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特開2023-21874中小企業向けヘッジサービス提供システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021874
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】中小企業向けヘッジサービス提供システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 40/04 20120101AFI20230207BHJP
【FI】
G06Q40/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127017
(22)【出願日】2021-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】519249262
【氏名又は名称】株式会社デジタルアセットマーケッツ
(74)【代理人】
【識別番号】110001405
【氏名又は名称】弁理士法人篠原国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100065824
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100104983
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 雅之
(74)【代理人】
【識別番号】100166394
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 和弘
(71)【出願人】
【識別番号】313004816
【氏名又は名称】西本 一也
(74)【代理人】
【識別番号】110001405
【氏名又は名称】弁理士法人篠原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西本 一也
【テーマコード(参考)】
5L055
【Fターム(参考)】
5L055BB51
(57)【要約】      (修正有)
【課題】事業規模が比較的大きな中小企業が店頭型のデリバティブ取引等による原材料価格変動ヘッジサービスを享受でき、他方で銀行等の金融機関が新たな収益を得ることが可能な中小企業向けヘッジサービス提供システムを提供する。
【解決手段】システムは、顧客となる中小企業30による銀行等の金融機関40との非定型物のデリバティブ相対取引における取引対象の指定手段13、相対取引における取引内容の作成手段14、作成した取引内容の顧客への提示手段15、顧客からのレバレッジ指定の受付手段16、非定型物のデリバティブ相対取引の取引内容に応じた証拠金維持条件の設定手段19、ブロックチェーン上で稼働する、相対取引契約の締結・解除及び証拠金の管理用スマートコントラクト24、相対取引契約締結後、非定型物デリバティブ相対取引契約における取引内容をカバーする相対取引の注文を総合商社に発注するカバー手段20を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロックチェーンなどの分散技術を用いて、中小企業に対し、銀行等の金融機関との相対取引契約に基づいたヘッジサービスを提供するシステムであって、
特定素材及びそれをベースとした特殊物、または特定素材を複数組み合わせたポートフォリオで構築される、非定型物のデリバティブ相対取引における取引対象となる素材の価格を、銀行等の金融機関に対してリアルタイムで提示する素材価格提示手段と、
素材と当該素材における純度等の特性を複数組み合わせてなる銘柄ごとに、素材の純度等の特性に応じた価格変換率が設定された価格変換率テーブルと、
顧客となる中小企業による、銀行等の金融機関との前記非定型物のデリバティブ相対取引における取引対象となる素材、および素材の純度等の特性の指定を受け付ける機能と、銀行等の金融機関との定型物の相対取引における取引対象をなす、ヘッジを目的として素材の現物購入権がブロックチェーン上で作成され管理されるデータとして示された、素材トークンの指定を受け付ける機能と、を有するヘッジ取引対象指定手段と、
前記ヘッジ取引対象指定手段において指定された、取引対象となる素材、および素材の純度等の特性に基づき、前記素材価値提示手段により提示される素材の価格と、前記価格変換率テーブルに設定された価格変換率を用いて、前記非定型物のデリバティブ相対取引における(デリバティブの種類、取引期日等を含む)取引内容を作成する非定型物デリバティブ相対取引内容作成手段と、
前記非定型物デリバティブ相対取引内容作成手段が作成した非定型物のデリバティブ相対取引における取引内容を前記顧客に提示する非定型物デリバティブ相対取引内容提示手段と、
前記非定型物のデリバティブ相対取引における取引内容に対する、前記顧客からのレバレッジの指定を受け付ける非定型物デリバティブ相対取引条件設定手段と、
素材トークンを複数組み合わせたポートフォリオで構築される、定型物の相対取引における取引対象となる素材トークンのレートを、銀行等の金融機関に対してリアルタイムで提示する素材トークンレート提示手段と、
前記ヘッジ取引対象指定手段において指定された素材トークン、および前記素材トークンレート提示手段において提示された素材トークンのレートに基づき、定型物の相対取引における取引内容を作成する定型物相対取引内容作成手段と、
前記非定型物のデリバティブ相対取引及び前記定型物の相対取引の取引内容に応じた証拠金維持条件を設定する、証拠金維持条件設定手段と、
ブロックチェーン上で稼働する、相対取引契約の締結・解除及び証拠金の管理用スマートコントラクトと、
銀行等の金融機関と顧客との非定型物及び定型物の相対取引契約が締結された後、非定型物デリバティブ相対取引契約における取引内容をカバーする非定型物デリバティブ相対取引の注文を総合商社に対して発注する非定型物デリバティブ相対取引契約カバー手段と、
銀行等の金融機関と顧客との非定型物及び定型物の相対取引契約が締結された後、定型物相対取引契約に基づき、素材トークンの売買注文を発注する素材トークン発注手段と、
前記素材トークン発注手段からの注文を約定させる素材トークン取引手段と、
前記素材トークン取引手段を介して約定した注文における素材トークンを発行・償却する素材トークン発行・償却手段と、
を有し、
前記スマートコントラクトは、
顧客からの証拠金(証拠金、もしくは決済力のある価値をデジタル化したものなどの全てを対象とする。以下も同じ。)維持条件を満足するデジタル通貨(デジタル通貨と、それに準じた決済価値の高いものを全て含む。以下も同じ。)による証拠金の設定を受け付けたときに、銀行等の金融機関と顧客との非定型物及び定型物の相対取引契約を締結する、相対取引契約締結機能と、
銀行等の金融機関と顧客との非定型物及び定型物の相対取引契約が締結された後、当該相対取引において取引対象となる素材及び素材トークンの時価評価を随時行い、評価した時価及び入金されている証拠金の合計額が前記証拠金維持条件設定手段により設定された証拠金維持条件を満たさない場合に、顧客に対し不足分の証拠金の入金を求める、証拠金管理機能と、
顧客からの不足分の証拠金の入金がない場合に相対取引契約を解除する、契約解除機能と、
を有することを特徴とする中小企業向けヘッジサービス提供システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッジ会計には対応できるが、日本の法(商品着物取引法)規制により国内総合商社との間でデリバティブ取引によるヘッジサービスを享受することのできない、事業規模が比較的大きな中小企業に対し、ブロックチェーンやスマートコントラクトなどの分散技術を用いてデリバティブ取引によるヘッジサービスを提供する、中小企業向けヘッジサービス提供システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的なパンデミック問題の対応などで通貨供給量の対策を行う必要性が増大し、それに伴うインフレ懸念抑制策として、金利上昇操作を単純に行えない事情から、金利操作による物価の安定化が難しくなることにより、原材料の乱高下が発生し易くなっている。
そのため、非金融分野においては、原材料を加工して製品を製造する事業会社において、原材料の価格変動リスクの増大に対処するために、原材料の価格ヘッジを行う必要性が高まっている。
従来、大企業は、総合商社との間で店頭デリバティブ契約や、証券取引市場に上場する先物取引などを利用することで、それらによる原材料の価格変動ヘッジサービスの提供を受けている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、事業会社の99.7%を占める中小企業は、商品先物取引法の規制により総合商社との間では、直接的にヘッジサービスの提供を受けることができない。
本来、中小企業に対するヘッジサービスの提供を担う役割を果たしうるのは、商品先物取引市場や銀行等の金融機関であるが、国内の当該市場は低迷し、流動性が枯渇しヘッジ機能が大幅に低下している。
また、銀行等の金融機関では、国債の運用による収益化が限界となって収益源が失われ、企業への融資も、低金利で収益が望めないうえ、中小企業の信用が下がっている状況下において、与信の供与が難しくなっていることから融資による不良債権のリスクが大きくなっていることに加え、中小企業に対するヘッジサービス業務には、効率的な国債運用業務等と複雑で難易度の高いヘッジの業務特性の違いや、手間や収益性の問題等の理由から実質的に原料の価格ヘッジを中小企業に対して提案等の対処ができていない。
【0004】
また、小規模の中小企業においては、企業自体が難解なレバレッジや証拠金の概念がわかり難く、商品先物を理解することが難しいこと、実際に取引所のヘッジ規模が実態よりも大きく、上手く使えないこと、取引所の銘柄の種類が少ないこと、さらには銘柄の規格が特定されていることなどに加え、ヘッジを理解する人材の確保が難しいこと、会計上、日本では商品先物の流動性は1年以上先に集中し、現物との価格連動性にズレが大きく、そのヘッジ有効性(現物と先物が連動することでヘッジが効果的に行われることの証明)を説明することが難しくヘッジ該当性と効果、つまりヘッジ会計が認められ難く、ヘッジ会計を導入することが困難(先物などがヘッジとして認められないと、先物の対応が解除させられてしまうなど無意味化されてしまう)であること、さらに、ヘッジシステムを導入するにはコストが高額となること等の理由から、日本において、中小企業が現実的にヘッジを業務として扱うことは難しいという問題がある。
【0005】
ところで、中小企業のうち、事業規模が比較的大きな企業には、ヘッジ会計に対応可能な企業も存在する。しかし、ヘッジ会計に対応可能な中小企業であっても、上述のとおり、商品先物取引法の規制により総合商社との間でヘッジサービスの提供を受けることができない、もしくは先物でもヘッジが認定されないなどの問題がある。
【0006】
このため、中小企業は、ヘッジ会計に対応可能な、事業規模が比較的大きな企業であっても、従来の商品市場において、原材料の価格変動を回避するヘッジを目的としたサービスを十分に受けることができなかった。
中小企業において、原材料の価格変動を回避する方策として、原材料の現物を長期間保管することが考えられるが、時間経過に伴う原材料の劣化や、保管コスト等の問題があるため、原材料の現物を長期間保管することは、現実的には難しい。
【0007】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、ヘッジ会計には対応できるが、法規制により総合商社との間で店頭型のデリバティブ取引等による原材料価格変動ヘッジサービスを享受することのできない、事業規模が比較的大きな中小企業が、店頭型のデリバティブ取引等による原材料価格変動ヘッジサービスを享受することができ、他方で、銀行等の金融機関が、新たな収益を得ることが可能な、中小企業向けヘッジサービス提供システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明による中小企業向けヘッジサービス提供システムは、ブロックチェーンなどの分散技術を用いて、中小企業に対し、銀行等の金融機関との相対取引契約に基づいたヘッジサービスを提供するシステムであって、特定素材及びそれをベースとした特殊物、または特定素材を複数組み合わせたポートフォリオで構築される、非定型物のデリバティブ相対取引における取引対象となる素材の価格を、銀行等の金融機関に対してリアルタイムで提示する素材価格提示手段と、素材と当該素材における純度等の特性を複数組み合わせてなる銘柄ごとに、素材の純度等の特性に応じた価格変換率が設定された価格変換率テーブルと、顧客となる中小企業による、銀行等の金融機関との前記非定型物のデリバティブ相対取引における取引対象となる素材、および素材の純度等の特性の指定を受け付ける機能と、銀行等の金融機関との定型物の相対取引における取引対象をなす、ヘッジを目的として素材の現物購入権がブロックチェーン上で作成され管理されるデータとして示された、素材トークンの指定を受け付ける機能と、を有するヘッジ取引対象指定手段と、前記ヘッジ取引対象指定手段において指定された、取引対象となる素材、および素材の純度等の特性に基づき、前記素材価値提示手段により提示される素材の価格と、前記価格変換率テーブルに設定された価格変換率を用いて、前記非定型物のデリバティブ相対取引における(デリバティブの種類、取引期日等を含む)取引内容を作成する非定型物デリバティブ相対取引内容作成手段と、前記非定型物デリバティブ相対取引内容作成手段が作成した非定型物のデリバティブ相対取引における取引内容を前記顧客に提示する非定型物デリバティブ相対取引内容提示手段と、前記非定型物のデリバティブ相対取引における取引内容に対する、前記顧客からのレバレッジの指定を受け付ける非定型物デリバティブ相対取引条件設定手段と、素材トークンを複数組み合わせたポートフォリオで構築される、定型物の相対取引における取引対象となる素材トークンのレートを、銀行等の金融機関に対してリアルタイムで提示する素材トークンレート提示手段と、前記ヘッジ取引対象指定手段において指定された素材トークン、および前記素材トークンレート提示手段において提示された素材トークンのレートに基づき、定型物の相対取引における取引内容を作成する定型物相対取引内容作成手段と、前記非定型物のデリバティブ相対取引及び前記定型物の相対取引の取引内容に応じた証拠金維持条件を設定する、証拠金維持条件設定手段と、ブロックチェーン上で稼働する、相対取引契約の締結・解除及び証拠金の管理用スマートコントラクトと、銀行等の金融機関と顧客との非定型物及び定型物の相対取引契約が締結された後、非定型物デリバティブ相対取引契約における取引内容をカバーする非定型物デリバティブ相対取引の注文を総合商社に対して発注する非定型物デリバティブ相対取引契約カバー手段と、銀行等の金融機関と顧客との非定型物及び定型物の相対取引契約が締結された後、定型物相対取引契約に基づき、素材トークンの売買注文を発注する素材トークン発注手段と、前記素材トークン発注手段からの注文を約定させる素材トークン取引手段と、前記素材トークン取引手段を介して約定した注文における素材トークンを発行・償却する素材トークン発行・償却手段と、を有し、前記スマートコントラクトは、顧客からの証拠金(証拠金、もしくは決済力のある価値をデジタル化したものなどの全てを対象とする。以下も同じ。)維持条件を満足するデジタル通貨(デジタル通貨と、それに準じた決済価値の高いものを全て含む。以下も同じ。)による証拠金の設定を受け付けたときに、銀行等の金融機関と顧客との非定型物及び定型物の相対取引契約を締結する、相対取引契約締結機能と、銀行等の金融機関と顧客との非定型物及び定型物の相対取引契約が締結された後、当該相対取引において取引対象となる素材及び素材トークンの時価評価を随時行い、評価した時価及び入金されている証拠金の合計額が前記証拠金維持条件設定手段により設定された証拠金維持条件を満たさない場合に、顧客に対し不足分の証拠金の入金を求める、証拠金管理機能と、顧客からの不足分の証拠金の入金がない場合に相対取引契約を解除する、契約解除機能と、を有することを特徴としている。
なお、本願明細書における「スマートコントラクト」とは、ブロックチェーン上で稼働する、処理を自動化するプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ヘッジ会計には対応できるが、法規制により総合商社との間で店頭型デリバティブ取引等による原材料価格変動ヘッジサービスを享受することのできない、事業規模が比較的大きな中小企業が、店舗型デリバティブ取引等によるヘッジサービスを享受することが可能な、中小企業向けヘッジサービス提供システムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の中小企業向けヘッジサービス提供システムにおける全体の処理概念を示す説明図である。
図2】本発明の一実施形態にかかる中小企業向けヘッジサービス提供システムの全体構成を概念的に示すブロック図である。
図3】本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムにおける素材価格提示手段の処理概要を示す説明図である。
図4】本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムにおける原材料価格変換率テーブルのデータ構成の一例を示す説明図である。
図5】本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムにおけるヘッジ取引対象指定手段の処理概要を示す説明図である。
図6】本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムにおける非定型物デリバティブ相対取引内容作成手段の処理概要を示す説明図である。
図7】本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムにおける非定型物デリバティブ相対取引内容提示手段の処理概要を示す説明図である。
図8】本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムにおける非定型物デリバティブ相対取引条件設定手段の処理概要を示す説明図である。
図9】本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムにおける素材トークンレート提示手段の処理概要を示す説明図である。
図10】本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムにおける定型物相対取引内容作成手段の処理概要を示す説明図である。
図11】本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムにおける証拠金維持条件設定手段の処理概要を示す説明図である。
図12】本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムにおける非定型物デリバティブ相対取引契約カバー手段の処理概要を示す説明図である。
図13】本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムにおける素材トークン発注手段の処理概要を示す説明図である。
図14】本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムにおける素材トークン取引手段の処理概要を示す説明図である。
図15】本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムにおける素材トークン発行・償却手段の処理概要を示す説明図である。
図16】本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムにおけるスマートコントラクトの機能の概要を示す説明図である。
図17】本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムを用いた処理の流れの一例の一部分を示す説明図である。
図18】本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムを用いた処理の流れの一例の図17の続き部分を示す説明図である。
図19】本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムを用いた中小企業によるポートフォリオ化したヘッジ取引の全体像の一例を概念的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態の説明に先立ち、本発明を導出するに至った経緯及び本発明の作用効果について説明する。
近年、超低金利政策が国際的に長期化する可能性が強くなる状況下、金融と非金融の両分野において共通する問題がある。
【0012】
金融分野において、地銀等の銀行等の金融機関では、国債の運用による収益化が限界となり、収益源が失われている。
また、企業への融資も、低金利で収益が望めないうえ、中小企業の信用が下がっている状況下において、与信の供与が難しくなっていることから融資による不良債権のリスクが大きくなっている。
【0013】
世界的なパンデミック問題の対応などで通貨供給量の対策を行う必要性が増大し、それに伴うインフレ懸念抑制策として、金利上昇操作を単純に行えない事情から、金利操作による物価の安定化が難しくなることにより、原材料の乱高下が発生し易くなっている。
そのため、非金融分野においては、原材料を加工して製品を製造する事業会社において、原材料の価格変動リスクの増大に対処するために、原材料の価格ヘッジを行う必要性が高まっている。
従来、大企業は、総合商社との間で店頭デリバティブ契約や、証券取引市場に上場する先物取引などを利用することで、それらによる原材料の価格変動ヘッジサービスの提供を受けているが、事業会社の99.7%を占める中小企業は、商品先物取引法の規制により総合商社との間で直接的にヘッジサービスの提供を受けることができない。また、総合商社も0.3%の大企業の対応のみとしていることから、当該ヘッジ業務を完全にシステム化していないケースが殆どである。
【0014】
本来、中小企業に対するヘッジサービスの提供を担う役割を果たしうるのは、商品先物取引市場や銀行等の金融機関であるが、国内の当該市場は低迷し、流動性が枯渇しヘッジ機能が大幅に低下している。
銀行等の金融機関は、上述のように、国債の運用による収益化が限界となって収益源が失われ、企業への融資も、低金利で収益が望めないうえ、中小企業の信用が下がっている状況下において、与信の供与が難しくなっていることから融資による不良債権のリスクが大きくなっていることに加え、ヘッジ業務が融資業務と違いすぎ、難しい金融工学を理解した担当者を確保することや、多くの事業体に対し営業することにより手間に見合う収益を得ることが難しいこと等の理由から、中小企業に対する原料の価格ヘッジ業務には、実質的にほとんど提案等の対処ができていない。
【0015】
また、中小企業側においても、企業自体が難解なレバレッジや証拠金の概念がわかり難く、商品先物を理解し難いこと、実際に取引所のヘッジ規模が実態よりも大きく、上手く使えないこと、取引所の銘柄の種類が少ないこと、さらには銘柄の規格が特定されていることなどに加え、難易度の高いヘッジ業務を理解する担当者を確保できないこと、ヘッジのパッケージシステムが存在せず、システムを構築、導入するための高額なコストを負担できないこと、日本では商品先物の流動性は1年以上先に集中し、現物との価格連動性にズレが大きく、そのヘッジ有効性(現物と先物が連動することでヘッジが効果的に行われることの証明)が説明し難く、ヘッジ該当性と効果、つまりヘッジ会計が認められるための難易度が高いため、ヘッジ会計を導入することが難しい(先物などがヘッジとして認められないと、先物の対応が解除させられてしまうなど無意味化されてしまう)こと等の理由から、日本において、中小企業が現実的にヘッジについて業務として扱うことが難しいという問題がある。
【0016】
ところで、中小企業のうち、事業規模が比較的大きな企業には、ヘッジ会計に対応可能な企業も存在する。
しかし、そのような中小企業であっても、上述のとおり、商品先物取引法の規制により総合商社との間でヘッジサービスの提供を受けることができない、もしくは先物でもヘッジが認定されないなどの問題がある。
【0017】
このため、中小企業は、ヘッジ会計に対応可能な、事業規模が比較的大きな企業であっても、従来の商品市場において、原材料の価格変動を回避するヘッジを目的としたサービスを十分に受けることができなかった。
中小企業において、原材料の価格変動を回避する方策として、原材料の現物を長期間保管することが考えられるが、時間経過に伴う原材料の劣化や、保管コストの問題から現実的には難しい。
特に、近年の超低金利政策により原材料価格を安定させることが国際的に難しくなっている。
【0018】
本件発明者は、このような問題を鑑み、ヘッジ会計には対応できるが、法規制により総合商社との間で店頭型のデリバティブ取引等による原材料価格変動ヘッジサービスを享受することのできない、事業規模の比較的大きな中小企業が、店頭型のデリバティブ取引等による原材料価格変動ヘッジサービスを享受することができ、他方で、銀行等の金融機関が、新たな収益を得ることが可能な、中小企業向けのヘッジサービス提供システムを構築することについて、検討、考察を重ねた。
まず、本件発明者は、従来、総合商社が大企業との間で行っている店頭型のデリバティブ取引システムと同様の機能を備えたシステムを、銀行等の金融機関と中小企業との間で使用できるようにするとともに、銀行等の金融機関が中小企業との間で行った店頭型のデリバティブ取引のカバーを総合商社に対して行うようにすることのできるシステムの構築を考えた。
また、銀行等の金融機関が中小企業との間の原材料価格変動ヘッジサービスの提供を目的とした相対取引の契約や相対取引契約締結後の証拠金の管理をブロックチェーンにて行うようにすることを考えた。
【0019】
相対取引においては、定型物と非定型物を考慮した。
定型物は、小口の取引として、現物の購入権を、ブロックチェーンなどの最新の分散技術を活用した、デジタル概念でのトークン(ヘッジトークン)として発行する方式を考えた。そして、ヘッジトークンを複数組み合わせて、中小企業が所望するポートフォリオをつくりブロックチェーンを介して管理することを考えた。
定型物は、取引対象とする素材の純度等が、実際に用いる素材の純度(や合成率)と一致しない場合が多く、ヘッジ率は完全ではないものの、ヘッジをしない場合と比べれば、格段に価格高騰等のリスクを回避できる利点があると考えた。
【0020】
非定型物は、大口の取引として、「特定素材及びそれをベースとした特殊物」、または「特定素材を複数組み合わせたポートフォリオ」を前提とした。
特殊物とは、例えば、「合金」などが挙げられる。合金は、素材の構成割合や作り方に応じて様々なものが出来、沢山の種類がある。例えば、貴金属には、ホワイトゴールド、イエローゴールド、ピンクゴールドなどが有名であり、鉄でもステンレス、アルミニウム合金、超硬合金、合金鋼など多種存在する。
大口の取引においては、使用する素材自体が様々であることが多いことから、特に、素材の純度(や合成率)等の特性に応じて、顧客となる中小企業の要望に沿ったオーダーメイドでのフォワード等の取引内容を作成できるようにすることを考えた。
まず、銀行等の金融機関と中小企業との間で行う非定型物の相対取引のカバー先となる総合商社が、その取引のベースとなる素材(銘柄)の価格をリアルタイムでシステムデータとして提示することを考えた。
この総合商社が提示する取引のベースとなる素材(銘柄)の価格は、定型物で用いる準素材の価格である。
非定型物は、定型原料の構成比の割合が組み込まれた、例えば合金やポートフォリオなどである。非定型物において定型原料の構成比の割合が組み込まれた、合金やポートフォリオなどに用いる銘柄コードは、この定型原料のコードであり、その取引価格をベースにポートフォリオや合金が評価され、その率に応じたヘッジが可能になる。
本件発明者は、このようにして、定型物と非定型物を効率的にリンクさせ、非定型物を定型物に分解し、その流動性を原料単位にし、流動性を集中させて、大口のヘッジしか行わない総合商社に対しても、小口の流動性を集めることにより、仮想の大口注文をつくり、総合商社がヘッジを受けるに見合う流動性をつくりだせると考えた。
また、銘柄に対して、素材の純度等の特性に応じた価格変換率が設定されたテーブルを銀行等の金融機関に提供し、価格や価格変換率を用いて、相対取引の内容が作成できるようにし、作成した相対取引の内容に基づいて、銀行等の金融機関と中小企業との間で、ヘッジ契約を締結できるようにすることを考えた。
その際、証拠金やレバレッジを設定できるようにすることを考えた。
また、相対取引契約及びその解除、証拠金の管理をスマートコントラクトにて行うこととし、スマートコントラクトが、レバレッジ等を含めた素材の価格管理を随時行い、価格下落時には不足分の証拠金を入金しない場合に契約を解除するようにすることを考えた。
また、非定型物におけるポートフォリオは、素材と当該素材における純度(や合成率)等の特性を複数組み合わせたものを一つの銘柄として扱うことを考えた。
そして、スマートコントラクトが、複数銘柄と、その銘柄における素材の特性をオーダーメイド的に取り扱い、その価格情報を取り込み、インデックス値をリアルタイムで計算、記録し、そのインデックス値に対して上述の証拠金管理を行うようにすることを考えた。
また、このスマートコントラクトによる証拠金管理においては、デジタル通貨以外に、ヘッジトークンも預け入れることができるようにし、ヘッジトークンの価値評価も行うようにすることも考えた。
【0021】
また、本件発明者は、ヘッジトークンを、総合商社にヘッジトークン発行体として発行してもらうようにするとともに、発行されたヘッジトークンに対する市場的役割として、ヘッジトークンの交換、販売、取引等を行う場を提供することも考えた。
【0022】
また、ヘッジトークンには、原材料が取引されている海外などの主要取引所と、ヘッジトークンを発行するヘッジトークン発行体となる総合商社とが、システム接続している状況を活用し、流動性(顧客と総合商社との売り買い)を、海外などの主要取引所から総合商社を介して、発行されたヘッジトークンに対する市場的役割を提供する場において仲介し、24時間サービスが行われる特性を持たせることを考えた。ヘッジトークンに海外の現物主市場の原材料価格に限りなく連動する特性を持たせることで、ヘッジとして有効に機能すると考えられる。
【0023】
このような検討、考察を重ねた末、本件発明者は、本発明の中小企業向けヘッジサービス提供システムを導出するに至った。
【0024】
本発明の中小企業向けヘッジサービス提供システムは、ブロックチェーンなどの分散技術を用いて、中小企業に対し、銀行等の金融機関との相対取引契約に基づいたヘッジサービスを提供するシステムであって、特定素材及びそれをベースとした特殊物、または特定素材を複数組み合わせたポートフォリオで構築される、非定型物のデリバティブ相対取引における取引対象となる素材の価格を、銀行等の金融機関に対してリアルタイムで提示する素材価格提示手段と、素材と当該素材における純度等の特性を複数組み合わせてなる銘柄ごとに、素材の純度等の特性に応じた価格変換率が設定された価格変換率テーブルと、顧客となる中小企業による、銀行等の金融機関との前記非定型物のデリバティブ相対取引における取引対象となる素材、および素材の純度等の特性の指定を受け付ける機能と、銀行等の金融機関との定型物の相対取引における取引対象をなす、ヘッジを目的として素材の現物購入権がブロックチェーン上で作成され管理されるデータとして示された、素材トークンの指定を受け付ける機能と、を有するヘッジ取引対象指定手段と、前記ヘッジ取引対象指定手段において指定された、取引対象となる素材、および素材の純度等の特性に基づき、前記素材価値提示手段により提示される素材の価格と、前記価格変換率テーブルに設定された価格変換率を用いて、前記非定型物のデリバティブ相対取引における(デリバティブの種類、取引期日等を含む)取引内容を作成する非定型物デリバティブ相対取引内容作成手段と、前記非定型物デリバティブ相対取引内容作成手段が作成した非定型物のデリバティブ相対取引における取引内容を前記顧客に提示する非定型物デリバティブ相対取引内容提示手段と、前記非定型物のデリバティブ相対取引における取引内容に対する、前記顧客からのレバレッジの指定を受け付ける非定型物デリバティブ相対取引条件設定手段と、前記ヘッジ取引対象指定手段において指定された素材トークン、および素材トークンを複数組み合わせたポートフォリオで構築される、定型物の相対取引における取引対象となる素材トークンのレートを、銀行等の金融機関に対してリアルタイムで提示する素材トークンレート提示手段と、前記素材トークンレート提示手段において提示された素材トークンのレートに基づき、定型物の相対取引における取引内容を作成する定型物相対取引内容作成手段と、前記非定型物のデリバティブ相対取引及び前記定型物の相対取引の取引内容に応じた証拠金維持条件を設定する、証拠金維持条件設定手段と、ブロックチェーン上で稼働する、相対取引契約の締結・解除及び証拠金の管理用スマートコントラクトと、銀行等の金融機関と顧客との非定型物及び定型物の相対取引契約が締結された後、非定型物デリバティブ相対取引契約における取引内容をカバーする非定型物デリバティブ相対取引の注文を総合商社に対して発注する非定型物デリバティブ相対取引契約カバー手段と、銀行等の金融機関と顧客との非定型物及び定型物の相対取引契約が締結された後、定型物相対取引契約に基づき、素材トークンの売買注文を発注する素材トークン発注手段と、前記素材トークン発注手段からの注文を約定させる素材トークン取引手段と、前記素材トークン取引手段を介して約定した注文における素材トークンを発行・償却する素材トークン発行・償却手段と、を有し、前記スマートコントラクトは、顧客からの証拠金維持(証拠金、もしくは決済力のある価値をデジタル化したものなどの全てを対象とする。以下も同じ。)条件を満足するデジタル通貨(デジタル通貨と、それに準じた決済価値の高いものを全て含む。以下も同じ。)による証拠金の設定を受け付けたときに、銀行等の金融機関と顧客との非定型物及び定型物の相対取引契約を締結する、相対取引契約締結機能と、銀行等の金融機関と顧客との非定型物及び定型物の相対取引契約が締結された後、当該相対取引において取引対象となる素材及び素材トークンの時価評価を随時行い、評価した時価及び入金されている証拠金の合計額が前記証拠金維持条件設定手段により設定された証拠金維持条件を満たさない場合に、顧客に対し不足分の証拠金の入金を求める、証拠金管理機能と、顧客からの不足分の証拠金の入金がない場合に相対取引契約を解除する、契約解除機能と、を有する。
【0025】
本発明のブロックチェーンなどの分散技術をベースとした中小企業向けヘッジサービス提供システムのように構成すれば、事業規模が比較的大きな中小企業側と銀行等の金融機関側の双方におけるヘッジ業務に関する上述の課題を解決でき、ヘッジ会計には対応できるが、法規制により総合商社との間で店頭型のデリバティブ取引等による原材料価格変動ヘッジサービスを享受することのできない、事業規模が比較的大きな中小企業が、店頭型のデリバティブ取引等による原材料価格変動ヘッジサービスを享受することができ、他方で、銀行等の金融機関が、新たな収益を得ることが可能となる。
【0026】
また、本発明の中小企業向けヘッジサービス提供システムのように構築すれば、銘柄が特定され、定型化した取引しか対応することが難しい、既存の取引所システムを介した取引とは異なり、一つの銘柄に対してその純度(や合成率)等の複雑な非定型の取引を、特定の能力を有する人材によることなく、システムで対処でき、しかも、ブロックチェーン等の分散技術を用いることで無停止環境による24時間の対応が可能となる。
また、スマートコントラクトにより、契約や証拠金管理が自動的になされるため、従来の業者による顧客の口座管理での与信管理が不要となる。
【0027】
より詳しくは、次の通りである。
既存の取引所システムを用いて商品先物取引を伴うヘッジサービスを享受する場合、取引所に注文を集中させ、注文する各企業体の口座管理を管理するための委託業者が存在する。
取引所による取引の場合、取引対象となる銘柄は特定され、定型化したものを取引せざるを得ない。また、各企業体の口座管理をするために、委託業者が業者別のシステムで個別に構築する必要があり、特に、与信管理の負担が大きい。
これに対し、本発明の中小企業向けヘッジサービス提供システムのように構築すれば、銘柄を必要に応じてつくることができ、一つの銘柄に対してその純度(や合成率)等の複雑な設定をすることが、特定の能力を有する人材でなくてもできるようになる。また、ヒト対応による取引の場合、サービス提供時間が限られたものとなるが、ブロックチェーン等の分散技術を用いることで無停止環境による24時間の対応が可能となる。
また、本発明の中小企業向けヘッジサービス提供システムのように構築すれば、口座管理も分散処理で対処でき、各企業体の口座管理をするために、委託業者が業者別のシステムで個別に構築する必要がない。しかも、スマートコントラクトにより、契約や証拠金管理が自動的になされるため、従来の業者による顧客の口座管理での与信管理が不要となる。
【0028】
商品先物取引にもいえるが、ヘッジの対象となる注文は、基本的に大口注文が殆どである。しかし、小口注文であっても沢山集めれば、大きな塊になり、例えば、上述した合金やポートフォリオについても、素材に分解し、素材に流動性を調整することで、大口のような注文になり、より正確なヘッジが可能になる。
また、ヘッジは、投資とは逆の発想(保険的なもの)であり、その契約を持つことでベースが減る特性がある反面、何かのリスクが表面化したときに、そのリスクを回避できる。このため、事業計画を作成する際には、ヘッジを組み込むことが必要になる。
そのベースの価格下落を担保するのが、担保の概念であり、それを証拠金としている。担保は、決済など、すぐに現金化できるものであり、デジタル通貨やトークンなどのデジタル資産とする。このスマートコントラクトがロックしている担保がある間は、ヘッジ契約が継続されるが、本発明の中小企業向けヘッジサービス提供システムのように構築すれば、従来のような難しいヘッジ管理が不要になり、ヒトがいなくても金融機関は中小企業のような小規模の企業体に対しても、ヘッジサービスを提供できるようになる。
さらに、その担保の評価については、素材の定型の取引を、常に売買可能としていることから、その気配のレートを取り込んで評価することができ、評価割れでポジションを自動解消することで、ヘッジ提供者のリスクを排除できる。
なお、本発明における「証拠金維持条件」としては、証拠金維持率が挙げられる。
【0029】
図1は本発明の中小企業向けヘッジサービス提供システムにおける全体の処理概念を示す説明図である。
本発明の中小企業向けヘッジサービス提供システムでは、従来、総合商社50が大企業との間で行なっている、相対取引ヘッジサービスと同様の相対取引システムのアプリケーションを銀行等の金融機関40に導入するとともに、事業規模が比較的大きな中小企業に対しても相対取引ヘッジ契約を締結するためのアプリケーションを導入し、銀行等の金融機関40と顧客となる中小企業30との間で、相対ヘッジ取引契約が締結できるようにする。また、銀行等の金融機関40が、非定型物の相対取引について、顧客30と締結した契約に基づき、相対ヘッジ取引契約をカバーするための相対ヘッジ契約を、総合商社50との間で締結できるようにする。また、銀行等の金融機関40が、定型物の相対取引について、顧客30と締結した契約に基づき、ヘッジトークンの売買をトークン取引所60との間で行うことができるようにする。ヘッジトークンの発行・償却は、トークン取引所60においてヘッジトークンの注文が約定したときに総合商社が行うようにする。
また、相対取引の契約・解除及び管理はブロックチェーンにて行うようにする。
相対取引の契約は、デリバティブであるため、証拠金管理が必要となる。顧客30がデジタル通貨で証拠金をスマートコントラクトに設定することで契約の締結が完了する。
スマートコントラクトが、契約内容の時価評価を随時行い、証拠金管理を自動で行う。そして、証拠金不足が解消されない場合には、契約が解除されるようにする。
このような概念を具現化したものが本発明の中小企業向けヘッジサービス提供システムである。
【0030】
以下、本発明の実施形態について、適宜、図面を参照して説明する。
図2は本発明の一実施形態にかかる中小企業向けヘッジサービス提供システムの全体構成を概念的に示すブロック図である。
図2の中小企業向けヘッジサービスシステムは、素材価格提示手段11と、価格変換率テーブル12と、ヘッジ取引対象指定手段13と、非定型物デリバティブ相対取引内容作成手段14と、非定型物デリバティブ相対取引内容提示手段15と、非定型物デリバティブ相対取引条件設定手段16と、素材トークンレート提示手段17と、定型物相対取引内容作成手段18と、証拠金維持条件設定手段19と、非定型物デリバティブ相対取引契約カバー手段20と、素材トークン発注手段21と、素材トークン取引手段22と、素材トークン発行・償却手段23と、相対取引契約の締結・解除及び証拠金の管理用スマートコントラクト24と、を有している。なお、図1中、30は顧客となる中小企業、40は銀行等の金融機関、50は総合商社、60はトークン取引所(又はトークン取引機能を提供する場)である。
【0031】
素材価格提示手段11は、図3に示すように、特定素材及びそれをベースとした特殊物、または特定素材を複数組み合わせたポートフォリオで構築される、非定型物のデリバティブ相対取引における取引対象となる素材の価格を、銀行等の金融機関40に対してリアルタイムで提示するように構成されている。
【0032】
原材料価格変換率テーブル12は、素材と当該素材における純度等の特性を複数組み合わせてなる銘柄ごとに、素材の純度等の特性に応じた価格変換率が設定されている。
原材料価格変換率テーブル12は、ある銘柄Aの主要構成物質を5種類程度(多いものでは11種類)定義する。
ここで、原材料価格変換率テーブル12のデータ構成の一例について、18金ホワイトゴールドを用いて説明する。
18金ホワイトゴールドは、金:75%、ニッケル又はパラジウム:25%である。
原材料価格変換率テーブル12の項目は、例えば、図4に示すように、
銘柄コード、銘柄名称、構成1素材番号、構成1割合、構成2素材番号、構成2割合、構成3素材番号、構成3割合、構成4素材番号、構成4割合、構成5素材番号、構成5割合、ポートフォリオ番号(使う場合のみ設定)、更新日時、バージョンなどを有する。
材料価格変換率テーブル12における18金ホワイトゴールドのデータは、例えば、
銘柄コード:1111、
銘柄名称:18金ホワイトゴールド001、
構成1素材番号:0001(純金の番号)、
構成1割合:0.75、
構成2素材番号:0005(パラジウムの番号)、
構成2割合:0.15、
構成3素材番号:0025(ニッケルの番号)、
構成3割合:0.10、
・・・以下略
のように、設定される。
上記の例は、この割合の素材の価格変動を組み入れれば良い場合であるが、例えば、
銘柄コード:1111、
銘柄名称:18金ホワイトゴールド001、
構成1素材番号:0001(純金の番号)、
構成1割合:0.75、
構成2素材番号:0005(パラジウムの番号)、
構成2割合:0.15、
・・・以下略
のように、一部の素材(上記例では構成1と構成2の素材)だけが判明している場合、その素材分の価格変動のみヘッジできるとして、ヘッジ率は0.9(単純に構成1と構成2の割合を足したもの)とする。
なお、原材料価格変換率テーブル12の項目にヘッジ率を追加し、当該項目にヘッジ率の計算値を設定しておいてもよい。
【0033】
ヘッジ取引対象指定手段13は、図5に示すように、顧客となる中小企業30による、銀行等の金融機関40との非定型物のデリバティブ相対取引における取引対象となる素材、および素材の純度等の特性の指定を受け付ける機能と、銀行等の金融機関40との定型物の相対取引における取引対象をなす、ヘッジを目的として素材の現物購入権がブロックチェーン上で作成され管理されるデータとして示された、素材トークンの指定を受け付ける機能と、を有している。
【0034】
非定型物デリバティブ相対取引内容作成手段14は、図6に示すように、ヘッジ取引対象指定手段13において指定された、取引対象となる素材、および素材の純度等の特性に基づき、素材価値提示手段11により提示される素材の価格と、価格変換率テーブル12に設定された価格変換率を用いて、非定型物のデリバティブ相対取引における(デリバティブの種類、取引期日等を含む)取引内容を作成するように構成されている。
【0035】
非定型物デリバティブ相対取引内容提示手段15は、図7に示すように、非定型物デリバティブ相対取引内容作成手段14が作成した非定型物のデリバティブ相対取引における取引内容を顧客30に提示するように構成されている、
【0036】
非定型物デリバティブ相対取引条件設定手段16は、図8に示すように、非定型物のデリバティブ相対取引における取引内容に対する、顧客30からのレバレッジの指定を受け付けるように構成されている。
【0037】
素材トークンレート提示手段17は、図9に示すように、素材トークンを複数組み合わせたポートフォリオで構築される、定型物の相対取引における取引対象となる素材トークンのレートを、銀行等の金融機関40に対してリアルタイムで提示するように構成されている。
【0038】
定型物相対取引内容作成手段18は、図10に示すように、ヘッジ取引対象指定手段13において指定された素材トークン、および素材トークンレート提示手段17において提示された素材トークンのレートに基づき、定型物の相対取引における取引内容を作成するように構成されている。
【0039】
証拠金維持条件設定手段19は、図11に示すように、非定型物のデリバティブ相対取引及び定型物の相対取引の取引内容に応じた証拠金維持条件を設定するように構成されている。
【0040】
非定型物デリバティブ相対取引契約カバー手段20は、図12に示すように、銀行等の金融機関40と顧客30との非定型物及び定型物の相対取引契約が締結された後、非定型物デリバティブ相対取引契約における取引内容をカバーする非定型物デリバティブ相対取引の注文を総合商社50に対して発注するように構成されている。
【0041】
素材トークン発注手段21は、図13に示すように、銀行等の金融機関40と顧客30との非定型物及び定型物の相対取引契約が締結された後、定型物相対取引契約に基づき、素材トークンの売買注文を発注するように構成されている。
【0042】
素材トークン取引手段22は、図14に示すように、素材トークン発注手段21からの注文を約定させるように構成されている。
【0043】
素材トークン発行・償却手段23は、図15に示すように、素材トークン取引手段22を介して約定した注文における素材トークンを発行・償却するように構成されている。
【0044】
中小企業向けヘッジサービス提供システムにおけるスマートコントラクト24は、図16に示すように、相対取引契約締結機能と、証拠金管理機能と、契約解除機能と、を有している。
相対取引契約締結機能は、顧客(となる中小企業)30からの証拠金維持条件を満足するデジタル通貨による証拠金の設定を受け付けたときに、銀行等の金融機関40と顧客30との非定型物及び定型物の相対取引契約を締結する。
証拠金管理機能は、銀行等の金融機関40と顧客30との非定型物及び定型物の相対取引契約が締結された後、当該相対取引において取引対象となる素材及び素材トークンの時価評価を随時行い、評価した時価及び入金されている証拠金の合計額が証拠金維持条件設定手段19により設定された証拠金維持条件を満たさない場合に、顧客30に対し不足分の証拠金の入金を求める。
契約解除機能は、顧客30からの不足分の証拠金の入金がない場合に相対取引契約を解除する。
【0045】
本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムを用いた処理の流れ
このように構成された本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムを用いた処理の流れを、図面を用いて説明する。
図17図18は本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムを用いた処理の流れの一例を示す説明図である。
総合商社50では、素材価格提示手段11が、特定素材及びそれをベースとした特殊物、または特定素材を複数組み合わせたポートフォリオで構築される、非定型物のデリバティブ相対取引における取引対象となる素材の価格を、銀行等の金融機関40に対してリアルタイムで提示している。なお、総合商社50は、システム接続している海外の主要取引所から市況情報を入手し、素材価格提示手段11市況情報を用いて上記非定型物のデリバティブ相対取引における取引対象となる素材の価格を提示するものとする。
また、銀行等の金融機関40は、素材と当該素材における純度等の特性を複数組み合わせてなる銘柄ごとに、素材の純度等の特性に応じた価格変換率が設定された原材料価格変換率テーブル12を備えている。
顧客となる中小企業30は、ヘッジ取引対象指定手段13を介して、銀行等の金融機関40との非定型物のデリバティブ相対取引における取引対象となる素材、および素材の純度等の特性の指定、銀行等の金融機関40との定型物の相対取引における取引対象をなす、素材トークンの指定を行う。
銀行等の金融機関40では、非定型物デリバティブ相対取引内容作成手段14が、ヘッジ取引対象指定手段13において指定された、取引対象となる素材、および素材の純度等の特性に基づき、素材価値提示手段11により提示される素材の価格と、価格変換率テーブル12に設定された価格変換率を用いて、非定型物のデリバティブ相対取引における(デリバティブの種類、取引期日等を含む)取引内容を作成する。
次いで、非定型物デリバティブ相対取引内容提示手段15が、非定型物デリバティブ相対取引内容作成手段14により作成された非定型物のデリバティブ相対取引における取引内容を顧客30に提示する。
顧客30は、非定型物デリバティブ相対取引条件設定手段16を介して、非定型物のデリバティブ相対取引における取引内容に対する、レバレッジの指定を行う。
【0046】
素材トークンレート提示手段17は、素材トークンを複数組み合わせたポートフォリオで構築される、定型物の相対取引における取引対象となる素材トークンのレートを、銀行等の金融機関40に対してリアルタイムで提示する。なお、総合商社50は、システム接続している海外の主要取引所から市況情報のベースを作成し、トークン取引所60に送信し、トークン取引所60にて、素材トークンレート提示手段17が市況情報のベースを用いて上記素材トークンのレートを提示するものとする。
次いで、定型物相対取引内容作成手段18が、ヘッジ取引対象指定手段13において指定された素材トークン、および素材トークンレート提示手段17において提示された素材トークンのレートに基づき、定型物の相対取引における取引内容を作成する。
【0047】
また、証拠金維持条件設定手段19が、非定型物のデリバティブ相対取引及び定型物の相対取引の取引内容に応じた証拠金維持条件を設定する。
顧客30は、証拠金維持条件設定手段19により設定された証拠金維持条件を満足する所定額のデジタル通貨による証拠金をスマートコントラクト24に設定する。
スマートコントラクト24は、顧客30からの証拠金維持条件を満足するデジタル通貨による証拠金の設定を受け付けたときに、銀行等の金融機関40と顧客30との非定型物及び定型物の相対取引契約を締結する。そして、銀行等の金融機関40に対し、非定型物及び定型物の相対取引開始を通知する。
【0048】
銀行等の金融機関40と顧客30との非定型物及び定型物の相対取引契約が締結された後、銀行等の金融機関40では、非定型物デリバティブ相対取引契約カバー手段20が、非定型物デリバティブ相対取引契約における取引内容をカバーする非定型物デリバティブ相対取引の注文を総合商社50に対して発注する。また、素材トークン発注手段21が、定型物相対取引契約に基づき、素材トークンの売買注文を発注する。
【0049】
トークン取引所60では、素材トークン取引手段22が、素材トークン発注手段21からの注文を約定させる。
総合商社50では、素材トークン発行・償却手段23が、素材トークン取引手段22を介して約定した注文における素材トークンを発行・償却する。
【0050】
また、銀行等の金融機関40と顧客30との非定型物及び定型物の相対取引契約を締結した後、スマートコントラクト24は、当該相対取引において取引対象となる素材及び素材トークンの時価評価を随時行い、評価した時価及び入金されている証拠金の合計額が証拠金維持条件設定手段19により設定された証拠金維持条件を満たさない場合に、顧客30に対し不足分の証拠金の入金を求める。そして、スマートコントラクト24は、顧客30からの不足分の証拠金の入金がない場合に当該相対取引契約を解除する。
なお、スマートコントラクト24は、証拠金維持条件を満足している場合において当該相対取引契約の期日が到来したとき、当該相対取引契約を終了させる。
【0051】
本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムの効果
本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムによれば、事業規模が比較的大きな中小企業側と銀行等の金融機関側の双方におけるヘッジ業務に関する上述の課題を解決でき、ヘッジ会計には対応できるが、法規制により総合商社との間で店頭型のデリバティブ取引等による原材料価格変動ヘッジサービスを享受することのできない、事業規模が比較的大きな中小企業が、店頭型のデリバティブ取引等による原材料価格変動ヘッジサービスを享受することができ、他方で、銀行等の金融機関が、新たな収益を得ることが可能となる。
例えば、図19に示すように、企業が必要なヘッジにおいて、定型化したものをベースに組み合わせて、その比率に応じた時価を取り込み、全体をポートフォリオにして価格を固定することが簡単にできるようになる。そして、定型物と非定型物を効率的にリンクさせ、非定型物を定型物に分解し、その流動性を原料単位にし、流動性を集中させて、大口のヘッジしか行わない総合商社に対して、小口の流動性を集めることにより、仮想の大口注文をつくり、総合商社がヘッジを受けるに見合う流動性をつくりだせるようになる。
【0052】
また、本実施形態の中小企業向けヘッジサービス提供システムによれば、銘柄が特定され、定型化した取引しか対応することが難しい、既存の取引所システムを介した取引とは異なり、一つの銘柄に対してその純度(や合成率)等の複雑な非定型の取引を、特定の能力を有する人材によることなく、システムで対処でき、しかも、ブロックチェーン等の分散技術を用いることで無停止環境による24時間の対応が可能となる。
また、スマートコントラクトにより、契約や証拠金管理が自動的になされるため、従来の業者による顧客の口座管理での与信管理が不要となる。
【0053】
以上、本発明の中小企業向けヘッジサービス提供システムについて実施形態を用いて説明したが、本発明の中小企業向けヘッジサービス提供システムは、上記実施形態で説明した構成に限られるものではなく、本発明の請求項の範囲内でどのような形態にも構成可能である。
【0054】
例えば、相対取引契約の締結・解除及び証拠金の管理用スマートコントラクトが管理する証拠金は、デジタル通貨の他に、取引が可能な(市場を有する)トークン類を用いてもよい。その場合、銘柄単位で、担保掛目を計算・設定し、定期的(例えば、5分、1日おき等)に評価替えを行うようにする。
【0055】
また、本発明の中小企業向けヘッジサービス提供システムは、大口の取引として、「特定素材及びそれをベースとした特殊物」、または「特定素材を複数組み合わせたポートフォリオ」を前提とした非定型物について、工業品における素材の純度等の特性に応じた価格変換率が設定された価格変換率テーブルを銀行等の金融機関に提供し、価格や価格変換率を用いて、相対取引の内容が作成できるようにし、作成した相対取引の内容に基づいて、銀行等の金融機関と中小企業との間で、ヘッジ契約を締結できるようにしたものであるが、農作物を対象とした、生産者と販売者との間での小口向けのヘッジサービスを提供する手段をさらに備えた構成とすることがより好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の中小企業向けヘッジサービス提供システムは、商品先物取引法の規制により総合商社との間では、ヘッジサービスの提供を受けることができない事業規模が比較的大きな中小企業に対するヘッジサービスを行うことが必要とされる分野に有用である。
【符号の説明】
【0057】
11 素材価格提示手段
12 価格変換率テーブル
13 ヘッジ取引対象指定手段
14 非定型物デリバティブ相対取引内容作成手段
15 非定型物デリバティブ相対取引内容提示手段
16 非定型物デリバティブ相対取引条件設定手段
17 素材トークンレート提示手段
18 定型物相対取引内容作成手段
19 証拠金維持条件設定手段
20 非定型物デリバティブ相対取引契約カバー手段
21 素材トークン発注手段
22 素材トークン取引手段
23 素材トークン発行・償却手段
24 相対取引契約の締結・解除及び証拠金の管理用スマートコントラクト
30 顧客(となる中小企業)
40 銀行等の金融機関
50 総合商社
60 トークンの取引所又は取引機能を提供する場
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【手続補正書】
【提出日】2021-09-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】全図
【補正方法】変更
【補正の内容】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19