(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020810
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】難燃性樹脂組成物および構造体
(51)【国際特許分類】
C08G 59/26 20060101AFI20230202BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20230202BHJP
C08K 3/016 20180101ALI20230202BHJP
C09K 21/10 20060101ALI20230202BHJP
C09K 21/14 20060101ALI20230202BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20230202BHJP
C09K 21/02 20060101ALN20230202BHJP
【FI】
C08G59/26
C08L63/00 C
C08K3/016
C09K21/10
C09K21/14
H01L23/30 R
C09K21/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175443
(22)【出願日】2021-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2021124446
(32)【優先日】2021-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】西川 佳樹
【テーマコード(参考)】
4H028
4J002
4J036
4M109
【Fターム(参考)】
4H028AA12
4H028AA29
4H028AA44
4J002CC032
4J002CC062
4J002CC162
4J002CD002
4J002CD032
4J002CD042
4J002CD052
4J002CD062
4J002CD112
4J002CD131
4J002CD132
4J002CD141
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4J002CM032
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4M109AA01
4M109BA01
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4M109EA03
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4M109EB13
4M109EC05
4M109EC07
4M109EC20
(57)【要約】
【課題】耐トラッキング性および難燃性に優れる硬化物を実現できる難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の難燃性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂、硬化剤、および難燃剤を含む難燃性樹脂組成物であって、熱硬化性樹脂が、分子内に、少なくとも1個以上のベンゼン環と、ベンゼン環の上のC原子のいずれかに結合したN原子と、N原子に連結基を介して結合したエポキシ基と、を備えており、エポキシ基を少なくとも2個以上有する、N原子含有エポキシ樹脂を含むものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂、硬化剤、および難燃剤を含む難燃性樹脂組成物であって、
前記熱硬化性樹脂が、分子内に、少なくとも1個以上のベンゼン環と、前記ベンゼン環の上のC原子のいずれかに結合したN原子と、前記N原子に連結基を介して結合したエポキシ基と、を備えており、前記エポキシ基を少なくとも2個以上有する、N原子含有エポキシ樹脂を含む、
難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の難燃性樹脂組成物であって、
前記N原子含有エポキシ樹脂中、前記連結基が、炭素数1~3のアルキレン基、エーテル基、および複素環含有基からなる群から選ばれる一または二以上を含む、難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物であって、
前記N原子含有エポキシ樹脂が、分子内にアミノ基を有しない、難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物であって、
当該難燃性樹脂組成物の硬化物をサンプルに用いて、国際電気標準会議規格IEC-60112に準拠して測定した比較トラッキング指数(CTI)が500V以上である、難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物であって、
当該難燃性樹脂組成物の硬化物におけるガラス転移温度が、165℃以上である、難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物であって、
熱硬化性樹脂が、前記N原子含有エポキシ樹脂以外の、他のエポキシ樹脂を含む、難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物であって、
前記硬化剤が、フェノール系硬化剤を含む、難燃性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物であって、
前記難燃剤が、無機系難燃剤を含む、難燃性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物であって、
当該難燃性樹脂組成物の硬化物における250℃の曲げ応力が、10MPa以上である、難燃性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物であって、
当該難燃性樹脂組成物の硬化物における200℃~250℃の温度域における線膨張係数α2が、48ppm/℃以下である、難燃性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物であって、
パワーデバイスを構成する部品を封止するために用いられる、難燃性樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物の硬化物を備える、構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物および構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで難燃性樹脂組成物について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物が記載されている(特許文献1の請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載のエポキシ樹脂組成物において、耐トラッキング性および難燃性の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はさらに検討したところ、分子内にエポキシ基が連結基を介して結合したN原子を有するN原子含有エポキシ樹脂と難燃剤とを併用することにより、難燃性樹脂組成物の硬化物において、耐トラッキング性および難燃性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、
熱硬化性樹脂、硬化剤、および難燃剤を含む難燃性樹脂組成物であって、
前記熱硬化性樹脂が、分子内に、少なくとも1個以上のベンゼン環と、前記ベンゼン環の上のC原子のいずれかに結合したN原子と、前記N原子に連結基を介して結合したエポキシ基と、を備えており、前記エポキシ基を少なくとも2個以上有する、N原子含有エポキシ樹脂を含む、
難燃性樹脂組成物が提供される。
【0007】
また本発明によれば、
上記の難燃性樹脂組成物の硬化物を備える、構造体が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐トラッキング性および難燃性に優れる硬化物を実現できる難燃性樹脂組成物および構造体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る電子装置の構成の一例を示す模式的断面図である。
【
図2】耐トラッキング性試験に用いる装置の構成を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
【0011】
本実施形態の難燃性樹脂組成物を概説する。
【0012】
本実施形態の難燃性樹脂組成物は、N原子含有エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂、硬化剤、および難燃剤を含む。このN原子含有エポキシ樹脂は、少なくとも1個以上のベンゼン環と、ベンゼン環の上のC原子のいずれかに結合したN原子と、N原子に連結基を介して結合したエポキシ基と、を備えるものであり、当該エポキシ基を少なくとも2個以上有するものである。
【0013】
このような難燃性樹脂組成物は、パワーデバイス等の高電圧・高電流デバイスを構成する部材を形成するために好適に用いることができる。
【0014】
高電圧・高電流の環境下で使用されたとき、通電による発熱により、難燃性樹脂組成物の硬化物の表面に炭化層が形成される。このため、一般的に言えば、ベンゼン環を含む炭化層が少ない方がCTIを高められる。しかしながら、ベンゼン環を含む炭化層が少ないと難燃性が低下する恐れがある。すなわち、耐トラッキング性と難燃性とはトレードオフの関係にある。
【0015】
本発明者らは、ベンゼン環を含む炭化層を形成するが、その炭化層が通電しにくい特性を有するものを実現できる樹脂組成物により、トレードオフの関係にある耐トラッキング性と難燃性との両者を向上できると考え、そのような樹脂組成物について鋭意検討を行った。
【0016】
本発明者の知見によれば、熱硬化性樹脂、硬化剤、および難燃剤を含む難燃性樹脂組成物において、ベンゼン環の上のC原子のいずれかに結合したN原子と、N原子に連結基を介して結合したエポキシ基とを備える上記のN原子含有エポキシ樹脂を用いることによって、難燃性樹脂組成物の硬化物におけるCTIを高めつつも、ΣFやFmaxを減少できることが見出された。
【0017】
詳細なメカニズムは定かでないが、上記のN原子含有エポキシ樹脂は、通電による発熱によって難燃性樹脂組成物の硬化物の表面に炭化層を形成しやすいものの、硬化物中に含まれるN原子の分極によって炭化層中の電子密度が下がる。このため、難燃性を向上させつつも、硬化物の表面に形成された炭化層を通電することで引き起こされるトラッキングを抑制すること、すなわち、耐トラッキング性を向上させることが可能になると、考えられる。
なお、オキサゾリドン環骨格を含むN原子含有エポキシ樹脂においては、通電による発熱によって難燃性樹脂組成物の硬化物の表面に形成される炭化層がやや低減するものの、発熱時にオキサゾリドン環が脱炭酸して、C02を発生させることが難燃性に寄与する、と考えられる。
【0018】
本実施形態の難燃性樹脂組成物は、例えば、電子部品の、封止材料、基板材料、放熱材料、絶縁材料等として用いることが可能である。
【0019】
封止材料は、例えば、電子部品パッケージやウェハレベルパッケージを形成する等に用いる封止材、電子部品と基板との間隙に充填する等に用いるモールドアンダーフィル材等が挙げられる。
【0020】
基板材料としては、例えば、難燃性樹脂組成物からなる樹脂シート;難燃性樹脂組成物の硬化物で構成される樹脂基板;難燃性樹脂組成物を繊維基材に含浸させてなるプリプレグ、プリプレグの硬化物で構成される積層板;樹脂シート、樹脂基板及び積層板のいずれかの少なくとも一面に銅層が形成された銅張積層板、銅張積層板の銅層に回路加工されてなる回路基板;等が挙げられる。
【0021】
電子部品は、たとえば、通常の半導体装置(電子部品として半導体素子を備える電子装置)やパワーモジュール(電子部品としてパワー半導体素子を備える電子装置)等を用いることができる。パワー半導体素子は、SiC、GaN、Ga2O3、またはダイヤモンドのようなワイドバンドギャップ材料を使用したものであり、高電圧・大電流で使用されるように設計されているため、通常のシリコンチップ(半導体素子)よりも発熱量が大きくなるので、さらに高温の環境下で動作することになる。パワー半導体素子には、たとえば、200℃以上や250℃以上等の高温の動作環境下で、長時間の使用が要求される。パワー半導体素子の具体例としては、たとえば、整流ダイオード、パワートランジスタ、パワーMOSFET、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)、サイリスタ、ゲートターンオフサイリスタ(GTO)、トライアック等が挙げられる。
【0022】
本実施形態の難燃性樹脂組成物によれば、パワーデバイスを構成する部品(電子部品など)を封止するために用いる封止材料を提供することができる。
【0023】
以下、本実施形態の難燃性樹脂組成物を詳述する。
【0024】
難燃性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を一または二以上含む難燃性樹脂組成物である。
【0025】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂が、N原子含有エポキシ樹脂を含む。
N原子含有エポキシ樹脂は、重合性官能基として、分子内に、N原子に連結基を介して結合したエポキシ基を少なくとも2個以上有する。
N原子含有エポキシ樹脂は、1個のエポキシ基が連結基を介して結合したN原子、および/または2個のエポキシ基が連結基を介して結合したN原子を含む。
【0026】
N原子含有エポキシ樹脂に含まれる連結基は、それぞれ、炭素数1~3のアルキレン基、エーテル基、および複素環含有基等からなる群から選ばれる一または二以上を含むように構成されてもよい。
炭素数1~3のアルキレン基は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基が挙げられるが、メチレン基が好ましい。
複素環含有基は、下記式(A)で表されるオキサゾリドン環を含む基が挙げられるが、これに限定されない。式(A)中、波線は、他の基との結合手を表す。
【0027】
【0028】
N原子含有エポキシ樹脂として、例えば、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、およびオキサゾリドン環骨格を有するエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0029】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂は、例えば、アミンのアミノ基がグリシジル化された構造を有するエポキシ樹脂であり、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、キシレンジアミンのグリシジル化合物、トリグリシジルアミノフェノール(トリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジル-m-アミノフェノール等)、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホン、テトラグリシジルジアミノジフェニルエーテル、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサノン、ジグリシジルトルイジン、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルメトキシアニリン、ジグリシジルジメチルアニリン、ジグリシジルトリフルオロメチルアニリン等が挙げられる。
【0030】
オキサゾリドン環構造は、イソシアネート基とエポキシ基の付加反応により生成できる。
オキサゾリドン環骨格を有するエポキシ樹脂の製造方法としては、特に限定されず、例えば、イソシアネート化合物とビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂とを、オキサゾリドン環形成触媒の存在下で反応させることにより、得ることができる。
【0031】
N原子含有エポキシ樹脂は、重合性官能基として、分子内にアミノ基を有しないものを含むことが好ましい。これにより、難燃性樹脂組成物の使いこなしが容易になり、製造安定性を向上させることができる。
【0032】
熱硬化性樹脂は、N原子含有エポキシ樹脂以外の、他のエポキシ樹脂を含んでもよい。これにより、熱硬化性樹脂組成物における諸物性のバランスを図ることができる。
【0033】
他のエポキシ樹脂は、1分子内に2以上のエポキシ基を有する化合物であり、モノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができ、その分子量や分子構造は特に限定されない。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
他のエポキシ樹脂は、分子内に少なくとも2個以上、好ましくは3個以上のエポキシ基とイソシアヌル酸構造とを備えるイソシアヌル型エポキシ樹脂を含んでもよい。
より具体的には、芳香族環を備えるエポキシ樹脂は、イソシアヌル酸構造中の3つのN原子にそれぞれエポキシ基が結合した、3官能のイソシアヌル型エポキシ樹脂を含んでもよい。
【0035】
イソシアヌル酸構造は、下記式(I)で表される構造を備える。式(I)中、波線は、他の基との結合手を表す。
【0036】
【0037】
イソシアヌル型エポキシ樹脂以外の、他のエポキシ樹脂としては、たとえば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂(4,4'-(1,3-フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ樹脂)、ビスフェノールP型エポキシ樹脂(4,4'-(1,4-フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ樹脂)、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂(4,4'-シクロヘキシジエンビスフェノール型エポキシ樹脂)等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノール基メタン型ノボラック型エポキシ樹脂、テトラフェノール基エタン型ノボラック型エポキシ樹脂,縮合環芳香族炭化水素構造を有するノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂等のアリールアルキレン型エポキシ樹脂;ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、2官能ないし4官能エポキシ型ナフタレン樹脂、ビナフチル型エポキシ樹脂、ナフタレンアラルキル型エポキシ樹脂等のナフタレン型エポキシ樹脂;アントラセン型エポキシ樹脂;フェノキシ型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;ノルボルネン型エポキシ樹脂;アダマンタン型エポキシ樹脂;フルオレン型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
エポキシ樹脂の含有量の下限は、例えば、難燃性樹脂組成物の固形分100質量%中、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。これによって、成形時の難燃性樹脂組成物の流動性を適切に制御できる。一方、エポキシ樹脂の含有量の上限は、例えば、難燃性樹脂組成物の固形分100質量%中、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、13質量%以下であることが更に好ましい。これにより、難燃性樹脂組成物の線膨張係数を適切な範囲内とすることができる。したがって、高温保管特性を向上することができる。
【0039】
N原子含有エポキシ樹脂の含有量の下限は、エポキシ樹脂100質量%中、例えば、5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。これにより、硬化物における耐トラッキング性および難燃性を向上できる。
一方、N原子含有エポキシ樹脂の含有量の上限は、エポキシ樹脂100質量%中、特に限定されないが、90質量%以下、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。これにより、硬化物の諸物性のバランスを図ることができる。
【0040】
本明細書中、難燃性樹脂組成物の固形分とは、難燃性樹脂組成物に含まれる成分のうち、溶媒を除く成分の合計のことを示す。また、「~」は、特に明示しない限り、上限と下限を含むことを表す。
【0041】
難燃性樹脂組成物は、N原子含有エポキシ樹脂の他に、他の熱硬化性樹脂を含んでもよいが、含まなくてもよい。
他の熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ビスマレイミド樹脂、アクリル樹脂、またフェノール誘導体これらの誘導体等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、1分子内に反応性官能基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができ、その分子量や分子構造は特に限定されない。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
(硬化剤)
上記難燃性樹脂組成物は、硬化剤を含む。
上記硬化剤としては、熱硬化性樹脂の種類に応じて選択され、これと反応するものであれば特に限定されない。硬化剤としては、具体的には、重付加型の硬化剤、触媒型の硬化剤、および縮合型の硬化剤などが挙げられる。
【0043】
上記重付加型の硬化剤としては、具体的には、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシレリレンジアミン(MXDA)などの脂肪族ポリアミン;ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m-フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)などの芳香族ポリアミン;ジシアンジアミド(DICY)、有機酸ジヒドララジドなどのポリアミン化合物;ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)などの脂環族酸無水物;無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)などの芳香族酸無水物などの酸無水物;ノボラック型フェノール樹脂、ポリビニルフェノール、アラルキル型フェノール樹脂などのフェノール樹脂系硬化剤;ポリサルファイド、チオエステル、チオエーテルなどのポリメルカプタン化合物;イソシアネートプレポリマー、ブロック化イソシアネートなどのイソシアネート化合物;カルボン酸含有ポリエステル樹脂などの有機酸類などが挙げられる。重付加型の硬化剤としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
上記触媒型の硬化剤としては、具体的には、ベンジルジメチルアミン(BDMA)、2,4,6-トリスジメチルアミノメチルフェノール(DMP-30)などの3級アミン化合物;2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール(EMI24)などのイミダゾール化合物;BF3錯体などのルイス酸などが挙げられる。触媒型の硬化剤としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
上記縮合型の硬化剤としては、具体的には、レゾール型フェノール樹脂;メチロール基含有尿素樹脂などの尿素樹脂;メチロール基含有メラミン樹脂などのメラミン樹脂などが挙げられる。縮合型の硬化剤としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
硬化剤としては、上記具体例のうち、フェノール樹脂系硬化剤を含んでもよい。
上記フェノール樹脂系硬化剤としては、フェノール樹脂を用いることができ、具体的には、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂、アミノトリアジンノボラック樹脂、ノボラック樹脂、トリスフェニルメタン型のフェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物;レゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。
これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、ガラス転移温度の向上及び線膨張係数の低減の観点から、ノボラック型フェノール樹脂を用いることができる。
【0047】
硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂の含有量に応じて適切に設定できる。
【0048】
上記難燃性樹脂組成物は、充填材を含んでもよい。
充填材としては、無機粒子及び/又は有機粒子が用いられる。
無機粒子として、例えば、溶融破砕シリカ、溶融球状シリカ、結晶シリカ、2次凝集シリカ等のシリカ;アルミナ;チタンホワイト;水酸化アルミニウム;タルク;クレー;マイカ;ガラス繊維等が挙げられる。
これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
充填材又は無機粒子の含有量の下限は、難燃性樹脂組成物の固形分100質量%中、例えば、50質量%以上であることが好ましく、60量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが好ましい。これにより、難燃性樹脂組成物の硬化物における機械的特性を高められる。
一方、充填材又は無機粒子の含有量の上限は、難燃性樹脂組成物の固形分100質量%中、例えば、93質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることが好ましい。これにより、難燃性樹脂組成物の硬化物における難燃性等の諸特性のバランスを図ることができる。
【0050】
(硬化促進剤)
硬化促進剤は、たとえば、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、ベンジルジメチルアミン、2-メチルイミダゾール等が例示されるアミジンや3級アミン、上記アミジンやアミンの4級塩等の窒素原子含有化合物から選択される1種類または2種類以上を含むことができる。これらの中でも、硬化性を向上させる観点からはリン原子含有化合物を含むことがより好ましい。また、成形性と硬化性のバランスを向上させる観点からは、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等の潜伏性を有するものを含むことがより好ましい。
【0051】
(難燃剤)
難燃剤としては、無機系難燃剤を含んでもよい。
無機系難燃剤の具体例は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、ホスファゼン、カーボンブラックなどを挙げることができる。難燃剤としては、上記具体例のうち1種または2種以上を配合することができる。この中でも、難燃性の観点から、水酸化アルミニウムを用いてもよい。
【0052】
無機系難燃剤の含有量の下限は、例えば、難燃性樹脂組成物の固形分100質量%中、3質量%以上、好ましくは4質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。これにより、硬化物の難燃性を向上できる。
一方、無機系難燃剤の上限は、難燃性樹脂組成物の固形分100質量%中、例えば、10質量%以下としてもよい。これにより、硬化物の諸物性のバランスを図ることができる。
【0053】
(その他の成分)
難燃性樹脂組成物は、必要に応じて、カップリング剤、流動性付与剤、離型剤、イオン捕捉剤、低応力剤、有機充填材、および着色剤等の各種添加剤のうち1種または2種以上を適宜配合することができる。
【0054】
(カップリング剤)
難燃性樹脂組成物は、必要に応じて、カップリング剤を含んでもよい。
カップリング剤としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのビニルシラン;2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのエポキシシラン;p-スチリルトリメトキシシランなどのスチリルシラン;3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのメタクリルシラン;3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのアクリルシラン;N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、フェニルアミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシラン;イソシアヌレートシラン;アルキルシラン;3-ウレイドプロピルトリアルコキシシランなどのウレイドシラン;3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシラン;3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネートシラン;チタン系化合物;アルミニウムキレート類;アルミニウム/ジルコニウム系化合物などが挙げられる。カップリング剤としては、上記具体例のうち1種または2種以上を配合することができる。
【0055】
(流動性付与剤)
流動性付与剤は、リン原子含有硬化促進剤などの潜伏性を有さない硬化促進剤が、樹脂組成物の溶融混練時に反応することを抑制できる。これにより、難燃性樹脂組成物の生産性を向上できる。
【0056】
(離型剤)
離型剤としては、具体的には、カルナバワックスなどの天然ワックス;モンタン酸エステルワックス、酸化ポリエチレンワックスなどの合成ワックス;ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸及びその金属塩;パラフィン;エルカ酸アミドなどのカルボン酸アミドなどが挙げられる。離型剤としては、上記具体例のうち1種または2種以上を配合することができる。
【0057】
(イオン捕捉剤)
上記イオン捕捉剤は、具体的には、ハイドロタルサイト、ハイドロタルサイト状物質などのハイドロタルサイト類;マグネシウム、アルミニウム、ビスマス、チタン、ジルコニウムから選ばれる元素の含水酸化物などが挙げられる。イオン捕捉剤としては、上記具体例のうち1種または2種以上を配合することができる。
【0058】
(低応力剤)
低応力剤としては、具体的には、シリコーンオイル、シリコーンゴムなどのシリコーン化合物;ポリブタジエン化合物;アクリロニトリル-カルボキシル基末端ブタジエン共重合化合物などのアクリロニトリル-ブタジエン共重合化合物などを挙げることができる。低応力剤としては、上記具体例のうち1種または2種以上を配合することができる。
【0059】
(着色剤)
着色剤としては、具体的には、カーボンブラック、ベンガラ、酸化チタンなどを挙げることができる。着色剤としては、上記具体例のうち1種または2種以上を配合することができる。
【0060】
本実施形態に係る難燃性樹脂組成物の製造方法について説明する。
難燃性樹脂組成物の製造方法は、例えば、上述の原料成分、を混合する混合工程を含む。
【0061】
混合工程は、原料成分を混合し、混合物を作製工程である。混合する方法は限定されず、用いられる成分に応じて、公知の方法を用いることができる。
混合工程としては、具体的には、上述した難燃性樹脂組成物が含む原料成分を、ミキサーなどを用いて均一に混合する。次いで、ロール、ニーダーまたは押出機等の混練機で溶融混練し、混合物を作製する。
【0062】
難燃性樹脂組成物の製造方法は、得られた混合物を成形する成形工程を含んでもよい。
【0063】
成形する方法としては限定されず、難燃性樹脂組成物の形状に応じて、公知の方法を用いることができる。難燃性樹脂組成物の形状としては限定されず、例えば、顆粒形状、粉末形状、タブレット形状、シート形状などが挙げられる。半導体封止用の難燃性樹脂組成物として、例えば、顆粒状、またはタブレット状であってもよい。
【0064】
難燃性樹脂組成物の形状は、成形方法に応じて選択できる。
顆粒形状とした難燃性樹脂組成物を作製する成形工程としては、例えば、溶融混練後、冷却した混合物を粉砕する工程が挙げられる。なお、例えば、顆粒形状とした難燃性樹脂組成物をふるい分けして、顆粒の大きさを調節してもよい。また、例えば、顆粒形状とした難燃性樹脂組成物を、遠心製粉法またはホットカット法などの方法で処理し、分散度または流動性などを調製してもよい。
また、粉末形状とした難燃性樹脂組成物を作製する成形工程としては、例えば、混合物を粉砕し顆粒形状の難燃性樹脂組成物とした後、該顆粒形状の難燃性樹脂組成物をさらに粉砕する工程が挙げられる。
また、タブレット形状とした難燃性樹脂組成物を作製する成形工程としては、例えば、混合物を粉砕し顆粒形状の難燃性樹脂組成物とした後、該顆粒形状の難燃性樹脂組成物を打錠成型する工程が挙げられる。
【0065】
以下、難燃性樹脂組成物の特性について説明する。
【0066】
難燃性樹脂組成物の硬化物における、国際電気標準会議規格IEC-60112に準拠して測定した比較トラッキング指数(CTI)は、500V以上、好ましくは525V、より好ましくは550V以上である。このようなCTIは、耐トラッキング性が要求される用途向けの特性を意味する。
上記CTIの上限は、とくに限定されないが、600V以下としてもよい。
【0067】
難燃性樹脂組成物の硬化物におけるガラス転移温度が、例えば、165℃以上、好ましくは170℃以下、より好ましくは180℃以上である。これにより、封止材としての耐熱性等の熱特性を向上できる。
上記ガラス転移温度の上限は、とくに限定されないが、例えば、300℃以下としてもよい。
【0068】
当該難燃性樹脂組成物の硬化物における250℃の曲げ応力の下限は、例えば、10MPa以上、好ましくは13MPa以上、より好ましくは15MPa以上である。これにより、熱時耐久性を向上できる。
一方、上記250℃の曲げ応力の上限は、とくに限定されないが、例えば、100MPa以下としてもよい。
【0069】
当該難燃性樹脂組成物の硬化物における200℃~250℃の温度域における線膨張係数α2の上限は、例えば、48ppm/℃以下で、好ましくは47ppm/℃以下、より好ましくは46ppm/℃以下である。これにより、熱時の寸法変化を抑制できる。
一方、上記線膨張係数α2の下限は、とくに限定されないが、例えば、20ppm/℃以上としてもよい。
【0070】
本実施形態では、たとえば難燃性樹脂組成物中に含まれる各成分の種類や配合量、難燃性樹脂組成物の調製方法等を適切に選択することにより、上記CTI、ガラス転移温度、曲げ応力及び線膨張係数を制御することが可能である。これらの中でも、たとえば、N原子含有エポキシ樹脂における基本骨格の種類、官能基数、含有量等を適切に調整すること等が、上記CTI、ガラス転移温度、曲げ強度及び線膨張係数を所望の数値範囲とするための要素として挙げられる。
【0071】
次に、本実施形態の難燃性樹脂組成物の硬化物を備える構造体の一例として、電子装置について説明する。
【0072】
本実施形態の電子装置において、難燃性樹脂組成物は、電子部品を封止する封止材(封止樹脂層)を形成するために用いることができる。
封止樹脂層に用いられる。封止樹脂層を形成する方法は限定されないが、例えば、トランスファー成形法、圧縮成形法、インジェクション成形などが挙げられる。これらの方法により、難燃性樹脂組成物を、成形し、硬化させることにより封止用樹脂層を形成することができる。
【0073】
電子部品としては、限定されるものではないが、半導体素子が好ましい。
半導体素子としては、限定されるものではないが、たとえば、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード、固体撮像素子が挙げられる。
これらの中でも、本実施形態の難燃性樹脂組成物が有用な半導体素子としては、金属部分が露出している半導体素子である。これにより、該金属部分の腐食を抑制できる。このような金属部分が露出している半導体素子としてはトランジスタが挙げられる。トランジスタの中でも、ゲート電極が露出しているMISトランジスタの封止に、本実施形態の難燃性樹脂組成物は有効に用いることができる。
【0074】
基材としては、限定されるものではないが、例えば、インターポーザ等の配線基板、リードフレーム等が挙げられる。
【0075】
電子部品と、基材との電気的な接続が必要な場合、適宜接続してもよい。電気的に接続する方法は、限定されるものではないが、例えば、ワイヤボンディング、フリップチップ接続などが挙げられる。これらの中でも、本実施形態の難燃性樹脂組成物が有用な半導体素子としては、金属部分が露出している半導体素子である。これにより、該金属部分の腐食を抑制できる。このような金属部分が露出している電気的接続方法としてはワイヤボンディングが挙げられる。
【0076】
難燃性樹脂組成物によって電子部品を封止する封止樹脂層を形成することで、電子装置が得られる。電子装置としては、限定されるものではないが、半導体素子をモールドすることにより得られる半導体装置が好ましい。
半導体装置の種類としては、具体的には、MAP(Mold Array Package)、QFP(Quad Flat Package)、SOP(Small Outline Package)、CSP(Chip Size Package)、QFN(Quad Flat Non-leaded Package)、SON(Small Outline Non-leaded Package)、BGA(Ball Grid Array)、LF-BGA(Lead Flame BGA)、FCBGA(Flip Chip BGA)、MAPBGA(Molded Array Process BGA)、eWLB(Embedded Wafer-Level BGA)、Fan-In型eWLB、Fan-Out型eWLBなどの種類が挙げられる。
【0077】
以下に、本実施形態に係る難燃性樹脂組成物を用いた電子装置の一例について説明する。
図1は本実施形態に係る電子装置100を示す断面図である。
【0078】
図1の電子装置100は、基材30と、基材30上に設けられた電子部品20と、電子部品20を封止する封止材(封止樹脂層50)と、を備える。
封止樹脂層50は、前述の難燃性樹脂組成物の硬化物により構成される。
電子部品20は、ボンディングワイヤ40によって外部と電気的に接続されてもよい。
【0079】
具体的には、電子部品20は、基材30上にダイアタッチ材10を介して固定されており、電子装置100は、電子部品20上に設けられた図示しない電極パッドからボンディングワイヤ40を介して接続されるアウターリード34を有する。ボンディングワイヤ40は用いられる電子部品20等を勘案しながら設定することができるが、たとえばCuワイヤを用いることができる。
【0080】
以下に、本実施形態に係る難燃性樹脂組成物を用いた電子装置の製造方法について説明する。
本実施形態に係る電子装置の製造方法は、例えば、上述した難燃性樹脂組成物の製造方法により、難燃性樹脂組成物を得る製造工程と、基板上に電子部品を搭載する工程と、前記難燃性樹脂組成物を用いて、前記電子部品を封止する工程と、を備える。
【0081】
電子装置100は、例えば、以下の方法で形成される。
まず、基板上に電子部品を搭載する。具体的には、ダイアタッチ材10を用いてダイパッド32(基板30)上に電子部品20を固定し、ボンディングワイヤ40によりリードフレームであるダイパッド32(基材30)を接続する。これにより、被封止物を形成する。
この被封止物を、難燃性樹脂組成物を用いて封止し、封止樹脂層50を形成することにより、電子装置100が製造される。
電子部品20が封止された電子装置100は、必要に応じて、80℃から200℃程度の温度で10分から10時間程度の時間をかけて難燃性樹脂組成物を硬化させた後、電子機器等に搭載される。
【0082】
電子装置100は、前述の難燃性樹脂組成物を封止樹脂層50として用いており、封止樹脂層50と電子部品20、ボンディングワイヤ40、電極パッド22等との間の密着性が十分であり、高温保管特性にも優れる。ボンディングワイヤ40にCuワイヤを用いた場合であっても、十分な高温保管特性等を発揮することができる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0084】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0085】
(難燃性樹脂組成物)
表1に示す配合割合に従い、各原料成分をミキサーで混合し、10~100℃で加熱しながら混錬し、冷却後粉砕し、打錠して、タブレット状の難燃性樹脂組成物を作製した。
【0086】
以下、表1中の原料成分の情報を示す。
(無機粒子)
・シリカ1:溶融球状シリカ(マイクロン社製、平均粒子径(d50):24μm)
・シリカ2:溶融球状シリカ(デンカ社製、平均粒子径(d50):10.8μm)
(エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂1:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(長春人造樹脂社製、CNE-195LL)
・エポキシ樹脂2:下記の化学式で表されるイソシアヌル型エポキシ樹脂(N原子含有エポキシ樹脂、日産化学工業社製、TEPIC-S、粉末)
【0087】
【0088】
・エポキシ樹脂3:下記の化学式で表されるグリシジルアミン型4官能エポキシ樹脂(N原子含有エポキシ樹脂、トリグリシジル-p-アミノフェノール、三菱ケミカル社製、JER604)
【化4】
【0089】
・エポキシ樹脂4:下記の化学式で表されるグリシジルアミン型3官能エポキシ樹脂(N原子含有エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、三菱ケミカル社製、JER630)
【0090】
【0091】
・エポキシ樹脂5:オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂(N原子含有エポキシ樹脂、DIC社製、TSR-400)
・エポキシ樹脂6:下記の化学式で表されるグリシジルアミン型2官能エポキシ樹脂(N原子含有エポキシ樹脂、ジグリシジルアニリン、日本化薬社製、GAN)
【0092】
【0093】
・エポキシ樹脂7:グリシジルアミン型3官能エポキシ樹脂(N原子含有エポキシ樹脂、住友化学社製、ELM-100)
【化7】
【0094】
(硬化剤)
・フェノール樹脂1:フェノールノボラック樹脂(住友ベークライト社製、PR-HF-3)
(硬化促進剤)
・有機ホスフィン1:トリフェニルホスフィン(ケイ・アイ化成社製、PP-360)
(難燃剤)
・無機系難燃剤1:水酸化アルミニウム(住友化学社製、CL-303、粉末)
【0095】
(添加剤)
・添加剤1
【0096】
【0097】
得られた難燃性樹脂組成物について、以下の評価項目を評価した。
【0098】
(ガラス転移温度)
得られた難燃性樹脂組成物を用いて175℃、3分、10MPaで成形し、180℃、4時間の加熱処理を行い、硬化物を得た。この硬化物を用いてガラス転移温度(Tg)を、DMA(動的粘弾性測定)により昇温速度5℃/min、周波数1Hzの条件で測定した。
【0099】
(線膨張係数)
得られた難燃性樹脂組成物を用いて175℃、4時間の加熱処理を行い、4mm□×20mmの試験片を作製した。得られた試験片について、線膨張係数を測定した。TMA(Thermal Mechanical Analyzer)試験装置(セイコーインスツメルツ社製TMA/SS6100)を用いて、昇温速度5℃/分、荷重0.05N、引張モード、測定温度範囲30~320℃の条件で、熱機械分析(TMA)を2サイクル測定した。得られた結果から、50℃~100℃の範囲におけるZ軸方向の線膨張係数α1の平均値、200℃~250℃の範囲におけるZ軸方向の線膨張係数α2の平均値を算出した。なお、線膨脹係数(ppm/℃)は、2サイクル目の値を採用した。
【0100】
(曲げ応力)
低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製「KTS-30」)を用いて、金型に、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間300秒の条件で、得られた熱硬化性樹脂組成物を注入成形し、幅:10mm、厚み:3.8mm、長さ:80mmの硬化体(試験片)を得た。得られた試験片について、175℃、4時間の加熱処理をした後、250℃における曲げ応力(MPa)を、JIS K 6911に準拠して測定した。
【0101】
(難燃性)
得られた難燃性樹脂組成物をについて、低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒の条件で、長さ5inch、幅1/2inch、厚さ1/8inchの試験片を成形し、ポストキュアとして175℃、4時間加熱処理した後、23℃、相対湿度50%の環境下で48時間処理し、UL-94垂直試験に準拠して測定した。
難燃性(V-0)の判定:Fmax 10秒以下
ΣF 50秒以下
2回目接炎後グローの消滅30秒以下
滴下物による綿の着火不可
難燃性(V-1)の判定:Fmax 30秒以下
ΣF 250秒以下
2回目接炎後グローの消滅60秒以下
滴下物による綿の着火不可
難燃性(-)の判定:上記に当てはまらないもの
但し、ΣF:フレーミング時間の合計(秒)
Fmax:フレーミング時間の最大値(秒)
【0102】
(CTI:比較トラッキング指数)
図2に、耐トラッキング性試験に用いる装置7の構成を示す。
国際電気標準会議規格IEC-60112に準拠し、装置7を用いて、耐トラッキング性試験を行う。
具体的な試験手順は次の通り。
まず、下記の手順で作製したサンプル厚み3.0mmのサンプル5を、装置7のサンプル支持台3に置かれたガラス板6の上に設置した。このとき、温度:23℃、相対湿度50%出会った。
続いて、装置7のノズル4からで電解液(塩化アンモニウム濃度が0.1%、抵抗率が3.95Ω・mの塩化アンモニウム水溶液)を30秒間隔で滴下させ、電極固定治具2に固定された2つの白金電極1における電極間距離を4mmとし、この両電極に25V間隔で上昇させる条件で600Vまで電圧を印加し、0.5A以上の電流が2秒以上流れるトラッキングが発生するまでの電解液滴下数を測定する。
電解液滴下数を5回測定し、1回でも50滴以下の結果が得られた場合、25V繰り下げて全て50滴移行となる試験電圧を求める。次に、50滴を超える試験電圧を見つけたら、その試験電圧から25V下げて5回測定し全て100滴超えることを確認する。
確認できた場合、その試験電圧(V)を比較トラッキング指数(CTI)とする。
確認できなかった場合、さらに試験電圧から25Vづつ下げて5回測定し全て100滴超えることを確認する。このとき、試験電圧-25V×電圧を下げた回数から算出される値をCTIとする。
・サンプル5の作製:
得られた熱硬化性樹脂組成物を、175℃、3分、10MPaで成形し、175℃、4時間の加熱処理を行い、50mmφ、厚み:3.0mmの硬化物を得て、上記のサンプル5とした。
【0103】
実施例1~9の難燃性樹脂組成物は、比較例1と比べて、耐トラッキング性および難燃性に優れる結果を示した。このような実施例の難燃性樹脂組成物は、パワーデバイス用などの封止材料に好適に用いることができる。