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特開2023-21700多層フィルムおよび多層フィルムの製造方法
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  • 特開-多層フィルムおよび多層フィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021700
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】多層フィルムおよび多層フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/34 20060101AFI20230207BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230207BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20230207BHJP
   B29C 55/02 20060101ALI20230207BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
B32B27/34
C08J5/18 CFG
C08J3/22
B29C55/02
C08G69/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126738
(22)【出願日】2021-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 仁
(72)【発明者】
【氏名】小田 尚史
【テーマコード(参考)】
4F070
4F071
4F100
4F210
4J001
【Fターム(参考)】
4F070AA54
4F070AB09
4F070AC04
4F070AD02
4F070AD03
4F070AE05
4F070FA01
4F070FA03
4F070FB03
4F070FB06
4F070FB07
4F070FC06
4F071AA55
4F071AA56X
4F071AB03
4F071AD01
4F071AD07
4F071AE16
4F071AF08
4F071AF15
4F071AF20
4F071AF30Y
4F071AF37
4F071AF53
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC02
4F100AA37A
4F100AA37H
4F100AK03B
4F100AK03C
4F100AK04B
4F100AK46A
4F100AL07B
4F100AR00B
4F100AR00C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100EH202
4F100EH20A
4F100EH20B
4F100EH20C
4F100EJ37
4F100EJ383
4F100GB07
4F100GB15
4F100GB16
4F100GB31
4F100GB41
4F100GB51
4F100GB87
4F100JD03
4F100JG01
4F100JK02
4F100JK07
4F100JL11C
4F100JN08
4F100YY00
4F100YY00A
4F210AA29
4F210AB18
4F210AB24
4F210AG01
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4F210QA02
4F210QC05
4F210QG01
4F210QG15
4F210QG18
4F210QL16
4F210QW07
4F210QW12
4J001DA01
4J001EB08
4J001EC47
4J001EE27D
4J001FB03
4J001FC03
4J001JA13
4J001JB02
4J001JB06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】帯電防止性があり、かつ、視認性があり、さらに延伸可能な多層フィルムおよびその製造方法の提供。
【解決手段】ポリアミド樹脂と単層カーボンナノチューブを含む樹脂組成物から形成された層と、少なくとも他の1層とを含む、多層フィルム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂と単層カーボンナノチューブを含む樹脂組成物から形成された層と、少なくとも他の1層とを含む、多層フィルム。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂が、半芳香族ポリアミド樹脂を含む、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、キシリレンジアミンに由来する、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項4】
前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、炭素数4~9のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する、請求項3に記載の多層フィルム。
【請求項5】
前記キシリレンジアミンの70モル%以上がメタキシリレンジアミンである、請求項3または4に記載の多層フィルム。
【請求項6】
前記樹脂組成物中の単層カーボンナノチューブ含有量が0.05質量%以上1.0質量%未満である、請求項1~5のいずれか1項に記載の多層フィルム。
【請求項7】
前記樹脂組成物中の単層カーボンナノチューブ含有量が0.05質量%以上0.7質量%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の多層フィルム。
【請求項8】
前記単層カーボンナノチューブが、マスターバッチ化された単層カーボンナノチューブに由来する、請求項1~7のいずれか1項に記載の多層フィルム。
【請求項9】
前記樹脂組成物が、ポリアミド樹脂の合成時に単層カーボンナノチューブを添加したものを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の多層フィルム。
【請求項10】
前記多層フィルムの全光線透過率が40%超である、請求項1~9のいずれか1項に記載の多層フィルム。
【請求項11】
前記他の1層がポリオレフィン層を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の多層フィルム。
【請求項12】
前記他の1層が接着層を含み、前記ポリオレフィン層、前記接着層、および、前記樹脂組成物から形成された層を、この順で含む、請求項11に記載の多層フィルム。
【請求項13】
前記多層フィルムが、延伸フィルムである、請求項1~12のいずれか1項に記載の多層フィルム。
【請求項14】
請求項1~8および10~13のいずれか1項に記載の多層フィルムの製造方法であって、
ポリアミド樹脂と、マスターバッチ化された単層カーボンナノチューブとを溶融混練することを含み、前記単層カーボンナノチューブの含有量が、前記樹脂組成物中、0.05質量%以上1.0質量%未満である、多層フィルムの製造方法。
【請求項15】
請求項1~7および9~13のいずれか1項に記載の多層フィルムの製造方法であって、
前記ポリアミド樹脂の合成中に、単層カーボンナノチューブを添加することを含む、多層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層フィルムおよび多層フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、その優れた耐熱性、機械特性を活かして種々な用途に展開されている。
ここで、ポリアミド樹脂に種々の目的から、カーボンナノチューブ(CNT)を配合することが検討されている。例えば、特許文献1には、ポリアミド樹脂の結晶化速度を高めるため、ポリアミド樹脂にCNT等の炭素系ナノ充填剤を配合することが記載されている。また、特許文献2には、剛性および寸法安定性を高めるために、芳香族ポリアミドフィルムに、CNTを配合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2014/199045号
【特許文献2】特開2003-138040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、ポリアミド樹脂を用いた用途として、ポリアミド樹脂層と他の層とを含む延伸多層フィルムが挙げられる。ポリアミド樹脂層は延伸すると、酸素バリア性が向上するため、酸素バリア性が求められる用途で、このような延伸多層フィルムが用いられている。前記延伸多層フィルムの一例としては、ポリアミド樹脂層とポリオレフィン層との多層フィルムが挙げられる。このような多層フィルムは視認性にも優れることから、内容物を外から確認できる包装材などに好ましく用いられている。
【0005】
ところで、近年、このような、ポリアミド樹脂層と他の層とを有する多層フィルムにおいても、帯電防止性が求められる場合がある。前記多層フィルムに帯電防止性を付与する手段の1つとして、ポリアミド樹脂層にカーボンナノチューブ(CNT)を配合することが考えらえる。しかしながら、本発明者が検討を行ったところ、ポリアミド樹脂層にCNTを配合すると、延伸が困難になったり、視認性が劣る場合があることが分かった。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、ポリアミド樹脂とカーボンナノチューブを含む樹脂組成物から形成された層と、少なくとも他の1層とを含む多層フィルムであって、帯電防止性があり、かつ、視認性があり、さらに延伸可能な多層フィルムおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、CNTとして、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ポリアミド樹脂と単層カーボンナノチューブを含む樹脂組成物から形成された層と、少なくとも他の1層とを含む、多層フィルム。
<2>前記ポリアミド樹脂が、半芳香族ポリアミド樹脂を含む、<1>に記載の多層フィルム。
<3>前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、キシリレンジアミンに由来する、<1>に記載の多層フィルム。
<4>前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、炭素数4~9のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する、<3>に記載の多層フィルム。
<5>前記キシリレンジアミンの70モル%以上がメタキシリレンジアミンである、<3>または<4>に記載の多層フィルム。
<6>前記樹脂組成物中の単層カーボンナノチューブ含有量が0.05質量%以上1.0質量%未満である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の多層フィルム。
<7>前記樹脂組成物中の単層カーボンナノチューブ含有量が0.05質量%以上0.7質量%以下である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の多層フィルム。
<8>前記単層カーボンナノチューブが、マスターバッチ化された単層カーボンナノチューブに由来する、<1>~<7>のいずれか1つに記載の多層フィルム。
<9>前記樹脂組成物が、ポリアミド樹脂の合成時に単層カーボンナノチューブを添加したものを含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載の多層フィルム。
<10>前記多層フィルムの全光線透過率が40%超である、<1>~<9>のいずれか1つに記載の多層フィルム。
<11>前記他の1層がポリオレフィン層を含む、<1>~<10>のいずれか1つに記載の多層フィルム。
<12>前記他の1層が接着層を含み、前記ポリオレフィン層、前記接着層、および、前記樹脂組成物から形成された層を、この順で含む、<11>に記載の多層フィルム。
<13>前記多層フィルムが、延伸フィルムである、<1>~<12>のいずれか1つに記載の多層フィルム。
<14><1>~<8>および<10>~<13>のいずれか1つに記載の多層フィルムの製造方法であって、ポリアミド樹脂と、マスターバッチ化された単層カーボンナノチューブとを溶融混練することを含み、前記単層カーボンナノチューブの含有量が、前記樹脂組成物中、0.05質量%以上1.0質量%未満である、多層フィルムの製造方法。
<15><1>~<7>および<9>~<13>のいずれか1つに記載の多層フィルムの製造方法であって、
前記ポリアミド樹脂の合成中に、単層カーボンナノチューブを添加することを含む、多層フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、ポリアミド樹脂とカーボンナノチューブを含む樹脂組成物から形成された層と、少なくとも他の1層とを含む多層フィルムであって、帯電防止性があり、かつ、視認性があり、さらに延伸可能な多層フィルムおよびその製造方法を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の多層フィルムの一例を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書で示す規格が年度によって、測定方法等が異なる場合、特に述べない限り、2021年1月1日時点における規格に基づくものとする。
本明細書では、単層カーボンナノチューブをSWCNT、多層カーボンナノチューブをMWCNT、カーボンナノチューブをCNTと称することがある。
【0010】
本実施形態の多層フィルムは、ポリアミド樹脂とSWCNTを含む樹脂組成物から形成された層と、少なくとも他の1層とを含むことを特徴とする。このような構成とすることにより、帯電防止性があり、かつ、視認性があり、さらに延伸可能な多層フィルムが得られる。
従来から、種々の目的を達成するためポリアミド樹脂にCNTが配合されてきた。これまで、CNTとしては、MWCNTが配合されてきた。しかしながら、本発明者が検討を行ったところ、ポリアミド樹脂とCNTを含む樹脂組成物から形成された層と、少なくとも他の1層とを含む多層フィルムにおいて、CNTとして、MWCNTを用いると、帯電防止性が劣る傾向にあり、また、視認性が劣る傾向にあり、さらに延伸が困難になることが分かった。一方、CNTとして、SWCNTを用いることにより、CNTの凝集を効果的に抑制しうると推測された。さらに、CNTの凝集を抑制することにより、ポリアミド樹脂に対するCNTの配合量を相対的に少なくしても、十分な帯電防止性を達成でき、結果として、視認性も確保できたと推測された。加えて、CNTが凝集すると、延伸加工時に凝集物が起点となってフィルムが破断してしまいやすかったが、本実施形態では、CNTを凝集しにくくすることができるため、延伸性にも優れたフィルムとすることができたと推測された。
【0011】
本実施形態の多層フィルムは、ポリアミド樹脂とSWCNTを含む樹脂組成物から形成された層(以下、「導電層」ということがある)を有する。このような導電層を有することにより、帯電防止性に優れ、かつ、視認性に優れた導電層が得られる。さらに、SWCNTが凝集しにくいため、延伸の際の破断起点になりにくく、延伸性に優れた多層フィルムとすることができる。
また、導電層の酸素バリア性をより向上させることができる。これは、SWCNTは導電層中(ポリアミド樹脂中)で十分に分散するが、CNTが存在する領域は酸素が透過しないため、導電層中の酸素が透過できる領域が相対的に少なくなるためであると推測される。また、CNTが分散して存在することにより、酸素が透過するためには、CNTが含まれない領域(ポリアミド樹脂領域)を回り道して透過することになるため、導電層中を酸素が透過するのに時間がかかる点もあると推測される。
【0012】
上述のとおり、本実施形態において、導電層は、ポリアミド樹脂とSWCNTを含む樹脂組成物から形成される。
【0013】
前記樹脂組成物は、ポリアミド樹脂を含む。本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、その種類を特に定めるものではなく、脂肪族ポリアミド樹脂であっても、半芳香族ポリアミド樹脂であってもよい。
脂肪族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド666、ポリアミド610、ポリアミド612等が挙げられ、ポリアミド6およびポリアミド66が好ましく、ポリアミド6がより好ましい。
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、半芳香族ポリアミド樹脂を含むことが好ましい。例えば、前記樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂の90質量%以上が半芳香族ポリアミド樹脂であることがより好ましい。ここで、半芳香族ポリアミド樹脂とは、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位およびジカルボン酸由来の構成単位の合計構成単位の20~80モル%(好ましくは30~70モル%、より好ましくは40~60モル%)が芳香環を含む構成単位であることをいう。このような半芳香族ポリアミド樹脂を用いることにより、得られる多層フィルムの機械的強度を高めることができる。半芳香族ポリアミド樹脂としては、テレフタル酸系ポリアミド樹脂(ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T)、後述するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂などが例示される。
ポリアミド樹脂は結晶性でも非晶性であってもよいが、本実施形態においては、結晶性ポリアミド樹脂を用いても、視認性を十分に確保できる点で好ましい。
上記の他、ポリアミド樹脂としては、例えば、特開2011-132550号公報の段落0011~0013の記載を参酌することができ、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0014】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、少なくとも1種が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミン(好ましくはメタキシリレンジアミン)に由来することが好ましい。以下、このようなポリアミド樹脂を、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂ということがある。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を用いることにより、より酸素バリア性に優れた多層フィルムが得られる。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂におけるジアミン由来の構成単位は、より好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは85モル%以上、より一層好ましくは90モル%以上、さらに一層好ましくは95モル%以上がキシリレンジアミン(好ましくはメタキシリレンジアミン)に由来する。
【0015】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジアミン成分として用いることができるキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0016】
一方、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂におけるジカルボン酸由来の構成単位については、特に定めるものでは無く、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸および芳香族ジカルボン酸のいずれか1種以上に由来する構成単位を含むことが挙げられ、少なくとも脂肪族ジカルボン酸由来の構成単位を含むことが好ましく、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位を含むことがより好ましく、炭素数4~9のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位を含むことがさらに好ましい。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂におけるジカルボン酸由来の構成単位は、好ましくは70モル%以上、より好ましくは75モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上が、炭素数が4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸(好ましくは炭素数4~9のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸)に由来する。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジカルボン酸成分として用いるのに好ましい炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種または2種以上を混合して使用できるが、これらの中でもポリアミド樹脂の融点が成形加工するのに適切な範囲となることから、アジピン酸またはセバシン酸がより好ましく、アジピン酸がさらに好ましい。
【0017】
上記炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸といったナフタレンジカルボン酸の異性体等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0018】
本実施形態におけるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位の0~100モル%がパラキシリレンジアミンに由来し、100~0モル%がメタキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上(好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上)がセバシン酸および/またはアジピン酸(好ましくはアジピン酸)に由来するものが好ましい。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のより好ましい実施形態Aとして、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上(好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上)がパラキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上(好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上)がセバシン酸に由来するものが例示される。
また、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のより好ましい実施形態Bとして、ジアミン由来の構成単位の30~90モル%(好ましくは60~80モル%)がメタキシリレンジアミンに由来し、70~10モル%(好ましくは40~20モル%)がパラキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上(好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上)がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂が例示される。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のより好ましい実施形態Cとして、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上(好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上)がメタキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上(好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上)がアジピン酸に由来するものが例示される。
前記樹脂組成物においては、実施形態Cが特に好ましい。
なお、上記いずれの実施形態においても、ジアミン由来の構成単位の合計が100モル%を超えることは無く、ジカルボン酸由来の構成単位の合計も100モル%を超えることはない。
【0019】
なお、本実施形態において、半芳香族ポリアミド樹脂(好ましくは、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂)は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を主成分として構成されるが、これら以外の構成単位を完全に排除するものではなく、ε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類由来の構成単位を含んでいてもよいことは言うまでもない。ここで主成分とは、半芳香族ポリアミド樹脂を構成する構成単位のうち、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計数が全構成単位のうち最も多いことをいう。本実施形態では、半芳香族ポリアミド樹脂における、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計は、全構成単位の90%以上を占めることが好ましく、95%以上を占めることがより好ましく、98%以上を占めることがさらに好ましい。
【0020】
ポリアミド樹脂の融点は、150~350℃であることが好ましく、180~330℃であることがより好ましく、200~300℃であることがさらに好ましい。
融点は、示差走査熱量に従い、JIS K7121およびK7122に準じて測定できる。
【0021】
ポリアミド樹脂は、数平均分子量(Mn)の下限が、6,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましく、15,000以上であることが一層好ましく、20,000以上であることがより一層好ましく、22,000以上であることがさらに一層好ましい。上記Mnの上限は、35,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましく、28,000以下がさらに好ましく、26,000以下が一層好ましい。このような範囲であると、耐熱性、弾性率、寸法安定性、成形加工性がより良好となる。
【0022】
本実施形態におけるポリアミド樹脂の相対粘度は、下限値が、1.9以上が好ましく、2.0以上がより好ましく、2.1以上がさらに好ましい。一方、前記ポリアミド樹脂の相対粘度の上限値は、4.0以下が好ましく、3.9以下がより好ましく、3.8以下がさらに好ましい。
ポリアミド樹脂の相対粘度は、JIS K 69020-2の条件で測定される。
【0023】
前記樹脂組成物におけるポリアミド樹脂の含有量は、80.0質量%以上であることが好ましく、90.0質量%以上であることがより好ましく、95.0質量%以上であることがさらに好ましく、98.0質量%以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、酸素バリア性がより向上する傾向にある。前記樹脂組成物におけるポリアミド樹脂の含有量は、SWCNT以外の全成分がポリアミド樹脂となる量が好ましい。
前記樹脂組成物は、ポリアミド樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0024】
次に、単層カーナノチボンューブ(SWCNT)について説明する。
前記樹脂組成物は、SWCNTを含む。SWCNTを用いることにより、ポリアミド樹脂とSWCNTを含む樹脂組成物から形成された層の視認性を確保しつつ、帯電防止性を付与することができる。また、導電層の酸素バリア性も向上させることができる。
SWCNTは、例えば、単層のグラフェンから形成される継ぎ目のない円筒状物質であり、グラフェンが丸まったチューブが同心円状に複数重なったMWCNTとは区別される。
SWCNTは、ジグザグ型、アームチェア型、カイラル型等が例示され、いずれの型であってもよい。
本実施形態に用いるSWCNTは、市販品として入手可能であり、例えば、日本ゼオン社製、OCSiAl社から入手可能なSWCNTが挙げられる。なお、CNTは、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリル、カーボンフィブリルなどと称されることもある。
カーボンナノチューブの直径(数平均繊維径)としては、0.5~30nmが好ましく、1~10nmがより好ましい。アスペクト比は、300~5000が好ましく、1000~5000がより好ましく、2000~5000がさらに好ましい。
【0025】
本実施形態においては、SWCNTが、マスターバッチ化された単層カーボンナノチューブに由来することが好ましい。マスターバッチ化したSWCNTを用いることにより、得られる導電層中でのCNTの凝集を効果的に抑制することができる。その結果、延伸加工時に凝集物が起点となってフィルムが破断してしまうことを効果的に抑制できる。マスターバッチ化の詳細は本実施形態の多層フィルムの製造方法の所で述べる事項を参照できる。
【0026】
SWCNTの含有量は、前記樹脂組成物(導電層)中、0.05質量%以上であることが好ましく、0.10質量%以上であることがより好ましく、0.15質量%以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、帯電防止性を十分に達成することができると共に、酸素バリア性をより向上させることができる。さらに、酸素バリア性を顕著に向上させる観点からは、0.25質量%以上であることが一層好ましい。また、SWCNTの含有量は、前記樹脂組成物(導電層)中、1.0質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがより好ましく、0.6質量%以下であることがさらに好ましく、0.45質量%以下であることが一層好ましく、0.4質量%以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、視認性、延伸性および酸素バリア性がより向上する傾向にある。特に、同じ量のCNTを配合した場合であっても、SWCNTを用いた場合、MWCNTを用いた場合よりも、視認性および延伸性を向上させることができる。さらに、視認性を顕著に向上させる観点からは、0.25質量%以下であることがさらに一層好ましい。
また、前記樹脂組成物(導電層)におけるSWCNTの含有量は、樹脂組成物100質量部に対し、0.05質量部以上であることが好ましく、0.10質量部以上であることがより好ましく、0.15質量部以上であることがさらに好ましく、酸素バリア性を顕著に向上させる観点からは、0.25質量部以上であることが一層好ましい。また、前記樹脂組成物(導電層)におけるSWCNTの含有量は、樹脂組成物100質量部に対し、1.0質量部以下であることが好ましく、0.7質量部以下であることがより好ましく、0.6質量部以下であることがさらに好ましく、0.45質量部以下であることが一層好ましく、0.4質量部以下であることがより一層好ましく、視認性を顕著に向上させる観点からは、0.25質量部以下であることがさらに一層好ましい。
本実施形態においては、樹脂組成物(導電層)は、SWCNTを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0027】
前記樹脂組成物は、また、SWCNT以外の導電性物質を実質的に含まないことが好ましい。このような構成とすることにより、延伸性をより高めることが可能になる。さらに、カーボンブラック等の一般的な導電性物質を用いると視認性が劣ってしまうが、本実施形態では、SWCNTを用いることにより、このような問題を回避している。SWCNT以外の導電性物質を実質的に含まないとは、例えば、樹脂組成物(導電層)中のSWCNT以外の導電性物質の含有量が、SWCNTの含有量の10質量%以下であることをいい、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
前記樹脂組成物は、また、MWCNTを実質的に含まないことが好ましい。MWCNTを実質的に含まないとは、例えば、樹脂組成物(導電層)中のMWCNTの含有量がSWCNTの含有量の10質量%以下であることをいい、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0028】
前記樹脂組成物(導電層)は、ポリアミド樹脂およびSWCNT以外の成分を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。具体的には、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂、充填材、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、アンチブロッキング剤、安定剤およびカップリング剤などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの添加剤は、それぞれ、1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
これらの詳細は、特許第4894982号の段落0130~0155の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
なお、前記樹脂組成物は、各成分の合計が100質量%となるように、ポリアミド樹脂、SWCNT、および、必要に応じて配合される他の添加剤の含有量が調整される。前記樹脂組成物は、ポリアミド樹脂、および、SWCNTの合計が樹脂組成物の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることが好ましく、98質量%以上を占めることがさらに好ましい。
【0029】
次に、本実施形態の多層フィルムの層構成について説明する。本実施形態の多層フィルムは、ポリアミド樹脂とSWCNTを含む樹脂組成物から形成された層(導電層)と、少なくとも他の1層とを含む。前記他の1層とは、樹脂層、接着層、意匠層等が例示される。前記他の1層の好ましい例は、ポリオレフィン層である。また、前記他の1層の好ましい例は、接着層である。
本実施形態では、例えば、図1に示す通り、ポリオレフィン層1、接着層2、および、樹脂組成物から形成された層(導電層)3を、この順で含むことが好ましい。このとき、ポリオレフィン層と接着層は互いに面方向で接合しており、また、接着層と導電層も互いに面方向で接合していることが好ましい。前記導電層は延伸可能であるため、導電層とポリオレフィン層とを別々に製造し、接着層を介して貼り合わせた後であっても、十分に延伸が可能である。
また、本実施形態の多層フィルムは、ポリオレフィン層と導電層を共押出した後(さらには、接着層も共押出した後)、共延伸することもできる。多層フィルムの製造方法の詳細は後述する。
【0030】
本実施形態の多層フィルムの層構成としては、以下のものが例示される。
ポリオレフィン層/接着層/導電層
導電層以外のポリアミド層/導電層
導電層以外のポリアミド層/接着層/導電層
ポリオレフィン層/接着層/バリア層/接着層/導電層
ポリエステル樹脂層/接着層/導電層
上記導電層以外のポリアミド樹脂層としては、ポリアミド樹脂を含み、CNTを含まない層が例示される。上記導電層以外のポリアミド樹脂層に含まれるポリアミド樹脂としては、導電層に含まれうるポリアミド樹脂として例示されたものと同義であり、好ましい範囲も同様である。
バリア層は、通常バリア性樹脂を含む層である。バリア性樹脂としては、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂やエチレン-ビニルアルコール共重合体などが例示される。
【0031】
本実施形態の多層フィルムの厚みは、15μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、また、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、水蒸気バリア性と酸素バリア性の両方が効果的に向上する傾向にある。前記上限値以下とすることにより、延伸加工性が向上すると共に、コスト削減も期待できる。
導電層の厚みは、延伸している場合は延伸後の厚みで、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましく、30μm以上であることが一層好ましく、40μm以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、酸素バリア性がより向上する傾向にある。また、導電層の厚みは、延伸している場合は延伸後の厚みで、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましく、80μm以下であることが一層好ましく、60μmm以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、視認性が向上すると共に、コスト削減も期待できる。
【0032】
次にポリオレフィン層について説明する。ポリオレフィン層は、ポリオレフィンを含む層である。ポリオレフィンとしては、ポリオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、ノルボルネン等の単独重合体および/または共重合体が好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレンがより好ましく、ポリエチレンがさらに好ましい。
【0033】
ポリオレフィンの第一の実施形態はポリエチレンであり、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等を用いることができるが、柔軟性の観点から低密度ポリエチレンが好ましい。
【0034】
ポリオレフィンの第二の実施形態はポリプロピレンであり、プロピレンホモポリマー、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体等の公知のポリマーを使用することができる。市販品としては、BOREALIS社製、Bormed RB845MOなどが挙げられる。
【0035】
ポリオレフィンの第三の実施形態はノルボルネンの開環重合体であり、COPおよびCOCと称されるものが例示される。
COPとは、例えば、ノルボルネンを開環重合し水素添加した重合物である。COPは、例えば、特開平5-317411号公報に記載されており、また、日本ゼオン(株)製のZEONEX(登録商標)またはZEONOR(登録商標)や(株)大協精工製のDaikyo Resin CZ(登録商標)として市販されている。
COCとは、例えば、ノルボルネンとエチレン等のオレフィンを原料とした共重合体、およびテトラシクロドデセンとエチレン等のオレフィンを原料とした共重合体である。COCは、例えば三井化学(株)製、アペル(登録商標)として市販されている。
【0036】
その他、ポリオレフィン層に用いられるポリオレフィンとしては、再公表2015/029571号の段落0011~0013の記載、特開2014-068767号公報の段落0101~0103の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0037】
前記ポリオレフィン層におけるポリオレフィンの含有量は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが一層好ましく、99質量%以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。また、前記ポリオレフィン層におけるポリオレフィンの含有量は、100質量%であってもよい。
前記ポリオレフィン層は、ポリオレフィンを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0038】
ポリオレフィン層には、ポリオレフィンの他、他の成分を含んでいてもよい。具体的には、酸化防止剤、艶消剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、難燃剤等の添加剤を含んでいてもよい。これらの配合量は、ポリオレフィン層の0.1~10質量%の範囲で適宜選択される。
【0039】
ポリオレフィン層の厚みは、前記導電層の厚みを1としたとき、0.5以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましい。また、ポリオレフィン層の厚みは、前記導電層の厚みを1としたとき、20以下であることが好ましく、18以下であることがより好ましく、15以下であることがさらに好ましく、13以下であることが一層好ましく、12以下であることがより一層好ましい。前記範囲とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
【0040】
次に接着層について説明する。接着層は、層と層を接合させるための層であり、本実施形態においては、導電層とポリオレフィン層の接着に好ましく用いられる。
接着層は、接着性樹脂を含むことが好ましい。
【0041】
本実施形態では、接着性樹脂は、酸変性ポリオレフィンであることが好ましい。酸変性ポリオレフィンは、カルボン酸および/またはその誘導体で酸変性されたポリオレフィン、ならびに、カルボン酸および/またはその誘導体で酸変性され、さらに酸変性によって分子内に導入された官能基を介してポリアミドがグラフト結合してなるポリオレフィン(「ポリアミドでグラフト変性されたポリオレフィン」ともいう。)が好ましい。
【0042】
ポリオレフィンを酸変性させ得る化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メチルマレイン酸、メチルフマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、シス-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、エンドビシクロ[2.2.1]-5-ヘプテン-2,3-ジカルボン酸およびこれらカルボン酸の金属塩、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノメチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸アミノエチル、マレイン酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、エンドビシクロ-[2.2.1]-5-ヘプテン-2,3-ジカルボン酸無水物、マレイミド、N-エチルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジルなどが好ましく挙げられる。これらは1種でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、他の樹脂との溶融混合性の観点から無水マレイン酸が好ましい。
【0043】
接着性樹脂におけるポリオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン等のα-オレフィンの単独重合体および/または共重合体が好ましい。
ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等を用いることができる。
また、共重合体としては、エチレン、プロピレンおよびブテンの少なくとも2種の共重合体や、エチレン、プロピレンおよびブテンの少なくとも1種とこれらと共重合することができる単量体との共重合体を用いることができる。エチレン、プロピレンおよびブテンの少なくとも1種と共重合することができる単量体としては、例えば、α-オレフィン、スチレン類、ジエン類、環状化合物、酸素原子含有化合物等が挙げられる。特に好ましい共重合体としては、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/プロピレン共重合体などが挙げられ、その中でもエチレン/ブテン共重合体が好ましい。
α-オレフィン、スチレン類、ジエン類、環状化合物、酸素原子含有化合物の詳細は、国際公開第2017/094564号の段落0044の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
共重合体は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合のいずれであってもよい。
【0044】
本実施形態において、特に好適に用いられる酸変性ポリオレフィンとしては、弾性率、柔軟性および耐衝撃性の観点から、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性エチレン/ブテン共重合体等の無水マレイン酸変性α-オレフィンコポリマーおよび脂肪族ポリアミドでグラフト変性されたポリオレフィンが挙げられる。中でも、無水マレイン酸変性エチレン/ブテン共重合体が特に好ましく用いられる。
このような接着性樹脂の具体例としては、三井化学社製の商品名「アドマー」や三菱ケミカル社製の商品名「モディック」等を例示することができる。
【0045】
前記接着層における接着性樹脂の含有量は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが一層好ましく、99質量%以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、接着性がより向上する傾向にある。また、前記接着層における接着性樹脂の含有量は、100質量%であってもよい。
前記接着層は、接着性樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0046】
接着層には、接着性樹脂の他、他の成分を含んでいてもよい。具体的には、酸化防止剤、艶消剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、難燃剤等の添加剤を含んでいてもよい。これらの配合量は、接着層の0.1~10質量%の範囲で適宜選択される。
【0047】
接着層の厚みは、前記導電層の厚みを1としたとき、0.05以上であることが好ましく、0.08以上であることがより好ましく、0.1以上であることがさらに好ましく、0.15以上であることが一層好ましい。また、接着層の厚みは、前記導電層の厚みを1としたとき、0.9以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましく、0.5以下であることがさらに好ましい。前記範囲とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
【0048】
次に、本実施形態の多層フィルムの好ましい物性ないし特性について説明する。
本実施形態の多層フィルムは、延伸フィルムであることが好ましい。延伸フィルムであることにより、酸素バリア性がより高く、強度に優れた多層フィルムが得られる。延伸フィルムの詳細は、後述する多層フィルムの製造方法の所で述べる事項を参酌できる。
【0049】
本実施形態の多層フィルムは視認性に優れている。具体的には、本実施形態の多層フィルムは、全光線透過率が40%超であることが好ましく、55%以上であることがより好ましい。このような全光線透過率は、CNTとして、SWCNTを用いることによって達成される。前記全光線透過率の上限は100%が理想であるが、70%以下が実際的である。
全光線透過率は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0050】
本実施形態の多層フィルムは、導電性フィルムないし帯電防止フィルムとして好ましく用いられる。具体的には、導電層における表面抵抗率が、1.0×1011Ω/sq.以下であることが好ましく、1.0×1010Ω/sq.以下であることがより好ましい。表面抵抗率の下限値としては、1.0×10Ω/sq.以上であることが好ましい。特に、帯電防止フィルムとしては、表面抵抗値が1.0×10Ω/sq.以上であることが好ましく、1.0×10~1.0×10Ω/sq.であることがより好ましい。
表面抵抗率は後述する実施例の記載に従って測定される。
【0051】
本実施形態の多層フィルムは、酸素バリア性フィルムとして好ましく用いられる。特に、本実施形態の多層フィルムは、導電層における酸素透過率が20.00cc/m・atm・day以下であることが好ましく、10.00cc/m・atm・day以下であることがより好ましく、5.00cc/m・atm・day以下であることがさらに好ましく、3.00cc/m・atm・day以下であることが一層好ましく、2.10cc/m・atm・day以下であることがより一層好ましく、1.60cc/m・atm・day以下であることがさらに一層好ましい。下限値は、0.00cc/m・atm・day以上であることが理想であるが、0.10cc/m・atm・dayが実際的である。このような酸素バリア性は、SWCNTを用いること、SWCNTを十分に導電層中で分散させること、導電層を延伸すること、ポリアミド樹脂の種類を選択すること等によって達成される。
【0052】
次に、本実施形態の多層フィルムの製造方法について説明する。
まず、樹脂組成物の製造方法について説明する。
前記樹脂組成物は、公知の熱可塑性樹脂組成物の製造方法によって製造できる。 本実施形態の樹脂組成物の製造方法の一実施形態として、ポリアミド樹脂に、SWCNT、および、必要に応じて配合される他の成分を配合して混練することが好ましい。このような樹脂組成物の一例として、ペレットが挙げられる。
具体的には、ポリアミド樹脂、SWCNT、ならびに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
【0053】
本実施形態においては、SWCNTが、マスターバッチ化された単層カーボンナノチューブに由来することが好ましい。すなわち、本実施形態においては、SWCNTは、マスターバッチ化して配合されることが好ましい。
マスターバッチ化するための熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂であることが好ましく、導電層に配合される最も含有量が多いポリアミド樹脂と同じ樹脂であることがより好ましい。
マスターバッチにおける熱可塑性樹脂の濃度は99.9質量%以下であることが好ましく、99.5質量%以下であることが好ましく、また、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、75質量%以上であることが一層好ましい。上記上限値以下および下限値以上の範囲とすることにより、SWCNTの熱可塑性樹脂への分散性がより向上する傾向にある。
【0054】
前記樹脂組成物においては、ポリアミド樹脂の合成時にSWCNTを添加したものであってもよい。このような構成とすることにより、SWCNTをポリアミド樹脂中により効果的に分散させることができる。ポリアミド樹脂の合成時にSWCNTを配合する場合、得られたSWCNT含有ポリアミド樹脂をそのまま導電層形成用樹脂組成物として用いてもよいし、得られたSWCNT含有ポリアミド樹脂をSWCNTのマスターバッチとして用い、さらにポリアミド樹脂等と溶融混練してもよい。
すなわち、本実施形態の多層フィルムの製造方法としては、ポリアミド樹脂と、マスターバッチ化されたSWCNTとを溶融混練することを含み、前記SWCNTの含有量が、樹脂組成物中、0.05質量%以上1.0質量%未満である方法が例示される。
また、本実施形態の多層フィルムの製造方法としては、前記樹脂組成物が、ポリアミド樹脂の合成中に、SWCNTを添加してマスターバッチ化されたSWCNTを製造することを含むことも好ましい。
【0055】
次に、上記で得られた樹脂組成物を用いた多層フィルムの製造方法について説明する。
本実施形態の多層フィルムは、ポリアミド樹脂と単層カーボンナノチューブを含む樹脂組成物と、他の層を形成するための組成物(例えば、接着層形成用組成物とポリオレフィン層形成用組成物)とを共押出して製造することができる。
また、本実施形態の多層フィルムは、ポリアミド樹脂と単層カーボンナノチューブを含む樹脂組成物と、他の層を形成するための組成物(例えば、ポリオレフィン層形成用組成物)とを別々に押出してフィルム状にしたのち、接着性樹脂(接着層)で貼り合わせて多層フィルムとすることもできる。
【0056】
また、本実施形態の多層フィルムは、未延伸の状態で使用することもできるが、延伸フィルムであることが好ましい。本実施形態の多層フィルムが延伸フィルムであるとは、少なくともポリアミド樹脂と単層カーボンナノチューブを含む樹脂組成物から形成された層(導電層)が延伸されたことをいう。導電層を延伸することにより、導電層の酸素バリア性がより向上する傾向にある。本実施形態の多層フィルムは、導電層とポリオレフィン層の両方が延伸されていることが好ましい。
本実施形態において、導電層の延伸倍率としては、TD方向およびMD方向にそれぞれ1.5倍以上であることが好ましく、1.8倍以上であることがより好ましく、2.0倍以上であってもよい。上限は特に定めるものでは無いが、例えば、9.0倍以下であり、さらには5.0倍以下であってもよい。
【0057】
本実施形態の多層フィルムが延伸フィルムである場合、導電層を延伸した後、ポリオレフィン層等の他の層と貼り合わせてもよいし、導電層とポリオレフィン層を積層した多層未延伸フィルムの状態のものを延伸してもよい。尚、多層フィルムが延伸されているか否かについては、多層フィルムの屈折率等の測定によって確認可能である。
【0058】
次に、未延伸の多層フィルムまたは未延伸の単層フィルム(導電層)の延伸の詳細について説明する。以下、未延伸の多層フィルムまたは未延伸の単層フィルム(導電層)をまとめて未延伸フィルムという。
本実施形態において、未延伸フィルムは、延伸前に予熱することが好ましい。予熱温度は75℃~150℃の範囲が好ましく、より好ましくは80℃~140℃である。予熱温度を前記温度範囲とすることで、延伸ムラが少なく、優れた機械物性を有する延伸フィルムが得られる。また、予熱時間(予熱開始から延伸するまでの時間)は、5秒~60秒の範囲が好ましく、より好ましくは7秒~40秒、さらに好ましくは10秒~30秒である。予熱時間を前記時間とすることで、延伸ムラが少なく、優れた機械物性を有する延伸フィルムが得られる。
【0059】
また、得られた未延伸フィルムの延伸は、例えば、従来から知られている工業的方法により行うことができる。例えば、キャスティング法によって製造された未延伸フィルムを二軸延伸する方法としては、例えば、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、チューブラー延伸法が挙げられる。同時二軸延伸法では、未延伸フィルムをテンター式同時二軸延伸機で縦横同時に延伸する。逐次二軸延伸法では、T-ダイより溶融押出しした未延伸フィルムをロール式延伸機で縦方向に延伸した後、テンター式延伸機で横方向に延伸する。チューブラー延伸法では、環状ダイより成形したチューブ状シートを気体の圧力でインフレーション式に縦横同時に延伸する。延伸工程を未延伸フィルムの製造に引き続き、連続して実施してもよいし、未延伸フィルムを一旦巻き取り、別工程として延引を実施してもよい。
【0060】
冷却ロールの温度は20℃以上50℃以下であることが好ましく、30℃以上45℃以下であることがより好ましい。冷却ロールの温度が50℃より低い場合、未延伸フィルム中の結晶の成長を抑えることができるため、得られる未延伸フィルムの視認性は向上する傾向にある。一方、冷却ロールの温度が20℃より高い場合には、延伸後のフィルムの強度を保つことができる。
【0061】
延伸温度は、30℃以上250℃以下であることが好ましく、50℃以上220℃以下であることがより好ましい。延伸温度が30℃以上であれば、延伸工程での破断頻度を抑えることができる。延伸温度が250℃以下であれば、延伸工程での破断頻度を抑えることができることに加えて、延伸後のフィルムの強度および視認性に優れたものとすることができる。
【0062】
上記の方法により延伸されたフィルム(延伸フィルム)を、引続き熱処理することが望ましい。延伸フィルムを熱処理することにより常温における寸法安定性を延伸フィルムに付与することができる。この場合の延伸フィルムの熱処理温度は、100℃以上250℃以下であることが好ましく、150℃以上220℃以下であることがより好ましい。延伸フィルムの熱処理温度が100℃以上であれば、熱工程が十分であり、巻き取り後の延伸フィルムの収縮が抑えられ、寸法安定性に優れる。延伸フィルムの熱処理温度が250℃以下であれば、延伸フィルムの視認性が優れたものとなる。熱処理時間は、例えば4~60秒間とすることができる。
【0063】
熱処理操作により、充分に熱固定された延伸フィルムは、常法に従い、冷却して巻き取ることができる。
【0064】
延伸倍率や加工条件が前記の範囲内にあることにより、得られる延伸フィルムの強度や酸素バリア性を確保でき、延伸時に未延伸フィルムが破断することなく、安定した操業が可能となる。
【0065】
さらに、本実施形態においては、多層フィルムに印刷性、ラミネート性、粘着剤付与性を高めるため、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、酸処理等の表面処理を行ってもよい。また、必要に応じて、多層フィルムに上述のような表面処理を行った後、印刷、ラミネート、粘着剤塗布、ヒートシール等の二次加工工程を経てそれぞれの目的とする用途に使用することができる。
その他、延伸フィルムの製造方法は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、国際公開第2017/010390号の段落0049~0053および図1の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。また、多層フィルムの詳細は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、国際公開第2017/010390号の段落0054および図2の記載、国際公開第2018/083962号の段落0040~0045の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0066】
本実施形態の多層フィルムは、自動車等輸送機部品、一般機械部品、精密機械部品、電子・電気機器部品、OA機器部品、建材・住設関連部品、医療装置、レジャースポーツ用品、遊戯具、医療品、食品包装用フィルム等の日用品、防衛および航空宇宙製品等に広く用いられる。
本実施形態の多層フィルムは、包装材料または容器として好ましく用いられる。本発明の包装材料または容器としては、食品用、医療用、化粧料用、電子部品などが例示される。
特に、本実施形態の多層フィルムは、帯電防止性能を有し、静電気の発生を抑制できるため、帯電防止フィルムとして好ましく用いられる。具体的には、穀物などの収納袋、静電気の発生によって壊れてしまう電子部品を入れる包装材料や、静電気の帯電を抑制することで袋の内側に埃が付着しにくく、クリーンな状態を保てる包装材料としても活用できる。
本実施形態の多層フィルムを包装材料または容器として用いる場合、内側層が導電層であることが好ましく、最内層が導電層であることがより好ましい。
【実施例0067】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0068】
<導電層の原料>
MXD6:メタキシリレンジアミンとアジピン酸の重縮合により得られたポリアミド樹脂、三菱ガス化学社製、S6007
PA6:ポリアミド6、宇部興産社製、1022B
SWCNT:単層カーボンナノチューブ、日本ゼオン社製、SG101
MWCNT:多層カーボンナノチューブ、アルケマ社製、Graphistrength
【0069】
<接着層の原料>
モディック:ポリオレフィンに無水マレイン酸基を導入した接着性樹脂、三菱ケミカル社製、M533
【0070】
<外層の原料>
PE:ポリエチレン樹脂、日本ポリエチレン社製、UF240
【0071】
<マスターバッチMB-1の調整>
撹拌機、窒素ガス導入口、縮合水排出口を備えた容積約3Lの反応容器にアジピン酸730.8g、次亜リン酸ナトリウム一水和物0.6322gおよび酢酸ナトリウム0.4404gを仕込み、容器内を十分窒素置換した後、窒素ガスを20mL/分で供給しながら170℃で溶融させた。250℃まで徐々に昇温しながら、そこへメタキシリレンジアミン(MXDA)(三菱ガス化学(株)製)681.0gとSWCNT14.1gを混合したジアミンを滴下し約2時間重合を行い、導電性樹脂マスターバッチ(SWCNT含有量1.0質量%)を得た。得られたポリアミドの相対粘度(ηr)が2.2、融点(Tm)が237.4℃であった。
【0072】
<マスターバッチMB-2の調整>
MXD6(三菱ガス化学社製、品番:S6007)にSWCNTを質量比率99:1の割合でドライブレンドした後、二軸押出機(芝浦機械社製、TEM26SS)のスクリュー根元から2軸スクリュー式カセットウェイングフィーダ(クボタ社製、CE-W-1-MP)を用いて投入し溶融混練して、導電性樹脂マスターバッチMB-2(MXD6・SWCNT含有量1.0質量%)を得た。押出機の温度設定は、260℃とした。
【0073】
<マスターバッチMB-3の調整>
PA6(宇部興産社製、品番:1022B)にSWCNTを質量比率99:1の割合でドライブレンドした後、二軸押出機(芝浦機械社製、TEM26SS)のスクリュー根元から2軸スクリュー式カセットウェイングフィーダ(クボタ社製、CE-W-1-MP)を用いて投入し溶融混練して、導電性樹脂マスターバッチMB-3(PA6・SWCNT含有量1.0質量%)を得た。押出機の温度設定は、260℃とした。
【0074】
<マスターバッチMB-4の調整>
MXD6(三菱ガス化学社製、品番:S6007)に、MWCNTを質量比率80:20の割合でドライブレンドした後、二軸押出機(芝浦機械社製、TEM26SS)のスクリュー根元から2軸スクリュー式カセットウェイングフィーダ(クボタ社製、CE-W-1-MP)を用いて投入し溶融混練して、導電性樹脂マスターバッチMB-4(MXD6・MWCNT含有量20質量%)を得た。押出機の温度設定は、270℃とした。
【0075】
<マスターバッチMB-5の調整>
PA6(宇部興産社製、品番:1022B)に、MWCNTを質量比率80:20の割合でドライブレンドした後、二軸押出機(芝浦機械社製、TEM26SS)のスクリュー根元から2軸スクリュー式カセットウェイングフィーダ(クボタ社製、CE-W-1-MP)を用いて投入し溶融混練して、導電性樹脂マスターバッチMB-5(PA6・MWCNT含有量20質量%)を得た。押出機の温度設定は、260℃とした。
【0076】
実施例1~7、比較例1~4、参考例1、2
<導電層形成用樹脂組成物の製造>
実施例1~7、比較例1~4について、導電層形成用樹脂組成物(ペレット)を以下の方法に従って製造した。
後述する表1または表2に示す組成となるように、各成分をそれぞれ秤量し、ドライブレンドした後、二軸押出機(芝浦機械社製、TEM26SS)のスクリュー根元から2軸スクリュー式カセットウェイングフィーダ(クボタ社製、CE-W-1-MP)を用いて投入し溶融混練して、樹脂組成物ペレットを得た。押出機の温度設定は、ポリアミド樹脂としてMXD6を用いたものは260℃、PA6を用いたものは260℃とした。
表1、表2において、CNTの添加量は、MBの添加量ではなく、導電層形成用樹脂組成物に配合されるCNTの添加量を示している。
【0077】
<多層フィルム(未延伸)の製造>
得られた導電層形成用樹脂組成物(参考例1、2については、表2に示すポリアミド樹脂)、接着層の原料である接着性樹脂、および、外層の原料であるポリエチレン樹脂を用いて、3台の押出機を備えた多層フィルム成形機にて、導電層の押出温度260℃、接着層の押出温度240℃、外層の押出し温度240℃、積層後流路温度260℃冷却ロール温度80℃にて、導電層/接着層/外層(ポリオレフィン層)からなる未延伸多層フィルムを形成した。
【0078】
<延伸多層フィルムの製造>
上記で得られた未延伸多層フィルムを二軸延伸装置(テンター法、EX105S、株式会社東洋精機製作所製)を用いて、2倍×2倍の延伸倍率となるように、MD方向およびTD方向にそれぞれ130℃で延伸を行った後、熱固定(熱固定温度160℃、熱固定時間15秒)しながら、緩和率3%となるように緩和して延伸多層フィルムを得た。
表1、表2に示す各層の厚みは、延伸後の厚みを示している。
【0079】
<引張弾性率、引張強さ>
上記で得られた未延伸多層フィルムの導電層について、10mm幅の短冊を切り出し、引張弾性率(単位:GPa)および引張強さ(単位:MPa)を、JIS K 7127に従い、50mm/分の試験速度で測定した。測定に際し、未延伸多層フィルムのMD方向に引張り試験を行い、チャック間距離を50mmとし、引張速度50mm/分に設定した。測定環境は、23℃、相対湿度(RH)50%の雰囲気下とした。
【0080】
<導電性(帯電防止性)評価>
上記で得られた未延伸多層フィルムの導電層について、表面抵抗値を測定した。
測定に際し、日東精工アナリテック製のハイレスタ-UX(MCP-HT800)を用いた。
表面抵抗値が小さいほど、導電性に優れている。また、表面抵抗値が1.0×1010Ω/sq.以下であると、帯電防止性に優れている。
【0081】
<全光線透過率>
上記で得られた未延伸多層フィルムについて、全光線透過率を測定し、以下の通り評価した。
測定は、日本電色工業株式会社製の分光色彩・ヘーズメーターCOH7700を用いた。
A:全光線透過率55%以上
B:全光線透過率40%超
C:全光線透過率40%以下
【0082】
<凝集物量>
上記で得られた延伸多層フィルムの導電層の表面を光学顕微鏡で観察し、凸部の大きさを計測した。凸部の高さは三鷹光器社製の非接触3次元形状測定装置を用いて観察し、測定を行った。表面に存在する高さ5μm以上かつ長手幅20μm以上の凸部が表面積1mmあたり2個以下の組成を合格、それ以上は不合格とした。測定に際し、表面積1mmあたりの領域を任意の5ヶ所を選択し、その平均値(平均値が小数の場合は小数第一位を四捨五入)とした。
【0083】
<延伸性>
上記未延伸多層フィルムの製造における延伸時の延伸性について、以下の通り評価した。
A:問題なく延伸することができた。
B:延伸は可能であるが、同一延伸条件でも厚みムラが発生する場合があった。
C:延伸時にフィルムが切れてしまった。
【0084】
<酸素透過率>
上記で得られた延伸多層フィルムについて、以下の通り、酸素透過率を評価した。
延伸多層フィルムの導電層について、23℃、相対湿度(RH)60%の雰囲気下、等圧法にて、酸素透過率(OTR、単位:cc/m・atm・day)を測定した。酸素雰囲気の圧力は1atmとし、測定時間は24時間(1day)とした。
酸素透過率(OTR)は、酸素透過率測定装置(MOCON社製、製品名:「OX-TRAN(登録商標) 2/21」)を使用して測定した。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
上記結果から明らかなとおり、本発明の多層フィルムは、帯電防止性があり、視認性に優れ、かつ、延伸が可能であった。さらに、酸素バリア性にも優れていた。さらに機械的強度にも優れていた。
【符号の説明】
【0088】
1 ポリオレフィン層
2 接着層
3 導電層
図1