塩等を含むことができる。ポリA付加反応に用いる第1のDNA断片は、1本鎖DNAであってもよい。ポリA付加反応の反応温度としては、例えば、30~40℃、又は35~40℃等が挙げられる。一例として、反応温度は37℃である。反応時間は、特に限定されないが、例えば、10~60分、15~50分、又は20~40分等が挙げられる。前記反応液において、dATPに替えてdTTP、dCTP若しくはdGTPを用いることにより、第1のDNA断片の3’末端に、第1のアダプターとしてポリT配列、ポリC配列若しくはポリG配列を付加することができる。
【0048】
工程(b4):
工程(b4)では、第1のアダプターが付加された第1のDNA断片を鋳型として、第1のアダプターに特異的にアニーリングし、且つ第2のアダプターを含む第2のプライマーを用いて、DNA伸長反応を行う。
【0049】
図3中、第2のプライマーはR1で表される。第2のプライマーR1は、第1のアダプターに特異的にアニーリングするリバースプライマーである。第2のプライマーR1は、第1のアダプターに特異的にアニーリングする配列(以下、「第1アダプターアニーリング配列」という)を含む。例えば、第2のプライマーは、第1のアダプターの相補配列を含む。第1のアダプターがポリA配列である場合、第2のプライマーはポリT配列を含む。
【0050】
第2のプライマーR1は、第1アダプターアニーリング配列に加えて、第2のアダプターを含む。第2のプライマーR1において、第2のアダプターは、第1アダプターアニーリング配列の5’末端側に存在する。第2のアダプターは、特に限定されず、任意のものを用いることができる。核酸増幅反応中の非特異的増幅を防止するために、第2のアダプターは、ゲノム境界領域に存在する配列を含まないことが好ましい。第2のアダプターは、後述の工程(b6)の核酸増幅反応で用いるアダプター配列ADP1と、工程(b7)の核酸増幅反応で用いるアダプター配列ADP2とを含んでいてもよい。
【0051】
DNA伸長反応は、公知の方法で行うことができる。DNA伸長反応は、プレ変性(例えば、94~98℃、1~5分)を行った後、変性(例えば、94~98℃、5~20秒)、アニーリング(例えば、40~60℃、40~100秒)、及び伸長(例えば、70~75℃、30~100秒)のサイクルを繰り返すことにより、行うことができる。サイクル数は、1回であってもよい。DNA伸長反応の結果、プロウイルス側DNA、ホスト側DNA、第1のアダプター配列、及び第2のアダプター配列を含む第2のDNA断片が生成される。
【0052】
工程(b5):
工程(b5)では、前記(b4)の工程で生成された第2のDNA断片を精製する。
【0053】
第2のDNA断片の精製は、任意の方法で行うことができる。第1のプライマーとして、結合対の第1要素で標識されたプライマーを用いた場合には、当該結合対の第2要素との結合作用を利用して、第2のDNAを精製することができる。例えば、第1のプライマーとしてビオチン標識したプライマーを用いた場合には、アビジン若しくはその誘導体(ストレプトアビジン、ニュートラアビジン等)で表面修飾した磁気ビーズ等を用いて第2のDNA断片の精製を行うことができる。
【0054】
工程(b6):
工程(b6)では、前記(b5)の工程で精製された第2のDNA断片を鋳型として、前記第2のDNA断片が含むプロウイルスDNAに特異的にアニーリングする第3のプライマーと、第2のアダプターに特異的にアニーリングする第4のプライマーを用いて、核酸増幅反応を行う。
【0055】
図3中、第3のプライマーはF2で表される。第3のプライマーF2は、第2のDNA断片が含むプロウイルスDNAに特異的にアニーリングするフォワードプライマーである。第3のプライマーF2は、第1のプライマーF1と同じであってもよく、異なっていてもよい。非特異的な増幅により生成するDNA断片を排除する観点から、第3のプライマーF2は、第1のプライマーF1と異なっていることが好ましい。第3のプライマーF1が、第1のプライマーF1とは異なる場合、第3のプライマーF2は、第1のプライマーF1のアニーリング位置よりも3’側の領域に、特異的にアニーリングすることが好ましい。
第3のプライマーとしては、例えば、配列番号2に記載のヌクレオチド配列を有するプライマー、及びその改変プライマー(例えば、前記(ii)~(iv))が挙げられる。
【0056】
図3中、第4のプライマーはR2で表される。第4のプライマーR2は、第2のアダプターのアダプター配列ADP1に特異的にアニーリングするリバースプライマーである。1実施形態において、第4のプライマーR2は、アダプター配列ADP1の相補配列を含む。
【0057】
核酸増幅反応は、公知の方法により行うことができる。核酸増幅反応に用いる反応液は、dNTP、DNAポリメラーゼ、第3のプライマーF2、第4のプライマーR2、工程(b5)で精製した第2のDNA断片、及びマグネシウム塩等を含むことができる。
【0058】
核酸増幅反応は、公知の方法で行うことができる。核酸増幅反応は、プレ変性(例えば、94~98℃、1~5分)を行った後、変性(例えば、94~98℃、5~20秒)、アニーリング(例えば、40~60℃、40~100秒)、及び伸長(例えば、70~75℃、30~100秒)のサイクルを繰り返すことにより、行うことができる。あるいは、核酸増幅反応は、変性(例えば、94~98℃、5~20秒)、及び伸長(例えば、70~75℃、30~100秒)のサイクルを繰り返すことにより、行ってもよい。サイクル数は、例えば、10~50回とすることができる。核酸増幅反応の結果、プロウイルス側DNA、ホスト側DNA、及び第2のアダプターを含む第3のDNA断片が生成される。
【0059】
工程(b7):
工程(b7)では、前記(b6)の工程で得られた第3のDNA断片を鋳型として、前記第3のDNA断片が含むプロウイルスDNAに特異的にアニーリングする第5のプライマーと、第2のアダプターに特異的にアニーリングする第6のプライマーを用いて、核酸増幅反応を行う。
【0060】
図3中、第5のプライマーはF3で表される。第5のプライマーF3は、第3のDNA断片が含むプロウイルスDNA配列に特異的にアニーリングするフォワードプライマーである。第5のプライマーとしては、例えば、配列番号3に記載のヌクレオチド配列を有するプライマー、及びその改変プライマー(例えば、前記(ii)~(iv))が挙げられる。
【0061】
図3中、第6のプライマーはR3で表される。第6のプライマーR3は、第2のアダプターのアダプター配列ADP2に特異的にアニーリングするリバースプライマーである。第2のアダプターにおいて、アダプター配列ADP2は、アダプター配列ADP1よりも3’側に位置する。1実施形態において、第4のプライマーR3は、アダプター配列ADP2の相補配列を含む。
【0062】
核酸増幅反応は、公知の方法により行うことができる。核酸増幅反応に用いる反応液は、dNTP、DNAポリメラーゼ、第5のプライマーF3、第6のプライマーR3、第3のDNA断片、及びマグネシウム塩等を含むことができる。
【0063】
核酸増幅反応は、公知の方法で行うことができる。核酸増幅反応は、プレ変性(例えば、94~98℃、1~5分)を行った後、変性(例えば、94~98℃、5~20秒)、アニーリング(例えば、40~60℃、40~100秒)、及び伸長(例えば、70~75℃、30~100秒)のサイクルを繰り返すことにより、行うことができる。あるいは、核酸増幅反応は、変性(例えば、94~98℃、5~20秒)、及び伸長(例えば、70~75℃、30~100秒)のサイクルを繰り返すことにより、行ってもよい。サイクル数は、例えば、10~50回とすることができる。核酸増幅反応の結果、プロウイルス側DNA、ホスト側DNA、及びアダプターADP2を含む第4のDNA断片が生成される。
【0064】
工程(b1)~(b7)は、一部の工程を省略してもよい。省略可能な工程としては、例えば、工程(b2)、工程(b5)、工程(b6)、工程(b7)等が挙げられる。
【0065】
<工程(c)>
工程(c)では、前記工程(b)で得られたDNA断片のサンガーシーケンシングを行い、前記サンガーシーケンシングによるスペクトルデータを取得する。
【0066】
DNA断片のサンガーシーケンシングは、公知の方法により行うことができる。例えば、サンガーシーケンシング用シーケンサーに付属の説明書に従って、サンガーシーケンシングを行うことができる。例えば、サンガーシーケンシングは、工程(b)で得られたDNA断片のサンガーシーケンシング反応を行い、その反応液をサンガーシーケンシング用シーケンサーで分析することにより、行うことができる。サンガーシーケンシングにより、ddNTPの標識蛍光色素のスペクトルデータ(サンガーシーケンシングによるスペクトルデータ)を取得することができる。サンガーシーケンシング反応は、例えば、BigDye Terminator v3.1 Cycyle Sequencing Kit(ThermoFisher Scientific)等を用いて行うことができる。サンガーシーケンシング用シーケンサーとしては、例えば、Applied Biosystems 3130シリーズジェネティックアナライザ、3500シリーズジェネティックアナライザ、及び3730シリーズジェネティックアナライザ(ThermoFisher Scientific)等が挙げられる。
【0067】
<工程(d)>
工程(d)では、工程(c)で得られたスペクトルデータに基づいて、前記DNA断片における、プロウイルスDNAに由来する領域(プロウイルス側DNA)と、ホスト動物のゲノムDNAに由来する領域とを特定し、ホスト動物のゲノムDNAに由来する領域(ホスト側DNA)の均一性を判定する。
【0068】
工程(c)で得られたスペクトルデータから、ゲノム境界領域のDNA断片の配列を決定することができる。プロウイルス側DNAの配列は既知であるため、プロウイルス側DNAの配列に基づいて、プロウイルス側DNAとホスト側DNAとの境界を決定することができる。
【0069】
ホスト側DNAの配列は、ホスト動物ゲノムへのプロウイルスの挿入位置により異なる。ホスト側DNAの均一性が高い場合、スペクトルデータは、略単一の蛍光色素(蛍光色素に対応する塩基)により形成されるピークが連続した波形となる。一方、ホスト側DNAの均一性が低い場合、スペクトルデータは、各ヌクレオチド位置において、複数の蛍光色素(蛍光色素に対応する塩基)のピークが混在した波形となる(図2参照)。したがって、ホスト側DNAのスペクトルデータの波形から、ホスト側DNAの均一性を判定することができる。
【0070】
ホスト側DNAの均一性は、各蛍光色素(蛍光色素に対応する塩基)の波形に基づいて算出される数値に基づいて判定してもよい。例えば、各ヌクレオチド位置において、最大ピーク面積を有するピークの面積に対する、他のピークの合計面積の比を算出し、ホスト側DNAの均一性の判定に用いてもよい。
ホスト側DNAの均一性は、スペクトルデータを処理するプログラム等を用いて数値化してもよい。そのようなプログラムとしては、例えば、EditR(Mitchell G. Kluesner et al., CRISPR J. 2018 Jun 1; 1(3): 239-250.)等が挙げられる。EditRは、スペクトルデータから、「クローンインデックス値」を算出する。このクローンインデックス値を用いて、ホスト側DNAの均一性を判定してもよい。クローンインデックス値が大きいほど、DNAの均一性が高いことを示す。
【0071】
<工程(e)>
工程(e)では、ホスト動物のゲノムDNAに由来する領域(ホスト側DNA)の均一性に基づいて、ホスト動物における牛伝染性リンパ腫の病勢を判定する。
【0072】
ゲノム境界領域におけるホスト側DNAの均一性が高い場合、ホスト動物における牛伝染性リンパ腫の病勢が進んでいると判定することができる。一方、ゲノム境界領域におけるホスト側DNAの均一性が低い場合、ホスト動物における牛伝染性リンパ腫の病勢が進んでいないと判定することができる。
【0073】
例えば、EditRにより取得したホスト側DNAのクローンインデックス値が、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.85以上、0.9以上、0.95以上、又は1.0以上である場合、ホスト動物は牛伝染性リンパ腫を発症していると判断してもよい。
また、例えば、ホスト側DNAのクローンインデックス値が、0.05以上、0.1以上、0.15以上、0.2以上、0.25以上、又は0.3以上である場合、ホスト動物は牛伝染性リンパ腫を発症するリスクが高まっていると判定してもよい。
【0074】
本開示の検査方法では、牛伝染性リンパ腫の病勢判定に、ゲノム境界領域のサンガーシーケンシングにより得られるスペクトルデータを利用する。そのため、NGS解析と比較して、低コストで、簡易、且つ迅速に、牛伝染性リンパ腫の病勢を判定することができる。
上記(i)~(iv)からなる群より選択されるプライマーを用いて、工程(b)を行うことにより、現在知られているほぼ全てのBLVに適用することができる。また、正確に、牛伝染性リンパ腫の病勢判定を行うことができる。
【0075】
[プライマー]
本開示の第2の態様は、下記(i)~(iv)からなる群より選択される少なくとも1種のプライマーである。
(i)配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列を有するプライマー。
(ii)牛伝染性リンパ腫ウイルスのプロウイルスDNAにおいて、配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列を含むプライマーが特異的にアニーリングする領域に、特異的にアニーリングするプライマー。
(iii)配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列において、1個又は複数個のヌクレオチドが、欠失、付加、又は置換されたヌクレオチド配列を有し、且つ前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングするプライマー。
(iv)配列番号1、2、又は3に記載のヌクレオチド配列と、90%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、且つ前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングするプライマー。
【0076】
(i)~(iv)のプライマーは、上記工程(b)で例示したものと同様である。プライマーは、ホスホロアミダイタト法等の公知の固相合成法により合成することができる。
【0077】
[検査キット]
本開示の第3の態様は、前記第2の態様のプライマーを含む、牛伝染性リンパ腫の病勢の検査キットである。
【0078】
検査キットは、前記(i)~(iv)からなる群より選択されるプライマーを1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
検査キットが含むプライマーの組合せとしては、以下の組み合わせが挙げられる。
【0079】
(A)配列番号1に記載のヌクレオチド配列を有するプライマー;牛伝染性リンパ腫ウイルスのプロウイルスDNAにおいて、配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含むプライマーが特異的にアニーリングする領域に、特異的にアニーリングするプライマー;配列番号1に記載のヌクレオチド配列において、1個又は複数個のヌクレオチドが、欠失、付加、又は置換されたヌクレオチド配列を有し、且つ前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングするプライマー;又は、配列番号1に記載のヌクレオチド配列と、90%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、且つ前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングするプライマーと、
(B)配列番号2に記載のヌクレオチド配列を有するプライマー;牛伝染性リンパ腫ウイルスのプロウイルスDNAにおいて、配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むプライマーが特異的にアニーリングする領域に、特異的にアニーリングするプライマー;配列番号2に記載のヌクレオチド配列において、1個又は複数個のヌクレオチドが、欠失、付加、又は置換されたヌクレオチド配列を有し、且つ前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングするプライマー;又は、配列番号2に記載のヌクレオチド配列と、90%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、且つ前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングするプライマーと、
の組み合わせ。
【0080】
前記(A)のプライマーと、
(C)配列番号3に記載のヌクレオチド配列を有するプライマー;牛伝染性リンパ腫ウイルスのプロウイルスDNAにおいて、配列番号3に記載のヌクレオチド配列を含むプライマーが特異的にアニーリングする領域に、特異的にアニーリングするプライマー;配列番号3に記載のヌクレオチド配列において、1個又は複数個のヌクレオチドが、欠失、付加、又は置換されたヌクレオチド配列を有し、且つ前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングするプライマー;又は、配列番号3に記載のヌクレオチド配列と、90%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、且つ前記プロウイルスDNAに特異的にアニーリングするプライマーと、
の組み合わせ。
【0081】
前記(B)のプライマーと、前記(C)のプライマーと、の組み合わせ。
前記(A)のプライマーと、前記(B)のプライマーと、前記(C)のプライマーと、の組み合わせ。
【0082】
検査キットは、前記プライマーに加えて、他の構成を含んでもよい。他の構成としては、例えば、アダプター、前記アダプターに特異的にアニーリングするプライマー、DNAポリメラーゼ、dNTP、TdT、反応バッファー、マグネシウム塩、使用説明書等が挙げられる。
【0083】
本開示の検査キットは、前記第1の態様の検査方法に用いることができる。
【実施例0084】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
[検査方法]
<プライマーの設計>
プライマーは、以下の方針に基づいて設計した。
(1)BLVゲノムの末端領域のDNA配列にアニーリングするプライマーを設計する必要がある。BLVゲノムは、両末端にLTR(Long Terminal Repeat)を有しているため、それらを区別する必要がある。
そこで、3’LTRの直近にプライマーを設計し、3’LTRからホストゲノムのジャンクションまで増幅させることで、5’LTRと区別することとした。
【0086】
(2)ゲノム境界領域のホスト側配列の均一性をサンガーシーケンシングにより得られたスペクトルデータから判断するため、非特異的な増幅は避ける必要がある。
そこで、ネステッドPCRを行って特異度を上げることとした。そのため、複数のプライマーセットを設計した。
【0087】
(3)特定のBLV株ではなく、BLV全般に適用するためには、幅広い範囲のBLVのゲノムDNAに共通して使用可能なプライマーを設計する必要がある。
そこで、NCBI等の配列データベースから合計58個のBLVのゲノム配列を取得した。これらのゲノム配列を比較解析し、直近を含む3’LTR配列の中で、これらのゲノム配列に共通する配列を選択した。
【0088】
(4)PCRによる増幅が可能なプライマーとする必要があるが、直近を含む3’LTR配列は非常にGCリッチであった。
そこで、(3)で選択した共通配列の中から、GCの%比率が40~60%程度であるプライマー候補配列を選択した。
【0089】
上記の結果、表1に示す「Biotinylated-BLV-F1」、「BLV-F2」、及び「BLV-F3」の3種のプライマーを設計した。
【0090】
<DNA試料の調製>
DNA試料の調製は、牛血液からQIAamp DNA Blood Mini kit(QIAGEN)を用いて、製造者の説明書に従い行った。具体的には、下記の通りに行った。
a)200μLの血液試料に、20μLのQIAGEN Protenaseを添加した。
b)各チューブをよく撹拌した後、200μLのBuffer ALを添加した。
c)56℃で10分間反応させた後、各サンプルに200μLのエタノールを加え、15秒間ボルテックス撹拌した。次いで、各チューブをスピンダウンして溶液を底に収集した。
d)各チューブから300μLを採取して、ラベルを貼ったQIAquickカラムに移した。
e)8000rpmで1分間遠心分離した。
f)上清を除去した。
g)QIAamp Mini Spin カラムに、500μLのBuffer AW1を添加した。
h)8000rpmで1分間遠心分離した。
i)上清を除去した。
j)QIAamp Mini Spin カラムに、500μLのBuffer AW2を添加した。
k)14000rpmで3分間遠心分離した。
l)QIAamp Mini Spinカラムを、新しい1.5mLチューブに入れた。
m)100μLのElution Buffer(Buffer AE)をQIAamp Mini Spinカラムの中央に添加し、1分間遠心分離した後、-20℃で保存した。
【0091】
<サンガーシーケンシング用試料の調製>
使用したプライマーを表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
(1)1本鎖DNA(ssDNA)の合成
表2に示す反応液を調製し、表3に示す条件で、DNA伸長反応を行った。次いで、サーマルサイクラーの温度を4℃に低下させた後、サーマルサイクラーからチューブを取出し、短時間の遠心分離を行った。
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
(2)カラム精製
ssDNAの精製は、Monarch PCR & DNA Cleanup Kit(NEW England biolabs)を用いて、製造者の説明書に従い行った。具体的には、下記の通りに行った。
【0097】
a)50μLのssDNA試料に、250μLのBuffer PBを添加した(体積比5:1)。
b)各チューブをピペッティングによりよく撹拌した。
c)QIAquickカラム(QIAGEN)と2mL採血管にラベルを貼った。
d)各チューブから300μLを採取して、ラベルを貼ったQIAquickカラムに移し、2mL採血管の中に入れた。
e)12000rpmで1分間遠心分離した。
f)上清を除去した。
g)QIAquickカラムに、730μLのBuffer PEを添加した。
h)12000rpmで1分間遠心分離した。
i)上清を除去し、同じ採血管にQIAquickカラムを戻した。
j)12000rpmで1分間遠心分離した。
k)QIAquickカラムを採血管から取り出し、新しい1.5mL low-bindエッペンドルフチューブにQIAquickカラムを入れた。
l)30μLのElution Buffer(Buffer EB)をQIAquick membraneの中央に添加し、1分間遠心分離した。
m)20℃で保存した。
【0098】
(3)PolyA-tailing
表4に示す反応液で、37℃で30分間インキュベートし、PolyA-tailingを行った。
【0099】
【表4】
【0100】
(4)2本鎖DNAの合成
表5に示す反応液を調製し、表6に示す条件で、核酸増幅反応を行った。次いで、サーマルサイクラーの温度を4℃に低下させた後、サーマルサイクラーからチューブを取出し、短時間の遠心分離を行った。
【0101】
【表5】
【0102】
【表6】
【0103】
(5)アビジンビーズ精製
2本鎖DNAの精製は、MagnosphereTM(登録商標) MS300/ストレプトアビジン(JSRライフサイエンス)を用いて、製造者の説明書に従い行った。
【0104】
MagnosphereTM MS300/ストレプトアビジンへのビオチン化DNAの固定に用いた試薬及び機器を以下に示す。
a)Binding buffer(2x):20mM Tris-HCl(pH7.4) with 1mM EDTA,2M NaCl,0.1% Tween20
b)機器:磁性分離器、ボルテックスチューブミキサー、チューブローター
【0105】
具体的には、下記の通りに行った。
i)マイクロチューブにラベルを貼った。
ii)MagnosphereTM MS300/ストレプトアビジンをボルテックスミキサーで懸濁し、30μの懸濁液(すなわち、1mgビーズ)をマイクロチューブに入れた。
iii)マグネティックチューブスタンドに、チューブを1分間以上置き、上清を注意深く除去した。
iv)200μLの1x Binding bufferを添加し、ボルテックスミキサーを用いて、ビーズを懸濁した。次いで、iii)と同様にして上清を除去した。
v)ビオチン化DNA溶液及び等量の2x Binding bufferをマイクロチューブに添加し、ボルテックスミキサーでビーズを懸濁した。
vi)チューブローターを用いて、室温で10分間、チューブを回転させた。
vii)iii)と同様にして上清を除去した。
viii)200μLの1x Binding bufferを用いてビーズを洗浄し、ボルテックスミキサーでビーズを懸濁した。
ix)iii)と同様にして上清を除去した。
x)viii)及びix)を合計3回繰り返した。
xi)50μL蒸留水でビーズを懸濁し、使用するまで2~8度で保存した。
【0106】
(6)1回目のPCR(First PCR)
表7に示す反応液を調製し、表8に示す条件で、核酸増幅反応を行った。次いで、サーマルサイクラーの温度を4℃に低下させた後、サーマルサイクラーからチューブを取出し、短時間の遠心分離を行った。
【0107】
【表7】
【0108】
【表8】
【0109】
(7)2回目のPCR(Second PCR)
表9に示す反応液を調製し、表10に示す条件で、核酸増幅反応を行った。次いで、サーマルサイクラーの温度を4℃に低下させた後、サーマルサイクラーからチューブを取出し、20℃で保存した。
【0110】
【表9】
【0111】
【表10】
【0112】
<サンガーシーケンシング>
サンガーシーケンシングは、株式会社FASMACに委託した。サンガーシーケンシング用シーケンサーとして、Applied Biosystems 3130xl Genetic Analyzer又はApplied Biosystems 3730xl DNA Analyzerを用いた。サンガーシーケンシング反応は、Applied Biosystems Big Dye Terminator v3.1(ThermoFisher Scientific)を用いて行った。
【0113】
<実施例1>
伝染性リンパ腫非発症牛、リンパ球増多症牛(伝染性リンパ腫非発症牛)、及び伝染性リンパ腫発症牛から血液試料を採取した。採取した血液試料からDNA試料を調製し、上記[検査方法]に従い、各塩基に対応する蛍光色素のスペクトルデータを得た。前記スペクトルデータをEditR(Mitchell G. Kluesner et al., CRISPR J. 2018 Jun 1; 1(3): 239-250.)を用いて解析し、クローンインデックスを得た。
【0114】
結果を図4に示す。図4において、Aは、サンガーシーケンシングにより得られたスペクトルデータを示す。Bは、EditRによるスペクトルデータの解析結果と、クローンインデックス値を示す。Bにおいて、「signal」は、シグナルピーク(最大面積を有するピーク)のピーク面積を示し、「noise」は、シグナルピーク以外のピークのピーク面積を示す。
【0115】
図4に示すように、伝染性リンパ腫非発症牛では、クローンインデックス値が低く、感染細胞のクローン化が進んでいなかった。リンパ球増多症牛では、伝染性リンパ腫非発症牛と比較して、クローンインデックス値が高く、感染細胞のクローン化が進んでいた。伝染性リンパ腫発症牛では、クローンインデックス値が1を超えており、感染細胞はほぼ単一クローンになっていると考えられた。
【0116】
<実施例2>
実施例1で調製したDNA試料を用いて、次世代シーケンサー(NGS)解析を行った。NGS解析により、BLVのプロウイルスDNAとホスト動物のゲノムDNAのゲノム境界領域におけるホスト動物のゲノムDNA配列の多様性を分析した。
【0117】
結果を図5に示す。図5において、Aは、実施例1で得られたEditRによる解析結果とクローンインデックス値を示す。Bは、NGS解析により得られたゲノム境界領域におけるホスト動物のゲノムDNA配列の多様性を示す。
【0118】
図5に示すように、NGS解析結果は、伝染性リンパ腫非発症牛、及びリンパ球増多症牛、伝染性リンパ腫発症牛の順で、感染細胞のクローン化が進んでいた。伝染性リンパ腫発症牛では、ゲノム境界領域のホスト動物DNAは100%同一配列だった。これらの結果は、実施例1で得られたクローンインデックス値と一致した。
【0119】
<実施例3>
BLVに感染した牛から、2015年及び2017年に血液試料を採取した。また、伝染性リンパ腫発症時(2018年)に、2箇所の腫瘍から組織試料を採取した。採取した血液試料又は組織試料からDNA試料を調製し、上記[検査方法]に従い、サンガーシーケンシングによるスペクトルデータを得た。前記スペクトルデータを、EditRを用いて解析し、クローンインデックスを得た。さらに、同じDNA試料を用いて、NGS解析を行った。また、同じDNA試料を用いて、リアルタイムPCRにより、BLVのプロウイルス量を定量した。BLV感染牛の4症例について同様の分析を行った。
【0120】
各症例の結果を図6~9にそれぞれを示す。図6~9中、「PVL(%)」は、リアルタイムPCRにより得られたBLVのプロウイルス量を示す。「IS」は、BLVプロウイルスの挿入サイト数を示す。
【0121】
図6~9に示すいずれの症例も、2017年の方が2015年よりもクローン化が進んでいた。腫瘍(Tumor(1)、Tumor(2))では、2017年よりもさらにクローン化が進んでいた。図8及び図9の症例では、腫瘍は、ほぼ同一の感染細胞で占められていた。クローンインデックス値の結果は、NGS解析結果と同様の傾向を示した。プロウイルス量(PVL(%))は、病勢とは必ずしも一致していなかった。
【0122】
<実施例4>
12症例の伝染性リンパ腫発症牛の腫瘍から組織試料を採取した。また、11症例の伝染性リンパ腫非発症牛若しくはリンパ球増多症牛の血液試料を採取した。前記組織試料又は血液試料からDNA試料を調製し、上記[検査方法]に従い、サンガーシーケンシングによるスペクトルデータを得た。前記スペクトルデータを、EditRを用いて解析し、クローンインデックスを得た。さらに、同じDNA試料を用いて、NGS解析を行った。
【0123】
結果を図10に示す。図10において、各バーは各症例のNGS解析結果を示す。NGS解析結果を示すバーの上部に、その症例から得られたクローンインデックス値を示した。図10に示すように、クローンインデックス値とNGS解析結果は同様の傾向を示した。伝染性リンパ腫発症牛では、クローン化が進んでいた。伝染性リンパ腫非発症牛又はリンパ球増多症牛では、多様性が高かった。
【0124】
<実施例5>
図11に、複数の伝染性リンパ腫発症牛及び伝染性リンパ腫非発症牛から得たクローンインデックス値をプロットした結果を示す。伝染性リンパ腫発症牛と伝染性リンパ腫非発症牛との間で、クローンインデックス値に有意差(p≦0.00083,ウィルコクソンの順位和検定)が認められた。
【0125】
図12に、複数の伝染性リンパ腫発症牛及び伝染性リンパ腫非発症牛の血液試料において、BLVのプロウイルス量をリアルタイムPCRで定量した結果を示す。プロウイルス量は、伝染性リンパ腫非発症牛の方が高い傾向があり、病勢とは一致していなかった。
【0126】
以上の結果から、本検査方法により得られる結果は牛伝染性リンパ腫の病勢と一致していることが確認された。そのため、本検査方法により、牛伝染性リンパ腫の病勢を検査できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明によれば、簡易かつ迅速に牛伝染性リンパ腫の病勢を評価可能な、牛伝染性リンパ腫の病勢の検査方法、前記検査方法に使用可能なプライマー、及び検査キットが提供される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
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