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特開2023-20930皮下組織リモデリング現象の指令因子又は指令細胞の探索方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020930
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】皮下組織リモデリング現象の指令因子又は指令細胞の探索方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20230202BHJP
   C12Q 1/00 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C12Q1/68
C12Q1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105411
(22)【出願日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2021122988
(32)【優先日】2021-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】木内 里美
(72)【発明者】
【氏名】大石 貴矢
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QR36
4B063QR73
4B063QR77
(57)【要約】      (修正有)
【課題】皮下組織リモデリング現象の指令因子または指令細胞を効果的に探索する技術を提供する。
【解決手段】皮下組織リモデリング現象の指令因子の探索方法であって、脂肪組織由来幹細胞と皮下組織を共培養する第1共培養工程と、前記第1共培養工程を経た前記皮下組織において発現している遺伝子の発現量解析を行う第1解析工程と、前記第1解析工程の結果に基づき、前記第1共培養工程を経ていない皮下組織と比較して発現量の変動が見られる遺伝子を同定する第1比較工程と、前記第1比較工程で同定された遺伝子を前記指令因子の候補として判別する第1判別工程と、を備えることを特徴とする、探索方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮下組織リモデリング現象の指令因子の探索方法であって、
脂肪組織由来幹細胞と皮下組織を共培養する第1共培養工程と、
前記第1共培養工程を経た前記皮下組織において発現している遺伝子の発現量解析を行う第1解析工程と、
前記第1解析工程の結果に基づき、前記第1共培養工程を経ていない皮下組織と比較して発現量の変動が見られる遺伝子を同定する第1比較工程と、
前記第1比較工程で同定された遺伝子を前記指令因子の候補として判別する第1判別工程と、を備えることを特徴とする、探索方法。
【請求項2】
前記第1共培養工程の開始から複数時点における前記皮下組織について経時的に第1解析工程を行い、前記複数時点における前記第1解析工程のそれぞれの結果に基づいて経時的に前記第1比較工程を行うことを特徴とする、請求項1に記載の探索方法。
【請求項3】
前記第1判別工程において、経時的に複数得られた前記第1比較工程の結果に基づき、前記第1共培養工程のより早い段階において発現量の変動が見られた遺伝子が、前記指令因子である可能性がより高いものとして判別することを特徴とする、請求項2に記載の探索方法。
【請求項4】
前記第1判別工程において、経時的に複数得られた前記第1比較工程の結果に基づき、前記第1共培養工程の開始から1~2日の間に発現量の変動が見られた遺伝子が、前記指令因子である可能性がより高いものとして判別することを特徴とする、請求項2又は3に記載の探索方法。
【請求項5】
前記第1判別工程において、経時的に複数得られた前記第1比較工程の結果に基づき、前記第1共培養工程のより早い段階において発現量の変動が見られ、かつ、より遺伝子制御の上流に位置する遺伝子が、前記指令因子である可能性がより高いものとして判別することを特徴とする、請求項2に記載の探索方法。
【請求項6】
前記第1判別工程において、前記第1比較工程で同定された遺伝子のうち液性因子をコードする遺伝子が、前記指令因子である可能性がより高いものとして判別することを特徴とする、請求項1に記載の探索方法。
【請求項7】
前記第1比較工程で同定された遺伝子の機能に基づき、前記第1共培養工程において発生する生物学的現象を特定する現象特定工程を備えることを特徴とする、請求項1に記載の探索方法。
【請求項8】
前記第1共培養工程の開始から複数時点における前記皮下組織について経時的に第1解析工程を行い、前記複数時点における前記第1解析工程のそれぞれの結果について前記第1比較工程を行い、
前記現象特定工程において、前記第1共培養工程において発生する生物学的現象を経時的に特定することを特徴とする、請求項7に記載の探索方法。
【請求項9】
前記第1判別工程において、経時的に複数得られた前記第1比較工程の結果及び前記現象特定工程の結果に基づき、
前記第1共培養工程のより早い段階において発生する前記生物学的現象に関する遺伝子であり、かつ、
前記第1共培養工程のより早い段階において発現量の変動が見られた遺伝子が、
前記指令因子である可能性がより高いものとして判別することを特徴とする、請求項8に記載の探索方法。
【請求項10】
前記第1判別工程において、経時的に複数得られた前記第1比較工程の結果及び前記現象特定工程の結果に基づき、
前記第1共培養工程のより早い段階において発生する前記生物学的現象に関する遺伝子であり、
前記第1共培養工程のより早い段階において発現量の変動が見られた遺伝子であり、かつ、
より遺伝子制御の上流に位置する遺伝子が、
前記指令因子である可能性がより高いものとして判別することを特徴とする、請求項9に記載の探索方法。
【請求項11】
皮下組織リモデリング現象の指令細胞の探索方法であって、
脂肪組織由来幹細胞と皮下組織を共培養する第2共培養工程と、
前記第2共培養工程を経た前記皮下組織を構成する細胞ごとに、発現している遺伝子の発現量解析を行う第2解析工程と、
前記第2解析工程の結果に基づき、前記第2共培養工程を経ていない皮下組織と比較して発現量の変動が見られる遺伝子を前記細胞ごとに同定する第2比較工程と、
前記第2比較工程の結果に基づき、請求項1に記載の探索方法で前記指令因子の候補として判別された遺伝子の変動(但し、前記第1比較工程でみられた発現量の変動と同方向の変動に限る)がみられた細胞を前記指令細胞の候補として判別する第2判別工程と、を備えることを特徴とする、探索方法。
【請求項12】
指標細胞に被験物質を投与し、該被験物質を投与しなかった場合と比較して、指標遺伝子の発現変動が観察された場合に、該被験物質が皮下組織リモデリング現象を惹起する有効成分であると判別するスクリーニング方法の設計方法であって、
請求項1に記載の方法により指令因子の候補であると判別された遺伝子から1又は2以上の遺伝子を前記指標遺伝子として選択し、
請求項11に記載の方法により指令細胞の候補であると判別された細胞から1又は2以上の細胞を前記指標細胞として選択し、
前記指標遺伝子の発現変動は、前記第1比較工程でみられた発現量の変動と同方向の変動であることを特徴とする、設計方法。
【請求項13】
請求項11に記載の方法により指令細胞の候補であると判別された細胞から選ばれる指標細胞に被験物質を投与し、
該被験物質を投与しなかった場合と比較して、請求項1に記載の方法により指令因子の候補であると判別された遺伝子から選択される指標遺伝子の発現変動(但し、前記第1比較工程でみられた発現量の変動と同方向の変動である場合に限る)が観察された場合に、
該被験物質が皮下組織リモデリング現象を惹起する有効成分であると判別することを特徴とする、スクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮下組織リモデリング現象の探索方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの臓器に、それぞれの組織のターンオーバーを司る前駆細胞だけでなく、非常時の修復などを司るマスター幹細胞が存在することが分かり、再生医療の細胞源として注目されている。従来から利用されている骨髄由来の造血幹細胞に加えて、近年では脂肪組織由来幹細胞(adipose-derived stem cell,ASC)の有用性が評価されてきている。美容皮膚科領域では、ASCを含む皮下組織細胞を皮下に注入する美容施術(以下、「脂肪幹細胞注入法」という)が知られている。脂肪幹細胞注入法によれば、組織増大、血行改善、組織予備能(創傷治癒能)の改善などの効果に加え、変性した古い線維が新しい線維に作り替わる現象(以下、「リモデリング現象」という)が起こり、皮膚の若返り、しわ・たるみ等の老化肌悩みの改善、顔面変性疾患の美容的改善、放射線潰瘍などの難治性潰瘍の治療などをはじめ、今後多くの展開が期待されている(例えば非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Aesthetic Surgery Journal,Volume 30,Issue 1,January 2010, Pages 78-81.
【非特許文献2】Aesthetic Dermatology Vol.20:225-236,2010
【非特許文献3】Plast Reconstr Surg,volume135,issue4,pages999-1009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
皮下組織のリモデリングによって様々な展開が期待されている脂肪幹細胞注入法であるが、そのメカニズムの全体像は明らかとなっていない。具体的には、皮下組織細胞の注入後にどの細胞(指令細胞)がどのような因子(指令因子)を発現することでリモデリング現象を引き起こすのかということが未だ不明である。
【0005】
このような問題に鑑み、本発明の解決しようとする課題は、皮下組織リモデリング現象の指令因子または指令細胞を効果的に探索する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明は、皮下組織リモデリング現象の指令因子の探索方法であって、脂肪組織由来幹細胞と皮下組織を共培養する第1共培養工程と、前記第1共培養工程を経た前記皮下組織において発現している遺伝子の発現量解析を行う第1解析工程と、前記第1解析工程の結果に基づき、前記第1共培養工程を経ていない皮下組織と比較して発現量の変動が見られる遺伝子を同定する第1比較工程と、前記第1比較工程で同定された遺伝子を前記指令因子の候補として判別する第1判別工程と、を備えることを特徴とする、探索方法である。
脂肪組織由来幹細胞と皮下組織を共培養する第1共培養工程は、脂肪幹細胞注入法の適用を受けた生体内の皮下組織を再現している培養系である。第1共培養工程を経た皮下組織において発現量に変動が見られる遺伝子は、皮下組織リモデリング現象の指令因子である可能性が高い。すなわち、本発明は、脂肪幹細胞注入法の適用を受けた生体内の皮下組織を模した試験系を採用しているため、皮下組織リモデリング現象の指令因子の効率的な探索を実現する。
【0007】
本発明の好ましい形態では、前記第1共培養工程の開始から複数時点における前記皮下組織について経時的に第1解析工程を行い、前記複数時点における前記第1解析工程のそれぞれの結果に基づいて経時的に前記第1比較工程を行う。
本発明者らの鋭意研究努力によって、第1共培養工程において生じる遺伝子発現量の変動は経時的な変化を見せることが明らかとなった。すなわち、本形態の本発明によれば、第1共培養工程において生じる遺伝子発現量の経時的変動を把握することができ、皮下組織リモデリング現象の指令因子のより精度の高い探索を実現することができる。
【0008】
本発明の好ましい形態では、前記第1判別工程において、経時的に複数得られた前記第1比較工程の結果に基づき、前記第1共培養工程のより早い段階において発現量の変動が見られた遺伝子が、前記指令因子である可能性がより高いものとして判別する。
共培養の初期段階で生じた指令因子の発現量変化が引き金となり、その影響によって後続の遺伝子発現量の変化が生じることで、皮下組織リモデリング現象が起こるものと考えられる。したがって、第1共培養工程のより早い段階において発現量の変動が見られた遺伝子が、指令因子である可能性がより高いものとして判別することで、より精度の高い探索を実現することができる。
【0009】
本発明の好ましい形態では、前記第1判別工程において、経時的に複数得られた前記第1比較工程の結果に基づき、前記第1共培養工程の開始から1~2日の間に発現量の変動が見られた遺伝子が、前記指令因子である可能性がより高いものとして判別する。
共培養の開始から1~2日という短期間で遺伝子発現に変動が見られる遺伝子は、皮下組織リモデリングの引き金となる指令因子である可能性が高い。したがって本形態の探索方法によれば、より精度の高い指令因子の探索が可能となる。
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記第1判別工程において、経時的に複数得られた前記第1比較工程の結果に基づき、前記第1共培養工程のより早い段階において発現量の変動が見られ、かつ、より遺伝子制御の上流に位置する遺伝子が、前記指令因子である可能性がより高いものとして判別する。
共培養の初期段階で遺伝子発現に変動が見られる遺伝子であり、かつ、遺伝子制御の上流に位置する遺伝子は、皮下組織リモデリングの引き金となる指令因子である可能性が高い。したがって本形態の探索方法によれば、より精度の高い指令因子の探索が可能となる。
【0011】
指令因子は、指令細胞より分泌され、後続の細胞種に影響を及ぼすものである蓋然性が高い。したがって、本発明の好ましい形態では、前記第1判別工程において、前記第1比較工程で同定された遺伝子のうち液性因子をコードする遺伝子が、前記指令因子である可能性がより高いものとして判別する。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記第1比較工程で同定された遺伝子の機能に基づき、前記第1共培養工程において発生する生物学的現象を特定する現象特定工程を備える。
本形態のように共培養によって生じる生物学的現象を特定したうえで指令因子を探索することで、探索精度を向上させることができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記第1共培養工程の開始から複数時点における前記皮下組織について経時的に第1解析工程を行い、前記複数時点における前記第1解析工程のそれぞれの結果について前記第1比較工程を行い、前記現象特定工程において、前記第1共培養工程において発生する生物学的現象を経時的に特定する。
共培養によって生じる生物学的現象を経時的に特定することで皮下組織リモデリング現象の全体像を把握することができる。そのため、本形態によれば、探索精度をより向上させることができる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記第1判別工程において、経時的に複数得られた前記第1比較工程の結果及び前記現象特定工程の結果に基づき、前記第1共培養工程のより早い段階において発生する前記生物学的現象に関する遺伝子であり、かつ、前記第1共培養工程のより早い段階において発現量の変動が見られた遺伝子が、前記指令因子である可能性がより高いものとして判別する。
共培養の初期段階で発現量の変動が観察され、かつ、共培養の初期段階で生じる生物学的現象に関わる遺伝子は、皮下組織リモデリング現象の指令因子である可能性が高い。したがって、本形態の発明によれば、より精度の高い指令因子の探索が可能となる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記第1判別工程において、経時的に複数得られた前記第1比較工程の結果及び前記現象特定工程の結果に基づき、前記第1共培養工程のより早い段階において発生する前記生物学的現象に関する遺伝子であり、前記第1共培養工程のより早い段階において発現量の変動が見られた遺伝子であり、かつ、より遺伝子制御の上流に位置する遺伝子が、前記指令因子である可能性がより高いものとして判別する。
共培養の初期段階で発現量の変動が観察され、遺伝子制御の上流に位置する遺伝子であり、かつ、共培養の初期段階で生じる生物学的現象に関わる遺伝子は、皮下組織リモデリング現象の指令因子である可能性が非常に高い。したがって、本形態の発明によれば、さらに精度の高い指令因子の探索が可能となる。
【0016】
本発明は皮下組織リモデリング現象の指令細胞の探索方法にも関する。すなわち、本発明は、脂肪組織由来幹細胞と皮下組織を共培養する第2共培養工程と、前記第2共培養工程を経た前記皮下組織を構成する細胞ごとに、発現している遺伝子の発現量解析を行う第2解析工程と、前記第2解析工程の結果に基づき、前記第2共培養工程を経ていない皮下組織と比較して発現量の変動が見られる遺伝子を前記細胞ごとに同定する第2比較工程と、前記第2比較工程の結果に基づき、請求項1~8の何れか一項に記載の探索方法で前記指令因子の候補として判別された遺伝子の変動(但し、前記第1比較工程でみられた発現量の変動と同方向の変動に限る)がみられた細胞を前記指令細胞の候補として判別する第2判別工程と、を備えることを特徴とする、皮下組織リモデリング現象の指令細胞の探索方法である。
本発明の探索方法によれば、皮下組織リモデリング現象の指令細胞を効率よく探索することができる。
【0017】
また、本発明は、指標細胞に被験物質を投与し、該被験物質を投与しなかった場合と比較して、指標遺伝子の発現変動が観察された場合に、該被験物質が皮下組織リモデリング現象を惹起する有効成分であると判別するスクリーニング方法の設計方法にも関する。
具体的には、上述の指令因子の探索方法により指令因子の候補であると判別された遺伝子から1又は2以上の遺伝子を前記指標遺伝子として選択し、上述の指令細胞の探索方法により指令細胞の候補であると判別された細胞から1又は2以上の細胞を前記指標細胞として選択し、前記指標遺伝子の発現変動は、前記第1比較工程でみられた発現量の変動と同方向の変動であることを特徴とする、設計方法である。
本発明によれば、皮下組織リモデリング現象を惹起する有効成分をスクリーニングする方法を設計することができる。
【0018】
また、本発明は皮下組織リモデリング現象を惹起する有効成分をスクリーニングする方法にも関する。具体的に本発明のスクリーニング方法は、上述の指令細胞の探索方法により指令細胞の候補であると判別された細胞から選ばれる指標細胞に被験物質を投与し、該被験物質を投与しなかった場合と比較して、上述の指令因子の探索方法により指令因子の候補であると判別された遺伝子から選択される指標遺伝子の発現変動(但し、前記第1比較工程でみられた発現量の変動と同方向の変動である場合に限る)が観察された場合に、該被験物質が皮下組織リモデリング現象を惹起する有効成分であると判別することを特徴
とする。
本発明によれば、皮下組織リモデリング現象を惹起する有効成分をスクリーニングすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、脂肪幹細胞注入法の適用を受けた生体内の皮下組織を模した試験系を採用しているため、皮下組織リモデリング現象の指令因子の効率的な探索を実現する。
また、本発明によれば、皮下組織リモデリング現象を惹起する有効成分をスクリーニングする方法を設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の試験系の概略図である。
図2】本発明の指令因子の探索方法の一つの実施形態を示すフローチャートである。
図3】第1共培養工程の開始から複数時点における皮下組織について経時的に第1解析工程を行う実施形態の模式図である。
図4】現象特定工程を備える実施形態の模式図である。
図5】本発明の指令細胞の探索方法の一つの実施形態を示すフローチャートである。
図6】脂肪組織由来幹細胞との共培養前後における、皮下組織における、分解コラーゲンの局在を表す3次元蛍光画像を示す。左図が培養前の像であり、右図が培養3日後の像である。分解コラーゲンはCHP蛍光プローブにて検出を行った。
図7】脂肪組織由来幹細胞との共培養前後における、皮下組織における、新生コラーゲンの局在を表す3次元染色画像を示す。左図が培養前の染色像であり、右図が培養後の染色像である。新生コラーゲンはI型プロコラーゲンの抗体染色により検出を行った。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態について適宜図面を参照しながら説明を加える。なお、本発明の範囲は以下に説明する実施形態に限定されないことはいうまでもない。
【0022】
<1>指令因子の探索方法
皮下組織リモデリング現象は、皮下注入された脂肪組織由来幹細胞(ASC)より分泌される因子Xの影響を受けた、皮下組織を構成する何れかの細胞における何らかの「因子Y」の遺伝子発現変動がトリガーとなって生じるものと推測される。本発明はこの「因子Y」、すなわち皮下組織リモデリング現象の「指令因子」を探索する方法に関する。
【0023】
本発明は、脂肪幹細胞注入法の適用を受けた生体内の皮下組織を模した試験系を採用している(図1)。具体的には脂肪組織由来幹細胞と皮下組織を共培養する第1共培養工程を備える。第1共培養工程において共培養する脂肪組織由来幹細胞は、脂肪幹細胞注入法において皮下組織に注入する脂肪組織由来幹細胞に該当する。一方、第1共培養工程において共培養する皮下組織は、脂肪幹細胞注入法において注入を受ける側の皮下組織に該当する。第1共培養工程は、脂肪幹細胞注入法において注入された脂肪組織由来幹細胞と、注入を受ける皮下組織の共存状況を再現している。
【0024】
第1共培養工程においては脂肪幹細胞注入法において脂肪組織由来幹細胞を皮下組織に注入したときと同様の生物学的反応が生じる。すなわち、脂肪組織由来幹細胞より分泌される何らかの因子Xの影響によって、皮下組織を構成する何れかの細胞における因子Y(指令因子)の発現変動が起こる(図1)。当該指令因子を探索することが本発明の目的である。
【0025】
第1共培養工程で培養する皮下組織としては、例えばヒト新鮮皮膚組織より分離したものなどが好適に例示できる。ヒト新鮮皮膚組織は美容整形手術の際に除去された皮膚組織から調製可能であり、また、市販のものを使用することができる。ヒト新鮮皮膚組織は例えばBIOPREDIC International社などから入手可能である。
【0026】
第1共培養工程に供する脂肪組織由来幹細胞は、哺乳動物の脂肪組織内に存在する多能性体性幹細胞をいう。当該脂肪組織由来幹細胞には、多分化能を維持していることを限度として、当該体性幹細胞の培養(継代培養を含む)により得られる培養細胞も包含される。
【0027】
脂肪組織由来幹細胞の採取源となる脂肪組織は、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ等の哺乳動物から、切除、吸引等の公知の方法で採取することができる。
【0028】
指令因子の探索を精度よく行う観点から、共培養する皮下組織と脂肪組織由来幹細胞は同一種に由来するものであることが好ましい。
【0029】
脂肪組織由来幹細胞の採取源となる脂肪組織の種類については、特に制限されるものではなく、例えば、皮下脂肪、内臓脂肪(大網を含む)、筋肉内脂肪、筋肉間脂肪等が挙げられる。これらの脂肪組織のうち、1種の脂肪組織を脂肪組織由来幹細胞の採取源として使用してもよく、また2種以上の脂肪組織を組み合わせて脂肪組織由来幹細胞の採取源として使用してもよい。
指令因子の探索を精度よく実施する観点から、脂肪組織由来幹細胞の採取源となる脂肪組織として、好ましくは皮下脂肪が挙げられる。また、脂肪組織中の幹細胞が生存していることを限度として、脂肪組織が採取される哺乳動物の生死の別は問わない。
【0030】
脂肪組織から幹細胞の採取は、公知の方法で実施される。具体的には、以下の(1)~(6)の工程を経て脂肪組織から幹細胞を採取する方法が例示される。
(1)採取された組織を、必要に応じて血液成分の除去及び細片化等の処理に供した後、コラーゲナーゼ、トリプシン等の酵素によって消化する。
(2)酵素消化後の細胞集団を1800rpmで5分間程度遠心分離を行い、沈降した細胞集団を回収する。
(3)沈降した細胞集団に対して、前記(2)と同条件で遠心分離を3回繰り返した後に、沈降した細胞集団を回収する。この操作によって成熟脂肪細胞が除去される。
(4)回収された細胞集団を、新鮮な培地を含む培養皿に播種して培養する。
(5)培地交換によって浮遊細胞を除去する。この時点で脂肪組織由来幹細胞は培養皿に接着している。
(6)必要に応じて継代培養を行う。
【0031】
脂肪組織から採取された幹細胞については、必要に応じて、分化能や細胞表面マーカーを確認することにより、多能性幹細胞としての機能を有していることを確認してもよい。
【0032】
なお、第1共培養工程は、純粋に単離された脂肪組織由来幹細胞のみを皮下組織と共培養する形態に限定されない。皮下組織と脂肪組織由来幹細胞の共培養が実現できれば、脂肪組織由来幹細胞の他の細胞が混在していても構わない。
例えば脂肪組織由来幹細胞を含む間質血管細胞群(stromal-vascular fraction,SVF)と皮下組織を共培養する形態であっても構わない。
【0033】
第1共培養工程における脂肪組織由来幹細胞と皮下組織の共培養方法は特に限定されない。脂肪組織由来幹細胞を付着培養し、同一培地中で皮下組織を浮遊させて培養する方法などが挙げられる。
また、培養のための培地も特に限定されず、公知のものを使用することができる。DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地、Dulbecco´s Modified Eagle´s Medium)などが好適に例示できる。
【0034】
第1共培養工程における共培養の期間は特に限定されず、好ましくは6時間以上、より好ましくは12時間以上、さらに好ましくは1日以上である。培養期間の上限も特に限定されず、目安として、好ましくは1カ月以下、より好ましくは3週間以下、さらに好ましくは2週間以下、さらに好ましくは1週間以下である。
【0035】
第1共培養工程と並行して、脂肪組織由来幹細胞と共培養せずに皮下組織を培養し、後述の第1解析工程及び第1比較工程における比較対象として準備しておくことが好ましい。比較対象の皮下組織の培養は、脂肪組織由来幹細胞との共培養を行わない以外は、第1共培養工程と同条件で実施することが好ましい。
【0036】
本発明は、第1共培養工程を経た皮下組織において発現している遺伝子の発現量解析を行う第1解析工程を備える。第1解析工程は第1共培養工程を経た皮下組織全体を対象として遺伝子発現量の解析を行う。
【0037】
遺伝子発現量解析の手法は、網羅的な遺伝子発現量解析が可能であれば特に限定されない。具体的には、第1共培養工程を経た皮下組織よりmRNAを抽出し、適切なサンプル処理を加えた上で、マイクロアレイや次世代シーケンサーによって網羅的遺伝子発現解析を行うことができる。
【0038】
本発明は第1比較工程を備える。第1比較工程は、第1解析工程の結果に基づき、第1共培養工程を経ていない皮下組織と比較して発現量の変動が見られる遺伝子を同定する工程である。脂肪組織由来幹細胞と共培養した皮下組織と、共培養していない皮下組織とに対して、同一の解析手法による遺伝子発現量解析を行い、その結果を比較する。
【0039】
第1比較工程で同定する遺伝子には、脂肪組織由来幹細胞と共培養した皮下組織において発現量が向上している遺伝子と、発現量が低下している遺伝子が含まれる。
【0040】
本発明の指令因子の探索方法は、第1比較工程で同定された遺伝子を指令因子の候補として判別する第1判別工程を備える。具体的には、脂肪組織由来幹細胞と共培養した皮下組織において発現量が向上している遺伝子と、発現量が低下している遺伝子とを指令因子の候補として判別する。
特に好ましい実施の形態では、脂肪組織由来幹細胞と共培養した皮下組織において発現量が向上している遺伝子を指令因子の候補として判別する。
【0041】
図2に本発明の指令因子の探索方法の一つの実施形態を示すフローチャートを示す。本実施形態においては、脂肪組織由来幹細胞と共培養することで発現量が変動したすべての遺伝子を指令因子の候補として判別する。このように脂肪組織由来幹細胞と共培養することで発現量が変動した遺伝子を同定することで、指令因子を絞り込むことができる。
以下、より精度よく指令因子の絞り込みが可能となる実施形態についての説明を行う。
【0042】
図3に第1共培養工程の開始から複数時点における皮下組織について経時的に第1解析工程を行う実施形態の模式図を表す。本実施形態においては、複数時点における第1解析工程のそれぞれの結果に基づいて経時的に第1比較工程を行う。
【0043】
具体的には、複数の皮下組織を第1共培養工程に供し、培養の開始時点から異なる時点で回収したそれぞれの皮下組織を回収する。つまり、第1共培養工程に置かれた時間の異なる複数の皮下組織をサンプルとして用意する。この第1共培養工程に置かれた時間が異なる、複数の皮下組織のそれぞれについて、別個に第1分析工程と第1比較工程を実施する(図3)。
このような実施形態とすることによって、第1共培養工程を経た皮下組織における遺伝子発現量の変動を経時的に観察することが可能となる。
【0044】
経時的な遺伝子発現量の変動を観察するため、培養時間の異なる皮下組織は2以上用意する。好ましくは3以上、より好ましくは4以上の異なる時間で培養した皮下組織を用意する。
【0045】
本実施形態では、第1共培養工程の開始から複数時点における皮下組織の遺伝子発現量の変動を観察するが、その時間間隔は、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上、さらに好ましくは3時間以上、さらに好ましくは6時間以上、さらに好ましくは8時間以上、さらに好ましくは12時間以上、さらに好ましくは18時間以上、さらに好ましくは1日以上である。
当該時間間隔の上限は特に限定されないが、好ましくは1週間以下、より好ましくは3日以下、さらに好ましくは2日以下である。
【0046】
上記時間間隔は一定である必要は無い。例えば培養開始時点から12時間~1日の間隔で2~3時点の皮下組織を回収し、その後、より間隔を空けて2日~7日の間隔で1~3時点の皮下組織を回収し、これらを第1分析工程に供する形態としてもよい。
なお、当然のことながら上記時間間隔は一定であってもよい。
【0047】
ある刺激が細胞または組織に加わり、それに応じて生物学的な反応が生じるとき、まず初めに反応経路の上流に位置する遺伝子の発現変動が起こり、その影響によって下流に位置する遺伝子発現の変動が生じる。このような経時的な遺伝子発現の変動の結果が、生物学的な反応として表れる。皮下組織リモデリングの場合も同様、皮下注入された脂肪組織由来幹細胞の刺激を受け、上流に位置する遺伝子の発現量変動、それに続く下流に位置する遺伝子の発現量変動が起こり、これら遺伝子発現変動の総合的な結果として皮下組織リモデリング現象が起こる。
したがって、皮下組織リモデリング現象において、より早い段階で発現量の変動が生じる遺伝子、また、遺伝子制御の上流に位置する遺伝子が、指令因子である可能性が高い。
【0048】
このことから、第1判別工程において、経時的に複数得られた第1比較工程の結果に基づき、第1共培養工程のより早い段階において発現量の変動が見られた遺伝子が、指令因子である可能性がより高いものとして判別する実施形態が好ましく例示できる。
【0049】
例えば、第1共培養工程の開始から、好ましくは3日以下、より好ましくは2日以下で、発現量の変動が見られた遺伝子が指令因子である可能性がより高いものとして、第1判別工程において判別する形態が挙げられる。
このような判断を行う場合の培養時間の下限は特に限定されないが、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上、さらに好ましくは3時間以上、さらに好ましくは6時間以上、さらに好ましくは8時間以上、さらに好ましくは12時間以上、さらに好ましくは18時間以上、さらに好ましくは1日以上である。
【0050】
本発明においては、第1比較工程の結果、発現量の変動が見られた遺伝子のうち、遺伝子制御のより上流に位置する遺伝子が指令因子である可能性が高いものであると判別する実施形態としてもよい。
【0051】
遺伝子制御の上流に位置するか否かは、遺伝子制御のデータが蓄積された各種データベースを参照することにより判断することができる。このようなデータベースとしては、例えばBioCys、KEGG、Reactome、WikiPathways、TRANSPATH、Ingenuity Pathway Analysis、NexBio、PathwayStudioなどが挙げられる。
【0052】
指令因子は、指令細胞より分泌され、後続の細胞種に影響を及ぼすものである蓋然性が高い。したがって、本発明の好ましい形態では、第1判別工程において、第1比較工程で同定された遺伝子のうち液性因子をコードする遺伝子が、指令因子である可能性がより高いものとして判別する。
このような実施形態とすることで、より高精度な指令因子の探索が可能となる。
【0053】
本発明の好ましい実施形態では、第1判別工程において、経時的に複数得られた第1比較工程の結果に基づき、第1共培養工程のより早い段階において発現量の変動が見られ、かつ、より遺伝子制御の上流に位置する遺伝子が、指令因子である可能性がより高いものとして判別する。
共培養のより早い段階で遺伝子発現量の変動を示し、かつ、遺伝子制御のより上流に位置する遺伝子は、指令因子である可能性が高い。したがって、上述の実施形態の探索方法によれば、より高精度な指令因子の探索が可能となる。
【0054】
ある特定の生物学的現象を理解する際に、その現象が発露するまでの個々の遺伝子発現の変動を解析することは重要である。一方でより深い理解のために、その生物学的現象が発露するまでに生じるよりミクロな視点での生物学的現象を解析することも重要である。皮下組織リモデリング現象における指令因子の探索においても、当該現象が発露するまでに生じる個々の生物学的現象を特定することが、より高精度な指令因子の探索につながる。
したがって、本発明においても、第1比較工程で同定された遺伝子の機能に基づき、第1共培養工程において発生する生物学的現象を特定する現象特定工程を備える実施形態とすることが好ましい。図4に現象特定工程を備える本発明の実施形態の模式図を示す。
【0055】
生物学的現象の特定は、第1比較工程で同定された、脂肪組織由来幹細胞との共培養によって発現量の変動が見られた遺伝子のエンリッチメント解析によって行うことができる。発現変動遺伝子の中からエンリッチメント解析のために注目すべき遺伝子群を抽出する方法も限定されず、遺伝子発現の変化量を基準として抽出する方法や、共発現ネットワーク解析やタンパク質間の相互作用解析などのネットワーク解析に基づいて抽出する方法などが挙げられる。
このようにして抽出した遺伝子群に基づくエンリッチメント解析の具体的手段としては、公知の方法を制限なく採用することができる。例えば、発現変動遺伝子に予め付与されているアノテーションに基づき機能解析を行うジーンオントロジー(Gene Ontlogy,GO)解析や、発現変動遺伝子群を既知のパスウェイに当てはめ、いずれのパスウェイが活性化・不活性化しているかを解析するパスウェイ解析などを挙げることができる。
このようなエンリッチメント解析を行うことによって、脂肪組織由来幹細胞との共培養によって生じる生物学的現象を特定することができる。
【0056】
図4に基づきより詳細に説明を加える。本実施形態では、第1共培養工程の開始から複数時点における皮下組織について経時的に第1解析工程を行う。次いで、複数時点における第1解析工程のそれぞれの結果について第1比較工程を行う。そして、現象特定工程において、第1共培養工程において発生する生物学的現象を経時的に特定する(図4)。
このような実施形態によれば、脂肪組織由来幹細胞との共培養によって経時的に発生する生物学的現象を特定することができる。すなわち、脂肪組織由来幹細胞と共培養することで、皮下組織内部でどのような生物学的現象が経時的に起こり、最終的に皮下組織リモデリング現象が発露するのかということが理解できる。個々の遺伝子の発現量変動だけでなく、生物学的現象までも経時的に検証することができ、皮下組織リモデリング現象の指令因子の効果的な探索が可能となる。
【0057】
図4に示す実施形態における第1判別工程においては、経時的に複数得られた第1比較工程の結果及び現象特定工程の結果に基づき判別を行う。具体的には、第1共培養工程のより早い段階において発生する生物学的現象に関する遺伝子であり、かつ、第1共培養工程のより早い段階において発現量の変動が見られた遺伝子が、皮下組織リモデリング現象の指令因子である可能性がより高いものとして判別する。
【0058】
例えば、第1共培養工程のより早い段階において「生物学的反応Xの促進」が生じている場合、「生物学的反応Xの促進」というGO termが付された遺伝子のうち第1共培養工程のより早い段階において発現量の向上が観察された遺伝子を指令因子である可能性がより高いものであると判別することができる。
【0059】
また、例えば、第1共培養工程のより早い段階において「生物学的反応Xの促進」が生じている場合、「生物学的反応Xの抑制」というGO termが付された遺伝子のうち第1共培養工程のより早い段階において発現量の低下が観察された遺伝子を指令因子である可能性がより高いものであると判別することもできる。
【0060】
また、例えば、第1共培養工程のより早い段階において「生物学的反応Xの抑制」が生じている場合、「生物学的反応Xの抑制」というGO termが付された遺伝子のうち第1共培養工程のより早い段階において発現量の向上が観察された遺伝子を指令因子である可能性がより高いものであると判別することができる。
【0061】
また、例えば、第1共培養工程のより早い段階において「生物学的反応Xの抑制」が生じている場合、「生物学的反応Xの促進」というGO termが付された遺伝子のうち第1共培養工程のより早い段階において発現量の抑制が観察された遺伝子を指令因子である可能性がより高いものであると判別することもできる。
【0062】
さらに図4に示した実施形態の第1判別工程において、上述の条件の遺伝子のうち、遺伝子制御のより上流に位置するか否かという点も判別の基準に加えてもよい。
つまり、第1共培養工程のより早い段階において発生する前記生物学的現象に関する遺伝子であり、第1共培養工程のより早い段階において発現量の変動が見られた遺伝子であり、かつ、より遺伝子制御の上流に位置する遺伝子が、指令因子である可能性がより高いものとして判別する実施形態としてもよい。
【0063】
本発明は、第1判別工程において、皮下組織リモデリング現象の指令因子の候補を判別する。ここで判別された候補から指令因子をより詳細に絞り込む工程をさらに備えていても構わない。
指令因子を絞り込む工程において採用する手法としては、生化学的手法、細胞生物学的手法、遺伝子工学的手法、動物実験、臨床試験などが挙げられるが、特に限定されない。
【0064】
<2>指令細胞の探索方法
本発明は皮下組織リモデリング現象の指令細胞の探索方法にも関する。本発明は、上述した指令因子の探索方法を実施した結果に基づき、皮下組織リモデリング現象の指令細胞を探索する。本発明の指令細胞の探索方法のフローチャートを図5に示す。
【0065】
本発明は、脂肪組織由来幹細胞と皮下組織を共培養する第2共培養工程を備える(図5)。共培養する脂肪組織由来幹細胞と皮下組織については、上述の「<1>指令因子の探索方法」の項目で説明した事項がそのまま妥当する。
【0066】
なお、指令細胞の探索方法は、上述した指令因子の探索方法の結果に基づく。したがって、指令細胞の探索方法の発明を実施する際には、その前提として実施した指令因子の探索方法において採用した条件(脂肪組織由来幹細胞、皮下組織の種類、培養条件など)と揃えることが好ましい。
【0067】
第2共培養工程における培養時間は特に限定されない。好ましい実施形態では、第2共培養工程における培養時間は、少なくとも上述の指令因子の探索方法において見出した、指令因子の発現変動が観察される時間とする。
【0068】
本発明は、第2共培養工程を経た前記皮下組織を構成する細胞ごとに、発現している遺伝子の発現量解析を行う第2解析工程を備える。本発明の性質上、第2解析工程はゲノムワイドに実施する必要は無い。少なくとも指令因子の探索方法にて指令因子の候補であると判別された遺伝子の発現量変動を観察できればよい。もちろん第2解析工程においてゲノムワイドな網羅的遺伝子発現量解析を実施しても構わない。
【0069】
皮下組織を構成する細胞としては、脂肪細胞、脂肪前駆細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、ペリサイト、血管平滑筋細胞、白血球、マクロファージなどが挙げられる。本発明の指令細胞の探索方法は、これら皮下組織を構成する細胞のいずれにおける指令因子の遺伝子発現変動が、皮下組織リモデリング現象の引き金となっているのか探索することが目的である。
【0070】
第2解析工程の実施態様は、細胞ごと(または細胞の種類ごと)に遺伝子発現量を解析できれば特に限定されない。具体的には、免疫組織化学(immunohistochemistry,IHC);蛍光in-situハイブリダイゼーション(fluorescence in situ Hybridization,FISH)、発色in-situハイブリダイゼーション(Chromogenic in situ Hybridization,CISH)などのin-situハイブリダイゼーション(in-situ Hybridization,ISH);シングルセルRNAシークエンス;またはフローサイトメトリーを使用した手法などが挙げられる。
【0071】
免疫組織化学的手法を採用する場合、指令因子の候補である遺伝子の遺伝子産物であるタンパク質に特異的な抗体を使用して、常法に従って染色する。脂肪組織由来幹細胞と共培養した皮下組織と、共培養していない皮下組織とを同条件で染色し、染色の強さによって遺伝子発現量の変動を観察することができる。
指令因子の候補である遺伝子の発現量の変動がどの細胞(細胞種)で起こってるのか特定するために、特定の細胞種に特異的に発現するマーカーと共に、指令因子の候補であるタンパク質を共染色する形態とすることもできる。
また、細胞形態学的な視点で細胞種を見分け、いずれの細胞種で指令因子の候補である遺伝子の発現量の変動が起こっているのか観察する形態としても構わない。
【0072】
in-situハイブリダイゼーションを採用する場合、指令因子の候補である遺伝子の転写産物であるmRNAに相補的な核酸プローブを使用して、常法に従って染色する。脂肪組織由来幹細胞と共培養した皮下組織と、共培養していない皮下組織とを同条件で染色し、染色の強さによって遺伝子発現量の変動を観察することができる。
指令因子の候補である遺伝子の発現量の変動がどの細胞(細胞種)で起こってるのか特定するために、特定の細胞種に特異的に発現するマーカー遺伝子のmRNAと共に、指令因子の候補である遺伝子のmRNAを共染色する形態とすることもできる。
また、細胞形態学的な視点で細胞種を見分け、いずれの細胞種で指令因子の候補である遺伝子の発現量の変動が起こっているのか観察する形態としても構わない。
【0073】
また、第2解析工程においてはシングルセルPCRを採用してもよい。具体的な実施態様としては、まず第2共培養工程を経た組織を組織解離し、細胞懸濁液を調製する。次いでフローサイトメトリー、マイクロマニピュレーション、マイクロ流路デバイスなどによって単一細胞を単離し、それぞれの細胞からcDNAライブラリーを調製し、定量的PCRによって発現量解析を行う実施形態が挙げられる。
指令因子の候補である遺伝子の発現量の変動がどの細胞(細胞種)で起こってるのか特定するために、特定の細胞種に特異的に発現するマーカー遺伝子を標的としたプライマーセットと、指令因子の候補である遺伝子を標的としたプライマーセットを用いたマルチプレックスPCRを行うことが好ましい。
【0074】
また、フローサイトメトリーを使用した実施形態も挙げられる。具体的には、第2共培養工程を経た組織を組織解離することで細胞懸濁液を調製し、特定の細胞種のマーカーに特異的に結合する抗体と、指令因子の候補である遺伝子産物に特異的に結合する抗体と、を使用して共染色する。染色された細胞をフローサイトメトリーによって分析し、前記特定の細胞種のマーカーが陽性である細胞における指令因子の候補である遺伝子産物のシグナルを測定する。これによって、特定の細胞種における指令因子の候補である遺伝子の発現量変動を観測することができる。
【0075】
本発明は、第2解析工程の結果に基づき、第2共培養工程を経ていない皮下組織と比較して発現量の変動が見られる遺伝子を前記細胞ごとに同定する第2比較工程を備える(図5)。比較の方法は、第2解析工程で具体的に採用した解析手法によって適宜設計することができる。
【0076】
本発明は、第2比較工程の結果に基づき、上記「<1>指令因子の探索方法」の項目で説明した探索方法により、指令因子の候補として判別された遺伝子の変動がみられた細胞を指令細胞の候補として判別する第2判別工程を備える(図5)。
【0077】
なお、指令細胞の候補として判別する細胞は、上述の指令因子の探索方法の第1比較工程でみられた発現量の変動と同方向の発現量変動がみられた細胞に限る。
つまり、上述の指令因子の探索方法の第1比較工程にて発現量の上昇が見られた遺伝子が指令因子の候補である場合、第2比較工程にて指令因子の候補である遺伝子の発現量の上昇がみられた細胞を指令細胞の候補として判別する。
反対に上述の指令因子の探索方法の第1比較工程にて発現量の抑制が見られた遺伝子が指令因子の候補である場合、第2比較工程にて指令因子の候補である遺伝子の発現量の抑制がみられた細胞を指令細胞の候補として判別する。
【0078】
なお、指令細胞の探索方法は、指令因子の探索方法の結果に基づくものであるが、指令因子の探索方法の発明の実施は指令細胞の探索方法の実施に必須ではない。他者が実施した指令因子の探索方法の結果に基づいて、指令細胞の探索方法を実施する形態としてもよい。
【0079】
<3>スクリーニング方法の設計方法
本発明は皮下組織リモデリング現象を惹起する有効成分をスクリーニングする方法を設計する設計方法にも関する。
本発明で設計するスクリーニングする方法は、指標細胞に被験物質を投与し、該被験物質を投与しなかった場合と比較して、指標遺伝子の発現変動が観察された場合に、該被験物質が皮下組織リモデリング現象を惹起する有効成分であると判別する方法である。
【0080】
本発明は上述した指令因子の探索方法により指令因子の候補であると判別された遺伝子から1又は2以上の遺伝子を指標遺伝子として選択する工程を備える。
また、本発明は上述の指令細胞の探索方法により指令細胞の候補であると判別された細胞から1又は2以上の細胞を前記指標細胞として選択する工程を備える。
【0081】
なお、本発明によって設計されるスクリーニング方法において観察する指標遺伝子の発現変動は、上述の指令因子の設計方法における第1比較工程でみられた発現量の変動と同方向の変動である。
【0082】
すなわち、上述の指令因子の探索方法の第1比較工程にて発現量の上昇が見られた遺伝子を指標遺伝子とする場合、被検物質の投与によって当該指標遺伝子の発現量の上昇を引き起こす被験物質が、皮下組織リモデリング現象を惹起する有効であると判別する。
【0083】
反対に上述の指令因子の探索方法の第1比較工程にて発現量の減少が見られた遺伝子を指標遺伝子とする場合、被検物質の投与によって当該指標遺伝子の発現量の減少を引き起こす被験物質が、皮下組織リモデリング現象を惹起する有効であると判別する。
【0084】
当然のことながら、指標遺伝子と指標細胞の選択は、上述した指令因子の探索方法と指令細胞の探索方法の実施の結果に合わせて選択する。すなわち、指令因子の候補である特定の遺伝子の発現変動が、指令細胞の候補である特定の細胞で観察されたとき、これら特定の遺伝子と特定の細胞の組合せを、それぞれ指標遺伝子および指標細胞として選択し得る。
【0085】
<4>スクリーニング方法
本発明は上述の設計方法により設計し得るスクリーニング方法にも関する。
本発明のスクリーニング方法は、上述の指令細胞の探索方法により指令細胞の候補であると判別された細胞から選ばれる指標細胞に被験物質を投与する工程を備える。
【0086】
そして、被験物質を投与しなかった場合と比較して、上述の指令因子の探索方法により指令因子の候補であると判別された遺伝子から選択される指標遺伝子の発現変動が観察された場合に、この被験物質が皮下組織リモデリング現象を惹起する有効成分であると判別する工程を備える。
【0087】
なお、本発明によって設計されるスクリーニング方法において観察する指標遺伝子の発現変動は、上述の指令因子の設計方法における第1比較工程でみられた発現量の変動と同方向の変動である。詳細な説明は、上述の「<3>スクリーニング方法の設計方法」の項目で説明した通りである。
【0088】
指標細胞の培養方法は、その細胞の種類に合わせて適宜設計することができる。
なお、本発明は、単離された指標細胞のみを培養する実施形態に限定されない。皮下組織を組織培養し、投与した被験物質の影響によって、当該皮下組織に含まれる指標細胞における指標遺伝子の発現変動を観察する形態としても構わない。
【0089】
また、被検物質の投与方法は指標細胞の培地への添加によって実施することができる。被験物質の種類は限定されず、低分子化合物、高分子化合物、無機化合物、有機化合物、これらの混合物、植物組織や動物組織など生体由来の抽出物など制限なく適用可能である。
【実施例0090】
<試験例1>皮下組織リモデリング現象を再現する試験系の構築
[1]共培養前の分解コラーゲンの局在及び新生コラーゲンの局在を表す3次元蛍光画像の取得
(1-1)共培養前の分解コラーゲンの染色
市販のヒト皮膚組織から切り出して調製した皮下組織を、CHP(Collagen Hybridizing Peptide)蛍光プローブを培養液(10%FBS含有DMEM/F-12)で希釈した染色液に接触させ、1時間インキュベートし、分解コラーゲンが染色された試料を得た。
(1-2)共培養前の新生コラーゲンの染色
まず、上記(1-1)と同じようにして得た別の皮下組織を、一次抗体(抗I型プロコラーゲン抗体)を、(1-1)で用いた培養液で希釈した染色液に接触させた状態で16時間インキュベートした。その後、PBSで皮下組織を洗浄し、上述の一次抗体に対する蛍光標識二次抗体を(1-1)で用いた培養液で希釈した染色液に接触させ、さらに2時間インキュベートし、新生コラーゲンが染色された試料を得た。
(2)3次元蛍光画像の取得
上記のようにして得た各試料を、それぞれ共焦点蛍光顕微鏡(ニコン社製)を用いて撮影し、「共培養前」における分解コラーゲンの局在及び新生コラーゲンの局在を表す3次元蛍光画像をそれぞれ取得した。
【0091】
[2]共培養後の分解コラーゲンの局在及び新生コラーゲンの局在を表す3次元蛍光画像の取得
(1)脂肪組織由来幹細胞が予め播種された6ウェルプレートに貯留された培養液に、上記[1](1―1)及び[1](1-2)で得た皮下組織をそれぞれ浸潤し、インキュベーター内で培養した。
(2-1)上記[1](1-1)で分解コラーゲンを染色した試料については、3日間培養後、脂肪組織由来幹細胞と共培養した皮下組織における、培養前に分解コラーゲンの局在を表す3次元蛍光画像を取得した部位と同一の部位を対象に、上述の手法にて分解コラーゲンを染色し、上記[1](1-1)と同様の撮影条件にて、「共培養後」の分解コラーゲンの局在を表す3次元蛍光画像を取得した。
(2-2)上記[1](1-2)で新生コラーゲンを染色した試料については、7日間培養後、脂肪組織由来幹細胞と共培養した皮下組織における、培養前に新生コラーゲンの局在を表す3次元蛍光画像を取得した部位と同一の部位を対象に、上述の手法にて新生コラーゲンを染色し、上記[1](1-2)と同様の撮影条件にて、「共培養後」の新生コラーゲンの局在を表す3次元蛍光画像を取得した。
なお本試験系においては、共培養前及び共培養後の両方において染色をしているが、共培養前の染色は3日間又は7日間の培養期間の間に退色するため、共培養後の画像において、共培養前のシグナルの持ち込みはない。
【0092】
共培養前後における分解コラーゲンの局在を表す画像を図6に示し、共培養前後における新生コラーゲンの局在を表す画像を図7に示す。図6及び図7において、左側の図が共培養前の画像であり、右側の図が共培養後(3日後又は7日後)の画像である。
【0093】
図6に示す通り、培養前の皮下組織における分解コラーゲンのシグナル強度と比較して、3日間培養後の皮下組織におけるシグナル強度は強かった。
また図7に示す通り、培養前の皮下組織における新生プロコラーゲンのシグナル強度と比較して、7日間培養後の皮下組織におけるI型プロコラーゲンのシグナル強度は強かった。
また、結果は図示しないが、新生コラーゲンについて定法により遺伝子発現解析をしたところ、1~3日間の培養でも新生コラーゲンの遺伝子発現量がわずかに増えたが、3~7日の培養で顕著に新生コラーゲンの遺伝子発現量が増加することが明らかになった。
以上より、脂肪由来幹細胞と皮下組織を共培養すると、コラーゲンの分解及び新生が順に誘導されることが明らかになった。
以上のことから皮下組織と脂肪組織由来幹細胞を共培養することによって、線維構造の連続的な分解及び新生、すなわち皮下組織リモデリング現象を再現できることが確認できた。
【0094】
<試験例2>指令因子の探索方法
試験例1と同様の手順で皮下組織を調製し、これを脂肪組織由来幹細胞と共培養した。同時に比較対象として脂肪組織由来幹細胞と共培養せずに、皮下組織の培養も行った。
培養の開始から1日後、2日後、3日後および7日後に、脂肪組織由来幹細胞共培養群の皮下組織と、非共培養群の皮下組織を回収した。回収した皮下組織よりmRNAをバルクで抽出し、RNAシークエンスによって網羅的な遺伝子発現量解析を行った。
共培養群と非共培養群の皮下組織の解析結果をそれぞれの回収日ごとに比較し、発現量に変動があった遺伝子を特定した。
発現量に変動があった遺伝子についてGO解析を行った。
【0095】
その結果、ある特定のGO termが付された遺伝子においては、脂肪組織由来幹細胞との共培養によって、培養時間1日~2日の早期の段階で発現増加が観察された。一転して培養時間3日~7日においては、これら遺伝子の発現減少が生じることがわかった。
【0096】
また、別の特定のGO termが付された遺伝子においては、脂肪組織由来幹細胞との共培養によって、培養時間1日という早期の段階で発現減少が見られるものの、7日後には一転して発現増加することがわかった。
【0097】
その他、特定のGO termが付された複数の遺伝子において、脂肪組織由来幹細胞との共培養によって、培養時間の経過に伴った発現増加が観察された。
【0098】
以上のように皮下組織リモデリング現象においては、様々な生物学的反応が経時的にダイナミックに生じていることがわかる。この結果は、皮下組織リモデリング現象の指令因子の探索においては、経時的な発現量変動の観察が重要であることを示している。
【0099】
このように一連の連続的な生物学的反応によって皮下組織リモデリング現象が誘導されていることから、発現変動遺伝子のうち、反応の上流、すなわち、発現変動を示す培養時間が初期(1日~2日)、かつ、遺伝子発現制御データベースから遺伝子制御のより上流に位置する遺伝子を抽出した。
その結果、脂肪組織由来幹細胞との共培養によって、発現量が増加する遺伝子として複数の遺伝子を同定した。
また、脂肪組織由来幹細胞との共培養によって、発現量が減少する遺伝子として複数の遺伝子を同定した。
【0100】
ここで同定した複数の遺伝子は、皮下組織リモデリング現象の指令因子の候補であるといえる。すなわち、以上の結果は、本発明の方法によれば皮下組織リモデリング現象の指令因子の探索が可能であることを示している。
【0101】
<試験例3>指令細胞の探索方法
試験例1及び2と同様の手順で皮下組織を調製し、これを脂肪組織由来幹細胞と共培養した。同時に比較対象として脂肪組織由来幹細胞と共培養せずに、皮下組織の培養も行った。
培養の開始から1日後および2日後に、脂肪組織由来幹細胞共培養群の皮下組織と、非共培養群の皮下組織を回収した。回収した皮下組織を組織解離し、単一細胞を単離し、シングルセルRNAシークエンスを行った。
その結果、試験例2で特定した皮下組織リモデリング現象の指令因子の候補である遺伝子のうち複数の遺伝子の発現量変動が、ある特定の細胞で生じていることが判明した。
【0102】
以上の結果は、本発明の方法によれば皮下組織リモデリング現象の指令細胞の探索が可能であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は皮下組織リモデリング現象の指令因子および指令細胞を探索するためのリサーチツールとして産業上の利用可能性がある。また、本発明は、皮下組織リモデリング現象を惹起する有効のスクリーニング技術の開発に応用できる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7