(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021838
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】成型用アルミニウム合金板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 21/06 20060101AFI20230207BHJP
C22C 21/02 20060101ALI20230207BHJP
C22F 1/047 20060101ALI20230207BHJP
C22F 1/05 20060101ALI20230207BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230207BHJP
【FI】
C22C21/06
C22C21/02
C22F1/047
C22F1/05
C22F1/00 623
C22F1/00 630K
C22F1/00 630A
C22F1/00 682
C22F1/00 685Z
C22F1/00 683
C22F1/00 691Z
C22F1/00 694A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126953
(22)【出願日】2021-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹村 沙友理
(72)【発明者】
【氏名】成田 渉
(72)【発明者】
【氏名】米光 誠
(57)【要約】
【解決課題】決め押しによるスプリングバック量の低減効果を向上させることができるアルミニウム合金板を提供することを提供すること。
【解決手段】板厚の1/2深さの位置から板表面まで、板厚方向に板厚の1/16の間隔で、硬さ(Hv)を測定し、縦軸を硬さ(Hv)とし、横軸を板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)として、硬さの分布をプロットし、該硬さの分布のプロットより、硬さ(Hv)と板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)の関係を一次関数により近似し、該一次関数の傾きAを最小二乗法により求めたとき、該傾きAと板厚(mm)を乗じた値が10~28であることを特徴とする成型用アルミニウム合金板。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚の1/2深さの位置から板表面まで、板厚方向に板厚の1/16の間隔で、硬さ(Hv)を測定し、縦軸を硬さ(Hv)とし、横軸を板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)として、硬さの分布をプロットし、該硬さの分布のプロットより、硬さ(Hv)と板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)の関係を一次関数により近似し、該一次関数の傾きAを最小二乗法により求めたとき、該傾きAと板厚(mm)を乗じた値が10~28であることを特徴とする成型用アルミニウム合金板。
【請求項2】
前記硬さの分布のプロットのうち、板厚の1/4深さの位置から板表面までの硬さの分布のプロットより、硬さ(Hv)と板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)の関係を一次関数により近似し、該一次関数の傾きB1を最小二乗法により求め、且つ、前記硬さの分布のプロットのうち、板厚の1/2深さの位置から板厚の1/4深さの位置までの硬さの分布のプロットより、硬さ(Hv)と板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)の関係を一次関数により近似し、該一次関数の傾きB2を最小二乗法により求めたとき、該傾きB1と該傾きB2の差(B1-B2)の絶対値が10以下であることを特徴とする請求項1記載の成型用アルミニウム合金板。
【請求項3】
引張強度が140.0MPa以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の成型用アルミニウム合金板。
【請求項4】
JIS5000系アルミニウム合金からなることを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載の成型用アルミニウム合金板。
【請求項5】
JIS6000系アルミニウム合金からなることを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載の成型用アルミニウム合金板。
【請求項6】
JIS5000系アルミニウム合金からなる成型用アルミニウム合金板の製造方法であり、(1a)冷間加工率を70.0%以上とすること、(2a)安定化処理後に圧下率1.0~10.0%のスキンパスを行うこと、(3a)冷間加工のパス1回当たりの圧下率が25.0%以下のパスを3回以上行うこと、及び(4a)安定化処理後にレベラーで処理することのうちの少なくとも1つを実施することを特徴とする成型用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項7】
JIS6000系アルミニウム合金からなる成型用アルミニウム合金板の製造方法であり、(1b)冷間加工率を70.0%以上とすること、(2b)人工時効処理後に圧下率1.0~10.0%のスキンパスを行うこと、(3b)冷間加工のパス1回当たりの圧下率が25.0%以下のパスを3回以上行うこと、及び(4b)溶体化処理後又は人工時効処理後にレベラーで処理することのうちの少なくとも1つを実施することを特徴とする成型用アルミニウム合金板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板材のプレス成型加工後のスプリングバック量が低減された成型用アルミニウム合金板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
板材のプレス成形加工においては、材料を曲げ加工したときに、工具を離すと弾性変形分だけ元に戻ってしまうスプリングバックによる寸法形状不良が発生する。スプリングバックは、一般的に硬い材料ほど現れ、その量も大きくなる。そのため、寸法形状不良を抑えるために、材料強度を低くして、応力-歪曲線の弾性変形領域を小さくする必要が生じる。
【0003】
そこで、従来より、スプリングバック量を低減させるために、板材に対して板厚方向に圧力を加える決め押しが行われている。この手法により板厚方向の応力を変化させて、スプリングバックを抑制する方に板材の面内応力を変化させることができる。しかし、この手法では、材質によってはスプリングバック量の低減量が小さいものがあり、 更なる対策が必要となる。
【0004】
そのようなことから、スプリングバック量を低減させる方法として、例えば、特許文献1には、溶体化処理後にスキンパスを取り入れることにより、板表層から1/4板厚に、平均硬さよりも硬い層を設けることにより、形状凍結性を高める方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、平均硬さよりも硬い領域が多くなってしまうという問題がある。前述のとおり、スプリングバックは弾性変形領域に関係した塑性変形であるため、平均硬さよりも硬い領域は最小限であった方が良い。
【0007】
そうすると、プレス成形加工でのスプリングバック量を低減させるには、強度を低くせざるを得なくなる。そのため、高強度と低スプリングバック量を同時に具備するアルミニウム合金板を作製することは容易ではない。
【0008】
従って、本発明の目的は、決め押しによるスプリングバック量の低減効果を向上させることができるアルミニウム合金板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、厚さ方向に特定の硬さ分布の傾きと板厚を有することにより、高強度でありながら、スプリングバック量を低減させることができ、優れた形状凍結性を有するアルミニウム合金板が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明(1)は、板厚の1/2深さの位置から板表面まで、板厚方向に板厚の1/16の間隔で、硬さ(Hv)を測定し、縦軸を硬さ(Hv)とし、横軸を板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)として、硬さの分布をプロットし、該硬さの分布のプロットより、硬さ(Hv)と板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)の関係を一次関数により近似し、該一次関数の傾きAを最小二乗法により求めたとき、該傾きAと板厚(mm)を乗じた値が10~28であることを特徴とする成型用アルミニウム合金板を提供するものである。
【0011】
また、本発明(2)は、前記硬さの分布のプロットのうち、板厚の1/4深さの位置から板表面までの硬さの分布のプロットより、硬さ(Hv)と板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)の関係を一次関数により近似し、該一次関数の傾きB1を最小二乗法により求め、且つ、前記硬さの分布のプロットのうち、板厚の1/2深さの位置から板厚の1/4深さの位置までの硬さの分布のプロットより、硬さ(Hv)と板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)の関係を一次関数により近似し、該一次関数の傾きB2を最小二乗法により求めたとき、該傾きB1と該傾きB2の差(B1-B2)の絶対値が10以下であることを特徴とする(1)の成型用アルミニウム合金板を提供するものである。
【0012】
また、本発明(3)は、引張強度が140.0MPa以上であることを特徴とする(1)又は(2)の成型用アルミニウム合金板を提供するものである。
【0013】
また、本発明(4)は、JIS5000系アルミニウム合金からなることを特徴とする(1)~(3)いずれかの成型用アルミニウム合金板を提供するものである。
【0014】
また、本発明(5)は、JIS6000系アルミニウム合金からなることを特徴とする(1)~(3)いずれかの成型用アルミニウム合金板を提供するものである。
【0015】
また、本発明(6)は、JIS5000系アルミニウム合金からなる成型用アルミニウム合金板の製造方法であり、(1a)冷間加工率を70.0%以上とすること、(2a)安定化処理後に圧下率1.0~10.0%のスキンパスを行うこと、(3a)冷間加工のパス1回当たりの圧下率が25.0%以下のパスを3回以上行うこと、及び(4a)安定化処理後にレベラーで処理することのうちの少なくとも1つを実施することを特徴とする成型用アルミニウム合金板の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明(7)は、JIS6000系アルミニウム合金からなる成型用アルミニウム合金板の製造方法であり、(1b)冷間加工率を70.0%以上とすること、(2b)人工時効処理後に圧下率1.0~10.0%のスキンパスを行うこと、(3b)冷間加工のパス1回当たりの圧下率が25.0%以下のパスを3回以上行うこと、及び(4b)溶体化処理後又は人工時効処理後にレベラーで処理することのうちの少なくとも1つを実施することを特徴とする成型用アルミニウム合金板の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、決め押しによるスプリングバック量の低減効果を向上させることができるアルミニウム合金板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の成形用アルミニウム合金板の模式的な断面図である。
【
図11】6000系標準材の硬さのプロット図である。
【
図15】5000系標準材の硬さのプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の成型用アルミニウム合金板は、板厚の1/2深さの位置から板表面まで、板厚方向に板厚の1/16の間隔で、硬さ(Hv)を測定し、縦軸を硬さ(Hv)とし、横軸を板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)として、硬さの分布をプロットし、該硬さの分布のプロットより、硬さ(Hv)と板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)の関係を一次関数により近似し、該一次関数の傾きAを最小二乗法により求めたとき、該傾きAと板厚(mm)を乗じた値が10~28であることを特徴とする成型用アルミニウム合金板である。
【0020】
本発明の成型用アルミニウム合金板について、
図1、
図3及び
図9を参照して説明する。
図1は、本発明の成型用アルミニウム合金板の模式的な断面図である。
図3は、実施例Bについて、縦軸を硬さ(Hv)とし、横軸を板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)として、硬さの分布をプロットした図である。
図9は、比較例Hについて、縦軸を硬さ(Hv)とし、横軸を板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)として、硬さの分布をプロットした図である。
【0021】
図1を用いて、硬さ(Hv)の測定位置を説明する。
図1は、成形用アルミニウム合金板1を、板面に垂直な面で切った断面図である。
図1中、符号3で示す位置が、板厚の1/2深さの位置である。つまり、板厚の1/2深さの位置3とは、板表面7から板厚方向6に、板厚pの1/2の長さ分qだけ離れた位置である。また、符号5で示す位置が、板厚の1/4深さの位置である。つまり、板厚の1/4深さの位置5とは、板表面7から板厚方向6に、板厚pの1/4の長さ分rだけ離れた位置である。
【0022】
傾きAの求め方について説明する。傾きAは、板厚の1/2深さの位置から板表面まで、板厚方向に板厚の1/16の間隔で、硬さ(Hv)を測定し、縦軸を硬さ(Hv)とし、横軸を板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)として、硬さの分布をプロットしたときに、該硬さの分布のプロットに基づいて、最小二乗法により求められる硬さ(Hv)と板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)の関係を一次関数により近似した、該一次関数の傾きである。先ず、成型用アルミニウム合金板の断面について、板厚の1/2深さの位置3から板表面位置4まで、板厚方向6に板厚pの1/16の間隔で、硬さ(Hv)を測定する。次いで、
図3に示すように、各測定位置の硬さ(Hv)の結果を、縦軸を硬さ(Hv)とし、横軸を板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)として、プロットする。次いで、得られた硬さの分布のプロットより、硬さ(Hv)と板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)の関係を一次関数により近似し、該一次関数の傾きAを最小二乗法により求める。
図3に示す実施例Bでは、最小二乗法により、傾きAは16と求められる。また、比較例Hでは、同様の手順により、
図9に示すように、最小二乗法により、傾きAは4.9と求められる。
【0023】
なお、本発明において、硬さ(Hv)は、JIS Z 2244に準拠した手法で測定され、例えば、アルミニウム合金板を、樹脂包埋し、鏡面研磨後、圧延直角断面(板面に垂直な面)について、マイクロビッカース硬さ試験機(FM-110、フューチュアテック社製)を用いて、試験荷重10gf(0.098N)、保持時間10秒の測定条件で測定された値である。
【0024】
また、板表面から1/16位置の板表面近傍の部分について、正確な硬さを測定するために、本発明においては、板厚が薄い場合には、表面からおおよそ厚さの1/16以上離れた位置からの硬さ(Hv)の測定を行えば良い。
【0025】
傾きB1及びB2の求め方について説明する。傾きAを求めるときに得た硬さの分布のプロットのうち、板厚の1/4深さの位置5から板表面位置4までの硬さの分布のプロットより、板厚の1/4深さの位置5から板表面位置4までの間の硬さ(Hv)と板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)の関係を一次関数により近似し、該一次関数の傾きB1を最小二乗法により求める。また、傾きAを求めるときに得た硬さの分布のプロットのうち、板厚の1/2深さの位置3から板厚の1/4深さの位置5までの硬さの分布のプロットより、板厚の1/2深さの位置3から板厚の1/4深さの位置5までの間の硬さ(Hv)と板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)の関係を一次関数により近似し、該一次関数の傾きB2を最小二乗法により求める。
【0026】
本発明の成型用アルミニウム合金板では、上記のようにして求められる板厚の1/2深さの位置から板表面位置までの硬さの分布のプロットに基づく、板厚の1/2深さの位置から板表面位置までの間の「最小二乗法により求められる硬さ(Hv)と板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)の関係を一次関数により近似した、該一次関数の傾きAの値」と、板厚(mm)を乗じた値(傾きA×板厚(mm))が、10~28、好ましくは10~20、特に好ましくは12~17である。傾きA×板厚(mm)の値が上記範囲にあることにより、決め押しによるスプリングバック量の低減量が多くなり、形状凍結性に優れる。一方、傾きA×板厚(mm)の値が、上記範囲未満だと、決め押しによるスプリングバック量の低減量が少なくなり、形状凍結性に劣る。また、傾きAを大きくするためには、加工硬化を多く取り入れる必要があるが、傾きA×板厚(mm)の値を、上記範囲を超える値にするには、傾きAを大きくするために、過度に大きな加工硬化が必要となるか、あるいは、板厚を過度に大きくする必要がある。そして、板厚が多過ぎると、板厚方向に、本発明の成型用アルミニウム合金板に係る硬さの分布を作ることが困難になる。
【0027】
本発明において、板厚の1/2深さの位置から板表面位置までの硬さの分布のプロットに基づく、板厚の1/2深さの位置から板表面位置までの間の「最小二乗法により求められる硬さ(Hv)と板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)の関係を一次関数により近似した、該一次関数の傾きAを有する一次関数」と、板厚の1/2深さの位置から板表面位置までの硬さの分布のプロットとの相関係数(R2)は、0.50以上、好ましくは0.70以上、特に好ましくは0.80以上である。
【0028】
本発明の成型用アルミニウム合金板では、上記のようにして求められる板厚の1/2深さの位置から板表面位置までの硬さの分布のプロットに基づく、板厚の1/4深さの位置から板表面までの硬さの分布のプロットより、板厚の1/4深さの位置から板表面までの間の「最小二乗法により求められる硬さ(Hv)と板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)の関係を一次関数により近似した、該一次関数の傾きB1」と、板厚の1/2深さの位置から板厚の1/4深さの位置までの硬さの分布のプロットより、板厚の1/2深さの位置から板厚の1/4深さの位置までの間の「最小二乗法により求められる硬さ(Hv)と板厚の1/2深さの位置からの距離(mm)の関係を一次関数により近似した、該一次関数の傾きB2」との差(B1-B2)の絶対値は、好ましくは10以下、特に好ましくは8以下である。成形用アルミニウム合金板の板厚の1/2深さの位置から板表面位置までの硬さの分布のプロットに基づく、傾きB1と傾きB2の差の値が、上記範囲にあることにより、決め押しによるスプリングバック量の低減効果を向上させることができる。
【0029】
なお、本発明において、板厚方向に板厚の1/16の間隔で硬さを測定するのは、板厚の1/4深さの位置から板表面位置まで領域と、板厚の1/2深さの位置から板厚の1/4深さの位置までの領域に区切ったときに、厚さの1/16の間隔で硬さを測定すると、それぞれ領域で、4点の測定位置で近似一次関数を描くことができ、その一次関数の傾きの値の信頼性が上がるためである。一方、例えば、板厚方向に板厚の1/10の間隔で硬さを測定すると、最表面近傍の硬さの測定が困難であることを考慮すると、2点の測定位置で近似一次関数を描くことになり、その一次関数の傾きの値の信頼性が低くなる。
【0030】
本発明の成型用アルミニウム合金板の板厚は、0.4~5.0mm、好ましくは0.8~2.7mmである。上記範囲未満又は上記範囲を超える板厚のアルミニウム合金板において、「傾きA×板厚(mm)」の値が、10~28、好ましくは10~20、特に好ましくは12~17となる硬さの分布を作ることは難しい。
【0031】
本発明の成型用アルミニウム合金板の基本成分は、特に限定されるものではなく、本発明の成型用アルミニウム合金板のアルミニウム合金は、1000系、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系、7000系等の種々のアルミニウム合金であってよい。
【0032】
本発明の成型用アルミニウム合金板は、JIS5000系アルミニウム合金又はJIS6000系アルミニウム合金からなることが好ましい。
【0033】
JIS5000系アルミニウム合金の成分組成は、Si:0.25質量%以下、Fe:0.40質量%以下、Cu:0.10質量%以下、Mn:0.10質量%以下、Mg:2.20~2.80質量%、Cr:0.15~0.35質量%、Zn:0.10質量%以下、残部がアルミニウム及び不可避的不純物である合金からなることがより好ましい。
【0034】
JIS6000系アルミニウム合金の成分組成は、Si:0.20~0.60質量%、Fe:0.35質量%以下、Cu:0.10質量%以下、Mn:0.10質量%以下、Mg:0.45~0.90質量%、Cr:0.10質量%以下、Zn:0.10質量%以下、Ti:0.10質量%以下、残部がアルミニウム及び不可避的不純物である合金からなることがより好ましい。
【0035】
本発明の成型用アルミニウム合金板の引張強度は、好ましくは140.0MPa以上、より好ましくは150.0~300.0MPa、特に好ましくは160.0~290.0MPaである。本発明の成型用アルミニウム合金板は、「傾きA×板厚(mm)」の値が、10~28、好ましくは10~20、特に好ましくは12~17であることにより、更に好ましくは、「傾きB1-傾きB2」の絶対値が、好ましくは10以下、特に好ましくは8以下であることにより、引張強度が、好ましくは140.0MPa以上、より好ましくは150.0~300.0MPa、特に好ましくは160.0~290.0MPaと高強度でありながら、決め押しによるスプリングバック量の低減量が多くなり、形状凍結性に優れる。
【0036】
図3に示す硬さの分布のプロットである実施例Bは、板厚が0.81mmであり、JIS A6063アルミニウム合金を、常法により鋳造し、熱間圧延及び冷間圧延を常法によって行い、板厚を0.81mmとした後、溶体化処理及び人工時効処理を行い、人工時効後に3.0%のスキンパスを行ったものである。
図3に示すように、実施例Bの硬さの分布のプロットでは、板厚の中央部(板厚の1/2深さの位置)の硬さが最も低く、板表面まで直線的に硬さが変化している。そして、
図3の硬さの分布のプロットに基づいて、最小二乗法により求められる傾きAは、16となる。そのため、「傾きA×板厚(mm)」の値は、13(16×0.81)である。そして、実施例Bのアルミニウム合金板について、90度曲げ試験を、20kgf(196)N、100kgf(980)N、200kgf(1961N)で行ったところ、スプリングバック量はそれぞれ5.7°、3.7°、3.7°であった。スプリングバック量は、90°からの差を求めており、実施例Bのアルミニウム合金板では、90°曲げの試験の荷重の大きい条件、いわゆる決め押しにあたる条件において、スプリングバック量が低減する現象が確認された。
【0037】
図9に示す硬さの分布のプロットである比較例Hは、板厚が0.82mmであり、JIS A6063アルミニウム合金を、常法により鋳造し、熱間圧延及び冷間圧延を常法によって行い、板厚を0.82mmとした後、3.0%のスキンパスを行い、その後に、溶体化処理、次いで、人工時効処理を行ったものである。
図9に示すように、比較例Hの硬さの分布のプロットでは、最小二乗法により求められる傾きAは、4.9となる。そのため、「傾きA×板厚(mm)」の値は、4.0(4.9×0.82)である。そして、比較例Hアルミニウム合金板について、90度曲げ試験を、20kgf、100kgf、200kgfで行ったところ、スプリングバック量はそれぞれ8.7°、10.3°、8.0°であった。比較例Hのアルミニウム合金板では、90°曲げの試験の荷重の大きい条件、いわゆる決め押しにあたる条件でも、スプリングバック量に変化はなかった。
【0038】
本発明の成型用アルミニウム合金板は、「傾きA×板厚(mm)」の値が、10~28、好ましくは10~20、特に好ましくは12~17であることにより、決め押し条件に相当する高荷重の90°曲げ試験での成形加工性が優れている。一般的に硬い材料ではスプリングバックの影響が強く現れるので、高強度であり且つ成形性に優れる材料は、実現し難い。そのような技術背景において、本発明の成型用アルミニウム合金板では、板厚方向に硬さの低い領域を作り、且つ、板厚方向の硬さの変化を、「傾きA×板厚(mm)」の値が、10~28、好ましくは10~20、特に好ましくは12~17を満たすように制御することによって、決め押しにより板材の面内応力を変化させてスプリングバック量を低減させることができるので、高強度であり且つ形状凍結性に優れる。
【0039】
本発明の成型用アルミニウム合金板は、以下に示す本発明の第一の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法又は本発明の第二の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法により、好適に製造される。
【0040】
本発明の第一の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法は、JIS5000系アルミニウム合金からなる成型用アルミニウム合金板の製造方法であり、(1a)冷間加工率を70.0%以上とすること、(2a)安定化処理後に圧下率1.0~10.0%のスキンパスを行うこと、(3a)冷間加工のパス1回当たりの圧下率が20.0%以下のパスを3回以上行うこと、及び(4a)安定化処理後にレベラーで処理することのうちの少なくとも1つを実施することを特徴とする成型用アルミニウム合金板の製造方法である。
【0041】
本発明の第一の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法では、JIS5000系アルミニウム合金の組成を有するアルミニウム合金鋳塊を造塊する鋳造工程と、均質化処理と、熱間圧延と、冷間圧延と、安定化処理と、を順に行う。なお、本発明の第一の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法では、鋳造方法、均質化処理方法、安定化処理方法は、特に制限されず、適宜選択される。
【0042】
そして、本発明の第一の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法では、(1a)冷間加工率を70.0%以上とすること、(2a)安定化処理後に圧下率1.0~10.0%のスキンパスを行うこと、(3a)冷間加工のパス1回当たりの圧下率が20.0%以下のパスを3回以上行うこと、及び(4a)安定化処理後にレベラーで処理することのうちの少なくとも1つを実施することにより、加工を増やして、板厚方向に加工硬化を進行させ、上記の本発明の成型用アルミニウム合金板における硬さの分布を発現させることができる。なお、上記(1a)~(4a)のいずれか1つを実施例してもよいし、あるいは、上記(1a)~(4a)のうちの2つ以上を組み合わせて実施してもよい。本発明の第一の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法では、上記(1a)~(4a)のうちの2つ以上を組み合わせることにより、傾きAの値を大きくし易くなる。
【0043】
(1a)は、冷間加工において、冷間加工率を70.0%以上、好ましくは70.0~80.0%とすることである。なお、冷間加工率とは、冷間加工における総加工率であり、「冷間加工率(%)=((冷間加工の最初のパス前の板厚-冷間加工の最後のパス後の板厚)/冷間加工の最初のパス前の板厚)×100」により算出される値である。
【0044】
(2a)は、安定化処理後に圧下率1.0~10.0%、好ましくは3.0~10.0%のスキンパスを行うことである。スキンパスとは、「圧下率(%)=((スキンパス前の板厚-スキンパス後の板厚)/スキンパス前の板厚)×100」により算出される圧下率が、1.0~10.0%、好ましくは3.0~10.0%の範囲内で、冷間で板厚を減じる加工である。本発明の第一の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法では、(2a)に規定するスキンパスを、冷間加工における冷間加工率(冷間加工における総加工率)が、30.0以上70.0%未満である場合、特に30.0~60.0%である場合に行うことが好ましい。
【0045】
(3a)は、冷間加工のパス1回当たりの圧下率が25.0%以下のパスを3回以上行うことである。冷間加工のパス1回当たりの圧下率は、「圧下率(%)=((パス前の板厚-パス後の板厚)/パス前の板厚)×100」により算出される圧下率である。本発明の第一の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法では、1回当たりの圧下率が10.0~25.0%の冷間加工のパスを、3回以上行うことが好ましく、1回当たりの圧下率が10.0~20.0%の冷間加工のパスを、4回以上行うことがより好ましく、1回当たりの圧下率が10.0~15.0%の冷間加工のパスを、6回以上行うことが特に好ましい。本発明の第一の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法では、(3a)に規定する冷間加工のパスを、冷間加工における冷間加工率(冷間加工における総加工率)が、30.0以上70.0%未満である場合、特に30.0~60.0%である場合に行うことが好ましい。
【0046】
(4a)は、安定化処理後にレベラーで処理することである。レベラーとは、薄板の反りを矯正する目的で常用されている装置であり、レベラーによる処理とは、板の進行方向に対して、ロールの作用点が少しずつ食い違うように設けられた少なくとも2段のロールの間に板を通し、反対方向に少なくとも2回の屈曲を与える処理である。本発明の第一の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法では、(4a)に規定するレベラーによる処理を、冷間加工における冷間加工率(冷間加工における総加工率)が、30.0以上70.0%未満である場合、特に30.0~60.0%である場合に行うことが好ましい。
【0047】
本発明の第二の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法は、JIS6000系アルミニウム合金からなる成型用アルミニウム合金板の製造方法であり、(1b)冷間加工率を70.0%以上とすること、(2b)人工時効処理後に圧下率1.0~10.0%のスキンパスを行うこと、(3b)冷間加工のパス1回当たりの圧下率が20.0%以下のパスを3回以上行うこと、及び(4b)溶体化処理後又は人工時効処理後にレベラーで処理することのうちの少なくとも1つを実施することを特徴とする成型用アルミニウム合金板の製造方法である。
【0048】
本発明の第二の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法では、JIS6000系アルミニウム合金の組成を有するアルミニウム合金鋳塊を造塊する鋳造工程と、均質化処理と、熱間圧延と、冷間圧延と、溶体化処理と、人工時効処理と、を順に行う。なお、本発明の第二の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法では、鋳造方法、均質化処理方法、溶体化処理方法、人工時効処理方法は、特に制限されず、適宜選択される。
【0049】
そして、本発明の第二の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法では、(1b)冷間加工率を70.0%以上とすること、(2b)人工時効処理後に圧下率1.0~10.0%のスキンパスを行うこと、(3b)冷間加工のパス1回当たりの圧下率が20.0%以下のパスを3回以上行うこと、及び(4b)人工時効処理後にレベラーで処理することのうちの少なくとも1つを実施することにより、加工を増やして、板厚方向に加工硬化を進行させ、上記の本発明の成型用アルミニウム合金板における硬さの分布を発現させることができる。なお、上記(1b)~(4b)のいずれか1つを実施例してもよいし、あるいは、上記(1b)~(4b)のうちの2つ以上を組み合わせて実施してもよい。本発明の第二の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法では、上記(1b)~(4b)のうちの2つ以上を組み合わせることにより、傾きAの値を大きくし易くなる。
【0050】
(1b)は、冷間加工において、冷間加工率を70.0%以上、好ましくは70.0~80.0%とすることである。なお、冷間加工率とは、冷間加工における総加工率であり、「冷間加工率(%)=((冷間加工の最初のパス前の板厚-冷間加工の最後のパス後の板厚)/冷間加工の最初のパス前の板厚)×100」により算出される値である。
【0051】
(2b)は、人工時効処理後に圧下率1.0~10.0%、好ましくは3.0~10.0%のスキンパスを行うことである。スキンパスとは、「圧下率(%)=((スキンパス前の板厚-スキンパス後の板厚)/スキンパス前の板厚)×100」により算出される圧下率が、1.0~10.0%、好ましくは3.0~10.0%の範囲内で、冷間で板厚を減じる加工である。本発明の第二の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法では、(2b)に規定するスキンパスを、冷間加工における冷間加工率(冷間加工における総加工率)が、30.0以上70.0%未満である場合、特に30.0~60.0%である場合に行うことが好ましい。
【0052】
(3b)は、冷間加工のパス1回当たりの圧下率を25.0%以下のパスを3回以上行うことである。冷間加工のパス1回当たりの圧下率は、「圧下率(%)=((パス前の板厚-パス後の板厚)/パス前の板厚)×100」により算出される圧下率である。本発明の第二の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法では、1回当たりの圧下率が10.0~25.0%の冷間加工のパスを、3回以上行うことが好ましく、1回当たりの圧下率が10.0~20.0%の冷間加工のパスを、4回以上行うことがより好ましく、1回当たりの圧下率が10.0~15.0%の冷間加工のパスを、5回以上行うことが特に好ましい。本発明の第二の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法では、(3b)に規定する冷間加工のパスを、冷間加工における冷間加工率(冷間加工における総加工率)が、30.0以上70.0%未満である場合、特に30.0~60.0%である場合に行うことが好ましい。
【0053】
(4a)は、溶体化処理後又は人工時効処理後にレベラーで処理することである。レベラーとは、薄板の反りを矯正する目的で常用されている装置であり、レベラーによる処理とは、板の進行方向に対して、ロールの作用点が少しずつ食い違うように設けられた少なくとも2段のロールの間に板を通し、反対方向に少なくとも2回の屈曲を与える処理である。本発明の第二の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法では、(4b)に規定するレベラーによる処理を、冷間加工における冷間加工率(冷間加工における総加工率)が、30.0以上70.0%未満である場合、特に30.0~60.0%である場合に行うことが好ましい。
【0054】
本発明の第一の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法又は本発明の第二の形態の成型用アルミニウム合金板の製造方法において、本発明の成型用アルミニウム合金板における上記のような硬さ分布が発現する理由は以下の通りである。
本発明の成型用アルミニウム合金板における硬さ分布は、加工硬化に由来すると考えられる。金属は加工応力によって転位が増殖し、内部応力が蓄積される。加工硬化は、この転位が増えすぎると転位同士がからんだり切れたりして材料自体の硬化が起きるとされている。熱間圧延のような大規模変形では板厚全体に均一に応力が伝わるため、板厚方向での硬さ分布は生まれない。それに対して、(1a)~(3a)及び(1b)~(3b)の冷間圧延又はスキンパスでは、熱間圧延と比べて小規模変形のため、表層及びその近辺に加工硬化が発生し易く、板厚方向に、本発明の成型用アルミニウム合金板に係る規定を満たす硬さ分布を作ることが可能となる。このことは、実施例A~Fでも明らかである。また、上記の原理から、(4a)及び(4b)のレベラーなどのような、板の反りを強制する目的で板を屈曲させる手法においても、板表層が加工硬化して、板厚方向に、本発明の成型用アルミニウム合金板に係る規定を満たす硬さ分布を作ることが可能となる。このことは、実施例Gでも明らかである。
【0055】
本発明の成型用アルミニウム合金板におけるスプリングバック量の低減効果は、加工硬化に由来する板厚方向の硬さ分布に由来するので、JIS5000系のような加工硬化型合金だけでなく、JIS6000系のような熱処理型合金でも同様の傾向が得られる。熱処理型合金では人工時効の前後で析出物が多数生成するため、その影響を受けて硬さが変化する。しかし、本発明の成型用アルミニウム合金板に係る板厚方向の硬さ分布は、冷間圧延やスキンパス等による加工硬化に由来するため、時効前後で硬さ分布の傾き自体には影響が無いと考える。このことは、実施例A~Gでも明らかである。
【0056】
スプリングバックは、材料を曲げ加工する際の弾性変形が主となる。弾性変形領域は、強度の低い材料ほど狭くなるため、強度が低い材料ほど、スプリングバック量が小さくなる。本発明の成型用アルミニウム合金板では、板厚中央部にやわらかい層が存在しており、その部分の弾性変形領域が狭いので、結果としてスプリングバック量の低減効果が向上できる。つまり、やわらかい層が板厚方向に広く存在しているほど、その層が塑性変形されるため、スプリングバック量の低減効果が向上できると考えられる。
【0057】
以下に、実施例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【実施例0058】
(実施例1)
JIS A6063アルミニウム合金及びJIS 5052アルミニウム合金を、DC鋳造により造塊した。次いで、JIS A6063アルミニウム合金については、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、人工時効処理を順に行い、また、JIS 5052アルミニウム合金アルミニウム合金については、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延、安定化処理を順に行い、それらの工程において、表1又は表2に示す製造条件の操作を実施し、JIS A6063アルミニウム合金では、0.80mmを目標に、表1に示す板厚のアルミニウム合金板を、JIS 5052アルミニウム合金では、2.70mmを目標に、表2に示す板厚のアルミニウム合金板を作製した。なお、均質化処理、溶体化処理、人工時効処理、安定化処理の条件は一般的なものとした。
各条件の標準板との違いは次の通りである。実施例A:冷間加工率を高くした。実施例B:人工時効処理後に圧下率3.0%のスキンパスを実施した。実施例C:冷間加工パス数を多くした。実施例D:冷間加工のパス数を多くし且つ人工時効処理後に圧下率3.0%のスキンパスを実施した。実施例E:人工時効処理後に圧下率5.0%のスキンパスを実施した。実施例F:人工時効処理後に圧下率が10.0%のスキンパスを実施した。実施例G:溶体化処理後にレベラーによる処理を実施した。比較例H:冷間圧延後且つ溶体化処理前に圧下率3.0%のスキンパスを実施した。比較例I:冷間加工パス数を減らした。実施例J:冷延加工率を高くした。実施例K:冷間加工パス数を多くした。実施例L:安定化処理後に圧下率3.0%のスキンパスを実施した。
【0059】
【0060】
【0061】
各評価の方法及び評価基準は次の通りである。
<硬さ(Hv)測定>
硬さ(Hv)の測定について、JIS Z 2244に準拠した手法で行った。アルミニウム合金板を、樹脂包埋し、鏡面研磨後、圧延直角断面(板面に垂直な面)について、マイクロビッカース硬さ試験機(FM-110、フューチュアテック社製)を用いて、試験荷重10gf(0.098N)、保持時間10秒の測定条件で、硬さ(Hv)を測定した。測定は、厚み方向に、所定の間隔で行い、各測定位置について3点測定し、平均値を、その位置における硬さ(Hv)とした。
JIS6000系のアルミニウム合金板では、厚み方向に、0.05mm間隔で測定を行い、JIS5000系のアルミニウム合金板では、厚み方向に、0.168mm間隔で測定を行った。
なお、最表層の位置では、ビッカース硬さの圧痕が樹脂にも及んでしまうため、硬さ測定しなかった。
その結果を、表3及び表4に示す。また、各硬さ分布を
図2~
図15に示す。また、最小二乗法により求められた傾きAを表5に示す。
【0062】
<スプリングバック量(成形性)>
成形性を評価するため、圧延方向60mm×幅方向30mmの板を、各5枚用意して、曲げ半径R=5.0mmの90°曲げ試験を実施した。試験荷重は、20kgf(196N)、100kgf(980N)、200kgf(1961N)とした。荷重を除荷した後に、板の角度を分度器により求め、90°からの差をスプリングバック量とした。スプリングバック量は5枚平均の値とした。
【0063】
各評価結果を表5に示す。20kgfに比べ200kgfのスプリングバック量の減少量が、1°以上であったものを、成形性に優れるということで「評価:良い」とし、一方、1°未満であったものを、成形性に劣るということで「評価:悪い」とした。
【0064】
表5からは、
図2~
図15に示す硬さ分布に基づく、近似一次関数の傾きAと板厚(mm)を乗じた値(傾きA×板厚(mm))が、10以上の場合に、20kgfに比べ200kgfのスプリングバック量が1°以上減少していることが分かった。
【0065】
そして、「傾きA×板厚(mm)」が10以上となるのは、製造条件が、A、B、C、D、E、F、G、J、K及びLの場合であった。一方、製造条件が、H及びIの場合は、板厚方向の硬さ分布の傾きが小さ過ぎるため、「傾きA×板厚(mm)」が10未満となってしまい、その結果、スプリングバック量が低減しなかったと考えられる。
【0066】
【0067】
【0068】