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特開2023-21872細胞収集容器およびそれを用いた細胞診断用標本の作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021872
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】細胞収集容器およびそれを用いた細胞診断用標本の作製方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/04 20060101AFI20230207BHJP
   G01N 1/36 20060101ALI20230207BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
G01N1/04 G
G01N1/04 J
G01N1/36
G01N33/48 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127015
(22)【出願日】2021-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】591242450
【氏名又は名称】村角工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100076820
【弁理士】
【氏名又は名称】伊丹 健次
(72)【発明者】
【氏名】足立 義和
(72)【発明者】
【氏名】重実 耕輔
【テーマコード(参考)】
2G045
2G052
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045BB10
2G045BB22
2G045CB30
2G045HA04
2G045HA14
2G052AA29
2G052AA33
2G052AD29
2G052AD52
2G052BA17
2G052DA02
2G052DA12
2G052ED17
2G052FA02
2G052GA29
2G052JA04
2G052JA16
(57)【要約】
【課題】 体腔液細胞診断における細胞診断用標本の作製にあたり、熟練した技能を有することなく遠心分離を経て単一の容器内で層状に分かれた上清や細胞沈渣を容易に分離することができる細胞収集容器およびそれを用いた細胞診断用標本の作製方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の細胞収集容器は、開口部、縮径部および閉塞底部を備え、該開口部から該閉塞底部にかけて連続して延びる少なくとも2本の溝が設けられている。本発明によれば、体腔液細胞診断にあたり採集した細胞を収容する容器の移し替えを減らし、細胞診断用標本を簡便に作製することができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部、縮径部および閉塞底部を備え、該開口部から該閉塞底部にかけて連続して延びる少なくとも2本の溝が設けられている、細胞収集容器。
【請求項2】
前記開口部に前記溝と連絡する切欠が設けられている、請求項1に記載の細胞収集容器。
【請求項3】
熱可塑性樹脂で構成されている、請求項1または2に記載の細胞収集容器。
【請求項4】
前記溝が外表面に設けられている、請求項1から3のいずれかに記載の細胞収集容器。
【請求項5】
前記溝が内表面に設けられている、請求項1から3のいずれかに記載の細胞収集容器。
【請求項6】
細胞診断用標本の作製方法であって
請求項1から5のいずれかに記載の細胞収集容器に充填された体腔液を遠心分離にかける工程、
該遠心分離により得られた該体腔液の細胞沈渣を該細胞収容器内で固化して固化沈査物を形成する工程、
溝を介して該細胞収集容器を引裂くことにより該固化沈査物を取り出す工程、
該固化沈査物を薬液処理してスライスする工程、
を包含する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞収集容器およびそれを用いた細胞診断用標本の作製方法に関し、より詳細には体腔液から診断に有用な細胞沈渣(バフィーコート)を採取するための細胞収集容器およびそれを用いた細胞診断用標本の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌性胸膜炎または癌性腹膜炎の原因となる悪性細胞は、転移性の癌細胞であることが多い。悪性細胞は、例えば体腔液細胞診断によって、体腔液中に出現しているか否かの判定が行われる。また、癌性漿膜症の場合、癌終末期という観点から侵襲の強い検査や積極的な治療は行われないことが多い。体腔液細胞診断は、他の手段による病変採取が困難な症例における最終診断のための検査法としても知られている。
【0003】
体腔液細胞診断では、患者から可能な限り大量の体腔液が検体として採取される。これは目的の細胞が体腔液内に僅かしか含まれていない場合が多く、多くの細胞を回収することにより確定診断を確実に行うためである。得られた検体は、複数の遠心管を用いた継ぎ足し遠心分離法により細胞沈渣が回収される。
【0004】
この細胞沈渣については、さらに遠心分離が行われ、例えば上清を廃棄した後に中性緩衝ホルマリンを添加して重層が形成され、所定時間を経て細胞沈渣の固定が行われる。固定化した細胞沈渣の層は当該層部分を残すように容器ごと切断して分離され、一旦垂直方向に割断した後、医療検査用カセットに入れられ、エタノール脱水およびパラフィン浸透が行われる。このパラフィン浸透後、細胞沈渣から割断した容器が簡便に取り外されるため、パラフィン浸透した細胞沈渣のみがパラフィンブロック内に包埋される。その後、包埋された細胞沈渣は適切な厚みにスライスすることにより細胞診断用標本が作製される。
【0005】
ここで、上記体腔液細胞診断のための細胞診断用標本の作製にあたり、複数の遠心分離を通じて生じた上清および/または細胞沈渣の効率的な除去または回収が課題とされている。すなわち、遠心分離を経て単一の容器内で層状に分かれた上清や細胞沈渣を、例えばピペット等を用いて別々に採取することには熟練した技能が求められる。別々に採取する際に当該上清および細胞沈渣が再び混合する可能性があるからである。当該採取は、極めて慎重に行われる必要があり、細胞診断用標本の作製効率に大きく影響する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、熟練した技能を要することなく体腔液細胞診断における細胞診断用標本の作製にあたり、遠心分離を経て単一の容器内で層状に分かれた上清や細胞沈渣を容易に分離することができる、細胞収集容器およびそれを用いた細胞診断用標本の作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、開口部、縮径部および閉塞底部を備え、該開口部から該閉塞底部にかけて連続して延びる少なくとも2本の溝が設けられている、細胞収集容器である。
【0008】
1つの実施形態では、上記開口部に上記溝と連絡する切欠が設けられている。
【0009】
1つの実施形態では、本発明の細胞収集容器は熱可塑性樹脂で構成されている。
【0010】
1つの実施形態では、上記溝は外表面に設けられている。
【0011】
1つの実施形態では、上記溝は内表面に設けられている。
【0012】
本発明はまた、細胞診断用標本の作製方法であって
上記細胞収集容器に充填された体腔液を遠心分離にかける工程、
該遠心分離により得られた該体腔液の細胞沈渣を該細胞収容器内で固化して固化沈査物を形成する工程、
溝を介して該細胞収集容器を引裂くことにより該固化沈査物を取り出す工程、
該固化沈査物を薬液処理してスライスする工程、
を包含する、方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、体腔液細胞診断にあたり、遠心分離により分かれた層から細胞沈渣を容易に取り出すことができる。これにより、確定診断に必要な体腔液内のより多くの細胞を固化沈査物として簡便に回収することができる。さらに、回収された固化沈査物は容易にパラフィンブロック内に固定され、所望の細胞診断用標本を簡便に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の細胞収集容器の一例を示す斜視図である。
図2図1に示す細胞収集容器の縦方向断面図である。
図3図1に示す細胞収集容器を説明するための図であって、(a)は当該容器の上面図であり、(b)は当該容器の底面図である。
図4図1に示す細胞収集容器の外表面に設けられた溝の形状の例を説明するための図であって、(a)外表面にV字状の溝が設けられた細胞収集容器の開口部における部分拡大端面図であり、(b)は外表面にU字状の溝が設けられた細胞収集容器の開口部における部分拡大端面図である。
図5図1に示す細胞収集容器に内嵌合型のキャップを取り付けた一例を示す模式図である。
図6】本発明の細胞収集容器の他の例を示す斜視図である。
図7図6に示す細胞収集容器の縦方向断面図である。
図8図6に示す細胞収集容器を説明するための図であって、(a)は当該容器の上面図であり、(b)は当該容器の底面図である。
図9図6に示す細胞収取容器の内表面に設けられた溝の形状の例を説明するための図であって、(a)は内表面にV字状の溝が設けられた細胞収集容器の開口部における部分拡大端面図であり、(b)は内表面にU字状の溝が設けられた細胞収集容器の開口部における部分拡大端面図である。
図10】本発明の細胞収集容器の別の例を示す斜視図である。
図11図10に示す細胞収取容器を説明するための図であって、(a)は当該容器の上面図であり、(b)は当該容器の底面図である。
図12図10に示す細胞収集容器の外表面および内表面のそれぞれに設けられた溝の形状の例を説明するための図であって、(a)はこれらの表面のそれぞれにV字状の溝が設けられた細胞収集容器の開口部における部分拡大端面図であり、(b)はこれらの表面のそれぞれにU字状の溝が設けられた細胞収集容器の開口部における部分拡大端面図である。
図13図1に示す細胞収集容器から、固化沈渣物を取り出す状態を説明するための模式図である。
図14】本発明の細胞収集容器から取り出された固化沈査物を用いて細胞診断用標本を作製するための方法を説明するための図であって、(a)は医療検査用カセットで薬液処理を施した後の固化沈査物を包埋トレイに収容して液体オレフィンを充填している状態の一例を模式的に示す図であり、(b)は、細胞診断用標本を得るためのパラフィンブロックを作製する一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を、添付の図面を参照して説明する。なお、以下のすべての図面に共通して同様の参照番号を付した構成は、他の図面に示したものと同様である。
【0016】
(細胞収集容器)
図1は、本発明の細胞収集容器の一例を示す図である。
【0017】
本発明の細胞収集容器100は、水平断面が、円、楕円、四角形などの任意の形状を有する有底の容器である。図1に示す細胞収集容器100は、垂直方向に沿って上方から開口部12、中間部13、縮径部14および閉塞底部16をこの順で備える。
【0018】
開口部12は、細胞収集容器100内に体腔液を注入するための孔である。開口部12の大きさは特に限定されず、例えば開口部12が円形である場合、その内径は例えば10mm~30mmであり、好ましくは13mm~18mm、より好ましくは15mm~16mmである。開口部12の外周には、図示しないキャップを細胞収集容器100の外側から係止するためのフランジ18が設けられていてもよい。
【0019】
中間部13は、開口部12と縮径部14との間を占める筒状の部分であり、図1に示す実施形態では、外径および内径の両方またはいずれかが略一定に保持されている部分である。
【0020】
縮径部14は、細胞収集容器100の外表面22および内表面24の少なくとも一部を構成する(言い換えれば、細胞収集容器100の外表面22は開口部12、中間部13、縮径部14および閉塞底部16の各外側の面で構成され、細胞収集容器100の内表面24は開口部12、中間部13、縮径部14および閉塞底部16の各内側の面で構成される)。例えば図2に示すように、縮径部14は、開口部12から閉塞底部16に向かって内径および外径の両方が縮小するように設計されている。
【0021】
なお、図1に示す実施形態では、円形の開口部12の直下に略一定の外径を有する中間部13が配置され、当該中間部13の下部に縮径部14が設けられているが、本発明はこのような構成にのみ限定されない。例えば、本発明の細胞収集容器では、上記のような側面部を有することなく開口部の直下に縮径部が配置されていてもよい。
【0022】
閉塞底部16は細胞集容器100の最も下方に位置し、内部は遠心分離によって体腔液から沈殿した細胞沈査を蓄積する役割を果たす。
【0023】
図3の(a)は図1に示す細胞収集容器100の上面図であり、図3の(b)は当該細胞収集容器100の底面図である。
【0024】
ここで、図1および図3の(b)から明らかなように、細胞収集容器100には、開口部12から閉塞底部16にかけて連続して延びる2本の溝30a,30bが設けられている。図3の(b)に示すように、2本の溝30a,30bは、細胞収集容器100の外表面上に、閉塞端部16を中心にして直径方向に設けられている。他方、図1および図3の(a)に示すように、細胞収集容器100の内表面24にはこうした溝が設けられていない。細胞収集容器100では、これらの溝30a,30bが存在する部分の容器の厚み(壁厚)が、当該溝が存在しない部分の容器の厚みと比較して薄くなるように設計されている。これにより、溝30a,30bを介して細胞収集容器100を縦方向に引裂くことが可能である。
【0025】
なお、細胞収集容器100では、外表面22に2本溝が設けられた例を記載しているが、本発明はこれに限定されない。本発明において、開口部から閉塞底部にかけて連続して延びる溝は少なくとも2本であり、例えば、3本、4本、5本、6本のいずれであってもよい。また、これらの溝は細胞収集容器の開口部側から見た際に円周方向において略等間隔で配置されていることが好ましい。後述する細胞収集容器の縦方向の引裂きを通じて内容物(例えば、細胞沈渣または固形沈査物)の取り出しを容易にするためである。
【0026】
さらに、図1を参照すると、細胞収集容器100には、開口部12に溝30aと連絡する切欠26a,26bが設けられている。図1では、図3の(b)に示す溝30bが示されていないが、細胞収集容器100において、切欠26bもまた開口部12と溝30bとが連絡するように設けられている。
【0027】
切欠26a,26bは、例えば逆三角形の形状を有しており、最下端に位置する頂点部分28a,28bが細胞収集容器100を縦方向に引き裂く際の応力集中の起点となるように配置されている。そして、図1、ならびに図3の(a)および(b)に示すように。頂点部分28a,28bが溝30a,30bと連絡していることにより、引裂きの際に集中した頂点部分28a,28bの応力が、溝30a,30bに伝わり、細胞収集容器100の上方から下方に向かって当該溝30a,30bに沿って引裂くことが可能となる。
【0028】
図4の(a)は、図3の(a)の部分拡大端面図である。
【0029】
図4の(a)に示すように、本発明において溝30bは外表面22側にのみV字状に設けられている。このような構造を有することにより、引裂きの際、切欠26bの頂点部分28bに応力をかけることにより溝30bの最深部32bにも当該応力を集中させることができる。これにより、最深部32bを起点とした引裂きが一層容易になる。ただし、溝30bの形状は上記V字状に限定されず、例えば、図4の(b)に示すようなU字状のものであってもよい。このようなU字状の溝についても図4の(a)に示す場合と同様に、切欠26bの頂点部分28bに応力をかけることにより溝30bの最深部33bにも当該応力を集中させることができる。これにより、最深部33bを起点とした引裂きが一層容易になる。
【0030】
再び図1を参照すると、本発明の細胞収集容器100の大きさは特に限定されない。細胞収集容器100の高さ方向の長さ(すなわち、図1における開口部12から、中間部13および縮径部14を含む、閉塞底部16までの長さ)は、例えば70mm~150mm、好ましくは90mm~130mm、より好ましくは95mm~110mmである。このような長さは、従来の遠沈管に採用されるものと同様である。本発明の細胞収集容器100はこのような従来の遠沈管と比較して大きく設計されたものであってもよく、小さく設計さえたものであってもよい、
【0031】
本発明の細胞収集容器100は、遠心分離の際の形状変形に耐え得る比較的硬質の材料で構成されていることが好ましい。細胞収集容器100はまた、上記引裂きが容器であるととともに、外側から見た際に内容物の有無(すなわち、細胞収集容器100の中に任意の内容物が含まれているか否か)を視認できる材料で構成されていることが好ましい。細胞収集容器100を構成し得る材料の例としては、樹脂、好ましくは透明または半透明の樹脂が挙げられる。さらに、成形性に優れているとの理由から細胞収集容器100は熱可塑性樹脂で構成されていることが好ましい。細胞収集容器100を構成し得る熱可塑性樹脂の例としては、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、およびポリプロピレン樹脂が挙げられる。
【0032】
細胞収集容器100が遠心分離の際の遠沈管として使用される場合、例えば図5に示すようなキャップ120で開口部12が覆われる。図5に示す実施形態では、キャップ120は細胞収集容器100の内表面に係合する場合について説明しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、細胞収集容器100には、フランジ18に係止し得る外嵌合型のキャップが取り付けられてもよい。
【0033】
図6は、本発明の細胞収集容器の他の例を示す斜視図である。図6に示す細胞収集容器200では、溝(図6では、溝30b’のみが示されている)が外表面22’側ではなく、内表面24’側に設けられている点を除いて、その他の構成は図1に示す細胞収集容器100と同様である。図6および図7では細胞収集容器200の内表面24’に溝30b’が示されている。
【0034】
図8は、図6に示す細胞収集容器200の上面図(a)および底面図(b)である。図8の(a)に示すように、細胞収集容器200の内表面24’には、2本溝30a’,30b’が切欠26a’,26b’の頂点部分28a’,28b’から閉塞底部の内側に対応する部分(容器200の底)まで開口部12の直径方向に並んで、連続して延びるように設けられている。一方、図8の(b)に示すように細胞収集容器200の外表面22’には、図3の(b)で示す細胞収集容器100のような溝が現れていない。
【0035】
図9の(a)は、図8の(a)の部分拡大端面図である。
【0036】
図9の(a)に示すように、本発明において溝30b’は内表面24’側にのみV字状に設けられている。このような構造を有することにより、引裂きの際、切欠26b’の頂点部分28b’に応力をかけることにより溝30b’の最深部32b’にも当該応力を集中させることができる。これにより、最深部32b’を起点とした引裂きが一層容易になる。ただし、溝30b’の形状は上記V字状に限定されず、例えば、図9の(b)に示すようなU字状のものであってもよい。このようなU字状の溝についても図9の(a)に示す場合と同様に、切欠26b’の頂点部分28b’に応力をかけることにより溝30b’の最深部33b’にも当該応力を集中させることができる。これにより、最深部33b’を起点とした引裂きが一層容易になる。
【0037】
図10は、本発明の細胞収集容器の別の例を示す斜視図である。図10に示す細胞収集容器300では、溝(図10では、溝30a,30bのみが示されている)が外表面22”側および内表面24’側の両方にそれぞれ設けられている点を除いて、その他の構成は図1に示す細胞収集容器100と同様である。
【0038】
図11は、図10に示す細胞収集容器300の上面図(a)および底面図(b)である。図11の(a)に示すように、細胞収集容器300の内表面24”には、2本溝30a,30bが切欠26a”,26b”の頂点部分28a”,28b”から閉塞底部の内側に対応する部分(容器300の底)まで開口部12の直径方向に並んで、連続して延びるように設けられている。一方、図11の(b)に示すように、細胞収集容器300の外表面22”には、2本溝30a,30bが切欠の頂点部分28a”,28b”から閉塞底部16まで細胞収集容器300の直径方向に並んで、連続して延びるように設けられている。
【0039】
図12の(a)は、図11の(a)の部分拡大端面図である。
【0040】
図12の(a)に示すように、本発明の細胞収集容器300において溝30b,30bは内表面24”と外表面22”側との両方にそれぞれV字状に設けられている。このような構造を有することにより、引裂きの際、切欠26b”の頂点部分28b”に応力をかけることにより溝30bの最深部32bおよび溝30bの最深部32bの両方にも当該応力を集中させることができる。これにより、最深部32b,32bを起点とした引裂きが一層容易になる。ただし、溝30b,30bの形状は上記V字状に限定されず、例えば、図12の(b)に示すようなU字状のものであってもよい。このようなU字状の溝についても図9の(a)に示す場合と同様に、切欠26b”の頂点部分28b”に応力をかけることにより溝30bの最深部33bおよび溝30bの最深部33bの両方にも当該応力を集中させることができる。これにより、最深部33b,33bを起点とした引裂きが一層容易になる。
【0041】
(細胞診断用標本の作製方法)
細胞診断用標本は、上記本発明の細胞収集容器を用いて、例えば以下のようにして作製される。図1に示す細胞収集容器100を用いて細胞診断用標本を作製する方法の一例について説明する。
【0042】
本発明の作製方法においては、まず上記細胞収集容器に充填された体腔液が遠心分離操作にかけられる。
【0043】
本発明に用いられる体腔液は、例えばヒトの身体から直接採取されたものであり、体壁側を覆っている漿膜(胸膜、腹膜、心膜)と臓器表面を覆っている漿膜の間の空間(胸膜腔、腹膜腔、心膜腔)に貯留する液体である。体腔液の例としては、胸水、腹水、心嚢液などが挙げられる。
【0044】
採取された体腔液は、図1に示す細胞収集容器100内に充填され、開口部12には、例えば図5に示すようなキャップ120が取り付けられる。その後、体腔液を充填した細胞収集容器100は遠心分離器に入れられ、当業者に周知の条件で遠心分離操作が行われる。遠心分離によって、確定診断に必要な細胞は細胞沈渣となって閉塞底部16側に沈殿し、開口部12付近の上方には不要な上澄み液が存在する。遠心分離後、細胞収集容器は一旦遠心分離器から静かに取り出される。
【0045】
次いで、園林分離により得られた体腔液の細胞沈渣が細胞収集容器内で固化される。
【0046】
具体的には、細胞収集容器100からキャップを取り外し、必要に応じて当業者に公知の手段で上澄み液が取り出される。一方、細胞収集容器100内に残存する細胞沈渣に対して中性緩衝ホルマリンが添加され、所定時間(例えば、12時間~24時間)をかけて検体の固定化が行われることにより細胞沈渣が固化される。このようにして、細胞収集容器100内に固化沈査物が形成される。
【0047】
その後、図13に示すように細胞収集容器100の溝30a,30bを介して当該容器100を引裂くことにより固化沈査物140が取り出される。
【0048】
そして、取り出された固化沈査物140は薬液処理して、その後スライスされる。
【0049】
具体的には、取り出された固化沈査物140は、当該分野において公知の医療検査用カセット内に一旦収容され、アルコールやキシレンを用いた所定の薬液処理が施される。
【0050】
そして、薬液処理された固化沈査物140は、医療検査用カセット160から取り出され、包埋トレイ162内に配置された後、当該カセット160を重ねた状態で包埋トレイ162内が液体パラフィンで充填される(図14の(a))。
【0051】
液状パラフィンが固化した後、包埋トレイ162が取り外され、図14の(b)に示すように、薬液処理された固化沈査物140が包埋されたパラフィン166がカセット160に付着してなるパラフィンブロック170を得ることができる。
【0052】
その後、図示しないが、このようにして得られたパラフィンブロックは、ミクロトーム上に裏返して配置され、ミクロトームに設置されたアダプターをパラフィンブロックに係合することにより、パラフィンブロックがミクロトームに固定される。そして、図14の(b)に示す薬液処理された固化沈査物140が包埋されたパラフィン166が所望の厚みでスライスされる。
【0053】
このようにして、細胞診断用標本を作製することができる。
【0054】
本発明の方法によれば、遠心分離を経て単一の容器内で層状に分かれた上清や細胞沈渣を、例えばピペット等を用いて別々に採取することなく、固化沈査物の状態で容易に取り出すことができる。
【符号の説明】
【0055】
12 開口部
13 中間部
14 縮径部
16 閉塞底部
18 フランジ
22,22’,22” 外表面
24,24’,24” 内表面
26a,26b,26a’,26b’,26a”,26b” 切欠
28a,28b,28a’,28b’,28a”,28b” 頂点部分
30a,30b,30b’,30a,30b,30a,30b
32b,32b’,33b,33b’,32b,32b 最深部
100,200,300 細胞収集容器
120 キャップ
140 固化沈査物140
160 医療検査用カセット
162 包埋トレイ
166 パラフィン
170 パラフィンブロック
図1
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