(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021305
(43)【公開日】2023-02-10
(54)【発明の名称】感染の治療および予防におけるセラミドレベル
(51)【国際特許分類】
A61K 38/46 20060101AFI20230202BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230202BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230202BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230202BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20230202BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
A61K38/46
A61P11/00
A61P31/00
A61P31/04
A61P31/10
A61P31/12
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199280
(22)【出願日】2022-12-14
(62)【分割の表示】P 2019232581の分割
【原出願日】2013-05-31
(31)【優先権主張番号】61/654,519
(32)【優先日】2012-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】513321467
【氏名又は名称】アイカーン スクール オブ メディシン アット マウント サイナイ
(71)【出願人】
【識別番号】514304407
【氏名又は名称】イェダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド アット ザ ワイツマン インスティテュート オブ サイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】シュシュマン エドワード エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】グルビンス エーリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ファターマン アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】ピューズナー-ユング ヤエル
(57)【要約】
【課題】嚢胞性線維症、COPD、および/または開放創を有する対象における病原体の感染を治療または予防するための方法の提供。
【解決手段】この方法は、嚢胞性線維症、COPD、および/または開放創を有する対象を選択する段階、ならびにセラミドを減少させるため、および上記病原体の感染を治療または予防するために有効な条件下で、上記選択された対象にセラミダーゼを投与する段階を包含する。この方法は、嚢胞性線維症、COPD、および/または開放創の患者において、感染を減少させるか、セラミドを減少させるか、または肺機能を改善するために、他の薬物と組み合わせたセラミダーゼの使用もまた包含する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
嚢胞性線維症、COPD、および/または開放創を有する対象における病原体の感染を治療または予防するための方法であって、
嚢胞性線維症、COPD、および/または開放創を有する対象を選択する段階、ならびに
前記選択された対象においてセラミドを減少させ、かつ前記病原体の感染を治療または予防するための有効な条件下で、前記選択された対象にセラミダーゼを投与する段階
を包含する、方法。
【請求項2】
前記対象が、嚢胞性線維症、COPD、および/または開放創を有しない対象の参照レベルと比較して、上昇したセラミドレベルに基づいて選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記選択する段階が、肺上皮、鼻上皮、粘液、および/または開放創部位から単離された細胞におけるセラミドレベルに基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記投与する段階が、前記対象の呼吸器上皮、粘液、または開放創部位の細胞におけるセラミドレベルを正常化するために有効な条件下で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記セラミダーゼが酸性セラミダーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
セラミドレベルを減少させる1種以上のさらなる剤が、前記セラミダーゼと組み合わせて投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記1種以上のさらなる剤が、1種以上のさらなるセラミド減少剤、1種以上の酸性スフィンゴミエリナーゼ阻害剤、感染を減少させるための1種以上の剤、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記1種以上のさらなる剤が、感染を減少させるための1種以上の剤であり、かつ抗生物質、肺上皮への病原体の結合をブロックする試薬、粘液の粘度を減少させるための試薬、失われたタンパク質機能を増強するためのシャペロン試薬、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記セラミダーゼが、前記1種以上のさらなる剤と同時に、別々に、または逐次的に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記投与する段階が、経口、局所的、鼻内、腹腔内、静脈内、皮下、またはエアロゾル吸入による、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記投与する段階がエアロゾル吸入による、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記セラミダーゼが0.001mg/kg~500mg/kgの量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記病原体の感染が、ウイルス性、真菌性、プリオン性、または細菌性の感染である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記病原体の感染がシュードモナス(Pseudomonas)感染である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記シュードモナス感染が緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)感染である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記セラミダーゼが感染の発症の前に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記セラミダーゼが感染の発症の後に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記選択された対象が嚢胞性線維症を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記選択された対象がCOPDを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記選択された対象が開放創を有する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、その全体が参照により組み込まれる、2012年6月1日に出願された米国仮特許出願第61/654,519号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、および/または開放創を有する対象における病原体の感染を予防および/または治療するためにセラミドレベルを正常化することに関する。
【背景技術】
【0003】
嚢胞性線維症(「CF」)は、ヨーロッパおよび米国において最も一般的な常染色体劣性障害であり、西欧諸国において生まれた子供2500人あたり1人に影響がある。これは、CF膜コンダクタンス制御タンパク質(「CFTR」)の変異によって引き起こされる疾患である。この遺伝子変異はいくつかの呼吸器、生殖器、および胃腸の合併症をもたらし、これらの対象における罹患率および死亡率の第1の原因は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa(P.aeruginosa))による慢性肺定着の破壊的な影響から生じる。医療記録は、CFの患者の約80%が25歳までに緑膿菌に感染することを示す。Cystic Fibrosis Foundation Subject Registry:Annual Data Report(2010)(非特許文献1)を参照のこと。緑膿菌への感受性の増加に加えて、CF肺は、慢性炎症および進行性線維症によって特徴付けられる。現在のところ、CF疾患の特質、すなわち、感染感受性、炎症、および線維症を媒介する分子メカニズムの解釈が必要とされている。
【0004】
上皮細胞の緑膿菌感染は、細胞表面との病原体の接触によって開始される。CFTR、フィブロネクチン、α5β1-インテグリン、およびアシアロ-GM1を含む糖脂質を含む、緑膿菌についてのいくつかの結合分子が同定されてきた。Pier et.al., "Role Of Mutant CFTR In Hypersusceptibility Of Cystic Fibrosis Subjects To Lung Infections," Science.271,64-67(1996)(非特許文献2);Schroeder et.al., "CFTR Is A Pattern Recognition Molecule That Extracts Pseudomonas aeruginosa LPS From The Outer Membrane Into Epithelial Cells And Activates NF-kappa B Translocation," Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99,pp.6907-6912(2002)(非特許文献3);deBentzmann et.al., "Asialo GM1 Is A Receptor For Pseudomonas aeruginosa Adherence To Regenerating Respiratory Epithelial Cells," Infect.Immun.64(5)pp.1582-1588(1996)(非特許文献4);deBentzmann et.al., "Pseudomonas aeruginosa Adherence To Remodeling Respiratory Epithelium," Eur.Respir.J.9 pp.2145-2150(1996)(非特許文献5);Roger et.al., "Fibronectin And α5β1-integrin Mediate Binding Of Pseudomonas aeruginosa To Repairing Airway Epithelium," Eur.Respir.J.13 pp.1301-1309(1999)(非特許文献6);Saiman et.al., "Pseudomonas aeruginosa Pili Bind To AsialoGM1 Which Is Increased On The Surface Of Cystic Fibrosis Epithelial Cells," J.Clin.Invest.92 pp.1875-1880(1993)(非特許文献7);およびDavies et.al., "Reduction In The Adherence Of Pseudomonas aeruginosa To Native Cystic Fibrosis Epithelium With Anti-AsialoGM1 Antibody And Neuraminidase Inhibition," Eur.Respir.J;13 pp.565-570(1999)(非特許文献8)を参照のこと。
【0005】
従って、CFにおいて特異的に変化しており、緑膿菌に対するこれらの対象の高い感染感受性に関与している緑膿菌の上皮受容体の同定は、CF、および同時に起こる病原体の感染の予防および治療のための新たなストラテジーの開発における重要な考慮すべき事項である。このような分子は、CF対象における、気管支上皮細胞との病原体の最初の接触を妨害するため、従って、感染を非常な初期に妨害するために、理想的な標的であるだろう。
【0006】
疾患または状態に罹患した対象における疾患の病因を治療および予防する現在の方法には、毒性および有効性の懸念が生じている。
【0007】
本発明は、例えば、気管支上皮細胞への細菌病原体の主要な結合分子の異常な発現を、独特な膜脂質媒介メカニズムを通してインビボで修正することによって、当該分野におけるこれらの欠陥を克服することに向けられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Cystic Fibrosis Foundation Subject Registry:Annual Data Report(2010)
【非特許文献2】Pier et.al., "Role Of Mutant CFTR In Hypersusceptibility Of Cystic Fibrosis Subjects To Lung Infections," Science.271,64-67(1996)
【非特許文献3】Schroeder et.al., "CFTR Is A Pattern Recognition Molecule That Extracts Pseudomonas aeruginosa LPS From The Outer Membrane Into Epithelial Cells And Activates NF-kappa B Translocation," Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99,pp.6907-6912(2002)
【非特許文献4】deBentzmann et.al., "Asialo GM1 Is A Receptor For Pseudomonas aeruginosa Adherence To Regenerating Respiratory Epithelial Cells," Infect.Immun.64(5)pp.1582-1588(1996)
【非特許文献5】deBentzmann et.al., "Pseudomonas aeruginosa Adherence To Remodeling Respiratory Epithelium," Eur.Respir.J.9 pp.2145-2150(1996)
【非特許文献6】Roger et.al., "Fibronectin And α5β1-integrin Mediate Binding Of Pseudomonas aeruginosa To Repairing Airway Epithelium," Eur.Respir.J.13 pp.1301-1309(1999)
【非特許文献7】Saiman et.al., "Pseudomonas aeruginosa Pili Bind To AsialoGM1 Which Is Increased On The Surface Of Cystic Fibrosis Epithelial Cells," J.Clin.Invest.92 pp.1875-1880(1993)
【非特許文献8】Davies et.al., "Reduction In The Adherence Of Pseudomonas aeruginosa To Native Cystic Fibrosis Epithelium With Anti-AsialoGM1 Antibody And Neuraminidase Inhibition," Eur.Respir.J;13 pp.565-570(1999)
【発明の概要】
【0009】
本発明の1つの態様は、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、および/または開放創を有する対象における病原体の感染を治療または予防するための方法に向けられる。この方法は、嚢胞性線維症、COPD、および/または開放創を有する対象を選択する段階、ならびに上記選択された対象においてセラミドを減少させるため、および上記病原体の感染を治療または予防するための有効な条件下で、上記選択された対象にセラミダーゼを投与する段階を包含する。
【0010】
本発明の別の態様は、セラミドを減少させるため、または感染を減少させるために、他の剤と組み合わせて、セラミダーゼを対象に投与することに関する。このような剤は、抗生物質、粘液の粘度を減少させるための試薬、嚢胞性線維症膜貫通タンパク質(CFTR)の機能を増強するためのシャペロン剤、または酸性スフィンゴミエリナーゼ阻害剤が含まれてもよいがこれらに限定されない。
【0011】
本発明の別の態様は、対象の細胞、組織、もしくは体液におけるセラミドのレベル、および/または内因性のセラミダーゼ酵素のレベルに基づいて上記対象を選択することに関する。
[本発明1001]
嚢胞性線維症、COPD、および/または開放創を有する対象における病原体の感染を治療または予防するための方法であって、
嚢胞性線維症、COPD、および/または開放創を有する対象を選択する段階、ならびに
前記選択された対象においてセラミドを減少させ、かつ前記病原体の感染を治療または予防するための有効な条件下で、前記選択された対象にセラミダーゼを投与する段階
を包含する、方法。
[本発明1002]
前記対象が、嚢胞性線維症、COPD、および/または開放創を有しない対象の参照レベルと比較して、上昇したセラミドレベルに基づいて選択される、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記選択する段階が、肺上皮、鼻上皮、粘液、および/または開放創部位から単離された細胞におけるセラミドレベルに基づく、本発明1001の方法。
[本発明1004]
前記投与する段階が、前記対象の呼吸器上皮、粘液、または開放創部位の細胞におけるセラミドレベルを正常化するために有効な条件下で実行される、本発明1001の方法。
[本発明1005]
前記セラミダーゼが酸性セラミダーゼである、本発明1001の方法。
[本発明1006]
セラミドレベルを減少させる1種以上のさらなる剤が、前記セラミダーゼと組み合わせて投与される、本発明1001の方法。
[本発明1007]
前記1種以上のさらなる剤が、1種以上のさらなるセラミド減少剤、1種以上の酸性スフィンゴミエリナーゼ阻害剤、感染を減少させるための1種以上の剤、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、本発明1006の方法。
[本発明1008]
前記1種以上のさらなる剤が、感染を減少させるための1種以上の剤であり、かつ抗生物質、肺上皮への病原体の結合をブロックする試薬、粘液の粘度を減少させるための試薬、失われたタンパク質機能を増強するためのシャペロン試薬、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、本発明1007の方法。
[本発明1009]
前記セラミダーゼが、前記1種以上のさらなる剤と同時に、別々に、または逐次的に投与される、本発明1007の方法。
[本発明1010]
前記投与する段階が、経口、局所的、鼻内、腹腔内、静脈内、皮下、またはエアロゾル吸入による、本発明1001の方法。
[本発明1011]
前記投与する段階がエアロゾル吸入による、本発明1010の方法。
[本発明1012]
前記セラミダーゼが0.001mg/kg~500mg/kgの量で投与される、本発明1001の方法。
[本発明1013]
前記病原体の感染が、ウイルス性、真菌性、プリオン性、または細菌性の感染である、本発明1001の方法。
[本発明1014]
前記病原体の感染がシュードモナス(Pseudomonas)感染である、本発明1013の方法。
[本発明1015]
前記シュードモナス感染が緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)感染である、本発明1014の方法。
[本発明1016]
前記セラミダーゼが感染の発症の前に投与される、本発明1001の方法。
[本発明1017]
前記セラミダーゼが感染の発症の後に投与される、本発明1001の方法。
[本発明1018]
前記選択された対象が嚢胞性線維症を有する、本発明1001の方法。
[本発明1019]
前記選択された対象がCOPDを有する、本発明1001の方法。
[本発明1020]
前記選択された対象が開放創を有する、本発明1001の方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1Aおよび
図1Bはマウス肺のパラフィン包埋切片を示す。
図1Aは、Cy3抗セラミド抗体で染色し、次いで共焦点顕微鏡によって分析した、野生型マウス、CerS2欠損マウス、および嚢胞性線維症マウスの肺の代表的な切片である。
図1Bは、マウスに酸性セラミダーゼ(「AC」)を単回吸入させ2時間後に同じ抗体で染色した、野生型マウス、CerS2欠損マウス、および嚢胞性線維症マウスの肺の代表的な切片である。群あたり少なくとも6匹のマウスでの結果を表す。
【
図2】組換え酸性セラミダーゼが、セラミドを蓄積しているマウスの肺において緑膿菌感染を予防することを実証する。2つのマウスモデルを使用した。1つ(CerS2-/-)はセラミド産生酵素、セラミドシンターゼ2の遺伝子ノックアウトである。もう1つ(Cftr-/-)は嚢胞性線維症膜貫通タンパク質遺伝子の変異を有し、嚢胞性線維症のモデルである。野生型、CerS2-/-、またはCftr-/-マウスに、生理食塩水(明灰色)または酸性セラミダーゼ(暗灰色)のいずれかを単回吸入させ、次いで、緑膿菌を感染させた。2時間後、これらを屠殺し、マウス肺の中に残っている緑膿菌の力価を決定した。
【
図3】1×10
8コロニー形成単位(CFU)の緑膿菌菌株762またはATCC 27853での鼻内感染の30~45分前に、0.8mLの0.9% NaCl中の100μg ACを吸入したマウスの結果を示す。肺を感染の4時間後に取り出し、ホモジナイズし、5mg/mLサポニン中で10分間溶解し洗浄した。アリコートをLBプレート上にプレーティングし、一晩増殖させた。LBプレート上のCFUを計数し、肺の中の緑膿菌の細菌数を決定した。4回の独立した実験の平均±s.d.が示される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施において、分子生物学、タンパク質生化学、細胞生物学、免疫学、微生物学、および組換えDNAにおける多くの従来的な技術が使用される。これらの技術は周知であり、例えば、Current Protocols in Molecular Biology,Vols.I-III,Ausubel,Ed.(1997);Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Ed.(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York(1989));DNA Cloning:A Practical Approach,Vols.I and II,Glover,Ed.(1985);Oligonucleotide Synthesis,Gait,Ed.(1984);Nucleic Acid Hybridization,Hames & Higgins,Eds.(1985);Transcription and Translation,Hames & Higgins,Eds.(1984);Animal Cell Culture,Freshney,Ed.(1986);Immobilized Cells and Enzymes(IRL Press,1986);Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning;the series,Meth.Enzymol.,(Academic Press,Inc.,1984);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells,Miller & Calos,Eds.(Cold Spring Harbor Laboratory,New York(1987));およびMeth.Enzymol.,Vols.154 and 155,Wu & Grossman,and Wu,Eds.,においてそれぞれ説明されており、これらのすべてはそれらの全体が参照により組み込まれる。ポリペプチドの遺伝子発現産物のレベル、すなわち、遺伝子翻訳レベルを検出および測定するための方法は当該分野において周知であり、これには、抗体の検出および定量の技術などのポリペプチド検出方法の使用が含まれる。全体が参照により組み込まれる、Strachan & Read,Human Molecular Genetics,Second Edition.(John Wiley and Sons,Inc.,New York(1999)もまた参照のこと。
【0014】
本技術の実質的な理解を提供するために、本発明のある特定の態様、様式、実施形態、バリエーション、および特色が様々な詳細なレベルで以下に説明されることが認められるべきである。本明細書中で使用されるようなある特定の用語の定義は以下に提供される。他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、一般的に、本発明が属する技術分野における当業者によって共通して理解されるものと同じ意味を有する。
【0015】
根底にある疾患状態は、対象を急性および/または慢性の病原体の感染にかかりやすくし得る。本明細書で使用される場合、「疾患状態」とは、対象が保有している任意の種類または起源の、病原体による疾患または状態をいう。従って、疾患状態には、例えば、以下が挙げられるがこれらに限定されない、以下の疾患および/または用語によって特定される対象が挙げられる:呼吸器疾患、肺疾患、嚢胞性線維症(「CF」)、慢性閉塞性肺疾患(「COPD」)、肺気腫、喘息、肺線維症、慢性気管支炎、肺炎、肺高血圧、肺癌、サルコイドーシス、壊死性肺炎、石綿症、アスペルギルス腫、アスペルギルス症、急性侵襲性無気肺、好酸球性肺炎、胸水、塵肺、ニューモシスチス症、気胸、肺放線菌症、肺胞タンパク症、肺炭疽、肺動静脈奇形、肺水腫、肺塞栓、肺ヒスチオサイトーシスX(好酸球性肉芽腫)、肺ノカルジア症、肺結核、肺静脈閉塞症、リウマチ性肺疾患、および/または開放創。このような疾患により、典型的には、病原体の感染について対象の感受性の増加が、すなわち、疾患状態に罹患していない対象と比較して、増加が生じる。
【0016】
例えば、CF、COPD、および/または開放創に罹患している対象は、例えば、細菌性、ウイルス性、真菌性、原生動物性、および/またはプリオン性の病原体の感染などの急性および/または慢性の病原体の感染にかかる高い感受性を保有し得る。細菌性病原体には、非限定的に、炭疽菌(Bacillus anthracis)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、ライム病菌(Borrelia burgdorferi)、カンピロバクター ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、クラミジア トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、破傷風菌(Clostridium tetani)、ジフテリア菌(Corynebacterium dipththeriae)、大腸菌(Escherichia coli)、腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic E.coli)、毒素原性大腸菌(enterotoxigenic E.coli)、B型および分類不可能なインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、ピロリ菌(Helicobacter pylori)、レジオネラ ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、マイコバクテリウム属の種(Mycobacterium spp.)、らい菌(Mycobacterium leprae)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、シュードモナス属の種(Pneumococcus spp.)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、リケッチア(Rickettsia)、サルモネラ属の種(Salmonella spp.)、シゲラ属の種(Shigella spp.)、スタフィロコッカス属の種(Staphylococcus spp.)、ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、ストレプトコッカス属の種(Streptococcus spp.)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカスB群(Streptococcus B)、A群β溶血性ストレプトコッカス、ストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、およびペスト菌(Yersinia pestis)が挙げられる。ある実施形態において、病原体の感染はシュードモナス(Pseudomonas)感染である。ある実施形態において、シュードモナス感染は緑膿菌感染である。
【0017】
ウイルス病原体には、非限定的に、RNAウイルス、DNAウイルス、アデノウイルス科(adenovirdiae)(例えば、マストアデノウイルスおよびアビアデノウイルス)、ヘルペスウイルス科(例えば、単純ヘルペスウイルス1、単純ヘルペスウイルス2、単純ヘルペスウイルス5、および単純ヘルペスウイルス6)、レビウイルス科(例えば、レビウイルス、腸内細菌ファージMS2、アロレビウイルス(allolevirus))、ポックスウイルス科(poxyiridae)(例えば、コードポックスウイルス亜科(chordopoxyirinae)、パラポックスウイルス、アビポックスウイルス、カプリポックスウイルス、レポリポックスウイルス、スイポックスウイルス、モルシポックスウイルス、およびエントモポックスウイルス亜科(entomopoxyirinae))、パポバウイルス科(例えば、ポリオーマウイルスおよびパピローマウイルス)、パラミクソウイルス科(例えば、パラミクソウイルス、パラインフルエンザウイルス1)、麻疹ウイルスなどのモビリウイルス、ルブラウイルス(流行性耳下腺炎ウイルスなど)、ニューモウイルス科(pneumonoviridae)(例えば、ニューモウイルス、ヒト呼吸器合胞体ウイルス)、メタニューモウイルス(例えば、トリニューモウイルスおよびヒトメタニューモウイルス)、ピコルナウイルス科(例えば、エンテロウイルス、ライノウイルス、ヒトA型肝炎ウイルスなどのヘパトウイルス、カルジオウイルス、およびアプトウイルス)、レオウイルス科(例えば、オルトレオウイルス、オルビウイルス、ロタウイルス、サイポウイルス、フィジーウイルス、フィトレオウイルス、およびオリザウイルス)、レトロウイルス科(例えば、哺乳動物B型レトロウイルス、哺乳動物C型レトロウイルス、トリC型レトロウイルス、D型レトロウイルスグループ、BLV-HTLVレトロウイルス)、レンチウイルス(ヒト免疫不全ウイルス1およびヒト免疫不全ウイルス2;ならびにスプマウイルスなど)、フラビウイルス科(例えば、C型肝炎ウイルス)、ヘパドナウイルス科(例えば、B型肝炎ウイルス)、トガウイルス科(例えば、シンドビスウイルスなどのアルファウイルスおよび風疹ウイルスなどのルビウイルス)、ラブドウイルス科(例えば、ベシキュロウイルス、リッサウイルス、エフェメラウイルス、サイトラブドウイルス、およびネクレオラブドウイルス)、アレナウイルス科(例えば、アレナウイルス、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス、イピーウイルス、およびラッサウイルス)、ならびにコロナウイルス科(例えば、コロナウイルスおよびトロウイルス)、サイトメガロウイルス(単核球症)、デングウイルス(デング熱、ショック症候群)、エプスタイン‐バーウイルス(単核球症、バーキットリンパ腫)、1型ヒトT細胞リンパ向性ウイルス(T細胞白血病)、A型、B型、およびC型インフルエンザ(呼吸器疾患)、日本脳炎ウイルス(肺炎、脳障害)、ポリオウイルス(麻痺)、ライノウイルス(風邪)、風疹ウイルス(胎児の先天異常)、ワクシニアウイルス(全身感染症)、黄熱病ウイルス(黄疸、腎不全、および肝不全)、ならびに水痘帯状疱疹ウイルス(水痘ウイルス)が挙げられる。
【0018】
病原性真菌には、非限定的に、アスペルギルス(Aspergillus)属(例えば、アスペルギルス フミガタス(Aspergillus fumigates))、ブラストミセス(Blastomyces)属、カンジダ(Candida)属(例えば、カンジダ アルビカンス(Candida albicans))、コクシジオイデス(Coccidiodes)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、ヒストプラズマ(Histoplasma)属、ヒゲカビ(Phycomyces)属、頭部白癬菌(Tinea corporis)、爪白癬菌(Tinea unguis)、スポロトリクス シェンケニ(Sporothrix schenckii)、およびニューモシスチス カリニ(Pneumocystis carinii)が挙げられる。病原性原生動物には、非限定的に、トリパノゾーマ属の種(Trypanosome spp.)、リーシュマニア属の種(Leishmania spp.)、プラスモジウム属の種(Plasmodium spp.)、エントアメーバ属の種(Entamoeba spp.)、およびランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)などのジアルジア属の種(Giardia spp.)が挙げられる。
【0019】
疾患状態に罹患した対象における病原体の感染に対する感受性の増加を誘起する分子メカニズムは十分に理解されていないので、細胞接着および内部移行に関して、例えば、緑膿菌の病理を解明することは、このような感染にかかる傾向がある対象を予防および治療するための重要な考慮すべき事項である。
【0020】
インテグリンは、例えば、付着および接着に関する細胞プロセスを協調させるように機能する受容体分子である。しかし、インテグリンは、正常で健常な気管支上皮細胞の管腔表面で特徴的に発現するわけではなく、上皮細胞層の密着結合は、インテグリンが典型的に存在する上皮細胞の側底極との気管支病原体の接触を妨害する。
【0021】
「レベルの上昇」または「より高いレベル」という用語は、本明細書で使用される場合、対照対象または正常対象からの比較可能なサンプルにおいて正常に観察されたもの、すなわち、参照値または対照レベルまたは正常化レベルよりも高い、測定可能なマーカー、分子、またはタンパク質、例えば、セラミドなどのレベルをいう。ある実施形態において、「対照レベル」すなわち、正常レベルとは、疾患状態を有しない対象からのサンプル中で観察されることが通常予想される範囲をいう。対照レベルは、下記でさらに詳述されるように、比較目的のための「参照レベル」として使用されてもよい。従って、「レベルの上昇」とは、対照レベルの範囲よりも上であるレベルをいう。「レベルの上昇」または「対照レベル」として受け入れられた範囲は、いくつもの因子に依存する。当業者は、関連のある因子を考慮すること、および本発明の「対照値」および「上昇値」についての適切な参照範囲を確立することが可能である。例えば、対照対象およびCFと診断された対象からの一連のサンプルは、「正常」または「対照」レベルである範囲、および対照の範囲またはレベルと比較して、「上昇し」または「高い」範囲を確立するために使用できる。
【0022】
セラミダーゼは、セラミドを加水分解して脂肪酸とスフィンゴイド塩基(スフィンゴシン)にすることが可能な酵素であり、これは、細胞増殖および細胞内シグナル伝達に関与している。セラミダーゼは、酵素活性化後に、個々の脂肪酸およびスフィンゴシン成分へのセラミド加水分解を容易にする。Gatt, "Enzymic Hydrolysis and Synthesis of Ceramide," J.Biol.Chem.238:3131-3(1963);Gatt, "Enzymatic Hydrolysis of Sphingolipids.1.Hydrolysis and Synthesis of Ceramides by an Enzyme from Rat Brain," J.Biol.Chem.241:3724-31(1966);Hassler & Bell, "Ceramidase:Enzymology and Metabolic Roles," Adv.Lip.Res.26:49-57(1993)を参照のこと、これらのすべてはそれらの全体が参照により組み込まれる。スフィンゴシンを生成するための細胞にとってのデノボ経路は存在せず、従って、これは、セラミダーゼの酵素作用に従うセラミド加水分解によってのみ生成される。
【0023】
本発明の1つの態様は、嚢胞性線維症、COPD、および/または開放創を有する対象における病原体の感染を治療または予防するための方法に向けられている。本発明のこの方法は、嚢胞性線維症、COPD、および/または開放創を有する対象を選択する段階、ならびに選択された対象においてセラミドを減少させ、かつ上記病原体の感染を治療または予防するための有効な条件下で、上記選択された対象にセラミダーゼを投与する段階を包含する。
【0024】
本明細書に記載される場合、「開放創」とは、上皮層、すなわち、皮膚が、裂け、切断され、および/または穿刺されている一種の損傷をいう。ある実施形態において、開放創は、皮膚の真皮に損傷を与え、同時に感染にかかる可能性を高める鋭器損傷をいう。「開放創」という用語は熱傷もまた包含する。
【0025】
本発明の方法は、嚢胞性線維症、COPD、および/または開放創を有しない対象についての参照レベルと比較して、上昇したセラミドレベルに基づいて、対象を選択する段階をさらに包含する。本明細書において使用される場合、「参照レベル」という用語は、比較目的のために関心対象になり得る物質、例えば、セラミドのレベルをいう。ある実施形態において、参照レベルは、健常(疾患がなく、および/または病原体がない)対象の対照集団のサンプルからのレベルまたは濃度の平均として表現されるタンパク質のレベルまたは濃度であってもよい。他の実施形態において、参照レベルは、対象が疾患、疾患状態、および/または病原体の感染を発症する前、例えば、セラミダーゼ治療などの治療を開始する前、または治療におけるより初期に決定されたレベルなどの、異なる時間、例えば、本発明が利用される前の同じ対象におけるレベルであってもよい。
【0026】
対象と参照レベルとの間のセラミドレベルを比較する例示的な方法には、非限定的に、下記にさらに記載されるような1つ以上のタンパク質アッセイの結果に基づいて、検出されたセラミドレベルの違いを比較することが挙げられる。ある実施形態において、セラミドレベルは、本明細書に記載されるような疾患状態の存在下でより高い。参照レベルと比較してより低い検出されたセラミドレベルを有する対象、またはそれを保有するサンプルは、その対象が、セラミダーゼ治療を必要としないかもしれず、および/またはその対象が上記に記載されたような疾患状態を有していないかもしれないことを示す。
【0027】
本発明の方法はさらに、肺上皮、鼻上皮、粘液、および/または開放創部位から単離された細胞の中のセラミドレベルに基づいて対象を選択することに関する。ある実施形態において、投与する段階は、対象の呼吸器上皮、粘液、または開放創部位における細胞の中のセラミドレベルを正常化するために有効な条件下で実行される。ある実施形態において、セラミダーゼは、以下の表1に列挙される酸性セラミダーゼ(「AC」)などの酸性セラミダーゼ(「AC」)であるがこれらに限定されない。
【0028】
酸性セラミダーゼ(N-アシルスフィンゴシンデアシラーゼ、I.U.B.M.B.酵素番号EC 3.5.1.23)は、セラミドの異化の原因である1つの特定のセラミダーゼである。ヒトの遺伝子障害であるファーバー脂肪肉芽腫症における関与により、ACはセラミダーゼ酵素ファミリーの最も広範に研究されたメンバーの1つである。このタンパク質はいくつかの供給源から精製されており、ヒトおよびマウスのcDNAおよび遺伝子が得られている。Bernardo et al., "Purification,Characterization,and Biosynthesis of Human Acid Ceramidase," J.Biol.Chem.270:11098-102(1995);Koch et al., "Molecular Cloning and Characterization of a Full-length Complementary DNA Encoding Human Acid Ceramidase.Identification of the First Molecular Lesion Causing Farber Disease," J.Biol.Chem.2711:33110-5(1996);Li et al., "Cloning and Characterization of the Full-length cDNA and Genomic Sequences Encoding Murine Acid Ceramidase," Genomics 50:267-74(1998);Li et al., "The Human Acid Ceramidase Gene(ASAH):Chromosomal Location,Mutation Analysis,and Expression," Genomics 62:223-31(1999)を参照のこと、これらのすべてはそれらの全体が参照により組み込まれる。
【0029】
上記のように、ACは、セラミドのスフィンゴシンおよび遊離脂肪酸への加水分解を触媒するセラミダーゼである。Bernardo et al., "Purification,Characterization,and Biosynthesis of Human Acid Ceramidase," J.Biol.Chem.270(19):11098-102(1995)を参照のこと。これは、その全体が参照により組み込まれる。成熟ACは、αサブユニット(約13kDa)およびβサブユニット(約40kDa)から構成される約50kDaタンパク質である。Bernardo et al., "Purification,Characterization,and Biosynthesis of Human Acid Ceramidase," J.Biol.Chem.270(19):11098-102(1995)を参照のこと。これは、その全体が参照により組み込まれる。これは、AC前駆体タンパク質の切断を通して産生され(Ferlinz et al., "Human Acid Ceramidase:Processing,Glycosylation,and Lysosomal Targeting,"J.Biol.Chem.276(38):35352-60(2001)を参照のこと。これは、その全体が参照により組み込まれる)、このタンパク質は、Asah1遺伝子(NCBI UniGene GeneID番号427、これはその全体が参照により組み込まれる)の産物である。
【0030】
ACの機能および/または活性は、さらに、周囲のpHに直接的に関連する。実際、これは約4.5の酸性pHを有するリソソーム中に通常は見い出され、ファーバー脂肪肉芽腫症の患者におけるAC活性の非存在下で、セラミドはリソソーム中に蓄積する。
【0031】
加えて、最近の研究は、細胞内区画pHの増加がAC活性/機能を最大90%まで減少させることを示してきた。Teichgraber et al., "Ceramide Accumulation Mediate Inflammation,Cell Death And Infection Susceptibility In Cystic Fibrosis," Nat Med.14(4),pp.382-391(2008)を参照のこと。これは、その全体が参照により組み込まれる。いくつかの点で、これらの結果は、ACの欠損によって引き起こされ、セラミドの蓄積を生じるファーバー病に類似している。He et al., "Purification And Characterization Of Recombinant,Human Acid Ceramidase," J.Biol.Chem.278,32978-32986(2003)を参照のこと。これは、その全体が参照により組み込まれる。さらに、pH 5.9において、ACは、セラミドを消費する代わりにセラミドを産生する逆活性を保有することが示されてきた。同上を参照のこと。肺胞pHレベルの増加において損なわれたAsm機能と合わせたこの活性は、セラミドの正味の蓄積を生じ得る。Teichgraber et al., "Ceramide Accumulation Mediate Inflammation,Cell Death And Infection Susceptibility In Cystic Fibrosis," Nat Med.14(4),pp.382-391(2008)を参照のこと。これは、その全体が参照により組み込まれる。
【0032】
他の研究は、肺胞マクロファージのCFTR欠損がpH 4.5から少なくともpH 5.9までのリソソームのpHシフトを生じることを示してきた。Di et al. "CFTR Regulates Phagosome Acidification In Macrophages And Alters Bactericidal Activity, " Nat.Cell Biol.8,933-944(2006)を参照のこと。これは、その全体が参照により組み込まれる。然るに、本発明は、驚くべきことに、CF患者において病原体の感染を予防および/または治療するように機能し、これは少なくとも、リソソームpHが増加したCF患者における上昇したセラミドレベルをACが減少させることが予想されていなかったのが理由である。さらに、ACは、肺上皮細胞膜におけるセラミドの蓄積に対して機能することが予想されていない。
【0033】
本発明の状況において使用できるACには、非限定的に、以下の表1に示されるものが挙げられる。本発明のすべての態様において、ACは、治療される組織、細胞、および/または対象に対して、同種(すなわち、同じ種に由来する)または異種(すなわち、異なる種に由来する)であり得る。
【0034】
(表1)例示的な酸性セラミダーゼファミリーのメンバー
【0035】
ある実施形態において、セラミドおよび/またはACの濃度および/または活性のレベルを決定することが、治療の前に実行される。セラミド濃度および/またはセラミダーゼのレベルもしくは活性を決定するために適切なアッセイは、当業者には容易に明らかである。適切な方法には、例えば、活性アッセイ(Eliyahu et al., "Acid Ceramidase is a Novel Factor Required for Early Embryo Survival," FASEB J.21(7):1403-9(2007)を参照のこと。これは、その全体が参照により組み込まれる)、およびサンプル中に存在するセラミダーゼタンパク質および/または活性の相対量を決定するためのウェスタンブロッティングなどの周知の技術が挙げられる(ここで、より多い量のセラミダーゼタンパク質はより高いセラミダーゼ活性レベルと相関する)。Eliyahu et al., "Acid Ceramidase is a Novel Factor Required for Early Embryo Survival," FASEB J.21(7):1403-9(2007)を参照のこと。これは、その全体が参照により組み込まれる。
【0036】
本明細書で使用される場合、「アッセイ」という用語は、所定の体液のサンプル中のセラミドおよび/またはセラミダーゼの存在または非存在を検出するためのアッセイをいう。サンプル中の物質の量を測定する定量アッセイもまた含まれる。本明細書で使用される場合、「サンプル」という用語はその最も広い意味で使用される。1つの意味において、これは、生物学的サンプルから得られた試料または培養物を含むことを意味する。体液サンプルは、血清、滑液、脳脊髄液、および腹水からなる群より選択される。特に関心対象のものは血清であるサンプルである。当業者は、血漿または全血あるいは全血の細画分もまた使用されてもよいことを認識するであろう。生物学的液体のサンプルは、動物(ヒトを含む)から得られてもよく、これには、血漿、血清などの血液製剤が挙げられる。ある実施形態において、サンプルは、一定レベルのセラミドまたはセラミダーゼを含有し、これは、本明細書に記載される方法、および当該分野において周知である方法によって容易に確認できる。
【0037】
イムノアッセイは、それらの最も単純かつ直接的な意味において、抗体と抗原との間の結合に関わる結合アッセイである。多くの種類および形式のイムノアッセイが公知であり、すべてが、例えば、セラミドレベルの検出のために適切である。イムノアッセイの例は、酵素結合免疫吸着アッセイ(「ELISA」)、酵素結合免疫スポットアッセイ(「ELISPOT」)、ラジオイムノアッセイ(「RIA」)(Ferlinz et al., "Human Acid Ceramidase:Processing,Glycosylation,and Lysosomal Targeting," J.Biol.Chem.276(38):35352-60(2001)を参照のこと。これは、そのそれらの全体が、参照により組み込まれる)、放射性免疫沈殿アッセイ(「RIPA」)、イムノビーズ捕捉アッセイ、ドットブロッティング、ゲルシフトアッセイ、フローサイトメトリー、免疫組織化学、蛍光顕微鏡法、タンパク質アレイ、多重ビーズアレイ、磁気捕捉、インビボイメージング、蛍光共鳴エネルギー移動(「FRET」)、および光退色後の蛍光回復/局在(「FRAP/FLAP」)である。様々な有用な免疫検出方法のステップは、例えば、Maggio et al.,Enzyme-Immunoassay(1987)およびNakamura,et al., "Enzyme Immunoassays:Heterogeneous and Homogeneous Systems,Handbook of Experimental Immunology," Vol.1:Immunochemistry,27.1-27.20(1986)などの科学文献に記載されており、これらの各々はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0038】
一般的に、イムノアッセイは、関心対象の分子またはタンパク質(セラミドおよび/またはセラミダーゼなど)を含有することが疑われているサンプルを、免疫複合体の形成を可能にするために有効な条件下で、その関心対象の分子またはタンパク質に対する抗体と接触させることを包含する。この点に関して、当業者は、所定のサンプル中の関心対象の特定の分子またはタンパク質の存在およびまたはレベルを評価することが可能である。
【0039】
イムノアッセイは、サンプル中の関心対象の分子またはタンパク質の量を検出または定量する方法を含むことができ、この方法は、一般的に、結合プロセスの間に形成された任意の免疫複合体の検出または定量を包含する。一般的に、免疫複合体形成の検出は当該分野において周知であり、多数のアプローチの適用を通して達成できる。これらの方法は、一般的には、放射性、蛍光、生物学的タグもしくは酵素タグのいずれか、または任意の他の既知の標識などの標識またはマーカーの検出に基づいている。例えば、米国特許第3,817,837号;同第3,850,752号;同第3,939,350号;同第3,996,345号;同第4,277,437号;同第4,275,149号および同第4,366,241号を参照のこと、これらの各々は、その全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0040】
総タンパク質を検出するために使用される1つの特に有効な非特異的アッセイは、Bradfordタンパク質アッセイである。Bradford,M.M., "A Rapid and Sensitive Method for the Quantitation of Microgram Quantities of Proteins Utilizing the Principle of Protein-Dye Binding," Anal.Biochem.72:248-254(1976)を参照のこと。これは、その全体が参照により組み込まれる。
【0041】
Bradfordタンパク質アッセイはCoomassie Blue G(C.I.# 42655)(100mg)の色素ストックを使用し、これは50mLのメタノールに溶解される。この溶液は、100mLの85% H3PO4に加えられ、そして水で200mLまで希釈されて、暗赤色を生じる。アッセイの最終試薬濃度は、0.5mg/mL Coomassie Blue G、25% メタノール、および42.5% H3PO4である。Bradfordアッセイのアッセイ試薬は、色素ストック1対蒸留水4の割合で希釈することによって調製される。生じる色はpH 1.1で茶色であるはずである。一連のタンパク質標準は、標準アッセイのために、0、250、500、750、および1500μg/mLの濃度のウシ血清アルブミン(「BSA」)を使用して、アッセイされるサンプルと同じ緩衝液中で調製される。吸光度は、標準アッセイ手順については595nmで、マイクロアッセイについては450nmで読み取られ(Dynex Technologies,Chantilly,VA)、そして595nm/450nmの吸光度の比率が標準曲線の計算のために使用された。Zor,et al., "Linearization of the Bradford Protein Assay Increases Its Sensitivity:Theoretical and Experimental Studies," Anal.Biochem.236:302-308(1996)を参照のこと。これは、その全体が参照により組み込まれる。
【0042】
ある実施形態において、本発明の方法は、AC前駆体タンパク質を投与することによって実行され、これは、次には、細胞によって活性酸性セラミダーゼタンパク質に転換される。特に、AC前駆体タンパク質は、自己タンパク質切断を受けて活性型(αサブユニットおよびβサブユニットから構成される)になる。これは、細胞内環境によって促進され、そして種にわたって高度に保存されたAC前駆体タンパク質の切断部位の配列に基づいて、すべてではないとしても、大部分の細胞型において起こることが予測される。適切な酸性セラミダーゼ前駆体タンパク質には、上記の表1に示されたものが挙げられる。当業者に明らかであるように、この前駆体タンパク質は、細胞が曝露される培養培地の中に任意に含有されることができる。従って、前駆体タンパク質が、関心対象の宿主対象または細胞によって取り込まれ、活性酸性セラミダーゼに転換される実施形態が企図される。
【0043】
本発明のタンパク質またはポリペプチド剤、例えば、ACを投与するためのさらに別のアプローチは、その全体が参照により組み込まれる、Heartlein et al.,への米国特許第5,817,789号に従うキメラタンパク質の調製を包含する。キメラタンパク質は、リガンドドメインおよびポリペプチド剤(例えば、AC、AC前駆体タンパク質)を含むことができる。このリガンドドメインは、標的細胞上に位置する受容体に特異的である。従って、キメラタンパク質が対象、細胞、および/または培養培地に送達されるとき、キメラタンパク質は内部移行される。
【0044】
物質、例えば、セラミド、および/またはセラミダーゼのレベルまたは活性に依存して、1種以上のさらなる剤が、本発明の方法に従って、セラミダーゼ、例えば、ACと組み合わせて投与されてもよい。ある実施形態において、1種以上のさらなる剤は、1種以上のさらなるセラミド減少剤、1種以上のスフィンゴミエリナーゼ阻害剤、感染を減少させるための1種以上の剤、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される。感染を減少させるために適切な剤には、抗生物質(例えば、吸入されたトブラマイシン、TOBI)、病原体の肺上皮への結合をブロックする試薬、粘液の粘度を減少させる試薬(例えば、ドルナーゼアルファ、プルモザイム)、失われたタンパク質機能を増強するためのシャペロン試薬(例えば、アイバカフトール(Ivacaftor)、カリデコ(Kalydeco)、およびこれらの組み合わせが挙げられる。ある実施形態において、セラミダーゼ、例えば、ACは、1種以上のさらなる剤と同時に、別々に、または逐次的に投与される。
【0045】
本明細書で使用される場合、「同時」治療的使用という用語は、同じ経路による、同時または実質的に同時の少なくとも2種の活性成分の投与をいう。本明細書で使用される場合、「別々の」治療的使用という用語は、異なる経路による、同時または実質的同時の少なくとも2種の活性成分の投与をいう。本明細書で使用される場合、「逐次的」治療的使用という用語は、異なる時点での、投与経路が同一または異なる、少なくとも2種の活性成分の投与をいう。より具体的には、逐次的使用とは、単数または複数の他の投与が開始する前の、1種の活性成分の全投与をいう。従って、単数または複数の他の活性成分を投与する前、数分間、数時間、または数日間にわたって、1種の活性成分を投与することが可能である。この場合、同時治療は存在しない。
【0046】
投与は、対象への全身投与を介して、または罹患した組織、器官、および/もしくは細胞への標的化投与を介してのいずれかで達成できる。治療剤(すなわち、AC、AC前駆体タンパク質、AC/AC前駆体タンパク質をコードする核酸)は、標的とされた組織、器官、または細胞への治療剤の移動(および/または組織、器官、または細胞による治療剤の取り込み)を容易にする1種以上の剤とともに、標的とされていない領域に投与されてもよい。さらに、および/または代替的に、当業者に明らかであるように、治療剤それ自体を修飾して、所望の組織、器官、または細胞へのその輸送(および組織、器官、または細胞による取り込み)を容易にすることができる。
【0047】
剤の送達のための任意の適切なアプローチが、本発明のこの態様を実施するために利用できる。典型的には、治療剤は、標的の細胞、組織、または器官に治療剤(複数可)を送達するビヒクル中で患者に投与される。例示的な投与の経路には、非限定的に、気管内接種、吸引、気道点滴、エアロゾル化、噴霧化、鼻内滴下、口腔もしくは経鼻胃滴下、腹腔内注射、血管内注射、局所的、経皮的、非経口的、皮下、静脈内注射、動脈内注射(肺動脈を経由するなど)、筋肉内注射、胸膜内注入、脳室内、病巣内、粘膜(鼻、咽喉、気管支、生殖器、および/または肛門の粘膜など)への適用による、または持続放出ビヒクルの移植によるものが挙げられる。
【0048】
ある実施形態において、セラミダーゼ、例えば、ACは、経口、局所的、鼻内、腹腔内、静脈内、皮下、またはエアロゾル吸入によって投与される。ある実施形態において、セラミダーゼ、例えば、ACは、エアロゾル吸入を介して投与される。ある実施形態において、セラミダーゼおよび/またはさらなる剤は、本明細書に記載されるような、投与のために適切な薬学的組成物に取り込むことができる。
【0049】
本発明の剤、例えば、ACは、例えば、不活性希釈剤とともに、もしくは吸収可能な可食性キャリアとともに経口投与されてもよく、またはこれらはハードもしくはソフトシェルカプセル中に封入されてもよく、またはこれらは錠剤に圧縮されてもよく、またはこれらは日々の食事の食物に直接組み込まれてもよい。経口治療投与のために、これらの活性化合物は、賦形剤に組み込まれてもよく、錠剤、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップなどの形態で使用されてもよい。このような組成物および調製物は、少なくとも0.1%の剤を含有するべきである。当然、これらの組成物中の剤のパーセンテージは変動してもよく、好都合に単位重量の約2%から約60%の間にあってもよい。このような治療的に有用な組成物中の剤の量は、適切な投薬量が得られるようなものである。
【0050】
錠剤、カプセルなどはまた、トラガカントガム、アカシア、コーンスターチ、またはゼラチンなどの結合剤;リン酸二カリウムなどの賦形剤;コーンスターチ、ジャガイモデンプン、またはアルギン酸などの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤;およびスクロース、ラクトース、またはサッカリンなどの甘味料を含有してもよい。投薬単位剤型がカプセルであるとき、これは、上記の種類の材料に加えて、脂肪油などの液体キャリアを含有してもよい。
【0051】
剤、例えば、ACはまた、非経口的に投与されてもよい。この剤の溶液または懸濁液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合された水の中で調製できる。分散液もまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、および油中のこれらの混合物の中で調製できる。例示的な油は、石油、動物、植物、または合成起源のもの、例えば、ピーナッツ油、ダイズ油、または鉱油である。一般的に、水、生理食塩水、水性デキストロースおよび関連する糖溶液、ならびにプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなどのグリコールが、特に、注射溶液のために好ましい液体キャリアである。保存および使用の通常の条件下では、これらの調製物は、微生物の増殖を妨害するために保存剤を含有する。
【0052】
注射用途のために適切な薬学的形態には、滅菌注射溶液または懸濁液の即時調製のための滅菌水溶液または懸濁液、および滅菌粉末が挙げられる。すべての場合において、この形態は、滅菌されなければならず、容易なシリンジ通過性が存在する程度まで流動性がなければならない。これは、製造および貯蔵の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用から守られなければならない。キャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール)、これらの適切な混合物、および植物油を含有する溶媒または分散媒体であり得る。
【0053】
本発明に従う剤、例えば、ACはまた、エアロゾルの形態で直接気道に投与されてもよい。エアロゾルとしての使用のために、溶液または懸濁液中の本発明の化合物は、従来的なアジュバントと共に適切な噴霧剤、例えば、プロパン、ブタン、またはイソブタンのような炭化水素噴霧剤とともに、加圧エアロゾル容器中にパッケージされてもよい。本発明の材料はまた、加圧されていない形態で投与されてもよい。
【0054】
例示的な送達デバイスには、非限定的に、ネブライザー、アトマイザー、リポソーム(アクティブ薬物送達技術とパッシブ薬物送達技術の両方を含む)(Wang & Huang, "pH-Sensitive Immunoliposomes Mediate Target-cell-specific Delivery and Controlled Expression of a Foreign Gene in Mouse," Proc.Nat'l Acad.Sci.USA 84:7851-5(1987);Bangham et al., "Diffusion of Univalent Ions Across the Lamellae of Swollen Phospholipids," J.Mol.Biol.13:238-52(1965);Hsuへの米国特許第5,653,996号;Lee et al.への米国特許第5,643,599号;Holland et al.への米国特許第5,885,613号;Dzau & Kanedaへの米国特許第5,631,237号;およびLoughrey et al.への米国特許第5,059,421号;Wolff et al., "The Use of Monoclonal Anti-Thy1 IgG1 for the Targeting of Liposomes to AKR-A Cells in Vitro and in Vivo," Biochim.Biophys.Acta 802:259-73(1984)、これらの各々は、その全体が参照により組み込まれる)、経皮パッチ、移植物、移植可能なまたは注射可能なタンパク質デポー組成物、およびシリンジが挙げられる。当業者に公知である他の送達系もまた、所望の器官、組織、または細胞への治療剤の所望の送達を達成するために利用できる。
【0055】
投与は、必要とされる頻度で、および病原体に対して有効な予防または効力を提供するために適切である期間の間、実行できる。例えば、投与は、単回の持続放出投薬製剤または複数回の日々の用量を用いて実行できる。
【0056】
投与される量は、当然、治療計画に依存して変動する。一般的には、剤は、病原体のクリアランスを改善するために有効な量を達成するために投与される。従って、治療有効量は、少なくとも部分的に病原体の感染を予防および/または治療することが可能である量であり得る。これには、非限定的に、感染の発症を遅らせることが挙げられる。有効量を得るために要求される用量は、剤、製剤、および剤が投与される個人に依存して変動する可能性がある。
【0057】
本発明の剤または組成物の投薬量、毒性、および治療効力は、例えば、LD50(集団の50%に対して致死的である用量)およびED50(集団の50%において治療的に有効である用量)を決定するために、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手順によって決定できる。毒性効果と治療効果との間の用量比率が治療指数であり、これはLD50/ED50の比率として表現できる。高い治療指数を示す化合物が望ましい可能性がある。毒性副作用効果を示す組成物が使用されてもよいが、感染していない細胞に対する潜在的な損害を最小化し、それによって副作用を減少させるために、罹患した組織の部位にこのような組成物を標的化する送達系が設計されるよう注意が払われるべきである。
【0058】
このようなものとして、セラミダーゼは、ある実施形態において、治療有効量で投与される。本明細書で使用される場合、剤、タンパク質、化合物、および/または組成物の「治療有効量」、「有効量」または「薬学的に有効な量」という用語は、所望の治療的および/または予防的な効果を達成するために十分な量、例えば、治療されている疾患に付随する症状の予防、またはその減少を生じる量である。
【0059】
対象に投与される本発明の剤または組成物の有効量は、疾患の種類および重篤度、ならびに、一般的健康、年齢、性別、体重、および薬物に対する耐容性などの個体の特徴に依存する。これはまた、疾患の程度、重篤度、および種類に依存する。当業者は、これらおよび他の要因に依存して、適切な投薬量を決定することが可能である。本発明の組成物はまた、1種以上のさらなる治療化合物と組み合わせて投与できる。
【0060】
典型的には、この治療剤は、治療剤ならびに任意の薬学的に受容可能なアジュバント、キャリア、賦形剤、および/または安定剤を含む薬学的製剤として投与され、錠剤、カプセル、散剤、溶液、懸濁液、またはエマルジョンなどの固体剤型または液体剤型であり得る。これらの組成物は、好ましくは、約0.01~約99重量パーセント、より好ましくは、約2~約60重量パーセントの治療剤を、アジュバント、キャリア、および/または賦形剤とともに含有する。ある実施形態において、有効量は、約0.001mg/kg対象体重~約500mg/kg対象体重の範囲である。ある実施形態において、剤の有効量は、約0.05mg/kg~約30mg/kg、約0.1mg/kg~約30mg/kg、約1mg/kg~約25mg/kg、約1mg/kg~約20mg/kg、または約1もしくは2mg/kg~約15mg/kgの範囲である。
【0061】
本発明の剤、例えば、ACは、様々な時点で投与することができる。セラミダーゼ、例えば、ACは、ある実施形態において、感染の発症の前に投与される。他の実施形態において、セラミダーゼ、例えば、ACは、感染の発症の後で投与される。なおさらに、セラミダーゼ、例えば、ACは、本発明のある実施形態に従って、感染の発症の前および後で投与されてもよい。
【0062】
本発明の別の態様は、病原体の感染および根底にある疾患状態を有する対象において治療の有効性をモニタリングする方法に関する。この方法は、対象を選択する段階、治療前の選択された対象からの体液サンプル中のベースラインセラミドレベルを提供する段階、および療法を用いて病原体の感染を治療する段階を含み、例えば、この療法は、例えば、ACなどのセラミダーゼの治療的投与であり得る。この方法はさらに、治療後の選択された対象からの体液サンプル中の治療後セラミドレベルを検出する段階、ベースラインセラミドレベルを治療後セラミダーゼレベルと比較する段階、ならびにこの比較および/または病原体の感染の病理に基づいて、治療が有効であったか否かを特定する段階を含む。
【0063】
本発明の別の態様における、本発明の療法を使用または投与するためのキットまたは試薬システム。このようなキットは、本明細書に開示される方法に従うアッセイを実施するために要求される特定の要素を含む試薬の組み合わせを含有する。この試薬システムは、組成物または混合物としての商業パッケージ型で提供され、ここでは、試薬の適合性が、試験デバイス配置において、またはより典型的には、試験キットとして、すなわち、1つ以上の容器、デバイスなどのパッケージされた組み合わせ中で必要な試薬を保持することを許容し、そして好ましくは、アッセイの実施のために書かれた指示書を含む。このキットは、アッセイの任意の構成のために適合されてもよく、本明細書に記載された様々なアッセイのいずれかを実施するための組成物を含んでもよい。
【0064】
開示された方法のために有用な試薬は溶液中に保存でき、または凍結乾燥できる。凍結乾燥されたとき、試薬のいくつかまたはすべては、再構成後の容易な使用のためにマイクロタイタープレートウェルの中で容易に保存できる。当該分野において公知である試薬を凍結乾燥させるための任意の方法が、開示された方法のために有用なドライダウンされた試薬を調製するために適切であることが企図される。
【0065】
ここで本発明を一般的に説明してきたが、例示の目的で提供され、特定されない限り本発明を限定することは意図されない以下の実施例に対する参照を通して、本発明は、より容易に理解される。
【実施例0066】
実施例1-マウス
B6.129P2(CF/3)-CftrTgH(neoim)Hgu(「CFMHH」)コンジェニックマウスが、Cftr遺伝子のエキソン10における挿入変異誘発によって生成されたオリジナルのCftrTgH(neoim)Hgu変異型マウスの同系交配を通して産生された。Charizopoulou et.al., "Instability Of The Insertional Mutation In CftrTgH(neoim)Hgu Cystic Fibrosis Mouse Model," BMC Genet.5 p.6(2004)を参照のこと。これは、その全体が参照により組み込まれる。次いで、このコンジェニックCftrMHH系統は、B6バックグラウンドに戻し交配された。これらのマウスは、なお低レベルのCFTRを発現しており、従って、標準マウス食を与えることができた。これらは、正常な発生を示したが、しかし、CFに典型的な肺病理もまた示した。これらは、本明細書では「CF」マウスと称する。Teichgraber et.al., "Ceramide Accumulation Mediate Inflammation,Cell Death And Infection Susceptibility In Cystic Fibrosis," Nat Med.14(4),pp.382-391(2008);Wolbeling et.al., "Head-out Spirometery Accurately Monitors the Course of Pseudomonas aeruginosa Lung Infection in Mice," Respiration 80:340-6(2010)を参照のこと。これは、その全体が参照により組み込まれる。同質遺伝子B6マウスは対照として使用された。
【0067】
ある実験については、Cftrtm1Unc-Tg(FABPCFTR)マウス(「Cftr-/-」、The Jackson Laboratory,Bar Harbor,MEから購入)は、C57BL/6マウスと、10世代より多く戻し交配させた。脂肪酸結合タンパク質(「FABP」)プロモーターの制御下にあるヒトCFTRを発現する腸以外のすべての器官において、マウスは、Cftrを完全に欠損している。この導入遺伝子は腸閉塞を予防し、正常食を与えられることを可能にする。再度、B6マウスは対照として使用された。Cftr-/-系統とCftrMHH系統の両方を利用する実験において、大きな違いは観察されなかった。
【0068】
他の実験については、酵素セラミドシンターゼ2が欠損しているマウスが使用された。これらのマウス(CerS2-/-)は、CerS2マウス遺伝子の第1イントロンの破壊によって生成された。これらは、約16ヶ月を超えて生存せず、多くの組織の中にC16セラミドを蓄積する(Pewzner-Jung et al., "A Critical Role of Ceramide Synthase 2 in Liver Homeostasis I.Alterations in The Lipid Metabolic Pathway," J Biol.Chem.285:10902(2010)を参照のこと。これは、その全体が参照により組み込まれる)。
【0069】
マウスは、the University Hospital,University of Duisburg-Essen,Germanyの動物施設における単離されたケージの中に収容され、飼育された。これらは、the Federation of European Laboratory Animal Science Associationsの2002年の推奨に従って、共通のマウス病原体のパネルについて繰り返し評価された。マウスはあらゆる病原体を含まなかった。動物に対して実施された手順は、Bezirksregierung Duesseldorf,Duesseldorf,Germanyによって認可された。
【0070】
実施例2-抗体および試薬
すべてのセラミド染色は、モノクローナルマウス抗セラミド抗体クローンS58-9(Glycobiotech)を使用して実施し、これは、Cy3ロバ抗マウスIgM F(ab)2フラグメント(Jackson #715-166-020)またはCy5結合ロバ抗マウスIgM抗体(Jackson #715-176-020)を用いて可視化した。組換えヒト酸性セラミダーゼは、チャイニーズハムスター卵巣(「CHO」)細胞中で産生し、以前に記載されたように培地から精製した。He et al.,J Biol.Chem.278:32978-86(2003)、これは、その全体が参照により組み込まれる。
【0071】
実施例3-細菌
緑膿菌の実験室菌株American Type Culture Collection 27853、および以前に記載された緑膿菌臨床分離株(「762」)を使用した。細菌は、新鮮なトリプシンダイズ寒天プレート(TSA;Becton Dickinson)上の凍結ストックからプレーティングし、37℃で14~16時間増殖させ、40mLの37℃にあたためたトリプシンダイズブロス(Becton Dickinson)中で、550nmで0.225の光学密度まで再懸濁した。次いで、細菌懸濁液を、初期の対数増殖期の細菌を取得するために、125rpmで振盪させながら、37℃で1時間インキュベートした。Grassme et.al., "Host Defense Against Pseudomonas aeruginosa Requires Ceramide-Rich Membrane Rafts," Nat Med.9(3):322-330(2003)を参照のこと。これは、その全体が参照により組み込まれる。次いで、細菌を2回洗浄し、10mM HEPESを補充したあたためたRPMI-1640培地(Invitrogen)(RPMI+HEPES)中に再懸濁した。細菌の最終濃度は、分光光度計によって定量した。
【0072】
実施例4-インビボ免疫組織化学
マウス気管支上皮細胞の免疫組織化学評価のために、マウスを頸椎脱臼によって屠殺し、すぐに氷冷生理食塩水を用いて、低圧で2分間、右心を経由して灌流を行った。これに続き、10~15分間、4% PBS緩衝化PFAを用いる心灌流を行った。この初期の血液のクリアランスおよび固定の後、肺が取り出され、24~36時間の間、4% PFA中でさらに固定された。この組織を、エタノール対キシロールのグラジエントを使用して連続的に脱水し、次いで、パラフィンに包埋した。
【0073】
次いで、サンプルを7μmに切片化し、脱ワックス処理し、再水和し、37℃で15分間ペプシン(Invitrogen)処理した。次いで、サンプルを水およびPBSで洗浄し、室温で10分間、PBSおよび0.05% Tween 20(Sigma)および1% FCSでブロッキングした。次いで、サンプルを、室温で45分間、H/S+1% FCS中の一次抗体で連続的に染色した。サンプルを、PBS+0.05% Tween 20で2回、そしてPBSで1回、染色の間に洗浄した。組織は、暗所で30分間、H/S+1% FCS中の蛍光結合二次抗体で二次標識した。組織を、再度、PBS+0.05% Tween 20で2回、PBSで1回洗浄し、最後に、Mowiol中に包埋した。以下に記載されるように、共焦点顕微鏡を使用してサンプルを評価した。
【0074】
実施例5-吸入およびインビボ感染
緑膿菌を上記のように調製し、RPMI-1640プラス10mM HEPES中で、20μL培地中1×108CFUの最終濃度に再懸濁した。次いで、これらを、鼻の中に2mm挿入されたプラスチックコートされた30ゲージ針を使用して接種した。マウス肺の中での細菌数を、感染の2時間後に定量した。マウスを屠殺し、肺を取り出し、ホモジナイズし、そして5mg/mLサポニン中で溶解して、細胞内細菌が放出された。次いで、サンプルを滅菌PBSで洗浄し、希釈し、そしてTSAプレート上で二連で、12時間プレーティングした。細菌数を計数し、全肺サンプル中の細菌の数を示した。この感染の様式は、気管内感染などの他の肺感染モデルよりも、粘膜毛様体クリアランスをより正確に評価する。Teichgraber et.al., "Ceramide Accumulation Mediate Inflammation,Cell Death And Infection Susceptibility In Cystic Fibrosis," Nat Med.14(4):382-391(2008);Zhang et.al., "Kinase Suppressor Of Ras-1 Protects Against Pulmonary Pseudomonas aeruginosa Infections," Nat Med.17(3):341-346(2011)を参照のこと、これらは、それらの全体が参照により組み込まれる。
【0075】
実施例6-統計学
データを算術平均±SDとして表現し、示されたように統計学的分析を実施した。すべての値が正規分布していたので、一元ANOVAを適用した。有意性は図面の中で星印を付して示される。
【0076】
実施例7-共焦点顕微鏡法および考察
100×オイルイマージョンレンズを装着したLeica TCS-SP5 共焦点顕微鏡を用いてサンプルを調べ、Leica LCSソフトウェア(Leica Microsystems)を用いて画像を分析した。すべての比較サンプルは、同一の設定を用いて測定された。
【0077】
セラミドはCF対象およびマウスの肺において増加しており(
図1A)、CFマウスの緑膿菌感染への感受性における重要な要因である。Grassme et.al., "CFTR-dependent Susceptibility Of The Cystic Fibrosis-Host To Pseudomonas aeruginosa," Int J Med Microbiol.300(8):578-83(2010)を参照のこと。これは、その全体が参照により組み込まれる。以前の研究は、酸性スフィンゴミエリナーゼの薬理学的阻害または酸性スフィンゴミエリナーゼ遺伝子の遺伝的ヘテロ接合性がマウスCF肺におけるセラミドレベルを正常化するために十分であることを実証した。Becker et.al., "Acid Sphingomyelinase Inhibitors Normalize Pulmonary Ceramide And Inflammation In Cystic Fibrosis," Am J Respir Cell Mol Biol.42(6):716-24(2010)を参照のこと。これは、その全体が参照により組み込まれる。
【0078】
加えて、CF
MHHCftr欠損マウスは、セラミドを加水分解する酸性セラミダーゼを吸入した。この吸入は、CFマウスの気管支上皮細胞におけるセラミドレベルを修正した(
図1B)。溶媒、すなわち、0.9% NaClの吸入は、セラミドレベルに影響を与えなかった。
【0079】
別の例において、Cftr-/-、CerS2、または正常マウスは、生理食塩水または酸性セラミダーゼを吸入し、次いで、緑膿菌に感染した(
図2)。正常マウスと比較して、CF
MHHCftr欠損マウスおよびCerS2マウスは、セラミドをそれらの肺に蓄積する。吸入の2時間後、これらを屠殺し、肺に残っている細菌を定量した。野生型マウスは、緑膿菌を効果的にクリアしていたのに対して、生理食塩水を吸入したCftr-/-マウスまたはCerS2-/-マウスはクリアできず、多量の残存細菌を有していた。対照的に、酸性セラミダーゼを吸入したCftr-/-マウスまたはCerS2-/-マウスは、正常マウスと同様に、非常に低い細菌力価を有していた。
【0080】
未処置のCF気道における不規則性の同定は、CF対象における感染の予防のための新規な概念を提供する。本実施例は、感染を阻止し、そしてCFを有する対象の死亡の主要な要因を治療するためのいくつかのアプローチを提供する。
【0081】
実施例8-AC吸入はシュードモナス感染に対して保護する
マウスは、1×108コロニー形成単位(CFU)の緑膿菌菌株762またはATCC 27853を用いる鼻内感染の30~45分前に、0.8mLの0.9% NaCl中の100マイクログラムの組換え酸性セラミダーゼ(AC)を吸入した。肺を感染の4時間後に取り出し、ホモジナイズし、5mg/mLサポニン中で10分間溶解し、そして洗浄した。アリコートをLBプレート上にプレーティングし、一晩増殖させた。LBプレート上のCFUを計数し、肺の中の緑膿菌細菌の数を決定した。4回の独立した実験の平均±標準偏差が示される。
【0082】
ACの単回吸入は、2種の異なる菌株のP.aeurginosaを用いるCFマウスの感染を予防した(
図3)。臨床菌株762はもともと尿路感染から得られたのに対して、ATCC 27853菌株は実験室菌株である。生理食塩水単独の吸入は対照として使用された。
【0083】
CFマウスは、組換え酸性セラミダーゼ(0.8mLの0.9% NaCl中100マイクログラム)を吸入した。生理食塩水を対照として使用した。すべての場合において、マウスは、臨床的緑膿菌菌株762を用いる吸入の30~45分前に吸入し、次いで、4時間後に屠殺された。肺を感染の4時間後に取り出し、ホモジナイズし、5mg/mLサポニン中で10分間溶解し、そして洗浄した。アリコートをLBプレート上にプレーティングし、一晩増殖させた。LBプレート上のCFUを計数して、肺の中の緑膿菌の細菌数を決定した。
【0084】
CFマウスの組換え酸性セラミダーゼの吸入は、臨床菌株762 緑膿菌を用いる感染を同様の程度、予防した(
図3)。
【0085】
好ましい実施形態が示され、本明細書において詳細に説明されてきたが、様々な改変、付加、置換などは、本発明の趣旨から逸脱することなく行うことができ、それゆえに、これらは、後に続く特許請求の範囲に定義されるような本発明の範囲内にあるとみなされることが関連分野の当業者には明らかである。