(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021070
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】鋳造合金
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20230202BHJP
【FI】
C22C21/00 M
C22C21/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022121099
(22)【出願日】2022-07-29
(31)【優先権主張番号】21188809.4
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】522303641
【氏名又は名称】アルミニウム ラインフェルデン アロイズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スチュアート ヴィースナー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い電気伝導性と高強度を有するアルミ合金を提供する。
【解決手段】本発明の鋳造合金は、アルミニウム-鉄-ニッケルに基づき、以下の元素:鉄0.8~3.0重量%、ニッケル0.1~3.5重量%、ホウ素40~300ppm、亜鉛0~5重量%、錫0~5重量%、銅0~3重量%、マンガン0~1重量%、マグネシウム0~0.6重量%、リン0~500ppm、ケイ素0~0.4重量%、およびクロム、リチウム、バナジウム、チタン、カルシウム、モリブデンおよびジルコニウムから選択される元素または元素群を0~0.8重量%、ならびに残部のアルミニウムおよび不可避不純物からなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄 0.8~3.0重量%、
ニッケル 0.1~3.5重量%、
ホウ素 40~300ppm、
亜鉛 0~5重量%、
錫 0~5重量%、
銅 0~3重量%、
マンガン 0~1重量%、
マグネシウム 0~0.6重量%、
リン 0~500ppm、
ケイ素 0~0.4重量%、および
クロム、リチウム、バナジウム、チタン、カルシウム、モリブデンおよびジルコニウムから選択される元素または元素群を0~0.8重量%、ならびに残部のアルミニウムおよび不可避不純物からなる、
アルミニウム-鉄-ニッケルに基づく鋳造合金。
【請求項2】
1.0~2.5重量%の鉄により特徴づけられる請求項1記載の鋳造合金。
【請求項3】
1.2~2.0重量%の鉄により特徴づけられる請求項2記載の鋳造合金。
【請求項4】
1.4~1.9重量%の鉄により特徴づけられる請求項3記載の鋳造合金。
【請求項5】
0.3~3.0重量%のニッケルにより特徴づけられる請求項1記載の鋳造合金。
【請求項6】
0.8~2.0重量%のニッケルにより特徴づけられる請求項5記載の鋳造合金。
【請求項7】
70~200ppmのホウ素により特徴づけられる請求項1記載の鋳造合金。
【請求項8】
100~160ppmのホウ素により特徴づけられる請求項7記載の鋳造合金。
【請求項9】
0~0.3重量%のケイ素により特徴づけられる請求項1記載の鋳造合金。
【請求項10】
0.2~3重量%の銅、例えば1.0~3.0重量%の銅により特徴づけられる請求項1記載の鋳造合金。
【請求項11】
0~3重量%の亜鉛、例えば0.5~4.0重量%の亜鉛により特徴づけられる請求項1記載の鋳造合金。
【請求項12】
0~0.4重量%のマグネシウム、例えば0.2~0.4重量%のマグネシウムにより特徴づけられる請求項1記載の鋳造合金。
【請求項13】
0~0.1重量%のマンガンにより特徴づけられる請求項1記載の鋳造合金。
【請求項14】
0~2.5重量%の錫、例えば0.2~2.5重量%の錫により特徴づけられる請求項1記載の鋳造合金。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の鋳造合金の、高圧ダイカスト鋳造のための、好ましくは電動機および熱交換器用の回転子および固定子、電子分野におけるまたは車両構造物における冷却および加熱素子の高圧ダイカストのための使用。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか1項に記載の鋳造合金から製造された高圧ダイカスト製品、好ましくは電動機および熱交換器用の回転子および固定子、電子分野におけるまたは車両構造物における冷却および加熱素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素を添加した、アルミニウム、鉄およびニッケルに基づく鋳造用合金に関する。さらに、本発明は、高圧ダイカストまたは重力ダイカストのための該合金の使用に関する。本発明の合金は、電動機および熱交換器用の回転子および固定子、エレクトロニック分野におけるまたは車両構造物における冷却素子および加熱素子の生産のために使用される。
【背景技術】
【0002】
高圧ダイカストにおける回転子アルミニウム(例えば99.7%Alの品質で)の使用は、長い間知られている。通常、金属体はダイカスト金型に置かれ、アルミニウム回転子または固定子がこの金属体の中に投じられる。このようにして、このような合金をキャスティングする際に生じる問題、とりわけ鋼への高い固着傾向や、そうでなければ鋳造金型の急速な摩耗を導くことが回避される。他の典型的な不利益は、高い引け(shrinkage)、非常に高い鋳込み温度(casting temperature)、乏しい機械的機械加工性(mechanical machinability)および特に低い強度である(例えば、合金Al99.7Eの20~40MPaのRpo.2)。
【0003】
高圧ダイカスト鋳造により製造された熱交換器については、AlSi型の合金、例えば合金AlSi9Sr(Castasil-21)がしばしば使用される。回転子アルミニウムと比較して、これらの合金型はキャスティングに良く適している。鋳造金型への固着傾向、引け、金型充填性および鋳込み温度は、より有利である。しかしながら、回転子アルミニウムと比べて低い電気および熱伝導性は不利である。熱処理を用いて、28MS/mまでの電気伝導性を達成することができ、そして熱伝導性は190(W/Km)である。そのような合金(Rop.2)の降伏強度は80~100MPaである。
【0004】
本出願人の特許である欧州特許第3235916号明細書は、AlMg4Fe2型の合金(Castaduct-42)を開示しており、これは自動車構造物における衝突関連構造部材に好ましく使用される。この合金の冶金の基礎は、Al3Fe共晶混合物である。電気伝導性は16~17MS/mである。
【0005】
先行技術において、高い伝導性と低い強度を有するアルミニウム合金があり、また、高い強度と低い伝導性を有する合金も存在する。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、先行技術から公知の合金の少なくとも1つの不利益を解消することである。
【0007】
本発明の合金の目的は、合金が、好ましくは少なくとも23MS/m、より好ましくは30MS/m超の電気伝導性を有することである。同時に、合金は、高い強度、好ましくは少なくとも74MPa、より好ましくは95MPa超のRpo.2を提供するべきである。
【0008】
別の目的は、良好なキャスティング性を有する合金組成物を提供することである。
【0009】
さらなる目的は、熱処理を必要とせず、なお所望の強度と伝導度とを維持する合金組成物を提供することである。
【0010】
さらなる目的は、機械加工、機械的接合に適し、または耐食性である合金組成物を提供することである。
【0011】
上記課題の少なくとも1つは、
鉄(Fe) 0.8~3.0重量%、
ニッケル(Ni) 0.1~3.5重量%、
ホウ素(B) 40~300ppm、
亜鉛(Zn) 0~5重量%、
錫(Sn) 0~5重量%、
銅(Cu) 0~3重量%、
マンガン(Mn) 0~1重量%、
マグネシウム(Mg) 0~0.6重量%、
リン(P) 0~500ppm、
ケイ素(Si) 0~0.4重量%、および
クロム(Cr)、リチウム(Li)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、カルシウム(Ca)、モリブデン(Mo)およびジルコニウム(Zr)から選択される元素または元素群を0~0.8重量%、ならびに残部のアルミニウムおよび不可避不純物からなる、
合金によって解決される。
【0012】
好ましい実施形態において、鉄の含有量は1.0~2.5重量%の間にある。
【0013】
さらに好ましい実施形態において、鉄の含有量は1.2~2.0重量%の間にある。
【0014】
さらに好ましい実施形態において、鉄の含有量は1.4~1.9重量%の間にある。
【0015】
さらに好ましい実施形態において、ニッケルの含有量は0.3~3.0重量%の間にある。
【0016】
さらに好ましい実施形態において、ニッケルの含有量は0.8~2.0重量%の間にある。
【0017】
さらに好ましい実施形態において、ホウ素の含有量は、70~200ppmの間にある。
【0018】
さらに好ましい実施形態において、ホウ素の含有量は、100~160ppmの間にある。
【0019】
さらに好ましい実施形態において、ホウ素の含有量は、80~150ppmの間にある。
【0020】
さらに好ましい実施形態において、ケイ素の含有量は0~0.3重量%の間にある。
【0021】
さらに好ましい実施形態において、銅の含有量は0.2~3重量%の間にある。
【0022】
さらに好ましい実施形態において、銅の含有量は1.0~3.0重量%の間にある。
【0023】
さらに好ましい実施形態において、亜鉛の含有量は0~3重量%の間にある。
【0024】
さらに好ましい実施形態において、亜鉛の含有量は0.5~4.0重量%の間にある。
【0025】
さらに好ましい実施形態において、マグネシウムの含有量は0~0.4重量%の間にある。
【0026】
さらに好ましい実施形態において、マグネシウムの含有量は0.2~0.4重量%の間にある。
【0027】
さらに好ましい実施形態において、マンガンの含有量は0~0.1重量%の間にある。
【0028】
さらに好ましい実施形態において、錫の含有量は0~2.5重量%の間にある。
【0029】
さらに好ましい実施形態において、錫の含有量は0.2~2.5重量%の間にある。
【0030】
本発明のさらなる実施態様によれば、鋳造合金は、高圧ダイカストのために、好ましくは電動機および熱交換器用の回転子および固定子、電子分野におけるまたは車両構造物における冷却素子および加熱素子の高圧ダイカストのために使用される。
【0031】
高圧ダイカスト製品、好ましくは電動機および熱交換器用の回転子および固定子、電子分野または車両構造物における冷却素子および加熱素子は、本発明の鋳造合金から製造される。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の合金のキャスティング性は、合金化元素、鉄およびニッケルを添加することにより達成され、それにより共晶相が形成される(共晶相は、合金のキャスティング性を改善する)。特に、Al9FeNi相が達成されるべきであり、文献によれば、1.75重量%のFeと1.25重量%のNiの組成を有する理想的な3成分系で生み出される。合金バリアントについては、Al3FまたはAl3Ni相も存在し得る。Al3Ni相は、高いNi含有量と同時に低いFe含有量で生じる。
【0033】
本発明によれば、Fe含有量は高いべきであり、Al3Fe共晶の少ない量と共にAl9FeNiの形成を促進する。このようにして、合金の固着する傾向は減少し、キャスティング性が改善される。
【0034】
Al9FeNi、Al3FeおよびAl3Niの3相は全て、顕微鏡写真において非常に微細で長い繊維状を示し、同様の共晶温度(640、650および655℃)を有する。結果として、それらは鋳造プロセスにおいてほぼ同時かつほぼ同じ場所に生成され、これらの相の混合をもたらすことができる。工業的に製造されたダイカスト部材も、多くの構造上の欠陥を示す。結果として、これら3つの相(Al9FeNi、Al3FeおよびAl3Ni)は、顕微鏡写真においてしばしば区別することが難しい。
【0035】
さらなる元素を添加しない限り、本発明の合金は、熱処理にほとんど反応しない。熱処理は、電気伝導性および熱伝導性に正の効果を奏することができる。冶金学的背景は、ほとんどの場合、追加的な元素の凝集と相の粗大化であり、アルファAlの良好な伝導性をもたらす。
【0036】
さらなる合金元素を添加することにより、合金の強度を増加させることができる。
【0037】
基本的に、アルファAl相の固溶強化(solid solution strengthening)が達成されるべきである。一般に、しかしながら、そのような固溶強化は、通常伝導性の減少をもたらす。そのため特定の元素のみが考慮される。
【0038】
Si含有量は、Si不含共晶とするために0.4重量%を超えるべきではない。このレベルまでは、アルファAl相での富化のみが予測され、わずかに強度を増加させることができる。
【0039】
約40~300ppmのホウ素の添加は、伝導性のわずかな増加をもたらす。冶金学的背景では、ホウ化物の形成であり、不純物の負の効果を減少させることができる。一方、そのようなホウ化物は、脱気中に放出可能であり、他方、それらは不純物の凝集をもたらし、したがってより高い伝導性(電気的および熱的伝導性)をもたらす。
【0040】
強度を増加させるための元素はMgである。Mgは、Feと相を形成せず、アルファAlに高い溶解性を示すが、伝導性(電気的および熱的伝導性)に負の作用を奏する。さらに、MgNi含有相が形成される可能性があり、Al9FeNi相の形成を妨害する。本発明の合金は、したがって、Mg不含、または少ない割合のMg、好ましくは最大0.6%のみを含む、のいずれかであるべきである。
【0041】
Siが合金中に存在する場合、Mg2Si相(またはその準安定バリアントの1つ)が形成され、強度が増加する。さらに、熱処理が可能となる。
【0042】
Znが本発明の合金の強度を増加させることが知られており、伝導性(電気的および熱的)への負の効果は限定されている。しかしながら、Mgの添加なしでは、強度における有意な効果は達成されない。MgおよびZnの両方が添加された場合、材料は硬くなり、強度が増加する。
【0043】
強度を増加させる、アルミニウムにおけるもう1つの元素は、元素Cuである。その伝導性に対する負の効果は、Mgのものよりも少ない。しかしながら、強度の有意な増加が、少量のMgを添加することによってのみCuと達成可能である。
【0044】
強度増加効果を有し得るさらなる元素は、Sn、Mn、Cr、Li、V、Ti、Ca、Ga、Bi、MoおよびZrである。
【実施例0045】
以下の表において、本発明の合金の種々の組成と3つの先行技術の合金、AlMg4Fe2、AlSi9Srおよび回転子Al99.7を示す。データは重量%(またはppm)である。0.01または0.02%またはさらに低いZnの値を、Znを含まない組成とみなすことができる。0.03または0.04%またはさらに低いSiの値を、Siを含まない組成とみなすことができる。
【0046】
高圧ダイカスト試料(C~E、IおよびJ、P、R~T、V~Z)について。機械的パラメータ(Rm、Rpo.2、A5)および電気伝導性を、3mmの厚さの高圧ダイカストプレートで測定した。少なくとも6つの引張試験または5つの電気伝導性測定からの平均値を表2に示す。
【0047】
比較試料として、バリアントIおよびJの両合金(Castaduct-42およびCastasil-21の名称で先行技術から公知)を示す。バリアントTは、Rotors-Al99.7の名称の別の公知の合金である。
【0048】
バリアントK~Oは、重力ダイカスト(GDC)である。機械的パラメータUTS(極限引張強さ)、YS(降伏力)およびE(A5破断時伸び(A5 elongation at break))に関する測定結果は、直径16mmのダイ金型を用いて測定された。電気伝導性は、別々に鋳造および機械加工された試料で測定された。少なくとも5つの引張試験または2つの伝導性測定からの平均値を表3に示す。
【0049】
【0050】
成果
高圧ダイカスト(HPC)、ステータスF
【表2】
【0051】