IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社大林組の特許一覧 ▶ 株式会社竹入製作所の特許一覧

<>
  • 特開-盛土補強材及び盛土補強工法 図1
  • 特開-盛土補強材及び盛土補強工法 図2
  • 特開-盛土補強材及び盛土補強工法 図3
  • 特開-盛土補強材及び盛土補強工法 図4
  • 特開-盛土補強材及び盛土補強工法 図5
  • 特開-盛土補強材及び盛土補強工法 図6
  • 特開-盛土補強材及び盛土補強工法 図7
  • 特開-盛土補強材及び盛土補強工法 図8
  • 特開-盛土補強材及び盛土補強工法 図9
  • 特開-盛土補強材及び盛土補強工法 図10
  • 特開-盛土補強材及び盛土補強工法 図11
  • 特開-盛土補強材及び盛土補強工法 図12
  • 特開-盛土補強材及び盛土補強工法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021871
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】盛土補強材及び盛土補強工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/18 20060101AFI20230207BHJP
【FI】
E02D17/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127013
(22)【出願日】2021-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】515023110
【氏名又は名称】株式会社竹入製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100197848
【弁理士】
【氏名又は名称】石塚 良一
(72)【発明者】
【氏名】川本 卓人
(72)【発明者】
【氏名】森田 晃司
(72)【発明者】
【氏名】小林 宣博
【テーマコード(参考)】
2D044
【Fターム(参考)】
2D044CA06
(57)【要約】
【課題】種々の盛土材に適用可能であるとともに、高い引抜き抵抗性能を有する盛土補強材及び盛土補強工法を提供する。
【解決手段】組紐から成る複数の縦材10と、複数の前記縦材10と格子状に接続される複数の横材20と、を有し、前記縦材と前記横材とが接続される交点接続部30は、前記横材が前記縦材の組目に挿通されて成ることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組紐から成る複数の縦材と、
複数の前記縦材と格子状に接続される複数の横材と、を有し、
前記縦材と前記横材とが接続される交点接続部は、前記横材が前記縦材の組目に挿通されて成る
ことを特徴とする盛土補強材。
【請求項2】
前記縦材は、複数の繊維糸束が編み込まれたものであり、
前記横材は、前記縦材よりも高い剛性を有する
請求項1に記載の盛土補強材。
【請求項3】
前記繊維糸束は、複数のポリエチレン被覆された繊維糸から成る
請求項2に記載の盛土補強材。
【請求項4】
前記横材と接続される前の前記縦材は、加熱緊張処理されている
請求項1乃至3のいずれかに記載の盛土補強材。
【請求項5】
組紐から成る複数の縦材の組目に、横材を所定間隔で挿通して格子状の盛土補強材を形成し、
形成された複数の盛土補強材を盛土内に所定間隔で層状に敷設する
ことを特徴とする盛土補強工法。
【請求項6】
前記盛土は、石垣である
請求項5に記載の盛土補強工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、盛土を補強することが可能な盛土補強材及び盛土補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、盛土の安定・補強を目的として、補強材となるジオテキスタイルを盛土内に敷設する方法が採られていた。図11には、従来からある補強材の一例としてジオテキスタイル300の平面図が示されている。当該ジオテキスタイル300は、高強度ポリエステル繊維がポリプロピレンで被覆されて非常に高い引張強度を有する縦材310と、当該縦材310に熱溶着して接続される横材320からなる40mm四方の目合いを形成する補強材であり、盛土の深さ方向に所定間隔で略水平に敷設される。
【0003】
また、特許文献1には、図12(a)、(b)に示されるように、盛土材3内に縦材として補強ロープ1が設置され、当該補強ロープ1に結び目11を設けるとともに、各結び目11間に抵抗板6を備えた線材5を横材として設置する補強盛土体の構造に関する発明が開示されている。
【0004】
さらに特許文献2には、図13(a)、(b)に示されるように、開口結合部材として高力ボルト用座金31を使用し、当該高力ボルト用座金31を介して、棒鋼などからなる剛性横材20と、従来型ジオテキスタイルの縦材などからなる柔性縦材10を所定の目合いで組み付けた盛土補強材100を開発し、盛土からの引抜き抵抗性能を向上させた発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4-118419号公報
【特許文献2】特開2019-190027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図11に示されるような従来型のジオテキスタイル300においては、例えば、盛土材が栗石や玉石、礫など、粒径が大きな盛土材の場合、グリッドの目合い(図示のものは40mm×40mm)が粒径に対して小さ過ぎるため、かえって栗石等の噛み合わせを阻害してしまうという問題があった。この場合、目合いを広げたジオテキスタイルを作ることが考えられるが、目合いを広げた場合、単位面積当たりの縦材310と横材320との交点接続部の数が少なくなってしまうので、縦材310と横材320との交点部分が破断しやすくなり、かえって盛土からの引抜き抵抗性能を低下させてしまうおそれがある。加えて、従来型のジオテキスタイル300は、高い引張強度と引張剛性を有するものの、曲げ剛性は非常に小さいため、栗石等の拘束効果を十分に得られないという問題も有している。
【0007】
また、上記特許文献1に記載された盛土の補強方法は、補強ロープ1に容易に結び目11が作れない等、安定的な品質が確保できない。
【0008】
特許文献2に開示された発明では、盛土補強材に引張力が作用した場合、高力ボルト用座金31の内穴のエッジ部分に柔性縦材10が引っ掛かって破断する可能性が僅かながらある。これにより、剛性横材20と柔性縦材10との交点強度が小さくなるため、単位幅当りの引張強度を大きくするには、多くの交点数が必要であった。その結果、柔性縦材10の設置間隔が狭くなり、盛土材の噛み合わせによるロッキング効果が低減するおそれがあった。
【0009】
加えて、上記した事情から、盛土補強材の鉛直方向の敷設間隔を狭める必要があり、過密敷設による施工手間の増加や、使用する盛土材の粒径が限定されるなど、盛土材の変更を余儀なくされる可能性もあった。
【0010】
そこで、本願発明は、種々の盛土材に適用可能であるとともに、高い引抜き抵抗性能を有する盛土補強材及び盛土補強工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)に係る発明は、組紐から成る複数の縦材と、複数の前記縦材と格子状に接続される複数の横材と、を有し、前記縦材と前記横材とが接続される交点接続部は、前記横材が前記縦材の組目に挿通されて成ることを特徴とする盛土補強材である。
【0012】
上記(1)の構成によれば、縦材を組紐から構成するとともに、当該縦材の組目に横材を挿通するように構成したので、縦材自体の引張強度とともに、縦材と横材とが接続される交点接続部の交点強度を大幅に向上させることができる。そしてこのような構成により、高い引抜き抵抗性能を獲得することができる。したがって、盛土補強材の深さ方向の敷設間隔を広げたり、水平方向の敷設延長を短くすることが可能となり、従来工法に比べて盛土補強の省力化やコストの低減を図ることが可能となる。加えて、粒径の小さな盛土材から大きな盛土材まで、盛土材間の噛み合わせを阻害することなく、高い引抜き抵抗性能を得て盛土を補強することが可能となる。
【0013】
(2)に係る発明は、前記縦材は、複数の繊維糸束が編み込まれたものであり、前記横材は、前記縦材よりも高い剛性を有する上記(1)に記載の盛土補強材である。
【0014】
上記(2)の構成によれば、上記(1)の構成によって得られる効果に加え、縦材を複数の繊維糸束が編み込まれたものとすることで、高い引張強度、引張剛性を備えることができ、地震時など、盛土補強材に大きな引張力が作用しても高い抵抗性能を発揮する。さらに、縦材10の低い曲げ剛性によって、例えば、栗石などの粒径の大きな盛土材の噛み合わせを阻害することなく、盛土補強材周りの盛土材の充填性を向上させることが可能となる。また、横材を縦材よりも高い剛性を有する材料とすることで、盛土材を強固に拘束することが可能となり、例えば、栗石などの粒径の大きな盛土材の場合には、盛土材の移動・回転が抑制されるとともに、盛土補強材の盛土からの引抜き抵抗性能をさらに向上させることが可能となる。
【0015】
(3)に係る発明は、前記繊維糸束は、複数のポリエチレン被覆された繊維糸から成る上記(2)に記載の盛土補強材である。
【0016】
上記(3)の構成によれば、上記(1)及び(2)の構成によって得られる効果に加え、繊維糸をポリエチレン被覆することにより、縦材の耐久性能の向上を図ることができる。
【0017】
(4)に係る発明は、前記横材と接続される前の前記縦材は、加熱緊張処理されている上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の盛土補強材である。
【0018】
上記(4)の構成によれば、上記(1)乃至(3)の構成によって得られる効果に加え、縦材を加熱緊張処理しているので、密集度の高い縦材を製造することができ、引張ひずみを10%以下とすることができる。これにより、盛土材を強固に拘束することができる。
【0019】
(5)に係る発明は、組紐から成る複数の縦材の組目に、横材を所定間隔で挿通して格子状の盛土補強材を形成し、形成された複数の盛土補強材を盛土内に所定間隔で層状に敷設することを特徴とする盛土補強工法である。
【0020】
上記(5)の構成によれば、縦材を組紐から構成するとともに、当該縦材の組目に横材を挿通するように構成した盛土補強材を使用することにより、高い引抜き抵抗性能が得られる。これにより、従来工法よりも、盛土補強材の深さ方向の敷設間隔を広げたり、水平方向の敷設延長を短くすることが可能となり、盛土補強の省力化やコストの低減を図ることが可能となる。加えて、粒径の小さな盛土材から大きな盛土材まで、盛土材間の噛み合わせを阻害することなく、高い引抜き抵抗性能を得て盛土を補強することが可能となる。
【0021】
(6)に係る発明は、前記盛土は、石垣である上記(5)に記載の盛土補強工法である。
【0022】
上記(6)の構成によれば、上記(5)の構成によって得られる効果に加え、盛土補強材の目合い寸法を従来工法よりも大きくすることが可能となるため、石垣の盛土材である栗石の噛み合わせを阻害することなく当該栗石の高い充填性を確保することが可能となる。また、横材によって栗石の移動・回転が抑制されるとともに、盛土補強材の高い引抜き抵抗性能により、盛土材を補強し、石垣の築石にかかる圧力を大幅に低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施例における盛土補強材の平面図を示している。
図2】本発明の実施例における盛土補強材の交点接続部を模式的に示した斜視図(a)と、拡大斜視図(b)である。
図3】本発明の実施例における縦材の製造工程を説明する図である。
図4】本発明の実施例における縦材の組ピッチを説明する平面図である。
図5】本発明の実施例における縦材の加熱緊張処理工程を説明する図(a)と、縦材の引張ひずみと径の関係を示したグラフ(b)である。
図6】本発明の実施例における縦材の強度特性等を示した表である。
図7】本発明の実施例における盛土補強材の敷設態様を示した断面図である。
図8】本発明の実施例における盛土補強材の引抜き試験装置の上面図(a)と断面図(b)である。
図9】本発明における盛土補強材の引抜き試験結果を示したグラフである。
図10】本発明の実施例と従来例を比較した盛土補強材の敷設態様であって、(a)は従来型の盛土補強材の敷設態様、(b)は本発明の実施例における盛土補強材の敷設態様である。
図11】従来の補強材製品を説明する平面図である。
図12】従来技術を説明する特許文献1からの引用図面である。
図13】従来技術を説明する特許文献2からの引用図面である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ、本発明の盛土補強材及び盛土補強工法について説明する。
【0025】
本発明の盛土補強材及び盛土補強工法の一実施例として、図1には盛土補強材100の一例が平面図によって示されている。さらに図2(a)には、図1のA部の拡大斜視図が、図2(b)には、図2(a)のB部の拡大斜視図が示されている。
【0026】
これらに図示されるように、盛土補強材100は、組紐から成る複数の縦材10と、複数の縦材10と格子状に接続される複数の横材20と、を有し、縦材10と横材20とが接続される交点接続部30では、横材20が縦材10の組目に挿通されて接続されている。そして、地震時など、盛土内に働く力の方向(図示F)と同一方向に縦材10が延設されるように盛土内に敷設される。図1に示される「前面側」には、例えば石垣の築石や擁壁面などの傾斜面が位置することとなる。
【0027】
図3には、本実施例における縦材10の製造工程の一部が示されている。すなわち、本実施例では、(a)に示されるように、アラミド繊維の3本の原糸1を合糸して糸束2を製造している。続いて(b)に示されるように、上記糸束2をポリエチレンによって被覆し、PE被覆品3を製造する。次に(c)に示されるように、上記PE被覆品3を必要な本数で合糸し、PE束4を製造する。そして(d)に示されるように、PE束4を編み込んで縦材10となる組紐を製造する。本実施例では、上記PE束4を16本使用して組紐を製造している。
【0028】
なお、図3(d)の工程においては、組紐(縦材10)の図示される矢印方向への送り速度によって編目間隔が異なる。すなわち、図4(a)に示されるように、上記送り速度を遅くすると編目間隔は小さくなり、図4(b)に示されるように、上記送り速度を早くすると編目間隔は大きくなる。引張試験の結果、横材20が組紐の組目に挿通される交点接続部30の引張強度は、編目間隔が小さいほど向上することから、図4に示される組ピッチを横材が挿通できる最小の編目間隔とすることが望ましい。
【0029】
本実施例では、図4(a)、(b)に示される4つ分の組山の長さを組ピッチと定義し、図6に示されるように、組紐径ごとに組ピッチを設定して製造している。
【0030】
また、組紐は構造上、単線を引き揃えて束ねた状態よりも膨らみを帯びて密集度が低くなる傾向にある。すなわち、軸方向に引張力が作用すると徐々に密集度が高まるが、その結果、引張ひずみが約20%にまで達してしまい、盛土材を強固に拘束するには引張ひずみが大き過ぎる。
【0031】
そこで本実施例では、図5(a)に示されるように、編み込まれた組紐を緊張しつつ、100~120℃の温度で加熱緊張処理している。その後、常温若しくは常温よりも5℃程度低い温度で冷却処理し、組紐を引き取るようにして縦材10を製造している。このような処理により、密集度の高い縦材10を製造している。
【0032】
図5(b)には、上記のようにして加熱緊張処理を行った組紐と、未処理の組紐の引張ひずみを比較したグラフが示されている。グラフに示されるように、加熱緊張処理を行うことで、図11に示されるような従来型の補強材とほぼ同程度の、引張ひずみ10%以下とすることができる。
【0033】
また、縦材10は高い引張強度、引張剛性を有しており、地震時など、盛土補強材100に大きな引張力が作用しても高い抵抗性能を発揮する。さらに、縦材10の持つ低い曲げ剛性により、栗石などの粒径の大きな盛土材の噛み合わせを阻害することなく、盛土補強材100周りの盛土材の充填性を向上させることが可能となる。
【0034】
図6には本実施例における縦材10の特性と、図11に示されたような従来型のジオテキスタイルの特性が示されている。すなわち、縦材10となる組紐は、引張強度が従来型の補強材の3~11倍、縦材10と横材20との交点接続部30における交点強度においても従来型の補強材の1.4~5倍の強度が得られることがわかる。なお、上記した交点強度は、アムスラー型万能試験機に横材20を固定し、縦材に引張力を加えた際の最大荷重である。
【0035】
また、本実施例は横材20としてφ12のステンレス鋼を使用しているが、他の棒鋼などの高い曲げ剛性を有する材料を使用することで盛土材を強固に拘束することができ、例えば、栗石などの粒径の大きな盛土材の場合、盛土材の移動・回転が抑制されるとともに、盛土補強材100の盛土からの引抜き抵抗性能をさらに向上させることができる。なお、横材20は必ずしも金属製のものに限定されるものではない。例えば、繊維材を編み込んで樹脂材を含浸させ、これによって剛性を持たせたような繊維ロッドを横材20とすることも可能である。
【0036】
続いて、図7には本実施例の盛土補強材100の設置態様が模式的に断面図で示されている。図示されるように、本実施例の盛土補強材100は、石垣の盛土部200の盛土材が粒径50~200mmの栗石220である場合にも対応した構成となっている。
【0037】
すなわち、一般的に、ジオテキスタイルの目合いは、盛土材のインターロッキング効果を考慮して盛土材の最大粒径の1/3~1/4以上確保する必要があるとされているところ、本実施例では最大粒径200mmの栗石220に対応して、図1に示される縦材10間の間隔Wを125~250mmとしている。また、地震時の栗石220の回転・移動を拘束するため、横材20間の間隔Lを350mmとしている。
【0038】
盛土補強材100は、盛土内に略水平に配置されればどのような向きに配置してもよいが、本実施例の盛土補強材100のように、特に盛土傾斜面の略直交方向に縦材10を配置し、盛土傾斜面の略平行方向に横材20を配置することによって効果的に盛土を補強することが可能となる。
【0039】
すなわち、図7に示されたすべり面における矢印のような引張りに対し、高い曲げ剛性を有する横材20によって栗石220が拘束されて当該栗石220の回転・移動が抑制されるとともに、盛土補強材100の栗石層からの引抜き抵抗を大きくすることが可能となる。さらに、栗石220の回転・移動を抑制して沈み込みを防ぐことで築石210にかかる圧力を低減することが可能となる。
【0040】
また、高い引張強度と引張剛性を有するとともに、低い曲げ剛性を有する縦材10によって、盛土補強材100周りの栗石充填性を確保しつつ、すべりに抵抗することが可能となる。
【0041】
(引抜き抵抗性能)
本発明の盛土補強工法で使用される盛土補強材100は、前述したように、交点接続部30における特徴的な構成により、横材20と縦材10とが接続されて格子状に形成されるとともに、組紐から成る縦材10の特性によって、従来型の補強材に比べて非常に高い引抜き抵抗性能を有している。そこで以下では、本実施例の盛土補強材100の引抜き試験の試験態様およびその試験結果について説明する。
【0042】
図8(a)には引抜き試験装置50の上面図が、(b)には断面図が示されている。図示されるように、引抜き試験装置50内に箱を形成して1m四方、高さ1.2mの栗石220の層を構築し、中間部に本実施例の盛土補強材100を敷設している。また、栗石220の上部には載荷板55及びエアばね54が設けられ、圧力センサ66による計測に基づいて所定の上載荷重が加えられるように構成されている。
【0043】
そして、敷設されている盛土補強材100から延びた複数の縦材10の端部を引抜き治具53に巻きつけて固定し、当該引抜き治具53を、PC鋼棒52を介してセンターホールジャッキ51により引っ張るように構成されている。本引抜き試験では毎分1mmの速度で引張力が加えられ、引抜き試験の終了は、縦材10が破断するか、引抜き荷重が最大となった後残留状態となるか、引抜き量が引抜き箱の長さの10%(=100mm)となるかのいずれかの状態になったことを終了条件としている。また、図示されるようにセンターホールジャッキ51にはセンターホール型荷重計60が備えられている。
【0044】
図9(a)には、上記引抜き試験の結果がグラフで示され、引抜き試験によって求められた引抜き抵抗τと拘束圧σ(垂直応力に相当)との関係が示されている。図示されるように、本発明の盛土補強材100は、図11に示されたような従来型ジオテキスタイルの3倍以上の引抜き抵抗を得ることができ、また、特許文献2に開示されたような従来型の盛土補強材(図13参照)の1.3倍以上の引抜き抵抗を得ることができる。本発明の盛土補強材100は非常に高い引抜き抵抗性能を有していることが判る。
【0045】
上記したように、本発明の盛土補強工法で使用される盛土補強材100は、特徴的な縦材10及び交点接続部30の構成によって、高い引抜き抵抗性能を有している。したがって、盛土補強材100の盛土部200における深さ方向の敷設間隔や、水平方向の敷設延長を設計する際、従来型の盛土補強材と比較して、深さ方向の敷設間隔を広げたり、水平方向の敷設延長を短くすることが可能となる。したがって、従来工法に比べて盛土補強の省力化やコストの低減を図ることが可能となる。
【0046】
さらに、縦材10の任意の位置の組目に横材20を挿通可能に構成したので、栗石220のような大きな粒径の盛土材に対応して、盛土補強材100の目合いを適宜設定することが可能となり、製造工場において容易に縦材10と横材20との組付けが可能である。したがって、従来型の盛土補強材と比較して、極めて低コストで汎用性の高い盛土補強材100による盛土補強工法を提供することが可能となる。
【0047】
図10(a)には、特許文献2に開示されたような従来型の盛土補強材(図13参照)を使用した場合の盛土補強材の敷設態様が示されている。すなわち、従来型の盛土補強材の場合、縦材の間隔が75mm、横材の間隔が350mmとなり、盛土部200において、鉛直方向に300~1000mmの敷設間隔で11段の盛土補強材の設置が必要となる。
【0048】
一方、本発明の盛土補強材100を使用すれば、図10(b)に示されるように、縦材10の引張強度及び交点強度の向上効果により、縦材の間隔を125~250mm、横材の間隔を350mmとし、盛土部200において、鉛直方向に750~1700mmの敷設間隔で6段ほどの盛土補強材100の設置で盛土補強効果を得ることができる。
【0049】
このように、本発明の盛土補強材100及び盛土補強工法によれば、従来型の盛土補強材(図13参照)を使用した場合よりも縦材10の使用数量や、盛土補強材100の敷設段数を大幅に削減することが可能になるので、材料コストや施工手間を半減させることが可能となる。
【0050】
(その他の実施態様)
以上、本発明の盛土補強材及び盛土補強工法の一実施例について、図面等に基づいて説明したが、具体的な構成は、前述した実施例に必ずしも限定されるものではない。
【0051】
例えば、前述の実施例では、縦材10としてアラミド繊維をポリエチレンによって被覆した材料を使用したが、必ずしもこのような材料に限定されるものではなく、炭素繊維のほか、高い引張強度を有し、低い曲げ剛性によって横材20を強固に保持することができる材料であれば、上記実施例以外の材料を使用して組紐を製造して縦材10とすることが可能である。また、前述した繊維材の原糸1、糸束2、PE被覆品3の本数は適宜変更することが可能である。
【0052】
また、前述の実施例では、盛土材が栗石220である場合に対応する盛土補強材100として、目合いの設定を125~200mm×350mmとしたが、必ずしもこのような目合い寸法に限定されるものではなく、盛土材の粒径等に応じて適宜、適切な目合い寸法を設定することが可能である。
【0053】
また、本発明の盛土補強工法は、城や城跡などの石垣の復旧、復元にともなう石垣補強工法として特に好適に適用することができる。すなわち、城や城跡などの石垣に使用されている築石210や裏栗石等は重要な文化財であるため、加工したり、固定器具等を取り付けたりすることが許されないことがあり、従来型の補強工法のように、築石210や擁壁等に補強材を固定することができない場合がある。また、従来のジオテキスタイルや、特許文献2に開示されたような従来型の盛土補強材(図13参照)では目合いが小さく、粒径が大きい栗石層を分断してしまう。
【0054】
しかし、このような条件下においても、本発明の盛土補強材100であれば、縦材10の設置間隔を広げて目合い大きくでき、盛土補強材100単独で高い引抜き抵抗性能を発揮させることができるので、本発明の盛土補強材100及び本盛土補強工法を好適に適用することができる。本発明の盛土補強材100を擁壁や築石に固定すればより補強効果が期待できるが、文化財等築石210に固定できない場合でも大きな補強効果を得ることができる。
【0055】
また、本発明の盛土補強工法の適用範囲は、前述の石垣に限定されるものではなく、一般盛土部のほか、各種擁壁の背面側盛土部、土留め部の背面側盛土部にも適用することが可能である。さらに、盛土材は上記実施例の栗石に限らず、玉石、礫材、砕石等の粗粒土でも、前述した実施例と同様の効果を得ることができる。
【0056】
また、本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。また、上記実施例に記載された具体的な材質、寸法形状等は本発明の課題を解決する範囲において、変更が可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 原糸
2 糸束
3 PE被覆品
4 PE束
10 縦材
20 横材
30 交点接続部
32 面取り部
33 開口部
50 引抜き試験装置
51 センターホールジャッキ
52 PC鋼棒
53 引抜き治具
54 エアばね
55 載荷板
60 センターホール型荷重計
66 圧力センサ
200 盛土部
210 築石
220 栗石
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13