IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社神戸製鋼所の特許一覧

<>
  • 特開-軸受装置及び軸受装置の駆動方法 図1
  • 特開-軸受装置及び軸受装置の駆動方法 図2
  • 特開-軸受装置及び軸受装置の駆動方法 図3
  • 特開-軸受装置及び軸受装置の駆動方法 図4
  • 特開-軸受装置及び軸受装置の駆動方法 図5
  • 特開-軸受装置及び軸受装置の駆動方法 図6
  • 特開-軸受装置及び軸受装置の駆動方法 図7
  • 特開-軸受装置及び軸受装置の駆動方法 図8
  • 特開-軸受装置及び軸受装置の駆動方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021900
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】軸受装置及び軸受装置の駆動方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/10 20060101AFI20230207BHJP
   F16C 3/02 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
F16C33/10 Z
F16C3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015976
(22)【出願日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2021127008
(32)【優先日】2021-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】高川 優作
(72)【発明者】
【氏名】沖田 圭介
(72)【発明者】
【氏名】松田 真理子
【テーマコード(参考)】
3J011
3J033
【Fターム(参考)】
3J011AA20
3J011BA02
3J011JA02
3J011KA02
3J011MA02
3J011NA01
3J011PA02
3J011RA03
3J033AA01
3J033AA02
3J033AA05
3J033AB03
3J033BA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】不純物の混入及びコストの増大を抑えつつ、軸部材及び軸受部材の間の摩擦抵抗及び焼き付きを抑制できる軸受装置を提供する。
【解決手段】軸径が180mm以上の軸部材1と、軸部材の外周面を摺動可能に支持する軸受部材2と、軸部材の外周面11と軸受部材の内周面21との間の隙間に供給され、この隙間に油膜を形成する潤滑油とを備える軸受装置であって、軸部材の外周面の算術平均粗さRaが0.05μm以上0.30μm以下であり、かつ上記外周面の突出山部高さRpkが0.04μm以上0.34μm以下である軸受装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸径が180mm以上の軸部材と、
上記軸部材の外周面を摺動可能に支持する軸受部材と、
上記軸部材の外周面と上記軸受部材の内周面との間の隙間に供給され、この隙間に油膜を形成する潤滑油と
を備える軸受装置であって、
上記軸部材の外周面の算術平均粗さRaが0.05μm以上0.30μm以下であり、かつ上記外周面の突出山部高さRpkが0.04μm以上0.34μm以下である軸受装置。
【請求項2】
上記軸部材の硬度をH[HV]、上記軸受部材の硬度をH[HV]とした場合に、H/Hが4.1以上である請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
上記軸受部材の内周面の算術平均粗さをRa[μm]、上記軸受部材の内周面の突出山部高さをRpk[μm]とした場合に、Ra/Raが0.26以上38.0以下であり、かつRpk/Rpkが0.32以上69.0以下である請求項1又は請求項2に記載の軸受装置。
【請求項4】
下記式1で算出される油膜厚さh[μm]が、下記式2で算出される限界油膜厚さhlim[μm]以上である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の軸受装置。
【数1】
但し、上記式1において、Rは上記軸部材及び上記軸受部材の等価半径[m]を意味し、αは上記潤滑油の粘度圧力係数[1/GPa]を意味し、ηは上記潤滑油の粘度[Pa・秒]を意味し、uは上記軸部材の周速度[m/秒]を意味し、Eは上記軸部材及び上記軸受部材の等価縦弾性係数[GPa]を意味し、wは上記軸部材の軸方向における単位長さあたりの上記軸受部材にかかる荷重[N/m]を意味し、上記式2において、Λlimは上記油膜が流体潤滑状態を維持する最小の油膜パラメータの値を意味し、Raは上記軸受部材の内周面の算術平均粗さ[μm]を意味する。
【請求項5】
上記潤滑油の粘度ηが、下記式3で算出される上記潤滑油の限界粘度ηlim[Pa・秒]以上である請求項4に記載の軸受装置。
【数2】
【請求項6】
上記軸部材の周速度uが、下記式4で算出される上記軸部材の限界周速度ulim[m/秒]以上である請求項4に記載の軸受装置。
【数3】
【請求項7】
上記軸部材及び上記軸受部材の等価半径Rが、下記式5で算出される上記軸部材及び上記軸受部材の限界等価半径Rlim[m]以上である請求項4に記載の軸受装置。
【数4】
【請求項8】
上記潤滑油の粘度ηが、下記式6を満たす請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の軸受装置。
0.08×ηlim≦η<5.20×ηlim ・・・6
但し、上記式6において、ηlimは、上記記軸部材及び上記軸受部材の等価半径をR[m]、上記潤滑油の粘度圧力係数をα[1/GPa]、上記潤滑油の粘度をη[Pa・秒]、上記軸部材の周速度をu[m/秒]、上記軸部材及び上記軸受部材の等価縦弾性係数をE[GPa]、上記軸部材の軸方向における単位長さあたりの上記軸受部材にかかる荷重をw[N/m]、上記油膜が流体潤滑状態を維持する最小の油膜パラメータの値をΛlim、上記軸受部材の内周面の算術平均粗さをRaとした場合に、下記式3で算出される上記潤滑油の限界粘度[Pa・秒]を意味する。
【数5】
【請求項9】
軸受装置の駆動方法であって、
軸径が180mm以上の軸部材と、上記軸部材の外周面を摺動可能に支持する軸受部材と、上記軸部材の外周面と上記軸受部材の内周面との間の隙間に供給され、この隙間に油膜を形成する潤滑油とを備える軸受装置を用いて、上記軸部材を回転させる駆動工程を備え、
上記軸部材の外周面の算術平均粗さRaが0.05μm以上0.30μm以下であり、かつ上記外周面の突出山部高さRpkが0.04μm以上0.34μm以下である軸受装置の駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受装置及び軸受装置の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船用の軸受装置は、例えばクランク軸、中間軸、推進軸等の軸部材と、この軸部材を摺動可能に支持するすべり軸受等の軸受部材とを備える。また、軸部材及び軸受部材の間の隙間には、潤滑油が供給されている。この潤滑油は、軸部材と軸受部材との間に油膜を形成することで、両部材の間の摩擦抵抗を低減する。
【0003】
油膜の形成が十分な場合、主に油膜の粘度が摩擦抵抗の要因となるため、摩擦抵抗が低く維持されやすい。一方で、油膜の形成が不十分な場合、油膜の粘度に加え、軸部材及び軸受部材の固体接触も摩擦抵抗の要因となり得るため、摩擦抵抗が高まりやすい。また、油膜の形成が不十分な場合、軸部材及び軸受部材の間で焼き付きが生じやすい。
【0004】
摺動部材の摩擦抵抗及び焼き付きを低減する技術として、例えば特許文献1には、摺動面に窒素を含有する非晶質炭素被膜を形成することが記載されている。また、特許文献2には、内燃機関の低フリクション化に対応可能な表面特性を有する組み合せ摺動部材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-025396号公報
【特許文献2】特開2004-116707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されている被膜を、例えば高荷重の環境下にある船用の軸受部材の表面に形成すると、被膜の損傷に起因して潤滑油中に不純物が混入するおそれがある。また、上記被膜を大型の船用の軸受部材の表面に形成すると、設備投資やコストが増大するおそれがある。一方で、特許文献2に記載されている技術は、摺動部材が往復運動することを前提としている。このため、軸部材が回転することを前提とした軸受装置に上記技術を適用すると、軸部材及び軸受部材の間の摩擦抵抗及び焼き付きを抑制できないおそれがある。
【0007】
本発明は、このような事情に基づいてなされたものであり、不純物の混入及びコストの増大を抑えつつ、軸部材及び軸受部材の間の摩擦抵抗及び焼き付きを抑制できる軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様に係る軸受装置は、軸径が180mm以上の軸部材と、上記軸部材の外周面を摺動可能に支持する軸受部材と、上記軸部材の外周面と上記軸受部材の内周面との間の隙間に供給され、この隙間に油膜を形成する潤滑油とを備える軸受装置であって、上記軸部材の外周面の算術平均粗さRaが0.05μm以上0.30μm以下であり、かつ上記外周面の突出山部高さRpkが0.04μm以上0.34μm以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様に係る軸受装置は、不純物の混入及びコストの増大を抑えつつ、軸部材及び軸受部材の間の摩擦抵抗及び焼き付きを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る軸受装置における軸部材の中心軸と垂直な切断面を示す模式的断面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る軸受装置の駆動方法を示すフロー図である。
図3図3は、軸部材を研磨したサンドペーパーの番手と軸部材の算術平均粗さとの関係を表すグラフである。
図4図4は、軸部材を研磨したサンドペーパーの番手と軸部材の突出山部高さとの関係を表すグラフである。
図5図5は、軸受部材に対する軸部材の硬度比と、軸部材及び軸受部材のそれぞれにおける摺動試験前後の算術平均粗さの比との関係を表すグラフである。
図6図6は、軸受部材に対する軸部材の硬度比と、軸部材及び軸受部材のそれぞれにおける摺動試験前後の突出山部高さの比との関係を表すグラフである。
図7図7は、No.29、No.30、No.34及びNo.35における軸受特性数と摩擦係数との関係を表すグラフである。
図8図8は、No.31、No.32、No.33、No.36、No.37及びNo.38における軸受特性数と摩擦係数との関係を表すグラフである。
図9図9は、No.85からNo.91における軸受特性数と摩擦係数との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0012】
本発明の一態様に係る軸受装置は、軸径が180mm以上の軸部材と、上記軸部材の外周面を摺動可能に支持する軸受部材と、上記軸部材の外周面と上記軸受部材の内周面との間の隙間に供給され、この隙間に油膜を形成する潤滑油とを備える軸受装置であって、上記軸部材の外周面の算術平均粗さRaが0.05μm以上0.30μm以下であり、かつ上記外周面の突出山部高さRpkが0.04μm以上0.34μm以下である。
【0013】
当該軸受装置は、上記軸部材の外周面の算術平均粗さRa及び突出山部高さRpkが適正化されていることによって、上記軸部材及び上記軸受部材の間の摺動域を流体潤滑状態に維持しやすい。このため、当該軸受装置は、上記摺動域における不純物の混入及びコストの増大を抑えつつ、上記軸部材及び上記軸受部材の間の摩擦抵抗及び焼き付きを抑制できる。
【0014】
上記軸部材の硬度をH[HV]、上記軸受部材の硬度をH[HV]とした場合に、H/Hが4.1以上であるとよい。このようにH/Hが上記下限以上であることによって、上記軸受部材の表面粗さが小さくなりやすい。このため、上記軸部材及び上記軸受部材の間の摩擦抵抗及び焼き付きをさらに抑制できる。
【0015】
上記軸受部材の内周面の算術平均粗さをRa[μm]、上記軸受部材の内周面の突出山部高さをRpk[μm]とした場合に、Ra/Raが0.26以上38.0以下であり、かつRpk/Rpkが0.32以上69.0以下であることが好ましい。このようにRa/Ra及びRpk/Rpkを上記範囲内に制御することで、上記軸部材及び上記軸受部材の間の摩擦抵抗及び焼き付きをさらに抑制しやすい。
【0016】
下記式1で算出される油膜厚さh[μm]としては、下記式2で算出される限界油膜厚さhlim[μm]以上が好ましい。
【0017】
【数1】
【0018】
このように上記油膜厚さhが上記限界油膜厚さhlim以上であることによって、上記摺動域を流体潤滑状態に維持することが容易となる。
【0019】
上記潤滑油の粘度ηとしては、下記式3で算出される上記潤滑油の限界粘度ηlim[Pa・秒]以上が好ましい。
【0020】
【数2】
【0021】
このように上記潤滑油の粘度ηが上記潤滑油の限界粘度ηlim以上であることによって、上記摺動域を流体潤滑状態に維持することがさらに容易となる。
【0022】
上記軸部材の周速度uとしては、下記式4で算出される上記軸部材の限界周速度ulim[m/秒]以上が好ましい。
【0023】
【数3】
【0024】
このように上記軸部材の周速度uが上記限界周速度ulim以上であることによって、上記摺動域を流体潤滑状態に維持することがさらに容易となる。
【0025】
上記軸部材及び上記軸受部材の等価半径Rとしては、下記式5で算出される上記軸部材及び上記軸受部材の限界等価半径Rlim[m]以上が好ましい。
【0026】
【数4】
【0027】
このように上記等価半径Rが上記限界等価半径Rlim以上であることによって、上記摺動域を流体潤滑状態に維持することがさらに容易となる。
【0028】
上記潤滑油の粘度ηは、下記式6を満たすとよい。
0.08×ηlim≦η<5.20×ηlim ・・・6
【0029】
このように上記粘度ηが上記式6を満たすことによって、上記潤滑油の粘度を適正化しつつ、上記摺動域を流体潤滑状態に維持することが容易となる。
【0030】
本発明の他の一態様に係る軸受装置の駆動方法は、軸径が180mm以上の軸部材と、上記軸部材の外周面を摺動可能に支持する軸受部材と、上記軸部材の外周面と上記軸受部材の内周面との間の隙間に供給され、この隙間に油膜を形成する潤滑油とを備える軸受装置を用いて、上記軸部材を回転させる駆動工程を備え、上記軸部材の外周面の算術平均粗さRaが0.05μm以上0.30μm以下であり、かつ上記外周面の突出山部高さRpkが0.04μm以上0.34μm以下である。
【0031】
当該軸受装置の駆動方法は、当該軸受装置を用いることによって、上記駆動工程で、上記軸部材及び上記軸受部材の間の摺動域を流体潤滑状態に維持しやすい。このため、当該軸受装置の駆動方法は、上記摺動域における不純物の混入及びコストの増大を抑えつつ、上記軸部材及び上記軸受部材の間の摩擦抵抗及び焼き付きを抑制できる。
【0032】
なお、本発明において、「軸径」とは軸部材の外周面の直径を意味し、「算術平均粗さ」とはJIS―B0601(2013)に準拠して測定される値を意味し、「突出山部高さ」とはJIS―B0671―2(2002)に準拠して測定される値を意味し、「硬度」とはJIS―Z2244(2009)に準拠して測定されるビッカース硬さを意味し、「流体潤滑状態」とはストライベック曲線を用いて分類される流体潤滑の状態にあることを意味し、「限界油膜厚さ」とは油膜が流体潤滑状態を維持できる最小の油膜厚さを意味し、「限界粘度」とは油膜が流体潤滑状態を維持できる潤滑油の最小の粘度を意味し、「軸部材の周速度」とは軸部材の外周面における周速度を意味し、「限界周速度」とは油膜が流体潤滑状態を維持できる軸部材の最小の周速度を意味する。
【0033】
本発明において、「等価半径」とは、軸部材の外周面の半径をR[m]、軸受部材の内周面の半径をR[m]とした場合に下記式7により算出される値[m]を意味する(半径R及び半径Rについては図1参照)。また、「限界等価半径」とは、油膜が流体潤滑状態を維持できる最小の等価半径を意味する。
【0034】
【数5】
【0035】
本発明において、潤滑油の粘度ηは、潤滑油の密度をρ[g/cm]、大気圧下における潤滑油温度T[K]での潤滑油の動粘度をμ(T)[mm/s]、潤滑油に加わる圧力をP[GPa]とした場合に、下記式8で算出される値を意味する。
η=ρμ(T)exp(αP)×10-3・・・8
【0036】
上記式8において、上記動粘度μ(T)は、粘度温度特性数mを用いて下記式9で算出される。
【数6】
【0037】
上記式9において、上記粘度温度特性数mは、温度T[K]における潤滑油の既知の動粘度μ及び温度T[K](T<T)における潤滑油の既知の動粘度μを用いて、JIS―K2283(2000)の「動粘度及び混合比の推定方法」に示される下記式10で算出される。
m={loglog(μ+0.7)-loglog(μ+0.7)}/(logT-logT)・・・10
【0038】
上記式9において、bは、温度T[K]における潤滑油の既知の動粘度μを用いて、下記式11で算出される。
b=loglog(μ+0.7)+mlogT・・・11
【0039】
本発明において、粘度圧力係数αは、上記粘度温度特性数m及び上記動粘度μ(T)を用いて実験式である下記式12で算出される値[1/GPa]を意味する。
α=m{0.1657+0.2332logμ(T)}×10・・・12
【0040】
本発明において、「等価縦弾性係数」とは、軸部材のポアソン比をν、軸部材の縦弾性係数をE[GPa]、軸受部材のポアソン比をν、軸受部材の縦弾性係数をE[GPa]とした場合に下記式13により算出される値[GPa]を意味する。
【0041】
【数7】
【0042】
本発明において、「油膜パラメータ」とは、油膜厚さをh[μm]とした場合に下記式14により算出されるΛの値を意味する。
【0043】
【数8】
【0044】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0045】
[軸受装置]
図1の軸受装置は、軸部材1と、軸部材1の外周面11を摺動可能に支持する軸受部材2と、軸部材1の外周面11と軸受部材2の内周面21との間の隙間に供給され、この隙間に油膜31を形成する潤滑油3とを備える。
【0046】
<軸部材>
軸部材1は、軸受部材2に対して周方向に回転する回転体である。軸部材1としては、例えば船に配置される船用のクランク軸、中間軸、推進軸等が挙げられる。軸部材1の材質としては、例えば炭素鋼、低合金鋼、アルミニウム合金等が挙げられる。軸部材1の中心軸Pは水平方向(図1のY方向)に延びている。
【0047】
軸部材1の外周面11には、例えば潤滑膜等のコーティング層は形成されていないことが好ましい。このように外周面11にコーティング層が設けられていないことによって、軸部材1及び軸受部材2の間の摺動域における不純物の混入及びコストの増大を抑制できる。
【0048】
軸部材1の軸径は180mm以上である。軸部材1の軸径の下限としては、280mmであってもよく、360mmであってもよい。軸部材1の軸径が上記下限値以上の場合に軸部材1の外周面11等にコーティング層が設けられていると、コーティング層が損傷して不純物が発生するおそれが高い。これに対し、当該軸受装置は、外周面11にコーディング層を設けることを要しないので、上記摺動域における不純物の混入を抑制できる。
【0049】
軸部材1の軸径の上限としては、特に限定されるものではないが、例えば1500mmが好ましく、1300mmがより好ましい。軸部材1の軸径が上記上限値を超えると、当該軸受装置が大きくなりすぎて、装置の小型化等の要請に反するおそれがある。
【0050】
軸部材1の外周面11には、以下の手順で算出される複数の粗さ突起頂点が存在していてもよい。まず、JIS―B0601(2013)に準拠してカットオフ値0.25mmで測定される測定長4.0mmの粗さ曲線を基に、粗さ曲線の平均線をJIS―B0601(2013)に準じて設定する。この平均線を基準にこの平均線よりも上部に位置する測定点の高さを正の値とし、この平均線よりも下部に位置する測定点の高さを負の値として定義する。高さが正となるすべての測定点の高さの平均値をThr0とする。次に、粗さ曲線上の各測定点うち、両側に隣接する測定点よりも高く、かつ高さが-Thr0よりも大きい測定点を仮の頂点とする。隣接する仮の頂点の間に位置する測定点のうち高さが最小となる(隣接する仮の頂点からの深さが最大となる)測定点を谷とする。そして、すべての仮の頂点について、仮の頂点と、その仮の頂点の両側に隣接する谷との高低差をそれぞれ求め、この高低差の大きい方の値が0.2×Thr0未満の頂点を除外する。この結果、残った仮の頂点を粗さ突起頂点として求める。
【0051】
軸部材1の外周面11に上記粗さ突起頂点が存在している場合、外周面11における粗さ突起の曲率半径βの下限としては、55μmであってもよく、58μmであってもよい。軸部材1の軸径が上記下限値以上であるような大径の軸部材1にあっては、機械加工による寸法精度が不十分となりやすいため、外周面11を手動で研磨することが望まれることがある。外周面11を手動で研磨すると、粗さ突起の曲率半径βが大きくなりやすい。粗さ突起の曲率半径βが大きいと、軸部材1及び軸受部材2の間の摺動域で焼き付きが発生しやすくなる。当該軸受装置は、このような構成においても、上記摺動域における焼き付きを容易に抑制できる。
【0052】
なお、上記「粗さ突起の曲率半径」とは、以下の手順で算出される値を意味する。まず、上記粗さ突起頂点とその粗さ突起頂点の両側に隣接する谷との間に位置する全ての測定点からその粗さ突起頂点に向かって直線を引き、その直線の勾配が最大となる測定点をその粗さ突起の端部と定める。各粗さ突起の両端部間の粗さ曲線を最小2乗法によって近似して得られた2次関数の2次係数をaとし、各粗さ突起の曲率半径を―0.5/aによって求める。上記粗さ曲線上における全ての粗さ突起の曲率半径の中央値を粗さ突起の曲率半径として求める。
【0053】
軸部材1の外周面11の算術平均粗さRaは0.05μm以上0.30μm以下であり、かつこの外周面11の突出山部高さRpkは0.04μm以上0.34μm以下である。軸部材1は、上述の通り、外周面11を手動で研磨すると粗さ突起の曲率半径βが大きくなりやすい。この際、番手の十分大きいサンドペーパーを用いて研磨することによって、算術平均粗さRa及び突出山部高さRpkを上記範囲内に低減できる。例えば、粗さが200番手以上のサンドペーパーを用いて研磨することによって、算術平均粗さRa及び突出山部高さRpkを上記範囲内にまで低減することができる。上記サンドペーパーの番手としては、500番手以上であってもよく、600番手以上であってもよい。なお、軸部材1の外周面11の算術平均粗さRa及びこの外周面11の突出山部高さRpkは、軸部材1と軸受部材2とが摺動する前の値とすることができる。
【0054】
外周面11の算術平均粗さRaの上限としては、0.16μmが好ましく、0.12μmがより好ましく、0.08μmがさらに好ましい。外周面11の算術平均粗さRaが上記上限を超えると、軸部材1及び軸受部材2の間の摩擦抵抗及び焼き付きを抑制することが困難となるおそれがある。
【0055】
外周面11の突出山部高さRpkの上限としては、0.22μmが好ましく、0.18μmがより好ましく、0.14μmがさらに好ましい。外周面11の突出山部高さRpkが上記上限を超えると、軸部材1及び軸受部材2の間の摩擦抵抗及び焼き付きを抑制することが困難となるおそれがある。
【0056】
<軸受部材>
軸受部材2としては、例えば船に配置される船用のクランク軸受、中間軸受、推進軸受等が挙げられる。軸受部材2の材質としては、例えばホワイトメタル、ケルメット、アルミニウム合金等が挙げられる。
【0057】
軸受部材2の内周面21は、軸部材1の外周面11を周方向に沿って取り囲んでいる。内周面21の中心軸は水平方向(図1のY方向)に延びている。外周面11及び内周面21の間の隙間には潤滑油3が供給され、この潤滑油3によって油膜31が形成されている。このように軸受部材2は、その内周面21が油膜31を介して外周面11に対向して配置されることで、軸部材1を摺動可能に支持している。
【0058】
内周面21は、外周面11から油膜31を介して荷重を受ける。このため、内周面21は上記荷重を受ける領域(荷重分布)を有する。荷重分布は内周面21の中心軸方向に延び、かつ内周面21の中心軸と垂直な切断面においては円弧状に形成される。また、上記荷重分布の範囲は、軸部材1の回転及び振動によって変動し得る。
【0059】
軸受部材2の内周面21には、例えば潤滑膜等のコーティング層は形成されていないことが好ましい。このように内周面21にコーティング層が設けられていないことによって、軸部材1及び軸受部材2の間の摺動域における不純物の混入及びコストの増大を抑制できる。
【0060】
軸部材1の硬度H[HV]は軸受部材2の硬度H[HV]よりも大きいことが好ましい。一般に、軸受部材2は硬度Hが小さいため、内周面21の表面粗さを機械加工等によって意図的に制御することは困難である。このような場合でも、軸部材1の硬度Hを軸受部材2の硬度Hよりも大きくすることで、軸部材1との摺動に起因して軸受部材2の内周面21を研磨することができる。その結果、軸受部材2の内周面21の表面粗さを低下させ、外周面11と内周面21との間の摩擦抵抗及び焼き付きを抑制しやすい。軸受部材2の硬度Hに対する軸部材1の硬度Hの比(H/H)の下限としては、4.1が好ましく、5.0がより好ましく、6.0がさらに好ましく、8.0が特に好ましい。上記比が上記下限に満たないと、軸部材1の回転によって内周面21の表面粗さを低下させることが困難となるおそれがある。逆に、上記比の上限としては、特に限定されないが、軸部材1及び軸受部材2の材質の選定を容易にする観点等から、例えば20とすることができる。
【0061】
軸部材1の外周面11の算術平均粗さRa[μm]に対する軸受部材2の内周面21の算術平均粗さRa[μm]の比(Ra/Ra)の下限としては、特に限定されないが、例えば0.26とすることができる。一方、上記比の上限としては、38.0が好ましく、37.1がより好ましく、22.6がさらに好ましく、20.4がさらに一層好ましい。上記比が上記上限を超えると、外周面11及び内周面21の間の摩擦抵抗及び焼き付きを抑制することが困難となるおそれがある。なお、上記比は、軸部材1と軸受部材2とが摺動する前の比とすることができる。
【0062】
軸部材1の外周面11の突出山部高さRpk[μm]に対する軸受部材2の内周面21の突出山部高さRpk[μm]の比(Rpk/Rpk)の下限としては、特に限定されないが、例えば0.32とすることができる。一方、上記比の上限としては、69.0が好ましく、68.3がより好ましく、57.3がさらに好ましく、27.4がさらに一層好ましい。上記比が上記上限を超えると、外周面11及び内周面21の間の摩擦抵抗及び焼き付きを抑制することが困難となるおそれがある。なお、上記比は、軸部材1と軸受部材2とが摺動する前の比とすることができる。
【0063】
<潤滑油>
潤滑油3としては、例えばパラフィン系ベースオイル等が挙げられる。潤滑油3は、油膜31を形成することによって、外周面11及び内周面21の間を流体潤滑状態に維持することを容易にする。
【0064】
下記式1で算出される油膜厚さh[μm]としては、下記式2で算出される限界油膜厚さhlim[μm]以上が好ましい。
【0065】
【数9】
【0066】
但し、上記式1において、Rは軸部材1及び軸受部材2の等価半径[m]を意味し、αは潤滑油3の粘度圧力係数[1/GPa]を意味し、ηは潤滑油3の粘度[Pa・秒]を意味し、uは軸部材1の周速度[m/秒]を意味し、Eは軸部材1及び軸受部材2の等価縦弾性係数[GPa]を意味し、wは軸部材1の軸方向における単位長さあたりの軸受部材2にかかる荷重[N/m]を意味する。また、上記式2において、Λlimは油膜31が流体潤滑状態を維持する最小の油膜パラメータの値を意味する。なお、上記式1において周速度uとしては、例えば軸部材1が連続して回転する間の回転速度の平均値を用いることができる。上記式1において粘度ηとしては、軸部材1が連続して回転する間の潤滑油3の最大温度をTとした場合に、上述の式8で算出されるη(T)を用いることができる。上記式1において単位長さ当たりの荷重wは、油膜厚さhの算出を容易にする観点から、軸部材1の全荷重が直接的に内周面21にかかるものと仮定して求めることができる。この仮定によると、単位長さ当たりの荷重wは、軸部材1の全荷重を内周面21の幅(内周面21の中心軸方向長さ)で除した値とできる。上記式1において最小の油膜パラメータの値Λlimとしては、軸部材1及び軸受部材2の材料特性に応じて3以上4以下を設定できる。特に、軸部材1の外周面11及び軸受部材2の内周面21の表面粗さがそれぞれ正規分布に従うとみなせる場合、最小の油膜パラメータの値Λlimを、3とすることができる。上記式2において、軸部材1の外周面11の算術平均粗さRa及び軸受部材2の内周面21の算術平均粗さRaとしては、軸部材1と軸受部材2とが摺動する前の値を用いることができる。
【0067】
このように上記油膜厚さhが上記限界油膜厚さhlim以上であることによって、油膜31によって外周面11と内周面21との固体接触を抑制しやすい。このため、外周面11及び内周面21の間を流体潤滑状態に維持することが容易となる。
【0068】
潤滑油3の限界粘度ηlim[Pa・秒]は、上記式2を用いて上記式1を変形することで下記式3によって求められる。
【0069】
【数10】
【0070】
潤滑油3の粘度η[Pa・秒]は、上記限界粘度ηlimを基準に制御されているとよい。すなわち、潤滑油3の粘度η[Pa・秒]の下限としては、0.08×ηlimが好ましく、0.19×ηlim超がより好ましく、0.37×ηlimがさらに好ましく、0.47×ηlimがさらに一層好ましい。また、上記粘度ηの下限としては、上記限界粘度ηlimであってもよい。一方、上記粘度ηの上限としては、5.20×ηlim未満が好ましく、3.70×ηlimがより好ましく、1.43×ηlimがさらに好ましい。上記粘度ηが上記下限に満たないと、外周面11及び内周面21の間を流体潤滑状態に維持することが困難となるおそれがある。逆に、上記粘度ηが上記上限を超えると、粘度ηが大きくなり過ぎることで外周面11及び内周面21の間の摩擦抵抗を低減し難くなるおそれがある。
【0071】
軸部材1の限界周速度ulim[m/秒]は、上記式2を用いて上記式1を変形することで下記式4によって求められる。
【0072】
【数11】
【0073】
軸部材1の周速度u[m/秒]は、上記限界周速度ulimを基準に制御されているとよい。すなわち、軸部材1の周速度u[m/秒]の下限としては、0.29×ulimが好ましく、0.53×ulimがより好ましく、ulimがさらに好ましい。一方、上記周速度uの上限としては、特に限定されないが、例えば4.94×ulimとすることができる。上記周速度uが上記下限に満たないと、外周面11及び内周面21の間を流体潤滑状態に維持することが困難となるおそれがある。
【0074】
軸部材1及び軸受部材2の限界等価半径Rlim[m]は、上記式2を用いて上記式1を変形することで下記式5によって求められる。
【0075】
【数12】
【0076】
軸部材1及び軸受部材2の等価半径R[m]は、上記限界等価半径Rlimを基準に制御されているとよい。すなわち、上記等価半径R[m]の下限としては、0.08×Rlimが好ましく、0.27×Rlimがより好ましく、Rlimがさらに好ましい。一方、上記等価半径Rの上限としては、特に限定されないが、装置の小型化等の要請から、例えば25.65×Rlimとすることができる。上記等価半径Rが上記下限に満たないと、外周面11及び内周面21の間を流体潤滑状態に維持することが困難となるおそれがある。
【0077】
<利点>
当該軸受装置は、軸部材1の外周面11の算術平均粗Raさ及び突出山部高さRpkが適正化されていることによって、外周面11及び内周面21の間を流体潤滑状態に維持しやすい。また、当該軸受装置は、外周面11及び内周面21にコーティング層等の表面処理層を設けることを要しない。このため、当該軸受装置は、外周面11及び内周面21の間における不純物の混入及びコストの増大を抑えつつ、外周面11及び内周面21の間の摩擦抵抗及び焼き付きを抑制できる。
【0078】
[軸受装置の駆動方法]
図2の軸受装置の駆動方法は、図1の軸受装置を用いて、軸部材1を回転させる駆動工程S1を備える。
【0079】
<駆動工程>
駆動工程S1では、軸部材1と軸受部材2との間の隙間に潤滑油3を供給しつつ、軸部材1を回転させる。潤滑油3の供給方法としては、例えば軸受部材2の内周面21に潤滑油3を供給するための供給口を設け、軸部材1及び軸受部材2の間の摺動域において潤滑油3が循環するようにこの供給口から潤滑油3を供給する方法が挙げられる。なお、潤滑油3は、軸部材1を回転させる前に外周面11及び内周面21の間に滴下してもよい。
【0080】
駆動工程S1では、下記式1で算出される油膜厚さh[μm]が、下記式2で算出される限界油膜厚さhlim[μm]以上となるように軸部材1を回転させることが好ましい。
【0081】
【数13】
【0082】
このように上記油膜厚さhを上記限界油膜厚さhlim以上に制御することで、油膜31によって外周面11及び内周面21の間の固体接触を抑制しやすい。
【0083】
駆動工程S1における潤滑油3の粘度ηは、上述の限界粘度ηlimを基準に制御されているとよい。すなわち、上記粘度η[Pa・秒]の下限としては、0.08×ηlimが好ましく、0.19×ηlim超がより好ましく、0.37×ηlimがさらに好ましく、0.47×ηlimがさらに一層好ましい。また、上記粘度ηの下限としては、上記限界粘度ηlimであってもよい。一方、上記粘度ηの上限としては、5.20×ηlim未満が好ましく、3.70×ηlimがより好ましく、1.43×ηlimがさらに好ましい。上記粘度ηが上記下限に満たないと、外周面11及び内周面21の間を流体潤滑状態に維持することが困難となるおそれがある。逆に、上記粘度ηが上記上限を超えると、粘度ηが大きくなり過ぎることで、外周面11及び内周面21の間の摩擦抵抗を低減し難くなるおそれがある。なお、ここでの粘度ηとは、軸部材1を駆動している間の粘度ηを意味し、「限界粘度ηlimを基準に制御する」とは、軸部材1の周速度u等の駆動条件の調整や、潤滑油3の選択などによって、駆動工程S1中における潤滑油3の粘度ηを駆動工程S1開始直前の限界粘度ηlimを基に制御することを意味する。
【0084】
駆動工程S1では、軸部材1の周速度uを上述の限界周速度ulimを基準に制御することが好ましい。すなわち、駆動工程S1における軸部材1の周速度u[m/秒]の下限としては、0.29×ulimが好ましく、0.53×ulimがより好ましく、ulimがさらに好ましい。一方、上記周速度uの上限としては、特に限定されないが、例えば4.94×ulimとすることができる。上記周速度uが上記下限に満たないと、外周面11及び内周面21の間を流体潤滑状態に維持することが困難となるおそれがある。
【0085】
<利点>
当該軸受装置の駆動方法は、当該軸受装置を用いることによって、駆動工程S1で、外周面11及び内周面21の間を流体潤滑状態に維持しやすい。このため、当該軸受装置の駆動方法は、外周面11及び内周面21の間における不純物の混入及びコストの増大を抑えつつ、外周面11及び内周面21の間の摩擦抵抗及び焼き付きを抑制できる。
【0086】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。したがって、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0087】
上記実施形態において、軸部材の中心軸は水平方向に延びているが、この軸部材の中心軸は水平方向に対して傾斜していてもよい。
【実施例0088】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0089】
本実施例では、軸部材の外周面を手動により研磨する研磨試験及び軸部材を回転させる摺動試験を行った。
【0090】
[研磨試験]
研磨試験では、軸部材の外周面を、サンドペーパーを用いて研磨した。軸部材の材質は、JIS―G4051(2016)で規定されるS45C相当の鋼材とした。研磨部分における軸部材の外径は600mmとした。研磨はサンドペーパーの番手を除々に大きくしながら繰り返し行った。サンドペーパーの番手ごとに、研磨後の上記外周面における算術平均粗さRa及び突出山部高さRpkを、(株)ミツトヨ製小型表面粗さ測定機(「SJ-310」)を用いて測定した。この測定では、上記外周面の周方向に沿って90deg間隔で4つの周方向位置を決め、これらの周方向位置ごとに軸方向に位置の異なる2つの測定箇所で上記外周面における算術平均粗さRa及び突出山部高さRpkを測定した。また、上記測定箇所における評価長さを4mmとした。算術平均粗さRaの測定条件は、測定力0.75mN、測定子半径2μm、高域カットオフ値(λc)0.8mm、低域カットオフ値(λs)2.5μmとした。図3に算術平均粗さRaの測定結果を、図4に突出山部高さRpkの測定結果を示す。ただし、図3及び図4におけるプロットは平均値を、エラーバーは平均値に対する誤差範囲を示している。
【0091】
図3に示すように、サンドペーパーの番手の大きさが150番以上になると、算術平均粗さRaが0.05μm以上0.30μm以下の範囲にまで低減される。また、サンドペーパーの番手の大きさが200番以上になると、算術平均粗さRaが0.05μm以上0.20μm以下の範囲に収束している。一方で、図4に示すように、サンドペーパーの番手の大きさが150番以上になると、軸部材の外周面の突出山部高さRpkが0.04μm以上0.34μm以下の範囲まで低減される。また、サンドペーパーの番手の大きさが200番以上になると、軸部材の外周面の突出山部高さRpkが0.04μm以上0.26μm以下の範囲に収束している。換言すると、手動による研磨を伴う軸部材の製造において、軸部材の外周面の算術平均粗さRa及び突出山部高さRpkが上記範囲内にある場合、軸部材の表面粗さが限界近くまで低減されていると考えられる。このため、軸部材の外周面の算術平均粗さRa及び突出山部高さRpkが上記範囲内にあることで、軸受部材との間の摩擦抵抗及び焼き付きを抑制できると考えられる。
【0092】
[摺動試験]
摺動試験では、装置A(千穂田精衡(株)製の摩擦摩耗試験機)、装置B(千穂田精衡(株)製の軸受寿命試験機)及び装置C(神鋼造機(株)製の摩擦摩耗試験機)を用いて、下記のNo.1からNo.106の条件で軸部材を回転させた。軸部材としては、外周面を手動で研磨したものを用いた。装置Aでは、No.29からNo.38については軸部材の外周面を約90degの範囲で取り囲む軸受部材の内周面を、No.13からNo.26及びNo.39からNo.106については平板上の軸受部材を上記軸部材に一定荷重で押し付けながら軸部材を回転させた。装置B及び装置Cでは、軸部材の外周面を全周に亘って取り囲む軸受部材の内周面を、上記軸部材に一定荷重で押し付けながら軸部材を回転させた。また、No.1からNo.106のそれぞれについて、軸部材及び軸部材の硬度、並びに軸部材及び軸部材の摺動試験前後の算術平均粗さ及び突出山部高さを測定した。表1から表5にNo.1からNo.106における測定結果を示す。ただし、表1から表5において、Ra1Aは軸部材の摺動試験前の算術平均粗さを意味し、Ra1Bは軸部材の摺動試験後の算術平均粗さを意味し、Ra2Aは軸受部材の摺動試験前の算術平均粗さを意味し、Ra2Bは軸受部材の摺動試験後の算術平均粗さを意味する。また、表1から表5において、Rpk1Aは軸部材の摺動試験前の突出山部高さを意味し、Rpk1Bは軸部材の摺動試験後の突出山部高さを意味し、Rpk2Aは軸受部材の摺動試験前の突出山部高さを意味し、Rpk2Bは軸受部材の摺動試験後の突出山部高さを意味する。また、表1から表5に示す「硬度比」、「算術平均粗さの比」及び「突出山部高さの比」は、有効桁数4桁で算出した値である。なお、この摺動試験において、硬度は、No.1からNo.28の軸部材及びNo.13からNo.26の軸受部材については(株)フューチュアテック製のビッカース硬度計(「FV-310」)を用いて、No.1からNo.12及びNo.27からNo.28の軸受部材については(株)明石製作所製のビッカース硬度計(「MVK-E」)を用いて、No.29からNo.106の軸部材及び軸受部材については(株)明石製作所製のビッカース硬度計(「AVK」)を用いて測定した。また、算術平均粗さ及び突出山部高さは、No.1からNo.28の軸部材及び軸受部材については(株)ミツトヨ製の小型表面粗さ測定機(「SJ-310」)を用いて、No.29からNo.106の軸部材及び軸受部材については(株)ミツトヨ製の小型表面粗さ測定機(「SJ-210」)を用いて測定した。また、算術平均粗さ及び突出山部高さの測定においては、No.1からNo.28については評価長さを4mm、No.29からNo.106については評価長さを12.5mmとした。算術平均粗さの測定条件は、No.1からNo.28では測定力0.75mN、測定子半径2μm、高域カットオフ値(λc)0.8mm、低域カットオフ値(λs)2.5μmとし、No.29からNo.106では測定力4mN、測定子半径5μm、高域カットオフ値(λc)2.5mm、低域カットオフ値(λs)8μmとした。
【0093】
(No.1からNo.3)
No.1からNo.3では、軸受部材から軸部材への荷重を10kNとした。軸部材の回転数は、初期回転数を3000rpmとし、10分間隔で段階的に250rpmずつ、最小回転数250rpmまで減少させた。軸部材としてはマンガン鋼を、軸受部材としてはJIS―H5401(1958)で規定されるWJ1のホワイトメタルを用いた。潤滑油としては、ENEOS(株)製の「FBKオイルRO32」を用いた。潤滑油は初期温度70℃で軸部材の外周面及び軸受部材の内周面の間の摺動域に供給し、この摺動域を上記潤滑油で浸漬させつつ上記潤滑油を循環させた。
【0094】
(No.4からNo.12)
No.4からNo.12では、軸部材の回転数を3500rpmで一定とした。軸受部材から軸部材への荷重は、初期荷重を0kNとし、5分間隔で段階的に0.5kNずつ、最大20kNまで増大させた。軸部材としてはマンガン鋼を、軸受部材としてはJIS―H5401(1958)で規定されるWJ1相当のホワイトメタルを用いた。潤滑油としては、ENEOS(株)製の「FBKオイルRO32」を用いた。潤滑油は初期温度70℃で軸部材の外周面及び軸受部材の内周面の間の摺動域に供給し、この摺動域を循環させた。
【0095】
(No.13からNo.17)
No.13からNo.17では、軸部材の回転数を、No.13では400rpm、No.14では200rpm、No.15では100rpm、No.16では50rpm、No.17では800rpmとした。軸受部材から軸部材への荷重は、初期荷重を0kNとし、1分間隔で段階的に0.1kNずつ1kNまで増大させた。軸部材としてはJIS―G4051(2016)で規定されるS45Cの鋼材を、軸受部材としてはJIS―H5401(1958)で規定されるWJ2のホワイトメタルを用いた。潤滑油としては、ENEOS(株)製の「FBKオイルRO32」を用いた。潤滑油は軸部材の外周面及び軸受部材の内周面の間の摺動域に室温で供給し、この摺動域を循環させた。
【0096】
(No.18及びNo.25)
No.18及びNo.25では、軸部材の回転数を50rpm、軸受部材から軸部材への荷重を1kNとして一定に保ち、軸部材を240分間回転させた。No.18及びNo.25では、硬度及び表面粗さ以外はNo.13からNo.17と同様の軸部材及び軸受部材を用いた。また、No.13からNo.17と同様の潤滑油を用い、No.13からNo.17と同様に循環させた。
【0097】
(No.19及びNo.26)
No.19及びNo.26では、軸部材の回転数を100rpm、軸受部材から軸部材への荷重を1kNとして一定に保ち、軸部材を240分間回転させた。No.19及びNo.26では、硬度及び表面粗さ以外はNo.13からNo.17と同様の軸部材及び軸受部材を用いた。また、潤滑油はNo.13からNo.17と同様とした。潤滑油は軸部材の外周面及び軸受部材の内周面の間の摺動域に、摺動試験の開始時に室温で一度滴下したのみとした。
【0098】
(No.20からNo.24)
No.20からNo.24では、軸部材の回転数を、No.20では400rpm、No.21では200rpm、No.22では100rpm、No.23では50rpm、No.24では800rpmとした。No.20からNo.24は、軸部材の回転数以外は、No.13からNo.17と同様の駆動条件とした。No.20からNo.24では、硬度及び表面粗さ以外はNo.13からNo.17と同様の軸部材及び軸受部材を用いた。また、No.13からNo.17と同様の潤滑油を用い、No.13からNo.17と同様に循環させた。
【0099】
(No.27及びNo.28)
No.27及びNo.28では、No.27及びNo.28では、軸部材の回転数を1分間隔で減少させた以外は、No.1からNo.3と同様の駆動条件とした。No.27及びNo.28では、軸部材としてニッケルクロムモリブデン合金鋼を用い、硬度及び表面粗さ以外はNo.1からNo.3と同様の軸受部材を用いた。また、No.1からNo.3と同様の潤滑油を用い、No.1からNo.3と同様に循環させた。
【0100】
(No.29からNo.38)
No.29からNo.38では、軸部材の回転数を、No.29では200rpm、No.30では800rpm、No.31では100rpm、No.32では200rpm、No.33では800rpm、No.34では200rpm、No.35では800rpm、No.36では100rpm、No.37では200rpm、No.38では800rpmとした。軸受部材から軸部材への荷重は、初期荷重を0kNとし、1分間隔で段階的に0.1kNずつ1kNまで増大させた。軸部材としてはJIS―G4051(2016)で規定されるS45Cの鋼材を、軸受部材としてはJIS―H5401(1958)で規定されるWJ2のホワイトメタルを用いた。潤滑油としては、No.29、No.30、No.34及びNo.35ではENEOS(株)製の「FBKオイルRO100」を、No.31からNo.33及びNo.36からNo.38ではENEOS(株)製の「FBKオイルRO32」を用いた。潤滑油は軸部材の外周面及び軸受部材の内周面の間の摺動域に、摺動試験の開始時に室温で一度滴下したのみとした。
【0101】
No.29からNo.38では、軸受部材の表面から深さ2mmの位置に取り付けた熱電対により温度[℃]を測定し、この温度を潤滑油の温度として求めた。また、No.29からNo.38では、軸受部材を把持するホルダーに取り付けたロードセルにより軸部材の回転時の摩擦力を測定し、負荷した荷重で摩擦力を除して摩擦係数μを求めた。これらの測定値は、後述の流体潤滑状態の評価及び油膜厚さの算出で使用した。
【0102】
(No.39からNo.42)
No.39からNo.42では、軸部材の回転数を100rpm、軸受部材から軸部材への荷重を1kNとして一定に保ち、軸部材を最大900分間回転させた。なお、装置の制約上、軸受部材を把持するホルダーに取り付けたロードセルで測定される摩擦力が約294kN以上、又は軸受部材の表面から深さ2mmの位置に取り付けた熱電対で測定される温度が100℃以上となった場合には、その時点で試験を中断した。軸部材としてはJIS―G4051(2016)で規定されるS45Cの鋼材を、軸受部材としてはJIS―H5401(1958)で規定されるWJ2のホワイトメタルを用いた。潤滑油としては、ENEOS(株)製の「FBKオイルRO32」を用いた。潤滑油は軸部材の外周面及び軸受部材の内周面の間の摺動域に、摺動試験の開始時に20℃で一度滴下したのみとした。
【0103】
(No.43からNo.45)
No.43からNo.45では、軸部材の回転数は、No.43では200rpm、No.44及びNo.45では100rpmとした。また、軸受部材から軸部材への荷重を1kNとして一定に保ち、軸部材を最大320分間回転させた。なお、装置の制約上、軸受部材を把持するホルダーに取り付けたロードセルで測定される摩擦力が約294kN以上、又は軸受部材の表面から深さ2mmの位置に取り付けた熱電対で測定される温度が100℃以上となった場合には、その時点で試験を中断した。No.43からNo.45では、硬度及び表面粗さ以外はNo.39からNo.42と同様の軸部材及び軸受部材を用いた。また、潤滑油はNo.39からNo.42と同様とした。No.43では、潤滑油を軸部材の外周面及び軸受部材の内周面の間の摺動域に、摺動試験の開始時に20℃で一度のみ滴下し、No.44及びNo.45では、潤滑油を上記摺動域に20℃で供給し、この摺動域を上記潤滑油で浸漬させつつ上記潤滑油を循環させた。
【0104】
(No.46からNo.84)
No.46からNo.84では、軸部材の回転時間を、No.46及びNo.65では1分間、No.47及びNo.66では5分間、No.48及びNo.67では10分間、No.49及びNo.68では20分間、No.50及びNo.69では30分間、No.51及びNo.70では40分間、No.52及びNo.71では50分間、No.53及びNo.72では60分間、No.54及びNo.73では90分間、No.55及びNo.74では120分間、No.56では151分間、No.75では150分間、No.57及びNo.76では180分間、No.58及びNo.77では240分間、No.59及びNo.78では360分間、No.60及びNo.79では480分間、No.61及びNo.80では600分間、No.81では720分間、No.62及びNo.82では840分間、No.63及びNo.83では1080分間、No.64及びNo.84では1440分間とした。No.46からNo.84について、その他の駆動条件は、No.39からNo.42と同様とした。No.46からNo.84では、硬度及び表面粗さ以外はNo.39からNo.42と同様の軸部材及び軸受部材を用いた。また、潤滑油としては、No.46からNo.64ではENEOS(株)製の「FBKオイルRO32」を、No.65からNo.84ではENEOS(株)製の「FBKオイルRO100」を用い、No.39からNo.42と同様に摺動試験の開始時に20℃で一度滴下したのみとした。
【0105】
(No.85からNo.91)
No.85からNo.91では、軸部材の回転数を、No.85では100rpm、No.86では200rpm、No.87では800rpm、No.88では800rpm、No.89では100rpm、No.90では200rpm、No.91では800rpmとした。軸受部材から軸部材への荷重は、初期荷重を0kNとし、1分間隔で段階的に0.1kNずつ1kNまで増大させた。軸部材としてはJIS―G4051(2016)で規定されるS45Cの鋼材を、軸受部材としてはSnの含有量が7.0質量%かつCuの含有量が2.5質量%のAl-Sn-Cu合金(以下、アルミニウム合金ともいう)を用いた。潤滑油としては、ENEOS(株)製の「FBKオイルRO100」を用いた。潤滑油は軸部材の外周面及び軸受部材の内周面の間の摺動域に、摺動試験の開始時に室温で一度滴下したのみとした。
【0106】
No.85からNo.91では、No.29からNo.38と同様に、潤滑油の温度及び摩擦係数μを求めた。これらの測定値は、後述の流体潤滑状態の評価及び油膜厚さの算出で使用した。
【0107】
(No.92からNo.106)
No.92からNo.106では、軸部材の回転数を800rpm、軸受部材から軸部材への荷重を0.3kNとして一定に保ち、軸部材の回転時間を、No.92及びNo.100では1分間、No.93及びNo.101では5分間、No.94及びNo.102では10分間、No.95及びNo.103では20分間、No.96及びNo.104では30分間、No.97及びNo.105では40分間、No.98及びNo.106では50分間、No.99では60分間とした。No.92からNo.106では、硬度及び表面粗さを除いてNo.85からNo.91と同様の軸部材及び軸受部材を用いた。また、潤滑油としては、ENEOS(株)製の「FBKオイルRO32」を用い、No.39からNo.42と同様に摺動試験の開始時に20℃で一度滴下したのみとした。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】
【0111】
【表4】
【0112】
【表5】
【0113】
(焼き付き)
No.1からNo.106の条件では、摺動試験後の表面粗さ測定に支障をきたすような軸部材から軸受部材への、又は軸受部材から軸部材への移着は認められなかった。すなわち、摺動試験後に、軸部材の外周面又は軸受部材の内周面において、目視での凝着は確認されなかった。
【0114】
(硬度)
No.1からNo.106について、軸受部材の硬度Hに対する軸部材の硬度Hの比(H/H)を横軸とし、算術平均粗さの比Ra1B/Ra1A及びRa2B/Ra2Aを縦軸としたグラフを図5に示す。また、No.1からNo.12、No.27、No.28、及びNo.39からNo.106について、H/Hを横軸とし、突出山部高さの比Rpk1B/Rpk1Aを縦軸としたグラフ、及びNo.1からNo.28、及びNo.39からNo.106について、H/Hを横軸とし、突出山部高さの比Rpk2B/Rpk2Aを縦軸としたグラフを図6に示す。ただし、図5及び図6の横軸におけるNo.13からNo.19のH/Hの値は、No.13からNo.19のH/Hの値の平均値を表している。また、図5及び図6における点は平均値を、エラーバーは平均値に対する誤差範囲を意味する。
【0115】
図5及び図6に示す通り、軸部材の外周面の算術平均粗さ及び突出山部高さは摺動試験前後で大きく変化していない。一方で、軸受部材の内周面の算術平均粗さRaは摺動試験後に低下する傾向を示している(Ra2B/Ra2A<1)。また、軸受部材の突出山部高さは、硬度比H/Hが4.1以上の場合に、摺動試験後に低下しやすい傾向を示している(Rpk2B/Rpk2A<1)。このことから、硬度比H/Hを4.1以上とすることで、軸部材との摺動によって軸受部材の内周面を研磨しやすいことが分かる。
【0116】
(算術平均粗さの比)
表1から表4より、軸受部材にホワイトメタルを用いた場合は、摺動試験前において、軸受部材の内周面の算術平均粗さRa2Aは0.34μm以上1.85μm以下であり、摺動試験後において、軸受部材の内周面の算術平均粗さRa2Bは0.08μm以上1.24μm以下である。このため、軸受部材の内周面の算術平均粗さRaは摺動試験前及び摺動試験後において、0.08μm以上1.85μm以下の範囲にあると考えられる。一方で、上述の通り、軸部材の表面粗さが限界近くまで低減されている場合、軸部材の外周面の算術平均粗さRaは0.05μm以上0.30μm以下に制御できると考えられる。これらの事項から、軸部材の外周面の算術平均粗さRaに対する軸受部材の内周面の算術平均粗さRaの比(Ra/Ra)について、0.08を0.30で除することで求められる0.27を下限値とし、1.85を0.05で除することで求められる37.0を上限値とする範囲内に制御できると考えられる。
【0117】
表5より、軸受部材にアルミニウム合金を用いた場合は、摺動試験前において、軸受部材の内周面の算術平均粗さRa2Aは0.54μm以上0.83μm以下であり、摺動試験後において、軸受部材の内周面の算術平均粗さRa2Bは0.21μm以上1.02μm以下である。このため、軸受部材の内周面の算術平均粗さRaは摺動試験前及び摺動試験後において、0.21μm以上1.02μm以下の範囲にあると考えられる。一方で、上述の通り、軸部材の表面粗さが限界近くまで低減されている場合、軸部材の外周面の算術平均粗さRaは0.05μm以上0.30μm以下に制御できると考えられる。これらの事項から、軸部材の外周面の算術平均粗さRaに対する軸受部材の内周面の算術平均粗さRaの比(Ra/Ra)について、0.21を0.30で除することで求められる0.70を下限値とし、1.02を0.05で除することで求められる20.4を上限値とする範囲内に制御できると考えられる。
【0118】
以上のことから、軸部材の外周面の算術平均粗さRaに対する軸受部材の内周面の算術平均粗さRaの比(Ra/Ra)について、0.27以上37.0以下の範囲内に制御できると考えられる。
【0119】
(突出山部高さの比)
表1から表4より、軸受部材にホワイトメタルを用いた場合は、摺動試験前において、軸受部材の内周面の突出山部高さRpk2Aは0.40μm以上2.29μm以下であり、摺動試験後において、軸受部材の内周面の突出山部高さRpk2Bは0.11μm以上0.99μm以下である。このため、軸受部材の内周面の突出山部高さRpkは摺動試験前及び摺動試験後において、0.11μm以上2.29μm以下の範囲にあると考えられる。一方で、上述の通り、軸部材の表面粗さが限界近くまで低減されている場合、軸部材の外周面の突出山部高さRpkは0.04μm以上0.34μm以下に制御できると考えられる。これらの事項から、軸部材の外周面の突出山部高さRpkに対する軸受部材の内周面の突出山部高さRpkの比(Rpk/Rpk)について、0.11を0.34で除することで求められる0.32を下限値とし、2.29を0.04で除することで求められる57.3を上限値とする範囲内に制御できると考えられる。
【0120】
表5より、軸受部材にアルミニウム合金を用いた場合は、摺動試験前において、軸受部材の内周面の突出山部高さRpk2Aは0.98μm以上1.66μm以下であり、摺動試験後において、軸受部材の内周面の突出山部高さRpk2Bは0.16μm以上2.73μm以下である。このため、軸受部材の内周面の突出山部高さRpkは摺動試験前及び摺動試験後において、0.16μm以上2.73μm以下の範囲にあると考えられる。一方で、上述の通り、軸部材の表面粗さが限界近くまで低減されている場合、軸部材の外周面の突出山部高さRpkは0.04μm以上0.34μm以下に制御できると考えられる。これらの事項から、軸部材の外周面の突出山部高さRpkに対する軸受部材の内周面の突出山部高さRpkの比(Rpk/Rpk)について、0.16を0.34で除することで求められる0.47を下限値とし、2.73を0.04で除することで求められる68.3を上限値とする範囲内に制御できると考えられる。
【0121】
以上のことから、軸部材の外周面の突出山部高さRpkに対する軸受部材の内周面の突出山部高さRpkの比(Rpk/Rpk)について、0.32以上68.3以下の範囲内に制御できると考えられる。
【0122】
(流体潤滑状態)
No.29からNo.38及びNo.85からNo.91について、横軸を潤滑油の温度から算出した軸受特性数[m-1]、縦軸を摩擦係数として、荷重条件ごとの値をプロットした。この結果を図7図8及び図9に示す。なお、軸受特性数とは、粘度η[Pa・秒]×周速度u[m/秒]/P(荷重[N]×10-6)によって算出した値である。また、粘度ηは潤滑油の15℃における既知の密度ρを用いて式8で算出した。
【0123】
図7及び図8に示す通り、No.31及びNo.32では軸受特性数が小さい領域で変曲点が見られる。換言すると、No.31及びNo.32において、軸受特性数が小さい場合、流体潤滑状態から混合潤滑状態への移行が発生していると考えられる。一方で、No.29、No.30、No.33からNo.38は流体潤滑状態にあると考えられる。
【0124】
図9に示す通り、No.85では変曲点が見られ、流体潤滑状態から混合潤滑状態への移行が発生していると考えられる。一方で、No.86からNo.91は、摩擦係数が軸受特性数に依らず低い値で推移しているため、流体潤滑状態にあると考えられる。
【0125】
(油膜厚さ)
No.29からNo.38及びNo.85からNo.91について、油膜厚さh[μm]を上述の式1を用いて算出した。ここで、粘度圧力係数αは上述の式12を用いて求めた。また、uは軸部材の回転数をm/秒の単位に換算したものであり、wは軸受部材の押し付けによって軸部材にかかる荷重[N]を軸受部材の内周面の幅で除して求めたものである。この算出結果を表6に示す。なお、表6に示す油膜厚さhは、上記軸受特性数が最小のときの値である。
【0126】
(限界油膜厚さ)
No.29からNo.38及びNo.85からNo.91について、摺動試験前の限界油膜厚さhlimA[μm]及び摺動試験後の限界油膜厚さhlimB[μm]を、油膜パラメータΛlimを3として上述の式2を用いて算出した。この算出結果を表6に示す。
【0127】
(限界粘度)
No.29からNo.38及びNo.85からNo.91について、摺動試験前の限界粘度ηlimAを限界油膜厚さhlimAを用いて、また摺動試験後の限界粘度ηlimBを限界油膜厚さhlimBを用いて、それぞれ上述の式3により算出した。この算出結果を表6に示す。なお、表6に示す限界粘度は、上記軸受特性数が最小のときの値である。
【0128】
(限界粘度に対する粘度の比)
No.29からNo.38及びNo.85からNo.91について、限界粘度に対する粘度ηの比を求めた。この結果を表6に示す。なお、No.29からNo.38及びNo.85からNo.91の潤滑油の粘度ηは、潤滑油の温度が40℃の状態を基準とし、潤滑油の40℃における既知の動粘度と15℃における既知の密度との積として求めた。また、表6に示す「限界粘度に対する粘度の比」は、有効桁数4桁で算出した値である。
【0129】
【表6】
【0130】
(粘度の評価)
表6に示すように、軸受部材にホワイトメタルを用いた場合は、摺動試験前の限界粘度ηlimAに対する粘度ηの比(η/ηlimA)について、0.19<η/ηlimA<5.20を満たしているNo.29、No.30、No.33からNo.35、No.37及びNo.38は流体潤滑状態にある。一方、η/ηlimA≦0.19であるNo.31及びNo.32は、流体潤滑状態を維持できていない。
軸受部材にアルミニウム合金を用いた場合は、摺動試験前の限界粘度ηlimAに対する粘度ηの比(η/ηlimA)について、0.08≦η/ηlimA<5.20を満たしているNo.86からNo.91は流体潤滑状態にある。一方、η/ηlimA<0.08であるNo.85は、流体潤滑状態を維持できていない。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の一態様に係る軸受装置は、不純物の混入及びコストの増大を抑えつつ、軸部材及び軸受部材の間の摩擦抵抗及び焼き付きを抑制できるため、例えば船用の軸受装置に適用できる。
【符号の説明】
【0132】
1 軸部材
11 外周面
2 軸受部材
21 内周面
3 潤滑油
31 油膜
P 中心軸
外周面の半径
内周面の半径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9