(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020705
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】難燃性スチレン系樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 25/04 20060101AFI20230202BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20230202BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20230202BHJP
C08K 5/53 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C08L25/04
C08L1/00
C08K7/02
C08K5/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126214
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】野寺 明夫
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB012
4J002AB022
4J002AB032
4J002AC081
4J002BC031
4J002BC041
4J002BC051
4J002BC071
4J002BC081
4J002BC091
4J002BC121
4J002BN071
4J002BN121
4J002BN151
4J002EW136
4J002EW146
4J002FA042
4J002FD012
4J002FD040
4J002FD050
4J002FD070
4J002FD110
4J002FD136
4J002FD200
4J002GC00
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】本発明は、環境負荷を低減し、低発煙性、難燃性、剛性及び色調に優れた難燃性スチレン系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、スチレン系樹脂(A)60~96.7質量%と、ホスフィン酸塩(b)を含む難燃剤(B)3~30質量%と、短軸d1或いは長軸d2の平均長さの少なくとも一方が0.1~10μm未満であるセルロース系多糖類(C)0.3~10質量%と、を含有することを特徴とする難燃性スチレン系樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂(A)60~96.7質量%と、
下記一般式(i):
【化1】
[上記式(i)中、R
i1及びR
i2は、各々独立して、無置換又は1以上の水素原子が置換基R
i3により置換されてもよい、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基又は炭素原子数6~14のアラルキル基であり、
前記置換基R
i3は、下記式(ii):
【化2】
「上記式(ii)中、R
ii1は、各々独立して、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1~6のアルキル基又は炭素原子数6~10のアリール基であり、*は他の原子との結合を表す。」で表され、
M
iは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びプロトン化された窒素塩基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、p
+はM
iのイオン価を表し、1~3の正の整数であり、m
i1は、1~3の正の整数であり、n
-は、-1、-2又は-3の負の整数を表し、rは1~3の正の整数を表し、|p
+×r|=|n
-×m
i1|である。]で表されるホスフィン酸塩化合物(b)を含む難燃剤(B)3~30質量%と、
短軸d
1或いは長軸d
2の平均長さの少なくとも一方が0.1~10μm未満であるセルロース系多糖類(C)0.3~10質量%と、を含有することを特徴とする難燃性スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記ホスフィン酸化合物(b)は、下記一般式(1)で表されるホスフィン酸塩及び下記一般式(2)で表されるジホスフィン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種又は2種以上である、請求項1に記載の難燃性スチレン系樹脂組成物。
【化3】
[上記式(1)中、R
11及びR
12は、各々独立して、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1~6のアルキル基又は炭素原子数6~10のアリール基であり、M
1は、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びプロトン化された窒素塩基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、a
+はM
1のイオン価を表し、1~3の正の整数であり;m
1は、1~3の正の整数であり、a=m
1である。]
【化4】
[式中、R
21及びR
22は、各々独立して、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1~6のアルキル基又は炭素原子数6~10のアリール基であり、L
23は、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1~10のアルキレン基、炭素原子数6~10のアリーレン基、炭素原子数6~14のアルキルアリーレン基又は炭素原子数6~14のアリールアルキレン基であり;M
2は、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びプロトン化された窒素塩基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、b
+はM
2のイオン価を表し、1~3の正の整数であり、m
2は、1~3の正の整数であり、qは、1又は2の正の整数であり、b×q=2m
2である。]
【請求項3】
前記スチレン系樹脂(A)が、スチレン系単量体単位と不飽和カルボン酸系単量体単位とを含む、請求項1又は2に記載の難燃性スチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記セルロース(B)が、リグニンを20質量%以下含有するセルロースである、請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の難燃性スチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記セルロース系多糖類(B)のヘミセルロース量が、1%以上であることを特徴とする、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の難燃性スチレン系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の難燃性スチレン系樹脂組成物を含む、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性スチレン系樹脂組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は、成形性、寸法安定性に加え、耐衝撃性に優れていることから、広範囲な用途に使用されている。中でも難燃性を付与したポリスチレン系樹脂組成物は、家電機器、OA機器を始め多岐にわたり使用されており、現在、リデュース又は軽量化から製品の薄肉化が求められている。
従来から、ポリスチレン系樹脂組成物に対して難燃性を付与することを目的として、種々の難燃剤が提案されている。中でも安価で物性バランスに優れているブロム系難燃剤が多く使用されている。しかしながら、近年ハロゲン含有有機化合物を規制する動きが欧州を中心に活発化していること等から、ブロム元素を含まない難燃樹脂又は難燃樹脂組成物の需要が高まっている。さらにカーボンニュートラルの観点より、バイオ系材料を含有するニーズが高まっている。
【0003】
こうしたブロム系難燃剤の代替難燃剤として、例えば、特許文献1には、熱可塑性ポリマーにホスフィン酸塩を添加する技術が開示されている。
また、特許文献2には、熱可塑性樹脂に難燃剤とセルロースナノファイバーを添加し、難燃性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-124466号公報
【特許文献2】国際公開第2017/169494号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1には、ポリスチレン系樹脂組成物に対して難燃性を付与できるとの記載はあるものの、特許文献1に記載の難燃剤は、ポリスチレンへの分散性が悪く、難燃性が不十分であり、燃焼時に黒煙を発生するなど問題点があった。また、上記した特許文献2の技術では、当該特許文献2に記載された所定の難燃剤及びセルロースナノファイバーをポリスチレン系樹脂組成物中に配合することにより難燃性は向上するものの、ポリスチレンの燃焼時の黒煙を防止できておらず、低発煙性と高剛性との両立を検討していない。そしてさらには、ポリスチレン系樹脂組成物を加工する時、褐色になってしまい、白色系に着色することが困難であるという問題が生じる。
【0006】
そこで、本発明は、環境負荷を低減し、低発煙性と難燃性とを兼ね備え、かつ剛性及び色調に優れた難燃性スチレン系樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、スチレン樹脂に対して、ホスフィン酸塩化合物(b)と特定セルロース系多糖類(C)を特定の割合で添加した樹脂組成物により、驚くべきことに、非常に高い難燃性と低発煙性、剛性及び色調に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0008】
[1]本発明は、スチレン系樹脂(A)60~96.7質量%と、
下記一般式(i):
【化1】
[上記式(i)中、R
i1及びR
i2は、各々独立して、無置換又は1以上の水素原子が置換基R
i3により置換されてもよい、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基又は炭素原子数6~14のアラルキル基であり、
前記置換基R
i3は、下記式(ii):
【化2】
「上記式(ii)中、R
ii1は、各々独立して、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1~6のアルキル基又は炭素原子数6~10のアリール基であり、*は他の原子との結合を表す。」で表され、
M
iは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びプロトン化された窒素塩基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、p
+はM
iのイオン価を表し、1~3の正の整数であり、m
i1は、1~3の正の整数であり、n
-は、-1、-2又は-3の負の整数を表し、rは1~3の正の整数を表し、|p
+×r|=|n
-×m
i1|である。]で表されるホスフィン酸塩化合物(b)を含む難燃剤(B)3~30質量%と、
短軸d
1或いは長軸d
2の平均長さの少なくとも一方が0.1~10μm未満であるセルロース系多糖類(C)0.3~10質量%と、を含有することを特徴とする難燃性スチレン系樹脂組成物である。
[2]本実施形態において、前記ホスフィン酸化合物(b)は、下記一般式(1)で表されるホスフィン酸塩及び下記一般式(2)で表されるジホスフィン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種又は2種以上であることが好ましい。
【化3】
[上記式(1)中、R
11及びR
12は、各々独立して、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1~6のアルキル基又は炭素原子数6~10のアリール基であり、M
1は、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びプロトン化された窒素塩基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、a
+はM
1のイオン価を表し、1~3の正の整数であり;m
1は、1~3の正の整数であり、a=m
1である。]
【化4】
[上記式(2)中、R
21及びR
22は、各々独立して、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1~6のアルキル基又は炭素原子数6~10のアリール基であり、L
23は、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1~10のアルキレン基、炭素原子数6~10のアリーレン基、炭素原子数6~14のアルキルアリーレン基又は炭素原子数6~14のアリールアルキレン基であり;M
2は、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びプロトン化された窒素塩基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、b
+はM
2のイオン価を表し、1~3の正の整数であり、m
2は1~3の正の整数であり、qは1又は2の正の整数であり、b×q=2m
2である。]
[3]本実施形態において、前記スチレン系樹脂(A)が、スチレン系単量体単位と不飽和カルボン酸系単量体単位とを含むことが好ましい。
[4]本実施形態において、前記セルロース(B)が、リグニンを20質量%以下含有するセルロースであることが好ましい。
[5]本実施形態において、前記セルロース系多糖類(B)のヘミセルロース量が、1%以上であることを特徴とすることが好ましい。
[6]本発明は、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の難燃性スチレン系樹脂組成物を含む、成形品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、環境負荷を低減し、低発煙性と難燃性を兼ね備え、かつ剛性及び色調に優れた難燃性スチレン系樹脂組成物を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
[難燃性スチレン系樹脂組成物]
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂(A)(以下、(A)成分とも称する。)60~96.7質量%と、ホスフィン酸塩化合物(b)からなる難燃剤(B)(以下、(B)成分とも称する。)5~30質量%と、短軸d
1或いは長軸d
2の平均長さの少なくとも一方が0.1~10μm未満であるセルロース系多糖類(C)(以下、(C)成分とも称する。)0.3~10質量%を含有すると、を含有する。
前記ホスフィン酸塩化合物(b)は、下記一般式(i):
【化5】
[上記式(i)中、R
i1及びR
i2は、各々独立して、無置換又は1以上の水素原子が置換基R
i3により置換されてもよい、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基又は炭素原子数6~14のアラルキル基であり、
前記置換基R
i3は、下記式(ii):
【化6】
「上記式(ii)中、R
ii1は、各々独立して、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1~6のアルキル基又は炭素原子数6~10のアリール基であり、*は他の原子との結合を表す。」で表され、
M
iは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びプロトン化された窒素塩基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、p
+はM
iのイオン価を表し、1~3の正の整数であり、m
i1は、1~3の正の整数であり、n
-は、-1、-2又は-3の負の整数を表し、|p
+×r|=|n
-×m
i1|である。]で表される。
これにより、低発煙性、難燃性、剛性及び色調に優れた難燃性スチレン系樹脂組成物を提供できる。
以下、難燃性スチレン系樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0012】
<スチレン系樹脂(A):(A)成分>
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物において、スチレン系樹脂(A)の含有量は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計量100質量%に対して、60~96.7質量%であり、好ましくは65~95質量%、より好ましくは60~90質量%である。スチレン系樹脂(A)の含有量が60質量%未満であると成形性が、また、96.7質量%を超えると難燃性が低下する。
【0013】
本実施形態で用いることができるスチレン系樹脂(A)は、スチレン系単量体と、必要に応じて当該スチレン系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体及びゴム状重合体(a)より選ばれる1種又は2種以上を重合して得られる樹脂であることが好ましい。換言すると、スチレン系樹脂(A)は、スチレン系単量体単位を有する重合体であることが好ましく、スチレン系単量体単位を必須に含み、当該スチレン系単量体単位に対して共重合可能な他のビニル系単量体及び/又はゴム状重合体(a)の単量体単位を任意成分として有する重合体であることがより好ましい。
本実施形態におけるスチレン系樹脂(A)の好ましい形態は特に限定されることは無いが、具体的には、例えば、ポリスチレン、ポリスチレン系重合体(ポリスチレン及び/又はポリスチレン-不飽和カルボン酸系重合体等)を含有するポリマーマトリックス中にゴム状重合体(a)の粒子が分散されたゴム変性スチレン系樹脂、又はスチレン系共重合樹脂が挙げられる。また、スチレン系樹脂(A)としてシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体も用いることができる。
【0014】
<<ポリスチレン>>
本実施形態において、ポリスチレンとはスチレン系単量体を重合した単独重合体であり、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることができる。ポリスチレンを構成するスチレン系単量体としては、スチレンの他に、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、及びt-ブチルスチレン又はブロモスチレン及びインデン等のスチレン誘導体が挙げられる。特に工業的観点からスチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種又は2種以上使用することができる。ポリスチレンは、本発明の効果を損なわない範囲で、上記のスチレン系単量体単位以外の単量体単位を更に含有することを排除しないが、典型的にはスチレン系単量体単位からなる。
【0015】
<<ゴム変性スチレン系樹脂>>
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂とは、マトリクスとしてのスチレン系樹脂中にゴム状重合体(a)の粒子(ゴム状重合体(a)粒子とも称する。)が分散したものであり、ゴム状重合体(a)の存在下でスチレン系単量体を重合させることにより製造することができる。
【0016】
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂を構成するスチレン系単量体としては、スチレンの他に、例えば、α-メチルスチレン、α-メチルp-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、及びt-ブチルスチレン又はブロモスチレン及びインデン等のスチレン誘導体が挙げられる。特に、スチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種若しくは2種以上使用することができる。
【0017】
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂に含まれるゴム状重合体(a)粒子は、例えば、当該ゴム状重合体(a)粒子の内側に上記のスチレン系単量体より得られるスチレン単量体単位を含有する樹脂を内包してもよく、及び/又は、当該ゴム状重合体(a)粒子の表面にスチレン単量体単位を含有する樹脂がグラフトされたものであってよい。
【0018】
前記ゴム状重合体(a)としては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体等のゴム成分を使用できる。また、当該ゴム成分には、ポリスチレン及び/又はポリスチレン-不飽和カルボン酸系重合体等を内包した形態を含んでも良い。なかでも、ゴム状重合体(a)は、ポリブタジエン又はスチレン-ブタジエン共重合体が好ましい。ポリブタジエンには、シス含有率の高いハイシスポリブタジエン及びシス含有率の低いローシスポリブタジエンの双方を用いることができる。また、スチレン-ブタジエン共重合体の構造としては、ランダム構造及びブロック構造の双方を用いることができる。これらのゴム状重合体(a)は1種若しくは2種以上使用することができる。また、ブタジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴムを使用することもできる。
【0019】
このようなゴム変性スチレン系樹脂の例としては、HIPS(高衝撃ポリスチレン)、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン共重合体)等が挙げられる。
【0020】
ゴム変性スチレン系樹脂がHIPS系樹脂である場合、これらのゴム状重合体(a)の中で特に好ましいのは、シス1,4結合が90モル%以上で構成されるハイシスポリブタジエンである。該ハイシスポリブタジエンにおいては、ビニル1,2結合が6モル%以下で構成されることが好ましく、3モル%以下で構成されることが特に好ましい。
なお、上記イシスポリブタジエンの構成単位に関する異性体としてシス-1,4構造、トランス-1,4構造、又はビニル-1,2構造を有するものの含有率は、赤外分光光度計を用いて測定し、モレロ法によりデータ処理することにより算出できる。
また、上記ハイシスポリブタジエンは、公知の製造法、例えば有機アルミニウム化合物とコバルト又はニッケル化合物を含んだ触媒を用いて、1,3-ブタジエンを重合して容易に得ることができる。
【0021】
ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(a)の含有量(ゴム状重合体(a)粒子中に取り込まれたマトリクスとしてのスチレン系樹脂は含まない。)は、当該ゴム変性スチレン系樹脂総量100質量%に対して、3~20質量%が好ましく、更に好ましくは5~15質量%である。ゴム状重合体(a)の含有量が3質量%未満であるとスチレン系樹脂の耐衝撃性が低下する虞がある。また、ゴム状重合体(a)の含有量が20質量%を超えると難燃性が低下する虞がある。
【0022】
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(a)の含有量は、熱分解ガスクロマトグラフイーを用いて算出される値である。
【0023】
ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(a)粒子の平均粒子径は、耐衝撃性や難燃性の観点から、0.5~4.0μmであることが好ましく、更に好ましくは0.8~3.5μmである。
【0024】
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(a)粒子の平均粒子径は、以下の方法により測定することができる。
四酸化オスミウムで染色したゴム変性スチレン系樹脂から厚さ75nmの超薄切片を作製し、電子顕微鏡を用いて倍率10000倍の写真を撮影する。当該写真中、黒く染色された粒子がゴム状重合体(a)粒子である。写真から、下記数式(N1):
平均粒子径=ΣniDri3 /ΣniDri2 (N1)
(上記数式(N1)中、niは、粒子径Driのゴム状重合体(a)粒子の個数であり、粒子径Driは、写真中の粒子の面積から円相当径として算出した粒子径である。)
により面積平均粒子径を算出し、ゴム状重合体(a)粒子の平均粒子径とする。本測定は、写真を200dpiの解像度でスキャナーに取り込み、画像解析装置IP-1000(旭化成社製)の粒子解析ソフトを用いて測定する。
【0025】
ゴム変性スチレン系樹脂の還元粘度(これは、ゴム変性スチレン系樹脂の分子量の指標となる)は、0.50~0.85dL/gの範囲にあることが好ましく、更に好ましくは0.55~0.80dL/gの範囲である。0.50dL/gより小さいと衝撃強度が低下する虞があり、0.85dL/gを超えると流動性の低下により成形性が低下する虞がある。
【0026】
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂の還元粘度は、トルエン溶液中で30℃、濃度0.5g/dLの条件で測定される値である。
【0027】
ゴム変性スチレン系樹脂の製造方法は、特に制限されるものではないが、ゴム状重合体(a)の存在下、スチレン系単量体(及び溶媒)を重合する塊状重合(若しくは溶液重合)、又は反応途中で懸濁重合に移行する塊状-懸濁重合、又はゴム状重合体(a)ラテックスの存在下、スチレン系単量体を重合する乳化グラフト重合にて製造することができる。塊状重合においては、ゴム状重合体(a)とスチレン系単量体、並びに必要に応じて有機溶媒、有機過酸化物、及び/又は連鎖移動剤を添加した混合溶液を、完全混合型反応器又は槽型反応器と複数の槽型反応器とを直列に連結し構成される重合装置に連続的に供給することにより製造することができる。
【0028】
<<スチレン系共重合樹脂>>
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂とは、スチレン系単量体単位と、当該スチレン系単量体と共重合可能なその他単量体(例えば、不飽和カルボン酸系単量体単位)とを含む樹脂である。例えば、前記その他単量体が不飽和カルボン酸系単量体単位である場合、本発明に係るスチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、スチレン系単量体単位の含有量は69~98質量%であることが好ましく、より好ましくは74~96質量%であり、さらに好ましくは77~92質量%の範囲である。当該含有量を69質量%以上とすることにより、樹脂の流動性を向上させることができる。一方、当該スチレン系単量体単位の含有量を98質量%以下とすることにより、その他単量体の一例である後述の不飽和カルボン酸系単量体単位を所望量存在させにくくなり、これらの単量体単位による後述の効果を得にくくなる。
【0029】
なお、本実施形態における不飽和カルボン酸系単量体は、不飽和カルボン酸単量体及び不飽和カルボン酸エステル単量体を含む。
【0030】
本実施形態の好適なスチレン系共重合樹脂において、不飽和カルボン酸単量体単位は耐熱性を向上させる役割を果たす。前記スチレン系共重合樹脂中のスチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸単量体単位の含有量は2~16質量%であることが好ましく、より好ましくは4~14質量%であり、さらに好ましくは8~13質量%である。当該含有量を2質量%以上とすることにより、(B)成分の分散性が向上するとともに耐熱性をより向上させることができる。一方、当該含有量を16質量%以下とすることにより、本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物をマスターバッチとして使用した場合、スチレン系樹脂に対する優れた分散性が発揮され、難燃性が向上できるほか、成形外観、樹脂の流動性、及び機械的物性がより向上する。
【0031】
一般に、本発明におけるスチレン系共重合樹脂の一形態である、スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合樹脂を含むスチレン-メタクリル酸系樹脂は、工業的規模ではほとんどの場合、ラジカル重合で生産されている。しかし、本実施形態において、脱揮工程のゲル化反応を抑制するために、種々のアルコールを重合系中に添加して重合を行なうことができる。
【0032】
不飽和カルボン酸エステル単量体は、不飽和カルボン酸単量体との分子間相互作用によって不飽和カルボン酸単量体の脱水反応を抑制するために、及び、樹脂の機械的強度を向上させるために用いることができる。更には、不飽和カルボン酸エステル単量体は、耐候性、表面硬度等の樹脂特性の向上にも寄与する。
【0033】
本実施形態において、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有量は0~15質量%であることが好ましく、より好ましくは1~12質量%、さらに好ましくは2~10質量%である。当該含有量を15質量%以下とすることにより、樹脂の流動性を向上させ、且つ吸水性を抑制することができる。また、不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有量の下限を0質量%とすることにより、耐熱性の向上やコスト削減をすることができるが、上記の観点から不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有量を0質量%超とすることもできる。
【0034】
なお、不飽和カルボン酸単量体と不飽和カルボン酸エステル単量体単位とが隣り合わせで結合した場合、高温、高真空の脱揮装置を用いると、条件によっては脱アルコール反応が起こり、六員環酸無水物が形成される場合がある。本実施形態のスチレン系共重合樹脂は、この六員環酸無水物を含んでいてもよいが、流動性を低下させることから、生成される六員環酸無水物はより少ない方が好ましい。
【0035】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂中の、スチレン系単量体単位(例えば、スチレン単量体単位)、不飽和カルボン酸単量体単位(例えば、メタクリル酸単量体単位)及び不飽和カルボン酸エステル単量体単位(例えば、メタクリル酸メチル単量体単位)の含有量は、それぞれ、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から求めることができる。
【0036】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体単位、その他の単量体の一例である、不飽和カルボン酸系単量体(例えば、不飽和カルボン酸単量体単位及び不飽和カルボン酸エステル単量体単位)以外の単量体単位を、本発明の効果を損なわない範囲で更に含有することを排除しない。しかし、本発明におけるスチレン系共重合樹脂は、典型的には、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸単量体単位、及び/又は不飽和カルボン酸エステル単量体単位から構成されることが好ましい。
【0037】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成するスチレン系単量体としては、スチレン系単量体としては、特に限定されないが例えば、スチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、t-ブチルスチレン、ブロモスチレン、インデン等のスチレン誘導体が挙げられる。スチレン系単量体としては、工業的観点からスチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成する不飽和カルボン酸単量体としては、特に限定されないが例えば、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸単量体としては、耐熱性の向上効果が大きく、常温にて液状でハンドリング性に優れることからメタクリル酸が好ましい。これらの不飽和カルボン酸系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成する、不飽和カルボン酸エステル系単量体としては、特に限定されないが例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、耐熱性低下に対する影響が小さいことから(メタ)アクリル酸メチルが好ましい。これらの不飽和カルボン酸エステル系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
本実施形態の好適なスチレン系共重合樹脂としては、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル-メタクリル酸ブチル共重合体、スチレン-メタクリル酸ブチル共重合体、又はスチレン-無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。
【0041】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂の重量平均分子量(Mw)は100,000~350,000であることが好ましく、より好ましくは120,000~300,000、さらに好ましくは140,000~240,000である。重量平均分子量(Mw)が100,000~350,000である場合、機械的強度と流動性とのバランスにより優れる樹脂が得られ、またゲル物の混入も少ない。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、標準ポリスレン換算で得られる値である。
【0042】
本実施形態において、スチレン系重合樹脂の重合方法は、特に制限はないが例えば、ラジカル重合法として、塊状重合法又は溶液重合法を好適に採用できる。重合方法は、主に、重合原料(単量体成分)を重合させる重合工程と、重合生成物から未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する脱揮工程とを備える。
【0043】
以下、本実施形態に用いることができるスチレン系共重合樹脂の重合方法の一例について説明する。
【0044】
スチレン系共重合樹脂を得るために重合原料を重合させる際には、重合原料組成物中に、典型的には重合開始剤及び連鎖移動剤を含有させる。
【0045】
スチレン系共重合樹脂の重合に用いられる重合開始剤としては、有機過酸化物、例えば、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、t-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等を挙げることができる。分解速度と重合速度との観点から、なかでも、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサンが好ましい。
【0046】
スチレン系共重合樹脂の重合に用いられる連鎖移動剤としては、例えば、α-メチルスチレンリニアダイマー、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン等を挙げることができる。
【0047】
スチレン系共重合樹脂の重合方法としては、必要に応じて、重合溶媒を用いた溶液重合を採用できる。用いられる重合溶媒としては、芳香族炭化水素類、例えば、エチルベンゼン、ジアルキルケトン類、例えば、メチルエチルケトン等が挙げられ、それぞれ、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。重合生成物の溶解性を低下させない範囲で、他の重合溶媒、例えば脂肪族炭化水素類等を、芳香族炭化水素類に更に混合することができる。これらの重合溶媒は、全単量体100質量部に対して、25質量部を超えない範囲で使用するのが好ましい。全単量体100質量部に対して重合溶媒が25質量部を超えると、重合速度が著しく低下し、且つ得られる樹脂の機械的強度の低下が大きくなる傾向がある。重合前に、全単量体100質量部に対して5~20質量部の割合で添加しておくことが、品質が均一化し易く、重合温度制御の点でも好ましい。
【0048】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂を得るための重合工程で用いる装置は、特に制限はなく、スチレン系樹脂の重合方法に従って適宜選択すればよい。例えば、塊状重合を採用する場合には、完全混合型反応器を1基、又は複数基連結した重合装置を用いることができる。また脱揮工程についても特に制限はない。塊状重合を採用する場合、最終的に未反応モノマーが、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下になるまで重合を進め、かかる未反応モノマー等の揮発分を除去するために、既知の方法にて脱揮処理する。より詳細には、例えば、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機等の通常の脱揮装置を用いることができるが、滞留部の少ない脱揮装置が好ましい。なお、脱揮処理の温度は、通常、190~280℃程度であり、不飽和カルボン酸単量体(例えば、メタクリル酸)と不飽和カルボン酸エステル単量体(例えば、メタクリル酸メチル)との隣接による六員環酸無水物の形成を抑制する観点から、190~260℃がより好ましい。また脱揮処理の圧力は、通常0.13~4.0kPa程度であり、好ましくは0.13~3.0kPaであり、より好ましくは0.13~2.0kPaである。脱揮方法としては、例えば加熱下で減圧して揮発分を除去する方法、及び揮発分除去の目的に設計された押出機等を通して除去する方法が望ましい。
【0049】
<難燃剤(B):(B)成分>
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物は、当該難燃性スチレン系樹脂組成物100質量%に対して、難燃剤(B)を3~30質量%含有し、5~29質量%含有することが好ましく、8~28質量%含有することがより好ましく、10~25質量%含有することがさらに好ましい。
また、本実施形態において、ホスフィン酸塩化合物(b)の含有量は、難燃剤(B)の総量100質量%に対して、70質量%以上であることが好ましい。そのため、難燃剤(B)全体の総量100質量%に対して、ホスフィン酸塩化合物(b)以外の公知の難燃剤及び/又は後述の任意添加成分(酸化防止剤、紫外線防止剤等)を30質量%以下含有してもよい。
本実施形態において、ホスフィン酸塩化合物(b)は下記一般式(i)で表され、ホスフィン酸塩及びジホスフィン酸塩から選択される少なくとも1種のホスフィン酸塩類を含むことが好ましく、より好ましくはホスフィン酸塩化合物(b)全体(100質量%)に対して70質量%以上をホスフィン酸塩類が占める。
下記一般式(i):
【化7】
[上記式(i)中、R
i1及びR
i2は、各々独立して、無置換又は1以上の水素原子が置換基R
i3により置換されてもよい、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基又は炭素原子数6~14のアラルキル基であり、
前記置換基R
i3は、下記式(ii):
【化8】
「上記式(ii)中、R
ii1は、各々独立して、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1~6のアルキル基又は炭素原子数6~10のアリール基であり、*は他の原子との結合を表す。」で表され、
M
iは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びプロトン化された窒素塩基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、p
+はM
iのイオン価を表し、1~3の正の整数であり、m
i1は、1~3の正の整数であり、n
-は、-1、-2又は-3の負の整数を表し、rは、1~3の正の整数であり、|p
+×r|=|n
-×m
i1|である。また、R
i1及びR
ii1がそれぞれ複数存在する場合は、それぞれのR
i1及びR
ii1が同一であってもあるいは異なっていてもよい。]
そのため、本実施形態におけるホスフィン酸塩化合物(b)としては、一般式(i)で表されるホスフィン酸塩類以外の公知の難燃剤を、当該ホスフィン酸塩化合物(b)全体(100質量%)に対して30質量%以下含んでもよい。
上記式(i)中、M
iのイオン価を表す「p
+」と「r」との積の絶対値が、「n
-」と「m
i1」との積の絶対値に等しい。
上記(i)中、p
+は、1又は2が好ましい。m
i1は、1又は2が好ましい。n
-は、-1又は-2が好ましい。rは、1又は2が好ましい
【0050】
本実施形態において、好ましいホスフィン酸塩は、下記の一般式(1)で表される通りである。
【化9】
[上記式(1)中、R
11及びR
12は、各々独立して、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1~6のアルキル基又は炭素原子数6~10のアリール基であり;M
1は、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びプロトン化された窒素塩基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり;aはM
1のイオン価を表し、1~3の整数であり;m
1は、1~3の整数であり;a=m
1である。R
11及びR
12がそれぞれ複数存在する場合は、それぞれのR
11及びR
12が同一であってもあるいは異なっていてもよい。]
【0051】
本実施形態において、好ましいジホスフィン酸塩は、下記の一般式(2)で表される通りである。
【化10】
[上記式(2)中、R
21及びR
22は、各々独立して、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1~6のアルキル基又は炭素原子数6~10のアリール基であり;L
23は、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1~10のアルキレン基、炭素原子数6~10のアリーレン基、炭素原子数6~14のアルキルアリーレン基又は炭素原子数6~14のアリールアルキレン基であり;M
2は、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、ビスマスイオン、マンガンイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びプロトン化された窒素塩基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり;bはM
2のイオン価を表し、1~3の整数であり;m
2は、1~3の整数であり;qは、1又は2の整数であり;b×q=2m
2である。R
21及びR
12がそれぞれ複数存在する場合は、それぞれのR
21及びR
22が同一であってもあるいは異なっていてもよい。]からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0052】
上記式(i)、(ii)、(1)及び(2)において、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、又はヘキシル基の直鎖状のアルキル基、及びイソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソアミル基、又はt-アミル基等の分岐状のアルキル基が挙げられる。
上記式(i)、(ii)、(1)及び(2)において、炭素原子数6~10のアリール基としては、単環構造或いは縮環構造を有するものであってもよい。例えば、フェニル基又はナフチル基が挙げられる。
上記式(2)において、直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1~10のアルキレン基は、上記直鎖状若しくは分岐状の炭素原子数1~6のアルキル基から水素原子を一つ取り除いた基が挙げられる。
上記式(2)において、炭素原子数6~10のアリーレン基は、上記炭素原子数6~10のアリール基から水素原子を一つ取り除いた基が挙げられる。
上記式(i)において、炭素原子数6~14のアラルキル基は、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、メチルナフチル基、エチルナフチル基、又はtert-ブチルナフチル基が挙げられる。
上記式(2)において、炭素原子数6~14のアルキルアリーレン基としては、メチルフェニレン基、エチルフェニレン基、tert-ブチルフェニレン基、メチルナフチレン基、エチルナフチレン基、tert-ブチルナフチレン基が挙げられる。
上記式(2)において、炭素原子数6~14のアリールアルキレン基としては、フェニルメチレン基、フェニルエチレン基、フェニルプロピレン基、フェニルブチレン基が挙げられる。
上記式(1)において、R11及びR12は、各々独立して、直鎖状の炭素原子数1~6のアルキル基又は炭素原子数6~10のアリール基であることが好ましい。
上記式(1)において、M1は、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、又は亜鉛が好ましい。また、a+はM1のイオン価を表わし、2又は3である。
上記式(2)において、R21及びR22は、各々独立して、直鎖状の炭素原子数1~6のアルキル基又は炭素原子数6~10のアリール基であることが好ましい。
上記式(2)において、L23は各々独立して、直鎖状の炭素原子数1~6のアルキレン基又は炭素原子数6~10のアリーレン基であることが好ましい。
上記式(2)において、M2は、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、又は亜鉛が好ましい。また、b+はM2のイオン価を表わし、2又は3である。
ホスフィン酸塩化合物(b)は、電気特性に優れるため、絶縁性が必要な難燃材料に適しており、加水分解性にも優れるため、高温高湿度下での用途に使えるほか、リサイクル性にも優れる。
【0053】
本実施形態に用いるホスフィン酸塩化合物(b)は、中でも、ホスフィン酸と金属炭酸塩、金属水酸化物又は金属酸化物とを用いて水溶液中で製造され、本質的にモノマー性化合物であるが、反応条件に依存して、環境によっては、縮合度が1~3のポリマー性ホスフィン酸塩類も含まれる。
【0054】
このようなホスフィン酸塩化合物(b)としては、特に限定されることなく、例えば、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル-n-プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸亜鉛、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛が挙げられ、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルブチルホスフィン酸アルミニウム、ジブチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛であることが好ましく、ジエチルホスフィン酸アルミニウムであることが更に好ましい。
ホスフィン酸塩化合物(b)の市販品としては、特に限定されることなく、例えば、クラリアントジャパン社製のExolit(登録商標)OP1230、OP1240、OP1311、OP1312、OP930、OP935等が挙げられる。
【0055】
本実施形態において、ホスフィン酸塩化合物(b)は粒状であることが好ましい。当該ホスフィン酸塩化合物(b)が粒状である場合、ホスフィン酸塩化合物(b)の平均粒子径は、本実施形態の難燃性樹脂組成物を成形して得られる成形品の機械的強度、成形品の外観を向上する点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは20μm以下であり、ホスフィン酸塩化合物(b)はこの粒子径にまで粉砕した粉末を用いるのが好ましい。好ましくは0.5μm超20μm、より好ましくは1μm超20μm以下である。好ましい粒子径の粉末を用いると、高い難燃性を発現するばかりでなく、衝撃強度が著しく高くなるので、特に好ましい。
ホスフィン酸塩化合物(b)の平均粒径よりセルロース系多糖類(C)(例えばセルロースナノファイバー)の短軸d1或いは長軸d2の平均長さが小さい場合、ホスフィン酸塩化合物(b)の周囲にセルロース系多糖類(C)(例えばセルロースナノファイバー)が付着する(又はまとわりつく)ことにより、難燃性樹脂組成物中の各成分(特に、セルロース系多糖類(C)又はホスフィン酸塩化合物(b))の分散性がより向上する。これにより、低発煙性と難燃性とを兼ね備え、かつ剛性及び色調により優れた難燃性スチレン系樹脂組成物を提供できる。
一方、セルロースファイバーのようにホスフィン酸塩化合物(b)より大きい場合は、逆にセルロースファイバーの周りにホスフィン酸塩化合物(b)などの難燃剤成分が付着する(又はまとわりつく)形態となる。
粒状のホスフィン酸塩化合物(b)の平均粒子径の測定方法としては、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した体積基準の粒子径に基づいている。また、ホスフィン酸塩化合物(b)の分散媒として3%イソプロパノール水溶液を用いて測定される値である。具体的には、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-910(堀場製作所(株)製)を用いて、3%イソプロパノール水溶液の分散媒でブランク測定を行った後、測定試料を規定の透過率(95%~70%)になるように入れて測定することにより求めることができる。なお、分散媒中への試料の分散は、超音波を1分間照射することにより行う。
【0056】
<セルロース系多糖類類(C)(以下、(C)成分とも称する。)>
本実施形態におけるセルロース系多糖類(C)の含有量は、当該難燃性スチレン系樹脂組成物100質量%に対して、0.3~10質量%であり、好ましくは0.5~8質量%、より好ましくは1~6質量%である。セルロース系多糖類類(C)の含有量を0.3質量%以上とすることにより、低発煙難燃性と剛性を向上させることができる。一方、当該含有量が10質量%超より多すぎると、流動性低下により成形性を著しく低下させる。組成物中のセルロース系多糖類類の含有量は、組成物をスチレン系樹脂が溶解する溶媒に溶かし、未溶物を取出し、120℃、4時間の条件で乾燥させたものの質量を測ることでわかる。
【0057】
本実施形態におけるセルロース系多糖類(C)の形状は特に制限されることはなく、例えば、球状、不規則形状、粉体状、鱗片状、繊維状、棒状等の形状が挙げられる。当該セルロース系多糖類(C)の短軸d1或いは長軸d2の平均長さの少なくとも一方は、0.1~10μm未満であり、好ましくは0.2~5μmであり、好ましくは0.3~4μm、さらに好ましくは0.5~3μmである。短軸d1及び長軸d2の平均長さが上記範囲外であると、剛性が十分に発揮されないことがある。一方、短軸d1及び長軸d2の平均長さが上記範囲内であると、セルロース系多糖類(C)とホスフィン酸塩化合物(b)の分散性を向上させ、難燃性と剛性が高い組成物となる。
本実施形態のセルロース系多糖類(C)において、短軸d1の平均長さは、長軸d2の平均長さ以下であり、当該短軸d1の平均長さは、長軸d2の平均長さ未満であることが好ましい。尚、本発明において、セルロース系多糖類(C)の短軸d1の平均長さは、透過型電子顕微鏡観察(5000倍に拡大)により100個のセルロース系多糖類(C)の短軸長(最小長さ)を測定し、その算術平均をとることにより求められる。一方、セルロース系多糖類(C)の長軸d2の平均長さは、透過型電子顕微鏡観察(5000倍)により100個のセルロース系多糖類(C)の長軸長(最大長さ)を測定し、その算術平均をとることにより求められる。また、セルロース系多糖類(C)の短軸d1の平均長さは、セルロース系多糖類(C)の短軸長(最小長さ)を測定し、上記長軸d2の平均長さと同様の手法により求められる。セルロース系多糖類(C)の短軸長(最小長さ)は、画像上の最も細い(又は短い)箇所の長さをいい、セルロース系多糖類(C)の長軸長(最大長さ)は、画像上の最も長い箇所の長さをいう。剛性はセルロース系多糖類(C)の形状に影響され、ファイバーの場合は短軸、鱗片状又は粒状のものは長軸の平均径に影響を受ける。
本発明におけるセルロース系多糖類(C)の短軸d1の平均長さと長軸d2の平均長さのアスペクト比(d1/d2)は、1~500であることが好ましく、1.2~300であることがより好ましく、1.5~200であることがさらに好ましく、2~100であることが特に好ましい。
【0058】
本発明におけるセルロース系多糖類(C)は、β-1,4-グルカン構造を有する多糖類をいい、セルロース及びヘミセルロースを含む。また、セルロース系多糖類(C)は、それ構成する繊維が、β-1,4-グルカン構造を有する多糖類で形成されている限り、セルロース系多糖類(C)の材質は特に制限されず、例えば、高等植物由来のセルロース繊維[例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹等の木材パルプ等)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポック等)、ジン皮繊維(例えば、麻、コウゾ、ミツマタ等)、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻等)等の天然セルロース繊維(パルプ繊維)等、動物由来のセルロース繊維(ホヤセルロース等)、バクテリア由来のセルロース繊維、化学的に合成されたセルロース繊維[セルロースアセテート(酢酸セルロース)、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の有機酸エステル;硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロース等の無機酸エステル;硝酸酢酸セルロース等の混酸エステル;ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース等);カルボキシアルキルセルロース(カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース等);アルキルセルロース(メチルセルロース、エチルセルロース等);再生セルロース(レーヨン、セロファン等)等のセルロース誘導体繊維等]等が挙げられる。これらのセルロース系多糖類(C)を構成する繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0059】
上記セルロース系多糖類(C)を構成する繊維のうち、セルロース系多糖類(C)を製造したときの分散性、剛性、耐衝撃性の観点で製造効率が高く、適度な繊維径及び繊維長を有する点から、植物由来のセルロース繊維、例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹、竹等の木材パルプ等)や種子毛繊維(コットンリンターパルプ等)等のパルプ由来のセルロース繊維が好ましい。
本実施形態において、セルロース系多糖類(C)100質量%中のリグニンの含有量が20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。セルロース系多糖類(C)におけるリグニンの含有量が20質量%より多いと、熱加工時、臭気・着色が大きくなるほか、リグニン劣化物が炭状の黒点となり製品価値が低下するほか、白色系のカラーリングに不具合を生じる。
さらに、本実施形態において、ヘミセルロースがセルロース系多糖類(C)100質量%に対し、1質量%以上含まれるものが好ましい。ヘミセルロースが含まれることにより、スチレン系樹脂(A)との分散性が向上し、剛性、成形外観を向上させることができる。本発明においては、セルロース系多糖類(C)の製造工程でこれらの成分を完全に除去するのではなく、好適な範囲内の含有量で残存させることが好ましい。ヘミセルロースは、マンナンやキシランなどの糖で構成される多糖類であり、セルロースと水素結合して、ミクロフィブリル間を結びつける役割を果たしている。また、ヘミセルロースの溶解度パラメータ(SP値)は、セルロースよりも疎水性側にあることから、ヘミセルロースは、スチレン系樹脂(A)とセルロース系多糖類(C)とのSP値差を緩和する効果を有すると考えられる。また、ヘミセルロースを1%以上含有させることにより、気泡径が小さくなり、圧縮強度や耐熱性が向上する。セルロース系多糖類(C)中のヘミセルロースの量は、ヘミセルロースの含有率が高い天然木材原料に対して、精製処理を施すことで所望の量に減らして調整することもできる。例えば、ヘミセルロースの含有率が低い原料を用いた場合は、別の原料から抽出処理して得られたヘミセルロースを添加することにより所望の量に調整することができる。このときヘミセルロースの末端などの構造が、精製や抽出処理によって部分的に天然物と異なる形になっていても構わない。
本実施形態において、スチレン系樹脂(A)とセルロース系多糖類(C)とのSP値差を緩和する目的で、へミセルロースがセルロース系多糖類(C)(100質量%)に対し、1質量%以上25質量%以下含まれることがより好ましく、2質量%以上20質量以下含まれることがさらに好ましく、3質量%以上20質量以下含まれることがよりさらに好ましく、5質量%以上19.5質量以下含まれることがさらにより好ましく、7質量%以上19.3質量以下含まれることが得に好ましい。
【0060】
<分散剤>
本実施形態において、難燃剤(B)、及びセルロース系多糖類(C)の分散性を向上する目的でスチレン系樹脂組成物又はスチレン系樹脂成形品に分散剤を含有してもよい。当該分散剤は、(A)成分+(B)成分+(C)成分の合計100質量部に対して0.5~20重量部添加してもよい。分散剤を添加することにより、難燃剤(B)、及びセルロース系多糖類(C)をスチレン系樹脂(A)に複合化する際に押出機のヤケや目やにを防止し、成形外観を向上させることができる。分散剤が所定量より少ないとそのような効果がなく、所定量より多いと耐熱性が低下する。スチレン系樹脂(A)との親和性に優れる分散剤のほうが効果は、大きくなる。
【0061】
上記分散剤としては、脂肪酸エステル系化合物、ポリエチレングリコール系化合物、テルペン系化合物、ロジン系化合物、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪酸金属塩系等を用いることができる。とくに脂肪酸エステル系化合物、ポリエチレングリコール系化合物、テルペン系化合物、ロジン系化合物、が好ましい。
脂肪族エステル系滑剤としては、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリル酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ヤシ脂肪酸オクチルエステル、ステアリン酸オクチル、牛脂脂肪酸オクチルエステル、ラウリル酸ラウリル、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル、ミリスチン酸セチル、炭素数28~30の直鎖状で分岐がない飽和モノカルボン酸(以下モンタン酸と略記する)とエチレングリコールのエステル、モンタン酸とグリセリンのエステル、モンタン酸とブチレングリコールのエステル、モンタン酸とトリメチロールエタンのエステル、モンタン酸とトリメチロールプロパンのエステル、モンタン酸とペンタエリスリトールのエステル、グリセリンモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンセスクイオレート、ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート等が挙げられる。これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0062】
テルペン系樹脂としては、通常、有機溶媒中でフリーデルクラフツ型触媒存在下、テルペン単量体単独、もしくはテルペン単量体と芳香族単量体、又はテルペン単量体とフェノール類を共重合して得られたものをいうが、これらに限定されない。また、得られたテルペン系樹脂を水素添加処理して得られた水素添加テルペン系樹脂であってもよい。例えば、α-ピネン樹脂、β-ピネン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、水添テルペン樹脂等のテルペン系樹脂が挙げられる。テルペン単量体としては、イソプレンなどの炭素数5のヘミテルペン類、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、d-リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α-フェランドレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノーレン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール、サビネン、パラメンタジエン類、カレン類などの炭素数10のモノテルペン類、カリオフィレン、ロンギフォレンなどの炭素数15のセスキテルペン類、炭素数20のジテルペン類等が挙げられるがこれらに限定されない。これらの化合物の中で、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、d-リモネンが特に好ましく用いられる。
芳香族単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、イソプロペニルトルエン等が挙げられるが、これらに限定されない。また、フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、ビスフェノールA等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
ロジン系樹脂としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジンの他、前記ロジンを不均化もしくは水素添加処理した安定化ロジン、前記ロジンの多量体である重合ロジン(典型的には二量体)、マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸等の不飽和酸により変性された変性ロジン等が挙げられる。また、ロジン誘導体樹脂としては、前記ロジン系樹脂のエステル化物、フェノール変性物及びそのエステル化物等が挙げられる。本発明で使用されるロジン系樹脂又はロジン誘導体樹脂は、これらの樹脂に限定されるものではない。
【0064】
脂肪族アミド系滑剤としては、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミド等が挙げられる。
これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0065】
脂肪酸系のうち飽和脂肪酸としては、具体的には、ラウリン酸(ドデカン酸)、イソデカン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、ペンタデシル酸、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、マルガリン酸(ヘプタデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、イソステアリン酸、ツベルクロステアリン酸(ノナデカン酸)、2-ヒドロキシステアリン酸、アラキジン酸(イコサン酸)、ベヘン酸(ドコサン酸)、リグノセリン酸(テトラドコサン酸)、セロチン酸(ヘキサドコサン酸)、モンタン酸(オクタドコサン酸)、メリシン酸等が挙げられ、特に、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、12-ヒドロキシステアリン酸及びモンタン酸等が挙げられる。
【0066】
脂肪酸系のうち不飽和脂肪酸としては、具体的には、ミリストレイン酸(テトラデセン酸)、パルミトレイン酸(ヘキサデセン酸)、オレイン酸(cis-9-オクタデセン酸)、エライジン酸(trans-9-オクタデセン酸)、リシノール酸(オクタデカジエン酸)、バクセン酸(cis-11-オクタデセン酸)、リノール酸(オクタデカジエン酸)、リノレン酸(9,11,13-オクタデカトリエン酸)、エレステアリン酸(9,11,13-オクタデカトリエン酸)、ガドレイン酸(イコサン酸)、エルカ酸(ドコサン酸)、ネルボン酸(テトラドコサン酸)等が挙げられる。
これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0067】
脂肪酸金属塩系滑剤としては、上記脂肪酸系滑剤の脂肪酸のリチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、及びアルミニウム塩等が挙げられる。
これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0068】
<任意添加成分>
本実施形態において、難燃性スチレン系樹脂組成物は、上記(A)~(C)成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて従来公知の添加剤、加工助剤等の任意添加成分を含有してもよい。これら任意添加成分としては、酸化防止剤、耐候剤、帯電防止剤、充填剤等が挙げられる。
【0069】
上記酸化防止剤としては、フェノール系化合物、リン系化合物、チオエーテル系化合物等が挙げられる。
【0070】
上記フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジフェニル-4-オクタデシロキシフェノール、ジステアリル(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ホスホネート、1,6-ヘキサメチレンビス〔(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アミド〕、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、2,2’-エチリデンビス(4,6―ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-エチリデンビス(4-第2ブチル-6-t-ブチルフェノール)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリス(2,6-ジメチル-3-ヒドロキシ-4-t-ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、2-t-ブチル-4-メチル-6-(2-アクリロイルオキシ-3-t-ブチル-5-メチルベンジル)フェノール、ステアリル〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸メチル〕メタン、チオジエチレングリコールビス〔(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6-ヘキサメチレンビス〔(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ビス〔3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、ビス〔2--t-ブチル-4-メチル-6-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルベンジル)フェニル〕テレフタレート、1,3,5-トリス〔(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕イソシアヌレート、3,9-ビス〔1,1-ジメチル-2-{(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、トリエチレングリコールビス〔(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕等が挙げられる。
これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0071】
上記リン系酸化防止剤としては、例えば、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス〔2-t-ブチル-4-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニルチオ)-5-メチルフェニル〕ホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、ジ(デシル)モノフェニルホスファイト、ジ(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)イソプロピリデンジフェノールジホスファイト、テトラ(トリデシル)-4,4’-n-ブチリデンビス(2--t-ブチル-5-メチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)-1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタントリホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ビフェニレンジホスホナイト、9,10-ジハイドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド、2,2’-メチレンビス(4,6-t-ブチルフェニル)-2-エチルヘキシルホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-t-ブチルフェニル)-オクタデシルホスファイト、2,2’-エチリデンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フルオロホスファイト、トリス(2-〔(2,4,8,10-テトラキス-t-ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン-6-イル)オキシ〕エチル)アミン、2-エチル-2-ブチルプロピレングリコールと2,4,6-トリ-t-ブチルフェノールのホスファイト等が挙げられる。
これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0072】
上記チオエーテル系酸化防止剤としては、例えば、チオジプロピオン酸ジラウリル、チオジプロピオン酸ジミリスチル、チオジプロピオン酸ジステアリル等のジアルキルチオジプロピオネート類、及びペンタエリスリトールテトラ(β-アルキルメルカプトプロピオン酸エステル類が挙げられる。
これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0073】
上記耐候剤としては、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤等を用いることができる。
上記紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、5,5’-メチレンビス(2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン)等の2-ヒドロキシベンゾフェノン類;2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2,2’-メチレンビス(4-t-オクチル-6-(ベンゾトリアゾリル)フェノール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-カルボキシフェニル)ベンゾトリアゾール等の2-(2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール類;フェニルサリシレート、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4-ジ-t-ブチルフェニル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、2,4-ジ-t-アミルフェニル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート類;2-エチル-2’-エトキシオキザニリド、2-エトキシ-4’-ドデシルオキザニリド等の置換オキザニリド類;エチル-α-シアノ-β、β-ジフェニルアクリレート、メチル-2-シアノ-3-メチル-3-(p-メトキシフェニル)アクリレート等のシアノアクリレート類;2-(2-ヒドロキシ-4-オクトキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-s-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-4,6-ジフェニル-s-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-プロポキシ-5-メチルフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-s-トリアジン等のトリアリールトリアジン類が挙げられる。
これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0074】
上記ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルステアレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1-オクトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)・ジ(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)・ジ(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,4,4-ペンタメチル-4-ピペリジル)-2-ブチル-2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)マロネート、1-(2-ヒドロキシエチル)-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノ-ル/コハク酸ジエチル重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-モルホリノ-s-トリアジン重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-t-オクチルアミノ-s-トリアジン重縮合物、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕-1,5,8,12-テトラアザドデカン、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕-1,5,8-12-テトラアザドデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカン等のヒンダードアミン化合物が挙げられる。
これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0075】
上記帯電防止剤としては、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性系、グリセリン脂肪酸モノエステル等の脂肪酸部分エステル類等を用いることができる。
具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-N-(3-ドデシルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)メチルアンモニウムメソスルフェート、(3-ラウリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムメチルスルフェート、ステアロアミドプロピルジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウム硝酸塩、ステアロアミドプロピルジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムリン酸塩、カチオン性ポリマー、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキル硝酸エステル塩、リン酸アルキルエステル塩、アルキルホスフェートアミン塩、ステアリン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセリン脂肪酸エステル、アルキルジエタノールアミン、アルキルジエタノールアミン脂肪酸モノエステル、アルキルジエタノールアミド、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリエーテルブロックコポリマー、セチルベタイン、ヒドロキシエチルイミダゾリン硫酸エステル等が挙げられる。
これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0076】
上記充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭素繊維、マイカ、ワラストナイト、ウィスカ等を用いることができる。
【0077】
本実施形態において、難燃性スチレン系樹脂組成物は、上記の任意添加成分の他、ブロッキング防止剤、着色剤、ブルーミング防止剤、表面処理剤、抗菌剤、目ヤニ防止剤(特開2009-120717号公報に記載のシリコーンオイル、高級脂肪族カルボン酸のモノアミド化合物、及び高級脂肪族カルボン酸と1価~3価のアルコール化合物とを反応させてなるモノエステル化合物等の目ヤニ防止剤)等の任意添加成分を含有してもよい。
本実施形態において、上記任意添加成分の合計含有量は、難燃性スチレン系樹脂組成物中、0.05~5質量%としてよい。
【0078】
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物は、実質的に(A)成分、(B)成分、及び(C)成分のみからなっていてもよい。また、当該難燃性スチレン系樹脂組成物は、実質的に(A)成分、(B)成分、(C)成分、分散剤及び任意添加成分のみからなっていてもよい。
「実質的に(A)成分、(B)成分、(C)成分のみからなる」とは、難燃性スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、80~100質量%(好ましくは88~100質量%)が(A)成分、(B)成分及び(C)成分に占められていることを意味する。
「実質的に(A)成分、(B)成分、(C)成分、分散剤及び任意添加成分のみからなる」とは、難燃性スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、95~100質量%(好ましくは98~100質量%)が(A)成分、(B)成分、(C)成分、分散剤及び任意添加成分に占められていることを意味する。
尚、本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で(A)成分、(B)成分、(C)成分、分散剤及び任意添加成分の他に不可避不純物を含んでいてもよい。
【0079】
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂(A)と、ホスフィン酸塩化合物(b)、短軸d1或いは長軸d2の平均長さの少なくとも一方が10~80μmであるセルロース系多糖類(C)と、必要により添加される、分散剤及び/又は任意添加成分と、をそれぞれ所定量含有する、スチレン系樹脂組成物から形成される。当該スチレン系樹脂組成物に添加された、スチレン系樹脂(A)、ホスフィン酸塩化合物(b)、セルロース系多糖類(C)、並びに、必要により添加される、分散剤及び/又は任意添加成分の材料又はその特性等は上述した通りである。またこれら(A)成分、(B)成分、(C)成分、分散剤及び任意添加成分の添加量は、難燃性スチレン系樹脂組成物中の含有量が上記の範囲になるように適宜調整されて添加することができる。
【0080】
<難燃性スチレン系樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物は、各成分を任意の方法で溶融混練することによって製造することができる。例えば、ヘンシェルミキサーに代表される高速撹拌機、バンバリーミキサーに代表されるバッチ式混練機、単軸又は二軸の連続混練機、ロールミキサー等を単独で、又は組み合わせて用いる方法が挙げられる。混練の際の加熱温度は、通常、180~260℃の範囲で選択される。
【0081】
[難燃性スチレン系樹脂組成物の物性]
<難燃性>
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物の難燃性は、UL94垂直燃焼試験(UL94-V試験)において、規格内である、即ち、V-0~V-2の難燃性クラスであることが好ましい。また、燃焼時、黒煙が発生しないことが好ましい。
なお本開示で、難燃性、黒煙は、後述の[実施例]の項に記載の方法で評価することができる。
【0082】
<曲げ弾性率>
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物から得られた成形体の曲げ弾性率は、2800Mpa以上であることが好ましく、より好ましくは3000Mpa以上である。
なお本開示で、曲げ弾性率はISO178に準拠して測定される値である。
【0083】
<イエローインデックス>
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物のイエローインデックスは、20以下であることが好ましく、より好ましくは15以下である。20より大きいと着色が困難になる場合がある。
【0084】
[成形品]
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物は、上記の溶融混練成形機により、あるいは、得られた難燃性スチレン系樹脂組成物のペレットを原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、及び発泡成形法等により、成形品を製造することができる。
【0085】
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物を含む成形品、好ましくは、射出成形品(射出圧縮を含む)、複写機、ファックス、テレビ、ラジオ、テープレコーダー、ビデオデッキ、パソコン、プリンター、電話機、情報端末機、冷蔵庫、電子レンジ等のOA機器、家庭電化製品、電気・電子機器のハウジングや各種部品、発泡断熱材、絶縁フィルム等に好適に用いられる。
【実施例0086】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明の実施形態を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
<測定及び評価方法>
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物の物性の測定及び評価は、次の方法に基づいて行った。
(1)難燃性の評価
(i)燃焼等級の評価及び燃焼時間の評価
後述の方法で作製した試験片(b)(大きさ:127mm×12.7mm、厚み:1.5mm)を用いて、50W試験炎によるUL94垂直燃焼試験(UL94-V試験)に準拠する方法で難燃性を評価した。上記試験片(b)にガスバーナーの炎を当てて、その燃焼の程度を評価した。
なお、難燃等級には、UL94-V試験によって分類される難燃性のクラスを示した。全ての試験片で試験は5本行い、判定した。分類方法の概要は以下のとおりである。
V-0:5本の合計燃焼時間50秒以下、最大燃焼時間10秒以下、滴下綿着火なし
V-1:5本の合計燃焼時間250秒以下、最大燃焼時間30秒以下、滴下綿着火なし
V-2:5本の合計燃焼時間250秒以下、最大燃焼時間30秒以下、滴下綿着火あり
Not V:UL94の規格外
また、燃焼時の黒煙発生については目視で判定し、燃焼時黒煙が発生する場合は×、わずかに発生する場合は△、ほとんど発生しない場合は〇とした。
【0087】
(2)曲げ弾性率
曲げ弾性率は、ISO178に準拠して、後述の方法で作製した試験片(a)を用いて測定した。
【0088】
(3)イエローインデックス
後述の方法で作製した試験片(a)について、JIS K7105に準拠して、日本電色株式会社製 色差濁度測定器 COH300A(商品名)にて樹脂組成物のイエローインデックスを測定した。調色目的を考慮し5以下を合格した。
【0089】
(4)スチレン系樹脂(a)中のスチレン単量体単位、メタクリル酸単量体単位、及びメタクリル酸メチル単量体単位の含有量
プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から、樹脂組成を定量した。
・試料調製:樹脂ペレット30mgをd6-DMSO 0.75mLに60℃で4~6時間加熱溶解した。
・測定機器:日本電子(株)製 JNM ECA-500
・測定条件:測定温度25℃、観測核1H、積算回数64回、繰り返し時間11秒。
【0090】
(スペクトルの帰属)
ジメチルスルホキシド重溶媒中で測定されたスペクトルの帰属について、0.5~1.5ppmのピークは、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、及び六員環酸無水物のα-メチル基の水素由来のピーク、1.6~2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素由来のピーク、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(-COOCH3)の水素由来のピーク、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素由来のピークである。また、6.5~7.5ppmのピークはスチレンの芳香族環の水素由来のピークである。なお、本実施例及び比較例の樹脂では六員環酸無水物の含有量が少ないため、本測定方法では通常定量化は難しい。
【0091】
(5)セルロース系多糖類(C)の平均長さの測定
混練物から得られたペレットから厚さ75nmの超薄切片を作製し、電子顕微鏡を用いて倍率50000倍の写真を撮影した。そして、写真を200dpiの解像度でスキャナーに取り込み、画像解析装置IP-1000(旭化成社製)の粒子解析ソフトを用いて、100個のセルロース系多糖類(C)の最小長さ及び最大長さをそれぞれ測定し、それぞれの算術平均を短軸の平均長さd1、長軸の平均長さd2とした。また、上記と同様に、セルロース系多糖類(C)単体も電子顕微鏡を用いて倍率50000倍の写真を撮影して、それぞれの算術平均を短軸の平均長さd1、長軸の平均長さd2を測定する。
【0092】
(6)リグニン量の定量
セルロース系多糖類(C)におけるリグニンの定量分析は、廃棄物資源循環学会論文誌 Vol22,N0.5,P293,2011に記載されているTGA法を参考とした。
熱重量解析装置は(株)島津製作所製のDTG-60型を使用し,空気雰囲気下で昇温速度10℃/minの条件にて室温から900℃まで昇温した。分析する試料は,70℃で2時間乾燥したものを3~5mg精秤し,熱分解による重量変化を測定した。なお試料容器は内径が5mmで高さ2mmの円盤状白金皿を使用し,すべての実験は一定条件の下で測定を行った。
【0093】
(7)ヘミセルロース量の測定
セルロース系多糖類(C)におけるヘミセルロースの定量分析は、次の通りである。
セルロース系多糖類(C)の分散液、又はスチレン系樹脂組成物から樹脂分を溶解除去して得たセルロース系多糖類(C)の再分散液から分散媒を除去し、セルロース残渣を回収して、105℃で乾燥して得た乾燥試料の質量を、以下の方法で測定した。
乾燥したセルロース残渣を粉砕して得た粉砕試料をソックスレー抽出器でアルコール(エタノール)/ベンゼン混合溶媒)で6時間抽出した。その後、アルコール(エタノール)/ベンゼン混合溶媒)でさらに4時間抽出を行って脱脂試料を得た。当該脱脂試料2.5gに蒸留水150mL、亜塩素酸ナトリウム1.0g、酢酸0.2mLを加えて、70~80℃で1時間加熱処理を行い、再び亜塩素酸ナトリウム1.0g、酢酸0.2mLを加えて、70~80℃で1時間加熱する操作を、試料が白く脱色するまで3~4回繰り返した。得られた試料をろ過して、水及びアセトンで洗浄し、105℃で乾燥してホロセルロース画分(α-セルロースとヘミセルロースとの合計量)を得た。このホロセルロース画分の質量を測定した。
続いて、ホロセルロース画分1.0gに17.5質量%水酸化ナトリウム水溶液25mLを加え、3分後、膨潤状態になるまでガラス棒で軽く潰した。その後、20℃で静置し、上記水酸化ナトリウム水溶液を加えてから30分後に、蒸留水25mLを加え、正確に1分間かき混ぜて、20℃で5分静置し、ガラスフィルターでろ過してろ液が中性になるまで洗浄した。さらに10質量%酢酸40mLを吸引ろ過し、次に沸騰水1Lを吸引ろ過して洗浄した試料を105℃で質量が一定になるまで乾燥して、α-セルロース画分を得た。このα-セルロース画分の質量を測定した。
上記のように求めたホロセルロース画分とα-セルロース画分との質量から、次式によってヘミセルロースの含有率を求めた。
ホロセルロース(%)=ホロセルロース画分(g)/試料(無水ベース)(g)×100
α-セルロース(%)=α-セルロース画分(g)/試料(無水ベース)(g)×100
ヘミセルロース(%)=ホロセルロース(%)-(α-セルロース(%))
【0094】
(8)ホスフィン酸塩化合物(b)の平均粒子径の測定方法
粒状のホスフィン酸塩化合物(b)の平均粒子径の測定方法は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した体積基準の粒子径に基づいている。ホスフィン酸塩化合物(b)の分散媒として3%イソプロパノール水溶液を用いて測定される値である。具体的には、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-910(堀場製作所(株)製)を用いて、3%イソプロパノール水溶液の分散媒でブランク測定を行った後、測定試料を規定の透過率(95%~70%)になるように入れて測定した。なお、分散媒中への試料の分散は、超音波を1分間照射することにより行った。
【0095】
実施例及び比較例で用いた各材料は下記の通りである。
[スチレン系樹脂(A)]
[GPPS-1]
・MFR7.8のポリスチレン(GPPS、PSジャパン社製、HF77)を用いた。
[HIPS-1]
・MFR3.0のゴム変性ポリスチレン系樹脂(HIPS、PSジャパン社製、HT478)を用いた。
【0096】
[共重合樹脂-1]
スチレン(ST)70.0質量部、メタクリル酸ブチル(BA)15.0質量部、エチルベンゼン15.0質量部、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.025質量部からなる重合原料組成液を、1.1リットル/時の速度で、容量が4リットルの完全混合型反応器に、次いで、容量が2リットルの層流型反応器から成る重合装置に、さらに、未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置に、連続的に順次供給し、スチレン系共重合樹脂である共重合樹脂―1を調製した。
重合工程における重合反応条件は、完全混合反応器は重合温度122℃、層流型反応器は重合温度120~142℃とした。脱揮された未反応ガスは、-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収した。
最終重合液中のポリマー分は、重合液を215℃、2.5kPaの減圧下で30分間乾燥後、式[(乾燥後の試料質量/乾燥前の試料質量)×100%]により測定したところ、65.6質量%であり、MFRは4.6であった。
【0097】
[ブレンド―1]
・上記HIPS-1にスチレン無水マレイン酸共重合体(POLYSCOPE社製、XIBOND250)を5質量%配合させたものであり、MFRは3.2であった。
【0098】
[ホスフィン酸塩化合物(b)]
・ホスフィン酸アルミニウム(表1,2中、DEP-Aとも称する。)「クラリアントジャパン社製Exolit OP1230」平均粒子径 20μm
・ホスフィン酸アルミニウム(表1,2中、DEP-Bとも称する。)「クラリアントジャパン社製Exolit OP930」平均粒子径 3μm
・ホスフィン酸アルミニウム(表1,2中、DEP-Cとも称する。)特開平08-73720号公報に記載されている製法を参照して製造した。平均粒子径0.8μm
・リン酸エステル:レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート[大八化学工業株式会社製、PX-200、融点92℃]
【0099】
[セルロース系多糖類(C)]
・CNF-1:セルロースナノファイバー(中越パルプ工業株式会社製、CNF-10、d1:35nm、d2:約1μm、リグニン量0%、ヘミセルロース量15質量%)
・CNF-2:セルロースナノファイバー(ダイセルファインケム株式会社製、KY-100G、d1:100nm、d2:約8μm、リグニン量0%、ヘミセルロース量0.3質量%)
・セルロースファイバー(セライト社製、SW-10、d1:20μm、d2:700μm、リグニン量0.5%、ヘミセルロース量11質量%)
・ヘミセルロース(和光純薬製、キシラン)
【0100】
[実施例1~10]
下記表1に示す組成比のスチレン系樹脂(A)と、セルロース系多糖類(B)との総量100質量部に対して、Irganox1076とIrgafos168とを0.2質量部ずつ添加後、予備混合した。得られた予備混合物を一括混合し、二軸押出機(東芝機械社製、TEM-26SS)を用い、180℃~220℃の範囲で溶融押出を行い、混練物として難燃性スチレン系樹脂組成物のペレットを得た。この際、スクリュー回転数は250rpm、吐出量は10kg/hrであった。このようにして得られたペレット状の難燃性スチレン系樹脂組成物を、ISO527-2多目的試験片1A型を備え付けた日本製鋼所社製の射出成形機を用い、シリンダー温度220℃、金型温度50℃、射出圧力(ゲージ圧40-60MPa)、射出速度(パネル設定値)50%、射出時間/冷却時間=5sec/20secで成形して試験片(a)を作製し各物性の測定を行った。また、寸法127mm×12.7mm×厚み0.8mmの両端ゲート平板金型により、上記試験片(a)と同条件にて試験片(b)を作製し難燃性の測定を行った。実施例1~10の実験結果を表1に示す。
【0101】
[比較例1~12]
比較例1~12は、表2に示すように組成を変更したこと以外は実施例と同様にして、スチレン系樹脂組成物を得た。各物性の測定及び評価の結果を表2に示す。
【0102】
【0103】
【0104】
上記表1に示すように、実施例1~10で得られた難燃性スチレン系樹脂組成物は、低発煙難燃、剛性及び色調に優れた組成物となった。特に不飽和カルボン酸系単量体を含む組成物及びセルロース系多糖類(C)中のヘミセルロース量が1質量%以上であると低発煙難燃が高くなることが確認された。
【0105】
表2に示すように、ホスフィン酸塩化合物(b)のみでは、低発煙、難燃性及び剛性が得られない。また、セルロース系多糖類(C)のみでは、低発煙性、難燃性、剛性が得られず、セルロースによる変色も大きい。さらには、セルロース系多糖類(C)の大きさが大きいと低発煙性、難燃性及び剛性が得られない。また、ホスフィン酸塩化合物(b)をリン酸エステルに変更すると低発煙と剛性が得られない。更にホスフィン酸塩化合物(b)又はセルロース系多糖類(C)が所定量より多いと流動性が悪く成形ができなかった。
【0106】
また、実施例及び比較例の実験結果から、ホスフィン酸塩化合物(b)の平均粒径よりセルロース系多糖類(C)(例えばセルロースナノファイバー)の短軸d1或いは長軸d2の平均長さが小さい場合、ホスフィン酸塩化合物(b)の周囲にセルロース系多糖類(C)(例えばセルロースナノファイバー)が付着する(又はまとわりつく)ことにより、難燃性樹脂組成物中の各成分(特に、セルロース系多糖類(C)又はホスフィン酸塩化合物(b))の分散性がより向上するため、低発煙性、難燃性、剛性及び色調がより向上したことを確認できる。
一方、セルロースファイバーのようにホスフィン酸塩化合物(b)の平均粒子径より大きい径を有する場合は、逆にセルロースファイバーの周りにホスフィン酸塩化合物(b)などの難燃剤成分が付着する(又はまとわりつく)形態となり、セルロース系多糖類(C)を使用した例とを比較すると両者のミクロ構造が変わると考えられる。