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特開2023-21768磁気共鳴イメージング装置およびその制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021768
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20230207BHJP
   G01R 33/54 20060101ALI20230207BHJP
   G01N 24/08 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
A61B5/055 376
A61B5/055 312
A61B5/055 380
G01R33/54
G01N24/08 510D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126839
(22)【出願日】2021-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 公輔
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 将宏
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AA01
4C096AB11
4C096AD06
4C096AD12
4C096AD14
4C096AD24
4C096BA05
4C096BA15
4C096BA25
4C096BA41
4C096BB03
4C096CC06
4C096DA30
4C096DC33
(57)【要約】
【課題】スピンエコー系パルスシーケンスを用いた撮像にパラレルイメージングを適用した場合にもFID信号に起因するアーチファクトの発生を抑制する。
【解決手段】核スピンを励起する励起RFパルスの印加及び励起された核スピンを反転する反転RFパルスの印加を含むスピンエコー系のパルスシーケンスを用いた撮像において、励起RFパルス印加後に、反転RFパルスの印加を2回行い且つ2回の反転RFパルス毎に位相エンコード傾斜磁場パルスを印加し、位相エンコードされた2組の核磁気共鳴信号をそれぞれ収集するパルスシーケンスを用いて撮像を行う。2組の核磁気共鳴信号間の差分により、FIDを除くスピンエコーのみの画像を得る。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場を発生する静磁場発生磁石と、静磁場空間に置かれた被検体にRFパルスを照射する高周波送信部と、前記被検体から発生する核磁気共鳴信号を受信する受信部と、前記核磁気共鳴信号をエンコードする傾斜磁場を発生する傾斜磁場発生部と、前記高周波送信部、前記受信部及び前記傾斜磁場発生部を動作させるパルスシーケンスを制御する制御部と、前記核磁気共鳴信号を用いて画像を生成する演算部と、を備え、
前記制御部は、核スピンを励起する励起RFパルスの印加及び励起された核スピンを反転する反転RFパルスの印加を含むスピンエコー系のパルスシーケンスを用いた撮像において、前記パルスシーケンスとして、前記励起RFパルス印加後に、前記反転RFパルスの印加を2回行い且つ前記2回の反転RFパルス毎に位相エンコード傾斜磁場パルスを印加し、位相エンコードされた2組の核磁気共鳴信号をそれぞれ収集するパルスシーケンスを用いることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記演算部は、前記2組の核磁気共鳴信号を複素差分し、差分後のデータを用いて画像再構成を行うことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記パルスシーケンスは、エンコード数によって決まる計測マトリクスサイズが、画像のマトリクスサイズよりも小さいパラレルイメージング法のパルスシーケンスであり、
前記演算部は、前記差分後のデータに対し、パラレルイメージング演算を行って画像を再構成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記演算部は、前記2組の核磁気共鳴信号から、それぞれ、画像を再構成し、再構成された2組の画像間の複素差分によって、前記核磁気共鳴信号のうちスピンエコーのみで再構成された画像を生成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記パルスシーケンスは、エンコード数によって決まる計測マトリクスサイズが、画像のマトリクスサイズよりも小さいパラレルイメージング法のパルスシーケンスであり、
前記演算部は、前記2組の核磁気共鳴信号のそれぞれについて、パラレルイメージング演算を行って画像を再構成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記制御部は、前記パルスシーケンスを繰り返し時間TRで繰り返し、同一繰り返し時間内の2回の反転RFパルスの位相は同じであり、且つ繰り返し時間毎に当該位相を変化させることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記パルスシーケンスは、2回目の反転RFパルスの印加前に、スピンを拡散させるクラッシャ傾斜磁場の印加を含むことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記パルスシーケンスは、励起RFパルスの印加及び2回の反転RFパルスの印加と同時に前記被検体の断面を選択するスライス選択傾斜磁場パルスの印加を含み、
2回目の反転RFパルスの印加時に前記スライス選択傾斜磁場パルスで選択される断面は、励起RFパルス及び1回目の反転RFパルスの印加時に選択される断面とは異なる断面であることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
請求項8に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記演算部は、前記2組の核磁気共鳴信号として、断面が同じである核磁気共鳴信号の組み合わせを用いて画像を生成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記制御部は、撮像条件またはユーザ指定を受け付ける受付部を有し、前記受付部が受け付けた撮像条件またはユーザ指定に応じて、前記2組の核磁気共鳴信号を発生させる断面を決定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
核スピンを励起する励起RFパルスの印加及び励起された核スピンを反転する反転RFパルスの印加を含むスピンエコー系のパルスシーケンスを用いた撮像において、前記パルスシーケンスとして、前記励起RFパルス印加後に、前記反転RFパルスの印加を2回行い且つ前記2回の反転RFパルス毎に位相エンコード傾斜磁場パルスを印加し、位相エンコードされた2組の核磁気共鳴信号をそれぞれ収集するパルスシーケンスを用いて、磁気共鳴撮像装置の動作を制御することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置と略す)に関し、特にFID(自由誘導減衰)信号に起因するアーチファクトが低減された画像を取得する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置の典型的な撮像方法としてスピンエコー系のパルスシーケンスがある。スピンエコー系パルスシーケンスでは、励起用RFパルス(90度パルス)を印加した後、反転RFパルス(180度パルス)を印加してスピンを拡散させ、再度収束したスピンからのNMR信号をエコー信号として収集する。このようなスピンエコー系パルスシーケンスでは、90度パルスで励起されたスピンからのエコー信号とは別に180度パルスによってもスピンは励起され、その自由誘導減衰によって生じる信号(FID信号)が生成している。スピンエコー信号は、90度パルス印加後に印加される位相エンコード傾斜磁場によりエンコードされているが、FID信号はエンコードされていない信号であるため、ゼロエンコードの信号としてスピンエコーに重畳して収集される。このためスピンエコー系シーケンスで得たk空間データを再構成した画像には、画像の中心に周波数エンコード方向と平行なジッパー状アーチファクト(FID信号に起因するアーチファクト:以下、FIDアーチファクトという)が現われる。
【0003】
スピンエコー系パルスシーケンスを用いた撮像では、通常、このFIDアーチファクトを除去するために、180度パルスの位相をシーケンスの繰り返し毎に反転させて印加する。これによりFIDアーチファクトを画像の両側に移動させることができる(例えば非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Michael N. Hoff 他 「Artifacts in Magnetic Resonance Imaging」、Capter 9, pp165-190,Image Principles,Neck, and the Brain,ResearchGate(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
MRIの高速撮像法として、計測データ数を減らして計測を行い、再構成時に受信コイルの感度分布情報を利用して未計測データを推定して、計測データを減らしたことで画像に発生する折り返しを展開し、画像を再構成する手法(パラレルイメージング)が一般的になっている。このパラレルイメージングをスピンエコー系パルスシーケンスに適用すると、上述した従来のFIDアーチファクト回避技術が機能しないという問題がある。これは、スピンエコー系パルスシーケンスを用いた撮像にパラレルイメージングを適用した場合、折り返しを展開する前の画像で、画像の両側にFIDアーチファクトをずらしたとしても、これを展開した後の画像では、画像の端部ではなく、被検体画像と重複する位置にFIDアーチファクトが現われるためである。しかも倍速数を高くするほどFIDアーチファクトが多くなるため、倍速数を高くして計測時間の短縮化を図ることが困難であった。
【0006】
本発明は、スピンエコー系パルスシーケンスを用いた撮像にパラレルイメージングを適用した場合にもアーチファクトが除去された画像を取得することが可能なMRI装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のMRI装置は、励起RFパルスと反転RFパルスとを含むスピンエコー系のパルスシーケンスに、追加的な反転RFパルスを加え、この反転RFパルスにより生じるFID信号を計測する。この際、最初の反転RFパルスによる生じるFID信号が混入したスピンエコーと、追加の反転RFパルスによるFID信号とを位相エンコードする。これによりk空間データ間或いは再構成画像間の差分演算により、FIDの影響を排除したスピンエコーのみの画像を得る。
【0008】
すなわち本発明のMRI装置は、静磁場を発生する静磁場発生磁石と、静磁場空間に置かれた被検体にRFパルスを照射する高周波送信部と、被検体から発生する核磁気共鳴信号を受信する受信部と、核磁気共鳴信号をエンコードする傾斜磁場を発生する傾斜磁場発生部と、高周波送信部、受信部及び傾斜磁場発生部を動作させるパルスシーケンスを制御する制御部と、核磁気共鳴信号を用いて画像を生成する演算部と、を備える。制御部は、励起RFパルス及び反転RFパルスを含むスピンエコー系のパルスシーケンスを用いた撮像において、パルスシーケンスとして、励起RFパルス印加後に、反転RFパルスの印加を2回行い且つ2回の反転RFパルス毎に位相エンコード傾斜磁場パルスを印加し、位相エンコードされた2組の核磁気共鳴信号をそれぞれ収集するパルスシーケンスを用いる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、反転RFパルスを追加し、各反転RFパルス後に位相エンコードされたエコー信号を収集することで、スピンエコーにFID信号が含まれるデータとFID信号のみからなるデータとが得られ、これらデータ間の差分によりFID成分を除いたスピンエコーのみのデータが得られる。これによりFID信号に起因するアーチファクトの発生を抑制できる。
【0010】
また差分後のデータには、FID成分が含まれないので、パラレルイメージングによって空間的に重複する信号が含まれるデータであっても、また倍速率によってFIDの位置が変化するデータであっても、FID成分を分離する必要がなく、通常のパラレルイメージング演算によりFIDに起因するアーチファクトのない画像再構成が可能となる。
【0011】
本発明によればFID成分を含まないデータが得られるので、スピンエコー系パルスシーケンスを用いる撮像であれば、パラレルイメージング以外の全ての撮像に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】MRI装置の全体概要を示す機能ブロック図。
図2図1のMRI装置の撮像部の詳細を示す図。
図3】実施形態1の撮像の流れを示す図。
図4】典型的なスピンエコー系シーケンスを示す図。
図5】実施形態1のパルスシーケンスを図。
図6】差分処理を説明する図。
図7】(A)、(B)は、それぞれ、実施形態2のスライス選択の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のMRI装置の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0014】
MRI装置1は、図1に示すように、主な構成として、静磁場発生部11、高周波送信部13、受信部14及び傾斜磁場発生部12を含む撮像部10と、撮像部10を所定のパルスシーケンスに従って制御する制御部30と、撮像部10が収集したエコー信号を用いて画像再構成する演算部20とを備える。
【0015】
撮像部10は、静磁場発生部11と、傾斜磁場発生部12と、送信部13と、受信部14と、信号処理部15とを備えている。さらに図1には示していないが、これらを一定の手順(パルスシーケンス)で動作させるシーケンサを備えている。撮像部10の詳細を、図2を用いて説明する。
【0016】
静磁場発生部11は、永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生磁石(不図示)からなる。静磁場発生磁石が発生する静磁場の方向により垂直磁場方式と水平磁場方式など異なる方式があり、垂直磁場方式では、被検体2の周りの空間にその体軸と直交する方向に、水平磁場方式では、体軸方向に均一な静磁場を発生させる。
【0017】
傾斜磁場発生部12は、MRI装置の座標系(静止座標系)であるX、Y、Zの3軸方向に巻かれた傾斜磁場コイル121と、それぞれの傾斜磁場コイルを駆動する傾斜磁場電源122とから成り、シ-ケンサ16からの命令に従ってそれぞれのコイルの傾斜磁場電源122を駆動することにより、静磁場に対し、X、Y、Zの3軸方向の傾斜磁場Gx、Gy、Gzを印加する。
【0018】
送信部13は、被検体2の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴を起こさせるために、被検体2に高周波磁場パルス(RFパルス)を照射するもので、高周波発振器131、変調器132、高周波増幅器133及び送信側の高周波コイル(送信コイル)134を備えている。高周波発振器131から出力されたRFパルスをシーケンサ16からの指令によるタイミングで変調器132により振幅変調し、この振幅変調された高周波パルスを高周波増幅器133で増幅した後に被検体2に近接して配置された送信コイル134に供給することにより、RFパルスが被検体2に照射される。
【0019】
RFパルスの強度と位相は、変調器132により制御され、強度の異なる90度パルスや180度パルスを出力することができ、またそれら位相を制御することができる。
【0020】
受信部14は、被検体2の生体組織を構成する原子核スピンの核磁気共鳴により放出されるエコー信号(NMR信号)を検出するもので、受信側の高周波コイル(受信コイル)141、信号増幅器142、直交位相検波器143、及びA/D変換器144を備えている。送信コイル134から照射された電磁波によって誘起された被検体2の応答のNMR信号が被検体2に近接して配置された受信コイル141で検出され、信号増幅器142で増幅された後、シーケンサ16からの指令によるタイミングで直交位相検波器143により直交する二系統の信号に分割され、それぞれがA/D変換器144でディジタル量に変換されて、信号処理部15に送られる。受信コイル141として、複数のサブコイルを組み合わせたコイルを用いる場合は、サブコイルのそれぞれが信号増幅器142、直交位相検波器143、及びA/D変換器144に接続されており、信号処理部15は、サブコイル毎に信号を収集する。
【0021】
信号処理部15は、ROMやRAMなどの記憶装置150、光ディスク、磁気ディスク等の外部記憶装置151、ディスプレイ152、トラックボール、マウス、キーボード等の入力デバイスからなる操作部153を備えている。信号処理部15は信号処理、画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体2の断層画像をディスプレイ152に表示すると共に、外部記憶装置151の磁気ディスク等に記録する。操作部153はディスプレイ152に近接して配置され、操作者がディスプレイ152を見ながら操作部153を通してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0022】
図2に示す例では、MRI装置は、さらに、CPU及びメモリを備えた計算機50を備え、計算機50は、上述の信号処理部15の機能の一部と、図1に示すように、演算部20及び制御部30の機能とを実現する。
【0023】
制御部30は、装置全体の制御を行う機能に加えて、操作部153を介して入力された撮像条件などを受け付ける受付部31、撮像に用いるパルスシーケンスをシーケンサ16に設定し、シーケンサ16を介して撮像を制御する撮像制御部32、撮像を画像やGUIをディスプレイに表示させる制御を行う表示制御部(不図示)などを含む。演算部20は、受信部14が収集した核磁気共鳴信号を用いて画像を再構成する画像再構成部21、及びデータ間の差分などの演算を行う差分算出部22などを含む。これらの機能の詳細は後述する。
【0024】
演算部20の機能の一部又は全部は信号処理部15に含まれ、記憶装置に格納された所定のプログラムをCPUが読み込むことで実行される。計算機50が行う機能の一部はASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programable Gate Array)などのハードウェアで実現することも可能である。
【0025】
シーケンサ16は、上述したRFパルスと傾斜磁場パルスを所定のパルスシーケンスで繰り返し印加する制御手段で、制御部30の制御のもとで動作し、被検体2の断層画像のデータ収集に必要な種々の命令を高周波送信部13、傾斜磁場発生部12、および受信部14に送る。
【0026】
パルスシーケンスは、撮像方法によって種々のパルスシーケンスがあり、予め記憶装置150(151)内に格納されており、ユーザが操作部153を介して所望のパルスシーケンスを選択するとともにエコー時間(TE)や繰り返し時間(TR)、撮像視野(FOV)、パラレルイメージングの際の倍速率などの撮像パラメータを設定することにより撮像シーケンスが確定する。本実施形態ではシーケンサ16は、スピンエコー系のパルスシーケンスを実行する。
【0027】
次に本実施形態のMRI装置の動作、主として制御部30による撮像制御及び演算部20による画像生成の実施形態を説明する。
【0028】
<実施形態1>
本実施形態では、通常のスピンエコー系のパルスシーケンスに変更を加えたパルスシーケンスを実行し、画像再構成時に反転RFパルスに起因するFID信号を除去する処理を行う。
【0029】
以下、図3を参照して、本実施形態のMRI装置の動作を説明する。
【0030】
まず制御部30は、受付部31がパルスシーケンスや撮像パラメータなどの撮像条件を受け付け(S301)、撮像がスピンエコー系のパルスシーケンスである場合には、撮像パラメータをもとにパルスシーケンスを計算し、シーケンサ16に設定する(S302)。また撮像パラメータがパラレルイメージングの倍速率を含む場合には、倍速率に応じた計測マトリクスサイズが設定される。
【0031】
本実施形態で用いるパルスシーケンスは、2つの反転RFパルスを用いること、反転RFパルス後に収集するエコー信号に、それぞれ、位相エンコードが付与されることが特徴である。本実施形態のパルスシーケンスと従来のパルスシーケンスとの違いを説明するために、まず簡単に従来のスピンエコー系パルスシーケンスについて説明する。
【0032】
典型的なスピンエコー系パルスシーケンス400は、図4に示すように、被検体2の所定の断面を選択するためのスライス傾斜磁場421とともに励起RFパルス(90度パルスともいう)411を印加し所定断面内のスピンを励起する。ついで位相エンコード傾斜磁場431を印加し、エコー時間の1/2(TE/2)で反転RFパルス(180度パルスともいう)412をスライス傾斜磁場422とともに印加する(傾斜磁場420はスピンの位相を戻す傾斜磁場である)。これによりエコー時間においてピークとなるエコー信号(NMR信号)451が発生する。このエコー信号を、周波数エンコード傾斜磁場441を印加しながら所定のサンプリング時間収集する。所定の繰り返し時間TR経過後、上述したスピンの励起からエコー信号の収集までを、位相エンコード傾斜磁場431の強度を変化させながら繰り返し、設定された位相エンコード数のエコー信号を収集する。この際、図中点線で示すように、反転RFパルス412によりFID信号461が発生し、スピンエコー451に混入する。これが画像にFIDアーチファクトを生じさせる。
【0033】
本実施形態のスピンエコー系のパルスシーケンスは、このようなFID信号461をスピンエコーとともに位相エコードされた信号として発生させて、画像再構成時に画像から除去可能にする。
【0034】
図5に本実施形態で採用するスピンエコー系のパルスシーケンス500の一例を示す。図4に示すパルスシーケンス400と同じ要素は同じ符号で示す。
図5に示すように、このパルスシーケンス500では、位相エンコード傾斜磁場531を反転RFパルス412の後で印加する。つまり図4のパルスシーケンス400では、励起RF411印加後、反転RFパルス412印加前に印加していた位相エンコード傾斜磁場431を、反転RFパルス412の後に変更している。これにより、反転RFパルス412によりTE後に発生するスピンエコーと、反転RFパルス412のFIDとがともに位相エンコードされ、一つのエコー信号551として収集される。
【0035】
この位相エンコード傾斜磁場531の印加タイミングの変更に伴い、位相エンコード方向以外のスピンの回転の影響をなくすため、位相エンコード軸Gp以外の軸Gs、Grに一対のクラッシャ傾斜磁場523、543を追加する。その後、読み出し傾斜磁場441を印加してエコー信号551を収集することは図4のパルスシーケンス400と同様であるが、上述のとおり、このエコー信号551には、図4に示したFID461が位相エンコードされて計測される。
【0036】
さらにパルスシーケンス500は、エコー信号451計測後に2回目の反転RFパルス512を印加する。2回目のRFパルス512の印加位相は、1回目のRFパルス412の印加位相と同じとする。また、2回目の反転RFパルス印加に際しても、1回目と同様に位相エンコード軸Gp以外の軸Gs、Grに一対のクラッシャ傾斜磁場524、544を追加し、これによりスピンエコーが発生しないようにする。次いで、位相エンコード傾斜磁場532を印加した後、読み出し傾斜磁場542を印加し、エコー信号552を収集する。このエコー信号は、RF励起パルス411により励起されたスピンからのスピンエコーは含まず、2回目の反転RFパルス512によりスピンが発生するFIDであり、且つ位相エンコードされた信号である。最後にクラッシャ傾斜磁場525、535を印加し、スピンを元の状態に戻す。なお図5では、スライス軸Gsと位相エンコード軸Gpにクラッシャ傾斜磁場を印加しているが、3軸に印加してもよい。
【0037】
以上のシーケンスをTRで繰り返し、予め設定された計測マトリクスに相当する数の信号551、552を収集する。TRの繰り返し毎に、2つのRF反転パルスの位相を0、πと交互に変化させてもよいことは、従来のスピンエコー系パルスシーケンスと同様である。
【0038】
このパルスシーケンス500は、2回目の反転RFパルスでは発生するエコー信号552がスピンエコーとして発生するものではない点、反転RFパルスにより発生するFID信号が位相エンコードされる点、及び反転RFパルスは2回に限られる点で、従来の、複数の反転RFパルスを連続して繰り返し印加し複数のスピンエコーを計測する高速スピンFSEとは全く異なるパルスシーケンスである。
【0039】
なお図5では位相エンコード傾斜磁場531、532を一軸方向(Gp)に印加する2次元撮像シーケンスを示したが、二軸方向に印加する3次元撮像シーケンスでもよい。
【0040】
シーケンサ16は、このようなパルスシーケンス500に従って撮像部10を制御し、それにより受信部14が2組の信号551、552を収集し、それぞれk空間データとする(図3:S303)。受信コイルが複数チャンネルの受信コイルの場合にはチャンネル毎に2組のk空間データが得られる。演算部20は、各k空間データを用いて画像再構成を行う(S304)。
【0041】
演算部20における処理は、画像再構成処理(画像再構成部21の処理)と差分処理(差分算出部22の処理)とを含む。差分処理は計測空間での処理すなわち画像再構成前の処理、画像空間での処理(画像再構成後の差分)のいずれでもよく、それによって順番が異なる。
【0042】
計測空間で差分を行う場合には、図3にS3041、S3042で示すように、2組のk空間データ(複素データ)即ち1回目の反転RFパルス後に収集した信号451のk空間データから、2回目の反転RFパルス後に収集した信号452のk空間データを差し引く(S3041)。
【0043】
パラレルイメージングの場合、各k空間データは空間的に分離されていない信号を含んでいるが、スピンエコーと同様に位相エンコードされたFID信号は、2組のデータにおいて同様の分布で配置されているので、両者を差分することでFID信号の成分を除去したデータ、即ちスピンエコーのみのk空間データが得られる。
【0044】
差分後のk空間データは、通常の画像再構成方法と同様に、例えば高速フーリエ変換を行って画像を生成する。またPI法の場合には、予め求めて置いた各受信コイル(受信コイルを構成するチャンネルに相当)の感度分布情報を用いて、パラレルイメージング演算により折り返しのない画像を得る(S3042)。パラレルイメージング演算は、SENSE法、GRAPPA法などの手法が知られておりここでは説明を省略する。また圧縮センシング等のL1ノルム最小化を含む画像再構成方法を適用してもよい。
【0045】
一方、差分を画像空間で行う場合には、図3にS3043、S3044で示すように、まず2組のk空間データを、それぞれ、再構成し画像データとする(S3043)。画像再構成の手法は、ステップS3042と同様である。得られた画像データを複素差分する。すなわち、1回目の信号551を用いて再構成した画像から、2回目の信号552を用いて再構成した画像を引き、FID信号によって生じるアーチファクトを除去した画像を得る(S3044)。
【0046】
図6に、S3043、S3044の手法で得た画像を示す。図6中、左側が1回目の信号から作成した画像(スピンエコーとFIDを含む)、中央が2回目の信号から作成した画像、左側が差分した画像である。中央の画像は両側の画像よりも信号強度がかなり低いものの、わずかながらFIDの画像が認められ、この画像を差し引くことでスピンエコーのみの画像が得られることがわかる。
【0047】
以上、説明したように、本実施形態によれば、スピンエコー系のパルスシーケンスとして、FID信号をエコー信号と共に位相エンコードするとともに、2回目の反転RFパルスを追加することによって、同様に位相エンコードしたFID信号のみを発生させるパルスシーケンスを用いることにより、FID信号の影響を排除した信号、即ちエコー信号(スピンエコー)のみからなる画像を生成することができる。
【0048】
<実施形態2>
実施形態1では、1回目及び2回目の反転RFパルス印加後に収集した2組のデータ間の演算により、これらRFパルスで選択された領域の画像を得たが、本実施形態では、2回目の反転RFパルスで選択するスライスを、励起RFパルス及び1回目の反転RFパルスの印加時に選択したスライスとは、異ならせて、異なるスライスからエコー信号を収集する。このシーケンスを、選択するスライス位置を変更しながら繰り返し、複数スライスのデータを収集する。
【0049】
本実施形態のパルスシーケンスの形状は、図5に示すものとほぼ同様であるので、図5を参照して、違いを説明する。本実施形態でも、反転RFパルス412によって発生するFID信号にも位相エンコードを加えるとともに、スピンエコー551収集後に、反転RFパルス512を印加して、反転RFパルス512のFID信号を位相エンコードしてエコー信号552を収集することは実施形態1と同じである。本実施形態では、反転RFパルス512と同時に印加されるスライス選択傾斜磁場522の印加量を、スライス選択傾斜磁場422と異ならせて、スピンエコー551を得た断面とは異なる断面の信号552を得る。
【0050】
1回目の反転RFパルス412と2回目の反転RFパルス512とでは選択するスライスが異なるため、原理的には1回目で選択したスライスからの核磁気共鳴信号が2回目のエコー信号552に入り込むことはないので、反転RFパルスの前後のクラッシャ傾斜磁場524、544は省略できるが、ここでは1回目のエコーの影響を確実に遮断するため、クラッシャー傾斜磁場524、544を用いる。
【0051】
最初のスピンエコー551と次のエコー信号552とで異ならせるスライスの順番は特に限定されないが、例えば、図7(A)に示すように、最初にスライスS1、次にスライスS2を選択する撮像1と、最初にスライスS2、次にスライスS1を選択する撮像2とを1セットとして、2つのスライスS1、S2の撮像2とを、1ないし複数セット分繰り返し、マルチスライス撮像を行ってもよいし、図7(B)に示すように、最初にスライスS(n)、次にスライスS(m)(n、mはスライス番号、但しn≠m)を1セットとする撮像を、スライス位置を変えながら順次行ってもよい。いずれの場合にも最初に選択するスライスと次に選択するスライスは、隣接するスライスでもよいし、離れていてもよい。
【0052】
画像再構成においては、同じスライス同士のデータを用いて、実施形態1と同様に、差分演算を含む画像再構成を行う。即ち図7(A)の例でいえば、撮像1で得たスピンエコー251のデータ(スライスS1のデータ)と、撮像2で得たエコー信号252のデータ(スライスS1のデータ)とを用いて、計測空間における複素差分後に画像再構成する或いは画像再構成後の画像を複素差分し、スライスS1についてスピンエコーのみの画像を得る。スライスS2についても同様に当該スライスのデータ同士を用いて画像を得る。
【0053】
本実施形態では、1回目の反転RFパルスで選択するスライスと2回目の反転RFパルスで選択するスライスを異ならせることで、2回目の反転RFパルス後に収集されるエコーから1回目の信号の影響を確実に除くことができる。その結果、精度のよい差分画像を得ることができる。
【0054】
以上、本発明のMRI装置の2つの実施形態を説明したが、これらは、撮像条件を設定する際に、マルチスライス撮像か否かに応じて自動的に実施形態1又は実施形態2のいずれかを選択するようにしてもよいし、操作部(入力装置)153を介してユーザが選択してもよい。
【符号の説明】
【0055】
11:静磁場発生部、12:傾斜磁場発生部、13:送信部(高周波送信部)、14:受信部、15:信号処理部、16:シーケンサ、20:演算部、21:画像再構成部、22:差分算出部、30:制御部、31:受付部、32:撮像制御部、50:計算機
図1
図2
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図5
図6
図7