(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021493
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】5-ブロモ-2-アダマンタノンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 45/63 20060101AFI20230207BHJP
C07C 49/693 20060101ALI20230207BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230207BHJP
【FI】
C07C45/63
C07C49/693
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126383
(22)【出願日】2021-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】和田 佳奈子
(72)【発明者】
【氏名】香川 巧
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC30
4H006BA09
4H006BA37
4H006BA67
4H006BE53
4H039CA53
4H039CD10
(57)【要約】
【課題】安価な塩化アルミニウム及び/又は金属アルミニウムと、様々な脂肪族ハロゲン化物を使用して、従来公知の製造方法よりも経済的かつ簡便な工程で、5-ブロモ-2-アダマンタノンを製造する方法を提供する。
【解決手段】 塩化アルミニウム及び/又は金属アルミニウムと、脂肪族ハロゲン化物の存在下、2-アダマンタノンと臭素を反応させることを特徴とする、5-ブロモ-2-アダマンタノンの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化アルミニウム及び/又は金属アルミニウムと、脂肪族ハロゲン化物の存在下、2-アダマンタノンと臭素を反応させることを特徴とする、5-ブロモ-2-アダマンタノンの製造方法。
【請求項2】
脂肪族ハロゲン化物が、炭素数2~8の直鎖、分岐、若しくは環式の脂肪族ハロゲン化物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5-ブロモ-2-アダマンタノンの新規な製造方法に関する。
アダマンタン誘導体は、高い耐熱性や透明性などの特性から、各種の産業分野で用途が拡大している。例えば、半導体製造用フォトレジストなどの電子材料や、機能性材料、医農薬の原料として有用であることが知られている。
【背景技術】
【0002】
5-ブロモ-2-アダマンタノンの製法としては、例えば、臭化アルミニウムとtert-ブチルブロマイドの存在下、臭素を用いて2-アダマンタノンを臭素化する方法が提案されている(例えば非特許文献1参照)。しかしながらこの製造方法では、高価な臭化アルミニウムやtert-ブチルブロマイドを必要とし、反応に2日を要するため、工業的に有利な方法とは言い難い。
【0003】
また、第四級アンモニウム塩を相間移動触媒として用いて四臭化炭素によって臭素化する方法(例えば非特許文献2参照)や、鉄触媒を用いて四臭化炭素によって臭素化する方法(例えば非特許文献3参照)が提案されている。
しかしながら非特許文献2および非特許文献3のいずれにおいても有害な四臭化炭素を臭素化剤として使用している。また、非特許文献2に記載の製造方法では、5-ブロモ-2-アダマンタノンの収率が31%と低く、非特許文献3に記載の製造方法では、170℃という高温での反応が必要という課題もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Synthetic Communications,1979年,第9巻,825頁-830頁。
【非特許文献2】Chemistry-A European Journal,2001年,第7巻,4996頁-5003頁。
【非特許文献3】Runssian Journal of Organic Chemistry,2015年,第51巻,184頁-187頁。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、これら従来技術を鑑み、5-ブロモ-2-アダマンタノンを、経済的かつ簡便に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、5-ブロモ-2-アダマンタノンの安価かつ簡便な製造方法について鋭意検討した結果、塩化アルミニウム及び/又は金属アルミニウムと、様々な脂肪族ハロゲン化物の存在下、臭素を用いて2-アダマンタノンを容易に臭素化し、5-ブロモ-2-アダマンタノンが製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下に係る。
[1]塩化アルミニウム及び/又は金属アルミニウムと、脂肪族ハロゲン化物の存在下、2-アダマンタノンと臭素を反応させることを特徴とする、5-ブロモ-2-アダマンタノンの製造方法。
[2]脂肪族ハロゲン化物が、炭素数2~8の直鎖、分岐、若しくは環式の脂肪族ハロゲン化物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、項[1]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、安価な塩化アルミニウム及び/又は金属アルミニウムと、様々な脂肪族ハロゲン化物を使用して、5-ブロモ-2-アダマンタノンを経済的かつ簡便に製造できる。また、反応時間を短縮できる点で有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
上記の通り、本発明の方法は、塩化アルミニウム及び/又は金属アルミニウムと、脂肪族ハロゲン化物の存在下、2-アダマンタノンと臭素を反応させることを特徴とする、5-ブロモ-2-アダマンタノンの製造方法に係る。
【0011】
ここで本発明の方法において使用される、塩化アルミニウム又は金属アルミニウムの使用量、あるいは両者を併用した場合について、格別の限定はないが、通常、1モルの2-アダマンタノンに対し、0.5倍モル~10倍モルの範囲で使用し、反応性や後処理工程での煩雑さを考慮すると、1.0倍モル~5倍モルの範囲であることが好ましい。
本発明の方法において、金属アルミニウムを使用する場合、通常使用される公知の形状のアルミニウムをそのまま使用できる。具体的には、粉末、粒状、薄片、チップ、塊状などの形態を挙げることができる。
【0012】
本発明の方法において使用される脂肪族ハロゲン化物の具体例としては、エチルクロリド、エチルブロミド、エチルヨージド、n-プロピルクロリド、n-プロピルブロミド、n-プロピルヨージド、iso-プロピルクロリド、iso-プロピルブロミド、iso-プロピルヨージド、n-ブチルクロリド、n-ブチルブロミド、n-ブチルヨージド、sec-ブチルクロリド、sec-ブチルブロミド、sec-ブチルヨージド、iso-ブチルクロリド、iso-ブチルブロミド、iso-ブチルヨージド、tert-ブチルクロリド、tert-ブチルブロミド、tert-ブチルヨージド、n-ペンチルクロリド、n-ペンチルブロミド、n-ペンチルヨージド、n-ヘキシルクロリド、n-ヘキシルブロミド、n-ヘキシルヨージド、n-ヘプチルクロリド、n-ヘプチルブロミド、n-ヘプチルヨージド、n-オクチルクロリド、n-オクチルブロミド、n-オクチルヨージド、シクロペンチルクロリド、シクロペンチルブロミド、シクロペンチルヨージド、シクロヘキシルクロリド、シクロヘキシルブロミド、シクロヘキシルヨージド、1,2-ジクロロエタン、1,2-ジブロモエタン、1,2-ジヨードエタン、1-ブロモ-3-クロロプロパン等の、炭素数2~8の直鎖、分岐、若しくは環式の脂肪族ハロゲン化物が挙げられ、これらを単独又はいずれかの任意の組み合わせの混合物として使用することができる。
【0013】
これら脂肪族ハロゲン化物のうちでも、炭素数2~8の直鎖若しくは分岐の脂肪族ハロゲン化物、さらにはsec-、tert-の分岐の脂肪族ハロゲン化物、特にtert-の分岐の脂肪族ハロゲン化物が好ましく用いられる。また炭素数としては3~5の脂肪族ハロゲン化物が好ましく用いられる。さらに塩化物、臭化物、ヨウ化物のハロゲン化物としては経済性の観点から塩化物、臭化物が、さらに塩化物が好ましく用いられる。
本発明の方法において、脂肪族ハロゲン化物の使用量については、格別の限定はないが、1モルの2-アダマンタノンに対し、0.1倍モル~10倍モルの範囲で使用し、反応性や経済性を考慮すると、0.5倍モル~3.0倍モルの範囲であることが好ましい。
【0014】
本発明の方法における臭素の使用量については、格別の限定はないが、1モルの2-アダマンタノンに対し、1.0倍モル~50倍モルの範囲で使用し、反応性や後処理工程での煩雑さを考慮すると、3.0倍モル~20倍モルの範囲であることが好ましい。
本発明の方法において、臭素化剤として使用する臭素を溶剤として用いても良いが、必要に応じて、ジクロロメタン、ジブロモメタン、ジクロロエタン、ジブロモエタン等のハロゲン化炭化水素系溶剤を用いても良い。ハロゲン化炭化水素系溶剤を使用する場合は、1重量部の2-アダマンタノンに対して、1重量部~20重量部使用する。
【0015】
本発明の方法における反応温度については、20℃~65℃の範囲であり、好ましくは40℃~60℃の範囲である。反応時間は、使用する脂肪族ハロゲン化物により異なるが、通常、5時間~48時間反応を行うことにより、反応は完結する。
【0016】
反応終了後は、常法に従い活性物質を失活させた後、生成物を抽出する。続いて、有機層を水洗処理し、溶媒を留去した後、通常の精製操作、例えば、再結晶などの操作により、目的とする5-ブロモ-2-アダマンタノンを得る。
【実施例0017】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されて解釈されるものではない。
【0018】
なお、収率については、ガスクロマトグラフィー(GC)で下記条件により求めた値である。
<ガスクロマトグラフィー(GC)による測定>
・装置:GC7820A(アジレント・テクノロジー株式会社製)
・カラム:キャピラリーカラムTC-1(ジーエルサイエンス株式会社製)
・内部標準:シクロドデカン
測定、定量はGC装置の操作法に従い、シクロドデカンによる内部標準法により行なった。
【0019】
また、核磁気共鳴および質量分析の条件は以下の通りである。
<核磁気共鳴による測定>
・装置:アバンス400(ブルカー株式会社製)
・溶媒:重クロロホルム
<質量分析(GCMS)による測定>
・装置:GCMS-QP2010Plus(株式会社島津製作所製)
・カラム:キャピラリーカラムTC-1(ジーエルサイエンス株式会社製)
【0020】
実施例1 5-ブロモ-2-アダマンタノンの調製
撹拌子を備えた100mLナスフラスコに、2-アダマンタノン(1.0g、6.66mmol)、塩化アルミニウム(1.78g、13.3mmol)、臭素(21.3g、133mmol)を加え、撹拌下に0℃まで冷却し、tert-ブチルブロミド(0.59g、4.33mmol)を同温にて滴下した。滴下後、50℃まで昇温し、24時間熟成した。
反応終了後、反応液に水(5mL)を加えて塩化アルミニウムを失活させた後、亜硫酸ナトリウム飽和水溶液(50mL)を加えて臭素を還元した。その後、ジクロロメタン(20mL)を加えて抽出し、有機層を分離した。得られた有機層を炭酸水素ナトリウム飽和水溶液(10mL)で洗浄後、溶媒を減圧留去した。
上記の通り取得した化合物を核磁気共鳴、質量分析により分析し、その結果、当該化合物は5-ブロモ-2-アダマンタノンであることを確認した。また、ガスクロマトグラフィーにより定量した収率は96.7%であった。
【0021】
実施例2~16 5-ブロモ-2-アダマンタノンの調製
実施例1と同じ反応装置を用いて、表1中に示した条件下、脂肪族ハロゲン化物及びそのモル比を種々変更し、同様の反応を行った。得られた結果を表1に示す。
【0022】
比較例1 脂肪族ハロゲン化物を使用しない場合
実施例1と同じ反応装置を用いて、tert-ブチルブロミドを用いないこと以外は、実施例1と同様に行った。
上記の通り取得した化合物をガスクロマトグラフィーで分析したところ、ほとんど未反応で、収率は0.1%未満であった。この結果を他の例と共に表1に示す。
【0023】
比較例2 脂肪族ハロゲン化物を使用しない場合
実施例1と同じ反応装置を用いて、tert-ブチルブロミドを用いず、塩化アルミニウムの代わりに臭化アルミニウムを使用した以外は、実施例1と同様に行った。得られた結果を表1に示す。
【0024】
参考例1
実施例1と同じ反応装置を用いて、下記非特許文献1に記載の下記反応式に示す反応を行なった。具体的には、2-アダマンタノンと臭化アルミニウムの入った反応装置にtert-ブチルブロミド(t-BuBr)を滴下し反応を行った。反応が完結するまでに48時間かかった。得られた結果を表1に示す。
Synthetic Communications,1979年,第9巻,825頁-830頁(非特許文献1)。
【化1】
なお、参考例1で用いた臭化アルミニウムは、現時点では高価で、吸湿性が高いため取り扱いづらくなることがあり、経済的あるいは簡便な5-ブロモ-2-アダマンタノンの製造方法という本発明とは区別できる。
【0025】
以上の実施例1~16、比較例1~2、及び参考例1の結果を表1に示した。
【0026】
【0027】
上記表1に示す略号は以下の通り。
1)tert-ブチルブロミドの略号を示す。
2)tert-ブチルクロリドの略号を示す。
3)tert-ブチルヨージドの略号を示す。
4)sec-ブチルブロミドの略号を示す。
5)sec-ブチルクロリドの略号を示す。
6)iso-プロピルブロミドの略号を示す。
7)シクロヘキシルブロミドの略号を示す。