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▶ 三井化学株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021744
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】繊維製品
(51)【国際特許分類】
   A47G 9/02 20060101AFI20230207BHJP
   D04H 3/10 20120101ALI20230207BHJP
   D04H 3/007 20120101ALI20230207BHJP
   A47C 27/12 20060101ALI20230207BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20230207BHJP
   A41D 31/06 20190101ALI20230207BHJP
   A41D 31/28 20190101ALI20230207BHJP
   G10K 11/162 20060101ALI20230207BHJP
   G10K 11/16 20060101ALI20230207BHJP
   A41D 31/02 20190101ALI20230207BHJP
   A47G 27/02 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
A47G9/02 F
D04H3/10
D04H3/007
A47C27/12 B
A47G9/02 E
A41D31/00 502B
A41D31/06 100
A41D31/06
A41D31/28
G10K11/162
G10K11/16 120
A41D31/02 G
A41D31/00 503H
A47G27/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126799
(22)【出願日】2021-08-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年6月25日 ウェブサイト(https://jp.mitsuichemicals.com/jp/release/2021/2021_0628.htm)、令和3年7月12日 ウェブサイト(https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=M9WKKxoINag&t=4270s)、令和3年7月13日~17日 三井化学株式会社のオープン・ラボラトリー活動「そざいの魅力ラボ-MOLp▲R▼-」による素材の展示会『MOLpCafe2021(モルカフェ2021)』にて発表した。
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 正和
(72)【発明者】
【氏名】平松 愛由
(72)【発明者】
【氏名】松永 有理
【テーマコード(参考)】
3B096
3B102
3B120
4L047
5D061
【Fターム(参考)】
3B096AA01
3B096AD04
3B096BA00
3B102BA11
3B120AA01
3B120AA06
3B120AA14
3B120AA20
3B120AA25
3B120BA02
3B120BA18
3B120CA01
3B120CA11
3B120DB03
3B120EA18
3B120EB04
3B120EB11
3B120EB13
4L047AA14
4L047AA27
4L047AB03
4L047AB07
4L047BA06
4L047CA04
4L047CA20
4L047CB03
4L047CB06
4L047CC01
4L047CC07
5D061AA06
5D061AA22
5D061BB31
(57)【要約】
【課題】本発明は、側地と中綿とを有する繊維製品であって、保温性が高く、防汚性が良好で、水切れがよく乾燥性に優れたものを提供することを課題としている。
【解決手段】本発明の繊維製品は、側地と中綿とを含み、前記側地および前記中綿が、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む繊維からなることを特徴としている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
側地と中綿とを含み、前記側地および前記中綿が、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む繊維からなることを特徴とする繊維製品。
【請求項2】
さらにキルトステッチを含む、請求項1に記載の繊維製品。
【請求項3】
前記側地が織物である、請求項1または2に記載の繊維製品。
【請求項4】
前記織物を構成する繊維が、モノフィラメント繊維またはマルチフィラメント繊維である、請求項3に記載の繊維製品。
【請求項5】
前記織物を構成する繊維が、単糸繊度0.7~200デニール、フィラメント数1~72の繊維である、請求項3または4に記載の繊維製品。
【請求項6】
前記中綿が、捲縮構造を有する繊維からなる綿である、請求項1~5のいずれかに記載の繊維製品。
【請求項7】
前記中綿を構成する繊維が、サイドバイサイド型複合繊維または偏心芯鞘型複合繊維である、請求項1~6のいずれかに記載の繊維製品。
【請求項8】
前記4-メチル-1-ペンテン系重合体が、下記要件(1)~(3)を満たす、請求項1~7のいずれかに記載の繊維製品。
要件(1):ASTM D1238に準拠して、260℃、5.0kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が、5~500g/10分である。
要件(2):JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して測定した密度が820~860kg/m3である。
要件(3):示差走査熱量計(DSC)で測定された融点(Tm)が200℃~260℃である。
【請求項9】
ブランケット、ラグ、寝具、クッション、マット、または衣料である、請求項1~8のいずれかに記載の繊維製品。
【請求項10】
緩衝材、吸音材、遮音材、防振材、断熱材、または保温材である、請求項1~8のいずれかに記載の繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側地と中綿とを含む繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
側地の内部に羽毛や綿状物からなる中綿を有する繊維製品は、布団や毛布などの寝具、防寒用などの衣料品、クッションやラグマットなどのインテリア用品、バッグなどの日用品、キルト生地などとして、従来より活用されている。例えば、表布と裏布の間に薄い綿を入れ、重ねた状態で刺し縫い(キルティング)したキルト生地は、衣料品や日用品の素材として広く用いられている。
このような繊維製品を改良する例としては、側地に難燃ポリエステル繊維を用いて防炎性に優れた繊維製品を提供する技術(特許文献1参照)、側地の繊維糸間に空間を設けて、着用時の通気性がよく洗濯時の水抜けも良好な衣料品を提案する技術(特許文献2参照)などが提案されている。なお特許文献3には、側地および中綿を有する繊維製品は教示されていないものの、特定構造のポリメチルペンテン繊維を含む紡績糸が、保温性、速乾性、耐熱性に優れることが教示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-27982号公報
【特許文献2】特開2018-104855号公報
【特許文献3】WO2014/132895A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
側地と中綿とを含む繊維製品は、汚れた際には水洗いを行うことが望ましいが、側地と中綿とが複合した構造を有することから、水を含んだ場合には水抜けがしにくく、また、通気性などを改良して水抜けを改善した場合には保温性が損なわれるという問題があった。
本発明は、保温性が高く、防汚性が良好で、水切れがよく乾燥性に優れた、側地と中綿とを有する繊維製品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、側地と中綿との両方に、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む繊維製品が、上記の課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、例えば、以下の〔1〕~〔10〕に関する。
〔1〕側地と中綿とを含み、前記側地および前記中綿が、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む繊維からなることを特徴とする繊維製品。
〔2〕さらにキルトステッチを含む、〔1〕に記載の繊維製品。
〔3〕前記側地が織物である、〔1〕または〔2〕に記載の繊維製品。
【0006】
〔4〕前記織物を構成する繊維が、モノフィラメント繊維またはマルチフィラメント繊維である、〔3〕に記載の繊維製品。
〔5〕前記織物を構成する繊維が、単糸繊度0.7~200デニール、フィラメント数1~72の繊維である、〔3〕または〔4〕に記載の繊維製品。
〔6〕前記中綿が、捲縮構造を有する繊維からなる綿である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の繊維製品。
〔7〕前記中綿を構成する繊維が、サイドバイサイド型複合繊維または偏心芯鞘型複合繊維である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の繊維製品。
【0007】
〔8〕前記4-メチル-1-ペンテン系重合体が、下記要件(1)~(3)を満たす、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の繊維製品。
要件(1):ASTM D1238に準拠して、260℃、5.0kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が、5~500g/10分である。
要件(2):JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して測定した密度が820~860kg/m3である。
要件(3):示差走査熱量計(DSC)で測定された融点(Tm)が200℃~260℃である。
〔9〕ブランケット、ラグ、寝具、クッション、マット、または衣料である、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の繊維製品。
〔10〕緩衝材、吸音材、遮音材、防振材、断熱材、または保温材である、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の繊維製品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、保温性が高く、防汚性が良好で、水切れがよく乾燥性に優れた、側地と中綿とを有する繊維製品を提供することができる。また本発明の繊維製品は、保温性が高く、防汚性が良好で、水切れがよく乾燥性に優れるとともに、耐熱性及びリサイクル性にも優れる。さらに本発明の繊維製品は、緩衝材、吸音材、遮音材、防振材、断熱材、および保温材などの各種用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について説明する。本明細書において、数値範囲A~Bは、特に言及のない限り、A以上B以下を意味する。また「重合体」の記載は、特に言及のない限り、単独重合体および共重合体を包括する意味で用いられる。
【0010】
繊維製品
本発明の繊維製品は、側地と中綿とを有するものであって、該側地および中綿が、それぞれ、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む繊維からなる。
【0011】
<4-メチル-1-ペンテン系重合体>
本発明の繊維製品に含まれる4-メチル-1-ペンテン系重合体は、4-メチル-1-ペンテンの単独重合体あるいは4-メチル-1-ペンテンと共重合可能な他のモノマーとの共重合体である。
4-メチル-1-ペンテンと共重合可能なモノマーとしては、エチレンおよび炭素原子数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。炭素原子数3~20のα-オレフィンとして具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンおよび1-エイコセンなどが挙げられる。これらのうち好ましくは、4-メチル-1-ペンテンを除く炭素原子数6~20のα-オレフィンであり、さらに好ましくは炭素原子数10~20のα-オレフィンである。エチレンおよびこれらのα-オレフィンは、1種単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0012】
4-メチル-1-ペンテン系重合体は、特に限定されるものではないが、紡糸加工性と延伸性および耐熱性の観点から、4-メチル-1-ペンテン由来の構成単位が、好ましくは50モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95~100モル%であり、エチレンおよび炭素原子数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種由来の構成単位の総量が、好ましくは50モル%以下、より好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下、特に好ましくは0~5モル%であることが望ましい。
【0013】
本発明において、4-メチル-1-ペンテン系重合体中の4-メチル-1-ペンテン由来の構成単位、および、エチレンおよび炭素原子数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種のオレフィンに由来の構成単位の量は、重合反応中に添加するそれぞれのオレフィンの量によって調整することができる。
【0014】
本発明の繊維製品の側地および中綿を構成する繊維に含まれる4-メチル-1-ペンテン系重合体は、いずれも、下記要件(1)~(3)の一つ以上を満たすことが好ましく、下記要件(1)~(3)をすべて満たすことがより好ましい。
【0015】
(要件(1))
ASTM D1238に準拠して、260℃、5.0kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が、5~500g/10分である。このMFRは、好ましくは30~400g/10分、より好ましくは50~400g/10分である。
4-メチル-1-ペンテン系重合体のMFRがこのような範囲を満たすと、繊維製造時の樹脂流動性の点で好ましく、また紡糸加工性が良好になり、工業的に有利である上、欠陥が少ない機械強度に優れた繊維を成形することができるため好ましい。4-メチル-1-ペンテン系重合体のMFRは、重合反応中に反応器内に水素を併存させることにより調整することができる。
【0016】
(要件(2))
JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して測定した密度が820~860kg/m3である。この密度は、好ましくは825~850kg/m3であり、より好ましくは830~840kg/m3である。4-メチル-1-ペンテン系重合体の密度がこのような範囲を満たすと、軽量で持ち運びが容易である点や、着衣時の疲れが軽減される観点から好ましい。4-メチル-1-ペンテン系重合体の密度は、4-メチル-1-ペンテンと共重合させる4-メチル-1-ペンテン以外のモノマーの量などで調整することができる。
【0017】
(要件(3))
示差走査熱量計(DSC)で測定された融点(Tm)が200℃~260℃である。この融点(Tm)は、好ましくは(210~250)℃、より好ましくは(220~250)℃である。4-メチル-1-ペンテン系重合体の融点(Tm)がこのような範囲にあると、得られる繊維が耐熱性に優れたものとなるため好ましい。4-メチル-1-ペンテン系重合体の融点(Tm)は、4-メチル-1-ペンテンと共重合させる4-メチル-1-ペンテン以外のモノマーの量などで調整することができる。
【0018】
本発明において、4-メチル-1-ペンテン系重合体は、どのような方法で得られたものであってもよく、特に限定されるものではないが、オレフィン重合用触媒の存在下、4-メチル-1-ペンテンと、必要に応じてエチレンおよび炭素原子数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種のオレフィンを重合することにより製造することができる。また、4-メチル-1-ペンテン系重合体は、高分子量の4-メチル-1-ペンテン系重合体を、熱分解して製造してもよく、溶媒に対する溶解度の差で分別する溶媒分別、あるいは沸点の差で分取する分子蒸留などの方法で精製されていてもよい。
【0019】
オレフィン重合用触媒としては、チタン化合物含むチーグラー触媒、メタロセン化合物を含むメタロセン系触媒などの、従来公知のオレフィン重合用触媒を用いることができる。
繊維製品の製造に好適な4-メチル-1-ペンテン系重合体を製造するためのオレフィン重合用触媒としては、例えば、特開2015-183332号公報に記載のオレフィン重合用触媒等を例示することができる。
また、本発明の繊維製品に含まれる4-メチル-1-ペンテン系重合体は、4-メチル-1-ペンテンの単独重合体あるいは4-メチル-1-ペンテンと共重合可能な他のモノマーとを共重合体を、さらにグラフト変性したものであってもよい。
【0020】
本発明においては、4-メチル-1-ペンテン系重合体として、繊維化可能な特性を有する市販の4-メチル-1-ペンテン系重合体を用いてもよく、好ましくは、上述した要件(1)~(3)を満たす市販の4-メチル-1-ペンテン系重合体を用いてもよい。市販の4-メチル-1-ペンテン系重合体としては、例えば三井化学(株)製のTPX(商標名)などが挙げられる。
【0021】
<4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む繊維>
本発明の繊維製品の、側地および中綿を構成する繊維は、それぞれ、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む。このような4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む繊維としては、4-メチル-1-ペンテン系重合体を単独で繊維化したもの、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む樹脂組成物を繊維化したもの、4-メチル-1-ペンテン系重合体またはそれを含む樹脂組成物とその他の樹脂等の素材との複合繊維、などが挙げられる。
【0022】
4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む繊維が、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む樹脂組成物から形成されたものである場合、該樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、4-メチル-1-ペンテン系重合体以外の熱可塑性樹脂、添加剤等を含んでもよい。添加剤としては、例えば、核剤、アンチブロッキング剤、顔料、染料、充填剤、滑剤、可塑剤、離型剤、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、界面活性剤、帯電防止剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、スリップ防止剤、発泡剤、結晶化助剤、防曇剤、老化防止剤、塩酸吸収剤、衝撃改良剤、架橋剤、共架橋剤、架橋助剤、粘着剤、軟化剤、加工助剤が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
<側地>
本発明の繊維製品の側地は、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含有する繊維からなるものであり、織物および不織布のいずれであってもよいが、保温性、乾燥性、および防汚性の観点から、織物であることが好ましい。
【0024】
本発明の繊維製品の側地を構成する4-メチル-1-ペンテン系重合体を含有する繊維は、4-メチル-1-ペンテン系重合体のみからなるものであってもよく、4-メチル-1-ペンテン系重合体以外の素材を含むものであってもよいが、好ましくは4-メチル-1-ペンテン系重合体を側地全体の50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含有することが好ましい。
【0025】
側地の繊維を構成する4-メチル-1-ペンテン系重合体としては、繊維化に好適なものをいずれも用いることができるが、好ましくは上述した要件(1)~(3)の一つ以上を満たすものが好ましく、上述した要件(1)~(3)をすべて満たすものがより好ましく用いられる。
【0026】
本発明に係る繊維製品の側地が織物である場合、織物を構成する繊維は、モノフィラメント繊維またはマルチフィラメント繊維のいずれであってもよい。当該繊維がマルチフィラメント繊維である場合、単一種の単繊維から得られるものであってもよく、異なる種類の単繊維を組み合わせて得られるものであってもよい。織物を構成する繊維は、好ましくは単糸繊度が0.7~200デニール、より好ましくは0.7~100デニール、さらに好ましくは0.7~50デニールであり、また、好ましくはフィラメント数が1~72、より好ましくは12~72、さらに好ましくは24~72である。織物を構成する繊維がこのような単糸繊度およびフィラメント数を満たす場合には、強度、加工性、触感に優れた繊維製品が得られやすいため好ましい。
【0027】
<中綿>
本発明の繊維製品は、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含有する繊維からなる中綿を有する。本発明の繊維製品の中綿を構成する4-メチル-1-ペンテン系重合体を含有する繊維は、4-メチル-1-ペンテン系重合体のみからなるものであってもよく、4-メチル-1-ペンテン系重合体以外の素材を含むものであってもよいが、好ましくは4-メチル-1-ペンテン系重合体を中綿全体の50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含有することが好ましい。
【0028】
中綿は、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含有する繊維からなるものであれば特に限定されないが、嵩高で軽量となることから、捲縮構造を有する繊維からなる綿であることが好ましい。
【0029】
中綿として好適な、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含有し捲縮構造を有する繊維としては、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含有する繊維を自己捲縮させてもよく、機械的に捲縮形状を付与した繊維であってもよい。4-メチル-1-ペンテン系重合体を含有する繊維に捲縮形状を十分に付与できるという観点から、自己捲縮させた繊維が好ましい。自己捲縮させた繊維としては、例えば、メルトフローレート(MFR)や構成単位の割合などの特性の異なる4-メチル-1-ペンテン系重合体同士からなる複合繊維を用いることが好ましい。
【0030】
中綿が、2つの異なる特性を有する4-メチル-1-ペンテン系重合体からなる複合繊維からなる場合、複合繊維を構成する2種の4-メチル-1-ペンテン系重合体の少なくとも一方、好ましくは双方が、上述した要件(1)~(3)の一つ以上、好ましくは要件(1)~(3)のすべてを満たすことが望ましい。また、複合繊維を構成する2種の4-メチル-1-ペンテン系重合体は、小さい方のMFRの値を大きい方のMFRの値で除した際の数値が、0.10~0.65、より好ましくは0.13~0.63、さらに好ましくは0.15~0.60、最も好ましくは0.18~0.50の範囲にあると、溶融紡糸を容易に行うことができ、より捲縮性に優れる複合繊維が得られるため好ましい。
【0031】
好ましい複合繊維としては、サイドバイサイド型複合繊維および偏心芯鞘型複合繊維等を挙げることができ、このうちサイドバイサイド型複合繊維はより高い捲縮性が得られる点で好ましく、偏心芯鞘型複合繊維は紡糸成形性の観点から好ましい。
【0032】
このような、特性の異なる2種の4-メチル-1-ペンテン系重合体からなる捲縮構造を有する複合繊維は、二つの押出機を用いて各4-メチル-1-ペンテン系重合体をそれぞれ個別に溶融し、複合紡糸口金から吐出して複合繊維を得る工程、前記複合繊維を冷却、延伸、細化して、捲縮させた後、捕集ベルト上に所定の厚さに堆積する工程、あるいは巻き取る工程などを有する公知の方法により製造することができる。
【0033】
本発明に係る中綿は、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含有する繊維以外の繊維を、必要に応じて含んでいてもよいが、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含有する繊維のみからなることが好ましい。
【0034】
中綿としては、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含有する繊維、好ましくは捲縮構造を有する繊維を含み、綿状のものをいずれも好適に用いることができる。具体的には、例えば、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む繊維、好ましくは捲縮構造を有する繊維を堆積し、必要に応じて交絡処理したシート状綿、繊維を粒状に加工した粒状綿、さらにこれらに熱圧着などの加工を施したものなどを好適に用いることができる。
【0035】
・粒状綿
中綿として好適な粒状綿としては、例えば、上述した中綿に好適な4-メチル-1-ペンテン系重合体を含有する繊維、好ましくは4-メチル-1-ペンテン系重合体を含有し捲縮構造を有する繊維を、必要に応じてその他の繊維とともに、粒状に加工した綿状物が挙げられる。このような粒状綿としては、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む繊維を、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上含むものであることが望ましい。粒状綿は、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む繊維以外のその他の繊維を、本発明の目的を損なわない範囲で含むことができる。その他の繊維としては、具体的には、例えば、コットン、シルク、ウール、麻、及びパルプなどの天然繊維、レーヨン、キュプラ、及び溶剤紡糸セルロース繊維などの再生繊維、及びアクリル系、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、及びポリブチレンサクシネート及びその共重合体等のポリエステル系、ナイロン6、ナイロン12及びナイロン66等のアミド系、ポリプロピレン、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等を含む)、ポリ1-ブテン、エチレン-ビニルアルコール共重合体、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系、ならびにポリウレタン系などの合成繊維が挙げられる。合成繊維は、単一繊維であっても、2種以上の樹脂からなる複合繊維であってもよい。複合繊維は、例えば、芯鞘型複合繊維、又は分割型複合繊維であってもよい。
【0036】
4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む繊維を含む粒状綿は、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む繊維および必要に応じてその他の繊維を用い、公知の粒綿製造装置を用いて繊維を交絡させることにより製造することができる。
【0037】
粒状綿の製造装置としては、高速気流を用い、高速気流下で原料となる繊維を交絡、粒状にする製造装置(例えば、特開平03-206125号公報に記載)、回転可能な金属製の容器内部に掻き上げ羽根を設け、前記容器内部に繊維を投入した後、前記金属容器を回転させて粒状綿を得る製造装置(例えば、特開2003-183969号公報に記載)がある。また、原料となる繊維を塊状とし、円筒状内面と螺旋状溝によって挟み、螺旋状溝を回転させることで球状にする製造方法(例えば、特開2001-295170号公報に記載)もある。粒状綿の製造装置及び製造方法は、繊維を交絡して粒状にできる装置、及び製造方法であれば特に限定されず、いずれの装置及び方法であってもよい。
【0038】
粒状綿の直径は特に限定されず、例えば、2mm以上30mm以下のものを用いることができる。粒状綿の直径は各製造方法において任意の値に調整でき、前記高速気流下で繊維を撹拌して粒状綿にする製造方法であれば、高速気流下で繊維を撹拌する時間を調整することで、得られる粒状綿の直径を調整することができる。
【0039】
・シート状綿
中綿として好適なシート状綿としては、例えば、上述した中綿に好適な4-メチル-1-ペンテン系重合体を含有する繊維、好ましくは4-メチル-1-ペンテン系重合体を含有し捲縮構造を有する繊維を、必要に応じてその他の繊維と混合した後、カード機等で繊維ウェブを作製してシート状物とし製造することができる。その他の繊維としては、上述した粒状綿で例示のものが挙げられる。このシート状物をそのまま中綿として用いてもよく、複数のシート状物からなる積層体として用いてもよい。また、このシート状の中綿においては、繊維同士が接着されていてもよい。シート状綿は、繊維製品の中綿として用いた際に、製品内部で中綿が偏りにくいため好ましい。
【0040】
<繊維製品>
本発明の繊維製品は、側地と中綿とを含み、側地および中綿が、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む繊維からなる。
【0041】
本発明の繊維製品は、表地と裏地の2枚の側地の間に中綿を有する構成(側地/中綿/側地の構成)あるいは表地である側地と中綿を有する構成(側地/中綿の構成)のいずれであってもよいが、表地および裏地の2枚の側地の間に中綿を有する構成であることが好ましい。側地が表地と裏地の2枚である場合、表地と裏地とは同じものであってもよく、異なっていてもよい。また、側地は1枚の生地から構成されていてもよく、2枚以上の生地から構成されていてもよい。また、中綿は1層であってもよく、2層以上積層したものであってもよい。
【0042】
本発明の繊維製品は、側地および中綿の両方が4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む繊維からなることにより、側地および中綿がいずれも4-メチル-1-ペンテン系重合体から構成されたものとなる。
【0043】
本発明の繊維製品は、さらにキルトステッチを含んでもよい。すなわち本発明の繊維製品は、側地と中綿との少なくとも一部が、糸によるキルトステッチで固定されていてもよい。キルトステッチには、天然繊維もしくは合成繊維からなる糸を特に制限なく用いることができるが、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含有する繊維からなる糸を用いることがより好ましい。キルトステッチに4-メチル-1-ペンテン系重合体を含有する繊維からなる糸を用いた場合には、側地、中綿およびキルトステッチがいずれも4-メチル-1-ペンテン系重合体から構成されたものとなり、よりリサイクル性に優れたものとなるため好ましい。
【0044】
本発明の繊維製品は、側地および中綿の両方が4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む繊維からなることにより、従来広く用いられている綿(コットン)やポリエステルなどの素材からなる繊維製品と比較して、低密度で軽量であり、保温性が高く、防汚性に優れるとともに、洗濯等で水を含んだ場合の脱水性、乾燥性も良好なものとなる。また、本発明の繊維製品は、側地および中綿の両方が4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む繊維からなることにより、耐熱性に優れ、側地と中綿とが同種の素材から構成されることからリサイクル性にも優れる。
【0045】
このような本発明の繊維製品は、各種用途に制限なく用いることができ、公知のキルト生地等が用いられる用途に好適に用いることができる。例えば、本発明の繊維製品は、側地および中綿を含むことにより、ブランケット、ラグ、寝具、クッション、マット、衣料品等に好適である。また、本発明の繊維製品は、側地および中綿を含むことにより、緩衝材、吸音材、遮音材、防振材、断熱材、保温材等に好適である。
【実施例0046】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
測定、評価方法
各種物性は以下のようにして測定あるいは評価した。
<原料の比重>
純水をいれた超音波洗浄機中に、50mm角に切り出した繊維製品(キルト生地)を指で沈めて繊維製品が含有している空気を追い出した。その後、60秒超音波処理を行ってさらに空気を追い出し、指から離したときの状態を下記基準で評価した。
○:水面に浮かび上がった場合は比重1.0未満で軽量と判断した。
×:水中にとどまる、もしくは沈んだ場合は比重を1.0以上で軽量でないと判断した。
【0048】
<保温率、厚さ当りの保温率、保温性評価>
評価対象の繊維製品(キルト生地)について、JIS L1096:2010 8.27 A法(恒温法)に準拠し、室温20℃、65%RH環境にて、ASTM形保温性試験機を使用して保温率を求めた。
すなわち、まず、一定温度に設定した熱板に、試験片をセットせずに2時間後に放熱された熱量a(J/cm2・s)を測定した。次に、試料から採取した試験片を熱板の上にセットし、2時間後に試験片を介して放熱された熱量b(J/cm2・s)を測定した。上記で得られた熱量aおよび熱量bの値より、下記式を用いて、保温率(%)を求めた。
保温率(%)=(1-b/a)×100
また、上記式で得られた保温率(%)を、キルト生地の厚さで割った値を厚さ当りの保温率(%/mm)とした。
上記で得られた結果に対し、下記基準で保温性を評価した。
○:保温率≧60%、厚さ当り保温率≧10%、の両方を満たす。
△:保温率≧60%、厚さ当り保温率≧10%、のどちらか一方のみ満たす。
×:保温率≧60%、厚さ当り保温率≧10%、のどちらも満たさない。
【0049】
<脱水効率、乾燥時間、乾燥性評価>
評価対象の繊維製品(キルト生地)について、下記手順で脱水効率および乾燥時間を測定し、乾燥性を評価した。
任意面積のサンプルを切り出して重量を測定し、サンプル重量[I]とした。
上記サンプルを水に浸して引き上げ、水滴が落ちなくなった時点で家庭用2槽式洗濯機の脱水機に2分間かけた直後の重量(脱水2分後のサンプルの重量)を測定し、脱水後重量[II]とした。
脱水後重量[II]と、含水前の初期サンプル重量[I]との差分を含水量[III]として、下記式によって含水率を算出した。含水率が低いほど、水切れが良いことが示される。
含水量[III]=[II]-[I]
含水率(%) =[III]/[I]×100
【0050】
上記脱水2分後のサンプルを0%乾燥状態とし、JIS L1096:2010 8.25に準拠して乾燥を行った。0%乾燥状態から、含水量が50%、90%、100%減少するのに要した時間を乾燥時間(分)として測定した。ここで、含水率が100%減少した状態は、上記含水前の初期サンプルと等しい状態(重量)である。
上記で得られた結果に対し、下記基準で乾燥性を評価した。
○:含水率≦30%、100%乾燥時間≦300min、の両方を満たす。
△:含水率≦30%、100%乾燥時間≦300min、のどちらか一方のみ満たす。
×:含水率≦30%、100%乾燥時間≦300min、のどちらも満たさない。
【0051】
<防汚性>
評価対象の繊維製品(キルト生地)について、JIS L 1919 法(スプレー法)に準拠して、色差の級数により防汚性を評価した。
【0052】
[実施例1]
<側地>
4-メチル-1-ペンテンを主体としたコポリマーである、三井化学株式会社製 TPX(登録商標) DX350(MFR:100g/10min、密度:833kg/m3)を用いて、75dTex(D)/ 24フィラメント(f)のマルチフィラメントを作成した。単糸繊度は、3.5デニールであった。得られたマルチフィラメントを2本ずつ撚糸したものを平織りし、厚さ0.25mm側地を作成した。
【0053】
<中綿>
4-メチル-1-ペンテンを主体としたコポリマーである、三井化学株式会社製 TPX(登録商標) DX820(MFR:180g/10min, 密度:833kg/m3)を、290℃に設定した(株)プラスチック工学研究所社製二軸押出機BT-30(スクリュー系30mmφ、L/D=46)を用いて再造粒することでMFR250g/10min, 密度:833kg/m3のペレットを得た。上記で得られた再造粒ペレットと、4-メチル-1-ペンテンを主体としたコポリマーである三井化学株式会社製 TPX(登録商標) DX350(MFR:100g/10min, 密度:833kg/m3)を用いて、偏心芯鞘型の捲縮複合繊維を作成した。MFR比は250/100=2.5であった。得られた複合繊維は、単糸繊度が6.3デニール、捲縮数が6.2個/25mm、 捲縮率が12.3%であった。
上記捲縮複合繊維を51mm長にカットして、シート状綿加工し、厚さ4.5mmのシート状の中綿を作成した。
【0054】
<繊維製品の作製(キルト加工)>
上記で得られたシート状の中綿を、上記で得られた側地を上下両面配置して挟み込み、53mm四方間隔でキルトステッチを施すキルト加工をして、厚さ5mmのキルト生地である繊維製品を作成した。
得られたキルト生地の保温性、脱水効率及び乾燥性を、上記の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0055】
[比較例1]
以下の構成の、厚さ10mmの市販のキルト生地を用いて評価を行った。評価結果を表1に示す。
側地:一方の側地(素材1)が厚さ0.5mmの綿製の平織生地であり、他方の側地(素材2)が厚さ0.5mmのポリエチレンテレフタレート製の平織生地である。
中綿:厚さ9mmのポリエチレンテレフタレート製のシート状中綿。
キルト加工:50mm四方間隔でキルトステッチが施されている。
【0056】
[比較例2]
以下の構成の、厚さ6mmの市販のキルト生地を用いて評価を行った。評価結果を表1に示す。
側地:一方の側地(素材1)が厚さ0.75mmの綿製の平織生地であり、他方の側地(素材2)が厚さ0.75mmの、ポリエチレンテレフタレート65%、綿35%の混合繊維製の平織生地である。
中綿:厚さ4.5mmのポリエチレンテレフタレート製のシート状中綿。
キルト加工:17mm四方間隔でキルトステッチが施されている。
【0057】
【表1】
【0058】
実施例および比較例より、側地および中綿がいずれも4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む繊維からなる実施例1の繊維製品は、側地および中綿がその他の素材から構成される比較例1,2の繊維製品と比較して、保温性に優れるとともに、脱水効率(水切れ)がよく、乾燥性、防汚性にも優れ、さらに側地と中綿が同種の素材で構成されていることからリサイクル性にも優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る繊維製品は、ブランケット、ラグ、寝具、クッション、マット、衣料品等、ならびに、緩衝材、吸音材、遮音材、防振材、断熱材、保温材等の各用途に、好適に使用することができる。