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特開2023-21591斜面保護装置、設置構造および斜面を保護する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021591
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】斜面保護装置、設置構造および斜面を保護する方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20230207BHJP
【FI】
E02D17/20 103B
E02D17/20 102A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126543
(22)【出願日】2021-08-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.試験 1)試験日 令和3年6月10日 2)試験場所 林道(愛知県新城市下吉田地内)
(71)【出願人】
【識別番号】000226747
【氏名又は名称】日新産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友人
(72)【発明者】
【氏名】長沼 寛
【テーマコード(参考)】
2D044
【Fターム(参考)】
2D044DA01
2D044DB04
(57)【要約】
【課題】斜面保護をより効果的に行うことを可能とする斜面保護装置を提供する。
【解決手段】斜面Gに設置されて斜面Gを保護するための斜面保護装置100は、縦横に平面状に延在し、縦方向が斜面Gの傾斜方向に沿うように斜面Gに敷設されるシート材101と、シート材101に形成され、シート材101の横方向に沿って長筒状に延伸する複数の収容部104と、シート材101に一体的に保持されるとともに収容部104内に配置され、横方向に長手状に延伸してシート材101の強度を増加させる複数の補強部材106と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面に設置されて前記斜面を保護するための斜面保護装置であって、
縦横に平面状に延在し、縦方向が前記斜面の傾斜方向に沿うように前記斜面に敷設されるシート材と、
前記シート材に形成され、前記シート材の横方向に沿って長筒状に延伸する複数の収容部と、
前記シート材に一体的に保持されるとともに前記収容部内に配置され、横方向に長手状に延伸して前記シート材の強度を増加させる複数の補強部材と、を備えることを特徴とする斜面保護装置。
【請求項2】
前記補強部材は、前記斜面保護装置の引張強度、曲げ強度、せん断強度の少なくとも1つの強度を増加させるように、前記シート材の材質より高い剛性を有する材質からなることを特徴とする請求項1に記載の斜面保護装置。
【請求項3】
前記補強部材は、前記収容部の縦方向の上端部に接するように配置され、前記上端部は、前記斜面保護装置が前記斜面に設置されたときに、前記斜面の法肩側に位置することを特徴とする請求項1または2に記載の斜面保護装置。
【請求項4】
前記補強部材は、前記シート材を斜面に固定するために斜面に打設される固定具と係合するための係合部を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の斜面保護装置。
【請求項5】
前記補強部材は、弾塑性材料からなる線材、棒材または板材であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の斜面保護装置。
【請求項6】
前記収容部は、長手方向に延伸する網状の長筒体から構成され、植生材料を内包する袋状または筒状の袋体を保持可能に構成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の斜面保護装置。
【請求項7】
前記長筒体は、目が粗い粗部、及び、目が細かい密部を組み合わせてなり、前記粗部は、前記シート材の平面視において、前記長筒体の長手方向に直交する幅方向の一端側に偏って形成されており、
前記シート材は、前記斜面に敷設されたときに、前記粗部が前記斜面の法肩側に位置し、前記密部が前記斜面の法尻側に位置するように敷設可能であることを特徴とする請求項6に記載の斜面保護装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の斜面保護装置が斜面に設置された設置構造であって、
複数の固定具が前記斜面に打設されることで前記斜面保護装置のシート材が斜面に固定され、前記斜面保護装置の補強部材が、前記斜面の上方側から前記固定具に当接していることを特徴とする設置構造。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載の斜面保護装置を用いて斜面を保護する方法であって、
前記斜面保護装置のシート材を前記斜面に敷設する工程と、
前記斜面保護装置の補強部材を前記斜面の表面形状に沿うように前記斜面に設置する工程と、
複数の固定具が前記補強部材と引っ掛かり合うように、前記複数の固定具を前記斜面に打設する工程と、を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面等の斜面に設置されて該斜面を保護するための斜面保護装置、斜面に斜面保護装置を設置した設置構造、および、斜面保護装置を用いて斜面を保護する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
法面などの斜面において、土砂の流失を防止して斜面を保護することが行われている。従来、土、種子、肥料、保水材などの植生材料(または植生基材)を保持する植生マットが土壌にアンカーなどを用いて固定されることにより、緑化とともに斜面の保護が行われている。
【0003】
特許文献1は、自然植生植物で緑化すべき土壌の表面に敷設される植生マットを示している。以下、当該段落において、()内に特許文献1の符号を示す。植生マット(100)は、緑化すべき土壌(P)の自然環境に対応する埋土種子(111)を含む現地発生土(106)を収容した第1収容部(102)と、第1収容部(102)と異なる位置で人工土(107)を収容した第2収容部(103)と、を備える。第1及び第2収容部(102,103)は、長手方向に延伸する網状の長筒体から構成され、現地発生土(106)又は人工土(107)を収容する植生袋(108)を保持可能に構成されている。植生マット(100)は、法面等の美化と共に土砂の流失を防止するために土壌(P)に設置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5981062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような従来の植生マット(斜面保護装置)は、法面を含む斜面を緑化することは可能であるが、その斜面表面の土砂の移動や小規模な落石を抑制するのに十分な強度を有していない。また、施工した植生マットが、経時とともに荷重によって破れたり、斜面から剥がれたりすることも問題として挙げられる。すなわち、従来の斜面保護装置に対して、斜面保護性能を改善することを本発明の課題とした。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、斜面保護をより効果的に行うことを可能とする斜面保護装置、斜面保護装置を斜面に設置した設置構造、および、斜面保護装置を用いて斜面を保護する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の斜面保護装置は、斜面に設置されて前記斜面を保護するための斜面保護装置であって、
縦横に平面状に延在し、縦方向が前記斜面の傾斜方向に沿うように前記斜面に敷設されるシート材と、
前記シート材に形成され、前記シート材の横方向に沿って長筒状に延伸する複数の収容部と、
前記シート材に一体的に保持されるとともに前記収容部内に配置され、横方向に長手状に延伸して前記シート材の強度を増加させる複数の補強部材と、を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の斜面保護装置は、請求項1に記載の斜面保護装置において、前記補強部材は、前記斜面保護装置の引張強度、曲げ強度、せん断強度の少なくとも1つの強度を増加させるように、前記シート材の材質より高い剛性を有する材質からなることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の斜面保護装置は、請求項1または2に記載の斜面保護装置において、前記補強部材は、前記収容部の縦方向の上端部に接するように配置され、前記上端部は、前記斜面保護装置が前記斜面に設置されたときに、前記斜面の法肩側に位置することを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の斜面保護装置は、請求項1から3のいずれか一項に記載の斜面保護装置において、前記補強部材は、前記シート材を斜面に固定するために斜面に打設される固定具と係合するための係合部を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の斜面保護装置は、請求項1から4のいずれか一項に記載の斜面保護装置において、前記補強部材は、弾塑性材料からなる線材、棒材または板材であることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の斜面保護装置は、請求項1から5のいずれか一項に記載の斜面保護装置において、前記収容部は、長手方向に延伸する網状の長筒体から構成され、植生材料を内包する袋状または筒状の袋体を保持可能に構成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の斜面保護装置は、請求項6に記載の斜面保護装置において、前記長筒体は、目が粗い粗部、及び、目が細かい密部を組み合わせてなり、前記粗部は、前記シート材の平面視において、前記長筒体の長手方向に直交する幅方向の一端側に偏って形成されており、
前記シート材は、前記斜面に敷設されたときに、前記粗部が前記斜面の法肩側に位置し、前記密部が前記斜面の法尻側に位置するように敷設可能であることを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の設置構造は、請求項1から7のいずれか一項に記載の斜面保護装置が斜面に設置された設置構造であって、
複数の固定具が前記斜面に打設されることで前記斜面保護装置のシート材が斜面に固定され、前記斜面保護装置の補強部材が、前記斜面の上方側から前記固定具に当接していることを特徴とする。
【0015】
請求項9に記載の方法は、請求項1から7のいずれか一項に記載の斜面保護装置を用いて斜面を保護する方法であって、
前記斜面保護装置のシート材を前記斜面に敷設する工程と、
前記斜面保護装置の補強部材を前記斜面の表面形状に沿うように前記斜面に設置する工程と、
複数の固定具が前記補強部材と引っ掛かり合うように、前記複数の固定具を前記斜面に打設する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の斜面保護装置によれば、シート材の横方向に延伸する収容部内に補強部材を設けることによってシート材の強度を効果的に増加させることができる。すなわち、当該シート材の横方向に延伸する補強部材によって、斜面の傾斜方向に直交する方向に沿って斜面を保護する強度が部分的に増加し、土砂の移動や落石を効果的に抑制することができる。また、補強部材が、シート材に一体的に保持されるとともに斜面の傾斜方向に直交する方向に配置されることにより、シート材の横方向の一部に荷重が集中してシート材が破れることが抑えられるとともに、シート材が斜面から剥がれることも抑えられる。したがって、本発明の斜面保護装置は、従来よりも斜面保護をより効果的に行うことを可能とするものである。
【0017】
請求項2に記載の斜面保護装置によれば、請求項1に記載の発明の効果に加えて、補強部材がシート材の材質より高い剛性を有する材質からなり、シート材の引っ張り強度、曲げ強度、せん断強度の少なくとも1つの強度を増加させることにより、より強固に斜面保護を行うことが可能である。
【0018】
請求項3に記載の斜面保護装置によれば、請求項1または2に記載の発明の効果に加えて、補強部材が収容部の縦方向の(斜面の法肩側に位置する)上端部に接するように配置されていることにより、補強部材がシート材の自重やシート材にかかる斜面下方への引張力を等分布に近い形で分散して受けることができる。よって、本発明の斜面保護装置は、シート材および収容部が部分的に斜面下側に弛んで、破れたり損傷したりすることを抑えることができる。
【0019】
請求項4に記載の斜面保護装置によれば、請求項1から3のいずれかに記載の発明の効果に加えて、補強部材の係合部に固定具を係合させるようにして固定具を打設することにより、固定具と斜面保護装置との間の荷重を補強部材が直に受けて、固定具による斜面保護装置の斜面への固定状態をより長期間維持することができる。
【0020】
請求項5に記載の斜面保護装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載の発明の効果に加えて、弾塑性材料からなる線材、棒材または板材である補強部材を設置時に斜面表面の凹凸形状に沿わせて塑性変形させることにより、斜面を押さえる作用を発揮して、斜面保護の土砂移動や落石をより効果的に抑制することができる。さらに、補強部材が弾性を有することにより、外部からの引張力を受けて撓んだとしても、引張力を発生する要因を除去した後に、弾性復帰して元の形状を維持することが可能である。
【0021】
請求項6に記載の斜面保護装置によれば、請求項1から5のいずれかに記載の発明の効果に加えて、収容部に植生材料を内包する袋体を充填することにより、斜面保護と同時に斜面の緑化をすることが可能となる。
【0022】
請求項7に記載の斜面保護装置によれば、請求項6に記載の発明の効果に加えて、網状長筒体の粗部が法面の法肩(上方)側に位置し、網状長筒体の密部が法面の法尻(下方)側に位置するようにシート材を斜面に配置可能である。すなわち、斜面の法肩側の網目が粗いので、植物の発芽及び成長がネットによって邪魔されることがない。他方、法面の法尻側の網目が細かいので、植生材料を安定的に保持することが可能である。さらに、収容部の密部で流れ落ちる細かい土砂を捕捉して土砂の流出量を抑えることも可能である。
【0023】
請求項8に記載の設置構造によれば、請求項1から7のいずれかに記載の斜面保護装置に係る発明の効果を設置構造として発揮することができる。また、補強部材が斜面の上方側から固定具に当接した状態で、固定具が斜面に打設されることにより、固定具が補強部材を下支えするとともに、固定具と斜面保護装置との間の荷重を補強部材が受けて、固定具による斜面保護装置の斜面への固定状態をより長期間維持することができる。したがって、本発明の設置構造は、従来よりも高い斜面保護効果を有する。
【0024】
請求項9に記載の方法によれば、請求項1から7のいずれかに記載の斜面保護装置に係る発明の効果を斜面の保護方法として発揮することができる。また、補強部材を斜面の表面形状に沿うように前記斜面に設置することにより、斜面を押さえる作用を発揮して、斜面保護の土砂移動や落石をより効果的に抑制することができる。さらに、複数の固定具が補強部材と引っ掛かり合うように複数の固定具を斜面に打設することにより、固定具と斜面保護装置との間の荷重を補強部材が受けて、固定具による斜面保護装置の斜面への固定状態をより長期間維持することができる。したがって、本発明の方法は、従来よりも強固に斜面を保護することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態の斜面保護装置の概略斜視図。
図2図1の斜面保護装置の部分拡大斜視図。
図3図1の斜面保護装置の平面図。
図4図3の斜面保護装置のA-A断面図。
図5図1の斜面保護装置の補強材を示す部分拡大図。
図6】本発明の一実施形態の斜面保護装置を斜面に設置した設置構造を示す概略斜視図。
図7図6の設置構造の部分拡大図。
図8図6の設置構造のB-B断面図。
図9】本発明の実施例の設置構造の試験結果を示し、設置後、180日経過後の設置構造の(a)実施例の相対的に遠距離から撮影した写真、および、(b)相対的に近距離から撮影した写真。
図10】本発明の実施例の設置構造の試験結果を示し、設置後、180日経過後の設置構造の(a)比較例の相対的に遠距離から撮影した写真、および、(b)相対的に近距離から撮影した写真。
図11】本発明の斜面保護装置の補強部材の変形例を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において参照する各図の形状は、好適な形状寸法を説明する上での概念図または概略図であり、寸法比率等は実際の寸法比率とは必ずしも一致しない。つまり、本発明は、図面における寸法比率に限定されるものではない。
【0027】
本発明の一実施形態の斜面保護装置100は、法面等の斜面に設置されることで、土砂の流出防止や落石の抑制等の斜面保護を目的とするものである。一方で、斜面保護装置100は、植生材料を含む袋体110が充填されることで、斜面表面を植生植物で緑化するための植生マットとしても使用され得る。なお、本明細書の「植生材料」は、植生に用いられる材料であって、種子、肥料、土壌改良材、保水材、撥水抑制材、土砂、生育基盤材などを少なくとも1つ含むものである。
【0028】
本実施形態の斜面保護装置100は、保護すべき斜面表面を被覆可能に縦横に所定の大きさで延在するように全体としてシート形状に構成されている。図1に示すように、斜面保護装置100は、縦方向に長尺であり、ロール状に巻いて収容され得る。当該斜面保護装置100を斜面に敷設する場合、斜面保護装置100の一端を斜面の法肩側で支持し、ロール部分を法尻側に転がすようにして斜面保護装置100を展開することで、斜面保護装置100を斜面に簡単に設置することが可能である。なお、斜面保護装置100は、構成要素として、任意に、植生材料を内包する袋体110を備えてもよい。また、斜面保護装置100は、構成要素として、自身を斜面に固定するための1または複数の固定具111を備えてもよい。
【0029】
図1乃至図4を参照して、斜面保護装置100の構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態の斜面保護装置100の概略斜視図である。図2は、該斜面保護装置100の部分拡大斜視図である。図3は、該斜面保護装置100の平面図である。図4は、該斜面保護装置100のA-A断面図である。なお、本明細書では、斜面保護装置100が斜面に敷設されたときに斜面の傾斜方向に沿う方向を「縦」方向とし、斜面の等高線方向に沿う方向を「横」方向として定義する。さらに、斜面保護装置100が斜面に敷設されたときに斜面の法肩側(上方または高所側)に配置される側を「上」位置とし、斜面の法尻側(下方または低所側)に配置される側を「下」位置として定義する。
【0030】
本実施形態の斜面保護装置100は、縦横に平面状に延在し、縦方向が斜面の傾斜方向に沿うように斜面に敷設されるシート材101と、該シート材101に形成され、シート材101の横方向に沿って長筒状に延伸する複数の収容部104と、該シート材101に一体的に保持されるとともに収容部104内に配置され、横方向に長手状に延伸してシート材101の強度を増加させる複数の補強部材106と、を備える。
【0031】
シート材101は、縦横所定の大きさ及び所定の厚みを有する柔軟な平面長手状のマットである。シート材101は、斜面と反対側に設置される表面、および、斜面側に設置される裏面を有している。当該シート材101は、不織布シートからなるマット状の第1層102の表面側に、縦糸及び横糸を略直交に編み込んで形成したネット体(網状シート)からなる第2層103を貼り合わせたものである。第2層103は、ネット体が2重となる複数の箇所を有し、当該箇所に横方向に長筒状に延びる複数の収容部104が設けられている。
【0032】
第1層102は、斜面保護装置100に植生マットとしての機能を付与すべく、不織布、紙または織布シート等からなる植生用シートとして構成され得る。より具体的には、本実施形態では、第1層102は、水解性(水溶性、水脆弱性)の不織布と紙との間に種子や肥料を挟み込んで接着することで、植生用シートとしての機能を持たせている。水解性の不織布は、降雨により水解する、又は、水溶する等、設置後に短期間(1~数回の降雨)で容易にその形状や強度を失うことができるものである。また、第2層103は、縦糸および横糸で編み込まれたネット体から構成され得る。ネット体の縦糸および横糸は、合成樹脂材料や天然材料の繊維から形成され得る。そして、第2層103では、複数の収容部104が縦方向に連続的に配列している。
【0033】
収容部104は、長手方向に延伸する網状の長筒体から構成され、補強部材106とともに、植生材料を内包する袋状または筒状の袋体110を保持可能に構成されている。各収容部104は、第1層102の上でシート材101の横方向に亘って長手状に延在している。より具体的には、網状の収容部104は、縦方向に位置する複数の縦糸と、該縦糸を連結する横糸とにより構成されて、横糸を表裏に分割してこれら各横糸のそれぞれに各縦糸を横方向に対して交互に編み込むことにより筒状を形成したものである。つまり、収容部104は、2枚のネットが重ね合わされた袋状に形成されている。そして、収容部104は、その長手方向がシート材101の横方向に沿うように一端から他端に亘って延在している。該収容部104の長手方向の端部の一端又は両端が開口し、長尺の補強部材106および筒状の袋体110を開口から挿入可能に構成されている。なお、図1乃至図4の斜面保護装置100の収容部104に充填されることが想定される袋体110は点線で描写された。また、各図において、説明の便宜上、(袋体110を充填しない)収容部104が膨らんで開口しているように描写されたが、実際には、収容部104の2枚のネットは、重力により重なり合って閉口した状態となる。
【0034】
また、収容部104は、目が粗い粗部104a、及び、目が細かい密部104bを組み合わせてなる。なお、粗部104a及び密部104bは、縦横両方又はいずれかの目の大きさが相対的に異なる領域として定められている。粗部104aは、斜面保護装置100の平面視において、収容部104の長手方向に直交する幅方向の一端側に偏って形成されている。特には、シート材平面における縦方向の略上側半分を粗部104aが占め、残りの略下側半分を密部104bが占めている。これにより、後述するとおり、斜面保護装置100が法面に敷設されたときに、収容部104の外周の一部を占める粗部104aが斜面の上側に位置し、収容部104の外周の残りを占める密部104bが斜面の下側に位置する。なお、本実施形態では、粗部104aの目合いの大きさが、縦横約20mm×約12.5mmであり、密部104bの目合いの大きさが、縦横約3mm×約12.5mmであるが、本発明は特定の寸法に限定されるものではない。
【0035】
複数の収容部104の各々の内部には、補強部材106が配置されている。補強部材106は、収容部104の長手方向の一端近傍から他端近傍に亘って延伸する長さを有する長尺の線材または棒材からなる。また、本発明の補強部材は、図11(c)に示すような、長尺の板材であってもよい。本実施形態では、補強部材106が1つおきに収容部104に一体的に保持されているが、補強部材106が収容部104の全てに配置されてもよく、また、不規則に配置されてもよい。さらに、補強部材106の縦方向の配置間隔は、100mm~1000mmであることが好ましく、500mm~600mmであることがより好ましい。
【0036】
本実施形態では、シート材101が柔軟な材料で形成される一方で、補強部材106は、シート材101の材質より相対的に高い剛性を有する材質からなる。つまり、補強部材106は、斜面保護装置100全体の強度(引張強度、曲げ強度、せん断強度)を増加させる材料から形成される。より具体的には、本発明の補強部材は、鉄、ステンレス、アルミニウム等の金属材料、ポリエチレンやポリプロピレン等の合成樹脂を成型または延伸した高強度プラスチック材料、ポリエステル、ビニロン、ガラスカーボン、アラミド等を繊維化もしくはフェルト化した高強度繊維材料等から形成された線材、棒材または板材であり得る。また、補強部材106は、弾性および塑性を併せ持つ弾塑性材料からなることが好ましい。本実施形態では、補強部材106は、剛性を有する弾塑性材料である鉄線や鋼線などの金属材料から形成された。また、補強部材106を鉄線とした場合、補強部材106自体の重量と強度を考慮すると、その径が1mm~8mmであることが好ましく、2.6mm~3.2mmであることがより好ましい。なお、補強部材の材料や形状寸法は、ここで説明した形態に限定されず、斜面保護装置100の引張強度、曲げ強度、せん断強度の少なくとも1つの強度を向上させるものから任意に選択され得る。
【0037】
補強部材106は、収容部104の縦方向の上端部に接するように配置されている。上端部は、斜面保護装置100が斜面に設置されたときに、斜面の法肩側に位置する部位である。補強部材106は、収容部104の上端部の横糸に対して、長手方向に亘って複数の連結具108によって一体的に固定されている。ここでは、連結具108はCリングであるが、結束バンドや番線などであってもよい。また、図5に示すように、補強部材106の両端には、シート材101を斜面に固定するために斜面に打設される固定具(アンカー)111と係合するための係合部107が設けられている。係合部107は、両端で環状にカール曲げされた箇所である。また、固定具111は、棒状の頭部と、該頭部から屈折し、地面に突き刺さる鋭利な先端部を有するL字型のアンカーである。係合部107の環状部分の内部に、固定具111の先端を挿入することにより、係合部107および固定具111を互いに係合させることができる。なお、係合部107は、固定具111に引っ掛かり可能な形状を有していればよく、図11(a)、(b)に示す補強部材106’,106”およびその係合部107’,107”のような、線材をフック形状や楕円形状に折り曲げたものでもよく、あるいは、図11(c)に示す補強部材106”’およびその係合部107”’のような、板材に穿設した孔であってもよい。
【0038】
また、収容部104に袋体110を充填する際、補強部材106を内部に配置した収容部104を選択して袋体110を充填することが好ましい。なぜなら、袋体110を保持する収容部104の上端に補強部材106が配置されることにより、袋体110にかかる土砂や積雪等の荷重を、補強部材106で横方向に効果的に分散できるからである。しかしながら、本発明はこれに限定されることなく、任意に選択された収容部104に袋体110が充填されてもよい。
【0039】
次に、本実施形態の斜面保護装置100を斜面Gの土壌表面に敷設した設置構造10について説明する。図6は、設置構造10の概略斜視図である。図7は、設置構造10の部分拡大図であり、設置構造10の一部を切り欠いて表示する。図8は、設置構造10のB-B断面図である。
【0040】
図6乃至図8に示す設置構造10において、斜面保護装置100が斜面Gの土壌表面に複数の固定具111を用いて固定されている。ここでは、複数の斜面保護装置100が斜面Gの所定の領域を覆うように横方向に並設されている。また、設置構造10において、長筒状の収容部104が斜面Gの傾斜方向と直交する方向に延在しているとともに、複数の補強部材106が収容部104内部でその長手方向に亘って延在している。この収容部104は、袋状であることから、斜面Gの下方に落ちる土砂等を捕捉するようにも機能し得る。また、複数の補強部材106は、斜面Gの傾斜方向にほぼ等間隔に並んでいる。補強部材106は、その長尺方向において、斜面Gの表面形状の凹凸に沿うように曲げられて塑性変形している(図示せず)。補強部材106と斜面G表面との密着性が上がり、より高い保護効果を得ることができる。そして、図7および図8に示すように、各補強部材106が収容部104の縦方向の斜面Gの法肩側に位置する上端部に接するように配置されている。これにより、補強部材106が、シート材101の自重や、シート材101に作用する土砂や落石の重さにより生じる斜面下方への引張力を等分布に近い形で分散して受けることができ、シート材101自体の損傷や劣化を抑えることができる。
【0041】
さらに、1本の補強部材106に対して複数の固定具111が当接するように打設されている。特には、各補強部材106の環状の係合部107を貫通するように固定具111が斜面Gに打設され、補強部材106が固定具111によって斜面Gに直接的に固定されている。つまり、補強部材106の両端の係合部107が、斜面Gへの被固定部を形成している。また、複数の固定具111が補強部材106の一対の係合部107,107の間の中間部位に下側から当接するように斜面Gにさらに打設されている。このとき、補強部材106が、斜面Gの上方側から複数の固定具111に当接している。また、固定具111のL字形状の頭部が、斜面Gの傾斜方向に沿って上側を向くように配置されている。これにより、補強部材106が、固定具111に係止されて浮き上がることが防止される。すなわち、補強部材106が斜面Gの上方側から固定具111に当接した状態で、複数の固定具111が斜面Gに打設されたことにより、固定具111が補強部材106を下支えするとともに、固定具111と斜面保護装置100との間の荷重を補強部材106が受けて、固定具111による斜面保護装置100の斜面Gへの固定状態をより長期間維持することができる。なお、本発明において、固定具111の打設位置は、どの位置にあっても下支えによる補強効果を期待できるが、特に、固定具111を係合部107に対して打設したことにより、係合部107の存在によって固定具111がより外れにくくなることから、より一層補強効果を高めることができる。
【0042】
さらに、図6の部分拡大図に示すように、隣接する斜面保護装置100,100において、左右に隣接する補強部材106,106の係合部107,107同士を重ね合わせて固定具111を打設したことで、左右の補強部材106,106同士を一体的に連結することができる。すなわち、複数の斜面保護装置100が、斜面G全体を隙間なく覆って保護することができる。その結果、斜面Gの補強効果をさらに高めることができる。
【0043】
また、設置構造10では、斜面保護装置100は植生マットとしても機能する。シート材101の一部の収容部104には、植生材料を内包する袋体110が収容されている。袋体110の外袋は、被覆植物の根が通過することを許容する通根性を有し、且つ、設置後に1から数回の降雨によって分解する水解性を有する素材で形成されることが好ましい。図7に示すように、斜面Gの法肩側に収容部104の粗部104aが配置され、斜面Gの法尻側に収容部104の密部104bが配置されている。すなわち、収容部104の下側約半分の網目を、上側約半分の網目に対して細かくして、この長筒体の下側約半分によって袋体110を保持するようにしたので、袋体110の外袋が水解して消失しても、内容物が保留されたままとなるのである。つまり、網目を細かく形成した下側約半分の密部104bが内容物を斜面Gから落下させないで受け止める。他方、斜面Gの法肩側の網目が粗いので、植物の発芽及び成長がネットによって邪魔されることがない。したがって、本実施形態の設置構造10は、土砂の移動や落石を抑えるべく斜面Gを保護するとともに、斜面Gの効果的に緑化することも可能としている。
【0044】
続いて、本実施形態の斜面保護装置100を用いて斜面Gを保護する方法について説明する。まず、斜面保護装置100のシート材101を斜面Gに敷設する。次に、シート材101を斜面Gに敷設した状態で、補強部材106を斜面Gの表面形状に沿うように斜面Gに設置する。より具体的には、斜面Gの表面形状に凹凸がある場合、補強部材106の形状を斜面Gの凹凸になじませるように補強部材106を曲げて塑性変形させる。次いで、複数の固定具111が補強部材106と引っ掛かり合う(または掛合する)ように、複数の固定具111を斜面に打設する。より具体的には、固定具111の先端を補強部材106の係合部107の環状部分の内側に貫通させて、固定具111をシート材101および斜面Gに打設する。さらに、複数の固定具111を、補強部材106の一対の係合部107,107の間の中間部位を下支えするように斜面Gに打設する。以上の工程を経て、斜面保護装置100を斜面Gに設置し、斜面Gを保護することができる。
【0045】
発明者らは、上述した本発明の斜面保護装置の作用効果を確認するために実証試験を行った。実証試験は、外部からの立ち入りが禁止された完全に非公開の敷地内において、斜面の保護を試み、その経時的な結果を観察することによって実施された。実施例は、上記実施形態の斜面保護装置100と同様の構成とした。比較例の斜面保護装置は、本実施形態の斜面保護装置から補強部材を省略した従来の植生マットと同様の構成を有するものである。
【0046】
図9(a)、(b)は、設置後の180日経過の状態を示す実施例の遠距離からの写真および近距離からの写真である。 図10(a)、(b)は、設置後の180日経過の状態を示す比較例の遠距離からの写真および近距離からの写真である。比較条件をなるべく近付けるべく、実施例の斜面保護装置および比較例の斜面保護装置を斜面のなるべく近い場所に設置した。図9(a)、(b)に示す実施例の設置構造では、補強部材によって、ネット体の弛みが発生することなく、ネット体が破れたり、損傷することが抑えられ、斜面保護装置の形状が比較的維持されている。他方、図10(a)、(b)に示す比較例の設置構造では、ネット体の弛みが発生し、ネット体が部分的に破れて斜面保護装置が損傷し、斜面の保護性能を十分に発揮することができない状態にあることが分かる。したがって、実施例の斜面保護装置は、従来よりも高い斜面保護効果を有することが実証された。
【0047】
以下、本発明の一実施形態の斜面保護装置100の作用効果について説明する。
【0048】
本実施形態の斜面保護装置100によれば、シート材101の横方向に延伸する収容部104内に補強部材106を設けることによってシート材101および収容部104の強度を効果的に増加させることができる。すなわち、当該シート材101の横方向に延伸する補強部材106によって、斜面Gの傾斜方向に直交する方向に沿って斜面Gを保護する強度が部分的に増加し、土砂の移動や落石を効果的に抑制することができる。また、補強部材106が、シート材101に一体的に保持されるとともに斜面Gの傾斜方向に直交する方向に配置されることにより、横方向の一部に荷重が集中してシート材101が破れることが抑えられるとともに、シート材101が斜面Gから剥がれることも抑えられる。したがって、本実施形態の斜面保護装置100は、従来よりも斜面保護をより効果的に行うことを可能とするものである。
【0049】
本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の変形例を取り得る。以下、本発明の変形例を説明する。
【0050】
(1)上記実施形態の斜面保護装置では、シート材が、植生用シートからなる第1層と収容部を含む網状シートの第2層とによって形成されたが、本発明はこれに限定されない。例えば、シート材は、収容部を含む不織布または織布シートのみで構成されてもよい。また、シート材は、緑化可能な表面、または、緑化不可能な表面を有し、土壌への雑草の繁茂を防止する防草シートであってもよい。あるいは、シート材は、収容部を含む網状シートの第2層のみによって形成されてもよい。
【0051】
(2)上記実施形態の斜面保護装置では、シート材は、ネット体および植生用シートによる柔軟な材質で形成されたが、本発明はこれに限定されない。例えば、シート材は、繊維や糸を編んで形成したネットよりも強度及び耐久性が高い、金網や合成樹脂ネット(ネトロン(登録商標)シート)などであってもよい。その場合、補強部材は、引張強度、曲げ強度、せん断強度の少なくとも1つにおいて相対的に高い強度を有する材料または形状により形成される。
【0052】
(3)上記実施形態の斜面保護装置は、斜面保護および斜面緑化を両立するものであるが、本発明はこれに限定されない。すなわち、斜面保護装置は、少なくとも斜面保護を行うことができればよく、植生マットとして使用されなくてもよい。換言すれば、上記実施形態では、収容部は、補強部材および植生材料を含む袋体の両方を内部に収容可能に形成されたが、本発明はこれに限定されない。例えば、収容部は、補強部材のみを収容可能に構成されてもよい。
【0053】
(4)上記実施形態の斜面保護装置では、補強部材が収容部の横方向の両端に亘って延在する1本の長尺体からなるが、本発明はこれに限定されない。例えば、補強部材が横方向に複数本に分割されてもよい。
【0054】
なお、本発明は上述した複数の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の態様で実施しうるものである。
【符号の説明】
【0055】
10 設置構造
100 斜面保護装置
101 シート材
102 第1層
103 第2層
104 収容部
104a 粗部
104b 密部
106 補強部材
107 係合部
108 連結具
110 袋体
111 固定具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11