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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021589
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】歯科疾患検査用の検体採取器具
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/10 20060101AFI20230207BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20230207BHJP
   A61C 19/04 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
G01N1/10 V
A61B10/00 500
A61C19/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126541
(22)【出願日】2021-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(72)【発明者】
【氏名】水野光春
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋啓至
(72)【発明者】
【氏名】三島昭宏
【テーマコード(参考)】
2G052
4C052
【Fターム(参考)】
2G052AA29
2G052BA19
2G052GA29
2G052JA08
2G052JA14
4C052NN01
(57)【要約】
【課題】目的部位の歯肉溝から歯肉溝滲出液を一回の採取で確実かつ容易に採取するための採取器具を提供する。
【解決手段】歯肉溝滲出液などの生体液を採取する採取器具は、弾性を有する扁平な板状の支持部と、支持部の表面上に保持され且つ脱着可能である生体液採取部及び把持部が接合した部材から構成される。かかる操作により支持部の一端が歯肉溝内に確実に入り固定され且つ生体液採取部の一端が歯肉溝近傍に固定若しくは歯肉溝に一部が挿入されることで歯肉溝滲出液を確実に採取、保持することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯肉溝滲出液またはインプラント周囲溝滲出液を採取する為の検体採取器具であって、
平面板状の滲出液採取部、滲出液採取部を保持する把持部、平面板状の支持部を有し、

滲出液採取部は、滲出液を吸収かつ保持できる素材であり、略長方形体であり、略長方形体の長辺端部付近に把持部を有し、滲出液採取部の長辺他端部は滲出液吸収端であり、

把持部は、疎水性の素材であり、滲出液採取部である平面板状の両面に設けられ、略長方形体の長辺端部の先端から長辺他端部方向に有し且つ長辺他端部と長辺端部の中央付近を超えず、

支持部は、疎水性の弾性を有する素材であり、略長方形体であり、略長方形体の長辺端部に把持部を介して滲出液採取部が着脱可能に接着されており、長辺他端部は滲出液吸収部を支える吸収支持端であり、

支持部と滲出液採取部のそれぞれの面が対抗し近接しており、
滲出液採取部の長辺端部と支持部の略長方形体の長辺端部は同一方向に保持される様に接着されており、
滲出液採取部の長辺他端部に比べ、支持部の略長方形体の長辺他端部が他端部方向に突出している検体採取器具。
【請求項2】
支持部の略長方形体の短辺は滲出液採取部の略長方形体の短辺に比べ0.5~2.0倍であり、
支持部の長辺他端部の先端部分は滲出液採取部の長辺他端部の先端から0~5.0mm長く突出している、ことを特徴とする請求項1に記載の検体採取器具。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として歯周病(歯肉炎、歯周炎)、インプラント周囲疾患(インプラント周囲粘膜炎、インプラント周囲炎)の検査等のために歯肉溝に滲出、滞留する生体液である歯肉溝滲出液またはインプラント周囲溝滲出液を検体として採取する方法及び採取する器具に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、一般歯科診療所などでの歯周疾病の検査、診断、または歯周治療後の効果の判定には様々な臨床パラメーターが用いられており、歯周ポケット(歯肉溝)検査、歯の動揺度検査、およびエックス線検査などがある。標準的な診断方法としては形態計測学的な手法のプロービングデプス(PD)がある。これは、歯周ポケットにプローブと呼ばれる器具を挿入し、その深さを測ることにより、歯周組織の破壊の程度を評価する方法である。
【0003】
しかしながら、プローブによる検査は歯周病により既に歯周組織が破壊された程度を知るものであり、検査時点での炎症の程度による疾病活動度を知ることはできない。さらに計測に熟練を要する、歯周組織に損傷を与える可能性がある、目視評価のため判定が主観的であり不確実でばらつきが生じるという問題点も指摘されている。
【0004】
このため、前記診断方法に加え、歯周疾患の早期診断や進行を予測する客観的な指標として、細菌学的検査や生化学的検査に関する手法が数多く提案され、プローブを使用しない非侵襲な検査として臨床的に応用される試みがなされている。
【0005】
細菌学的検査では、歯周病はその発症、進行に歯周病原細菌が大きく関与している感染症であることから、細菌叢と細菌数を把握することで、リスク因子の特定や診断、治療効果の判定など必要な情報を得ることがある。例えば、唾液に含まれる歯周病原性細菌が放出する酵素であるALP (アルカリフォスファターゼ)やトリプシン様酵素であるぺプチダーゼ を特異的に検出する手法について考案され実用化もされている。( 特許文献1、非許文献1)。
【0006】
生化学的手法については、主に歯肉溝に漏出する滲出液(歯肉溝滲出液)や唾液中 に含まれる特定の蛋白質や酵素を歯周疾患マーカーの検査試料として検査および診断に用いるものが数多く提案され、進行状態を知ることができる。例えば、歯肉溝滲出液や唾液中のヘモグロビン量またはカルシウム結合性蛋白質であるカルプロテクチン量を測定する診断キット(特許文献2、3)、歯または肉結合組織を構成する主成分であるコラーゲンを分解する酵素であるプロテアーゼの一種であるMMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)が歯周疾患の進行度に関係していることを利用した診断キットも考案されている(特許文献4)。
【0007】
従来、検査試料として利用する唾液、歯肉溝滲出液は、歯科医師あるいは歯科衛生士が、主として吸収性の紙などで構成される薄片状に成型した材料(製品名ペリオペーパー)、あるいは根管治療などに用いられる紙を爪楊枝状としてペーパーポイントを採取器具とし、一端をピンセットで摘んで歯肉溝に挿入もしくは歯肉溝近傍に押し当てることにより採取されている 。
【0008】
また、インプラント周囲疾患の場合も同じくインプラント体と歯肉の間隙溝に滞留する滲出液(インプラント周囲溝滲出液)を検査試料として利用、採取されている。
【0009】
このような唾液、歯肉溝滲出液を採取する器具が開示されており、特許文献5に記載の発明は毛細管を備え、その先端部に扁平な形状を有する挿入部と基端から延出し毛細管と連通する生体液保持部とを備えた形状、特許文献6に記載の発明はブラシ状の毛束を備えた形状、また、特許文献7に記載の発明は筒状体を有し、その壁部の一部が厚さ方向に薄い壁が複数重ねられた形状の採取器具が考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8-75729 号公報
【特許文献2】特開2017-257312号公報
【特許文献3】特開2016-31306号公報
【特許文献4】特許第3083325号公報
【特許文献5】特開2001-201437号公報
【特許文献6】特許第4176457号公報
【特許文献7】特開2017-58154号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】株式会社ヒョーロン出版「歯科医師・歯科衛生士のための唾液検査ハンドブック」2008:62~63、68~69
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来の薄片状に成型した材料のペリオペーパー、爪楊枝状のペーパーポイントをピンセットで摘んで歯肉溝滲出液を採取する場合において、目的とする採取部位の歯肉溝へ近接する際に、歯牙や口腔内粘膜などの別部位に採取器具が当たる等して変形する、または意図せず唾液を吸い取ってしまい目的とする検体液を吸収する能力が低下する等の問題があった。
【0013】
また、生体液採取部は紙製の材質であるため、コシが足りず強度が不足していた。このため歯肉溝に挿入するのが難しく、更に生体液に接触すると瞬時に軟化し目的とする採取部位に固定し難いことがあり、経験の乏しい者は採取器具を新しいものに交換して採取し直す場合も多く効率が悪かった。
【0014】
また、インプラント周囲疾患の場合はインプラント周囲溝滲出液を検査試料として適切に採取する必要があるが、インプラント体の種類や様式、特にアバットメント(連結部位)または上部構造体(人工歯)の形状によっては、採取器具が目的部位の近傍まで到達する前に、生体液採取部がコシ折れする、またはアバットメントの形状によっては目的部位近傍に固定できないためインプラント周囲溝滲出液の採取がし難い場合があった。
【0015】
特許文献6、7に記載の採取器具は、上記採取器具と比較して生体液を採取し易い構造や仕組みとなっているが、素材の構造が複雑であり製造コストがかかる、また同様に採取部位に固定し難いという課題があった。
【0016】
そこで本発明は、以上のことを鑑み、簡易な構造であっても目的部位の歯肉溝から歯肉溝滲出液またはインプラント周囲溝滲出液を一回の採取で確実かつ容易に採取するための採取器具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、歯肉溝滲出液またはインプラント周囲溝滲出液を採取する為の検体採取器具であって、
平面板状の滲出液採取部、滲出液採取部を保持する把持部、平面板状の支持部を有し、
滲出液採取部は、滲出液を吸収かつ保持できる素材であり、略長方形体であり、略長方形体の長辺端部付近に把持部を有し、滲出液採取部の長辺他端部は滲出液吸収端であり、
把持部は、疎水性の素材であり、滲出液採取部である平面板状の両面に設けられ、略長方形体の長辺端部の先端から長辺他端部方向に有し且つ長辺他端部と長辺端部の中央付近を超えず、
支持部は、疎水性の弾性を有する素材であり、略長方形体であり、略長方形体の長辺端部に把持部を介して滲出液採取部が着脱可能に接着されており、長辺他端部は滲出液吸収部を支える吸収支持端であり、
支持部と滲出液採取部のそれぞれの面が対抗し近接しており、
滲出液採取部の長辺端部と支持部の略長方形体の長辺端部は同一方向に保持される様に接着されており、
滲出液採取部の長辺他端部に比べ、支持部の略長方形体の長辺他端部が他端部方向に突出している検体採取器具である。
好ましくは、支持部の略長方形体の短辺は滲出液採取部の略長方形体の短辺に比べ0.5~2.0倍であり、
支持部の長辺他端部の先端部分は滲出液採取部の長辺他端部の先端から0~5.0mm長く突出している、ことを特徴とする検体採取器具である。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、簡易な構造であっても目的部位の歯肉溝から歯肉溝滲出液またはインプラント周囲溝滲出液を一回の採取で確実かつ容易に採取するための採取器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明品の検体採取器具 (10)の平面図である。
図2】本発明品の検体採取器具 (10)の断面図である。
図3】本発明品の検体採取器具 (10)の実施形態の寸法を伴う拡大平面図である。
図4】本発明品の検体採取器具 (10)により、天然歯の歯肉溝滲出液を採取する場面を説明する側面図である。
図5】本発明品の検体採取器具 (10)により、インプラント体のインプラント周囲溝滲出液を採取する場面を説明する側面図である。
【符号の説明】
【0020】
10 検体採取器具
20 支持部
20a 支持部短辺
20b 支持部突出部
30 生体液採取部
30a 生体液採取部短辺
40 把持部
50 粘着剤
60a 天然歯牙
60b 人工歯
70 歯肉
80 歯肉溝
80a 歯肉溝滲出液
80b インプラント周囲溝滲出液
90 インプラント体
【発明を実施するための形態】
【0021】
検体採取器具とは歯肉溝滲出液またはインプラント周囲溝滲出液を採取する器具である。
検体採取器具は平面板状の滲出液採取部、滲出液採取部を保持する把持部、平面板状の支持部を有している。
【0022】
滲出液採取部とは平面板状であって、滲出液を吸収かつ保持できる素材であり、略長方形体であり、略長方形体である。滲出液採取部の長辺端部付近に把持部を有する。
【0023】
把持部は、疎水性の素材であり、滲出液採取部である平面板状の両面に設けられ、略長方形体の長辺端部の先端から長辺他端部方向に有し且つ長辺他端部と長辺端部の中央付近を超えない。
【0024】
支持部は、疎水性の弾性を有する素材であり、略長方形体であり、略長方形体の長辺端部に把持部を介して着滲出液採取部が着脱可能に接着されており、長辺他端部は滲出液吸収部を支える吸収支持端である。
【0025】
支持部と滲出液採取部のそれぞれの面が対抗し近接している。
滲出液採取部の長辺端部と支持部の略長方形体の長辺端部は同一方向に保持される様に接着されている。滲出液採取部の長辺他端部に比べ、支持部の略長方形体の長辺他端部が他端部方向に突出している。
【0026】
支持部の略長方形体の短辺は滲出液採取部の略長方形体の短辺に比べ0.5~2.0倍であり、好ましくは0.7~1.5倍である。
支持部の長辺他端部の先端部分は滲出液採取部の長辺他端部の先端から0~5.0mm長く突出している。
【0027】
実施形態に係わる検体採取器具(10)の全体構成を説明する。図1 又は図2に示すように、検体採取器具(10)は、扁平な板状の支持部(20)を有し、前記支持部(20)の表面上に接着剤(50)で保持された生体液採取部(30)及び把持部(40)から構成される。
【0028】
本発明の検体採取器具は、例えば図4に示したように、天然歯牙(60a)と歯肉(70)との間隙に形成された目的部位の歯肉溝(80)へ、支持部短辺(20a)を挿入し近傍に固定することで外れることがなく確実に歯肉溝滲出液(80a)を生体液採取部(30)が吸収し採取することができる。
さらに、例えば図5に示したように、人工歯(60b)またはインプラント体(90)と歯肉(70)との間隙に形成された目的部位の歯肉溝(80)へ、支持部短辺(20a)を挿入し近傍に固定することで外れることがなく確実にインプラント周囲溝滲出液(80b)を生体液採取部(30)が吸収し採取することができる。
【0029】
なお、(20)支持部および生体液採取部(30)は、図4に示したように目的部位の歯肉溝(80)へ重なり合うように一体にて挿入されても何ら問題はない。
さらに、検体採取後において生体液採取部(30)は支持部(20)から分離して用いることができ、検体の抽出処理時にて邪魔にならないよう使用することができる。
【0030】
支持部(20)の表面の一部には粘着剤(50)がコーティングされ、前記粘着剤(50)が把持部(40)を保持且つ脱着することができる。
【0031】
なお、支持部(20)の素材は弾性を有する樹脂であれば特に限定されるものではなく、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、セルロースプロピオネート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、アクリロニトリル、ポリアミド等の樹脂を単独でまたは2 種以上混合して使用できる。
【0032】
生体液採取部(30)は生体液を吸収かつ保持できる素材であれば特に限定されるものではなく、例えば、紙、和紙、パルプ紙、濾紙に用いられるセルロース、ガラス繊維、不織布の繊維等を使用できる。
【0033】
把持部(40)は水分等の液体を吸収し難い疎水性の素材であれば特に限定されるものではなく、例えばポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ブチラール樹脂等が使用できる。またピンセット等で摘まむことができる強度であるのが好ましい。
【0034】
粘着剤(50)は把持部(40)保持可能な粘着能力があり且つ少ない力を加えると脱離可能とする素材であれば特に限定されるものではなく、例えば、アクリル系、ウレタン系、酢酸ビニル系、シリコーン系、フッ素系等の合成樹脂にて覆うことができる。
【0035】
支持部(20)は、歯肉溝もしくはインプラント周囲溝に挿入され、検体採取器具(10)を近傍に固定又は維持する役割を有する。従って、歯肉溝もしくはインプラント周囲溝への挿入に適した支持部(20)の一端の短辺(20a)寸法(W1)は、好ましくは生体液採取部(30)の短辺(30a)寸法(W2)の0.5倍より大きく2倍以下が適当で、より好ましくは0.7倍より大きく1.5倍以下が適当である。
【0036】
また、上記と同様に歯肉溝もしくはインプラント周囲溝への挿入に適した支持部(20)の支持部突出部(20b)の長さ(T1)は、好ましくは生体液採取部短辺(30a)から0mm以上5mm以下、より好ましくは0.2mm以上3mm以下長く突出しているのが適当である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は歯肉溝滲出液またはインプラント周囲溝滲出液を採取する器具であり、産業上利用することができる。


図1
図2
図3
図4
図5