(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021941
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】鉛非含有アンチモン非含有の黄銅合金
(51)【国際特許分類】
C22C 9/04 20060101AFI20230207BHJP
【FI】
C22C9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022119059
(22)【出願日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】10 2021 119 474.1
(32)【優先日】2021-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】522293054
【氏名又は名称】ディール、ブラス、ソリューションズ、シュティフトゥング、ウント、コンパニー、コマンディトゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Diehl Brass Solutions Stiftung & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】フロリアン、ゾイゼ
(72)【発明者】
【氏名】パトリック、フェルドナー
(72)【発明者】
【氏名】ハルトムート、リッケン
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー、デーネルト
(57)【要約】 (修正有)
【課題】熱脆性をほとんど示さず、熱間成形、特に連続鋳造プロセスによって処理され得る鉛非含有アンチモン非含有の黄銅合金を提供する。
【解決手段】以下の元素:Cu:56%以上66%以下Mg:0.1%以上1.5%以下Pb:0.1%未満Zn及び不可避的不純物:残部を含む、鉛非含有アンチモン非含有の黄銅合金。前記黄銅合金は、0.15%未満のAs及び/又は0.15%未満のP及び/又は0.1%未満のAl及び/又は0.1%未満のSnを含んでもよい。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の元素:
Cu:56%以上66%以下
Mg:0.1%以上1.5%以下
Pb:0.1%未満
Zn及び不可避的不純物:残部
を含む、鉛非含有アンチモン非含有の黄銅合金。
【請求項2】
0.15%未満のAsを含む、請求項1に記載の鉛非含有アンチモン非含有の黄銅合金。
【請求項3】
0.15%未満のPを含む、請求項1又は2に記載の鉛非含有アンチモン非含有の黄銅合金。
【請求項4】
0.1%未満のAlを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の鉛非含有アンチモン非含有の黄銅合金。
【請求項5】
0.1%未満のSnを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の鉛非含有アンチモン非含有の黄銅合金。
【請求項6】
57%以上60%未満、好ましくは57.5%以上58.5%以下のCuを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の鉛非含有アンチモン非含有の黄銅合金。
【請求項7】
0.5%超のMgを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の鉛非含有アンチモン非含有の黄銅合金。
【請求項8】
0.05%以上0.09%以下のPbを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の鉛非含有アンチモン非含有の黄銅合金。
【請求項9】
0.005%未満のInを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の鉛非含有アンチモン非含有の黄銅合金。
【請求項10】
40%以上42.5%以下のZnを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の鉛非含有アンチモン非含有の黄銅合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛非含有アンチモン非含有の黄銅合金に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、黄銅合金の被削性は、鉛を4重量%まで添加することにより改善されてきた。法規制のために、現在は、Pbの添加は認められない。
【0003】
Pbの添加をBiの添加に置き換え得ることが見出された。しかしながら、Biの添加は、黄銅合金の熱脆性(hot embrittlement)をもたらすことが明らかになってきた。この種の黄銅合金は、熱間成形能を制限する。したがって、この種の黄銅合金は、圧縮成形部品には使用されない。
【0004】
EP3320122B1には、PbもBiも混合されていない黄銅合金が開示されている。被削性を向上させるため、黄銅合金に0.005重量%以上1.0重量%以下のInを添加することが提案されている。提案されているInの添加により、被削性が向上するが、機械加工に比較的長い螺旋状の切り屑(chip)の形成が伴い、これは、搬送される際の詰まり及び工具の破損をもたらす場合がある。
【0005】
EP2913415A1には、さらにSiを含まない鉛非含有ビスマス非含有の黄銅合金が開示されている。この公知の合金は、60重量%以上65重量%以下のCuと、0.01重量%以上0.15重量%以下のSbとを含む。
【0006】
Sbの添加は、熱脆性を引き起こす。EP2913415A1では、0.005重量%以上0.3重量%以下のPを添加することも代わりに提案されている。提案されているPの添加により、連続鋳造による処理がより困難になる。
【0007】
EP2467507B1には、Fe、Ni及びSnを含む鉛非含有黄銅合金が開示されている。
【0008】
EP2133437B1には、0.6重量%以上2.5重量%以下のMg及び0.15重量%以上0.4重量%以下のPを含む鉛非含有の快削黄銅合金が開示されている。Pの添加により、連続鋳造による処理がより困難になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、先行技術による欠点を解消することである。より詳細には、目的は、改善された機械加工性を有する鉛非含有アンチモン非含有の黄銅合金を規定することである。本発明のさらなる目的によれば、黄銅合金は、熱脆性をほとんど示さず、熱間成形によって処理され得るようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、請求項1の特徴によって達成される。好適な実施形態は、従属請求項の特徴から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1例の合金の長手方向旋削加工後の切り屑を示す描図である。
【
図2】
図2は、第2例の合金の長手方向旋削加工後の切り屑を示す描図である。
【
図3】
図3は、第3例の合金の長手方向旋削加工後の切り屑を示す描図である。
【
図4】
図4は、第4例の合金の長手方向旋削加工後の切り屑を示す描図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に従って提案されるのは、以下の元素:
Cu:56%以上66%以下
Mg:0.1%以上1.5%以下
Pb:0.1%未満
Zn及び不可避的不純物:残部
を含む、鉛非含有アンチモン非含有の黄銅合金である。
【0013】
本発明の目的のために、[%]は重量パーセントであると理解される。
【0014】
驚くことに、本発明で提案される0.1%以上1.5%以下のMgの添加を通じて、機械加工中に長い螺旋状の切り屑が不所望に形成されることなく、Pb含有量を0.1%未満に設定し得ることが明らかになった。提案される黄銅合金は、切り屑の折断(chip breaking)が改善されるだけでなく、熱脆性もほとんど示さないことが特筆される。これは、熱間成形によって処理され得る。
【0015】
本発明は、「鉛非含有アンチモン非含有の黄銅合金」を、0.1%未満のPbと0.001%未満のSbとを含む合金であると理解する。
【0016】
有利な一実施形態によれば、合金は0.15%未満のAs及び/又は0.15%未満のP及び/又は0.1%未満のAl及び/又は0.1%未満のSnを含んでもよい。Snは、β固溶体を安定化させる。Asは、合金の耐食性を向上させ、特にAsは亜鉛の除去を打ち消す。Pの添加は、合金の機械加工性を向上させる。
【0017】
別の有利な実施形態によれば、57%以上60%未満、好ましくは57.5%以上58.5%以下のCuが存在する。提案される合金は、相対的に低いCu含有量のため、よりコスト効率が高い。
【0018】
別の実施形態によれば、0.5%超のMgが存在する。提案されるMg含有量は、機械加工性の改善に寄与する。
【0019】
Pb含有量は、賢明には、0.05%以上0.09%以下である。In含有量は、0.005%未満である。
【0020】
最後に、有利な一実施形態によれば、Zn含有量が40%以上42.5%以下であることが提案される。提案されるZn含有量を有する合金は、良好な機械加工特性を示す。
【0021】
提案された鉛非含有アンチモン非含有の黄銅合金は、さらに、連続鋳造プロセスにおける良好な加工品質を可能にする。
【0022】
本発明の例示的な実施形態は、以下に、図面によってより詳細に説明される。
図1は、第1例の合金の長手方向旋削加工(longitudinal turning)後の切り屑の描図を示す。
図2は、第2例の合金の長手方向旋削加工後の切り屑の描図を示す。
図3は、第3例の合金の長手方向旋削加工後の切り屑の描図を示す。
図4は、第4例の合金の長手方向旋削加工後の切り屑の描図を示す。
【0023】
図1~
図4による切り屑の描図は、それぞれの場合において、850rpmの回転速度で合金を長手方向旋削加工に供することによって作製された。識別番号KNMX160405-R8IC907である刃先交換式切削インサート(indexable cutting insert)を使用した。
図1~
図4に含まれるスケールバーは、いずれの場合も5mmである。
【0024】
図1は、第1例の合金の長手方向旋削加工後の切り屑の描図を示す。第1例の合金は、参照用の合金である。第1例の合金は、58%のCu及び42%のZnを含み、第1例の合金は、Mgの添加を含まないことを意味する。
【0025】
図1から分かるように、例1の合金の長手方向旋削加工は、長い螺旋状の切り屑を発生させる。このような螺旋状の切り屑は、機械加工の際に望ましくない。これらは、搬送時の詰まり及び工具の破損をもたらす場合がある。
【0026】
図2は、第2例の合金の長手方向旋削加工後の切り屑の描図を示す。第2例の合金は、58%のCu、41.5%のZn及び0.5%のMgを含む。長手方向旋削加工時に発生する切り屑は、
図1に示す切り屑よりも短いことが明らかである。
【0027】
図3は、第3例の合金の長手方向旋削加工後の切り屑の描図を示す。第3例の合金は、58%のCu、41%のZn及び1%のMgからなる。発生した切り屑は、第2例の合金の長手方向旋削加工によって発生した切り屑よりもさらに短いことが明らかである。
【0028】
図4は、第4例の合金の長手方向旋削加工後の切り屑の描図を示す。第4例の合金は、58%のCu、40.5%のZn及び1.5%のMgからなる。第4例の合金の旋削加工時に発生する切り屑は、第3例の合金の長手方向旋削加工により発生する切り屑よりもさらに短い。
【0029】
したがって、提案されるように鉛非含有アンチモン非含有の黄銅合金に0.1~1.5%のMgを添加することによって、顕著に改善された切り屑の折断を達成することができる。さらに、この提案される黄銅合金は、熱脆性をほとんど示さないことも特徴である。これは、熱間成形、特に連続鋳造プロセスで処理され得る。
【外国語明細書】