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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021284
(43)【公開日】2023-02-10
(54)【発明の名称】ポンプ監視装置および真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20230202BHJP
【FI】
F04D19/04 H
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198708
(22)【出願日】2022-12-13
(62)【分割の表示】P 2018168194の分割
【原出願日】2018-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100149962
【弁理士】
【氏名又は名称】阿久津 好二
(74)【代理人】
【識別番号】100170988
【弁理士】
【氏名又は名称】妹尾 明展
(74)【代理人】
【識別番号】100189566
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 雅之
(74)【代理人】
【識別番号】100102037
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 裕之
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 耕太
(57)【要約】
【課題】ポンプ異常を精度よく判定するポンプ監視装置の提供。
【解決手段】ポンプ監視装置は、処理対象に対して各種プロセスを施すプロセスチャンバ内を排気する真空ポンプ1の監視装置であって、真空ポンプ1の運転状態を表す物理量を取得する取得部24aと、モータ電流値の実測波形と基準波形とを比較する比較部24dと、比較部24dでの比較結果に基づいて真空ポンプ1の負荷を判定する判定部24eとを備えている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象に対して各種プロセスを施すプロセスチャンバを排気する真空ポンプのポンプ監視装置であって、
前記真空ポンプの運転状態を表す物理量を取得する取得部と、
前記物理量の実測波形と基準波形とを比較し、パターンマッチングにより、物理量の実測波形と基準波形との間の一致度を演算する比較部と、
前記比較部で演算された一致度に基づいて前記真空ポンプの負荷増大による異常を判定する判定部とを備え、
前記比較部は、実測波形と基準波形との一部である差分領域において、実測波形と基準波形との差分を行うことにより、物理量の実測波形と基準波形との間の一致度を演算する、
ポンプ監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載のポンプ監視装置において、
前記比較部は、複数の前記差分領域において、実測波形と基準波形との差分を行い、差分が大きいほど一致度演算に用いられるポイントに小さい値が与えられ、一致度演算のポイントの合計値に基づいて、物理量の実測波形と基準波形との間の一致度を演算する、ポンプ監視装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポンプ監視装置において、
前記差分領域は、一定の真空圧力下でプロセス処理が行われる期間を含む、ポンプ監視装置。
【請求項4】
請求項1に記載のポンプ監視装置において、
前記比較部は、前記プロセスごとに選択された前記基準波形を前記実測波形と比較するポンプ監視装置。
【請求項5】
請求項1に記載のポンプ監視装置において、
前記基準波形は、前記真空ポンプを起動した後の所定期間内における前記物理量の信号波形に基づいて取得されるポンプ監視装置。
【請求項6】
請求項1に記載のポンプ監視装置において、
前記比較部は、一つのプロセスでの物理量が最大となる時間幅内の前記実測波形と前記基準波形について、前記実測波形と前記基準波形における物理量の平均値をそれぞれ算出し、前記それぞれの平均値の差分を演算して波形比較を行うポンプ監視装置。
【請求項7】
請求項1に記載のポンプ監視装置において、
複数の前記処理対象の各々に対して連続して同一プロセスが施されたときに得られる前記物理量の信号波形を単位波形と定義したとき、
前記基準波形と前記実測波形は、それぞれが所定期間内で繰り返される複数の単位波形からなり、
前記比較部は、前記複数の単位波形からなる前記基準波形と前記実測波形とを比較するポンプ監視装置。
【請求項8】
請求項1に記載のポンプ監視装置において、
前記物理量は前記真空ポンプのロータを回転駆動するモータの電流値であるポンプ監視装置。
【請求項9】
ロータ、ステータ、およびロータを回転駆動するモータを有するポンプ本体と、
請求項1に記載のポンプ監視装置を含み、前記モータを駆動制御するポンプコントローラとを備える真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ監視装置およびポンプ監視装置を搭載する真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶パネルの製造におけるドライエッチングやCVD等の工程では、高真空のプロセスチャンバ内で処理を行うため、例えば、ターボ分子ポンプのような真空ポンプでプロセスチャンバ内のガスを排気し高真空を維持する。ドライエッチングやCVD等のプロセスチャンバ内のガスを排気する場合、ガスの排気に伴ってポンプ内に反応生成物が堆積する。
【0003】
このような反応生成物の堆積に関して、特許文献1には、ポンプ内に堆積した生成物を検知する方法が開示されている。特許文献1に開示されている堆積物検知方法では、ポンプの回転体を回転駆動するモータの電流値を計測し、モータ電流初期値に対する計測値の変化量が所定値以上の場合に警告を発するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特許第5767632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、実際には、単一のプロセス内においても排気されるガス流量は大きく変動するので、ガス流量の変動に伴って回転体を回転駆動するモータの電流値も大きく変動することになる。そのため、誤判定が避けられない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明によるポンプ監視装置は、処理対象に対して各種プロセスを施すプロセスチャンバ内を排気する真空ポンプの監視装置であって、前記真空ポンプの運転状態を表す物理量を取得する取得部と、前記物理量の実測波形と基準波形とを比較する比較部と、比較部での比較結果に基づいて真空ポンプの負荷増大による異常を判定する判定する判定部とを備えている。
(2)ポンプ監視装置の上記比較部は、好ましくは、前記プロセスに応じて選択された前記基準波形を前記実測波形と比較する。
(3)ポンプ監視装置の前記基準波形は、好ましくは、前記真空ポンプを起動した後の所定時間内における前記物理量の信号波形に基づいて取得される。
(4)ポンプ監視装置の前記比較部は、好ましくは、一つのプロセスでの物理量が最大となる時間幅内の前記実測波形と前記基準波形について、前記実測波形と前記基準波形における物理量の平均値をそれぞれ算出し、前記それぞれの平均値の差分を演算して波形比較を行う。
(5)ポンプ監視装置の好ましい態様では、複数の前記処理対象の各々に対して連続して同一プロセスが施されたときに得られる前記物理量の信号波形を単位波形と定義したとき、前記基準波形と前記実測波形は、それぞれが所定期間内で繰り返される複数の単位波形からなり、前記比較部は、前記複数の単位波形からなる前記基準波形と前記実測波形とを比較する。
(6)ポンプ監視装置の前記物理量は、好ましくは、前記真空ポンプのロータを回転駆動するモータの電流値である。
(7)本発明の他の態様の真空ポンプは、ロータ、ステータ、およびロータを回転駆動するモータを有するポンプ本体と、上記のポンプ監視装置を含み、前記モータを駆動制御するポンプコントローラとを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、プロセスチャンバ内でのプロセスに起因した真空ポンプの負荷の異常、たとえば、生成不純物の堆積物に伴うポンプ負荷増大に起因する異常を正確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施の形態における真空処理装置を示す図
図2】ポンプ本体の詳細を示す断面図
図3】(a)は真空ポンプおよびポンプ監視装置を示すブロック図,(b)はポンプ監視部の機能ブロック図
図4】モータ電流値の実測波形と基準波形を示す図
図5】真空ポンプの運転制御処理のメインフローの一例を示すフローチャート
図6】第1の実施の形態におけるポンプ監視処理の一例を示すフローチャート
図7】異常判定処理の一例を示すフローチャート
図8】モータ電流値の実測波形と基準波形を示す図
図9】第2の実施の形態におけるポンプ監視処理の一例を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
-第1の実施の形態-
図1は、第1の実施の形態におけるポンプ監視装置を搭載する真空処理装置10を示す図である。真空処理装置10は、たとえばエッチング処理や成膜装置である。真空ポンプ1はバルブ3を介してプロセスチャンバ2に取り付けられている。真空処理装置10は、真空ポンプ1およびバルブ3を含む真空処理装置10全体を制御するメインコントローラ100を備える。真空ポンプ1は、ポンプ本体11と、ポンプ本体11を駆動制御するポンプコントローラ12とを備えている。真空ポンプ1のポンプコントローラ12は、通信ライン40を介してメインコントローラ100に接続されている。後述するように、ポンプコントローラ12は、真空ポンプ1が異常か否かを監視するポンプ監視部24を備え、真空ポンプ1の異常を監視している。本明細書におけるポンプ異常は、プロセスチャンバ2(図2)からポンプ内に流入するガスによる生成物がポンプロータなどに付着したことに伴い発生する。
【0010】
図2は、ポンプ本体11の詳細を示す断面図である。本実施の形態における真空ポンプ1は磁気軸受式のターボ分子ポンプであり、ポンプ本体11には回転体Rが設けられている。回転体Rは、ポンプロータ14と、ポンプロータ14に締結されたロータシャフト15とを備えている。
【0011】
ポンプロータ14には、上流側に回転翼14aが複数段形成され、下流側にネジ溝ポンプを構成する円筒部14bが形成されている。これらに対応して、固定側には複数の固定翼ステータ62と、円筒状のネジステータ64とが設けられている。ネジステータ64の内周面にネジ溝が形成される形式と、円筒部4bの外周面にネジ溝を形成する形式がある。各固定翼ステータ62は、スペーサリング63を介してベース60上に載置される。
【0012】
ロータシャフト15は、ベース60に設けられたラジアル磁気軸受17A,17Bとアキシャル磁気軸受17Cとによって磁気浮上支持され、モータ16により回転駆動される。各磁気軸受17A~17Cは電磁石と変位センサとを備えおり、変位センサによりロータシャフト15の浮上位置が検出される。ロータシャフト15の回転数は回転数センサ18により検出される。磁気軸受17A~17Cが作動していない場合には、ロータシャフト15は非常用のメカニカルベアリング66a,66bによって支持される。
【0013】
ベース60には、吸気口61aが形成されたポンプケーシング61がボルト固定されている。ベース60の排気口60aには排気ポート65が設けられ、この排気ポート65にバックポンプが接続される。ポンプロータ14が締結されたロータシャフト15をモータ16により高速回転すると、吸気口61a側の気体分子は排気ポート65側へと排気される。
【0014】
ベース60には、ヒータ19と、冷却水などの冷媒が流れる冷媒配管20とが設けられている。冷媒配管20に不図示の冷媒供給配管が接続され、冷媒供給配管に設置した電磁開閉弁の開閉制御により、冷媒配管20への冷媒流量を調整することができる。反応生成物の堆積しやすいガスを排気する場合には、ネジ溝ポンプ部分や下流側の回転翼14aへの生成物堆積を抑制するために、ヒータ19をオンオフすること、および冷媒配管20を流れる冷媒の流量をオンオフすることにより、例えばネジステータ固定部付近のベース温度が所定温度となるように温度調整を行う。
【0015】
図3(a)、(b)は、真空処理装置10に設けられた真空ポンプ1の構成と、メインコントローラ100の構成を示すブロック図である。図2にも示すように、真空ポンプ1のポンプ本体11は、モータ16,磁気軸受(MB)17および回転数センサ18を備える。ポンプコントローラ12は、モータ制御部23、磁気軸受制御部(MB制御部)22、ポンプ監視部24、および記憶部25を備える。なお、図3では、図2のラジアル磁気軸受17A,17Bおよびアキシャル磁気軸受17Cを、まとめて磁気軸受17と記載した。
メインコントローラ100は、主制御部110、表示部120、および記憶部130を備えている。
【0016】
モータ制御部23は、回転数センサ18で検出した回転信号に基づいてロータシャフト15の回転数を推定し、推定された回転数に基づいてモータ16を所定目標回転数に制御する。ガス流量が大きくなるとポンプロータ14への負荷が増加するので、モータ16の回転数が低下する。モータ制御部23は、回転数センサ18で検出された回転数と所定目標回転数との差がゼロとなるようにモータ電流を制御することにより所定目標回転数(定格回転数)を維持するようにしている。
磁気軸受17は、軸受電磁石と、ロータシャフト15の浮上位置を検出するための変位センサとを備えている。
【0017】
上述したように、ポンプコントローラ12に設けられたポンプ監視部24は、プロセスチャンバ2に取り付けられた真空ポンプ1に異常が生じていないか否かを監視する装置である。第1の実施の形態では、とくに反応生成物の過剰な堆積により真空ポンプ1が正常に運転できなくなる状態をポンプ異常状態と定義している。そして、このポンプ異常状態を未然に防止するため、ポンプ異常状態が発生する時点より十分に余裕を持った手前の時点で、ポンプ異常発生を予測する。ただし、ここでは、ポンプ異常が予測された時点をポンプ異常検出と呼ぶ。
【0018】
図3(b)を参照すると、ポンプ監視部24は、真空ポンプ1の運転状態を表す物理量、たとえばモータ電流値を取得する取得部24aと、モータ電流値の実測波形および基準波形を設定する設定部24b,24cと、設定された実測波形と基準波形とを比較する比較部24dと、比較部24dでの比較結果に基づいて真空ポンプ1の負荷に基づく異常判定を行う判定部24eとを備えている。これらの機能は図5図7で詳細に説明するようにソフトウエアで実現している。
真空ポンプ1のポンプコントローラ12とメインコントローラ100とは、通信回線40により情報の授受が行われる。通信回線40は、たとえば、シリアル通信により信号の授受が行われる。
【0019】
(監視方法の説明)
ポンプ監視部24は、真空ポンプ1の異常を検出するための情報として、ポンプロータ14の回転状態を表す信号を用いる。本実施の形態では、ポンプロータ14の回転状態を表す信号として真空ポンプ1のモータ電流値を用いる場合について説明する。
【0020】
ポンプコントローラ12のモータ制御部23においては、回転数センサ18の検出値に基づいてモータ16の回転速度を算出し、検出される回転速度が目標回転速度となるようにフィードバック制御している。一連のプロセスが行われている状態では、モータ制御部23は回転速度を定格回転速度に維持する定常運転制御を行っている。たとえば、プロセスチャンバ2内へガスが導入される際は、ポンプロータ14への負荷が増加する。モータ制御部23はモータ回転速度を定格回転速度に維持する制御を行っているので、ガス負荷の増加に伴ってモータ電流値が上昇する。反対にガス負荷の減少に伴ってモータ電流値が減少する。
【0021】
ポンプ監視部24には、モータ制御部23で取得されている真空ポンプ1のモータ電流値が入力される。ポンプ監視部24は、モータ電流値の波形と、あらかじめ取得した基準波形との間の一致度を演算する。ポンプ監視部24は、一致度が低いときにポンプ異常と判定し、一致度が高いときはポンプ正常と判定する。
【0022】
図4は、真空処理装置10において同一真空処理プロセス、たとえば複数枚の基板に対してエッチングプロセスを連続して繰り返し行っているときのモータ電流値の時系列波形の一例を示す図である。具体的には、同一プロセスで連続する、1枚目の基板に対するプロセスP1、2枚目の基板に対するプロセスP2、3枚目の基板に対するプロセスP3におけるモータ電流値の時系列波形を示す。各波形の実線41は実測したモータ電流値の波形(以下、実測波形と呼ぶ)、破線42は基準となるモータ電流値の波形(以下、基準波形と呼ぶ)である。
【0023】
図4において、1枚目の基板に対するプロセスP1は、時刻t1~t2の間に行われ、2枚目の基板に対するプロセスP2は、時刻t2~t3の間に行われ、3枚目の基板に対するプロセスP3は、時刻t3~t4の間に行われる。図4に示すように、プロセスP1~P3は等時間間隔(インターバル)で実行され、実測波形41は略同一である。
【0024】
時刻t1において、1枚目の基板が搬入されたプロセスチャンバ2の圧力が高真空に向けて排気されるとモータ電流値が急上昇し、時刻t1aで最大値となり時刻t1bまで低下する。その後、時刻t1bからプロセスガスが導入されてモータ電流値は上昇して時刻t1cで最大値となる。時刻t1cから時刻t1dまでは、一定の真空圧力下でプロセス処理が行われるので、一定のモータ電流値となる。時刻t1dで1枚目の基板に対するプロセス処理が終了し、プロセスガスの導入が停止され、モータ電流値は急激に低下し、時刻t1eまで低下する。その後、時刻t1f、t1gの2つのピークをとり、時刻t1gのピークから急激に低下して時刻t2に至る。この間に1枚目の基板が搬出され、2枚目の基板が搬入される。時刻t2から始まる2枚目の基板に対するプロセスP2、および時刻t3から始まる3枚目の基板に対するプロセスP3でも、プロセスP1と同様なモータ電流値の変動を示す。
【0025】
第1の実施の形態のポンプ監視部24では、真空ポンプ1が起動されて定格回転数に達した後にプロセス処理が開始される。このプロセス処理開始から所定期間内において、同一真空処理プロセスを連続して複数枚の基板に対して行ったときのモータ電流値を実測する。所定期間内の複数回のプロセス処理で得られた時系列に変化するモータ電流値の波形を基準波形として記憶する。所定期間は、当該プロセスにおいて堆積物による影響が生じない十分に余裕のある期間である。この所定期間は実験で決定したり、もしくは経験的に決定する。
【0026】
基準波形とは、たとえば以下(1)、(2)のようなものを云う。
(1)複数の処理対象の各々に対して同一プロセス(たとえばエッチングプロセス)が施されたときに得られるモータ電流値の信号波形を単位波形と定義する。図4で説明すると、時刻t1~時刻t2のプロセスP1の区間のモータ電流値の信号波形が単位波形である。基準波形は、プロセスP1,P2,P3…プロセスPNが行われる所定期間内のN個の単位波形が集合した波形である。所定期間は上述したように、堆積物による影響が表れない期間である。
(2)上記所定期間内に得られたN個の基準波形は略同一のパターンである。N個の単位波形に基づいて、一つの平均的な信号パターンを有する波形を基準波形としてもよい。図4で説明すると、たとえば、時刻t1~t2~t3~t4の3区間それぞれの信号パターンの平均値を基準波形としてもよい。
以下の説明では、上記(1)で説明する基準波形を実測波形と比較するものとして説明する。
【0027】
基準波形との間でパターンの一致度が演算される実測波形は、基準波形を生成した後の所定期間内で得たモータ電流値の繰り返しパターンである。実測波形は、上記(1)のように複数個の信号パターンを有する基準波形と比較される。あるいは、実測波形の複数の単位波形の各々は、上記(2)のように一つの信号パターンである単位波形の基準波形と比較される。
【0028】
第1の実施の形態のポンプ監視部24は、実測波形41と基準波形42の形状を比較し、両波形が同一もしくは類似する波形と見なせる場合にはポンプに異常がない、すなわち正常と判定する。同一もしくは類似する波形と見なせない場合にはポンプに異常があると判定する。
【0029】
図5はポンプコントローラ12で実行されるポンプ運転制御手順を示すフローチャートである。この手順は、記憶部25に記憶されているプログラムを、ポンプ起動に伴って起動することにより実行される。
ステップS51ではポンプ運転状態検出処理を実行する。第1の実施の形態では、たとえばロータシャフト15の回転数、モータ16を流れるモータ電流値、モータ16に印加されているモータ電圧、生成物の堆積を防止する制御で用いられるベース温度などを検出する。ロータシャフト15の回転数は、ポンプ本体11内に設けた回転数センサ18で検出される。モータ電流値は、ポンプコントローラ12のモータ制御部23で検出される。
モータ電圧はモータ制御部23でモータ回転数を定常回転数に制御する際に検出される。ベース温度はベース60に設置した温度センサで検出される。
【0030】
ステップS52では、ステップS51で得られたロータ回転数、モータ電流、モータ電圧、ベース温度などを用いて、モータ16の回転数、ベース温度を適正値に制御するポンプ制御処理を実行する。
ステップS53では、ポンプ異常状態の有無を監視するポンプ監視処理を実行する。ポンプ監視処理の詳細は図6図7で説明する。
【0031】
なお、ポンプ制御処理において、モータ回転数制御やステータ温度制御などが繰り返し行われる。ステップS53のポンプ監視処理は、ステップS52のポンプ制御処理において各種制御が一回終了するたび、もしくは、各種制御が複数回繰り返された後に実行されることを示している。したがって、ステップS51~S53は繰り返し実行される。
【0032】
図6および図7を参照して、図5のステップS53のポンプ監視処理の詳細を説明する。ステップS1において、ポンプ回転数が定格回転数に達した後、基準波形42が取得済みか否かを判定する。否定されるとステップS2に進む。ステップS2において、モータ電流値を所定時間間隔でサンプリングする。ステップS3で所定期間が経過したか否かを判定し、肯定されるまでモータ電流値のサンプリングを継続して行う。サンプリングされるモータ電流値は記憶部25に格納される。
ステップS3が肯定されるとステップS4に進み、記憶部25に格納されたモータ電流値の時系列データを基準波形42のデータとして設定する。図4の破線で示す波形42はこのようにして取得されたモータ電流値の基準波形42である。
ステップS1において基準波形が取得済みと判定された場合は、ステップS5に進む。
【0033】
ステップS4に続くステップS5では、モータ電流値を所定時間間隔でサンプリングする。ステップS6で所定期間が経過したか否かを判定し、肯定されるまでモータ電流値のサンプリングを継続して行う。サンプリングされるモータ電流値は記憶部25に格納される。ステップS6が肯定されるとステップS7に進み、記憶部25に格納されたモータ電流値の時系列データを実測波形41のデータとして設定する。図4の実線で示す波形41はこのようにして取得されたモータ電流値の実測波形41である。ステップS7に続くステップS8においてポンプ異常判定処理を実行する。
【0034】
図7は、ステップS8におけるポンプ異常判定処理を説明するフローチャートである。ポンプ異常判定処理とは、取得された基準波形42と実測波形41を用いてポンプ異常状態を検出する処理である。
ステップS11において、記憶部25に格納されている基準波形42のデータと実測波形41のデータとを読み出す。ステップS12において、基準波形42のデータと実測波形41のデータを比較する処理を実行する。ステップS13において、比較処理の比較結果に基づいて、両波形の一致度を判定する。同一もしくは類似している場合、両波形は一致していると判定してステップS14において正常フラグをセットする。同一もしくは類似していない場合、両波形は一致していないと判定してステップS15において異常フラグをセットする。ステップS16において、異常フラグ/正常フラグの有無を判定し、異常フラグがあればステップS17に進みポンプ異常を出力する。正常フラグがあればステップS17をスキップして所定の処理にリターンする。
【0035】
図5図7で示すプログラム処理によるポンプ異常状態の検出処理をまとめると以下のとおりである。
真空ポンプ1を起動する指令がポンプコントローラ12に入力されると、ポンプコントローラ12はロータシャフト15を定常回転数で回転するようにモータ制御を行う。すなわち、ポンプコントローラ12は、回転数センサ18の検出信号を取得し、ロータシャフト15が定格回転数で回転するようにモータ制御部23でモータ16を制御する。ロータシャフト15の回転数が定格回転数に達した後は、引き続き回転数センサ18からの回転数信号を取得し、ロータシャフト15が定格回転数で回転するようにモータ制御を行う。
【0036】
ロータシャフト15が定格回転数で回転した後、基板などの処理対象へのプロセス処理が開始される。プロセス処理開始から所定期間が経過するまでは、堆積物によるモータ制御への影響は小さい。この所定期間の間に取得したモータ電流の時系列変化の波形を基準波形42として記憶する。基準波形取得後も引き続きモータ電流の時系列変化の波形を実測波形41として記憶する。基準波形42と実測波形41を比較してポンプ異常状態を検出する。波形比較はパターンマッチング法により両波形の一致度を演算して行う。たとえば、一致度を所定の閾値と比較して、閾値より高ければ正常、低ければ異常とする。一致度が高ければ異常なしの正常フラグを設定し、一致度が低ければ異常ありの異常フラグを設定する。ポンプコントローラ12は異常フラグに基づいてポンプ異常状態をメインコントローラ100に出力する。
【0037】
図4では、プロセスP1~プロセスP3とも、基準波形42と実測波形41とが略一致しており、真空ポンプが正常であることを示した。図8(a)、(b)は、プロセスP11~プロセスP13と、プロセスP21~プロセスP23における図4と同様のモータ電流の時系列波形を示す。
【0038】
図8(a)に示す電流値波形では、プロセスP11では全区間にわたり実測波形41と基準波形42との差は小さい。そのため、プロセスP11の波形の一致度は大きくなり真空ポンプは正常であると判定される。プロセスP12の時刻t12c~t12dの区間における実測波形41と基準波形42との差は大きく、プロセスP12の波形の一致度は小さい。プロセスP12では真空ポンプの異常が判定される。これは堆積物によりポンプ負荷が大きくなったためと推定される。
プロセスP13の時刻t13c~t13dの区間における実測波形41もプロセスP12の実測波形41と同様であり、引き続きポンプ異常が判定される。
【0039】
図8(a)の楕円領域C1、C2,C3,C4は、電流値波形パターンの一致度を算出する際の実測波形と基準波形の差分演算領域である。実際は、実測波形と基準波形は、各プロセスの各領域内において設定した所定時間幅内の電流値を所定時間間隔でサンプリングして取得される。差分演算領域内でそれらの差分が演算される。所定時間幅内での差分が大きいほど一致度演算に用いられるポイントに小さい値が与えられる。各領域内で演算された一致度演算ポイントの合計値に基づいて波形の一致度が判定される。ポイントの総和が大きいほど一致度が高い。
パターンマッチング演算は上記の例に限らず、その他種々の手法であってもよい。
【0040】
図8(b)に示す電流値波形では、プロセスP21、プロセスP22の実測波形41と基準波形42との差が小さいので、波形パターンの一致度が高くポンプは正常と判定される。しかし、プロセスP23では、領域C4-1、C4-2での波形が大きく異なるので、この時間幅内で演算した差分の和が大きくなる。このため、プロセスP23の波形の一致度は小さくなり真空ポンプは異常であると判定される。
【0041】
以上説明した第1の実施の形態におけるポンプ監視装置の動作をまとめると次の通りである。
(1)ポンプ監視装置は、基板の処理対象に対して各種プロセスを施すプロセスチャンバ2を排気する真空ポンプ1の監視装置であって、真空ポンプ1の運転状態を表す物理量であるモータ電流値を取得する取得部24aと、モータ電流値の実測波形41と基準波形42とを比較する比較部24dと、比較部24dでの比較結果に基づいて真空ポンプ1の負荷増大による異常を判定する判定部24eとを備える。
したがって、真空ポンプのロータを回転駆動するモータの電流値を計測し、モータ電流初期値に対する計測値の変化量が所定値以上の場合に警告を発する従来技術に比べ、誤って警告を報知する機会を抑制することができる。
【0042】
(2)ポンプ監視装置の設定部24bは、真空ポンプ1を起動して定格回転数に達した後の所定時間内におけるモータ電流値の信号波形を基準波形42として取得して設定する。 このように構成したため、真空ポンプ1が起動されると、換言すると、プロセスが開始されて所定期間が経過すると基準波形41が設定されるため、基準波形を設定するためだけの無駄な工程を省略することができる。
【0043】
-第2の実施の形態-
第1の実施の形態では、一つのプロセス(たとえばエッチングプロセス)について基準波形と実測波形を比較してポンプの異常を監視するものとした。第2の実施の形態では、2以上のプロセス、たとえば異なる種類の2つのエッチングプロセスごとに基準波形を取得し、プロセスごとに固有の基準波形と実測波形とを比較してポンプ異常を監視する。たとえば、異なる2つのエッチングプロセスでは、プロセスの一区間でのモータ電流値の波形が異なるから、パターンマッチングを正しく行うためには、プロセスごとに基準波形を変更する必要がある。
【0044】
図9は、第2の実施の形態における、図5のステップS53のポンプ監視処理の詳細を示す図である。第1の実施の形態の図6と同様な箇所には同様な符号を付して相違点を主に説明する。
ステップS91において、真空処理装置10で行われているプロセスを認識する。その後、ステップS92において、認識されたプロセスの基準波形が取得済みが否かを判定する。取得済みでないときはステップS2~S4において、上述したように所定期間内で繰り返しモータ電流値をサンプリングし、認識されたプロセスの基準波形を設定する。その後、ステップS5においてモータ電流値のサンプリングを行い、ステップS93において、所期間内にプロセスが切り替わったか否かを判定する。
【0045】
ステップS93でプロセスの切り替わりが判定されないときは、ステップS6で所定期間が終了するまで実測波形の記憶保存が行われる。その後、ステップS7において実測波形が設定され、ステップS8でポンプ異常判定が行われる。
ステップS93において所定期間内にプロセスが切り替わったと判定された時は、ステップS7における当該プロセスの実測波形の設定と、実測波形の基準波形との比較によるステップS8をスキップしてリターン処理を行う。
【0046】
ステップS91におけるプロセスの認識は次のように行うことができる。
たとえば異なる2つのエッチングプロセスではプロセス処理の一つの単位処理時間が異なる。図4で説明すると、単位処理時間は時刻t1~t2のインターバル時間である。そこで、モータ電流値の一つのパターンのインターバル時間を監視し、インターバル時間が変わったときをプロセスの切り替わりと認識することができる。
または、一のエッチングプロセスから他のエッチングプロセスに切り替わるとき、クリーニング処理が行われる。このクリーニング処理を認識して一のエッチングプロセスから他のエッチングプロセスに切り替わったことを認識してプロセス切り替わりを認識してもよい。
あるいは、真空処理装置10のメインコントローラ100から真空処理レシピをポンプコントローラ12が入手しておき、レシピにしたがって基準波形を切り替えることができる。
【0047】
第2の実施の形態のポンプ監視装置では、真空処理装置10で行われる複数種類のプロセスのうち、現在処理中のプロセスを認識し、当該プロセスの基準波形を取得し、基準波形と実測波形とを比較して波形の一致度を算出する。一致度が高ければ正常(異常なし)、一致度が低ければ異常ありと判定する。
【0048】
このような第2の実施の形態のポンプ監視装置をまとめると以下のとおりである。
(3)ポンプ監視装置の設定部24b,24cは、プロセスごとに基準波形42と実測波形41を設定し、比較部24dは、プロセスに応じた基準波形42と実測波形41とを比較する。換言すると、プロセスごとに選択された基準波形42を実測波形41と比較する。
このように構成したので、真空処理装置10で行われる複数種類のプロセスごとに適切に選択された基準波形と実測波形とを比較してポンプ異常を判定することができる。その結果、精度高く真空ポンプ1の堆積物による異常を判定することができる。
【0049】
(変形例1)
図4図8に示すように、第1および第2の実施の形態においては、同一プロセスの一つの工程全域(たとえば図4のプロセスP1のインターバル区間)でのモータ電流値の波形について基準波形42と実測波形41との間のパターンマッチングを行ってポンプ異常を判定した。しかし、たとえば図8(a)の領域C3の時間幅内の基準波形と実測波形だけのパターンマッチングを行って異常判定を行ってもよい。
すなわち、変形例1のポンプ監視装置では一つのプロセス処理でモータ電流値などの物理量が最大となる時間幅内C3に着目し、比較部24bは時間幅内C3における実測波形41と基準波形42のサンプリング時刻ごとのモータ電流値の差分を演算し、差分の和に基づいて一致度を判定する。
このため、同一プロセスにおける一つの工程全域でパターンマッチングを行う場合に比べて、異常判定アルゴリズムが簡素化され、コスト低減となるとともに判定時間も短縮できる。
【0050】
(変形例2)
変形例2のポンプ監視装置は、変形例1の領域、すなわち、モータ電流値が最大となる領域C3の時間幅内の電流値の平均値を実測波形41と基準波形42について算出し、平均値同士の差分が所定の閾値以上であればポンプ異常、所定の閾値未満であれば正常と判定する。すなわち、変形例2のポンプ監視装置における比較部24dは、モータ電流値が最大となる領域C3の実測波形41と基準波形42におけるモータ電流値の平均値をそれぞれ算出し、それぞれの平均値の差分を演算して波形比較を行う。
最大電流値でモータが駆動されているときは、小さい電流値でモータが駆動されている場合に比べて、堆積物による負荷の増大率が大きいので、精度よくポンプ異常を監視できる。
【0051】
(変形例3)
変形例3のポンプ監視装置では、図8(a)の領域C1~C4のいずれか2つ以上の領域における電流値波形を用いてポンプ異常判定を行ってもよい。
【0052】
(変形例4)
変形例2のポンプ監視装置による平均値を用いたポンプ異常判定アルゴリズムと、第1および第2の実施の形態でのパターンマッチングを用いたポンプ異常判定アルゴリズムを組み合わせてポンプ異常を判定してもよい。
【0053】
(変形例5)
モータ電流値によるポンプ異常を判定するのではなく、モータ回転数、磁気軸受け制御の制御電流値などを用いてポンプ異常判定を行ってもよい。これらの物理量は堆積物によるポンプ負荷を示す指標として利用することができる。
【0054】
(変形例6)
第1および第2の実施の形態、変形例では、真空ポンプ1が定格回転数に達した後の所定期間内の時系列なモータ電流値を基準波形として設定するようにした。プロセスが開始される前にあらかじめプロセスごとに基準波形を設定しておき、プロセスに対応した基準波形を読み出してもよい。
【0055】
以上では、プロセスガスの不純物成分がロータなどに付着して起こるポンプ負荷の増大を一例として説明した。しかし、本発明のように、基準波形と実測波形の比較からポンプ負荷増大に伴うポンプ異常を監視する装置は、ポンプ負荷の異常な増大の原因が堆積物に起因することによらず、他の要因でポンプ負荷が増大するポンプ異常の監視に用いてもよい。
【0056】
上記では、種々の実施の形態を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。また、複数の実施形態を組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0057】
1…真空ポンプ、2…プロセスチャンバ、3…真空バルブ、10…真空処理装置、11…ポンプ本体、12…ポンプコントローラ、14…ポンプロータ、16…モータ、17…磁気軸受、17A,17B…ラジアル磁気軸受、17C…アキシャル磁気軸受、22…磁気軸受制御部、23…モータ制御部、24…ポンプ監視部、24a…基準波形取得部、24b…波形比較部、24c…異常判定部、25…記憶部、41…実測波形、42…基準波形、100…メインコントローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9