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特開2023-21488導電性ナノ薄膜とそれを用いた誘電エラストマーアクチュエータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021488
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】導電性ナノ薄膜とそれを用いた誘電エラストマーアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20230207BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20230207BHJP
   B32B 25/02 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B7/025
B32B25/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126376
(22)【出願日】2021-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 俊宣
(72)【発明者】
【氏名】堀井 辰衛
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA37B
4F100AD11B
4F100AL01A
4F100AL09A
4F100BA08
4F100CA21A
4F100EC152
4F100EC202
4F100EH112
4F100EH462
4F100EJ912
4F100GB51
4F100GB61
4F100GB90
4F100JG01
4F100JK17
4F100JM02
(57)【要約】
【課題】導電性を確保しつつ柔軟性に優れ、厚み方向及び面方向への伸縮と、身体曲面や形状変形への追従性が良好な導電性ナノ薄膜とそれを用いた誘電エラストマーアクチュエータを提供する。
【解決手段】本発明の導電性ナノ薄膜は、エラストマー層と、その少なくとも一方の面に積層されたカーボンナノチューブ層とを含み、膜厚が1000nm未満である。本発明の誘電エラストマーアクチュエータは、前記導電性ナノ薄膜を電極として備える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー層と、その少なくとも一方の面に積層されたカーボンナノチューブ層とを含み、膜厚が1000nm未満である導電性ナノ薄膜。
【請求項2】
ヤング率が50MPa以上200MPa以下である請求項1に記載の導電性ナノ薄膜。
【請求項3】
前記エラストマー層の厚みT1に対する前記カーボンナノチューブ層の厚みT2の比が0.01以上1.85以下である請求項1又は2に記載の導電性ナノ薄膜。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブである請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性ナノ薄膜。
【請求項5】
自己支持性である請求項1~4のいずれか一項に記載の導電性ナノ薄膜。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の導電性ナノ薄膜を電極として備える誘電エラストマーアクチュエータ。
【請求項7】
1枚以上の前記導電性ナノ薄膜と、1枚以上のエラストマー基材とが交互に積層された積層体である請求項6に記載の誘電エラストマーアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ナノ薄膜とそれを用いた誘電エラストマーアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒトの感覚受容体に機械刺激を与えることで感触を提示、又は物体への接触を検出する触覚デバイスの装着型デバイスへの展開に関した研究について多数報告されている。一般に、これらのデバイスは皮膚よりも硬質で厚い基板や固定治具を用いることから身体曲面や形状変形への追従性が低く、デバイスの曲げ剛性の減少、すなわち柔軟性の向上による曲面への追従性の向上が急務である。
【0003】
もし、自己支持性を有する電極膜として曲げ剛性の小さな導電性超薄膜を作製できれば、身体曲面への追従性が高く、且つ拘束感の少ない装着型生体デバイスを実現することができる。
【0004】
誘電エラストマーアクチュエータ(Dielectric Elastomer Actuetor:DEA)は、素材としてゴム状の高分子(エラストマー)を使用した技術で、エラストマーを伸び縮み可能な電極で挟んだシンプルな構造で、上下の電位差を与えることで発生する静電力(クーロン力)によって両方の電極が引き合い、その結果エラストマーが厚み方向に収縮し、面方向に伸長する。人工筋肉として使用したロボット等のデバイス、センサー、発電への応用が検討されている(非特許文献1~3)。
【0005】
非特許文献2は、導電性高分子(ポリチオフェン)と多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の混合液を用いて、Langmuir-Schaefer法による分子層を膜厚1.4μmのポリジメチルシロキサン(PDMS)シート表面に形成した導電性薄膜を開示している。
【0006】
非特許文献3は、化学修飾した単層カーボンナノチューブを用いて、Langmuir-Schaefer法による分子層を膜厚6.5μmのPDMSシート表面に形成した導電性薄膜を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of the Japan Society for Precision Engineering Vol.80, No.8, 713-717(2014).
【非特許文献2】X. Ji et al., Sensors and Actuators B 261 135-143(2018).
【非特許文献3】Ji et al., Sci. Robot. 4, eaaz6451(2019).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献2のように電極膜に導電性高分子を用いると柔軟性が低下し、PDMSによる厚み方向及び面方向への伸縮が制限され、身体曲面や形状変形への追従性が低下するという課題がある。非特許文献3のようにPDMSがミクロンスケールの厚い膜であると、同様に柔軟性において更に改良すべき課題があった。特に、誘電エラストマーアクチュエータへの応用に際して、良好な導電性を確保しつつ柔軟性に優れた導電性ナノ薄膜が望まれていた。
【0009】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、導電性を確保しつつ柔軟性に優れ、厚み方向及び面方向への伸縮と、身体曲面や形状変形への追従性が良好な導電性ナノ薄膜とそれを用いた誘電エラストマーアクチュエータを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討した結果、厚みがナノスケールのエラストマーシートに導電層としてカーボンナノチューブ層の形成を試みたところ、自己支持性を有することを確認し、そのような膜厚が1000nm未満である導電性ナノ薄膜が、良好な導電性を確保しつつ柔軟性に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。例えば、誘電エラストマーアクチュエータとして使用したときに、印加電圧に対する変位と収縮率が大きく、低電圧での駆動が可能である。
【0011】
すなわち、以下の発明を開示する。
[1] エラストマー層と、その少なくとも一方の面に積層されたカーボンナノチューブ層とを含み、膜厚が1000nm未満である導電性ナノ薄膜。
[2] ヤング率が50MPa以上200MPa以下である前記[1]の導電性ナノ薄膜。
【0012】
[3] 前記エラストマー層の厚みT1に対する前記カーボンナノチューブ層の厚みT2の比が0.01以上1.85以下である前記[1]又は[2]の導電性ナノ薄膜。
[4] 前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブである前記[1]~[3]のいずれか一つの導電性ナノ薄膜。
[5] 自己支持性である前記[1]~[4]のいずれか一つの導電性ナノ薄膜。
[6] 前記[1]~[5]のいずれか一つの導電性ナノ薄膜を電極として備える誘電エラストマーアクチュエータ。
[7] 1枚以上の前記導電性ナノ薄膜と、1枚以上のエラストマー基材とが交互に積層された積層体である前記[6]の誘電エラストマーアクチュエータ。
【発明の効果】
【0013】
本発明の導電性ナノ薄膜によれば、エラストマー層に導電層としてカーボンナノチューブ層を適用することで、導電性を確保しつつ柔軟性に優れ、厚み方向及び面方向への伸縮と、身体曲面や形状変形への追従性が良好である。
本発明の誘電エラストマーアクチュエータは、前記導電性薄膜と誘電層との積層により、低電圧での駆動が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】テープフレーム付きの自己支持性を持つナノ薄膜の写真であり、(a)はSBSシート、(b)はSWCNT-SBSシートである。
図2】曲げ試験において(a)SWCNT-SBSナノ薄膜を貼付した手首を伸ばした状態、(b)手首を曲げた状態、(c)貼付した部分の各写真と、(d)曲げサイクル数に対する抵抗率の依存性を示すグラフである。
図3】(a)前腕に接続したSWCNT-SBSナノ薄膜の写真と(b)SWCNT-SBSナノ薄膜を用いたsEMG測定の結果である。
図4】SWCNT-SBSナノ薄膜におけるSWCNT層の厚みに対するヤング率及びシート抵抗値の依存性を示すグラフである。
図5】SWCNT-SBSナノ薄膜を用いた積層型誘電エラストマーアクチュエータの概略構成を示した図であり、顕微鏡を用いた変位測定のスキームと共に示している。
図6】厚みが異なるSWCNT-SBSナノ薄膜を用いた積層型誘電エラストマーアクチュエータの変位と収縮ひずみの印加電圧に対する依存性を示すグラフである。
図7】(a)SWCNT-SBSナノ薄膜を用いた積層型誘電エラストマーアクチュエータと、(b)これを人差し指に取り付けた状態を示す写真である。
図8】厚みが異なるPDMS層を用いた積層型誘電エラストマーアクチュエータの変位と収縮ひずみの印加電圧に対する依存性を示すグラフである。
図9】積層型誘電エラストマーアクチュエータにおけるPDMS層の厚みに対する、変位約8μmでの印加電圧の依存性を示すグラフである。
図10】基板剛性が異なる積層型誘電エラストマーアクチュエータの変位と収縮ひずみの印加電圧に対する依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の具体的な実施形態を説明する。
【0016】
なお、本発明において導電性ナノ薄膜の膜厚、及びカーボンナノチューブ層、エラストマー層の厚みは、断面プロファイラー等の測定機器を用いて、支持基盤と測定対象膜との段差により決定した平均値が考慮される。
【0017】
本発明の導電性ナノ薄膜は、エラストマー層と、その少なくとも一方の面に積層されたカーボンナノチューブ層とを含む。
【0018】
本発明の導電性ナノ薄膜は、膜厚が1000nm未満である。好ましくは800nm以下、より好ましくは700nm以下、更に好ましくは600nm以下、特に好ましくは500nm以下、最も好ましくは200nm以下である。膜厚の下限は特に限定されないが、好ましくは50nm以上である。膜厚が小さいと柔軟性に優れ、厚み方向及び面方向への伸縮と、身体曲面や形状変形への追従性が良好である。膜厚が適度にあると自己支持性となり、強度も確保できる。
【0019】
本発明の導電性ナノ薄膜におけるエラストマー層の材料は、特に限定されない。弾性を持った高分子、例えば熱可塑性又は熱硬化性のエラストマーが使用できる。
【0020】
具体的には、例えば、スチレン系エラストマー、シリコーン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アクリル系エラストマー、ゴム変性したエポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
スチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS、SISの水添物)、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体(SEP、スチレン-イソプレンブロック共重合体の水添物)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)等が挙げられる。
【0022】
シリコーン系エラストマーは、オルガノポリシロキサンを主成分としたもので、例えば、ポリジメチルシロキサン系、ポリメチルフェニルシロキサン系、ポリジフェニルシロキサン系等が挙げられる。一部をビニル基、アルコキシ基等で変性したものであってもよい。オルガノポリシロキサンの薄膜は、例えば、シロキサン化合物を含有する主剤を、硬化剤で処理して重合及び/又は架橋させることにより得られる。硬化剤は、主剤の主たる反応性基の種類に応じて、主剤がヒドロシリル基を主たる反応性基として有する場合はアルケニル基を有する化合物が、アルケニル基を主たる反応性基として有する場合はヒドロシリル基を有する化合物が硬化剤として使用できる。
【0023】
オレフィン系エラストマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-ペンテン等の炭素数2~20のα-オレフィンの共重合体等が挙げられる。その具体例としては、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ブタジエン、イソプレン等の炭素数2~20の非共役ジエンとα-オレフィンとの共重合体、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体にメタクリル酸を共重合したカルボキシ変性NBR等が挙げられる。
【0024】
ウレタン系エラストマーは、例えば、低分子のグリコールとジイソシアネートとからなるハードセグメントと、高分子(長鎖)ジオールとジイソシアネートとからなるソフトセグメントとの構造単位からなるもの等が挙げられる。
【0025】
ポリエステル系エラストマーとしては、例えば、ジカルボン酸又はその誘導体及びジオール化合物又はその誘導体を重縮合して得られるもの、特に、ポリエステル構造とポリエーテル構造とを共重合させたもの等が挙げられる。
【0026】
ポリアミド系エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントにポリアミドを、ソフトセグメントにポリエーテルやポリエステルを用いたポリエーテルブロックアミド型、ポリエーテルエステルブロックアミド型等が挙げられる。
【0027】
アクリル系エラストマーは、アクリル酸エステルを主成分とし、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート等が用いられる。また、架橋点モノマーとして、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等を用いることができる。更に、アクリロニトリルやエチレンを共重合することもできる。具体的には、アクリロニトリル-ブチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル-ブチルアクリレート-エチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル-ブチルアクリレート-グリシジルメタクリレート共重合体等が挙げられる。
【0028】
ゴム変性したエポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂あるいはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂の一部又は全部のエポキシ基を両末端カルボン酸変性型ブタジエン-アクリロニトリルゴム、末端アミノ変性シリコーンゴム等で変性することによって得られるもの等が挙げられる。
これらの中でも、スチレン系エラストマー、シリコーン系エラストマーを好ましく使用できる。
【0029】
エラストマー層には、本発明の効果を損なわない範囲内で、公知の添加剤等のその他の成分を含有してもよい。公知の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐候安定剤、熱安定化剤、滑剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、着色剤、界面活性剤、充填剤等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
エラストマー層の厚みは、導電性ナノ薄膜の全膜厚やカーボンナノチューブ層の厚みにもよるが、好ましくは750nm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは200nm以下である。また、好ましくは30nm以上である。厚みが小さいと柔軟性に優れ、厚み方向及び面方向への伸縮と、身体曲面や形状変形への追従性が良好である。厚みが適度にあると自己支持性となり、強度も確保できる。
【0031】
本発明の導電性ナノ薄膜において、カーボンナノチューブ層は、導電性を有する層となり、電極膜等として機能する。カーボンナノチューブ層を構成する材料としては、グラフェンシートが1枚の構造である単層カーボンナノチューブ(SWCNT:Single Wall Carbon Nanotube)や、多層のグラフェンシートから構成されている多層カーボンナノチューブ(MWCNT:Maluti Wall Carbon Nanotube)、フラーレンチューブ、バッキーチューブ、グラファイトフィブリル等が挙げられる。これらは溶媒への親和性を高める等のために化学修飾したものであってもよく、金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブの混合物からいずれかを濃縮したものであってもよい。
【0032】
これらの中でも、導電性ナノ薄膜の柔軟性に優れ、厚み方向及び面方向への伸縮と、身体曲面や形状変形への追従性が良好である点で、単層カーボンナノチューブが好ましく使用できる。
カーボンナノチューブ層には、本発明の効果を損なわない範囲内で、カーボンナノチューブの分散剤等のその他の成分を含有してもよい。
【0033】
カーボンナノチューブ層の厚みは、導電性ナノ薄膜の全膜厚やエラストマー層の厚みにもよるが、好ましくは250nm以下、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下である。また、好ましくは10nm以上である。なおカーボンナノチューブ層がエラストマー層の両面に積層される場合、ここでの厚みは両面のカーボンナノチューブ層を合わせた合計である。厚みが小さいと柔軟性に優れ、厚み方向及び面方向への伸縮と、身体曲面や形状変形への追従性が良好である。厚みが適度にあると導電性も確保できる。
【0034】
本発明の導電性ナノ薄膜は、ヤング率が好ましくは50MPa以上200MPa以下である。ヤング率がこの範囲であると柔軟性に優れ、厚み方向及び面方向への伸縮と、身体曲面や形状変形への追従性が良好である。
【0035】
本発明の導電性ナノ薄膜は、エラストマー層の厚みT1に対するカーボンナノチューブ層の厚みT2の比が好ましくは0.01以上1.85以下、より好ましくは0.05以上1.85以下である。なおカーボンナノチューブ層がエラストマー層の両面に積層される場合、ここでのカーボンナノチューブ層の厚みは両面のカーボンナノチューブ層を合わせた合計である。当該比が小さいと柔軟性に優れ、厚み方向及び面方向への伸縮と、身体曲面や形状変形への追従性が良好である。当該比が適度に大きいと導電性も確保できる。
【0036】
本発明の導電性ナノ薄膜は、そのシート形状やサイズは特に限定されない。使用目的、例えば生体貼付型電極、触覚デバイス等の装着型生体デバイス、誘電エラストマーアクチュエータ等に応じたものとしてよい。カーボンナノチューブ層は、エラストマー層の面内に部分的に形成したものであってもよく、例えば、エラストマー層の面内にカーボンナノチューブ層をパターニングしたものであってもよい。
【0037】
本発明の導電性ナノ薄膜は、その製造方法は特に限定されないが、例えば、グラビアコーターを用いたロール・トゥ・ロール法等の公知の製膜方法を用いて製造することができる。例えば、グラビアコーターを用いて、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に犠牲層となる第1層目のポリビニルアルコール(PVA)の水溶液を塗布した後、乾燥してPVA層を製膜する。次に、このPVA層上にエラストマー層となる溶液、例えば、SBSのテトラヒドロフラン溶液を用いて塗布し乾燥して第2層目を積層する。これにより、第1層と第2層とが積層した積層膜を作製する。更に、カーボンナノチューブ層となる溶液、例えば、SWCNTの水分散液を用いて塗布し乾燥して第3層目を積層する。これにより、第1層と第2層と第3層とが積層した積層膜を作製する。そして、第3層目が製膜された面に紙テープを必要な形状を縁取るように貼付し、縁から剥離することで、第1層と第2層と第3層とを含んだ3層膜を紙テープに保持された状態でPETフィルムから剥離する。得られた紙テープにて保持された3層膜を、純水上にPVA面が接するように浮遊させることで、第1層目のPVA層のみを溶解し、紙テープに保持されたエラストマー層とカーボンナノチューブ層とからなる導電性ナノ薄膜を得ることができる。この導電性ナノ薄膜が保持された紙テープを所望の形に切り出して使用し、必要に応じて別途の基材に貼付してもよい。
【0038】
本発明の導電性ナノ薄膜は、自己支持性であり、エラストマー層に導電層としてカーボンナノチューブ層を適用することで、良好な導電性を確保しつつ柔軟性に優れた導電性ナノ薄膜が得られる。従って、生体貼付型電極、触覚デバイス等の装着型生体デバイス、誘電エラストマーアクチュエータやそれを用いた人工筋肉、ロボット、ソフトロボティクス技術等に好適に使用できる。
【0039】
本発明の誘電エラストマーアクチュエータは、以上に説明した導電性ナノ薄膜を電極として備えている。誘電エラストマーアクチュエータは、少なくとも1枚のエラストマー基材と、このエラストマー基材を挟んだ少なくとも1対の電極膜とを備えている。少なくとも1つの電極膜として、伸縮可能な本発明の導電性ナノ薄膜を用いる。
【0040】
本発明の誘電エラストマーアクチュエータは、エラストマー基材を挟んだ電極膜に電圧を印加し、上下の電位差を与えることで発生する静電力(クーロン力)によって両方の電極膜が引き合い、その結果エラストマー基材が厚み方向に収縮し、面方向に伸長する。
【0041】
エラストマー基材は、シート状であり、その材料としては特に限定されないが、例えば、導電性ナノ薄膜のエラストマー層として例示したもの等が挙げられる。その中でも、シリコーン系エラストマーが好ましく使用できる。
【0042】
エラストマー基材の厚みは、電極膜と交互に積層した積層数等にもより特に限定されないが、好ましくは1~1000μm、より好ましくは10~300μmである。
【0043】
好ましい実施形態において、誘電エラストマーアクチュエータは、1枚以上の本発明の導電性ナノ薄膜と、1枚以上のエラストマー基材とが交互に積層された積層体である。この積層体は、柔軟で身体曲面への親和性が高く、かつ低電圧での駆動が可能である。
【0044】
この積層体は、例えば、本発明の導電性薄膜と、誘電層であるエラストマー基材とを乾式で交互に積層することにより製造できる。積層数は、特に限定されないが、本発明の導電性薄膜とエラストマー基材とを各1枚ずつ積層したものを単位とした場合、好ましくは1~1000層、より好ましくは4~50層である。
【0045】
本発明の誘電エラストマーアクチュエータは、基板上に積層してもよい。基板としては、ガラス等の硬質な基板や、エラストマー等の軟質な基板を用いることができる。軟質な基板を用いると、基板に接するアクチュエータ駆動領域(電極重なり領域)の拘束が減少し、基板に接する、あるいは近い層の面内方向への変形が抑制され、結果として膜厚方向への変位量が減少する。これにより、より低電圧での駆動が可能となる。
【0046】
本発明の誘電エラストマーアクチュエータは、電極膜に電圧を印加することにより形状を変化させることができる。電圧の印加は、直流等の電源を用いて行うことができる。電源は、電圧の大きさを変調させるものであってもよく、そのように電圧を制御する手段を備えていてもよい。誘電エラストマーアクチュエータの電極膜と電源との電気的な接続の方法は、特に限定されないが、本発明の導電性ナノ薄膜とエラストマー基材とが交互に積層された積層体である場合には、例えば、隣接する導電性ナノ薄膜における一方を一端方向に延出させ、他方を反対側方向に延出させるようにして、それぞれ延出させた部分を導電性の半固体材料等で配線に接続することで、一方を陽極端子へ、他方を陰極端子へ接続することができる。
印加電圧は、特に限定されないが、一例としては、400~5000Vの範囲である。
【0047】
図5は、本発明の誘電エラストマーアクチュエータの一例の概略的な構成を示す。この誘電エラストマーアクチュエータ(積層型DEA1)は、複数枚の本発明の導電性ナノ薄膜2と、複数枚の以上のエラストマー基材(シリコーンゴムシート3)とが交互に積層された積層体である。積層型DEA1は、ガラス基板4の上に設けられている。隣接する導電性ナノ薄膜2,2,…における一方を一端方向に延出させ、延出させた部分を電極5aとして導電性の半固体材料で配線に接続し、配線を介して電源6の陽極端子へ接続している。また隣接する導電性ナノ薄膜2,2,…における他方を一端方向に延出させ、延出させた部分を電極5bとして導電性の半固体材料で配線に接続し、配線を介して電源6の陰極端子へ接続している。積層型DEA1は、シリコーンゴムシート3を挟んで電極5a、5bに電圧を印加することにより、一対の電極膜としての導電性ナノ薄膜2,2より上下の電位差を与えることで発生する静電力(クーロン力)によって両方の電極膜が引き合い、その結果シリコーンゴムシート3が厚み方向に収縮し、その形状を膜厚方向への変位させることができる。
【0048】
以上に、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において各種の変更が可能である。
【実施例0049】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
<実施例1> SWCNT-SBSナノシートの作製
グラビアコート法を用いて、約300%の切断伸度を持つスチレンーブタジエンースチレン(SBS)エラストマー上に、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の薄層を塗布した導電性ナノ薄膜(SWCNT-SBSナノ薄膜(以下、ナノ薄膜をナノシート、シートとも言う。))を作製した。
【0051】
Role-to-Roleグラビアコートシステム(卓上Mini-Laboテストコーター 康井精機)を用いて、マイクログラビアロール(MG)回転数30rpm、基材送り速度(L.S.)0.8m/minにてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムロール上に5wt%PVA(Mw22000 関東化学)水溶液を塗布し、システム内ヒーターを用いて80℃で乾燥することでPET上にPVA薄膜を得た。得られたPVA薄膜上に1、5、10wt%SBS(Mw280000 Sigma-Aldrich)のTHF溶液を、MG回転数30rpm、L.S.1.3m/min(10wt%では0.8m/min)にて塗布し、1wt%では80℃、5、10wt%では40℃にてヒーターで乾燥した。更に、1g/cm3のSWCNT水分散液(Sigma-Aldrich)を、MG回転数30rpm、L.S.0.8m/minにてSBS薄膜上に塗布し、ヒーターで80℃にて乾燥した。
【0052】
製膜後、テープフレーム法(N. Sato et al., Soft Matter, 12 (45), 9202-9209(2016).)を用いてPVA/SBS/SWCNTシートを剥離し、脱イオン水浴にてPVA層を除去することで自己支持性を有するSWCNT-SBSナノ薄膜を得た。SWCNT-SBSナノ薄膜をガラス基板上に貼付し、断面プロファイラー(DektakXT Bruker)を用いてSWCNT-SBSナノ薄膜の膜厚を測定した。
【0053】
1wt%SBS溶液を用いて作製したSBSナノ薄膜(シート)とSWCNT-SBSナノ薄膜(シート)の外観を図1に示す。膜厚はそれぞれ、33nmと94nm(SWCNT層の厚み61nm)であり、自己支持性を有するシートとして利用可能であることがわかった。なお、現在報告されている自己支持性SBSナノシートの膜厚は212nmである。(N. Sato et al., Soft Matter, 12 (45), 9202-9209(2016).)
【0054】
<実施例2> SWCNT-SBSナノシートの抵抗率測定
実施例1で作製したSWCNT-SBSナノ薄膜を手首上に貼り付け、曲げ動作を繰り返した時の抵抗値変化について検討することで、身体曲面への接着性と追従性、そしてSWCNT-SBSナノ薄膜の生体貼付型電極としての特性について調べた。
【0055】
SWCNT-SBSナノ薄膜を手首の甲側上に貼付し、繰返し手首の曲げ伸ばし動作を行った際の手首の繰返し曲げ運動の回数と抵抗値の変化を測定した。測定時の写真を図2(a)~(c)に、測定結果を図2(d)に示す。抵抗値は、次の方法で測定した。左手首内側上に金スパッタを施したポリイミドフィルムを両面テープで貼付け、これを集電極とした(図2(c))。この集電極に被せるように、SWCNT-SBSナノシートのSWCNT面を集電極側にして貼付した。集電極とLCRメーター(HIOKI,IM3533)を接続し、0~250回の曲げ試験を行い、抵抗値は10回ごとにサンプリングした。この初期の抵抗値は約2.7kΩであり、回数の増加とともにRi/R0は増加し、100回以上でほぼ一定の値を示した。250回目の抵抗値は初期抵抗値の2倍を超えず、導電性は保たれることがわかった。
【0056】
<実施例3> SWCNT-SBSナノ薄膜の表面筋電位測定
筋電位計測を行いSWCNT-SBSナノ薄膜の装着型生体デバイス電極としての有効性について検討した。
【0057】
実施例1で作製したSWCNT-SBSナノ薄膜を二つ折りにして右前腕の腕橈骨筋上の二か所に貼付け、表面筋電位(sEMG)記録デバイス(Mwatch,Wada Aircraft Technology Co., Ltd.)を用いて筋電位を測定した。測定中、約2s間隔で野球ボールを握りしめる動作と開放する動作を繰り返し行った。
【0058】
更に、SWCNT-SBSナノ薄膜を用いて右腕の腕橈骨筋上のsEMGを測定した(図3(a))。参照データとして、市販のゲルパッド電極(Vitrode F150M 日本光電)を用いて測定した結果を図3(b)に示す。SWCNT-SBSナノシートで測定した筋電の振幅変化は市販の電極と比較して小さかったが、生体貼付型電極として使用可能であることがわかった。
【0059】
<実施例4~8> SWCNT-SBSナノ薄膜の膜厚とSWCNT層の厚みに対するシート抵抗とヤング率の変化
実施例1において、SBS濃度、SWCNT濃度、SWCNTの塗布回数、グラビアロール速度、加熱温度を表1のとおり変更し、SWCNT-SBSナノ薄膜とSBSナノ薄膜を作製した。これらの全膜厚、SWCNT層厚み、SBS層の厚みT1に対するSWCNT層の全厚みT2の比、シート抵抗及びヤング率を測定した。シート抵抗は前記の方法(四探針法を用いてロール状のSWCNT-SBSナノシートの抵抗値をLCRメーター(HIOKI,IM3533)で測定し、得られた抵抗値に補正係数π/ln2をかけた値をシート抵抗とした。)で測定し、ヤング率は次の方法で測定した。まずマスキングテープを枠状に加工した治具を用いて、縦2cm×横4cmの長方形にナノシートを剥離し、引張試験機のチャックに取り付けた。測定開始の直前にハサミを用いてテープ枠を引張試験機(島津製作所,EZ-TEST)のチャックを中心に横幅2.4cmになるように切断し、10mm/minの走査速度で測定を開始した。その結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
図4は、ヤング率及びシート抵抗値のSWCNT層の厚みに対する依存性を示すグラフである。SWCNT層の厚みが小さくなるとシート抵抗は小さくなり、SWCNT層の厚みが大きくなるとヤング率は増加したが200MPa以下で飽和する傾向が見られた。
【0062】
<実施例9>
1.積層型誘電エラストマーアクチュエータの作製
更に、約100kPaと低いヤング率を持つエラストマーのシリコーンゴムシート(EcoflexTM00-30)と組み合わせることで、低電圧で駆動可能な、身体曲面への親和性の高い積層型誘電エラストマーアクチュエータ(積層型DEA)を作製した。
【0063】
EcoflexTM00-30(Smooth-On,Inc.)のA液とB液を重量比1:1で混合し、あわとり練太郎(AR-100 THINKYCORPORATION)を用いて撹拌、脱泡処理を行った。得られた前駆溶液をポリスチレン基板上に500、1000、3000rpmかつ20sでスピンコート(Opticoat MS-B150 MIKASA)し、70℃のホットプレート上で1h加熱することでシリコーンゴムシートを得た。
【0064】
ガラス基板上に実施例1で得たSWCNT-SBSナノ薄膜とシリコーンゴムシートを交互に積層することで積層型DEAを作製した(図5)。PVA層を除去したSWCNT-SBSナノ薄膜(長方形:5×25mm)をナイロンメッシュ上に移し、ガラス基板又はシリコーンゴムシート上に貼付した。シリコーンゴムシート(正方形:20×20mm)に対してもSWCNT-SBSナノ薄膜と同様の操作を行った。積層型DEAの全体の厚さを約1mmとするため、シリコーンゴムシートの厚みが12μmのものは50層、85μmのものは10層、225μmのものは4層の積層体を作製した。
【0065】
2.積層型DEAの電圧印加試験
作製した積層型DEAを配線固定治具に静置させることで高電圧電源(M10-HV5000A MCPJapan)、の陽極、陰極端子に接続した。印加電圧を400~5000Vの範囲で変調させ、各電圧における膜厚方向の変位挙動をマイクロスコープ(L-835 HOZAN、MS-Z35D Asahikogaku)により記録し、画像解析により電圧除去時(OFF時)に対する電圧印加時(ON時)の変位量を算出した(図5)。
【0066】
2-1.積層型DEAの印加電圧に対する変位量のSWCNT-SBSナノ薄膜の膜厚への依存性
DEAの変形挙動に対する電極膜の弾性力の影響について調べるため、膜厚が約95μmのシリコーンゴムシートと、膜厚の異なるSWCNT-SBSナノ薄膜(94、566、10500nm:実施例1に準じた方法で作製)を組み合わせて10層の積層型DEAを作製した(CNT94、CNT566、CNT10500)。また、566nmのSWCNT-SBSナノシートに対して実施した引張試験より、ヤング率は89.1±11.5MPaである。図6に印加電圧に対する変位量とアクチュエータの厚さを考慮した収縮率を示す。興味深いことに、CNT94において2000V印加時における変位量は19μmであり、同じ印加電圧にけるCNT566、10500の変位量はそれぞれ7μm、3μmであった。これは、電極膜厚が増加することで弾性力が増大し、積層型DEAの変形を阻害したためと考えられる。さらに、2~3μmの変位量を示した時の印加電圧はCNT94、566、10500において、それぞれ1000、1700、2000Vであり、膜厚の減少とともに印加電圧が低下することがわかった。
【0067】
2-2.積層型DEAの印加電圧に対する変位量のシリコーンゴムシートの膜厚への依存性
シリコーンゴムシートの厚さが12μm、85μm、225μmのDEAをそれぞれEco12、Eco85、Eco225とした。図7(a)に膜厚85μmのシリコーンゴムシートを10枚と膜厚352nmのSWCNT-SBSナノ薄膜を11枚使用し、交互に積層することで作製したDEA(Eco85)の外観を示す。ここで、積層数は10層である。図7(b)に示すように、人差し指の様な身体曲面に貼付可能であることがわかった。図8に印加電圧に対する変位量とアクチュエータの厚さを考慮した収縮率を示す。Eco225において、印加電圧3000Vのとき8μmの変位量、0.9%の収縮率を示した。一方、Eco88において2000V印加したとき、9μmの変位量と0.9%の収縮率を示し、Eco12においては500V印加時に8μmの変位量、0.7%の収縮率を示した。すなわち、同程度の変位量、収縮率で比較した場合、シリコーンゴムシートの膜厚の減少とともに印加電圧が低下することがわかった(図9)。Eco12は、X.Jiらが報告している6μmの膜厚方向の変位量(450V印加時、誘電層:PDMSエラストマー)(X. Ji et al., Adv. Funct. Mater., 2006639(2020).)と同等の変位量を示すことがわかった。また、作製したDEAの曲げ剛性は1.09~557nN・mと算出され、1mm厚のPDMSの値1.47×105nN・mよりも103~105倍小さいことがわかった。
【0068】
2-3.積層型DEAの印加電圧に対する変位量の基板への依存性
基板上に積層したDEAは主に膜厚方向へ大きく変形するが、各層では面内方向への変形も同時に生じると考えられる。このとき、硬質な基板に接する、あるいは近い層の面内方向への変形が抑制され、結果として膜厚方向への変位量が減少することが予想させる。そこで、柔軟な基板として膜厚1mmのシリコーンゴム基板(EcoflexTM00-30シート)を用いることで、基板の剛性の依存性を調べた。ガラス基板、シリコーンゴム基板上に作製した積層型DEAにおける変位量の印加電圧依存を図10に示す。興味深いことに、ガラス基板上に作製したDEAは2100Vで最大23μmの変位量(収縮率2.3%)を示したのに対して、シリコーンゴム基板上に作製したDEAは最大50μm(収縮率4.9%)に達した。これは、基板を柔軟化することで基板に接するアクチュエータ駆動領域(電極重なり領域)の拘束が減少したためと考えられる。
【0069】
以上より、積層型DEAを新たに作製し、測定治具上で変位量を測定したところ、誘電エラストマー層のシリコーンゴムシート、更に電極層のSWCNT-SBSナノ薄膜の膜厚が減少するとともに印加電圧は低下することがわかった。すなわち、積層型DEAの構成を更に検討することで、貼付型デバイスに求められる条件「低電圧駆動」の実現が期待できる。
【符号の説明】
【0070】
1:積層型DEA
2:導電性ナノ薄膜
3:シリコーンゴムシート
4:ガラス基板
5a、5b:電極
6:電源
7:マイクロスコープ
8:マイクロスコープステージ
9:ポリスチレンブロック
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10