(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021609
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】股関節手術用補助具
(51)【国際特許分類】
A61F 2/46 20060101AFI20230207BHJP
A61F 2/36 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
A61F2/46
A61F2/36
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126574
(22)【出願日】2021-08-02
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】521340300
【氏名又は名称】古賀 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】古賀 大介
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA04
4C097BB01
4C097DD03
4C097DD09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ガイドピンの挿入時に大腿骨の規定位置から脱離することなく固定される、表面置換型人工股関節置換手術に適した手術用補助具を提供する。
【解決手段】表面置換型人工股関節手術に用いる手術用補助具であって、ガイドピンを挿入する貫通孔21を有するガイド部2と、患者固有の大腿骨の一部の形状と合致するように設計された接触領域を有するレファレンス部3と、ガイド部及びレファレンス部を接続するアーム部4と、を備え、ガイド部は、大腿骨頭へのガイドピンの挿入位置及び角度を決定し、接触領域は、転子間稜の形状に合致し、転子間稜の隆起部分を覆うように設計された第1のエリア311と、大腿骨の頚部の形状に合致する第2のエリア321と、転子間稜と頚部との間に位置する梨状窩の形状に合致する第3のエリア322と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面置換型人工股関節手術に用いる手術用補助具であって、
ガイドピンを挿入する貫通孔を有するガイド部と、
患者固有の大腿骨の一部の形状と合致するように設計された接触領域を有するレファレンス部と、
前記ガイド部及びレファレンス部を接続するアーム部と、
を備え、
前記ガイド部は、大腿骨頭へのガイドピンの挿入位置及び角度を決定し、
前記接触領域は、転子間稜の形状に合致し、前記転子間稜の隆起部分を覆うように設計された第1のエリアと、前記大腿骨の頚部の形状に合致する第2のエリアと、前記転子間稜と前記頚部との間に位置する梨状窩の形状に合致する第3のエリアと、を備える、手術用補助具。
【請求項2】
前記第1のエリアは、大転子及び小転子にかけて延びる前記転子間稜の全長に対し、前記転子間稜の中央部分を含む1/4~1/2の範囲の形状と合致する、請求項1に記載の手術用補助具。
【請求項3】
前記レファレンス部は、固定ワイヤを挿入するための複数の固定ワイヤ挿入孔を備え、
前記固定ワイヤ挿入孔は、前記第1のエリア及び前記第2のエリアのそれぞれに1以上設けられる、請求項1又は2に記載の手術用補助具。
【請求項4】
前記ガイド部は、前記大腿骨頭から離間するよう設けられる、請求項1~3の何れか一項に記載の手術用補助具。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の手術用補助具の設計方法であって、
患者の大腿骨の3D画像に基づいて、前記大腿骨頭に挿入するガイドピンの挿入位置及び角度を決定し、前記ガイド部を設計するガイド部設計工程と、
前記3D画像の転子間稜、頚部、及び梨状窩の形状に基づいて、前記レファレンス部を設計するレファレンス部設計工程と、
前記ガイド部及び前記レファレンス部を接続する前記アーム部を設計する工程と、を含む、手術用補助具の設計方法。
【請求項6】
請求項1~4の何れか一項に記載の手術用補助具の製造方法であって、
患者の大腿骨の3D画像に基づいて、前記大腿骨頭に挿入するガイドピンの挿入位置及び角度を決定し、前記ガイド部を設計するガイド部設計工程と、
前記3D画像の転子間稜、頚部、及び梨状窩の形状に基づいて、前記レファレンス部を設計するレファレンス部設計工程と、
前記ガイド部及び前記レファレンス部を接続する前記アーム部を設計する工程と、を含む、手術用補助具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、股関節手術用補助具、股関節手術用補助具の設計方法、及び股関節手術用補助具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
股関節手術の治療法として、骨頭等の損傷面を摘出後、人工股関節に置換する技術が知られている。人工股関節置換術としては、股関節の大部分を人工物(インプラント)に置換する全置換型や、大腿骨頭表面のみをインプラントに置換する表面置換型が存在する。表面置換型人工股関節置換術(HRA)は、骨温存が可能であり、かつ脱臼抵抗性が高いといった特徴を有し、近年、比較的若年者に対し良好な術後経過が得られることが報告されている(非特許文献1及び2参照)。
【0003】
人工股関節置換手術では、術後の合併症等のリスクを低減するため、適切な位置にインプラントを設置することが重要となる。表面置換型の手術においては、初めに大腿骨頭へ挿入するガイドピンの位置によって、その後のインプラントの設置位置の決定に大きな影響を与える。
ガイドピンは、X線撮影画像等を用いて、術中に正しい位置に挿入されているか確認することが可能であるが(例えば、特許文献1)、正しい位置に挿入できるか否かは、術者の力量に大きく左右されていた。
【0004】
このような問題に鑑み、患者専用のガイドワイヤのアライメントガイドが開発されている。例えば、特許文献2には、患者の大腿骨頭に適合し、大腿骨頭内への切り込みのための角度及び位置を画定する開口を備えた、ピン配置決定用の装置が開示されている。
また、特許文献3には、頚部と大腿骨頭を覆う部材を有し、患者の大腿骨の形状に合致するように構成されたアライメントガイドが記載されている。
【0005】
上記のように、患者固有の形状にカスタマイズした補助具を用いることで、手術中にX線撮影等を行うことなく、ガイドワイヤの挿入位置の決定を行うことができる。
しかしながら、補助具の作製後から手術前の間に、大腿骨頭の壊死が進み、大腿骨頭の形状が測定時から変化してしまう可能性がある。この場合、アライメントガイドの形状が患者の大腿骨頭部と一致せず、適切な位置にガイドを設置できないといった問題があった。
【0006】
また、表面置換型の手術においては、全置換型の手術と比較して患者への侵襲性を最小限とし、可能な限り筋組織を温存させるよう手術を行うため、全置換型手術で従来知られた器具等をそのまま転用するのは困難であるという事情があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-097220号公報
【特許文献2】特表2010-533043号公報
【特許文献3】特表2012-525941号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】高橋晃・高階祐輔・石井研史・古賀大介、若年男性に対する表面置換型人工股関節置換術の短中期成績の検討、Hip Joint Vol. 46, No. 2, pp. 805-807, 2020
【非特許文献2】Daniel J, et al: Results of Birmingham hip resurfacing at 12 to15 years: a single-surgeon series. Bone Joint J 96-B:1298-1306, 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記事情に鑑み、本発明は、ガイドピンの挿入時に大腿骨の規定位置から脱離することなく固定される、表面置換型人工股関節置換手術に適した手術用補助具を提供することを課題とする。
【0010】
また、本発明は、上記手術用補助具を容易に製造するための設計方法及び製造方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明は、表面置換型人工股関節手術に用いる手術用補助具であって、
ガイドピンを挿入する貫通孔を有するガイド部と、
患者固有の大腿骨の一部の形状と合致するように設計された接触領域を有するレファレンス部と、
前記ガイド部及びレファレンス部を接続するアーム部と、
を備え、
前記ガイド部は、大腿骨頭へのガイドピンの挿入位置及び角度を決定し、
前記接触領域は、転子間稜の形状に合致し、前記転子間稜の隆起部分を覆うように設計された第1のエリアと、前記大腿骨の頚部の形状に合致する第2のエリアと、前記転子間稜と前記頚部との間に位置する梨状窩の形状に合致する第3のエリアと、を備える、手術用補助具である。
【0012】
上記構成を有する本発明は、患者の大腿骨に安定して固定することができ、ガイド部の貫通孔に従って挿入するだけで、ガイドピンの挿入位置及び方向を容易に決定することができる。また、接触領域は、大腿骨頭ではなく、骨の形状が変化することのない転子間稜、頚部、及び梨状窩の形状と合致するため、前記3点の形状に沿って確実に器具を固定することができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記第1のエリアは、大転子及び小転子にかけて延びる前記転子間稜の全長に対し、前記転子間稜の中央部分を含む1/4~1/2の範囲の形状と合致する。
上記特徴を有する本発明は、転子間稜の一部のみに前記接触領域を設定する構成を採用するため、手術時に大転子及び小転子に接続する筋線維及び腱を切除することなく手術用補助具を設置することが可能となり、患者の筋線維及び腱を可能な限り温存させることができる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記レファレンス部は、固定ワイヤを挿入するための複数の固定ワイヤ挿入孔を備え、前記固定ワイヤ挿入孔は、前記第1のエリア及び前記第2のエリアのそれぞれに1以上設けられる。
固定ワイヤ挿入孔を第1のエリア及び第2のエリアに設けることで、頚部及び転子間稜の両面からレファレンス部をワイヤで固定することができ、手術時における手術用補助具の固定安定性を高めることができる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記ガイド部は、前記大腿骨頭から離間するよう設けられる。
ガイド部を大腿骨頭から離間させることで、大腿骨頭の状態を確認しつつガイドピンを挿入することができ、ピン挿入スピード等の調整が容易となる。
【0016】
また、本発明は、表面置換型人工股関節手術に用いる手術用補助具の設計方法であって、
患者の大腿骨の3D画像に基づいて、前記大腿骨頭に挿入するガイドピンの挿入位置及び角度を決定し、前記ガイド部を設計するガイド部設計工程と、
前記3D画像の転子間稜、頚部、及び梨状窩の形状に基づいて、前記レファレンス部を設計するレファレンス部設計工程と、
前記ガイド部及び前記レファレンス部を接続する前記アーム部を設計する工程と、を含む、手術用補助具の設計方法に関する。
【0017】
また、本発明は、表面置換型人工股関節手術に用いる手術用補助具の製造方法であって、
患者の大腿骨の3D画像に基づいて、前記大腿骨頭に挿入するガイドピンの挿入位置及び角度を決定し、前記ガイド部を設計するガイド部設計工程と、
前記3D画像の転子間稜、頚部、及び梨状窩の形状に基づいて、前記レファレンス部を設計するレファレンス部設計工程と、
前記ガイド部及び前記レファレンス部を接続する前記アーム部を設計する工程と、を含む、手術用補助具の製造方法にも関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、手術時に患者の大腿骨の適切な位置に容易且つ迅速に設置可能であり、ガイドピンの挿入時に大腿骨の規定位置から脱離することなく固定される、表面置換型人工股関節置換手術に適した手術用補助具を提供することができる。
【0019】
また、本発明によれば、上記手術用補助具を容易に製造するための設計方法及び製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る手術用補助具の図であって、(a)及び(b)は斜視図であり、(c)は平面図である。
【
図2】大腿骨後面方向における大腿骨近位部の3D画像であり、(a)は大腿骨後面側を示す図であり、(b)は(a)の斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る手術用補助具の使用例を表す、3D画像である。
【
図4】本発明の手術用補助具の設計方法及び製造方法の手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本実施例の手術用補助具1、その設計方法及び製造方法について説明するが、本発明は実施例に限定されず、適宜設計変更が可能である。
【0022】
なお、本発明において、「ピン」及び「ワイヤ」とは、例えば、適度な強度を持つ棒状の部材であり、ステンレス等の金属製の部材であることが好ましい。ピン及びワイヤは、目的に応じて、適宜任意の直径のものを選択することができる。
【0023】
(1)手術用補助具
本実施例の手術用補助具1は、ガイド部2と、患者固有の大腿骨の一部の形状と合致するように設計された接触領域を有するレファレンス部3と、ガイド部2及びレファレンス部3を接続するアーム部4を備える。
以下、本実施形態について、
図1~
図3を参照しつつ、手術用補助具1の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
図1に示す通り、ガイド部2は、ガイド部2の一部を貫通し、ガイドピンを挿入するための貫通孔21を備える。レファレンス部3は、患者固有の大腿骨の形状に合致する接触領域を備える。アーム部4は、レファレンス部3の形状に合わせて手術用補助具1を設置した際、適切な位置及び角度に貫通孔21が設けられるように、ガイド部2及びレファレンス部3を接続する。
術者は、患者の大腿骨の適切な位置に手術用補助具1を固定するだけで、貫通孔21に沿って適切な位置及び角度でガイドピンを挿入することができる。
【0025】
ここで、ガイド部2の形状及び大きさは特に限定されないが、好ましい一形態としては、例えば、円柱、角柱等の筒状の形状が挙げられる。本発明においては、ガイド部2が円柱であることが好ましい。
【0026】
ガイド部2の貫通孔21の長さは、任意の長さとすることができるが、以下に示す範囲とすることが好ましい。
すなわち、貫通孔21の長さの下限値は、好ましくは20mm以上、より好ましくは30mm以上である。貫通孔21の長さの下限値を上記範囲とすることで、ガイドピンの方向を正確に定めることができる。
貫通孔21の長さの上限値は、好ましくは45mm以下、より好ましくは40mm以下である。貫通孔21の長さの上限値を上記範囲とすることで、ガイドピンを挿入する際の抵抗を軽減させることができる。
【0027】
レファレンス部3は、大腿骨の形状と合致する接触領域を備える。接触領域は、転子間稜53の形状に合致し、転子間稜53の隆起部分を覆うように設計された第1のエリア311と、大腿骨の頚部52の形状に合致する第2のエリア321と、前記転子間稜53と前記頚部52との間に位置する梨状窩54の形状に合致する第3のエリア322を含む(
図1(b)及び(c)参照)。
なお、
図2に示す通り、梨状窩54は、前記転子間稜53と前記頚部52の間に位置し、転子間稜53の内側に存在する窪みのことを示す。
【0028】
図3は、本実施形態の手術用補助具1を患者の大腿骨近位部5に設置した3D画像を示す。このように、本実施形態の手術用補助具1は、大腿骨側部の限られた一部のみを接触領域とするが、転子間稜53、頚部52、梨状窩54の3点を接触領域とすることで、ガイドピンの挿入等の振動で位置がずれることなく、安定して大腿骨に固定される。
【0029】
また、転子間稜53、頚部52及び梨状窩54は、大腿骨頭51と異なり、病状の悪化と共に形状が変化しにくい領域である。そのため、上記3点をレファレンスとする接触領域の形状は、手術時においても患者の大腿骨の形状と誤差なく一致した形状となり得る。
【0030】
転子間稜53の形状に合致する第1のエリア311は、転子間稜中央531部分に合致する形態であることが好ましい。
本発明の好ましい形態では、第1のエリア311は、転子間稜中央531部分を含む範囲であり、かつ、大転子55及び小転子56にかけて延びる前記転子間稜53の全長(
図2(a)のL)に対し、所定の範囲内における転子間稜の形状と合致するよう設けられる。
【0031】
前記所定の範囲における下限値は、転子間稜53の全長Lに対し、好ましくは1/4以上、より好ましくは1/3.5以上、より好ましくは1/3以上の範囲である。
上記範囲に第1のエリア311を設定することで、手術用補助具1の固定安定性が向上する。
【0032】
また、前記所定の範囲における上限値は、転子間稜53の全長Lに対し、好ましくは1/2以下、より好ましくは1/2.5以下、より好ましくは1/3以下の範囲である。
上記範囲に第1のエリア311を設定することで、手術時に患者への侵襲性を最小限とすることができる。
【0033】
具体的には、第1のエリア311は、転子間稜の全長Lに対し、転子間稜中央531部分を含む約1/3の範囲の形状と合致することが好ましい。
【0034】
頚部52の形状に合致する第2のエリア321は、頚部52の全領域、すなわち頚部52の全周囲を占めるものではなく、頚部52の一部のみの形状に合致するよう設けられることが好ましい。本実施形態においては、第2のエリア321は、転子間稜53を有する頚部52後面の一部の形状に合致する形態であることが好ましい。
【0035】
梨状窩54の形状に合致する第3のエリア322は、梨状窩54の有する窪みの形状に合致するよう設けられており、本実施形態においては、接触領域の他のエリアと異なり、突起状の形状を有する(
図1参照)。
手術用補助具1は、第3のエリア322を有することで、梨状窩54の位置を目印にして設置位置を容易に認識することができ、手術中において器具の設置時間を短縮することができる。
【0036】
また、
図1に示す通り、本実施形態に係る手術用補助具1は、大腿骨後面の一部の領域に接触するようにレファレンス部3が設けられているため、頚部52の大部分を覆う既存のアライメントガイドよりも、大腿骨への着脱が容易となるといった利点を有する。
【0037】
また、本実施形態においては、
図1に示すように、梨状窩54の付近に第2のエリア321を設け、頚部52の形状に合致する第2のエリア321と、梨状窩54の形状に合致する第3のエリア322を近接させた位置に設定することが好ましい。このような形態とすることで、第2のエリア321と第3のエリア322を1つのブロック(第2のブロック32)に設けることができ、レファレンス部3の大きさを最小限に抑えることができる。
【0038】
また、レファレンス部3は、固定ワイヤを挿入するための固定ワイヤ挿入孔を有することが好ましい。固定ワイヤ挿入孔は、レファレンス部3の複数の場所に設けることができ、好ましくは、転子間稜53の形状に一致する第1のエリア311と、頚部52の形状に一致する第2のエリア321にそれぞれ設けられることが好ましい。本実施形態においては、手術用補助具1は、第1のエリア311に設けられた固定ワイヤ挿入孔311aと、第2のエリア321に設けられた固定ワイヤ挿入孔321aを備える(
図1(b))。
第1のエリア311及び第2のエリア321に固定ワイヤ挿入孔を設けることで、手術用補助具1を転子間稜53と頚部52の2方面から固定することができ、手術用補助具1の固定安定性を高めることができる。
【0039】
また、
図1に示す通り、アーム部4は、ガイド部2及びレファレンス部3を接続する。本実施形態においては、アーム部4は、ガイド部2が大腿骨頭51から離間するように、ガイド部2とレファレンス部3を接続する。
このようにガイド部2と大腿骨頭51を離間させることで、大腿骨頭51の状態を確認しつつガイドピンを挿入することができ、手術時におけるピン挿入スピード等の調整が容易となる。
【0040】
アーム部4の形状は、ガイド部2及びレファレンス部3を、両部品の位置関係が変化しないように固定可能であれば特に限定されることはなく、例えば、
図1に示すような曲線を有する立体形状とすることができる。
【0041】
本実施形態に係る手術用補助具1は、耐久性があり、アルコール等の殺菌処理に耐性のある素材からなることが好ましい。具体的には、ABS樹脂、PLA樹脂、ASA樹脂、PET樹脂、PETG樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性アクリル樹脂、金属、石膏等を用いることができる。本発明においては、取得が容易でありかつ成型加工性に優れるといった点から、光硬化樹脂、ABS樹脂、PLA樹脂、PETG樹脂を用いることが好ましい。
【0042】
(2)手術用補助具の設計方法
以下、本発明の手術用補助具1の設計方法(以下、単に設計方法という)について、さらに説明を加える。なお、上記(1)手術用補助具にて説明した手術用補助具の構成、寸法及び材料等に係る説明は、本発明の設計方法において援用するものとする。
【0043】
本発明の設計方法は、患者の大腿骨の3D画像に基づいてガイド部を設計するガイド部設計工程S1と、3D画像の大腿骨の形状に基づいて、レファレンス部を設計するレファレンス部設計工程S2と、ガイド部及びレファレンス部を接続するアーム部を設計するアーム部設計工程S3と、を含む(
図4)。
【0044】
本発明の設計方法では、患者の大腿骨の3D画像に基づいて、手術用補助具の各パーツを設計する。患者の3D画像は、X線装置、磁気共鳴画像法(MRI)装置、コンピュータ断層撮影(CT)装置で撮影することにより取得することができる。本発明においては、骨の輪郭が明瞭な画像を用いるため、CT装置による撮像画像を用いることが好ましい。
【0045】
患者の大腿骨頭は部分的に軟骨で覆われている場合があり、大腿骨頭の形状に合致した接触領域を設定する場合には、軟骨の形状も考慮して接触領域の形状を特定する必要がある。しかし、上記転子間稜、頚部及び梨状窩は軟骨で覆われておらず、軟骨を検出できない単純X線装置やCTスキャナー等の画像であっても適切に利用できる。すなわち、本発明の設計方法では、軟骨が検出されていなくとも、骨の形状を特定できる画像であれば利用できるといった利点がある。
【0046】
ガイド部設計工程S1では、貫通孔を備えるガイド部を設計する。該貫通孔は、ガイドピンの位置及び角度をガイドするものである。
ガイド部の形状は特に限定されないが、好ましくは、円柱型である。
【0047】
レファレンス部設計工程S2では、患者の大腿骨の3D画像のうち、転子間稜、頚部、及び梨状窩の形状に基づいて、レファレンス部を設計する。具体的には、転子間稜、頚部、及び梨状窩の各領域について、レファレンスとする部分を設定し、該レファレンス部分と合致する形状となるように、本発明における接触領域を設計する。
転子間稜、頚部、及び梨状窩の各接触領域の設定範囲については、上記(1)手術用補助具の記載を援用する。
【0048】
接触領域の設計は、転子間稜、頚部、及び梨状窩の部位について独立して行ってもよいし、複数の部位をまとめて設計してもよい。例えば、転子間稜に対する接触領域(第1のエリア)を含むブロック(第1のブロック)と、頚部に対する接触領域(第2のエリア)及び梨状窩に対する接触領域(第3のエリア)を含むブロック(第2のブロック)をそれぞれ設計する形態とすることができる(
図1参照)。
【0049】
次いで、アーム部設計工程S3では、ガイド部とレファレンス部が適切な配置となるように、両部品を接続するアーム部を設計する。具体的には、レファレンス部の形状に合わせて手術用補助具を固定した際、ガイド部がガイドピンの正しい挿入位置及び角度を示すように、ガイド部及びレファレンス部をアーム部で接続する。
また、アーム部の形状は特に限定されず、任意の形状とすることができるが、アーム部が大腿骨頭と接触しないように、曲線を有する立体形状とすることが好ましい。
【0050】
なお、本発明の設計方法において、ガイド部設計工程S1とレファレンス部設計工程S2の作業順序は限定されるものではない。すなわち、本発明の設計方法は、ガイド部設計工程S1、レファレンス部設計工程S2を順に行った後、アーム部設計工程S3を行う形態であってもよいし、レファレンス部設計工程S2、ガイド部設計工程S1を順に行った後に、アーム部設計工程S3を行う形態であってもよい。
【0051】
また、本発明の設計方法は、レファレンス部に固定ワイヤを挿入するための固定ワイヤ挿入孔を設ける工程を備えてもよい。固定ワイヤ挿入孔は、レファレンス部の複数の場所に設けることができ、好ましくは、第1のエリアと、第2のエリアにそれぞれ設計されることが好ましい。
【0052】
また、本発明の設計方法は、好ましくは、患者の大腿骨の3D画像を用いてソフトウェア上で3Dモデルを構築し、手術用補助具のモデリングを行う。モデリングは、既存のComputer Aided Design(CAD)/Computer Aided Manufacturing(CAM)/Computer Aided Engineering(CAE)ソフト(例えば、AUTODESK社のFUSION360)等を用いて行うことができる。
3Dモデルを構築し手術用補助具の設計を行うことで、3Dモデルにより決定した手術プランに合致するようにシュミレーションしつつ、患者固有の手術用補助具を容易に設計することができる。
【0053】
以下、3Dモデルを用いた本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、ソフトウェアの基本的な操作等は、不明確とならない範囲で適宜省略する。
【0054】
初めに、ガイド部設計工程S1において、大腿骨頭を含む患者の大腿骨近位部の3Dモデル(以下、大腿骨モデルという)を構築する。
続いて、得られた大腿骨モデルを用いて、手術時における大腿骨頭の骨切りプランの決定及びガイド部の設計を行う。ガイド部の設計は、3Dモデルを用いて大腿骨頭の骨切りの位置及び角度を決定し、当該骨切りの位置及び角度を再現できるガイド部のモデル(以下、ガイド部モデルという)を作製することにより行う。
【0055】
ガイド部モデルの具体的な設計は、以下の手順で行うことができる。
まず、大腿骨頭の骨切りに使用する円柱リーマーのモデル(以下、円柱モデルという)を作製する。通常、術者は、円柱リーマーの中心部に有する貫通孔にガイドピンを挿入し、ガイドピンの誘導に従って円柱リーマーを大腿骨頭に押し当て、骨切りを行う。そのため、円柱モデルは、円柱リーマーと同一の直径、及び同一の位置に貫通孔を有するように設計されることが好ましい。
円柱モデルの作製後、大腿骨頭の骨切りにおける円柱リーマーの位置及び角度を、該円柱モデル及び大腿骨モデルを用いて決定する。この時、円柱モデルを大腿骨モデルの大腿骨頭に接触させることで、円柱モデルの位置及び角度を決定する。その後、円柱モデルを、同一中心軸に沿って大腿骨頭から離間した位置に移動させ、円柱モデルの直径を任意の大きさに調整し、本発明に係るガイド部モデルとする。
このようにして、円柱リーマーの中心軸と同一中心軸を有する、円柱型のガイド部モデルを設計することができる。
【0056】
さらに、ガイド部モデルの中心軸に沿って、ガイド部モデルの2つの底面を貫通するように、ガイドピンを挿入するための貫通孔を作製する。該貫通孔の作製は、ガイド部モデルの作製時に行ってもよいし、各部品を結合した後に行ってもよい。
【0057】
次いで、レファレンス部設計工程S2において、大腿骨と接触する接触領域を有するレファレンス部のモデル(以下、レファレンス部モデルという)を設計する。3Dモデルを作製する本実施形態においては、転子間稜に対する接触領域(第1のエリア)を含むブロック(第1のブロック)と、頚部に対する接触領域(第2のエリア)及び梨状窩に対する接触領域(第3のエリア)を含むブロック(第2のブロック)とを備える2ブロック構造とすることが好ましい。
【0058】
具体的には、初めに、所定の大きさに設定した第1のブロックのモデル及び第2のブロックのモデルを作製し、該ブロックのモデルを大腿骨モデルの適切な位置に配置する。その後、各ブロックモデルにおいて、大腿骨モデルとの接触部分について大腿骨モデルの形状に沿って不要部分を切り出すことで、患者固有の形状を有する接触領域を備えた、ブロックモデルを作製することができる。
このように2つのブロックに分けて設計を行うことで、上記3点の接触領域を素早く決定することができ、レファレンス部を容易に設計することができる。
【0059】
なお、接触領域の各エリアの設定位置の詳細な説明は、(1)手術用補助具の記載を援用する。
【0060】
次いで、アーム部設計工程S3において、大腿骨頭上部に適切な位置及び角度で固定されたガイド部モデルと、大腿骨モデルの適切な位置に固定されたレファレンス部モデルの間を接続するように、アーム部のモデル(以下、アーム部モデルという)を配置する。アーム部モデルを配置後、ガイド部モデル、レファレンス部モデル、及びアーム部モデルを結合させることで、一体型モデルを作製する。
【0061】
上述のように3Dモデルを作製して手術用補助具の設計を行うことで、ガイド部及びレファレンス部の位置を容易に決定することができ、設計の負担を軽減しつつも患者固有性の高い手術用補助具を設計することができる。
【0062】
(3)手術用補助具の製造方法
また、本発明は、手術用補助具1の製造方法(以下、単に製造方法という)にも関する。
本発明の製造方法は、患者の大腿骨の3D画像に基づいてガイド部を設計するガイド部設計工程S1と、3D画像の大腿骨の形状に基づいて、レファレンス部を設計するレファレンス部設計工程S2と、ガイド部及びレファレンス部を接続するアーム部を設計するアーム部設計工程S3と、を含み、レファレンス部は、3D画像の転子間稜、頚部、及び梨状窩の形状に基づいて設計される。
【0063】
本発明の製造方法では、上記(2)手術用補助具の設計方法によって得られた設計データを用いて、手術用補助具を製造することができる。本発明に係る手術用補助具は、得られた設計データに基づき作製した金型を用いて製造することもできるし、3Dの設計データを作製後、三次元積層造形法により製造することもできる。
本発明においては、3Dプリンタ等を用いて、三次元積層造形法により手術用補助具を製造することが好ましい。
【0064】
3Dプリンタを用いた製造方法は、既存の製法を採用することができるが、例えば、得られた3Dの設計データを適切なファイル形式(STLファイル等)に変換した後、既存のスライスソフト等を用いてプリント用のスライスファイルを作成し、該スライスファイルを3Dプリンタに読み込ませることで三次元立体形状を造形することができる。
【0065】
本発明の製造方法に用いる製法は特に限定されず、例えば、FDM(Fused Deposition Modeling:熱溶解積層)方式、光造形方式、材料噴射法、粉末接着方式等を適宜選択することができる。また、三次元積層造形の際に用いる原材料も特に限定されず、既存の熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等を用いることができる。
本発明においては、取得が容易でありかつ成型加工性に優れるといった点を踏まえ、光硬化性樹脂を用いた光造形型方式、あるいはFDM方式により手術用補助具全体を造形することが好ましい。
【0066】
本発明の製造方法によれば、患者固有の手術用補助具を、簡便かつ容易に製造することができる。
【0067】
なお、本発明の製造方法に係る手術用補助具の具体的な設計方法は、(1)手術用補助具及び(2)手術用補助具の設計方法の記載を援用する。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、人工股関節置換手術等の医療器具、及びその製造に応用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 手術用補助具
2 ガイド部
21 貫通孔
3 レファレンス部
31 第1のブロック
311 第1のエリア
311a 固定ワイヤ挿入孔
32 第2のブロック
321 第2のエリア
321a 固定ワイヤ挿入孔
322 第3のエリア
4 アーム部
5 大腿骨近位部
51 大腿骨頭
52 頚部
53 転子間稜
531 転子間稜中央
54 梨状窩
55 大転子
56 小転子
L 転子間稜の全長
S1 ガイド部設計工程
S2 レファレンス部設計工程
S3 アーム部設計工程
【手続補正書】
【提出日】2021-11-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面置換型人工股関節手術に用いる手術用補助具であって、
ガイドピンを挿入する貫通孔を有するガイド部と、
患者固有の大腿骨の一部の形状と合致するように設計された接触領域を有するレファレンス部と、
前記ガイド部及びレファレンス部を接続するアーム部と、
を備え、
前記ガイド部は、大腿骨頭へのガイドピンの挿入位置及び角度を決定し、
前記接触領域は、転子間稜の形状に合致し、前記転子間稜の隆起部分を覆うように設計された第1のエリアと、前記大腿骨の頚部の形状に合致する第2のエリアと、前記転子間稜と前記頚部との間に位置する梨状窩の形状に合致する第3のエリアと、を備え、
前記レファレンス部は、固定ワイヤを挿入するための複数の固定ワイヤ挿入孔を備え、前記固定ワイヤ挿入孔は、前記第1のエリア及び前記第2のエリアのそれぞれに1以上設けられる、手術用補助具。
【請求項2】
前記第1のエリアは、大転子及び小転子にかけて延びる前記転子間稜の全長に対し、前記転子間稜の中央部分を含む1/4~1/2の範囲の形状と合致する、請求項1に記載の手術用補助具。
【請求項3】
前記ガイド部は、前記大腿骨頭から離間するよう設けられる、請求項1又は2に記載の手術用補助具。