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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021329
(43)【公開日】2023-02-10
(54)【発明の名称】自己免疫性胃炎の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/573 20060101AFI20230202BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
G01N33/573 A
G01N33/53 B
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199884
(22)【出願日】2022-12-15
(62)【分割の表示】P 2018205914の分割
【原出願日】2018-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 隆久
(72)【発明者】
【氏名】山出 美穂子
(72)【発明者】
【氏名】魚谷 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】鏡 卓馬
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】樋口 友洋
(72)【発明者】
【氏名】高橋 崇道
(57)【要約】
【課題】血中のペプシノゲン,ガストリンを測定することで自己免疫性胃炎と非自己免疫
性胃炎を鑑別可能とする検査方法の提供。
【解決手段】被験体の血液中のPG I値、PG II値及びガストリン値の少なくとも2つを測
定し、以下の(i)~(iv)のいずれかを算出し、該いずれかの算出値を指標として、自己免
疫性胃炎(AIG)を非自己免疫性胃炎(non-AIG)と鑑別して検出する方法:
(i) PG I*PG II値(PG I値とPG II値の積);
(ii) PG I/ガストリン比(PG I値とガストリン値の比);
(iii) (PG I/II比)/ガストリン比(PG I/II比(PG I値とPG II値の比)とガストリン値
の比);及び
(iv) (PG I*PG II値)/ガストリン比(PG I*PG II値(PG I値とPG II値の積)とガストリ
ン値の比)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の血液中のPG I値、PG II値又はガストリン値の少なくとも1つを測定し、以下の(i)~(iv)のいずれかの値を指標として、自己免疫性胃炎(AIG)を非自己免疫性胃炎(non-AIG)と鑑別して検出するための補助的データを取得する方法:
(i) PG I値;
(ii) PG II値;
(iii) PG I/II比(PG I値とPG II値の比);及び
(iv) ガストリン値。
【請求項2】
PG I値、PG II値及びガストリン値の測定に、独立してRIA法、EIA法、ELISA法、LA法、CLIA法及びCLEIA法からなる群から選択される方法を用いる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
(i) PG I値、(ii) PG II値、(iii) PG I/II比(PG I値とPG II値の比)及び(iv) ガストリン値にカットオフ値を設定し、それぞれの値がカットオフ値未満の場合に被験体が自己免疫性胃炎に罹患していると判断するための補助的データを取得する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ROC解析によりカットオフ値を設定する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
(i) PG I値のカットオフ値が、7.30μg/ml、(ii) PG II値のカットオフ値が、10.4ng/ml、(iii) PG I/II比(PG I値とPG II値の比)のカットオフ値が、1.3、(iv) ガストリン値のカットオフ値が、1300 pg/mlである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野に属し、血液検体から自己免疫性胃炎の症例を効率よく検出するた
めの検査方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
1. 自己免疫性胃炎について
自己免疫性胃炎(autoimmune gastritis, 以下AIG)は、抗壁細胞抗体、抗内因子抗体
による自己免疫機序により胃の体部の高度の萎縮性変化を来す疾患である。壁細胞への自
己免疫機序による障害は、胃体部の固有胃腺の高度萎縮、胃酸分泌低下、内因子欠乏によ
るビタミンB12吸収不良などをきたす。
【0003】
ビタミンB12吸収不良による慢性的なビタミンB12欠乏は、悪性貧血や神経・精神疾患な
どの多彩な症状を引き起こし、認知症の発症にも寄与する。
【0004】
また、胃酸分泌の著しい低下は、胃の殺菌作用を損ない、消化管の細菌叢にも影響する
。また、胃酸分泌低下に伴う高ガストリン血症は、カルチノイド、胃がん、大腸癌といっ
た悪性腫瘍の発症リスクを高める。
【0005】
ヘリコバクター・ピロリ(以下H. pylori)の感染率が高かった日本では、これまでAIG
はまれな疾患とされていたが、H. pylori感染者の減少によりAIG患者が顕在化し、むしろ
AIG患者はまれではないと考えられるようになった。しかし、実臨床においては、H. pylo
ri感染に伴う高度の萎縮性胃炎とAIGとの鑑別は容易ではなく、しばしばAIGが見過ごされ
ているのが実情である。特に、AIGでは無酸症のために、H. pylori以外のウレアーゼ産生
菌が胃内で棲息できるため、しばしば、13C-尿素呼気試験を陽性化してH. pylori感染が
あると誤診されて、除菌療法を繰り返されてしまうことも報告されている。
【0006】
AIGの診断は、胃の体部有意の萎縮性変化(逆萎縮)、抗壁細胞抗体や抗内因子抗体の
陽性で診断される。しかし、内視鏡検査時にAIGを疑わなくては診断のための組織生検は
行われず、従って、事前に本疾患を疑う簡便な検査方法の確立が急務である。AIGでの血
液検査の特徴としては、高ガストリン血症、血清ペプシノゲンの低値が報告されているが
H. pylori感染に伴う萎縮性胃炎でも同様な値を呈することがあり、両者を鑑別するカ
ットオフ値も定まっていない。
【0007】
2. 血清ペプシノゲン及び血清ガストリンについて
血清ペプシノゲンは、大きくペプシノゲンI (PG I)とペプシノゲンII (PG II)に分けら
れる。PG Iは主に胃の主細胞や胃腺頸部粘液細胞から分泌され、PG IIは主細胞や胃腺頸
部粘液細胞のみならず幽門腺細胞や十二指腸のブルンネル腺からも分泌される。PG IもPG
IIも一定量が血中に漏出し、血液中で測定可能である。萎縮性胃炎が進行するとPGの産
生領域が減少するため、ペプシノゲンの値も低下する。一方主細胞にはガストリンの受容
体があり、血清ガストリン値が高い場合には、ペプシノゲンの値も上昇する。
【0008】
血清ガストリンは、胃の前庭部に存在するG細胞から分泌され、血流を介して、胃のECL
細胞を刺激し、ヒスタミンを分泌させて壁細胞からの胃酸分泌を促進する。G細胞は突起
を粘膜表面に出しており、それがセンサーとなって胃酸分泌状態を監視しており、胃酸分
泌が低下すると、ガストリンの分泌が増加し、血中のガストリン値は上昇する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Furuta T, et al. Aliment Pharmacol Ther. 2018 Aug;48(3):370-377.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、血液検査で非侵襲的にかつ迅速に自己免疫性胃炎を検出する方法を提供する
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、AIGの症例と同程度の萎縮性変化を有する非自己免
疫性胃炎(non-AIG)とを比較し、血清ペプシノゲン(以下、PGという)I値、PG II値、P
G I/II比(PG I値とPG II値の比)及び血清ガストリン値を比較し、それらの値にカット
オフ値を設けることで、高い精度でAIGとnon-AIGを鑑別することが可能であることを見出
した。この方法は、内視鏡検査を施行せずに、高い精度でAIGを診断することを可能とし
た。そして、特に、PG I値とガストリン値の比(PG I/ガストリン比)、PG I/II比とガス
トリン値の比((PG I/II比)/ガストリン比)、PG I*PG II(PG I値とPG II値の積)/ガス
トリン比等の値を算出し、AIG検出の指標とすることで高い精度でAIGの検出が可能となる
ことを見出した。
【0012】
本発明の態様は、以下のとおりである。
[1] 被験体の血液中のPG I値、PG II値及びガストリン値の少なくとも2つを測定し、
以下の(i)~(iv)のいずれかを算出し、該いずれかの算出値を指標として、自己免疫性胃
炎(AIG)を非自己免疫性胃炎(non-AIG)と鑑別して検出する方法:
(i) PG I*PG II値(PG I値とPG II値の積);
(ii) PG I/ガストリン比(PG I値とガストリン値の比);
(iii) (PG I/II比)/ガストリン比(PG I/II比(PG I値とPG II値の比)とガストリン値
の比);及び
(iv) (PG I*PG II値)/ガストリン比(PG I*PG II値(PG I値とPG II値の積)とガストリ
ン値の比)。
[2] PG I値、PG II値及びガストリン値の測定に、独立してRIA法、EIA法、ELISA法、LA
法、CLIA法及びCLEIA法からなる群から選択される方法を用いる、[1]の方法。
[3] (i) PG I*PG II値(PG I値とPG II値の積)、(ii) PG I/ガストリン比(PG I値
とガストリン値の比)、(iii) (PG I/II比)/ガストリン比(PG I/II比(PG I値とPG II
値の比)とガストリン値の比)及び(iv) (PG I*PG II値)/ガストリン比(PG I*PG II値
(PG I値とPG II値の積)とガストリン値の比)にカットオフ値を設定し、それぞれの算
出値がカットオフ値未満の場合に被験体が自己免疫性胃炎に罹患していると判断する、[
1]又は[2]の方法。
[4] ROC解析によりカットオフ値を設定する、[1]~[3]のいずれかの方法。
[5] (i) PG I*PG II値(PG I値とPG II値の積)のカットオフ値が、PG I値及びPG II
値をμg/ml換算の値とした場合に100~115、(ii) PG I/ガストリン比(PG I値とガスト
リン値の比)のカットオフ値が、PG I値をガストリン値と同じpg/ml換算の値とし、ガス
トリン値をpg/ml換算の値とした場合に10~13、(iii) (PG I/II比)/ガストリン比(PG I
/II比(PG I値とPG II値の比)とガストリン値の比)のカットオフ値が、PG I値及びPG I
I値をμg/ml換算の値とし、ガストリン値をpg/ml換算の値とし、PG I/PG II比をガストリ
ン値で除した値に1000を掛けた場合に0.99~1.05、(iv) (PG I*PG II値)/ガストリン比
(PG I*PG II値(PG I値とPG II値の積)とガストリン値の比)のカットオフ値が、PG I
値及びPG II値をμg/ml換算の値とし、ガストリン値をpg/ml換算の値とした場合に36~41
である、[1]~[4]のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法により、内視鏡検査を施行することなく、高い精度でAIGをnon-AIGと鑑別
する方法を確立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】AIG症例及びnon AIG症例の血清PG I濃度、PG II濃度、PG I/PG II濃度比及び血清ガストリン濃度を示す図である。
図2】各種パラメーターの精度をROC解析にて確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、血液中のPG I、PG II若しくはガストリン値、あるいはそれらの値から算出
した値を指標にAIGとnon-AIGを鑑別する方法である。ここで、鑑別とは疾患を検出するに
あたり、検査の結果から可能性のある複数の疾患を比較しながら、特定することをいう。
すなわち、本発明の方法においては、血液中のPG I、PG II又はガストリンをマーカーと
して用いる。また、本発明は、血液中のPG I、PG II若しくはガストリン濃度、あるいは
それらの値から算出した値を指標にAIGをnon-AIGと鑑別して検出する方法でもある。さら
に、本発明は、血液中のPG I、PG II若しくはガストリン値、あるいはそれらの値から算
出した値を指標にAIGとnon-AIGを鑑別するため、又はAIGをnon-AIGと鑑別して診断するた
めの補助的データを取得する方法でもある。
【0016】
本発明においては、血液中のPG I、PG II又はガストリンを測定する。血液中のPG I、P
G II又はガストリン値は濃度で表すことができる。検体としては、血清又は血漿を用いれ
ばよい。
【0017】
PG I、PG II及びガストリンの測定方法は限定されないが、好ましくは抗PG I抗体、抗P
G II抗体又は抗ガストリン抗体を用いた免疫学的測定方法により測定すればよい。免疫学
的測定方法としては、例えば、免疫測定法(RIA: radio immunoassay、EIA: enzyme immu
noassay、FIA: fluoro immunoassay、CLIA: chemiluminescent immunoassay、CLEIA: che
miluminescent enzyme immunoassay等)、ドット・ブロッティング法、ラテックス凝集法
(LA:Latex Agglutination-Turbidimetric Immunoassay)、イムノクロマト法等が挙げ
られる。
【0018】
この中でも、抗体を固相化したラテックス粒子を用いたラテックス凝集法(LA)やEIA(E
nzyme Immunoassay)法の1種であるELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法が好ま
しい。
【0019】
ラテックス凝集法は、PG I、PG II又はガストリンに対する抗体をラテックス粒子に固
相化し、抗原(PG I、PG II又はガストリン)を含む検体と混合する。抗原が存在する場
合、抗原抗体反応によりラテックス粒子が凝集し、この凝集を目視により観察するか、あ
るいは自動分析装置により濁度を測定することにより抗原を定量することができる。
【0020】
ELISA法では、PG I、PG II又はガストリンに対する抗体を固相化したマイクロタイター
プレートに抗原(PG I、PG II又はガストリン)を含む検体を添加し抗原・抗体反応を行
わせ、さらに酵素標識したPG I、PG II又はガストリンに対する抗体を添加し、抗原・抗
体反応をさせ、洗浄後、酵素基質と反応・発色させ、吸光度を測定して検体中のPG I、PG
II又はガストリン濃度を測定する。蛍光標識したPG I、PG II又はガストリンに対する抗
体を用いてもよい。
【0021】
免疫学的測定方法において、抗原抗体反応は4℃~45℃、より好ましくは20℃~40℃、
さらに好ましくは25℃~38℃で行うことができ、また、反応時間は、1分~18時間、より
好ましくは5分~1時間、さらに好ましくは10分~1時間程度である。
【0022】
免疫学的測定方法において用いられる抗PG I抗体、抗PG II抗体又は抗ガストリン抗体
は、PG I、PG II又はガストリンを検出し得る抗体であればよく、モノクローナル抗体で
もポリクローナル抗体でもよい。さらに、モノクローナル抗体のFab、F(ab')、F(ab')2
の結合活性断片を用いることもできる。
【0023】
本発明においては、血液中のPG I、PG II及びガストリンのうちの1つ、2つ又は3つ
を測定し、PG I、PG II又はガストリンの単独の値を指標としてAIGとnon-AIGを鑑別し、
又はAIGをnon-AIGと鑑別して検出するか、あるいは、PG I、PG II又はガストリンの値を
組合せて新たなパラメーターを算出し、該パラメーターを指標としてAIGとnon-AIGを鑑別
し、又はAIGをnon-AIGと鑑別して検出する。
【0024】
一般に、PG I値、PG II値、及びPG I値とPG II値の比(PG I/II比)はAIG症例で低く、
血清ガストリン値はAIG症例で高いと考えられている。いずれの数値もAIGとnon-AIGの間
でオーバーラップがあるため、PG I値、PG II値又はPG I/PG II比単独で高い精度でAIGと
non-AIGを鑑別することは難しい。しかし、これらの数値を組み合わせた値を算出し、そ
の値を鑑別や検出の指標とすることで高い精度でAIGとnon-AIGの鑑別を行うこと、又はAI
Gをnon-AIGと鑑別して検出することが可能となった。
【0025】
本発明において用いられる数値の組み合わせた値として、PG I*PG II値、PG I/ガスト
リン比、(PG I/PG II比)/ガストリン比及び(PG I*PG II値)/ガストリン比が挙げられる
【0026】
(1)PG I*PG II値
PG I*PG II値は、PG I値とPG II値を乗じて得られた積である。PG I*PG II値は、AIG症
例で低く、non-AIG症例で高い。PG I値及びPG II値をμg/ml換算の値とした場合、AIG症
例における平均値は80.3 ± 128.9であり、non-AIG症例における平均値は1773.5 ± 3543
.9であり、non-AIG症例における値はAIG症例における値の15~25倍である(AIG症例にお
ける値はnon-AIG症例における値の1/25~1/15)。
【0027】
(2)PG I/ガストリン比
PG I/ガストリン比は、PG I値をガストリン値で除して得られた値である。PG I/ガスト
リン比は、AIG症例で低く、non-AIG症例で高い。PG I値をガストリン値と同じpg/ml換算
の値とし、ガストリン値をpg/ml換算の値とした場合、AIG症例における平均値は6.38 ±
16.6であり、non-AIG症例における平均値は290.5 ± 311.5であり、non-AIG症例における
値はAIG症例における値の35~55倍である(AIG症例における値はnon-AIG症例における値
の1/55~1/35)。
【0028】
(3)(PG I/PG II比)/ガストリン比
(PG I/PG II比)/ガストリン比は、PG I値をPG II値で除して得られた値(PG I/PG II比
)を、さらに、ガストリン値で除した値である。(PG I/PG II比)/ガストリン比は、AIG症
例で低く、non-AIG症例で高い。PG I値及びPG II値をμg/ml換算の値とし、ガストリン値
をpg/ml換算の値とし、PG I/PG II比をガストリン値で除した値に1000を掛けた場合、AIG
症例における平均値は1.1 ± 3.8であり、non-AIG症例における平均値は20.8 ± 25.2で
あり、non-AIG症例における値はAIG症例における値の15~25倍である(AIG症例における
値はnon-AIG症例における値の1/25~1/15倍)。
【0029】
(4)(PG I*PG II値)/ガストリン比
(PG I*PG II値)/ガストリン比は、PG I値とPG II値を乗じて得られた積(PG I*PG II)
をさらに、ガストリン値で除して得られた値である。(PG I*PG II値)/ガストリン比は、A
IG症例で低く、non-AIG症例で高い。PG I値及びPG II値をμg/ml換算の値とし、ガストリ
ン値をpg/ml換算の値とした場合、AIG症例における平均値は55.2であり、non-AIG症例に
おける平均値は7623.8 ± 22999.5であり、non-AIG症例における値はAIG症例における値
の100~150倍である(AIG症例における値はnon-AIG症例における値の1/150~1/100倍)。
【0030】
本発明においては、AIGの症例と同程度の萎縮性変化を有するnon-AIG症例から採取した
血液を陰性対照として、同時に測定してもよい。
【0031】
この場合、被験体がAIGに罹患している場合、被験体の血液中のPG I値、PG II値、ガス
トリン値について、PG I*PG II値、PG I/ガストリン比、(PG I/PG II比)/ガストリン比及
び(PG I*PG II値)/ガストリン比がnon-AIG症例に比べて低下するので、被験体におけるP
G I*PG II値、PG I/ガストリン比、(PG I/PG II比)/ガストリン比又は(PG I*PG II値)/
ガストリン比がnon-AIG症例よりも低い場合、被験体がAIGに罹患していると判断し、AIG
をnon-AIGと鑑別して検出することができる。例えば、被験体において、PG I*PG II値がn
on-AIG症例の1/25~/15の場合、PG I/ガストリン比がnon-AIG症例の1/55~1/35の場合、(
PG I/PG II比)/ガストリン比がnon-AIG症例の1/25~1/15の場合、又は(PG I*PG II値)/
ガストリン比がnon-AIG症例の1/150~1/100の場合、被験体がAIGに罹患していると判断し
、AIGをnon-AIGと鑑別して検出することができる。
【0032】
また、あらかじめnon-AIG症例の血液中のPG I値、PG II値及びガストリン値を測定し、
PG I*PG II値、PG I/ガストリン比、(PG I/PG II比)/ガストリン比及び(PG I*PG II値)/
ガストリン比についてAIGとnon-AIGを鑑別するためのカットオフ値(閾値)を定めておい
てもよい。該カットオフ値を基準としカットオフ値未満の場合に、AIGに罹患していると
判断し、AIGをnon-AIGと鑑別して検出することができる。
【0033】
カットオフ値は、例えば、ROC(receiver operating characteristic curve:受信者動
作特性曲線)解析により設定することができる。ROC曲線は、各カットオフ値での感度(s
ensitivity)及び特異性(specificity)を算出し、横軸を特異性とし、縦軸を感度とした座
標上にプロットして作成する。また、ROC解析により本発明の方法による判定精度(感度
及び特異性)を決定することができる。ROC解析は、試料としてAIG患者から採取した試料
とnon-AIG症例から採取した血液についてPG I値、PG II値及びガストリン値を測定し、PG
I*PG II値、PG I/ガストリン比、(PG I/PG II比)/ガストリン比及び(PG I*PG II値)/ガ
ストリン比について、各カットオフ値での感度(sensitivity)及び特異性(specificity)
を算出し、横軸を特異性(1‐特異性)とし、縦軸を感度とした座標上にプロットする。
本発明の方法の測定結果についてROC解析により判定精度を解析した場合の、曲線下面積
(AUC:area under the curve)は0.95以上と高く、感度は80%以上、好ましくは82%以
上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上であり、特異性は90%以上、
好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上である。本発
明の方法により、非常に高い精度でAIGとnon-AIGを鑑別することができ、あるいはAIGを
検出することができる。
【0034】
それぞれの判定のための指標については、PG I*PG II値の場合、曲線下面積が0.90以上
、感度が80%以上、特異度が90%以上、PG I/ガストリン比の場合、曲線下面積が0.95以
上、感度が90%以上、特異度が95%以上、(PG I/PG II比)/ガストリン比の場合、曲線下
面積が0.95以上、感度が80%以上、特異度が95%以上であり、(PG I*PG II値)/ガストリ
ン比の場合、曲線下面積が0.95以上、感度が80%以上、特異度が95%以上である。
【0035】
ROC曲線を用いてカットオフ値を決定する場合、カットオフ値は感度と特異度のバラン
スから決定すればよく、例えば、ROC曲線の図の左上隅からの距離が最少となる点の値を
カットオフ値としてもよく、曲線下面積(AUC)=0.500となる斜点線(図2の参照線)から
最も離れた点の値をカットオフ値としてもよい(Youden's index)。
【0036】
例えば、PG I*PG II値のカットオフ値として、100~115と設定することができ、好まし
くは105~111、さらに好ましくは108と設定することができる。PG I/ガストリン比のカッ
トオフ値として、10~13と設定することができ、好ましくは11~12と設定することができ
、さらに好ましくは11.5と設定することができる。(PG I/II比)/ガストリン比のカットオ
フ値として、0.99~1.05と設定することができ、好ましくは1.01~1.03と設定することが
でき、さらに好ましくは1.02と設定することができる。(PG I*PG II値)/ガストリン比の
カットオフ値として、36~46と設定することができ、好ましくは39~43と設定することが
でき、さらに好ましくは41と設定することができる。各値がカットオフ値未満の場合に、
被験体はAIGに罹患していると判断し、AIGをnon-AIGと鑑別して検出することができる。
【実施例0037】
浜松医科大学の専門外来を受診し、上部消化管内視鏡検査が実施され、血清PG I値、血
清PG II値及び血清ガストリン値が測定された409の症例を後ろ向きに検討した。PG I値、
PG II値及びガストリン値は、血清中の濃度値である。PG I値はLZテスト‘栄研’ペプシ
ノゲンI(栄研化学株式会社)を用いて、PG II値はLZテスト‘栄研’ペプシノゲンII(栄
研化学株式会社)を用いて、ガストリン値はガストリン・リアキット(登録商標)II(富
士レビオ株式会社)を用いて測定した。
【0038】
AIGと診断された症例は、内視鏡検査にて胃粘膜の萎縮性変化を認め、かつ、抗壁細胞
抗体陽性例であった。73症例がAIGと判断された。それ以外の336症例をnon-AIGとした。
【0039】
そこで、AIGと診断された症例とnon-AIG症例について、同時期にPG I値、PG II値、PG
I/II比(PG I値とPG II値の比)及びガストリン値を比較した。
【0040】
PG I値、PG II値及びPG I/II比はAIGで低く、ガストリン値はAIGで有意に高かった(図
1)。
【0041】
1.各パラメーター単独での判定
(1) PG I値による判定
PG I値の平均値(±標準偏差)は、AIGでは7.4 ± 7.6ng/mlであるのに対し、non-AIGで
は58.4 ± 46.4ng/mlであり、有意にAIGで低値であった(P < 0.001)。そこで、PG I値が7
.30μg/ml未満の症例をAIGとすると、感度71.2%、特異度97.6%、陽性的中率86.7%、陰
性的中率94.0%となり、有用度92.9%となった。PG I値のカットオフ値を7.3ng/mlとし、
その値未満の症例をAIGとした場合の判定結果を表1に示し、判定精度を表2に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
(2) PG II値による判定
PG II値の平均値(±標準偏差)は、AIGでは8.5 ± 3.9ng/mlで、non-AIGでは20.2 ± 16
.0ng/mlであった(P < 0.001)。PG II値のカットオフ値を10.4ng/mlとし、その値未満の症
例をAIGとした場合の判定結果を表3に示し、判定精度を表4に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
(3) PG I/II比による判定
PG I/II比(PG I値とPG II値の比)の平均値(±標準偏差)は、AIGでは0.9 ± 0.8であ
り、non-AIGでは3.3 ± 2.1であった(P < 0.001)。PG I/II比のカットオフ値を1.3とし、
その値未満の症例をAIGとした場合の判定結果を表5に示し、判定精度を表6に示す。
【0048】
【表5】
【0049】
【表6】
【0050】
(4) ガストリン値による判定
ガストリン値の平均値(±標準偏差)は、AIGでは2905± 2642 pg/mlで、non-AIGでは362
± 361 pg/mlである(P < 0.001)。ガストリン値のカットオフ値を1300 pg/mlとし、その
値以上の症例をAIGとした場合の判定結果を表7に示し、判定精度を表8に示す。
【0051】
【表7】
【0052】
【表8】
【0053】
2.パラメーターの組み合わせによる判定
(1) PG I値とPG II値の積(PG I*PG II値)による判定
PG I値もPG II値もAIGではnon-AIGに比してその値が小さいため、両者の差をより大き
くするために、PG I値とPG II値を乗じた積であるPG I*PG II値を判定の指標として検討
した。PG I * PG II値もAIGで低いことが考えられたが、実際測定してみると、PG I*PG I
I値の平均は、AIGでは80.3 ± 128.9であり、non-AIGでの平均値は1773.5 ± 3543.9であ
った(P < 0.001)。PG I*PG II値のカットオフ値を108とし、その値未満の症例をAIGとし
た場合の判定結果を表9に示し、判定精度を表10に示す。
【0054】
【表9】
【0055】
【表10】
【0056】
(2) PG I値とガストリン値の比(PG I/ガストリン比)による判定
PG I値はAIGで低く、ガストリン値はAIGで高い。そこで、両者の影響を考慮して、PG I
値とガストリン値の比(PG I/ガストリン比)を指標とすれば、AIGでより低く、non-AIG
ではより高くなると考えられる。特に、主細胞にはガストリンの受容体があり、高ガスト
リン血症では、PG I値は上昇するはずであるが、そのガストリンの影響を相殺できると考
えられる。PG I値の値をガストリン値と同じpg/mlに換算してPG I/ガストリン比を計算す
ると、その平均値は、AIGでは6.38 ± 16.6で、non-AIGでは290.5 ± 311.5である(P < 0
.001)。PG I/ガストリン比のカットオフ値を11.5とし、その値未満の症例をAIGとした場
合の判定結果を表11に示し、判定精度を表12に示す。
【0057】
【表11】
【0058】
【表12】
【0059】
(3) (PG I/II比)/ガストリン比による判定
PG I/II比(PG I値とPG II値の比)はAIGで低く、ガストリン値はAIGで高い。そこで、
PG I/II比をさらにガストリン値で除した。この値を(PG I/II比)/ガストリン比と呼ぶ。
数値は、PG I/II比をガストリン値(pg/ml)で除して、1000をかけた値を用いた。その平均
値はAIGでは、1.1 ± 3.8、non-AIGでは20.8 ± 25.2であった(P < 0.001)。(PG I/II比)
/ガストリン比のカットオフ値を1.02とし、その値未満の症例をAIGとした場合の判定結果
を表13に示し、判定精度を表14に示す。
【0060】
【表13】
【0061】
【表14】
【0062】
(4) (PG I*PG II値)/ガストリン比による判定
1.に示したように、PG I値とPG II値の積(PG I*PG II値)は、AIGとnon-AIG との鑑別
に有用な指標であった。そこで、さらにガストリンで除すことによって精度が高まると考
えられた。そして、PG I値(ng/ml)、PG II値(ng/ml)、ガストリン値(pg/ml)の値をそのま
ま用いて、(PG I*PG II値)/ガストリン比を計算すると、その平均値は、AIGでは55.2で、
non-AIGでは、7623.8 ± 22999.5であった(P < 0.001)。(PG I*PG II値)/ガストリン比の
カットオフ値を41とし、その値未満の症例をAIGとした場合の判定結果を表15に示し、
判定精度を表16に示す。
【0063】
【表15】
【0064】
【表16】
【0065】
3.判定制度の確認
各種パラメーターの精度をROC解析にて確認した。
得られたROC曲線を図2に示す。また、ROC解析結果を表17に示す。
【0066】
図2は、(PG I*PG II値)/ガストリン比、(PG I/II比)/ガストリン比、PG I/ガストリ
ン比、PG I*PG II値の順で、ROC曲線が図の左上隅に近接していることを示す。また、表
17はこの順序で面積が大きいことを示す。この結果は、(PG I*PG II値)/ガストリン比
、(PG I/II比)/ガストリン比、PG I/ガストリン比、PG I*PG II値の順で、より高い精度
でAIGとnon-AIGを鑑別して検出することができることを示す。
【0067】
【表17】
【0068】
これらの結果より、各パラメーター単独よりも、パラメーターの組み合わせでの判定で
精度がさらに高くなり、特にPG I/ガストリン比、(PG I/II比)/ガストリン比、(PG I*PG
II値)/ガストリン比は非常に高い精度でAIGとnon-AIGの鑑別が可能となり、AIGの診断の
有力なツールとなると考えられる。
図1
図2