(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021107
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】正極活物質、その製造方法、およびこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20230202BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20230202BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20230202BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230202BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
H01M10/0566
H01M10/052
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173063
(22)【出願日】2022-10-28
(62)【分割の表示】P 2021514124の分割
【原出願日】2019-09-16
(31)【優先権主張番号】10-2018-0108883
(32)【優先日】2018-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(71)【出願人】
【識別番号】592000705
【氏名又は名称】リサーチ インスティチュート オブ インダストリアル サイエンス アンド テクノロジー
(71)【出願人】
【識別番号】511038879
【氏名又は名称】ポスコ ケミカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 クオン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】イ、 サン ヒョク
(72)【発明者】
【氏名】パク、 ジョン イル
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 チュン フン
(72)【発明者】
【氏名】ナム、 サン チョル
(57)【要約】 (修正有)
【課題】熱的安全性を改善した正極活物質、およびその製造方法を手提供する。
【解決手段】正極活物質、その製造方法、およびこれを含むリチウム二次電池に関し、一次粒子を含む二次粒子の形態であるリチウム金属酸化物粒子であり、前記二次粒子の表面は、一次粒子のc軸と;一次粒子の中心の仮想の点と二次粒子の中心点とを結ぶ直線との角度のうち狭い角度が70~90゜である板状形の一次粒子を含む正極活物質を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子を含む二次粒子の形態であるリチウム金属酸化物粒子であり、
前記二次粒子の表面は、前記一次粒子のc軸と;前記一次粒子の中心の仮想の点と前記
二次粒子の中心点とを結ぶ直線との角度のうち狭い角度が60~90゜である板状形の一
次粒子を含む、正極活物質。
【請求項2】
前記二次粒子の中心点における前記二次粒子の半径の50%基準の円のなす面積100
面積%に対して、
前記板状形の一次粒子の占める面積は、20面積%以上である、請求項1に記載の正極
活物質。
【請求項3】
前記二次粒子の中心点における前記二次粒子の半径の50%基準の円のなす面積100
面積%に対して、
前記面積内に存在する前記板状形の一次粒子の平均長さは、750nm~1.25μm
である、請求項2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記二次粒子の内部は、
前記一次粒子のc軸と;前記一次粒子の中心の仮想の点と前記二次粒子の中心点とを結
ぶ直線との角度のうち狭い角度が0゜以上および70゜未満である針状形の一次粒子を含
む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記二次粒子内の金属中におけるニッケルの含有量は、80モル%以上である、請求項
1に記載の正極活物質。
【請求項6】
共沈反応器内の金属塩水溶液を投入して金属前駆体を得る段階;および
前記金属前駆体およびリチウム原料物質を混合後に焼成して正極活物質を得る段階;
を含み、
前記共沈反応器内の金属塩水溶液を投入して金属前駆体を得る段階において、
全体反応時間100時間%に対して、反応終了時点1~30時間%の範囲で、pH条件
を変化させる、正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記共沈反応器内の金属塩水溶液を投入して金属前駆体を得る段階における反応開始p
Hと反応終了pHとの差は、0.1~0.8である、請求項6に記載の正極活物質の製造
方法。
【請求項8】
前記全体反応時間100時間%に対して、反応終了時点1~30時間%の範囲において
、pH条件が0.1~0.8高く調整される、請求項6に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記pH条件の調整速度は、0.0016~0.0133pH/minである、請求項
8に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載の正極活物質を含む正極;
負極活物質を含む負極;および
前記正極および負極の間に位置する電解質;を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
正極活物質、その製造方法、およびこれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、ITモバイル機器および小型電力駆動装置(e-bike、小型EVなど)の爆
発的な需要増大、走行距離400km以上の電気自動車へのニーズに後押しされ、これを
駆動するための高容量、高エネルギー密度を有する二次電池の開発が全世界的に活発に進
められている。
【0003】
このような高容量電池を製造するためには、高容量正極活物質を使用しなければならな
い。
現存する層状系(layered)正極活物質のうち最も容量の高い素材はLiNiO
2であるが(275mAh/g)、充放電時に構造の崩壊が起こりやすく、酸化水の問題
による熱的安定性が低くて商品化が難しいのが現状である。
【0004】
このような問題を解決するためには、不安定なNi siteに他の安定した遷移金属
(Co、Mnなど)を置換しなければならないが、このために、CoとMnが置換された
3元系NCM系が開発された。
しかし、3元系NCMの場合には、Niの含有量が増加するほど、熱的安全性が減少す
る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者らは、層状系二次粒子表面の一次粒子の構造を制御して、正極の表面
における電解液の分解反応を抑制する方法を提案する。これにより、正極活物質の熱的安
全性を改善することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態では、一次粒子を含む二次粒子の形態であるリチウム金属酸化物粒
子であり、前記二次粒子の表面は、前記一次粒子のc軸と;前記一次粒子の中心の仮想の
点と前記二次粒子の中心点とを結ぶ直線との角度のうち狭い角度が60~90゜である板
状形の一次粒子を含む、正極活物質を提供する。
【0007】
前記二次粒子の表面は、二次粒子の最外郭の、一次粒子がなしている部分を意味する。
【0008】
図1は、本発明の一実施形態による二次粒子の概略図である。
【0009】
図1のように、一次粒子の配列の方向を定義するために、一次粒子のc軸と、一次粒子
の中心の仮想の点と二次粒子の中心点とを結ぶ直線との角度のうち狭い角度が60~90
゜である板状形の一次粒子を板状形と定義する。より具体的には、70~90゜であって
もよい。
また、前記角度が0゜以上および60゜未満の一次粒子は、針状形と定義する。より具
体的には、0゜以上および20゜以下であってもよい。
【0010】
前記二次粒子の表面の板状形粒子によって、電解液との副反応を抑制して、正極活物質
の熱安定性を改善することができる。
【0011】
より具体的には、前記二次粒子の中心点における二次粒子の半径の50%基準の円のな
す面積100面積%に対して、前記板状形の一次粒子の占める面積は、20面積%以上で
あってもよい。より具体的には、30面積%以上であってもよい。
【0012】
具体的には、
図2は、本発明の一実施例による二次粒子のSEM写真である。
【0013】
図2に示されるように、二次粒子の中心部を基準として円を設定した後、その円内部の
板状形の一次粒子の面積を計算することができる。
このとき、
図2のように、板状形の一次粒子の占める面積は、20面積%以上であって
もよい。この場合、前述のように、電解液との副反応を効果的に制御することができる。
より好ましくは、50面積%以上であってもよいし、より好ましくは、70面積%以上で
あってもよい。上限は全体面積100面積%が板状形粒子であってもよいが、実際には一
部の針状形粒子が存在しており、板状形粒子が95面積%以下存在することができる。
【0014】
前記二次粒子の中心点における二次粒子の半径の50%基準の円のなす面積100面積
%に対して、前記面積内に存在する板状形の一次粒子の平均長さは、750nm~1.2
5μmであってもよい。
【0015】
板状形の一次粒子の長さは、粒子の最も長い方向の長さを意味する。一次粒子の平均長
さが前記範囲を満たす場合、目的の電池特性を確保することができる。
【0016】
また、前記二次粒子の内部は、前記一次粒子のc軸と;前記一次粒子の中心の仮想の点
と前記二次粒子の中心点とを結ぶ直線との角度のうち狭い角度が0以上および60゜未満
である針状形の一次粒子を含むことができる。より具体的には、0~20゜である針状形
の一次粒子であってもよい。
【0017】
より具体的には、二次粒子の内部は、針状形粒子が二次粒子の中心に向かって配列され
た放射状構造であってもよい。
【0018】
二次粒子内のニッケルの濃度が内部から表面の方向につれて減少する形態の濃度勾配を
有する場合に、このような内部方向型構造を形成することができる。
【0019】
この場合にも、二次粒子の内部のうち最中心部のコアは、ニッケルの濃度が一定の中心
部を含むことができる。これは、後述する前駆体の製造段階時、原料物質の配合方法で適
切に制御できる。
【0020】
より具体的には、前記二次粒子内の金属中におけるニッケルの含有量は、80モル%以
上であってもよい。既存のニッケルが50モル%以下である正極活物質では得られない高
出力特性のためにニッケルの濃度を高めることができる。
【0021】
本発明の他の実施形態では、共沈反応器内の金属塩水溶液を投入して金属前駆体を得る
段階;および前記金属前駆体およびリチウム原料物質を混合後に焼成して正極活物質を得
る段階;を含み、前記共沈反応器内の金属塩水溶液を投入して金属前駆体を得る段階にお
いて、全体反応時間100時間%に対して、反応終了時点1~30時間%の範囲で、pH
条件を変化させる、正極活物質の製造方法を提供する。
【0022】
より具体的には、共沈反応で前駆体を得る段階で反応終了時点のpHを変化させる方法
を提供することができる。このとき、反応終了時点は、全体反応時間100時間%のうち
最後の終了時間から1~30時間%を意味することができる。
【0023】
より具体的には、前記反応終了時点は、全体反応時間100時間%のうち最後の終了時
間から1~10時間%または1~5時間%であってもよい。
【0024】
これは、前述した本発明の一実施形態である正極活物質の表面の板状形の一次粒子の形
成に影響を与えることができ、目的のスペックに合うように適切に制御できる。
具体的には、前記共沈反応器内の金属塩水溶液を投入して金属前駆体を得る段階におけ
る反応開始pHと反応終了pHとの差は、0.1~0.8であってもよい。
【0025】
より具体的には、前記全体反応時間100時間%に対して、反応終了時点1~30時間
%の範囲において、pH条件が0.1~0.8高く調整可能である。この範囲を満たす場
合、二次粒子の表面に存在する板状形粒子が均等に形成できる。
【0026】
より具体的には、前記pH条件の調整速度は、0.0016~0.0133pH/mi
nであってもよい。より具体的には、0.0066~0.0133pH/minであって
もよい。
【0027】
このような工程条件については、後述する実施例でより具体的に説明する。
【0028】
本発明の他の実施形態では、前述した本発明の一実施形態による正極活物質を含む正極
;負極活物質を含む負極;および前記正極および負極の間に位置する電解質;を含むリチ
ウム二次電池を提供する。
【0029】
前記正極活物質に関する説明は、前述した本発明の一実施形態と同一であるので、省略
する。
【0030】
前記正極活物質層は、バインダーおよび導電材を含むことができる。
【0031】
前記バインダーは、正極活物質粒子を互いによく付着させ、また、正極活物質を電流集
電体によく付着させる役割を果たす。
【0032】
前記導電材は、電極に導電性を付与するために使用されるものであって、構成される電
池において、化学変化を起こすことなく電子伝導性材料であればいかなるものでも使用可
能である。
【0033】
前記負極は、集電体と、前記集電体上に形成された負極活物質層とを含み、前記負極活
物質層は、負極活物質を含む。
【0034】
前記負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に挿入/脱離可能な物質、リチウム
金属、リチウム金属の合金、リチウムをドープおよび脱ドープ可能な物質、または遷移金
属酸化物を含む。
【0035】
前記リチウムイオンを可逆的に挿入/脱離可能な物質としては、炭素物質であって、リ
チウムイオン二次電池で一般に使用される炭素系負極活物質はいかなるものでも使用可能
であり、その代表例としては、結晶質炭素、非晶質炭素またはこれらを共に使用すること
ができる。
【0036】
前記リチウム金属の合金としては、リチウムと、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、
Mg、Ca、Sr、Si、Sb、Pb、In、Zn、Ba、Ra、Ge、AlおよびSn
からなる群より選択される金属との合金が使用できる。
【0037】
前記リチウムをドープおよび脱ドープ可能な物質としては、Si、SiOx(0<x<
2)、Si-Y合金(前記Yは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族元素、14族
元素、遷移金属、希土類元素およびこれらの組み合わせからなる群より選択される元素で
あり、Siではない)、Sn、SnO2、Sn-Y(前記Yは、アルカリ金属、アルカリ
土類金属、13族元素、14族元素、遷移金属、希土類元素およびこれらの組み合わせか
らなる群より選択される元素であり、Snではない)などが挙げられる。
【0038】
前記遷移金属酸化物としては、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物などが挙
げられる。また、前記負極活物質層はバインダーを含み、選択的に導電材をさらに含んで
もよい。
【0039】
前記バインダーは、負極活物質粒子を互いによく付着させ、また、負極活物質を電流集
電体によく付着させる役割を果たす。
【0040】
前記導電材は、電極に導電性を付与するために使用されるものであって、構成される電
池において、化学変化を起こすことなく電子伝導性材料であればいかなるものでも使用可
能である。
【0041】
前記集電体としては、銅箔、ニッケル箔、ステレンス鋼箔、チタニウム箔、ニッケル発
泡体(foam)、銅発泡体、導電性金属がコーティングされたポリマー基材、およびこ
れらの組み合わせからなる群より選択されるものを使用することができる。
【0042】
前記負極と正極は、活物質、導電材および結着剤を溶媒中で混合して活物質組成物を製
造し、この組成物を電流集電体に塗布して製造する。このような電極の製造方法は、当該
分野にて広く知られた内容であるので、本明細書で詳しい説明は省略する。前記溶媒とし
ては、N-メチルピロリドンなどを使用することができるが、これに限定されるものでは
ない。
【0043】
前記電解質は、非水性有機溶媒とリチウム塩を含む。
【0044】
前記非水性有機溶媒は、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動可能な媒質の役
割を果たす。
【0045】
前記リチウム塩は有機溶媒に溶解して、電池内でリチウムイオンの供給源として作用し
て基本的なリチウム二次電池の作動を可能にし、正極と負極との間のリチウムイオンの移
動を促進する役割を果たす物質である。
【0046】
リチウム二次電池の種類によって正極と負極との間にセパレータが存在してもよい。こ
のようなセパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニリデンフルオラ
イドまたはこれらの2層以上の多層膜が使用可能であり、ポリエチレン/ポリプロピレン
の2層セパレータ、ポリエチレン/ポリプロピレン/ポリエチレンの3層セパレータ、ポ
リプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層セパレータなどのような混合多層膜
が使用できることはもちろんである。
【0047】
リチウム二次電池は、使用するセパレータと電解質の種類によってリチウムイオン電池
、リチウムイオンポリマー電池およびリチウムポリマー電池に分類され、形態によって円
筒形、角型、コイン型、パウチ型などに分類され、サイズによってバルクタイプと薄膜タ
イプとに分けられる。これら電池の構造と製造方法はこの分野にて広く知られているので
、詳しい説明は省略する。
【発明の効果】
【0048】
本発明の一実施形態による正極活物質は、反応性が低い板状面が電解液と接触し、これ
によって正極の表面における電解液の分解反応が抑制できる。
このような電解液の副反応の減少によって正極活物質の熱的安全性が向上する。
より具体的には、DSC分析時、ピーク温度は上昇し、総発熱量は減少して、熱的安全
性が向上した正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】本発明の一実施形態による二次粒子の概略図である。
【
図2】実施例1の正極活物質の表面部に存在する一次粒子の形状である。
【
図3】実施例3の正極活物質の表面部に存在する一次粒子の形状である。
【
図4】比較例1の正極活物質の表面部に存在する一次粒子の形状である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の実施形態を詳しく説明する。ただし、これは例として提示されるもので
あり、これによって本発明が制限されず、本発明は後述する請求範囲の範疇によってのみ
定義される。
【0051】
(実施例1)Ni88mol%の正極活物質の製造
1)金属塩溶液の製造
まず、ニッケル原料物質としてはNiSO4・6H2O、コバルト原料物質としてはC
oSO4・7H2O、マンガン原料物質としてはMnSO4・H2Oを用いて、Ni、C
o、およびMnの濃度が互いに異なる2つの金属塩水溶液を製造した。
コア部形成のための第1金属塩水溶液は、蒸留水内で(Ni0.98Co0.01Mn
0.01)(OH)2の化学量論的モル比を満たすように前記各原料物質を混合した。
これとは独立して、シェル部形成のための第2金属塩水溶液は、蒸留水内で(Ni0.
64Co0.23Mn0.13)(OH)2の化学量論的モル比を満たすように前記各原
料物質を混合した。
【0052】
2)共沈工程
2つの金属塩水溶液供給タンクが直列に連結された共沈反応器を用意し、それぞれの金
属塩水溶液供給タンクに前記第1金属塩水溶液および前記第2金属塩水溶液を装入した。
前記共沈反応器に蒸留水を入れた後、反応器の温度を一定に維持して撹拌した。
また、キレート剤としてNH4(OH)を用い、pH調整剤としてNaOH溶液を使用
した。
このとき、反応進行中の反応器内の初期pHを11.2に設定した。
【0053】
このようにpHが一定に維持されキレート剤が供給される反応器に、前記直列連結され
た2つの金属塩水溶液供給タンクから各金属塩溶液の投入時間および投入量を調節した。
具体的には、前記第1金属塩水溶液を0.4リットル/時間で投入しながら、沈殿物の
直径が約11.1μmになるまで共沈反応を行った。このとき、流量を調節して溶液の反
応器内の平均滞留時間は10時間程度となるようにし、反応が定常状態に到達した後に、
前記反応物に対して定常状態の持続時間を与えてより密度の高い共沈化合物を得るように
した。
【0054】
次に、前記第1金属塩水溶液と前記第2金属塩水溶液との混合比率を変更させながら、
全体供給溶液を0.4リットル/時間で投入し、前記第1金属塩水溶液の供給速度は0.
05リットル/時間で漸進的に減少させ、前記第2金属塩水溶液の供給速度は0.35リ
ットル/時間で漸進的に増加させた。この時、流量を調節して溶液の反応器内の平均滞留
時間は20時間以内となるようにし、最終的に沈殿物の直径が16.0μmになるまで共
沈反応を行った。
このとき、反応終了時点1時間前のpHを12.0の範囲に高く調整した。pH調整速
度は0.0133pH/minであった。
【0055】
3)後処理工程
前記一連の共沈工程により得られる沈殿物をろ過し、水で洗浄した後、100℃のオー
ブン(oven)にて24時間乾燥させて、粒子全体での組成が(Ni0.88Co0.
095Mn0.025)(OH)2であり、平均粒径が16.0μmである大粒径粒子の
活物質前駆体を製造した。
【0056】
4)焼成工程
コア-シェル濃度勾配があり、Ni0.88Co0.095Mn0.025(OH)2
の組成を有する前駆体と、ZrO2(Aldrich、4N、Zrの濃度3,400pp
m基準)、Al(OH)3(Aldrich、4N、Alの濃度基準140ppm)を均
一に混合し、その後、LiOH・H2O(Samchun Chemical、batt
ery grade)を1:1.05のモル比で再び混合した後、炉(furnace)
に装入して酸素を流入させながら焼成した。
【0057】
以後、自然冷却をし、粉砕分級により正極活物質を製造した。
【0058】
(実施例2)Ni88mol%の正極活物質の製造
原料物質を用意する際、(Ni0.88Co0.095Mn0.025)(OH)2の
モル比を満たすように用意した点、共沈工程で反応進行中の反応開始pHを11.2に調
整し、反応終了時点1時間前のpHを11.8の範囲に高く調整した点、およびpH調整
速度を0.01pH/minに調整した点を除けば、実施例1と同様に正極活物質を製造
した。
【0059】
(実施例3)Ni88mol%の正極活物質の製造
共沈工程で反応進行中の反応開始pHを11.2に調整し、反応終了時点1時間前のp
Hを11.6の範囲に調整した点、およびpH調整速度を0.0066pH/minに調
整した点を除けば、実施例2と同様に正極活物質を製造した。
【0060】
(実施例4)Ni88mol%の正極活物質の製造
共沈工程で反応進行中の反応開始pHを11.2に調整し、反応終了時点1時間前のp
Hを11.4の範囲に調整した点、およびpH調整速度を0.0033pH/minに調
整した点を除けば、実施例2と同様に正極活物質を製造した。
【0061】
(比較例1)Ni88mol%の正極活物質の製造
共沈工程で反応進行中のpHが11.0に維持されるようにした点を除けば、実施例2
と同様に正極活物質を製造した。
【0062】
【0063】
(実験例1)正極活物質の表面部の形状分析(SEM)
実施例1、実施例3、比較例1の正極活物質に対して、SEM分析により正極活物質の
表面部に存在する一次粒子の形状を観察した。
【0064】
図2は、実施例1の正極活物質の表面部に存在する一次粒子の形状であり、板状形の一
次粒子が正極活物質の表面部全体を均一に囲んでいることが確認された。一次粒子の板状
面(c軸面)は、Liの脱/挿入反応が起こらない面であるので、正極の表面における電
解液の分解反応が抑制されたと予想される。
【0065】
図3は、実施例3の正極活物質の表面部に存在する一次粒子の形状であり、板状形の一
次粒子と針状形の粒子とが正極活物質の表面部に混在している。
【0066】
図4は、比較例1の正極活物質の表面部に存在する一次粒子の形状であり、針状形の一
次粒子が均一に分布している。これは、通常正極活物質を製造したときに観察される形状
と類似している。
【0067】
(実験例2)正極活物質の断面部の形状分析(TEM)
実施例1、実施例3、比較例1の正極活物質をFIBで正極材の断面を切断し、TEM
分析装置で正極材の断面の一次粒子の形状分布を観察した。
【0068】
図5は、実施例1の正極活物質の断面の形状であり、
図6は、実施例3の正極活物質の
断面の形状であり、
図7は、比較例1の正極活物質の断面の形状である。
正極活物質内部の一次粒子の配列は、実施例1、実施例3、比較例1とも針状形粒子が
多数見られ、針状形粒子は二次粒子の中心に向かって配列された放射状形態を示す。
【0069】
しかし、正極活物質の表面部の一次粒子の配列の場合、比較例1は、内部と類似して針
状形形態を示しているが、実施例3の場合、板状形形態を示す一次粒子と針状形形態を示
す一次粒子とが混在したことを確認できる。
実施例1の正極活物質は、板状形粒子がより多いことを確認できる。
【0070】
実施例1~4および比較例1の正極活物質の表面部で板状形形態を有する一次粒子がど
れだけ表面部内の多くの面積を占めているかを検討した。
これについて、次の方法により確認した。
【0071】
図2のように、二次粒子のSEM写真を基準として、前記二次粒子の中心点における二
次粒子の半径の50%基準の円のなす面積100面積%に対して、板状形粒子の占める面
積を計算した。
【0072】
【0073】
(実験例3)充電状態での示差走査熱量測定(Differential Scanni
ng Calorimetry、DSC)
実施例1~4および比較例1の正極活物質をコインセルの製造および充電後にコインセ
ルを解体して、正極活物質に対してDSCにより熱的安全性の分析を行った。
【0074】
極板用スラリーは、正極:導電材(denka black):バインダー(PVDF
、KF1100)=92.5:3.5:4wt%であり、固形分が約30%となるように
NMP(N-Methyl-2-pyrrolidone)を添加してスラリーの粘度を
調整した。
製造されたスラリーは、15μmの厚さのAl箔上にドクターブレード方法でコーティ
ングした後、乾燥後に圧延した。
電極のローディング量は14.6mg/cm2であり、圧延密度は3.1g/cm3で
あった。電解液は1M LiPF6 inエチレンカーボネート:ジメチルカーボネート
:エチルメチルカーボネート=3:4:3(vol%)を使用し、ポリプロピレン分離膜
とリチウム負極(200um、Honzo metal)を用いてコインセルを製造した
。充電条件はCC/CV2.5~4.25V、1/20C cut-offの充電条件で
あった。
その後、ドライルームでコインセルを解体して正極活物質10mgを採取して、DSC
分析を行った。
【0075】
DSC分析は25℃から5℃/分で400℃まで昇温しながら発熱反応が始まるon-
set温度、発熱量がMaxになるpeak温度と総発熱量を分析した後、結果を下記表
3にまとめた。
【0076】
(実験例4)電気化学特性評価
実施例1~4および比較例1の正極活物質を実験例3と同様の方法で2032コイン型
半電池を製造した後、常温(25℃)で10時間エージング(aging)し、充放電テ
ストを行った。
【0077】
容量評価は215mAh/gを基準容量とし、充放電条件はCC/CV2.5~4.2
5V、1/20C cut-offを適用した。初期容量は0.2C充電/0.2C放電
条件で行った。
【0078】
【0079】
上記表3から、実施例の活物質がPeak温度は上昇し、総発熱量は減少して、熱的安
全性が向上したことが分かる。
【0080】
【0081】
上記表4から分かるように、本願の実施例による正極活物質は、表3のように熱安定性
が大きく改善されるにもかかわらず、比較例1と同等水準の充放電容量および効率を示す
ことが分かる。
【0082】
本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で製造可
能であり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的な思
想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施可能であることを理解するで
あろう。そのため、以上に述べた実施例はあらゆる面で例示的なものであり、限定的では
ないと理解しなければならない。
【手続補正書】
【提出日】2022-11-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子を含む二次粒子の形態であるリチウム金属酸化物粒子であり、
前記二次粒子の表面は、前記一次粒子のc軸と;前記一次粒子の中心の仮想の点と前記二次粒子の中心点とを結ぶ直線との角度のうち狭い角度が60~90゜である板状形の一次粒子を含み、
前記二次粒子の中心点における前記二次粒子の半径の50%基準の円のなす面積100面積%に対して、前記板状形の一次粒子の占める面積は、20面積%以上である、正極活物質。
【請求項2】
前記二次粒子の中心点における前記二次粒子の半径の50%基準の円のなす面積100面積%に対して、
前記面積内に存在する前記板状形の一次粒子の平均長さは、750nm~1.25μmである、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記二次粒子の内部は、
前記一次粒子のc軸と;前記一次粒子の中心の仮想の点と前記二次粒子の中心点とを結ぶ直線との角度のうち狭い角度が0゜以上および70゜未満である針状形の一次粒子を含む、請求項1または2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記二次粒子内の金属中におけるニッケルの含有量は、80モル%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の正極活物質の製造方法であって、
共沈反応器内の金属塩水溶液を投入して金属前駆体を得る段階;および
前記金属前駆体およびリチウム原料物質を混合後に焼成して正極活物質を得る段階;
を含み、
前記共沈反応器内の金属塩水溶液を投入して金属前駆体を得る段階において、
全体反応時間100時間%に対して、反応終了時点1~30時間%の範囲で、pH条件を変化させる、正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記共沈反応器内の金属塩水溶液を投入して金属前駆体を得る段階における反応開始pHと反応終了pHとの差は、0.1~0.8である、請求項5に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記全体反応時間100時間%に対して、反応終了時点1~30時間%の範囲において、pH条件が0.1~0.8高く調整される、請求項5または6に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記pH条件の調整速度は、0.0016~0.0133pH/minである、請求項7に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1項に記載の正極活物質を含む正極;
負極活物質を含む負極;および
前記正極および負極の間に位置する電解質;を含むリチウム二次電池。