(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021523
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】書籍および書籍の製造方法
(51)【国際特許分類】
B42C 9/00 20060101AFI20230207BHJP
B42C 11/00 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
B42C9/00
B42C11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126432
(22)【出願日】2021-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】508151301
【氏名又は名称】株式会社ブックアート
(71)【出願人】
【識別番号】397033870
【氏名又は名称】株式会社高橋書店
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】小西 惠介
(57)【要約】
【課題】丸背でありながら見開き性が良好であり、背部の原型保持力が高い書籍を提供する。
【解決手段】複数の折丁と、折丁を挟むように配置された見返し11、12とを含む本体10と、見返し11、12に接合された表紙21および裏表紙22とを備え、背部2が曲面状に形成された丸背の書籍1において、背部2は、本体10上に形成された第一接着剤層15と、第一接着剤層15上に形成されたクレープ紙層30とを有し、第一接着剤層15が、ポリウレタン系反応性ホットメルト接着剤からなる。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の折丁と、前記折丁を挟むように配置された見返しとを含む本体と、前記見返しに接合された表紙および裏表紙とを備え、背部が曲面状に形成された丸背の書籍であって、
前記背部は、
前記本体上に形成された第一接着剤層と、
前記第一接着剤層上に形成されたクレープ紙層と、を有し、
前記第一接着剤層が、ポリウレタン系反応性ホットメルト接着剤からなる、
書籍。
【請求項2】
前記クレープ紙層上に形成された第二接着剤層と、
前記第二接着剤層上に形成された被覆紙層と、
をさらに備える、
請求項1に記載の書籍。
【請求項3】
前記クレープ紙層を構成するクレープ紙の一部が、前記表紙及び前記裏表紙上に位置している、
請求項1に記載の書籍。
【請求項4】
複数の折丁と、前記折丁を挟むように配置された見返しとを含む本体と、前記見返しに接合された表紙および裏表紙とを備えた丸背の書籍の製造方法であって、
前記複数の折丁を挟む前記見返しに前記表紙及び前記裏表紙が貼り合わされて綴じ加工が施された綴じ体の背部に、ポリウレタン系反応性ホットメルト接着剤を塗布するステップAと、
前記ポリウレタン系反応性ホットメルト接着剤を覆うようにクレープ紙を貼り合わせるステップBと、
前記綴じ体の三方を断裁するステップCと、
前記背部に熱を加えた後に前記綴じ体をバッキング機でしぼり上げて前記背部に丸みを持たせるステップDと、
を備える、
書籍の製造方法。
【請求項5】
前記ステップBにおいて、前記クレープ紙の一部が前記表紙および前記裏表紙に接合される、
請求項4に記載の書籍の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製本物、書籍、及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
書籍の一態様である、手帳、ダイアリー、スケジュール帳等の製本物は、一般的な書物等と異なり、比較的高頻度に書き込みが行われる。見開き状態の手帳等が復元力により閉じようとすると、書き込み動作の妨げとなるため、これらの製本物においては、手で保持しなくても見開き状態が保持されると使いやすい。
【0003】
見開き状態を保持しやすい製本物の構造がいくつか提案されている。特許文献1には、見開き性の良好なコデックス装の本およびその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の本は、コデックス装、すなわち、背の部分が角張っている、いわゆる「角背」の冊子である。手帳等においては、外観上の高級感等から、背の部分が丸みを帯びた、いわゆる「丸背」が採用されることが少なくない。また、手帳等は、毎年あるいは数年ごとに買い換えられ、かつ使用し終えたものが捨てられずに保存されていくことも多いことから、外観の統一性が求められることも多い。したがって、このような場合には、特許文献1の技術を適用できない。
【0006】
特許文献1に記載の冊子の他の問題点として、丸背に加工した場合の原型保持力が弱い点がある。すなわち、開く動作を多数繰り返すことにより、背の部分の結合が破壊され、丸みが失われてしまったり一部の折丁が飛び出したりしてしまう可能性がある。
手帳等においては、5~10年等の長期にわたり使い続けるものもあり、開く頻度も一般的な書物等に比べて著しく高い。このような使用態様においては、上述した可能性がさらに高くなる。
【0007】
本発明は、丸背でありながら見開き性が良好であり、背部の原型保持力が高い書籍を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様は、複数の折丁と、折丁を挟むように配置された見返しとを含む本体と、見返しに接合された表紙および裏表紙とを備え、背部が曲面状に形成された丸背の書籍である。
背部は、本体上に形成された第一接着剤層と、第一接着剤層上に形成されたクレープ紙層とを有し、第一接着剤層が、ポリウレタン系反応性ホットメルト接着剤で形成されている。
【0009】
本発明の第二の態様は、複数の折丁と、折丁を挟むように配置された見返しとを含む本体と、見返しに接合された表紙および裏表紙とを備えた丸背の書籍の製造方法である。
この方法は、複数の折丁を挟む前記見返しに表紙及び裏表紙が貼り合わせて綴じ加工が施された綴じ体の背部にポリウレタン系反応性ホットメルト接着剤を塗布するステップAと、ポリウレタン系反応性ホットメルト接着剤を覆うようにクレープ紙を貼り合わせるステップBと、綴じ体の三方を断裁するステップCと、背部に熱を加えた後に綴じ体をバッキング機でしぼり上げて背部に丸みを持たせるステップDとを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、丸背でありながら見開き性が良好であり、背部の原型保持力が高い書籍を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る書籍を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について、
図1から
図10を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る書籍1を示す図である。書籍1は、文字や画像等が印刷された複数のページを含む本体10と、本体10を挟むように配置された表紙21および裏表紙22と、紐状の栞6とを備えている。本体10は、それぞれが複数のページを有する複数の折丁と、複数の折丁を挟むように配置された表側および裏側の見返しとを有する。表紙21および裏表紙22は、それぞれ表側及び裏側の見返しに接合されている。
書籍1は、背が曲面状に形成された「丸背」の書籍であり、本体10も厚さ方向(ページが積み重なる方向)における中央部が少し背側に変位している。
【0013】
図2に、見開き状態の書籍1を示す。書籍1は、丸背でありながら、復元力により閉じることが抑制されており、手で押さえなくても、見開き状態が好適に維持される。詳細は後述するが、これには、書籍1の背部における層構造が寄与している。
【0014】
本実施形態に係る書籍1の製造方法の一例について説明する。
まず、複数の折丁を重ね、二つ折りにした見返しを複数の折丁を挟むように配置する。さらに表と裏の見返しに、それぞれ表紙21および裏表紙22を貼り合わせる。その後綴じ加工を行う。綴じ加工としては、アジロ綴じ、糸綴り、無線綴じ等の、公知の各種方法を使用できる。
表紙21および裏表紙22と見返しとの接合態様には制限はなく、全体を貼り合わせてもよいし、一部のみを貼り合わせてもよい。一部のみ貼り合わせる場合は、後述する「ノド元」や、背と反対側である小口側からの一定範囲等とできる。
綴じ加工が終わると、本体を含む綴じ体ができあがる。すなわち、本実施形態に係る綴じ体は、表紙及び裏表紙を既に有している。この時点では、綴じ体は角背となっている。
【0015】
次に、
図3に示すように、綴じ体100にホットメルト接着剤またはエマルジョンボンド(以下、「ホットメルト接着剤等Hm」と称する。)を線状に塗布する。塗布する位置は、表紙21および裏表紙22のうち背寄りの部位であり、「ノド元」等とも称される。ホットメルト接着剤等Hmは、背部2の長手方向に延びるように塗布される。
【0016】
続いて、
図4に示すように、綴じ体100の背部2に、ポリウレタン系反応性ホットメルト接着剤(PUR)を塗布する(ステップA)。PURは、塗布後に冷えて一次固化した後、空気中や紙等に含まれる水分と化学反応してさらに硬化するという特性を有する。PURは、一般的なホットメルト接着剤と異なり、固化後に加熱しても再溶融しないが、熱風を当てる、高温の部材を接触させる等の方法で加熱することにより、一時的に軟化させることができる。
【0017】
続いて、
図5に示すように、PURが塗布された背部2に短冊状のクレープ紙3を貼り合わせる(ステップB)。クレープ紙は、皺のある紙であり、皺を伸ばす方向に柔軟性を有する。クレープ紙3の幅は、背部2の幅より大きく、背部2の幅に、表裏に塗布されたホットメルト接着剤等Hmの幅の合計を加えた程度が好ましい。
クレープ紙3は、まず幅方向中間部がPURに接合され、さらに、幅方向両端部が表紙21および裏表紙22に向かって折り曲げられてホットメルト接着剤Hm等に接合される。
【0018】
続いて、背部2を除く三方を断裁して、折丁をページごとに切り離す(ステップC)。
次に、
図6に示すように、クレープ紙3のうち背部2と接合されている部分に栞6を取り付ける。栞6の取り付け方法に特に制限はなく、例えばコールドグルー、エマルジョンボンド等の各種接着剤を使用できる。取り付けた栞は、本体10の内部に挟み込んでおくと、後の工程の邪魔にならないため好ましい。
なお、栞6は必須の構成ではないため、書籍1は栞6を備えなくてもよい。
【0019】
続いて、栞6を取り付けた綴じ体100の背部2に熱を加えてPURを一時的に軟化させ、バッキング機でしぼり上げて背部2に丸みを出す(ステップD)。加熱温度は、PURの軟化点以上であって、クレープ紙を焦がさない程度とする。例えば、軟化点が160℃の場合、加熱温度を300℃程度とできる。このような温度であっても、短時間であればクレープ紙が焦げることはない。
ステップCにより、綴じ体100は丸背となる。
【0020】
続いて、
図7に示すように、クレープ紙3のうち、背部2と接合されている部分に第二接着剤4を塗布する。第二接着剤4としては、硬化時の硬度や飛び散った際の剥がしやすさ等の観点からはニカワが好適であるが、これには限られず、上述したPUR、コールドグルー、エマルジョンボンド等も使用できる。
【0021】
続いて、
図8に示すように、短冊状の被覆紙5を背部2に乗せる。その後スポンジ等で被覆紙5を背部2上の第二接着剤4からなる層に押し当て、背部2に貼り合わせる(ステップD)。被覆紙5は、クレープ紙3よりも若干幅が狭く、背部2からはみ出して表紙21や裏表紙22にかからない程度とするのが好ましいが、若干はみ出してもよいし、はみ出した部分をクレープ紙3と同様に表紙21や裏表紙22に貼り合わせてもよい。
被覆紙5としては、クレープ紙が好適であるが、他の紙材や、和紙等を裏打ちした布地、若しくはビニール系やウレタン系のシート等も使用できる。
【0022】
以上の工程を経て、
図9に示すように、本実施形態に係る書籍1が完成する。本実施形態の製造方法では、既に綴じ体に表紙及び裏表紙が取り付けられているため、三方断裁の後に表紙及び裏表紙を取り付ける工程はなく、ステップDで終了となる。ステップAからDは、機械により連続的に行うことができるため、本実施形態に係る製造方法により、見開き性が良好な丸背の書籍を効率よく大量に製造することができる。
完成した書籍1がダイアリー等である場合は、ビニールカバー等をかぶせてもよいし、書籍が小説等の書物である場合は、表紙21、裏表紙22、および被覆紙5等に所望の印刷や型押し等を施しておくことにより、そのまま流通させてもよい。
【0023】
図10に、書籍1の背部2付近の模式断面図を示す。アーチ状となった本体10上には、まずPURからなる第一接着剤層15が形成され、その上にクレープ紙3からなるクレープ紙層30、第二接着剤4からなる第二接着剤層40、および被覆紙5からなる被覆紙層50が順次積層された構造を有する。
図10には栞6は示されていないが、クレープ紙層30と被覆紙層50との間に固定されている。
表紙21および裏表紙22は、それぞれ二つ折りの状態で配置された見返し11および12に接合されており、クレープ紙層30の一部は、表紙21および裏表紙22を覆っている。
【0024】
上記の構造を有する書籍1の背部2においては、PURが空気中の水分およびクレープ紙層30を透過した第二接着剤層40の水分と効果的に化学反応して硬化が進む。硬化した第一接着剤層15、クレープ紙層30、第二接着剤層40、および被覆紙層50からなる積層構造が綴じ体100の背部に配置されることにより、書籍1は充分な堅牢性を発揮する。その結果、頻繁に開き動作が行われても、丸みを帯びた背部の原型が好適に保持され、綴じ体の構造も破壊されにくい。特に、綴じ体100が糸綴りにより綴じ加工されている場合、糸綴りの糸が入り込んだ状態でPURが硬化することにより、第一接着剤層15内で両者が強固に係合するため、背部の原型保持力が著しく向上する。
その一方で、上記積層構造は一定の柔軟性を有するため、見開き時は適度に変形して書籍を閉じる復元力を発生させにくい。その結果、書籍1は構造上完全に平坦な状態にはならないが、見開き状態が好適に維持される。
【0025】
開き動作に伴って第一接着剤層15に小さな亀裂等が生じると、それを起点にして亀裂が広がる可能性がある。本発明においては、第一接着剤層15をクレープ紙3で覆うことにより、背部の破壊のきっかけとなるような亀裂が第一接着剤層15に生じることを効果的に抑制している。
【0026】
さらに、クレープ紙3の幅方向両端部が、それぞれ表紙21及び裏表紙22と接合されているため、第一接着剤層15は、表紙21および裏表紙22寄りの端部まで完全にクレープ紙3で覆われる。これにより、第一接着剤層15が本体10から剥離することも好適に抑制される。
【0027】
第一接着剤層15を覆う紙が表紙21および裏表紙22に接合される構造においては、紙が柔軟性に乏しいものであると、使用における第一接着剤層15の変形に十分追従できずに破れてしまう可能性がある。紙が破れると、破れた部分の第一接着剤層15を十分保護できず、破壊のきっかけとなる亀裂の発生を抑制できなくなる。
本実施形態で使用されるクレープ紙3は、皺の部分が延びることにより、第一接着剤層15の変形に十分追従できる。その結果、使用中に破れることがなく、第一接着剤層15の表面を被覆して保護し続け、破壊のきっかけとなる亀裂の発生を好適に抑制できる。
【0028】
発明者らは、背部に上記積層構造を有する本実施形態の書籍1について、開き動作を10万回繰り返す耐久試験を行った。その結果、耐久試験後も、背部の原型が好適に保持され、見開き状態の維持も良好であることを確認できた。なお、この試験に供した書籍の綴じ体は、糸綴りにより綴じ加工されたものである。
【0029】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。
【0030】
例えば、本発明に係る書籍において、栞を備えない場合は、第二接着剤および被覆紙が省略されてもよい。本発明に係る書籍は、第二接着剤層および被覆紙層を備えなくても十分な背部の原型保持力を有するが、第二接着剤層および被覆紙層を設けることで背部の原型保持力をさらに向上できるため、栞を備えずに第二接着剤層および被覆紙層を設けてもよい。
【0031】
本発明に係る表紙及び裏表紙の紙の種類としては、バッキング機でしぼり上げられることを考慮すると、密度が高く安価なコート紙等が好ましい。
【0032】
上述の実施形態では、折丁とは別の紙を見返しとして配置する例を説明したが、折丁の一部を見返しとして、表紙および裏表紙を接合してもよい。すなわち、本発明には、折丁の一部が見返しである場合が含まれる。
【符号の説明】
【0033】
1 書籍
2 背部
3 クレープ紙
4 第二接着剤
5 被覆紙
10 本体
11、12 見返し
15 第一接着剤層
21 表紙
22 裏表紙
30 クレープ紙層
40 第二接着剤層
50 被覆紙層