(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021745
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】がん転移抑制のための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20230207BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230207BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20230207BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230207BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230207BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230207BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00 105
A61P35/04 ZNA
A61P37/06
A61K39/395 D
A61K39/395 P
A61K39/395 T
A61K39/395 E
A61K39/395 G
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126801
(22)【出願日】2021-08-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1) 公開1 ▲1▼発行日: 令和3年(2021年)6月7日 ▲2▼刊行物: Frontiers in Immunology,June 2021,Volume 12,Article 663115 ▲3▼公開者: 澁谷拓未、神山麻美、澤田寛隆、菊池健太、丸山真優、澤渡力慧、池田直輝、浅野謙一、黒滝大翼、田村智彦、米田敦子、今田啓介、佐藤荘、審良静男、田中正人、四元聡志 ▲4▼公開された発明の内容: 澁谷拓未、神山麻美、澤田寛隆、菊池健太、丸山真優、澤渡力慧、池田直輝、浅野謙一、黒滝大翼、田村智彦、米田敦子、今田啓介、佐藤荘、審良静男、田中正人、四元聡志が、Frontiers in Immunologyにて、田中正人、浅野謙一、四元聡志、澁谷拓未および池田直輝が発明した、「がん転移抑制のための医薬組成物」に関する研究の一部を公開した。
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「次世代がん医療創生研究事業」「制御性単球を標的としたがんの進展・転移に対する治療法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】592068200
【氏名又は名称】学校法人東京薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】田中 正人
(72)【発明者】
【氏名】浅野 謙一
(72)【発明者】
【氏名】四元 聡志
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 拓未
(72)【発明者】
【氏名】池田 直輝
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZB021
4C084ZB081
4C084ZB261
4C084ZC202
4C084ZC412
4C084ZC422
4C084ZC611
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB01
4C085BB11
4C085BB12
4C085BB22
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG06
4C085GG08
(57)【要約】
【課題】
がん転移を抑制するための医薬組成物を提供すること。
【解決手段】
Ym1+Ly6C+単球を有する対象に投与するための医薬組成物であって、マトリックスメタロプロテナーゼ-9(Matrix metalloproteinase 9;MMP-9)の活性を阻害する化合物を含む、医薬組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ym1+Ly6C+単球を有する対象に投与するための医薬組成物であって、
マトリックスメタロプロテナーゼ-9(Matrix metalloproteinase 9;MMP-9)の活性を阻害する化合物を含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記MMP-9の活性を阻害する化合物が、Lcn2アンタゴニスト、CD88アンタゴニスト、CD157アンタゴニスト、CXCR4アンタゴニストおよびMMP-9アンタゴニストからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記MMP-9の活性を阻害する化合物が、
抗Lcn2抗体、Lcn2阻害剤、抗CD88抗体、CD88阻害剤、抗CD157抗体、CD157阻害剤、抗CXCR4抗体、CXCR4阻害剤、抗MMP-9抗体およびMMP-9阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
がん転移を抑制および/または予防するための、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記がん転移が、急性炎症または原発腫瘍に対する治療的介入によって生じたがん転移である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記原発腫瘍に対する治療的介入が、外科的切除、化学療法および放射線療法からなる群より選択される、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記Ym1+Ly6C+単球を有する対象が、がん、炎症性疾患および自己免疫疾患からなる群より選択される少なくとも1つに罹患している、請求項1~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記Ym1+Ly6C+単球を有する対象が、ヒト、サル、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ヒツジ、イヌおよびネコからなる群より選択される哺乳動物である、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
MMP-9活性化経路を阻害する組成物であって、
前記MMP-9活性化経路は、Ym1+Ly6C+単球、CXCR4およびMMP-9を含み、
前記組成物が、MMP-9の活性を阻害する化合物を含む、組成物。
【請求項10】
前記MMP-9活性化経路が、Lcn2、CD88およびCD157から選択される少なくとも1つをさらに含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
(i)治療的介入前の対象の末梢血サンプル中の白血球に対するYm1+Ly6C+単球の割合R1を測定すること、
(ii)治療的介入後の前記対象の末梢血サンプル中の白血球に対するYm1+Ly6C+単球の割合R2を測定すること、
(iii)前記測定した割合R1と、前記測定した割合R2とを比較すること
を含む、がん転移のリスクの評価方法。
【請求項12】
前記(i)および/または(ii)における測定はフローサイトメトリーによって行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
抗Lcn2抗体、抗CD88抗体、抗CD157抗体、抗CXCR4抗体および抗MMP-9抗体から選択される少なくとも1つを含む、がん転移の可能性を予測するためのキット。
【請求項14】
MMP-9を阻害する化合物を含む、組成物であって、
前記MMP-9を阻害する化合物が、抗Lcn2抗体、Lcn2阻害剤、抗CD88抗体、CD88阻害剤、抗CD157抗体、CD157阻害剤、抗CXCR4抗体、CXCR4阻害剤、抗MMP-9抗体およびMMP-9阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つである、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん転移抑制のための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
がん治療による全身および局所の炎症は、がん再発の重要な危険因子として認識されている。原発腫瘍の外科的切除、化学療法または放射線療法は、休眠癌細胞を覚醒させ、炎症を介して遠隔臓器に転移性増殖を誘発する可能性がある(非特許文献1~7)。また、これらのがん治療に加えて、細菌感染やタバコの煙への曝露による炎症が、がんの休眠逃避や転移を促進することも報告されている(非特許文献8および9)。好中球、マクロファージおよび単球など、このような免疫細胞は、炎症によって引き起こされる癌再発に関与している。
【0003】
近年、好中球は、炎症に関連する癌の進行および転移を促進する役割に関連して注目を集めている。例えば、好中球は、炎症誘発性サイトカインを産生することによって媒介される肺転移の促進において重要な役割を果たすことが報告されている(非特許文献10)。具体的に、好中球細胞外トラップ(Neutrophil extracellular trap;NET)は、癌細胞との相互作用を介して休眠癌細胞を覚醒させる。NETはまた、循環腫瘍細胞(Circulating tumor cell;CTC)を捕捉し、転移の形成増加をもたらす(非特許文献9、11および12)。
【0004】
また、癌再発には好中球、単球、マクロファージも関与することが報告されている。CD11b+マクロファージの枯渇は、乳癌細胞の肺転移を減少させる(非特許文献13)。血管内皮増殖因子-A(Vascular endothelial growth factor-A;VEGF-A)分泌マクロファージは、癌細胞の血管外漏出と肺転移とを促進する(非特許文献14)。また、CCL2-CCR2軸により転移部位に動員された単球はマクロファージに分化し、癌細胞の血管外遊出や生存を促進することが報告されている(非特許文献14および15)。最近の報告では、好中球だけでなく単球も休眠癌細胞を覚醒させることが示されている(非特許文献7)。
【0005】
これらの報告を考慮すると、癌の進行および転移に関与する免疫細胞の種類は、おそらく炎症または実験モデルの状況に依存する。しかし、患者の実際の癌関連事象に関与する免疫細胞は十分には理解されていない。
【0006】
血中単球は、単核食細胞系の構成成分として炎症において重要な役割を果たしている。定常状態では、単球はマウスまたはヒトで、それぞれ2つまたは3つの亜集団からなる(非特許文献16および17)。古典的な単球、すなわち、マウスにおけるLy6ChiCCR2+CX3CR1-およびヒトにおけるCD14+CD16-は、CCR2依存的な方法で、炎症部位に動員され、炎症促進免疫細胞として機能する(非特許文献14、18および19)。対照的に、非古典的な単球、例えば、マウスにおけるLy6ClowCCR2-CX3CR1+およびヒトにおけるCD14dimCD16+は、Nr4A依存的な方法でLy6Chi単球と区別され、ホメオスタシスの間に血管系を巡回し、そして、がんの免疫監視に貢献する(非特許文献20)。ヒトの中間型単球(intermediate monocyte)であるCD14dimCD16+は、T細胞の増殖および促進に関与することが示唆されている(非特許文献21)。
【0007】
これらの単球サブセットは、組織傷害または癌において様々な免疫応答に協調的に関与すると考えられてきた。しかし近年、炎症時の単球産生を含む緊急造血または他の免疫応答において、広く研究されており、いくつかの報告において、定常状態ではほとんど観察されない骨髄(Bone marrow;BM)由来の新規の非定型単球サブセットが同定されている。マウスでは、微生物刺激により誘導された炎症は、顆粒球-マクロファージ前駆細胞(Granulocyte-macrophage progenitors;GMPs)に由来する好中球様Ly6Chi単球に生じるが、単球樹状細胞前駆体(Monocyte dendritic progenitors;MDPs)には生じない(非特許文献22および23)。Ceacam1+Msr+Ly6Clow単球は、分離核含有異型単球(Segregated-nucleus-containing atypical monocyte;SatM)と呼ばれ、ブレオマイシン投与マウスの肺内に出現し、線維化に関与する(非特許文献24)。また、Ly6ChiMHCIIhiSca-1hi単球は急性消化管感染マウスのBMに発生し、プロスタグランジンE2およびIL-10の産生を介して免疫反応を調節すると考えられている(非特許文献25)。
【0008】
これらの報告は、単球の新規炎症関連サブセットが炎症に関連する癌の進行および転移を調節することができる可能性を示唆している。しかし、このような単球亜集団の詳細については不明のままであり、更なる研究が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Huang Q, Li F, Liu X, Li W, Shi W, Liu FF, et al. Caspase 3-mediated stimulation of tumor cell repopulation during cancer radiotherapy. Nat Med 2011;17:860-6
【非特許文献2】Panigrahy D, Gartung A, Yang J, Yang H, Gilligan MM, Sulciner ML, et al. Preoperative stimulation of resolution and inflammation blockade eradicates micrometastases. J Clin Invest 2019;129:2964-79
【非特許文献3】Sulciner ML, Serhan CN, Gilligan MM, Mudge DK, Chang J, Gartung A, et al. Resolvins suppress tumor growth and enhance cancer therapy. J Exp Med 2018;215:115-40
【非特許文献4】Gartung A, Yang J, Sukhatme VP, Bielenberg DR, Fernandes D, Chang J, et al. Suppression of chemotherapy-induced cytokine/lipid mediator surge and ovarian cancer by a dual COX-2/sEH inhibitor. Proc Natl Acad Sci U S A 2019;116:1698-703
【非特許文献5】Ananth AA, Tai LH, Lansdell C, Alkayyal AA, Baxter KE, Angka L, et al. Surgical Stress Abrogates Pre-Existing Protective T Cell Mediated Anti-Tumor Immunity Leading to Postoperative Cancer Recurrence. PLoS One 2016;11:e0155947
【非特許文献6】Lee JW, Shahzad MM, Lin YG, Armaiz-Pena G, Mangala LS, Han HD, et al. Surgical stress promotes tumor growth in ovarian carcinoma. Clin Cancer Res 2009;15:2695-702
【非特許文献7】Krall JA, Reinhardt F, Mercury OA, Pattabiraman DR, Brooks MW, Dougan M, et al. The systemic response to surgery triggers the outgrowth of distant immune-controlled tumors in mouse models of dormancy. Sci Transl Med 2018;10
【非特許文献8】Yan L, Cai Q, Xu Y. The ubiquitin-CXCR4 axis plays an important role in acute lung infection-enhanced lung tumor metastasis. Clin Cancer Res 2013;19:4706-16
【非特許文献9】Albrengues J, Shields MA, Ng D, Park CG, Ambrico A, Poindexter ME, et al. Neutrophil extracellular traps produced during inflammation awaken dormant cancer cells in mice. Science 2018;361
【非特許文献10】El Rayes T, Catena R, Lee S, Stawowczyk M, Joshi N, Fischbach C, et al. Lung inflammation promotes metastasis through neutrophil protease-mediated degradation of Tsp-1. Proc Natl Acad Sci U S A 2015;112:16000-5
【非特許文献11】Cools-Lartigue J, Spicer J, McDonald B, Gowing S, Chow S, Giannias B, et al. Neutrophil extracellular traps sequester circulating tumor cells and promote metastasis. J Clin Invest 2013
【非特許文献12】Yang L, Liu Q, Zhang X, Liu X, Zhou B, Chen J, et al. DNA of neutrophil extracellular traps promotes cancer metastasis via CCDC25. Nature 2020;583:133-8
【非特許文献13】Qian B, Deng Y, Im JH, Muschel RJ, Zou Y, Li J, et al. A distinct macrophage population mediates metastatic breast cancer cell extravasation, establishment and growth. PLoS One 2009;4:e6562
【非特許文献14】Qian BZ, Li J, Zhang H, Kitamura T, Zhang J, Campion LR, et al. CCL2 recruits inflammatory monocytes to facilitate breast-tumour metastasis. Nature 2011;475:222-5
【非特許文献15】Zhao L, Lim SY, Gordon-Weeks AN, Tapmeier TT, Im JH, Cao Y, et al. Recruitment of a myeloid cell subset (CD11b/Gr1 mid) via CCL2/CCR2 promotes the development of colorectal cancer liver metastasis. Hepatology 2013;57:829-39
【非特許文献16】Wolf AA, Yanez A, Barman PK, Goodridge HS. The Ontogeny of Monocyte Subsets. Front Immunol 2019;10:1642
【非特許文献17】Kapellos TS, Bonaguro L, Gemund I, Reusch N, Saglam A, Hinkley ER, et al. Human Monocyte Subsets and Phenotypes in Major Chronic Inflammatory Diseases. Front Immunol 2019;10:2035
【非特許文献18】Tsou CL, Peters W, Si Y, Slaymaker S, Aslanian AM, Weisberg SP, et al. Critical roles for CCR2 and MCP-3 in monocyte mobilization from bone marrow and recruitment to inflammatory sites. J Clin Invest 2007;117:902-9
【非特許文献19】Serbina NV, Pamer EG. Monocyte emigration from bone marrow during bacterial infection requires signals mediated by chemokine receptor CCR2. Nat Immunol 2006;7:311-7
【非特許文献20】Hanna RN, Cekic C, Sag D, Tacke R, Thomas GD, Nowyhed H, et al. Patrolling monocytes control tumor metastasis to the lung. Science 2015;350:985-90
【非特許文献21】Mukherjee R, Kanti Barman P, Kumar Thatoi P, Tripathy R, Kumar Das B, Ravindran B. Non-Classical monocytes display inflammatory features: Validation in Sepsis and Systemic Lupus Erythematous. Sci Rep 2015;5:13886
【非特許文献22】Ikeda N, Asano K, Kikuchi K, Uchida Y, Ikegami H, Takagi R, et al. Emergence of immunoregulatory Ym1(+)Ly6C(hi) monocytes during recovery phase of tissue injury. Sci Immunol 2018;3
【非特許文献23】Yanez A, Coetzee SG, Olsson A, Muench DE, Berman BP, Hazelett DJ, et al. Granulocyte-Monocyte Progenitors and Monocyte-Dendritic Cell Progenitors Independently Produce Functionally Distinct Monocytes. Immunity 2017;47:890-902 e4
【非特許文献24】Satoh T, Nakagawa K, Sugihara F, Kuwahara R, Ashihara M, Yamane F, et al. Identification of an atypical monocyte and committed progenitor involved in fibrosis. Nature 2017;541:96-101
【非特許文献25】Askenase MH, Han SJ, Byrd AL, Morais da Fonseca D, Bouladoux N, Wilhelm C, et al. Bone-Marrow-Resident NK Cells Prime Monocytes for Regulatory Function during Infection. Immunity 2015;42:1130-42
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、がん転移を抑制するための医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らはこれまでに、Ym1発現を特徴とするGMP由来異型Ly6C+単球(Ly6C+Ym1+単球)が、組織損傷の回復期に骨髄で産生されることを報告した。これらの単球は、顆粒球といくつかの特徴を共有し、組織の修復と再生に寄与する免疫調節表現型を示す(参考文献22)。本発明者らはさらに、好中球ではなく、Ym1+Ly6C+単球が、原発腫瘍への治療的介入に伴う炎症によって引き起こされる転移の促進に寄与することを見出した。具体的に、原発腫瘍の治療的介入に伴う全身性および局所性の炎症は、時にマウスおよびヒトの転移性再発を促進するが、この過程にどのような種類の免疫細胞が関与しているかは不明のままであったところ、本発明者らは、組織修復促進Ym1+Ly6C+単球サブセットが、リポ多糖類の静脈注射または原発腫瘍の切除により誘導された全身性および局所性炎症の結果として拡大し、循環腫瘍細胞(Circulating tumor cell;CTC)に由来する肺転移を促進することを見出した。
【0012】
さらに、組織修復促進Ym1+Ly6C+単球サブセットの欠失は、マウスにおいて炎症により誘導された転移を抑制する一方で、組織修復促進Ym1+Ly6C+単球のナイーブマウスへの移入は、マウスの肺転移を促進することが見出された。
【0013】
本発明者らはまた、Ym1+Ly6C+単球は、マトリックスメタロプロテナーゼ-9(Matrix metalloproteinase 9;MMP-9)およびCXCケモカイン受容体4(CXC chemokine receptor 4;CXCR4)を高度に発現し、MMP-9阻害剤およびCXCR4拮抗剤はYm1+Ly6C+単球促進肺転移を減少させることを見出した。これらの知見は、Ym1+Ly6C+単球が、全身および局所炎症に関連するCTCに由来する転移の治療標的細胞であることを示すものである。
【0014】
さらに、本発明者らは、Ly6C+Ym1+単球に高発現する表面マーカーを特定することに成功した。この知見は、上記MMP-9およびCXCR4に加え、かかる表面マーカーも、CTC由来転移の治療標的となり得ることを示唆する。
【0015】
これらの知見は、組織修復の機序とがん転移が密接に関連していることを示すと共に、原発腫瘍に対する介入後の転移性再発に対する新規予測細胞バイオマーカー、および、がん転移における新規な治療標的を明らかにするものである。本発明は、これらの知見に基づき成されたものである。
【0016】
すなわち、本発明は以下のとおりである:
[1]Ym1+Ly6C+単球を有する対象に投与するための医薬組成物であって、
マトリックスメタロプロテナーゼ-9(Matrix metalloproteinase 9;MMP-9)の活性を阻害する化合物を含む、医薬組成物;
[2]前記MMP-9の活性を阻害する化合物が、Lcn2アンタゴニスト、CD88アンタゴニスト、CD157アンタゴニスト、CXCR4アンタゴニストおよびMMP-9アンタゴニストからなる群より選択される少なくとも1つである、[1]に記載の医薬組成物;
[3]前記MMP-9の活性を阻害する化合物が、
抗Lcn2抗体、Lcn2阻害剤、抗CD88抗体、CD88阻害剤、抗CD157抗体、CD157阻害剤、抗CXCR4抗体、CXCR4阻害剤、抗MMP-9抗体およびMMP-9阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つである、[1]または[2]に記載の医薬組成物;
[4]がん転移を抑制および/または予防するための、[1]~[3]のいずれか1項に記載の医薬組成物;
[5]前記がん転移が、急性炎症または原発腫瘍に対する治療的介入によって生じたがん転移である、[4]に記載の医薬組成物;
[6]前記原発腫瘍に対する治療的介入が、外科的切除、化学療法および放射線療法からなる群より選択される、[5]に記載の医薬組成物;
[7]前記Ym1+Ly6C+単球を有する対象が、がん、炎症性疾患および自己免疫疾患からなる群より選択される少なくとも1つに罹患している、[1]~[6]のいずれか1項に記載の医薬組成物;
[8]前記Ym1+Ly6C+単球を有する対象が、ヒト、サル、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ヒツジ、イヌおよびネコからなる群より選択される哺乳動物である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の医薬組成物;
[9]MMP-9活性化経路を阻害する組成物であって、
前記MMP-9活性化経路は、Ym1+Ly6C+単球、CXCR4およびMMP-9を含み、
前記組成物が、MMP-9の活性を阻害する化合物を含む、組成物;
[10]前記MMP-9活性化経路が、Lcn2、CD88およびCD157から選択される少なくとも1つをさらに含む、[9]に記載の組成物;
[11](i)治療的介入前の対象の末梢血サンプル中の白血球に対するYm1+Ly6C+単球の割合R1を測定すること、
(ii)治療的介入後の前記対象の末梢血サンプル中の白血球に対するYm1+Ly6C+単球の割合R2を測定すること、
(iii)前記測定した割合R1と、前記測定した割合R2とを比較すること
を含む、がん転移のリスクの評価方法;
[12]前記(i)および/または(ii)における測定はフローサイトメトリーによって行われる、[11]に記載の方法;
[13]抗Lcn2抗体、抗CD88抗体、抗CD157抗体、抗CXCR4抗体および抗MMP-9抗体から選択される少なくとも1つを含む、がん転移の可能性を予測するためのキット;
[14]MMP-9を阻害する化合物を含む、組成物であって、
前記MMP-9を阻害する化合物が、抗Lcn2抗体、Lcn2阻害剤、抗CD88抗体、CD88阻害剤、抗CD157抗体、CD157阻害剤、抗CXCR4抗体、CXCR4阻害剤、抗MMP-9抗体およびMMP-9阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つである、組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、がん転移を抑制する医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】種々のTLRリガンド(LPS、CpG-ODNおよびPoly(I:C)が転移進行に及ぼす影響を解析するための実験デザインを示す図である。
【
図1B】種々のTLRリガンド(LPS、CpG-ODNおよびPoly(I:C))で処理したマウスの肺の代表的な画像を示す図である。
【
図1C】種々のTLRリガンド(LPS、CpG-ODNおよびPoly(I:C))で処理したマウスの肺転移数の定量的集計を示す図である。
【
図1D】B16メラノーマ細胞特異的遺伝子であるPremelanosome protein(Pmel)およびDopachrome tautomerase(Dct)遺伝子のmRNA発現量を示す図である。
【
図1E】転移進行に対するAnti-Ly6G mAbおよびAnti-Gr-1 mAbの効果を試験するために用いた実験デザインを示す図である。
【
図1F】Anti-Ly6G mAbを注射したマウスの肺の代表的な画像および肺転移数を示す図である。
【
図1G】Anti-Gr-1 mAbを注射したマウスの肺の代表的な画像および肺転移数を示す図である。
【
図1H】転移進行に対するCD204細胞の寄与を検証するために用いられた実験デザインを示す図である。
【
図1I】各マウスの肺転移数の定量的集計を示す図である。
【
図1J】各マウスにおけるPmel遺伝子およびDct遺伝子のmRNA発現量を示す図である。
【
図1K】マウスにおける炎症性サイトカイン(IL-6およびTNF-α)の産生を示す図である。
【
図1L】転移進行に対する単球移入の効果を検証するために用いられた実験デザインを示す図である。
【
図1M】ナイーブマウスまたはLPS注射マウスから単離した単球を静脈注射したナイーブマウスにおける肺転移数の定量的集計を示す図である。
【
図1N】ナイーブマウスまたはLPS注射マウスから単離した単球を静脈注射したナイーブマウスにおける肺転移巣を示す図である。
【
図1O】ナイーブマウスまたはLPS注射マウスから単離した単球を静脈注射したナイーブマウスにおけるPmel遺伝子およびDct遺伝子のmRNA発現量を示す図である。
【
図1P】LPSの静脈内投与(i.v.)および鼻腔内投与(i.n.)による、肺におけるNET形成の特異的マーカー(シトルリン化ヒストンH3)のウェスタンブロット分析を示す図である。
【
図1Q】LPS処理(静脈内投与(i.v.)および鼻腔内投与(i.n.)による)WTマウス由来の肺切片の免疫組織化学画像を示す図である。
【
図2A】WTマウスまたはYm1-Venusマウスにおける肺細胞のフローサイトメトリー分析を示す図である。
【
図2C】Ym1
+Ly6C
+単球の絶対数を示す図である。
【
図2D】転移進行に対するYm1
+細胞の寄与を検証するために用いられた実験デザインを示す図である。
【
図2E】マウスの肺の代表的な画像および肺転移数を示す図である。
【
図2F】マウスにおけるPmel遺伝子およびDct遺伝子のmRNA発現量を示す図である。
【
図2G】Ym1
+Ly6C
+単球(Ym1
+Mo)またはYm1
-Ly6C
+単球(Ym1
-Mo)の移入が移入進行に及ぼす影響を試験するために使用された実験的デザインを示す図である。
【
図2H】BM内のYm1
+MoまたはYm1
-Moの同定で、肺の転移を解析した図である。
【
図2I】各マウスの肺の代表的な画像および肺転移数を示す図である。
【
図2J】各マウスにおけるPmel遺伝子およびDct遺伝子のmRNA発現量を示す図である。
【
図3A】肺におけるYm1
+MoおよびYm1
-Moの表面マーカーの発現のフローサイトメトリー解析の結果を示す図である。
【
図3B】主成分分析(PCA)の結果を示す図である。
【
図3D】遺伝子発現をヒートマップで示した図である。
【
図3E】Ym1
+MoおよびYm1
-Moにおける各遺伝子のmRNAの発現量を示す図である。
【
図4A】単球の培養上清のゼラチンザイモグラフィー。未処理またはLPS処理のWTマウス(左)から分離したLy6C
+単球、あるいはLPS処理のYm1-Venusマウス(右)から分離したYm1
+またはYm1
-Ly6C
+単球(右)の培養上清のゼラチナーゼ活性の測定結果を示す図である。
【
図4B】ナイーブまたはLPS処理WTマウスから単離したLy6C
+単球の培養上清存在下での癌細胞の浸潤アッセイを示す図である。
【
図4C】転移の初期ポイントに注射されたMMP-9阻害剤の効果を検証するために用いられた実験デザインである。
【
図4E】マウスにおけるPmel遺伝子およびDct遺伝子のmRNA発現量を示す図である。
【
図4G】マウスにおけるPmel遺伝子およびDct遺伝子のmRNA発現量を示す図である。
【
図4H】Lcn2
-/-単球の培養上清のゼラチンザイモグラフィーLPS処理したl Lcn2
+/-またはLcn2
-/-マウスから単離したLy6C
+単球の培養上清のゼラチナーゼ活性の測定結果を示す図である。
【
図4I】Lcn2
+/-注射Lcn2
-/-注射による肺転移数を示す図である。
【
図5A】末梢血中のLy6C
+単球中のYm1
+細胞の割合を示すフローサイトメトリープロファイルを示す図である。
【
図5B】原発腫瘍の外科的切除後の、末梢血中の白血球中のLy6C
+単球の割合(上)およびLy6C
+単球中のYm1
+細胞の割合(下)を示す図である。
【
図5C】原発腫瘍への放射線暴露後の、末梢血中の白血球中のLy6C
+単球の割合(上)およびLy6C
+単球中のYm1
+細胞の割合(下)の割合を示す図である。
【
図5E】腫瘍切除後の肺転移に対する免疫細胞欠失の影響を示す図である。
【
図6A】ナイーブもしくはLPS処理マウスから単離した末梢血Ly6C
+単球、またはB16細胞表面のCXCR4発現を示す図である。
【
図6B】CXCR4アンタゴニストによる処理によるLy6C
+単球の肺蓄積の阻害を示す図である。
【
図6C】腫瘍切除による転移進行に対するCXCR4拮抗剤(AMD3100)治療の効果を検証するために用いた実験デザインを示す図である。
【
図6D】CXCR4拮抗剤(AMD3100)治療後の肺転移数を示す図である。
【
図7A】LPS処理マウスの肺における免疫細胞のフローサイトメーター分析を示す図である。
【
図7B】LPS処理マウスの肺における免疫細胞の絶対数を示す図である。
【
図8】枯渇抗体で処理されたWTマウスのフローサイトメトリー分析を示す図である。
【
図9】CD204-DTRマウスの末梢血のフローサイトメトリー分析を示す図である。
【
図10A】移入された単球および腫瘍細胞の分布を示す図である。
【
図10B】肺における、移入されたB16細胞の数(左)および移入されたナイーブMoまたはLPS Moの数(右)を示す図である。
【
図11A】がん細胞およびLPSを、または、がん細胞のみを注射されたWTマウスおよびYm1-Venusマウスにおける肺細胞のフローサイトメトリー分析を示す図である。
【
図11B】肺におけるYm1-Venus
+Ly6C
+単球の絶対数を示す図である。
【
図12】DT処理したYm1-DTR-Venusマウスの末梢血のフローサイトメトリー分析を示す図である。
【
図13】RNA-seq分析による、Ym1
+Ly6C
+単球およびYm1
-Ly6C
+単球の遺伝子発現プロファイル示す図である。
【
図14A】MMP-9阻害剤の連続投与が肺転移進行に及ぼす影響を解析するための実験デザインを示す図である。
【
図14B】マウスにおける肺転移数を示す図である。
【
図14C】マウスにおけるPmel遺伝子およびDct遺伝子のmRNA発現量を示す図である。
【
図15A】Ym1-Venus陽性単球とYm1-Venus陰性単球との間での抗原の発現差を示す図である。
【
図15B】定常状態とLPS投与48時間後の野生型マウスの骨髄の好中球(Ly6G陽性)、Ly6C陽性Ym1陽性単球およびLy6C陽性Ym1陰性単球における、CD88およびCD157の発現量をフローサイトメトリーで解析した結果を示す図である。
【
図15C】LPS投与48時間後の後の野生型マウスの骨髄細胞における、Ym1発現量のフローサイトメトリー解析結果である。
【
図15D】CD88/CD157の2つのマーカーにより分取したYm1陽性制御性単球の遺伝子発現解析結果を示す図である。
【0019】
本発明の第1の側面は、Ym1+Ly6C+単球を有する対象に投与するための医薬組成物に関し、当該医薬組成物は、マトリックスメタロプロテナーゼ-9(Matrix metalloproteinase 9;MMP-9)の活性を阻害する化合物を含む。ここで、「Ym1+Ly6C+単球」は、Ym1遺伝子およびLy6C遺伝子を発現している単球をいい、「Ym1を発現したLy6C+単球」、「Ym1およびLy6Cを発現した単球」および「Ym1陽性Ly6C陽性単球」と同義である。本単球において、典型的には、Ym1は単球の内部に発現し、Ly6Cは単球表面に発現する。好ましい態様において、「Ym1+Ly6C+単球」は、Ym1遺伝子およびLy6C遺伝子に関し、これらの遺伝子およびタンパク質の両方を発現している。
【0020】
本明細書において、各マーカー遺伝子の発現は、遺伝子およびタンパク質のいずれに基づいて確認してもよい。マーカー遺伝子の発現は、当該分野で公知の技術を用いて確認することができ、例えば、qPCRにより、そのマーカー遺伝子の発現量を測定することによって確認することができる。
【0021】
本明細書において、「Ym1+Ly6C+単球を有する対象」とは、Ym1およびLy6Cを発現した単球を有する対象をいう。具体的に、当該対象は、Ym1が発現していることが確認されたLy6C陽性単球を有している。Ym1は典型的には、Ly6C+単球内に発現している。Ly6C+単球のYm1の発現は、当該分野で既知の方法、例えば、免疫細胞染色およびRT-PCRによって検出することができる。また、Ym1の発現は、細胞固定および細胞内染色を行った後、フローサイトメトリーによって検出することも可能である。「Ym1+Ly6C+単球を有する対象」において、Ly6C+単球におけるYm1の発現レベルは、健康な対象、急性炎症のない対象または治療的介入がない対象と比較して、例えば1.0倍超、好ましくは1.2倍以上、より好ましくは1.5倍以上、さらにより好ましくは2.0倍、さらにより好ましくは3.0倍以上、さらにより好ましくは4.0倍以上、さらにより好ましくは5.0倍以上、さらにより好ましくは6.0倍以上、さらにより好ましくは7.0倍以上、上昇している。
【0022】
本明細書において、単球に発現する、マーカー遺伝子には、そのホモログが含まれるものとする。「Ym1およびLy6Cを発現した単球」は具体的には、Ym1遺伝子またはそのホモログ、および、Ly6C遺伝子またはそのホモログを発現した単球を指す。本明細書で言及する他のマーカー遺伝子についても同様に、そのマーカー遺伝子の範囲には、そのホモログも包含されるものとする。
【0023】
本明細書において、特定の遺伝子の「ホモログ」は、該特定の遺伝子のヌクレオチド配列、または該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列と特定の相同性を有する実体を意味する。ここで、配列に関し、「相同性」、「同一性」および「配列同一性」の語は互換可能に使用される。「配列同一性」の割合は、具体的には、当業者に周知のアラインメントアルゴリズムを用いて2つの遺伝子のヌクレオチド配列またはこれらをコードするタンパク質のアミノ酸配列を整列させた後に、これら2つの配列間で同一のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の割合をいう。
【0024】
特定の遺伝子の「ホモログ」は、当該遺伝子のコードするタンパク質のアミノ酸配列に対して75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上の配列同一性を有する。配列同一性はまた、類似の化学的特性および/または機能を有するアミノ酸残基の観点から考慮してもよい。
【0025】
上記アライメントには、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(Devereuxら、1984 Nuc.Acids Research 1 p387)、BLASTパッケージ(Ausubelら、1999 Short Protocols in Molecular Biology、第4版、第18章)、FASTA(Altschulら、1990 J.Mol.Biol.403~410)、DNASISTM(Hitachi Software)等のコンピュータプログラムを使用できるが、これらに限定されない。
【0026】
「対象」は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物である。本明細書において、「哺乳動物」の語は、哺乳動物に分類されるあらゆる動物を指すために使用され、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ヒツジ、イヌおよびネコが含まれるが、これらに限定されない。本明細書において、望ましい哺乳動物はヒトである。
【0027】
本発明にかかる医薬組成物は、典型的には、がん転移を抑制および/または予防するための医薬組成物である。
【0028】
本明細書において「抑制」および「予防」の語は共に、治療および予防策の両方を包含するが、好ましくは、がんの転移を予防すること、遅らせること、および軽減することを包含するものとする。がん転移に関し、「抑制」および「予防」の語には、がんの病巣の数の減少、病巣の範囲の縮小、病巣の数および範囲の安定化(すなわち、増加および拡大させない)、病巣の数および範囲の増加または拡大の減速ならびに遅延が含まれるが、これらに限定されない。
【0029】
がん転移の「抑制」または「予防」は、当該分野で公知の方法に従って評価することができる。例えば、結節の数、がん細胞の局在、および、がん細胞に高発現する遺伝子を指標として評価することができる。結節の数およびがん細胞の局在は、例えば、組織染色および画像診断を用いて評価することができる。また、がん細胞に高発現している遺伝子は、例えば、免疫蛍光染色法、および、RT-PCR法によって確認することができる。
【0030】
「MMP-9の活性を阻害する化合物」の語は、最も広い意味で使用され、MMP-9の活性化を引き起こす経路(以下、「MMP-9活性化経路」とも称する。)に関与する化合物および細胞のいずれか1つ以上の生物学的活性を阻害する化合物が含まれるものとする。
【0031】
本明細書において、「MMP-9活性化経路」は、Ym1+Ly6C+単球と、MMP-9とを含むものである。「MMP-9活性化経路」は、好ましくは、Ym1+Ly6C+単球と、CXCR4と、MMP-9とを含むものである。より具体的には、「MMP-9活性化経路」は、Ym1を発現したLy6C+単球が、CXCR4を介して浸潤し、浸潤した部位において、MMP-9を分泌することを含む経路をいう。
【0032】
本明細書において、「MMP-9活性化経路」の語は「転移カスケード」と同義である。当該経路は、Neutrophil gelatinase-associated lipocalin protein(Lcn2)をさらに含んでもよい。Lcn2は、MMP-9を安定化することによってMMP-9の活性を増強する作用を有する。
【0033】
本発明者らは、さらに、Ym1
+Ly6C
+単球が、CD88およびCD157を表面に高発現していることを見出した(
図15A~15D)。よって、一態様において、「MMP-9活性化経路」は、CD88およびCD157から選択される少なくとも1つをさらに含む。別の一態様において、「MMP-9活性化経路」は、CD88およびCD157の双方をさらに含む。
【0034】
「MMP-9」は、細胞外マトリックス成分に対する生体内分解酵素の一種であり、活性中心に金属イオンが配座しているタンパク質分解酵素である。MMP-9は、「ゼラチナーゼB」とも称される。MMP-9は、組織、細胞および血中に存在し、細胞外マトリックスの構成成分であるゼラチン、IV型コラーゲン、V型コラーゲンおよびエラスチンを分解する活性を有し、癌の浸潤および転移に関与する。一般的に、MMP-9は、好中球、マクロファージ、トロボブラスト、破骨細胞、癌細胞、T-リンパ球等によって産生されるが、本発明が対象とする「MMP-9」は、Ym1+Ly6C+単球によって産生されるMMP-9である。
【0035】
本明細書において、「MMP-9の活性を阻害する化合物」は、MMP-9の活性を直接的に阻害する化合物に限られず、一連の経路(例えば、「MMP-9活性化経路」または「転移カスケード」)において、間接的に、MMP9の活性を阻害する化合物も含む。例えば、ある化合物が、「MMP-9活性化経路」の上流に存在する標的を阻害することによって、上記経路の下流においてMMP-9活性が阻害される場合、この化合物は直接的にはMMP-9の活性を阻害しないが、間接的にMMP-9の活性を阻害することにより、本明細書においては、「MMP-9の活性を阻害する化合物」と定義される。MMP-9の活性を間接的に阻害する化合物としては、例えば、後述のCD88アンタゴニストおよびCD157アンタゴニストが挙げられる。
【0036】
「MMP-9の活性を阻害する化合物」には、上記の化合物および細胞の少なくとも1つの活性を阻害する化合物が包含され、例えば、Ym1アンタゴニスト、Lcn2アンタゴニスト、CD88アンタゴニスト、CD157アンタゴニスト、CXCR4アンタゴニストおよびMMP-9アンタゴニストが挙げられる。一態様において、「MMP-9の活性を阻害する化合物」は、Ym1アンタゴニスト、Lcn2アンタゴニスト、CD88アンタゴニスト、CD157アンタゴニスト、CXCR4アンタゴニストおよびMMP-9アンタゴニストからなる群より選択される少なくとも1つである。好ましい態様において、「MMP-9の活性を阻害する化合物」は、Lcn2アンタゴニスト、CD88アンタゴニスト、CD157アンタゴニスト、CXCR4アンタゴニストおよびMMP-9アンタゴニストからなる群より選択される少なくとも1つである。
【0037】
本明細書において、「アンタゴニスト」の語は、最も広い意味で使用される。「アンタゴニスト」は分子であり、作用の基となるメカニズムに関わらず、部分的にまたは完全に標的分子の生物学的活性を遮断、阻害、中和、防御および/または干渉するものである。
【0038】
先述のとおり、本発明者らは、組織修復促進Ym1
+Ly6C
+単球サブセットが、リポ多糖類の静脈注射または原発腫瘍の切除により誘導された全身性および局所性炎症の結果として拡大し、循環腫瘍細胞(CTC)に由来する肺転移を促進することを見出した。また、組織修復促進Ym1
+Ly6C
+単球のナイーブマウスへの移入によって、マウスの肺転移が促進されること、および、Ym1
+Ly6C
+単球は、MMP-9およびCXCR4を高度に発現することを見出した(MMP-9については
図4A、CXCR4については
図6A)。本知見は、Ym1
+Ly6C
+単球、MMP-9およびCXCR4が、転移に関与することを示すものである。
【0039】
本知見は、Ym1+Ly6C+単球は、先述の転移カスケードのいずれかの地点を阻害することで、CTC由来の転移を抑制することができることを示唆する。本発明者らが得た知見は、悪液質を発症した対象の処置において、MMP-9の活性化を引き起こす経路(「MMP-9活性化経路」)を標的にすることの有用性を示すものである。したがって、「MMP-9の活性化を引き起こす経路に関与する化合物」の語には、例えば、Ym1、Lcn2、CD88、CD157、CXCR4、SDF-1およびMMP-9などが含まれる。また、「MMP-9の活性化を引き起こす経路に関与する細胞」の語には、例えば、Ym1+Ly6C+単球、並びに、CXCR4、SDF-1およびMMP-9のいずれかを発現または産生する細胞などが含まれる。
【0040】
(Ym1アンタゴニスト)
「Ym1アンタゴニスト」に関連して、標的分子である「Ym1」の「生物学的活性」とは、例えば、Ym1がリガンドと結合する能力、および、Ym1を表面に発現する単球においてMMP-9の産生を誘導する能力である。Ym1アンタゴニストは、例えば、Ym1を特異的に認識して結合し、免疫系細胞の活性化による抗体依存性細胞傷害(Antibody-Dependent Cell-mediated Cytotoxicity;ADCC)活性、補体依存性細胞傷害(Complement-Dependent Cytotoxicity;CDC)活性および抗体依存性細胞貪食(Antibody-Dependent Cellular Phagocytosis;ADCP)活性を誘導する能力、ならびに、Ym1を発現した単球によるMMP-9産生を阻害または遮断する能力に基づいて同定され得る。
【0041】
Ym1アンタゴニストは例えば、Ym1を表面に発現した単球を、試験化合物の存在下および不存在下でインキュベートし、エフェクター細胞あるいは補体を含む血清をさらに加えてインキュベートし、細胞障害に伴って培養上清中に遊離する物質、例えばLDHなどを測定することによって同定することができる。試験化合物が無い場合と比較して試験化合物が有る場合の方が、細胞障害に伴って遊離する物質の濃度が高ければ、その試験化合物はYm1アンタゴニストである。また、Ym1アンタゴニストは例えば、Ym1を表面に発現した単球を、試験化合物の存在下および不存在下でインキュベートし、細胞培養物上清のMMP-9レベルを、例えばELISAによって、モニタリングすることができ、試験化合物が無い場合と比較して試験化合物が有る場合の方が、MMP-9レベルが低ければ、その試験化合物はYm1アンタゴニストである。他の方法として、試験化合物による処理の前後でリアルタイムRT-PCRを用いて、Ym1を発現する組織におけるMMP-9 mRNAの発現をモニタリングすることもできる。試験化合物存在下でMMP-9 mRNAレベルが減少することは、その化合物がYm1アンタゴニストであることを示す。
【0042】
「Ym1アンタゴニスト」の例には、天然Ym1ポリペプチド全体もしくは天然Ym1ポリペプチドサブユニットに対する中和抗体、免疫グロブリン定常領域配列と融合したYm1サブユニットを含む免疫付着因子、小分子、天然Ym1ポリペプチド全体もしくは天然Ym1ポリペプチドサブユニットに結合するアプタマー、天然Ym1ポリペプチド全体もしくはそのサブユニットをコードする遺伝子の翻訳および転写の少なくとも一方を阻害することのできる核酸分子(例えば、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、デコイおよびリボザイム)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0043】
ここで、天然Ym1ポリペプチドのアミノ酸配列は、当該分野で既知のデータベースから取得することができる。天然Ym1ポリペプチドのアミノ酸配列としては例えば、
・Mus musculus chitinase-like protein 3 precursor,NCBI Reference Sequence: NP_034022.2)
が挙げられる。Ym1アンタゴニストには、このような配列を有するポリペプチドを特異的に認識する抗体およびその断片や、当該配列と一定の配列同一性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または98%以上の配列同一性)を有するポリペプチドを特異的に認識する抗体およびその断片などが含まれる。
【0044】
天然Ym1ポリペプチドをコードする遺伝子の塩基配列としては例えば、
・Mus musculus chitinase-like 3(Chil3),mRNA; NCBI Reference Sequence: NM_009892.3
が挙げられる。Ym1アンタゴニストには、
・上記のようなアミノ配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
・上記のようなアミノ配列と一定の配列同一性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または98%以上の配列同一性)を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
・上記のような塩基配列を有する遺伝子、
・上記のような塩基配列と一定の配列同一性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または98%以上の配列同一性)を有する塩基配列を有する遺伝子
の翻訳および転写の少なくとも一方を阻害することのできる核酸分子などが含まれる。
【0045】
「Ym1アンタゴニスト」には、例えば、抗体および抗体フラグメントならびに低分子化合物が含まれる。Ym1アンタゴニストは、例えば、抗Ym1抗体およびYm1阻害剤である。
【0046】
(Lcn2アンタゴニスト)
「Lcn2」は、Lipocalin-2、Neutrophil Gelatinase-assoziated Lipocalin(NGAL)、24p3またはNeutrophil Lipocalin(NL)としても知られる分泌型糖タンパク質である。Lcn2は、ストレスタンパク質としても機能し、先天性免疫反応、分化、腫瘍発生および細胞の生存などの多様な細胞プロセスに関与する。「Lcn2アンタゴニスト」に関連して、標的分子である「Lcn2」の「生物学的活性」とは、例えば、MMP-9を安定化させることによりMMP-9活性を維持する能力である。Lcn2アンタゴニストは、例えば、Lcn2を特異的に認識して結合し、MMP-9のゼラチナーゼ活性を阻害する能力に基づいて同定され得る。
【0047】
Lcn2アンタゴニストは例えば、Lcn2を発現した細胞、または、Lcn2をコートしたプレートを、試験化合物の存在下および不存在下でインキュベートし、MMP-9をさらに加えてインキュベートし、MMP-9のゼラチナーゼ活性を測定することによって同定することができる。試験化合物が無い場合と比較して試験化合物が有る場合の方が、ゼラチナーゼ活性が低ければ、その試験化合物はLcn2アンタゴニストである。
【0048】
「Lcn2アンタゴニスト」の例には、天然Lcn2ポリペプチド全体もしくは天然Lcn2ポリペプチドサブユニットに対する中和抗体、免疫グロブリン定常領域配列と融合したCXCR4サブユニットを含む免疫付着因子、小分子、天然Lcn2ポリペプチド全体もしくは天然Lcn2ポリペプチドサブユニットに結合するアプタマー、天然Lcn2ポリペプチド全体もしくはそのサブユニットをコードする遺伝子の翻訳および転写の少なくとも一方を阻害することのできる核酸分子(例えば、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、デコイおよびリボザイム)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0049】
ここで、天然Lcn2ポリペプチドのアミノ酸配列は、当該分野で既知のデータベースから取得することができる。天然Lcn2ポリペプチドのアミノ酸配列としては例えば、
・Mus musculus neutrophil gelatinase-associated lipocalin precursor,NCBI Reference Sequence: NP_032517、
・Homo sapiens neutrophil gelatinase-associated lipocalin precursor,NCBI Reference Sequence: NP_005555
が挙げられる。Lcn2には、このような配列を有するポリペプチドを特異的に認識する抗体およびその断片や、当該配列と一定の配列同一性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または98%以上の配列同一性)を有するポリペプチドを特異的に認識する抗体およびその断片などが含まれる。
【0050】
天然Lcn2ポリペプチドをコードする遺伝子の塩基配列としては例えば、
・Mus musculus lipocalin 2(Lcn2),mRNA; NCBI Reference Sequence: NM_008491、
・Homo sapiens lipocalin 2(Lcn2),mRNA; NCBI Reference Sequence: NM_005564
が挙げられる。Lcn2アンタゴニストには、
・上記のようなアミノ配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
・上記のようなアミノ配列と一定の配列同一性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または98%以上の配列同一性)を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
・上記のような塩基配列を有する遺伝子、
・上記のような塩基配列と一定の配列同一性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または98%以上の配列同一性)を有する塩基配列を有する遺伝子
の翻訳および転写の少なくとも一方を阻害することのできる核酸分子などが含まれる。
【0051】
「Lcn2アンタゴニスト」には、例えば、抗体および抗体フラグメントならびに低分子化合物が含まれる。Lcn2アンタゴニストは、例えば、抗Lcn2抗体およびLcn2阻害剤である。
【0052】
(CD88アンタゴニスト)
「CD88」は、本発明者らによって、上記Ym1
+Ly6C
+単球の表面に高発現することが確認された(
図15A~15D)。CD88(Cluster of Differentiation 88)は、C5aのGタンパク質共役型受容体であり、補体成分5a受容体1(C5AR1)としても既知である。CD88は、補体受容体として機能する。「CD88アンタゴニスト」に関連して、標的分子である「CD88」の「生物学的活性」とは、例えば、炎症反応、肥満、発達および癌を調節する能力である。CD88アンタゴニストは、例えば、CD88を特異的に認識して結合し、細胞内へのカルシウムイオンの流入、細胞遊走および活性酸素産生を抑制する能力に基づいて同定され得る。CD88アンタゴニストは、本発明者らが見出した転移カスケードの上流に存在する、Ym1
+Ly6C
+単球の表面に発現したCD88を阻害することによって、当該単球のMMP-9の産生を誘導する能力を低下させ、本カスケードの下流におけるMMP-9の活性を間接的に阻害する。CD88アンタゴニストの一例として、抗CD88抗体は、例えばADCCによりYm1
+単球を除去し、MMP-9の産生を阻害し得る。
【0053】
CD88アンタゴニストは例えば、CD88を表面に発現した細胞を、試験化合物の存在下および不存在下でインキュベートし、fMLP、PAFまたはIL-8をさらに加えてインキュベートし、CD88を表面に発現した細胞の、細胞内へのカルシウムイオンの流入、細胞遊走および活性酸素産生を測定することによって同定することができる。試験化合物が無い場合と比較して試験化合物が有る場合の方が、細胞内へのカルシウムイオンの流入、細胞遊走および活性酸素産生が低ければ、その試験化合物はCD88アンタゴニストである。
【0054】
「CD88アンタゴニスト」の例には、天然CD88ポリペプチド全体もしくは天然CD88ポリペプチドサブユニットに対する中和抗体、免疫グロブリン定常領域配列と融合したCD88サブユニットを含む免疫付着因子、小分子、天然CD88ポリペプチド全体もしくは天然CD88ポリペプチドサブユニットに結合するアプタマー、天然CD88ポリペプチド全体もしくはそのサブユニットをコードする遺伝子の翻訳および転写の少なくとも一方を阻害することのできる核酸分子(例えば、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、デコイおよびリボザイム)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0055】
ここで、天然CD88ポリペプチドのアミノ酸配列は、当該分野で既知のデータベースから取得することができる。天然CD88ポリペプチドのアミノ酸配列としては例えば、
・Mus musculus C5a anaphylatoxin chemostatic receptor 1,NCBI Reference Sequence: NP_001167021、
・Mus musculus C5a anaphylatoxin chemostatic receptor 1,NCBI Reference Sequence: NP_031603、
・Homo sapiens C5a anaphylatoxin chemostatic receptor 1 isoform X1,NCBI Reference Sequence: XP_005259247
が挙げられる。CD88アンタゴニストには、このような配列を有するポリペプチドを特異的に認識する抗体およびその断片や、当該配列と一定の配列同一性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または98%以上の配列同一性)を有するポリペプチドを特異的に認識する抗体およびその断片などが含まれる。
【0056】
天然CD88ポリペプチドをコードする遺伝子の塩基配列としては例えば、
・Mus musculus complement component 5a receptor 1(C5ar1),transcript variant 2,mRNA; NCBI Reference Sequence: NM_001173550、
・Mus musculus complement component 5a receptor 1(C5ar1),transcript variant 1,mRNA; NCBI Reference Sequence: NM_007577、
・Homo sapiens complement C5a receptor 1(C5AR1),transcript variant X1,mRNA; NCBI Reference Sequence: XM_005259190
が挙げられる。CD88アンタゴニストには、
・上記のようなアミノ配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
・上記のようなアミノ配列と一定の配列同一性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または98%以上の配列同一性)を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
・上記のような塩基配列を有する遺伝子、
・上記のような塩基配列と一定の配列同一性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または98%以上の配列同一性)を有する塩基配列を有する遺伝子
の翻訳および転写の少なくとも一方を阻害することのできる核酸分子などが含まれる。
【0057】
「CD88アンタゴニスト」には、例えば、抗体および抗体フラグメントならびに低分子化合物が含まれる。CD88アンタゴニストは、例えば、抗CD88抗体およびCD88阻害剤である。公知のCD88阻害剤として、例えば、Avacopan(CCX168)、PMX205およびPMX53が挙げられる。
【0058】
(CD157アンタゴニスト)
「CD157」は、CD88と同様、本発明者らによって、上記Ym1
+Ly6C
+単球の表面に高発現することが確認された(
図15A~15D)。CD157は、糖鎖に富むグリコシル-ホスファチジルイノシトール(GPI)結合型膜タンパクである。「CD157アンタゴニスト」に関連して、標的分子である「CD157」の「生物学的活性」とは、例えば、β-NAD+をADPリボースに変換する能力、ならびに、細胞の生存、分化および接着を調節する能力である。CD157アンタゴニストは、例えば、CD157を特異的に認識して結合し、免疫系細胞の活性化によるADCC活性を誘導する能力に基づいて同定され得る。CD157アンタゴニストは、本発明者らが見出した転移カスケードの上流に存在する、Ym1
+Ly6C
+単球の表面に高発現したCD157を阻害することによって、当該単球のMMP-9の産生を誘導する能力を低下させ、本カスケードの下流におけるMMP-9の活性を間接的に阻害する。CD157アンタゴニストの一例として、抗CD157抗体は、例えばADCCによりYm1
+単球を除去し、MMP-9の産生を阻害し得る。
【0059】
CD157アンタゴニストは例えば、CD157を表面に発現した細胞を、試験化合物の存在下および不存在下でインキュベートし、天然CD157ポリペプチドサブユニットに対する抗体およびNK細胞をさらに加えてインキュベートし、CD157を表面に発現した細胞に対するNK細胞のADCC活性を測定することによって同定することができる。試験化合物が無い場合と比較して試験化合物が有る場合の方が、ADCC活性が低ければ、その試験化合物はCD157アンタゴニストである。
【0060】
「CD157アンタゴニスト」の例には、天然CD157ポリペプチド全体もしくは天然CD157ポリペプチドサブユニットに対する中和抗体、免疫グロブリン定常領域配列と融合したCD157サブユニットを含む免疫付着因子、小分子、天然CD157ポリペプチド全体もしくは天然CD88CD157ポリペプチドサブユニットに結合するアプタマー、天然CD157ポリペプチド全体もしくはそのサブユニットをコードする遺伝子の翻訳および転写の少なくとも一方を阻害することのできる核酸分子(例えば、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、デコイおよびリボザイム)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0061】
ここで、天然CD157ポリペプチドのアミノ酸配列は、当該分野で既知のデータベースから取得することができる。天然CD157ポリペプチドのアミノ酸配列としては例えば、
・Mus musculus ADP-ribosyl cyclase/cyclic ADP-ribose hydrolase 2 precursor,NCBI Reference Sequence: NP_033893、
・Homo sapiens ADP-ribosyl cyclase/cyclic ADP-ribose hydrolase 2 precursor,NCBI Reference Sequence: NP_004325
が挙げられる。CD157アンタゴニストには、このような配列を有するポリペプチドを特異的に認識する抗体およびその断片や、当該配列と一定の配列同一性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または98%以上の配列同一性)を有するポリペプチドを特異的に認識する抗体およびその断片などが含まれる。
【0062】
天然CD157ポリペプチドをコードする遺伝子の塩基配列としては例えば、
・Mus musculus bone marrow stromal cell antigen 1(Bst1),mRNA; NCBI Reference Sequence: NM_009763、
・Homo sapiens bone marrow stromal cell antigen 1(BST1),mRNA; NCBI Reference Sequence: NM_004334
が挙げられる。CD157アンタゴニストには、
・上記のようなアミノ配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
・上記のようなアミノ配列と一定の配列同一性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または98%以上の配列同一性)を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
・上記のような塩基配列を有する遺伝子、
・上記のような塩基配列と一定の配列同一性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または98%以上の配列同一性)を有する塩基配列を有する遺伝子
の翻訳および転写の少なくとも一方を阻害することのできる核酸分子などが含まれる。
【0063】
「CD157アンタゴニスト」には、例えば、抗体および抗体フラグメントならびに低分子化合物が含まれる。CD157アンタゴニストは、例えば、抗CD157抗体およびCD157阻害剤である。公知のCD157阻害剤として、例えば、MEN1112(メナリニ社製)が挙げられる。
【0064】
(CXCR4アンタゴニスト)
「CXCR4」は、CXCモチーフ型ケモカイン受容体4であり、FusinまたはCD184としても既知である。CXCR4は、細胞膜を7回貫通するGタンパク共役受容体(GPCR)である。CXCR4の生理的リガンドとしては、CXCケモカインの一種であり、単球およびリンパ球の遊走を誘導するStromal cell-derived factor-1(SDF-1)が挙げられる。CXCR4は、好中球、単球、樹状細胞、NK細胞、B細胞、T細胞および血小板に発現する。
【0065】
「CXCR4アンタゴニスト」に関連して、標的分子である「CXCR4」の「生物学的活性」とは、例えば、SDF-1と結合する能力である。CXCR4アンタゴニストは、例えば、CXCR4を特異的に認識して結合し、免疫系細胞の活性化によるADCC活性、CDC活性およびADCP活性を誘導する能力、ならびに、SDF-1との結合によって誘導される単球およびリンパ球の遊走を阻害または遮断する能力に基づいて同定され得る。
【0066】
CXCR4アンタゴニストは例えば、CXCR4を表面に発現した細胞、または、CXCR4タンパク質をコートしたプレートを、試験化合物の存在下および不存在下でインキュベートし、SDF-1(CXCL12)をさらに加えてインキュベートし、CXCR4を表面に発現した細胞およびCXCR4タンパク質への、SDF-1(CXCL12)の結合を測定することによって同定することができる。試験化合物が無い場合と比較して試験化合物が有る場合の方が、SDF-1(CXCL12)の結合レベルが低ければ、その試験化合物はCXCR4アンタゴニストである。
【0067】
「CXCR4アンタゴニスト」の例には、天然CXCR4ポリペプチド全体もしくは天然CXCR4ポリペプチドサブユニットに対する中和抗体、免疫グロブリン定常領域配列と融合したCXCR4サブユニットを含む免疫付着因子、小分子、天然CXCR4ポリペプチド全体もしくは天然CXCR4ポリペプチドサブユニットに結合するアプタマー、天然CXCR4ポリペプチド全体もしくはそのサブユニットをコードする遺伝子の翻訳および転写の少なくとも一方を阻害することのできる核酸分子(例えば、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、デコイおよびリボザイム)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0068】
ここで、天然CXCR4ポリペプチドのアミノ酸配列は、当該分野で既知のデータベースから取得することができる。天然CXCR4ポリペプチドのアミノ酸配列としては例えば、
・Mus musculus C-X-C chemokine receptor type 4 isoform 1,NCBI Reference Sequence: NP_034041.2、
・Mus musculus C-X-C chemokine receptor type 4 isoform 2,NCBI Reference Sequence: NP_001343438.1、
・Homo sapiensC-X-C chemokine receptor type 4 isoform a,NCBI Reference Sequence: NP_001008540、
・Homo sapiens C-X-C chemokine receptor type 4 isoform b,NCBI Reference Sequence: NP_003458、
・Homo sapiens C-X-C chemokine receptor type 4 isoform c,NCBI Reference Sequence: NP_001334985、
・Homo sapiens C-X-C chemokine receptor type 4 isoform d,NCBI Reference Sequence: NP_001334988、
・Homo sapiens C-X-C chemokine receptor type 4 isoform e,NCBI Reference Sequence: NP_001334989
が挙げられる。したがって、CXCR4アンタゴニストには、このような配列を有するポリペプチドを特異的に認識する抗体およびその断片や、当該配列と一定の配列同一性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または98%以上の配列同一性)を有するポリペプチドを特異的に認識する抗体およびその断片などが含まれる。
【0069】
天然CXCR4ポリペプチドをコードする遺伝子の塩基配列としては例えば、
・Mus musculus chemokine(C-X-C motif) receptor 4(Cxcr4),transcript variant 1,mRNA; NCBI Reference Sequence: NM_009911、
・Mus musculus chemokine(C-X-C motif) receptor 4(Cxcr4),transcript variant 2,mRNA; NCBI Reference Sequence: NM_001356509、
・Homo sapiens C-X-C motif chemokine receptor(CXCR4),transcript variant 1,mRNA; NCBI Reference Sequence: NM_001008540、
・Homo sapiens C-X-C motif chemokine receptor(CXCR4),transcript variant 2,mRNA; NCBI Reference Sequence: NM_003467、
・Homo sapiens C-X-C motif chemokine receptor(CXCR4),transcript variant 3,mRNA; NCBI Reference Sequence: NM_001348056、
・Homo sapiens C-X-C motif chemokine receptor(CXCR4),transcript variant 4,mRNA; NCBI Reference Sequence: NM_001348059、
・Homo sapiens C-X-C motif chemokine receptor(CXCR4),transcript variant 5,mRNA; NCBI Reference Sequence: NM_001348060
が挙げられる。CXCR4アンタゴニストには、
・上記のようなアミノ配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
・上記のようなアミノ配列と一定の配列同一性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または98%以上の配列同一性)を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
・上記のような塩基配列を有する遺伝子、
・上記のような塩基配列と一定の配列同一性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または98%以上の配列同一性)を有する塩基配列を有する遺伝子
の翻訳および転写の少なくとも一方を阻害することのできる核酸分子などが含まれる。
【0070】
「CXCR4アンタゴニスト」には、例えば、抗体および抗体フラグメントならびに低分子化合物が含まれる。CXCR4アンタゴニストは、例えば、抗CXCR4抗体およびCXCR4阻害剤である。公知のCXCR4阻害剤として、例えば、オクタヒドロクロライド(CAS:155148-31-5、Plexafor、AMD3100)が挙げられる。
【0071】
(MMP-9アンタゴニスト)
MMP-9は、細胞増殖因子の細胞外ドメイン分泌を制御するマトリックスメタロプロテナーゼである。「MMP-9アンタゴニスト」に関連して、標的分子である「MMP-9」の「生物学的活性」とは、例えば、細胞外マトリックスの構成成分を分解する能力である。MMP-9アンタゴニストは、例えば、MMP-9を特異的に認識して結合し、MMP-9のゼラチナーゼ活性を抑制する能力に基づいて同定され得る。
【0072】
MMP-9アンタゴニストは例えば、MMP-9タンパク質をコートしたプレートを、試験化合物の存在下および不存在下でインキュベートし、ゼラチナーゼ活性を測定することによって同定することができる。試験化合物が無い場合と比較して試験化合物が有る場合の方が、ゼラチナーゼ活性レベルが低ければ、その試験化合物はMMP-9アンタゴニストである。
【0073】
「MMP-9アンタゴニスト」の例には、天然MMP-9ポリペプチド全体もしくは天然MMP-9ポリペプチドサブユニットに対する中和抗体、免疫グロブリン定常領域配列と融合したMMP-9サブユニットを含む免疫付着因子、小分子、天然MMP-9ポリペプチド全体もしくは天然MMP-9ポリペプチドサブユニットに結合するアプタマー、天然MMP-9ポリペプチド全体もしくはそのサブユニットをコードする遺伝子の翻訳および転写の少なくとも一方を阻害することのできる核酸分子(例えば、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、デコイおよびリボザイム)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0074】
ここで、天然MMP-9ポリペプチドのアミノ酸配列は、当該分野で既知のデータベースから取得することができる。天然MMP-9ポリペプチドのアミノ酸配列としては例えば、
・Mus musculus matrix metalloproteinase-9 preproprotein,NCBI Reference Sequence: NP_038627、
・Homo sapiens matrix metalloproteinase-9 preproprotein,NCBI Reference Sequence: NP_004985
が挙げられる。MMP-9アンタゴニストには、このような配列を有するポリペプチドを特異的に認識する抗体およびその断片や、当該配列と一定の配列同一性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または98%以上の配列同一性)を有するポリペプチドを特異的に認識する抗体およびその断片などが含まれる。
【0075】
天然MMP-9ポリペプチドをコードする遺伝子の塩基配列としては例えば、
・Mus musculus matrix metallopeptidase 9(Mmp9),mRNA; NCBI Reference Sequence: NM_013599、
・Homo sapiens matrix metallopeptidase 9(Mmp9),mRNA; NCBI Reference Sequence: NM_004994
が挙げられる。MMP-9アンタゴニストには、
・上記のようなアミノ配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
・上記のようなアミノ配列と一定の配列同一性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または98%以上の配列同一性)を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
・上記のような塩基配列を有する遺伝子、
・上記のような塩基配列と一定の配列同一性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上または98%以上の配列同一性)を有する塩基配列を有する遺伝子
の翻訳および転写の少なくとも一方を阻害することのできる核酸分子などが含まれる。
【0076】
「MMP-9アンタゴニスト」には、例えば、抗体および抗体フラグメントならびに低分子化合物が含まれる。MMP-9アンタゴニストは、例えば、抗MMP-9抗体およびMMP-9阻害剤である。公知のMMP-9阻害剤として、例えば、SB-3CT(CAS:292605-14-2)、AG-L-66085(CAS 1177749-58-4)およびレプトマイシンB(LMB)(CAS:87081-35-4)が挙げられる。
【0077】
本明細書において、「抗体」の語は最も広い意味で使用され、特にモノクローナル抗体(例えば中和抗体および作動性抗体)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)および抗体フラグメントが含まれる。目的とする生物学的活性を示す限り、モノクローナル抗体には、キメラ抗体および当該抗体のフラグメントが含まれる。キメラ抗体は、重鎖あるいは軽鎖もしくはその両方の一部分が、特定の種由来の抗体、あるいは特定の抗体クラスあるいはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一であるかまたは相同であり、残りの鎖は別の種由来の抗体ならびにこのような抗体のフラグメント、あるいは別の抗体クラスあるいはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一であるもしくは相同であるものである(米国特許第4,816,567号明細書; Morrison et al.,Proc Natl.Acad.Sci.USA,81:6851-6855、1984)。さらにモノクローナル抗体には、非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含む、「ヒト化」抗体またはフラグメントが含まれ、当該フラグメントとしては、例えば、Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2、その他抗体の抗原結合部分配列が挙げられるがこれらに限定されない。一態様において、ヒト化抗体は、受容者のCDR由来の残基が、所望の特異性、親和性、能力を持つ非ヒト種(供与体抗体)のCDR由来の残基に置き換わっているヒト免疫グロブリン(受容者抗体)であってもよい。非ヒト種の例には、マウスもしくはラット、ウサギ等がある。一例では、ヒト免疫グロブリンのFv、FR残基は、非ヒトの対応する残基に置換されている。ヒト化抗体は受容者抗体に導入されたCDRまたはフレームワーク配列にもみられない残基を含んでいてもよい。これらの修飾は、抗体の性能を向上させる目的で行われる。一般に、ヒト化抗体は実質的にあらゆる、1つ以上、典型的には2つの可変ドメインを含み、ここで、全てのもしくは実質的に全てのCDR領域が非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に相当し、且つ全ての、もしくは実質的に全てのFR領域がヒト免疫グロブリン配列のFR領域である。また最適なヒト化抗体は免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部を含み、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域を含む。ヒト化抗体には霊長類化抗体が含まれてもよい。詳細は、当該分野で公知の文献、例えば、Jones et al.,Nature,321:522-525(1986)およびReichmann et al.,Nature,332:323-329(1998)などに記載される。
【0078】
「抗体フラグメント」には、全長抗体の一部分、一般的にはその抗原結合領域または可変領域が含まれる。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2及びFv断片;単一鎖抗体分子;ダイアボディ;直鎖状抗体;単鎖抗体分子及び抗体断片から形成された多重特異性抗体が含まれる。
【0079】
「モノクローナル抗体」の語は、実質的に均質な抗体、すなわち母集団を含むそれぞれの抗体がわずかに存在してもよい天然に生じ得る変異を除いて同等であるような母集団から得られる抗体を指す。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位を指向する。更に、典型的には異なる決定基(エピトープ)に向けられた異なる抗体を含む慣用の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に向けられている。
【0080】
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」の語は、配列特異的な方法で標的遺伝子の転写または翻訳、もしくはその両方を阻害することができる核酸分子として定義される。「アンチセンス」の語は、その核酸が標的遺伝子のコーディング(「センス」)遺伝子配列に対して相補的であることを指す。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ワトソン-クリック塩基結合によって逆平行方向に新生mRNAとハイブリダイズする。標的mRNA鋳型と結合することによって、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、コードされているタンパク質の翻訳の達成を阻害する。この語には特に「リボザイム」と呼ばれるアンチセンス薬剤が含まれ、これは自然自己スプライシング活性を持つ配列を加えることによって標的RNAの触媒切断を誘導するように設計されたものである(例えば、W arzocha et al.,Leuk.Lymphoma 24:267-281[1997]参照)。
【0081】
一態様において、MMP-9の活性を阻害する化合物は、抗Ym1抗体、Ym1阻害剤、抗Lcn2抗体、Lcn2阻害剤、抗CXCR4抗体、CXCR4阻害剤、抗MMP-9抗体、MMP-9阻害剤、抗CD88抗体、CD88阻害剤、抗CD157抗体およびCD157阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つである。好ましい態様において、MMP-9の活性を阻害する化合物は、抗Lcn2抗体、Lcn2阻害剤、抗CXCR4抗体、CXCR4阻害剤、抗MMP-9抗体、MMP-9阻害剤、抗CD88抗体、CD88阻害剤、抗CD157抗体およびCD157阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つである。
【0082】
好ましい態様において、がん転移が、急性炎症または原発腫瘍に対する治療的介入によって生じたがん転移である。ここで、原発腫瘍に対する治療的介入は、例えば、外科的切除、化学療法および放射線療法からなる群より選択され、好ましくは、外科的切除、より好ましくは、原発腫瘍の切除である。
【0083】
一態様において、Ym1+Ly6C+単球を有する対象は、がん、炎症性疾患および自己免疫疾患からなる群より選択される少なくとも1つに罹患している。別の一態様において、Ym1+Ly6C+単球を有する対象は、がんに罹患している。
【0084】
本発明に係る医薬組成物には、典型的には、製薬上に許容される添加剤、例えば、当該分野で既知の賦形剤、結合剤、滑沢剤、溶剤、希釈剤、安定化剤、等張化剤などを含んでよい。賦形剤としては、例えば澱粉、乳糖、メチルセルロース、結晶セルロース、合成珪酸アルミニウムなど、結合剤としては、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなど、滑沢剤としては、例えばタルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムなど、等張化剤としては塩化ナトリウム、ブドウ糖、グリセロール、マンニトールなどが用いられる。
【0085】
本発明に係る医薬組成物は、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、注射剤、液剤、坐剤などに製剤化され、例えば、経口、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内により投与することができる。本発明に係る医薬組成物の投与量は、対象の年齢、体重、病状などによって異なる。
【0086】
本発明にかかる組成物は、更なる医薬組成物と組み合わせた、組合せ剤として用いられてもよい。組合せ剤に関し、それぞれの医薬組成物における成分(すなわち、第1の有効成分および第2の有効成分)は、一緒に、順々にまたは個別に、1つの組み合わせ単位剤形または個別の2つの単位剤形で投与されてもよい。治療有効量の、本発明にかかる組合せ剤の各有効成分が、同時に、個別に、または、任意の順序で、順次にもしくは連続して投与されてもよい。組合せ剤において、第1の有効成分および前記第2の有効成分が複数のユニットで存在してもよい。組合せ剤には、例えば、それぞれの有効成分と使用指示とを含むキットも含まれる。
【0087】
本発明の第2の側面は、MMP-9活性化経路を阻害する組成物に関し、該MMP-9活性化経路は、Ym1+Ly6C+単球、CXCR4およびMMP-9を含み、前記組成物は、MMP-9の活性を阻害する化合物を含む。好ましい態様において、前記MMP-9活性化経路は、Lcn2、CD88およびCD157から選択される少なくとも1つをさらに含む。
【0088】
本発明の第3の側面は、がん転移のリスクの評価方法に関し、当該方法は、
(i)治療的介入前の対象の末梢血サンプル中の白血球に対するYm1+Ly6C+単球の割合R1を測定すること、
(ii)治療的介入後の前記対象の末梢血サンプル中の白血球に対するYm1+Ly6C+単球の割合R2を測定すること、
(iii)前記測定した割合R1と、前記測定した割合R2とを比較すること
を含む、がん転移のリスクの評価方法を含む。一態様において、工程(iii)における比較において、割合R2が割合R1よりも増加している場合、がん転移の可能性が存在すると同定する。
【0089】
本明細書において、がん転移のリスクの評価には、例えば、がん転移の可能性の評価、がん転移のリスクの予測、および、がん転移の可能性の予測と同義に使用される。
【0090】
前記(i)および/または(ii)における測定は、典型的には、フローサイトメトリーによって行われる。好ましい態様において、前記(i)および(ii)の双方における測定が、フローサイトメトリーによって行われる。
【0091】
上記がん転移のリスクの評価方法は、対象におけるがんの予後の観察に使用することができる。
【0092】
本発明の別の側面は、がん転移の可能性を予測するためのキットに関する。当該キットは、がん転移の可能性を評価または予測するためのキットである。本キットは、例えば、抗Lcn2抗体、抗CD88抗体、抗CD157抗体、抗CXCR4抗体および抗MMP-9抗体から選択される少なくとも1つを含む。当該キットを使用する場合、対象の末梢血サンプル中の白血球に対するYm1+Ly6C+単球の割合を検出することができる。好ましくは、治療的介入前の対象の末梢血サンプル中の白血球に対するYm1+Ly6C+単球の割合R1と、治療的介入後の前記対象の末梢血サンプル中の白血球に対するYm1+Ly6C+単球の割合R2とを比較することを含んでよい。
【0093】
本発明のさらに別の側面は、MMP-9を阻害する化合物を含む組成物に関する。当該組成物において、MMP-9を阻害する化合物は、抗Lcn2抗体、Lcn2阻害剤、抗CD88抗体、CD88阻害剤、抗CD157抗体、CD157阻害剤、抗CXCR4抗体、CXCR4阻害剤、抗MMP-9抗体およびMMP-9阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つである。当該組成物において、MMP-9を阻害する化合物は、複数を組み合わせて含んでもよい。かかる組成物は、例えば、Ym1+Ly6C+単球の検出に使用されてもよい。
【0094】
以上、本発明を実施するための形態を例示したが、上記実施形態はあくまでも例として示されるものであり、発明の範囲を限定することを意図するものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。以下、更なる説明の目的として実施例を記載するが、本発明は当該実施例に限定されるものではない。
【実施例0095】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0096】
<方法>
(マウス)
C57BL/6Jマウスは、CLEA Japan,Inc.CD204-DTRノックインマウス(参考文献32)、Ym1-DTRノックインマウス、Ym1-Venusマウス、およびLcn2-/-マウスから得た(参考文献22および40)。ここに記載したマウスを用いた実験はすべて、東京薬科大学生命科学動物使用委員会(L18-22、L18-23、L19-20、L19-21、L20-17およびL20-18)の承認を受け、適用されるガイドラインおよび規則に従って実施した。
【0097】
(試薬)
炎症の誘発には、リポ多糖類(LPS; E.coli、O111:B4)(Sigma)、CpGモチーフを含む合成オリゴヌクレオチドであるCpG-ODN(ODN1668; Hokkaido System Science)、Poly(I:C)(GE Healthcare Life Sciences)を用いた。単球および/または好中球の枯渇には、抗Gr-1(クローンRB6‐8C5、自家精製)または抗Ly6G(クローン1A8; BioXCell)を用いた。MMP-9活性の阻害にはSB-3CT(東京化学工業)を、CXCR4の阻害にはAMD3100(シグマ)を用いた。た。ジフテリア毒素(DT)はシグマから購入した。血清中のIL-6およびTNF-α濃度の検出のために、ELISA MAX(商標)標準セットをBioLegend社から購入した。
【0098】
細胞表面マーカー発現の解析には、以下のAbsを用いた:抗CD11b-PE(クローンM1/70)、抗CD62L-PE(クローンMEL-14)、抗F4/80-PE(クローンRM8)、抗C5aR-PE(クローン20/70)、抗MHC-II-PE(クローンM5.114.15.2)、抗VCAM1-PE(クローン429(MVCAM.A))、抗Ly6G-PE(クローン1A8)、抗CXCR4-APC(L276F12)、および抗Treml4-PE(クローン16E5)。抗PD-L1-PE(クローンMIH5)はThermo Fisher Scientific社から購入した。抗CD204-PE(クローンREA148)はMiltenyi Biotec社から購入した。抗CXCR2-APC(クローン242216)および抗CCR2-APC(クローン475301R)は、R&Dシステムズ社から購入した。抗CD131-PE(クローンJORO50)は、BDバイオサイエンスから購入した。
【0099】
(細胞株)
マウスメラノーマ細胞株B16F10(理研セルバンク、茨城、日本)を、10%ウシ胎児血清(FBS)及び100単位/mLのペニシリン-ストレプトマイシンを添加したRPMI1640培地で、5%CO2加湿培養器中、37℃で維持した。
【0100】
(細胞の調製)
BM単球は、セルソーターまたはMonocyte Isolation Kit (#130-100-629 Miltenyi Biotech社)により単離した。セルソーターを用いたBM単球単離のために、WT-又はYm1-Venusマウス由来のBM細胞を抗CD16/32(クローン93)とインキュベートした後、ビオチン化抗-Lin (CD4(クローンGK1.5)、CD8(クローン53-6.7)、B220(RA3-6B2)、NK1.1(クローンPK136)、Ly6G(クローン1A8)及びTer119(クローンTER-119))抗体をMACS緩衝生理食塩水(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、pH 7.2;2mM EDTA;0.5%ウシ血清アルブミン)中でカクテルとインキュベートし、続いて抗ビオチンマイクロビーズ(#130-090-485 MLin+細胞を、磁気選別(オートMACSプロセパレーター、Miltenyi Biotech)によって枯渇させた。Lin細胞を、抗CD45.2-PE-Cy7(BioLegend、クローン104)、抗Ly6G-APC (BioLegend、クローン1A8)、抗CD115-Brilliant Violet 421(BioLegend、クローンAFS98)および抗Ly6C-PE(BioLegend、クローンHK1.4)抗体で染色し、次いでセルソーター(SH800、SONY、またはAriaIII、BD Biosciences)によって分画した。
【0101】
肺における単球および腫瘍細胞の数の分析のため、仕分けられた単球およびB16細胞を、製造のプロトコールに従って、それぞれPKH-26(赤色蛍光)およびPKH-67(緑色蛍光)(シグマ)で染色した。肺細胞の単離のために、肺を断片化し、消化液(0.2U/mLリベラーゼTL (#5401020001、ロシュ社)、HBSS中のDNase I 1μg/mL(#DN25、シグマ社))を含む円錐管に移した。サンプルを25分間攪拌下、37℃でインキュベートした。インキュベーション後、細胞をピペッティングにより分散させ、遠心分離によりペレット化した。その後、細胞をMACS緩衝液で洗浄した。赤血球を枯渇させるために、細胞をBD Pharm Lyse(商標)-Lysing Buffer (BD Biosciences)で処理した後、MACS緩衝液で洗浄した。末梢血単核球の分析のために、末梢血をEDTA含有チューブで採取した。その後、BD Pharm Lyse(商標)-Lysing Bufferで赤血球を溶解した。
【0102】
(実験的転移アッセイ)
B16細胞(1×10
5細胞)を、WTマウス、CD204‐DTRマウスまたはYm1‐DTRマウスに静脈内注射し、肺転移を作製した。B16の肺転移を反映する結節数を目視で計測した。肺におけるメラノーマ関連mRNA発現を評価するため、製造業者のプロトコールに従い、FavorPrep Total RNA Extraction Column (Favorgen)でスナップ凍結肺組織由来の全RNAを抽出した。qRT-PCR用に、cDNAをReverTra Ace(TOYOBO)を用いて合成した。THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(TOYOBO)で、qRT-PCRをcDNA上で行った。発現レベルは18sリボソームRNA(rRNA)に対して標準化した。以下のプライマーを各遺伝子に使用した:
【表1】
【0103】
腫瘍切除による実験的転移アッセイのために、1×106のB16細胞をWTマウスの背部皮下に移植した。移植の6または7日後に、麻酔下のマウスに、皮膚切開を通して腫瘍組織切除を行った。24時間後、B16細胞(1×105細胞)を静注し、肺転移を生じた。B16の肺転移は上記のように推定された。
【0104】
(X線照射)
B16細胞(1×106 細胞)をWTマウスの背部皮下に移植した。移植後7~8日目に、麻酔下のマウスを、移植された腫瘍を露出させることができるように特注のハーネスに固定したが、身体の残りは3.5cmの鉛により遮蔽した。マウスをFaxitron CP‐160照射器(Faxitron X―ray Corporation)で照射した。
【0105】
(定量RT-PCR(qRT-PCR))
Ym1
+MoまたはYm1
-MoにおけるmRNAレベルの解析のために、仕分けられたYm1
+またはYm1
-Mo RNAを抽出し、cDNAに変換し、上記のようにcDNA上でqRT-PCRを実施した。発現レベルは18s rRNAに正規化した。以下のプライマー配列を各遺伝子に使用した。
【表2】
【0106】
(RNAシークエンシング)
選別した細胞を溶解し、それらの全RNAをRNeasy Miniキット(QIAGEN)で抽出した。全RNAの500ピコグラムを、SMART―Seq v4超低入力RNAキット(TAKARA)およびネクステラXT DNAライブラリー調製キット(Illumina)を用いて、RNA配列解析のためのDNAライブラリー調製に供した。シークエンシングは、NextSeq 500シークエンサー(Illumina社)を用い、75bpの一端読影モードで行った。100万読取りあたりのエキソンのキロベースあたりの断片(FPKM)を有するデータを、配列読取りのマッピング後のさらなる分析に用いた。AltAnalyzeを用いてRNA配列決定のPCA解析を行った。Rパッケージlimmaを用いて、差次的に発現する遺伝子を同定した。PCA解析のために、BMナイーブ単球、Ym1+Ly6Chi単球およびYm1-Ly6Chi単球のRNAシーケンスデータを、Gene Expression Omnibusデータベース(アクセッション番号GSE118032)(参考文献22)から検索した。
【0107】
(ウェスタンブロット法)
肺を、プロテナーゼ阻害剤(#11836145001、ロシュ)と共にRIPA緩衝液(50mM Tris HCl 、pH7.4、1% NP-40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS、150mM NaCl)中で、3800rpmで4サイクル、および1サイクル当たり0.2秒間、ホモジナイザー(Bioprep-6、Allsheng、杭州、中国)で徹底的に均質化した。10mgの組織には、500μLのRIPA緩衝液を用いた。氷上で30分後、サンプルを10,000×gで20分間、4℃で遠心分離し、上清中のタンパク質濃度を、ビシンコニン酸(BCA)タンパク質アッセイ(#23225、Thermo Fisher Scientific)を使用して決定した。各試料からの等量のタンパク質をSDS‐ポリアクリルアミドゲル電気泳動に負荷し、分離し、PVDF膜上に移した。イムノブロットをブロッキング緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の5%スキムミルク)と0.1% Tween 20(PBST)とで60分間室温でインキュベートし、抗シトルリン化ヒストンH3(#ab5103、Abcam)または抗GAPDH mAb-HRP-DirecT(#M171-7、Medical & Biological Laboratories)で、4℃で一夜プローブした。次に、免疫ブロットをPBST中で5分間3回洗浄し、ブロック緩衝液中でポリクローナルヤギ抗ウサギIgG-HRP(#P0448、Dako)と30分間インキュベートし、再びPBST中で3回洗浄した。免疫検出はSuperSignal(商標) West Pico PLUS Chemiluminescent Substrate (#34580、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて行った。
【0108】
(免疫組織化学)
肺を採取し、OCT化合物(SECTION-LAB、日本)に包埋した。切削表面を粘着フィルム(Cryofilm type IIC9、SECTION-LAB、Japan)で、凍結区間(5μm)をミクロトーム(CM3050S Leica Microsystems、Germany)で調製した。得られた切片を100% EtOHで10秒間、4% PFA/PBS(-)で10秒間ポスト固定し、PBS(-)で20秒間洗浄し、TNB Blocking Buffer (0.1M Trizma Base、pH7.5、0.15M NaCl、0.5%(w/v)遮断試薬(PerkinElmer、FP1020))と室温で1時間インキュベートした。次いで、切片を、抗シトルリン化ヒストンH3抗体(1/250)、またはMPO抗体(#AF3667、R&D Systems、1/100)とともに、TNBブロック緩衝液中で室温1時間インキュベートした。PBS(-)による3回の洗浄後、切片をロバ抗ウサギIgG-Cy3(#406402、Biolegend、1/1000)、またはロバ抗ヤギIgG-Alexa 488(#705-545-003、Jackson ImmunoResearch、1/1000)とともに、TNB Blocking Buffer中で室温の暗所で1時間インキュベートした。PBS(-)で2回、水で1回洗浄した後、切片をDAPIで対比染色し、スライドを装着媒体(FluorSave Reagent、345789、Merck Millipore)を用いてカバースリップで覆った。
【0109】
(ゼラチンザイモグラフィー)
単球からの調整培地(5×106 細胞/mL、プラスチック上で24時間増殖させたアドバンストRPMI1640培地(Thermo Fisher Scientific)を含む24ウェルプレート中)を、負荷緩衝液(0.125M Tris、pH 6.8、4% SDS、20%グリセロール、0.01%ブロモフェノールブルー)と4:1の比率で混合した。その後、サンプルをNovex(商標)10%ザイモグラムプラス(ゼラチン)タンパク質ゲル(#ZY00102BOX、Thermo Fisher Scientific社)に装填した。電気泳動後、ゲルを水で2回洗浄し、洗浄緩衝液(50mM Tris、pH 7.5、0.016% NaN3、2.5% Triton X-100、5mM CaCl2、1μM ZnCl2)中、室温で30分間インキュベートした。次に、37℃で10分間インキュベーション緩衝液(50mM Tris、pH7.5、0.016%NaN3、1% Triton X-100、5mM CaCl2、1μM ZnCl2)でゲルをリンスし、37℃で16時間、インキュベーション緩衝液中でインキュベートした。ゲルを0.5%クマシーブルーR-250(#031-17922、和光;40%エタノール及び10%酢酸で希釈)で染色し、40%エタノール及び10%酢酸で脱色した。
【0110】
(侵入アッセイ)
LPS処理WTまたはYm1-Venusマウスから選別したLy6C+単球(2または5×106/mL)を無血清培地(Advanced‐RPMI1640、サーモフィッシャーサイエンティフィック)で37℃、5% CO2で24時間インキュベートした。培養上清を遠心した(10,000×g、4℃で30分)。侵入アッセイのために上清を採取した。ヒトメラノーマ細胞株A375(ATCC-CRL-1619、1×106/mL)を無血清培地(RPMI1640、和光)に懸濁し、単球培養上清の有無にかかわらず、マトリゲル(コーニング社、バイオコート354480)でコーティングした24ウェルトランスウェルチャンバーの上部チャンバーに添加した。下のチャンバーには、化学誘引物質として0.1%のFBSを含むRPMI1640が含まれていた。分析は、37℃、5% CO2で24時間実施した。インキュベーション終了時、フィルター上面の非侵入細胞を機械的に除去した。マトリゲルと8μm孔膜を移動した侵入細胞を4%パラホルムアルデヒド/PBSで5分間固定し、0.1%クリスタルバイオレット(WAKO)で20分間染色した。侵入細胞の割合は、BZ-X710ソフトウェア(Keyence)を用いて算出した。
【0111】
(統計)
分散分析(ANOVA)とその後の多重比較、またはプリズム(GraphPadソフトウェア、CA)によるt検定のいずれかによってデータを分析した。P値<0.05を有意とみなした。
【0112】
(Ym1陽性制御性単球選択的に発現する表面マーカーの同定)
Ym1-Venusマウスから、LPS投与48時間後の骨髄細胞を回収し、1xPharmLyse(BD Pharmingen)で赤血球を溶血した。残りの白血球を、抗CD115抗体、抗Ly6C抗体、抗Ly6G抗体および抗CD11b抗体と、約250種類のパネル抗体(LEGENDSCreen Mouse PE Kit)で染色し、フローサイトメトリー(FACS)で解析した。死細胞は7-AAD(BioLegend)で除去した。Ly6G陰性Ly6C陽性単球を、さらにYm1-Venus陽性単球とYm1-Venus陰性単球に分けた。
【0113】
野生型マウスの骨髄細胞を、抗CD115抗体、抗Ly6C抗体、抗Ly6G抗体、抗CD11b抗体、抗CD88抗体および抗CD157抗体で染色した。定常状態とLPS投与48時間後の野生型マウスの骨髄の好中球(Ly6G陽性)、Ly6C陽性Ym1陽性単球、Ly6C陽性Ym1陰性単球における、CD88およびCD157の発現量をフローサイトメトリーで解析した(
図15B)。この項で使用した抗体および7-AADはBioLegendから購入した。
【0114】
野生型マウスにLPSを投与し、48時間後の骨髄細胞を、抗CD11b抗体、抗Ly6G抗体、抗Ly6C抗体、抗CD115抗体、抗CD88抗体、抗CD157抗体およびEMAで染色した。Fix/Permバッファー(BioLegend)で細胞を固定、透徹した。それらの細胞をビオチン結合抗Ym1抗体、続けてPE標識ストレプトアビジンと反応させ、Ym1発現量をフローサイトメトリー(FACS Vers)で解析した(
図15C)。
【0115】
LPS投与48時間後の骨髄から、CD88/CD157二重陽性単球(double-positive,DP)および二重陰性単球(double-negative,DN)を分取し、Ym1遺伝子(Chil3)およびその他のYm1陽性単球関連遺伝子(Mmp9)、M1関連遺伝子(Nos2、Tnf、Il6)、M2関連遺伝子(Arg1、Il10)の発現レベルをPCRで定量した(
図15D)。
【0116】
<結果>
図1の説明
図1A~1D:TLRリガンドの肺転移に及ぼす影響
(
図1A)TLRリガンドが転移進行に及ぼす影響を解析するための実験デザイン。WTマウスにPBS(Ctrl)、LPS20μg、CpG-ODN(CpG)100μg、またはPoly(I:C)100μgのいずれかを注射し、6時間後にB16細胞(1x10
5細胞)をi.v.注射した。8日目の転移について肺を分析した。
(
図1B)8日目の肺の代表的な画像。
(
図1C)8日目の肺転移数の定量的集計。
(
図1D)B16メラノーマ細胞特異的遺伝子のmRNA発現量をqRT-PCR法で測定し、対照肺と比較して倍率変化として示した。平均値をSDで示す。一元配置分散分析後にダネット検定、n=5~9(CおよびD)。**** P<0.001;n.s.、有意差なし。各記号は個々の動物を表している。
【0117】
図1E~1G:肺転移に対する免疫細胞欠失の影響
(
図1E)転移進行に対する抗Gr-1 mAbおよび抗Ly6G mAbの効果を試験するために用いた実験デザイン。WTマウスに1日目にLPS20μgを注射し、6時間後にB16細胞(1×10
5細胞)をi.v.注射した。好中球単独(抗Ly6G)、または単球と好中球(抗Gr-1)の欠失のために、指定されたmAbまたはPBS(対照(Ctrl))の50μg/日を0日目から8日目までこれらのマウスに注射した。転移に関し、Day 8に肺を分析した。
(
図1Fおよび1G)肺転移個数の定量的集計(左)および肺転移の効果の代表的な画像(右)。平均値をSDで示す。対応のない両側t検定、n=4(
図1Fおよび1G)。** P<0.01;n.s.、有意差なし。各記号は個々の動物を表している。
【0118】
図1H~1J:CD204-DTRマウスにおける肺転移数の減少
(
図1H)転移進行に対するCD204細胞の寄与を検証するために用いられる実験デザイン。WTおよびCD204-DTRマウスにLPS20μgを静脈内注射した。6時間後、B16細胞を静脈内注射し、続いて1日目と4日目にDT(500ng/注射)をi.p.注射した。9日目に肺の転移を分析した。
(
図1I)9日目の肺転移数の定量的集計。
(
図1J)肺における指定された遺伝子のmRNA発現レベルは、DT処理WTマウスの肺に対する相対比較として示される。平均値をSDで示す。対応のない両側t検定、n = 5(JおよびK)。** P<0.01; *P <0.05。各記号は個々の動物を表している。
(
図1K)WTマウスに抗Gr‐1 mAb (50μg/注射)を-24と0時間で腹腔内(i.p.)注射し、0時間でLPSを静脈内注射した。LPS注射の1、3、6、20時間後に血清を採取した。血清サイトカイン濃度はELISAで測定した。平均値をSDで示す。各時点における対応のない両側t検定、LPS注射との比較、n=3~4。**P<0.01; *P<0.05; n.s.、有意差なし。
【0119】
図1L~1O:LPS Mo移入マウスの肺転移数の増加
(
図1L)転移進行に対する単球移入の効果を検証するために用いられる実験デザイン。WTマウスに、ナイーブマウス(ナイーブMo)またはLPS処理マウス(LPS Mo) (5x10
5細胞)のいずれかから調製した進行RPMI1640(Ctrl)またはLy6C
+単球を静脈内に移入した。24時間後、B16細胞を静脈注射した。Day 8に肺転移の有無を解析した。
(
図1M)Day 8の肺転移個数の定量的集計。
(
図1N)肺の代表的な画像。
(
図1O)肺における示された遺伝子のmRNA発現レベルは、対照肺と比較して倍率変化として示される。平均値をSDで示す。一元配置分散分析後にDunnett検定、n=6-10(MおよびO)。**** P<0.001; ** P<0.01; n.s.、有意差なし。各記号は個々の動物を表している。
【0120】
図1Pおよび1Q:LPSの鼻腔内(i.n.)注射は肺におけるNET形成を誘導するが、i.v.注射は誘導しない。WTマウスにLPS(それぞれ20または10μg)をi.v.またはi.n.注射した。24時間後、肺を分析した。
(
図1P)LPS投与マウスの肺におけるヒストンH3(citH3)のシトルリン化のウェスタンブロット解析肺組織のウェスタンブロット分析を、材料および方法に記載されているように実施した。
(
図1Q)LPS処理WTマウス由来の肺切片の免疫組織化学画像は、LPSで処理したマウスの肺におけるミエロペルオキシダーゼ(MPO:緑)、citH3(赤)、およびDAPI(青)の代表的な免疫染色を示す。元の倍率、×20(上部パネル)、×100(下部パネル)。示されたデータは2つの独立した実験の代表である。
【0121】
図2の説明
図2A~2C:WT(青色の陰影部分)またはYm1-Venusマウス(赤色)における肺細胞のフローサイトメトリー分析。PBS(Ctrl)、LPS、CpG、またはPoly(I:C)を、WTまたはYm1-Venusマウスに静脈注射した。48時間後、肺細胞をCD45.2、CD11c、CD11b、Ly6G、MHCIIおよびLy6Cについて染色し、
図7Aに記載されているようにフローサイトメーターによって分析した。CD45.2
+CD11c
-CD11b
+MHCII
-Ly6C
+細胞(R1;Ly6C
+単球)またはCD45.2
+CD11c
-CD11b
+MHCII
-Ly6C
+細胞(R2;Ly6C
-単球)のYm1
-細胞のパーセンテージを示している(
図2A)。Ly6C
+単球(
図2B)とYm1
+Ly6C
+単球(
図2C)の絶対数(lung 単位)。平均値をSDで示す。一元配置分散分析後にDunnett検定、n=3~5。****P<0.001; ***P<0.005; **P<0.01;n.s.、有意差なし。
【0122】
図2D~2F:Ym1
+Ly6C
+単球非存在下における肺転移個数の減少。
(
図2D)転移進行に対するYm1
+細胞の寄与を検証するために用いられる実験デザイン。WT-およびYm1-DTRマウスにLPSを静脈内注射した。6時間後、B16細胞を静脈内注射し、続いて1日目と4日目にDT(500ng/注射)をi.p.注射した。9日目に肺の転移を分析した。
(
図2E)肺の転移個数の定量的集計(左)、肺転移の代表的な画像(右)。
(
図2F)肺における示された遺伝子のmRNA発現レベルは、DT処理WTマウスの肺との相対比較として示される。平均値をSDで示す。対応のない両側t検定、n=9~10。**P <0.01; *P<0.05.各記号は個々の動物を表している。
【0123】
図2G~2J:Ym1
+Ly6C
+単球移入マウスの肺転移個数の増加。
(
図2G)Ym1
+Ly6C
+またはYm1
-Ly6C
+単球(それぞれYm1
+MoまたはYm1
-Mo)の移入が転移進行に及ぼす影響を試験するために使用される実験的デザイン。Ym1
+Ly6C
+とYm1
-Ly6C
+単球を、LPS(20μg)処理の48時間後にYm1-VenusマウスのBMからソートした。WTマウスに、Advanced-RPMI1640培地(Ctrl)、Ym1
+MoまたはYm1
-Mo(5x10
5細胞)を静脈内注射した。24時間後、B16細胞(1×10
5細胞)を静脈内注射した。9日目、肺の転移を解析した。
(
図2H)セルソートのため、BMにおけるYm1
+MoまたはYm1
-Moを同定した。試料を生きたCD45.2
+細胞でプレゲートした。
(
図2I)肺転移個数の定量的集計(左)、肺転移の代表画像(右)。
(
図2J)肺における示された遺伝子のmRNA発現レベルは、対照肺と比較して倍率変化として示される。平均値をSDで示す。一元配置分散分析後にDunnett検定、n = 5-7(
図2Iおよび2J)。**** P<0.001; *** P<0.005; ** P<0.01; n.s.、有意差なし。各記号は個々の動物を表している。
【0124】
図3の説明
(
図3A)Ym1-VenusマウスにLPS(20μg)を静脈内注射した。48時間後、肺におけるYm1
+ MoまたはYm1
- Moの表面マーカーの発現をフローサイトメトリーで解析した。黒い線はアイソタイプコントロールを示す。
(
図3B~3D)肺とBMにおけるYm1
+MoまたはYm1
-Moの遺伝子発現プロファイルを、RNA配列解析により網羅的に比較した。
図3BはPCAの結果を、
図3Cはボルケーノプロットを、
図3Dは発現遺伝子のヒートマップを示す。
(
図3E)Ym1
+MoおよびYm1
-MoでのmRNAの発現量。Ym1-VenusマウスにLPS(20μg)を静脈内注射し、6時間後にB16細胞(1×10
5細胞)を静脈内注射した。Ym1
+MoおよびYm1
-Moは、LPS処置後48時間にYm1-VenusマウスのBMから選別した。mRNAレベルの発現を分析した。平均値をSDで示す。対応のない両側t検定、n=3。**** P<0.001; ***P<0.005、*P<0.05。
【0125】
図4の説明
(
図4A)単球の培養上清のゼラチンザイモグラフィー。未処理またはLPS処理のWTマウス(左)から分離したLy6C
+単球、あるいはLPS処理のYm1-Venusマウス(右)から分離したYm1
+またはYm1
-Ly6C
+単球(右)を24時間培養した。培養上清のゼラチナーゼ活性を測定した。実験を2回繰り返し、同様の結果を得た。
(
図4B)ナイーブまたはLPS処理WTマウスから単離したLy6C
+単球の培養上清存在下での癌細胞の浸潤アッセイ平均値をSDで示す。一元配置分散分析後にTukey検定、n=3。*P<0.05; n.s.、有意差なし。各記号は個々の動物由来培養上清を表す。
【0126】
図4C~4E:LPS促進転移進行に対するMMP-9阻害薬の効果。
(
図4C)転移の初期ポイントに注射されたMMP-9阻害薬の効果を検証するために用いられた実験デザイン。WTマウスに0日目にLPS20μgを注射し、6時間後にB16細胞(1×10
5細胞)をi.v.注射した。これらのマウスに10% DMSO/PBS(阻害剤(-))またはMMP-9阻害剤(SB‐3CT、250μg)をDay-1、Day0、Day1に注射した。Day9に肺転移の有無を解析した。
(
図4D)肺転移個数の定量的集計。
(
図4E)肺における示された遺伝子のmRNA発現レベルは、対照肺と比較して倍率変化として示される。平均値をSDで示す。対応のない両側t検定、n=3。**P<0.01; *P<0.05.各記号は個々の動物を表している。
【0127】
図4F~4G:LPS Mo移入により促進される転移に対するMMP-9阻害薬の効果。WTマウスに-1日目にLPS処理マウス(LPS Mo)から調製したLy6C
+単球(5x10
5細胞)を静脈内に移入した。24時間後、B16細胞を静脈注射した。これらのマウスに10% DMSO/PBS (阻害剤(-))またはMMP-9阻害剤(SB-3CT、250μg)をDay-1、Day0、Day1に注射した。9日目に肺の転移を分析した。
(
図4F)9日目の肺転移数の定量的集計。
(
図4G)肺における指定された遺伝子のmRNA発現レベルを、対照肺との相対比較として示す。平均値をSDで示す。対応のない両側t検定、n=3。*P<0.05; n.s.、有意差なし。各記号は個々の動物を表している。
(
図4H)Lcn2
-/-単球の培養上清のゼラチンザイモグラフィーLPS処理したl Lcn2
+/-またはLcn2
-/-マウスから単離したLy6C
+単球を24時間培養した。培養上清のゼラチナーゼ活性を測定した。実験を2回繰り返し、同様の結果を得た。
(
図4I)Lcn2
-/-注射による肺内転移巣の減少。LPS MoはLPS (20μg)注射48時間後にLcn2
+/-またはLcn2
-/-マウスのBMから調製し、これらの単球をWTマウスに静脈内移入した。24時間後、B16細胞(1×10
5細胞)を静脈内注射した。9日目に肺の転移を分析した。平均値を示す。対応のない両側t検定、n=6。*P<00.05。各記号は個々の動物を表している。
【0128】
図5の説明
図5A~5B:腫瘍切除後のYm1
+Ly6C
+単球の頻度の増加。B16細胞(1x10
6細胞)をYm1‐Venusマウスの脇腹に皮下(s.c.)接種した。7日後、手術により原発腫瘍を摘出した。
(
図5A)末梢血中の単球の頻度を指定された時点で分析した。9日目のLy6C
+単球中のYm1
+細胞の割合の代表的なフローサイトメトリープロファイル。
(
図5B)腫瘍切除後の、末梢血中の白血球中のLy6C
+単球の割合(上)およびLy6C
+単球中のYm1
+細胞の割合(下)。対応のない両側t検定、n=5~6。****P<0.001; *P<0.05; n.s.、有意差なし。
【0129】
(
図5C)原発腫瘍への放射線照射後の、Ym1
+Ly6C
+単球の頻度増加B16細胞(1x10
6細胞)をYm1‐Venusマウスの脇腹に皮下(s.c.)接種した。7~8日後、照射なしまたは30Gy照射の2つの治療群のいずれかに動物を無作為に割り付けた。末梢血中の単球の頻度を指定された時点で分析した。末梢血中の白血球中のLy6C
+単球の割合(上)およびLy6C
+単球中のYm1
+細胞の割合(下)。対応のない両側t検定、n=6。***P<0.005;n.s.、有意差なし。各記号は個々の動物を表している。
(
図5D)腫瘍切除後の肺転移数の増加。B16細胞(1x10
6細胞)をWTマウスの脇腹に皮下接種した。7日後、原発腫瘍を摘出した後、24時間後にB16細胞(1×10
5細胞)を静注した。16日目に肺の転移を分析した。肺転移数の量的要約。平均値をSDで示す。一元配置分散分析後にDunnett検定、n=7~8。**P<0.01;*P<0.05;n.s.、有意差なし。各記号は個々の動物を表している。
(
図5E)腫瘍切除後の肺転移に対する免疫細胞欠失の影響。B16細胞(1x10
6細胞)をWTマウスの脇腹に皮下接種した。7日後、原発腫瘍を摘出した後、24時間後にB16細胞(1×10
5細胞)を静注した。Ly6C
+単球および好中球(抗Gr-1)、または好中球のみ(抗Ly6G)を欠失させるために、指定されたmAbまたはPBSを50μg/日、6日目から15日目までこれらのマウスに注射した。16日目に肺の転移を分析した。肺転移数の量的要約。平均値をSDで示す。一元配置分散分析後にDunnett検定、n=6~11。****P<0.001; **P<0.01;*P<0.05;n.s.、有意差なし。各記号は個々の動物を表している。
【0130】
図6の説明
(
図6A)ナイーブまたはLPS処理マウス、またはB16細胞から単離した末梢血Ly6C
+単球上の表面CXCR4の発現。黒い線はアイソタイプコントロールを示す。
(
図6B)CXCR4アンタゴニストによる処理によるLy6C
+単球の肺蓄積の阻害。WTマウスにLPS(20μg)を静脈内注射し、AMD3100(5mg/kg、LPS注射の1時間前と24時間後)またはPBS(阻害剤(-))をi.p.処理した。平均値をSDで示す。一元配置分散分析後にDunnett検定、n=4。***P<0.005;**P<0.01;*P<0.05;n.s.、有意差なし。各記号は個々の動物を表す。
【0131】
図6C~6D:腫瘍切除後の肺転移に対するCXCR4アンタゴニストの効果。
(
図6C)腫瘍切除による転移進行に対するAMD3100治療の効果を検証するために用いた実験デザイン。B16細胞(1x10
6細胞)をWTマウスの脇腹に皮下接種した。6日後、原発腫瘍を摘出した後、24時間後にB16細胞(1×10
5細胞)を静注した。AMD3100(5mg/kg)またはPBS(阻害剤(-))をこれらのマウスに7、9、11、13、および15日目に注射した。Day 16に肺転移の有無を解析した。
(
図6D)肺転移個数の定量的集計。平均値をSDで示す。対応のない両側t検定、n=10-11。*P<0.05.各記号は個々の動物を表している。
【0132】
図7の説明
(
図7A)フローサイトメトリーによる肺の免疫細胞の同定。肺免疫細胞のゲート戦略サンプルを生きたCD45.2
+細胞でプレゲートした。Ly6C
+単球(R1)、Ly6C
-単球(R2)、好中球(R3)および肺胞マクロファージ(R4)を同定するため、Ly6C、Ly6G、MHCII、CD11bおよびCD11c発現をフローサイトメトリーにより評価した。PBS注射Ym1‐Venusマウス由来の肺免疫細胞の代表的解析を示した。
(
図7B)LPS投与マウスの肺における免疫細胞の絶対数。WTマウスをLPS(20μg)で静注し、6時間後にB16細胞(1x10
5細胞)をi.v.注射した。指定された時点で、フローサイトメトリーにより肺の免疫細胞数を計測した。平均値をSDで示す。各時点における対応のない両側t検定、がん細胞注入との比較、n=3~4。***P<0.005; **P<0.01;*P<0.05。
【0133】
図8の説明
除去抗体処理WTマウスのフローサイトメトリー分析WTマウスにPBS(Ctrl)、抗Ly6G mAbまたは抗Gr1mAb(50μg)を腹腔内(i.p.)注射した。24時間後、末梢血中のLy6C
+単球(R1)、Ly6C
-単球(R2)および好中球(R3)を同定するため、Ly6C、CD115およびLy6G発現をフローサイトメトリーにより評価した。
【0134】
図9の説明
CD204-DTRマウス由来の末梢血のフローサイトメトリー分析。CD204-DTR マウスにDT(500ng)を腹腔内投与した。24時間後、フローサイトメトリーにより末梢血中のLy6C
+単球(R1)、Ly6C
-単球(R2)、好中球(R3)を同定した。
【0135】
図10の説明
肺におけるナイーブまたはLPS MoおよびB16細胞の数。
(
図10A)肺における移入された単球(赤矢印)と腫瘍細胞(緑矢印)の分布。WTマウスにPKH26標識ナイーブMoまたはLPS Mo(1x10
6細胞)をi.v.注射した。90分後、WTマウスにPKH67標識B16細胞(1x10
6細胞)をi.v.注射した。さらに90分後、肺の凍結切片を蛍光顕微鏡下で観察した。元の倍率はx10。
(
図10B)
図10Aの肺におけるB16細胞数(左)、移入ナイーブMoおよびLPS Mo(右)。対応のない両側t検定、n=5~6、n.s.、有意差なし。各記号は個々の動物を表す。
【0136】
図11の説明
LPSの有無で癌細胞を注入したWTマウス(青色の影の部分)またはYm1-Venusマウス(赤色)における肺細胞のフローサイトメトリー解析。
(
図11A)WTマウスまたはYm1-VenusマウスにLPSをi.v.注射した後、B16細胞をi.v.注射した。48時間後、
図7Aに示すとおり肺細胞を染色した。数字は、CD45.2
+CD11c
-CD11b
+MHCII
-Ly6C
+細胞(R1;Ly6C
+単球、R2;Ly6C
-単球)におけるYm1+細胞の割合を示す。
(
図11B)
図11Aの肺におけるYm1-Venus
+Ly6C
+単球の絶対数平均値をSDで示す。対応のない両側t検定、n=5~7。****P<0.001.
【0137】
図12の説明
DT処理Ym1-DTR-Venusマウスのフローサイトメトリー分析。Ym1-DTR-VenusマウスにDTを腹腔内注射した。48時間後、末梢血中のLy6C
+単球(R1)をフローサイトメトリーで解析した。DT注射はYm1Venus
+Ly6C
+単球を特異的に欠失させた。
【0138】
図13の説明
LPS注射Ym1-Venusマウス由来のYm1
+Ly6C
+単球またはYm1
-Ly6C
+単球の遺伝子発現プロファイルを、RNA-seq解析により網羅的に比較した。
【0139】
図14の説明
MMP-9阻害薬の連続注射は、LPS促進肺転移を抑制する。
(
図14A)MMP-9阻害薬の連続注射の効果を検証するために用いられる実験デザイン。WTマウスに0日目にLPS20μgを注射し、6時間後にB16細胞(1x10
5細胞)をi.v.注射した。これらのマウスは、10% DMSO/PBS(阻害剤(-))またはMMP-9阻害剤(SB-3CT,250μg)をDay -1~8で毎日注入した。9日目に肺の転移を分析した。
(
図14B)肺転移個数の定量的集計。
(
図14C)
図14Bの肺におけるmRNA発現レベル。指定された遺伝子のmRNA発現レベルをqRT-PCRにより測定し、対照肺と比較して倍率変化として示す。平均値をSDで示す。対応のない両側t検定、n=8~9、**** P<0.001; ** P<0.01。各記号は個々の動物を表す。
【0140】
図15の説明
Ym1発現量とCD88およびCD157の発現量との正相関
(
図15A)Ly6G陰性Ly6C陽性単球を、さらにYm1-Venus陽性単球とYm1-Venus陰性単球とに分け、2単球間で発現差のある表面抗原(右図太字の抗原)を選別した。
(
図15B)定常状態とLPS投与48時間後の野生型マウスの骨髄の好中球(Ly6G陽性)、Ly6C陽性Ym1陽性単球およびLy6C陽性Ym1陰性単球における、CD88およびCD157の発現量をフローサイトメトリーで解析した結果である。この図は、CD88/CD157が、Venus陽性単球選択的に発現するマーカーであることを示す。ナイーブYm1-Venusマウスの骨髄にはYm1-Venus陽性単球はほとんど存在しなかったが(上段)、LPS投与48時間後の骨髄ではYm1-Venus陽性単球が著明に増加した(約30%、下段)。Ym1-Venus陽性単球は大部分がCD88/CD157二重陽性(約60%)であったのに対し、Ym1-Venus陰性単球の多くは、これらのマーカーに関して陰性であった。本結果から、CD88分子およびCD157分子が、Ym1陽性単球に選択的に高発現することが証明された。
(
図15C)LPS投与48時間後の後の野生型マウスの骨髄細胞における、Ym1発現量のフローサイトメトリー解析結果である。ナイーブ野生型マウスの骨髄にはYm1陽性単球はほとんど存在しなかったが(上段)、LPS投与48時間後の骨髄では、Ym1陽性単球が増加すること、ならびに、それらの単球がCD88およびCD157を高発現することが示された(下段)。本結果から、Ym1発現量と、CD88およびCD157の発現量とが正の相関関係を有することが示された。
(
図15D)CD88/CD157の2つのマーカーにより分取したYm1陽性制御性単球の遺伝子発現解析結果を示す図である。CD88/CD157の2つのマーカーを用いて、Ym1陽性制御性単球を効率よく分取し、遺伝子発現解析できることが示された。また、LPS投与48時間後の骨髄から、CD88/CD157二重陽性単球(double-positive,DP)および二重陰性単球(double-negative,DN)を分取し、Ym1遺伝子(Chil3)およびその他のYm1陽性単球関連遺伝子(Mmp9)、M1関連遺伝子(Nos2、Tnf、Il6)、M2関連遺伝子(Arg1、Il10)の発現レベルをPCRで定量した結果、DP(黒のバー)はDN(白のバー)に比べ、Chil3発現レベルおよびYm1陽性単球関連遺伝子(Mmp9)が顕著に高いことが示された。
【0141】
1.がん転移の促進因子
炎症は、癌転移を促進する最も重要な因子の一つである(参考文献2、7~11および26~28)。転移カスケードには、隣接組織への癌細胞の浸潤、血管内への侵入、血液循環中での生存、循環腫瘍細胞(CTC)の血管外遊出、および、その後の遠隔部位での伸長など、複数の過程が関与している(参考文献29)。これらのステップの中で、遠隔部位でのCTCの伸長は、実験的転移モデル(参考文献8、10、11、27、28および30)において全身性炎症により増強されることが証明された。しかし、CTCに由来する炎症誘発性転移の正確な機序は不明のままである。これらの機序を探るべく、まず、実験的転移モデルにおいて転移促進の観点から、異なるToll様受容体(Toll-like receptor;TLR)リガンドにより誘導されるいくつかの型の全身性炎症を比較した(
図1A)。マウスを異なるTLRリガンドで処理し、続いてB16メラノーマ細胞の静脈内(i.v.)注射を行った。これまでの報告(参考文献8、10および28)と一致して、リポ多糖(LPS)を尾静脈から全身注射すると、肺のCTCに由来するB16メラノーマ細胞の転移巣の形成が促進された(
図1Bおよび1C)。B16メラノーマ細胞に高発現するPremelanosome protein(Pmel)およびDopachrome tautomerase(Dct)遺伝子のmRNA発現量から、いずれもB16メラノーマ細胞に高発現しており(参考文献31)、LPS投与マウスの肺では有意に上昇しており(
図1D)、肺におけるB16メラノーマ細胞の増殖が示された。一方、CpG-ODNまたはPoly(I:C)は、転移に対して無視できる効果しか示さなかったことから(
図1B~1D)、全身性炎症による転移の増強は炎症の様式に依存することが示された。
【0142】
炎症状態での転移には、好中球および単球が関与することが報告されている(参考文献7および9~11)。実際に、炎症の初期(LPSの全身注射後1~2日目)には、好中球および単球の両方が肺に蓄積した(
図7Aおよび7B)。そこで、炎症による転移促進における好中球および単球の役割に着目した。抗Ly6Gモノクローナル抗体(mAb)注射による好中球の枯渇は、肺転移に影響を及ぼさなかったが(
図1EおよびFならびに
図8)、一方、Ly6C
-単球ではなく、好中球およびLy6C
+単球の両方を枯渇させる抗Gr-1 mAbは転移形成を抑制したことから(
図1Gおよび
図8)、好中球ではなく、Ly6C
+単球が、LPSの全身注射によって誘発された転移促進に寄与したことが示唆された。
【0143】
本発明者らはこれまでに、CD204-DTRマウス(参考文献32)において、BMおよび末梢血単球は、クラスAスカベンジャー受容体(参考文献32)であるCD204を高発現し、好中球ではなくLy6C
+単球およびLy6C
-単球の両方がジフテリアトキシン(DT)注射によって末梢血中で特異的に欠失していることを報告している(
図9)。これらのマウスでは、DT注入(
図1H~1J)によって転移性病巣の数が減少し、単球が肺転移の促進に寄与していることを示した。抗Gr-1 mAbを注入してもLPSによる炎症性サイトカイン産生は増加せず(
図1K)、抗Gr-1 mAbによる転移抑制は炎症性サイトカイン産生抑制に起因しないことが示された。
【0144】
近年、Albrenguesらは、マウスにLPSを鼻腔内(i.n.)注射した場合、好中球細胞外トラップ(NET)が、休眠癌細胞の覚醒と肺の転移性病変の増殖とに重要な役割を果たすことを報告した(参考文献9)。そこで、肺におけるNET形成に関してLPS投与のi.n.経路とi.v.経路とを比較した。本発明者らが、これまでに報告したように、LPSのi.n.注射は、肺におけるNET形成の特異的マーカーであるヒストンH3のシトルリン化を誘導した。一方で、尾静脈を介したLPSの注入は、肺におけるNET形成を誘導しなかった(
図1PおよびQ)。これらの結果は、NET形成がLPSの全身注射の場合、炎症誘導転移促進に起因しないことを示唆する。
【0145】
CTCに由来する全身性炎症誘導転移におけるLy6C
+単球の役割をさらに確認するために、ナイーブマウスまたはLPS注射マウスのいずれかからLy6C
+単球を精製し、ナイーブマウスにこれらの単球を静脈注射した。その後、がん細胞を注入した(
図1L)。
図1M~1Oに示すように、LPSを注射したマウス(LPS Mo)由来のLy6C
+単球は肺における転移巣の形成を促進したが、ナイーブマウス(ナイーブMo)由来のLy6C
+単球は促進しなかった。これらの細胞の注入後すぐに、肺における転移単球およびB16細胞の数を計測した。しかし、ナイーブMo移入マウスとLPS Mo移入マウスでは肺におけるこれらの細胞の細胞数に有意差は認められず(
図10)、ナイーブMoとLPS Moとの間で、肺における機能的差異が示唆された。まとめると、LPSの全身注射は、Ly6C
+単球に転移を促進する能力を付与する。
【0146】
以上より、全身性炎症によって加速される肺転移は、好中球ではなく、Ly6Chi単球によって促進されることが示された。
【0147】
2.転移に寄与する単球サブセット
次に、LPSで処理したマウスにおけるLy6C
+単球の特性を明らかにすることを試みた。本発明者らはこれまでに、Ym1の高発現によって特徴付けられるLy6C
+単球の亜集団を同定している(参考文献22)。Ym1
+Ly6C
+単球は、LPS投与や組織障害によって引き起こされる全身性炎症の回復フェーズにおいて、BMにおいて大幅に拡大した。傷害部位に浸潤したこれらの単球は、免疫調節および組織修復表現型を示した。まず、Ym1‐Venusマウスを用いて、全身性炎症後の肺におけるYm1
+Ly6C
+単球の蓄積をモニターした。Ym1-VenusマウスにLPSを注入すると、多数のYm1
+Ly6C
+単球が肺に蓄積した(
図2A~2C)。さらに、CpG-ODNまたはPoly(I:C)(
図2A~2C)のいずれかを注入したマウスの肺に少数のYm1
+Ly6C
+単球が見つかったが(
図2A~2C)、いずれも肺における転移形成には影響を及ぼさなかった(
図1B~2D)。また、LPSと癌細胞の両方を注入したマウスにもYm1
+Ly6C
+単球の数の増加が見られた(
図11AおよびB)。これは、肺転移におけるYm1
+Ly6C
+単球の役割を示唆している。
【0148】
本発明者らはこれまでに、Ym1発現細胞をDT注射により欠失させたYm1-DTRマウスを作成した(
図12)。
図2D~2Fに示すように、1日目と4日目のYm1陽性細胞の一過性欠失は、LPS注射によって誘導された肺転移を有意に抑制した。さらに、CTCに由来する転移の促進におけるYm1
+Ly6C
+単球の役割を明らかにするため、LPS処理したYm1-VenusマウスのBMからYm1
+Ly6C
+単球またはYm1
-Ly6C
+単球を精製し、それらの細胞をナイーブマウスに注入した。その後、がん細胞を注入した(
図2Gおよび2H)。Ym1
+Ly6C
+単球の注射は、Ym1
-Ly6C
+単球の注射と比較して、肺内に多数の転移巣を生じた(
図2Iおよび2J)。Ym1
+Ly6C
+単球は肺転移を促進することが明らかになった。
【0149】
以上より、Ym1+Ly6C+単球サブセットが、肺転移に重要な役割を果たすことが示された。
【0150】
3.Ym1
+Ly6C
+単球により発現される転移関連遺伝子
Ym1
+Ly6C
+単球による転移促進の根底にあるメカニズムの解明のため、全身性炎症中に肺内に蓄積したYm1-Venus
+Ly6C
+単球サブ集団の特性決定を試みた。フローサイトメトリー解析の結果、Ym1
+Ly6C
+単球サブ集団は、Ym1
-Ly6C
+単球サブ集団と同レベルの、単球表面マーカーを発現していることがわかった(
図3A)。次いで、RNAシークエンシング分析により、LPS処理マウス由来のYm1
+Ly6C
+単球サブ集団とYm1
-Ly6C
+単球サブ集団との間でmRNA発現プロファイルを包括的に比較した。PCA解析の結果、2つの単球サブセットは肺への浸潤後に明らかな遺伝子発現の差を示すことが明らかになった(
図3B)。さらに、肺単球サブセットの遺伝子発現は、既報のBM単球サブセット(参考文献22)とは明らかに異なっていた(
図3B)。M2マクロファージ(参考文献33)のマーカーとして知られるChi3l3(Ym1コード遺伝子)は、Ym1
+Ly6C
+単球で高発現しているが、Ym1
+Ly6C
+単球は、他のどのM2遺伝子も高発現しなかった(
図13)。興味深いことに、Mmp9、Vegf、Cox2、Il1bなどのいくつかの転移関連遺伝子(参考文献34)の発現はYm1
+Ly6C
+単球で亢進していたが、Il1bを除く炎症性サイトカインの発現量は2つのサブセット間で差がなかった(
図3Cおよび3Dならびに
図7)。これらの遺伝子に加えて、Lcn2も、Ym1
+Ly6C
+単球で高発現していた。Lcn2は、MMP-9を安定化させることによりMMP-9活性を亢進させることが報告されている(参考文献35)。Ym1
+Ly6C
+単球におけるこれらの高発現は、PCR解析によっても確認された(
図3E)。
【0151】
以上より、Ym1+Ly6C+単球は、転移関連遺伝子を発現することが示された。
【0152】
4.Ly6C
+単球促進肺転移におけるMMP-9
MMP-9は、癌細胞の浸潤および転移に重要な役割を果たしているため(参考文献36~39)、次いで、Ym1
+Ly6C
+単球による転移促進におけるMMP-9の役割を調べることを試みた。まず、精製Ly6C
+単球の培養上清中のMMP-9のタンパク質レベルを、ゼラチンザイモグラフィーを用いて調べた。LPS Moの培養上清では、ナイーブMoと比較して、MMP-9の潜在型であるproMMP-9のタンパク質レベルが高かった(
図4A)。また、LPS MoのYm1
+Ly6C
+単球は、LPS MoのYm1
-Ly6C
+単球よりも、proMMP-9のより高いタンパクレベルを示すことが確認された(
図4A)。次に、LPS Moの培養上清がin vitroで癌細胞浸潤を促進するかどうかについて、Matrigel浸潤アッセイを用いて検証した。LPS Moの培養上清は、ナイーブMoと比較して癌細胞浸潤の有意な増加を誘導した(
図4B)。次いで、転移に対するYm1
+Ly6C
+単球由来MMP-9の生体内での寄与を検証した。MMP-9阻害薬の連続注射はLPS促進肺転移を抑制した(
図14)。しかし、これまでの報告では、MMP-9は細胞外マトリックスリモデリング(ECM)を介して肺の休眠癌細胞の覚醒を誘導するだけでなく、転移後期における腫瘍増殖の伸長も誘導することが示唆されている(参考文献9)。したがって、in vivoでMMP-9酵素活性を阻害するのは初期の時点のみであるため、WTマウスにMMP-9阻害剤をDay-1、0、1のみ注射した(
図4C)。これらの時点でWTマウスに阻害薬を投与すると、転移巣の数も抑制された(
図4DおよびE)。LPS Moを注入した場合の転移促進効果も阻害剤の早期注入により打ち消された(
図4FおよびG)。さらに、リポカリン2(Lcn2)欠損マウス(参考文献40)を用いて、Ym1
+Ly6C
+単球由来MMP-9が転移の進行の原因であることを確認した。上記のとおり、Lcn2はMMP-9の安定性を担っていることが報告されている(参考文献35)。実際、Lcn2
-/- LPS MoのMMP-9のタンパクレベルは、Lcn2
+/- LPS Moのタンパクレベルよりも低かった(
図4H)。Lcn2
-/- LPS Mo注射により、Lcn2
+/- LPS Mo注射の場合と比較して、肺内の転移性病巣の数が減少した(
図4I)。以上の結果を総合すると、Ym1
+Ly6C
+単球由来MMP-9は、肺転移の促進に強い影響を及ぼすことが示された。すなわち、MMP-9はLy6C
+単球促進肺転移に必須であることが示された。
【0153】
5.Ym1
+Ly6C
+単球による腫瘍切除により誘発される転移の促進
癌では、原発腫瘍の切除が高頻度の腫瘍休眠逃避と転移再発の引き金となることが報告されている(参考文献41~43)。マウスでは、手術に伴う炎症が、別個の腫瘍の伸長を引き起こすか、または、転移を促進する(参考文献2および7)。そこでまず、Ym1
+Ly6C
+単球が腫瘍切除後の転移性病巣の成立に関与するか否かを検討した。B16細胞を皮下接種した。皮下腫瘍は切除により除去し、続いて切除の24時間後にB16細胞の静脈内注射を行った。
図5Aおよび5Bに示すように、Ly6C
+単球の全てではなく、一部のYm1
+Ly6C
+単球が、腫瘍切除後2日間で劇的に増加した。原発巣の切除に加え、原発巣への放射線暴露が癌転移を促進することはすでに報告されている(参考文献44および45)。予想された通り、Ym1
+Ly6C
+単球の増加は、放射線療法を行った担癌マウスでも認められた(
図5C)。さらに、腫瘍の切除により、血中循環がん細胞(CTC)に由来する転移が促進されることを見出した(
図5D)。次に、切除により誘発される転移促進の原因となる免疫細胞の同定を試みた。
図5Eに示すように、抗Ly6G mAbは転移に影響を及ぼさなかった。一方、抗Gr-1 mAbは転移形成を抑制した。これらの結果から、Ym1
+Ly6C
+単球は、腫瘍切除または腫瘍への放射線曝露により誘導される転移の促進に寄与すると結論づけられた。
【0154】
以上より、Ym1+Ly6C+単球は、腫瘍切除により誘発される肺転移の促進に寄与することが示された。
【0155】
6.CXCR4シグナル伝達の抑制による転移の減少
肺転移の促進に、Ym1
+Ly6C
+単球がin situで蓄積することが重要であると考えられている。Chongらは、Ly6C
hi単球の肺蓄積がLPS誘発炎症状態においてCXCR4-CXCL12シグナル伝達系に依存することを報告している(参考文献46)。実際、CXCR4の発現はYm1
+Ly6C
+単球で観察されたが、B16細胞では観察されなかった(
図6A)。CXCR4アンタゴニストであるAMD3100は、全身性炎症に関連するLy6C
+単球の肺での蓄積を阻害したが、好中球の蓄積は阻害しなかった(
図6B)。
【0156】
次いで、AMD3100が原発腫瘍切除の外科的切除により促進される肺転移を抑制するかどうかを検討した。AMD3100処理により肺転移促進は抑制された(
図6CおよびD)。これらの知見は、CXCR4が、癌に対する外科的介入に関連する肺転移を制御するための新規治療標的であることを示唆する。ここで、肺転移の制御は、潜在的転移臓器におけるYm1
+Ly6C
+単球の蓄積を阻害することにより行われる。
【0157】
以上より、CXCR4シグナル伝達の抑制はYm1+Ly6C+単球による肺転移を減少させることが示された。
【0158】
<考察>
本研究により、好中球ではなく、Ym1+Ly6C+単球が原発腫瘍へのインターベンションに伴う炎症誘発肺転移を促進することが実証された。Ym1+Ly6C+単球の肺における蓄積の阻害またはMMP9の阻害は肺転移を減少させ、Ym1+Ly6C+単球が転移の治療標的であることを示唆した。
【0159】
近年の報告では、マウスの炎症に関連する転移におけるNETの重要な役割が強調されている。例えば、LPSの鼻腔内注射は、著しい好中球動員を誘発し、多数のNET形成を検出し、肺転移を促進すること(参考文献9)、腹膜炎が誘発されると肝臓でNETが形成され、肝転移が起こりやすくなること(参考文献11)、および、DNaseや好中球エラスターゼ阻害剤でNET形成を抑制することにより、肺および肝転移が抑制さること(参考文献11)が報告されている。これらの実験モデルにおいて、炎症は局所感染または組織損傷によって誘発される。
【0160】
しかしながら、原発腫瘍から離れた部位では、このような局所炎症は、担癌患者では起こらないようである。本研究では、好中球ではなく、新規な単球サブセットが、原発腫瘍切除または放射線暴露に起因する炎症関連転移の進行に重要な役割を果たすことを実証した。
【0161】
この種の炎症では好中球が肺に動員されたが、この部位でNET形成はほとんど起こらなかった。これらの結果は、炎症の状況が転移促進を主に担う免疫細胞の種類を決定することを示しており、転移予防のための治療標的細胞は癌患者の実態に応じて慎重に選択する必要があることを示唆している。
【0162】
近年の報告により、BMでは特定の炎症刺激に応答して機能的に異なる単球サブセットが分化していることが示されている(参考文献16、23および25)。この単球サブセットは顆粒球-単球前駆細胞(GMP)から分化し、顆粒球といくつかの特徴を共有している。このコンセプトに沿って、本発明者らは、これまでに、免疫調節性Ym1+Ly6C+単球が組織傷害の回復期にBMのGBPから生産され、組織修復に伴う炎症反応に寄与したことを報告している(参考文献22)。組織損傷後の組織修復および創傷治癒は、実質細胞の再生、ECMリモデリングおよび血管新生を含む複数の過程からなることが既知である(参考文献47)。これらの過程は、腫瘍の進行および転移にも寄与する(参考文献30)。例えば、創傷応答遺伝子の高発現は、ヒトにおける転移のリスクを増加させることが報告されている(参考文献48)。また、傷害組織におけるECMリモデリングに重要な分子であるMMPの増加は、癌患者の全生存率の低さと相関している(参考文献49)。実際、MMP9欠損マウスではB16F10の肺転移が減少したことが報告されている(参考文献39)。創傷組織における血管の再生に関しては、血管内皮増殖因子(VEGF)の産生を誘導して血管新生を促進する低酸素誘導因子α(HIF1a)によって低酸素状態が検出される(参考文献50)。癌組織においても同様の機序が当てはまり、VEGFあるいはVEGF受容体に対する中和抗体が肺転移を抑制することが報告されている(参考文献51および52)。この点で、組織修復過程は、がんの進行および転移と共通の特徴を有する。
【0163】
原発腫瘍の切除を受ける患者は、術後12~18カ月で、急激にピークに達する転移再発のリスクに直面する(参考文献41~43)。早期の転移再燃の原因については議論があるが、近年の報告では、切除によって誘発される全身性炎症がマウスの遠隔休眠腫瘍の伸長を誘発することが示されており、Ly6Chi単球が伸長誘導に必須のエフェクター細胞であることが示唆されている(参考文献7)。しかし、切除により誘導される腫瘍進行にどのような単球サブセットが関与しているかは不明なままであった。本発明者らは、免疫調節性Ym1+Ly6C+単球が、MMP-9およびCXCR4依存的にCTCの肺転移を促進することを示した。Ym1+Ly6C+単球が分泌するMMP-9は、細胞外基質を分解し、がん細胞の転移組織への浸潤を促進する可能性がある。
【0164】
以上より、免疫制御性Ym1+Ly6C+単球を標的とした治療法を開発することで、切除後の転移性再発の危険性を低減できることが示唆された。
【0165】
癌治療において、転移の予測および予防は極めて重要な臨床課題である。これまでの報告では、腫瘍における創傷応答シグネチャーの高発現から、ヒトにおける不良な患者生存および転移のリスク増加を予測できることが示唆されている(参考文献48)。本発明者らは、末梢血中のYm1+Ly6C+単球数の急激な上昇を、肺転移早期に見出した。Ym1+Ly6C+単球の出現が、創傷治癒または組織修復の初期の段階に関与することを考慮すると、原発腫瘍に対する外科的処置後の末梢血中のこれらの単球のモニターは、転移に対する有益な予測細胞バイオマーカーとなる可能性がある。このため、マウスYm1+Ly6C+単球のヒトにおけるカウンターパートを特定することが望まれる。
【0166】
単細胞RNA配列決定を使用した最近の研究では、健康なヒト末梢血中の4つの単球集団が明らかになった(参考文献53)。さらに、癌患者では、単球性骨髄由来抑制細胞が免疫応答の主要な負の調節因子として浮上している(参考文献54~56)。いずれにせよ、炎症に関連する新規で非定型的な単球サブセットの出現の推定は、転移に対する治療戦略の開発に重要である。
【0167】