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特開2023-20962無線装置、無線測距システム、判定方法、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020962
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】無線装置、無線測距システム、判定方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 11/02 20100101AFI20230202BHJP
   G01S 13/74 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
G01S11/02
G01S13/74
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115349
(22)【出願日】2022-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2021124225
(32)【優先日】2021-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【弁理士】
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】植田 真介
(72)【発明者】
【氏名】大村 恒介
(72)【発明者】
【氏名】河地 玄
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 亮太
(72)【発明者】
【氏名】神前 貴弘
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AC02
5J070AH04
5J070AK22
5J070BC02
5J070BC07
(57)【要約】
【課題】2つの無線装置間の距離の測定精度の低下を抑制する技術を提供する。
【解決手段】通信部102は、他の無線装置に接続された場合、他の無線装置との無線通信により、他の無線装置との間の距離を測定するための測定用信号を受信する。測距部140は、通信部102が受信した測定用信号の同相成分と直交成分とをもとに、他の無線装置との間の距離を測定する。判定部190は、通信部102が受信した測定用信号の同相成分と直交成分とをもとに、測距部140における測定の可否を判定する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線装置であって、
他の無線装置に接続された場合、前記他の無線装置との無線通信により、前記他の無線装置との間の距離を測定するための測定用信号を受信する通信部と、
前記通信部が受信した前記測定用信号の同相成分と直交成分とをもとに、前記他の無線装置との間の距離を測定する測距部と、
前記通信部が受信した前記測定用信号の前記同相成分と前記直交成分とをもとに、前記測距部における測定の可否を判定する判定部と、
を備える無線装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記同相成分と前記直交成分が第1の品質を超える場合、前記同相成分と前記直交成分とをもとにした測定が可能と判定し、
前記測距部は、前記判定部において測定が可能と判定された場合、前記同相成分と前記直交成分とをもとに距離を測定し、
前記判定部は、前記同相成分と前記直交成分が前記第1の品質未満である場合、前記同相成分と前記直交成分とをもとにした測定が不可能と判定し、
前記測距部は、前記判定部において測定が不可能と判定された場合、前記同相成分と前記直交成分とをもとに距離を測定しない請求項1に記載の無線装置。
【請求項3】
前記同相成分と前記直交成分を補正する補正部をさらに備え、
前記判定部は、前記同相成分と前記直交成分が第1の品質を超える場合、前記同相成分と前記直交成分とをもとにした測定が可能と判定し、
前記測距部は、前記判定部において測定が可能と判定された場合、前記同相成分と前記直交成分とをもとに距離を測定し、
前記判定部は、前記同相成分と前記直交成分が前記第1の品質未満であり、かつ第2の品質を超える場合、前記同相成分と前記直交成分の補正が必要と判定し、
前記測距部は、前記判定部において補正が必要と判定された場合、前記補正部において補正した前記同相成分と前記直交成分とをもとに距離を測定し、
前記判定部は、前記同相成分と前記直交成分が前記第2の品質未満である場合、前記同相成分と前記直交成分とをもとにした測定が不可能と判定し、
前記測距部は、前記判定部において測定が不可能と判定された場合、前記同相成分と前記直交成分とをもとに距離を測定せず、
前記第1の品質は前記第2の品質よりも高い請求項1に記載の無線装置。
【請求項4】
前記通信部は、複数の周波数チャネルのそれぞれにおいて前記測定用信号を受信し、
前記測距部は、前記通信部が受信した複数の周波数チャネルのそれぞれにおける前記測定用信号の同相成分と直交成分とをもとに、前記他の無線装置との間の距離を測定し、
前記判定部は、複数の周波数チャネルのそれぞれにおける前記測定用信号の前記同相成分と前記直交成分とをもとに品質を特定する請求項1から3のいずれか1項に記載の無線装置。
【請求項5】
前記通信部は、複数の周波数チャネルのそれぞれにおいて前記測定用信号を前記他の無線装置に送信し、
前記判定部は、前記通信部が受信した複数の周波数チャネルのそれぞれにおける前記測定用信号の同相成分と直交成分と、前記他の無線装置が受信した複数の周波数チャネルのそれぞれにおける前記測定用信号の同相成分と直交成分とをもとに品質を特定する請求項4に記載の無線装置。
【請求項6】
前記判定部は、複数の周波数チャネルのそれぞれにおける前記測定用信号の前記同相成分と前記直交成分のチャネル特性をもとに品質を特定する請求項4に記載の無線装置。
【請求項7】
前記測定用信号の前記同相成分と前記直交成分のチャネル特性は、前記同相成分と前記直交成分から導出されるRSSI(Received Signal Strength Indicator)と位相の少なくとも1つを含む請求項6に記載の無線装置。
【請求項8】
前記測定用信号の前記同相成分と前記直交成分のチャネル特性は、複数の周波数チャネルにおける前記同相成分と前記直交成分の自己相関行列を含む請求項6に記載の無線装置。
【請求項9】
前記測定用信号の前記同相成分と前記直交成分のチャネル特性は、前記測距部において測定される距離の中間値を含む請求項6に記載の無線装置。
【請求項10】
請求項1に記載の無線装置と、
他の無線装置と、
を備える無線測距システム。
【請求項11】
無線装置における判定方法であって、
他の無線装置に接続された場合、前記他の無線装置との無線通信により、前記他の無線装置との間の距離を測定するための測定用信号を受信するステップと、
受信した前記測定用信号の同相成分と直交成分とをもとに、前記他の無線装置との間の距離を測定するステップと、
受信した前記測定用信号の前記同相成分と前記直交成分とをもとに、前記測定するステップにおける測定の可否を判定するステップと、
を備える判定方法。
【請求項12】
無線装置におけるプログラムであって、
他の無線装置に接続された場合、前記他の無線装置との無線通信により、前記他の無線装置との間の距離を測定するための測定用信号を受信するステップと、
受信した前記測定用信号の同相成分と直交成分とをもとに、前記他の無線装置との間の距離を測定するステップと、
受信した前記測定用信号の前記同相成分と前記直交成分とをもとに、前記測定するステップにおける測定の可否を判定するステップとをコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、測定技術に関し、特に2つの装置間の距離を測定する無線装置、無線測距システム、判定方法、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
2つの無線装置間の距離を測定するために、2つの無線装置間において無線通信がなされる。例えば、1つ目の無線装置(以下、「第1無線装置」という)から2つ目の無線装置(以下、「第2無線装置」という)にキャリア信号が送信されるとともに、第2無線装置から第1無線装置にもキャリア信号が送信される。第1無線装置における受信結果と、第2無線装置における受信結果とをもとに、第1無線装置と第2無線装置との間の距離が測定される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-155724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
受信結果は同相成分と直交成分とを含み、距離は、同相成分と直交成分とを含む受信結果をもとに推定される。周辺からの妨害波等が存在すると、同相成分と直交成分との少なくとも1つに誤差が含まれる。誤差を含んだ受信結果を使用すると、距離の測定精度が低下する。
【0005】
本開示はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、2つの無線装置間の距離の測定精度の低下を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の無線装置は、無線装置であって、他の無線装置に接続された場合、他の無線装置との無線通信により、他の無線装置との間の距離を測定するための測定用信号を受信する通信部と、通信部が受信した測定用信号の同相成分と直交成分とをもとに、他の無線装置との間の距離を測定する測距部と、通信部が受信した測定用信号の同相成分と直交成分とをもとに、測距部における測定の可否を判定する判定部と、を備える。
【0007】
本開示の別の態様は、判定方法である。この方法は、無線装置における判定方法であって、他の無線装置に接続された場合、他の無線装置との無線通信により、他の無線装置との間の距離を測定するための測定用信号を受信するステップと、受信した測定用信号の同相成分と直交成分とをもとに、他の無線装置との間の距離を測定するステップと、受信した測定用信号の同相成分と直交成分とをもとに、測定するステップにおける測定の可否を判定するステップと、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、2つの無線装置間の距離の測定精度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1に係る無線測距システムの構成を示す図である。
図2図2(a)-(b)は、図1の無線測距システムにおけるスキャナ、タグ、位置推定装置の構成を示す図である。
図3図3(a)-(b)は、図1の無線測距システムにおいて使用される信号のフォーマットを示す図である。
図4図2(a)のスキャナの別の構成を示す図である。
図5図5(a)-(b)は、図1の判定部の構成を示す図である。
図6図6(a)-(c)は、図1の判定部の構成を示す図である。
図7図4のスキャナによる測定手順を示すフローチャートである。
図8図8(a)-(b)は、実施例2に係るタグの構成を示す図である。
図9】実施例3の前提となる測距部の構成を示す図である。
図10図9の生成部の処理概要を示す図である。
図11図11(a)-(b)は、図9のピークサーチ部の処理概要を示す図である。
図12図12(a)-(b)は、実施例3に係る生成部の処理概要を示す図である。
図13】実施例3に係る測距部の構成を示す図である。
図14図13の設定部に保持されるテーブルのデータ構造を示す図である。
図15】変形例1に係る測距部の構成を示す図である。
図16図16(a)-(c)は、変形例1、2に係る設定部の処理概要を示す図である。
図17】変形例3に係る設定部の処理概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施例1)
本開示を具体的に説明する前に、概要を述べる。実施例1は、2つの無線装置間の距離を測定する無線測距システムに関する。無線測距システムに含まれる無線装置は、例えばスキャナとタグである。スキャナは、タグに対して測定用信号を送信する。タグは、測定用信号の受信結果(以下、「第1受信データ」という)を生成する。タグは、スキャナに対して測定用信号と第1受信データとを送信する。スキャナは、測定用信号の受信結果(以下、「第2受信データ」という)を生成する。スキャナは、第1受信データと第2受信データとを平均化して受信データを生成し、受信データをもとにMUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法により距離を測定する。さらに、無線測距システムには、位置が固定されたスキャナが複数含まれており、各スキャナにおいて測定されたタグとの距離をもとに、タグの位置が推定される。
【0012】
受信データは同相成分と直交成分を含んでおり、受信データに含まれた同相成分と直交成分は、周辺からの妨害波等により誤差を含む。同相成分と直交成分に誤差が含まれた受信データを距離の測定に使用すると、距離の測定精度が低下する。本実施例では、受信データに含まれた同相成分と直交成分の誤差が大きい場合に、受信データを破棄したり、補正したりすることによって、同相成分と直交成分の誤差の影響が低減される。
【0013】
ここでは、無線測距システム1000によるタグ200の位置推定の原理を説明してから、無線測距システム1000での処理を説明する。図1は、無線測距システム1000の構成を示す。無線測距システム1000は、スキャナ100と総称される第1スキャナ100aから第4スキャナ100d、タグ200と総称される第1タグ200a、第2タグ200b、位置推定装置300を含む。無線測距システム1000に含まれるスキャナ100の数は「4」に限定されず、タグ200の数は「2」に限定されない。スキャナ100を第1種無線装置と呼ぶ場合、タグ200は第2種無線装置と呼ばれる。
【0014】
各スキャナ100の位置は固定であり、スキャナ100はタグ200との無線通信機能を有する。例えば、第1スキャナ100aと第1タグ200aとの組合せにおいて無線通信がなされることによって、第1スキャナ100aは、第1スキャナ100aと第1タグ200aとの間の距離(以下、「第1距離」という)を測定する。また、第2スキャナ100bと第1タグ200aとの組合せにおいて無線通信がなされることによって、第2スキャナ100bは、第2スキャナ100bと第1タグ200aとの間の距離(以下、「第2距離」という)を測定する。さらに、第3スキャナ100cと第1タグ200aとの組合せにおいて無線通信がなされることによって、第3スキャナ100cは、第3スキャナ100cと第1タグ200aとの間の距離(以下、「第3距離」という)を測定する。各スキャナ100は、有線または無線により位置推定装置300と通信可能であり、測定した距離の情報を位置推定装置300に送信する。
【0015】
位置推定装置300は、各スキャナ100から距離の情報を受信する。また、位置推定装置300は、各スキャナ100が固定された位置情報を記憶する。位置情報は、例えば緯度と経度により示される。位置推定装置300は、第1距離、第2距離、第3距離と、第1スキャナ100aから第3スキャナ100cのそれぞれの位置情報とをもとに、三点測位を実行することによって第1タグ200aの位置を推定する。第2タグ200bに対しても同様の処理が実行される。
【0016】
図2(a)-(b)は、無線測距システム1000におけるスキャナ100、タグ200、位置推定装置300の構成を示す。図2(a)-(b)は、無線測距システム1000におけるスキャナ100、タグ200、位置推定装置300の構成を示す。図2(a)は、スキャナ100、タグ200の構成を示す。スキャナ100は、通信部102、導出部130、測距部140、外部通信部150、制御部160を含み、通信部102は、送信部110、受信部120を含む。タグ200は、通信部202、導出部230を含み、通信部202は、送信部210、受信部220を含む。スキャナ100は距離を測定する処理を実行する装置であり、タグ200は距離の測定対象となる装置である。
【0017】
スキャナ100の送信部110は、タグ200における受信環境の測定に使用すべき第1測定用信号と、第1測定用信号の送信タイミングが示されるトリガ信号とをタグ200に送信する。図3(a)-(b)は、無線測距システム1000において使用される信号のフォーマットを示す。図3(a)は、送信部110から送信される信号のフォーマットを示す。信号の先頭にはトリガ信号が配置される。トリガ信号は予め定められたパターンを有し、これに続いて第1測定用信号が配置されることを示す。第1測定用信号では、互いに異なる複数の周波数「f」、「f」、・・・、「f」の無変調波が時分割多重されている。無変調波の周波数間隔は等間隔である。第1測定用信号では、「f」、「f」、・・・、「fn-1」、「fn+1」、・・・、「f」のように、特定の周波数「f」がはじめから欠落されてもよい。図3(b)は後述するので、図2に戻る。
【0018】
タグ200の受信部220は、トリガ信号と第1測定用信号とをスキャナ100から受信する。受信部220は送信部110と非同期で動作する。受信部220は、トリガ信号を受信することによって、第1測定用信号の受信を認識する。導出部230は、受信部220において受信した第1測定用信号に含まれる複数の周波数の無変調波のそれぞれに対して受信結果を導出する。各受信結果は、受信部220における直交検波の結果であり、かつ同相成分と直交成分とを含む複素データである。複数の周波数のそれぞれに対する受信結果の組合せが、前述の第1受信データに相当する。第1受信データは、トリガ信号が示す送信タイミングにおいてタグ200が第1測定用信号をもとに測定した受信環境を示す。
【0019】
送信部210は、導出部230において導出した第1受信データと、スキャナ100における受信環境の測定に使用すべき第2測定用信号とをスキャナ100に送信する。図3(b)は、送信部210から送信される信号のフォーマットを示す。信号の先頭には第1受信データが配置される。第1受信データに続いて第2測定用信号が配置される。第2測定用信号では、互いに異なる複数の周波数「f」、「f」、・・・、「f」の無変調波が時分割多重されている。無変調波の周波数間隔は等間隔である。図2に戻る。
【0020】
スキャナ100の受信部120は、第1受信データと第2測定用信号とをタグ200から受信する。受信部120は送信部210と非同期で動作する。受信部120は、第1受信データを測距部140に出力する。導出部130は、受信部220において受信した第2測定用信号に含まれる複数の周波数の無変調波のそれぞれに対して受信結果を導出する。各受信結果は、受信部120における直交検波の結果であり、かつ同相成分と直交成分とを含む複素データである。複数の周波数のそれぞれに対する受信結果の組合せが、前述の第2受信データに相当する。第2受信データは、スキャナ100が第2測定用信号をもとに測定した受信環境を示す。導出部130は、第2受信データを測距部140に出力する。
【0021】
測距部140は、導出部において導出した第2受信データと、受信部において受信した第1受信データを受けつける。第1受信データと第2受信データは、前述のごとく、複数の周波数のそれぞれに対応した成分を含み、かつ複素データである。測距部140は、第1受信データと第2受信データとを成分毎に対応づけてから成分毎に平均を計算することによって、第1受信データと第2受信データをもとに受信データを生成する。そのため、受信データも、複数の周波数のそれぞれに対応した成分を有する。前述のごとく、送信部110と受信部220は同期せず、受信部120と送信部210は同期しないので、スキャナ100とタグ200は非同期で動作する。そのため、第1受信データと第2受信データのそれぞれには同期のずれの成分が含まれており、第1受信データと第2受信データは、距離に応じた位相情報を示さない。しかしながら、第1受信データには、スキャナ100に対するタグ200の同期のずれの成分が含まれ、第2受信データには、タグ200に対するスキャナ100の同期のずれの成分が含まれる。第1受信データと第2受信データとを平均化することによって、同期のずれが相殺されるので、距離に応じた位相情報が得られる。
【0022】
測距部140は、受信データをもとに、MUSIC法により、タグ200との間の距離を測定する。受信データに含まれる成分の数をKとすると、時刻tでの受信データX(t)は、次のように示される。
【数1】
(t)、x(t)等は、受信データX(t)に含まれる各成分であり、例えば、x(t)は周波数fに対応した成分を示す。周波数fに対応した成分は、同相成分の状態を示すI(t)と、直交成分の状態を示すQ(t)とを使用すると、次のように示される。
【数2】
ここで、Aは、無変調波の振幅を示す。また、周波数fに対応した成分は、同相成分の状態を示すI(t)と、直交成分の状態を示すQ(t)とを使用すると、次のように示される。
【数3】
【0023】
受信データの相関行列Rxxは、次のように示される。
【数4】
Hは複素共役転置、E[]は時間平均を示す。相関行列Rxxに対する固有値展開は、次のように示される。
【数5】
ここで、eは相関行列Rxxの固有ベクトルを示し、λは固有値を示し、σは雑音電力を示す。
【0024】
距離推定で使用されるモードベクトルa(r)は次のように示される。
【数6】
Tは転置を示す。これらより以下の関係が成り立つ。
【数7】
【0025】
そのため、MUSIC評価関数PMUSICは次のように示される。
【数8】
式(8)において、rを変化させると、MUSIC評価関数PMUSICの値も変化する。MUSIC評価関数PMUSICのピークを検出し、当該ピークに対応するrの値が、測定すべき距離rに相当する。
【0026】
外部通信部150は、有線または無線により図1の位置推定装置300と接続されており、位置推定装置300と通信可能である。外部通信部150は、測距部140において測定した距離の情報を位置推定装置300に送信する。その際、本スキャナ100を識別するための識別情報(以下、「スキャナID」という)と、距離を測定したタグ200を識別するための識別情報(以下、「タグID」という)も送信される。制御部160は、スキャナ100の動作を制御し、制御部260は、タグ200の動作を制御する。
【0027】
図2(b)は、位置推定装置300の構成を示す。位置推定装置300は、距離記憶部310、位置測距部320を含む。距離記憶部310は、各スキャナ100と通信することによって、各スキャナ100から距離の情報を受信する。距離記憶部310は、スキャナID、タグID、距離を対応づけながら記憶する。また、距離記憶部310は、各スキャナ100のスキャナIDと、スキャナ100が固定された位置情報とを対応づけながら記憶する。
【0028】
位置測距部320は、距離記憶部310から、スキャナID、タグID、距離の組合せであって、推定対象の1つのタグIDが含まれた組合せを3つ以上、例えば3つ抽出する。また、位置測距部320は、抽出した組合せに含まれたスキャナIDの位置情報を距離記憶部310から抽出する。さらに、位置測距部320は、抽出した組合せに含まれた距離と、抽出した位置情報をもとに、三点測位を実行する。三点測位の結果が、推定対象のタグ200の位置である。
【0029】
本開示における装置、システム、または方法の主体は、コンピュータを備えている。このコンピュータがプログラムを実行することによって、本開示における装置、システム、または方法の主体の機能が実現される。コンピュータは、プログラムにしたがって動作するプロセッサを主なハードウェア構成として備える。プロセッサは、プログラムを実行することによって機能を実現することができれば、その種類は問わない。プロセッサは、半導体集積回路(IC)、またはLSI(Large Scale Integration)を含む1つまたは複数の電子回路で構成される。複数の電子回路は、1つのチップに集積されてもよいし、複数のチップに設けられてもよい。複数のチップは1つの装置に集約されていてもよいし、複数の装置に備えられていてもよい。プログラムは、コンピュータが読み取り可能なROM、光ディスク、ハードディスクドライブなどの非一時的記録媒体に記録される。プログラムは、記録媒体に予め格納されていてもよいし、インターネット等を含む広域通信網を介して記録媒体に供給されてもよい。
【0030】
以下では、無線測距システム1000における受信データの同相成分と直交成分が妨害波による誤差を含んでいても、距離の測定精度の低下を抑制するための構成を説明する。図4は、スキャナ100の別の構成を示す。スキャナ100では、図2(a)の構成に判定部190、補正部192が追加される。また、図4のスキャナ100は、例えば図2(a)のタグ200と通信する。通信部102は、前述のごとく、タグ200に接続された場合、複数の周波数のそれぞれにおいて第1測定用信号をタグ200に送信するとともに、複数の周波数のそれぞれにおいて第2測定用信号を受信する。複数の周波数は複数の周波数チャネルとも呼ばれる。
【0031】
判定部190は、導出部130において導出された受信結果である第2受信データを導出部130から受けつける。また、判定部190は、タグ200において導出された受信結果である第1受信データを受信部120から受けつける。判定部190は、第1受信データと第2受信データの同相成分と直交成分とをもとに、測距部140における測定の可否を判定する。
【0032】
図5(a)-(b)は、判定部190の構成を示す。図5(a)の判定部190は、IQデータ解析部500、比較部510を含む。IQデータ解析部500は、第1受信データと第2受信データのそれぞれから、同一の周波数に対する同相成分の値と直交成分の値とを抽出する。IQデータ解析部500は、抽出した値の距離を導出する。例えば、IQデータ解析部500は、第1受信データの周波数「f」の同相成分の値と直交成分の値と、第2受信データの周波数「f」の同相成分の値と直交成分の値との距離をベクトル演算により導出する。このような距離は、他の周波数に対しても導出される。
【0033】
比較部510は、IQデータ解析部500において導出した各距離をしきい値と比較し、距離がしきい値よりも大きい周波数を選択する。比較部510は、選択した周波数の合計値を導出する。合計値は受信品質に相当し、合計値が大きくなるほど受信品質が低いことに相当する。受信品質が低いとは、干渉の影響が大きいことを示す。つまり、比較部510は、第1受信データの同相成分と直交成分と、第2受信データの同相成分と直交成分とをもとに品質を特定する。特に、比較部510は、複数の周波数のそれぞれにおける第1受信データと第2受信データでの同相成分と直交成分とをもとに品質を特定する。
【0034】
比較部510は、合計値が第1しきい値未満である場合、第1受信データと第2受信データとをもとにした測定が可能と判定する。「合計値が第1しきい値未満である場合」は、「第1受信データと第2受信データの同相成分と直交成分が第1の品質を超える場合」とも示される。
【0035】
比較部510は、合計値が第1しきい値以上であり、かつ第2しきい値未満である場合、第1受信データと第2受信データとにおける同相成分と直交成分の補正が必要と判定する。ここで、第1しきい値は第2しきい値よりも小さくされる。「合計値が第1しきい値以上であり、かつ第2しきい値未満である場合」は、「第1受信データと第2受信データの同相成分と直交成分が第1の品質未満であり、かつ第2の品質を超える場合」とも示される。また、「第1しきい値は第2しきい値よりも小さい」は、「第1の品質は第2の品質よりも高い」とも示される。
【0036】
比較部510は、合計値が第2しきい値以上である場合、第1受信データと第2受信データとをもとにした測定が不可能と判定する。「合計値が第2しきい値以上である場合」は、「第1受信データと第2受信データの同相成分と直交成分が第2の品質未満である場合」とも示される。図5(b)は後述し、図4に戻る。
【0037】
判定部190は、比較部510において、第1受信データと第2受信データとをもとにした測定が可能と判定した場合、受信部120から受けつけた第1受信データと導出部130から受けつけた第2受信データとをもとにした測定の指示(以下、「第1指示」という)を測距部140に出力する。測距部140は、第1指示を判定部190から受けつけた場合、前述のごとく、受信部120から受けつけた第1受信データと導出部130から受けつけた第2受信データとをもとにタグ200との間の距離を測定する。
【0038】
判定部190は、比較部510において、第1受信データと第2受信データとにおける同相成分と直交成分の補正が必要と判定した場合、第1受信データと第2受信データとを補正部192に出力する。その際、判定部190は、比較部510において選択した周波数の情報も補正部192に出力する。さらに、判定部190は、補正部192からの第1受信データと第2受信データとをもとにした測定の指示(以下、「第2指示」という)を測距部140に出力する。
【0039】
補正部192は、第1受信データと第2受信データとを判定部190から受けつけるとともに、周波数の情報も判定部190から受けつける。周波数の情報では、判定部190において第1受信データと第2受信データとの距離がしきい値より大きい周波数が示される。補正部192は、周波数の情報において示された周波数の同相成分と直交成分とを補正する。例えば、周波数の情報において周波数「f」が示されている場合、判定部190は、第1受信データにおいて、周波数「f」の同相成分と直交成分と、周波数「f」の同相成分と直交成分とを内挿補間することによって、周波数「f」の同相成分と直交成分を導出する。このような処理は、周波数の情報において示されたすべての周波数に対してなされる。周波数の情報において、最も低い周波数「f」、あるいは最も高い周波数「f」が示されている場合、補正部192は、外挿補間により周波数「f」あるいは周波数「f」の同相成分と直交成分を導出する。補正部192は、補正した第1受信データと第2受信データとを測距部140に出力する。
【0040】
測距部140は、第2指示を判定部190から受けつけた場合、補正した第1受信データと第2受信データとを補正部192から受けつける。測距部140は、補正部192から受けつけた第1受信データと第2受信データとをもとにタグ200との間の距離を測定する。測距部140における距離の測定処理はこれまでと同様であるので、ここでは説明を省略する。つまり、測距部140は、判定部190において補正が必要と判定された場合、補正部192において補正した同相成分と直交成分とをもとに距離を測定する。
【0041】
判定部190は、比較部510において、第1受信データと第2受信データとをもとにした測定が不可能と判定した場合、距離の測定を実行しない指示(以下、「第3指示」という)を測距部140に出力する。測距部140は、第3指示を判定部190から受けつけた場合、受信部120から受けつけた第1受信データと導出部130から受けつけた第2受信データとをもとにした測定を実行しない。つまり、測距部140は、判定部190において測定が不可能と判定された場合、同相成分と直交成分とをもとに距離を測定しない。その際、制御部160は、第1測定用信号を送信部110に送信させるとともに、第1受信データと第2測定用信号をタグ200に送信させてもよい。
【0042】
図5(b)は、判定部190の別の構成を示す。判定部190は、IQデータ変換部520、RSSI/位相解析部522、比較部510を含む。IQデータ変換部520は、第1受信データと第2受信データとをもとに受信データを導出する。判定部190は、受信データに含まれる複数の周波数のそれぞれにおける同相成分と直交成分とに対して極座標変換を実行することによって、RSSI(Received Signal Strength Indicator)と位相を導出する。
【0043】
RSSI/位相解析部522は、受信データにおける隣接した周波数のRSSIを比較し、差異がしきい値よりも大きくなる周波数の組合せを選択する。これに続いて、RSSI/位相解析部522は、選択した組合せのうちの2つの組合せに同一の周波数が含まれる場合、当該周波数を選択する。一方、RSSI/位相解析部522は、受信データにおける隣接した周波数の位相を比較し、差異がしきい値よりも大きくなる周波数の組合せを選択する。RSSIの差異に対するしきい値と、位相の差異に対するしきい値は、別の値である。これに続いて、RSSI/位相解析部522は、選択した組合せのうちの2つの組合せに同一の周波数が含まれる場合、当該周波数を選択する。
【0044】
RSSI/位相解析部522は、RSSIから選択した周波数と、位相から選択した周波数のうち、両方に含まれる周波数を最終的に選択する。RSSI/位相解析部522は、RSSIから選択した周波数と、位相から選択した周波数のうち、いずれかに含まれる周波数を最終的に選択してもよい。比較部510は、RSSI/位相解析部522において選択した周波数の合計値を導出する。これに続く処理は、これまでと同一であるので、ここでは説明を省略する。
【0045】
図6(a)-(c)は、判定部190の構成を示す。図6(a)は、判定部190の別の構成を示す。判定部190は、相関行列生成部530、相関行列解析部532、比較部510を含む。相関行列生成部530は、測距部140と同様に、受信データの相関行列Rxxを導出する。相関行列Rxxは、自己相関行列に相当する。相関行列解析部532は、相関行列Rxxに含まれる各要素の値の平均値を導出する。また、相関行列解析部532は、平均値から所定の範囲に含まれない要素を選択し、選択した要素に対応した周波数を特定する。比較部510は、相関行列解析部532において特定した周波数の合計値を導出する。これに続く処理は、これまでと同一であるので、ここでは説明を省略する。これまでの説明において、相関行列生成部530、相関行列解析部532、比較部510は、受信データに対して処理を実行しているが、第1受信データと第2受信データのそれぞれに対して処理を実行してもよい。
【0046】
図6(b)は、判定部190の別の構成を示す。判定部190は、距離演算部540、演算結果解析部542、比較部510を含む。距離演算部540は、第1受信データと第2受信データのそれぞれに対して、測距部140での処理と同様の処理を実行して、MUSIC評価関数PMUSICを導出する。MUSIC評価関数PMUSICは、距離の中間値であるともいえる。図6(c)は、距離演算部540において導出されるMUSIC評価関数PMUSICの一例である。距離演算部540は、強度が最大となるピークを距離「r」として特定する。そのため、距離演算部540は、第1受信データから距離を導出するとともに、第2受信データから距離を導出する。演算結果解析部542は、第1受信データから導出した距離と、第2受信データから導出した距離との差を導出する。
【0047】
比較部510は、演算結果解析部542において導出した距離の差がしきい値未満である場合、第1受信データと第2受信データとをもとにした測定が可能と判定する。比較部510は、演算結果解析部542において導出した距離の差がしきい値以上である場合、第1受信データと第2受信データとをもとにした測定が不可能と判定する。これに続く処理はこれまでと同様であるので、ここでは説明を省略する。前述したRSSI/位相、自己相関行列、距離の中間値は、同相成分と直交成分のチャネル特性ともいえる。
【0048】
以上の構成による無線測距システム1000の動作を説明する。図7は、スキャナ100による測定手順を示すフローチャートである。判定部190は、品質を導出する(S10)。第1の品質未満であり(S12のY)、第2の品質未満である場合(S14のY)、判定部190は受信データの破棄を決定する(S16)。第2の品質未満でない場合(S14のN)、判定部190は補正を決定する(S18)。補正部192は、受信データを補正する。測距部140は、補正した受信データをもとに距離を測定する(S20)。第1の品質未満でない場合(S12のN)、測距部140は、受信データをもとに距離を測定する(S20)。
【0049】
本実施例によれば、同相成分と直交成分とをもとに測距部140における測定の可否を判定するので、品質が悪化する場合に距離の測定を中止できる。また、品質が低下する場合に距離の測定が中止されるので、スキャナ100とタグ200との間の距離の測定精度の低下を抑制できる。また、品質が低下する場合に、同相成分と直交成分を補正してから距離を測定するので、スキャナ100とタグ200との間の距離の測定精度の低下を抑制できる。また、品質が低下する場合に、同相成分と直交成分をそのまま使用して距離を測定するので、スキャナ100とタグ200との間の距離の測定精度の低下を抑制できる。
【0050】
また、複数の周波数のそれぞれにおける測定用信号の同相成分と直交成分とをもとに品質を特定するので、品質の特定精度を向上できる。また、第1受信データと第2受信データを使用して品質を特定するので、品質の特定精度を向上できる。また、同相成分と直交成分のチャネル特性をもとに品質を特定するので、品質の特定精度を向上できる。また、同相成分と直交成分から導出されるRSSIと位相の少なくとも1つをもとに品質を特定するので、品質の特定精度を向上できる。また、複数の周波数チャネルにおける同相成分と直交成分の自己相関行列をもとに品質を特定するので、品質の特定精度を向上できる。また、測距部140において測定される距離の中間値をもとに品質を特定するので、品質の特定精度を向上できる。
【0051】
本開示の一態様の概要は、次の通りである。本開示のある態様の無線装置(100)は、無線装置(100)であって、他の無線装置(200)に接続された場合、他の無線装置(200)との無線通信により、他の無線装置(200)との間の距離を測定するための測定用信号を受信する通信部(102)と、通信部(102)が受信した測定用信号の同相成分と直交成分とをもとに、他の無線装置(200)との間の距離を測定する測距部(140)と、通信部(102)が受信した測定用信号の同相成分と直交成分とをもとに、測距部(140)における測定の可否を判定する判定部(190)と、を備える。
【0052】
判定部(190)は、同相成分と直交成分が第1の品質を超える場合、同相成分と直交成分とをもとにした測定が可能と判定し、測距部(140)は、判定部(190)において測定が可能と判定された場合、同相成分と直交成分とをもとに距離を測定し、判定部(190)は、同相成分と直交成分が第1の品質未満である場合、同相成分と直交成分とをもとにした測定が不可能と判定し、測距部(140)は、判定部(190)において測定が不可能と判定された場合、同相成分と直交成分とをもとに距離を測定しない。
【0053】
同相成分と直交成分を補正する補正部(192)をさらに備えてもよい。判定部(190)は、同相成分と直交成分が第1の品質を超える場合、同相成分と直交成分とをもとにした測定が可能と判定し、測距部(140)は、判定部(190)において測定が可能と判定された場合、同相成分と直交成分とをもとに距離を測定し、判定部(190)は、同相成分と直交成分が第1の品質未満であり、かつ第2の品質を超える場合、同相成分と直交成分の補正が必要と判定し、測距部(140)は、判定部(190)において補正が必要と判定された場合、補正部(192)において補正した同相成分と直交成分とをもとに距離を測定し、判定部(190)は、同相成分と直交成分が第2の品質未満である場合、同相成分と直交成分とをもとにした測定が不可能と判定し、測距部(140)は、判定部(190)において測定が不可能と判定された場合、同相成分と直交成分とをもとに距離を測定せず、第1の品質は第2の品質よりも高い。
【0054】
通信部(102)は、複数の周波数チャネルのそれぞれにおいて測定用信号を受信し、測距部(140)は、通信部(102)が受信した複数の周波数チャネルのそれぞれにおける測定用信号の同相成分と直交成分とをもとに、他の無線装置(200)との間の距離を測定し、判定部(190)は、複数の周波数チャネルのそれぞれにおける測定用信号の同相成分と直交成分とをもとに品質を特定してもよい。
【0055】
通信部(102)は、複数の周波数チャネルのそれぞれにおいて測定用信号を他の無線装置(200)に送信し、判定部(190)は、通信部(102)が受信した複数の周波数チャネルのそれぞれにおける測定用信号の同相成分と直交成分と、他の無線装置(200)が受信した複数の周波数チャネルのそれぞれにおける測定用信号の同相成分と直交成分とをもとに品質を特定してもよい。
【0056】
判定部(190)は、複数の周波数チャネルのそれぞれにおける測定用信号の同相成分と直交成分のチャネル特性をもとに品質を特定してもよい。
【0057】
測定用信号の同相成分と直交成分のチャネル特性は、同相成分と直交成分から導出されるRSSI(Received Signal Strength Indicator)と位相の少なくとも1つを含んでもよい。
【0058】
測定用信号の同相成分と直交成分のチャネル特性は、複数の周波数チャネルにおける同相成分と直交成分の自己相関行列を含んでもよい。
【0059】
測定用信号の同相成分と直交成分のチャネル特性は、測距部(140)において測定される距離の中間値を含んでもよい。
【0060】
本開示の別の態様は、判定方法である。この方法は、無線装置(100)における判定方法であって、他の無線装置(200)に接続された場合、他の無線装置(200)との無線通信により、他の無線装置(200)との間の距離を測定するための測定用信号を受信するステップと、受信した測定用信号の同相成分と直交成分とをもとに、他の無線装置(200)との間の距離を測定するステップと、受信した測定用信号の同相成分と直交成分とをもとに、測定するステップにおける測定の可否を判定するステップと、を備える。
【0061】
(実施例2)
次に実施例2を説明する。実施例2は、実施例1と同様の無線測距システム1000に関する。実施例1におけるスキャナ100は、第1受信データと第2受信データの同相成分と直交成分の品質をもとに、第1受信データと第2受信データを距離の測定に使用するか、第1受信データと第2受信データを補正してから距離の測定に使用するか、第1受信データと第2受信データを破棄するかを決定する。実施例2では、干渉等の影響に応じて第2測定用信号を送信するか否かを決定する。また、干渉等の影響に応じて第2測定用信号を送信する周波数が決定されてもよい。実施例2に係る無線測距システム1000は、図1と同様のタイプである。ここでは、実施例1との差異を中心に説明する。
【0062】
図8(a)-(b)は、タグ200の構成を示す。図8(a)のタグ200では、図2(a)の構成にセンシング部280、測定用信号送信制御部282、測定用信号生成部284が追加される。センシング部280は、第2測定用信号を送信可能な周波数帯域、つまり複数の周波数をセンシングする。センシング部280は、センシングの結果を測定用信号送信制御部282に出力する。測定用信号送信制御部282は、センシング部280におけるセンシングの結果、例えば受信電力を周波数帯域にわたって積算する。積算値がしきい値未満であれば、測定用信号送信制御部282は第2測定用信号の送信を決定する。一方、積算値がしきい値以上であれば、測定用信号送信制御部282は第2測定用信号を送信しないことを決定する。測定用信号送信制御部282が第2測定用信号の送信を決定すると、測定用信号生成部284は第2測定用信号を送信部210(図2(a))に出力する。
【0063】
図8(b)は、タグ200の別の構成を示す。図8(b)のタグ200では、図2(a)の構成にセンシング部280、測定用信号送信制御部282、測定用信号生成部284、チャネル幅調節部286が追加される。チャネル幅調節部286は、センシング部280においてセンシングを実行すべき周波数帯域幅を調節する。例えば、第2測定用信号を送信可能な周波数帯域よりも広くなるようにセンシングのための周波数帯域を設定する。センシング部280、測定用信号送信制御部282、測定用信号生成部284は、図8(a)と同様の処理を実行する。
【0064】
図8(a)-(b)において、センシング部280が周波数毎の受信電力を測定する場合、受信電力がしきい値よりも大きい周波数を除いた他の周波数から第2測定用信号が送信されてもよい。また、図8(a)-(b)の構成がスキャナ100に含まれてもよい。その際、干渉等の影響に応じて第1測定用信号を送信するか否かが決定される。また、干渉等の影響に応じて第1測定用信号を送信する周波数が決定されてもよい。
【0065】
本実施例によれば、測定用信号を送信する前に判定するので、無駄な通信の発生を防止できる。また、送信した場合でも品質の高い同相成分と直交成分とにより距離を測定できる。また、センシングの周波数帯域を広くするので、判定を高速化できる。
【0066】
(実施例3)
次に実施例3を説明する。実施例3は、これまでと同様の無線測距システム1000に関する。前述のごとく、MUSIC法を使用して測距を実行する場合、マルチパスの影響が増加すると測距精度が悪化する。そのため、測距精度を向上させるために、MUSIC法においてマルチパスの影響の増加を抑制することが求められる。本実施例においては、部分的な相関行列を生成し、それらを合成するので、特異値の影響が小さくなる。実施例3に係る無線測距システム1000は図1図2(a)-(b)と同様のタイプである。ここでは、これまでとの差異を中心に説明する。
【0067】
図9は、実施例3の前提となる測距部140の構成を示す。測距部140は、補間部600、合成部602、変換部604、位相アンラップ部606、記憶部608、補正部610、生成部612、スムージング部614、固有値展開部616、波数推定部618、ピークサーチ部620を含む。
【0068】
補間部600は、第1受信データに含まれる複数の成分において、欠落した成分が存在するか否かを確認する。いずれかの成分が欠落する場合、補間部600は、第1受信データにおいて、欠落した成分とは異なる成分をもとに、欠落した成分を補間する。欠落する場合とは、同相成分の値と直交成分の値とがいずれも所定値よりも小さい場合である。例えば、周波数fに対応した成分に対応する成分が欠落する場合、補間部600は、周波数fに対応した成分と、周波数fに対応した成分との内挿補間により、周波数fに対応した成分を生成する。
【0069】
補間部600は、第2受信データに含まれる複数の成分において、欠落した成分が存在するか否かを確認する。いずれかの成分が欠落する場合、補間部600は、第2受信データにおいて、欠落した成分とは異なる成分をもとに、欠落した成分を補間する。この補間は前述の通りなされる。補間部600は、すべての成分が欠落していない場合、補間処理をスキップする。
【0070】
合成部602は、合成部602から第1受信データと第2受信データとを受けつける。合成部602は、第1受信データと第2受信データとを成分毎に対応づけてから成分毎に平均を計算することによって、第1受信データと第2受信データをもとに受信データを生成する。そのため、受信データも、複数の周波数のそれぞれに対応した成分を有する。
【0071】
前述のごとく、送信部110と受信部220は同期せず、受信部120と送信部210は同期しないので、スキャナ100とタグ200は非同期で動作する。そのため、第1受信データと第2受信データのそれぞれには同期のずれの成分が含まれており、第1受信データと第2受信データは、距離に応じた位相情報を示さない。しかしながら、第1受信データには、スキャナ100に対するタグ200の同期のずれの成分が含まれ、第2受信データには、タグ200に対するスキャナ100の同期のずれの成分が含まれる。第1受信データと第2受信データとを平均化することによって、同期のずれが相殺されるので、距離に応じた位相情報が得られる。
【0072】
変換部604は、受信データに含まれる複数の成分のそれぞれを、複素データから位相データに変換する。複素データから位相データへの変換にはテーブルが使用される。変換部604は、位相データに変換した受信データ(以下、これもまた「受信データ」という)を位相アンラップ部606に出力する。位相アンラップ部606は、位相データの受信データに対して位相アンラップ処理を実行する。
【0073】
記憶部608は、情報を記憶するための装置である。記憶部608は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、EEPROM等である。記憶部608は、既知の距離における受信データを参照データとして記憶する。例えば、スキャナ100とタグ200とを接触させ、スキャナ100とタグ200との距離をゼロとした場合における受信データが参照データである。参照データも複数の周波数のそれぞれに対応した成分を有する。補正部610は、記憶部608に記憶した参照データをもとに受信データを補正する。補正は、複数の成分のそれぞれに対してなされる。
【0074】
生成部612は、補正部610から受信データを受けつける。生成部612は、受信データに含まれる複数の成分のうちの一部の成分をもとに複数種類の部分相関行列を生成する。その際、複数種類の部分相関行列は、互いに異なった一部の成分を使用する。図10は、生成部612の処理概要を示す図である。受信データには、周波数「f」、「f」、・・・、「f」で示される8つの成分が含まれる。生成部612は、周波数「f」、「f」、「f」、「f」で示される4つの成分をもとに第1部分相関行列を生成し、周波数「f」、「f」、「f」、「f」で示される4つの成分をもとに第2部分相関行列を生成する。生成部612は、周波数「f」、「f」、「f」、「f」で示される4つの成分をもとに第3部分相関行列を生成し、周波数「f」、「f」、「f」、「f」で示される4つの成分をもとに第4部分相関行列を生成する。生成部612は、周波数「f」、「f」、「f」、「f」で示される4つの成分をもとに第5部分相関行列を生成する。図9に戻る。
【0075】
スムージング部614は、複数種類の部分相関行列を要素毎に対応づけ、要素毎の平均値を導出する。スムージング部614は、平均値を各要素とする相関行列を生成する。このような処理によって、部分相関行列の要素に特異値が含まれていても、平均化により特異値の影響が低減される。
【0076】
固有値展開部616は、スムージング部614において生成した相関行列に対して固有値展開を実行する。固有値展開の結果は式(5)のように示される。波数推定部618は、固有値展開部616において固有値展開した固有値をもとに到来波数Lを推定する。例えば、波数推定部618は、固有値展開して取得した複数の固有値のうち、しきい値以上の固有値を特定する。また、波数推定部618は、しきい値以上の固有値の数を到来波数Lとして決定する。これは、成分の数Kから到来波数Lを減算した結果は、雑音固有ベクトルの個数に相当する。
【0077】
ピークサーチ部620は、式(8)に示されるMUSIC評価関数PMUSICにおけるピークを検出する。その際、ピークサーチ部620は、2段階に分けてピークサーチを実行する。図11(a)-(b)は、ピークサーチ部620の処理概要を示す。図11(a)は、ピークサーチ部620における1段階目のピークサーチの概要を示す。ピークサーチ部620は、1段階目において、MUSIC評価関数PMUSICにおける距離rの変化範囲を第1範囲「A1」に設定し、距離rの変化間隔を第1間隔「B1」に設定する。ピークサーチ部620は、相関行列の固有値と到来波数とをもとに、第1範囲「A1」において第1間隔「B1」毎に、式(8)に示されるMUSIC評価関数PMUSICを第1評価関数として導出する。図11(a)では、横軸が距離rを示し、かつ縦軸が第1評価関数を示しており、距離に対する第1評価関数の変化が示される。ピークサーチ部620は、第1の仮ピークP1と第2の仮ピークP2を検出する。その際、ピークサーチ部620は、第1の仮ピークP1となる距離と第2の仮ピークP2となる距離も特定する。
【0078】
図11(b)は、ピークサーチ部620における2段階目のピークサーチの概要を示す。ピークサーチ部620は、第1の仮ピークP1前後のスペクトルを生成し、その大小を比較することによって、第1の仮ピークP1となる距離を含む第2範囲「A2」を設定する。第2範囲「A2」は、第1範囲「A1」よりも狭くされる。また、ピークサーチ部620は、第1間隔「B1」よりも狭い第2間隔「B2」を設定する。ピークサーチ部620は、相関行列の固有値と到来波数とをもとに、第1の仮ピークP1を含む第2範囲「A2」において第1間隔「B2」毎に、式(8)に示されるMUSIC評価関数PMUSICを第2評価関数として導出する。図11(b)では、横軸が距離rを示し、かつ縦軸が第2評価関数を示しており、距離に対する第2評価関数の変化が示される。
【0079】
ピークサーチ部620は、第2の仮ピークP2前後のスペクトルを生成し、その大小を比較することによって、第2の仮ピークP2となる距離を含む第2範囲「A2」を設定する。ピークサーチ部620は、相関行列の固有値と到来波数とをもとに、第2の仮ピークP2を含む第2範囲「A2」において第1間隔「B2」毎に、式(8)に示されるMUSIC評価関数PMUSICを第2評価関数として導出する。ピークサーチ部620は、第2評価関数のピークに対する距離を、スキャナ100とタグ200との間の距離として特定する。
【0080】
これまでの測距部140における生成部612は、部分相関行列を生成する。部分相関行列のサイズは共通である。部分相関行列のサイズを大きくすると、分離可能なマルチパスの数を大きくできるが、部分相関行列の数が少なくなることによって、MUSIC評価関数PMUSICにより示されるMUSICスペクトルのSNR(Signal to Noise Ratio)が低下する。一方、部分相関行列のサイズを大きくすると、分離可能なマルチパスの数が小さくなるが、部分相関行列の数が多くなることによって、MUSICスペクトルのSNRが増加する。そのため、部分相関行列のサイズは、分離すべきマルチパスの数と、MUSICスペクトルのSNRとのトレードオフで決定されるべきである。分離すべきマルチパスの数は受信環境によって変わるので、受信環境に応じて部分相関行列のサイズが決められることが望ましい。
【0081】
図12(a)-(b)は、生成部612の処理概要を示す。これらは、図10と同様に示されるが、受信データには、周波数「f」、「f」、・・・、「f12」で示される12の成分が含まれる。生成部612は、図12(a)のように4行×4列のサイズを有する部分相関行列を「9」つ生成する。「9」つの部分相関行列は、第1部分相関行列から第9部分相関行列と示される。例えば、これまでと同様に、周波数「f」、「f」、「f」、「f」で示される4つの成分をもとに第1部分相関行列が生成される。
【0082】
ここでは、一例として、第1受信データ、第2受信データ、受信データの少なくとも1つにおいて、周波数「f」の成分が欠落する場合を想定する。欠落するとは、受信できていない場合、受信した信号の品質が一定の基準を満たさない場合、干渉の影響が所定の値よりも大きい場合等に相当する。このような状況の特定には公知の技術が使用されればよいので、ここでは説明を省略する。周波数「f」の成分が欠落することによって、第2部分相関行列から第5部分相関行列の4つの部分相関行列が影響を受ける。影響を受ける4つの部分相関行列を除外すると、生成部612における部分相関行列の数が「5」に減少する。
【0083】
図12(b)では、生成部612によって、3行×3列のサイズを有する部分相関行列を「10」生成する。「10」の部分相関行列は、第1部分相関行列から第10部分相関行列と示される。例えば、周波数「f」、「f」、「f」で示される3つの成分をもとに第1部分相関行列が生成される。図12(a)と同様に周波数「f」の成分が欠落する場合、第3部分相関行列から第5部分相関行列の3つの部分相関行列が影響を受ける。影響を受ける3つの部分相関行列を除外すると、生成部612における部分相関行列の数が「7」に減少する。
【0084】
図12(a)と図12(b)とを比較すると、一部の周波数の成分が欠落する場合、部分相関行列のサイズが小さいほど、欠落の影響が小さくなる。そのため、周波数の成分の欠落の状況に応じて、部分相関行列のサイズを変更することが望ましいといえる。
【0085】
図13は、実施例3に係る測距部140の構成を示す。測距部140は、図9と比較して、補間部600を含まず、破棄判定部630、設定部632を含む。合成部602は、合成部602から第1受信データと第2受信データとを受けつける。本実施例に係る合成部602は、補間部600における補間がなされていない。合成部602は、第1受信データと第2受信データとを成分毎に対応づけてから成分毎に平均を計算することによって、第1受信データと第2受信データをもとに受信データを生成する。そのため、受信データも、複数の周波数のそれぞれに対応した成分を有する。
【0086】
破棄判定部630は、合成部602からの受信データに含まれた複数の周波数の成分のそれぞれの品質を計測する。破棄判定部630は、品質が一定の基準を満たさない周波数の成分が存在する場合、当該周波数の成分を欠落していると判定し破棄する。その際、破棄判定部630から変換部604に出力される受信データには、当該周波数の成分が含まれない。一方、すべての周波数の成分が一定の基準を満たす場合、破棄判定部630は、合成部602からの受信データをそのまま変換部604に出力する。変換部604、位相アンラップ部606、補正部610は、破棄判定部630からの受信データに対して、これまでと同様の処理を実行する。
【0087】
設定部632は、破棄判定部630において成分が破棄された周波数(以下、「破棄周波数」という)の情報を取得する。図14は、設定部632に保持されるテーブルのデータ構造を示す。破棄周波数と部分相関行列サイズとの対応関係が示される。破棄周波数は、例えば、「C1」、「C2」等のように示される。「C1」等は、1つの周波数を示してもよく、複数の周波数を示してもよい。部分相関行列サイズは、X行×X列のように示される。例えば、破棄周波数の数が多くなると、部分相関行列のサイズが小さくされる。図13に戻る。設定部632は、図14のテーブルを参照し、取得した破棄周波数の情報から、部分相関行列サイズを取得する。設定部632は、取得した部分相関行列サイズを生成部612に設定する。
【0088】
生成部612は、設定部632により部分相関行列のサイズが設定される。生成部612は、設定された部分相関行列のサイズにより、補正部610から受けつけた受信データから複数種類の部分相関行列を生成する。部分相関行列のサイズのサイズを変更することにより、生成部612において生成される部分相関行列の数が変更される。生成部612は、破棄判定部630において破棄された周波数を含む部分相関行列を生成しない。スムージング部614、固有値展開部616、波数推定部618、ピークサーチ部620は、生成部612からの部分相関行列に対して、これまでと同様の処理を実行する。
【0089】
(変形例1)
図15は、測距部140の構成を示す。測距部140は、設定部632の配置が異なる。ここでは、(1)初期設定処理、(2)通常処理の順に説明する。初期設定処理とは、部分相関行列のサイズを決定するための処理である。通常処理とは、サイズが決定された部分相関行列を使用して、スキャナ100とタグ200との間の距離を測定するための処理である。
【0090】
(1)初期設定処理
合成部602はこれまでと同様の処理を実行する。破棄判定部630の処理は省略されるので、合成部602からの受信データは変換部604に入力される。変換部604、位相アンラップ部606、補正部610は、合成部602からの受信データに対して、これまでと同様の処理を実行する。生成部612は、部分相関行列の代わりに相関行列を生成する。受信データに、周波数「f」、「f」、・・・、「f12」で示される12の成分が含まれる場合、生成部612は、これらすべての成分をもとに相関行列を生成する。スムージング部614の処理は省略されるので、生成部612からの相関行列は固有値展開部616に入力される。固有値展開部616、波数推定部618、ピークサーチ部620は、生成部612からの相関行列に対して、これまでと同様の処理を実行する。
【0091】
設定部632は、部分相関行列サイズを決定し、決定した部分相関行列のサイズを生成部612に設定する。例えば、設定部632は、固有値展開部616から固有値展開の結果を受けつける。図16(a)-(c)は、変形例1に係る設定部の処理概要を示し、特に図16(a)は、設定部632が受けつける固有値展開の結果の一例を示す。固有値展開の結果には、複数の固有値が含まれる。図16(a)では、各固有値に付与された固有値番号が横軸に示され、各固有値そのものが縦軸に示される。また、設定部632は、固有値に対するしきい値を予め設定し、しきい値以上の固有値を特定する。設定部632は、しきい値以上の固有値の数を到来波数として決定する。設定部632は、到来波数と部分相関行列サイズとの対応関係を予め保持し、当該対応関係を参照して、決定した到来波数に対応した部分相関行列サイズを取得する。対応関係では、例えば、到来波数が多くなるほど、部分相関行列サイズが大きくなる関係が示される。
【0092】
設定部632は、ピークサーチ部620からピークサーチの結果を受けつけてもよい。図16(b)は、設定部632が受けつけるピークサーチの結果を示す。設定部632は、ピークサーチの結果から、ピークの数を特定する。ここでは、例えば、ピークP10、ピークP11、ピークP12の「3」を特定する。設定部632は、ピークの数と部分相関行列サイズとの対応関係を予め保持し、当該対応関係を参照して、特定したピークの数に対応した部分相関行列サイズを取得する。対応関係では、例えば、ピークの数が多くなるほど、部分相関行列サイズが大きくなる関係が示される。
【0093】
(2)通常処理
生成部612における部分相関行列のサイズが決定された後、合成部602、破棄判定部630、変換部604、位相アンラップ部606、補正部610、生成部612、スムージング部614、固有値展開部616、波数推定部618、ピークサーチ部620はこれまでと同様の処理を実行する。その際、生成部612は、設定部632により設定されたサイズの部分相関行列を生成する。
【0094】
(変形例2)
設定部632は、合成部602から受信データを受けつけてもよい。図16(c)は、設定部632が受けつける受信データを示す。横軸が周波数(f)を示し、縦軸がRSSIを示す。設定部632は、受信データから、ノッチの数を特定する。ここでは、例えば、ノッチN10、ノッチN11、ノッチN12の「3」を特定する。設定部632は、ノッチの数と部分相関行列サイズとの対応関係を予め保持し、当該対応関係を参照して、特定したノッチの数に対応した部分相関行列サイズを取得する。対応関係では、例えば、ノッチの数が多くなるほど、部分相関行列サイズが大きくなる関係が示される。生成部612は、設定部632により設定された部分相関行列のサイズをもとに部分相関行列を生成する。
【0095】
(変形例3)
変形例3に係る測距部140は、図13と同様のタイプであるが、設定部632は、破棄判定部630から破棄周波数の情報を取得しない。設定部632は、複数種類のサイズを生成部612に設定する。そのため、生成部612は、各サイズの部分相関行列を生成する。スムージング部614からピークサーチ部620は、前述の処理をサイズ毎に実行する。その結果、破棄判定部630は、MUSIC評価関数PMUSICをサイズ毎に導出する。図17は、設定部632の処理概要を示す。F1からF3は、互いに異なったサイズの部分相関行列から導出されたMUSIC評価関数PMUSICを示す。ピークサーチ部620は、これらのMUSIC評価関数PMUSICをもとに距離を導出する。
【0096】
例えば、ピークサーチ部620は、各MUSIC評価関数PMUSICにおけるピークの急峻さを導出し、最も急峻なピークを有するMUSIC評価関数PMUSICを選択する。ピークサーチ部620は、選択したMUSIC評価関数PMUSICをもとに距離を導出する。ピークの急峻さは、ピークとその前の点との傾きと、ピークとその後の点との傾きとをもとに導出される。また、ピークを頂点とする凸形状の半値幅よりピークの急峻さが導出されてもよい。
【0097】
また、ピークサーチ部620は、各MUSIC評価関数PMUSICを合成し、合成したMUSIC評価関数PMUSICをもとに距離を導出してもよい。さらに、ピークサーチ部620は、各MUSIC評価関数PMUSICから距離を導出し、複数導出された距離を平均することによって、最終的な距離を導出してもよい。
【0098】
本実施例によれば、受信データに含まれる複数の成分のうちの一部の成分をもとに複数種類の部分相関行列を生成してから、複数種類の部分相関行列をもとに相関行列を生成するので、ノイズの影響を低減できる。また、ノイズの影響が低減されるので、距離の推定精度を向上できる。また、複数種類の部分相関行列をもとに相関行列を生成するので、マルチパスにより発生する相関行列の特異点をスムージングにより抑制し、推定の精度を向上できる。
【0099】
また、受信環境に応じて部分相関行列サイズを調節するので、測距精度を向上できる。また、使用できない周波数がある場合に、部分相関行列のサイズを調節するので、測距精度を向上できる。また、到来波数に応じて部分相関行列サイズを設定するので、測距精度を向上できる。また、評価関数の波形に応じて部分相関行列サイズを設定するので、測距精度を向上できる。
【0100】
以上、本開示を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素あるいは各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0101】
実施例1において比較部510は、第1しきい値と第2しきい値とを設定している。しかしながらこれに限らず例えば、比較部510は、1つのしきい値のみを設定してもよい。比較部510は、合計値がしきい値未満である場合、第1受信データと第2受信データとをもとにした測定が可能と判定する。「合計値がしきい値未満である場合」は、「第1受信データと第2受信データの同相成分と直交成分が第1の品質を超える場合」とも示される。比較部510は、合計値がしきい値以上である場合、第1受信データと第2受信データとをもとにした測定が不可能と判定する。「合計値がしきい値以上である場合」は、「第1受信データと第2受信データの同相成分と直交成分が第1の品質未満である場合」とも示される。本変形例によれば、構成の自由度を向上できる。
【符号の説明】
【0102】
100 スキャナ(無線装置)、 102 通信部、 110 送信部、 120 受信部、 130 導出部、 140 測距部、 150 外部通信部、 160 制御部、 190 判定部、 192 補正部、 200 タグ(他の無線装置)、 202 通信部、 210 送信部、 220 受信部、 230 導出部、 260 制御部、 280 センシング部、 282 測定用信号送信制御部、 284 測定用信号生成部、 286 チャネル幅調節部、 300 位置推定装置、 310 距離記憶部、 320 位置測距部、 500 IQデータ解析部、 510 比較部、 520 IQデータ変換部、 522 RSSI/位相解析部、 530 相関行列生成部、 532 相関行列解析部、 540 距離演算部、 542 演算結果解析部、 1000 無線測距システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図17