(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021947
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】焼成食品用塗布剤および焼成食品
(51)【国際特許分類】
A23D 7/005 20060101AFI20230207BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20230207BHJP
A21D 13/22 20170101ALI20230207BHJP
【FI】
A23D7/005
A23D7/00 506
A21D13/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121238
(22)【出願日】2022-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2021126936
(32)【優先日】2021-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】彦エ さくら
(72)【発明者】
【氏名】岡部 祐二
(72)【発明者】
【氏名】有留 瑛美
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG04
4B026DL03
4B026DL04
4B026DX04
4B032DB01
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK21
4B032DL08
4B032DP54
(57)【要約】
【課題】焼成食品生地表面に塗布し焼成することで焼成食品の老化を抑制することができる水中油型乳化物を提供すること。
【解決手段】焼成食品用塗布剤は、油脂、糖アルコールおよび蛋白質を含み、水中油型に乳化されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂、糖アルコールおよび蛋白質を含み、水中油型に乳化されていることを特徴とする、焼成食品用塗布剤。
【請求項2】
蛋白質が大豆由来である、請求項1に記載の焼成食品用塗布剤。
【請求項3】
油脂の含有量が15~35質量%である、請求項1に記載の焼成食品用塗布剤。
【請求項4】
糖アルコールの含有量が0.50~15質量%である、請求項1に記載の焼成食品用塗布剤。
【請求項5】
糖アルコールがグリセリンである、請求項1に記載の焼成食品用塗布剤。
【請求項6】
蛋白質の含有量に対する糖アルコールの含有量の比が0.20~2.10である、請求項1に記載の焼成食品用塗布剤。
【請求項7】
油脂の含有量に対する蛋白質および糖アルコールの合計量の比が、0.25~0.73である、請求項1に記載の焼成食品用塗布剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の焼成食品用塗布剤が使用された、焼成食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成食品用塗布剤および焼成食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パン類、焼菓子類、和菓子などの焼成食品の表面に艶を付与するための艶出し用水中油型乳化物が知られている。本出願人は、蛋白質を含有する艶出し用水中油型乳化物を提案している(特許文献1~5)。
【0003】
ここで、焼成食品の老化を抑制することが従来から所望されている。特に、フィリング(具材)をサンドした場合や焼成後に冷凍を行った場合は、焼成食品の老化の進行が顕著である。具体的には、フィリングをサンドした場合には、フィリングが焼成食品から水分を奪ってしまうため老化が進行する。また、焼成後に冷凍を行った場合には、冷凍中に昇華により焼成食品から水分が失われてしまうためパサついてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-148599号公報
【特許文献2】特開2012-235722号公報
【特許文献3】特開2016-63842号公報
【特許文献4】特開2017-12017号公報
【特許文献5】特開2017-140023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~5の艶出し用水中油型乳化物は、焼成食品の表面に艶を付与することができるものの、焼成食品の老化を抑制する効果はなく、更なる改善の余地があると考えられた。
【0006】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、焼成食品の生地の表面に塗布し焼成することで焼成食品の老化を抑制することができる水中油型乳化物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の焼成食品用塗布剤は以下の特徴を有する。
【0008】
[1]本発明の焼成食品用塗布剤は、油脂、糖アルコールおよび蛋白質を含み、水中油型に乳化されていることを特徴としている。
【0009】
[2]蛋白質が大豆由来である[1]の焼成食品用塗布剤。
【0010】
[3]油脂の含有量が15~35質量%である[1]または[2]の焼成食品用塗布剤。
【0011】
[4]糖アルコールの含有量が0.50~15質量%である[1]から[3]の何れかの焼成食品用塗布剤。
【0012】
[5]糖アルコールがグリセリンである[1]から[4]の何れかの焼成食品用塗布剤。
【0013】
[6]蛋白質の含有量に対する糖アルコールの含有量の比が0.20~2.10である[1]から[5]の何れかの焼成食品用塗布剤。
【0014】
[7]油脂の含有量に対する蛋白質および糖アルコールの合計量の比が0.25~0.73である[1]から[6]の何れかの焼成食品用塗布剤。
【0015】
[8]本発明の焼成食品は、[1]~[7]の何れかの焼成食品用塗布剤が使用されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の焼成食品用塗布剤は、焼成食品生地表面に塗布し焼成することで、焼成食品の老化を抑制するという効果を有する。また、本発明の焼成食品は、上記の焼成食品用塗布剤が生地表面に塗布されて焼成されるから、老化が抑制されるという効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明の焼成食品用塗布剤(以下、単に「塗布剤」とも表記する)は、油脂、糖アルコールおよび蛋白質を含む。
【0019】
本発明の塗布剤に含有される油脂には、任意の食用油脂が使用される。例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、大豆油、綿実油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、コーン油、オリーブ油、ゴマ油、シア脂、サル脂、カカオ脂、豚脂(ラード)、牛脂、乳脂、魚油、羊脂、それらの加工油(分別、硬化及びエステル交換反応のうち1つ以上の処理がなされたもの)等の各種の油脂のうち1種以上の油脂が含有される。塗布剤に含有される油脂としては、液状油脂が好適である。
【0020】
液状油脂は、20℃で液状を呈するものであり、例えば、ナタネ油、大豆油、コーン油、サフラワー油、米油、米糠油、綿実油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、ピーナッツ油、ゴマ油、オリーブ油、パーム油を分別したスーパーオレイン等の液状植物性油脂、乳脂、牛脂、豚油、魚油などの動物性油脂の分別軟質部等が挙げられる。さらに、これらの液状油脂をウインタリングし、固形脂やロウ分を除去したものであってもよい。
【0021】
塗布剤中(塗布剤全体を100質量%としたとき)の油脂の含有量の下限値は、特に限定されないが、焼成品の老化抑制効果の向上、焼成食品の表面への艶の付与、軟らかく歯切れの良い焼成食品を得ることができる観点から、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。塗布剤中の油脂の含有量の上限値は、特に限定されないが、水中油型乳化物の粘度が高くなりすぎないこと、蛋白質の分散を良好にする観点から、35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましい。
【0022】
本発明の塗布剤に含有される糖アルコールには、任意の糖アルコールが使用される。例えば、グリセリン、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、還元イソマルツロース、マンニトール等の各種の糖アルコールのうち1種以上の糖アルコールが含有される。本発明の塗布剤に含有される糖アルコールとしては、グリセリンが特に好ましい。糖アルコールとしてグリセリンを用いると、焼成食品の老化抑制効果が向上し、さらに軟らかくて歯切れの良い焼成食品を得ることができる。
【0023】
塗布剤中の糖アルコールの含有量の下限値は、特に限定されないが、焼成品の老化抑制効果の向上、軟らかくて歯切れの良い焼成食品を得ることができる観点から、固形分換算で0.10質量%以上であることが好ましく、0.50質量%以上であることがより好ましく、0.90質量%以上であることがさらに好ましく、2.0質量%以上であることが特に好ましい。塗布剤中の糖アルコールの含有量の上限値は、特に限定されないが、焼成食品の表面への艶の付与、軟らかくて歯切れの良い焼成食品を得ることができる観点から、固形分換算で20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、9.0質量%以下であることが特に好ましく、8.0質量%以下であることが殊更好ましい。
【0024】
本発明の塗布剤に含有される蛋白質には、任意の蛋白質が使用される。例えば、酸カゼイン、レンネットカゼイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、ホエイ蛋白、それらの酵素分解物である乳ペプチド、ミルクプロテインコンセントレート、クリームパウダー、トータルミルクプロテイン、全脂粉乳、脱脂粉乳、ホエイパウダー、蛋白質濃縮ホエイパウダー、ホエイプロテインコンセントレート(WPC)、ホエイプロテインアイソレート(WPI)、バターミルクパウダー等の乳蛋白質;卵由来蛋白質(卵白蛋白質、卵黄蛋白質)、豆由来蛋白質(大豆蛋白質、大豆分離蛋白質、エンドウ豆蛋白質、そら豆蛋白質、緑豆蛋白質、インゲン豆蛋白質、ヒラ豆(レンズ豆)蛋白質、ヒヨコ豆蛋白質、ルピン豆蛋白質、落花生蛋白質、ササゲ蛋白質)、種子由来蛋白質(ゴマ、キャノーラ、ココナッツ、オリーブ、ひまわり、ピーナッツ、ビート、コットン、アーモンドなどに由来する蛋白質)、穀物類由来蛋白質(トウモロコシ、そば、小麦、エンバク、米などに由来する蛋白質)、コラーゲン、コラーゲンペプチド、ゼラチン等の各種の蛋白質のうち1種以上の蛋白質が含有される。
【0025】
塗布剤中の蛋白質の含有量の下限値は、特に限定されないが、例えば、焼成食品の表面に良好な艶を付与する観点から、1.0質量%以上であることが好ましく、2.0質量%以上であることがより好ましく、4.0質量%以上であることがさらに好ましい。塗布剤中の蛋白質の含有量の上限値は、特に限定されないが、軟らかくて歯切れの良い焼成食品を得ることができる観点から、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、8.0質量%以下であることがさらに好ましく、6.5質量%以下であることが特に好ましい。
【0026】
本発明の塗布剤は、油脂が水中に乳化分散された水中油型乳化物の形態をとる。
【0027】
本発明の塗布剤が使用される焼成食品としては、例えば、パン類、焼菓子、和菓子などを例示することができる。パン類としては、食パン、テーブルロール、菓子パン、調理パンなどを例示することができ、焼菓子類としては、パネトーネ、ブリオッシュ、クッキー、ビスケット、クラッカー、デニッシュ、パイ、シュー、ウエハースなどを例示することができ、和菓子としては、饅頭などを例示することができる。
【0028】
本発明の塗布剤に含有される蛋白質としては、大豆由来のものが好ましい。蛋白質として大豆由来のものを用いると、焼成食品の表面に良好な艶を付与することができる。大豆由来の蛋白質としては、大豆蛋白質、大豆分離蛋白質が挙げられ、大豆分離蛋白質が特に好ましい。また、例えば、大豆分離蛋白質の場合は、酸沈殿させた大豆タンパク質を酵素で部分的に加水分解し、可溶化して中和した後、噴霧乾燥して得たものを例示することができる。
【0029】
本発明の塗布剤に含有される蛋白質の含有量に対する糖アルコールの含有量の比(糖アルコール/蛋白質)の下限値は、特に限定されないが、焼成食品の老化抑制効果が向上し、さらに軟らかくて歯切れの良い焼成食品を得ることができる観点から、0.20以上が好ましく、0.40以上がより好ましく、0.60以上がさらに好ましい。蛋白質の含有量に対する糖アルコールの含有量の比の上限値は、特に限定されないが、焼成食品の表面に良好な艶を付与し、軟らかくて歯切れの良い焼成食品を得ることができる観点から、2.10以下が好ましく、1.90以下がより好ましく、1.70以下がさらに好ましい。
【0030】
本発明の塗布剤に含有される油脂の含有量に対する糖アルコールの含有量の比(糖アルコール/油脂)の下限値は、特に限定されないが、焼成食品の老化抑制効果が向上し、さらに軟らかくて歯切れの良い焼成食品を得ることができる観点から、0.030以上が好ましく、0.10以上がより好ましく、0.20以上がさらに好ましい。油脂の含有量に対する糖アルコールの含有量の比の上限値は、特に限定されないが、焼成食品の表面に良好な艶を付与し、軟らかくて歯切れの良い焼成食品を得ることができる観点から、0.50以下が好ましく、0.45以下がより好ましく、0.40以下がさらに好ましい。
【0031】
本発明の塗布剤に含有される油脂の含有量に対する蛋白質と糖アルコールの合計量の比((蛋白質+糖アルコール)/油脂)の下限値は、特に限定されないが、焼成食品の老化抑制効果が向上し、さらに軟らかくて歯切れの良い焼成食品を得ることができる観点から、0.25以上が好ましく、0.35以上がより好ましい。油脂の含有量に対する蛋白質と糖アルコールの合計量の比の上限値は、特に限定されないが、焼成食品の老化抑制効果が向上し、焼成食品の表面に良好な艶を付与し、軟らかくて歯切れの良い焼成食品を得ることができる観点から、1.0以下が好ましく、0.73以下がより好ましく、0.68以下がさらに好ましく、0.63以下が特に好ましい。
【0032】
また、本発明の塗布剤には、糖アルコール以外の糖質、乳化剤、アルカリ剤、アミノ酸、酵母エキスなどの各種素材が配合されていてもよい。
【0033】
糖アルコール以外の糖質としては、単糖(グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースなど)、二糖質(ラクトース(乳糖)、スクロース、マルトース、トレハロースなど)などの糖類;イソマルトオリゴ糖(イソマルトース、イソマルトトリオース、パノース)、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖(4’-ガラクトシルラクトース)、キシロオリゴ糖、ビートオリゴ糖(ラフィノース)、大豆オリゴ糖(ラフィノース、スタキオース)、乳果オリゴ糖(ラクトスクロース)などのオリゴ糖;デキストリン類(デキストリン、マルトデキストリン、イソマルトデキストリン(分岐マルトデキストリン)、水あめ、粉あめ、シクロデキストリン、分岐シクロデキストリン、焙焼デキストリン、高分子デキストリン、難消化性デキストリン、グルコースシロップ、デキストロース)、イヌリン類(イヌリン、イヌリン分解物、アガベイヌリン)、増粘多糖類(LMペクチン、HMペクチン、プルラン、グアーガム、グアーガム分解物、キサンタンガム、アラビアガム、ガティガム、ネイティブジェランガム、脱アシル化ジェランガム、ローカストビーンガム、タラガム、ガラクトマンナン、グルコマンナン、コンニャクマンナン、カードラン、カラギーナン、カラヤガム、カシアガム、タマリンドシードガム、トラガントガム、フェヌグリークガム、サイリウムシードガム、スクシノグリカン、ラムザンガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、PGA(アルギン酸プロピレングリコールエステル)、大豆多糖類、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、寒天、ゼラチン、フコイダン、ポルフィラン、ラミナラン)、澱粉、レジスタントスターチ、イソマルツロース、ポリデキストロース、難消化性グルカン、アラビノガラクタンなどの多糖類;のうちの1種または2種以上を例示することができる。
【0034】
糖アルコール以外の糖質としては、焼成食品の老化抑制効果が向上し、さらに軟らかくて歯切れの良い焼成食品を得ることができる観点から、増粘多糖類が好ましく、特にグルコマンナンが好ましい。
【0035】
塗布剤中の増粘多糖類の含有量の下限値は、特に限定されないが、例えば、焼成食品の老化抑制効果が向上し、さらに軟らかくて歯切れの良い焼成食品を得ることができる観点から、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましく、0.05質量%以上であることが特に好ましい。塗布剤中の増粘多糖類の含有量の上限値は、特に限定されないが、例えば、塗布剤の粘度が上がることによる塗りムラを抑えることや、軟らかくて歯切れの良い焼成食品を得ることができる等の観点から、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましく、0.2質量%未満であることが殊更好ましく、0.18質量%以下であることが最も好ましい。
【0036】
乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリンエステル(ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル)、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン(大豆レシチン、卵黄レシチン、ヒマワリレシチン)、酵素分解レシチン(大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン)、サポニン、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、加工澱粉(エーテル化処理したカルボキシメチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプンや、エステル化処理したリン酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプンや、湿熱処理デンプン、酸処理デンプン、架橋処理デンプン、α化処理デンプン、難消化性デンプン等)、スフィンゴ脂質、植物ステロール類、胆汁末、トマト糖脂質などのうちの1種または2種以上を例示することができる。
【0037】
アルカリ剤としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸二水素ナトリウムなどのうちの1種または2種以上を例示することができる。なかでも、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムが好ましく、炭酸ナトリウムがより好ましい。
【0038】
本発明の焼成食品用塗布剤は、焼成食品用の生地に、生地重量100質量%に対して0.4~0.9質量%を塗布して焼成することにより、表面に艶を付与し、かつ表面が硬くならない焼成食品を得ることができる。また、塗布剤がアルカリ剤を含有する場合には、生地重量の0.2~0.5質量%を塗布して焼成することで表面に艶を付与し、かつ表面が硬くならない焼成食品を得ることができ、生地に対して少ない使用量で効果的に艶のある焼き色を付与することができる。
【0039】
本発明の塗布剤の製造方法は、特に限定されないが、以下の工程:
(1)油脂、糖アルコール、蛋白質、水を混合して乳化物を得る予備乳化工程;及び
(2)前記乳化物の均質化工程
を含むことができる。
【0040】
予備乳化工程では、油脂、糖アルコール、蛋白質、水を配合して乳化物を得る。具体的には、例えば、水に蛋白質を徐々に添加して均一に分散させた後に糖アルコールを混合し、60~75℃程度に加熱した後、油脂を添加してホモミキサーなどで攪拌することで乳化物を得ることができる。なお、各種の添加剤や素材は、予備乳化前の水相や油相に添加することができるが、アルカリ剤は予備乳化工程後に添加することが好ましい。さらに、油脂と糖アルコール及び蛋白質分散・溶解液を乳化させる際の油脂の温度は、20℃~70℃の温度範囲が好ましく、40℃~70℃の温度範囲がより好ましい。
【0041】
均質化工程における均質化の方法は具体的に限定されないが、例えば、乳化物をホモゲナイザーなどによって微細化した後、冷却する方法を例示することができる。
【0042】
本発明の塗布剤は、以上の実施形態に限定されるものではない。
【実施例0043】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
<焼成食品用塗布剤の作製>
表1に示す配合により、水に蛋白質(比較例1は添加せず)を添加してホモミキサーで攪拌混合した後に糖アルコール(比較例2は添加せず)を添加し、75℃まで昇温して10分間攪拌して水相とした。この水相に表1に示す量の菜種油(比較例1は予め菜種油に乳化剤を溶解)を添加して5分間攪拌乳化し、表1に示す量の炭酸ナトリウムを添加し(実施例1,2,8,9,10,比較例1~3は添加せず)、更に5分間攪拌した後、高圧ホモミキサーにかけて調製したものを本発明の焼成食品用塗布剤とした。なお、比較例3は、油脂に蛋白質、糖アルコールを分散させて調製したが、油脂中に蛋白質が均一分散しなかったため、以降の塗布試験は行わなかった。
【0045】
【0046】
<焼成食品(ドッグパン)の作製>
ドッグパンは表2に示す生地配合に基づいて調製し、ホイロ後(生地重量70g)に本発明品の塗布剤0.4gを塗布し、200℃で10分焼成した。前記ドッグパンの性状を以下の基準で評価した。なお、前記塗布剤を塗布せずに焼成したドッグパンを参考例とした。
【0047】
【0048】
[老化抑制]
ドッグパンにマーガリンと小倉あんをサンドした後20℃で3日間保管後に試食し、パネル15名により以下の基準で評価した。なお、下記官能評価は、以下に示すパネルの選抜、及びパネル間の討議を経て行った。
五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準臭覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判定された15名のパネル(20~40代の男性7名及び女性8名)を選抜した。
次いで、官能評価を実施するにあたり、パネル全体で事前に討議し、各パネルに各評価項目の特性に関する共通認識を持たせた。また、官能評価におけるパネルの偏りを排除し、評価の精度を高めるために、サンプルの試験区番号や内容はパネルに知らせず、ランダムに提示した。なお、△以上を課題が解決できたものとした。
◎+:非常にしとりがあり十分な軟らかさを保っている
◎:しとりがあり十分な軟らかさを保っている
○:しとりと軟らかさを保っている
△:軟らかさを保っている
×:パサついて硬くなっている
【0049】
[艶]
ドッグパン表面を目視で観察し、以下の基準で評価した。なお、△以上を課題が解決できたものとした。
◎:極めて良好な艶がある
○:良好な艶がある
△:やや弱い艶がある
×:艶が弱く、ほとんど感じられない
【0050】
[皮膜の硬さ]
ドッグパンにマーガリンと小倉あんをサンドした後20℃で1日間保管後に試食し、以下の基準で評価した。なお、△以上を課題が解決できたものとした。
◎+:歯切れが非常によく、抵抗なくかみ切ることができる
◎:歯切れよく、抵抗なくかみ切ることができる
○:やや皮膜感を感じるが歯切れはよい
△:皮膜感がありかみ切るときに軽い抵抗がある
×:皮膜感が強く、かみ切るときに抵抗がある
【0051】
[焼成後冷凍]
実施例5,11~14,比較例2の塗布剤を塗布して焼成したドッグパンおよび参考例のドックパンを-30℃で急速冷凍し、-20℃にて28日保管後に自然解凍したものを試食し、以下の基準で評価した。
○:しとりと軟らかさを保っている
△:若干のパサつきがある
×:パサついて硬くなっている
【0052】
[焼成後冷凍(硬さ)]
実施例5,12,比較例2の塗布剤を塗布して焼成したドッグパンおよび参考例のドックパンを-30℃で急速冷凍し、-20℃にて28日保管後に自然解凍したものを2cm厚にスライスし、テクスチャーアナライザーEZ-SX200N(株式会社島津製作所社製)にて、20mm円筒治具を用いて、50%圧縮、5mm/secの条件で2回圧縮し、最大試験力(N)を測定した。なお、最大試験力が1.40以下のものを課題が解決できたものとした。
【0053】
<結果>
表1に示したように、油脂、糖アルコールおよび蛋白質を含み、水中油型に乳化されている実施例1~14は、老化抑制効果や艶、皮膜の硬さが良好であった。
【0054】
また、蛋白質が大豆由来である実施例2は、蛋白質が大豆由来でない実施例1に比べ、艶がより良好であった。
【0055】
また、蛋白質が大豆由来である実施例5は、蛋白質が大豆由来でない実施例14に比べ、艶がより良好であった。
【0056】
糖アルコールがグリセリンである実施例5は、糖アルコールがグリセリンでない実施例6に比べ、老化抑制効果や皮膜の硬さがより良好であった。
【0057】
油脂の含有量が15質量%以上である実施例3~14は、油脂の含有量が15質量%未満である実施例1,2に比べ、老化抑制効果がより良好であった。
【0058】
蛋白質が大豆由来であり、糖アルコールがグリセリンであり、かつ、油脂の含有量が15質量%以上である実施例3~5,7~10において、蛋白質の含有量に対する糖アルコールの含有量の比が0.40以上である実施例4,5,7~10は、蛋白質の含有量に対する糖アルコールの含有量の比が0.40未満である実施例3に比べ、老化抑制効果がより良好であり、さらに実施例4,5,7~9は、皮膜の硬さもより良好であった。
【0059】
実施例4,5,7~10において、蛋白質の含有量に対する糖アルコールの含有量の比が1.9以下である実施例4,5,7~9は、蛋白質の含有量に対する糖アルコールの含有量の比が1.9より大きい実施例10に比べ、皮膜の硬さがより良好であり、さらに実施例4,5,7,8は、艶もより良好であった。
【0060】
とりわけ、蛋白質の含有量に対する糖アルコールの含有量の比が0.60~1.7である実施例4,5,7,8は、老化抑制効果、艶、皮膜の硬さの全てにおいて特に良好な結果となった。また、実施例5は、焼成後冷凍で長期間保存後においてもパサつかず、しとりと軟らかさを保っていることが確認された。
【0061】
グルコマンナンを含有する実施例11~13は、グルコマンナンを含有しない実施例5に比べ、老化抑制効果がより良好であり、さらにグルコマンナンの含有量が0.05質量%以上0.2質量%未満である実施例11,12は、皮膜の硬さもより良好であった。
【0062】
一方、蛋白質を含まない比較例1は、老化抑制効果、艶、皮膜の硬さのいずれも悪い結果となった。また、糖アルコールを含まない比較例2も、老化抑制効果が悪い結果となった。