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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021836
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】水中無線通信装置および方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 11/00 20060101AFI20230207BHJP
   B63C 11/48 20060101ALI20230207BHJP
   B63C 11/00 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
H04B11/00 D
B63C11/48 D
B63C11/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126949
(22)【出願日】2021-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴掛 智
(72)【発明者】
【氏名】南利 光彦
(72)【発明者】
【氏名】赤峰 幸徳
(72)【発明者】
【氏名】目黒 浩二
(57)【要約】
【課題】音響を用いる無線通信と光を用いる無線通信とを組み合わせて水中でより安定した通信を行うことができるようにすること。
【解決手段】水中無線通信装置10は、水上または水中を移動可能な移動体2,3に設けられ、音と光を用いて水中で無線通信する水中無線通信装置であって、音響を用いて無線通信する音響無線通信部11と、光を用いて無線通信する光無線通信部12と、音響無線通信部および光無線通信部を制御する通信制御部13とを備え、通信制御部は、音響無線通信部の使用タイミングと光無線通信部の使用タイミングとを通信遅延時間に基づいて規定する所定の通信管理情報TSにしたがって、音響無線通信部および光無線通信部を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水上または水中を移動可能な移動体に設けられ、音と光を用いて水中で無線通信する水中無線通信装置であって、
音響を用いて無線通信する音響無線通信部と、
光を用いて無線通信する光無線通信部と、
前記音響無線通信部および前記光無線通信部を制御する通信制御部とを備え、
前記通信制御部は、
前記音響無線通信部の使用タイミングと前記光無線通信部の使用タイミングとを通信遅延時間に基づいて規定する所定の通信管理情報にしたがって、前記音響無線通信部および前記光無線通信部を制御する
水中無線通信装置。
【請求項2】
前記音響無線通信部は、他の移動体に設けられる他の音響無線通信部との間で音響を用いて無線通信するものであり、
前記光無線通信部は、前記他の移動体に設けられる他の光無線通信部との間で音響を用いて無線通信するものであり、
前記通信制御部は、前記他の音響無線通信部および前記他の光無線通信部を制御する他の通信制御部との間で、前記所定の通信管理情報を共有する
請求項1に記載の水中無線通信装置。
【請求項3】
前記通信制御部は、前記所定の通信管理情報にしたがって、
前記音響無線通信部が送信モードの場合、前記光無線通信部は受信モードであり、前記音響無線通信部が受信モードの場合、前記光無線通信部は送信モードであるように制御する
請求項2に記載の水中無線通信装置。
【請求項4】
さらに環境測定部を備え、
前記環境測定部は、無線通信が行われる水中の音速または水深、前記移動体の姿勢の少なくともいずれか一つを測定した測定結果を前記通信制御部へ供給し、
前記通信制御部は、前記測定結果に基づいて前記所定の通信管理情報を生成する
請求項3に記載の水中無線通信装置。
【請求項5】
前記通信制御部は、送信予定データに設定された優先度と前記測定結果とに基づいて、前記所定の通信管理情報を生成する
請求項4に記載の水中無線通信装置。
【請求項6】
さらに通信状況記憶部を備え、
前記通信状況記憶部は、前記他の移動体と前記移動体との間で行われた音響無線の状況および光無線の状況を通信状況履歴として記憶しており、
前記通信制御部は、前記優先度と前記測定結果と前記通信状況履歴とに基づいて、前記所定の通信管理情報を生成する
請求項5に記載の水中無線通信装置。
【請求項7】
音と光を用いて水中で無線通信する水中無線通信方法であって、
音響を用いて他の音響無線通信部と無線通信する音響無線通信部と、
光を用いて他の光無線通信部12と無線通信する光無線通信部とを備え、
前記音響無線通信部の使用タイミングと前記光無線通信部の使用タイミングとを通信遅延時間に基づいて規定する所定の通信管理情報にしたがって、前記音響無線通信部および前記光無線通信部12を制御する
水中無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中無線通信装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、海洋資源調査の高効率化を目的として、AUV(Autonomous Underwater Vehicle:自律型無人潜水機)を複数運用する技術の開発が盛んであり、母船とAUVとの間に用いられる水中無線通信技術が注目されている。水中における無線通信技術としては、音響技術や光技術を利用した方式が提案されている。
【0003】
音響技術を用いた無線通信は、伝搬損失が少ないため、長距離通信に適している。しかし、音響技術を用いた無線通信では、数kbps程度の低速データ通信に限定されるため、資源調査等のために収集される大容量データをAUVから母船へ伝送するには適していない。
【0004】
一方、光技術を用いた無線通信では、10Mbps程度の高速データ通信が可能であるが、光波は水中で減衰するため、長距離通信には適していない。
【0005】
そこで、特許文献1では、音響技術を用いた無線通信に加えて、電波を用いた無線通信が提案されている。特許文献1では、深度情報に応じて、異なる複数の通信方式を切り替えるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-61159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、音響通信と光通信とを組み合わせて使用する技術が開示されているが、音響通信の場合、水中機器間で音波が衝突するのを防止するために、音波の送受信タイミングを考慮しなければならない。さらに、音速は遅いことから、水中での音響通信の確立には、時間を要する。一方、光通信の場合、通信速度は早いが、水中での光波の減衰が著しいため、水中において安定した光無線通信をするのは難しい。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、音響を用いる無線通信と光を用いる無線通信とを組み合わせて水中でより安定した通信を行うことができるようにした水中無線通信装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明の一つの観点に従う水中無線通信装置は、水上または水中を移動可能な移動体に設けられ、音と光を用いて水中で無線通信する水中無線通信装置であって、音響を用いて無線通信する音響無線通信部と、光を用いて無線通信する光無線通信部と、音響無線通信部および光無線通信部を制御する通信制御部とを備え、通信制御部は、音響無線通信部の使用タイミングと光無線通信部の使用タイミングとを通信遅延時間に基づいて規定する所定の通信管理情報にしたがって、音響無線通信部および光無線通信部を制御する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、音響無線通信部の使用タイミングと光無線通信部の使用タイミングとを通信遅延時間に基づいて規定する所定の通信管理情報にしたがって、音響無線通信部および光無線通信部を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】複数の異なる移動体の間で、音響無線通信と光無線通信とを切り替えて水中無線通信を行う水中無線通信システムの全体概要図である。
図2】水中無線通信装置のブロック図である。
図3】音響通信制御部のブロック図である。
図4】音響パケットの構成例である。
図5】送受信時刻決定部のブロック図である。
図6】水中無線通信処理のフローチャートである。
図7】水中無線通信の例を示すタイムチャートである。
図8】システム起動時に実施される送信方法決定処理のフローチャートである。
図9】第2実施例に係り、大容量データ伝送による通信の例を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。本実施形態に係る水中無線通信装置は、通信遅延時間に基づいて生成された所定の通信管理情報にしたがって、音響無線通信と光無線通信とを切り替えて使用する。以下に述べる、送受信タイムスロットテーブルTSは「所定の通信管理情報」の例である。送受信時刻決定部13は「通信制御部」の例である。
【0013】
本開示には、以下の構成が含まれる。一つの開示は、音響無線通信部11と光無線通信部12と送受信時刻決定部13とを備える水中無線通信装置10において、送受信時刻決定部13は、他の水中無線通信装置10Sとの間で音波若しくは光が遅延する時間を考慮した音波および光波の送受信タイムスロットテーブルTSを生成し、音響無線通信部11または光無線通信部12は、生成された送受信タイムスロットテーブルTSを他の水中無線通信装置10Sへ送信し、音響無線通信部11と光無線通信部12とは送受信タイムスロットテーブルTSに従って、音波または光波を送受信する。
【0014】
他の一つの開示では、送受信タイムスロットテーブルTSは、他の水中無線通信装置10Sとの間で、音波の送受信、および光の送受信の夫々が重ならないように、音波および光波の送受信のタイミングを設定する。
【0015】
さらに他の一つの開示では、「環境測定部」の例である測位処理部1114は、音速、水深、姿勢のいずれかを測定し、測位結果として送受信時刻決定部13へ送信し、送受信時刻決定部13は、受信した測位結果に基づいて送受信タイムスロットテーブルTSを生成する。
【0016】
他の一つの開示では、さらに、送信方法決定部132を備えており、送信方法決定部132は、送信予定データの優先度(または重要度)と通信状況とに応じて、送信予定データを音響無線通信部11または光無線通信部12のいずれかで送信するかを決定し、この決定に基づいて音響無線通信部11または光無線通信部12は送信予定データを送受信する。データの優先度は、データの重要度または緊急度と言い換え可能である。
【0017】
さらに他の一つの開示では、通信状況記憶部133を備えており、通信状況記憶部133は、音響無線通信部11および光無線通信部12の通信状況を測位結果と共に記憶しており、送信方法決定部132は、最新の測位結果とデータの優先度と通信状況記憶部133に記憶された情報とに基づいて、音響無線通信部11または光無線通信部12のうちいずれを選択するか決定する。
【0018】
本実施形態によれば、音響通信と光通信との2種類の通信方式を組み合わせて、安定した水中無線通信を行うことができる。例えば、水中または水上を移動する移動体同士の相対位置は時々刻々と変化し、水深や水温なども変化するが、このような変化にも適合して通信することができる。以下、音響通信を、例えば音響無線通信、音通信と呼ぶ場合がある。光通信を、例えば光無線通信、光通信と呼ぶ場合がある。
【実施例0019】
図1図8を用いて第1実施例を説明する。
【0020】
[水中無線通信システムの全体構成]
【0021】
図1は、水中無線通信システム1の全体構成を示す。水中無線通信システム1は、第1移動体2に搭載された水中無線通信装置10Mと、第2移動体2に搭載された水中無線通信装置10Sとを含む。
【0022】
第1移動体2および第2移動体3は、「水上または水中を移動可能な移動体」の一例である。第1移動体2は、例えば有人または無人の船舶である。第1移動体2は、ASV(小型無人ボート)やブイであってもよい。第2移動体3は、例えば無人または有人の潜水艇である。以下、移動体2,3を「水中機器」と呼ぶことがある。この場合の「水中機器」とは、常に水中に存在する機器を意味するものではなく、その本体の少なくとも一部が水中に位置する機器である。
【0023】
本実施例では、第1移動体としての母船2に搭載された水中無線通信装置10Mをマスター機器とし、第2移動体としてのAUV3に搭載された水中無線通信装置10Sをスレーブ機器として説明する。マスター機器とスレーブ機器の関係が逆でもよい。すなわち、水中側の水中無線通信装置をマスター機器とし、水上側の水中無線通信装置をスレーブ機器としてもよい。
【0024】
以下では、母船側の水中無線装置に主に着目して説明する。水中無線装置10M,10Sを特に区別しない場合、水中無線通信装置10と呼ぶ。水中無線通信装置10の詳細な構成は後述する。先に簡単に説明すると、水中無線通信装置10は、例えば、音響無線通信部11と、光無線通信部12と、送受信時刻決定部13を含む。送受信時刻決定部13は、送受信タイムスロットテーブル生成部131と、送信方法決定部132を含む。
【0025】
送信方法決定部132は、相手方の移動体3と通信を開始する前に、テストデータを音響無線通信部11および光無線通信部12の両方で送受信し、音波と光波のいずれを用いて通信するか決定する。
【0026】
送受信タイムスロットテーブル生成部131は、通信遅延時間を考慮した送受信タイムスロットテーブルTSを生成し、生成した送受信タイムスロットテーブルTSにしたがって相手方の移動体3とデータを送受信する。詳しくは、送受信タイムスロットテーブルTSでは、第1移動体2の音響無線通信部11から送信される音波と第2移動体3の音響無線通信部11から送信される音波とが途中で干渉しないように、通信遅延時間を考慮して、送受信タイミングが決定されている。
【0027】
通信遅延時間には、一方の音響無線通信部11から送信した音波が他方の音響無線通信部11へ到着するまでに要する時間と、他方の音響無線通信部11からの返信(音波)が送信されるまでの時間とを含むことができる。
【0028】
光無線通信部12についても同様に、一方の光無線通信部12からの送信と他方の光無線通信部12からの送信とが重ならないように、通信遅延時間を考慮して送受信タイムスロットテーブルTSを生成することができる。
【0029】
[水中無線通信装置の構成]
【0030】
図2は、水中無線通信装置10の一例を示すブロック図である。上述の通り、本実施例の水中無線通信装置10は、音響無線通信部11と光無線通信部12との通信方式の異なる複数の(2種類の)無線通信部を有する。音響無線通信部11は、音波を送受信する通信部である。光無線通信部12は、光波を送受信する通信部である。音響無線通信部11と光無線通信部12は、送受信時刻決定部13で生成される送受信タイムスロットテーブルTSに従って、無線通信を実現する。以下、音響無線通信部11の構成例を先に説明し、次に光無線通信部12の構成例を説明する。
【0031】
[音響無線通信部11の機能構成]
【0032】
音響無線通信部11の機能構成について説明する。音響無線通信部11は、例えば、送波部112と、受波部113と、音響通信制御部111とを備える。音響無線通信部11は、センサ部15に接続されており、センサ部15から各種の測定データを受領することができる。
【0033】
図3は、音響通信制御部111の機能構成を示すブロック図である。音響通信制御部111は、例えば、送信データ生成部1111と、変調部1112と、復調部1113と、測位処理部1114とを有する。
【0034】
送信データ生成部1111は、送信時刻情報と送受信時刻決定部13で決定された送受信タイムスロットテーブルTSと送信方法とを含む送信データ(デジタル信号)D14を生成する。送信データD14の例は、図4で後述する。音響無線通信では、送信できるデータ量が少ないため、データを符号化する。音波による通信状況を把握するために、データに誤りが発生した場合の検出および訂正のための仕組みを送信データに組み込む。
【0035】
変調部1112は、送信データ生成部1111により生成されたデジタル信号を変調し、音響パケットを生成する。これにより、変調部1112は、送信データD14を音波で送信するための送波信号(アナログ信号)を生成する。
【0036】
変調部1112は、任意の変調方式を用いることができる。変調部1112は、例えば、PSK(Phase Shift Keying:位相偏移変調方式)、QAM(Quadrature Amplitude Modulation:直交振幅変調)方式等のデジタル変調を用いてもよい。変調部1112により、送波部112を駆動して水中を効率よく伝搬可能な音波を発生するのに適した送波信号に変調される。
【0037】
図4は、音響パケットD10の構成例を示す模式図である。音響パケットD10には、送信データD14以外に、例えば、同期信号D11、トレーニング信号D12、制御情報D13、その他情報D15が含まれる。
【0038】
同期信号D11は、水中機器(移動体)2,3を識別するためと、水中機器の相対位置を測位するための信号である。トレーニング信号D12は、音波の伝搬路特性を推定するための信号である。制御情報D13は、音波を発生した時刻を示す送信時刻情報と、各水中機器の送受信タイミングを制御するための送受信タイムスロットテーブルTSと、送信方法決定部132で決定された送信方法とを含む。
【0039】
図2に戻る。送波部112は、送受信タイムスロットテーブルTSの送信時刻に基づいて、送波信号を電力増幅し、全方向へ音波を送波(送信)する。送波部112には、圧電セラミック振動子を送波素子として備えた圧電型の送波器を用いることができる。圧電セラミック振動子は、電界を印加すると歪みまたは応力を発生する性質を有する。
【0040】
受波部113は、アレイ型受波部として構成される。すなわち、アレイ型受波部は、一つのアレイに複数の受波部113が配列される。各受波部113は、送波部112から全方向へ送波された音波に対する返信を、送受信タイムスロットテーブルTSの受信時刻情報に基づいて、受波(受信)する。
【0041】
各受波部113は、受信した受波信号(アナログ信号)を増幅し、ノイズを除去した後、A/D変換(アナログ/デジタル変換)を行う。各受波部113には、例えば、圧電セラミック振動子を受波素子として備えた圧電型の受波器を用いることができる。
【0042】
図3に示す復調部1113は、各受波部113で受信された複数の受波信号を、信号処理可能な信号に復調する。復調部1113は、復調に際して、誤り検出および誤り訂正処理を行い、受波信号のSNR(Signal-Noise Ration)に対するビットエラー率(BER)を測定する。復調部1113は、その測定結果を通信状況として、測位処理部1114および送受信時刻決定部13へ送信する。
【0043】
さらに、復調部1113は、音響パケットD10内の制御情報D13(送信時刻情報、送受信タイムスロットテーブルTS、送信方法等)と送信データD14とを復号する。復調部1113は、音響パケットD10内の同期信号D11を検出した時刻を受信時刻情報とする。復調部1113は、制御情報D13から取り出した送信時刻情報と同期信号D11の受信時刻情報とを、測位処理部1114へ送信する。
【0044】
測位処理部1114は、復調部1113から出力された各受波信号に対する復調結果である送信時刻情報および受信時刻情報と、センサ部15の測定結果である水中での音波の伝搬速度とから、水中機器2,3間の相対距離を求める。測位処理部1114は、各受波信号の受波状況の位相差から、水中機器2,3間の相対方位を算出することもできる。測位処理部1114は、算出された相対方位を、センサ部15の測定結果である水深情報および姿勢情報で補正することもできる。そして、測位処理部1114は、水中機器2,3間の相互位置を測位結果として、送受信時刻決定部13へ送信する。
【0045】
図2に示すように、センサ部15は、複数種類のセンサ151,152を含む。センサ部15は、水中機器の周辺環境を検出して信号を出力する。センサ部15は、例えば、水中の音速および圧力を検出するセンサ151、水中機器の姿勢を検出する姿勢センサ152が含まれる。センサ部15による検出結果は、音響通信制御部111へ送信され、測位処理部1114による水中機器間の相互位置の補正に使用される。なお、センサ部15は、送波部112と受波部113の近傍に設けられる。
【0046】
[光無線通信部12の機能構成]
【0047】
図2に示す光無線通信部12の機能構成について説明する。光無線通信部12は、例えば、光通信制御部112と、照射部122と、受光部123とを有する。
【0048】
光通信制御部112は、他の水中機器に対して、送信データを変調し、光信号として送信する。すなわち、光通信制御部112は、送信時刻情報と送受信時刻決定部13で決定された送受信タイムスロットテーブルTSと送信方法とを含む送信データを生成し、生成された送信データを搬送レーザー光に乗せるために変調処理し、変調された発光信号を照射部122から送信させる。
【0049】
光通信制御部112は、送受信時刻決定部13で決定された送受信タイムスロットテーブルTSの受信時刻情報に従い、受光部123で受信された受光信号を信号処理可能な信号に復調および復号する。このとき、光無線通信部112は、誤り検出処理および誤り訂正処理を行い、受光信号のSNRに対するビットエラー率(BER)を測定し、この測定結果を通信状況として、送受信時刻決定部13へ送信する。
【0050】
照射部122は、送受信タイムスロットテーブルTSに記載された送信時刻情報に基づいて、予め定められた広角範囲へ向けてレーザー光を照射(送信)する。レーザー光の発信源としては、例えば、半導体レーザー、ガスレーザー、LEDがある。さらに、照射部122は、照射角度を調整する回転機構、または可動光学レンズを備えてもよい。照射角度は、姿勢センサ152で検出された動揺量と水中機器間の測位結果とに基づいて、調整することができる。
【0051】
受光部123は、送受信タイムスロットテーブルTSに記載された受信時刻情報に基づいて、他の水中機器から送信されるレーザー光信号を受信する。レーザー光の検出器としては、フォトダイオード等がある。さらに、センサ部15の姿勢センサで検出した動揺量および水中機器間の測位結果に基づき、受光角度を調整する回転機構または可動光学レンズを有してもよい。
【0052】
[送受信時刻決定部13の機能構成]
【0053】
図5を用いて、送受信時刻決定部13の機能構成について説明する。図5は、送受信時刻決定部13の機能構成の一例をすブロック図である。送受信時刻決定部13は、データ入力部14に接続されている。送受信時刻決定部13は、送受信タイムスロットテーブル生成部131と、送信方法決定部132と、通信状況記憶部133を備える。
【0054】
データ入力部14は、原子時計からの時刻情報と図示せぬメモリから読み出される送信予定データとを、送受信時刻決定部13へ入力する。原子時計は、高精度な周波数標準に基づいて正確な時間を刻む時計であり、音波または光波を送受信するタイミングを決める送受信タイムスロットテーブルTSの基準となる。送信予定データは、図示せぬ入力装置から手動で入力してもよい。入力装置には、キーボード、マウスなどのポインティングデバイス、タッチパネルなどがある。
【0055】
送信予定データは、他の水中機器との間での通信対象となるデータパケット(データ信号)である。データパケットには、例えば、優先度およびデータサイズ等の送信情報と、通信データとが含まれる。
【0056】
送受信タイムスロットテーブル生成部131は、測位処理部1114により算出された水中機器間の相互位置と、センサ部15により検出された音速とに基づいて、他の水中機器との間での通信遅延時間を算出する。
【0057】
送受信タイムスロットテーブル生成部131は、算出された通信遅延時間とターンアラウンドタイム(音波を受波してから音波を送波するまでの時間)とに基づき、音波の送受信が重ならないように、かつ光の送受信が重ならないように、送受信タイムスロットテーブルTSを生成する。
【0058】
送受信タイムスロットテーブルTSでは、音響無線通信部11が音波を送信中の場合、すなわち音波の送信モードである場合、光無線通信部12は光波を受信するモードにあるように設定されている。音波送信モードでは、音波の受信は休止されている。光波の受信モードでは、光波の送信は休止されている。このとき、他の水中機器3では、音響無線通信部11は音波受信モード(送信は休止中)とし、光無線通信部12は光波送信モード(受信は休止中)とする。
【0059】
生成された送受信タイムスロットテーブルTSは、音響無線通信部11または光無線通信部12から他の水中機器3へ送信(通知)される。これにより、水中機器2の水中無線通信装置10Mと他の水中機器3の水中無線通信装置10Sとの間で、送受信タイムスロットテーブルTSが共有される。したがって、水中機器2,3間での音波の衝突および光波の衝突を抑制することができ、水中機器2,3間で光波と音波を利用した全二重通信が実現される。すなわち、水中機器2と水中機器3との間で、音波と光波を切り替えて送受信することにより、ほぼ同時にデータをやり取りすることができる。
【0060】
送信方法決定部132は、送信予定データのデータパケットに含まれる送信情報(優先度とデータサイズ)と、測位結果と、通信状況とに基づいて、データパケットの送信方法を決定する。
【0061】
送信方法は、通信方式(音響通信、光通信)、周波数(波長)、周波数帯域幅、変調方式、再送回数、誤り訂正符号の符号化率、送信パルス幅(送信時間長)のうち少なくとも何れかを含んで決定される。
【0062】
例えば、送信情報の優先度が高い場合、確実に送信できる、ロバストな送信方法が決定される。ロバストな送信方法では、例えば、通信方式は音響通信、周波数は20kHz、周波数帯域幅は2kHz、変調方式はBPSK、再送回数は5回、誤り訂正の符号化率は1/2、送信パルス幅は100msと決定される。
【0063】
通信状況記憶部133に記憶された情報(過去の音波および光波の、SNRとBERの関係と測位結果)を用いて、公知技術の機械学習により、現状の測位結果および通信状況における最適な送信方法を決定してもよい。
【0064】
通信状況記憶部133には、測位結果に応じた通信状況が記憶される。例えば、記憶される通信状況には、水中機器が受信した信号のSNRに対するビットエラー率(BER)の測定値を含む。なお、通信状況記憶部133には、揮発性または不揮発性メモリが使用される。そのようなメモリとしては、例えば、DRAM、SRAM、フラッシュメモリ等がある。
【0065】
[水中無線通信装置を用いた通信]
【0066】
母船2に搭載された水中無線通信装置10MとAUV3に搭載された水中無線通信装置10Sとの間での通信動作について説明する。以下、母船側の水中無線通信装置10Mをマスター機器10M、AUV側の水中無線通信装置10Sをスレーブ機器10Sと称して説明する。
【0067】
母船2およびAUV3は、自律的な協調行動をするものとし、母船2とAUV3との間の距離と両者の位置関係とは、常に同じとなるよう協調制御される。母船2とAUV3の間の距離と両者の位置関係とは、図示せぬ位置補正部により制御されてもよい。位置補正部は、測位処理部1114の測位結果に基づき、母船2とAUV3の距離および位置関係が常に同じとなるように制御する。
【0068】
図6は、水中無線通信装置10Mの動作の一例を示すフローチャートであり、図7は、水中無線通信装置10Mと水中無線通信装置10Sとの間の通信例を示すタイムチャートである。図7では、母船側のタイムチャートを上側に示し、AUV側のタイムチャートを下側に示す。それぞれのタイムチャートでは、その上側が送信を示し、その下側が受信を示す。各タイムチャートには、送受信時刻決定部13により決定された送受信時刻および送信方法に基づいて、データパケットが送信および受信された時期が示されている。
【0069】
水中無線通信装置10Mは、送信方法を決定する(S11)。送信方法決定処理の詳細は図8で述べる。簡単に説明すると、水中無線通信装置10Mは、テストパターンの音波信号および光波信号を相手の水中無線通信装置10Sへ送受信することにより、各無線通信部11,12の通信状況と水中機器2,3間の相互位置とを取得し、送信予定データの送信情報(優先度、データサイズ)に基づいて送信方法を決定する。
【0070】
図8を用いて、ステップS11の処理手順を説明する。母船側のマスター機器10Mは、AUV側のスレーブ機器10Sとの間で、予め定められた時刻に予め定められたテストパターンの音波信号を送受信することにより、通信状況および測位結果(通信距離)を取得するとともに、通信状況記憶部133に測位結果に応じた音響通信状況を記憶する(S111)。
【0071】
同様に、マスター機器10Mは、スレーブ機器10Sとの間で、予め定められた時刻に予め定められたテストパターンの光信号を送受信することにより、通信状況および測位結果(通信距離)を取得するとともに、通信状況記憶部133に測位結果に応じた光通信状況を記憶する(S112)。
【0072】
マスター機器10Mは、送信予定データの送信情報(優先度、データサイズ)を取得する(S113)。
【0073】
マスター機器10Mは、ステップS111~S113で取得した、通信状況と測位結果と送信情報とに基づき、送信方法を決定する(S114)。マスター機器10Mは、ステップS113にて決定された送信方法を、音響無線通信部11または光無線通信部12を用いて、スレーブ機器10Sへ送信し、マスター機器10Mおよびスレーブ機器10Sで送信方法を共有する(S115)。
【0074】
図6に戻る。マスター機器10Mは、スレーブ機器10Sから応答信号を受信すると、スレーブ機器10Sとの間で通信が確立したと判断する(S12:YES)。応答信号は、マスター機器10Mから送信された送信方法をスレーブ機器10Sが正常に受信したことを示す信号である。これに対し、マスター機器10Mがスレーブ機器10Sへ送信方法を送信した後で一定時間が経過しても、マスター機器10Mがスレーブ機器10Sからの応答信号を受信できない場合、マスター機器10Mは通信が確立していないと判定し(S12:NO)、ステップS11へ戻る。
【0075】
マスター機器10Mは、送受信タイムスロットテーブル生成部131により、送受信タイムスロットテーブルTSを生成する(S13)。すなわち、マスター機器10Mは、測位処理部1114で算出された通信距離とセンサ部15で検出された音速とに基づいて、水中機器2,3間の音波伝搬時間(通信遅延時間)を算出する。そして、マスター機器10Mは、この通信遅延時間およびターンアラウンドタイム(音波または光波を受信してから送信するまでの時間)に基づき、音波の送受信および光波の送受信の夫々が重ならないように、送受信タイムスロットテーブルTSを生成する。
【0076】
マスター機器10Mは、生成された送受信タイムスロットテーブルTSを音響無線通信部11または光無線通信部12を用いて、AUV側のスレーブ機器10Sへ送信し、各水中機器2,3間で送受信タイムスロットテーブルTSを共有する(S14)。
【0077】
マスター機器10Mは、ステップS13で生成された送受信タイムスロットテーブルTSとステップS11で決定された送信方法とに基づいて、スレーブ機器10Sとの間でデータ通信を行う(S15)。これにより、図7のタイムチャートに示すように、全二重通信が可能となる。同様に、スレーブ機器10Sも、送受信タイムスロットテーブルTSと送信方法に基づいて、マスター機器10Mとの間でデータ通信を行う。
【0078】
マスター機器10Mは、測位処理部1114により受信した音波からスレーブ機器10Sとの間の通信距離を算出し、算出された通信距離が所定値以上変化したか監視している(S16)。例えば、マスター機器10Mは、通信距離が所定値として10m以上変化した場合(S16:YES)、ステップS13へ戻り、送受信タイムスロットテーブルTSを更新する。マスター機器10Mとスレーブ機器10Sとの間の通信距離が所定値以上変化していない場合(S16:NO)、ステップS15へ戻る。
【0079】
ステップS16の判定は、通信距離だけでなく、環境ノイズを含む通信状況の変化でもよい。すなわち、マスター機器10Mは、スレーブ機器10Sとの間の通信距離の変化に加えて、通信状況の変化も監視することができる。これにより、通信環境の変動に応じた最適な送信方法を決定でき、より安定した無線通信を実現することができる。
【0080】
図7のターゲットを説明する。図中の白い四角形は音波により通信が行われていることを示す。図中、斜線の描かれた四角形は光により通信が行われていることを示す。
【0081】
このように構成される本実施例によれば、音響を用いる無線通信と光を用いる無線通信とを組み合わせて水中でより安定した通信を行うことができる。
【0082】
本実施例では、送受信タイムスロットテーブルTSをマスター機器10Mおよびスレーブ機器10Sで共有し、送受信タイムスロットテーブルTSにしたがって音響無線通信または光無線通信を行うため、効率的にデータを送受信することができる。
【0083】
本実施例では、マスター機器10Mとスレーブ機器10Sとの間で、光無線通信の送受信が重ならず、かつ音響無線通信の送受信も重ならないように送受信タイムスロットテーブルTSを生成して共有するため、音波の衝突などを抑制でき、全二重通信を実現することができる。
【0084】
本実施例では、無線通信が行われる水中の音速または水深、水中機器2,3の姿勢変動など測定して送受信タイムスロットテーブルTSを更新するため、水中の環境変化に追従して安定した通信を行うことができる。
【実施例0085】
図9を用いて、第2実施例を説明する。本実施例では、第1実施例との相違を中心に述べる。本実施例では、例えば、潜航しているAUV3が資源調査により収集した大容量データを母船2へ伝送する場合の通信動作を説明する。
【0086】
このとき、送信予定データのデータパケットに含まれる送信情報の優先度は、高速通信モードに設定される。送信方法および送受信タイムスロットテーブルTSは、AUV側のスレーブ機器10Sの光無線通信部12の送信パルス幅(送信時間長)が最大になるように設定される。このときの通信の例を示すタイムチャートを図9に示す。
【0087】
光無線通信部12を用いた高速通信モード時であっても、例えば、水中機器間の通信距離の増大または水中濁度の悪化等の影響により、光無線通信の通信状況が所定値以上低下した場合には、音響無線通信に切り替える。このとき、通信状況記憶部133の記憶情報を参照し、送信方法(周波数、周波数帯域幅、変調方式、再送回数、誤り訂正の符号化率、送信パルス幅)および送受信タイムスロットテーブルTSを更新する。
【0088】
このように構成される本実施例も第1実施例と同様の作用効果を奏する。さらに本実施例では、光無線通信部12による高速通信モードを使用することができるため、AUV3により収集された大容量のデータを母船2へ短時間で伝送することができる。
【0089】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されない。当業者であれば、本発明の範囲内で、種々の追加や変更等を行うことができる。上述の実施形態において、添付図面に図示した構成例に限定されない。本発明の目的を達成する範囲内で、実施形態の構成や処理方法は適宜変更することが可能である。
【0090】
また、本発明の各構成要素は、任意に取捨選択することができ、取捨選択した構成を具備する発明も本発明に含まれる。さらに特許請求の範囲に記載された構成は、特許請求の範囲で明示している組合せ以外にも組合せることができる。
【符号の説明】
【0091】
1:水中無線通信システム、2:母船、3:AUV、10:水中無線通信装置、11:音響無線通信部、12:光無線通信部、13:送受信時刻決定部、14:データ入力部、15:センサ部
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8
図9