(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020812
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】保護部材、内視鏡、保護部材の製造方法、および保持構造
(51)【国際特許分類】
A61B 1/00 20060101AFI20230202BHJP
G02B 23/24 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
A61B1/00 653
A61B1/00 715
A61B1/00 731
G02B23/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181697
(22)【出願日】2021-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2021123537
(32)【優先日】2021-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山口 義正
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴久
【テーマコード(参考)】
2H040
4C161
【Fターム(参考)】
2H040DA12
2H040DA13
4C161AA00
4C161BB00
4C161CC06
4C161DD03
4C161FF35
4C161FF40
4C161GG14
4C161LL02
(57)【要約】
【課題】画像の解像度が悪化する可能性を低減するように反射防止膜を形成できる保護部材を実現する。
【解決手段】保護部材(4)は、第1の端部(421)および第2の端部(422)を有する管状の胴部(42)と、第1の端部(421)を閉塞する、透光性を有する中実の頭部(41)とを備える。胴部(42)は、内径をL1とし、閉塞面(412)のうち、第2の端部(422)における、胴部(42)の端面と内周面とが交差する稜線からなる仮想円の中心(Q)からの距離が最も遠い位置(P)までの距離をL2とし、L2/L1の値が0.5以上8.0以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の端部および第2の端部を有する、管状の胴部と、
前記第1の端部を閉塞する、透光性を有する中実の頭部と、を備え、
前記胴部は、内径をL1とし、
前記頭部の閉塞面のうち、前記第2の端部における、前記胴部の端面と内周面とが交差する稜線からなる仮想円の中心からの距離が最も大きい位置までの距離をL2としたときに、
L2/L1の値が0.5以上8.0以下である、保護部材。
【請求項2】
前記L1は、0.5mm以上2.0mm以下であり、かつ、前記L2は、0.5mm以上10.0mm以下である、請求項1に記載の保護部材。
【請求項3】
前記胴部は、透光性を有する、請求項1または2に記載の保護部材。
【請求項4】
前記頭部および前記胴部は、ガラスである、請求項3に記載の保護部材。
【請求項5】
前記頭部の前記胴部側の面に反射防止膜が形成されている、請求項1から4のいずれか1項に記載の保護部材。
【請求項6】
前記保護部材を装着する装着対象物に前記胴部が脱着可能に保持される、請求項1から5のいずれか1項に記載の保護部材。
【請求項7】
内視鏡の先端部に装着される、請求項1から6のいずれか1項に記載の保護部材。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の保護部材が、先端部に装着された、内視鏡。
【請求項9】
請求項5に記載の保護部材の製造方法であって、
前記胴部および前記頭部を形成する準備工程と、
真空蒸着法を用いて前記反射防止膜を形成する膜形成工程と、を含む、保護部材の製造方法。
【請求項10】
前記膜形成工程において、保持部材によって、前記胴部および前記頭部の少なくともいずれかを、前記閉塞面が蒸発源の方向を向くように保持して、前記反射防止膜を形成する、請求項9に記載の保護部材の製造方法。
【請求項11】
前記膜形成工程において、前記胴部および前記頭部の少なくともいずれかを保持した前記保持部材を、前記蒸発源の上方で回転させ、1回転の一部期間を前記閉塞面が前記蒸発源の方向を向いている期間とする、請求項10に記載の保護部材の製造方法。
【請求項12】
前記膜形成工程において、真空蒸着時に、反応性ガス圧を0.5Pa以上にする、請求項9~11のいずれか1項に記載の保護部材の製造方法。
【請求項13】
真空蒸着槽の内部に蒸発源を備える真空蒸着装置に設置される保持構造であって、
一端側が開放され他端側が閉塞された管状の成膜対象物を保持する保持部材と、
前記成膜対象物の管内空間における前記他端側に位置する閉塞された閉塞面が前記蒸発源の方向を向くように、前記保持部材の向きを調整する調整部材と、を備える保持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護部材、内視鏡、保護部材の製造方法、および保持構造に関する。より詳細には、内視鏡等の装着対象物に装着される保護部材等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療用内視鏡システムが広く知られている。この種のシステムでは、内視鏡の先端部に設けられた対物レンズ群を含む光学ユニットおよびCCD(Charge Coupled Devices)等により患者の体内を撮像できる。医師は、内視鏡を患者の体内に挿入し、液晶ディスプレイ等を用いて体内の画像を確認しながら、診断、人体組織の採取・切除、および低侵襲治療等を行う。
【0003】
例えば、特許文献1には、内視鏡の先端光学ユニットについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の先端光学ユニットは、黒色の表面処理が施された対物レンズ保持筒を有している。これにより、対物レンズ保持筒の内周面における光反射率が低減される。また、対物レンズ保持筒に組み付けられたカバーレンズ保持筒を有し、カバーレンズ保持筒は、先端部分に観察窓カバーレンズが気密に取り付けられている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、内視鏡の先端部分に取り付けられた観察窓カバーレンズ等の保護部材の表面反射による光の減衰、および、当該保護部材の反射光の画像への映り込み等が生じることによって、画像の解像度が悪化する可能性がある。
【0007】
本発明は、画像の解像度が悪化する可能性を低減するように反射防止膜を形成できる、保護部材を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の保護部材は、第1の端部および第2の端部を有する、管状の胴部と、前記第1の端部を閉塞する、透光性を有する中実の頭部と、を備え、前記胴部は、内径をL1とし、前記頭部の閉塞面のうち、前記第2の端部における、前記胴部の端面と内周面とが交差する稜線からなる仮想円の中心からの距離が最も大きい位置までの距離をL2としたときに、L2/L1の値が0.5以上8.0以下である。
【0009】
上記の構成によれば、L2/L1の値が0.5以上8.0以下であることにより、装着対象物(例えば内視鏡)の大きさに適合するようなサイズの小さい保護部材でありながら、胴部の第1の端部側を閉塞する面(閉塞面)に反射防止膜を効果的に形成することができる。これにより、当該保護部材の反射光に起因して画像の解像度が悪化する可能性を低減できる。
【0010】
上記保護部材は、前記L1が、0.5mm以上2.0mm以下であり、かつ、前記L2は、0.5mm以上10.0mm以下であってもよい。上記の構成によれば、効果的に反射防止膜を形成することができ、例えば内視鏡の先端部の保護に用いられる場合、内視鏡挿入時の患者等の負担を軽減するために、できるだけ小さく形成することができる。
【0011】
上記保護部材は、前記胴部が、透光性を有していてもよい。
【0012】
上記保護部材は、前記頭部および前記胴部は、ガラスであってもよい。上記の構成によれば、第1の保護部および第2の保護部が、ガラス等の透明部材から構成されるため、体内を観察することができる。特に、前記ガラスがホウケイ酸ガラスであれば、加工が容易であり、また、生体適合性及び耐環境性に優れる。
【0013】
上記保護部材は、前記頭部の前記胴部側の面に反射防止膜が形成されていてもよい。上記の構成によれば、光の反射を抑えることにより、光の減衰を低減して画像を明るくしたり、反射光の映り込みを抑えたりすることができ、画質を向上させることができる。
【0014】
上記保護部材は、当該保護部材を装着する装着対象物に前記胴部が脱着可能に保持されてもよい。上記の構成によれば、保護部材は、装着対象物が例えば内視鏡である場合、内視鏡の観察部に取り外し可能に装着され、使い捨てにすることができる。これにより、使用済みの保護部材を廃棄して新しい保護部材を装着することができるため、保護部材の汚染を防止し、画像を鮮明にすることができる。上記保護部材は、例えば内視鏡の先端部に装着されてよい。
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明の内視鏡は、前記保護部材が、先端部に装着されてよい。上記の構成によれば、反射防止膜が形成されている保護部材によって、内視鏡の先端部を保護しつつ、画質を向上させることができる。
【0016】
本発明の一実施形態における保護部材の製造方法は、前記胴部および前記頭部を形成する準備工程と、真空蒸着法を用いて前記反射防止膜を形成する膜形成工程と、を含んでいてよい。
【0017】
上記膜形成工程では、保持部材によって、前記胴部および前記頭部の少なくともいずれかを、前記閉塞面が蒸発源の方向を向くように保持して、前記反射防止膜を形成してよい。また、上記膜形成工程では、前記胴部および前記頭部の少なくともいずれかを保持した前記保持部材を、前記蒸発源の上方で回転させ、1回転の一部期間を前記閉塞面が前記蒸発源の方向を向いている期間としてよい。
【0018】
上記構成によれば、保護部材の閉塞面に反射防止膜を均一に形成し易くできる。
【0019】
また、前記膜形成工程において、真空蒸着時に、反応性ガス圧を0.5Pa以上にしてもよい。
【0020】
本発明の一実施形態における保持構造は、真空蒸着槽の内部に蒸発源を備える真空蒸着装置に設置される保持構造であって、一端側が開放され他端側が閉塞された管状の成膜対象物を保持する保持部材と、前記成膜対象物の管内空間における前記他端側に位置する閉塞された閉塞面が前記蒸発源の方向を向くように、前記保持部材の向きを調整する調整部材と、を備える。
【0021】
上記の構成によれば、管状の成膜対象物における閉塞面が蒸発源の方向を向いた状態で、真空蒸着装置によって反射防止膜を成膜できる。そのため、成膜対象物における閉塞面に反射防止膜を均一に形成し易くできる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、画像の解像度が悪化する可能性を低減するように反射防止膜を形成できる、保護部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態1に係る保護部材の一例を示す正面図である。
【
図2】
図1に示す保護部材の一例を示す左側面図である。
【
図3】
図1に示す保護部材の一例を示す右側面図である。
【
図4】
図1に示す保護部材の一例を示す断面図である。
【
図5】本発明の実施形態1に係る医療用内視鏡システムの構成の一例を示す説明図である。
【
図6】
図5に示す内視鏡の先端部の一例を示す説明図である。
【
図7】
図1に示す保護部材を内視鏡に装着した状態の一例を示す模式図である。
【
図9】本発明の実施形態2に係る保護部材の一例を示す正面図である。
【
図10】本発明の実施形態3に係る保護部材の一例を示す正面図である。
【
図11】本発明の実施形態4における成膜方法を実施する成膜装置の構成を概略的に示す模式図である。
【
図12】成膜装置が備える真空蒸着槽の内部空間における上部に設けられた基板ドームの構成を概略的に示す斜視図である。
【
図13】保護部材を保持する保持構造の構成を概略的に示す斜視図および断面図である。
【
図14】保持構造に含まれる保持板の構成を概略的に示す斜視図である。
【
図15】
図13に示す保持構造をB1方向から見た平面図である。
【
図16】
図12に示す領域AR1を拡大した拡大図を含み、保持構造を基板ドームの開口部に配置する様子について説明するための模式図である。
【
図17】基板ドームの開口部に設置した保持構造と第1の蒸発源との位置関係について説明するための模式図である。
【
図18】光学特性評価のための評価用基板について説明するための模式図である。
【
図19】評価用基板における反射防止膜が形成されている部分および反射防止膜が形成されていない部分の片面反射率を測定した結果を示すグラフである。
【
図20】反射防止膜が形成された評価用基板の顕微鏡写真である。
【
図21】保持構造の別の例について説明するための斜視図である。
【
図22】装着対象物の一例としての細径スコープについて説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態である実施形態1について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では、本発明に係る保護部材を装着する装着対象物を内視鏡(具体的には医療用内視鏡)とした例に基づいて説明する。しかし、本発明はこの例に限らず、例えば、構造物の内部を観察する、災害時において被災者を発見する、等の用途に使用される工業用内視鏡等についても適用可能である。
【0025】
また、以下の記載は発明の趣旨をよりよく理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意味する。また、本出願における各図面に記載した構成の形状および寸法(長さ、幅等)は、具体的な一例であって、本発明の保護部材並びに内視鏡の形状および寸法を必ずしも限定するものではない。本明細書に記載の範囲において、図面に記載した形状等は、適宜変更して理解されてよい。
【0026】
<医療用内視鏡システムの概観>
始めに、本発明の実施形態1に係る保護部材4(カバー)についての理解を容易にするために、保護部材4によって先端部23が保護される内視鏡(装着対象物)2を含む医療用内視鏡システム1の構成の一例について、
図5および
図6に基づいて概略的に説明する。
図5は、本発明の実施形態1に係る医療用内視鏡システム1の構成の一例を示す説明図である。
図6は、内視鏡2の先端部23の一例を示す説明図である。
【0027】
図5に示すように、医療用内視鏡システム1は、内視鏡2および周辺装置3を含んで構成される。
【0028】
(内視鏡)
内視鏡2は、操作部21、挿入部22、および接続部26を備える。
【0029】
(操作部)
操作部21は、内視鏡2の各部を操作する種々の操作ボタン、操作ダイヤル等が配置される。操作部21は、例えば、後述する内視鏡2の湾曲部24を上下左右に曲げることができる先端操作部211、後述する送気・送水孔54から気体または液体を送出する送気・送水ボタン212、気体または液体を吸引する吸引ボタン213、鉗子等の処置具を出し入れする鉗子口214等を備える。
【0030】
(挿入部)
挿入部22は、体内に挿入できるように細長い管状に構成される。挿入部22は、先端から順に、先端部23、湾曲部24、および可撓部25を備える。
【0031】
先端部23は、
図6に示すように、例えば、観察窓用の保護部材(カバー)4を装着する観察部59、一対の発光部53、送気・送水孔54、および処置具用チャンネル55を備える。
【0032】
保護部材4は、先端部23の観察部59の内部に配置されている対物レンズ51、CCD52等を粘液および血液等の体液による汚染から保護するために先端部23の観察部59に装着される。保護部材4は、透光性を有し、観察部59に装着した状態において、内視鏡2の外部方向へ球冠形状に突出する頭部(第1の保護部)41と、管状に形成される胴部(第2の保護部)42とを備えている。
【0033】
詳しくは後述するが、保護部材4は、内視鏡2の観察部59に取り外し可能に装着され(換言すれば、脱着可能に保持され)、使い捨てにすることができる。これにより、使用済みの保護部材4を廃棄して新しい保護部材4を装着することができるため、保護部材4の汚染を防止し、画像を鮮明にすることができる。また、保護部材4の頭部41を球冠形状に形成し、レンズ機能、即ち、視野角が広く広角レンズとしての作用を備えさせることが可能になり、更に、対物レンズ51と組み合わせ、内視鏡2の拡大率を向上させることができる。
【0034】
発光部53は、後述する光源装置33から光ファイバーによって導かれた照射光を体内に照射する。これにより観察領域が明るくなり、ユーザは、体内を詳細に観察することができる。
【0035】
なお、発光部53は、上記の例に限らず、例えば、先端部23に格納されたLED(light emitting diode)によって体内を照射してもよい。また、発光部53は1個であってもよいし、3個以上配置されてもよい。
【0036】
観察部59の内部には、上述したように、先端側から順に、対物レンズ51、CCD52が配置されている。対物レンズ51により得られた画像をCCD52等の撮像素子で電気信号に変換し、ケーブル56によって周辺装置3に送信し、後述するビデオプロセッサ32の処理により、液晶ディスプレイ31に画像をリアルタイムに映し出す。これにより、複数のユーザが同時に、液晶ディスプレイ31の画像を確認しながら、診断・処置等を行うことができる。
【0037】
なお、撮像素子はCCD52に限らず、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)を用いてもよい。また、内視鏡2は撮像素子を用いないファイバースコープであってもよい。この場合、ユーザは、液晶ディスプレイ31ではなく、内視鏡2の接眼部から画像を確認する。
【0038】
また、実施形態1の例では、発光部53と観察部59は別個に配置され、発光部53と対物レンズ51が同軸とならないように構成されている。しかし、これに限らず、発光部53を一つとし、発光部53を対物レンズ51、CCD52の奥側(先端部23側と反対側)に配置し、発光部53と対物レンズ51とが互いに同軸になるように構成してもよい。
【0039】
送気・送水孔54は、上述したように、送気・送水ボタン212が操作されたときに、気体または液体を送出する。これによって、保護部材4および体腔内を洗浄したり、空気を送って体腔内を膨らませて処置に必要な空間を体腔内に形成したりすることができる。
【0040】
処置具用チャンネル55は、鉗子口214から挿入された鉗子等の処置具を、処置具用チャンネル55の開口部から露出させて体内に挿入し、組織採取・切除等の処置を行うことができる。
【0041】
再び
図5を参照して説明する。湾曲部24は、上述したように、先端操作部211の操作によって、上下左右に曲げることができる。これにより、内視鏡2の体内への挿入が容易となり、体内を様々な角度から観察することができる。
【0042】
可撓部25は、可撓性を有し、湾曲部24とともに、内視鏡2の体内への挿入を容易とする。上記の例では、柔らかく曲がりやすい軟性内視鏡の例について説明したが、これに限らず、内視鏡2は、外科手術等で用いられる硬性内視鏡であってもよい。
【0043】
(接続部)
接続部26は、ユニバーサルコード27、コネクタ部28を備え、内視鏡2の操作部21と後述する周辺装置3とを接続する。
【0044】
(周辺装置)
周辺装置3は、例えば、液晶ディスプレイ31、ビデオプロセッサ32、光源装置33、画像記録装置34、およびプリンタ35を備える。
【0045】
上述したように、対物レンズ51で得られた画像をCCD52で電気信号に変換し、ビデオプロセッサ32の処理により、液晶ディスプレイ31の画面に映し出す。これにより、複数のユーザが同時に液晶ディスプレイ31の画像を確認しながら、診断・処置等を行うことができる。
【0046】
光源装置33から照射された照射光は、上述したように、光ファイバーによって内視鏡2の先端部23まで導かれ、発光部53から体内に照射される。
【0047】
<保護部材(カバー)>
次に、本発明の実施形態1に係る保護部材4について、
図1から
図4に基づいて詳細に説明する。
【0048】
保護部材4は、上述したように、観察部59の内部に配置される対物レンズ51、CCD52等を、粘液および血液等の体液による汚染から保護するために、観察部59に装着される。
【0049】
図1は本発明の実施形態1に係る保護部材4の一例を示す正面図、
図2は左側面図、
図3は右側面図、
図4は、
図2に示す切断線A-Aで切断した断面図である。なお、保護部材4の背面図、平面図、および底面図は、正面図と同一である。また、図面において、薄膜部分を誇張又は簡略化して示しており、薄膜部分の寸法比率は実際とは異なる場合がある。
【0050】
図1~4に示すように、保護部材4は、(i)頭部41によって閉塞されている第1の端部421、および開放されている第2の端部422を有する、管状の胴部42と、(ii)第1の端部421を閉塞する、透光性を有する中実の頭部41と、を備えている。また、保護部材4は、全体として略キャップ形状に構成されている。
【0051】
保護部材4は、第1の端部421が頭部41により閉塞されて形成された面であって、胴部42の収容空間(内部空間)43に面する、閉塞面412を有している。閉塞面412は、頭部41の胴部42側の面であると言える。
【0052】
保護部材4において、第2の端部422は、管軸方向に対して垂直な端面を有するように形成されていてよい。
【0053】
保護部材4において、頭部41は、球冠形状を有していてよい。頭部41は、例えば略半球状に突出した形状であるとともに、略平坦な閉塞面412を有する場合、平凸レンズとして機能する。ここで、頭部41の球冠形状とは、略半球状を含む。なお、頭部41は、閉塞面412を有していればよく、例えば平板形状であってもよい。保護部材4では、頭部41の具体的な形状は特に限定されない。
【0054】
胴部42には、内部に収容空間(内部空間)43が形成されている。保護部材4を観察部59に装着する際に、第2の端部422の開口部から、対物レンズ51を収容空間43内に収容することも可能である。
【0055】
このように、保護部材4を観察部59に装着して収容空間43内に対物レンズ51を収容することにより、対物レンズ51を体液等による汚染から保護することができる。対物レンズ51全体を覆うように収容空間43に収容するため、従来の円盤形状の観察窓用保護部材と比較して、より確実に、対物レンズ51を汚染から保護することができる。
【0056】
頭部41は、保護部材4を観察部59に装着した状態において、対物レンズ51より内視鏡2の外部方向側に位置し、レンズ機能を有する頭部41と対物レンズ51との組合せにより、画像の拡大率が大きくなる等、より鮮明な画像を取得することができる。
【0057】
また、保護部材4は、取り外し可能に観察部59に装着される。詳細は
図7に基づいて後述するが、保護部材4を観察部59に装着している状態において、球冠形状の頭部41は、内視鏡2の先端面から突出した状態となっている(
図7参照)。
【0058】
保護部材4は、その内面に反射防止膜44が形成される。反射防止膜44は、閉塞面412に形成される第1の反射防止膜441、胴部42の少なくとも一部に形成される第2の反射防止膜442を備えている。反射防止膜44の詳細については後述する。
【0059】
保護部材4を取り外す際には、ユーザは所定の治具により、突出している頭部41を挟持して観察部59から抜き出す。これにより、使用済みの保護部材4を廃棄することができる。次に内視鏡2を使用する際には、新しい保護部材4を観察部59の外側から観察部59へ挿入し、観察部59に装着する。
【0060】
保護部材4は、上述したように、体内を観察することができるように、透明部材から構成されてよい。上記透明部材としては、例えばガラス等が挙げられる。保護部材4は、体内に挿入される小さな部品であるため、生体適合性及び耐環境性に優れ、加工が容易なホウケイ酸ガラスから構成されることが好ましい。しかし、保護部材4は、ホウケイ酸ガラスに限定されず、その他のガラスから構成されていてもよい。上記その他のガラスとしては、例えば、アルミノシリケートガラス、石英ガラス、リン酸系ガラス、多成分系のガラス等が挙げられる。また、保護部材4の屈折率は、例えば、1.5以上であってよく、1.6以上2.1以下であってよい。
【0061】
保護部材4は、例えば、次のようにして製造される。すなわち、ホウケイ酸ガラス管の一方の端部をガスバーナ、レーザ等で加熱成形する。このとき、ホウケイ酸ガラス管の他方の端部から空気導出管をガラス管内部に挿入し、空気導出管から空気を噴出させつつホウケイ酸ガラス管の一方の端部を加熱成形することにより封止を行うことで、頭部41を形成する。さらに必要に応じて、端部が頭部41にて閉塞されたホウケイ酸ガラス管の反対側の第2の端部422を切断加工することにより、頭部41および胴部42を有する略キャップ形状の保護部材4が成形される。
【0062】
なお、保護部材4は、ガラスに限らず、透明な合成樹脂等により構成されてもよい。この場合、保護部材4は、射出成形機等によって成形される。
【0063】
<保護部材の装着>
図7は、保護部材4を観察部59に装着した状態の一例を示す模式図である。
【0064】
図7に示すように、内視鏡2の観察部59には、保護部材4を装着する取付孔57が形成され、取付孔57は、内視鏡2の先端部23側に開口する開口部58を備える。取付孔57の奥側(先端部23側と反対側)には、対物レンズ51、CCD52等が配置されている。
【0065】
従来の観察窓用カバーは、円盤状に形成されているため、観察部59に嵌め込んでも外れやすく、そのため、接着剤等で観察部59に貼りつけて固定する必要がある。その結果、従来の観察窓用カバーは、観察部59から取り外すことが困難であり、内視鏡を使用する毎に交換することはできない。
【0066】
上述したように、実施形態1の保護部材4は、キャップ形状に形成され、取り外し可能に観察部59に装着される。一例では、保護部材4を装着する際には、保護部材4を観察部59の取付孔57へ挿入して嵌め込む。例えば、対物レンズ保持筒60によって対物レンズ51が保持されており、保護部材4の胴部42が取付孔57の内壁面と対物レンズ保持筒60の外周面との間に挿入されることにより、保護部材4は、観察部59から容易に外れない状態で保持される。
【0067】
保護部材4を観察部59に装着している状態において、略半球状の頭部41は、内視鏡2の先端面から突出した状態となっている。保護部材4を取り外す際には、ユーザは所定の治具により、突出している頭部41を挟持して観察部59から抜き出すことができる。
【0068】
以上のように、保護部材4は、胴部42が内視鏡2に脱着可能に保持されることによって、内視鏡2に脱着可能に取付けられる。これにより、使用済みの保護部材4を廃棄することができる。次に内視鏡2を使用する際には、新しい保護部材4を観察部59の外側から観察部59へ挿入し、観察部59に装着する。これによって、汚染された保護部材4を、汚染されていない未使用の保護部材4に交換できる。
【0069】
<反射防止膜>
再び
図1~4を参照し、保護部材4の反射防止膜44について説明する。上述したように、保護部材4は、その内面に反射防止膜44が形成される。反射防止膜44は、閉塞面412に形成される第1の反射防止膜441、胴部42の少なくとも一部に形成される第2の反射防止膜442を備えている。
【0070】
ここで、保護部材4は、前述のように、内視鏡2の先端部23(
図5、6を参照)に装着される。
図7は、保護部材4を観察部59に装着した状態の一例を示す模式図である。光源装置33から照射された照射光は、光ファイバーによって内視鏡2の先端部23まで導かれ、発光部53から体内に照射される。これにより観察領域が明るくなり、ユーザは、体内を詳細に観察することができる。
【0071】
体内に照射された照射光は、体内組織によって反射され、観察部59に配置された保護部材4に入射し、対物レンズ51を通じてCCD52等の撮像素子により受光される。CCD52等の撮像素子にて受光した光が電気信号に変換され、当該電気信号(データ)がケーブル56を介して周辺装置3に送信され、ビデオプロセッサ32によって処理されることにより、液晶ディスプレイ31に画像がリアルタイムに映し出される。
【0072】
例えば、本発明の実施形態1と異なり、保護部材4に第1の反射防止膜441が形成されていない場合、体内組織によって反射された照射光は、保護部材4の頭部41の表面、および閉塞面412によって光の一部が反射される。その結果、CCD52等の撮像素子に入射する光量が低下する。反射による光の減衰量は、各種の要因(材質等)によって変動し得る。例えば、保護部材4に第1の反射防止膜441が形成されていない場合において、反射による光の減衰率(低下する光量)は、頭部41表面(閉塞面と対向し、外部と接する面)、および閉塞面412でそれぞれ約4%となり得る。この場合、液晶ディスプレイ31に表示される画像の明度が低下し、画像が暗くなってしまう。
【0073】
これに対して、本実施形態1における保護部材4では、閉塞面412に第1の反射防止膜441が形成されていることにより、閉塞面412による光の反射が防止される。そのため、閉塞面412を通過する光の減衰量(例えば約4%)が低減する。その結果、第1の反射防止膜441を形成しない場合と比較して、画像を明るくすることができる。
【0074】
また、前述した医療用内視鏡システム1(
図5を参照)の一例では、発光部53と対物レンズ51とが異なるチャンネル内に配置された内視鏡2(典型的には軟性内視鏡)が含まれていたが、例えば、内視鏡システムの他の一例では、以下のような構造のものが知られている。すなわち、発光部53が対物レンズ51、CCD52の奥側(先端部23側と反対側)に配置され、発光部53と対物レンズ51とが同一のチャンネル内に配置された内視鏡2(典型的には硬性内視鏡)が知られている。このような内視鏡2(以下、説明の便宜上、「同一チャンネルの内視鏡2」と称する)に保護部材4が装着されてもよい。
【0075】
発光部53と対物レンズ51とが同じチャンネルに配置される同一チャンネルの内視鏡2の場合、光源装置33から照射された照射光は、光ファイバーによって発光部53まで導かれる。そして、同一チャンネルの内視鏡2では、例えば、先端部23内において、対物レンズ51が配置される対物レンズ保持筒60の外周面に沿って延びるライトガイドが設けられていてよい。この場合、同一チャンネルの内視鏡2に保護部材4を装着した状態において、保護部材4内にライトガイドが位置する。
【0076】
同一チャンネルの内視鏡2において、本発明の実施形態1と異なり、第1の反射防止膜441が形成されていない保護部材4を用いる場合、照射光の一部は、保護部材4の閉塞面412、および頭部41の外表面によって、対物レンズ51の方向へ反射される。照射光の一部が反射された反射光は、対物レンズ51に入射し得る。このため、対物レンズ51を通じてCCD52に受光される光に基づいて表示される体内の画像に、閉塞面412の反射光に由来する像が映り込んでしまい、画質が低下してしまう。
【0077】
これに対して、同一チャンネルの内視鏡2において、本実施形態1における保護部材4を用いる場合、閉塞面412に第1の反射防止膜441が形成されていることにより、閉塞面412による光の反射を抑えることができる。第1の反射防止膜441を形成しない場合と比較して、反射光の映り込みを抑えることができ、画質を向上させることができる。
【0078】
また、保護部材4の胴部42の内面に第2の反射防止膜442を形成した場合、胴部42の内面に起こる乱反射、特に、閉塞面412近傍の胴部42の内面に起こる乱反射を抑えることができ、画質を向上させることができる。
【0079】
ここで、反射防止膜44の構造について詳細に説明する。
図8は、反射防止膜44の構造を示す模式図である。
図8に示すように、反射防止膜44は、例えば2層構造を有していてよい。反射防止膜44は、例えば、保護部材4の内壁面に接して形成される第1層44A、および第1層44Aに接して形成される第2層44Bを備える。
【0080】
反射防止膜44は、例えば、下記のような2層構造を有していることが好ましい。
【0081】
(i)第1層44Aが酸化チタン(TiO2)であり、第2層44Bがフッ化マグネシウム(MgF2)である2層構造;
(ii)第1層44Aが五酸化タンタル(Ta2O5)であり、第2層44Bが酸化ケイ素(SiO2)である2層構造;
(iii)第1層44Aが酸化チタン(TiO2)であり、第2層44Bが酸化ケイ素(SiO2)である2層構造。
【0082】
反射防止膜44を2層構造に構成することによって、より効果的に保護部材4内の反射を抑えることができる。なお、反射防止膜44は、前述の2層構造を2回積層させる4層構造であってもよく、4層よりも多くの層を含む多層構造であってもよい。また、反射防止膜44の構造は、上記した具体例に必ずしも限定されない。
【0083】
反射防止膜44は、例えば、真空蒸着、またはスパッタリング等の成膜方法によって、保護部材4の内面に形成される。反射防止膜44は、これに限らず、化学気相成膜法(CVD)によって形成されてもよい。
【0084】
ここで、真空蒸着等によって反射防止膜44を形成する場合、特に、閉塞面412に第1の反射防止膜441を形成する場合、反射防止膜44の成膜材料を、管状に形成された胴部42の収容空間43を通過させて閉塞面412まで到達させる必要がある。例えば、保護部材4の管軸方向の長さを短く形成し、保護部材4の内径を大きく形成すると、成膜材料が閉塞面412にまで到達しやすくなる。
【0085】
一方、保護部材4の管軸方向の長さを長く形成し、保護部材4の内径を小さく形成すると、成膜材料が閉塞面412にまで到達し難くなり、その結果、保護部材4内の反射を抑えることが困難になる。
【0086】
なお、閉塞面412に反射防止膜44を形成し易くするために、保護部材4の内径を大きくすることが考えられる。しかし、保護部材4の外径を変えずに内径を大きくすると、保護部材4の機械的強度が低下する。一方、患者への負担軽減等の観点から、内視鏡2の先端部23の直径を大きくすることには限界があり、保護部材4の外径及び内径を大きくすることも現実的でない。
【0087】
本実施形態1に係る保護部材4は、反射による画質の低下を抑えるため、効果的に反射防止膜44を形成することができる形状を有し、かつ、挿入時の患者等の負担を軽減するために、できるだけ小さく形成することができる。
【0088】
(L2/L1の値)
図1に示すように、L1は、保護部材4の内径を示す値である。点Qは、第2の端部422における、胴部42の端面と内周面(内壁面)とが交差する稜線からなる仮想円の中心であり、点Pは、閉塞面412のうち、点Qからの距離が最も大きい位置である。L2は、点Qから点Pまでの距離(点P,Qを結ぶ仮想的な線分の長さ)を示す値である。このことは、本明細書の以下の記載においても同様である。
【0089】
L1は、保護部材4の収容空間43内に対物レンズ51を収容できる程度の大きさである。また、内視鏡2に装着可能とするためにはL1を大きくすることには限界がある。L1は、好ましくは0.5mm以上2.0mm以下、より好ましくは1.0mm以上1.8mm以下である。
【0090】
L2は、L1と同様に、収容空間43内に、対物レンズ51を収容できる程度の長さである。L2は、好ましくは0.5mm以上10.0mm以下、より好ましくは1.0mm以上5.0mm以下である。また、L2は、閉塞面412まで反射防止膜44の成膜材料が到達できる程度の長さであることが求められ、L2はL1の影響を受ける。
【0091】
L2/L1の値が所定の範囲内であることにより、反射防止膜44の成膜時に、閉塞面412まで成膜材料が到達し、閉塞面412に第1の反射防止膜441を形成させ易くできる。L2/L1の値は、所定の範囲内、即ち0.5以上8.0以下、好ましくは0.6以上6.0以下、より好ましくは0.7以上4.0以下、更に好ましくは0.8以上3.0以下、特に好ましくは1.0以上2.0以下である。
【0092】
L2/L1の値が8.0より大きいと、L1の値に対してL2の値が大きすぎるため、閉塞面412まで成膜材料が到達し難い。そのため、第1の反射防止膜441を形成することが困難になる。
【0093】
L2/L1の値が0.5より小さい場合、L2の値に対してL1の値が大きすぎる、または、L2の値が小さすぎることにより取り扱いが困難になり、取付孔57からの保護部材4の脱着が困難になる等の不具合が生じ得る。
【0094】
〔検証結果〕
表1に、保護部材の実施例1~7、比較例1の評価結果を示す。実施例と比較例に使用したガラスは、いずれも同じ組成のホウケイ酸ガラスであり、溶融ガラスを内径L1が異なる管状に成形した後、ガスバーナで管端を加熱加工して管端の封止を行うことで閉塞し、所定のキャップ形状のサンプルを得た。その後、ダイヤモンドカッターを用いて第2の端部422を切断することで、L2が異なるサンプルを得た。以上から、L2/L1の値が異なる実施例1~7と比較例1を得た。
【0095】
その後、保護部材4の内面に、真空蒸着装置を用い、反射防止膜44を形成した。
【0096】
表1中の「〇」は「良好」、「△」は「やや不良」、「×」は「不良」であることを示す。
【0097】
【0098】
表1に示すように、実施例1は、L1が1.0、L2が4.0、L2/L1が4.0であった。実施例2は、L1が1.4、L2が5.0、L2/L1が3.5であった。実施例3は、L1が0.8、L2が2.0、L2/L1が2.5であった。実施例4は、L1が2.0、L2が2.5、L2/L1が1.3であった。実施例5は、L1が1.5、L2が7.0、L2/L1が4.7であった。実施例6は、L1が1.8、L2が10.0、L2/L1が5.6であった。
【0099】
実施例1~7について、L2/L1は全て0.5以上8.0以下であり、所定の範囲内である。「第1の反射防止膜441の成膜状態」、「臓器撮影画像の状態」、および「保護部材4内部の洗浄性」について、全て「良好」であったと判断した。
【0100】
比較例1は、L1が1.0、L2が10.0、L2/L1が10.0であった。L2/L1が、所定の範囲内0.5以上8.0以下より大きい値であり、「第1の反射防止膜441の成膜状態」、「臓器撮影画像の状態」、および「保護部材4内部の洗浄性」について、全て「不良」であったと判断した。
【0101】
実施例7は、L1が0.7、L2が5.0、L2/L1が7.1であった。L2/L1が、所定の範囲内の上限値8.0近傍の値であった。「保護部材4内部の洗浄性」は「良好」であったが、「第1の反射防止膜441の成膜状態」、および「臓器撮影画像の状態」は「やや不良」であった。これにより、L2/L1は、8.0以下が好ましいと判断した。
【0102】
(その他の構成)
実施形態1における保護部材4は、胴部42の外径が例えば0.8mm以上3.0mm以下であってよく、0.9mm以上2.0mm以下であってよい。また、保護部材4は、胴部42の厚さ(肉厚)が例えば0.1mm以上1.0mm以下であってよく、更に0.2mm以上0.8mm以下であってよく、0.3mm以上0.5mm以下であってもよい。
【0103】
〔実施形態2〕
次に、本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。実施形態2以降の他の実施形態においても同様とする。
【0104】
図9は、本発明の実施形態2に係る保護部材4Aの一例を示す正面図である。
【0105】
実施形態1に係る保護部材4の頭部41は、上述したように、平凸レンズとして機能する。一方、実施形態2に係る保護部材4Aは、両凸レンズとして機能する点で相違する。
【0106】
保護部材4Aの頭部41は、保護部材4と同様に中実に構成され、体内を観察することができるように、ガラス等の透明部材から構成される。
【0107】
図9に示すように、保護部材4Aでは、頭部41は、内視鏡2の外部方向へ突出し、閉塞面412は、第2の端部422方向に突出することにより両凸レンズとして機能する。
【0108】
頭部41は対物レンズ51より内視鏡2の先端側に位置し、レンズ機能を有する頭部41と対物レンズ51との組合せにより、レンズ性能を向上させることができる。
【0109】
L1は、保護部材4Aの内径を示す値である。点Qは、第2の端部422における、胴部42の端面と内周面(内壁面)とが交差する稜線からなる仮想円の中心であり、点Pは、閉塞面412のうち、点Qからの距離が最も大きい位置である。L2は、点Qから点Pまでの距離(点P,Qを結ぶ仮想的な線分の長さ)を示す値である。
【0110】
L1は、保護部材4Aの収容空間43内に、対物レンズ51を収容できる程度の大きさが必要である一方、内視鏡2を挿入しやすいようになるべく小さくする必要がある。L2は、L1と同様に、収容空間43内に、対物レンズ51を収容できる程度の長さが好ましい一方、閉塞面412まで反射防止膜44の成膜材料が到達できる程度に短くする必要がある。
【0111】
L1は、例えば、0.5mm以上2.0mm以下であり、かつ、L2は、0.5mm以上10.0mm以下に構成される。
【0112】
保護部材4と同様に、保護部材4AのL2/L1の値は、所定の範囲内、すなわち0.5以上8.0以下が好ましい。
【0113】
このような形状に形成することによって、保護部材4Aは、反射による画質の低下を抑えるため効果的に反射防止膜44を形成することができ、かつ、挿入時の患者等の負担を軽減するためにできるだけ小さく形成することができる。
【0114】
〔実施形態3〕
図10は、本発明の実施形態3に係る保護部材4Bの一例を示す正面図である。
【0115】
図10に示すように、保護部材4Bの頭部41は、保護部材4と同様に、内視鏡2の外部方向へ突出するが、閉塞面412も、頭部41と同様に、内視鏡2の外部方向(第2の端部422の反対方向)に突出することにより、凸メニスカスレンズとして機能する。保護部材4Bの頭部41は、保護部材4と同様に中実に構成され、体内を観察することができるように、ガラス等の透明部材から構成される。
【0116】
頭部41は対物レンズ51より内視鏡2の先端側に位置し、レンズ機能を有する頭部41と対物レンズ51との組合せにより、レンズ性能を向上させることができる。
【0117】
L1は、保護部材4Bの内径を示す値である。点Qは、第2の端部422における、胴部42の端面と内周面(内壁面)とが交差する稜線からなる仮想円の中心であり、点Pは、閉塞面412のうち、点Qからの距離が最も大きい位置である。L2は、点Qから点Pまでの距離(点P,Qを結ぶ仮想的な線分の長さ)を示す値である。
【0118】
L1は、保護部材4Bの収容空間43内に、対物レンズ51を収容できる程度の大きさが必要である一方、内視鏡2を挿入しやすいようになるべく小さくする必要がある。L2は、L1と同様に、収容空間43内に、対物レンズ51を収容できる程度の長さが好ましい一方、閉塞面412まで反射防止膜44の成膜材料が到達できる程度に短くする必要がある。
【0119】
L1は、例えば、0.5mm以上2.0mm以下であり、かつ、L2は、0.5mm以上10.0mm以下に構成される。
【0120】
保護部材4と同様に、保護部材4BのL2/L1の値は、所定の範囲内、すなわち0.5以上8.0以下が好ましい。
【0121】
このような形状に形成することによって、保護部材4Bは、反射による画質の低下を抑えるため効果的に反射防止膜44を形成することができ、かつ、挿入時の患者等の負担を軽減するためにできるだけ小さく形成することができる。
【0122】
〔実施形態4〕
本発明の他の実施形態について以下に説明する。なお、本実施形態において説明すること以外の構成は、前記実施形態1~3と同じである。
【0123】
前記実施形態1にて説明したように、各種の成膜方法を用いて、保護部材4の内面に反射防止膜44を形成することができる。本実施形態では、反射防止膜44を有する保護部材4の製造方法の一例について説明する。
【0124】
本発明の一実施形態における保護部材4の製造方法は、胴部42および頭部41を形成する準備工程と、真空蒸着法を用いて反射防止膜44を形成する膜形成工程と、を含む。上記準備工程としては、前記実施形態1にて説明したように、頭部41および胴部42を有する保護部材4を成形することができる。そのため、以下では、上記膜形成工程に対応する反射防止膜44の成膜方法について、成膜装置を例示しつつ詳細に説明する。
【0125】
なお、以下では保護部材4を例示して説明するが、本実施形態において説明する成膜方法は、前記実施形態2、3にて説明した保護部材4A、4Bについても適用できる。また、本実施形態における成膜方法によって反射防止膜44が形成される、頭部41の閉塞面412の形状は特に限定されない。
【0126】
(成膜装置)
本実施形態における成膜方法を実施する成膜装置の一例について図面を参照して以下に説明する。
図11は、本実施形態における成膜方法を実施する成膜装置100の構成を概略的に示す模式図である。
図12は、成膜装置100が備える真空蒸着槽110の内部空間における上部に設けられた基板ドーム120の構成を概略的に示す斜視図である。説明の便宜上、3次元空間において互いに直交するX軸、Y軸、およびZ軸を
図11に示すように規定する。Z軸方向は、成膜装置100の高さ方向でもある鉛直方向である。X軸方向は、
図11に示すような成膜装置100の断面においてZ軸と直交する方向である。Y軸方向は、上記Z軸およびX軸の両方に直交する方向(
図11における成膜装置100の奥行方向)である。
【0127】
本実施形態における成膜方法を実施する成膜装置100としては、具体的な構造は特に限定されず、公知の真空蒸着装置を用いることができる。成膜装置100の各部の詳細な構造等については、公知技術に基づいて理解できる。以下の説明においては、成膜装置100の各部について概略的に説明し、詳細な説明は省略する。
【0128】
図11および
図12に示すように、本実施形態における成膜装置100は、真空蒸着槽110と、真空蒸着槽110を構成する内壁の1つである底壁111上に設置された第1の蒸発源DS1および第2の蒸発源DS2と、を有している。また、成膜装置100は、真空蒸着槽110の内部において、第1の蒸発源DS1および第2の蒸発源DS2の上方に配置された基板ドーム120を有している。
【0129】
成膜装置100は、基板ドーム120に配置された成膜対象物に対して、真空蒸着法を用いて薄膜を形成する装置である。本実施形態における成膜方法では、保護部材(管状の成膜対象物)4を保持する保持構造300を基板ドーム120に配置して、真空蒸着法により保護部材4の内面に反射防止膜44を形成する。この保持構造300について、詳しくは後述する。
【0130】
成膜装置100は、図示を省略するガス供給装置および真空排気装置を有している。真空蒸着槽110には、上記ガス供給装置に連通するガス流入口115と、上記真空排気装置に連通する排気口116と、が形成されている。
【0131】
第1の蒸発源DS1は、具体的な構成は特に限定されないが、例えば坩堝を有しており、坩堝内に第1の成膜材料DM1が収容されている。第1の成膜材料DM1は、成膜対象物に屈折率の比較的高い薄膜を形成するための原料となる物質である。第1の電子銃EG1から第1の成膜材料DM1に電子ビームが射出されることによって第1の成膜材料DM1が加熱される。これにより、第1の蒸発源DS1から基板ドーム120に向かう方向に蒸着材料が放出される。第1のシャッタSH1によって、第1の蒸発源DS1から放出される蒸着材料が成膜対象物に到達するか否かを制御できる。
【0132】
第2の蒸発源DS2は、具体的な構成は特に限定されないが、例えば坩堝を有しており、坩堝内に第2の成膜材料DM2が収容されている。第2の成膜材料DM2は、成膜対象物に屈折率の比較的低い薄膜を形成するための原料となる物質である。上述の第1の蒸発源DS1と同じく、第2の蒸発源DS2の近傍に第2の電子銃EG2および第2のシャッタSH2が設けられている。
【0133】
図11では、第1のシャッタSH1が開いており、第2のシャッタSH2が閉じている状態を例示して示しており、第1のシャッタSH1が仮に閉じている状態となった場合に位置する部分を破線にて示している。
【0134】
成膜装置100は、真空蒸着槽110の底壁111上における中央付近にイオン源140が設置されている。
図11に示す断面において、第1の蒸発源DS1、イオン源140、および第2の蒸発源DS2は、この順にX軸方向に並んで配置されている。つまり、第1の蒸発源DS1は、イオン源140から見て第2の蒸発源DS2が配置されている側の反対側に配置されている。なお、成膜装置100は、イオン源140を有するイオンアシスト式の真空蒸着装置であってよく、イオン源140を有していなくてもよい。
【0135】
成膜装置100は、第1の蒸発源DS1の上方に配置された膜厚補正板160を備えていてもよい。膜厚補正板160は第1の蒸発源DS1から放出された蒸着材料の一部をマスキング(換言すれば部分的に蒸着粒子を捕獲)する。一般に、基板ドーム120に配置された複数の成膜対象物は、配置位置の違いによって複数の成膜対象物のそれぞれの成膜速度にバラつきが生じ得る。膜厚補正板160を用いることにより、成膜速度のバラつきを低減できる。第2の蒸発源DS2の上方に膜厚補正板(図示省略)が設けられていてもよい。
【0136】
基板ドーム120は、全体的な形状として、平面視した場合に円形状であり、円の中央に向かって突出するように緩やかに湾曲した板形状の本体部121を有する。本体部121の中央部分には、本体部121の表面から裏面まで貫通する中空部122が形成されていてよい。また、本体部121には、複数の開口部125が形成されていてよい。基板ドーム120は、真空蒸着槽110内において、図示を省略する支持機構によって、中心軸A1を回転中心として例えば矢印A2方向に回転可能に支持されている。成膜装置100では、開口部125に成膜対象物を設置した状態で基板ドーム120を回転させながら、第1の蒸発源DS1または第2の蒸発源DS2から蒸着材料を放出することにより、成膜対象物に対する成膜処理が行われる。本実施形態では、開口部125に保持構造300(詳細は後述)が配置される。
【0137】
また、成膜装置100は、例えば真空蒸着槽110の内部空間における上部に膜厚計130を備えていてよい。膜厚計130は、基板ドーム120の中空部122にて計測部が露出するように設置されていてよい。膜厚計130としては、例えば、光学膜厚計および水晶膜厚計が挙げられる。
【0138】
成膜装置100は、真空蒸着槽110の内壁と基板ドーム120との間の位置に、基板ドーム120および成膜対象物を加熱するためのヒータ150が設けられていてよい。
【0139】
(保持構造)
一般に、真空蒸着法では、蒸発源から放出される蒸着材料(蒸着粒子)の指向性が比較的強い。そのため、成膜対象物への成膜速度が比較的速くなる位置は、第1の蒸発源DS1の直上および第2の蒸発源DS2の直上である。
【0140】
ここで、例えば、基板ドーム120の開口部125に基板を設置すると、当該基板の表面(板面)は底壁111(換言すればXY平面)に対して傾くことになる。そのため、例えば保護部材4を保持した平板状の成膜治具を開口部125に設置した状態にて成膜する場合、指向性を有する蒸着材料が保護部材4の胴部42の外壁面または内壁面にて蒸着され易い。
【0141】
指向性を有する蒸着材料を閉塞面412に到達させることにより、閉塞面412に第1の反射防止膜441を適切に形成することができる。本実施形態における成膜方法では、成膜装置100を用いるとともに、以下のように保護部材4を保持する保持構造300を用いる。すなわち、保持構造300は、開口部125に配置された状態において、保護部材4の底面(すなわち閉塞面412)が蒸発源と対向するように保護部材4を保持する。例えば、保持構造300は、保護部材4を保持した平板状の成膜治具を用いる場合、当該成膜治具における、基板ドーム120の中心軸A1に近い側をZ軸下方(底壁111の方向)に近づけることにより、成膜治具の表面とXY平面(水平面)との成す角度を調整する。これにより、例えば、第1の蒸発源DS1の直上の位置であれば、保持構造300は、開口部125に配置された状態において、保護部材4の開口が直下を向くように保護部材4を保持する。保持構造300は、上記のように保護部材4を保持することができればよく、具体的な構造は特に限定されるものではない。
【0142】
ここで、基板ドーム120は回転することから、蒸発源(第1の蒸発源DS1または第2の蒸発源DS2)と保持構造300に保持された保護部材4との互いの位置関係は経時的に変化する。具体的には、基板ドーム120の回転に合わせて上記位置関係は周期的に変化する。本明細書において、蒸発源と保持構造300に保持された保護部材4との位置関係について説明することは、以下のことを前提とする。
【0143】
すなわち、
図11を参照して、第1の蒸発源DS1における第1の成膜材料DM1の表面中心からZ軸方向に延ばした第1の直線VL1と、基板ドーム120の中心軸A1と、の両方を含む平面を第1の仮想平面IP1と称する。同じく、第2の蒸発源DS2における第2の成膜材料DM2の表面中心からZ軸方向に延ばした第2の直線VL2と、基板ドーム120の中心軸A1と、の両方を含む平面を第2の仮想平面IP2と称する。第1の蒸発源DS1と保持構造300に保持された保護部材4との位置関係は、基板ドーム120の回転に伴って保持構造300が上記第1の仮想平面を横切るときの位置関係である。第2の蒸発源DS2と保持構造300に保持された保護部材4との位置関係は、基板ドーム120の回転に伴って保持構造300が上記第2の仮想平面を横切るときの位置関係である。本実施形態の成膜装置100では、上記第1の仮想平面IP1および上記第2の仮想平面IP2はいずれも、
図11に示すような断面に対応する。
【0144】
保持構造300の一例について、図面を参照して以下に説明する。
図13は、保護部材4を保持する保持構造300の構成を概略的に示す斜視図および断面図である。
図14は、保持構造300に含まれる保持板320の構成を概略的に示す斜視図であって、符号1401に示す図は保護部材4を保持していない状態の保持板320を示し、符号1402に示す図は保護部材4を保持している状態の保持板320を示している。
図15は、
図13に示す保持構造300をB1方向から見た平面図である。
図16は、
図12に示す領域AR1を拡大した拡大図を含み、保持構造300を基板ドーム120の開口部125に配置する様子について説明するための模式図である。なお、
図13では、保持構造300の構成を分かり易くするために、保持板320を単なる平板として記載している。
【0145】
図13~
図16に示すように、保持構造300は、角度調整部材(調整部材)310と、角度調整部材310に載置して位置固定された保持板(保持部材)320とを有している。
【0146】
角度調整部材310は、平面視において矩形状の下板311と、下板311の表面における対向する2辺からそれぞれ立ち上る側板312・313と、下板311の表面における1辺から立ち上がる背板314と、を有している。
【0147】
下板311は、中央部分を含む広範囲において表面から裏面にかけて貫通する空間部315を有している。空間部315は、保持板320に保持される保護部材4に向かって蒸着材料を通過可能とするように形成された空間である。
【0148】
側板312および側板313は互いに対向していてよい。背板314は矩形状の平板であってよい。背板314は、側板312と側板313とを互いに接続するように設けられている。
【0149】
以下では、説明の便宜上、角度調整部材310における、背板314が設けられている側を後方と称し、背板314から遠ざかる方向を前方と称する。
【0150】
角度調整部材310において、側板312および側板313はいずれも、側面視において三角形状を有しており、背板314の方向(後方)に向かうに従って高さが大きくなっている。
【0151】
背板314は、背板314の上辺の少なくとも一部から後方に向けて突出する後方突出部331を有している。側板312は、側板312の上辺の少なくとも一部から側方に向けて突出する側方突出部332を有している。側板313は、側板313の上辺の少なくとも一部から側方に向けて突出する側方突出部333を有している。
【0152】
保持板320は、例えば全体形状としては平板形状であり、複数のホルダ部321を有している。ホルダ部321は、例えば円筒形状の孔部である。ホルダ部321の数は特に限定されない。保持板320は、ホルダ部321によって、保護部材4の胴部42および頭部41の少なくともいずれかを保持する。なお、保護部材4を保持する具体的な態様は特に限定されるものではない。例えば、ホルダ部321は、図示を省略するが、保持板320に形成された孔部に代替して、保持板320の表面から突出するように設けられた円筒状の部材であってもよく、この場合、ホルダ部321の内部空間に頭部41の方から保護部材4を挿入して、保護部材4が保持されてもよい。
【0153】
保持板320は、空間部315を覆うように角度調整部材310の下板311上に載置される。保持板320は、位置決め部材によって、角度調整部材310に位置固定(位置決め)されてよい。
【0154】
例えば、
図13における符号1301を付した図に示すように、位置決め部材はボルトであってよく、保持板320にネジ穴が形成されており、当該ネジ穴にボルト360がねじ込まれていてよい。例えば、
図13における符号1302を付した図に示すように、ボルト360の頭部が下板311の内周部(空間部315の端部;
図13において符号315で示す端面)に接していてよく、これにより、保持板320は、下板311の表面に沿う方向の変位が制限されてよい。
【0155】
また、
図13における符号1303を付した図に示すように、保持板320よりも空間部315のサイズが大きいとともに、下板311は、裏面側に板支持部319を有していてもよい。板支持部319は、平面視において空間部315の領域に部分的に重なるように、例えば下板311の裏面に設けられた部材である。板支持部319の形状は特に限定されない。板支持部319は、下板311の内周部から突出する部材であってもよい。例えば、保持板320が板支持部319によって支持され、保持板320の側面と空間部315の内壁面とが近接する、または少なくとも部分的に接触してよく、これにより、保持板320は、下板311の表面に沿う方向の変位が制限されてよい。
【0156】
上記のような保持構造300を用いて、成膜装置100によって成膜されるときの保護部材4の角度を調整することについて、図面を参照して以下に説明する。
図16は、
図12に示す領域AR1を拡大した拡大図を含み、保持構造300を基板ドーム120の開口部125に設置する様子について説明するための図である。
図17は、基板ドーム120の開口部125に設置した保持構造300と第1の蒸発源DS1との位置関係について説明するための模式図である。
【0157】
図16に示すように、保持構造300は、本体部121の表面における開口部125の周辺に、角度調整部材310の一部が接触して引っ掛かることにより、開口部125に配置され、基板ドーム120の下方に落下しないように本体部121によって支持される。より詳しくは、保持構造300が開口部125に配置された状態において、側方突出部332・333は、それぞれ、本体部121の表面における接触領域342・343に接触する。そして、角度調整部材310における下板311の前方の縁部316は、本体部121の表面における接触領域346に接触する。後方突出部331は、本体部121の表面における接触領域341に接触してもよく、本体部121の内部に形成された嵌合孔に嵌合するようになっていてもよい。
【0158】
図17に示すように、開口部125に配置される保持構造300と第1の蒸発源DS1との互いの位置関係、換言すれば、保持構造300に保持される保護部材4と第1の蒸発源DS1との位置関係は、保持構造300を配置する開口部125のX軸方向における位置に応じて変化する。保持構造300は、保護部材4の底面(すなわち閉塞面412)が第1の蒸発源DS1と対向するように、保持構造300を配置する開口部125の位置に合わせて、角度調整部材310の形状が変化している。具体的な態様は特に限定されないが、例えば、
図17に示す例では、角度調整部材310における、背板314の高さを変化させたり、下板311と背板314との角度を変化させたりすることによって、保護部材4の向きを変化させている。
【0159】
本実施形態における保護部材4の製造方法(成膜方法)では、回転する基板ドーム120の1回転における特定の角度範囲(すなわち1回転の一部期間)において、以下のような条件を満たす。すなわち、保持構造300は、閉塞面412が第1の蒸発源DS1の方向を向くように、保護部材4を保持して開口部125に配置される。換言すれば、保持構造300は、閉塞面412を胴部42の管軸方向に投影した投影線PLが、第1の成膜材料DM1の表面と交差するように、保護部材4を保持して開口部125に配置される。
【0160】
これにより、保護部材4の閉塞面412に第1の反射防止膜441を成膜し易くできる。その結果、閉塞面412において第1の反射防止膜441が偏って形成される可能性を低減できる。したがって、第1の反射防止膜441の膜厚分布を均一にし易くできる。
【0161】
また、本実施形態における保護部材4の製造方法によれば、成膜装置100を用いた成膜処理において、基板ドーム120の開口部125の位置に関わらず、保持構造300を用いて保護部材4に反射防止膜44を形成できる。そのため、基板ドーム120の面積を広く使用することができ、反射防止膜44を有する保護部材4の生産性が向上する。基板ドーム120の中央寄りの位置と外側寄りの位置とでは、成膜対象物への膜の付き方(時間当たりの体積膜厚)が異なり得る。基板ドーム120における配置位置の異なる複数の成膜対象物への膜の付き方を、膜厚補正板160を用いて平均化することによって、保護部材4の生産性を更に高めることもできる。
【0162】
上記のことは、第2の蒸発源DS2と保持構造300との位置関係においても同じであるため、繰り返して説明することは省略する。第2の蒸発源DS2は、真空蒸着槽110の底壁111上において、底壁111と基板ドーム120の中心軸A1との交点を中心に、第1の蒸発源DS1に対して点対称の位置に設けられてよい。
【0163】
保護部材4は、一端側が開放され他端側が閉塞された管状の成膜対象物の一例である。また、保持板320は、成膜対象物を保持する保持部材の一例である。管状の成膜対象物および保持部材としては、具体的な形状は特に限定されない。
【0164】
(その他の構成)
保護部材4は、前記実施形態1にて説明したような材質、形状であってよい。本実施形態の保護部材4の製造方法は、材質がガラスである保護部材4に対して好適に適用できる。保護部材4の材質は、例えばホウケイ酸系のガラスであってよく、屈折率が1.5程度のガラスであってよい。保護部材4の材質は石英であってよく、1.6以上2.1以下の屈折率を有する多成分系のガラスであってもよい。
【0165】
反射防止膜44を形成する材料は、無機の誘電体材料であってよい。反射防止膜44における相対的に屈折率の高い層(例えば前述の第1層44A)を形成する材料は、金属酸化膜、金属窒化膜、金属酸窒化膜、または炭素系膜であってよい。金属酸化膜としては、TiO2、Ta2O5、Nb2O5、HfO2、ZnO2、等が挙げられる。金属窒化膜としては、TiN、SiN、CrN、等が挙げられる。金属酸窒化膜としては、TiON、SiON、CrON、等が挙げられる。炭素系膜としては、例えばDiamond Like Carbon(DLC)であってよい。
【0166】
また、反射防止膜44における相対的に屈折率の低い層(例えば前述の第2層44B)を形成する材料は、MgF2、SiO2、Al2O3等であってよい。
【0167】
成膜装置100にて反射防止膜44を形成するための、第1の成膜材料DM1、第2の成膜材料DM2、および反応ガスの種類は、反射防止膜44の材質に対応するように選択される。この選択については、公知技術に基づいて理解できる。なお、保護部材4の材質に応じて、反射防止膜44の材質は適宜選択されてよいことは勿論である。
【0168】
保護部材4の閉塞面412に形成される第1の反射防止膜441は、例えば以下のような構成であってよい。第1の反射防止膜441は、保護部材4の内面に接触する、相対的に屈折率の高い第1層44A(
図8を参照)の膜厚が、100nm以上125nm以下であってよい。また、相対的に屈折率の低い第2層44B(
図8を参照)の膜厚が、90nm以上115nm以下であってよい。
【0169】
第1の反射防止膜441の膜厚は、膜厚計130を用いて間接的に計測できる。膜厚計130に設置された膜厚測定用ガラスの成膜速度と、第1の反射防止膜441の成膜速度との関係を予め調べておき、当該関係に基づいて第1の反射防止膜441の膜厚を制御することができる。このような膜厚制御については、公知技術に基づいて理解できる。
【0170】
本実施形態における保護部材4の製造方法(成膜方法)では、成膜時の反応性ガスの圧力を0.5Pa以上としてもよい。例えば、成膜時の反応性ガスとして酸素を用いる場合、酸素圧を1~3Paに設定してもよい。これにより、蒸発源から放出される成膜材料の指向性を弱めることができる。
【0171】
また、第1の成膜材料DM1または第2の成膜材料DM2の表面全体に熱電子を照射してもよく、この場合、成膜材料が放出される始点となる領域の面積を広げることができる。
【0172】
上記の構成によれば、基板ドーム120における成膜可能な範囲を広げるとともに、成膜の均一性を高めることができる。その結果、基板ドーム120の面積を広く使用して、開口部125に保持構造300を配置して反射防止膜44を有する保護部材4を製造することができる。したがって、保護部材4の生産性を向上させることができる。
【0173】
(確認試験)
本実施形態の製造方法(成膜方法)によって保護部材4に形成した反射防止膜44について、確認試験を行った結果を以下に説明する。
【0174】
先ず、成膜前の準備として、真空蒸着槽110内の清掃を行い、第1の蒸発源DS1に第1の成膜材料DM1としてTi3O5を収容し、第2の蒸発源DS2に第2の成膜材料DM2としてMgF2を収容した。
【0175】
次いで、基板ドーム120の開口部125に保持構造300を配置した。保持構造300には、ホウケイ酸ガラスを材質とし、L1が0.6mm、L2が3.8mm、胴部42の厚みが0.4mmである保護部材4を装着した。その後、約60分間、真空蒸着槽110の真空引きを行うとともに、ヒータ150による加熱を行った。
【0176】
次いで、第1のシャッタSH1を開いた状態とし、第2のシャッタSH2を閉じた状態として、反応性ガスである酸素を真空蒸着槽110内に導入した。そして、第1の電子銃EG1によって第1の成膜材料DM1を加熱した。第1の成膜材料DM1が好適に蒸発可能な状態になった後、第1のシャッタSH1を開いた状態とした。これにより、相対的に屈折率の高い第1層44A(
図8を参照)の成膜を開始した。0.1nm/sの成膜レートにて約18分間の成膜を行い、膜厚計130の水晶振動子が117.5nmを計測した時点で、第1のシャッタSH1を閉じた。これにより、膜厚109.8nmのTiO
2膜を成膜した。
【0177】
次いで、真空蒸着槽110内への反応性ガスの導入を停止して、第1のシャッタSH1および第2のシャッタSH2を閉じた状態とした。そして、第2の電子銃EG2によって第2の成膜材料DM2を加熱して、第2の成膜材料DM2が好適に蒸発可能な状態になった後、第2のシャッタSH2を開いた状態とした。これにより、相対的に屈折率の低い第2層44B(
図8を参照)の成膜を開始した。0.08nm/sの成膜レートにて約20分間の成膜を行い、膜厚計130の水晶振動子が97.4nmを計測した時点で、第2のシャッタSH2を閉じた。これにより、膜厚97.4nmのMgF
2膜を成膜した。
【0178】
次いで、約5分間、自然冷却した後、真空蒸着槽110内に大気を導入し、成膜装置100から保持構造300を取り出した。
【0179】
ここで、保護部材4の閉塞面412の形状の影響を無くすために、成膜後の保護部材4の光学特性評価は、以下のようにして行った。
図18は、光学特性評価のための評価用基板500について説明するための模式図である。
【0180】
図18に示すように、保持板320のホルダ部321に、保護部材4を装着するとともに、両端開口のガラス管(胴部42のみに対応)を装着した。そして、当該ガラス管の一方の開口を覆うように、保持板320の表面上に評価用基板500を載置した。評価用基板500の材質は、保護部材4と同じ、ホウケイ酸ガラスとした。
【0181】
上述のように成膜装置100を用いて成膜を行った後、真空蒸着槽110から取り出した評価用基板500に対して、顕微分光測定器(オリンパス製USPM)によって光学特性を評価した。
図19に、評価用基板500における反射防止膜が形成されている部分および反射防止膜が形成されていない部分の片面反射率を測定した結果のグラフを示す。
図20に、反射防止膜ARが形成された評価用基板500の顕微鏡写真を示す。
【0182】
図19に示すように、反射防止膜を形成した部分において、450~600nmの波長範囲で効果的に反射防止効果が得られていることがわかる。また、
図20に示すように、評価用基板500の表面に、直径が約1μmの円形状を有する反射防止膜ARが形成されていることが確認された。また、反射防止膜ARの膜厚分布が全体的に均一であることが確認された。
【0183】
〔変形例〕
(a)本実施形態における製造方法では、2層構造の反射防止膜44を形成する例について説明したが、反射防止膜44は2層に限定されず、4層以上の複層構造を有する反射防止膜44であってもよいことは勿論である。
【0184】
(b)保護部材4は、閉塞面412に第1の反射防止膜441が形成されているとともに、頭部41の表面にさらに反射防止膜が形成されていてもよい。この場合、保持構造300を用いて、頭部41が蒸発源の方向を向くように保護部材4を保持して、反射防止膜を成膜してもよい。
【0185】
(c)本実施形態の製造方法では、例えば、基板ドーム120ではなく、平板状の基板設置用部材を有する成膜装置を用いてもよい。また、成膜装置は、1または複数の蒸発源が配置されていてよく、1つの蒸発源が真空蒸着槽110の中央部分に配置されていてもよい。成膜装置は、複数の蒸発源が真空蒸着槽110の中央部分に並んで配置されていてもよい。成膜装置がどのような構造を有していても、保持構造300を用いて適切な向きとなるように保護部材4を保持して、保護部材4に反射防止膜44を成膜することができる。
【0186】
(d)保持構造300の具体的な態様は特に限定されず、例えば、前述の角度調整部材310は、後方突出部331および側方突出部332・333に孔部が形成されていてよく、基板ドーム120の表面または裏面に角度調整部材310を設置するためのネジ穴が形成されていてよい。この場合、ボルト等の締結具によって、角度調整部材310が基板ドーム120に固定されてよい。基板ドーム120または上述の平板状の基板設置用部材は、開口部125を有していなくてもよい。
【0187】
保持構造300の別の一例を
図21に示す。
図21に示すように、保持構造300は、角度調整部材310に代替してワイヤ350を有していてもよい。この場合、ワイヤ350を用いて、保持板320を開口部125に設置するとともに、保持板320における、基板ドーム120の中心軸A1に近い側をZ軸下方(底壁111の方向)に近づける。ワイヤ350の長さを変化させることにより、保護部材4の向きを調整することができる。
【0188】
(e)保護部材4は、カプセル内視鏡に使用されてよく、この場合、カプセル内視鏡の観察窓に装着されてもよい。一般に、カプセル内視鏡は、カプセル剤に似た形状のカバー内部に各種電子部品が格納されており、当該カバーの一部に透明部を有する。この透明部(例えば樹脂製)に代替して保護部材4を用いてカプセル内視鏡を構成できる。具体的な態様は特に限定されないが、一例におけるカプセル内視鏡は、各種電子部品が格納され、保護部材4を装着可能な開口部が設けられた本体部を有する。当該本体部および保護部材4の頭部41が丸みを帯びた形状であることにより、例えば人体の消化管内部を観察するカプセル内視鏡として使用できる。保護部材4の内部に極微小カメラまたは光学部材が搭載されてもよい。カプセル内視鏡に適用される場合においても、保護部材4は、サイズが小さい保護部材でありながら、胴部の第1の端部側を閉塞する面(閉塞面)に反射防止膜を形成できるため、当該保護部材の反射光に起因して画像の解像度が悪化する可能性を低減し、更に、内視鏡挿入時の患者等の負担を軽減できる。
【0189】
(f)保護部材4が装着される装着対象物としては、例えば照明であってもよい。装着対象物は、狭い空間の観察に用いられる、受光光学系および照明(投光)光学系を有する細径スコープ(ファイバースコープ)であってもよい。装着対象物の一例としては、
図22に示すような細径スコープ600が挙げられる。細径スコープ600は、照射部610と受光部620とを有する。照射部610は、複数本のレーザ伝送用光ファイバーが束ねられて形成されていてよい。受光部620は、複数本の画像伝送用光ファイバーが束ねられて形成されていてよい。各種の構造の細径スコープに保護部材4を装着することによれば、画像の解像度が悪化する可能性を低減しつつ、細径スコープの先端部を効果的に保護することができる。
【0190】
〔附記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0191】
2 内視鏡
4、4A、4B 保護部材(カバー)
23 先端部
41 頭部
42 胴部
44 反射防止膜
412 閉塞面
421 第1の端部
422 第2の端部