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特開2023-21640カルボキシメチルセルロースゲルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021640
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】カルボキシメチルセルロースゲルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/075 20060101AFI20230207BHJP
   C08B 15/00 20060101ALI20230207BHJP
   C08H 8/00 20100101ALI20230207BHJP
【FI】
C08J3/075 CEP
C08B15/00
C08H8/00
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126628
(22)【出願日】2021-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】503237806
【氏名又は名称】株式会社NHVコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】越智 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】本田 修士
【テーマコード(参考)】
4C090
4F070
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090BA29
4C090BB92
4C090BD08
4C090BD36
4C090CA07
4C090CA23
4C090CA50
4C090DA01
4F070AA02
4F070AB03
4F070CA17
4F070CB02
4F070HA04
4F070HB14
(57)【要約】
【課題】水に分散したときの粘度を高く維持することのできるカルボキシメチルセルロースゲルを製造することが可能となるカルボキシメチルセルロースゲルの製造方法を提供する。
【解決手段】カルボキシメチルセルロースゲルの製造方法は、混合物調製工程(ステップS1)と、ゲル化工程(ステップS2)とを備える。混合物調製工程では、カルボキシメチルセルロースと水との混合物11を調製する。ゲル化工程では、混合物11に電離放射線(電子線EB)を照射することによりカルボキシメチルセルロースをゲル化させる。カルボキシメチルセルロースの粘度は、1質量%水溶液で測定した場合、200mPa・s以上、3000mPa・s以下の範囲内である。混合物11中のカルボキシメチルセルロースの含有量は、10質量%以上、25質量%以下の範囲内である。電離放射線の照射線量は、1kGy以上、20kGy以下の範囲内である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシメチルセルロースゲルの製造方法であって、
カルボキシメチルセルロースと水との混合物を調製する混合物調製工程と、
前記混合物に電離放射線を照射することにより前記カルボキシメチルセルロースをゲル化させるゲル化工程とを備え、
前記カルボキシメチルセルロースの粘度は、1質量%水溶液で測定した場合、200mPa・s以上、3000mPa・s以下の範囲内であり、
前記混合物中の前記カルボキシメチルセルロースの含有量は、10質量%以上、25質量%以下の範囲内であり、
前記電離放射線の照射線量は、1kGy以上、20kGy以下の範囲内である、カルボキシメチルセルロースゲルの製造方法。
【請求項2】
前記カルボキシメチルセルロースの粘度は、1質量%水溶液で測定した場合、1000mPa・s以上である、請求項1に記載のカルボキシメチルセルロースゲルの製造方法。
【請求項3】
前記混合物中の前記カルボキシメチルセルロースの含有量は、15質量%以上である、請求項1又は請求項2に記載のカルボキシメチルセルロースゲルの製造方法。
【請求項4】
前記電離放射線の照射線量は、5kGy以上である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のカルボキシメチルセルロースゲルの製造方法。
【請求項5】
前記カルボキシメチルセルロースのエーテル化度は、1.0以上である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のカルボキシメチルセルロースゲルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシメチルセルロースゲルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose、CMC)は、天然高分子であるセルロースの誘導体であり、例えば、増粘剤等として各種用途に用いられている。このようなカルボキシメチルセルロースに水の存在下で電子線を照射すると、ゲル化反応が進行し、カルボキシメチルセルロースゲルが得られる(特許文献1)。カルボキシメチルセルロースゲルは、例えば、保水剤、吸水剤等の用途に用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07-048401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなカルボキシメチルセルロースゲルを水に分散して用いる場合、水分散液の粘度を高く維持することが好ましい場合がある。ここで、カルボキシメチルセルロースゲルの水分散液の粘度は、原料のカルボキシメチルセルロースの溶液の粘度よりも低粘度となるのが当業者の技術常識であった。このような知見から、カルボキシメチルセルロースゲルの水分散液の粘度を高く維持することのできるカルボキシメチルセルロースゲルの製造方法について検討がなされていないのが実情であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するカルボキシメチルセルロースゲルの製造方法は、カルボキシメチルセルロースゲルの製造方法であって、カルボキシメチルセルロースと水との混合物を調製する混合物調製工程と、前記混合物に電離放射線を照射することにより前記カルボキシメチルセルロースをゲル化させるゲル化工程とを備え、前記カルボキシメチルセルロースの粘度は、1質量%水溶液で測定した場合、200mPa・s以上、3000mPa・s以下の範囲内であり、前記混合物中の前記カルボキシメチルセルロースの含有量は、10質量%以上、25質量%以下の範囲内であり、前記電離放射線の照射線量は、1kGy以上、20kGy以下の範囲内である。
【0006】
上記カルボキシメチルセルロースゲルの製造方法において、前記カルボキシメチルセルロースの粘度は、1質量%水溶液で測定した場合、1000mPa・s以上であってもよい。
【0007】
上記カルボキシメチルセルロースゲルの製造方法において、前記混合物中の前記カルボキシメチルセルロースの含有量は、15質量%以上であってもよい。
上記カルボキシメチルセルロースゲルの製造方法において、前記電離放射線の照射線量は、5kGy以上であってもよい。
【0008】
上記カルボキシメチルセルロースゲルの製造方法において、前記カルボキシメチルセルロースのエーテル化度は、1.0以上であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水に分散したときの粘度を高く維持することのできるカルボキシメチルセルロースゲルを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態におけるカルボキシメチルセルロースゲルの製造方法を説明する概略図であり、(a)は、混合物調製工程の概略図であり、(b)は、ゲル化工程の概略図であり、(c)は、カルボキシメチルセルロースゲルの概略図である。
図2】漏斗流下時間の測定に用いる漏斗を示す斜視図である。
図3】電離放射線の照射時間と漏斗流下時間の関係を示すグラフである。
図4】電離放射線の照射時間と漏斗流下時間の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、カルボキシメチルセルロースゲルの製造方法の実施形態について図面を参照して説明する。
図1(a)及び図1(b)に示すように、カルボキシメチルセルロースゲルの製造方法は、混合物調製工程(ステップS1)と、ゲル化工程(ステップS2)とを備えている。
【0012】
<混合物調製工程>
混合物調製工程では、カルボキシメチルセルロースと水との混合物11を調製する。カルボキシメチルセルロースは、セルロース誘導体であり、セルロースの水酸基にカルボキシメチル基がエーテル結合した構造を有している。カルボキシメチルセルロース(CMC)としては、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(CMC-Na)が好適に用いられる。以下、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(CMC-Na)についても、単にカルボキシメチルセルロース(CMC)という。
【0013】
混合物調製工程で用いるカルボキシメチルセルロースの粘度は、1質量%水溶液で測定した場合、200mPa・s以上、3000mPa・s以下の範囲内である。
混合物調製工程で用いるカルボキシメチルセルロースの上記粘度が200mPa・s以上の場合、カルボキシメチルセルロースのゲル化反応を促進することができる。この粘度は、1000mPa・s以上であることが好ましく、より好ましくは、1500mPa・s以上である。
【0014】
一方、カルボキシメチルセルロースの上記粘度が3000mPa・s以下の場合、カルボキシメチルセルロースゲルを水に分散したときの粘度を低く抑えることができる。この粘度は、2000mPa・s以下であることが好ましい。
【0015】
カルボキシメチルセルロースの水溶液の粘度は、漏斗流下時間により表すことができる。漏斗流下時間は、内径寸法が10mm、長さ寸法が90mmの管部を有する漏斗を用いて、750mLの容量の水分散液を連続して通過する時間である。図2には、漏斗流下時間の測定に用いる漏斗の寸法の詳細を示している。図2における漏斗の寸法を示す数値の単位は、“mm”である。漏斗は、例えば、ガラス製である。
【0016】
漏斗流下時間は、カルボキシメチルセルロースの水溶液中におけるカルボキシメチルセルロースの含有量を0.84質量%として測定する。カルボキシメチルセルロースの水溶液の漏斗流下時間は、例えば、5秒以上、30秒以下の範囲内であることが好ましい。
【0017】
カルボキシメチルセルロースのエーテル化度は、例えば、1.0以上、1.5以下の範囲内であることが好ましい。カルボキシメチルセルロースのエーテル化度が1.0以上の場合、ゲル化反応を促進することができる。カルボキシメチルセルロースのエーテル化度が1.5以下の場合、カルボキシメチルセルロースの入手が容易となる。
【0018】
混合物調製工程で調製する混合物11中のカルボキシメチルセルロースの含有量は、10質量%以上、25質量%以下の範囲内である。
混合物調製工程で調製する混合物11中のカルボキシメチルセルロースの含有量が10質量%以上の場合、カルボキシメチルセルロースゲルを水に分散したときの粘度を高く維持することができる。このカルボキシメチルセルロースの含有量は、15質量%以上であることが好ましく、より好ましくは、20質量%以上である。
【0019】
一方、混合物調製工程で調製する混合物11中のカルボキシメチルセルロースの含有量が25質量%以下の場合、カルボキシメチルセルロースゲルを水に分散したときの粘度を高く維持することができる。
【0020】
混合物調製工程におけるカルボキシメチルセルロースと水との混合は、図1(a)に模式的に示す混合装置12を用いて行うことができる。混合装置12としては、市販の撹拌装置、混練装置、又は分散装置を用いることができる。
【0021】
混合物調製工程は、ペースト状の混合物11が得られるまで、カルボキシメチルセルロースと水とを混合する。混合物調製工程は、常温で行うことができる。混合物調製工程は、減圧下で行ってもよい。
【0022】
<ゲル化工程>
ゲル化工程では、混合物11に電離放射線を照射することによりカルボキシメチルセルロースをゲル化させる。ゲル化工程における電離放射線の照射線量は、1kGy以上、20kGy以下の範囲内である。
【0023】
ゲル化工程における電離放射線の照射線量が1kGy以上の場合、カルボキシメチルセルロースゲルを水に分散したときの粘度低く抑えることができる。この照射線量は、5kGy以上であることが好ましい。
【0024】
ゲル化工程における電離放射線の照射線量が20kGy以下の場合、カルボキシメチルセルロースゲルを水に分散したときの粘度を低く抑えることができる。この照射線量は、15kGy以下であることが好ましい。
【0025】
ゲル化工程で用いる電離放射線としては、例えば、α線、β線、γ線、X線、電子線、紫外線等が挙げられる。電離放射線の中でも、電子線、X線、及びコバルト60からのγ線が好ましく、より好ましくは電子線である。図1(b)に示すように、電子線EBの照射には、電子加速器を備えた電子線照射装置13を用いることができる。
【0026】
ゲル化工程では、予めシート状に成形した混合物11に電離放射線を照射することが好ましい。混合物11をシート状に成形するには、混合物11をシート状に押し出す押出装置、圧延用のロールを用いて混合物11を圧延する圧延装置、混合物11をプレスするプレス装置等を用いることができる。
【0027】
ゲル化工程は、混合物11を搬送しながら電離放射線を照射する連続式で行ってもよいし、所定量の混合物11に電離放射線を照射するバッチ式で行ってもよい。
ゲル化工程では、混合物11への電離放射線の照射により、カルボキシメチルセルロースの分子鎖を架橋させることができる。このゲル化工程では、混合物11への電離放射線の照射により、カルボキシメチルセルロースの分子鎖の切断も行われる。
【0028】
<カルボキシメチルセルロースゲル>
ゲル化工程により、図1(c)に示されるカルボキシメチルセルロースゲル14が得られる。カルボキシメチルセルロースゲル14は、架橋構造を有し、この架橋構造に基づく吸水性及び保水性を有している。カルボキシメチルセルロースゲル14は、ハイドロゲルの一種である。カルボキシメチルセルロースゲル14の水分散液の粘度は、漏斗流下時間により表すことができる。漏斗流下時間は、上述した原料のカルボキシメチルセルロースの水溶液の漏斗流下時間と同じ方法により測定することができる。漏斗流下時間は、カルボキシメチルセルロースゲル14の水分散液中におけるカルボキシメチルセルロースゲル14の含有量を0.84質量%として測定する。カルボキシメチルセルロースゲル14の水分散液の漏斗流下時間は、カルボキシメチルセルロースの水溶液の漏斗流下時間よりも長いことが好ましい。
【0029】
カルボキシメチルセルロースゲル14の吸水倍率は、例えば、5倍以上であることが好ましく、より好ましくは、10倍以上であり、さらに好ましくは、15倍以上である。吸水倍率の上限は特に限定されないが、例えば、100倍以下であることが好ましい。得られたカルボキシメチルセルロースゲル14のゲル分率は、例えば、20%以上、70%以下の範囲内であることが好ましい。
【0030】
カルボキシメチルセルロースゲル14は、保水剤、吸水剤等の用途に用いることができる。カルボキシメチルセルロースゲル14の水分散液は、保水剤の用途に好適に用いることができる。例えば、打設直後のコンクリートにカルボキシメチルセルロースゲル14の水分散液を散布することで、コンクリートの養生に伴う割れや強度低下を抑えることが可能となる。
【0031】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)カルボキシメチルセルロースゲル14の製造方法は、混合物調製工程(ステップS1)と、ゲル化工程(ステップS2)とを備えている。混合物調製工程で用いるカルボキシメチルセルロースの粘度は、1質量%水溶液で測定した場合、200mPa・s以上、3000mPa・s以下の範囲内である。混合物調製工程における混合物11中のカルボキシメチルセルロースの含有量は、10質量%以上、25質量%以下の範囲内である。ゲル化工程における電離放射線の照射線量は、1kGy以上、20kGy以下の範囲内である。
【0032】
この方法によれば、水に分散したときの粘度を高く維持することのできるカルボキシメチルセルロースゲル14を製造することができる。例えば、原料となるカルボキシメチルセルロース水溶液の粘度と同等の粘度又はより高い粘度を有するカルボキシメチルセルロースゲル14の分散液を得ることができる。
【0033】
カルボキシメチルセルロースゲル14の分散液の粘度の維持は、次のように考察される。ゲル化工程では、混合物11への電離放射線の照射により、カルボキシメチルセルロースの分子鎖の切断も行われる。このような分子鎖の切断により低分子化したカルボキシメチルセルロースは、カルボキシメチルセルロースゲル14の分散液の粘度を低下させる。上記の方法によれば、ゲル化工程において、カルボキシメチルセルロースの分子鎖の切断を抑えつつ、架橋構造を形成することができると考えられる。すなわち、低分子化したカルボキシメチルセルロースの生成量が抑えられることで、カルボキシメチルセルロースゲル14を水に分散したときの粘度を高く維持することができると考えられる。
【0034】
(2)上記(1)に記載のカルボキシメチルセルロースゲル14の製造方法によれば、例えば、カルボキシメチルセルロースゲル14の分散液が所定の粘度以上とする場合の原料のカルボキシメチルセルロースの使用量を抑えることが可能となる。これにより、カルボキシメチルセルロースゲル14の分散液を所定の粘度以上とする場合の原料コストを削減することが可能となる。
【0035】
また、カルボキシメチルセルロースゲル14は、天然高分子であるセルロースを由来として得られるため、安全性が高い。また、カルボキシメチルセルロースゲル14は、生分解性を有するため、例えば、建設資材として用いた場合の環境負荷を低減することができる。
【0036】
(3)混合物調製工程で用いるカルボキシメチルセルロースの粘度は、1質量%水溶液で測定した場合、1000mPa・s以上であることが好ましい。この場合、カルボキシメチルセルロースのゲル化反応をより促進することができる。
【0037】
(4)混合物調製工程において、混合物11中のカルボキシメチルセルロースの含有量は、15質量%以上であることが好ましい。この場合、水に分散したときの粘度をより高く維持することのできるカルボキシメチルセルロースゲル14を製造することができる。
【0038】
(5)ゲル化工程において、電離放射線の照射線量は、5kGy以上であることが好ましい。この場合、水に分散したときの粘度をより高く維持することのできるカルボキシメチルセルロースゲル14を製造することができる。
【0039】
(6)混合物調製工程で用いるカルボキシメチルセルロースのエーテル化度は、1.0以上であることが好ましい。この場合、ゲル化反応を促進することができる。
【実施例0040】
次に、実施例及び比較例を説明する。
(実施例1~4)
実施例1~4では、表1に示す物性の市販のカルボキシメチルセルロースを用いて、CMCと水との混合物を調製した(混合物調製工程)。混合物をシート状に成形し、電離放射線を表1に示す照射線量となるようにシート状の混合物に照射した。このゲル化工程により、カルボキシメチルセルロースゲル(CMCゲル)を調製した。各実施例では、電離放射線としては、電子線を用いた。
【0041】
表1中の“粘度”は、CMCの濃度が1質量%の水溶液を25℃、回転数60rpmの条件でB型粘度計を用いて測定した値である。
CMCの濃度が1質量%の水溶液は、次のように調製した。CMCのサンプルを1質量%の濃度となるように、イオン交換水に完全に溶解させた後、減圧脱泡することで調製した。
【0042】
原料のCMCの溶液の粘度は、漏斗流下時間により表すこともできる。表1中の“漏斗流下時間T0”は、図2に示す漏斗15を用いて25℃の条件で次のように測定した。まず、漏斗15の上面が水平となるように、図示を省略した支持台に漏斗15を設置した。漏斗15の流出口を塞いだ後、測定するCMCの水溶液を漏斗15の上面まで注いだ。測定するCMCの水溶液の濃度は、0.84質量%である。漏斗15に注いだCMCの水溶液の容量は、750mLである。次に、漏斗15K流出口を開放することで、漏斗15の流出口からCMCの水溶液を流出させた。漏斗15の流出口からCMCの水溶液の流出開始から、漏斗15の流出口においてCMCの水溶液が最初に途切れるまでの時間を測定し、この時間を漏斗流下時間T0とした。このように測定した漏斗流下時間が長いほど粘度が高いと言える。
【0043】
表1中の“エーテル化度”は、次のように測定した。
CMCのサンプル1.000gを磁製るつぼ中で完全に灰化した後、室温で放冷することで灰化物を得た。ビーカーに0.000186mol/Lの硫酸290mLと、上記灰化物を加え、30分間煮沸後、冷水中で冷却した。次に、ビーカー内の液の中和滴定を、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて行った。また、同様の方法で空試験を行い、下記式(2)及び(3)によりエーテル化度を算出した。
【0044】
A={((B-S)×F)/(W×(1-M/100))}-X(但し、“-X”は“+Y”であってもよい。)・・・(2)
エーテル化度=(162×A)/(10000-80×A)・・・(3)
上記式(2)のAは、乾燥物換算した試料1g中の結合アルカリに消費された0.05mol/L硫酸消費量[mL]である。上記式(2)中のX及びYは、以下のように算出される。
【0045】
まず、1.000gのCMCのサンプルを250mLのイオン交換水に溶解した溶液に0.05mol/L硫酸5mLを加え、10分間煮沸後、冷水中で冷却した。次に、ビーカー内の液の中和滴定を、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて行った。また、同様の方法で空試験を行い、下記式(3)及び(5)により上記X及びYを算出した。
【0046】
X=((B-S)×F)/(W×(1-M/100))・・・(4)
Y=-{((B-S)×F)/(W×(1-M/100))}・・・(5)
上記式(2),(4),(5)中のBは、空試験に要した0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液の消費量[mL]であり、Sは、実試験に要した0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液の消費量[mL]である。上記式(2),(4),(5)中のWは、サンプル量[g]であり、Mは、サンプルの乾燥減量[%]であり、Fは、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液のファクターである。
【0047】
表1の“製造条件”欄には、混合物調製工程で調製した混合物の濃度と、ゲル化工程で照射した電離放射線の照射線量を示している。
(実施例5~7)
実施例5~7では、表1に示す物性の市販のCMCを用いるとともに、表1に示す製造条件とした以外は、実施例1と同様にCMCゲルを調製した。
【0048】
(比較例1,2)
比較例1,2では、表2に示す物性の市販のCMCを用いるとともに、表2に示す製造条件とした以外は、実施例1と同様にCMCゲルを調製した。
【0049】
(CMCゲルの物性)
表1及び表2には、各例におけるCMCゲルの物性を示している。表1及び表2中の“漏斗流下時間T1”は、図2に示す漏斗15を用いて上述した“漏斗流下時間T0”と同様の方法により測定した。測定するCMCゲルの水分散液の濃度は、0.84質量%である。
【0050】
表1及び表2中の“吸水倍率”は、JIS K7223-1996、「高吸水性樹脂の吸水量試験方法」に準拠して測定した。
表1及び表2中の“ゲル分率”は、次のように測定した。
【0051】
上記の吸水倍率を測定後のCMCゲルを、温風乾燥機を用いて40℃、24時間の条件で乾燥した。さらに、真空乾燥機を用いて真空乾燥を1時間行い、CMCゲルの乾燥物の質量h[g]を測定した。以下の式(6)を用いてゲル分率G[%]を算出した。
【0052】
G=(h/i)×100・・・(6)
但し、式(6)中のiは、CMCゲルの原料として用いたCMCの質量[g]である。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
図3のグラフは、各実施例における照射線量と漏斗流下時間との関係を示している。図3のプロットA11~A14は、実施例1~4の結果を示し、プロットA10は、実施例1~4で用いた原料のCMCの漏斗流下時間の測定結果を示している。図3のプロットA21~A23は、実施例5~7の結果を示し、プロットA20は、実施例5~7で用いた原料のCMCの漏斗流下時間の測定結果を示している。
【0055】
図4のグラフは、各比較例における照射線量と漏斗流下時間との関係を示している。図4のプロットB11,B12は、比較例1,2の結果を示し、プロットB10は、比較例1,2で用いた原料のCMCの漏斗流下時間の測定結果を示している。
【0056】
表1及び表2には、各例における漏斗流下時間T0に対する漏斗流下時間T1の比率(比率=T1/T0)を示している。図3及び表1に示すように、実施例1~7では、原料のCMCの漏斗流下時間T0に対するCMCゲルの漏斗流下時間T1の比率は、1以上であった。この結果から、実施例1~7では、水に分散したときの粘度を高く維持することのできるカルボキシメチルセルロースゲルが得られることが分かる。一方、図4及び表2に示すように、比較例1,2では、原料のCMCの漏斗流下時間T0に対するCMCゲルの漏斗流下時間T1の比率が、1未満となり、各比較例では、水に分散したときの粘度を維持することができないことが分かる。
【符号の説明】
【0057】
11…混合物
14…カルボキシメチルセルロースゲル
EB…電子線(電離放射線)
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-02-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
カルボキシメチルセルロースゲルの水分散液を打設直後のコンクリートに散布することで前記コンクリートを保水する保水剤の用途に用いられる前記カルボキシメチルセルロースゲルの製造方法であって、
カルボキシメチルセルロースと水との混合物を調製する混合物調製工程と、
前記混合物に電離放射線を照射することにより前記カルボキシメチルセルロースをゲル化させるゲル化工程とを備え、
前記カルボキシメチルセルロースの粘度は、1質量%水溶液で測定した場合、200mPa・s以上、3000mPa・s以下の範囲内であり、
前記混合物中の前記カルボキシメチルセルロースの含有量は、10質量%以上、25質量%以下の範囲内であり、
前記電離放射線の照射線量は、1kGy以上、20kGy以下の範囲内である、カルボキシメチルセルロースゲルの製造方法。