(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000210
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】土質安定用薬液、土質安定用薬液の製造方法及び地盤安定化工法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/06 20060101AFI20221222BHJP
C09K 17/08 20060101ALI20221222BHJP
C09K 17/10 20060101ALI20221222BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
C09K17/06 P
C09K17/08 P
C09K17/10 P
E02D3/12 101
E02D3/12 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100902
(22)【出願日】2021-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】513026399
【氏名又は名称】三菱ケミカルインフラテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】瀬谷 昌明
【テーマコード(参考)】
2D040
4H026
【Fターム(参考)】
2D040AB01
2D040AB03
2D040CA01
2D040CA03
2D040CA10
2D040CB03
2D040CC01
4H026CA04
4H026CC05
(57)【要約】
【課題】ゲルタイムを長くした場合でもブリージング量が少なく、短時間で自立することが可能な土質安定用薬液、該土質安定用薬液の製造方法及び地盤安定化工法を提供する。
【解決手段】水硬性セメント、無機アルカリ金属炭酸塩及び水を含む主材液と、ベントナイト、アルミナセメント及び水を含む硬化材液と、前記主材液および前記硬化材液の少なくとも一つに石膏を含む土質安定用薬液。前記主材液と、前記硬化材液とを混合する工程を含む土質安定用薬液の製造方法。前記土質安定用薬液を地盤に注入する地盤安定化工法。前記土質安定剤の主材液、硬化材液を地盤内で混合する地盤安定化工法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性セメント、無機アルカリ金属炭酸塩及び水を含む主材液と、ベントナイト、アルミナセメント及び水を含む硬化材液とを含み、前記主材液および前記硬化材液の少なくとも一つに石膏を含む土質安定用薬液。
【請求項2】
水硬性セメント、無機アルカリ金属炭酸塩及び水を含む主材液と、ベントナイト、アルミナセメント及び水を含む硬化材液とを混合する工程を含む土質安定用薬液の製造方法であって、前記主材液および前記硬化材液の少なくとも一つに石膏を含む土質安定用薬液の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の土質安定用薬液を地盤に注入する地盤安定化工法。
【請求項4】
水硬性セメント、無機アルカリ金属炭酸塩及び水を含む主材液と、ベントナイト、アルミナセメント及び水を含む硬化材液とを地盤内で混合する地盤安定化工法であって、前記主材液および前記硬化材液の少なくとも一つに石膏を含む地盤安定化工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土質安定用薬液、土質安定用薬液の製造方法及び地盤安定化工法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤の空隙等に注入して地盤を補強するために使用する土質安定用薬液として、セメントを水に懸濁させたセメント懸濁液が用いられているが、セメント懸濁液は凝結速度が遅く、凝結するまでに数時間を要する。また、凝結するまでの間にセメント懸濁液中のセメントが沈降してしまい、全容を硬化させることができなくなる。
【0003】
セメント懸濁液を地盤に注入して土質安定用薬液として用いる場合、地盤に注入する前、及び、所定の場所にセメント懸濁液を移送するまではセメント懸濁液の流動性が確保され、所定の場所に移送後に自立するレベルで流動性がなくなることが求められる。
【0004】
そこで最近では、セメント懸濁液の硬化速度を向上させる硬化材液と主材液とを混ぜて作製する土質安定用薬液が用いられるようになっている。
特許文献1には、アルミナセメント以外の水硬性セメント、石灰及び水を含む主材液と、アルミナセメント、無機炭酸塩、ベントナイト等を含む硬化材液とを混合して土質安定用薬液を製造することが記載されている。特許文献1に記載された土質安定用薬液は、主材液と硬化材液とを混合してから硬化するまでの時間(以下、「ゲルタイム」という。)を10秒以内と短くすることが可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ゲルタイムが短く、瞬結性に優れることは、作業効率向上の観点から望ましい一方で、土質安定用薬液の製造場所から、地盤安定化の対象となる場所までの距離が長い場合など、用途によってはゲルタイムが短すぎることで不都合が生じる場合がある。
【0007】
しかし、特許文献1の土質安定用薬液では、ゲルタイムを10秒より長くするために、石灰量を減らす等の変更を行った場合、混合後の液のブリージング量が多くなってしまうという問題点があった。
【0008】
本発明は、ゲルタイムを長くした場合でもブリージング量が少なく、短時間で自立することが可能な土質安定用薬液、該土質安定用薬液の製造方法及び地盤安定化工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の[1]~[4]を要旨とする。
【0010】
[1]水硬性セメント、無機アルカリ金属炭酸塩及び水を含む主材液と、ベントナイト、アルミナセメント及び水を含む硬化材液とを含み、前記主材液および前記硬化材液の少なくとも一つに石膏を含む土質安定用薬液。
[2]水硬性セメント、無機アルカリ金属炭酸塩及び水を含む主材液と、ベントナイト、アルミナセメント及び水を含む硬化材液とを混合する工程を含む土質安定用薬液の製造方法であって、前記主材液および前記硬化材液の少なくとも一つに石膏を含む土質安定用薬液の製造方法。
[3][1]に記載の土質安定用薬液を地盤に注入する地盤安定化工法。
[4]水硬性セメント、無機アルカリ金属炭酸塩及び水を含む主材液と、ベントナイト、アルミナセメント及び水を含む硬化材液とを地盤内で混合する地盤安定化工法であって、前記主材液および前記硬化材液の少なくとも一つに石膏を含む地盤安定化工法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ゲルタイムを長くした場合でもブリージング量が少なく、短時間で自立することが可能な土質安定用薬液、該土質安定用薬液の製造方法及び地盤安定化工法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において「固結体」とは、本発明の土質安定用薬液が地盤内で凝結したものを意味する。
また、「自立」とは、支えがなくなった状態でも材料が流れ出さない状態であることをさし、例えば、本発明において、この状態は、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される土質安定用薬液の硬さとして、ベーンせん断強さが1.2(kN/m2)以上となる状態として定量的に示される。
また、「撹拌時間」とは、主材液及び硬化材液のそれぞれの製造において、全成分を混合してから、撹拌を終了するまでの時間を意味する。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の土質安定用薬液は、主材液と、硬化材液を含む。本発明に係る主材液、硬化材液は、少なくとも一方に石膏を含む。
【0014】
(石膏)
本発明に係る主材液、あるいは、硬化材液において、石膏は、固結体の初期及び最終の強度を上げるという性質を有する成分である。
【0015】
石膏としては、例えば、II型無水石膏、III型無水石膏、α半水石膏、β半水石膏、2水石膏など、各種の形態の石膏が挙げられる。また、天然石膏でも人工的に製造又は副生する化学石膏(リン酸石膏、排煙脱硫石膏、チタン石膏、フッ酸石膏、鉱水・製錬石膏等)でも良い。中でも、固結体の圧縮強度がより高くなることから、II型無水石膏が好ましい。
【0016】
石膏の粉末度の指標であるブレーン値は、1000~20000cm2/gが好ましく、1500~12000cm2/gがより好ましく、2500~10000cm2/gがさらに好ましい。石膏のブレーン値が上記下限値以上であれば、固結体の圧縮強度がより高くなる。一方、上記上限値以下であれば、粉の飛散が抑えられる点及び、粉体の容積が減るという点で好ましい。また、上記上限値以下であれば、水と混合した時に凝集が起こりにくくなる。
石膏は、一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0017】
本発明に係る石膏の含有量は、主材液および硬化材液の合計400Lあたり、0.5~20kgが好ましく、1~10kgがより好ましい。石膏の含有量が上記下限値以上であれば、ゲル化を促進し、固結体の初期及び最終強度が高くなる。上記上限値以下であれば、主材液、あるいは、硬化材液の粘度が抑えられるため、ポンプによる圧送が容易となり、後述する土質安定用薬液が地盤に浸透しやすくなる。また、上記上限値以下であれば、主材液、あるいは、硬化材液中の成分量に対する固結体の体積をより大きくすることができる。
【0018】
[主材液]
本発明に係る主材液は、石膏の他に、水硬性セメント、無機アルカリ金属炭酸塩、及び水を含む。
【0019】
(水硬性セメント)
本発明に係る主材液が含む水硬性セメントは、アルミナセメント以外の水硬性セメントである。前記水硬性セメントとしては、例えば、普通、早強、超早強、中庸熱及び白色などのポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメントなどの混合セメント、微粒子セメント、超微粒子セメント、極超微粒子セメントや高炉水砕スラグ微粉末が挙げられる。
水硬性セメントは、これらの一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0020】
本発明に係る主材液中の水硬性セメントの含有量は、主材液200Lあたり、25~300kgが好ましく、50~200kgがより好ましく、75~150kgがさらに好ましい。水硬性セメントの含有量が上記下限値以上であれば、固結体の圧縮強度をより高めることができる。一方、上記上限値以下であれば、主材液の粘度が抑えられるため、ポンプによる圧送が容易となり、主材液又は後述する土質安定用薬液が地盤に浸透しやすくなる。また、上記上限値以下であれば、主材液中の成分量に対する固結体の体積をより大きくすることができる。
【0021】
(無機アルカリ金属炭酸塩)
無機アルカリ金属炭酸塩は、本発明の土質安定用薬液の硬化を促進する性質を有する成分である。
【0022】
無機アルカリ金属炭酸塩としては、例えば、Li2CO3、Na2CO3、K2CO3などのアルカリ金属の炭酸塩が挙げられる。無機アルカリ金属炭酸塩は一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。中でも、ブリージングの低減、ゲル化の促進、固結体の強度の立ち上がりを早くする点から、Na2CO3、K2CO3が好ましい。
【0023】
主材液中の無機アルカリ金属炭酸塩の含有量は、主材液200Lあたり、2~12kgであることが好ましく、4~10kgがより好ましい。無機アルカリ金属炭酸塩の含有量が上記範囲内にあれば、土質安定用薬液の硬化を促進し、固結体の強度の立ち上がりを早くすることが出来る。また、主材液の沈降を抑えることが出来る。
【0024】
本発明の効果をより発揮させるためには、主材液を調製した際に、無機アルカリ金属炭酸塩の不溶解分が残らないようにすることが好ましい。
【0025】
(水)
本発明に係る主材液の水としては、例えば、上水、工業用水、地下水、河川水、海水が挙げられる。これらの中でも、本発明の効果を充分に発揮させるためには、上水や工業用水が好ましい。
【0026】
(その他の添加剤)
主材液は、石膏、無機アルカリ金属炭酸塩、アルミナセメント以外の水硬性セメント以外に、その他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば、減水剤、消泡剤、増粘剤、凝結時間調整剤が挙げられる。
【0027】
減水剤としては、リグニンスルホン酸塩又はその誘導体、ポリカルボン酸、アミノスルホン酸、オキシ有機酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオール複合体、高級多価アルコールスルホン酸塩、メラミンホルマリン縮合物(スルホン酸塩、変性メチロール)、ナフタリンスルホン酸塩ホルマリン縮合物などを主成分とする各種の減水剤、分散剤、高性能減水剤、流動化剤が挙げられる。
減水剤は、一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0028】
消泡剤としては、例えば、高級アルコール、アルキルフェノール、ジエチレングリコール、ジブチルフタレート、非水溶性アルコール、トリブチルホスフェート、ポリグリコール、シリコーン、酸化エチレン-酸化プロピレン共重合物が挙げられる。
消泡剤は、一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0029】
増粘剤としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロースエーテル;ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド-ポリアクリル酸ソーダ共重合物、ポリアクリルアミド部分加水分解物などのアクリル系ポリマー;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、アルギン酸ソーダ、カゼイン、グアガムなどの水溶性ポリマーが挙げられる。
増粘剤は、一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0030】
凝結時間調整剤としては、例えば、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、グルコヘプトン酸、オキシマロン酸、粘液酸、グルクロン酸、ラクトビオン酸等のオキシカルボン酸、及びこれらのアルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等);アンモニウム塩;グルタミン酸等のアミノカルボン酸、及びこれらのアルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等);アンモニウム塩等の有機カルボン酸塩が挙げられる。これらの中でも、ゲル化直後のゲル強度の立ち上がりの点から、オキシカルボン酸及びその塩のうちの少なくとも一方が好ましく、クエン酸、クエン酸のナトリウム塩、グルコン酸、グルコン酸のナトリウム塩がより好ましい。
凝結時間調整剤は一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0031】
(主材液の製造方法)
本発明に係る主材液は、公知の撹拌器等を用いて、各成分を所望の配合量で水に分散させることにより製造することができる。
主材液を製造する際の、水硬性セメント、石膏、無機アルカリ金属炭酸塩、水及び任意成分としてのその他の添加剤を混合する際の順序は特に限定されない。なお、無機アルカリ金属炭酸塩、石膏、必要に応じて配合される分散剤、消泡剤、凝結速度調整剤などのその他の添加剤を水に分散させた後、水硬性セメントを加え、所定時間撹拌して混合する方法が好ましい。なお、硬化材液が石膏を含む場合、主材液は石膏を含まなくてもよい。
【0032】
地盤安定化を行う施工現場で主材液を製造する方法としては、例えば、石膏、無機アルカリ金属炭酸塩、水硬性セメント及び必要に応じて配合されるその他の添加剤とを別々に施工現場に搬入し、所定の量比で混合した後、水を加えて混合する方法、一般的に流通している水硬性セメントと、それとは別に、その他の無機アルカリ金属炭酸塩、石膏、及び、必要に応じて配合されるその他の添加剤を所定の量比で予め配合した混合物を施工現場に搬入し、水に添加して混合する方法、水硬性セメント、無機アルカリ金属炭酸塩、石膏、及び、必要に応じて配合されるその他の添加剤を所定の量比で予め配合した主材の混合物を施工現場に搬入し、これを水に添加して混合する方法が挙げられる。これらの中でも、施工現場での作業を簡略化できる点から、後者の2つの方法が好ましい。
【0033】
[硬化材液]
本発明に係る硬化材液は、主材液を硬化させるために用いる成分である。
硬化材液は、石膏の他に、ベントナイト、アルミナセメント及び水を含む。硬化材液は、その他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば前述の主材液におけるその他の添加剤が挙げられる。
【0034】
以下、硬化材液に含まれる各成分について説明する。なお、その他の添加剤の詳細については、前述の主材液におけるその他の添加剤と同じ化合物を使用することができる。
【0035】
(アルミナセメント)
本発明においてアルミナセメントとは、石灰質原料(カルシウム分)とアルミナ質原料(アルミナ分)とを混合し、この混合物を焼成するか、あるいは、前記混合物を溶融後、硬化させた後に粉砕することで得られるセメント鉱物全般を意味する。
【0036】
前記アルミナセメントとしては、例えば、主要鉱物組成がガラス質(非晶質)のC12A7となるように、前記石灰質原料とアルミナ質原料との混合物を溶融した後に急冷し、この硬化物を粉砕し、石膏を添加した混合物が挙げられる。ここで、石膏は、前記混合物の硬化物を粉砕しながら添加してもよいし、硬化物の粉砕が完了してから添加してもよい。また、添加する石膏の結晶形態としては、II型であってもよいし、他の形態であってもよい。
【0037】
また、アルミナセメントの他の例としては、主要鉱物組成がCAとなるように、前記石灰質原料とアルミナ質原料との混合物を焼成するか、あるいは、混合物を溶融した後に急冷し、この硬化物を粉砕することで得られるものが挙げられる。また、この例のアルミナセメントは、焼成又は溶融条件や、原料に含まれる不純物の影響により、CAに加えて、例えば、前記C12A7、CA2以外に、C2AS、C4AF等の鉱物を任意成分として含んでいてもよい。
【0038】
さらに、前記アルミナセメントの具体例としては、例えば、JIS R2511:1995「耐火物用アルミナセメント」に規定されるアルミナセメント1~5種、若しくはこれに相当する品質を有するアルミナセメントが挙げられる。
【0039】
これらの中でも、アルミナセメント3種又は4種、若しくはこれに相当する品質を有するものを用いることがより好ましい。
前記アルミナセメントしては、例えば、前記CA、CA2等のカルシウムアルミネートを主成分とし、C4AF等のカルシウムアルミノフェライト、C2AS等のカルシウムアルミノシリケート等の化合物で構成されるセメントが挙げられる。
【0040】
なお、前記の各化学式の例示において、「A」はAl2O3の略号を意味し、「C」はCaO、「F」はFe2O3、「S」はSiO2の略号を意味する。
【0041】
(ベントナイト)
本発明で用いるベントナイトは、主材液と硬化材液を混合した後の薬液のブリージングを抑制する成分である。ベントナイトには原産地や処理によって種々の銘柄があるが、これらは、一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0042】
(水)
水としては、例えば、上水、工業用水、地下水、河川水、海水などが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果を充分に発揮させるためには、上水や工業用水が好ましい。
【0043】
(硬化材液中の各成分の含有量)
硬化材液中のアルミナセメントの含有量は、硬化材液200Lあたり、1~50kgが好ましく、2~30kgがより好ましく、4~15kgがさらに好ましい。アルミナセメントの含有量が上記下限値以上であれば、安定したゲルタイムの発現に必要な最低撹拌時間が短くなるとともに、固結体の圧縮強度がより高くなる。一方、上記上限値以下であれば、硬化材液の粘度が抑えられるため、主材液と硬化材液とがより均一に混合され、固結体の圧縮強度のバラツキがより少なくなる。また、上記上限値以下であれば、ポンプによる圧送が容易となり、硬化材液又は後述する土質安定用薬液が地盤に浸透しやすくなる。
【0044】
硬化材液中のベントナイトの含有量は、硬化材液200Lあたり、2~20kgが好ましく、5~12kgがより好ましい。ベントナイトの含有量が上記範囲内であれば、主材液と硬化材液を混合した後のブリージング量を抑制することが出来る。上記下限値以上であれば、混合後のブリージング量が抑えられるとともに、硬化材液自体の沈降も抑制される。一方、上記上限値以下であれば、硬化材液の粘度が抑えられるため、攪拌、及び、ポンプによる圧送が容易となる。また、上記上限値以下であれば、硬化材液中の成分量に対する固結体の体積をより大きくすることができる。
【0045】
本発明に係る硬化材液が石膏を含む場合の石膏の含有量は、硬化材液200Lあたり、0.5~20kgが好ましく、1~10kgがより好ましい。石膏の含有量が上記下限値以上であれば、ゲル化を促進し、固結体の初期及び最終の強度が高くなる。上記上限値以下であれば、主材液の粘度が低く抑えられるため、ポンプによる圧送が容易となり、主材液又は後述する土質安定用薬液が地盤に浸透しやすくなる。また、上記上限値以下であれば、主材液中の成分量に対する固結体の体積をより大きくすることができる。
なお、主材液が石膏を含む場合、硬化材液は石膏を含まなくてもよい。
【0046】
本発明に係る硬化材液が減水剤を含む場合の減水剤の含有量は、ベントナイトに対して1~30質量%が好ましく、4~20質量%がより好ましい。
【0047】
(硬化材液の製造方法)
硬化材液は、公知の撹拌器等を用いて、硬化材液中の水以外の成分(以下、「硬化材」とも称する。)を水に分散させることにより製造される。分散方法としては、例えば、予め混合した硬化材の混合物を水に分散させる方法、硬化材を任意の順序で水に分散させる方法を挙げることが出来る。
【0048】
水にアルミナセメント及びベントナイトを分散させる順序に制限はないが、ブリージングを抑制するために、水にベントナイトを分散させた後に、アルミナセメントを添加して分散させることが好ましい。ベントナイトが水で膨潤した後にアルミナセメントを添加することで、より高い粘性が付与され、ブリージングが少なくなる。
【0049】
なお、硬化材を予め混合する場合は、一般に用いられる混合器により、各硬化材の成分を所望の配合量で混合すればよい。用いる混合器は、工場又は施工現場に固定されている混合器でもよく、ミキサートラックに搭載されている混合器でもよい。
各成分は充分に混合されていることが好ましい。各成分が充分に混合されていることにより、均質な硬化材液を素早く製造することができる。
【0050】
[土質安定用薬液]
本発明の土質安定用薬液は、前記主材液及び硬化材液を含み、前記主材液あるいは前記硬化材液のいずれか一方に石膏が含まれるが、前記主材液、前記硬化材液の両方に石膏を含んでいてもよい。
【0051】
[土質安定用薬液の製造方法]
本発明の土質安定用薬液の製造方法としては、例えば、公知の撹拌器等を用いて、各成分を水に分散させる方法、主材液に、硬化材液中の水以外の成分(硬化材)を添加する方法、硬化材液に、主材液中の水以外の成分を添加する方法、主材液と硬化材液とを混合する方法が挙げられる。中でも、施工現場での作業性及びゲルタイムを安定化できる点から、土質安定用薬液の製造方法は、主材液と硬化材液とを混合する方法が好ましい。
【0052】
主材液と硬化材液の混合は、地盤に注入する前に行ってもよく、各液を地盤に注入しながら行ってもよい。地盤に注入する前に行う場合は、セメントを製造する際に通常用いる撹拌器等を用いて、一般的な撹拌方法によって主材液と硬化材液を混合すればよい。主材液と硬化材液を地盤に注入しながら混合する場合は、例えば、主材液と硬化材液とを、それぞれ単位時間当りの送液容量が等しいポンプを用いて個別にY字管、撹拌装置、注入管内に設けられた混合室(管内混合器・管路混合器)などに圧送して混合する方法、主材液と硬化材液を二重管の内管と外管で別々に送液し、注入時に地盤中で主材液と硬化材液を合流させて混合する方法などが挙げられる。主材液と硬化材液が注入中に硬化しないようにするため、土質安定用薬液は、注入直前又は注入しながら製造することが好ましく、注入しながら製造することがより好ましい。
【0053】
施工がし易くなる点から、主材液と硬化材液を混合する際の容量比は7:3~3:7が好ましく、6:4~4:6がより好ましく、5:5の等容量がさらに好ましい。
【0054】
[地盤安定化工法]
本発明の地盤安定化工法は、前記土質安定用薬液を地盤に注入する第一の態様と、主材液と硬化材液とを地盤内で混合する第二の態様とがある。
第一の態様の具体的な方法としては、例えば、前記土質安定用薬液の製造方法と同様にして土質安定用薬液を得、前記土質安定用薬液を地盤に注入する方法が挙げられる。
第二の態様の具体的な方法は、例えば、主材液と硬化材液とを別々の注入管で地盤内に注入し、両液を地盤内で合流させ、混合させる方法が挙げられる。本態様では、注入の際に、噴射ノズルを有する注入管を用いて、圧力50~1000kg/cm2で噴射注入することも出来る。
【0055】
[作用効果]
本発明によれば、ゲルタイムを長くした場合でもブリージング量が少なく、短時間で自立することが可能な土質安定用薬液、該土質安定用薬液の製造方法及び地盤安定化工法を提供することができる。
本発明による効果は、以下のメカニズムによるものと推定される。
【0056】
膨潤したベントナイトとアルミナセメントの反応により得られた沈降が防止された硬化材液を、無機アルカリ金属炭酸塩と水硬性セメントとがあらかじめ混合された主材液と混合したことにより、得られた前記土質安定用薬液の沈降が抑制された結果、ゲルタイムを長くした場合でも、ブリージング量が少なくなって、短時間で自立することが可能となったものと推定される。
【0057】
また、アルミナセメント、石膏、無機アルカリ金属炭酸塩の作用により、エトリンガイト等の発生が早まり、硬化が促進され、短時間で自立することが可能になると推定される。
【0058】
本発明において、ブリージング量は、ゲルタイムによって異なる値となり、またゲルタイムは土質安定用薬液の成分組成により異なる値となるが、本発明の土質安定用薬液によれば、例えば、ゲルタイムが5~60分の比較的ゲルタイムの長い土質安定用薬液において、ブリージング量を3%以下、好ましくは1%以下とすることができる。
なお、本発明の土質安定用薬液のゲルタイムは、成分組成によっても異なるが、通常5~60分程度にすることができる。また、ブリージング量の下限には特に制限はない。
【0059】
ここで、ブリージング量とは、土質安定用薬液(主材液と硬化材液の合計)の体積に対する、この土質安定用薬液がゲルタイムに達した時に上澄みとして残る薬液の浮水の量(体積)の割合(百分率)であり、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【実施例0060】
以下に本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例で用いた材料、主材液及び硬化材液の調製方法、並びに各種測定・評価方法は以下のとおりである。
【0061】
[材料]
(主材液)
・水硬性セメント:普通ポルトランドセメント
・無水炭酸ナトリウム(Na2CO3)
・無水炭酸カリウム(K2CO3)
・石膏:II型無水石膏(ブレーン値:6500cm2/g)
・水:水道水
【0062】
(硬化材液)
・アルミナセメント:JIS-R2511,3種
・ベントナイト(株式会社ホージュン製 榛名)
・ベントナイト(株式会社ホージュン製 ネオクレイ)
・減水剤:ナフタレンスルホン酸ナトリウム・ホルムアルデヒド縮合物
・水:水道水
【0063】
[主材液の調製方法]
20℃に温度調整した材料を使用し、それぞれ20℃の室内で、無水炭酸ナトリウム又は無水炭酸カリウム(ただし、比較例1,3では無機アルカリ金属炭酸塩を使用せず)と石膏(ただし、実施例4、比較例2では石膏を使用せず)の混合物を水に分散させた後、普通ポルトランドセメントを分散させ、撹拌して主材液を得た。撹拌は、マグネチックスターラーを用い、200mLのディスカップに長さ4cmのスターラーバーを入れ、主材液200mLの入った状態で、回転数650~750rpmの条件で所定の時間行った。
主材液中の各成分の含有量を表1に記載した。
なお、本実施例及び比較例では、硬化材液を作製する直前に主材液を調製して実験を行った。
【0064】
[硬化材液の調製方法]
20℃に温度調整した材料を使用し、20℃の室内でベントナイト及び減水剤を水に分散させ、3分撹拌後にアルミナセメント(実施例4,5では更に石膏、比較例3では、更に無水炭酸ナトリウム)を添加、撹拌して硬化材液を得た。なお、比較例4ではアルミナセメントのみを水に添加して撹拌した。撹拌は、マグネチックスターラーを用い、200mLのディスカップに長さ4cmのスターラーバーを入れ、硬化材液200mLの入った状態で、回転数650~750rpmの条件で所定の時間行った。
硬化材液中の各成分の含有量を表1に記載した。
【0065】
[ゲルタイムの測定]
得られた主材液100mLと硬化材液100mLとをそれぞれ200mLディスカップA,Bに入れ、硬化材液の入ったディスカップBに主材液の全量を勢いよく入れた後、両液の混合液を直ちに主材液が入っていたディスカップAに移しかえ、さらに硬化材液が入っていたディスカップBに移しかえた。5分毎にカップを傾け、45°傾けても液面が動かなくなるまでの時間をゲルタイムとした。
【0066】
[ブリージング量の測定]
得られた主材液100mLと硬化材液100mLとをそれぞれ200mLディスカップA,Bに入れ、硬化材液の入ったディスカップBに主材液の全量を勢いよく入れた後、両液の混合液を直ちに主材液が入っていたディスカップAに移しかえ、さらに硬化材液が入っていたディスカップBに移しかえた。1時間後に、沈降により上部に生じた水をメスシリンダーに分取し、以下の式でブリージングの量を計算した。
ブリージング量(%)=(分取した水量(mL)/200(mL))×100
【0067】
[1時間後の薬液の硬さの測定]
ベーンせん断試験器(トルクドライバ-FTD-10CN-S:(株)東日製作所製、ベーンブレード:D15mm×H30mm)を用いて測定した。
200mLディスカップA,Bに主材液、硬化材液をそれぞれ100mLずつ調製し、硬化材液の入ったディスカップBに主材液の全量を勢いよく入れた後、両液の混合液を直ちに主材液が入っていたディスカップAに移しかえ、さらに硬化材液が入っていたディスカップBに移しかえそのまま静置した。この混合液について、1時間静置後にベーンブレードをディスカップB内中央に挿入して回転させ、その最大目盛値(最大トルク値)から以下の式でベーンせん断強さを算出した。
ベーンせん断強さ(kN/m2)
= Tmax(kN・m)/(π×(D2H/2+D3/6))
Tmax:最大トルク値
D:ベーンブレードの幅(m)
H:ベーンブレードの高さ(m)
自立可能な値はベーンせん断強さで1.2(kN/m2)以上とした。
【0068】
[実施例1~5及び比較例1~4]
実施例1~5及び比較例1~4では、それぞれ表1に示された成分、該成分の含有量で、前述の通り調製した主材液と硬化材液を用いて、ゲルタイム、ブリージング量と1時間後の薬液の硬さの測定を実施することで各評価項目について評価した。
各評価結果を表1に記載する。
なお、いずれの評価も20℃の温度条件で行った。
【0069】
【0070】
本発明の土質安定用薬液を使用した実施例1~5は、ゲルタイムを20分と長くした場合でもブリージング量が少なく、1時間で薬液の硬さが1.2(kN/m2)よりも大きくなり自立することが可能であった。特に炭酸ナトリウムと石膏を主材液に入れた実施例1,2がブリージング量が1%以下と少なく、1時間後には自立した。更には、主材液と硬化材液の両方に石膏を入れた実施例5では、ブリージング量が1%以下と少なく、かつ、1時間後に自立するとともにその強度も高くなった。
一方、無機アルカリ金属炭酸塩を主材液にも硬化材液にも含まない土質安定用薬液を使用した比較例1は、1時間後の薬液が柔らかく、自立は不可能であった。また、無機アルカリ金属炭酸塩を硬化材液ではなく主材液に含む比較例3は、1時間後の薬液は自立することが可能な固さであったが、ブリージング量が3%以上と悪くなった。石膏を主材液および硬化材液のいずれにも含まない土質安定用薬液を使用した比較例2は、硬化が進行せず、ブリージング量を測定できなかった。
また、硬化材液にベントナイトを含まない比較例4は、ブリージング量が多くなった。
本発明の土質安定用薬液、該薬液の製造方法及び地盤安定化工法は、地盤内の空隙、護岸堤防と地盤との空隙、液状化によって生じた空洞及びトンネル背面の空洞等に薬液を注入して地盤を補強する分野で好適に使用できるため、産業上極めて有用である。