(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021634
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】蛍光標識核酸プローブ
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6876 20180101AFI20230207BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20230207BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230207BHJP
【FI】
C12Q1/6876 Z ZNA
C12Q1/6813 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126617
(22)【出願日】2021-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 次郎
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR56
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】より簡便に設計・合成できる核酸プローブの提供。
【解決手段】本発明は、標的核酸にハイブリダイズしてキンクターン(kink-turn)モチーフを形成することができる蛍光標識核酸プローブであって、前記キンクターンモチーフの長鎖側の配列を含み、前記長鎖側の配列中に蛍光塩基を有するヌクレオチドを含む、蛍光標識核酸プローブを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸にハイブリダイズしてキンクターン(kink-turn)モチーフを形成することができる蛍光標識核酸プローブであって、
前記キンクターンモチーフの長鎖側の配列を含み、前記長鎖側の配列中に蛍光塩基を有するヌクレオチドを含む、
蛍光標識核酸プローブ。
【請求項2】
キンクターンモチーフが以下に示す二次構造を有する、請求項1に記載の蛍光標識核酸プローブ:
(上記構造中、
上側の配列がキンクターンモチーフの長鎖側の配列を示し、
下側の配列がキンクターンモチーフの短鎖側の配列を示し、
L1~L3はヌクレオチドの位置を示し、
Nは任意のヌクレオチドであるが、但し、位置L1~L3の少なくとも1つのヌクレオチドは蛍光塩基を有するヌクレオチドであり、
xは0以上の任意の整数であり
白丸は非相補的な塩基対を示し、
黒丸は相補的又は非相補的な塩基対を示し、
縦線は相補的な塩基対を示す。)
【請求項3】
蛍光標識核酸プローブが、前記キンクターンモチーフの長鎖側の配列の5'側に相補性結合領域1、3'側に相補性結合領域2を含み、
相補性結合領域1は、前記標的核酸のキンクターンモチーフの短鎖側の配列の3'側の配列と完全に相補的な塩基配列、又は前記標的核酸のキンクターンモチーフの短鎖側の配列の3'側の配列と完全に相補的な塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有する塩基配列からなり、
相補性結合領域2は、前記標的核酸のキンクターンモチーフの短鎖側の配列の5'側の配列と完全に相補的な塩基配列、又は前記標的核酸のキンクターンモチーフの短鎖側の配列の5'側の配列と完全に相補的な塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有する塩基配列からなる、
請求項1又は2に記載の蛍光標識核酸プローブ。
【請求項4】
9~150ヌクレオチド長を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の蛍光標識核酸プローブ。
【請求項5】
相補性結合領域1は、2~140ヌクレオチド長を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の蛍光標識核酸プローブ。
【請求項6】
相補性結合領域2は、2~140ヌクレオチド長を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の蛍光標識核酸プローブ。
【請求項7】
標的核酸が、mRNA、ノンコーディングRNA、又はこれらの断片である、請求項1~6のいずれか1項に記載の蛍光標識核酸プローブ。
【請求項8】
蛍光塩基が、2-アミノプリン、ピロロシトシン、9-アミノエチル-1,3-ジアザ-2-オキソフェノキサジン、1,N6-エテノアデニン、5-(1-ピレニル-エチニル)ウラシル、1,3-ジアザ-2-オキソフェノチアジン、又は1,3-ジアザ-2-オキソフェノキサジンである、請求項1~7のいずれか1項に記載の蛍光標識核酸プローブ。
【請求項9】
蛍光標識核酸プローブに含まれる各ヌクレオチドが、それぞれ独立して、DNA、RNA、及びヌクレオチド類似体からなる群から選択される、請求項1~8のいずれか1項に記載の蛍光標識核酸プローブ。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の蛍光標識核酸プローブを含む、標的核酸を検出するための組成物。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の蛍光標識核酸プローブ又は請求項10に記載の組成物、及び使用説明書を含む、標的核酸検出用キット。
【請求項12】
蛍光標識核酸プローブの製造方法であって、
(i) キンクターンモチーフの短鎖側の配列を少なくとも1つ含む標的核酸において、キンクターンモチーフの短鎖側の配列をキンクターン形成部位として選択する工程、
(ii) 標的核酸とハイブリダイズし、前記キンクターン形成部位で標的核酸と共にキンクターンモチーフを形成することができる蛍光標識核酸プローブであって、前記キンクターンモチーフの長鎖側の配列を含み、前記長鎖側の配列に蛍光塩基を有するヌクレオチドを含む、蛍光標識核酸プローブの配列を決定する工程、及び
(iii) 蛍光標識核酸プローブを合成する工程
を含む、方法。
【請求項13】
サンプル中の標的核酸を検出する方法であって、
(i) ハイブリダイゼーション溶液に請求項1~9のいずれか1項に記載の蛍光標識核酸プローブ又は請求項10に記載の組成物とサンプルとを添加する工程、及び
(ii) (i)の工程により得られた混合物において、蛍光標識核酸プローブに由来する蛍光を測定する工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光標識核酸プローブ及びそれを含む標的核酸検出用キット、蛍光標識核酸プローブの製造方法、並びに蛍光標識核酸プローブを用いて標的核酸を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RNAを塩基配列特異的に検出する技術は、生命科学の基礎研究はもちろん、医療分野でも高いニーズがある。例えば、現在世界的に感染爆発しているSARS-CoV-2や、毎年世界中で猛威を振るうインフルエンザウイルス、重篤な免疫不全症候群を引き起こすHIVウイルス等の一本鎖RNAゲノムを有するウイルスへの感染を診断する際には、ウイルス由来のRNAの検出等が行われている。また、特定のmicroRNA又はlncRNAが癌その他の疾患のバイオマーカーになり得ることが報告されており、実際に、癌等の疾患の発見のためにこれらのRNAの検出が行われている。
【0003】
RNAを検出する技術としては、ノーザンブロッティングやin situハイブリダイゼーションのような安価で簡便なものから、qPCR、マイクロアレイ、RNA-seqのような正確性や感度が高いものまで、様々な技術が開発されている。
【0004】
安価で簡便なRNA検出技術としては、例えば、「分子ビーコン」が知られている。分子ビーコンは蛍光物質及び消光物質を有する一本鎖蛍光プローブであり、分子ビーコンの中央部分には標的RNAと相補的な塩基配列が配置されており、両末端には互いに相補的な塩基配列が配置されている。分子ビーコンの両末端にはそれぞれ蛍光物質と消光物質が結合しており、両末端の互いに相補的な塩基配列が二重らせんを形成することで両末端の蛍光物質と消光物質とが近接し、蛍光が放出されない状態になっている。分子ビーコンが上記の中央部分の塩基配列において標的RNAにハイブリダイズすると、両末端で形成されていた二重らせんが開裂し、その結果として蛍光物質と消光物質が離れ、強い蛍光が放出される。
【0005】
一方、リボソームRNA等の様々な機能性RNAには、キンクターン(kink-turn)モチーフと称されるモチーフが存在し(非特許文献1~3)、例示的なキンクターンモチーフは3つの塩基からなるバルジ構造とそれに続く2つのsheared型と呼ばれるG-A塩基対を含む(
図1A)。キンクターンモチーフは、
図1Bに示すように大きくねじれた構造をとり、RNA二本鎖の軸を約50°曲げており、バルジ構造中に、RNA二本鎖分子の外側に露出する塩基を有する(
図1B)。生体内ではこのようなキンクターンモチーフの特徴的な立体構造を特異的に認識してさまざまなタンパク質が結合し、構造の安定化から翻訳調節まで様々な役割に寄与していることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】D.J. Kleinら, THE EMBO JOURNAL, 2001, 20 (15): 4214-4221
【非特許文献2】David M.J. Lilley, Journal of Molecular Biology, 2016, 428(5Part A): 790-801
【非特許文献3】Lin Huang及びDavid M J Lilley, Quarterly Reviews of Biophysics, 2018, 51(e5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、分子ビーコンの作動機構は非常にシンプルである。しかし、分子ビーコンには蛍光物質と消光物質を1つずつ導入する必要があり、また標的RNAに相補的な部分の長さと、両末端に配置される互いに相補的な配列の長さが適切でなければ、標的RNAを効率よく検出することはできない。このような問題を解消するために、ECHOプローブなどの人工核酸プローブも開発されているが、特殊なヌクレオチド試薬が必要である。
従って、より簡便に設計・合成できる核酸プローブが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来、上記のキンクターンモチーフはRNA二本鎖の構造として知られていたに過ぎず、核酸の検出には利用されていなかった。
【0009】
本発明者らは、キンクターンモチーフを利用して核酸を検出する可能性について種々検討した結果、上記のキンクターンモチーフを形成するRNA二本鎖のうち、キンクターンモチーフの短鎖側の配列(例えば、
図1Aでは下側の配列)を含む方を標的核酸、長鎖側の配列(例えば、
図1Aでは上側の配列)を含む方をプローブと見立ててプローブの塩基配列を設計することにより、簡便に設計・合成できる新規の核酸プローブを開発することに成功した。
【0010】
具体的には、本発明者らは、標的核酸にハイブリダイズしてキンクターンモチーフを形成することができる、蛍光標識核酸プローブであって、前記キンクターンモチーフの長鎖側の配列を含み、前記長鎖側の配列中に蛍光塩基を有するヌクレオチドを含む、蛍光標識核酸プローブを設計した。そして、そのようなプローブは、標的核酸を塩基配列特異的に検出することができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 標的核酸にハイブリダイズしてキンクターン(kink-turn)モチーフを形成することができる蛍光標識核酸プローブであって、
前記キンクターンモチーフの長鎖側の配列を含み、前記長鎖側の配列中に蛍光塩基を有するヌクレオチドを含む、
蛍光標識核酸プローブ。
[2] キンクターンモチーフが以下に示す二次構造を有する、[1]に記載の蛍光標識核酸プローブ:
(上記構造中、
上側の配列がキンクターンモチーフの長鎖側の配列を示し、
下側の配列がキンクターンモチーフの短鎖側の配列を示し、
L1~L3はヌクレオチドの位置を示し、
Nは任意のヌクレオチドであるが、但し、位置L1~L3の少なくとも1つのヌクレオチドは蛍光塩基を有するヌクレオチドであり、
xは0以上の任意の整数であり
白丸は非相補的な塩基対を示し、
黒丸は相補的又は非相補的な塩基対を示し、
縦線は相補的な塩基対を示す。)
[3] 蛍光標識核酸プローブが、前記キンクターンモチーフの長鎖側の配列の5'側に相補性結合領域1、3'側に相補性結合領域2を含み、
相補性結合領域1は、前記標的核酸のキンクターンモチーフの短鎖側の配列の3'側の配列と完全に相補的な塩基配列、又は前記標的核酸のキンクターンモチーフの短鎖側の配列の3'側の配列と完全に相補的な塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有する塩基配列からなり、
相補性結合領域2は、前記標的核酸のキンクターンモチーフの短鎖側の配列の5'側の配列と完全に相補的な塩基配列、又は前記標的核酸のキンクターンモチーフの短鎖側の配列の5'側の配列と完全に相補的な塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有する塩基配列からなる、
[1]又は[2]に記載の蛍光標識核酸プローブ。
[4] 9~150ヌクレオチド長を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の蛍光標識核酸プローブ。
[5] 相補性結合領域1は、2~140ヌクレオチド長を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の蛍光標識核酸プローブ。
[6] 相補性結合領域2は、2~140ヌクレオチド長を有する、[1]~[5]のいずれかに記載の蛍光標識核酸プローブ。
[7] 標的核酸が、mRNA、ノンコーディングRNA、又はこれらの断片である、[1]~[6]のいずれかに記載の蛍光標識核酸プローブ。
[8] 蛍光塩基が、2-アミノプリン、ピロロシトシン、9-アミノエチル-1,3-ジアザ-2-オキソフェノキサジン、1,N
6-エテノアデニン、5-(1-ピレニル-エチニル)ウラシル、1,3-ジアザ-2-オキソフェノチアジン、又は1,3-ジアザ-2-オキソフェノキサジンである、[1]~[7]のいずれかに記載の蛍光標識核酸プローブ。
[9] 蛍光標識核酸プローブに含まれる各ヌクレオチドが、それぞれ独立して、DNA、RNA、及びヌクレオチド類似体からなる群から選択される、[1]~[8]のいずれかに記載の蛍光標識核酸プローブ。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の蛍光標識核酸プローブを含む、標的核酸を検出するための組成物。
[11] [1]~[9]のいずれかに記載の蛍光標識核酸プローブ又は[10]に記載の組成物、及び使用説明書を含む、標的核酸検出用キット。
[12] 蛍光標識核酸プローブの製造方法であって、
(i) キンクターンモチーフの短鎖側の配列を少なくとも1つ含む標的核酸において、キンクターンモチーフの短鎖側の配列をキンクターン形成部位として選択する工程、
(ii) 標的核酸とハイブリダイズし、前記キンクターン形成部位で標的核酸と共にキンクターンモチーフを形成することができる蛍光標識核酸プローブであって、前記キンクターンモチーフの長鎖側の配列を含み、前記長鎖側の配列に蛍光塩基を有するヌクレオチドを含む、蛍光標識核酸プローブの配列を決定する工程、及び
(iii) 蛍光標識核酸プローブを合成する工程
を含む、方法。
[13] サンプル中の標的核酸を検出する方法であって、
(i) ハイブリダイゼーション溶液に[1]~[9]のいずれかに記載の蛍光標識核酸プローブ又は[10]に記載の組成物とサンプルとを添加する工程、及び
(ii) (i)の工程により得られた混合物において、蛍光標識核酸プローブに由来する蛍光を測定する工程
を含む、方法。
【発明の効果】
【0012】
分子ビーコンは標的核酸にハイブリダイズするだけでなく両末端がハイブリダイズするよう設計する必要があるのに対し、本発明の蛍光標識核酸プローブは標的核酸にのみハイブリダイズするよう設計すればよいため、本発明の蛍光標識核酸プローブは分子ビーコンに比べて容易に設計することができる。さらに、分子ビーコンは蛍光物質と消光物質を1つずつ導入する必要があるのに対し、本発明の蛍光標識プローブはそれらを導入する必要がないため、分子ビーコンに比べて容易に合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、例示的なキンクターンモチーフの二次構造(A)、及び結晶構造の例(Lin Huang及びDavid M J Lilley, RNA, 2013, 19(12): 1703-1710、PDB-ID = 4C40)(B)を模式的に示す図である。
図1A中、白丸はグアニン(G)とアデニン(A)の間の非相補的な塩基対(Sheared G-A塩基対)を示し、縦線は相補的な塩基対を示す。
図1B中、矢印は、RNA二本鎖分子の外側に露出した塩基を示す。
【
図2】
図2は、蛍光標識RNAプローブ(下側の配列)が標的RNA(上側の配列)にハイブリダイズした状態を示す図である。図中、Xは2-アミノプリン(2AP)又はピロロシトシン(PC)を表す。白丸は、グアニン(G)とアデニン(A)との間の非相補的な塩基対(Sheared G-A塩基対)を示し、縦線は、相補的な塩基対を示す。
【
図3】
図3Aは、励起波長305 nmを用いて、RNA-2APを含む溶液(コントロール)、及びRNA-2APに対して等モルの標的RNA又は非標的RNAを添加した溶液の蛍光スペクトルを測定した結果を示す図である。
図3Bは、RNA-2APに標的RNA又は非標的RNAを添加したときの、波長370nmにおける蛍光強度の変化率(ΔF)を示す図である。
【
図4】
図4Aは、励起波長270 nmを用いて、RNA-PCを含む溶液(コントロール)、及びRNA-PCに対して等モルの標的RNA又は非標的RNAを添加した溶液の蛍光スペクトルを測定した結果を示す図である。
図4Bは、RNA-PCに標的RNA又は非標的RNAを添加したときの、波長450nmにおける蛍光強度の変化率(ΔF)を示す図である。
【
図5】
図5は、X線結晶解析に用いたRNA分子(Kt-2AP又はKt-PC)を示す図である。図中、Xは2-アミノプリン(2AP)又はピロロシトシン(PC)を表す。白丸は、グアニン(G)とアデニン(A)との間の非相補的な塩基対(Sheared G-A塩基対)を示し、縦線は、相補的な塩基対を示す。
【
図6】
図6は、Kt-2AP及びKt-PCの各々について2種類の結晶化条件で結晶化し、X線結晶構造解析を行った結果を示す図である。
図6Aは、条件1で結晶化したKt-2APの結晶構造の一部(1つのキンクターンモチーフ部分)を示す。
図6Bは、条件2で結晶化したKt-2APの結晶構造の一部(1つのキンクターンモチーフ部分)を示す。
図6Cは、条件1で結晶化したKt-PCの結晶構造の一部(1つのキンクターンモチーフ部分)を示す。
図6Dは、条件2で結晶化したKt-PCの結晶構造の一部(1つのキンクターンモチーフ部分)を示す。
【
図7】
図7Aは、励起波長305 nmを用いて、DNA-2APを含む溶液(コントロール)、及びDNA-2APに対して等モルの標的RNA又は非標的RNAを添加した溶液の蛍光スペクトルを測定した結果を示す図である。
図7Bは、DNA-2APに標的RNA又は非標的RNAを添加したときの、波長370nmにおける蛍光強度の変化率(ΔF)を示す図である。
【
図8】
図8Aは、励起波長270 nmを用いて、DNA-PCを含む溶液(コントロール)、及びDNA-PCに対して等モルの標的RNA又は非標的RNAを添加した溶液の蛍光スペクトルを測定した結果を示す図である。
図8Bは、DNA-PCに標的RNA又は非標的RNAを添加したときの、波長450nmにおける蛍光強度の変化率(ΔF)を示す図である。
【
図9】
図9は、蛍光標識核酸プローブ(RNA-2AP、RNA-PC、DNA-2AP、又はDNA-PC)及び標的RNAにより形成される二本鎖の熱融解曲線を示す図である。
【
図10】
図10は、DNA-2AP及び標的RNAを様々なモル比で含む溶液の波長370 nmにおける蛍光強度を測定した結果を示す図である。
【
図11】
図11Aは、5種類のpH(pH5、6、7、8、9)の緩衝液に塩化ナトリウムを添加してハイブリダイゼーション溶液を調製し、各ハイブリダイゼーション溶液にDNA-2AP及び標的RNA、又はDNA-2APのみ(コントロール)を添加し、得られた溶液の蛍光スペクトルを測定した結果を示す図である。
図11Bは、DNA-2APに標的RNAを添加したときの、波長370 nmにおける蛍光強度の変化率ΔFを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
<蛍光標識核酸プローブ>
本発明は、標的核酸にハイブリダイズしてキンクターンモチーフを形成することができる蛍光標識核酸プローブであって、前記キンクターンモチーフの長鎖側の配列を含み、前記長鎖側の配列中に蛍光塩基を有するヌクレオチドを含む、蛍光標識核酸プローブに関する。
【0016】
本明細書において、「標的核酸」とは、本発明の蛍光標識核酸プローブによりその存在又は量を検出する対象の核酸を意味する。標的核酸は、RNAであってもよく、好ましくは、一本鎖RNAである。RNAとしては、限定されないが、mRNA、ノンコーディングRNA(例えば、miRNA、siRNA、lncRNA、rRNA、snRNA、tRNA等)、及びこれらの断片等が挙げられる。標的核酸はまた、ウイルスRNA又はその断片であってもよい。本明細書において、標的核酸がRNAの場合には、「標的RNA」とも称する。
【0017】
本明細書において、「非標的核酸」とは、本発明の蛍光標識核酸プローブによりその存在又は量を検出する対象ではない核酸を意味する。非標的核酸がRNAの場合には、「非標的RNA」等とも称する。
【0018】
本発明の蛍光標識核酸プローブは、一本鎖のオリゴヌクレオチドを含むか、又はそれからなる。本発明の蛍光標識核酸プローブは、好ましくは、9以上のヌクレオチド長、例えば10以上、11以上、12以上、15以上、20以上、又は25以上のヌクレオチド長を有する。本発明の蛍光標識核酸プローブは、限定されないが、150以下のヌクレオチド長、例えば100以下、80以下、60以下、又は40以下のヌクレオチド長を有する。ヌクレオチド長を長くするとプローブの特異性は高くなるが、合成が困難かつ高価となる。一方、ヌクレオチド長を短くすると合成が容易かつ安価となるが、プローブの特異性が低下する。本発明の蛍光標識プローブの長さ(ヌクレオチド長)は、標的核酸、蛍光塩基の数及び種類、標的核酸に類似の核酸が存在する可能性に応じて適宜選択し得る。
【0019】
本発明の蛍光標識核酸プローブは、標的核酸にハイブリダイズしてキンクターンモチーフを形成することができる。
【0020】
本明細書において、「キンクターンモチーフ」とは、2本鎖核酸が互いに非相補的となる部位に形成される構造であり、バルジ構造とそれに続くSheared G-A塩基対を含む。バルジ構造は一方の鎖で形成され、典型的には3~5ヌクレオチドからなる。バルジ構造を形成する鎖(本明細書では「長鎖」と称する)では、バルジ構造の3'側にグアニン(G)が存在し、他方の鎖(本明細書では「短鎖」と称する)のアデニン(A)と共に上記のSheared G-A塩基対が形成されている。
【0021】
本明細書においては、キンクターンモチーフは、RNA二本鎖が形成する構造だけでなく、任意の核酸の二本鎖(例えば、DNA鎖及びRNA鎖等)が形成する構造をも意味し得る。
【0022】
キンクターンモチーフは、例えば、以下に示す二次構造を有する:
(上記構造中、
上側の配列がキンクターンモチーフの長鎖側の配列を示し、
下側の配列がキンクターンモチーフの短鎖側の配列を示し、
L1~L3はヌクレオチドの位置を示し、
Nは任意のヌクレオチドであり、
xは0以上の任意の整数(例えば0、1、2又は3)であり、
白丸は非相補的な塩基対を示し、
黒丸は相補的又は非相補的な塩基対を示し、
縦線は相補的な塩基対を示す。)
【0023】
上記構造においてG-A塩基対はsheared G-A塩基対であり、該G-A塩基対の右隣の塩基対は、例えば、sheared(trans Hoogsteen/sugar edge)A-A塩基対、A-U塩基対、A-G塩基対又はA-C塩基対であってもよい。
【0024】
上記キンクターンモチーフの二次構造の例としては、限定されないが、例えば、以下に示すものが挙げられる:
(上記構造中、
上側の配列がキンクターンモチーフの長鎖側の配列を示し、
下側の配列がキンクターンモチーフの短鎖側の配列を示し、
L1~L3、1b、2b、1n、及び2nはヌクレオチドの位置を示し、
Nは任意のヌクレオチドであり、
白丸は非相補的な塩基対を示し、
縦線は相補的な塩基対を示す。)
【0025】
本明細書において、キンクターンモチーフ中のヌクレオチドの位置の名称は、Lin Huang及びDavid M.J. Lilley、Journal of Molecular Biology, 2016, 428(5Part A): 790-801に記載の命名法に従う。例えば、上記のキンクターンモチーフ1~3の二次構造では、バルジ構造中のヌクレオチドの位置を、5'末端側から順番にL1、L2、L3と称する。上記のキンクターンモチーフ1~3の二次構造ではまた、バルジ構造の3'側のヌクレオチドの位置を、5'末端側から順番に1b、2b、・・・等と称し、それに対応する短鎖側のヌクレオチドの位置を、1n、2n、・・・等と称する。
【0026】
キンクターンモチーフのさらなる例としては、例えば、Lin Huang及びDavid M.J. Lilley、Journal of Molecular Biology, 2016, 428(5Part A): 790-801; Lin Huang及びDavid M J Lilley, Quarterly Reviews of Biophysics, 2018, 51(e5)に記載のキンクターンモチーフが挙げられる。
【0027】
上記のようなキンクターンモチーフの二次構造に示される配列を有する二本鎖核酸は、キンクターンモチーフを形成することができるといえる。
【0028】
蛍光標識核酸プローブが標的核酸にハイブリダイズしてキンクターンモチーフを形成することができるかどうかは、例えば、標的核酸にハイブリダイズしてキンクターンモチーフの二次構造を形成することができるよう蛍光標識核酸プローブの塩基配列を設計し、設計した蛍光標識核酸プローブが実際に標的核酸とハイブリダイズすることを、熱融解曲線を作成することにより確認することによって調べることができる。熱融解曲線がシグモイド型になっていれば、蛍光標識核酸プローブが設計通りに標的核酸にハイブリダイズしてキンクターンモチーフを形成していると判断することができる。
【0029】
或いは、蛍光標識核酸プローブが標的核酸にハイブリダイズしてキンクターンモチーフを形成することができるかどうかは、相補的な塩基対合の形成を予測するプログラム(例えば、RNAstructure ver.6.2等)を用いて調べることもできる。相補的な塩基対合の形成を予測した結果、キンクターンモチーフの長鎖側の配列と短鎖側の配列とがキンクターンモチーフを形成し得るよう対面していれば、蛍光標識核酸プローブは、標的核酸にハイブリダイズしてキンクターンモチーフを形成することができると判断できる。
【0030】
或いは、蛍光標識核酸プローブが標的核酸にハイブリダイズしてキンクターンモチーフを形成することができるかどうかは、標的核酸にハイブリダイズした蛍光標識核酸プローブをX線結晶構造解析することによっても調べることができる。X線結晶構造解析の結果、蛍光標識核酸プローブと標的核酸とがキンクターンモチーフの二次構造を形成していれば、蛍光標識核酸プローブは、標的核酸にハイブリダイズしてキンクターンモチーフを形成することができると判断できる。
【0031】
本明細書において、「キンクターンモチーフの長鎖側の配列」とは、キンクターンモチーフ中の長鎖(すなわちバルジ構造を形成する鎖)に含まれる配列を意味し、「キンクターンモチーフの短鎖側の配列」とは、キンクターンモチーフ中の短鎖(バルジ構造を形成しない鎖)に含まれる配列を意味する。
【0032】
本発明において、蛍光標識核酸プローブはキンクターンモチーフの長鎖側の配列を含み、標的核酸はキンクターンモチーフの短鎖側の配列を含む。本発明の蛍光標識核酸プローブが標的核酸にハイブリダイズすると、上記のキンクターンモチーフの長鎖側の配列と短鎖側の配列とが一緒になってキンクターンモチーフを形成する。
【0033】
本発明の蛍光標識核酸プローブは、キンクターンモチーフの長鎖側の配列に蛍光塩基を有するヌクレオチドを含む。本発明の蛍光標識核酸プローブは、好ましくは、キンクターンモチーフのバルジ構造中、より好ましくは、バルジ構造中で塩基が分子の外側に露出する位置(例えば、上記のキンクターンモチーフの二次構造では位置L3)に蛍光塩基を有するヌクレオチドを含む。
【0034】
従って、上記のキンクターンモチーフの二次構造において、位置L1~L3の少なくとも1つのヌクレオチド、例えば、位置L3のヌクレオチドは、蛍光塩基を有するヌクレオチドであってもよい。
【0035】
本明細書において、蛍光塩基は、蛍光を発する核酸塩基であれば何でもよい。蛍光塩基の例は、例えば、Glen research社のカタログ(https://www.glenresearch.com/media//folio3/productattachments/product_catalog/Glen_Product_Catalog_2021.pdf)等に記載されている。蛍光塩基には、限定されないが、2-アミノプリン、ピロロシトシン、9-アミノエチル-1,3-ジアザ-2-オキソフェノキサジン、1,N6-エテノアデニン、5-(1-ピレニル-エチニル)ウラシル、1,3-ジアザ-2-オキソフェノチアジン、及び1,3-ジアザ-2-オキソフェノキサジン等が挙げられる。蛍光塩基は、特に限定するものではないが、糖の1'位に結合していてもよい。
【0036】
蛍光塩基を有するヌクレオチドは、例えば、下記の構造を有する2-アミノプリンを有するデオキシリボヌクレオチドであってもよい。
【0037】
【0038】
蛍光塩基を有するヌクレオチドはまた、例えば、下記の構造を有するピロロシトシンを有するデオキシリボヌクレオチドであってもよい。
【0039】
【0040】
一実施形態において、本発明の蛍光標識核酸プローブが標的核酸にハイブリダイズして形成するキンクターンモチーフの長鎖側の配列は、5'-nnnngan-3'(配列番号12)(式中、nは任意のヌクレオチドであるが、位置2~4のヌクレオチドのうち少なくとも1つ、好ましくは、位置4のヌクレオチドは蛍光塩基を有するヌクレオチドである。)であり、上記のキンクターンモチーフの短鎖側の配列は、5'-ngan-3'(配列番号13)(式中、nは任意のヌクレオチドである。)であり、配列番号12の5'末端及び配列番号13の3'末端のヌクレオチドは互いに相補的であり、配列番号12の3'末端及び配列番号13の5'末端のヌクレオチドは互いに相補的である。
【0041】
別の実施形態において、本発明の蛍光標識核酸プローブが標的核酸にハイブリダイズして形成するキンクターンモチーフの長鎖側の配列は、5'-nnnngaan-3'(配列番号14)(式中、nは任意のヌクレオチドであるが、位置2~4のヌクレオチドのうち少なくとも1つ、好ましくは、位置4のヌクレオチドは蛍光塩基を有するヌクレオチドである。)であり、上記のキンクターンモチーフの短鎖側の配列は、5'-nggan-3'(配列番号15)(式中、nは任意のヌクレオチドである。)であり、配列番号14の5'末端及び配列番号15の3'末端のヌクレオチドは互いに相補的であり、配列番号14の3'末端及び配列番号15の5'末端のヌクレオチドは互いに相補的である。
【0042】
別の実施形態において、本発明の蛍光標識核酸プローブが標的核酸にハイブリダイズして形成するキンクターンモチーフの長鎖側の配列は、5'-nnnngauan-3'(配列番号16)(式中、nは任意のヌクレオチドであるが、位置2~4のヌクレオチドのうち少なくとも1つ、好ましくは、位置4のヌクレオチドは蛍光塩基を有するヌクレオチドである。)であり、上記のキンクターンモチーフの短鎖側の配列は、5'-naguan-3'(配列番号17)(式中、nは任意のヌクレオチドである。)であり、配列番号16の5'末端及び配列番号17の3'末端のヌクレオチドは互いに相補的であり、配列番号16の3'末端及び配列番号17の5'末端のヌクレオチドは互いに相補的である。
【0043】
本発明の蛍光標識核酸プローブは、キンクターンモチーフの長鎖側の配列の5'側及び3'側に標的核酸と相補的な領域(それぞれ、「相補性結合領域1」、「相補性結合領域2」と称する)を含んでもよい。ここで、「キンクターンモチーフの長鎖側の配列の5'側に相補性結合領域1を含む」とは、相補性結合領域1が、キンクターンモチーフの長鎖側の配列の5'末端のヌクレオチドに直接結合していることを意味する。同様に、「キンクターンモチーフの長鎖側の配列の3'側に相補性結合領域2を含む」とは、相補性結合領域2が、キンクターンモチーフの長鎖側の配列の3'末端のヌクレオチドに直接結合していることを意味する。
【0044】
相補性結合領域1は、例えば、標的核酸のキンクターンモチーフの短鎖側の配列の3'側の配列と完全に相補的な塩基配列、又は前記標的核酸のキンクターンモチーフの短鎖側の配列の3'側の配列と完全に相補的な塩基配列と少なくとも90%(例えば、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%)の配列同一性を有する塩基配列からなる。ここで、「キンクターンモチーフの短鎖側の配列の3'側の配列」とは、キンクターンモチーフの短鎖側の配列の3'末端のヌクレオチドに直接結合した配列を意味する。相補性結合領域1は、好ましくは、2以上のヌクレオチド長、より好ましくは3以上のヌクレオチド長を有する。相補性結合領域1は、限定されないが、例えば、140以下、120以下、100以下、80以下、60以下、40以下、又は20以下のヌクレオチド長を有し得る。
【0045】
相補性結合領域2は、例えば、標的核酸のキンクターンモチーフの短鎖側の配列の5'側の配列と完全に相補的な塩基配列、又は前記標的核酸のキンクターンモチーフの短鎖側の配列の5'側の配列と完全に相補的な塩基配列と少なくとも90%(例えば、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%)の配列同一性を有する塩基配列からなる。ここで、「キンクターンモチーフの短鎖側の配列の5'側の配列」とは、キンクターンモチーフの短鎖側の配列の5'末端のヌクレオチドに直接結合した配列を意味する。相補性結合領域2は、好ましくは、2以上のヌクレオチド長、より好ましくは3以上のヌクレオチド長を有する。相補性結合領域2は、限定されないが、例えば、140以下、120以下、100以下、80以下、60以下、40以下、又は20以下のヌクレオチド長を有し得る。
【0046】
本明細書において、「配列同一性」とは、2つの配列を整列させた場合に、2つの配列間で共有する一致したヌクレオチドの個数の百分率を意味する。すなわち、配列同一性=(一致した位置の数/位置の全数)×100で算出できる。配列同一性は、当業者には周知のアルゴリズム又はプログラム(例えば、ClustalW等)により算出することができる。プログラムを用いる場合のパラメーターは、当業者であれば適切に設定することができ、また各プログラムのデフォルトパラメーターを用いてもよい。これらの解析方法の具体的な手法もまた、当業者には周知である。
【0047】
本明細書において、「相補的」とは、Watson-Crick型のA-T(U)塩基対又はG-C塩基対を形成することができることを意味する。
【0048】
本明細書において、「相補的な塩基対」とは、Watson-Crick型のA-T(U)塩基対又はG-C塩基対を意味する。本明細書において、「非相補的な塩基対」とは、Watson-Crick型のA-T(U)塩基対又はG-C塩基対以外の塩基対、例えばWatson-Crick型のA-A塩基対、A-G塩基対又はA-C塩基対、sheared(trans Hoogsteen/sugar edge)A-A塩基対、A-U塩基対、A-G塩基対又はA-C塩基対等を意味する。
【0049】
本発明の蛍光標識核酸プローブに含まれる各ヌクレオチドは、それぞれ独立して、DNA、RNA、及びヌクレオチド類似体からなる群から選択されてもよい。DNA及びヌクレオチド類似体はRNAに比べ化学的に安定であるため、プローブに用いるに好適である。従って、本発明の蛍光標識核酸プローブは、DNA及びヌクレオチド類似体を含むことが好ましい。
【0050】
本明細書において、「ヌクレオチド類似体」とは、天然ヌクレオチド(例えば、DNAヌクレオチド、RNAヌクレオチド)の塩基及び/又は糖に修飾が施されたもの、又は、天然ヌクレオチドの塩基及び/又は糖が全体として異なる化学基で置換されたものを意味する。
【0051】
糖の修飾としては、例えば、限定するものではないが、架橋型修飾、5'-ビニル、5'-メチル、4'-S、2'-F、2'-OCH3(2’-OMe)、及び2'-O(CH2)2OCH3置換基等が挙げられる。架橋型修飾は、例えば、糖の2'位と4'位の化学的な架橋であり得る。
塩基の修飾として、例えば、限定するものではないが、
シトシンの5-メチル化、5-フルオロ化、5-ブロモ化、5-ヨード化、N4-メチル化、
アデニンのN6-メチル化、8-ブロモ化、
グアニンのN2-メチル化、8-ブロモ化、
ウラシルの5-フルオロ化、5-ブロモ化、5-ヨード化、5-ヒドロキシル化
などが挙げられる。
【0052】
ヌクレオチド類似体は、例えば、JP10-304889A、WO2005/021570、WO2007/143315、WO2008/043753、およびWO2008/049085に開示されている核酸であってもよい。すなわち、ヌクレオチド類似体は、上記の文献中に開示される核酸:ヘキシトール核酸(HNA)、シクロヘキサン核酸(CeNA)、ペプチド核酸(PNA)、モルホリノ核酸、2'-OMe(2'-O-メチル)核酸、2'-MOE(2'-O-メトキシエチル)核酸、2'-AP(2'-O-アミノプロピル)化核酸、2'-フルオロ(2'-F)核酸、2'-F-アラビノ核酸(2'-F-ANA)、BNA(架橋核酸)、LNA(ロックド核酸)、ENA(2'-O,4'-C-エチレン架橋核酸)等であってもよい。
【0053】
好ましくは、ヌクレオチド類似体は、標的核酸と塩基対を形成することができるものである。
【0054】
本発明の蛍光標識プローブはまた、改変されたヌクレオシド間結合を含むことができる。改変されたヌクレオシド間結合とは、天然に存在するホスホジエステル結合の代わりに存在する、例えばホスホロチオエート結合、ホスホロジチオエート結合、ボラノホスフェート結合、ホスホロジアミデート結合及びホスホロアミデート結合などであり得る。本発明の蛍光標識プローブのヌクレオシド間結合の少なくとも1つが、改変されたヌクレオシド間結合であり得る。あるいは、本発明の蛍光標識核酸プローブのヌクレオシド間結合の少なくとも2個、3個、4個、又はそれ以上が、改変されたヌクレオシド間結合であり得る。
【0055】
本願と同日に出願する特許出願の明細書において開示するように、本発明者らは、RNAとハイブリダイズして、RNA二本鎖が形成する立体構造(例えばキンクターン等)を模倣することができる人工核酸の設計方法を見い出した。
【0056】
それによれば、本発明の蛍光標識核酸プローブに用いるヌクレオチドの種類は、例えば、模倣しようとするRNA二本鎖のキンクターンモチーフの結晶構造を観察した後、以下の法則に従って決定することもできる。
(1)糖部分のコンホメーションがC3'-エンド型であるヌクレオチドの位置にヌクレオチド類似体を導入する場合、ヌクレオチド類似体はC3'-エンド型のコンホメーションを取り得ることが好ましい。具体的には、例えば、C3'-エンド型のコンホメーションを取り得るヌクレオチド類似体として、2'-OMe RNA、2'-MOE RNA、LNA及びDNAが挙げられる。
(2)糖部分のコンホメーションがC2'-エンド型であるヌクレオチドの位置にヌクレオチド類似体を導入する場合、ヌクレオチド類似体はC2'-エンド型のコンホメーションを取り得ることが好ましい。具体的には、例えば、C2'-エンド型のコンホメーションを取り得るヌクレオチド類似体として、2'-O,5'-N BNA、2'-デオキシ-トランス-3',4'-BNA及びDNAが挙げられる。
(3)リボースの2'位のヒドロキシ基が水素結合に関与するヌクレオチドの位置にヌクレオチド類似体を導入する場合、ヌクレオチド類似体は、その水素結合を形成可能か、又はリボースの2'位にかさ高くない置換基を有することが好ましい。ここで、上記の水素結合に関与するヒドロキシ基は、電子を供与していても、受容していても、そのどちらの側面があってもよい。具体的なかさ高くない置換基としては、例えば、水素基、ハロゲン基(例えば、フルオロ基、クロロ基及びブロモ基等)、メチル基、アミノ基及びシアノ基等が挙げられる。
【0057】
キンクターンモチーフの結晶構造は、当技術分野において公知の方法を用いて知ることができる。例えば、キンクターンモチーフの結晶構造解析結果をNucleic Acid DatabaseやProtein Data Bank等のデータベースからダウンロードし、目視により、又は3DNA等のソフトウェアを用いて調べることができる。
【0058】
例えば、上記のキンクターンモチーフ1の場合、位置L1及び2bのヌクレオチドは上記の法則の(1)及び(3)に該当し、位置L2、L3及び1nのヌクレオチドは、上記の法則の(2)に該当し、位置1b及び2nのヌクレオチドは、上記の法則の(2)及び(3)に該当する。
【0059】
一実施形態では、本発明の蛍光標識核酸プローブは、2-アミノプリン又はピロロシトシンを有するデオキシリボヌクレオチドを含み、それ以外のヌクレオチドはすべてRNAである蛍光標識核酸プローブであり得る。別の実施形態では、本発明の蛍光標識核酸プローブは、2-アミノプリン又はピロロシトシンを有するデオキシリボヌクレオチドを含み、それ以外のヌクレオチドはすべてDNAである蛍光標識核酸プローブであり得る。
【0060】
本発明の蛍光標識核酸プローブは、標的核酸にハイブリダイズして2個以上のキンクターンモチーフを形成してもよい。その場合、蛍光標識核酸プローブは、各キンクターンモチーフの長鎖側の配列を含み、各キンクターンモチーフの長鎖側の配列に蛍光塩基を有するヌクレオチドを含んでもよい。複数の蛍光塩基を有する蛍光標識核酸プローブは、標的核酸と1個だけキンクターンモチーフを形成する蛍光標識核酸プローブに比べ、標的核酸にハイブリダイズしたときにより高い蛍光強度を得ることができる。
【0061】
後述の実施例1、2、4及び5に示すように、本発明の蛍光標識核酸プローブは、標的核酸と混合した場合には、標的核酸と混合する前と比較して蛍光強度が上昇したが、標的核酸以外の核酸(非標的核酸)と混合した場合にはそのような蛍光強度の上昇は見られなかった。このように、本発明の蛍光標識プローブは標的核酸にハイブリダイズすると蛍光強度が上昇し、それにより、標的核酸を塩基配列特異的に検出することができる。
【0062】
特定の原理に拘束されるものではないが、本発明の蛍光標識プローブが標的核酸にハイブリダイズすると、キンクターンモチーフが形成され、キンクターンモチーフ中の蛍光塩基が二本鎖分子の外側に露出するために、蛍光強度が上昇するものと考えられる。
【0063】
後述の実施例7に示すように、上記のような本発明の蛍光標識核酸プローブの蛍光強度は、標的核酸に対して蛍光標識プローブの量が十分である場合には、混合する標的核酸の量に比例して増大する。従って、本発明の蛍光標識核酸プローブは、標的核酸の存在だけでなく、その量(濃度)も検出することができる。
【0064】
従来の塩基対相補性のみに基づいた検出技術には、標的核酸と配列がよく似た核酸にもハイブリダイズしてしまうという問題があった。これは、核酸がA-T (A-U)、G-Cのような相補的塩基対だけでなく、約150パターンの非相補的な塩基対を形成できることに起因している。本発明者らが開発した蛍光標識核酸プローブは、塩基対相補性に基づいて標的核酸とハイブリダイズするだけでなく、標的核酸とキンクターンモチーフを正しく形成して初めて蛍光強度の増加が観察されるため、従来の塩基対相補性のみに基づいた検出技術に比べ、核酸検出の正確性が高いと考えられる。
【0065】
このように、本発明の蛍光標識核酸プローブは、標的核酸の検出に使用することができる。従って、本発明はまた、上記の蛍光標識核酸プローブを含む、標的核酸を検出するための組成物(試薬)を提供する(「本発明の組成物」と称する)。
【0066】
本発明の組成物は、例えば、標的核酸が異なる複数の蛍光標識核酸プローブを含み得る。この場合、各蛍光標識核酸プローブは、それぞれ異なる蛍光塩基を有するヌクレオチドを含んでもよい。
【0067】
本発明はまた、上記の蛍光標識核酸プローブ又は組成物、及び使用説明書を含む、標的核酸検出用キットを提供する(「本発明のキット」と称する)。
【0068】
本発明のキットにおいて、蛍光標識核酸プローブ又は組成物は、容器に含められていてもよい。本発明のキットは、標的核酸が異なる複数の蛍光標識核酸プローブを含んでもよく、その場合、複数の蛍光標識核酸プローブは、1つ又は複数の容器に含められていてもよい。本発明のキットが複数の蛍光標識核酸プローブを含む場合、各蛍光標識核酸プローブは、それぞれ異なる蛍光塩基を有するヌクレオチドを含んでもよい。
【0069】
本発明のキットはまた、ハイブリダイゼーション溶液をさらに含み得る。本発明のキットにおいて、ハイブリダイゼーション溶液は、容器に含められていてもよい。
【0070】
本明細書において、ハイブリダイゼーション溶液は、蛍光標識核酸プローブ及びその標的核酸がハイブリダイズすることができる溶液であれば何でもよい。ハイブリダイゼーション溶液は、例えば、塩及び/又は緩衝剤を含む溶液であってもよい。ここで、塩としては、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、ギ酸リチウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、ギ酸アンモニウム、ギ酸マグネシウム、ギ酸カルシウム、ギ酸ストロンチウム、ギ酸バリウム、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、及び硫酸バリウム等が挙げられる。また、緩衝剤としては、例えばカコジル酸ナトリウム、カコジル酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、BIS-TRIS、HEPES、TRIS、MES、MOPS、クエン酸ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、コハク酸、トリシン、及び酢酸ナトリウム等が挙げられる。ハイブリダイゼーション溶液中の塩の濃度は、限定されないが、例えば、1 mM~10 M、例えば1 mM~1 M、1 mM~500 mM、又は1 mM~200 mMであり得る。ハイブリダイゼーション溶液中の緩衝剤の濃度は、限定されないが、例えば、1 mM~1 M、例えば、10 mM~100 mM、10 mM~50 mM、又は10 mM~30 mMであり得る。ハイブリダイゼーション溶液は、例えば、pH≦11、好ましくは5<pH<8であり得る。ハイブリダイゼーション溶液は、例えば、塩化ナトリウム及びカコジル酸ナトリウムを含む溶液、例えば10 mMカコジル酸ナトリウム(pH7)及び100 mM塩化ナトリウムを含む溶液であってもよい。
【0071】
本発明の蛍光標識核酸プローブ、組成物、又はキットは、下述のサンプル中の標的核酸を検出する方法に使用することができる。本発明の蛍光標識核酸プローブ、組成物又はキットは、サザンブロット、ノーザンブロット、及びin situハイブリダイゼーション等にも使用することができる。
【0072】
<蛍光標識核酸プローブの製造方法>
本発明は、蛍光標識核酸プローブの製造方法であって、
(i) キンクターンモチーフの短鎖側の配列を少なくとも1つ含む標的核酸において、キンクターンモチーフの短鎖側の配列をキンクターン形成部位として選択する工程、
(ii) 標的核酸とハイブリダイズし、前記キンクターン形成部位で標的核酸と共にキンクターンモチーフを形成することができる蛍光標識核酸プローブであって、前記キンクターンモチーフの長鎖側の配列を含み、前記長鎖側の配列に蛍光塩基を有するヌクレオチドを含む、蛍光標識核酸プローブの配列を決定する工程、及び
(iii) 蛍光標識核酸プローブを合成する工程
を含む、方法に関する。
【0073】
上記の蛍光標識核酸プローブの配列は、例えば、キンクターンモチーフの長鎖側の配列の5'側及び3'側に標的核酸と相補的な領域(それぞれ、相補性結合領域1、相補性結合領域2)を配置し、キンクターンモチーフの長鎖側の配列中に蛍光塩基を有するヌクレオチドを導入することにより、決定することができる。ここで、「キンクターンモチーフの長鎖側の配列の5'側に相補性結合領域1を配置する」とは、相補性結合領域1を、キンクターンモチーフの長鎖側の配列の5'末端のヌクレオチドに直接結合させることを意味する。同様に、「キンクターンモチーフの長鎖側の配列の3'側に相補性結合領域2を配置する」とは、相補性結合領域2を、キンクターンモチーフの長鎖側の配列の3'末端のヌクレオチドに直接結合させることを意味する。相補性結合領域1及び2は、上述の蛍光標識核酸プローブに関する説明において述べた通りである。
【0074】
上記蛍光標識核酸プローブの製造方法において、蛍光標識核酸プローブは、例えば、核酸自動合成機を用いてホスホロアミダイト法等により化学合成することができる。
【0075】
上記の本発明の蛍光標識核酸プローブの製造方法は、上記の(iii)の工程の後に、ハイブリダイゼーション溶液に合成した蛍光標識核酸プローブと標的核酸とを添加し、ハイブリダイゼーション溶液に合成した蛍光標識核酸プローブ又は組成物のみを同濃度で添加した混合物に比べて、蛍光強度が上昇することを確認する工程を含んでもよい。
【0076】
本発明の蛍光標識核酸プローブの製造方法を用いれば、容易にプローブを設計し合成することができる。
【0077】
<標的核酸を検出する方法>
本発明は、サンプル中の標的核酸を検出する方法であって、
(i) ハイブリダイゼーション溶液に本発明の蛍光標識核酸プローブ又は組成物とサンプルとを添加する工程、及び
(ii) (i)の工程により得られた混合物において、蛍光標識核酸プローブに由来する蛍光を測定する工程
を含む、方法に関する。
【0078】
本明細書において、サンプルは、核酸、好ましくはRNA(例えば、mRNA、ノンコーディングRNA、又はこれらの断片等)を含むものであってもよい。サンプルとしては、限定されないが、例えば、植物、動物(例えば、爬虫類、哺乳類、昆虫類、蠕虫類、魚等)、細菌、真菌(例えば、酵母等)、ファージ、又はウイルス由来のサンプルが挙げられる。サンプルは、例えば、細胞、組織、体液(例えば、血液、血清、血漿、唾液、粘液、尿等)、糞便由来等に由来するサンプルであってもよい。
【0079】
上記のサンプル中の標的核酸を検出する方法において、蛍光は、例えば、分光蛍光光度計を用いて測定することができる。蛍光の測定条件(励起波長及び検出する蛍光波長の範囲)は、当業者に周知の手段により、例えば本願実施例1に記載のような方法により決定することができる。
【0080】
一実施形態では、上記のサンプル中の標的核酸を検出する方法は、(ii)の工程の後に、以下の式により特定の波長における蛍光強度の変化率ΔFを算出する工程を含み得る。
ΔF = (F-F0)/F
(式中、Fは、ハイブリダイゼーション溶液に本発明の蛍光標識核酸プローブ又は組成物とサンプルとを添加した混合物の特定の波長における蛍光強度であり、F0は、ハイブリダイゼーション溶液に本発明の蛍光標識核酸プローブ又は組成物のみを同濃度で添加した混合物の同波長における蛍光強度である。)
【0081】
ハイブリダイゼーション溶液に本発明の蛍光標識核酸プローブ又は組成物とサンプルとを添加した混合物の蛍光強度が、ハイブリダイゼーション溶液に本発明の蛍光標識核酸プローブ又は組成物のみを同濃度で添加した混合物の蛍光強度に比べて上昇した場合、サンプル中に標的核酸が存在すると判断できる。例えば、ある波長における蛍光強度の変化率ΔFが0.1以上、0.2以上、0.3以上、又は0.4以上であれば、蛍光強度が上昇したと判断できる。
【0082】
上記のサンプル中の標的核酸を検出する方法は、標的核酸の存在を検出することができるだけでなく、その量(濃度)も検出することができる。標的核酸の量は、例えば、検量線を作成することにより検出することができる。具体的には、異なる標的核酸濃度を有する標準液を調製し、得られた標準液の各々を特定量の蛍光標識核酸プローブを含むハイブリダイゼーション溶液に添加した後、蛍光強度を測定し、横軸を標的核酸量、縦軸を蛍光強度として検量線を作成し、得られた検量線及び(ii)の工程で測定された蛍光強度からサンプル中の標的核酸の量を算出すること等によって、標的核酸の量を検出することができる。
【0083】
従って、一実施形態では、上記のサンプル中の標的核酸を検出する方法は、標的核酸の量を算出する工程をさらに含む。
【実施例0084】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0085】
<実施例1>2-アミノプリンを含む蛍光標識RNAプローブ(RNAを主な構成ヌクレオチドとする蛍光標識核酸プローブ)による標的RNAの検出
標的RNA及び非標的RNAとして配列番号1~4のものを使用し(表1)、2-アミノプリンを含む蛍光標識RNAプローブによる標的RNAの検出を検討した。
【0086】
【0087】
図2に示すように、標的RNA(配列番号1)にハイブリダイズしてキンクターンモチーフを形成し、キンクターンモチーフ中のL3の位置(
図2の配列のX)に、蛍光塩基2-アミノプリン(2-aminopurine、2AP)を有する2’-デオキシリボヌクレオチドを含むよう、蛍光標識RNAプローブの塩基配列を設計した(
図2)。蛍光標識RNAプローブ中のヌクレオチドは、上記の蛍光塩基を有する2’-デオキシリボヌクレオチド以外すべてRNAとした(以下、このように設計した2APを含む蛍光標識RNAプローブをRNA-2APと称する)。設計したRNA-2APの塩基配列を以下に示す。
5'-ACA UGA UGA UGA AGA GGA XGA GAG GAG AGU-3'(配列番号5)(式中、X = 2APである。)
【0088】
上記蛍光標識RNAプローブ(RNA-2AP)、標的RNA、及び3種類の非標的RNA(非標的RNA1~3)を、核酸自動合成機NTS-M2-MX(日本テクノサービス株式会社)を用いてホスホロアミダイト法により化学合成した。2-アミノプリンを含むヌクレオチドのホスホロアミダイトとしては、2-アミノプリン-CEホスホロアミダイド(2-Aminopurine-CE Phosphoramidite)(Glen Research)を用いた。上記の化学合成により得られたサンプルをNAP-10 columns(Cytiva)を用いてゲルろ過により精製し、7 M尿素を含む20%変性ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動により目的のRNAが高純度で正しく合成されていることを確認した。
【0089】
合成した蛍光標識RNAプローブ(RNA-2AP)が標的RNAを塩基配列特異的に検出できるかどうかを、以下に述べるように、蛍光スペクトル測定により調べた。
【0090】
10 mMカコジル酸ナトリウム(pH7)及び100 mM塩化ナトリウムを含む溶液に、RNA-2APと標的RNA又は非標的RNAをそれぞれ最終濃度0.01mMとなるように添加した溶液(試験溶液)を調製した。また、コントロールとして、10 mMカコジル酸ナトリウム(pH7)及び100 mM塩化ナトリウムを含む溶液に0.01mMのRNA-2APのみを添加した溶液(コントロール溶液)を調製した。
【0091】
コントロール溶液の3D蛍光スペクトルをFP-8300(Jasco)を用いて測定し、最大励起波長と最大蛍光波長を決定した。その結果に基づいて、その後の蛍光スペクトル測定に用いる測定条件(励起波長及び検出する蛍光波長の範囲)を決定した。
【0092】
上記のように決定した測定条件を用いてFP-8300(Jasco)により試験溶液の蛍光スペクトルを測定した。具体的には、励起波長305 nmを用いて330~450 nmの範囲の蛍光スペクトルを測定した。
【0093】
さらに、以下の式により、RNA-2APに対して標的RNA又は非標的RNAを添加したときの、蛍光強度の変化率ΔFを算出し、RNA-2APの標的RNA検出能力を評価した。
ΔF = (F-F
0)/F
(F:試験溶液の特定の波長における蛍光強度、F
0:コントロール溶液の同波長における蛍光強度)
なお、上記の実験は室温で行った。
結果を
図3に示す。
【0094】
RNA-2APは、3種類の非標的RNAいずれを添加しても蛍光強度がほとんど変化しなかったが、標的RNAを添加すると蛍光強度が著しく上昇した(
図3A)。RNA-2APに標的RNA又は非標的RNAを添加したときの、波長370nmにおける蛍光強度の変化率を算出すると、標的RNAを添加したときの蛍光強度の変化率はΔF=0.59であり、非標的RNAを添加したときの蛍光強度の変化率(ΔF=-0.05~0.07)に比べて顕著に高かった(
図3B)。これらの結果から、RNA-2APは標的RNAを塩基配列特異的に検出できることが示された。
【0095】
<実施例2>ピロロシトシンを含む蛍光標識RNAプローブによる標的RNAの検出
実施例1と同じ標的RNA及び非標的RNA(配列番号1~4)を用いて、ピロロシトシンを含む蛍光標識RNAプローブによる標的RNAの検出を検討した。
【0096】
実施例1で設計したRNA-2AP中の2-アミノプリンをピロロシトシン(pyrrolo cytosine、PC)に置換したもの(RNA-PC)を、実施例1と同様の方法で合成・精製し、電気泳動により目的のRNAが高純度で正しく合成されていることを確認した。上記の化学合成において、ピロロシトシンを含むヌクレオチドのホスホロアミダイトとしては、ピロロ-dC-CEホスホロアミダイト(Pyrrolo-dC-CE Phosphoramidite)(Glen Research)を用いた。合成した蛍光標識DNAプローブ(RNA-PC)の塩基配列を以下に示す。
5'-ACA UGA UGA UGA AGA GGA XGA GAG GAG AGU-3'(配列番号6)(式中、 X = PCである。)
【0097】
合成したRNA-PCを用いて実施例1と同様に試験溶液及びコントロール溶液を調製した。励起波長270 nmを用いて380~530 nmの範囲の蛍光スペクトルを測定した点を除き、実施例1と同様の方法で試験溶液及びコントロール溶液の蛍光スペクトルを測定し、蛍光強度の変化率ΔFを算出した。
結果を
図4に示す。
【0098】
RNA-2APと同様に、RNA-PCも、標的RNAを添加したときにのみ蛍光強度が著しく上昇した(
図4A)。RNA-PCに標的RNA又は非標的RNAを添加したときの、波長450nmにおける蛍光強度の変化率を算出すると、標的RNAを添加したときの蛍光強度の変化率はΔF=0.47であり、非標的RNAを添加したときの蛍光強度の変化率(ΔF=-0.32~0.04)に比べて顕著に高かった(
図4B)。これらの結果から、RNA-PCも標的RNAを塩基配列特異的に検出できること、さらには、蛍光標識RNAプローブには目的に応じて異なる励起波長・蛍光波長を有する蛍光塩基を導入できることが示された。
【0099】
なお、RNA-PCに非標的RNA1を添加したとき、他の非標的RNAを添加したときと異なり、蛍光強度が著しく減少した(ΔF = -0.32)のは、RNA-PCと非標的RNA1とが蛍光塩基PCを含む領域で相補的な塩基対合を形成したためであると考えられる。
【0100】
実際に、プログラムRNAstructure ver.6.2を用いて、RNA-PCと非標的RNA1とがハイブリダイズし得るかどうかを推定すると、RNA-PC中の配列5'-gga(PC)g-3'と非標的RNA1中の配列5'-cgucc-3'とが相補的な塩基対合を形成して二本鎖になり得ることが分かった(PCはシトシン(C)と同じように、グアニン(G)と相補的な塩基対合を形成する。)。RNA-PCに非標的RNA1を添加した場合には、RNA-PCと非標的RNA1とがキンクターンモチーフを形成せずに上記配列において塩基対合を形成して二本鎖となり、RNA-PC中の蛍光塩基であるPCが二重螺旋の分子内に隠れるために、RNA-PCの蛍光強度が低下するものと考えられる。
【0101】
このように、蛍光標識核酸プローブは標的RNA以外のRNAにハイブリダイズしたとしても、蛍光塩基を含む所定の領域でキンクターンモチーフを形成しない限り、蛍光強度は上昇せず、むしろ低下する場合すらある。
【0102】
<実施例3>X線結晶解析
実施例1及び2では、蛍光標識RNAプローブが標的RNAを塩基配列特異的に検出することができることが示された。このような蛍光標識RNAプローブによる標的RNA検出のメカニズムを調べるため、以下のようなX線結晶解析を行った。
【0103】
Lilleyら(Lin Huang及びDavid M J Lilley, RNA, 2013, 19(12): 1703-1710)がキンクターンモチーフのX線結晶解析に用いたRNA配列(5’-GGC GAA GAA CCG GGG AGC C-3'(配列番号7))を参考にして、X線結晶解析に用いるRNA分子の塩基配列を設計した。具体的には、上記RNA配列の6番目の位置のアデニン(A)を蛍光塩基(2AP又はPC)と置き換えた塩基配列を設計した(それぞれ、Kt-2AP及びKt-PC)。設計したRNA分子の塩基配列を以下の表2に示す。
【0104】
【0105】
上記RNA分子(Kt-2AP及びKt-PC)は、
図5に示すように、同種分子間で互いにハイブリダイズして2つのキンクターンモチーフを形成し、実施例1及び2の蛍光標識RNAプローブと同様に、キンクターンモチーフ中のL3の位置(
図5中の配列のXの位置)に、蛍光塩基(2AP又はPC)を有する2’-デオキシリボヌクレオチドを含む。
【0106】
上記のように設計したRNA分子(Kt-2AP及びKt-PC)を、核酸自動合成機NTS-M2-MX(日本テクノサービス株式会社)を用いてホスホロアミダイト法により化学合成した。蛍光塩基(2AP及びPC)を含むヌクレオチドのホスホロアミダイトとしては、2-アミノプリン-CEホスホロアミダイド(2-Aminopurine-CE Phosphoramidite)及びピロロ-dC-CEホスホロアミダイト(Pyrrolo-dC-CE Phosphoramidite)(Glen Research)を用いた。上記のように合成したRNA分子を、7 M尿素を含む20%変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(30 cm x 40 cmサイズ)で精製し、NAP-10 columns(Cytiva)を用いたゲルろ過により脱塩した後、1 mMのRNA濃度に調製した(サンプル溶液)。
【0107】
上記のRNA分子を、以下に述べるように、ハンギングドロップ蒸気拡散法により結晶化した。1 mMのRNA濃度のサンプル溶液(Kt-2APまたはKt-PC)及び表3に示す結晶化溶液を0.2 μlずつ混合してドロップを作製した。この結晶化ドロップを40% 2-メチル-2,4-ペンタンジオール(MPD)のリザーバー溶液に対して平衡化した。表3に示すように、Kt-2AP及びKt-PCの各々について、2種類の結晶化条件で、結晶化を行った。
【0108】
【0109】
数日後、得られた単結晶をそれぞれCryoLoop(Hampton Research)で掬い取って、液体窒素中に浸漬して急速凍結し、これをX線回折実験に用いた。
【0110】
X線回折実験はPhoton Factoryの構造生物学ビームラインBL-5AおよびBL-17Aを用いて行った。プログラムXDSを用いて回折データを処理した。初期位相の決定は、Lilleyらが明らかにしたキンクターンモチーフの結晶構造(Lin Huang及びDavid M J Lilley, RNA, 2013, 19(12): 1703-1710、PDB-ID = 4C40)をモデルとして、PhenixのプログラムPhaserを用いて分子置換法で行った(McCoy AJ et al., J Appl Crystallogr, 40: 658-674)。原子パラメーターの精密化はPhenixのプログラムphenix.refineを用いて行った(Adams PD et al., Acta Crystallogr D Biol Crystallog 66: 213-221)。本実験で明らかとなった結晶構造はProtein Data Bankに登録した(PDB-ID = 7EI7、7F8Z、7EI9、7EIA)。
【0111】
上記のX線回折実験において得られた結晶学的データ、並びにデータ測定及び構造精密化の統計値を表4に示す。
【0112】
【0113】
上記のX線結晶構造解析により決定された、Kt-2AP及びKt-PCの立体構造を
図6A~Dに示す。4種類いずれの結晶中においても、RNA分子はキンクターンモチーフを形成しており、配列中に導入した2AP及びPCは分子の外側に大きく露出していることが確認された(
図6A~D)。
【0114】
これらの結果から、実施例1及び2で蛍光標識RNAプローブの蛍光強度が標的RNAの添加により増大したのは、実施例1及び2の蛍光標識RNAプローブも、本実施例のRNA分子と同様に、標的RNAと設計通りにハイブリダイズしてキンクターンモチーフを形成し、蛍光塩基(2AP又はPC)を分子の外側に露出したためであると考えられる。
【0115】
<実施例4>2-アミノプリンを含む蛍光標識DNAプローブ(DNAを主な構成ヌクレオチドとする蛍光標識核酸プローブ)による標的RNAの検出
実施例1と同じ標的RNA及び非標的RNA(配列番号1~4)を用いて、2-アミノプリンを含む蛍光標識DNAプローブによる標的RNAの検出を検討した。
【0116】
実施例1で設計した蛍光標識RNAプローブ(RNA-2AP)においてRNAをすべてDNAに変換したもの(DNA-2AP)を、実施例1と同様の方法で合成・精製し、電気泳動により目的のDNAが高純度で正しく合成されていることを確認した。合成した蛍光標識DNAプローブ(DNA-2AP)の配列を以下に示す。
5’-ACA TGA TGA TGA AGA GGA XGA GAG GAG AGT-3'(配列番号10)(式中、X = 2APである。)
【0117】
合成したDNA-2APを用いて実施例1と同様に試験溶液及びコントロール溶液を調製した。実施例1と同様の方法で試験溶液及びコントロール溶液の蛍光スペクトルを測定し、蛍光強度の変化率ΔFを算出した。
結果を
図7に示す。
【0118】
DNA-2APは、RNA-2APと同様に、3種類の非標的RNAいずれを添加しても蛍光強度がほとんど変化しなかったが、標的RNAを添加すると蛍光強度が著しく上昇した(
図7A)。DNA-2APに標的RNA又は非標的RNAを添加したときの、波長370nmにおける蛍光強度の変化率を算出すると、DNA-2APに標的RNAを添加したときの蛍光強度の変化率はΔF=0.96であり、非標的RNAを添加したときの蛍光強度の変化率(ΔF=-0.04~0.04)に比べて顕著に高く(
図7B)、さらには、RNA-2APに標的RNAを添加したときの蛍光強度の変化率(ΔF =0.59)よりも高かった(
図3B)。
【0119】
これらの結果から、DNA-2APも標的RNAを塩基配列特異的に検出できることが示された。
【0120】
<実施例5>ピロロシトシンを含む蛍光標識DNAプローブによる標的RNAの検出
実施例1と同じ標的RNA及び非標的RNA(配列番号1~4)を用いて、ピロロシトシンを含む蛍光標識DNAプローブによる標的RNAの検出を検討した。
【0121】
実施例2で設計した蛍光標識RNAプローブ(RNA-PC)においてRNAをすべてDNAに変換したもの(DNA-PC)を、実施例1と同様の方法で合成・精製し、電気泳動により目的のDNAが高純度で正しく合成されていることを確認した。合成した蛍光標識DNAプローブ(DNA-2AP)の配列を以下に示す。
5’-ACA TGA TGA TGA AGA GGA XGA GAG GAG AGT-3'(配列番号11)(式中、X = PCである。)
【0122】
合成したDNA-PCを用いて実施例1と同様に試験溶液及びコントロール溶液を調製した。励起波長270 nmを用いて400~520 nmの範囲の蛍光スペクトルを測定した点を除き、実施例1と同様の方法で試験溶液及びコントロール溶液の蛍光スペクトルを測定し、蛍光強度の変化率ΔFを算出した。
結果を
図8に示す。
【0123】
DNA-2APほどではないものの、DNA-PCも、標的RNAを添加したときにのみ蛍光強度が上昇した(
図8A)。DNA-PCに標的RNA又は非標的RNAを添加したときの、波長450nmにおける蛍光強度の変化率を算出すると、標的RNAを添加したときの蛍光強度の変化率はΔF=0.10であり、非標的RNAを添加したときの蛍光強度の変化率(ΔF=-0.02~0.03)よりも高かった(
図8B)。
【0124】
これらの結果から、DNA-PCも標的RNAを塩基配列特異的に検出できることが示された。
【0125】
<実施例6>蛍光標識核酸プローブ及び標的RNAにより形成される二本鎖の熱融解曲線
実施例1、2、4及び5で合成した4種類の蛍光標識核酸プローブ(RNA-2AP、RNA-PC、DNA-2AP及びDNA-PC)と標的RNAとが安定にハイブリダイズするかどうかを、以下に述べるように、熱融解曲線を作成することにより確認した。
【0126】
10 mMカコジル酸ナトリウム(pH7)及び100 mM塩化ナトリウムを含む溶液に、蛍光標識核酸プローブ及び標的RNAをそれぞれ最終濃度2μMとなるように添加した溶液(試験溶液)を調製した。また、コントロールとして、10 mMカコジル酸ナトリウム(pH7)及び100 mM塩化ナトリウムを含む溶液に、2 μMの蛍光標識核酸プローブのみを添加した溶液(コントロール溶液)を調製した。
【0127】
温度制御装置PAC-743R(Jasco)を接続した吸光光度計V-630(Jasco)を用い、20~100 ℃の温度範囲(測定間隔1 ℃、昇温速度1 ℃/分)で、試験溶液及びコントロール溶液の波長260.0 nmの紫外線の吸光度を測定した。
【0128】
相対吸光度(A)を以下の式で算出し、得られた相対吸光度を温度に対してプロットして熱融解曲線を作成した。
A = (At - Amin)/(Amax - Amin)
(At: t℃での吸光度、Amin: 吸光度の最小値、Amax: 吸光度の最大値)
【0129】
その結果、コントロール溶液の熱融解曲線により、各蛍光標識核酸プローブは自己会合していないこと、分子内で立体構造を形成していないことが確認された。
【0130】
また、RNA-2AP、RNA-PC、DNA-2APの各蛍光標識核酸プローブについては、標的RNAと等モル混合したときの熱融解曲線がシグモイド型であり(
図9)、これらの蛍光標識核酸プローブは、標的RNAと強くハイブリダイズして安定な二本鎖を形成することが示された。
【0131】
DNA-PCについては、上述の3種類の蛍光標識核酸プローブと比較して、熱融解曲線が全体的に左側(低温側)にシフトしていたものの、20℃~22℃では相対吸光度は約0であり、熱融解曲線がシグモイド型になったため(
図9)、DNA-PCもRNA-2AP、RNA-PC、DNA-2APほどではないが、標的RNAにハイブリダイズして二本鎖を形成することが示された。
【0132】
これらの結果から、実施例1、2、4及び5で、RNA-2AP、RNA-PC、及びDNA-2APの標的RNAを添加したときの蛍光強度の変化率が、DNA-PCに比べて高かったのは、RNA-2AP、RNA-PC、及びDNA-2APがDNA-PCに比べて標的RNAに強くハイブリダイズして安定な二本鎖を形成し、キンクターンモチーフを安定に形成することができたためと考えられる。
【0133】
従って、DNA-PCについても、例えばプローブの長さを増加させることにより、標的RNAに強くハイブリダイズできるようにすれば、標的RNAを添加したときの蛍光強度の変化率が増大するものと考えられる。
【0134】
なお、DNA-PCとRNA-PCとは同様の配列を有するにも関わらず、DNA-PCの蛍光強度の変化率がRNA-PCに比べて低かったのは、2'-endoコンホメーションを取りやすいデオキシリボース環をもつDNAが、3'-endoコンホメーションを優先的にとるリボース環をもつRNAとハイブリダイズする際にエネルギー的に不利であることによるものと考えられる。
【0135】
<実施例7>標的RNAの濃度と蛍光標識核酸プローブの蛍光強度との関係
実施例1と同じ標的RNA及び実施例4で合成した蛍光標識核酸プローブ(DNA-2AP)を用いて、標的RNAの濃度と蛍光標識核酸プローブの蛍光強度との関係を評価した。
【0136】
10 mMカコジル酸ナトリウム(pH7)及び100 mM塩化ナトリウムを含む溶液に、DNA-2APを最終濃度0.01mMとなるように添加し、標的RNAをDNA-2APに対してモル比が0、0.2、0.4、0.6、0.8、1.0、2.0、3.0、4.0になるように添加した。
【0137】
得られた溶液の波長370nmにおける蛍光強度を励起波長305 nmを用いてFP-8300(Jasco)で測定した。
【0138】
結果を
図10に示す。
0から2の間のDNA-2APに対する標的RNAのモル比では、モル比に比例してほぼ直線的に蛍光強度が増加した。
【0139】
このことから、蛍光標識核酸プローブの蛍光強度は、標的核酸の濃度に比例して増大することが示された。
【0140】
なお、蛍光強度は、DNA-2APに対する標的RNAのモル比が2の時に最大値に達したが、DNA-2APの標的RNAに対する親和性を向上させれば、蛍光強度が最大値となる時のモル比は1に近づくものと考えられる。DNA-2APの標的RNAに対する親和性は、例えば、DNA-2APの配列を長くしたり、DNA-2APの配列の一部にヌクレオチド類似体を導入したりすることにより向上させることができる。
【0141】
<実施例8>蛍光標識核酸プローブによる標的核酸の検出のpH非依存性
蛍光標識核酸プローブによる標的核酸の検出がpHに依存するかどうかを評価した。
標的核酸としては実施例1に記載の標的RNAを、蛍光標識核酸プローブとしては実施例4に記載のDNA-2APを用いた。
【0142】
10 mMカコジル酸ナトリウム緩衝液(pH 5、6、若しくは7)又は10 mM Tris-HCl 緩衝液(pH 8若しくは9)に塩化ナトリウムを最終濃度100 mMとなるように添加し、ハイブリダイゼーション溶液を調製した。
【0143】
各ハイブリダイゼーション溶液にDNA-2AP及び標的RNAをそれぞれ最終濃度0.01 mMとなるように添加した。また、コントロールとして、ハイブリダイゼーション溶液にDNA-2APのみを最終濃度0.01 mMとなるように添加した。
【0144】
得られた溶液の蛍光スペクトル(340~420 nm)を、励起波長305 nmを用いてFP-8300(Jasco)で測定した。また、実施例1と同様の方法で蛍光強度の変化率ΔFを算出した。
【0145】
結果を
図11に示す。
pH 5、6、7、8、9のいずれのpHにおいても、標的RNAを添加することにより蛍光強度が顕著に増加した(
図11A)。また、DNA-2APに標的RNAを添加したときの、波長370 nmにおける蛍光強度の変化率ΔFはpHに依存しなかった(
図11B)。
【0146】
これらの結果から、蛍光標識核酸プローブは幅広いpHで標的RNAを検出できることが示された。