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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020710
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】真空ポンプの堆積物量推定装置
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20230202BHJP
【FI】
F04D19/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126239
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100132698
【弁理士】
【氏名又は名称】川分 康博
(72)【発明者】
【氏名】田邊 史夏
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131AA07
3H131BA03
3H131BA04
3H131BA09
3H131BA11
3H131BA13
3H131BA15
3H131CA40
3H131CA41
(57)【要約】
【課題】堆積物が真空ポンプ内に堆積してメンテナンスが必要になる真空ポンプにおいて、次のメンテナンス時期を自動的に、精度よく予測する。
【解決手段】ロータをモータで回転駆動してガスを排気する真空ポンプ100において、真空ポンプ100内の堆積物の堆積量を推定する堆積物量推定装置70であって、制御部を備え、前記制御部は、真空ポンプの運転中に、真空ポンプ内に堆積する堆積物の堆積量を示す堆積指標と成り得る測定データを取得し、前記測定データから、堆積指標の推移を算出し、前記堆積指標の推移から真空ポンプの過去のメンテナンス時を抽出し、過去1回前のメンテナンス時以前の前記堆積指標の推移を用いず、過去1回前のメンテナンス時から現在までの前記堆積指標の推移のみを用いて、堆積指標の将来の推移を予測する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータをモータで回転駆動してガスを排気する真空ポンプにおいて、真空ポンプ内の堆積物の堆積量を推定する堆積物量推定装置であって、
制御部を備え、
前記制御部は、
真空ポンプの運転中に、真空ポンプ内に堆積する堆積物の堆積量を示す堆積指標と成り得る測定データを取得し、
前記測定データから、堆積指標の推移を算出し、
前記堆積指標の推移から真空ポンプの過去のメンテナンス時を抽出し、
過去1回前のメンテナンス時以前の前記堆積指標の推移を用いず、過去1回前のメンテナンス時から現在までの前記堆積指標の推移のみを用いて、堆積指標の将来の推移を予測し、
前記堆積指標の将来の推移に基づいて、将来のメンテナンス時を予測する、
真空ポンプの堆積物量推定装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記測定データを用いて、将来のメンテナンス時を示す堆積指標の閾値を決定し、
前記堆積指標の将来の推移と決定された前記閾値との比較に基づいて、将来のメンテナンス時を予測する、
請求項1に記載の真空ポンプの堆積物量推定装置。
【請求項3】
前記制御部は、
少なくとも現在から過去2回前のメンテナンス時までの前記測定データを用いて、将来のメンテナンス時を示す堆積指標の閾値を決定する、
請求項2に記載の真空ポンプの堆積物量推定装置。
【請求項4】
前記測定データは、前記モータのモータ電流値、前記モータのインバータのスイッチング素子をオンオフ制御するPWM制御信号、又は、前記真空ポンプの磁気軸受の電磁石のセンサ信号である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の真空ポンプの堆積物量推定装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記堆積指標が減少する時点を過去のメンテナンス時として取得する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の真空ポンプの堆積物量推定装置。
【請求項6】
前記制御部は、真空ポンプと電源との分離を検出する分離検出タイミング信号を利用して過去のメンテナンス時を取得する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の真空ポンプの堆積物量推定装置。
【請求項7】
ロータをモータで回転駆動してガスを排気する真空ポンプにおいて、真空ポンプ内の堆積物の堆積量を推定する堆積物量推定方法であって、
真空ポンプの運転中に、真空ポンプ内に堆積する堆積物の堆積量を示す堆積指標と成り得る測定データを取得するステップと、
前記測定データから、堆積指標の推移を算出するステップと、
前記堆積指標の推移から真空ポンプの過去のメンテナンス時を抽出するステップと、
過去1回前のメンテナンス時以前の前記堆積指標の推移を用いず、過去1回前のメンテナンス時から現在までの前記堆積指標の推移のみから、堆積指標の将来の推移を予測するステップと、
前記堆積指標の将来の推移に基づいて、将来のメンテナンス時を予測するステップとを含む、
堆積物量推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堆積物量推定装置に関し、特に、真空ポンプのメンテナンス時期を予測する堆積物量推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空ポンプでは、真空容器から排気されるガスが流れる流路に堆積物が堆積することにより、負荷が増大し、排気能力が低下する。特に、真空容器の内部で半導体または液晶におけるエッチングプロセス等のプロセスが行われる場合、プロセスで生成された生成物が真空ポンプに流入するので、この問題が顕著となる。
【0003】
特許文献1では、ターボ分子ポンプにおいて、モータ電流値に基づいて、生成物の堆積状況を監視することが行われている。
【0004】
特許文献2では、モータ電流値の実測波形と基準波形との比較結果に基づいて、真空ポンプの負荷増大による異常の判定が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-40277号公報
【特許文献2】特開2020-41455号公報
【特許文献3】特開2020-12423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1において、モータ電流値に基づいて、生成物の堆積状況を監視できる原理は次の通りである。ポンプ内部に生成物が堆積すると、排気流路が部分的に閉塞気味になることで局所的に圧力が上昇する。そのため、ポンプ吸気口圧やガス流量が同一条件であってもモータ負荷が増加し、モータ電流値が変化する。したがって、モータ電流値を検出すれば、堆積状況を推定できる。
【0007】
排気能力の低下および真空ポンプの故障を防ぐために、精度よく堆積量の変化を検出し、事前にメンテナンス等の適切な対応をとることが重要である。そのために、推定された堆積情報を蓄積し、その傾向を解析することで生成物量を推定・予測する方法が開発されている(例えば、特許文献3を参照)。特許文献3では、温度制御状態を時系列的に監視することでポンプ内生成物の堆積量を推定することで、ポンプメンテナンス時期を判定している。なお、ポンプメンテナンスとは、ポンプの洗浄又は交換を意味する。
【0008】
しかし、従来の技術では、生成物の堆積の予測に関して、真空ポンプのメンテナンス前のモータ電流値をどのように取り扱うかについての検討がなされていないので、生成物の堆積の予測精度を十分に高めることができない。
【0009】
本発明の目的は、真空ポンプの堆積物監視装置において、生成物の堆積を正確に予測することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、ロータをモータで回転駆動してガスを排気する真空ポンプにおいて、真空ポンプ内の堆積物の堆積量を推定する堆積物量推定装置であって、
制御部を備え、
前記制御部は、
真空ポンプの運転中に、真空ポンプ内に堆積する堆積物の堆積量を示す堆積指標と成り得る測定データを取得し、
前記測定データから、堆積指標の推移を算出し、
前記堆積指標の推移から真空ポンプの過去のメンテナンス時を抽出し、
過去1回前のメンテナンス時以前の前記堆積指標の推移を用いず、過去1回前のメンテナンス時から現在までの前記堆積指標の推移のみを用いて、堆積指標の将来の推移を予測し、
前記堆積指標の将来の推移に基づいて、将来のメンテナンス時を予測する。
【発明の効果】
【0011】
過去1回前のメンテナンス時以前の堆積指標の推移を用いず、過去1回前のメンテナンス時から現在までの前記堆積指標の推移のみを用いて、堆積指標の将来の推移を予測することにより、過去1回前のメンテナンス時以前の堆積指標の推移の影響を受けた誤ったメンテナンス時期を予測してしまう不具合を防止できる。その結果、精度よく堆積量の予測が可能になり、メンテナンス時期を精度よく予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態のターボ分子ポンプ100の概略断面図である。
図2】第1実施形態のターボ分子ポンプ100の構成を示すブロック図である。
図3】モータ電流値のプロセス電流値の時間変化を示す図である。
図4】モータ電流値のプロセス回数依存性を示す図である。
図5】真空ポンプのメンテナンス時期の予測方法についてのフローチャートである。
図6】本実施形態のメンテナンス時期予測方法を説明する模式図である。
図7】比較例のメンテナンス時期予測方法を説明する模式図である。
図8】PWM制御信号のプロセス回数依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
図1は、本実施形態のターボ分子ポンプ100の構成を示す概略断面図である。ターボ分子ポンプ100は、真空排気を行うポンプ部1を有する。
【0014】
なお、この実施形態では、ポンプ部1は、ポンプ電源装置である電源ユニット200と共に電源一体型真空ポンプを構成している。
【0015】
ポンプ部1は、回転翼41と固定翼31とで構成されるターボポンプ段と、円筒部42とステータ32とで構成されるドラッグポンプ段(ネジ溝ポンプ段)とを有している。ネジ溝ポンプ段においては、ステータ32または円筒部42にネジ溝が形成されている。回転側排気機能部である回転翼41および円筒部42はポンプロータ4に形成されている。ポンプロータ4はロータシャフト5に締結されている。ポンプロータ4とロータシャフト5とによって回転体ユニット45が構成される。
【0016】
複数段の固定翼31は、軸方向に対して回転翼41と交互に配置されている。各固定翼31は、スペーサリング33を介してポンプベース3上に載置される。ポンプケーシング30をポンプベース3にボルト固定すると、積層されたスペーサリング33がポンプベース3とポンプケーシング30の係止部30aとの間に挟持され、固定翼31が位置決めされる。ポンプベース3には排気口38aが形成された排気管38が設けられている。排気管38には不図示のバックポンプが排気可能に接続される。
【0017】
図1に示すターボ分子ポンプ100は磁気浮上式のターボ分子ポンプであり、回転体ユニット45は、ポンプベース3に設けられた磁気軸受34、35、36によって非接触支持される。磁気軸受34、35、36は、軸受電磁石と、ロータシャフト5の浮上位置等を検出するための変位センサとを備えている。
【0018】
回転体ユニット45はモータMにより回転駆動される。モータMは、ポンプベース3側に設けられたモータステータ10と、ロータシャフト5側に設けられたモータロータ11からなる。磁気軸受34、35、36が作動していない時には、回転体ユニット45は非常用のメカニカルベアリング37a、37bによって支持される。回転体ユニット45の回転数は、ポンプベース3に配置された回転数センサ43によって検出される。回転数センサ43による検出の検出信号は、ポンプ制御部2(後述)に入力される。この際、検出信号は回転数センサ43又はポンプ制御部2で適宜アナログ/デジタル(Analog/Digital;A/D)変換される。
【0019】
ポンプベース3の外周には、ポンプベース3の温度を制御するためのヒータ51および不図示の冷却水配管が設けられている。ポンプベース3の温度は温度センサ56によって検出される。温度センサ56によって検出された温度に基づいて、ポンプ制御部2によりヒータ51および冷却水を利用してポンプベース3の温度が制御される。温度制御についての詳細な記載は省略する。
【0020】
なお、ヒータ51、排気管38および温度センサ56等の配置は、図1の態様に特に限定されない。
【0021】
電源ユニット200(すなわち、ポンプ制御部2)は、ポンプ部1を駆動制御する。電源ユニット200は、ポンプ部1に設けられたポンプベース3の底面側にボルトによって固定されている。電源ユニット200には、ポンプ制御部2、主制御部等を構成する電子部品が設けられており、それらの電子部品は電源ユニット200の筐体内に収納されている。
【0022】
電源ユニット200の筐体は、電源ケーシング201と電源ケーシング上部開口を覆う冷却ジャケット202とにより構成される。冷却ジャケット202には開口202aが形成されている。電源ユニット200側のケーブル223のプラグ224を、開口202aを通してポンプベース3の底面に設けられたレセプタクル225に接続することにより、電源ユニット200がポンプ部1に接続される。
【0023】
ポンプ制御部2の構成は、図2のブロック図に示されている。
【0024】
ポンプ制御部2は、モータ制御部21と、軸受制御部22と、記憶部23と、通信部24と、堆積物量推定装置70と、を有している。ポンプ制御部2は、コンピュータを備えている。コンピュータは、プロセッサを含んでいる。堆積物量推定装置70の堆積物量推定の機能は、プロセッサの実行する機能を意味している。
【0025】
ポンプ制御部2は、モータMおよび磁気軸受34、35、36に電気的に接続されており、モータMおよび磁気軸受34、35、36を制御する。
【0026】
モータ制御部21は、回転数センサ43(図1)で検出した検出信号に基づいてロータシャフト5の回転数を推定し、推定された回転数に基づいてモータMを所定目標回転数に制御する。ガス流量が大きくなるとポンプロータ4への負荷が増加するので、モータMの回転数が低下する。モータ制御部21は、回転数センサ43で検出された回転数と所定目標回転数との差がゼロとなるようにモータ電流を制御することにより所定目標回転数(定格回転数)を維持するようにしている。
【0027】
具体的には、モータ制御部21は、3相電圧指令から生成されたPWM信号をインバータ103に出力する。インバータ103は、PWM制御信号に基づいてスイッチング素子をオンオフすることで、モータMに駆動電圧を印加する。
【0028】
モータMに流れる3相電流はモータ電流検知部47により検出され、検出された電流検知信号はローパスフィルタ等を介して、堆積指標監視部71(後述)に入力される。
【0029】
軸受制御部22は、磁気軸受34、35、36に配置された変位センサで検出した検出信号に基づいて、軸受電磁石の動作を制御する。
【0030】
具体的には、軸受制御部22は、PWM制御信号を励磁アンプ105に入力する。励磁アンプ105は、スイッチング素子をオンオフ制御することで、各磁気軸受34、35、36の電磁石に電磁石電流信号を供給する。また、電磁石電流信号は、堆積指標監視部71にも出力される。
【0031】
ターボ分子ポンプ100に用いられている磁気軸受は5軸制御型磁気軸受であって、磁気軸受34、35はラジアル方向の各々2軸の磁気軸受である。磁気軸受36は、アキシャル方向の1軸の磁気軸受である。磁気軸受36の電磁石には、それぞれ励磁アンプ105が接続されており、そこから電磁石電流信号が供給される。
【0032】
記憶部23は、記憶媒体を備え、ポンプ制御部2が処理を実行するためのデータを記憶する。
【0033】
通信部24は、主制御部(図示せず)と通信可能であり、主制御部から、ポンプ部1の各部の制御に必要な情報、および、運転の開始または終了を指示する信号等を受信する。通信部24は、ポンプ部1の各部の状態を示す情報、および、堆積指標監視部71が生成した堆積物情報(後述)等の情報を主制御部に送信する。主制御部は、堆積物情報を表示させたり、他の装置に出力したりする。
【0034】
堆積物量推定装置70は、堆積指標監視部71と、予測部77とを備えている。
【0035】
堆積指標監視部71は、真空ポンプの運転に伴い、各部の運転データを取得する。運転データには、堆積物の堆積量の指標となるデータを含む。堆積物の堆積量の指標となるデータとは、たとえば、モータ電流検知部47で検出されるモータ電流の測定値である。堆積指標監視部71は、取得した堆積物の堆積量の指標となるデータを記憶部23に蓄積する。予測部77は、過去、または、現在の堆積物の堆積量の指標となるデータを利用して、将来の堆積指標の推移を予測し、さらに、真空ポンプのメンテナンス時期を予測する。
【0036】
次に、モータ電流値が堆積物の堆積量の指標となる理由を説明する。ポンプ3内部に堆積物が堆積すると、排気流路が部分的に閉塞気味になることで局所的に圧力が上昇する。図1に示すターボ分子ポンプの場合、ポンプベース側の排気流路やステータ32の部分に堆積しやすく、ポンプ背圧側の圧力が上昇し、ポンプ吸気口圧やガス流量が同一条件であっても、回転体の負荷が増加する。その結果、モータ電流値が増加することになる。また、回転体自体に生成物が付着した場合も、モータ電流値が増加する。
【0037】
モータ電流値は、真空ポンプの運転中において、変動している。図3に、所定期間においてサンプリングした真空ポンプのモータ電流値の例を示す(図3は、特許文献1の図3である。)。図3において横軸は時間、縦軸はモータ電流値であり、黒丸Pは、各サンプリング点に対応し、曲線L1は、黒丸Pを結んでいる。
【0038】
すでに述べたように、真空ポンプは、半導体や液晶製造装置の成膜やエッチングなどのプロセスが行われているプロセスチャンバーに接続されており、プロセスチャンバー内を排気している。各プロセスにおいて用いられるプロセスガスの種類や量等は、一般に各プロセスによって異なっている。したがって、真空ポンプの負荷もプロセスに依存し、モータ電流値はプロセスに依存する。図3では、プロセスガスの負荷がほぼ0である状態で、モータ電流値は、電流値I0である。プロセスAにおいては電流値Ia、プロセスBにおいては、電流値Ib、プロセスCにおいては、電流値Icと、変動している。図3の例では、プロセスA、B、Cの後で、またプロセスAが実行され、モータ電流値は、電流値Iaに近い値となっている。このように、モータ電流値は、各プロセスにおいて変動しているため、モータ電流値を堆積指標として利用するためには、何らかの平均化処理を行って、代表値を抽出することが必要である。図3のモータ電流値の推移より、時間t1~t7の間の堆積指標として、モータ電流値を抽出する種々の方法が考えられる。たとえば、最も高い電流値を示すプロセスAの電流値Iaを抽出してもよい。あるいは、無負荷の電流値I0、プロセスAの電流値Ia、プロセスBの電流値Ib、プロセスCの電流値Icを全て抽出してもよい。あるいは、他の期間と比較して、モータ電流値の波形が類似する期間を抽出し、その波形の特定の部分の電流値を抽出、または、その波形の電流値の平均値を抽出する方法で堆積指標を抽出してもよい。
【0039】
図4は、このような方法でモータ電流値から抽出した堆積指標のプロセス回数による推移の例を示している。横軸はプロセス回数であり、縦軸はモータ電流値から抽出した堆積指標である。横軸のプロセス回数は時間と考えてもよい。図4の横軸の時間は、図3の横軸の時間よりも桁違いに長い時間である。図4の堆積指標(電流値)は、図3のモータ電流値からの抽出から、さらに平均化がなされ、曲線で近似されている。
【0040】
図4から理解されるように、モータ電流値は、プロセスごとに徐々に上昇し、時々不連続に減少する。図4で、堆積指標の不連続な減少が発生するのは、時間t、時間t、時間tの3点である。堆積指標の不連続な減少が発生する点は、真空ポンプのメンテナンス時期に相当すると考えられる。真空ポンプのメンテナンスにより真空ポンプ内部から生成物が除去されるので、モータ負荷が低減されるからである。現在時刻tからみて、時間tが現在より1回前のメンテナンス時期、時間tが現在より2回前のメンテナンス時期、時間tが現在より3回前のメンテナンス時期に相当する。
【0041】
(メンテナンス時期の予測方法)
次に、本実施形態の真空ポンプのメンテナンス時期の予測方法について、図5のフローチャートを用いて説明する。
【0042】
通常の真空ポンプの運転において、堆積物量推定装置70は、堆積物の堆積量の指標と成り得る測定データを取得し続ける(S101)。本実施形態では、堆積指標となりうる測定データは、モータ電流値である。そして、プロセス、または、所定期間ごとに、測定データから、堆積指標を計算して、その推移をプロットする(S102)。堆積指標(ここではモータ電流値)のデータ推移の例示は、前述した図4である。
【0043】
次に、堆積指標の推移から真空ポンプの過去のメンテナンス時期を抽出する(S103)。具体的には、堆積指標の時間変化において、堆積指標が不連続に減少(すなわち、所定の割合または所定の値以上に減少)している点を抽出する。図4の例では、現在時刻tから遡り、堆積指標が不連続に変化している時間t、t、tを真空ポンプの過去のメンテナンス時期と認定する。
【0044】
次に、過去1回前のメンテナンス時tから現在時刻tまでの堆積指標の推移から、将来の堆積指標の推移を予測する(S104)。具体的には、図6に示すように、1回前のメンテナンス時tから現在時刻tの間の堆積指標に対して、近似曲線L11を描き、その曲線を将来に延長する。図6では、メンテナンス時tから現在時刻tまでの堆積指標の代表値を最小二乗法で近似し、直線L11としている。場合によって直線ではなく、他の曲線、たとえば、2次曲線で近似してもよい。または、過去1回前のメンテナンス時tから現在時刻tにおける堆積指標の代表値を一部学習データとして使用し、予測モデルを作成することで、将来の堆積指標の推移を予測してもよい。予測モデルの作成には機械学習、たとえば自己回帰和分移動平均モデル(ARIMA)や長短期記憶ニューラルネットワーク(LSTM)などを用いる。
【0045】
次に、真空ポンプの将来のメンテナンス時期を示す堆積指標の閾値Xを決定する(S105)。ステップS105では、時刻t以前の堆積指標の推移のデータを利用して、閾値Xを決定する。例えば、2回前のメンテナンス時t直後の堆積指標の値から、1回前のメンテナンス時t直前の堆積指標の値の増加分を求め、1回前のメンテナンス時t直後の堆積指標の値に加えて、堆積指標の閾値Xとしてもよい。閾値を求める方法としてはもっと別の方法を用いてもよい。たとえば、次のようにしてもよい。複数回にわたる、過去のメンテナンス時とメンテナンス時との間の堆積指標の増加量を求め、複数回の堆積指標の増加量を平均する。その値を堆積指標の増加量とし、1回前のメンテナンス時t直後の堆積指標の値に加えて、堆積指標の閾値Xとしてもよい。
【0046】
次に、堆積指標の予測を示す曲線(直線)L11が閾値Xに達する時間t21を決定し、その時間t21をメンテナンス時期とする(S106)。予測されたメンテナンス時期(時間t21)は、現時点(時刻t)において、たとえば、ポンプ制御部2のモニターに表示され、ユーザに通知される。
【0047】
以上説明したように、ステップS104においては、図6に示すように、前回のメンテナンス時taから後の堆積指標を用いて、将来の堆積指標を予測している。もし、メンテナンス時tより前の時刻tから現在時刻tまでの堆積指標を用いて、将来の堆積指標を予測したとしたら、近似曲線L12は、図7の比較例のようになる。図7の比較例では、図6の本実施形態と同じ閾値を用いている。図7の場合、ステップS106で求める将来のメンテナンス時t22は、図6のメンテナンス時t21に比べて、ずっと近いものになる。つまり、図7の比較例の場合には、メンテナンスによる不連続な堆積指標の変化を考慮に入れていないために、適正な予測ができていない。一方、本実施形態においては、過去1回前のメンテナンス時t以前の堆積指標の推移を用いず、過去1回前のメンテナンス時tから現在までの堆積指標の推移のみを用いて、堆積指標の将来の推移を予測することにより、過去1回前のメンテナンス時以前の堆積指標の推移の影響を受けた誤ったメンテナンス時期を予測してしまう不具合を防止できる。
【0048】
上記のように堆積物量推定装置は、メンテナンス時期を予測する機能を備えている。ユーザは、メンテナンス前に自動的にメンテナンス時期の予測時刻(日時)を知ることができ、真空ポンプの利用計画を円滑に決めることができる。
【0049】
(変形例1)
第1実施形態では、堆積物の堆積量の指標は、モータ電流値であった。変形例1では、堆積物の堆積量の指標は、PWM信号生成部101で生成されたPWM制御信号(IMC)である。PWM制御信号についても、モータ電流値と同様に、ターボ分子ポンプの運転中に変動する。そこで、モータ電流値の場合と同様に、PWM制御信号についても、代表値を決定して、その運転回の代表値とする。PWM制御信号(IMC)のプロセス回ごとの代表値の推移の例を示すグラフを図8に示す。
【0050】
変形例1では、堆積物量推定装置70は、堆積指標としてPWM制御信号を用いて、メンテナンス時期を予測する。PWM制御信号を用いることにより、モータ電流値を用いるのと同様に、正確にメンテナンス時期を予測することができ、ユーザの真空ポンプの計画的な利用に資する。
【0051】
(変形例2)
変形例2では、堆積物の堆積量の指標として、磁気軸受の電磁石電流値(X,Y,Z方向)を用いる。
【0052】
変形例2では、堆積物量推定装置70は、堆積指標として磁気軸受の電磁石電流値を用いて、メンテナンス時期を予測する。磁気軸受の電磁石電流値を用いることにより、メンテナンス時期を予測することができ、ユーザの真空ポンプの計画的な利用に資する。
【0053】
(変形例3)
変形例3では、堆積物の堆積量の指標として、モータ電流値、PWM制御信号、磁気軸受の電磁石電流値の2以上を組み合わせて用いる。
【0054】
変形例3では、堆積物量推定装置70は、堆積指標として2以上の指標を組み合わせて、メンテナンス時期を予測する。2以上の指標を組み合わせることにより、正確にメンテナンス時期を予測することができ、ユーザの真空ポンプの計画的な利用に資する。
【0055】
(変形例4)
変形例4では、過去のメンテナンス時期の取得のために、分解検知用センサの信号を用いる。
【0056】
図2では、ポンプ部1と電源ユニット200との間に分離検出部203が設けられている。分離検出部203は、ポンプ部1と電源ユニット200がメンテナンスのために分離されたことを検出するセンサである。
【0057】
具体的には、分離検出部203は、電源ユニット200内部に設けられた加速度センサ若しくは光センサ、又は電源ユニット200とポンプ部1との間に導通確認を行うための配線である。したがって、ポンプ部1と電源ユニット200が分離されると、そのタイミングを示す信号を取得することができる。ポンプ部1の稼働データに加え、この情報を利用することで、メンテナンスが行われたタイミングを精度よく判断できる。
【0058】
(変形例5)
第1実施形態では、ポンプ制御部2に配置された堆積指標監視部71が堆積物情報を取得する構成とした。しかし、堆積指標監視部71は、通信等により必要なデータが得られれば任意のコンピュータに配置することができる。堆積指標監視部71は、主制御部に配置されていてもよく、主制御部およびポンプ制御部2から物理的に離れた位置にあるサーバ、パーソナルコンピュータまたは携帯端末等に配置されていてもよい。同様に、ターボ分子ポンプ100が用いるデータの一部は遠隔のサーバ等に保存してもよく、解析プログラムにより行われる演算処理の少なくとも一部は遠隔のサーバ等で行ってもよい。物理的に離れた2以上の処理装置により、互いに強調して処理が行われてもよい。
【0059】
(変形例6)
第1実施形態では、ターボ分子ポンプ100が磁気浮上型のターボ分子ポンプとして説明した。しかし、上述の実施形態の真空ポンプの解析方法は、回転駆動が行われる真空ポンプであって、流路に堆積物が堆積する可能性のあるものであれば適用できる。例えば、上述の実施形態の解析方法は、玉軸受型のターボ分子ポンプにも適用することができる。
【0060】
(変形例7)
第1実施形態では、ターボ分子ポンプ100のポンプ部1と電源ユニット200が一体型であった。しかし、一体型ではない構造にも本発明は適用可能である。
【0061】
(変形例8)
ターボ分子ポンプ100の情報処理機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録された、上述したポンプ制御部2の処理およびそれに関連する処理の制御に関するプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行させてもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、光ディスク、メモリカード等の可搬型記録媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスクまたはソリッドステートドライブ(Solid State Drive; SSD)等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持するものを含んでもよい。また上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせにより実現するものであってもよい。
【0062】
また、パーソナルコンピュータ(Personal Computer;PC)等に適用する場合、上述した制御に関するプログラムは、CD-ROMまたはDVD-ROM等の記録媒体やインターネット等のデータ信号を通じて提供することができる。
【0063】
(態様)
上述した複数の例示的な実施形態またはその変形は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
(第1項)
一態様に係る真空ポンプの堆積物量推定装置は、ロータをモータで回転駆動してガスを排気する真空ポンプにおいて、真空ポンプ内の堆積物の堆積量を推定する堆積物量推定装置であって、
制御部を備え、
前記制御部は、
真空ポンプの運転中に、真空ポンプ内に堆積する堆積物の堆積量を示す堆積指標と成り得る測定データを取得し、
前記測定データから、堆積指標の推移を算出し、
前記堆積指標の推移から前記真空ポンプの過去のメンテナンス時を抽出し、
過去1回前のメンテナンス時以前の前記堆積指標の推移を用いず、過去1回前のメンテナンス時から現在までの前記堆積指標の推移のみを用いて、堆積指標の将来の推移を予測し、
前記堆積指標の将来の推移に基づいて、将来のメンテナンス時を予測する。
【0064】
過去1回前のメンテナンス時以前の堆積指標の推移を用いず、過去1回前のメンテナンス時から現在までの前記堆積指標の推移のみを用いて、堆積指標の将来の推移を予測することにより、過去1回前のメンテナンス時以前の堆積指標の推移の影響を受けた誤った将来のメンテナンス時期を予測してしまう不具合を防止できる。その結果、精度よく堆積量の予測が可能になり、メンテナンス時期を精度よく予測することができる。
(第2項)
第2項の態様に係る真空ポンプの堆積物量推定装置では、第1項の態様の真空ポンプの堆積物量推定装置において、前記制御部は、前記測定データを用いて、将来のメンテナンス時を示す堆積指標の閾値を決定し、前記堆積指標の将来の推移と決定された前記閾値との比較に基づいて、将来のメンテナンス時を予測する。
【0065】
将来のメンテナンス時を予測するための閾値は所定のものを使用することも可能であるが、その都度、測定データを用いて閾値を決定することにより、過去のメンテナンス時までに蓄積されていた堆積物の量を参照したユーザにとって最適なメンテナンス時期の閾値を設定することが可能となる。
(第3項)
第3項の態様に係る真空ポンプの堆積物量推定装置は、第2項の態様の真空ポンプの堆積物量推定装置において、前記制御部は、少なくとも現在から過去2回前のメンテナンス時までの前記測定データを用いて、将来のメンテナンス時を示す堆積指標の閾値を決定する。
【0066】
少なくとも、過去2回前のメンテナンス直後の測定データから過去1回前のメンテナンス時の直前の測定データの推移を使用して、閾値を決定することができる。従って、精度よく閾値の決定が可能であり、より精度よく、メンテナンス時期の予測が可能になる。
(第4項)
第4項の態様に係る真空ポンプの堆積物量推定装置では、第1項から第3項の態様の真空ポンプの堆積物量推定装置において、前記測定データは、前記モータのモータ電流値、前記モータのインバータのスイッチング素子をオンオフ制御するPWM制御信号、又は、前記真空ポンプの磁気軸受の電磁石のセンサ信号である。
(第5項)
第5項の態様に係る真空ポンプの堆積物量推定装置では、第1項から第4項のいずれかの態様の真空ポンプの堆積物量推定装置において、前記制御部は、前記堆積指標が減少している時点を過去のメンテナンス時として取得する。
【0067】
メンテナンスが行われ、堆積物を除去されれば真空ポンプ内部の負荷が小さくなるので、堆積指標はメンテナンス前と比較して減少する。従って、堆積指標の推移から減少している時点を抽出することにより、自動的にかつより正確に過去のメンテナンス時を推定することができる。
(第6項)
第6の態様に係る真空ポンプの堆積物量推定装置は、第1項から第5項のいずれかの態様の真空ポンプの堆積物量推定装置であって、真空ポンプと電源との分離を検出する分離検出タイミング信号を利用して過去のメンテナンス時を取得する。
【0068】
本態様に係る堆積物量推定装置は、過去のメンテナンス時期をより正確に把握できるので、将来のメンテナンス時期をより正確に予測できる。
(第7項)
第7の態様に係る堆積物量推定方法は、ロータをモータで回転駆動してガスを排気する真空ポンプにおいて、真空ポンプ内の堆積物の堆積量を推定する堆積物量推定方法であって、
真空ポンプの運転中に、真空ポンプ内に堆積する堆積物の堆積量を示す堆積指標と成り得る測定データを取得するステップと、
前記測定データから、堆積指標の推移を算出するステップと、
前記堆積指標の推移から真空ポンプの過去のメンテナンス時を抽出するステップと、
過去1回前のメンテナンス時以前の前記堆積指標の推移を用いず、過去1回前のメンテナンス時から現在までの前記堆積指標の推移のみから、堆積指標の将来の推移を予測するステップと、
前記堆積指標の将来の推移に基づいて、将来のメンテナンス時を予測するステップとを含む。
【0069】
過去1回前のメンテナンス時以前の堆積指標の推移を用いず、過去1回前のメンテナンス時から現在までの前記堆積指標の推移のみを用いて、堆積指標の将来の推移を予測することにより、過去1回前のメンテナンス時以前の堆積指標の推移の影響を受けた誤った将来のメンテナンス時期を予測してしまう不具合を防止できる。その結果、精度よく堆積量の予測が可能になり、メンテナンス時期を精度よく予測することができる。
【0070】
上記では、種々の実施形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、各実施形態および変形例は、それぞれ単独で適用しても良いし、組み合わせて用いても良い。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0071】
1 :ポンプ部
2 :ポンプ制御部
21 :モータ制御部
22 :軸受制御部
23 :記憶部
24 :通信部
70 :堆積物量推定装置
71 :堆積指標監視部
77 :予測部
100 :ターボ分子ポンプ
M :モータ
図1
図2
図3
図4
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