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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023002158
(43)【公開日】2023-01-10
(54)【発明の名称】アンカー部材
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/76 20060101AFI20221227BHJP
   E02D 5/80 20060101ALI20221227BHJP
   E02D 17/20 20060101ALI20221227BHJP
   E21D 11/40 20060101ALI20221227BHJP
   E01F 7/02 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
E02D5/76
E02D5/80 103
E02D17/20 103F
E21D11/40 Z
E01F7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021103210
(22)【出願日】2021-06-22
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000164438
【氏名又は名称】九州電力株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】500044733
【氏名又は名称】日本エフ・アール・ピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】池田 博嗣
(72)【発明者】
【氏名】山田 智規
(72)【発明者】
【氏名】上野 貴行
(72)【発明者】
【氏名】那須 雅義
(72)【発明者】
【氏名】川端 康夫
(72)【発明者】
【氏名】谷山 暁
【テーマコード(参考)】
2D001
2D041
2D044
2D155
【Fターム(参考)】
2D001PC03
2D001PD07
2D001PD11
2D041GA04
2D041GB01
2D041GC12
2D044DB33
2D155DB09
2D155LA16
(57)【要約】
【課題】コンクリート面に格子材を固定する際に格子材がコンクリート表面と平行な方向に逃げないように支持することができると共に、増厚材を施工する際の厚さを均一化するレベラーとして機能することができるアンカー部材を提供する。
【解決手段】コンクリート構造物のコンクリート面を補強する格子材30を仮固定するためのアンカー部材1であって、アンカー体21を挿通する表面側からコンクリート面に押圧される裏面側に、当該アンカー体21を挿通して固定するための貫通孔11を有し、当該貫通孔11以外の領域における裏面側に格子材30の交差部分が嵌合する凹溝部12が形成されている。アンカー部材1の厚さは、格子材30を埋設して形成される補強層の設計厚さに応じた厚さを有している。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物のコンクリート面を補強する格子材を固定するためのアンカー部材であって、
アンカー体を挿通する表面側から前記コンクリート面に押圧される裏面側に、前記アンカー体を挿通して固定するための貫通孔を有し、当該貫通孔以外の領域における裏面側に前記格子材の交差部分が嵌合する第1の凹溝が形成されていることを特徴とするアンカー部材。
【請求項2】
請求項1に記載のアンカー部材において、
前記格子材を増厚材で埋設して形成される補強層の設計厚さに応じた厚さを有しているアンカー部材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアンカー部材において、
表面側の前記貫通孔の周縁部分に前記アンカー体の頭部が格納される第2の凹溝が形成されているアンカー部材。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のアンカー部材において、
表面側の前記貫通孔以外の一部又は全部の領域に凸状体が形成されているアンカー部材。
【請求項5】
請求項4に記載のアンカー部材において、
表面側に形成される前記凸状体が、裏面側に形成される前記第1の凹溝の位置に対応付けて形成されているアンカー部材。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載のアンカー部材において、
表面側に形成される一部又は全部のエッジ部分が面取りされているアンカー部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物を補強するための格子材を、コンクリート構造物に仮固定するアンカー部材に関し、特に補強する増厚材の厚さを管理しやすく、且つ格子材の固定作業を効率的に行えるアンカー部材に関する。
【背景技術】
【0002】
格子材を用いてコンクリート構造物を補強する技術として、例えば特許文献1に示す技術が開示されている。特許文献1に示す技術は、FRP格子材に、表面処理を施して周囲のコンクリート又はモルタルへの付着性を強化する方法において、(1)FRP格子材表面に、(a)熱硬化性樹脂を主剤として硬化剤を配合したプライマーか、(b)不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂主剤に親水基を導入して、所定の硬化剤を配合したプライマーか、(c)ポリマーエマルジョンであるプライマーか、のいずれかのプライマーを塗付するか、又は、(2)FRP格子材表面に、接着樹脂を塗付し、その上に粒状物質か繊維状物質で構成される付着性強化材を付着するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-71377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなコンクリート構造物の補強においては、施工品質を保つために増厚材による厚さが均一かつ平滑に仕上がるように管理する必要がある。特に、例えば水力発電における水路構造物においては、水路断面積が小さくなると水流が阻害され、水が流れにくくなると共に、平滑に仕上げなければ祖度係数の関係で水がスムーズに流れず、両方の原因が相まって発電出力が低下するという問題がある。しかしながら、特許文献1に示す技術では、増厚材を均一な厚さに仕上げる作業は難易度が高く、作業者の熟練度に応じて精度にムラが生じてしまうという課題を有する。
【0005】
また、覆工厚さが設計通りになっていることの検査が必要であり、この検査に多くの時間と手間を要してしまうという課題を有する。
【0006】
さらに、FRP格子材をコンクリート表面にアンカー体で固定する工法が開示されており、格子4隅のいずれかの箇所のコンクリートにアンカー体を打ち込み、座金でFRP格子材の交差部分を固定している。しかしながら、図8に示すように、アンカー体を打ち込むと座金の押圧力によりFRP格子材がコンクリート表面と平行な方向にスライドして逃げてしまい、逃げた方向のFRP格子材が浮いてしまうという状態が生じてしまう。特にFRP格子材同士の接手部分では、FRP格子材が重なって厚さが増しているため、よりスライドして逃げやすくなってしまう。このような問題を防止するためには、アンカー体を打ち込む作業員とは別の作業員がFRP格子材を支持してずれない状態でアンカー体の打ち込みを行う必要がある。つまり、アンカー体の打ち込み作業に多くの手間と時間を要してしまうという課題を有する。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、コンクリート面に格子材を固定する際に格子材がコンクリート表面と平行な横方向にスライドしないように支持することができると共に、増厚材を施工する際の厚さを均一化するレベラーとして機能することができるアンカー部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るアンカー部材は、コンクリート構造物のコンクリートを補強する格子材を固定するためのアンカー部材であって、アンカー体を挿通する表面側から前記コンクリート面に押圧される裏面側に、前記アンカー体を挿通して固定するための貫通孔を有し、当該貫通孔以外の領域における裏面側に前記格子材の交差部分が嵌合する第1の凹溝が形成されているものである。
【0009】
このように、本発明に係るアンカー部材においては、アンカー体を挿通する貫通孔を有し、当該貫通孔以外の領域における裏面側に前記格子材の交差部分が嵌合する第1の凹溝が形成されているため、貫通孔を削孔時のガイドとして機能させることができると共に、第1の凹溝に格子材の交差部分を嵌合させた状態でコンクリート面にアンカー部材を押し付けることで格子材のコンクリート表面と平行な方向へのスライドを防止して固定することができるという効果を奏する。
【0010】
本発明に係るアンカー部材は、前記格子材を増厚材で埋設して形成される補強層の設計厚さに応じた厚さを有しているものである。
【0011】
このように、本発明に係るアンカー部材においては、格子材を増厚材で埋設して形成される補強層の設計厚さに応じた長さを有しているため、アンカー部材がレベラーとして機能し、当該アンカー部材が埋まるように増厚材を施工することで設計厚さを満たしつつ、作業員の熟練度に依らず覆工厚さを均一かつ平滑に仕上げることができるという効果を奏する。
【0012】
本発明に係るアンカー部材は、表面側の前記貫通孔の周縁部分に前記アンカー体の頭部が格納される第2の凹溝が形成されているものである。
【0013】
このように、本発明に係るアンカー部材においては、表面側の前記貫通孔の周縁部分に前記アンカー体の頭部が格納される第2の凹溝が形成されているため、アンカー体を押し込みやすくし、アンカー体の頭部をアンカー部材の厚さの範囲内に収めることで、覆工面からアンカー体の頭部が飛び出すことを防止することができるという効果を奏する。
【0014】
本発明に係るアンカー部材は、表面側の前記貫通孔以外の一部又は全部の領域に凸状体が形成されているものである。
【0015】
このように、本発明に係るアンカー部材においては、表面側の前記貫通孔以外の一部又は全部の領域に凸状体が形成されているため、増厚材との接触面積を増やして密着性を上げることができるという効果を奏する。
【0016】
本発明に係るアンカー部材は、表面側に形成される前記凸状体が、裏面側に形成される前記第1の凹溝の位置に対応付けて形成されているものである。
【0017】
このように、本発明に係るアンカー部材においては、表面側に形成される前記凸状体が、裏面側に形成される前記第1の凹溝の位置に対応付けて形成されているため、アンカー部材を格子材の交点部に設置する際に第1の凹溝の位置を表面側から確認でき、第1の凹溝と格子材交点部との位置合わせの目印となり、作業効率を上げることができるという効果を奏する。
【0018】
本発明に係るアンカー部材は、表面側に形成される一部又は全部のエッジ部分が面取りされているものである。
【0019】
このように、本発明に係るアンカー部材においては、表面側に形成される一部又は全部のエッジ部分が面取りされているため、エッジ部分に集中する応力を分散して増厚材への負荷を減らすことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1の実施形態に係るアンカー部材の全体斜視図である。
図2】第1の実施形態に係るアンカー部材の平面図及び底面図である。
図3】第1の実施形態に係るアンカー部材の正面材及び背面図である。
図4】第1の実施形態に係るアンカー部材の右側面図及び左側面図である。
図5】第1の実施形態に係るアンカー部材を用いた補強が完了した場合の正面からの断面図及び格子材を示す図である。
図6】その他の実施形態に係るアンカー部材の平面図である。
図7】その他の実施形態に係るアンカー部材の他の形状を示す平面図である。
図8】従来のアンカー体による格子材の固定状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係るアンカー部材について、図1ないし図5を用いて説明する。本実施形態に係るアンカー部材は、例えばトンネルなどのコンクリート構造物の内壁面などを補強する際にコンクリート面に敷設する格子材を仮固定するときに利用されるものである。図1は、本実施形態に係るアンカー部材の全体斜視図、図2は、本実施形態に係るアンカー部材の平面図及び底面図、図3は、本実施形態に係るアンカー部材の正面材及び背面図、図4は、本実施形態に係るアンカー部材の右側面図及び左側面図、図5は、本実施形態に係るアンカー部材を用いた補強が完了した場合の正面からの断面図(図2(A)において補強が完了した場合に矢印aから見た断面図)及び格子材を示す図である。
【0022】
アンカー部材1は、中心位置より四隅のいずれかの方向にずれた位置に形成されるアンカー体21を挿通するための貫通孔11と、貫通孔11とは異なる領域の底面側(以下、裏面側という)に形成され、格子材の交差部分が嵌合する凹溝部12と、アンカー体21を打ち込んだ際にその頭部21aを格納するための格納溝13と、格納溝13とは異なる領域の平面側(以下、表面側という)に形成され、増厚材との密着性を向上させるための凸状部14とを備える。
【0023】
アンカー部材1は表面から見て矩形状に形成されており、アンカー体21が挿通される貫通孔11はその左上、右上、左下、右下のいずれかの領域に形成されている。図2(A)の平面図においては左下の領域に形成される場合を示している。この貫通孔11の径は、図5に示すように、使用するアンカー体21の円筒部21bの径に合わせたサイズになっており、貫通孔11の表面側には、当該貫通孔11の径よりも大きい径でアンカー体21の頭部21aが格納できる径及び深さを有する円筒状の格納溝13が形成されている。すなわち、図5に示すように、貫通孔11にアンカー体21を挿通して固定した状態では、アンカー体21の頭部21aが格納溝13に収納された状態となる。
【0024】
補強するコンクリート面70に敷設される格子材30は、図5(B)に示すように、縦方向に複数の帯体(以下、縦帯体31という)が並列し、横方向に複数の帯体(以下、横帯体32)が並列し、それぞれが交差した状態で樹脂により固められたものである。図5(B)においては、2つの格子材30を一部重ねて敷設し、複数箇所をアンカー部材1で固定している状態を示している。
【0025】
アンカー部材1の裏面側には、この格子材30の交差部40と嵌合する凹溝部12が形成されている。凹溝部12aには格子材30の縦帯体31が嵌合し、凹溝部12bには格子材30の横帯体32が嵌合する。これらの凹溝部12の幅は、格子材30の縦帯体31及び横帯体32の幅に合わせて当該各帯体が完全に凹溝部12内に収納できるように設定されている。
【0026】
また、凹溝部12の深さは、格子材30が単体で敷設されている領域に使用されるアンカー部材1の場合は、縦帯体31及び横帯体32が少なくとも1層分収納できる程度の深さに設定されており、格子材30の接手領域41に使用されるアンカー部材1の場合(図5の場合に相当)は、縦帯体31及び横帯体32がそれぞれ2層に積層された状態であるため、少なくとも2層分収納できる程度の深さに設定されている。
【0027】
なお、格子材30の縦帯体31と横帯体32は必ずしも同一の強度である必要はない。例えば、水力発電用の導水路トンネル内の補強に用いるような場合は、発電機の瞬断等が生じた場合の水撃作用により、トンネル内壁面である覆工コンクリートの径方向に数m~数十mの内水圧の上昇が生じる場合がある。このため、トンネル内壁面の覆工コンクリートの径方向には内水圧上昇分の応力が作用する。一方で、トンネル内壁面の覆工コンクリートの軸方向に掛かる内水圧上昇に対応する応力については、取水口が開放されているため作用しない。すなわち、導水路内の補強を行う場合に、導水路トンネル内壁面の覆工コンクリートの周方向に対しては大きい軸剛性が要求されるが、軸方向に対しては大きい軸剛性が必要とされない。このような状況においては、導水路の軸方向に沿った帯体の軸剛性は、導水路の周方向に沿った帯体の軸剛性に比べて小さくても問題ない。以上のことから、例えば導水路トンネルの補強においては、縦帯体31を軸剛性を大きくできる炭素繊維等で形成して導水路トンネルの軸方向に沿うように配設し、横帯体32を軸剛性が小さくてもよいガラス繊維等で形成するようにしてもよい。また、軸剛性が小さいガラス繊維等を用いた場合は、図8に示すようなずれによる格子材30の湾曲(浮き)がより生じやすくなるが、本実施形態に係るアンカー部材1を用いることでそのような問題も解決することが可能となる。
【0028】
凸状部14は、アンカー部材1の表面に形成されており、その更に表面側に増厚材50が施工される。図5(A)に示すように、アンカー部材1の表面が平坦な形状である場合に比べて、凸状部14が形成されることで増厚材50とアンカー部材1との接触面積を増やしつつ、接触するエッジ部51(図5(A)中の破線で示す箇所)を増やすことで増厚材50をエッジの隙間に広く行き渡らせることが可能となり、アンカー部材1と増厚材50との密着性を向上させることができる。
【0029】
また、凸状部14のエッジ部分は面取りがされている。これは、凸状部14を被覆するように増厚材50を施工した場合に、面取りしていないエッジ部分には応力が集中し施工された増厚材50がひび割れ等を起こす可能性があるためである。なお、凸状部14以外であっても増厚材50が施工される箇所であればエッジ部分が面取りされているのが望ましい。
【0030】
増厚材50を施工すべき設計厚さをDとし、アンカー部材1の下面から凸状部14の最上部までの高さ(すなわち、アンカー部材1の厚さ)をHとした場合に、H+(1~2mm)=Dとなるようにアンカー部材1の長さHが設定されている。そして、アンカー部材1で格子材30を固定した後に凸状部14の最上部がギリギリ見える程度まで増厚材50の基層50aを施工し、仕上げとして凸状部14の最上部が完全に見えなくなるように薄層50bを形成する。つまり、アンカー部材1の長さHに合わせて増厚材50の基層50aを施工することができるため、アンカー部材1をレベラーとして機能させることが可能となる。
【0031】
なお、増厚材50の基層50aと薄層50bは、作業工程において便宜上区別したものであり、最終的には同一素材で一体化した覆工層となる。
【0032】
また、上記図5(A)において、アンカー体21は円筒部21bに返し機能を有するものとして記載しているが、これはあくまで一例であり、一般的に知られている芯棒打ち込み式の拡張アンカー、拡底アンカー、接着系アンカー等を用いてもよい。
【0033】
さらに、上記増厚材50は、例えばセメント系増厚材を硬化させて形成されるものであり、塩害、中性化等に優れたポリマーセメントモルタルを用いるようにしてもよい。
【0034】
次に、本実施形態に係るアンカー部材1を用いた場合の作業手順について説明する。まず、従来の芯棒打ち込み式の拡張アンカーを用いた場合は以下のような手順となる。
(1)左手で格子材30の位置決めを行う
(2)右手でインパクトドライバーによる削孔を行う
(3)右手の道具をアンカー部材に持ち替えて削孔した穴に挿入する
(4)左手でアンカー部材を支持しながら右手でハンマー打撃によるアンカー体の打ち込みで先端部の拡張を行う
【0035】
このように、従来は、削孔とアンカー打ち込みで工具の持ち替え等が発生したり、ある程度格子材30が固定されるまでは、当該格子材30がずれないように支持するために作業員2人での作業が必要となり作業効率があまり良くない。
【0036】
これに対して、本実施形態に係るアンカー部材1を用いた場合は、以下のような手順となる。
(1)左手でアンカー部材1を用いて格子材30を押さえながら位置決めを行う
(2)右手でインパクトドライバーによる削孔を行う
(3)右手をアンカー部材に持ち替えて削孔した穴にアンカー体21(図5(A)に示す返し付きのアンカー体21を用いた場合であり、この場合ハンマーによる打撃は不要)を挿入する
【0037】
このように、従来に比べて作業工程が一つ短縮される上に、左手は最初からアンカー部材1を押さえておくだけで工具の持ち替えなどがなく作業効率を上げることができる。また、格子材30の位置ずれを防止するために最初の1か所のみは2人での作業となるものの、1か所固定された後は格子材30の位置が決まり、コンクリート面70と平行な方向へのスライドおよびずれに対して凹溝部12により固定されるため、各作業員がアンカー部材1の固定作業を行うことが可能となり、作業効率を格段に向上させることができる。さらに、アンカー部材1の貫通孔11が、アンカー体21を挿入するための削孔位置を決める際のガイド孔として機能することができ、削孔作業の効率化を図ることができる。
【0038】
特に、発電用の水路や長距離トンネルのようなコンクリート構造物の場合は、アンカー部材を固定する箇所が数千箇所~数万箇所に亘る場合があり、1回の作業短縮が極めて大きな作業短縮に繋がる。
【0039】
以上のように、本実施形態に係るアンカー部材1においては、アンカー体21を挿通する貫通孔11を有し、当該貫通孔11以外の領域における裏面側に格子材30の交差部分が嵌合する凹溝部12が形成されているため、凹溝部12に格子材30の交差部40を嵌合させた状態でコンクリート面70にアンカー部材1を押し付けることで格子材30の横方向へのスライドを防止して固定することができる。
【0040】
また、格子材30を埋設して形成される補強層の設計厚さDに応じた厚さHを有しているため、アンカー部材1がレベラーとして機能し、当該アンカー部材1が埋まるように増厚材50を施工することで設計厚さDを満たしつつ、作業員の熟練度に依らず覆工厚さを均一かつ平滑に仕上げることができる。
【0041】
さらに、表面側の貫通孔11の周縁部分にアンカー体21の頭部21aが格納される格納溝13が形成されているため、アンカー体21の頭部21aがアンカー部材1の長さHの範囲内にきちんと収まり覆工面から飛び出すようなことを防止することができる。
【0042】
さらにまた、表面側の貫通孔11以外の一部又は全部の領域に凸状部14が形成されているため、増厚材50との接触面積を増やして密着性を上げることができる。
【0043】
さらにまた、表面側に形成される一部又は全部のエッジ部分が面取りされているため、エッジ部分に集中する応力を分散して増厚材への負荷を減らすことができる。
【0044】
(その他の実施形態)
本実施形態に係るアンカー部材について図6及び図7を用いて説明する。本実施形態に係るアンカー部材1は、前記第1の実施形態に係るアンカー部材1の他の実施例である。なお、本実施形態において前記第1の実施形態と重複する説明については省略すると共に、前記第1の実施形態の技術内容から自明である内容については説明を省略する。
【0045】
図6は、本実施形態に係るアンカー部材の平面図である。アンカー部材1は、前記第1の実施形態の場合と同様に表面に凸状部14を有する構造であるが、この凸状部14が裏面側に形成される凹溝部12の位置と対応付けて形成されているものである。なお、図6において凹溝部12(凹溝部12a及び12b)は一点鎖線で示しており、実際には裏面側に形成されているものである。また、図6ではわかりやすくするために凸状部14と凹溝部12とを若干ずらして記載しているが、完全に一致した位置及びサイズで形成されてもよい。
【0046】
図6に示すように、凹溝部12の位置と凸状部14の位置が対応付けられることで、表面側からの視点であっても凸状部14と格子材30の帯体との位置を合わせることで、裏面側における格子材30の帯体とアンカー部材1(凹溝部12)との位置合わせが可能となり、作業効率を向上させることが可能となる。
【0047】
図7は、本実施形態に係るアンカー部材の他の形状を示す平面図である。図7(A)は、表面側から見た場合に菱形状になっており、菱形の対角線に沿って一点鎖線で示す凹溝部12が裏面側に形成されており、格子材30の帯体(縦帯体31及び横帯体32)と重なるように位置合わせすることで、凹溝部12と格子材30とを容易に嵌合させることが可能となっている。図7(B)は、表面側から見た場合に円形状になっており、この場合アンカー部材1を透明な材料にすることで、裏面側に形成されている一点鎖線で示す凹溝部12と格子材30とを容易に嵌合させることが可能となる。図7(C)は表面側から見た場合に裏面側に凹溝部12が形成される十字状の領域61と、貫通孔11が形成される面領域62とを合わせた形状となっている。この場合、十字状の領域61を格子材30に合わせることで、裏面側に形成されている一点鎖線で示す凹溝部12と格子材30とを容易に嵌合させることが可能となっている。
【0048】
なお、図7においては、凸状部14やエッジ部分の面取りについて記載を省略しているが、第1の実施形態の場合と同様に凸状部14やエッジ部の面取りを有することが望ましい。この場合、凸状部14の位置や形状は、第1の実施形態と同様に任意でもよいし、図6において上述したように凹溝部12の位置に対応するように形成されてもよい。
【0049】
このように、本実施形態に係るアンカー部材1においては、表面側に形成される凸状部14やアンカー部材1自体の形状が、裏面側に形成される凹溝部12の位置に対応付けて形成されているため、格子材30の上からアンカー部材1で押圧する際に凹溝部12と格子材30の帯体との位置合わせを容易にし、作業効率を上げることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 アンカー部材
11 貫通孔
12(12a,12b) 凹溝部
13 格納溝
14 凸状部
21 アンカー体
21a 頭部
21b 円筒部
30 格子材
31 縦帯体
32 横帯体
40 交差部
50 増厚材
50a 基層
50b 薄層
51 エッジ部
70 コンクリート面



図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8