(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021650
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】高血圧、心筋症、及び心房細動よりなる群から選択されるいずれか一つ疾患の罹患を測定する方法、前記疾患の罹患を測定するための検査試薬、及び前記疾患の罹患を測定するための検査キット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20230207BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126647
(22)【出願日】2021-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】593038974
【氏名又は名称】松森 昭
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松森 昭
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB03
2G045CB07
2G045DA37
2G045FB03
(57)【要約】
【課題】
尿及び唾液よりなる群から選択される少なくとも一つの検体を用いて、高血圧症、心筋症又は心房細動の罹患を測定するための方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
(1)被検体から採取された尿及び唾液よりなる群から選択される少なくとも一つの検体中の遊離イムノグロブリン軽鎖のカッパ鎖及びラムダ鎖よりなる群から選択される少なくとも一種の測定値を取得する工程、及び(2)工程(1)において取得したカッパ鎖の測定値、ラムダ鎖の測定値、及び前記カッパ鎖の測定値と前記ラムダ鎖の測定値とを加算した測定値よりなる群から選択される少なくとも一つの測定値を対応する基準値と比較する工程であって、前記測定値が前記対応する基準値よりも高い場合に、前記被検体が高血圧、心筋症、及び心房細動よりなる群から選択されるいずれか一つ疾患に罹患していることを示す工程を含む、被検体について高血圧、心筋症、及び心房細動よりなる群から選択されるいずれか一つ疾患の罹患を測定する方法により課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)及び(2)を含む、被検体について高血圧、心筋症、及び心房細動よりなる群から選択されるいずれか一つ疾患の罹患を測定する方法:
(1)被検体から採取された尿、及び唾液よりなる群から選択される少なくとも一つの検体中の遊離イムノグロブリン軽鎖のカッパ鎖及びラムダ鎖よりなる群から選択される少なくとも一種の測定値を取得する工程、及び
(2)工程(1)において取得したカッパ鎖の測定値、ラムダ鎖の測定値、及び前記カッパ鎖の測定値と前記ラムダ鎖の測定値とを加算した測定値よりなる群から選択される少なくとも一つの測定値を対応する基準値と比較する工程であって、前記測定値が前記対応する基準値よりも高い場合に、前記被検体が高血圧、心筋症、及び心房細動よりなる群から選択されるいずれか一つ疾患に罹患していることを示す工程。
【請求項2】
心筋症が、拡張型心筋症、又は肥大型心筋症である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(1)工程において遊離イムノグロブリン軽鎖のカッパ鎖の測定値を取得する請求項1、又は2に記載の方法を実施するための、遊離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖抗体を含む、検査試薬。
【請求項4】
(1)工程において遊離イムノグロブリン軽鎖のラムダ鎖の測定値を取得する請求項1、又は2に記載の方法を実施するための、遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖抗体を含む、検査試薬。
【請求項5】
(1)工程において遊離イムノグロブリン軽鎖のカッパ鎖の測定値、及びラムダ鎖の測定値を取得する請求項1、又は2に記載の方法を実施するための、遊離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖抗体と遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖抗体を含む、検査キット。
【請求項6】
(1)工程において遊離イムノグロブリン軽鎖のカッパ鎖の測定値を取得する請求項1、又は2に記載の方法を実施するための、遊離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖捕捉抗体、及び遊離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖検出抗体を含む、検査キット。
【請求項7】
(1)工程において遊離イムノグロブリン軽鎖のカッパ鎖の測定値を取得する請求項1、又は2に記載の方法を実施するための、遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖捕捉抗体、及び遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖検出抗体を含む、検査キット。
【請求項8】
(1)工程において遊離イムノグロブリン軽鎖のカッパ鎖の測定値を取得する請求項1、又は2に記載の方法を実施するための、遊離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖捕捉抗体、遊離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖検出抗体、遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖捕捉抗体及び遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖検出抗体を含む、検査キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高血圧、心筋症、及び心房細動よりなる群から選択されるいずれか一つ疾患の罹患を測定する方法、罹患を測定するための検査試薬、及び罹患を測定するための検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カッパ鎖及びラムダ鎖からなる遊離イムノグロブリン軽鎖(FLC)は、骨髄腫、アミロイドーシスなどの血液疾患の診断に使用されてきた。骨髄腫では、腫瘍化する細胞の種類により、イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖を産生する腫瘍ではカッパ鎖が増加し、カッパ鎖/ラムダ鎖比が上昇するのに対して、イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖を産生する腫瘍では、ラムダ鎖が増加し、カッパ鎖/ラムダ鎖比が減少する。
【0003】
また、骨髄腫瘍以外の疾患においても、FLCが、有用な指標となることが報告されている。例えば、特許文献1では、FLCのカッパ鎖値、ラムダ鎖値、及びカッパ鎖/ラムダ鎖の比のいずれか1つ以上の値を指標として、心不全、心筋症、心筋炎及び急性心筋梗塞から選ばれる少なくとも一種の疾患を検出する方法が提唱されている。特許文献2には、FLCのカッパ鎖値、ラムダ鎖値、又はカッパ鎖/ラムダ鎖の比を用いて、糖尿病の罹患を測定する方法が記載されている。非特許文献1では、2型糖尿病患者における心血管疾患発症のリスクの指標として、cFLC(polyclonal combined immunoglobulin free light chain:FLCカッパ鎖含有量及びFLCラムダ鎖含有量の合計値)を用いることが提唱されている。非特許文献2では慢性腎疾患(CKD)のステージが進むにつれ、カッパ鎖/ラムダ鎖の比が上昇することが示されている。
さらに、特許文献1及び非特許文献3では、FLCのカッパ鎖値、ラムダ鎖値をより高感度に検出する方法を報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4950879号公報
【特許文献2】国際公開公報第2017/170847号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Diabetes care, 2014, 37, p2028-2030
【非特許文献2】Clin J Am Soc Nephrol. 2008 November; 3(6): 1684-1690.
【非特許文献3】J Immunol Methods. 2013, May 31; 391(1-2):1-13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在、高血圧症の診断は、血圧測定により診断が行われているが、血圧は、一過性の変動を来すことも多く、高血圧症であると診断されるまでには一定期間血圧をモニタリングする必要がある。
【0007】
また、心筋症は、心エコー、MRI等の画像診断を用いて診断されているが、これらの画像診断は、通常健康診断の項目ではなく、スクリーニングを行うことは困難である。
心房細動は、心電図により確定診断ができるが、心電図なしでは確定診断はできない。さらに、発作性心房細動では、非発作時は心電図は正常である。
【0008】
本発明は、尿及び唾液よりなる群から選択される少なくとも一つの検体を用いて、高血圧症、心筋症又は心房細動の罹患を測定するための方法、前記疾患の罹患を測定するための検査試薬、及び前記疾患の罹患を測定するための検査キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記実施形態を含む。
項1.下記工程(1)及び(2)を含む、被検体について高血圧、心筋症、及び心房細動よりなる群から選択されるいずれか一つ疾患の罹患を測定する方法:(1)被検体から採取された尿及び唾液よりなる群から選択される少なくとも一つの検体中の遊離イムノグロブリン軽鎖のカッパ鎖及びラムダ鎖よりなる群から選択される少なくとも一種の測定値を取得する工程、及び(2)工程(1)において取得したカッパ鎖の測定値、ラムダ鎖の測定値、及び前記カッパ鎖の測定値と前記ラムダ鎖の測定値とを加算した測定値よりなる群から選択される少なくとも一つの測定値を対応する基準値と比較する工程であって、前記測定値が前記対応する基準値よりも高い場合に、前記被検体が高血圧、心筋症、及び心房細動よりなる群から選択されるいずれか一つ疾患に罹患していることを示す工程。
項2.心筋症が、拡張型心筋症、又は肥大型心筋症である、項1に記載の方法。
項3.(1)工程において遊離イムノグロブリン軽鎖のカッパ鎖の測定値を取得する項1、又は2に記載の方法を実施するための、遊離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖抗体を含む、検査試薬。
項4.(1)工程において遊離イムノグロブリン軽鎖のラムダ鎖の測定値を取得する項1、又は2に記載の方法を実施するための、遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖抗体を含む、検査試薬。
項5.(1)工程において遊離イムノグロブリン軽鎖のカッパ鎖の測定値、及びラムダ鎖の測定値を取得する項1、又は2に記載の方法を実施するための、遊離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖抗体と遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖抗体を含む、検査キット。
項6.(1)工程において遊離イムノグロブリン軽鎖のカッパ鎖の測定値を取得する項1、又は2に記載の方法を実施するための、遊離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖捕捉抗体、及び遊離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖検出抗体を含む、検査キット。
項7.(1)工程において遊離イムノグロブリン軽鎖のカッパ鎖の測定値を取得する項1、又は2に記載の方法を実施するための、遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖捕捉抗体、及び遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖検出抗体を含む、検査キット。
項8.(1)工程において遊離イムノグロブリン軽鎖のカッパ鎖の測定値を取得する項1、又は2に記載の方法を実施するための、遊離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖捕捉抗体、遊離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖検出抗体、遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖捕捉抗体及び遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖検出抗体を含む、検査キット。
【発明の効果】
【0010】
高血圧、心筋症、及び心房細動よりなる群から選択されるいずれか一つ疾患の罹患を測定する方法疾患の罹患を測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.用語の説明
はじめに、本発明に関し、本明細書、請求の範囲、要約で使用される用語について説明する。
【0012】
本明細書において「高血圧症」とは、安静時に測定した収縮期血圧が140mmHg以上、及び/又は拡張期血圧が90mmHg以上であり、一定期間以上前記血圧が維持されている状態を呼ぶ。高血圧症には、本態性高血圧症、及び二次性高血圧症を含む得る。好ましくは、高血圧症は本態性高血圧症である。
【0013】
本態性高血圧症は、過剰な塩分摂取、肥満、過剰飲酒、精神的ストレス、自律神経の調節異常、運動不足野菜や果物(カリウムなどのミネラル)不足、喫煙、遺伝的な要因による高血圧症を含む。
【0014】
二次性高血圧症には、心疾患、腎疾患、原発性アルドステロン症、褐色細胞腫等による高血圧症を含む。しかし、本明細書に開示される高血圧症には、心不全、心筋炎、心筋症に合併する高血圧症を含まないことが好ましい。
【0015】
本明細書において「心筋症」の定義は、日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン 心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版;2019年3月29日発行、2019年6月28日更新)にしたがう。前記ガイドラインにしたがい、心筋症には、拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症、及び不整脈原性右室心筋症を含み得る。心筋症として好ましくは、拡張型心筋症、又は肥大型心筋症である。好ましくは、心筋症には、心不全、心筋炎、高血圧症を発症した症例は含まない。
【0016】
本明細書において「心房細動」の診断基準は、日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン 不整脈薬物治療ガイドライン(2020年改訂版;2020年3月13日発行)にしたがう。好ましくは、心筋症には、心不全、心筋炎、高血圧症を発症した症例は含まない。
【0017】
本明細書において、「被検体」とは、後述する本発明に係る測定方法の適用対象となる個体をいう。
【0018】
本明細書において、「個体」とは、特に制限されず、ヒト、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ等の哺乳動物が挙げられる。好ましくはヒト、イヌ、又はネコ等であり、より好ましくはヒトである。また、個体には疾患を有する個体と有さない個体(健常な個体)の両方が含まれる。個体の年齢、性別(雄又は雌)は問わない。
【0019】
本明細書において、「検体」は、尿、及び唾液よりなる群から選択される少なくとも一つである。好ましくは、尿である。
【0020】
本明細書において、「尿」は、特に制限されない。尿は、随時尿、早朝第一尿、時間尿、蓄尿、カーテル尿、及び恥骨上穿刺吸引尿のいずれであってもよい。
【0021】
さらに、尿検体は、新鮮なものであっても、保存されていたものであってもよい。尿検体を保存する場合には、室温環境、冷蔵環境又は冷凍環境において保存することができるが、好ましくは冷凍保存である。また、尿検体は、トルエン、キシレン、塩酸、中性ホルマリン、アジ化ナトリウム等の保存剤を含んでいてもよい。
【0022】
本明細書において、「唾液」は、被検体の口腔から採取される限り制限されない。唾液は自然に分泌される唾液を回収しても良く、唾液腺から採取してもよい。唾液は、採取時に、粘度を下げるための緩衝液、界面活性剤等と混合してもよい。また、腐敗を防ぐためのアジ化ナトリウム等の保存剤と混合してもよい。唾液検体は、新鮮なものであっても、保存されていたものであってもよい。唾液検体を保存する場合には、室温環境、冷蔵環境又は冷凍環境において保存することができるが、好ましくは冷凍保存である。
【0023】
本明細書において、遊離イムノグロブリン軽鎖(FLC)は、イムノグロブリン遊離L鎖、又はBence Jones蛋白ともいう。遊離イムノグロブリン軽鎖は、イムノグロブリン重鎖と会合していないイムノブロブリン軽鎖の単量体、又は二量体等である。イムノグロブリンの軽鎖は、抗原性の違いからカッパ(κ)鎖及びラムダ(λ)鎖の2種に分類される。以下において、遊離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖をFLCカッパ鎖、又は単にカッパ鎖と呼ぶことがある。同様に、遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖をFLCラムダ鎖、又は単にラムダ鎖と呼ぶことがある。
【0024】
「カッパ鎖の測定値」とは、検体中の遊離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖の濃度を反映する値であり、モル濃度であっても検体の一定容量あたりの質量の割合(質量/容量)であってもよいが、好ましくは質量/容量である。「ラムダ鎖の測定値」とは、検体中の遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖の濃度を反映する値であり、モル濃度であっても検体の一定容量あたりの質量の割合(質量/容量)であってもよいが、好ましくは質量/容量である。濃度を反映する値は、上記の他に、蛍光や発光などのシグナルの強度であってもよい。
【0025】
本明細書において、カッパ鎖の濃度の測定値を「カッパ鎖測定値」と呼ぶことがあり、ラムダ鎖の濃度の測定値を「ラムダ鎖測定値」と呼ぶことがある。加えて、カッパ鎖測定値とラムダ鎖測定値の和を「カッパ鎖+ラムダ鎖測定値」と呼ぶことがある。前記「+」は「プラス」を意味する。
【0026】
本明細書において、「基準値」は、例えば、高血圧、心筋症、心房細動、心不全、心筋炎、糖尿病等の疾患に罹患していない個体(以下、「未罹患個体」と呼ぶ)の検体中のカッパ鎖測定値、ラムダ鎖測定値、又はカッパ鎖+ラムダ鎖測定値に基づいて決定されるそれぞれの測定値に対応する基準値を意図する。好ましくは未罹患個体は、健常個体である。
【0027】
例えば、被検体から採取した検体中のカッパ鎖測定値を評価対象とするときは、「対応する基準値」は、未罹患個体の検体中のカッパ鎖測定値に基づいて決定される基準値である。被検体から採取した検体中のラムダ鎖測定値を評価対象とするときは、「対応する基準値」は、未罹患個体の検体中のラムダ鎖測定値に基づいて決定される基準値である。被検体から採取した検体中のカッパ鎖+ラムダ鎖測定値を評価対象とするときは、「対応する基準値」は、未罹患個体の検体中のカッパ鎖+ラムダ鎖測定値に基づいて決定される基準値である。基準値を決定するための未罹患個体は、1であっても複数であってもよい。
【0028】
また「対応する基準値」の別の基準値の態様として、以下の様に基準値を求めることができる。例えば、高血圧、心筋症、及び心房細動のいずれかの疾患に罹患している個体(以下、「罹患個体」と呼ぶ)から採取された検体のカッパ鎖測定値、ラムダ鎖測定値、又はカッパ鎖+ラムダ鎖測定値を取得する。このとき、検体は、各疾患において複数であることが好ましい。これら複数の検体から取得したそれぞれの測定値と、未罹患個体から採取した複数の検体から取得した測定値に基づいて各疾患の罹患陽性(以下、単に「陽性」という)と罹患陰性(以下、単に「陰性」という)とを最も精度よく分類できる値を「基準値」とすることができる。ここで、「最も精度よく分類できる値」は、検査の目的によって感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率などの指標に基づいて適宜設定することができる。
【0029】
また「対応する基準値」の別の態様は以下の通りである。
例えば、高血圧、心筋症、及び心房細動のいずれかの疾患に罹患している罹患個体から採取された検体のカッパ鎖測定値、ラムダ鎖測定値、又はカッパ鎖+ラムダ鎖測定値を取得する。このとき、検体は、各疾患において複数である。これら複数の検体から取得したそれぞれの測定値の群の中で、疾患ごとに最も高い値を基準値としてもよい。あるいは、複数の未罹患個体から採取した検体の各測定値の群の中から、最も低い値を基準値として決定することができる。例えば、擬陽性をできるだけ低減させたい場合は、当該基準値を好適に用いることができる。
【0030】
また、複数の罹患個体から採取した検体から取得したそれぞれの測定値の群の中で、疾患ごとに最も低い値を基準値としてもよい。あるいは、複数の未罹患個体から採取した検体の各測定値の群の中から、最も高い値を基準値と決定することができる。例えば、擬陰性をできるだけ低減させたい場合は、当該基準値を好適に用いることができる。
【0031】
これらの基準値は、被検体の検体中のカッパ鎖/ラムダ鎖比測定値、ラムダ鎖/カッパ鎖比測定値、被検体から各測定値を取得する際に決定してもよいが、あらかじめ決定しておいてもよい。
【0032】
「健常個体」とは、特に制限されない。好ましくは「個体」の項に記載されたヒト又はヒト以外の哺乳動物であって、生化学的検査、血液検査、尿検査、血清検査、生理学的検査等において異常データを示さない個体をいう。健常個体の年齢、性別は特に制限されない。
【0033】
「複数の検体」とは、2以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上の生体試料である。これらは、異なる個体から採取された検体であってもよいし、採取時が異なる同一個体の複数の検体であってもよい。
【0034】
「複数の値」とは、2以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上のカッパ鎖/ラムダ鎖比測定値、ラムダ鎖/カッパ鎖比測定値、カッパ鎖-ラムダ鎖測定値、ラムダ鎖-カッパ鎖測定値、カッパ鎖+ラムダ鎖比測定値、カッパ鎖濃度、又はラムダ鎖濃度である。
「複数の個体」とは、2以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上の個体である。
【0035】
基準値を決定するために各測定値を取得する個体と、被検体の種、年齢、性別等を必ずしも同じくする必要はないが、好ましくは同種である。また、前記個体は被検体と同年代及び/又は同一性別であることが好ましい。
【0036】
本発明において、「遊離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖抗体」は、「抗カッパ鎖抗体」とも記載される。遊離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖抗体は、カッパ鎖と特異的に結合する限り制限はなく、カッパ鎖又はその一部を抗原としてヒト以外の動物に免疫して得られたポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及びそれらの断片(例えば、Fab、F(ab)2等)のいずれも用いることができる。但し、抗原からは少なくとも超可変領域を除くことが好ましい。また、イムノグロブリンのクラス及びサブクラスは特に制限されない。また、キメラ抗体であってもよい。さらに、scFv等であってもよい。また、抗カッパ鎖抗体として、例えば特許文献2、非特許文献3、Nakano T, and Nagata A.[J Immunol Methods. 2003 Apr 1;275(1-2):9-17. doi: 10.1016/s0022-1759(02)00512-4.]に記載の抗体や、Anti-Kappa light chain抗体[RM103](ab190484)(アブカム社)等の市販品を使用することもできる。
【0037】
本明細書において、「遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖抗体」は、「抗ラムダ鎖抗体」とも記載される。遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖抗体は、ラムダ鎖と特異的に結合する限り制限はなく、カッパ鎖又はその一部を抗原としてヒト以外の動物に免疫して得られたポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及びそれらの断片(例えば、Fab、F(ab)2等)のいずれも用いることができる。但し、抗原からは少なくとも超可変領域を除くことが好ましい。また、イムノグロブリンのクラス及びサブクラスは特に制限されない。また、キメラ抗体であってもよい。さらに、scFv等であってもよい。また、抗ラムダ鎖抗体として、例えば特許文献2、非特許文献3、Nakano T, and Nagata A.[J Immunol Methods. 2003 Apr 1;275(1-2):9-17. doi: 10.1016/s0022-1759(02)00512-4.]に記載の抗体や、Anti-Lambda Light chain抗体[2G9](ab1943)(アブカム社)等の市販品を使用することもできる。
【0038】
本明細書において、「捕捉抗体」とは、イムノアッセイ法等において抗原を補足する目的で使用される抗体である。また「検出抗体」とは、抗原を検出する目的で使用される抗体であり、好ましくは後述するように標識物質で標識された抗体である。
【0039】
2.FLCカッパ鎖及びFLCラムダ鎖の濃度測定方法
本項では、後述する「3.疾患の罹患を測定する方法」において、FLCカッパ鎖及びFLCラムダ鎖の測定値を取得する方法について説明する。
【0040】
FLCカッパ鎖及びFLCラムダ鎖の測定値は、上記「1.用語の説明」で述べた抗カッパ鎖抗体、又は抗ラムダ鎖抗体、を用いたイムノアッセイ法により取得することができる。イムノアッセイ法としては、公知のELISA法、イムノクロマト法等を使用して行うことができる。また、より感度の高い方法として競合ELISA法を使用して行うことができる。FLCカッパ鎖及びFLCラムダ鎖の測定値の取得は、独立した2つ測定系で行ってもよく、1つの測定系で行ってもよい。
【0041】
ELISA法を原理とする測定系を用いる場合、あらかじめ抗原捕捉用の抗カッパ鎖抗体又は抗ラムダ鎖抗体をマイクロプレート、蛍光ビーズ、磁気ビーズ等の固相上に固定化し、固定化された抗カッパ鎖抗体、又は抗ラムダ鎖抗体と検体中のカッパ鎖又はラムダ鎖の複合体を形成させることができる。固相上に固定化された当該複合体又は固相上で形成された複合体を、当該技術において公知の方法で検出することにより、検体に含まれるカッパ鎖の濃度、又はラムダ鎖の濃度を測定することができる。また、本方法では、先に抗原捕捉用の抗カッパ鎖抗体、又は抗原捕捉用の抗ラムダ鎖抗体と検体中のカッパ鎖又はラムダ鎖との複合体を形成させてから、当該複合体を固相に固定化してもよい。
【0042】
抗原捕捉用の抗カッパ鎖抗体、又は抗ラムダ鎖抗体の固相への固定の方法は、特に限定されない。公知の方法を使用して、直接的に、又は別の物質を介して間接的に行うことができる。直接の結合としては、例えば、物理的吸着などが挙げられる。具体的には、イムノプレート等を使用して、直接各補足抗体をマイクロプレートに物理的に結合させることができる。また、抗原捕捉用の抗カッパ鎖抗体、又は抗ラムダ鎖抗体を間接的に固相に固定してもよい。蛍光ビーズ、磁気ビーズ等への間接的な捕捉抗体の固相は、例えば特許文献2、又は非特許文献3に記載の方法に従って行うことができる。
【0043】
固相の形状は特に限定されず、例えば、マイクロプレート、マイクロチューブ、試験管、ビーズ、メンブレン、紙等が挙げられる。固相の素材は特に限定されず、例えば、マイクロプレート、マイクロチューブ、試験管等には、ポリスチレン、ポリプロピレン等を使用することができる。また、ビーズの場合には、ポリスチレンXmap(登録商標)ビーズ(Luminex社)やMagPlex(登録商標)ミクロスフェア(Luminex社)等を使用することができる。
【0044】
本方法においては、前記複合体の形成に続いて、固相を洗浄する操作を含んでもよい。洗浄する場合には、界面活性剤等を含むPBS等を使用することができる。
【0045】
本方法において、前記複合体の検出は、通常のELISA法の場合には、標識物質で標識された検出用抗カッパ鎖抗体、又は標識物質で標識された検出用抗ラムダ鎖抗体を使用して行うか、未標識の抗カッパ鎖抗体、又は未標識の抗ラムダ鎖抗体と結合することができる標識物質で標識された抗イムノグロブリン抗体等を使用して行うことができるが、標識された検出用抗カッパ鎖抗体、又は標識された検出用抗ラムダ鎖抗体を使用することが好ましい。また、検出に用いられる抗カッパ鎖抗体、又は抗ラムダ鎖抗体の抗原におけるエピトープと抗原捕捉に用いられる抗カッパ鎖抗体、又は抗ラムダ鎖抗体の抗原におけるエピトープとは異なることが好ましい。
【0046】
競合ELISA法によって、FLCカッパ鎖、又はFLCラムダ鎖の濃度を測定する場合には、標識物質で標識されたコンペティターの存在下で、検体中のFLCカッパ鎖、又はFLCラムダ鎖を捕捉用の抗カッパ鎖抗体、若しくは抗ラムダ鎖抗と接触させることができる。コンペティターは、検体中のFLCカッパ鎖、又はFLCラムダ鎖と同じ捕捉抗体によって認識されるエピトープを有するペプチドやタンパク質である。コンペティターは個体から単離されたものであってもよく、遺伝子工学的に、又は化学的に合成されたものであってもよい。
【0047】
検出に用いられる抗カッパ鎖抗体、若しくは抗ラムダ鎖抗体、標識抗イムノグロブリン抗体又はコンペティターに標識される標識物質は、検出可能なシグナルが生じる限り、特に限定されない。例えば、蛍光物質、放射性同位元素、及び酵素等が挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ等が挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Alexa Fluor(登録商標)などの蛍光色素、GFPなどの蛍光タンパク質などが挙げられる。放射性同位元素としては、125I、14C、32Pなどが挙げられる。それらの中でも、標識物質として、アルカリホスファターゼ、又はペルオキシダーゼが好ましい。
【0048】
検出に用いられる抗カッパ鎖抗体、又は抗ラムダ鎖抗体は、当該技術において公知の標識方法により、各抗体を上記の標識物質で標識して得られる。また、市販のラベリングキットなどを用いて標識してもよい。また、標識イムノグロブリン抗体は、抗カッパ鎖抗体、又は抗ラムダ鎖抗体の標識と同じ手法を用いてもよいし、市販のものを使用してもよい。
【0049】
本方法では、複合体に含まれる検出抗体の標識物質により生じるシグナルを検出することにより、検体に含まれるFLCカッパ鎖又はFLCラムダ鎖の濃度を測定できる。ここで、「シグナルを検出する」とは、シグナルの有無を定性的に検出すること、シグナル強度を定量すること、及び、シグナルの強度を半定量的に検出することを含む。半定量的な検出とは、シグナルの強度を、「シグナル発生せず」、「弱」、「中」、「強」などのように段階的に示すことをいう。本方法では、シグナルの強度を定量的又は半定量的に検出することが好ましい。
【0050】
シグナルを検出する方法は、公知の方法を使用することができる。本方法では、上記の標識物質に由来するシグナルの種類に応じた測定方法を適宜選択することができる。例えば、標識物質が酵素である場合、該酵素に対する基質を反応させることによって発生する光、色などのシグナルを、フルオロメーター、ルミノメーター、分光光度計などの公知の装置を用いて測定することにより行うことができる。
【0051】
酵素の基質は、該酵素の種類に応じて公知の基質から適宜選択できる。例えば、酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、基質としては、CDP-Star(登録商標)(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1,2-ジオキセタン-3,2’-(5’-クロロ)トリクシロ[3.3.1.13,7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)等の化学発光基質、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ-インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリン酸等の発色基質が挙げられる。標識物質がペルオキシダーゼである場合には、テトラメチルベンジジン(TMB)等が挙げられる。
【0052】
標識物質が放射性同位体である場合は、シグナルとしての放射線を、シンチレーションカウンターなどの公知の装置を用いて測定できる。また、標識物質が蛍光物質である場合は、シグナルとしての蛍光を、蛍光マイクロプレートリーダー、Luminex(登録商標)システム(Luminex社)等の公知の装置を用いて測定できる。なお、励起波長及び蛍光波長は、用いた蛍光物質の種類に応じて適宜決定できる。
【0053】
シグナルの検出結果は、カッパ鎖の測定値、又はラムダ鎖の測定値として用いることができる。例えば、シグナルの強度を定量的に検出する場合は、シグナル強度の測定値自体又は該シグナル強度の測定値から算出される値を、カッパ鎖の測定値、又はラムダ鎖の測定値として用いることができる。
【0054】
イムノクロマト法(ラテラルフローイムノアッセイともいう)を原理とする測定系を用いる場合、例えば、あらかじめ捕捉抗体をニトロセルロースフィルター等のメンブレン、紙等の固相上の所定の位置(検出位置)に固定化しておく。また、検出抗体は、捕捉抗体を固定化した固相上であって、捕捉抗体の固定化位置とは異なる位置(検出抗体アプライ位置)にしみこませておく。検出抗体は、固相に固定化されていない。検体、検体の希釈液、検体を遠心分離した上清等の測定試料は、検出抗体アプライ位置上、若しくは、検出抗体アプライ位置を挟んで検出位置に対して遠位側にアプライされる。測定試料がアプライされると、測定試料は固相内に浸透する。測定試料に検出抗体と結合する抗原が含まれる場合、測定試料中の抗原と検出抗体アプライ位置に含まれる検出用抗体とが複合体を形成しながら固相内に浸透し、検出位置まで移動する。測定試料に抗原が含まれている場合、検出位置において、捕捉抗体は、抗原と検出抗体との複合体を捕捉する。イムノクロマト法に用いる検出抗体には、金ナノ粒子等の金属ナノ粒子が標識物質として標識されている。このため、抗原抗体反応により凝集した検出抗体上の金属ナノ粒子は、色を呈する。金ナノ粒子を用いた場合、一般的に捕捉抗体に捕捉された抗原と検出抗体の複合体は赤色を呈する。金属ナノ粒子の呈色は目視で定性的に観察することもできるが、イムノクロマトリーダ等を使用し、呈色のシグナル強度を測定することができる。呈色のシグナル強度の測定値自体又は該シグナル強度の測定値から算出される値を、カッパ鎖の測定値、又はラムダ鎖の測定値として用いることができる。
【0055】
ここで、金属ナノ粒子の呈色は、検出抗体の標識に使用した金属ナノ粒子上に、該金属とは異なる金属イオンを吸着させ、別の色調を呈させることにより検出感度を向上することができる。例えば、標識されている金属ナノ粒子が金ナノ粒子である場合には、銀イオンを吸着させることができる。
【0056】
3.疾病の罹患を測定する方法
本明細書には、被検体について高血圧、心筋症、及び心房細動よりなる群から選択されるいずれか一つ疾患の罹患を測定する方法(以下、単に「測定方法」という場合がある)が開示される。また、前記測定方法は、前記疾患の診断補助方法でもある。測定方法は、下記工程(1)及び工程(2)を含む。
【0057】
工程(1)では、上記「2.FLCカッパ鎖及びFLCラムダ鎖の濃度測定方法」にしたがって、被検体から採取された尿、及び唾液よりなる群から選択される少なくとも一つの検体中の遊離イムノグロブリン軽鎖のカッパ鎖及びラムダ鎖よりなる群から選択される少なくとも一種の測定値を取得する。
【0058】
工程(2)では、工程(1)において取得したカッパ鎖の測定値、ラムダ鎖の測定値、及び前記カッパ鎖の測定値と前記ラムダ鎖の測定値とを加算した測定値よりなる群から選択される少なくとも一つの測定値を対応する基準値と比較する。ここで、測定値を対応する基準値と比較した時に、前記測定値が前記対応する基準値よりも高い場合に、前記被検体が高血圧、心筋症、及び心房細動よりなる群から選択されるいずれか一つ疾患に罹患していることを示す。
【0059】
さらに、工程(1)において取得したカッパ鎖の測定値、ラムダ鎖の測定値、及び前記カッパ鎖の測定値と前記ラムダ鎖の測定値とを加算した測定値よりなる群から選択される少なくとも一つの測定値が対応する基準値よりも高い場合、前記被検体が高血圧、心筋症、及び心房細動よりなる群から選択されるいずれか一つ疾患に罹患していると決定することができる。
【0060】
また、工程(1)において取得したカッパ鎖の測定値、ラムダ鎖の測定値、及び前記カッパ鎖の測定値と前記ラムダ鎖の測定値とを加算した測定値よりなる群から選択される少なくとも一つの測定値が対応する基準値よりも低い場合、前記被検体が高血圧、心筋症、及び心房細動よりなる群から選択されるいずれか一つ疾患に罹患していないと決定することができる。
【0061】
別の態様として、工程(1)において取得したカッパ鎖の測定値、ラムダ鎖の測定値、及び前記カッパ鎖の測定値と前記ラムダ鎖の測定値とを加算した測定値よりなる群から選択される少なくとも一つの測定値が対応する基準値よりも高い場合、前記被検体が高血圧に罹患していると決定することができる。
【0062】
また、工程(1)において取得したカッパ鎖の測定値、ラムダ鎖の測定値、及び前記カッパ鎖の測定値と前記ラムダ鎖の測定値とを加算した測定値よりなる群から選択される少なくとも一つの測定値が対応する基準値よりも低い場合、前記被検体が高血圧に罹患していないと決定することができる。
【0063】
別の態様として、工程(1)において取得したカッパ鎖の測定値、ラムダ鎖の測定値、及び前記カッパ鎖の測定値と前記ラムダ鎖の測定値とを加算した測定値よりなる群から選択される少なくとも一つの測定値が対応する基準値よりも高い場合、前記被検体が心筋症に罹患していると決定することができる。
【0064】
また、工程(1)において取得したカッパ鎖の測定値、ラムダ鎖の測定値、及び前記カッパ鎖の測定値と前記ラムダ鎖の測定値とを加算した測定値よりなる群から選択される少なくとも一つの測定値が対応する基準値よりも低い場合、前記被検体が心筋症に罹患していないと決定することができる。
【0065】
別の態様として、工程(1)において取得したカッパ鎖の測定値、ラムダ鎖の測定値、及び前記カッパ鎖の測定値と前記ラムダ鎖の測定値とを加算した測定値よりなる群から選択される少なくとも一つの測定値が対応する基準値よりも高い場合、前記被検体が心房細動に罹患していると決定することができる。
【0066】
また、工程(1)において取得したカッパ鎖の測定値、ラムダ鎖の測定値、及び前記カッパ鎖の測定値と前記ラムダ鎖の測定値とを加算した測定値よりなる群から選択される少なくとも一つの測定値が対応する基準値よりも低い場合、前記被検体が心房細動に罹患していないと決定することができる。
【0067】
4.治療方法
上記「3.疾病の罹患を測定する方法」において、高血圧、心筋症、及び心房細動よりなる群から選択されるいずれか一つ疾患に罹患していることが示唆された場合、各疾患に対応する治療を行うことができる。
高血圧症の治療は、塩分の摂取制限、カリウム摂取、肥満治療、飲酒制限、運動指導、禁煙指導、降圧薬投与等を挙げることができる。
【0068】
心筋症の治療は、アーチスト、メインテート等のベータ遮断薬投与;レニベース、タナトリル等のACE(アンギオテンシン変換酵素)阻害薬投与;バルサルタン、カンデサルタン等のアンギオテンシン受容体拮抗薬投与;スピロノラクトン、セララ等のアルドステロン受容体拮抗薬を挙げることができる。
【0069】
心房細動の場合、血栓症を予防するため、ワルファリン等の抗凝固薬を投与することができる。
【0070】
5.検査試薬
本発明は、「3.疾患の罹患を測定する方法」において使用される検査試薬に関する。
検査試薬は、以下の2つの態様を含む。
【0071】
態様1の検査試薬は、遊離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖抗体(抗カッパ鎖抗体)を含む。
【0072】
態様2の検査試薬は、遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖抗体(抗ラムダ鎖抗体)を含む。
【0073】
遊離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖抗体及び遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖抗体は、上記「1.用語の説明」に記載したものを使用することができる。
【0074】
検査試薬には、少なくとも抗カッパ鎖抗体、又は抗ラムダ鎖抗体が1種以上含まれていればよい。抗カッパ鎖抗体、又は抗ラムダ鎖抗体がポリクローナル抗体である場合には、1種の抗原で免役して得られたポリクローナル抗体であってもよく、また2種以上の抗原で並行して同一個体に免役して得られたポリクローナル抗体であってもよい。また、2種以上の抗原をそれぞれ別の動物に接種して得られたそれぞれのポリクローナル抗体を混合してもよい。抗カッパ鎖抗体がモノクローナル抗体である場合には、1種のハイブリドーマから産生されるモノクローナル抗体であってもよいが、2種以上のハイブリドーマから産生されたモノクローナル抗体であって、それぞれのモノクローナル抗体が同一又は異なるエピトープを認識する複数のモノクローナル抗体が2種以上含まれていてもよい。また、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体を1種以上ずつ混合して含んでいてもよい。
【0075】
検査試薬に含まれる抗カッパ鎖抗体、又は抗ラムダ鎖抗体の形態は、特に制限されず、それぞれの抗体を含む抗血清若しくは腹水等の乾燥状態又は液体状態であってもよい。またそれぞれの抗体の形態は、精製抗体、それぞれの抗体を含むイムノグロブリン画分若しくはそれぞれの抗体を含むIgG画分の乾燥状態又は水溶液であってもよい。
【0076】
前記形態が、それぞれの抗体を含む抗血清若しくは腹水の乾燥状態又は液体状態である場合、さらにβ-メルカプトエタノール、DTT等の安定化剤;アルブミン等の保護剤;ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル等の界面活性剤、アジ化ナトリウム等の防腐剤等の少なくとも一つを含んでいてもよい。また、それぞれの抗体の形態が、精製抗体、それぞれの抗体を含むイムノグロブリン画分若しくはそれぞれの抗体を含むIgG画分の乾燥状態又は水溶液である場合、さらに、リン酸緩衝液等のバッファー成分;β-メルカプトエタノール、DTT等の安定化剤;アルブミン等の保護剤;塩化ナトリウム等の塩;ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル等の界面活性剤等、アジ化ナトリウム等の防腐剤の少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0077】
検査試薬に含まれる抗カッパ鎖抗体、又は抗ラムダ鎖抗体は未標識であっても、ビオチン又は上述の標識物質で標識されていてもよいが、ビオチン又は上述の標識物質で標識されていることが好ましい。標識物質は、上記「2.FLCカッパ鎖及びFLCラムダ鎖の濃度測定方法」の項に例示されたものを使用することができるが、好ましくはアルカリホスファターゼである。また、本発明においては、それぞれの抗体が、固相表面等に固定化された状態で提供されるものであってもよい。固相及び固定化については、上記「2.FLCカッパ鎖及びFLCラムダ鎖の濃度測定方法」の項で例示したとおりである。固相として好ましくは、蛍光ビーズ、又は磁気ビーズである。
【0078】
6.検査キット
本発明は、上記「4.検査試薬」に記載の検査試薬を含む検査キットに関する。
検査キットは、以下の3つの態様を含む。
【0079】
態様1は、遊離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖捕捉抗体、及び遊離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖検出抗体を含む検査キットである。
【0080】
態様2は、遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖捕捉抗体、及び遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖検出抗体を含む検査キットである。
【0081】
態様3は、離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖捕捉抗体、遊離イムノグロブリン軽鎖カッパ鎖検出抗体、遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖捕捉抗体及び遊離イムノグロブリン軽鎖ラムダ鎖検出抗体を含む検査キットである。
【0082】
より具体的には、捕捉抗体として使用される、上記「2.FLCカッパ鎖及びFLCラムダ鎖の濃度測定方法」の項で例示した標識物質(好ましくはビオチン)で標識された抗カッパ鎖抗体、及び/又は抗ラムダ鎖抗体を含む検査試薬、検出抗体として使用される、上記「2.FLCカッパ鎖及びFLCラムダ鎖の濃度測定方法」の項で例示した標識物質(好ましくはアルカリホスファターゼ、及び蛍光物質)で標識された抗カッパ鎖抗体、及び/又は抗ラムダ鎖抗体を含む検査試薬を含む検査キットである。本実施形態は、固相、好ましくはアビジン類が結合した固相、より好ましくはアビジン類が結合した結合ビーズ、磁気ビーズをさらに含んでいてもよい。また、捕捉抗体が固相に固定化された状態で提供されてもよい。さらに、本実施形態は、基質を含んでいてもよい。基質として好ましくは、CDP-Star(登録商標)である。
【0083】
なお、標識物質、固相、基質の詳細は、「2.FLCカッパ鎖及びFLCラムダ鎖の濃度測定方法」に記載したとおりであり、当該記載はここに援用することができる。
【0084】
捕捉抗体が予め固相に結合している場合は、本実施形態の検査キットは、捕捉抗体を固定化した固相と、検出抗体と、標識物質とを含み得る。検出抗体と、標識物質とは、別々の容器に収容されていてもよいし、同一の容器に収容されていてもよい。なお、標識物質が酵素であり、上記検査キットがさらに基質を含む場合、酵素と基質とは別々の容器に収容されている必要がある。ユーザに提供される際は、固相と、検出抗体と、標識物質とのうち少なくとも2種類が同梱されていてもよいし、別々に梱包されていてもよい。
【0085】
捕捉抗体が予め固相に結合していない場合は、本実施形態の検査キットは、固相と、捕捉抗体と、検出抗体と、標識物質とを含み得る。捕捉抗体と、検出抗体と、標識物質とのうち少なくとも2種類が同一の容器に収容されていてもよいし、別々の容器に収容されていてもよい。なお、標識物質が酵素であり、上記検査キットがさらに基質を含む場合、酵素と基質とは別々の容器に収容されている必要がある。ユーザに提供される際は、固相と、捕捉抗体と、検出抗体と、標識物質とのうち少なくとも2種類が同梱されていてもよいし、別々に梱包されていてもよい。
【0086】
また、競合ELISA法を行うためのキットである場合には、捕捉抗体と「2.FLCカッパ鎖及びFLCラムダ鎖の測定方法」に記載のコンペティターを含んでいてもよい。この場合、捕捉抗体は固相に結合していても結合していなくともよい。
【0087】
さらに、検査キットは、イムノクロマト法に対応する構成を備えていてもよい。イムノクロマト法に使用するキットは、標識物質を標識した検出抗体と、捕捉抗体とが固相の異なる位置に存在する。上記「2.FLCカッパ鎖及びFLCラムダ鎖の測定方法」で述べたように、捕捉抗体は検出位置に固定化されているが、検出抗体は固相の検出抗体アプライ位置に含まれているだけであり、固相に固定化されていない。また、固相は、検出抗体と、捕捉抗体のほか、検出抗体を検出するためのコントロール抗体が含まれていてもい。イムノクロマト法に対応するキットは、固相の他、検体を希釈するための、バッファー等を含む希釈液を含んでいてもよい。
【実施例0088】
実施例を示して本発明についてより詳細に説明する。しかし、本発明は、実施例に限定して解釈されるものではない。
【0089】
1.方法
拡張型心筋症患者15例、肥大型心筋症患者21例、高血圧患者16例、及び健常者29人を被検体として、尿中のFLCカッパ鎖及びFLCラムダ鎖濃度を測定した。健常者は、これらの疾患を含め疾患の疑いのない者である。被検体から採尿後直ちに-80℃で凍結し、測定まで-80℃で保存した。
【0090】
測定は、Nakano T, and Nagata A.[ J Immunol Methods. 2003 Apr 1;275(1-2):9-17. doi: 10.1016/s0022-1759(02)00512-4.]に記載の方法にしたがって行った。
【0091】
測定により得られたFLCカッパ鎖及びFLCラムダ鎖濃度の測定値を用いて、各疾患患者及び健常者について、カッパ鎖の濃度とラムダ鎖の濃度の和(カッパ鎖+ラムダ鎖測定値)、ラムダ鎖の濃度に対するカッパ鎖の濃度の割合(カッパ鎖/ラムダ鎖比)を算出した。
統計解析には、StatFlexを用い、基本統計量(ノンパラメトリック法)、独立多群2群間比較(Mann-Whitney U 試験)を行った。
【0092】
2.結果
基本統計量及び独立多群2群間比較の結果を表1から表4に示す。FLCカッパ鎖濃度、カッパ鎖+ラムダ鎖測定値は、健常者と比べて拡張型心筋症患者、肥大型心筋症患者、及び高血圧患者で有意に増加していた。また、FLCラムダ鎖は健常者と比べて拡張型心筋症患者、及び肥大型心筋症患者で有意に増加していた。また、高血圧患者でも増加傾向にあった。なお、ラムダ鎖の濃度に対するカッパ鎖の濃度の割合(カッパ鎖/ラムダ鎖比算出値)は、健常者と、拡張型心筋症患者、肥大型心筋症患者、及び高血圧患者の間には、有意な差はなかった。
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
尿検体を用いて取得されたFLCカッパ鎖の測定値、FLCラムダ鎖の測定値は、心筋症、及び高血圧症の検出に適していることが示された。