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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021713
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】洋式便器の開閉装置
(51)【国際特許分類】
   A47K 13/10 20060101AFI20230207BHJP
   E03D 11/02 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
A47K13/10
E03D11/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126759
(22)【出願日】2021-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】513014628
【氏名又は名称】株式会社ナチュラレーザ・ワン
(74)【代理人】
【識別番号】100076831
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 捷雄
(72)【発明者】
【氏名】野中 大旗
【テーマコード(参考)】
2D037
2D039
【Fターム(参考)】
2D037AA02
2D037AB06
2D037AB10
2D039AA02
2D039CD00
(57)【要約】
【課題】便座と便蓋とに共通の取付部材を採用して、便座専用の取付部材と便蓋専用の取付部材とを不要にした洋式便器の開閉装置を提供する。
【解決手段】便器本体に軸支された便座又は便蓋を手を触れることなく開閉させる洋式便器の開閉装置であって、床に設置される基台と、前記基台に軸支され、軸支された手前側に上昇操作踏込部を設け、軸支された奥側に下降操作踏込部を設けたペダル部材と、この下降操作踏込部の奥側で下端側シャフトを用いて前記ペダル部材に下端部を軸支されたリンク部材と、前記便座と前記便蓋のいずれにも取り付け可能であって、上端側シャフトを用いて前記リンク部材の上端部に軸支される取付部材と、を有し、前記取付部材は、前記リンク部材の上端部に対して着脱可能かつ軸方向の向きを反転可能に取り付けられ、前記便蓋を取り付ける際の軸方向の向きが前記便座を取り付ける際の軸方向の向きと反対である。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器本体に軸支された便座又は便蓋を、手を触れることなく開閉させる洋式便器の開閉装置であって、
床側に設置される基台と、
前記基台に上下方向へ揺動可能に軸支され、軸支された手前側に上昇操作踏込部を設け、軸支された奥側に下降操作踏込部を設けたペダル部材と、
この下降操作踏込部の奥側において下端側シャフトを移動可能に軸支するスナップフィット軸受を介してその下端部側を軸支されたリンク部材と、
前記便座と前記便蓋のいずれにも取り付け可能であって、上端側シャフトを用いて前記リンク部材の上端部に軸支される取付部材と、を有し、
前記取付部材は、前記リンク部材の上端部に対して着脱可能かつ軸方向の向きを反転可能に取り付けられ、前記便蓋を取り付ける際の軸方向の向きが前記便座を取り付ける際の軸方向の向きと反対であることを特徴とする、開閉装置。
【請求項2】
前記取付部材は、前記便座の下面へ重ねて取り付け可能な便座取付板部を有し、前記便蓋を取り付けられた際には前記軸方向の向きを反対にして前記便座の回動領域に対する前記便座取付板部の干渉を回避していることを特徴とする、請求項1に記載の開閉装置。
【請求項3】
前記便座取付板部は、両面粘着テープを用いて前記便座の下面を貼着可能であることを特徴とする、請求項2に記載の開閉装置。
【請求項4】
前記リンク部材の下端部の軸支の回転中心に位置する回転位置とこの回転中心から外れた退避位置とに前記下端側シャフトを移動可能に保持するスナップフィット軸受部を有し、前記退避位置では前記回転位置よりも前記下端側シャフトが緩く保持されることを特徴とする、請求項1に記載の開閉装置。
【請求項5】
前記退避位置は、前記リンク部材の下端部の軸支の中心と前記上端側シャフトの軸支の中心とを結ぶ直線上の前記下端部の軸支の中心よりも外側にあることを特徴とする、請求項4に記載の開閉装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の開閉装置を便座又は便蓋に取り付けたことを特徴とする洋式便器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば感染症の感染を予防する観点から、ユーザーがペダル機構を足で踏み込む操作によって手を触れることなく便座又は便蓋を開閉させる洋式便器の開閉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
腰掛式の洋式便器は、便器本体の上面に軸支された便座が開閉可能に設けられ、便器本体の上面の閉じた便座を覆って便器本体の上面に軸支された便蓋が開閉可能に設けられている。近年のコロナ禍に伴い、便座や便蓋を介したコロナウィルスの感染を阻止すべく、このような腰掛式の洋式便器において、便座及び便蓋に直接手を触れることなく便座及び便蓋を個別に開閉する開閉装置を備えることが求められている。また、近年のコロナ禍以前から、便座及び便蓋のペダル式開閉装置についていくつかの提案がされている(特許文献1、2)。
【0003】
特許文献1、2に記載された洋式便器の開閉装置は、第1のペダル機構を操作して便座を開閉可能であると共に第2のペダル機構を操作して便蓋を開閉可能である。また、特許文献2の図6には、第1取付部材を用いて便座に連結された第1リンク部材(プッシュロッド)を昇降させて便座を開閉すると共に、第2取付部材を用いて便蓋に連結された第2リンク部材(プッシュロッド)を昇降させて便蓋を開閉する開閉装置を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5488743号公報
【特許文献2】特開2001-87165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
洋式便器全体の交換は大きな工事費用がかかるため、既存の腰掛式の洋式便器に後から取り付けて使用される洋式便器の開閉装置が求められている。このような開閉装置では、それぞれ専用の取付部材を用いて既存の便座又は便蓋にリンク部材を連結し、ペダルを足で踏み込む操作によってリンク部材を昇降させて便座又は便蓋を開閉する機構を採用している場合がある。
【0006】
このような洋式便器の開閉装置では、便座専用の取付部材と、便蓋専用の取付部材とが必要である。したがって、本発明は、便座と便蓋とに共通の取付部材を採用して、便座専用の取付部材と便蓋専用の取付部材とを不要にした洋式便器の開閉装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の本発明の洋式便器の開閉装置は、便器本体に軸支された便座又は便蓋を、手を触れることなく開閉させる洋式便器の開閉装置であって、床に設置される基台と、前記基台に上下方向へ揺動可能に軸支され、軸支された手前側に上昇操作踏込部を設け、軸支された奥側に下降操作踏込部を設けたペダル部材と、
この下降操作踏込部の奥側において下端側シャフトを移動可能に軸支するスナップフィット軸受を介してその下端部側を軸支されたリンク部材と、前記便座と前記便蓋のいずれにも取り付け可能であって、上端側シャフトを用いて前記リンク部材の上端部に軸支される取付部材と、を有し、前記取付部材は、前記リンク部材の上端部に対して着脱可能かつ軸方向の向きを反転可能に取り付けられ、前記便蓋を取り付ける際の軸方向の向きが前記便座を取り付ける際の軸方向の向きと反対であることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に記載の開閉装置にあっては、前記取付部材は、前記便座の下面へ重ねて取り付け可能な便座取付板部を有し、前記便蓋を取り付けられた際には前記軸方向の向きを反対にして前記便座の回動領域に対する前記便座取付板部の干渉を回避していることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に記載の開閉装置にあっては、前記便座取付板部は、両面粘着テープを用いて前記便座の下面を貼着可能であることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に記載の開閉装置にあっては、前記リンク部材の下端部の軸支の回転中心に位置する回転位置とこの回転中心から外れた退避位置とに前記下端側シャフトを移動可能に保持するスナップフィット軸受部を有し、前記退避位置では前記回転位置よりも前記下端側シャフトが緩く保持されることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に記載の開閉装置にあっては、前記退避位置は、前記ロッド部材の下端部の軸支の中心と前記上端側シャフトの軸支の中心とを結ぶ直線上の前記下端部の軸支の中心よりも外側にあることを特徴とする。
【0012】
また、請求項6に記載の洋式便器は、請求項1~5のいずれか1項に記載の開閉装置を便座又は便蓋に取り付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の開閉装置では、取付部材は、リンク部材の上端部に対して着脱可能かつ軸方向の向きを反転可能に取り付けられ、便蓋を取り付ける際の軸方向の向きが便座を取り付ける際の軸方向の向きと反対である。したがって、軸方向の向きを反対にすることによって便蓋を回動させた際に取付部材の一部分が便座に干渉することを回避できる。したがって、便座に取り付ける取付部材をそのまま便蓋に取り付け可能な開閉装置を提供することができる。
【0014】
請求項2に記載の開閉装置では、具体的に取付部材を便蓋に取り付けた際に、便座の回動領域に対する便座取付板部の干渉が回避されている。したがって、大きな面積の便座取付板部を有する便座にも便蓋にも対応可能な取付部材を使用した開閉装置を提供することができる。ここで、取付部材は、便座取付板部に隣接させて設けたシャフト軸支部と、このシャフト軸支部に重ねて設けられ、便蓋の縁の下端部を締め付けて便蓋を固定する締付機構を取り付け可能な締付機構取付部と、を有するものとすることができる。
【0015】
請求項3に記載の開閉装置では、両面粘着テープを使用することにより、取付部材を多品種の便座へ容易に取り付けられる。
【0016】
請求項4に記載の開閉装置では、ユーザーが便座又は便蓋を直接手で持ち上げた場合に、スナップフィット軸受部において下端側シャフトが回転位置から退避位置へ移動して、回転位置よりも下端側シャフトが緩く保持される。このため、リンク部材が取付部材に及ぼす力が抑制されて、便座又は便蓋の一部が破損したり、便座又は便蓋から取付部材が脱落したりし難い。したがって、便座又は便蓋が直接手で持ち上げられた場合に取付部材にかかる力を軽減した洋式便器の開閉装置を提供することができる。
【0017】
請求項5に記載の開閉装置では、リンク部材を介して下端側シャフトに持ち上げる力が作用した場合に、スナップフィット軸受部において下端側シャフトが回転位置から退避位置へ移動する。
【0018】
請求項6に記載の洋式便器では、コンパクトでシンプルな開閉装置を用いて、既存の洋式便器を、手を触れることなく便座又は便蓋を開閉させる洋式便器に改造できる。開閉装置を設けることで、既存の洋式便器であっても便座、便蓋に手で直接触れる機会を減らして、便座、便蓋を介した各種感染症を予防できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態1に係る開閉装置を取り付けた洋式便器の斜視図である。
図2】便座に開閉装置を取り付けた洋式便器の動作の説明図であって、(a)は便座を開いた状態の側面図、(b)は便座を閉じた状態の側面図である。
図3図2の洋式便器の開閉装置の取付部材と便座の取付部の部分的な斜視図である。
図4図2の洋式便器の開閉装置の分解斜視図である。
図5】スナップフィット軸受部の構成の説明図であって、(a)はリンク部材の下端部の平面図、(b)はリンク部材のE-E断面図である。
図6】スナップフィット軸受部の動作の説明図であって、(a)はリンク部材の上昇動作の中で爪部の間に下端側シャフトが復帰した状態、(b)は過負荷により爪部から下端側シャフトが外れた状態、である。
図7】便蓋に開閉装置を取り付けた洋式便器の動作の説明図であって、(a)は便蓋を開いた状態の側面図、(b)は便蓋を閉じた状態の側面図である。
図8図7の洋式便器の開閉装置の取付部材と便座の取付部の部分的な斜視図である。
図9図7の洋式便器の開閉装置の取付部材の斜視図である。
図10図7の洋式便器の開閉装置の取付部材の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の一実施形態としての洋式便器の開閉装置と、この開閉装置を取り付けた洋式便器の一実施形態としての洋式便器とを、添付した図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
<実施の形態1>
図1に示すように、洋式便器1は、便器本体2の後方にタンク5が接続された水洗式であって、前方側からユーザーが着座して用を足す腰掛式である。洋式便器1は、便器本体2の上面に、開閉軸3aを用いて便座3が開閉可能に設けられている。また、便器本体2の上面に閉じられた便座3を覆って、便蓋4が開閉軸4aを用いて開閉可能に設けられている。開閉軸3a、4aは、便座3、便蓋4を持ち上げるトルクを発生するばね機構を内蔵したものであってもよい。
【0022】
洋式便器1は、便座3に直接手を触れることなく便座3を開閉するための開閉装置10を装備している。図2(a)に示すように、ユーザーは、ペダル部材15bの上昇操作踏込部15dを矢印R1方向に踏み込むことにより、リンク部材12を矢印R2方向に上昇させて便座3を開くことができる。また、図2(b)に示すように、ユーザーは、ペダル部材15bの下降操作踏込部15eを矢印R3方向に踏み込むことにより、リンク部材12を矢印R4方向に下降させて便座3を閉じることができる。
【0023】
図3に示すように、開閉装置10は、洋式便器1の便座3に取付部材11を取り付けることにより、便座3の開閉装置10を装備した洋式便器1を組み立てている。取付部材11は、両面粘着テープ11aを用いて便座3の下面3bを貼着可能な便座取付板部11bを有する。
【0024】
図1に示すように、開閉装置10は、洋式便器1の便器本体2に軸支された便座3又は便蓋4を手を触れることなく開閉させる。図4に示すように、基台15aは、床に設置される。ペダル部材15bは、基台15aに軸支され、軸支された手前側に上昇操作踏込部15dを設け、軸支された奥側に下降操作踏込部15eを設けている。リンク部材12は、この下降操作踏込部15eの奥側で下端側シャフト14を用いてペダル部材15bに下端部を軸支されている。取付部材11は、上端側シャフト13を用いてリンク部材12の上端部に軸支されている。取付部材11は、便座3の下面へ重ねて取り付け可能な便座取付板部11bを有し、便座取付板部11bは、両面粘着テープ11aを用いて便座3の下面に貼着されている。
【0025】
ペダル機構15は、基台15aとペダル部材15bを用いてシンプルなシーソー型に構成されている。ペダル機構15は、上昇操作踏込部15dを踏み込んで便蓋4又は便座3を回動して持ち上げることが可能であり、下降操作踏込部15eを踏み込んで便蓋4又は便座3を回動して閉じることが可能である。ペダル機構15は、樹脂材料で形成された基台15aとペダル部材15bとを有し、ペダル部材15bの回動端に下端側シャフト14が軸支されている。基台15aは、金属シャフトの支点15cを有して床6に両面粘着テープを用いて設置されている。支点15cはシャフトを使用しないで回転中心を形成するもので置き換えてもよい。
【0026】
図1に示すように、取付部材11は、便座3の開閉軸3aから離隔した位置に固定されている。リンク部材12の上端部12aは、上端側シャフト13を用いて取付部材11に軸支されている。便器本体2に軸支された便座3及び取付部材11と、上端側シャフト13及び下端側シャフト14に軸支されたリンク部材12と、基台15aに軸支されたペダル部材15bとは、4節リンク機構を形成して連動する。
【0027】
図2に示すように、洋式便器1は、便座3に取付部材11を取り付けることにより、便座3の開閉装置10を装備している。図3図4に示すように、取付部材11は、便座3の側面を突き当てて位置決める位置決め板部11cと、両面粘着テープ11aを用いて便座3の下面3bを貼着可能な便座取付板部11bと、を有する。
【0028】
図2(a)に示すように、ユーザーは、ペダル部材15bの上昇操作踏込部15dを矢印R1方向に踏み込むことにより、矢印R2方向にリンク部材12を上昇させて便座3を開くことができる。上昇操作踏込部15dを踏み込むと、支点15cを中心にしてペダル部材15bが下端側シャフト14を持ち上げる方向に回転する。これにより、リンク部材12が上昇し、上端側シャフト13から取付部材11を介して便座3を持ち上げて、便座3が便器本体2から開く。
【0029】
図2(b)に示すように、ユーザーは、ペダル部材15bの下降操作踏込部15eを矢印R3方向に踏み込むことにより、リンク部材12を矢印R4方向に下降させて便座3を閉じることができる。下降操作踏込部15eを踏み込むと、支点15cを中心にしてペダル部材15bが下端側シャフト14を引き下ろす方向に回転する。これにより、リンク部材12が下降し、上端側シャフト13から取付部材11を介して便座3を引き下ろして、便器本体2に重ねる。
【0030】
上端側シャフト13は、ステンレス鋼で形成され、後端側に頭部13aを有し、先端側にリング溝13bを有する。上端側シャフト13の後端側は頭部13aに突き当てて取付部材11の軸受孔13cに挿入され、上端側シャフト13の先端側はリンク部材12の軸受孔13dに挿入されて、リング溝13bに止めリング13eを嵌められている。
【0031】
下端側シャフト14は、樹脂で管状に形成され後端側に頭部14aを有し、先端側にスナップフィット係合部14bを有する。下端側シャフト14は、弾性係数が小さく、リンク部材12及びペダル部材15bよりも大きく弾性変形するように設計されている。下端側シャフト14は、ペダル部材15bの軸受孔14c、14c及びリンク部材12のスナップフィット軸受部17を貫通させて、頭部14aとスナップフィット係合部14bをペダル部材15bの側面に係合させている。
【0032】
ところで、ユーザーは、ペダル機構15に気付かず、或いは無視して、便座3を直接手で持ち上げて便器本体2から開く場合がある。このとき、基台15aに軸支されたペダル部材15bと便器本体2に軸支された便座3とリンク部材12が構成する4節リンク機構が追従して便座3が開かれることを妨げない。しかし、この場合、便座3に比較して回転半径の小さい取付部材11に大きな力が作用する。また、ユーザーがペダル機構15を操作して便座3を閉じる際に、下降操作踏込部15eを強く踏み込み過ぎた場合も、同様に取付部材11に大きな力が作用する。取付部材11に大きな力が作用すると、両面粘着テープ11aが剥がれて取付部材11が便座3から脱落する可能性がある。また、上端側シャフト13からリンク部材12を介して下端側シャフト14に力が伝達されて下端側シャフト14が塑性変形する場合がある。
【0033】
そこで、図5(a)に示すように、実施の形態1の開閉装置10は、リンク部材12の下端部にスナップフィット軸受部17を設けている。スナップフィット軸受部17は、リンク部材12の下端部の軸支の回転中心に位置する回転位置P1とこの回転中心から外れた退避位置P2とに下端側シャフト14を移動可能に保持する。スナップフィット軸受部17は、回転位置P1の軸受部17aの半径を下端側シャフト14の半径と等しくする一方、退避位置P2の軸受部17bの半径を下端側シャフト14の半径よりも大きくしている。このため、退避位置P2では回転位置P1よりも下端側シャフト14が緩く保持される。
【0034】
退避位置P2は、リンク部材12の下端部の軸支の中心(回転位置P1の中心)と上端側シャフト13の軸支の中心とを結ぶ直線上の下端部の軸支の中心(回転位置P1の中心)よりも外側に設けられている。このため、便座3を持ち上げてリンク部材12を上方へ引っ張った場合、或いは下降操作踏込部15eを強く踏み込んで下端側シャフト14を下方へ引っ張った場合、下端側シャフト14が回転位置P1から退避位置P2へ移動してリンク部材12の荷重が解放される。
【0035】
図5(a)に示すように、スナップフィット軸受部17は、回転位置P1と退避位置P2との間に樹脂材料の爪部17c、17cを弾性変形可能に設けている。図5(b)に示すように、スナップフィット軸受部17は、表裏両面に一対ずつのL字型断面の爪部17c、17cを設けて下端側シャフト14の移動を規制している。したがって、取付部材11に大きな力が作用した際には、爪部17c、17cが弾性変形してスナップフィット軸受部17が外れることにより、下端側シャフト14が回転位置P1から退避位置P2へ移動する。スナップフィット軸受部17は、荷重が許容範囲であれば下端側シャフト14が回転位置P1に保持され続けるが、荷重が許容範囲を超えると、爪部17cは、弾性変形して、下端側シャフト14を回転位置P1から退避位置P2へ移動させる。爪部17c、17cは、下端側シャフト14に係合して回転位置P1へ下端側シャフト14を保持可能であると共に、回転位置P1と退避位置P2の間で弾性変形を伴って下端側シャフト14を相互に移動可能である。スナップフィット軸受部17は、一対の周方向に対向する爪部17c、17cが回転位置P1と退避位置P2の間で弾性変形を伴って下端側シャフト14の位置を規制し、その両方向へ移動可能にしている。したがって、簡単な構造で確実な動作を実現するスナップフィット軸受部を構成することができる。
【0036】
また、スナップフィット軸受部17は、ユーザーの通常の操作の中で自動復帰する。図6(a)に示すように、下端側シャフト14が回転位置P1にあるとき、矢印R5方向の力が作用すると、図6(b)に示すように、下端側シャフト14が退避位置P2へ移動して下端側シャフト14及びリンク部材12に作用する力を緩和する。その後、図6(b)に示すように、下端側シャフト14が退避位置P2にあるとき、矢印R6方向の力が作用すると、図6(a)に示すように、下端側シャフト14が回転位置P1へ移動して下端側シャフト14及びリンク部材12が力を伝達する機能が回復する。
【0037】
したがって、ユーザーが便座3を手で直接持ち上げて退避位置P2へ移動した下端側シャフト14は、ペダル機構15の上昇操作踏込部15dを踏み込むことによって、回転位置P1へ復帰する。そして、下端側シャフト14が退避位置P2にあっても、操作感のガタツキは大きくなるが、ユーザーがペダル機構15を操作して行う便座3の昇降開閉は機能している。
【0038】
ところで、図8に示すように、取付部材11は、便蓋4にも取り付け可能である。しかし、取付部材11は、ユーザーの体重に耐えて便座3から脱落しないように便座3の支持面積及び支持長さが大きい便座取付板部11bを備えている。このため、取付部材11を便蓋4に取り付けた際には、便座3の独立した開閉を可能にするために、便座取付板部11bが便座3に干渉しないようにする必要がある。そこで、開閉装置10では、取付部材11は、リンク部材12の上端部に対して着脱可能かつ軸方向の向きを反転可能に取り付けられており、図8に示すように便蓋4を取り付ける際の軸方向の向きが、図3に示すように便座3を取り付ける際の軸方向の向きと反対である。すなわち、取付部材11は、便蓋4を取り付けられた際には、軸方向の向きを反対にすることで、便座3の回動領域に対する便座取付板部11bの干渉を回避している。
【0039】
図2図4に示す開閉装置10の取付部材11は、図7図10に示すように、軸方向の向きを異ならせて取り付けることにより、便座3と便蓋4とで共通に使用可能である。図7図10では、図2図4の洋式便器1において、便座3の代わりに便蓋4を開閉装置10に取り付けている。
【0040】
ここで、取付部材11は、便座取付板部11bに隣接させて設けたシャフト軸支部11nと、シャフト軸支部11nに重ねて設けられ、便蓋4の縁の下端部4bを締め付けて便蓋4を固定する締付機構11dを取り付け可能な締付機構取付部11eと、を有する。図7に示すように、洋式便器1は、便蓋4に取付部材11を取り付けることにより、便蓋4の開閉装置10を装備している。図8に示すように、取付部材11は、締付機構11dを用いて便蓋4の縁の下端部4bを締め付けて便蓋4に固定される。図9図10に示すように、締付機構11dは、取付部材11の便座取付板部11bと同一の面側に設けられた締付機構取付部11eに組み立てられている。締付機構取付部11eは、上方から挿入されたナット11iを回転止めして保持する。締付機構取付部11eは、便蓋4の縁の下端部4bを締め付けるためのナット16eを保持可能なナット保持部である。
【0041】
取付部材11の一端部をL字状に曲げて固定板11fが形成され、固定板11fに対向させて移動板11gが配置され、固定板11f及び移動板11gの対向面にゴム板11h、11hが貼付されている。締付機構取付部11eの開口11mを通じてナット11iに螺合させた取付ねじ11jの先端が移動板11gのねじ保持部11kに回転自在に挿入されている。したがって、締付機構11dは、取付ねじ11jを回転させることにより、固定板11f及び移動板11gがゴム板11h、11hを介して便蓋4の縁の下端部4bを締め付ける。これにより、取付部材11が便蓋4の縁の下端部4bに強固に固定されている。
【0042】
開閉装置10は、洋式便器1の便座3と便蓋4に対して同じ取付部材11を用いて取り付けることができる。したがって、洋式便器のメーカーもしくは販売店は、洋式便器1のラインアップとして、便座3の開閉装置10のみを備えた洋式便器1と、便蓋4の開閉装置10のみを備えた洋式便器1と、を統一されたデザインで提供することができる。また、便座3の開閉装置10と便蓋4の開閉装置とを捨てる部品(取付部材11)の無い同一のパッケージで販売することができる。
【0043】
図1に示すように、ペダル機構15の上昇操作踏込部15dには、便座3を開いている状態のマーク17dが形成されている。ペダル機構15の下降操作踏込部15eには、便座3を閉じている状態のマーク17eが形成されている。したがって、ユーザーは、便器本体2と便座3の状態とマーク17d、17eとを比較して踏み込むべき踏込部を間違いなく選択することができる。ユーザーは、操作の目的と照らして正確かつ速やかに便蓋4又は便座3を正しく選択して操作できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上、本発明は上記の如く構成したので、統一されたデザインの洋式便器のラインアップとして、便蓋の開閉装置のみを備えた洋式便器の機種と便座の開閉装置のみを備えた洋式便器の機種とを準備できる。また、便座と便蓋の両方に対応できる開閉装置を提供できる。本発明は、既存の腰掛式の洋式便器に後から取り付けて使用される開閉装置のみまらず、開閉装置を備えた新品の洋式便器でも実施できる。実施形態1の開閉装置は、正面側から見て対称に構成されているので、便器本体の左右いずれの側にも取り付けることができる。取付部材は、開閉軸から離れた位置に配置されるので、既存の開閉軸や機構を交換する必要が無い。左右に分けて便座の開閉装置と便蓋の開閉装置とを取り付けることも可能である。便蓋の開閉装置と便座の開閉装置とでより多くの部品を共通に使用できる。
【符号の説明】
【0045】
1 洋式便器
2 便器本体
3 便座
3a 開閉軸
3b 下面
4 便蓋
4a 開閉軸
4b 下端部
5 タンク
6 床
10 開閉装置
11 取付部材
11a 両面粘着テープ
11b 便座取付板部
11c 位置決め板部
11d 締付機構
11e 締付機構取付部
11f 固定板
11g 移動板
11h ゴム板
11i ナット
12 リンク部材(リンク部材)
12a 上端部
12b 下端部
13 上端側シャフト
14 下端側シャフト
15 ペダル機構
15a 基台
15b ペダル部材
15c 支点
15d 上昇操作踏込部
15e 下降操作踏込部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10