(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021116
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】がん免疫療法のための新規PD-L1標的DNAワクチン
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20230202BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230202BHJP
C12N 15/79 20060101ALI20230202BHJP
A61K 35/763 20150101ALI20230202BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20230202BHJP
A61K 39/112 20060101ALI20230202BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230202BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230202BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230202BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230202BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230202BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230202BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20230202BHJP
【FI】
C12N1/21
C12N15/12 ZNA
C12N15/79 Z
A61K35/763
A61K39/00 H
A61K39/112
A61K45/00
A61K48/00
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/04
A61P43/00 121
C07K14/705
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022180850
(22)【出願日】2022-11-11
(62)【分割の表示】P 2019550795の分割
【原出願日】2018-03-16
(31)【優先権主張番号】17161666.7
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】17188941.3
(32)【優先日】2017-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】514158040
【氏名又は名称】バクシム アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】ハインツ リュベナウ
(57)【要約】
【課題】本発明は、PD-L1をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含むサルモネラの弱毒株に関する。具体的には、本発明は、がんの治療に使用するためのサルモネラの弱毒株に関する。
【解決手段】PD-L1をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含むサルモネラの弱毒株。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PD-L1をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含むサルモネラの弱毒株。
【請求項2】
請求項1に記載のサルモネラの弱毒株であって、ここで
(a)前記サルモネラの弱毒株は、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)種である;
(b)前記サルモネラの弱毒株は、サルモネラ・チフィTy21a(Salmonella typhi Ty21a)である;
(c)前記発現カセットは、真核生物発現カセットである;および/または
(d)前期発現カセットは、CMVプロモーターを含む、
である、サルモネラの弱毒株。
【請求項3】
PD-L1は、配列番号1において示されているアミノ酸配列を有するPD-L1、およびそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、
ならびに配列番号2において示されているアミノ酸配列を有するPD-L1、およびそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、
ならびに配列番号13において示されているアミノ酸配列を有するPD-L1、およびそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、
からなる群から選択され、
特にここで、PD-L1は配列番号1、配列番号2、または配列番号13において示されているアミノ酸配列を有する、
請求項1または2に記載のサルモネラの弱毒株。
【請求項4】
PD-L1が、配列番号3、配列番号4、または配列番号14において示されている核酸配列によってコードされている、請求項3に記載のサルモネラの弱毒株。
【請求項5】
前記DNA分子は、カナマイシン抗生物質耐性遺伝子、pMB1 ori、およびCMVプロモーターをさらに含み、特にここで、前記DNA分子は、配列番号5において示されているDNA配列を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のサルモネラの弱毒株。
【請求項6】
薬剤としての使用のための、請求項1~5のいずれか一項に記載のサルモネラの弱毒株。
【請求項7】
がんの治療における使用のための、請求項6に記載の使用のためのサルモネラの弱毒株。
【請求項8】
がん免疫療法における使用のための、請求項7に記載の使用のためのサルモネラの弱毒株。
【請求項9】
前記がんの治療は、化学療法、放射線療法または生物学的がん療法をさらに含み、特にここで前記サルモネラの弱毒株は、該化学療法または該放射線療法または該生物学的がん療法の前、間および/または後、より具体的には該化学療法または該放射線療法または該生物学的がん療法の前および間に投与される、請求項7または8に記載の使用のためのサルモネラの弱毒株。
【請求項10】
前記生物学的がん療法は、腫瘍抗原および/または腫瘍間質抗原をコードするさらなる発現カセットを含むさらなるDNA分子の少なくとも1コピーを含むサルモネラの少なくとも一つのさらなる弱毒株から特に選択される、腫瘍抗原および/または腫瘍間質抗原をコードする少なくとも一つのさらなるDNAワクチンの投与を含み、特にここで、該サルモネラの少なくとも一つのさらなる弱毒株は、さらなる真核生物の発現カセットを含むサルモネラ・チフィTy21a(Salmonella typhi Ty21a)である、請求項9に記載の使用のためのサルモネラの弱毒株。
【請求項11】
前記少なくとも一つのさらなるDNAワクチンによってコードされる前記腫瘍抗原は、ウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)、メソテリン(MSLN)、CEA、CMV pp65、からなる群から選択される、および/または、前記少なくとも一つのさらなるDNAワクチンによってコードされる前記腫瘍間質抗原は、VEGFR-2、またはヒト線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)である、請求項10に記載の使用のためのサルモネラの弱毒株。
【請求項12】
前記少なくとも一つのさらなるDNAワクチンによってコードされる前記腫瘍抗原は、
配列番号6において示されているアミノ酸配列を有するウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)、およびそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、
配列番号7において示されているアミノ酸配列を有するメソテリン(MSLN)、およびそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、
配列番号8において示されているアミノ酸配列を有するCEA、およびそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、
配列番号9において示されているアミノ酸配列を有するCMV pp65、およびそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、
配列番号10において示されているアミノ酸配列を有するCMV pp65、およびそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、および
配列番号11において示されているアミノ酸配列を有するCMV pp65、およびそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、
からなる群から選択される、ならびに
前記少なくとも一つのさらなるDNAワクチンによってコードされる前記腫瘍間質抗原は、
配列番号12において示されているアミノ酸配列を有するVEGFR-2、およびそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、およびヒト線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)からなる群から選択される、
請求項11に記載の使用のためのサルモネラの弱毒株。
【請求項13】
前記サルモネラの弱毒株は、経口投与される、請求項6~12のいずれか一項に記載の使用のためのサルモネラの弱毒株。
【請求項14】
前記がんは、リンパ腫、白血病、骨髄腫、肺がん、特に非小細胞肺がん(NSCLC)、黒色腫、腎細胞がん、卵巣がん、神経膠芽腫、メルケル細胞がん、膀胱がん、頭頸部がん、結腸直腸がん、食道がん(esophagial cancer)、子宮頸がん、胃がん、肝細胞がん、前立腺がん、乳がん、膵臓がん、および甲状腺がんから選択される、請求項7~13のいずれか一項に記載の使用のためのサルモネラの弱毒株。
【請求項15】
前記サルモネラの弱毒株の単回投与量は、約105~約1011、具体的には約106~約1010、より具体的には約106~約109、より具体的には約106~約108、最も具体的には約106~約107コロニー形成単位(CFU)を含む、請求項6~14のいずれか一項に記載の使用のためのサルモネラの弱毒株。
【請求項16】
PD-L1の発現パターン、および/または患者のPD-L1に対する前免疫応答を評価する工程を含む、個別化がん免疫療法で使用するためのものである、請求項8~15のいずれか一項に記載の使用のためのサルモネラの弱毒株。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PD-L1をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含むサルモネラの弱毒株に関する。具体的には、本発明は、がんの治療における使用のための上記サルモネラの弱毒株に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系の重要な特徴は、「自己」、および「異物(foreign)」を区別する能力である。この目的のために、免疫系は「チェックポイント」-免疫応答を開始するために活性化(または不活性化)される必要がある、特定の免疫細胞上の分子-を使用する。
【0003】
主に、免疫系は、新生細胞を認識、および破壊する。T細胞は、抗がん免疫の主要なエフェクターであると思われる。しかし、多くの腫瘍は、その生存を高めるために免疫系を回避する機構を発達させている。免疫調節タンパク質、たとえばチェックポイントタンパク質、およびそのリガンドは、免疫の抑制、および抗がん免疫反応の耐性誘導に重要な役割を果たす。
【0004】
プログラム細胞死タンパク質1(Programmed cell death 1;PD-1)は、T細胞の表面で発現され、そして同種抗原に対するT細胞の機能的沈黙を維持する阻害シグナルを伝達する。そのリガンドPD-L1は、通常、炎症性微小環境における抗原提示細胞、胎盤細胞、および非造血細胞に発現している。PD-L1は、免疫抑制性骨髄系由来サプレッサー細胞(MDSC)に発現していることが報告されている。さらに、PD-L1は、PD-1/PD-L1シグナル伝達軸を使用して宿主の免疫系から逃れる様々なタイプのがん細胞の表面に広範囲に発現している。がん細胞によるPD-L1の発現は、病期および患者の予後不良と相関することが示された。
【0005】
PD-L1のPD-1への結合を阻害することにより機能する、いくつかのモノクローナル抗PD-1および抗PD-L1抗体を評価する臨床試験において、PD-1/PD-L1シグナル伝達経路を標的とする可能性が実証されている。これらの抗体は、既存の抗がん免疫反応を引き起こし、または強化するように設計されている。様々な固形腫瘍および血液悪性腫瘍におけるオプジーボ(ニボルマブ、抗PD-1抗体)、様々な固形腫瘍および血液悪性腫瘍におけるペンブロリズマブ(キートルーダ、抗PD-1抗体)、化学療法による寛解後のAMLにおける樹状細胞ワクチンと併用するCT-011(抗PD-1)、およびCLLの再発、難治性または高リスクの未治療患者におけるリツキシマブと併用するリリルマブ(抗KIR)のような、様々な薬剤が現在、患者の臨床試験で調査されている。
【0006】
最近になってやっと、PD-L1特異的T細胞の存在が説明された(described)。
【0007】
国際公開第2013/056716号は、HLA(ヒト白血球抗原)-A2制限PD-L1ペプチドワクチンを開示している。
【0008】
国際公開第2014/005683号は、がん免疫療法、特に膵臓がんの治療における使用のためのVEGF受容体タンパク質をコードする組換えDNA分子を含むサルモネラの弱毒化変異株を開示している。
【0009】
国際公開第2016/202459号は、VEGF受容体タンパク質およびチェックポイント阻害薬抗体をコードする組換えDNA分子を含むサルモネラの弱毒化変異株の併用投与を含むがん治療アプローチを開示している。
【0010】
発明者の知る限り、PD-L1陽性腫瘍細胞を直接標的とするPD-L1特異的細胞毒性免疫細胞を誘導する目的でPD-L1を標的とする細菌DNAワクチンは報告されていない。さらに、PD-L1を標的とする口腔がんワクチンは説明されて(described)いない。
【0011】
発明の目的
従来技術を考慮して、本発明の目的は、新規の安全かつ効率的なPD-L1を標的とするがん治療を提供することである。このような新規の治療アプローチは、がん患者の治療選択肢を改善するための大きな利点を提供するであろう。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、全長PD-L1、またはPD-L1の細胞外ドメインを含む短縮型PD-L1のいずれかをコードする組換えDNA構築物を運ぶサルモネラベースのDNA送達媒体は、播種性同系FBL-3赤白血病を有するC57BL/6マウスにおいて高い抗腫瘍効果を示すという驚くべき発見に基づいている。
【0013】
したがって、第一の態様では、本発明は、PD-L1をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含むサルモネラの弱毒株に関する。
【0014】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒株は、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)種である。具体的には、サルモネラの弱毒株は、サルモネラ・チフィTy21a(Salmonella typhi Ty21a)である。
【0015】
特定の実施形態では、発現カセットは真核生物発現カセットである。具体的には、発現カセットはCMVプロモーターを含む。
【0016】
特定の実施形態では、PD-L1は、全長PD-L1、およびPD-L1の細胞外ドメインを含む短縮型PD-L1からなる群から選択される。短縮型PD-L1は、配列番号13のアミノ酸19~238のアミノ酸配列、配列番号13のアミノ酸配列、配列番号2のアミノ酸配列を含んでもよく、または配列番号13のアミノ酸19~238、配列番号13、または配列番号2と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。特定の実施形態では、PD-L1は、配列番号1において示されているアミノ酸配列を有するPD-L1、および当該PD-L1と少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質からなる群から選択される。特定の他の実施形態では、PD-L1は、配列番号2において示されているアミノ酸配列を有するPD-L1、および当該PD-L1と少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質からなる群から選択される。特定の他の実施形態では、PD-L1は、配列番号13において示されているアミノ酸配列を有するPD-L1、および当該PD-L1と少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質からなる群から選択される。特定の他の実施形態では、PD-L1は、配列番号13のアミノ酸19~238のアミノ酸配列を有するPD-L1、および当該PD-L1と少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質からなる群から選択される。具体的には、PD-L1は、配列番号1、配列番号2、または配列番号13において示されているアミノ酸配列を有し、好ましくは、PD-L1は、配列番号13のアミノ酸19~238のアミノ酸配列を含む。一つの実施形態では、PD-L1は、少なくともシグナル伝達ペプチドを伴うまたは伴わない細胞外ドメインを含む。
【0017】
特定の実施形態では、PD-L1は、配列番号3、配列番号4または配列番号14において示されている核酸配列によってコードされる。
【0018】
特定の実施形態では、DNA分子は、カナマイシン抗生物質耐性遺伝子、pMB1 ori、およびCMVプロモーターをさらに含む。具体的には、DNA分子は、配列番号5において示されているDNA配列をさらに含む。
【0019】
第二の態様では、本発明は、薬剤としての使用のための本発明によるサルモネラの弱毒株に関する。
【0020】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒株は、がんの治療における使用のためのものである。
【0021】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒株は、がん免疫療法における使用のためのものである。
【0022】
特定の実施形態では、がんの治療は化学療法、放射線療法または生物学的がん療法をさらに含む。具体的には、サルモネラの弱毒株は、化学療法または放射線療法または生物学的がん療法の前、間および/または後に投与される。より具体的には、サルモネラの弱毒株は、化学療法または放射線療法または生物学的がん療法の前および間に投与される。
【0023】
特定の実施形態では、生物学的がん療法は、腫瘍抗原、および/または腫瘍間質抗原をコードする、少なくとも一つのさらなるDNAワクチンの投与を含む。特定の実施形態では、少なくとも一つのさらなるDNAワクチンは、腫瘍抗原、および/または腫瘍間質抗原をコードする発現カセットを含む、DNA分子の少なくとも1コピーを含むサルモネラの少なくとも一つの弱毒株から選択される。これは、腫瘍抗原をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含む少なくとも一つのさらなるDNAワクチン、および/または腫瘍間質抗原をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含む少なくとも一つのさらなるDNAワクチンを包含する。具体的には、上記サルモネラの少なくとも一つのさらなる弱毒株は、真核生物の発現カセットを含むサルモネラ・チフィTy21a(Salmonella typhi Ty21a)である。
【0024】
一つの実施形態では、上記腫瘍抗原は、ウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)、メソテリン(MSLN)、がん胎児性抗原(CEA)、およびCMV pp65から選択される。特定の実施形態では、上記少なくとも一つのさらなるDNAワクチンによってコードされる上記腫瘍抗原は、配列番号6において示されているアミノ酸配列を有するウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)、およびそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号7において示されているアミノ酸配列を有するメソテリン(MSLN)、およびそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号8において示されているアミノ酸配列を有するCEA、およびそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号9において示されているアミノ酸配列を有するCMV pp65、およびそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号10において示されているアミノ酸配列を有するCMV pp65、およびそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、および配列番号11において示されているアミノ酸配列を有するCMV pp65、およびそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、からなる群から選択される。具体的には、ウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)は配列番号6において示されているアミノ酸配列を有し、メソテリン(MSLN)は配列番号7において示されているアミノ酸配列を有し、CEAは配列番号8において示されているアミノ酸配列を有し、そしてCMV pp65は配列番号9、配列番号10、または配列番号11において示されているアミノ酸配列を有する。一つの実施形態では、上記腫瘍間質抗原は、VEGFR-2、またはヒト線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、好ましくはVEGFR-2である。具体的には、上記少なくとも一つのさらなるDNAワクチンによってコードされる上記腫瘍間質抗原は、配列番号12において示されているアミノ酸配列を有するVEGFR-2、およびそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、およびヒト線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)からなる群から選択される。具体的には、VEGFR-2は、配列番号12において示されているアミノ酸配列を有する。
【0025】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒株は、経口投与される。
【0026】
特定の実施形態では、がんは、リンパ腫、白血病、骨髄腫、肺がん、特に非小細胞肺がん(NSCLC)、黒色腫、腎細胞がん、卵巣がん、神経膠芽腫、メルケル細胞がん、膀胱がん、頭頸部がん、結腸直腸がん、食道がん(esophagial cancer)、子宮頸がん、胃がん、肝細胞がん、前立腺がん、乳がん、膵臓がん、および甲状腺がんから選択される。
【0027】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒株の単回投与量は、約105~約1011、具体的には約106~約1010、より具体的には約106~約109、より具体的には約106~約108、最も具体的には約106~約107コロニー形成単位(CFU)を含む。
【0028】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒株は、PD-L1の発現パターン、および/または患者のPD-L1に対する前免疫応答を評価する工程を含む、個別化がん免疫療法で使用するためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、プラスミドpVAX10.PD-L1hに含まれるPD-L1 cDNAによりコードされる、全長ヒトPD-L1のアミノ酸配列(配列番号1)である。
【
図2】
図2は、プラスミドpVAX10.PD-L1haに含まれるPD-L1 cDNAによりコードされる、シグナル伝達ペプチド(MRIFAVFIFMTYWHLLNA)を欠失している短縮型ヒトPD-L1のアミノ酸配列(配列番号1)である。
【
図3】
図3は、プラスミドpVAX10.PD-L1hに含まれ、そして配列番号1の全長ヒトPD-L1のアミノ酸配列をコードする塩基配列(配列番号3)である。
【
図4】
図4は、プラスミドpVAX10.PD-L1haに含まれ、そして配列番号2の短縮型ヒトPD-L1のアミノ酸配列をコードする塩基配列(配列番号4)である。
【
図5】
図5は、空の発現ベクターpVAX10に含まれる核酸配列である(制限部位NheIとXhoIとの間に位置するマルチクローニングサイトの部分を含まない発現ベクターpVAX10の配列(配列番号5))。
【
図6】
図6は、プラスミドpVAX10.hWT1に含まれるWT1 cDNAによりコードされる、ヒトWT1のアミノ酸配列(配列番号6)である。
【
図7】
図5は、プラスミドpVAX10.hMSLNに含まれるMSLN cDNAによりコードされる、ヒトMSLNのアミノ酸配列(配列番号7)である。
【
図8】
図8は、プラスミドpVAX10.hCEAに含まれるCEA cDNAによりコードされる、ヒトCEAのアミノ酸配列(配列番号8)である。
【
図9】
図9は、プラスミドpVAX10.CMVpp65_1に含まれるCMV pp65 cDNAによりコードされる、CMV pp65のアミノ酸配列(配列番号9)である。
【
図10】
図10は、プラスミドpVAX10.CMVpp65_2に含まれるCMV pp65 cDNAによりコードされる、CMV pp65のアミノ酸配列(配列番号10)である。
【
図11】
図11は、プラスミドpVAX10.CMVpp65_3に含まれるCMV pp65 cDNAによりコードされる、CMV pp65のアミノ酸配列(配列番号11)である。
【
図12】
図12は、プラスミドpVAX10.VR2-1に含まれるVEGFR-2 cDNAによりコードされるVEGFR-2のアミノ酸配列(配列番号12)である。
【
図13】
図13は、細胞外ドメイン(アミノ酸19~238)およびシグナル伝達ペプチド(アミノ酸1~18)を含む、短縮型ヒトPD-L1のアミノ酸配列(配列番号13)である。
【
図14】
図14は、配列番号13の短縮型ヒトPD-L1をコードする塩基配列(配列番号14)である。
【
図15】
図15は、播種同系FBL-3赤白血病を保有するC57BL/6マウスの生存に対する、VXM10mおよびVXM10maの予防的投与の効果である。マウスに(A)空のベクター(1.6×10
8CFU);(B)VXM10m(1.8×10
8CFU);(C)VXM10m(1.0×10
10CFU);(D)VXM10ma(3.6×10
8CFU);または(E)VXM10ma(1.0×10
10CFU)を接種した。垂直矢印は、腫瘍接種を示す。
【
図16】
図16は、FBL-3細胞による再負荷後のC57BL/6マウスの長期生存に対する、VXM10mおよびVXM10maの予防的投与の効果である。マウスに以下のように接種および処理した。(A)空のベクター(1.6×10
8CFU);(B)未処理(コントロールの再負荷);(C)VXM10m(1.8×10
8CFU);(D)VXM10m(1.0×10
10CFU);(E)VXM10ma(3.6×10
8CFU);または(F)VXM10ma(1.0×10
10CFU)。垂直矢印は、腫瘍接種を示す。
【
図17】
図17は、播種同系FBL-3赤白血病を保有するC57BL/6マウスの生存に対する、VXM10mおよびVXM10maの治療的投与の効果である。A)FBL-3モデルにおける、VXM10mおよびVXM10maの治療的ワクチン接種のスケジュール。B)マウスに(A)空のベクター(1.0×10
9CFU);(B)VXM10m(1.0×10
9CFU);または(C)VXM10ma(1.0×10
9CFU)を接種した。垂直矢印は、腫瘍接種を示す。
【
図18】
図18は、(A)実験設計、および(B)VXM10 10
8CFU(四角)、VXM10 10
10CFU(丸)、VXM10a 10
8CFU(三角、下向き)、VXM10a 10
10CFU(三角、上向き)、ネガティブコントロール(長方形)の最終ワクチン接種の79日後に収集された(ワクチン接種スケジュール:d1、d3、d5、d7、d14、d21、FBL-3負荷d20)、播種同系FBL-3赤白血病を保有するC57BL/6マウスの結成における抗PD-L1応答である。破線は、ネガティブコントロール群の値から得られたカットオフ値(95%信頼)を表す。ポジティブコントロール群(十字)のCFA/IFAによる免疫には可溶性組換えマウスPD-L1を使用した。
【
図19】
図19は、6日間の刺激後にELISAによって培養上清で測定されるように(n=5)、(A)実験設計、および(B)空のベクター(丸)、VXM10(四角)、またはVXM10a(三角)で免疫し、そしてPD-L1由来の5つのペプチドのプールで刺激したマウスから分離した脾細胞によって分泌されるIFNγ(白抜き記号)およびTNFα(黒抜き記号)のレベルである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
発明の詳細な説明
第一の態様では、本発明は、PD-L1をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含むサルモネラの弱毒株に関する。
【0031】
本発明による生弱毒サルモネラ株は、PD-L1をコードする組換えDNA分子を安定して保持する。それは、この組換えDNA分子の経口送達の媒体として使用できる。
【0032】
本発明の文脈において、用語「弱毒化された」は、親細菌株と比較して毒性が低下した細菌株を指し、弱毒化変異を含まない。弱毒化された細菌株は、好ましくは毒性を失っているが、防御免疫を誘導する能力を保持している。弱毒化は、毒性、調節、および代謝遺伝子を含む様々な遺伝子の削除により達成できる。弱毒化された細菌は、自然にみられるか、またはたとえば新しい培地や細胞培養への適応によって実験室で人工的に産生されるか、または組換えDNA技術によって産生される。本発明によるサルモネラの弱毒株の約1011CFUの投与は、好ましくは対象の5%未満、より好ましくは1%未満、最も好ましくは1パーミル未満でサルモネラ症を引き起こす。
【0033】
本発明の文脈において、用語「含む(comprises)」または「含む(comprising)」は、「含むが、それに限定されない(including, but not limited to)」ことを意味する。この用語は、指定された特徴、要素、整数、工程、または要素の存在を明示するためにオープンエンドであることを意図しているが、一つまたは複数の他の特徴、要素、整数、工程、要素、またはそれらの群の存在または追加を排除するものではない。したがって、「含む(comprising)」は、より制限的な用語「からなる」、および「から本質的になる」を含む。一つの実施形態では本願全体にわたり、そして特に特許請求の範囲内で使用される、用語「含む(comprising)」は、用語「からなる」で置き換えてもよい。
【0034】
PD-L1をコードする発現カセットを含むDNA分子は、好適には組換えDNA分子、すなわち、好ましくは異なる起源のDNA断片から構成される改変DNA構築物である。DNA分子は、線状核酸、または好ましくは、発現ベクタープラスミドにPD-L1をコードするオープンリーディングフレームを導入することにより生成される環状DNAプラスミドであってもよい。好適な発現ベクタープラスミドは、たとえば、それに限定されない、pVAX1TM(Invitrogen、カリフォルニア州サンディエゴ)またはpcDNATM3.1(Invitrogen、カリフォルニア州サンディエゴ)、またはそれらに由来する発現ベクタープラスミドである。発現ベクタープラスミドは、高コピー起源、たとえばpUC ori、または低コピー起源、たとえばpMB1 oriを含んでもよい。
【0035】
本発明の文脈において、用語「発現カセット」は、その発現を制御する調節配列の制御下にある少なくとも一つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含む核酸ユニットを指す。発現カセットは、好ましくは、標的細胞において組換えタンパク質、たとえばPD-L1をコードする含まれたオープンリーディングフレームの転写を媒介することができる。発現カセットは、通常は、プロモーター、少なくとも一つのオープンリーディングフレーム、および転写終結シグナルを含む。
【0036】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒株は、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)種である。サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)の弱毒化派生物は、S.エンテリカ(S.enterica)株は免疫化の粘膜経路を介して、すなわち経口または経鼻的に潜在的に送達でき、非経口投与と比較して単純性と安全性の利点を提供するため、哺乳類免疫系に異種抗原を送達するための魅力的な媒体である。さらに、サルモネラ株は、全身および粘膜区画の両方のレベルで強い液性および細胞性免疫応答を誘発する。バッチ調製のコストは低く、生細菌ワクチンの製剤は非常に安定している。弱毒化は、毒性、調節、および代謝遺伝子を含む様々な遺伝子の削除によって達成できる。
【0037】
aro変異によって弱毒化されたいくつかのサルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)株は、動物モデルにおける異種抗原の安全かつ効果的な送達媒体であることが示されている。
【0038】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒株は、サルモネラ・チフィTy21a(Salmonella typhi Ty21a)である。S.チフィTy21a(S.typhi Ty21a)の弱毒生菌株は、Vivotif(登録商標)(Berna Biotech Ltd., a Crucell Company, Switzerlandにより製造される)としても知られているTyphoral L(登録商標)の活性成分である。それは現在、唯一認可されている、腸チフスに対する経口生ワクチンである。このワクチンは、広範に試験されており、患者に対する毒性ならびに第三者への感染に関して安全であることが示されている(Wahdan et al., J. Infectious Diseases 1982, 145:292-295)。当該ワクチンは、40を超える国々で認可されており、腸チフスに対する予防ワクチン投与のために、何千人もの小児を含む、数百万人の個人に対して使われてきた。それは比類のない安全実績を有する。S.チフィTy21a(S.typhi Ty21a)が全身的に血流に入ることができるということを示すデータはない。したがって、弱毒生S.チフィTy21a(S.typhi Ty21a)ワクチン株は、安全かつ耐用性良好である一方で、腸内の免疫系の特異的標的化を可能にする。Typhoral L(登録商標)の販売許可番号は、1996年12月16日付のPL 15747/0001である。ワクチンの一回分の用量は、少なくとも2×109コロニー形成単位の生(viable)S.チフィTy21a(S.typhi Ty21a)および少なくとも5×109個の非生(non-viable)S.チフィTy21a(S.typhi Ty21a)を含む。
【0039】
この忍容性の高い、腸チフスに対する経口生ワクチンは、野生型の病原性細菌単離株S.チフィTy2(S.typhi Ty2)の化学的変異誘発によって得られた。そしてgalE遺伝子に、ガラクトースの代謝不能につながる機能欠失変異を有する。当該弱毒細菌株はまた、硫酸塩を硫化物に還元することもできず、それが当該弱毒細菌株と野生型のS.チフィTy2(S.typhi Ty2)を差別化する。その血清学的特性に関しては、サルモネラ・チフィTy21a(Salmonella typhi Ty21a)株は、細菌外膜の多糖であるO9抗原を含み、そして、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)の特徴的成分であるO5抗原を欠く。この血清学的特性は、バッチリリースのための同定試験のパネルにそれぞれの試験を含むことについて、理論的根拠を裏付ける。
【0040】
特定の実施形態では、発現カセットは真核生物発現カセットである。具体的には、発現カセットはCMVプロモーターを含む。本発明の文脈において、用語「真核生物発現カセット」は、真核細胞内でオープンリーディングフレームの発現を可能にする発現カセットを指す。十分な免疫応答を引き起こすのに必要な異種抗原の量は、細菌に対しては有毒でありえ、そして細胞死、過剰な弱毒化または異種抗原の発現の欠失を引き起こしうることが示されている。細菌ベクター内では発現されず、標的細胞内でのみ発現される真核生物発現カセットを用いることで、この毒性問題を克服しうる。そして、典型的に発現されたタンパク質は真核生物の糖鎖付加パターンを示す。
【0041】
真核生物発現カセットは、真核細胞内でオープンリーディングフレームの発現を制御することができる調節配列、好ましくは一つのプロモーターおよび一つのポリアデニル化シグナルを含む。本発明のサルモネラの弱毒株に含まれる組換えDNA分子に包含されるプロモーターおよびポリアデニル化シグナルは、好ましくは免疫化されるべき対象の細胞内で機能的であるよう選択される。特にヒト用のDNAワクチンの製造に好適なプロモーターの例は、以下のものを含むが、これらに限定されない:強力なCMV前初期プロモーターのようなサイトメガロウイルス(CMV)由来のプロモーター、サルウイルス40(SV40)由来のプロモーター、マウス乳癌ウイルス(MMTV)由来のプロモーター、HIV長鎖末端反復配列(LTR)プロモーターのようなヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来のプロモーター、モロニーウイルス由来のプロモーター、エプスタイン・バーウイルス(EBV)由来のプロモーター、およびラウス肉腫ウイルス(RSV)由来のプロモーター、CMV初期エンハンサー配列から構成される合成CAGプロモーター、トリβアクチン遺伝子のプロモーター、第一エキソンおよび第一イントロン、およびウサギβグロビン遺伝子のスプライス受容部位、ならびに、ヒトアクチン、ヒトミオシン、ヒトヘモグロビン、ヒト筋肉クレアチンおよびヒトメタロチオネインのような、ヒト遺伝子由来のプロモーター。特定の実施形態では、真核生物発現カセットは、CMVプロモーターを含む。本発明の文脈において、用語「CMVプロモーター」は、強力な前初期サイトメガロウイルスプロモーターを指す。
【0042】
特にヒト用DNAワクチンの製造のために好適なポリアデニル化シグナルの例は、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化部位、SV40ポリアデニル化シグナル、およびLTRポリアデニル化シグナルを含むが、これらに限定されない。特定の実施形態では、本発明のサルモネラの弱毒株に含まれる組換えDNA分子に含まれる真核生物発現カセットは、BGHポリアデニル化部位を含む。
【0043】
プロモーターおよびポリアデニル化シグナルのような、異種遺伝子の発現に必要な調節因子に加え、他の配列もまた組換えDNA分子に含まれうる。このような追加の配列は、エンハンサーを含む。エンハンサーは、たとえば、ヒトアクチン、ヒトミオシン、ヒトヘモグロビン、ヒト筋肉クレアチンのエンハンサー、ならびに、CMV、RSV、およびEBV等由来のウイルスエンハンサーであってもよい。
【0044】
調節配列およびコドンは一般に種依存的であるので、タンパク質産生を最大化するために、調節配列およびコドンは、好ましくは、免疫化されるべき種において有効であるよう選択される。当業者は、所与の対象種において機能的な組換えDNA分子を作製することができる。
【0045】
一つの実施形態では、PD-L1は、全長PD-L1、およびPD-L1の細胞外ドメインを含む短縮型PD-L1からなる群から選択される。短縮型PD-L1は、配列番号13のアミノ酸19~238のアミノ酸配列、配列番号13のアミノ酸配列、配列番号2のアミノ酸配列を含んでもよく、または配列番号13のアミノ酸19~238、配列番号13、または配列番号2と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。特定の実施形態では、PD-L1は、配列番号1において示されているアミノ酸配列を有するPD-L1、および当該PD-L1と少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質からなる群から選択される。特定の他の実施形態では、PD-L1は、配列番号2において示されているアミノ酸配列を有するPD-L1、および当該PD-L1と少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質からなる群から選択される。特定のさらに他の実施形態では、PD-L1は、配列番号13において示されているアミノ酸配列を有するPD-L1、および当該PD-L1と少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質からなる群から選択される。特定の他の実施形態では、PD-L1は、配列番号13のアミノ酸19~238のアミノ酸配列を有するPD-L1、および当該PD-L1と少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質からなる群から選択される。具体的には、PD-L1は、配列番号1、配列番号2、または配列番号13において示されているアミノ酸配列を有し、好ましくは、PD-L1は、配列番号13のアミノ酸19~238のアミノ酸配列を含む。一つの実施形態では、PD-L1は、少なくともシグナル伝達ペプチドを伴うまたは伴わない細胞外ドメインを含む。
【0046】
この文脈において、用語「約(about)」または「約(approximately)」は、所与の値または範囲の80%~120%以内、あるいは90%~110%以内、を指し、95%~105%以内を含む。
【0047】
本発明の文脈において、「所与のタンパク質配列、たとえば、配列番号1、2または13において示されているアミノ酸配列を有するPD-L1、と少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質」は、上記比較タンパク質、たとえば、配列番号1、2または13のアミノ酸配列を有するPD-L1と、アミノ酸配列、および/または、そのアミノ酸配列をコードする核酸配列において異なりうるタンパク質、を指す。そのタンパク質は、天然由来、たとえば野生型タンパク質の変異型、たとえば野生型PD-L1の変異型、または、異種のホモログ、または、改変タンパク質、たとえば改変PD-L1であってもよい。コドンの使用頻度は種間で異なることが知られている。したがって、対象の細胞において異種性のタンパク質を発現する際は、標的細胞のコドン使用頻度に核酸配列を適合させることが必要であるか、あるいは少なくとも有用でありうる。所与のタンパク質の誘導体を設計および構築する方法は、当業者に周知である。
【0048】
所与のタンパク質、たとえば、配列番号1、2または13において示されているアミノ酸配列を有するPD-L1、と少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質は、当該比較タンパク質、たとえば、配列番号1、2または13のアミノ酸配列を有するPD-L1、と比べて一つまたは複数のアミノ酸の、付加、欠失、および/または、置換を含む、一つまたは複数の変異を含んでもよい。同じことは、配列番号13のアミノ酸19~238のアミノ酸配列を有するPD-L1にも当てはまる。一つまたは複数のアミノ酸の付加、欠失、および/または置換を含む、一つまたは複数の変異は、配列番号1、2、13のアミノ酸配列、または配列番号13のアミノ酸19~238のアミノ酸配列に10個未満、9個未満、8個未満、7個未満、6個未満、5個未満、4個未満、3個未満、2個未満、または1個の変異を包含する。本発明の教示によれば、上記欠失、付加および/または、置換されたアミノ酸は、連続するアミノ酸であってもよく、あるいは、比較タンパク質、たとえば、配列番号1、2、13において示されている、または配列番号13のアミノ酸19~238のアミノ酸配列を有するPD-L1、と少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質の全長にわたり散在していてもよい。本発明の教示によれば、上記比較タンパク質とのアミノ酸配列同一性が少なくとも約80%である限り、任意の個数のアミノ酸が付加、欠失、および/または置換されてもよい。好ましくは、変異タンパク質は免疫原性である。好ましくは、所与の比較タンパク質、たとえば、配列番号1、2、13において示されている、または配列番号13のアミノ酸19~238のアミノ酸配列を有するPD-L1、と少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質の免疫原性は、上記比較タンパク質、たとえば、配列番号1、2、13において示されている、または配列番号13のアミノ酸19~238のアミノ酸配列を有するPD-L1の、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、あるいは1%未満少なくなっている。免疫原性は、たとえばELISA法によって測定してもよい。タンパク質ホモログを設計および構築するための方法、およびそのようなホモログの免疫原性について試験する方法は、当業者に周知である。特定の実施形態では、比較タンパク質、たとえば、配列番号1、2、13の、または配列番号13のアミノ酸19~238のアミノ酸配列を有するPD-L1、との配列同一性は、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、あるいは最も具体的には、少なくとも約95%である。親タンパク質と、親配列に対して欠失、付加、および/または置換を有するその誘導体との比較を含む、配列同一性を決定するための方法およびアルゴリズムは、当業者にはよく知られている。DNAレベルでは、所与の比較タンパク質、たとえば、配列番号1、2、13において示されている、または配列番号13のアミノ酸19~238のアミノ酸配列を有するPD-L1、と少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質をコードする塩基配列は、遺伝子コードの縮重のために、より大きな程度で異なっていてもよい。
【0049】
特定の実施形態では、PD-L1は、配列番号3、配列番号4または配列番号14において示されている核酸配列によってコードされる。
【0050】
特定の実施形態では、DNA分子は、カナマイシン抗生物質耐性遺伝子、pMB1 ori、およびCMVプロモーターを含む。特定の実施形態では、組換えDNA分子は、市販のpVAX1TM発現プラスミド(Invitrogen社、サンディエゴ、カリフォルニア州)由来である。この発現ベクターは、高コピーpUC複製起点を、pBR322の低コピーpMB1複製起点に置き換えることで改変された。低コピー改変は、代謝負担を低減し、そして構築物をより安定にするために行われた。作製された発現ベクターの骨格は、pVAX10と名付けられた。
【0051】
特定の実施形態では、DNA分子は、配列番号5(ベクター骨格 pVAX10)において示されているDNA配列をさらに含む。
【0052】
配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトPD-L1をコードするORFを発現ベクター骨格にNheI/XhoIを介して挿入すると、発現プラスミドpVAX10.L1hが得られた。発現プラスミドpVAX10.PD-L1hを含む弱毒サルモネラ株Ty21aを含むDNAワクチンは、VXM10hと名付けられる。配列番号2のアミノ酸配列を有するヒトPD-L1をコードするORFを発現ベクター骨格にNheI/XhoIを介して挿入すると、発現プラスミドpVAX10.L1haが得られた。発現プラスミドpVAX10.PD-L1haを含む弱毒サルモネラ株Ty21aを含むDNAワクチンは、VXM10haと名付けられる。配列番号13のアミノ酸配列を有するヒトPD-L1をコードするORFを発現ベクター骨格にNheI/XhoIを介して挿入すると、発現プラスミドpVAX10.L1hbが得られた。発現プラスミドpVAX10.PD-L1hbを含む弱毒サルモネラ株Ty21aを含むDNAワクチンは、VXM10hbと名付けられる。
【0053】
PD-L1をコードするサルモネラの弱毒株は、医薬組成物で提供されてもよい。医薬組成物は、溶液、懸濁液、腸溶カプセル剤、凍結乾燥粉末、または意図する用途に好適な他の任意の形態の形態であってもよい。
【0054】
医薬組成物は、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤をさらに含んでもよい。
【0055】
本発明の文脈において、用語「賦形剤」は、医薬品の有効成分とともに製剤化される天然または合成物質を指す。好適な賦形剤は、固結防止剤(antiadherents)、結合剤、コーティング剤、崩壊剤、香味剤、着色剤、滑沢剤、滑剤、吸着剤、保存剤および甘味料を含む。
【0056】
本発明の文脈において、用語「薬学的に許容される」は、生理的に許容され、そして、哺乳類(例:ヒト)に投与したときに、通常は有害反応を引き起こさない、医薬組成物の分子性物質、および他の成分を指す。用語「薬学的に許容される」はまた、哺乳類、そしてより具体的にはヒトへの使用のために、連邦政府または州政府の規制当局によって承認された、または、米国薬局方もしくは他の一般に認められた薬局方に記載されている、ということも意味しうる。
【0057】
特定の実施形態では、医薬組成物は飲用溶液として提供される。この実施形態は患者コンプライアンスの向上という利点を提供し、そして迅速で、実行可能かつ手ごろな価格の集団予防接種プログラムを可能にする。
【0058】
具体的には、好適な飲用溶液は、胃酸を少なくともある程度まで中和する、すなわち胃液のpHをpH7に近づける、手段を含む。特定の実施形態では、飲用溶液は、本発明によるサルモネラの弱毒株を、好適な緩衝液、好ましくは、胃酸を少なくともある程度まで中和する緩衝液、好ましくは、2.6gの炭酸水素ナトリウム、1.7gのL-アスコルビン酸、0.2gのラクトース一水和物および100mlの飲用水を含む緩衝液に、懸濁させることによって得られる緩衝懸濁液である。
【0059】
第二の態様では、本発明は、薬剤としての使用のための本発明によるサルモネラの弱毒株に関する。
【0060】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒株は、がんの治療における使用のためのものである。
【0061】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒株は、ワクチンとしての使用のためのものである。
【0062】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒株は、がん免疫療法における使用のためのものである。
【0063】
理論に縛られることを望むわけではないが、PD-L1リガンドのPD-1への結合の阻害により、チェックポイント阻害を媒介する、モノクローナル抗PD-1抗体および抗PD-L1抗体とは対照的に、本発明によるサルモネラの弱毒株は、PD-L1陽性腫瘍細胞の破壊につながるPD-L1特異的T細胞の応答を引き起こすと考えられている。さらに、特にプラスミドpVAX10.L1hbの使用の場合のように、ヒトPD-L1(配列番号13)の細胞外ドメインのみを使用する場合、発現されているPD-L1ベースのタンパク質産物が分泌され、そして本発明によるアプローチの治療効果をさらに支持しうる抗PD-L1抗体反応をもたらしうる。シグナルペプチドを欠く短縮型ヒトPD-L1、たとえばプラスミドpVAX10.L1haの使用の場合のように、配列番号2のアミノ酸配列、および配列番号13のアミノ酸19~238(PD-L1の細胞外ドメインに対応する)のアミノ酸配列を含む短縮型ヒトPD-L1を使用した理論に縛られることなく、発現されているPD-L1ベースのタンパク質産物は細胞質に蓄積する可能性があり、そしてPD-L1に対する細胞毒性T細胞応答の増強を引き起こす可能性があり、本発明によるアプローチの治療効果をさらに裏付ける可能性がある。したがって、一つの実施形態では、PD-L1はシグナル伝達ペプチドを含むまたは含まないPD-L1の少なくとも細胞外ドメインを含む。
【0064】
本発明によれば、弱毒サルモネラ株は、標的細胞への上記組換えDNA分子の送達のためのPD-L1をコードする発現カセットを含む組換えDNA分子の細菌担体として機能する。異種抗原、たとえばPD-L1をコードするDNA分子を含むそのような送達ベクターは、DNAワクチンと呼ばれる。
【0065】
本発明の文脈において、用語「ワクチン」は、投与で対象(subject)において免疫応答を引き起こすことができる薬剤を指す。ワクチンは、好ましくは、疾病を予防し、寛解させ、あるいは治療することができる。
【0066】
遺伝的免疫化は、従来法のワクチン投与より有利でありうる。標的DNAは、かなりの長期間にわたって検出することができ、それゆえ抗原デポー(depot of the antigen)として機能する。いくつかのプラスミド中の配列モチーフは、GpCアイランドのように、免疫刺激性であり、そして、LPSおよび他の細菌成分による免疫刺激によって促進されたアジュバントとして機能しうる。
【0067】
弱毒生サルモネラベクターは、リポ多糖類(LPS)のような独自の免疫調節因子をin situで産生し、そのことがマイクロカプセル化のような他の形態での投与を上回る利点となりうる。また、本発明による粘膜ワクチンは、リンパ管内作用機序を有し、それは有益であることが判明している。本発明による弱毒化ワクチンの摂取後に、腸内のパイエル板のマクロファージおよび他の細胞は、改変細菌によって侵入される。当該細菌は、これらの食細胞に取り込まれる。弱毒化変異によって、S.チフィTy21(S.typhi Ty21)株の細菌は、これらの食細胞にとどまることはできず、この時点で死滅する。組換えDNA分子は、放出され、引き続いて食細胞性免疫細胞の細胞基質内に、特異的輸送システムまたはエンドソームの漏出のいずれかを介して移送される。最後に、組換えDNA分子は核に入り、そこで転写され、食細胞の細胞基質内で大量のPD-L1の発現を引き起こす。そして潜在的に、特にPD-L1ベースのタンパク質産物の分泌にプラスミドpVAX10.PD-L1hbを使用する場合のように、特にヒトPD-L1の細胞外ドメイン(例:配列番号13)のみを使用する場合。感染した細胞はアポトーシスを起こし、PD-L1抗原が負荷され、そして腸の免疫システムによって取り込まれて処理される。細菌感染の危険信号はこの過程において強いアジュバントとして機能し、全身および粘膜区画の両方のレベルにおいて、強い標的抗原特異的CD8+T細胞および抗体反応をもたらす。免疫応答はワクチン投与後およそ10日でピークに達する。抗キャリア反応の欠如は、多数回にわたり同じワクチン投与で追加免疫をすることを許容する。さらに、PD-L1ベースのタンパク質産物の分泌は、抗PD-L1抗体応答をもたらす可能性があり、これは、本発明によるアプローチの治療効果をさらに裏付ける可能性がある。
【0068】
特定の実施形態では、がんの治療法は、化学療法、放射線療法、または生物学的がん療法をさらに含む。具体的には、サルモネラの弱毒株は、化学療法または放射線療法または生物学的がん療法の前に、その間に、および/またはその後に投与される。より具体的には、サルモネラの弱毒株は、化学療法または放射線療法または生物学的がん療法の前およびその間に投与される。がんの治癒のためには、がん幹細胞の完全な根絶が不可欠である。最大の効果を得るには、異なる治療アプローチの組み合わせが有益でありうる。
【0069】
本発明の文脈において、用語「生物学的がん療法」は、細菌およびウイルスを含む生物、生物由来の物質、またはそのような物質の実験室生産型の使用を含むがん療法を指す。がんに対するいくつかの生物学的療法は、がん細胞に抗するために身体の免疫システムを刺激することを目的とする(いわゆる生物学的がん免疫療法)。生物学的がん療法アプローチは、腫瘍抗原および腫瘍間質抗原の、たとえばサルモネラベースのDNAワクチン、具体的には、S.チフィTy21a(S.typhi Ty21a)ベースのDNAワクチンによる送達、治療用抗体の薬としての送達、免疫刺激性サイトカインの投与、および改変されたT細胞を含む免疫細胞の投与、を含む。治療用抗体は、腫瘍抗原または腫瘍間質抗原を標的とする抗体を含む。
【0070】
特定の実施形態では、生物学的がん療法は、腫瘍抗原、および/または腫瘍間質抗原をコードする少なくとも一つのさらなるDNAワクチンの投与を含む。特定の実施形態では、上記少なくとも一つのさらなるDNAワクチンは、腫瘍抗原、および/または腫瘍間質抗原をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含む、少なくとも一つのさらなるサルモネラの弱毒株から選択される。具体的には、上記少なくとも一つのさらなるサルモネラの弱毒株は、真核生物発現カセットを含むサルモネラ・チフィTy21a(Salmonella typhi Ty21a)である。
【0071】
一つの実施形態では、上記腫瘍抗原は、ウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)、メソテリン(MSLN)、CEA、およびCMV pp65から選択される。特定の実施形態では、少なくとも一つのさらなるDNAワクチンによってコードされる上記腫瘍抗原は、配列番号6において示されているアミノ酸配列を有するウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)、および当該WT1と少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号7において示されているアミノ酸配列を有するメソテリン(MSLN)、および当該MSLNと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号8において示されているアミノ酸配列を有するCEA、および当該CEAと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号9において示されているアミノ酸配列を有するCMV pp65、および当該CMV pp65と少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号10において示されているアミノ酸配列を有するCMV pp65、および当該CMV pp65と少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、および配列番号11において示されているアミノ酸配列を有するCMV pp65、および当該CMV pp65と少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、からなる群から選択される。具体的には、ウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)は配列番号6において示されているアミノ酸配列を有し、メソテリン(MSLN)は配列番号7において示されているアミノ酸配列を有し、CEAは配列番号8において示されているアミノ酸配列を有し、CMV pp65は配列番号9、配列番号10、または配列番号11において示されているアミノ酸配列を有する。一つの実施形態では、上記腫瘍間質抗原は、VEGFR-2またはFAPであり、好ましくはVEGFR-2である。具体的には、上記少なくとも一つのさらなるDNAワクチンにコードされている上記腫瘍間質抗原は、配列番号12において示されているアミノ酸配列を有するVEGFR-2、およびそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、ならびにヒト線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)からなる群から選択される。具体的には、VEGFR-2は、配列番号12において示されているアミノ酸配列を有する。
【0072】
特定の実施形態では、PD-L1をコードするサルモネラの弱毒株は、腫瘍抗原、および/または腫瘍間質抗原をコードする少なくとも一つのさらなるDNAワクチンの前に、同時に、および/またはその後に投与される。
【0073】
本発明の文脈において、用語「同時に」は、PD-L1をコードするサルモネラの弱毒株、および腫瘍抗原および/または腫瘍間質抗原をコードする少なくとも一つのさらなるDNAワクチンを、同日に、より具体的には12時間以内に、より具体的には2時間以内に投与することを指す。
【0074】
特定の実施形態では、PD-L1をコードするサルモネラの弱毒株、および腫瘍抗原および/または腫瘍間質抗原をコードする少なくとも一つのさらなるDNAワクチンの投与は、連続12週間以内に、より具体的には連続8週間以内に、より具体的には連続3~6週間以内に行われる。PD-L1をコードするサルモネラの弱毒株、および腫瘍抗原および/または腫瘍間質抗原をコードする少なくとも一つのさらなるDNAワクチンの投与は、同じ経路または異なる経路を介して投与してよい。たとえば、具体的には少なくとも一つのさらなるDNAワクチンがサルモネラのさらなる弱毒株である場合、経口投与されてもよい。
【0075】
サルモネラのさらなる弱毒株の単回投与量は、約105~約1011、具体的には約106~約1010、より具体的には約106~約109、より具体的には約106~約108、最も具体的には約106~約107コロニー形成単位(CFU)を含む。
【0076】
本発明のサルモネラの弱毒変異株と組み合わせて使用する化学療法の薬剤は、たとえば、以下のものでもよい:ゲムシタビン、アミホスチン(エチオール)、カバジタキセル、カルボプラチン、オキサリプラチン、シスプラチン、カペシタビン、ダカルバジン(DTIC)、ダクチノマイシン、ドセタキセル、メクロレタミン、ストレプトゾシン、シクロホスファミド、ニムスチン(ACNU)、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、ドキソルビシンリポ(ドキシル)、フォリン酸、ゲムシタビン(ジェムザール)、ダウノルビシン、ダウノルビシンリポ(ダウノキソーム)、エピルビシン、プロカルバジン、ケトコナゾール、マイトマイシン、シタラビン、エトポシド、メトトレキサート、5-フルオロウラシル(5-FU)、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ブレオマイシン、パクリタキセル(タキソール)、ドセタキセル(タキソテール)、ペメトレキセド(permetrexed)、アルデスロイキン、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、クラドリビン、カンプトテシン、CPT-11、10-ヒドロキシ-7-エチルカンプトテシン(SN38)、ダカルバジン、フロクスウリジン、フルダラビン、ヒドロキシウレア、イホスファミド、イダルビシン、メスナ、インターフェロンα、インターフェロンβ、イリノテカン、ミトキサントロン、トポテカン、ロイプロリド、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、オキサリプラチン、プリカマイシン、ミトタン、ペグアスパラガーゼ、ペントスタチン、ピポブロマン、プリカマイシン、ストレプトゾシン、タモキシフェン、テニポシド、テストラクトン、チオグアニン、チオテパ、ウラシルマスタード、ビノレルビン、クロラムブシル、テモゾロミド、およびそれらの組み合わせ。
【0077】
本発明による、最も好適な化学療法薬剤は、カバジタキセル、カルボプラチン、オキサリプラチン、シスプラチン、シクロホスファミド、ドセタキセル、エトポシド、ゲムシタビン、ドキソルビシン、ロムスチン、パクリタキセル(タキソール)、イリノテカン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、フォリン酸、5-フルオロウラシル、ブレオマイシン、およびテモゾロミドであり、特にゲムシタビンである。
【0078】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒株は経口投与される。経口投与は、非経口投与よりも、より簡便、より安全、そして、より快適である。しかしながら、PD-L1をコードするサルモネラの弱毒株はまた、他の任意の好適な経路によっても投与されうることも留意すべきである。好ましくは、治療上有効な用量が患者に投与され、そしてこの用量は、特定用途、悪性腫瘍の種類、患者の体重、年齢、性別および健康状態、投与方法、ならびに製剤形態等に依存する。投与は、必要に応じ、単回投与または複数回投与であってもよい。
【0079】
特定の実施形態では、がんは、リンパ腫、白血病、骨髄腫、肺がん、特に非小細胞肺がん、黒色腫、腎細胞がん、卵巣がん、神経膠芽腫、メルケル細胞がん、膀胱がん、頭頚部がん、大腸がん、食道がん(esophagial cancer)、子宮頸がん、胃がん、肝細胞がん、前立腺がん、乳がん、膵臓がん、および甲状腺がん、から選択される。
【0080】
PD-L1をコードするサルモネラの弱毒株は、比較的低用量で驚くほど効果的である。 低用量の生細菌ワクチンの投与により、排泄のリスクを最小化し、したがって第三者への感染を最小化する。
【0081】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒株の単回投与量は、約105~約1011、具体的には約106~約1010、より具体的には約106~約109、より具体的には約106~約108、最も具体的には約106~約107コロニー形成単位(CFU)を含む。
【0082】
この文脈において、用語「約(about)」または「約(approximately)」は、所与の値または範囲の3倍以内、あるいは2倍以内(1.5倍以内を含む)を指す。
【0083】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒株は、患者のPD-L1発現パターンおよび/またはPD-L1に対する免疫前応答を評価する工程を含む、個別化がん免疫療法における使用のためのものである。患者のPD-L1発現および/または、PD-L1に対する免疫前反応は、最初の工程で、たとえばコンパニオン診断によって評価してもよい。mRNAレベルまたはタンパク質レベルのいずれかで標的遺伝子、たとえばPD-L1の発現を評価する方法は、当業者に周知である。たとえば、免疫組織化学染色、フローサイトメトリー法もしくはRNA塩基配列決定法、または標識を用いる代替法を、腫瘍における標的発現レベルを同定するのに使用してもよい。同様に、所与のタンパク質、たとえばPD-L1に対する患者の免疫前反応を評価する方法は、当業者に周知である。患者の既存のPD-L1特異的T細胞プールは、たとえばELISpotまたはマルチマーFACS解析によって検出することができる。高い腫瘍特異的PD-L1発現および/または、PD-L1に対する免疫前反応の発生は、PD-L1をコードするサルモネラの弱毒株を用いる治療法に対して順調に反応することについての患者の素因の予後指標となる。
【0084】
PD-L1をコードするサルモネラの弱毒株は、溶液、懸濁液、凍結乾燥物、腸溶カプセル剤、または任意の他の好適な剤型で提供されてもよい。一般的に、サルモネラの弱毒株は、飲用溶液として処方される。この実施形態は、患者コンプライアンスの向上という利点を提供する。好ましくは、飲用溶液は、胃酸を少なくともある程度まで中和する、すなわち胃液のpHをpH7に近づける、手段を含む。好ましくは、飲用溶液は、PD-L1をコードするサルモネラの弱毒株を含む、緩衝懸濁液である。特定の実施形態では、緩衝懸濁液は、好ましくは2.6gの炭酸水素ナトリウム、1.7gのL-アスコルビン酸、0.2gのラクトース一水和物および100mlの飲用水を含む、好適な緩衝液に、サルモネラの弱毒株を懸濁することによって得られる。
【0085】
抗生物質または抗炎症剤による治療を含むことは、起こりうる副作用の発生に応じて好都合でありうる。
【0086】
ヒスタミン、ロイコトリエンまたはサイトカインを介する過敏症反応に似た有害事象が発生した場合、発熱、アナフィラキシー、血圧不安定、気管支けいれん、および呼吸困難に対する治療選択肢が有用である。望ましくないT細胞由来の自己攻撃性の場合の治療選択肢は、幹細胞移植後に適用される、急性および慢性の移植片対宿主病における標準治療のスキームから得られる。シクロスポリンおよびグルココルチコイドは、治療選択肢として提示される。
【0087】
全身性のサルモネラ・チフィTy21a(Salmonella typhi Ty21a)型の感染という望ましくない状況の場合、たとえば、シプロフロキサシンまたはオフロキサシンを含むフルオロキノロンを用いた、適切な抗生物質療法が推奨される。消化管の細菌感染症は、リファキシミン等のそれぞれの薬剤で治療される必要がある。
【0088】
特定の実施形態では、がん免疫療法は、PD-L1をコードするサルモネラの弱毒株、または、当該サルモネラの弱毒株を含む医薬組成物の、単回または複数回投与を含む。投与の単回投与量は同じであっても異なってもよい。具体的には、がん免疫療法は、PD-L1をコードするサルモネラの弱毒株の、1、2、3、4、5、または6回の投与を含み、好ましくは、ここで複数回の投与は、3~6か月連続で行われる。
【実施例0089】
実施例1:播種同系FBL-3赤白血病を保有するC57BL/6マウスにおけるVXM10mの抗腫瘍活性の評価
この研究の目的は、播種同系FBL-3赤白血病を保有するC57BL/6マウスにおける、2種類のサルモネラベースのPD-L1 DNAワクチンの抗腫瘍効果を調査することであった。VXM10mは、全長ネズミネイティブPD-L1(配列番号17の塩基配列を有する)をコードする発現プラスミドpVAX10で形質転換された、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)aroA株SL7207である。VXM10maは、短縮型ネズミPD-L1(配列番号18の塩基配列を有する)、より具体的には17アミノ酸残基を切断したN末端をコードする発現プラスミドpVAX10で形質転換された、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)aroA株SL7207である。
【0090】
治療は1日目(D1)と見なされた無作為化日に開始した。30匹の4~6週齢の健康なオスのC57BL/6マウスを、体重に応じてランダムに6匹ずつの5群に分けた。処理群への動物の割り当てを表1に要約する。統計的検定(Student t検定)を実行し、群間の均一性を検定した(データは示していない)。
【0091】
【0092】
群1は、空ベクターコントロール(VXM0m_empty;外因性発現プラスミドを有さないS.チフィムリウム(S.typhimurium)細菌ベクターコントロール)で処理された。群2~5は、二つの異なる単回投与で、VXM10mまたはVXM10maで処理された。
【0093】
VXM0m_empty、VXM10m、およびVXM10maは、強制経口投与(oral gavage)によって(per os、po)、適用(application)ごとに最終容量100μlで投与された。動物群に関係なく、各動物に経口で(po)投与前適用バッファー(pre-dose application buffer)を投与し、投与(dosing)前に胃内の酸を中和した(100μl/動物/適用)。このバッファーは、2.6gの炭酸水素ナトリウム、1.7gのL-アスコルビン酸、0.2gのラクトース一水和物を100mlの飲用水に溶解させて生成され、そしてVXM0m_empty、VXM10m、およびVXM10maの適用前30分以内に適用された。
【0094】
プライムワクチン接種(prime vaccination)は1日目に開始され、2日ごとに4回の投与で構成された(1、3、5、7日目)。プライムワクチン接種の後に、14日目および21日目に2回のブーストワクチン接種(boost vaccination)が行われた。
【0095】
20日目に500μlのRPMI 1640中の5.0×106個のFBL-3細胞の腹腔内投与(I.P. injection)によってすべての動物において腫瘍が誘発された。FBL-3は、C57BL/6マウスに由来するフレンド白血病ウイルス誘発白血病細胞株である。この細胞株は、免疫系によって認識できるユニークな腫瘍特異的移植抗原を発現する。同系マウスをFBL-3腫瘍細胞で予備刺激すると、その後の生腫瘍負荷が今後拒絶される。FBL-3は免疫原性であるが、生FBL-3腫瘍細胞を無感作の同系マウスに注入すると腫瘍が成長し、FBL-3腫瘍細胞は免疫認識および破壊を回避する機構を保有することが示唆される。注目すべきことに、PD-L1はFBL-3細胞株で高度に発現されることが示された。
【0096】
動物の体重、生存率、および動物の行動は、研究を通じてモニターされた。
【0097】
試験動物の生存は、
図15のKaplan-Meierプロットに表示される。
【0098】
実施例2:FBL-3細胞による再負荷後のC57BL/6マウスの長期生存におけるVXM10m、およびVXM10maの投与の効果
この研究の目的は、再負荷後の播種同系FBL-3赤白血病を保有するC57BL/6マウスにおける、2種類のサルモネラベースのPD-L1 DNAワクチンの抗腫瘍効果の長期効果を調査することであった。
【0099】
実施例1の研究を継続し、マウスに100日目に二回目の腫瘍誘発用量を投与した。実験の開始から研究に存在したが、最初の腫瘍誘発を受けなかった、ワクチン未接種のコントロール動物(n=10)は、腫瘍再負荷のコントロールとして含まれていた。再負荷は群2~5(表1を参照)のすべての動物、およびワクチン未接種のコントロール動物において、100日目に500μlのRPMI 1640中の5.0×106個のFBL-3細胞の腹腔内投与(I.P. injection)によって腫瘍誘発によって行われた。
【0100】
動物の体重、生存率、および動物の行動は、継続的にモニターされた。治療期間中、コントロール群と比較した場合、VXM10m、およびVXM10maの投与により、白血病に対する強力な記憶T細胞応答が生成され、FBL-3細胞による再負荷後も100%の長期生存マウスが生じた。ワクチン接種に関連した毒性、または体重減少は、研究を通じて観察されなかった。試験動物の生存率は
図16のKaplan-Meierプロットに表示される。
【0101】
実施例3:播種同系FBL-3赤白血病を保有するC57BL/6マウスにおけるVXM10m、およびVXM10maの治療的抗腫瘍活性の評価
この研究の目的は、播種同系FBL-3赤白血病を保有するC57BL/6マウスにおいて、治療的に投与されるVXM10m、およびVXM10maの抗腫瘍効果を調査することであった。
【0102】
0日目に500μlのRPMI 1640中の5.0×106個のFBL-3細胞の腹腔内投与(intraperitoneal (i.p.) injection)によってすべての動物において腫瘍が誘発された。
【0103】
治療は1日目(D1、腫瘍注入後)と見なされた無作為化日に開始した。治療群では、16匹の4~6週齢の健康なオスのC57BL/6マウスを、体重に応じてランダムに8匹ずつの2群に分けた。統計的検定(Student t検定)を実行し、群間の均一性を検定した(データは示していない)。
【0104】
VXM0m_empty、VXM10m、およびVXM10maは、強制経口投与(oral gavage)によって(per os、po)、最終容量100μl中の1.0×109CFUで投与された。
【0105】
8匹のマウスの群1は、空ベクターコントロール(VXM0m_empty;外因性発現プラスミドを有さないS.チフィムリウム(S.typhimurium)細菌ベクターコントロール)で処理された。群2~5は、二つの異なる単回投与で、VXM10mまたはVXM10maで処理された。8匹のマウスの他の群は、VXM10m、またはVXM10maで処理され、1、3、5、7日目に4回のプライム処理がされ、14日目および21日目に週に1回のブースト処理がされた(
図17A)。
【0106】
動物の体重、生存率、および動物の行動は、プライム-ブースト期間中、および免疫応答のピーク時、すなわち研究0日目から28日目まで週3回、そしてその後研究終了まで週2回モニターされた。
【0107】
治療期間中、コントロール群と比較した場合、VXM10m、およびVXM10maの経口投与は、FBL-3白血病モデルで強力な抗腫瘍効果をもたらし、白血病負荷の80日後に生存動物が100%であった(
図17B)。ワクチン接種に関連した毒性、または体重減少は、研究を通じて観察されなかった。空ベクターの投与は抗がん効果を示さなかった。
【0108】
実施例4:播種同系FBL-3赤白血病を保有するC57BL/6マウスにおけるVXM10m、およびVXM10maによるワクチン接種後の抗PD-L1抗体応答の評価
この研究の目的は、播種同系FBL-3赤白血病を保有するC57BL/6マウスにおいて、1、3、5、および7日目、ならびに14、21日目のブーストで108CFUおよび1010CFUで投与されたVXM10mおよびVXM10maに対する抗PD-L1応答を調査することであった。20日目に5.0×106個のFBL-3細胞の腹腔内投与(I.P. injection)によってすべての動物において腫瘍が誘発された。ワクチン接種および腫瘍誘発は基本的に実施例1に記載のとおりに行った。可溶性組換えマウスPD-L1をポジティブコントロール群においてCFA/IFAによる免疫に使用した。
【0109】
21日目の最終ワクチン接種の79日後に、VXM10mまたはVXM10maのいずれかをワクチン接種した動物の血清中でELISAによって全身抗体反応を評価した(
図18A)。抗PD-L1抗体は、VXM10mおよびVXM10maを接種した数匹の動物で検出され、そして反応は最高用量投与群においてより顕著であり、動物の50%(6匹中3匹)が、カットオフ値を超えるシグナル対バックグラウンド比を示した(
図18B)。
【0110】
実施例5:C57BL/6マウスにおけるVXM10m、およびVXM10maによるワクチン接種後のPD-L1に対するT細胞応答の評価
この研究の目的は、1日おき(1、3、5、および7日目)に、VXM10m、VXM10ma、または空ベクターコントロールのいずれかの10
10CFUで経口経路によって4回免疫した健康なC57BL/6マウス(群あたりn=5)のPD-L1エピトープに対して誘導されるT細胞応答を調査することであった(
図19A)。
【0111】
最後の免疫化の10日後(17日目)に、マウスPD-L1に由来する5つの免疫原性ペプチドのプールを使用して、脾細胞(spenocyte)のex vivo再刺激を行った。培養上清の内容物は、6日間のin vitro刺激後にELISAによってIFNγおよびTNFαの存在について試験された。
【0112】
TNFαのレベル、および比較的程度は低いがIFNγのレベルは、VXM10aでワクチン接種され、そしてPD-L1ペプチドで刺激された動物に由来する脾細胞(spenocyte)の上清で有意に増加した(
図19B)。これらのデータは、VXM10aによる免疫がPD-L1に特異的なT細胞のプールを誘発したことを裏付けている。
【0113】
実施例6:播種同系FBL-3赤白血病を保有するC57BL/6マウスにおけるVXM10mbの抗腫瘍活性の評価
この研究の目的は、播種同系FBL-3赤白血病を保有するC57BL/6マウスにおける3番目のサルモネラベースのPD-L1 DNAワクチンの抗腫瘍効果の長期効果を調査することである。VXM10mbは、短縮型マウスPD-L1、より具体的にはN末端シグナル伝達ペプチドを含む細胞外ドメイン(アミノ酸配列の配列番号15;塩基配列の配列番号16)をコードする発現プラスミドpVAX10で形質転換したサルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)aroA株SL7207である。実験は、基本的に実施例1および実施例2に記載されているように行われる。
【0114】
実施例7:播種同系FBL-3赤白血病を保有するC57BL/6マウスにおけるVXM10mbの治療的抗腫瘍活性の評価
この研究の目的は、播種同系FBL-3赤白血病を保有するC57BL/6マウスに治療的に投与されたVXM10mbの抗腫瘍効果を調査することである。実験は、基本的に実施例3に記載されているように行う。