(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021030
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】電動機及びそれを備えた電気機器
(51)【国際特許分類】
H02K 5/16 20060101AFI20230202BHJP
H02K 11/40 20160101ALI20230202BHJP
【FI】
H02K5/16 A
H02K11/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119441
(22)【出願日】2022-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2021125272
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】514036900
【氏名又は名称】WOLONGモーター制御技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】前谷 達男
(72)【発明者】
【氏名】磯村 宣典
(72)【発明者】
【氏名】フ フェン
【テーマコード(参考)】
5H605
5H611
【Fターム(参考)】
5H605AA12
5H605CC04
5H611QQ07
5H611TT06
(57)【要約】
【課題】本開示は、電動機における軸受の電食の発生を抑制することを図る。
【解決手段】本開示に係る電動機は、固定子巻線を巻装した固定子鉄心を含む固定子と、前記固定子に対向して周方向に複数のマグネットを保持する、又は、中央からスポーク状に複数のマグネットを保持する回転体と、前記回転体と、前記回転体の中央を貫通するように前記回転体を締結したシャフトとを含む回転子と、前記回転体を支持する第1の軸受と第2の軸受と、前記第1の軸受を固定する第1の金属ブラケットと、前記第2の軸受を固定する第2の金属ブラケットとを備え、前記第1の金属ブラケット及び前記第2の金属ブラケットのいずれか一方のブラケットと前記固定子巻線に電圧を加える駆動回路のゼロ基準電位との間に静電容量C
nb1の容量性部材を設けたものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子巻線を巻装した固定子鉄心を含む固定子と、
前記固定子に対向して周方向に複数のマグネットを保持する、又は、中央からスポーク状に複数のマグネットを保持する回転体と、
前記回転体と、前記回転体の中央を貫通するように前記回転体を締結したシャフトとを含む回転子と、
前記回転体を支持する第1の軸受及び第2の軸受と、
前記第1の軸受を固定する第1の金属ブラケットと、前記第2の軸受を固定する第2の金属ブラケットとを備えた電動機であって、
前記第1の金属ブラケット及び前記第2の金属ブラケットのいずれか一方のブラケットと、前記固定子巻線に電圧を加える駆動回路のゼロ基準電位との間に静電容量Cnb1の容量性部材を設け、
前記固定子側の前記固定子巻線と、前記一方のブラケットとの間の静電容量をCsb1と定義し、
前記固定子巻線と前記固定子鉄心との間の静電容量Ciと、前記固定子鉄心と前記マグネットとの間の静電容量Cgと、前記固定子巻線と前記マグネットとの間の静電容量Csmと、前記マグネットの静電容量Cmを含む回転子側の静電容量を合成静電容量B1と定義し、
前記駆動回路のゼロ基準電位と前記シャフト間との間の静電容量をCnsと定義し、
前記固定子側の前記固定子巻線と、前記第1の金属ブラケット及び前記第2の金属ブラケットのいずれか他方のブラケットとの間の静電容量をCsb2と定義し、
前記他方のブラケットと前記固定子巻線に電圧を加える駆動回路のゼロ基準電位との間の静電容量をCnb2と定義する時、
前記静電容量Csb1と前記静電容量Cnb1の比RX1(Csb1/Cnb1)と、前記合成静電容量B1と前記静電容量Cnsの比RY1(B1/Cns)とが近似し、又は一致し、
前記静電容量Csb2と前記静電容量Cnb2の比RX2(Csb2/Cnb2)と、前記静電容量Csb1と前記静電容量Cnb1の比RX1(Csb1/Cnb1)とが近似し、又は一致している電動機。
【請求項2】
前記一方のブラケットが前記第1の金属ブラケットであり、前記他方のブラケットが前記第2の金属ブラケットである請求項1に記載の電動機。
【請求項3】
前記比RX2(Csb2/Cnb2)と前記比RX1(Csb1/Cnb1)の比(RX2/RX1)の値が、0.75以上1.25以下である請求項1又は2に記載の電動機。
【請求項4】
前記第1の金属ブラケット及び前記第2の金属ブラケットは、絶縁樹脂又は空間により、前記固定子鉄心と絶縁されている請求項1又は2に記載の電動機。
【請求項5】
前記容量性部材が、前記電動機の内部に設けられた請求項1又は2に記載の電動機。
【請求項6】
前記容量性部材が、前記電動機の外部に設けられた請求項1又は2に記載の電動機。
【請求項7】
前記駆動回路を備えたプリント基板が、前記電動機の内部に設けられた請求項1又は2に記載の電動機。
【請求項8】
前記駆動回路を備えたプリント基板が、前記電動機の外部に設けられた請求項1又は2に記載の電動機。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の電動機と前記電動機により駆動される送風ファンとを搭載した電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動機及びその電動機を備えた電気機器に関し、軸受の電食の発生を抑制するように改良された電動機及びその電動機を備えた電気機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ブラシレス電動機は、パルス幅変調(Pulse Width Modulation)方式(以下、適宜、PWM方式という)のインバータにより駆動する方式を採用するケースが多くなってきている。こうしたPWM方式のインバータ駆動の場合、固定子巻線の中性点電位がパワー素子のスイッチングによって変動する。この中性点電位の変動が、電動機の静電容量分布により、軸受の外輪側と軸受の内輪側に分圧される。
【0003】
固定子巻線と軸受の外輪側の固定子側の静電容量分布と固定子巻線と軸受の内輪側の静電容量の回転子側の静電容量分布とが異なるため、軸受の外輪と軸受の内輪との間に電位差(以下、軸電圧という)が発生する。軸電圧は、スイッチングによる高周波成分を含んでおり、この軸電圧が軸受内部のグリースの油膜の絶縁破壊電圧に達すると、軸受内部において、グリースの油膜の絶縁破壊による微小電流が流れ、軸受内部の金属表面に荒れを生じて、電食が発生することが知られている(例えば、非特許文献1及び特許文献1-4参照)。
又、電食が進行した場合、軸受の内輪、軸受の外輪又は軸受のボールに波状摩耗現象が発生して異常音に至ることがあり、電動機における不具合の主要因の1つとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-158152号公報
【特許文献2】特許第4935934号公報
【特許文献3】特開2007-159302号公報
【特許文献4】WO2015/001782
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「インバータ駆動ブラシレスDCモータの非接地コモンモード等価回路に基づく軸電圧抑制」電気学会論文誌D,2012年,Vol.132,No6,pp.666-672
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、電動機及びその電動機を備えた電気機器における軸受の電食の発生を抑制することを図る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る電動機は、
固定子巻線を巻装した固定子鉄心を含む固定子と、
前記固定子に対向して周方向に複数のマグネットを保持する、又は、中央からスポーク状に複数のマグネットを保持する回転体と、
前記回転体と、前記回転体の中央を貫通するように前記回転体を締結したシャフトとを含む回転子と、
前記回転体を支持する第1の軸受及び第2の軸受と、
前記第1の軸受を固定する第1の金属ブラケットと、前記第2の軸受を固定する第2の金属ブラケットとを備えた電動機であって、
前記第1の金属ブラケット及び前記第2の金属ブラケットのいずれか一方のブラケットと、前記固定子巻線に電圧を加える駆動回路のゼロ基準電位との間に静電容量Cnb1の容量性部材を設け、
前記固定子側の前記固定子巻線と、前記一方のブラケットとの間の静電容量をCsb1と定義し、
前記固定子巻線と前記固定子鉄心との間の静電容量Ciと、前記固定子鉄心と前記マグネットとの間の静電容量Cgと、前記固定子巻線と前記マグネットとの間の静電容量Csmと、前記マグネットの静電容量Cmを含む回転子側の静電容量を合成静電容量B1と定義し、
前記駆動回路のゼロ基準電位と前記シャフト間との間の静電容量をCnsと定義し、
前記固定子側の前記固定子巻線と、前記第1の金属ブラケット及び前記第2の金属ブラケットのいずれか他方のブラケットとの間の静電容量をCsb2と定義し、
前記他方のブラケットと前記固定子巻線に電圧を加える駆動回路のゼロ基準電位との間の静電容量をCnb2と定義する時、
前記静電容量Csb1と前記静電容量Cnb1の比RX1(Csb1/Cnb1)と、前記合成静電容量B1と前記静電容量Cnsの比RY1(B1/Cns)とが近似し、又は一致し、
前記静電容量Csb2と前記静電容量Cnb2の比RX2(Csb2/Cnb2)と、前記静電容量Csb1と前記静電容量Cnb1の比RX1(Csb1/Cnb1)とが近似し、又は一致している。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、電動機及びその電動機を備えた電気機器における軸受の電食の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一態様である実施形態1における電動機の断面の概略構成図である。
【
図2】実施形態1の電動機の静電容量分布のモデル図である。
【
図3】実施形態1の電動機の容量性部材の静電容量と、軸電圧と、分圧比R
X1と分圧比R
Y1の比(R
X1/R
Y1)と、分圧比R
X2と分圧比R
X1の比(R
X2/R
X1)との関係を示すグラフである。
【
図4】実施形態1の変形例を示す電動機の断面の概略構成図である。
【
図5】実施形態1の電動機を用いた電気機器の一態様の斜視図である。
【
図6】実施形態1の電動機を用いた別の電気機器の一態様の斜視図である。
【
図7】実施形態1の電動機を用いた別の電気機器の一態様の斜視図である。
【
図8】本開示の別の一態様である実施形態1における電動機の断面の概略構成図である。
【
図10】
図9の電動機の静電容量分布のモデル図である。
【
図11】従来の別の電動機の断面の概略構成図である。
【
図13】従来の別の電動機の断面の概略構成図である。
【
図14】従来の別の電動機の静電容量分布のモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
本開示の実施形態を説明する前に、本開示の基礎となった知見を説明する。
従来、以下に示す文献に、軸受の電食を抑制するために、軸電圧を低減することで、軸受内部のグリースの油膜を絶縁破壊電圧以下にして、軸受のグリースの油膜の絶縁破壊を起こさない対策が、考案されている。又、軸電圧を低減することで軸受内部のグリースの油膜の絶縁破壊による放電エネルギーを小さくして、軸受内部の金属表面の損傷を小さくする対策が、以下の文献に考案されている。
【0011】
以下、上記文献について、詳細に説明する。
図9は、特許文献1のインナーロータ型でブラシレスラジアル型の電動機50の断面の概略構成図である。特許文献1と非特許文献1とは、同じ構成である。
図9に示すように、電動機50は、第1の金属ブラケット1と、第2の金属ブラケット2と、第1の軸受5aと、第2の軸受5bと、シャフト4、回転子10と、固定子18とを有する。
回転体9は、回転子鉄心8と永久磁石であるマグネット11とを有する。回転子10は、回転体9とシャフト4とを有する。固定子18は、固定子鉄心6と固定子巻線3とを有する。
【0012】
図9に示すように、第1の軸受5aの外輪は第1の金属ブラケット1に接続され、第2の軸受5bの外輪は第2の金属ブラケット2に接続されている。第1の軸受5aの内輪と第2の軸受5bの内輪とは、シャフト4によって接続され、電気的に導通している。導通部材13で、第1の金属ブラケット1と第2の金属ブラケット2とを電気的に短絡している。
【0013】
特許文献1(
図9)は、導通部材13で、第1の金属ブラケット1と第2の金属ブラケット2とを電気的に短絡させ、第1の金属ブラケット1と第2の金属ブラケット2との静電容量を一致させている。さらに、特許文献1(
図9)は、回転体9に誘電体層20を設け、回転体9の静電容量を変化させて軸電圧を低減する方法である。
【0014】
図10は、
図9について、本発明者らが詳細に考えたものであり、特許文献1の電動機50の静電容量分布のモデル図である。特許文献1の電動機50においては、固定子鉄心6を基準に静電容量分布を考察するに当たり、電動機50の電圧分布は、インピーダンスにおいて逆数となる容量性リアクタンスの影響が支配的であるため、非特許文献1の
図5に記載されているように、静電容量分布のモデルにて説明を行う。
固定子巻線3と第1の金属ブラケット1との間の静電容量C
sb1は、第1の軸受5aの電荷が貯まり、第1の軸電圧V
sh1が上がることを模式的に表現している。第1の軸電圧V
sh1が上がり、軸受内部のグリース油膜の絶縁破壊電圧に達すると、絶縁破壊が発生する。固定子巻線3と第2の金属ブラケット2との間の静電容量C
sb2も静電容量C
sb1同様、第2の軸受5bの電荷が貯まり、第2の軸電圧V
sh2が上がることを模式的に表現している。第2の軸電圧V
sh2が上がると、絶縁破壊が発生する。
【0015】
第1の軸受5aの外輪側(
図10の1の箇所)と駆動回路のゼロ電位基準N(12)とに生じる電圧は、駆動回路のゼロ基準電位Nと固定子巻線3の中性点電位Sとの間に発生する電圧V
comに対して、固定子側の静電容量分布により分圧された値となる。
又、第2の軸受5bの外輪側(
図10の2の箇所)と駆動回路のゼロ電位基準N(12)とに生じる電圧は、駆動回路のゼロ基準電位N(12)と固定子巻線3の中性点電位Sとの間に発生する電圧V
comに対して、固定子側の静電容量分布により分圧された値となる。
第1の軸受5aの内輪側及び第2の軸受5bの内輪側(
図10の4の箇所)と駆動回路のゼロ電位基準N(12)とに生じる電圧は、駆動回路のゼロ電位基準N(12)と固定子巻線3の中性点電位Sとの間に発生する電圧V
comに対して、回転子側の静電容量分布により分圧された値となる。
【0016】
本発明者らは、
図10の静電容量分布のモデル図を考案し、これを考察することで、以下の知見を見出した。第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2は、第1の軸受5aの外輪側及び第2の軸受5bの外輪側に発生する電圧と内輪側に発生する電圧の差となる。従って、第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2を低減するには、固定子側の静電容量分布と回転子側の静電容量分布を一致もしくは近似させることが有効であるということを見出した。
【0017】
第1の軸受5aの外輪側及び第2の軸受5bの外輪側と駆動回路のゼロ電位基準N(12)とに生じる電圧は、固定子巻線3と第1の金属ブラケット1との間の静電容量Csb1及び固定子巻線3と第2の金属ブラケット2との間の静電容量Csb2の合成静電容量A2と、駆動回路のゼロ基準電位N(12)と第1の金属ブラケット1間の静電容量Cnb2との分圧比RA2(合成静電容量A2/Cnb2)の逆数に電圧Vcomを掛けた電圧となる。
又、第1の軸受5aの内輪側及び第2の軸受5bの内輪側と駆動回路のゼロ電位基準N(12)とに生じる電圧は、固定子巻線3と固定子鉄心6との間の静電容量Ci、固定子鉄心6とマグネット11との間の静電容量Cg、固定子巻線3とマグネット11との間の静電容量Csm及びマグネット11の静電容量Cmの合成静電容量B2と、駆動回路のゼロ基準電位Nとシャフト4間の静電容量Cnsとの分圧比RB2(合成静電容量B2/Cns)の逆数に電圧Vcomを掛けた電圧となる。
【0018】
本発明者らは、鋭意考察した結果、第1の軸電圧Vsh1及び第2の軸電圧Vsh2を低減するには、この分圧比RA2(合成静電容量A2/Cnb2)と分圧比RB2(合成静電容量B2/Cns)とを一致もしくは近似させることが必要であることを見出した。この分圧比RA2と分圧比RB2とを一致もしくは近似させることを、以下、単に整合と呼ぶ。
特許文献1では、結果として、静電容量Csb1、Csb2、Cnsは、合成静電容量B2より小さいため、静電容量を整合させるために、合成静電容量B2の静電容量が小さくなっていることが分かった。
【0019】
特許文献1では、
図9において、回転子10側の静電容量分布を回転体9に誘電体層20を設け、静電容量C
dを形成している。この誘電体の静電容量C
dは、静電容量分布のモデル図である
図10において、マグネット11の静電容量C
mに、直列に静電容量C
dが挿入されたことになり、合成静電容量B2を小さくすることで、固定子側の静電容量分布と整合をとり、結果的に、第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2が低くなっていることが分かった。
【0020】
誘電体層20の静電容量C
dは、誘電体層20の厚み方向の距離(
図9における誘電体層20の短い方向の距離)に反比例し、長さ(
図9における誘電体層20の長手方向の距離)に比例する。従って、静電容量C
dを下げるには、誘電体層20の幅(誘電体層20の厚み方向の距離)を広げる必要がある。
【0021】
しかしながら、特許文献1では、
図9に示す様に、誘電体層20には回転トルクとして応力がかかるため、その強度の確保のために誘電体層20の幅の制約を受ける場合が生じる。その場合、必要とされる静電容量が得られず、軸電圧が下がらないということが考察された。又、特許文献1では、径方向で中央からスポーク状に複数の永久磁石(マグネット)を保持する回転体9を用いた電動機50においては、誘電体層20の幅を取ることによって永久磁石(マグネット)11の長さを短くする必要が生じ、電動機50の性能が悪化するという課題があった。
【0022】
次に、特許文献2について、説明する。
図11は、特許文献2の電動機50の断面の概略構成図である。
図12は、
図11の電動機50について本発明者らが考えた静電容量分布のモデル図である。
図11に示す様に、第1の金属ブラケット1及び第2の金属ブラケット2が、導通部材13にて短絡している。固定子鉄心6と、第1の金属ブラケット1及び第2の金属ブラケット2のいずれか一方との間にインピーダンス調整部材14を挿入した構成である。
図11は、固定子鉄心6と第2の金属ブラケット2との間に、インピーダンス調整部材14を挿入した構成である。
【0023】
インピーダンス調整部材14として、静電容量を持ったキャパシタを用いた場合、静電容量Ci、Csb1及びCsb2の合成静電容量に対して、インピーダンス調整用キャパシタンスであるインピーダンス調整部材14は、並列に接続される。そして、静電容量Ci、Csb1及びCsb2の合成静電容量を大きくすることで、回転子側の静電容量と整合性を取っている。そのことにより、特許文献2では、結果的に、第1の軸電圧Vsh1及び第2の軸電圧Vsh2が低くなっていることが分かった。
【0024】
しかしながら、固定子鉄心6にインピーダンス調整部材14を接続する工法の確立が難しい。又、上記接続後にモールドされるため、生産工程過程で、上記の接続箇所が外れるという課題が考察された。
次に、特許文献3について、説明する。
図13は、特許文献3の電動機50の断面の概略構成図である。
特許文献3では、固定子鉄心6と第1の金属ブラケット1及び第2の金属ブラケット2のいずれか一方とを短絡部材25で短絡させている。
図13では、固定子鉄心6と第2の金属ブラケット2とを短絡させて、第1の軸電圧の低減を図っている。
【0025】
特許文献3の構成は、特許文献2の
図10に、同様の構成が記載されている。そして、特許文献3の構成は、特許文献2の比較例3で、軸電圧に波形崩れが発生している問題があることが開示されている。
このことは、固定子鉄心6と短絡された第2の金属ブラケット2との静電容量は大きくなるが、固定子鉄心6と短絡されていない第1の金属ブラケット1との間の静電容量は変わらないためと推察される。よって、第1の軸受5aの軸電圧は下がらず、電食抑制効果は少ないことが考察された。
【0026】
最後に、特許文献4について、説明する。
図14は、特許文献4に示す電動機50について本発明者らが考えた静電容量分布のモデル図である。
図14に示す様に、第1の金属ブラケット1及び第2の金属ブラケット2を電気的に絶縁し、固定子鉄心6と第1の金属ブラケット1との間の静電容量C
sb1と、固定子鉄心6と第2の金属ブラケット2との間の静電容量C
sb2とを近似あるいは一致するように設定し、軸電圧を低減する方法が開示されている。
【0027】
しかしながら、特許文献4においては、静電容量Csb1と静電容量Csb2との比の調整に当たって、部材の寸法調整および部材間の距離等の調整を必要とするため電動機の外形寸法・形状が大きくなるという懸念が考察された。
又、回転子側の静電容量分布に対して、静電容量の整合調整機能が不十分であり、第1の軸電圧及び第2の軸電圧が下がりきることができない。そのため、第1の軸受5a及び第2の軸受5bのグリースの絶縁破壊現象である第1の軸電圧及び第2の軸電圧の波形崩れが発生し、長期の運転において電食寿命に課題があることが考察された。
【0028】
本発明者らは、上記した課題を見出し、その課題解決について鋭意研究を図り、その課題解決を図る本質を見出した。
図1は、本開示の電動機50の断面の概略構成図である。
図1に示すように、電動機50は、電動機50の両端に配置された第1の金属ブラケット1及び第2の金属ブラケット2と、第1の軸受5a及び第2の軸受5b、シャフト4、回転子10と、固定子18とを有する。
第1の金属ブラケット1の中央部には、第1の金属ブラケット1に固定された第1の軸受5aが配置されている。第2の金属ブラケット2の中央部には、第2の金属ブラケット2に固定された第2の軸受5bが配置されている。シャフト4は、第1の軸受5aと第2の軸受5bとにより、支持され回転する。
回転体9は、回転子鉄心8と永久磁石であるマグネット11とを有する。回転子10は、回転体9とシャフト4とを有する。固定子18は、固定子鉄心6と固定子巻線3とを有する。
第1の金属ブラケット1と固定子巻線3に電圧を加える駆動回路のゼロ基準電位N(12)との間に、静電容量C
nb1の容量性部材15が設けられている。
ここでは、第1の金属ブラケット1及び第2の金属ブラケット2のいずれか一方のブラケットとは、第1の金属ブラケット1として、他方のブラケットとは、第2の金属ブラケット2として説明する。
【0029】
図2は、
図1の電動機50の静電容量分布のモデルを示した図である。
左側の固定子18側において、第1の金属ブラケット1とゼロ基準電位N(12)との間に静電容量C
nb1の容量性部材15が設けられている。固定子巻線3と第1の金属ブラケット1との間の静電容量は、C
sb1である。第1の軸受5aの固定子18側において、静電容量C
sb1と静電容量C
nb1とは、直列回路XX1を構成する。固定子18側の直列回路XX1の分圧比R
X1は、静電容量C
sb1/静電容量C
nb1である。分圧比R
X1のことを、単に、静電容量C
sb1と静電容量C
nb1の比R
X1(C
sb1/C
nb1)と呼んでもよい。
固定子巻線3と第2の金属ブラケット2との間の静電容量は、C
sb2である。第2の金属ブラケット2と固定子巻線3に電圧を加える駆動回路のゼロ基準電位N(12)との間の静電容量は、C
nb2である。静電容量C
sb2と静電容量C
nb2とは、直列回路XX2を構成する。固定子18側の直列回路XX2の分圧比R
X2は、静電容量C
sb2/静電容量C
nb2である。分圧比R
X2のことを、単に、静電容量C
sb2と静電容量C
nb2の比R
X2(C
sb2/C
nb2)と呼んでもよい。
固定子18側において、直列回路XX1と直列回路XX2とは、並列回路を構成している。直列回路XX1及び直列回路XX2には、固定子巻線3に印加される電圧V
comが引加される。
右側の回転子10側において、固定子巻線3と固定子鉄心6との間の静電容量C
iと、固定子鉄心6とマグネット11との間の静電容量C
gと、固定子巻線3とマグネット11間の静電容量C
smと、マグネット11の静電容量C
mとは、直列及び/又は並列に回路構成され、直列並列合成回路が構成される。直列並列合成回路の静電容量は、直列並列合成静電容量B1(以下、単に、合成静電容量B1と言う)である。
シャフト4と駆動回路のゼロ基準電位N(12)との間の静電容量は、C
nsである。 第1の軸受5a及び第2の軸受5bの回転子10側において、合成静電容量B1と静電容量C
nsとは、直列回路YY1を構成する。回転子10側の直列回路YY1の分圧比R
Y1は、合成静電容量B1/静電容量C
nsである。分圧比R
Y1のことを、単に、合成静電容量B1と静電容量C
nsの比R
Y1(B1/C
ns)と呼んでもよい。
直列回路YY1は、直列回路XX1及び直列回路XX2と並列回路を構成する。直列回路YY1には、固定子巻線3に印加される電圧V
comが引加される。
上記したように、本発明者らは、第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2を低減するには、固定子側の静電容量分布と回転子側の静電容量分布を一致もしくは近似させることが有効であるということを見出した。
本開示においては、第1の金属ブラケット1と固定子巻線3に電圧を加える駆動回路のゼロ基準電位N(12)との間に、静電容量C
nb1の容量性部材15を設け、比R
X1(C
sb1/C
nb1)と比R
Y1(B1/C
ns)とを近似、又は一致させる。さらに、比R
X2(C
sb2/C
nb2)と比R
X1(C
sb1/C
nb1)とを近似、又は一致させることで、固定子側の静電容量分布と、回転子側の静電容量分布との整合をとり(一致もしくは近似させる)、軸電圧を低減するものである。
以上の考察に基づき、本発明者らは、以下に説明する本開示の態様に想到した。
【0030】
本開示の一態様に係る電動機は、
固定子巻線を巻装した固定子鉄心を含む固定子と、
前記固定子に対向して周方向に複数のマグネットを保持する、又は、中央からスポーク状に複数のマグネットを保持する回転体と、
前記回転体と、前記回転体の中央を貫通するように前記回転体を締結したシャフトとを含む回転子と、
前記回転体を支持する第1の軸受及び第2の軸受と、
前記第1の軸受を固定する第1の金属ブラケットと、前記第2の軸受を固定する第2の金属ブラケットとを備えた電動機であって、
前記第1の金属ブラケット及び前記第2の金属ブラケットのいずれか一方のブラケットと、前記固定子巻線に電圧を加える駆動回路のゼロ基準電位との間に静電容量Cnb1の容量性部材を設け、
前記固定子側の前記固定子巻線と、前記一方のブラケットとの間の静電容量をCsb1と定義し、
前記固定子巻線と前記固定子鉄心との間の静電容量Ciと、前記固定子鉄心と前記マグネットとの間の静電容量Cgと、前記固定子巻線と前記マグネットとの間の静電容量Csmと、前記マグネットの静電容量Cmを含む回転子側の静電容量を合成静電容量B1と定義し、
前記駆動回路のゼロ基準電位と前記シャフト間との間の静電容量をCnsと定義し、
前記固定子側の前記固定子巻線と、前記第1の金属ブラケット及び前記第2の金属ブラケットのいずれか他方のブラケットとの間の静電容量をCsb2と定義し、
前記他方のブラケットと前記固定子巻線に電圧を加える駆動回路のゼロ基準電位との間の静電容量をCnb2と定義する時、
前記静電容量Csb1と前記静電容量Cnb1の比RX1(Csb1/Cnb1)と、前記合成静電容量B1と前記静電容量Cnsの比RY1(B1/Cns)とが近似し、又は一致し、
前記静電容量Csb2と前記静電容量Cnb2の比RX2(Csb2/Cnb2)と、前記静電容量Csb1と前記静電容量Cnb1の比RX1(Csb1/Cnb1)とが近似し、又は一致している。
上記態様によれば、容量性部材の静電容量Cnb1を調整して、前記比RX1(Csb1/Cnb1)と前記比RY1(B1/Cns)とを近似、又は一致させ、さらに、前記比RX2(Csb2/Cnb2)と前記比RX1(Csb1/Cnb1)とを近似、又は一致させることで、固定子側の静電容量分布と回転子側の静電容量分布を近似、又は一致させ、電動機における軸受の電食の発生を抑制することができる。
【0031】
以下、本開示のより具体的な実施形態を説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明において、同一または類似する構成要素については、同じ参照符号を付している。
【0032】
(実施形態1)
以下、本開示の一態様を示す電動機について図面を用いて説明する。
【0033】
図1は、本開示の一態様を示すインナーロータ型でブラシレスラジアル型の電動機50の断面の概略構成図である。
図1に示すように、電動機50の両端には、導電性を有する第1の金属ブラケット1と導電性を有する第2の金属ブラケット2とが配置されている。第2の金属ブラケット2の外径は、第1の金属ブラケット1の外径と同じか、又は大きい。そのことにより、安定に軸受が支承されシャフト4を回転できる。
第1の金属ブラケット1と第2の金属ブラケット2の中央部には、第1の金属ブラケット1に固定された第1の軸受5aと、第2の金属ブラケット2に固定された第2の軸受5bが配置されている。シャフト4は、第1の軸受5aと第2の軸受5bとにより、支持され回転する。シャフト4は、第2の金属ブラケット2から突出している。
固定子18は、回転磁界を発生させ、回転磁界により回転子10を回転させるものである。固定子18の内側には、固定子18と空隙を介して回転子10が挿入されている。
固定子18は、固定子鉄心6と巻線である固定子巻線3とを有する。固定子鉄心6には、固定子鉄心6を絶縁するための樹脂7が介在して、固定子巻線3が巻装されている。そして、固定子18は、第1の金属ブラケット1及び第2の金属ブラケット2等の他の固定部材ともに樹脂でモールド成型されている。実施形態1では、これらの部材をモールド一体成型することにより、外形が概略円筒形状をなす固定子18が構成されている。モールド一体成型したものは、電動機50の筐体としての機能としても働く。第1の金属ブラケット1及び第2の金属ブラケット2は、固定子鉄心6と、空間とにより絶縁されていてもよい。
回転子10は、電動機50において回転するもので、シャフト4と回転体9とを有する。回転体9は、回転子鉄心8とフェライト磁石である永久磁石のマグネット11とを有する。回転子10は、回転子鉄心8の外周に複数のマグネット11を保持し、回転子鉄心8の中央を貫通するようにシャフト4を有する。又、回転子10は、固定子18に対向し、中央からスポーク状に配置される複数のマグネット11を保持していてもよい。
【0034】
シャフト4には、シャフト4を支持する第1の軸受5a及び第2の軸受5bが取り付けられている。第1の軸受5a及び第2の軸受5bは、複数の鉄ボールを有した円筒形状のベアリングであり、第1の軸受5a及び第2の軸受5bの内輪側が、シャフト4に固定されている。
【0035】
そして、第1の軸受5a及び第2の軸受5bは、それぞれ導電性を有した第1の金属ブラケット1及び第2の金属ブラケット2により、第1の軸受5a及び第2の軸受5bの外輪側が固定されている。
図1では、第1の金属ブラケット1に第1の軸受5aが固定され、第2の金属ブラケット2に第2の軸受5bが固定され、シャフト4は、第1の軸受5a及び第2の軸受5bに支持され、回転子10が回転自在に回転する。シャフト4と、第1の軸受5aの内輪と、第2の軸受5bの内輪とは、電気的に導通している。
【0036】
さらに、この電動機50の内部に、回転磁界を発生させる駆動回路(図示せず)を実装したプリント基板12が、回転子10と第2の金属ブラケット2との間に配置されている。例えば、駆動回路には、固定子巻線3に電圧を印加するためにインバータ回路等が実装されている。
【0037】
以上のように構成された電動機50に対して、駆動回路より電圧を固定子巻線3に印加することにより、固定子巻線3に電流が流れ、固定子鉄心6から磁界が発生する。そして、固定子鉄心6からの回転磁界とマグネット11から磁界とにより、それらの磁界の極性に応じて吸引力および反発力が生じ、これらの力によってシャフト4を中心に回転子10が回転する。
【0038】
そして、
図1に示すように、第1の金属ブラケット1と駆動回路のゼロ基準電位N(12)との間に、静電容量C
nb1の容量性部材15が設けられている。
容量性部材15の両端には、導線である導通部材13が接続されている。
容量性部材15の右側に接続している導通部材13の一方の端部が、第1の金属ブラケット1と電気的に接続され、導通部材13の他方の端部が、容量性部材15と電気的に接続されている。容量性部材15の左側に接続している導通部材13の一方の端部が、容量性部材15と電気的に接続され、導通部材13の他方の端部が駆動回路のゼロ基準電位N(12)と電気的に接続されている。
【0039】
容量性部材15は、例えば、セラミックコンデンサである。容量性部材15は、例えば、PBT等の樹脂の両側に電極を設けた成型品である。容量性部材15は、電荷を蓄えるものであればよく、特に形態は限定されない。容量性部材15の静電容量は、Cnb1である。
容量性部材15は、電動機50の内部であればどこに配置されていてもよく、例えば、電動機50の筐体と固定子18との間に配置され、筐体の内壁に配置されている。
【0040】
図2は、実施形態1の電動機50の静電容量分布のモデル図である。
図2において、中央に位置する第1の軸受5a及び第2の軸受5bを境にして、左側が固定子18側の静電容量分布を表し、右側が回転子10側の静電容量分布を表している。
駆動回路により固定子巻線3に印加される電圧V
comは、中性点電位S(3)とゼロ基準電位N(12)との電位差である。
左側の固定子18側において、第1の金属ブラケット1とゼロ基準電位N(12)との間に静電容量C
nb1の容量性部材15が設けられている。固定子巻線3と第1の金属ブラケット1との間の静電容量は、C
sb1である。第1の軸受5aの固定子18側において、静電容量C
sb1と静電容量C
nb1とは、直列回路XX1を構成する。固定子18側の直列回路XX1の分圧比R
X1は、静電容量C
sb1/静電容量C
nb1である。
固定子巻線3と第2の金属ブラケット2との間の静電容量は、C
sb2である。第2の金属ブラケット2と固定子巻線3に電圧を加える駆動回路のゼロ基準電位N(12)との間の静電容量は、C
nb2である。静電容量C
sb2と静電容量C
nb2とは、直列回路XX2を構成する。固定子18側の直列回路XX2の分圧比R
X2は、静電容量C
sb2/静電容量C
nb2である。
【0041】
固定子18側において、直列回路XX1と直列回路XX2とは、並列回路を構成している。直列回路XX1及び直列回路XX2には、固定子巻線3に印加される電圧Vcomが引加される。
右側の回転子側において、固定子巻線3と固定子鉄心6との間の静電容量Ciと、固定子鉄心6とマグネット11との間の静電容量Cgと、固定子巻線3とマグネット11間の静電容量Csmと、マグネット11の静電容量Cmとは、直列及び/又は並列に回路構成され、直列並列合成回路が構成される。直列並列合成回路の静電容量は、合成静電容量B1である。
【0042】
シャフト4と駆動回路のゼロ基準電位N(12)との間の静電容量は、Cnsである。 第1の軸受5a及び第2の軸受5bの回転子10側において、合成静電容量B1と静電容量Cnsとは、直列回路YY1を構成する。回転子10側の直列回路YY1の分圧比RY1は、合成静電容量B1/静電容量Cnsである。
直列回路YY1は、直列回路XX1及び直列回路XX2と並列回路を構成する。直列回路YY1には、固定子巻線3に印加される電圧Vcomが引加される。
【0043】
固定子18側の静電容量分布と回転子10側の静電容量分布を整合(近似、又は一致)させるためには、下記条件1及び条件2を満たすように、容量性部材15の静電容量Cnb1を調整する。
(条件1) 直列回路XX1の分圧比RX1(Csb1/Cnb1)と直列回路YY1の分圧比RY1(B1/Cns)とを近似、又は一致させる。
(条件2) 直列回路XX2の分圧比RX2(Csb2/Cnb2)と直列回路XX1の分圧比RX1(Csb1/Cnb1)とを近似、又は一致させる。
【0044】
図3は、容量性部材15の静電容量C
nb1の値を変えて、第1の軸受5aの軸電圧V
sh1(以下、第1の軸電圧V
sh1と言う)及び第2の軸受5bの第2の軸電圧V
sh2(以下、第2の軸電圧V
sh2と言う)を測定した実験結果である。
実験において、マグネット11の静電容量C
mが21pF、回転子10の直径が51mm、第1の軸受5a及び第2の軸受5bには、ミネベア製608を使用した。この時の回転体9の静電容量は、10pFである。
第1の軸受5a及び第2の軸受5bのグリースは、ちょう度が239のものを使用した。固定子巻線3の中性点電位S(3)の電源電圧を391Vとし、回転数1000r/minにて、回転子10を回転させた。
【0045】
図3において、横軸は、容量性部材15の静電容量C
nb1の値である。
図3の左側の縦軸は、第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2である。
図3の右側の縦軸は、分圧比R
X1(C
sb1/C
nb1)と分圧比R
Y1(B1/C
ns)の比(R
X1/R
Y1)、及び分圧比R
X2(C
sb2/C
nb2)と分圧比R
X1(C
sb1/C
nb1)の比(R
X2/R
X1)である。
第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2の測定は、第1の軸受5a及び第2の軸受5bの外輪を基準に内輪の電圧を測定し、外輪に対し内輪の電圧が高い場合をプラス、外輪に対し内輪の電圧が低い場合をマイナスとした。
第1の軸電圧V
sh1のグラフは、実線の黒丸のグラフであり、第2の軸電圧V
sh2のグラフは、実線の黒い四角のグラフである。比(R
X1/R
Y1)のグラフは、点線の黒い四角のグラフであり、比(R
X2/R
X1)のグラフは、点線の黒丸のグラフである。
【0046】
図3より、第1の軸電圧V
sh1のグラフ(実線の黒丸のグラフ)は、
図3の左下から右上に延びるグラフである。第2の軸電圧V
sh2のグラフ(実線の黒い四角のグラフ)は、
図3の左上から右下に延びるグラフである。
図3から明らかなように、静電容量C
nb1の値が小さい場合は、第1の軸電圧V
sh1はマイナスの小さな電圧となり、第2の軸電圧V
sh2はプラスの大きな電圧となる。静電容量C
nb1の値を大きくしていくと、第1の軸電圧V
sh1は徐々に大きな値となり、第2の軸電圧V
sh2は徐々に小さな値となることが分かる。
第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2は、第1の軸受5a及び第2の軸受5bの外輪の電圧と内輪の電圧との間の電位差である。
図3に示す様に、静電容量C
nb1を調整することで、第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2は、一般的な軸受のグリースの絶縁破壊の目安とされる±5V以下(|5V|以下)まで減少させることができた。この時、第1の軸受5a及び第2の軸受5bのグリース油膜の絶縁破壊の現象である軸電圧波形の波形崩れが、生じないことも確認した。
【0047】
図3において、例えば、回転体9の静電容量が10pFの時、第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2が|5V|以下を満たす容量性部材15の静電容量C
nb1の範囲は、10.0pF以上16.3pF以下である。
この時、
図3の比(R
X1/R
Y1)のグラフより、比(R
X1/R
Y1)の範囲は、0.6以上1.0以下である。つまり、静電容量C
nb1を調整して、比R
X1(C
sb1/C
nb1)と比R
Y1(B1/C
ns)とを近似、又は一致させることができる。
図3の比(R
X2/R
X1)のグラフより、比(R
X2/R
X1)の範囲は、0.75以上1.25以下である。つまり、静電容量C
nb1を調整して、比R
X2(C
sb2/C
nb2)と比R
X1(C
sb1/C
nb1)とを近似、又は一致させることができる。
尚、第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2が|5V|以下を満たす容量性部材15の静電容量C
nb1の範囲は、回転体9の静電容量によって変化する。
【0048】
上記のメカニズムについて、
図2を用いて詳細に説明する。
図2に示すように、本開示は、第1の金属ブラケット1と駆動回路のゼロ基準電位N(12)との間に静電容量C
nb1を有する容量性部材15が設けられている。
直列回路XX1、直列回路XX2及び直列回路YY1は、並列回路を構成し、固定子巻線3に印加される電圧V
comが引加される。
図3に示すように、静電容量C
nb1を増加させていくと、点線の黒い四角のグラフである比(R
X1/R
Y1)が、左上から右下に変化する。そして、第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2の電圧が|5V|の範囲に入る比(R
X1/R
Y1)の領域は、0.6以上1.0以下であることが分かる。よって、静電容量C
nb1を調整して、分圧比R
X1(C
sb1/C
nb1)と分圧比R
Y1(B1/C
ns)とについて整合させることができる。
図3に示すように、静電容量C
nb1を増加させていくと、点線の黒丸のグラフである比(R
X2/R
X1)が、左下から右上に変化する。そして、第1の軸電圧V
sh1及び第2の軸電圧V
sh2の電圧が|5V|の範囲に入る比(R
X2/R
X1)の領域は、0.75以上1.25以下であることが分かる。よって、静電容量C
nb1を調整して、分圧比R
X2(C
sb2/C
nb2)とについて整合させることができる。
【0049】
以上まとめると、容量性部材15の静電容量Cnb1を調整して、下記の条件1及び条件2を満たすことで、固定子18側の静電容量分布と回転子10側の静電容量分布を整合(近似、又は一致)させることができる。その結果、第1の軸電圧Vsh1及び第2の軸電圧Vsh2が低減され、電食を抑制する効果が得られる。
(条件1) 直列回路XX1の分圧比RX1(Csb1/Cnb1)と直列回路YY1の分圧比RY1(B1/Cns)とを近似、又は一致させる。
(条件2) 直列回路XX2の分圧比RX2(Csb2/Cnb2)と直列回路XX1の分圧比RX1(Csb1/Cnb1)とを近似、又は一致させる。
【0050】
実施形態1に係る電動機50は、電動機50の内部の空いた箇所に、容量性部材15を容易に取り付けることができるので、製造性に優れている。
又、実施形態1に係る電動機50は、容量性部材15がコンパクトであるため、電動機50の外径寸法、形状が大きくなることもない。
(変形例)
図4は、変形例を示す電動機50の断面の概略構成図である。
図1と異なる点は、
図4に示すように、第1の金属ブラケット1と固定子巻線3との間に、プリント基板12を配置した点である。そして、第2の金属ブラケット2と、固定子巻線3に電圧を加える駆動回路のゼロ基準電位N(12)との間に、静電容量C
nb2の容量性部材15を配置した点である。
図4の電動機50の静電容量分布のモデル図は、
図2の静電容量C
nb2を静電容量C
nb2の容量性部材15に置き換えたものとなる。又、
図2の静電容量C
nb1の容量性部材15は、単なる静電容量C
nb1となる。
(実施形態2)
本開示にかかる電気機器の例として、エアコン室内機の構成を実施形態2として、詳細に説明する。本開示にかかる電気機器は、必ずしもこれらの一例に限定されるものではない。
【0051】
図5において、エアコン室内機110の筐体111内には、ブラシレスモータ101が備えられている。そのブラシレスモータ101の回転軸には、送風ファンであるクロスフローファン112が取り付けられている。ブラシレスモータ101は、モータ駆動装置113によって駆動される。モータ駆動装置113からの通電により、ブラシレスモータ101が回転し、それに伴いクロスフローファン112が回転する。そのクロスフローファン112の回転により、室内機用熱交換器(図示せず)によって、空気調和された空気を室内に送風する。ブラシレスモータ101に、上記した実施形態1の電動機50が適用できる。
【0052】
本開示の電気機器は、ブラシレスモータと、そのブラシレスモータが搭載された筐体とを備え、ブラシレスモータとして、上記した実施形態1の電動機50を採用したものである。
(実施形態3)
本開示にかかる電気機器の例として、エアコン室外機の構成を実施形態3として、詳細に説明する。
【0053】
図6において、エアコン室外機201は、筐体211の内部にブラシレスモータ208を備えている。そのブラシレスモータ208は、回転軸に送風ファン212を取り付けている。
【0054】
エアコン室外機201は、筐体211の底板202に立設した仕切り板204により、圧縮機室206と熱交換器室209とに区画されている。圧縮機室206には、圧縮機205が設けられている。熱交換器室209には、熱交換器207及び送風ファンモータが配設されている。仕切り板204の上部には電装品箱210が設けられている。
【0055】
その送風用ファンモータは、電装品箱210内に収容されたモータ駆動装置により、駆動されるブラシレスモータ208の回転に伴い、送風ファン212が回転し、熱交換器207を通して熱交換器室209に送風する。ブラシレスモータ208に、上記した実施形態1の電動機50が適用できる。
【0056】
本開示の電気機器は、ブラシレスモータと、そのブラシレスモータが搭載された筐体とを備え、ブラシレスモータとして、上記した実施形態1の電動機50を採用したものである。
(実施形態4)
本開示にかかる電気機器の例として、給湯器の構成を実施形態4として、詳細に説明する。
【0057】
図7において、給湯器330の筐体331内には、ブラシレスモータ333を備えている。そのブラシレスモータ333の回転軸には、送風ファン332が取り付けられている。
【0058】
ブラシレスモータ333は、モータ駆動装置334によって駆動される。モータ駆動装置334からの通電により、ブラシレスモータ333が回転し、それに伴い送風ファン332が、回転する。その送風ファン332の回転により、燃料気化室(図示せず)に対して燃焼に必要な空気を送風する。ブラシレスモータ333に、上記した実施形態1の電動機50が適用できる。
【0059】
本開示の電気機器は、ブラシレスモータと、そのブラシレスモータが搭載された筐体とを備え、ブラシレスモータとして、上記した実施形態1の電動機50を採用したものである。
【0060】
尚、実施形態1の
図1において、容量性部材15を電動機50の内部に配置したが、
図8に示すように、容量性部材15は、電動機50の外部に配置してもよい。容量性部材15は、電動機50の外部であればどこに配置されていてもよく、例えば、電動機50の筐体の外壁に配置されている。又、容量性部材15は、例えば、電動機50から離れた位置に設けられてもよい。
図8において、左側の導通部材13は、プリント基板12に備えられた駆動回路のゼロ基準電位N(12)と容量性部材15とを電気的に接続するものである。左側の導通部材13は、電動機50の筐体の設けられた開口部(図示せず)を通って、電動機50の内部から電動機50の外部に至る。右側の導通部材13は、容量性部材15と第1の金属ブラケット1とを電気的に接続するもので、電動機50の筐体の外部に配置される。
このことにより、さらに電動機50をコンパクトにできる。
図8の態様は、実施形態1に限られることなく、実施形態2~4にも適用可能である。
尚、実施形態1の
図1において、駆動回路を備えたプリント基板12を電動機50の内部に設けたが、駆動回路を備えたプリント基板12を電動機50の外部に設けてもよい。その場合、電動機50をコンパクトにできる。
尚、実施形態2~4に、電動機50が回転するものとして、送風ファンを使用したが、電動機50で回転されるものであればよく、特に限定されない。
尚、実施形態1~4に係る発明は、矛盾が生じない限り、置き換えたり、組合せたりすることができる。
【0061】
以上のように、本開示は、以下の項目に記載の電動機及びその電動機を備えた電気機器を含む。
【0062】
〔項目1〕
固定子巻線を巻装した固定子鉄心を含む固定子と、
前記固定子に対向して周方向に複数のマグネットを保持する、又は、中央からスポーク状に複数のマグネットを保持する回転体と、
前記回転体と、前記回転体の中央を貫通するように前記回転体を締結したシャフトとを含む回転子と、
前記回転体を支持する第1の軸受及び第2の軸受と、
前記第1の軸受を固定する第1の金属ブラケットと、前記第2の軸受を固定する第2の金属ブラケットとを備えた電動機であって、
前記第1の金属ブラケット及び前記第2の金属ブラケットのいずれか一方のブラケットと、前記固定子巻線に電圧を加える駆動回路のゼロ基準電位との間に静電容量Cnb1の容量性部材を設け、
前記固定子側の前記固定子巻線と、前記一方のブラケットとの間の静電容量をCsb1と定義し、
前記固定子巻線と前記固定子鉄心との間の静電容量Ciと、前記固定子鉄心と前記マグネットとの間の静電容量Cgと、前記固定子巻線と前記マグネットとの間の静電容量Csmと、前記マグネットの静電容量Cmを含む回転子側の静電容量を合成静電容量B1と定義し、
前記駆動回路のゼロ基準電位と前記シャフト間との間の静電容量をCnsと定義し、
前記固定子側の前記固定子巻線と、前記第1の金属ブラケット及び前記第2の金属ブラケットのいずれか他方のブラケットとの間の静電容量をCsb2と定義し、
前記他方のブラケットと前記固定子巻線に電圧を加える駆動回路のゼロ基準電位との間の静電容量をCnb2と定義する時、
前記静電容量Csb1と前記静電容量Cnb1の比RX1(Csb1/Cnb1)と、前記合成静電容量B1と前記静電容量Cnsの比RY1(B1/Cns)とが近似し、又は一致し、
前記静電容量Csb2と前記静電容量Cnb2の比RX2(Csb2/Cnb2)と、前記静電容量Csb1と前記静電容量Cnb1の比RX1(Csb1/Cnb1)とが近似し、又は一致している電動機。
【0063】
〔項目2〕
前記一方のブラケットが前記第1の金属ブラケットであり、前記他方のブラケットが前記第2の金属ブラケットである項目1に記載の電動機。
【0064】
〔項目3〕
前記比RX2(Csb2/Cnb2)と前記比RX1(Csb1/Cnb1)の比(RX2/RX1)の値が、0.75以上1.25以下である項目1又は2に記載の電動機。
【0065】
〔項目4〕
前記第1の金属ブラケット及び前記第2の金属ブラケットは、絶縁樹脂又は空間により、前記固定子鉄心と絶縁されている項目1乃至3のいずれかに記載の電動機。
【0066】
〔項目5〕
前記容量性部材が、前記電動機の内部に設けられた項目1乃至4のいずれかに記載の電動機。
【0067】
〔項目6〕
前記容量性部材が、前記電動機の外部に設けられた項目1乃至4のいずれかに記載の電動機。
【0068】
〔項目7〕
前記駆動回路を備えたプリント基板が、前記電動機の内部に設けられた項目1乃至6のいずれかに記載の電動機。
【0069】
〔項目8〕
前記駆動回路を備えたプリント基板が、前記電動機の外部に設けられた項目1乃至6のいずれかに記載の電動機。
【0070】
〔項目9〕
項目1乃至8のいずかに記載の電動機と前記電動機により駆動される送風ファンとを搭載した電気機器。
【符号の説明】
【0071】
1 第1の金属ブラケット
2 第2の金属ブラケット
3 固定子巻線
4 シャフト
5a 第1の軸受
5b 第2の軸受
6 固定子鉄心
7 樹脂
8 回転子鉄心
9 回転体
10 回転子
11 マグネット
12 プリント基板
13 導通部材
14 インピーダンス調整部材
15 容量性部材
18 固定子
20 誘電体層
50 電動機