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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023002142
(43)【公開日】2023-01-10
(54)【発明の名称】山留め支保構造及び隅部結合ピース
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/04 20060101AFI20221227BHJP
【FI】
E02D17/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021103182
(22)【出願日】2021-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】000179915
【氏名又は名称】ジェコス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正登
(72)【発明者】
【氏名】平尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】高野 金幸
(72)【発明者】
【氏名】有冨 敏也
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 光
(57)【要約】
【課題】簡素な構成で作業効率を向上することの可能な、山留め支保構造及び山留め支保構造に用いる隅部結合ピースを提供する。
【解決手段】山留め壁を補剛する山留め支保構造であって、一方の前記腹起しの端面を、同一平面上で隣り合う他方の腹起しの側面に突き合わせることにより形成された出隅部に、隅部結合ピースが配置され、該隅部結合ピースの両端部のうち、一端側に一方の前記腹起しとの間で生じる引張力に抵抗可能な引張抵抗結合構造が設けられるとともに、他端側に、他方に前記腹起しとの間で生じる引張力及びせん断力に抵抗可能なせん断抵抗結合構造が設けられていることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
山留め壁を補剛する山留め支保構造であって、
一方の腹起しの端面を、同一平面上で隣り合う他方の腹起しの側面に突き合わせることにより形成された出隅部に、隅部結合ピースが配置され、
該隅部結合ピースの両端部のうち、一端側に一方の前記腹起しとの間で生じる引張力に抵抗可能な引張抵抗結合構造が設けられるとともに、
他端側に、他方に前記腹起しとの間で生じる引張力及びせん断力に抵抗可能なせん断抵抗結合構造が設けられていることを特徴とする山留め支保構造。
【請求項2】
請求項1に記載の山留め支保構造において、
前記引張抵抗結合構造が、
一方の前記腹起しと前記隅部結合ピースの一端側とを挟締する挟締金具を備えることを特徴とする山留め支保構造。
【請求項3】
請求項1に記載の山留め支保構造において、
前記引張抵抗結合構造が、
前記隅部結合ピースの一端側に設けられた長孔と、
一方の前記腹起しに設けられた通し孔と、
該通し孔と前記長孔とを貫通する締結部材と、
を備えることを特徴とする山留め支保構造。
【請求項4】
請求項2に記載の山留め支保構造に用いられる隅部結合ピースであって、
一方の前記腹起しと他方の前記腹起しとの間に架け渡される台形形状の主材と、
該主材における長さ方向の一端側に固定され、前記挟締金具により一方の前記腹起しとともに挟締される引張抵抗用プレートと、
を備えることを特徴とする隅部結合ピース。
【請求項5】
請求項3に記載の山留め支保構造に用いられる隅部結合ピースであって、
一方の前記腹起しと他方の前記腹起しとの間に架け渡される台形形状の主材と、
該主材における長さ方向の一端側に固定され、前記長孔が形成された張抵抗用プレートと、
を備えることを特徴とする隅部結合ピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山留め壁を補剛する山留め支保構造、及び山留め支保構造に用いる隅部結合ピースに関する。
【背景技術】
【0002】
掘削領域を囲繞するように配置した山留め壁を補剛する支保工の一つに、切梁式支保工がある。切梁式支保工では、例えば、複数の腹起しを組み合わせて枠組みを形成するとともに、この枠組みの内側に切梁や火打ち材等を設置する。この状態で、腹起しよりなる枠組みの外側を山留め壁に当接させることで、周辺地盤から土圧が作用することにより山留め壁が掘削領域側へ変形する挙動を抑制している。
【0003】
このような切梁式支保工において、周辺地盤から山留め壁に過大な土圧が作用すると、腹起しよりなる枠組みの出隅部には大きな曲げモーメントを生じることが一般に知られている。このため、出隅部にはこれに耐えうる高い剛性を確保する必要が生じる。
【0004】
そこで、例えば図9で示すように、山留め壁51で囲まれた掘削領域50側に形成した腹起し52よりなる枠組みの出隅部53近傍に、平面視直角三角形状の隅角部ピース54と、隅部用火打ち梁55とを配置する場合が多い。このうち隅部用火打ち梁55は、火打ち主材551とその両端に設ける一対の火打ち受けピース552とを組立てることにより形成される。してみると、合計で4つの部材をボルト接合により出隅部53の近傍に取り付ける作業となるため、多大な手間を要していた。
【0005】
このような中、例えば特許文献1では、同一平面上で腹起しを突き合わせて結合した枠組みの出隅部近傍に、平面視台形状の隅部ピースをボルト接合し、出隅部を補剛する構成が開示されている。特許文献1の隅部ピースは、複数のH形鋼のフランジどうしを重ね合わせて溶接固着し一体化するとともに、この一体化したH形鋼の両側部各々に、腹起しとボルト接合するためのボルト孔を設けた取付面板を、溶接固着することにより形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭57-75036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の隅部ピースによれば、図9で示すような、隅角部ピース54と隅部用火打ち梁55とを配置する場合と比較して部材点数が減少するとともに、ボルト接合に係る作業も減少するため、作業の省力化を図ることが可能となる。
【0008】
ところが、土留めには任意の材料を採用できるため、設置精度が50~100mm程度と低いにもかかわらず、ボルト孔の誤差吸収容量は2~3mm程度であることが一般的である。このため、特許文献1の隅角部ピースを出隅部に配置した場合、その両側各々に設けたボルト孔と、これに対向する腹起しに設けたボルト孔との位置が合わず、腹起しと特許文献1の隅角部ピースとをボルト接合できない事態が生じやすい。
【0009】
また、特許文献1の隅角部ピースは前述したように、複数のH形鋼を溶接固着するとともに両端各々に取付面板を溶接固着して製作することから、その外径形状及び重量はいずれも大きくなりやすい。すると、施工現場への搬入作業や出隅部への設置作業が煩雑になりやすく、また、撤去作業も同様に多大な手間を要することになりかねない。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、簡素な構成で作業効率を向上することの可能な、山留め支保構造及び山留め支保構造に用いる隅部結合ピースを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するため、本発明の山留め支保構造は、山留め壁を補剛する山留め支保構造であって、一方の前記腹起しの端面を、同一平面上で隣り合う他方の腹起しの側面に突き合わせることにより形成された出隅部に、隅部結合ピースが配置され、該隅部結合ピースの両端部のうち、一端側に一方の前記腹起しとの間で生じる引張力に抵抗可能な引張抵抗結合構造が設けられるとともに、他端側に、他方に前記腹起しとの間で生じる引張力及びせん断力に抵抗可能なせん断抵抗結合構造が設けられていることを特徴とする。
【0012】
本発明の山留め支保構造によれば、隅部結合ピースの一端側と一方の腹起しとの間は引張抵抗結合構造を設ければよく、せん断力に抵抗する機構を省略できる。これにより、この引張抵抗結合構造を、出隅部に隅部結合ピースを設置する際の位置調整部として機能させることができる。
【0013】
したがって、一方の腹起しや他方の腹起しの配置位置に位置ズレが生じて、出隅部近傍に何らかの施工誤差が生じている場合にも、引張抵抗結合構造を利用して出隅部に対して隅部結合ピースを容易に設置できる。これにより、作業効率が大幅に向上し、山留め支保構造の構築全体に係る工期短縮及び工費削減に寄与することが可能となる。
【0014】
また、従来技術で採用していた隅部用火打ち梁55を省略できるため、山留め壁で囲繞され掘削領域に、作業空間を広く確保することが可能となる。これにより、山留壁内部で実施する躯体構築に係る一連の作業全体の生産性向上に寄与することが可能となる。
【0015】
本発明の山留め支保構造は、前記引張抵抗結合構造が、一方の前記腹起しと前記隅部結合ピースの一端側とを挟締する挟締金具を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の山留め支保構造によれば、一方の腹起しと隅部結合ピースの一端側とが挟締金具により挟締された簡素な構造となる。これにより、ボルト接合と比較して作業が簡略であるため、作業性が向上するとともに作業時間をより短縮することが可能となる。さらに、他方の腹起しと隅部結合ピースの他端側に設けるせん断抵抗結合構造にボルト接合を採用しても、隅部結合ピースの設置に必要となる全ボルト数を大幅に低減でき、経済的で工費削減に寄与することが可能となる。
【0017】
本発明の山留め支保構造は、前記引張抵抗結合構造が、前記隅部結合ピースの一端側に設けられた長孔と、一方の前記腹起しに設けられた通し孔と、該通し孔と前記長孔とを貫通する締結部材と、を備えることを特徴とする。
【0018】
本発明の山留め支保構造によれば、引張抵抗結合構造に、ボルトのような締結部材を採用する場合にも、隅部結合ピースの一端側に設ける長孔を位置調整部として機能させつつ、容易に隅部結合ピースの一端側と一方の腹起しとの間に引張抵抗結合構造を設けることが可能となる。
【0019】
本発明の隅部結合ピースは、本発明の山留め支保構造に用いる隅部結合ピースであって、一方の前記腹起しと他方の前記腹起しとの間に架け渡される台形形状の主材と、該主材における長さ方向の一端側に固定され、前記挟締金具により一方の前記腹起しとともに挟締される引張抵抗用プレートと、を備えることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の隅部結合ピースは、本発明の山留め支保構造に用いる隅部結合ピースであって、一方の前記腹起しと他方の前記腹起しとの間に架け渡される台形形状の主材と、該主材における長さ方向の一端側に固定され、前記長孔が形成された張抵抗用プレートと、を備えることを特徴とする。
【0021】
本発明の隅部結合ピースによれば、その構成が簡素であるだけでなく1体で、図9の従来技術で説明したような隅角部ピース54及び隅部用火打ち梁55を代用できるため、設置及び撤去時の搬出入に係る労力を低減でき、作業性を大幅に向上させることが可能となる。
【0022】
また、隅部結合ピースは、主材の長さを変えた複数種類を準備しておくことにより、出隅部に並列配置することもでき、山留め壁に作用する土圧に応じて必要な数量の隅部結合ピースを、適宜調整し設置することが可能となる。したがって、土圧に対応する専用の隅部結合ピースを予め製作する等の手間が不要となり、経済性及び施工性を向上することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、隣り合う腹起しにより形成される出隅部に隅部結合ピースを設けることにより山留め支保構造を簡素化できるとともに、山留め支保構造の構築全体に係る作業効率を向上でき、工期短縮及び工費削減に寄与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態における山留め支保構造の概略を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における隅部結合ピースの詳細を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における土圧が作用した際の山留め支保構造の挙動を示す図である(その1)。
図4】本発明の実施の形態における土圧が作用した際の山留め支保構造の挙動を示す図である(その2)。
図5】本発明の実施の形態における複数の隅部結合ピースを採用する場合の事例を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における山留め支保構造の重量及び使用ボルト数の試算に用いたモデルを示す図である。
図7】本発明の実施の形態における山留め支保構造の重量及び使用ボルト数の試算結果を示す図である。
図8】本発明の実施の形態における隅部結合ピースの他の事例を示す図である。
図9】出隅部に隅角部ピースと隅部用火打ち梁を用いた従来の切梁支保工を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、切梁式の山留め支保構造において、隣り合う腹起しどうしを同一平面上で突き合わせて形成した出隅部から、隅部用火打ち梁を省略し、山留支保構造の簡素化を図るものである。以下に、本発明における山留め支保構造、及び山留め支保構造に用いる隅部結合ピースを、図1図8を参照しつつ説明する。
【0026】
≪≪山留め支保構造≫≫
図1で示すように、掘削領域を囲繞するように設置した山留め壁Rを補剛する切梁式の山留め支保構造1は、一方の腹起し2と、その両端各々に突き合わされる他方の腹起し3と、切梁4と、隅部結合ピース6とを備えている。
【0027】
一方の腹起し2及び他方の腹起し3は、いずれもいわゆる山留主材によりなり、一方の腹起し2は、ウェブ21と一対のフランジ22とを備えたH形鋼と、その両端面各々に設置されたエンドプレート23とにより構成される。同様に、他方の腹起し3も、ウェブ31と一対のフランジ32とを備えたH形鋼と、その両端面各々に設置されたエンドプレート33とにより構成される。
【0028】
これら一方の腹起し2及び他方の腹起し3は、ウェブ21、31を水平にした状態で山留め壁Rの内壁面に沿って配置され、出隅部5を有する枠組みをなす。出隅部5は、一方の腹起し2の端面を他方の腹起し3の側面に突き当てることにより形成されている。つまり、一方の腹起し2のエンドプレート23を他方の腹起し3のフランジ32に突き当てている。
【0029】
しかし、一方の腹起し2と他方の腹起し3は同一平面上に位置していれば、必ずしも直接当接していなくてもよい。例えば図6(a)(b)で示すように、一方の腹起し2のエンドプレート23と他方の腹起し3のフランジ32との間に、ブロック材34を介装させたものであってもよい。
【0030】
また、図1では、一方の腹起し2のエンドプレート23と他方の腹起し3のフランジ32とをボルト24により結合しているが、これに限定されるものではない。両者が圧縮力を伝達可能に接している状態(いわゆるメタルタッチの状態)にあれば、ボルト24といったの結合部材を省略してもよい。
【0031】
このような一方の腹起し2と他方の腹起し3とを突き合わせて形成した枠組みは、その内側に設置される切梁4及び隅部結合ピース6とともに、山留め壁Rが内側へ変形する挙動を防止している。切梁4は、切梁支保工に一般に使用されているいずれの切梁材をも採用することができる。また、一方の腹起し2及び他方の腹起し3と山留め壁Rとの間には、コンクリートCを裏込め材として充填している。
【0032】
隅部結合ピース6は、一方の腹起し2及び他方の腹起し3により形成される出隅部5に設けられる部材である。以下に、その詳細を説明する。
【0033】
≪≪隅部結合ピース≫≫
図2(a)で示すように、隅部結合ピース6は、主材7、引張抵抗用プレート8、及びせん断抵抗用プレート9を備えている。
【0034】
主材7はH型鋼よりなり、出隅部5に収まるよう平面視形状が台形に形成され、ウェブ71を水平にした姿勢で配置される。主材7の両端部のうち、一方の腹起し2のフランジ22と対向する端部に引張抵抗用プレート8が設置され、他方の腹起し3のフランジ32と対向する端部に、せん断抵抗用プレート9が設置されている。
【0035】
引張抵抗用プレート8は、主材7の端面より大きい面積の鋼板により形成され、主材7のウェブ71を挟んだ上下にそれぞれ、複数の長孔81が形成されている。複数の長孔81は、隅部結合ピース6と一方の腹起し2とをボルト接合する際に用いるボルト孔として機能するもので、ウェブ71に沿って一列に等間隔で並んでおり、また、長孔81の長径もウェブ71に沿って延在している。
【0036】
せん断抵抗用プレート9も引張抵抗用プレート8と同様に、主材7の端面より大きい面積の鋼板により形成されている。そして、主材7のウェブ71を挟んだ上下に、それぞれ複数の丸孔91が形成されている。複数の丸孔91は、隅部結合ピース6と他方の腹起し3とをボルト接合する際に用いるボルト孔として機能する。
【0037】
上記の隅部結合ピース6は、図1で示すように出隅部5に配置されて、引張抵抗用プレート8が設けられた一端側62と、一方の腹起し2との間に引張抵抗結合構造12が設けられる。また、せん断抵抗用プレート9が設けられた他端側63と、他方の腹起し3との間にせん断抵抗結合構造13が設けられる。
【0038】
≪≪引張抵抗結合構造12≫≫
以下に、引張抵抗結合構造12、及びせん断抵抗結合構造13について、その詳細を説明する。
【0039】
図3(a)で示すように、周辺地盤から山留め壁Rに土圧Pが作用すると、一方の腹起し2及び他方の腹起し3はそれぞれ、次のような挙動を示す。
【0040】
一方の腹起し2は、図3(b)で示すように、長手方向の中間部が掘削領域側に移動し、他方の腹起し3と当接する側の端部近傍が地山側に移動するような変形挙動をそれぞれ示す。つまり、一方の腹起し2はその端部近傍において、隅部結合ピース6の一端側62との結合部に概ね引張り力のみが作用する態様となる。
【0041】
したがって、一方の腹起し2と隅部結合ピース6の一端側62との間には、引張り力に抵抗可能な結合構造である引張抵抗結合構造12を設ければよく、せん断力に抵抗する機構は省略できる。引張抵抗結合構造12は、図2(a)で示すような引張抵抗用プレート8に設けた長孔81よりなるボルト孔と一方の腹起し2のフランジ22に設けた通し孔25よりなるボルト孔にボルト82を挿通したボルト接合による連結構造である。
【0042】
≪≪せん断抵抗結合構造13≫≫
他方の腹起し3は、図3(a)で示すように、端部近傍の側面が一方の腹起し2の端面に当接している。
【0043】
このため、土圧Pが作用すると図3(b)で示すように、他方の腹起し3は端部近傍を拘束された状態で、長手方向の中間部が掘削領域側に移動するような変形挙動を示す。つまり、他方の腹起し3と隅部結合ピース6の他端側63との結合部にせん断力と引張り力が作用する態様となる。
【0044】
したがって、他方の腹起し3と隅部結合ピース6の他端側63との間には、引張り力とせん断力に抵抗可能な結合構造であるせん断抵抗結合構造13を設け、両者を連結している。せん断抵抗結合構造13は、図2(a)で示すように、せん断抵抗用プレート9に設けた丸孔91よりなるボルト孔と、他方の腹起し3のフランジ32に設けた通し孔35よりなるボルト孔にボルト92を挿通したボルト接合による連結構造である。
【0045】
上記の引張抵抗結合構造12とせん断抵抗結合構造13とを備える山留め支保構造1は、その施工手順として、まず、隅部結合ピース6の他端側63と他方の腹起し3との間にせん断抵抗結合構造13を組立てる。こののち、隅部結合ピース6の一端側62と一方の腹起し2との間に引張抵抗結合構造12を組み立て、隅部結合ピース6を出隅部5に設置すると良い。
【0046】
こうすると、上記の引張抵抗結合構造12を位置調整部として機能させることができる。つまり、一方の腹起し2や他方の腹起し3の配置位置に位置ズレが生じている場合に、先行して他方の腹起し3に連結した隅部結合ピース6の一端側62と、一方の腹起し2との間で、位置ズレにともない生じる可能性のある出隅部5近傍の施工誤差を包含しながら、引張抵抗結合構造12を設けることができる。
【0047】
具体的には、引張抵抗用プレート8に設けた長孔81を位置調整部として機能させ、一方の腹起し2のフランジ22に設けた通し孔25と長孔81の位置合わせを行って、ボルト82を挿通し、ボルト接合する。これにより、出隅部5に隅部結合ピース6を設ける際の作業効率が大幅に向上し、山留め支保構造1の構築全体に係る工期短縮及び工費削減に寄与できる。
【0048】
また、図9で示したような、従来技術で採用していた隅部用火打ち梁55を省略できるため、山留め壁Rで囲繞され掘削領域に、作業空間を広く確保することが可能となる。これにより、山留め壁Rの内部で実施する躯体構築に係る一連の作業全体の生産性向上に寄与することが可能となる。
【0049】
上記のとおり、引張抵抗結合構造12は、一方の腹起し2と隅部結合ピース6の一端側62との間で生じる引張り力に抵抗可能な構成を有していれば、いずれの手段を採用してもよく、せん断力に抵抗する機構を省略できる。また、せん断抵抗結合構造13も、他方の腹起し3と隅部結合ピース6の他端側との間で生じる引張り力及びせん断力に抵抗可能な構成を有していれば、いずれの手段を採用してもよい。
【0050】
≪≪引張抵抗結合構造12の他の実施の形態≫≫
例えば、引張抵抗結合構造12は図2(b)で示すように、ブルマン(登録商標)等の挟締金具83を用いて、隅部結合ピース6の引張抵抗用プレート8と一方の腹起し2のフランジ22とを挟締する構造としてもよい。
【0051】
挟締金具83による挟締は、ボルト接合と比較して作業が簡略であるため、隅部結合ピース6を一方の腹起し2に連結する際の作業性が向上し、作業時間を短縮することが可能となる。また、他方の腹起し3と隅部結合ピース6の他端側63に設けるせん断抵抗結合構造13にボルト接合を採用しても、出隅部5に隅部結合ピース6を設置するために必要となる全ボルト数を大幅に削減でき、経済的で工費削減に寄与することも可能となる。
【0052】
≪≪山留め支保構造1の他の事例≫≫
また、山留め支保構造1において、出隅部5への隅部結合ピース6の設置は、図3(a)で示すように、1体のみを配置してもよいし、図4(a)で示すように、主材7の長さを変えた複数種類の隅部結合ピース6を予め準備しておき、複数本を並列配置してもよい。
【0053】
こうすると、山留め壁Rに作用する土圧Pに応じて、必要な数量の隅部結合ピース6を適宜調整し設置することが可能となる。したがって、土圧Pに対応する専用の隅部結合ピース6を予め製作する等の手間が不要となり、経済性及び施工性を向上することが可能となる。なお、図4(a)では、3体の隅部結合ピース6を並列配置する事例を示しているが、その数量はこれに限定されるものではない。
【0054】
また、隅部結合ピース6を複数配置する場合には、必ずしも連結していなくてもよい。これは、隅部結合ピース6が、一方の腹起し2と他方の腹起し3に固定されているため、隅部結合ピース6間でずれが生じないことによる。
【0055】
しかし、軸力によるたわみに起因して、隣り合う隅部結合ピース6が離れようとする挙動を示すこともあるため、図5で示すように、少なくとも引張り力に抵抗可能な連結手段61を使用して、これらを連結してもよい。
【0056】
これにより、隣り合う隅部結合ピース6を連結手段61により連結した場合、この連結手段61には、概ね引張り力のみが作用する態様となるためである。したがって、連結手段61としては、例えば、図5で示すように、隅部結合ピース6を構成する主材7のフランジ72にボルト孔721を設けておき、対向するボルト孔721にボルトを挿通したボルト接合を採用するとよい。もしくは、引張抵抗結合構造12で用いたものと同様の挟締金具83を、連結手段61として採用してもよい。
【0057】
上記の隅部結合ピース6及び隅部結合ピース6を用いた山留め支保構造1によれば、引張抵抗結合構造12を、一方の腹起し2と他方の腹起し3とにより形成される出隅部5に隅部結合ピース6を設置する際の、位置調整部として機能させることができる。したがって、出隅部5に隅部結合ピース6を設ける際の作業効率が大幅に向上することに伴い、山留め支保構造1の構築全体に係る工期短縮及び工費削減に寄与することが可能となる。
【0058】
また、隅部結合ピース6を用いた山留め支保構造1は、従来技術として図9で示したような、隅角部ピース54や隅部用火打ち梁55を用いる場合と比較して、出隅部5に配置する部材点数を低減できるだけでなく、一方の腹起し2及び他方の腹起し3に設置する際に必要となるボルト数を大幅に低減することが可能となる。
【0059】
これにより、作業数量が減少するとともに採用する部材の総重量も減少するため、作業効率が大幅に向上し、工期短縮及び工費削減に寄与することが可能となる。以下に、出隅部5に、隅部結合ピース6を採用した場合の部材重量及びボルト数を試算した例を示す。
【0060】
≪≪山留め支保構造1の重量及び使用ボルト数の試算≫≫
まず、図6(a)に比較例として、隅角部ピース54及び隅部用火打ち梁55を用いた山留め支保構造1’を示す。この比較例では、平面視で略長方形の掘削領域を山留め壁Rで囲繞し、山留め壁Rの内壁面に沿わせて同一平面上に一方の腹起し2及び他方の腹起し3を配置する。
【0061】
これら一方の腹起し2及び他方の腹起し3をブロック材34を介して突き合わせ、出隅部5を形成する。構造計算を行ったところ、切梁が不要であることからこれを設けず、4か所の出隅部5各々に隅角部ピース54及び隅部用火打ち梁55を設置し、山留め支保構造1’を設けている。
【0062】
上記の比較例では、図7(b)で示すように、一方の腹起し2及び他方の腹起し3にH-350の山留主材を、隅部用火打ち梁55の火打ち主材551にH-300×300のH形鋼を、それぞれ採用している。これにより、一方の腹起し2及び他方の腹起し3の全体重量(それぞれ2本ずつ合計で4本分)が3390kg、反力抵抗部材の全体重量(隅角部ピース54及び隅部用火打ち梁55各々4個分の合計重量)が1720kgとなっている。
【0063】
つまり、これらの合計5110kgが山留め支保構造1’の重量となる。また、反力抵抗部材(隅角部ピース54及び隅部用火打ち梁55)を4か所の出隅部5各々に設置するにあたり、必要となるボルト数が合計168本であった。さらに、図7(a)を見ると、妻部スパンが約6.9mであり、支保工反力50kN/mを負担している様子がわかる。
【0064】
一方、図6(b)に、隅部結合ピース6を用いた山留め支保構造1について実施例1を示す。実施例1の山留め支保構造1では、比較例と同様の条件で形成した4か所の出隅部5に、隅角部ピース54及び隅部用火打ち梁55に代えて隅部結合ピース6を設置している。
【0065】
そして、実施例1では図7(b)で示すように、一方の腹起し2及び他方の腹起し3にH-350の山留主材を、隅部結合ピース6の主材7にH-600×350のH形鋼をそれぞれ採用している。これにより、一方の腹起し2及び他方の腹起し3の全体重量(それぞれ2本ずつ合計で4本分)が3390kg、反力抵抗部材の全体重量(隅部結合ピース6を4個分の合計重量)が1400kgとなっている。
【0066】
したがって、合計で4790kgが実施例1の山留め支保構造1の重量となる。また、反力抵抗部材(隅部結合ピース6)を4か所の出隅部5各々に設置するにあたり、必要となるボルト数が合計80本であった。さらに、図7(a)を見ると、妻部スパンが約6.9mの場合支保工反力が約150kN/mと、比較例の約50kN/mを大きく上回っている様子がわかる。
【0067】
これにより、比較例の山留め支保構造1に代えて、隅部結合ピース6を用いた実施例1の山留め支保構造1を採用すると、全体重量を約320kg軽量化できるとともに、使用するボルト数を半分以下に低減することが可能となる。
【0068】
したがって、設置及び撤去時の搬出入に係る労力を低減できるとともに、ボルト締結作業を低減できるため、作業性を大幅に向上させることが可能となる。また、比較例の山留め支保構造1’と比較して、山留め壁で囲繞され掘削領域に、作業空間を広く確保することが可能となる。これにより、山留壁内部で実施する躯体構築に係る一連の作業全体の生産性向上に寄与することが可能となる。
【0069】
なお、実施例1の山留め支保構造1では、負担できる支保工反力が約150kN/mと比較例の50kN/mに対して十分な余裕がある。そこで、一方の腹起し2及び他方の腹起し3及び隅部結合ピース6のサイズダウンを図った実施例2について、実施例1の山留め支保構造1と同様の検討を行った。
【0070】
実施例2では図7(b)で示すように、一方の腹起し2及び他方の腹起し3にH-300の山留主材を、隅部結合ピース6の主材7にH-600×300のH形鋼をそれぞれ採用した。これにより、一方の腹起し2及び他方の腹起し3の全体重量(それぞれ2本ずつ合計で4本分)が2280kg、反力抵抗部材の全体重量(隅部結合ピース6を4個分の合計重量)が1020kgとなっている。
【0071】
つまり、合計3300kgが実施例2の山留め支保構造1の重量となる。このとき、図7(a)を見ると、妻部スパンが約6.9mの場合に支保工反力が約100kN/mと、実施例1より小さいものの比較例の約50kN/mを上回っている様子がわかる。これは、部結合ピース6を用いることで比較例より、一方の腹起し2及び他方の腹起し3により形成される出隅部5の固定度が改善し、一方の腹起し2及び他方の腹起し3はともに、スパン中央の曲げモーメントが大きく減少するため、耐えることのできる支保工反力が大きくなったことによる。また、反力抵抗部材(隅部結合ピース6)を4か所の出隅部5各々に設置するにあたり、必要となるボルト数は合計80本と実施例1と同様である。
【0072】
これにより、比較例の山留め支保構造1’に代えて、隅部結合ピース6を用いた山留め支保構造1を採用すると、実施例2のように、一方の腹起し2及び他方の腹起し3のサイズダウンを図ることも可能となる。したがって、山留め支保構造1に係る材料費を大幅に低減でき、さらなる工費削減に寄与することが可能となる。
【0073】
本発明の山留め支保構造1及び隅部結合ピース6は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0074】
例えば、本実施の形態では、隅部結合ピース6の主材7にH形鋼を採用しているが、必ずしもこれに限定するものではない。例えば、図8(a)で示すような、トラス材等の横架材として一般に採用されている材料を適宜、主材7として採用することができる。なお、図8(a)は、主材7としてトラス材を適用した隅部結合ピース6について、長さの異なる3種類を準備し、これを並列配置して連結手段61で連結する事例を示したものである。
【0075】
また、本実施の形態では、図2で示すように、1体の隅部結合ピース6に対して1本の主材7を設ける場合を事例に挙げたが、例えば、図8(b)で示すように、1体の隅部結合ピース6に対して複数本の主材7を並列配置する構成としてもよい。この場合に、複数の主材7は、相互に接していてもよいし、間隔を設けて配置されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 山留め支保構造
1’ 山留め支保構造(比較例)
12 引張抵抗結合構造
13 せん断抵抗結合構造
2 一方の腹起し
21 ウェブ
22 フランジ
23 エンドプレート
24 ボルト
25 通し孔
3 他方の腹起し
31 ウェブ
32 フランジ
33 エンドプレート
34 ブロック材
35 通し孔
4 切梁
5 出隅部
6 隅部結合ピース
61 連結手段
62 一端側
63 他端側
7 主材
71 ウェブ
72 フランジ
721 ボルト孔
8 引張抵抗用プレート
81 長孔
82 ボルト
83 挟締金具
9 せん断抵抗用プレート
91 丸孔
92 ボルト
P 土圧
R 山留め壁
C コンクリート
50 掘削領域
51 山留め壁
52 腹起し
53 出隅部
54 隅角部ピース
55 隅部用火打ち梁
551 火打ち主材
552 火打ち受けピース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9