(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021999
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】癌治療に対する応答を予測するためのバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20230207BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20230207BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20230207BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230207BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230207BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230207BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230207BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20230207BHJP
【FI】
G01N33/53 Y
C12Q1/06
C12M1/34 B
C12M1/34 F
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61K39/395 U
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
G01N33/53 D
C07K16/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174604
(22)【出願日】2022-10-31
(62)【分割の表示】P 2022517281の分割
【原出願日】2021-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2020150620
(32)【優先日】2020-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業」「患者層別化マーカー探索技術の開発/がん免疫モニタリングによる患者層別化を行う基盤技術の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504013775
【氏名又は名称】学校法人 埼玉医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100143638
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 真久
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】各務 博
(57)【要約】 (修正有)
【課題】癌治療に対する応答を予測するためのバイオマーカー、およびそのバイオマーカーを用いる方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、被験体から得られたサンプルにおける細胞亜集団の組成を、被験体における癌治療に対する応答を予測するための指標とする方法を提供する。被験体のCD4+T細胞集団中のCCR4-CCR6+細胞亜集団の量を基準値と比較することによ
り、被験体における癌治療に対する応答を予測することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌治療の効果予測の分野に関する。より詳細には、被験体に対する癌治療への応答性を被験体のT細胞組成に基づいて予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌治療においては、その癌患者の特性に応じて適切な治療法が選択されており、中でも癌免疫療法は、癌細胞の代謝等を標的とする従来の抗癌治療(アルキル化剤、白金製剤、代謝拮抗剤、トポイソメラーゼ阻害剤、微小管重合阻害剤、微小管脱重合阻害剤等)と比較し、副作用が少なく大きな効果を示すとして近年注目を集めている。癌免疫療法の中でも、抗PD-1免疫チェックポイント阻害は特に大きな関心を寄せられている治療である。
【0003】
抗PD-1抗体であるニボルマブ(Nivolumab)は非小細胞肺癌の2次治療として従来の標準治療であったドセタキセルに対して全生存期間で大きな差をつけて勝利し、肺癌学会ガイドラインでも推奨度Aの標準治療となっている(非特許文献1)。同じ抗PD-1抗体であるペムブロリズマブ(Pembrolizumab)は初回治療において従来の標準治療であった細胞傷害性抗癌剤に対して全生存期間で勝利しており(ただし、腫瘍細胞上PD-L1 50%以上発現の患者において)、今後、非小細胞肺癌標準治療となることが決定している。
【0004】
現在においては、抗PD-1抗体の効果は肺癌に留まらず、多くの癌腫で証明されつつあり、日本でも腎癌、尿路上皮癌、頭頚部癌、消化器癌、悪性リンパ腫、乳癌、小細胞肺癌、大腸癌、悪性胸膜中皮腫に対する保険適応となり、今後、肝細胞癌、卵巣癌、子宮頚癌でも適応となることが期待される。
【0005】
ところで、臨床的に極めて大きな成功を収めているように見える抗PD-1抗体であるが、実は大きな問題点をはらんでいる。無増悪生存期間(PFS)のデータからは、ほぼすべての抗PD-1抗体臨床試験において3ヶ月以内に病勢増悪する「無効群」が認められる。一方、1年以上有効であった群は、それ以降ほとんど病勢増悪が認められず、治癒に近い状態を得ていることがわかる。これは、臨床効果において「無効群」「著効群」「中間群」というような3つの異なったサブグループが存在することを示唆しているが、これを予測するバイオマーカーは知られていない。ほぼすべての癌腫における標準治療となることが予想される抗PD-1抗体を、約40%にものぼる無効群に投与することは、医学的のみならず医療経済の点からも問題となる。
【0006】
このような問題に対して、本発明者は既に、癌免疫療法(例えば、抗PD-1治療または抗PD-L1治療)に対する治療効果が進行(PD)、安定(SD)、奏効(完全奏効(CR)および部分奏効(PR))となる三群が、それぞれ異なる免疫状態を呈することを見出し、被験体に癌免疫療法を行った場合、その癌免疫療法に対する応答が、進行(PD)、安定(SD)または奏効(完全奏効(CR)および部分奏効(PR))のいずれかであることを予想する方法を提供している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Brahmer J, et al. N Engl J Med 2015; 373: 123-135
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような状況に鑑み、患者の免疫状態を評価することにより、当該患者に対する癌治療の効果を予測するためのマーカーを見出した。そして、被験体から得られたサンプルにおける細胞亜集団の組成を、当該被験体の癌治療に対する応答を予測するための指標として用いるため、従来知られていたものとは異なる細胞亜集団の組成が癌治療に対する応答を予測するための新たな指標となり得ることを見出した。
【0010】
具体的には、本発明者らは、CD4 T細胞全体に対するCCR6+CCR4-細胞割合(好ましくは、CD62LlowCCR6+CCR4-細胞割合)を測定することにより、癌治療に対する応答を予測するための従来の指標を超える予測性能を得ることが可能であること、さらにCCR6+CCR4-細胞割合を用いてもCD62LlowCCR6+CCR4-細胞割合と同等の予測性能を得ることができることを見出した。本発明は、癌治療に対する応答性が被験体におけるT細胞組成と関連しており、バイオマーカーとして利用し得るという本発明者らの発見に部分的に基づいてなされたものであり、本発明のバイオマーカーは感度、特異度とも極めて高く、また利便性も高い。
【0011】
本発明者らは、癌免疫療法(例えば、抗PD-1治療または抗PD-L1治療)による治療後の無増悪生存期間(PFS)と特定のT細胞組成とが有意な相関を示すことを見出した。これにより、本発明の一実施形態では、被験体に癌免疫療法を行った場合、その癌免疫療法に対する応答を予測するための方法が提供される。また本発明者らは、例えば、放射線治療や分子標的薬による治療などの、癌免疫療法以外の癌治療による治療後の無増悪生存期間(PFS)と特定のT細胞組成とが有意な相関を示すことを見出した。これにより、本発明の一実施形態では、被験体に癌治療を行った場合、その癌治療に対する応答を予測するための方法が提供される。
【0012】
したがって、本発明は以下を提供する。
(項目1) 被験体のCD4+T細胞集団中のCCR4-CCR6+細胞亜集団の相対量
を、前記被験体の癌治療に対する応答を予測するための指標として用いる方法であって、
前記被験体由来のサンプル中の前記細胞亜集団の相対量を決定する工程を含み、
前記相対量を、前記被験体の癌治療に対する応答を予測するための指標として用いる、方法。
(項目2) 前記相対量と基準値との比較を、前記被験体の癌治療に対する応答を予測するための指標として用いる、項目1に記載の方法。
(項目3) 前記相対量と基準値との比較を、前記被験体の長期生存を予測するための指標として用いる、項目1または2に記載の方法。
(項目4) 前記相対量と無効群閾値との比較を、前記被験体が前記癌治療に対して無効群であるか否かを予測するための指標として用いる、項目1~3のいずれか一項に記載の方法。
(項目5) 前記CCR4-CCR6+細胞亜集団が、さらにCXCR3+細胞亜集団で
ある、項目1~4のいずれか一項に記載の方法。
(項目6) 前記CCR4-CCR6+細胞亜集団が、さらにCXCR3-細胞亜集団である、項目1~4のいずれか一項に記載の方法。
(項目7) 前記CCR4-CCR6+細胞亜集団が、さらにFoxP3-細胞亜集団である、項目1~6のいずれか一項に記載の方法。
(項目8) 前記CCR4-CCR6+細胞亜集団が、さらにCD62Llow細胞亜集
団である、項目1~7のいずれか一項に記載の方法。
(項目9) 前記CCR4-CCR6+細胞亜集団が、さらにCD45RA-細胞亜集団
である、項目1~7のいずれか一項に記載の方法。
(項目10) 前記癌治療は、がん免疫療法、放射線療法、分子標的薬治療、外科的手術、細胞移入、またはこれらの治療の任意の組み合わせを含む、項目1~9のいずれか一項に記載の方法。
(項目11) 前記癌治療は、がん免疫療法である、項目1~10のいずれか一項に記載の方法。
(項目12) 前記がん免疫療法は免疫チェックポイント阻害剤の投与を含む、項目11に記載の方法。
(項目13) 前記免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、およびCTLA-4阻害剤からなる群から選択される阻害剤を含む、項目12に記載の方法。
(項目14) 前記免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1阻害剤またはPD-L1阻害剤と、CTLA-4阻害剤との組み合わせを含む、項目12に記載の方法。
(項目15) 前記PD-1阻害剤は、PD-1とPD-L1との相互作用を阻害する抗PD-1抗体である、項目13または14に記載の方法。
(項目16) 前記PD-1阻害剤は、ニボルマブまたはペムブロリズマブを含む、項目13~15のいずれか一項に記載の方法。
(項目17) 前記PD-L1阻害剤は、PD-1とPD-L1との相互作用を阻害する抗PD-L1抗体である、項目13~16のいずれか一項に記載の方法。
(項目18) 前記PD-L1阻害剤は、デュルバルマブ、アテゾリズマブ、及びアベルマブを含む、項目17に記載の方法。
(項目19) 前記CTLA-4阻害剤は、イピリムマブ、及びトレメリルマブを含む、項目13~18のいずれか一項に記載の方法。
(項目20) 前記無効群閾値が、無効群の検出についての感度および特異度を考慮して決定される、項目4~19のいずれか一項に記載の方法。
(項目21) 前記無効群閾値が、無効群の検出について感度が約90%超となるように決定される、項目4~20のいずれか一項に記載の方法。
(項目22) 前記無効群閾値が、無効群の検出について特異度が約90%超となるように決定される、項目4~21のいずれか一項に記載の方法。
(項目23) 前記細胞の相対量を、末梢血サンプルを用いて測定することを特徴とする、項目1~22のいずれか一項に記載の方法。
(項目24) 前記相対量が前記基準値以上であることが、前記被験体が前記癌治療に対して応答することを示す、項目2~23のいずれか一項に記載の方法。
(項目25) 被験体において癌を治療するための、免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物であって、前記被験体は、項目11~24のいずれか一項に記載の方法によって、がん免疫療法に対して応答すると予測された被験体であることを特徴とする、組成物。
(項目26) 前記免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、およびCTLA-4阻害剤からなる群から選択される阻害剤を含む、項目25に記載の組成物。
(項目27) 前記免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1阻害剤またはPD-L1阻害剤と、CTLA-4阻害剤との組み合わせを含む、項目26に記載の組成物。
(項目28) 前記PD-1阻害剤は、PD-1とPD-L1との相互作用を阻害する抗PD-1抗体である、項目26または27に記載の組成物。
(項目29) 前記PD-1阻害剤は、ニボルマブまたはペムブロリズマブを含む、項目26~28のいずれか一項に記載の組成物。
(項目30) 前記PD-L1阻害剤は、PD-1とPD-L1との相互作用を阻害する抗PD-L1抗体である、項目26~27のいずれか一項に記載の組成物。
(項目31) 前記PD-L1阻害剤は、デュルバルマブ、アテゾリズマブまたはアベルマブを含む、項目30に記載の組成物。
(項目32) 前記CTLA-4阻害剤は、イピリムマブを含む、項目26~31のいずれか一項に記載の組成物。
(項目33) CD4に対する検出剤、CCR4に対する検出剤、およびCCR6に対する検出剤を含む、被験体の癌治療に対する応答を予測するためのキットであって、前記予測は、前記被験体のCD4+T細胞集団中のCCR4-CCR6+細胞亜集団の相対量を
、前記被験体の癌治療に対する応答を予測するための指標として用いることによって行われる、キット。
(項目34) 前記相対量と基準値との比較を、前記被験体の癌治療に対する応答を予測するための指標として用いる、項目33に記載のキット。
(項目35) 前記相対量と基準値との比較を、前記被験体の長期生存を予測するための指標として用いる、項目33または34に記載のキット。
(項目36) 前記相対量と無効群閾値との比較を、前記被験体が前記癌治療に対して無効群であるか否かを予測するための指標として用いる、項目33~35のいずれか一項に記載のキット。
(項目37) 前記検出剤が抗体である、項目33~36のいずれか一項に記載のキット。
(項目38) さらにCXCR3に対する検出剤を含む、項目33~37のいずれか一項に記載のキット。
(項目39) 前記癌治療は、がん免疫療法、放射線療法、分子標的薬治療、外科的手術、細胞移入、またはこれらの治療の任意の組み合わせを含む、項目33~38のいずれか一項に記載のキット。
(項目40) 前記癌治療は、がん免疫療法である、項目33~39のいずれか一項に記載のキット。
【0013】
本開示において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本開示のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【0014】
なお、上記した以外の本開示の特徴及び顕著な作用・効果は、以下の発明の実施形態の項及び図面を参照することで、当業者にとって明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、ヒトCD4 T細胞のTh分化を表す模式図である。
【
図2】
図2は、末梢血CD4
+ T細胞のCyTOFのマスサイトメトリーによるマッピング解析の結果である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態において、種々の細胞亜集団のCyTOFのマスサイトメトリーによるマッピング解析の結果である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態において、CD62L
lowCXCR3
+CCR6
+CCR4
- (Th1/17)とCD62L
lowCXCR3
-CCR6
+CCR4
- (CCR6 SP)の2つのクラスターと、無憎悪生存期間との相関関係を示すグラフである。
図4右がCD62L
lowCXCR3
+CCR6
+CCR4
- (Th1/17)とCD62L
lowCXCR3
-CCR6
+CCR4
- (CCR6 SP)の2つのクラスターを合わせたものであり、
図4左は%CD62L
low/CD4
+と無憎悪生存期間との相関関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態において、%CCR6
+CCR4
-/CD4
+と無憎悪生存期間との相関関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態において、フローサイトメトリー解析(Fortessa)を用いて得た%CCR6
+CCR4
-/CD4
+と無憎悪生存期間との相関関係、およびCyTOFを用いて得た%CCR6
+CCR4
-/CD4
+と無憎悪生存期間との相関関係の、それぞれの相関関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態において、ペムブロリズマブ単剤治療後の無増悪生存期間とCyTOFによるTh解析結果の相関関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、本発明の一実施形態において、CD62L
low Th1/17およびCD62L
low CCR6 SPクラスター総数と無憎悪生存期間との相関関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、本発明の一実施形態において、Th1/17とCCR6 SPの和は、CCR4
-CCR6
+細胞クラスターとして測定することができることを示す相関グラフである。
【
図10】
図10は、本発明の一実施形態において、Thクラスターと全生存期間との相関関係を示す表である。
【
図11】
図11は、本発明の一実施形態において、CCR6
+CCR4
-CD4T細胞クラスターの無増悪生存期間および全生存期間との相関について、他のマーカーと比較したグラフである。
【
図12】
図12は、本発明の一実施形態において、CD4
+T細胞中のCCR6
+CCR4
-細胞の比率の、全生存期間を予測するための指標としての性能を示すグラフである。閾値を変化させた場合の感度と特異度をプロットしたものが右のパネルである。プロットした点の下の領域の面積は0.9628であり、非常に優れたマーカーであることが理解される。
【
図13】
図13は、本発明の一実施形態において、化学放射線治療後のPFSとCCR6
+CCR4
- CD4T細胞クラスターとの相関を示すグラフである。
【
図14】
図14は、本発明の一実施形態において、EGFR-TKI治療後のPFSとCCR6
+CCR4
- CD4T細胞クラスターとの相関を示すグラフである。
【
図15】
図15は、CD62L
lowTh1、CD62L
lowTh1/17、CD62L
lowCCR6 SP、CD62L
lowTh17、CD62L
lowTPのそれぞれのTCRクロノタイプ数を示す模式図である。
【
図16】
図16は、CD62L
lowTh1/17+CD62L
lowCCR6 SP細胞クラスターとTh1/17+CCR6 SP細胞クラスターとが相関することを示すグラフである。
【
図17】
図17は、末梢血CD4
+T細胞クラスターと、各区画に発現しているケモカインレセプターを表す模式図である。
【
図18】
図18は、末梢血CD4
+T細胞クラスターと抗PD-1抗体治療後のPFS相関を示す多重解析結果の表である。
【
図19】
図19は、末梢血CD4
+T細胞クラスターの遺伝子発現の疑似時間解析およびDNAメチローム(メチル化)解析の結果を示す図である。
【
図20】
図20は、各治療ラインにおけるTh1/17およびCCR6 SPのPFSとの相関を示す図である。
【
図21】
図21は、腫瘍微小環境中のCD4
+T細胞とPFSとの相関を示す図である。
【
図22】
図22は、末梢血中の細胞クラスター、および腫瘍微小環境(TME)中の細胞クラスターのネットワーク解析結果である。
【
図23】
図23は、手術前後における末梢血中の細胞クラスターの変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0017】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0018】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。
【0019】
本明細書において、「バイオマーカー」とは、通常の生物学的過程、病理学的過程、もしくは治療的介入に対する薬理学的応答の指標として、客観的に測定され評価される特性をいう。
【0020】
本明細書において「がん」または「癌」は、互換可能に用いられ、異型性が強く、増殖が正常細胞より速く、周囲組織に破壊性に浸潤し得あるいは転移をおこし得る悪性腫瘍またはそのような悪性腫瘍が存在する状態をいう。本発明においては、癌は固形癌および造血器腫瘍を含み、例えば非小細胞肺癌、小細胞肺癌、腎癌、ホジキン病、頭頸部癌、乳癌、胃癌、悪性黒色腫、大腸癌、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、消化管間質腫瘍、膵神経内分泌種腫瘍、皮膚癌などを含むがそれらに限定されない。
【0021】
本明細書において、「がん免疫療法」または「癌免疫療法」とは、生物の有する免疫機構などの生体防御機構を用いて癌を治療する方法をいう。
【0022】
本明細書において、「抗腫瘍免疫応答」とは、生体内の腫瘍に対する任意の免疫応答をいう。
【0023】
本明細書において、「相関」するとは、2つの事象が統計学的に有意な相関関係を有することをいう。例えば、「Aと相関するBの相対量」とは、事象Aが発生した場合に、Bの相対量が統計学的に有意に影響を受ける(例えば、増加ないし減少すること)ことをいう。
【0024】
本明細書において、「免疫活性化」とは、免疫機能の体内における異物を排除する機能が増大することを指し、免疫機能において正に作用する任意の因子(例えば、免疫細胞またはサイトカイン)の量の増大によって示され得る。
【0025】
本明細書において、「細胞亜集団」とは、多様な特性の細胞を含む細胞集団中の、何らかの共通する特徴を有する任意の細胞の集合を指す。特定の名称が当技術分野で知られているものについては、かかる用語を用いて特定の細胞亜集団に言及することもでき、任意の性質(例えば、細胞表面マーカーの発現)を記載して特定の細胞亜集団に言及することもできる。
【0026】
本明細書において、細胞に関する用語「相対量」は、「割合」と互換可能に使用される。代表的には、用語「相対量」および「割合」は、特定の細胞集団(例えば、CD4+T細胞集団)を形成する細胞の数に対する、所期の細胞亜集団(例えば、CCR4-CCR6+細胞亜集団)を形成する細胞の数を意味する。
【0027】
本明細書において、「感度(sensitivity)」とは、被験体の集団の中から所期の特徴を有する被験体を選択する場合において、被験体集団に含まれる所期の特徴を有する総被験体数に対する、選択された対象中の所期の特徴を有する被験体数の割合をいう。例えば、被検体の集団に含まれる所期の特徴を有する被検体が全て選択された場合には感度は100%であり、被検体の集団に含まれる所期の特徴を有する被検体の半数が選択された場合には感度は50%であり、被検体の集団に含まれる所期の特徴を有する被検体が全く選択されなかった場合には感度は0%である。感度は、例えば、(選択された対象中の所期の特徴を有する被験体数)/(被験体集団に含まれる所期の特徴を有する総被験体数)として決定される。感度が高い判定は、ある状態(例えば、がん免疫療法の結果、長期生存である)である被験体を見つけ出したい場合に、そのような被験体が確実にそのような状態として判定され易いことを意味する。
【0028】
本明細書において、「特異度(specificity)」とは、被験体の集団の中から所期の特徴を有する被験体を選択する場合において、選択された対象の総数に対する、選択された対象中の所期の特徴を有する被験体数の割合をいう。例えば、被検体集団の中から選択された候補が全て所期の特徴を有する場合には特異度は100%であり、被検体集団の中から選択された候補の半数が所期の特徴を有する場合には特異度は50%であり、被検体集団の中から選択された候補の全てが所期の特徴を有さない場合には特異度は0%である。例えば、特異度は、(選択された対象中の所期の特徴を有する被験体数)/(選択された対象の総数)として決定される。特異度が高い判定は、ある状態(例えば、がん免疫療法に対して奏効群である)ではない被験体が、誤ってそうではない状態(例えば、がん免疫療法の結果、長期生存である)として判定される確率が低いことを意味する。
【0029】
本明細書において、「無増悪生存期間(PFS)」とは、治療中または治療後に癌が進行せず安定した状態である期間をいう。すなわち病勢が進行していない期間となる。本明細書においては、臨床的に癌が進行せず安定した状態、または病勢が進行していないと判断される期間であれば「無増悪生存期間(PFS)」に含まれる。
【0030】
本明細書において、「無効群」とは、がん治療を受けた場合の治療効果が、RECIST ver1.1に従って判定した場合に、治療開始後約9週までの早期に病勢増悪(PD:Progressive disease)と判定される被験体の群をいう。無効群は、PD群、進行群、NR(Non-responder)とも称され、本明細書において互換的に使用される。
【0031】
本明細書において、「部分奏効群」とは、がん治療を受けた場合の治療効果が、RECIST ver1.1に従って判定した場合に、部分奏効(PR:Partial response)と判定される被験体の群をいう。部分奏効群は、PR群とも称され、本明細書において互換的に使用される。
【0032】
本明細書において、「相対値」とは、ある値について、他の値を比較の対象として算出される値をいう。
【0033】
本明細書において使用される場合、用語「検出剤」とは、広義には、目的の物質(例えば、細胞表面マーカーなど)を検出できるあらゆる因子をいう。
【0034】
本明細書において、ある細胞亜集団の「量」とは、ある細胞の絶対数と、細胞集団における割合の相対量とを包含する。
【0035】
本明細書において、「基準」または「基準値」とは、本明細書に記載されるマーカーの量の増減を決定するための比較対象となる量を指す。ある処置(例えば、がん免疫療法)の前後でのある量の増減を決定する場合、例えば、「基準値」としては処置の前における当該量が挙げられる。また基準または基準値としては、ある数量(例えば、無憎悪生存期間)を示すことがわかっている所定の細胞の量または相対量をとることもできる。
【0036】
本明細書において、「閾値」とは、ある変化する値に対して設定される値であって、変化する値がそれ以上であるか、またはそれ以下である場合に何らかの意味付けを与える値をいう。本明細書において、カットオフ(cut-off)値とも称される。
【0037】
本明細書において、「無効群閾値」とは、所与の被検体の集団において、無効群と、安定群+奏効群とを識別するために使用される閾値をいう。無効群閾値は、所与の被検体の集団における無効群を選択する場合に、所定の感度および特異度を達成するように選択される。
【0038】
本明細書において、「奏効群閾値」とは、所与の被検体の集団において、あるいは、無効群閾値を用いて所与の被検体の集団から無効群を除いた集団において、安定群と奏効群とを識別するために使用される閾値をいう。奏効閾値は、所与の被検体の集団において、あるいは、無効群閾値を用いて所与の被検体の集団から無効群を除いた集団において、奏効群を選択する場合に、所定の感度および特異度を達成するように選択される。
【0039】
本明細書において「長期生存」とは、無増悪生存期間が一定期間以上であることを示し、長期生存者とは、例えばニボルマブ療法後一定期間以上にわたり増悪が生じない患者をいう。長期生存であると推定された患者は、癌免疫療法による長期にわたる応答性が予測されるため、臨床医は、癌免疫療法を最小限で(例えば一回の投与で)終了すべきと判断することができる。また本明細書において、長期生存であると判断できる期間は、特に限られるものではなく、患者の属性(年齢、性別、既往歴など)、癌の種類、投薬状況または治療歴などに応じて、異なるものであってもよい。例えば、500日以上、400日以上、300日以上、150日以上などとしてもよく、また高齢者における長期生存と判断できる期間は、若齢者における長期生存と判断できる期間よりも短いものであってもよく、他の疾患を併発している患者における長期生存と判断できる期間は、そうではない患者における長期生存と判断できる期間よりも短いものであってもよい。
【0040】
本明細書において「フローサイトメトリー」とは、液体中に懸濁する細胞、個体およびその他の生物粒子の粒子数、個々の物理的・化学的・生物学的性状を計測する技術をいう。フローサイトメトリーの結果は、代表的には、FSCをX軸に、SSCをY軸にとったドットプロットとして表現され得る。各細胞は図の中の一つのドット(点)で示されており、それらの位置は、FSCとSSCとの相対値によって決められる。比較的サイズが小さく内部構造が単純なリンパ球は左下部に、サイズが大きく内部に顆粒を持つ顆粒球は右上部に、またサイズは大きいが内部構造が単純な単球はリンパ球と顆粒球の間に、それぞれお互いに分離した集団を作って表示される。またフローサイトメトリーの結果は、ヒストグラムやドットプロットなどで表すことができる。
【0041】
本明細書において、「エフェクター細胞」とは、抗原刺激を受けていないナイーブ細胞が分化して実際に免疫に関わる働きを得た免疫細胞をいい、特にヒトのヘルパーT細胞では主にTh1、Th2、Th17の3種類が知られている。それぞれインターフェロンγ(IFNγ)やインターロイキン17(IL-17)など特徴的なサイトカインを放出することができる。またTh1はT-betを、Th2はGATA-3を発現するなど、各Thサブセットに特徴的な転写因子が存在するが、T-betとGATA-3の両方を発現している細胞も存在し、そのような細胞は「Th1/Th2」または「Th1/2」と表現される。本明細書において「Th1/Th17」または「Th1/17」はTh1に特徴的なT-betと、Th17に特徴的なRORγtの両方を発現している。
【0042】
またTh1、Th2、Th17などのエフェクター細胞は、発現するケモカインレセプター(CCR)の種類によっても分類することができ、例えばTh1はCXCR3を、Th2はCCR4を、Th17はCCR4及びCCR6を、それぞれ発現している。Thサブセットの分類は例えば
図1(AnnualReviewofImmunology, Vol. 34:317-334 Heterogeneity of Human CD4+ T CellsAgainstMicrobes,Fig.1)のように表すことができる。本明細書において「Th1/Th17」または「Th1/17」はTh1に特徴的なCXCR3と、Th17に特徴的な2つのCCRのうちCCR6を発現している。また本明細書において、CCR6 SP(single positive)とは、CCRによるThタイプ分類において従来は分類されていなかったタイプであり、CCR4、CCR6、及びCXCR3のうちCCR6のみを発現するThサブセットである。また本明細書において、TP(triple positive)とは、CCRによるThタイプ分類において従来は分類されていなかったタイプであり、CCR4、CCR6、及びCXCR3の3つを発現するThサブセットである。
【0043】
本明細書において、「癌治療」とは、癌患者に対して腫瘍を除去または縮小させるために行われる任意の治療を指し、がん免疫療法、放射線療法、分子標的薬治療、外科的手術、細胞移入、またはこれらの治療の任意の組み合わせなどを含むがこれらに限られるものではない。
【0044】
(癌免疫療法)
癌免疫療法とは、生物の有する生体防御機構を用いて癌を治療する方法である。癌免疫療法には、大きく分けて、癌に対する免疫機能を強化することによる癌免疫療法と、癌の免疫回避機能を阻害することによる癌免疫療法が存在する。さらに、癌免疫療法には、体内での免疫機能を賦活化する能動免疫療法と、体外で免疫機能を賦活化させた、または増殖させた免疫細胞を体内に戻すことによる受動免疫療法とがある。本発明のバイオマーカーは、CD4+T細胞免疫全体のバランスを評価するものであり、腫瘍免疫そのものを全体的に評価するものであると考えられるため、癌免疫療法全般の治療効果を広く予測することが可能なものであると考えられる。
【0045】
癌免疫療法の例としては、非特異的免疫賦活薬、サイトカイン療法、がんワクチン療法、樹状細胞療法、養子免疫療法、非特異的リンパ球療法、がん抗原特異的T細胞療法、抗体療法、免疫チェックポイント阻害療法などが挙げられる。限定されるものではないが、本発明のバイオマーカーは、特に、免疫チェックポイント阻害療法の治療効果を正確に予測するものであることが本明細書の実施例において実証されている。
【0046】
免疫チェックポイント阻害剤の代表的な例は、PD-1阻害剤である。PD-1阻害剤としては、抗PD-1抗体であるニボルマブ(Nivolumab;オプジーボTMとして販売されている)およびペムブロリズマブ(Pembrolizumab)が挙げられるがこれらに限定されない。1つの好ましい実施形態では、ニボルマブが対象として選択され得る。理論に束縛されることを望まないが、ニボルマブを用いた療法が好ましい一つの理由としては、本発明のバイオマーカーを用いると、応答性の被験者と非応答性被験者とを明確に識別することができることが実施例において示されており、特に、特定の閾値により明確に応答性と非応答性とを区別することができることが判明しているからである。もちろん、他のPD-1阻害剤についても同程度に本発明のバイオマーカーを利用することができると考えられる。
【0047】
本発明においては、PD-L1阻害剤およびCTLA-4阻害剤もまたPD-1阻害剤と同様に使用することが可能である。
【0048】
抗PD-1抗体は、PD-1シグナルによるT細胞活性化の抑制を解除することによって抗癌効果を奏するものと考えられている。抗PD-L1抗体もまた、PD-1シグナルによるT細胞活性化の抑制を解除することによって抗癌効果を奏するものと考えられている。PD-1がT細胞機能を阻害するメカニズムは完全には解明されていないものの、PD-1(programmed death 1)とPD-L1あるいはPD-L2とが相互作用すると、PD-1の細胞質ドメインにチロシン脱リン酸化酵素の一種であるSHP-1,2がリクルートされ、T細胞受容体シグナル伝達タンパク質であるZAP70を不活性化させることにより、T細胞の活性化が抑制されると考えられている(Okazaki,T.,Chikuma,S.,Iwai,Y.et al.:A rheostat for immune responses: the unique properties of PD-1 and their advantages for clinical application.Nat.Immunol.,14,1212-1218(2013))。これは、ITSMモチーフという部分にSHP-1,2がリクルートされ、近傍のT cell receptorのproximal signaling kinaseを脱リン酸化することによると考えられ、換言すると、抗原刺激を受けたT細胞からこの「抗原刺激を受けた」という記憶を消してしまうともいうことができる。
【0049】
PD-1は、がん組織に浸潤しているキラーT細胞およびナチュラルキラー細胞において高レベルで発現している。また、腫瘍上のPD-L1によって、PD-1によるPD-1シグナルを介する免疫応答が減弱していると考えられている。PD-L1によって、このPD-1シグナルを介する免疫応答が減弱するが、抗PD-1抗体によってPD-1とPD-L1との相互作用および/または相互作用によって生じるシグナル伝達を阻害すると、抗腫瘍免疫応答の増強効果が得られる。
【0050】
免疫チェックポイント阻害剤の他の例としては、PD-L1阻害剤(例えば、抗PD-L1抗体であるアベルマブ、デュルバルマブまたはアテゾリズマブ)が挙げられる。
【0051】
PD-L1阻害剤は、上記のPD-1経路をPD-L1の側に結合して阻害し、PD-1とPD-L1との相互作用および/または相互作用によって生じるシグナル伝達を阻害し、抗腫瘍免疫応答を生じさせる。したがって、理論に束縛されることを望まないが本発明のバイオマーカーを用いると、PD-1経路を阻害する療法(例えば、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体)に対して応答性の被験者と非応答性被験者とを明確に識別することができるといえる。
【0052】
免疫チェックポイント阻害剤の他の例としては、CTLA-4阻害剤(例えば、抗CTLA-4抗体であるイピリムマブまたはトレメリルマブ)が挙げられる。
【0053】
CTLA-4阻害剤は、T細胞を活性化し、抗腫瘍免疫応答を生じさせる。T細胞は、表面のCD28が、CD80またはCD86と相互作用することによって活性化される。しかしながら、一旦活性化されたT細胞であっても、表面に発現したCTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen 4)が、CD80またはCD86と、CD28よりも高い親和性で優先的に相互作用し、それによって活性化が抑制されると考えられている。CTLA-4阻害剤は、CTLA-4を阻害することによって、CD28とCD80またはCD86との相互作用が阻害されることを防ぐことによって、抗腫瘍免疫応答を生じさせる。
【0054】
さらなる実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、TIM-3(T-cell immunoglobulin and mucin containing protein-3)、LAG-3(lymphocyte activation gene-3)、B7-H3、B7-H4、B7-H5(VISTA)、またはTIGIT(T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domain)などの免疫チェックポイントタンパク質を標的としてもよい。
【0055】
上記のような免疫チェックポイントは、自己組織への免疫応答を抑制していると考えられるが、ウイルスなどの抗原が生体内に長期間存在する場合にもT細胞に免疫チェックポイントが増加する。腫瘍組織についても、生体内に長期間存在する抗原となっているため、これらの免疫チェックポイントによって抗腫瘍免疫応答を回避していると考えられ、上記のような免疫チェックポイント阻害剤は、このような回避機能を無効化し、抗腫瘍効果を奏する。理論に拘束されるものではないが、本発明のバイオマーカーは、ヒトの抗腫瘍免疫応答全体のバランスを評価するものであって、このような免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を正確に予測するための指標として使用できるものと考えられる。
【0056】
本発明の1つの実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物が提供される。免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物は、本発明のバイオマーカーによって評価して選択した被験体に投与されることにより、顕著に高確率で治療効果を得ることができる。
【0057】
本発明の免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物は、通常、全身的または局所的に、経口または非経口の形で投与される。
【0058】
投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、通常、例えば、成人一人あたり、1回につき、0.1mgから100mgの範囲で、1日1回から数回経口投与されるか、または成人一人あたり、1回につき、0.01mgから30mgの範囲で、1日1回から数回非経口投与(好ましくは、静脈内投与)されるか、または1日1時間から24時間の範囲で静脈内に持続投与される。もちろん、投与量は種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、また範囲を越えて必要な場合もある。
【0059】
免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物は、投与にあたり、経口投与のための内服用固形剤、内服用液剤、および非経口投与のための注射剤、外用剤、坐剤等の剤形をとり得る。経口投与のための内服用固形剤には、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等が含まれる。カプセル剤には、ハードカプセルおよびソフトカプセルが含まれる。
【0060】
本発明の組成物は、必要に応じて、1またはそれ以上の活性成分(例えば、免疫チェックポイントタンパク質に対する抗体)がそのままか、または賦形剤(ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、デンプン等)、結合剤(ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等)、崩壊剤(繊維素グリコール酸カルシウム等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム等)、安定剤、溶解補助剤(グルタミン酸、アスパラギン酸等)等と混合され、常法に従って製剤化して用いられる。また、必要によりコーティング剤(白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等)で被覆していてもよいし、また2以上の層で被覆していてもよい。さらにゼラチンのような吸収されうる物質のカプセルも包含される。
【0061】
本発明の組成物は、経口投与のために内服用液剤として製剤化される場合、薬学的に許容される水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含む。このような液剤においては、ひとつまたはそれ以上の活性物質が、一般的に用いられる希釈剤(精製水、エタノールまたはそれらの混液等)に溶解、懸濁または乳化される。さらにこの液剤は、湿潤剤、懸濁化剤、乳化剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、保存剤、緩衝剤等を含有していてもよい。
【0062】
非経口投与のための注射剤としては、溶液、懸濁液、乳濁液および用時溶剤に溶解または懸濁して用いる固形の注射剤を包含する。注射剤は、ひとつまたはそれ以上の活性物質を溶剤に溶解、懸濁または乳化させて用いられる。溶剤として、例えば注射用蒸留水、生理食塩水、植物油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノールのようなアルコール類等およびそれらの組み合わせが用いられる。さらにこの注射剤は、安定剤、溶解補助剤(グルタミン酸、アスパラギン酸、ポリソルベート80(登録商標)等)、懸濁化剤、乳化剤、無痛化剤、緩衝剤、保存剤等を含んでいてもよい。これらは最終工程において滅菌するか無菌操作法によって調製される。また無菌の固形剤、例えば凍結乾燥品を製造し、その使用前に無菌化または無菌の注射用蒸留水または他の溶剤に溶解して使用することもできる。
【0063】
(癌)
本発明において対象とされる癌としては、メラノーマ(悪性黒色腫)、非小細胞肺癌、腎細胞癌、悪性リンパ腫(ホジキンリンパ腫または非ホジキンリンパ腫)、頭頸部癌、泌尿器科癌(膀胱癌、尿路上皮癌、前立腺癌)、小細胞肺癌、胸腺癌、胃癌、食道癌、胃食道接合部癌、肝癌(肝細胞癌、肝内胆管細胞癌)、原発性脳腫瘍(膠芽腫、中枢神経系原発リンパ腫)、悪性胸膜中皮腫、婦人科癌(卵巣癌、子宮頸癌、子宮体癌、)、軟部肉腫、胆道癌、多発性骨髄腫、乳癌、大腸癌などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
(細胞の分画・分離)
T細胞の分画・分離のためのサンプルは、常法によって、被験体から適切に採取することができる。例えば、被験体の末梢血、骨髄、腫瘍組織、造血組織、脾臓、正常組織、リンパ液等から行うことができる。末梢血からのサンプル採取は、非侵襲的で簡便であるため、有利であり得る。
【0065】
被験体のサンプル中のT細胞の組成は、当業者が常法によって測定することができる。通常には、サンプル中の目的とする細胞亜集団を規定するマーカー(例えば、CD4)について、陽性である細胞の数を、フローサイトメトリーなどを用いて測定することが可能である。細胞集団の組成の測定は、フローサイトメトリーを用いることが一般的であるが、その他にも、細胞を含むサンプルに対する免疫染色、抗体アレイを用いる方法、細胞を含むサンプル中でのタンパク質発現分析(例えば、ウエスタンブロット、質量分析、HPLCなど)、細胞を含むサンプル中でのmRNA発現分析(例えば、マイクロアレイ、次世代シークエンシングなど)などを用いて行ってもよい。
【0066】
CXCR3+CCR6+CCR4- T細胞亜集団や、CXCR3-CCR6+CCR4- T細胞亜集団等の細胞亜集団のそれぞれの細胞数を計測するには、全体の細胞からそれぞれの細胞の亜集団以外の細胞を実験的に除いておいて求めてもよい。例えば、CD4+ Effector Memory T cellアイソレーションキット、ヒト(Militenyi Biotech社)などのように、所定の抗体を用いることなく、末梢血から目的のT細胞亜集団に相当する細胞を分離してもよい。例えば、CD4+ Effector Memory T cellアイソレーションキット、ヒト(Militenyi Biotech社)を用いると、CD4抗体とCD62L抗体を用いずに、末梢血からCD4+CD62Llow T細胞亜集団に相当する細胞を分離することができる。全体の生細胞数を数えて記録しておき、またこのキットを用いて得られた細胞数を数え、記録することができる。またCD4+CD25+ Regulatory T cellアイソレーションキット、ヒト(Militenyi Biotech社)を用いると、抗FoxP3抗体を用いずにCD4+CD25+CD4+Foxp3+CD25+T細胞亜集団に相当する細胞の数を求めることができる。FoxP3は細胞内の核に局在するので、核内の分子を染色するためのステップを省く利点がある。同様なキットとして、CD4+CD25+CD127dim/-Regulatory T cellアイソレーションキット、ヒト(Militenyi Biotech社)、CD25+CD49d-Regulatory T cellアイソレーションキット、ヒト(Militenyi Biotech社)も選択できる。本発明の一実施形態においては、目的のT細胞亜集団のそれぞれの細胞数を計測することができるものであれば、いずれのキットも使用できる。
【0067】
また、抗体を用いなくてもよい。抗体は、個々の細胞に発現している分子を特異的に認識して結合できるものであって、さらに抗体が細胞表面上、または細胞内で発現している分子に結合しているときに発色できるようにして検出し、発色している細胞の数を計測する。ここで、それらの細胞表面上、または細胞内で発現している分子はタンパク質であるので、そのタンパク質を発現している場合にはそれをコードしているmRNAも細胞内にできている。すなわち、個々の細胞内のmRNAを調べて、注目しているタンパク質分子をコードしているmRNAの有無を調べればよい。これを可能にしているのが、シングル・セルの遺伝子発現解析、つまり1細胞レベルのmRNA解析である。単細胞の遺伝子発現解析としては、たとえば、1)Quartz-Seqにより次世代シーケンシングを行う方法、2)Fluidigm C1 SystemやICELL8 SIngle-Cell Systemを用いて細胞を単離してSMART-Seq v4でライブラリー調製する方法、3)セルソーターで細胞を分離し、Ambion Single Cell-to-CTキットを用い定量PCRで計測する方法、4)CyTOF SYSTEM(Helios社)などが挙げられる。
【0068】
すなわち、血液を取得し、生細胞数を数え、セルソーター等で細胞を分離する。分離した個々の細胞に対し、例えば、Ambion Single Cell-to-CTキットを用い、特定の遺伝子について発現量を定量PCR法の装置で計測することができる。その結果に基づいて、個々の細胞がCXCR3+CCR6+CCR4- T細胞亜集団や、CXCR3-CCR6+CCR4- T細胞亜集団のどの亜集団に該当するかを調べて、それぞれの亜集団に該当した細胞の数を数えることもできる。発現を調べる遺伝子の候補としては、αβTCR、CD3、CD4、CD25、CTLA4、GITR、FoxP3、STAT5、FoxO1、FoxO3、IL-10、TGFbeta、IL-35、SMAD2、SMAD3、SMAD4、CD62L、CD44、IL-7R(CD127)、IL-15R、CCR7、BLIMP1、などがあるが、これらに限られるものではなく、目的の細胞亜集団に応じて適宜変更可能である。
【0069】
本発明における、細胞亜集団の割合の測定、または基準値や閾値との比較は、規定されたシグナルを有する標準サンプルを用いて行ってもよい。所定の細胞亜集団に対応する蛍光シグナルを生じるように調製された標準(例えば、蛍光色素を付着させた粒子)と、細胞集団を含むサンプルとの間でのシグナルを比較し、標準との比較によって、サンプル中の細胞亜集団の量または割合を測定することができる。また、所定の基準値や閾値に対応する蛍光シグナルを生じるように調製された標準(例えば、蛍光色素を付着させた粒子)と、細胞集団を含むサンプルとの間でのシグナルを比較し、標準との比較によって、サンプル中のT細胞組成における本発明のマーカーの有無もしくは量を判定することが可能である。
【0070】
本発明において、特定のマーカーについて、high(高発現)またはlow(低発現)を判定する場合、当業者は、当技術分野で一般的に用いられている発現強度の分類基準を用いて行うことができる。例えば、CD62Lについて、PE標識抗ヒトCD62L抗体を用いた場合の10E2のシグナルに対応するシグナル強度を境界として、CD62LlowとCD62Lhighとを明瞭に分割することが可能である(WO2018/147291)。
【0071】
本発明の一実施形態において、当業者は、示される細胞の表面マーカーを適切に識別して、細胞を分画または計数することが可能である。
【0072】
CD4 T細胞は、エフェクター細胞として幾つかの分化状態に変化することが知られている。IFNγを主に産生し細胞性免疫に強く関わるTh1や、IL4、IL-5を主に産生しアレルギーに関わるTh2、また自己免疫疾患などに関わることが知られ、IL-17を産生するTh17などがある。それぞれに分化したCD4 T細胞は特徴的なケモカインレセプター(CCR)を発現することが知られており、発現するCCRの種類によってThタイプを分類することができる。ヒトCD4 T細胞のTh分化はマウスなどに比べると複雑であることが知られており、例えば、
図1のように分類することができる(AnnualReviewof Immunology, Vol. 34:317-334 Heterogeneity of HumanCD4+ T CellsAgainstMicrobes, Fig.1)。
【0073】
(好ましい実施形態)
本発明の一局面において、被験体のCD4+T細胞集団中のCCR4-CCR6+細胞
亜集団の相対量を、前記被験体の癌治療に対する応答を予測するための指標として用いる方法が提供される。一実施形態において、本発明の方法は、前記被験体由来のサンプル中の前記細胞亜集団の相対量を決定する工程を含み、前記相対量と基準値との比較を、前記被験体の癌治療に対する応答を予測するための指標として用いる。他の実施形態において、前記相対量と基準値との比較を、前記被験体の長期生存を予測するための指標として用いる。
【0074】
本発明の他の局面において、被験体のCCR4-CCR6+CD4+T細胞亜集団の量
を、前記被験体の癌治療に対する応答を予測するための指標として用いる方法が提供される。一実施形態において、本発明の方法は、前記被験体由来のサンプル中の前記細胞亜集団の量を決定する工程を含み、前記量と基準値との比較を、前記被験体の癌治療に対する応答を予測するための指標として用いる。他の実施形態において、前記量と基準値との比較を、前記被験体の長期生存を予測するための指標として用いる。
【0075】
本発明の局面において、被験体のCD4+T細胞集団中のCCR4-CCR6+細胞亜
集団の相対量を、前記被験体の癌治療に対する応答を予測するための指標として用いる方法であって、前記被験体由来のサンプル中の前記細胞亜集団の相対量と無効群閾値との比較を、前記被験体が前記癌治療に対して無効群であるか否かを予測するための指標として用いる方法が提供される。
【0076】
本発明の他の局面において、被験体のCCR4-CCR6+CD4+T細胞亜集団の量
を、前記被験体の癌治療に対する応答を予測するための指標として用いる方法であって、前記被験体由来のサンプル中の前記細胞亜集団の量と無効群閾値との比較を、前記被験体が前記癌治療に対して無効群であるか否かを予測するための指標として用いる方法が提供される。
【0077】
本発明の一実施形態において、前記量または相対量が無効群閾値以上であることによって、前記被験体が前記癌治療に対して無効群ではないことを示すことができる。また他の実施形態において、前記量または相対量が基準値以上であることによって、前記被験体が前記癌治療に対して応答すること、または癌治療後の長期の無増悪生存期間を示すことができる。
【0078】
また本発明の他の局面において、被験体のCD4+T細胞集団中のCCR4-CCR6
+細胞亜集団の相対量を、前記被験体のがん免疫療法に対する応答を予測するための指標として用いる方法が提供される。一実施形態において、本発明の方法は、前記被験体由来のサンプル中の前記細胞亜集団の相対量を決定する工程を含み、前記相対量と基準値との比較を、前記被験体のがん免疫療法に対する応答を予測するための指標として用いる。他の実施形態において、前記相対量と基準値との比較を、前記被験体の長期生存を予測するための指標として用いる。
【0079】
本発明の他の局面において、被験体のCCR4-CCR6+CD4+T細胞亜集団の量
を、前記被験体のがん免疫療法に対する応答を予測するための指標として用いる方法が提供される。一実施形態において、本発明の方法は、前記被験体由来のサンプル中の前記細胞亜集団の量を決定する工程を含み、前記量と基準値との比較を、前記被験体のがん免疫療法に対する応答を予測するための指標として用いる。他の実施形態において、前記量と基準値との比較を、前記被験体の長期生存を予測するための指標として用いる。
【0080】
本発明の局面において、被験体のCD4+T細胞集団中のCCR4-CCR6+細胞亜
集団の相対量を、前記被験体のがん免疫療法に対する応答を予測するための指標として用いる方法であって、前記被験体由来のサンプル中の前記細胞亜集団の相対量と無効群閾値との比較を、前記被験体が前記がん免疫療法に対して無効群であるか否かを予測するための指標として用いる方法が提供される。
【0081】
本発明の他の局面において、被験体のCCR4-CCR6+CD4+T細胞亜集団の量
を、前記被験体のがん免疫療法に対する応答を予測するための指標として用いる方法であって、前記被験体由来のサンプル中の前記細胞亜集団の量と無効群閾値との比較を、前記被験体が前記がん免疫療法に対して無効群であるか否かを予測するための指標として用いる方法が提供される。
【0082】
本発明の一実施形態において、前記量または相対量が無効群閾値以上であることによって、前記被験体が前記がん免疫療法に対して無効群ではないことを示すことができる。また他の実施形態において、前記量または相対量が基準値以上であることによって、前記被験体が前記がん免疫療法に対して応答すること、または癌免疫療法後の長期の無増悪生存期間を示すことができる。
【0083】
本発明においては、実施例において示されるように、被験体のCCR4-CCR6+C
D4+T細胞亜集団の量またはその相対量が、癌免疫療法、放射線治療、および分子標的薬投与などの癌治療後の無増悪生存期間に比例することが見出されている。そのため、一実施形態においては、被験体のCCR4-CCR6+CD4+T細胞亜集団の量またはそ
の相対量が多いことが、当該被験体が癌免疫療法(特に、免疫チェックポイント阻害剤による癌免疫療法)、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療に対して応答性であると予測することができる。
【0084】
したがって、本発明において、細胞亜集団量を適切な基準と比較し、比較によって被験体におけるがん免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療における長期生存(例えば、がん免疫療法後に500日以上の無増悪生存期間)を予測することもできる。例えば、サンプルにおける細胞亜集団の量が、無増悪生存期間として500日を示すCCR4-CCR6+CD4+T細胞亜集団の量に相当する基準より増加し
ていることは、被験体においてがん免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療における長期生存が予測されることを示し得る。あるいは、サンプルにおける細胞亜集団の量が、基準より増加していないことは、被験体においてがん免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療における長期生存が予測されないことを示し得る。
【0085】
基準または基準値としては、例えば、がん免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療前の被験体のサンプルにおける対応する細胞亜集団の量が挙げられるが、これに限定されるものではない。このほか、基準としては、がん免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療を受けていない被験体のサンプルから実験的に算出した値などを用いることも可能である。また基準または基準値としては、所定の無増悪生存期間を示す値を採用することもできる。
【0086】
基準と比べて増加していることは、がん免疫療法後の細胞亜集団量が、基準を超える量であるか、基準の1、2、3、4、5、10、15、20、30%を超えて増加しているか、あるいは基準の1.5倍、2倍、3倍、5倍を超えて増加していることによって示され得る。典型的には、基準の値を超えていれば、基準と比べて増加していると考えられる。基準が実験的に算出されている場合、基準値から見て適切な誤差を超える増加が観察された場合に、基準と比べて増加しているとすることができる。適切な誤差としては、例えば、1標準偏差、2標準偏差、3標準偏差、またはそれら超が挙げられる。
【0087】
被験体のCD4+T細胞集団中の本発明の特定の細胞亜集団の相対量を、長期生存群の検出、無効群の検出、奏効群の検出、および/または安定群の検出のために使用し得る。これらの群の検出は、被験体のCD4+T細胞集団中の本発明の特定の細胞亜集団の相対量を、閾値と比較することによって達成され得る。
【0088】
この閾値は、感度および特異度を考慮して決定することができる。感度および特異度は、長期生存群の検出、無効群の検出、奏効群の検出、または安定群の検出についての感度および特異度であり得る。1つの実施形態において、本発明のバイオマーカーは、感度、特異度とも100%となる閾値を設定することができる。本発明のバイオマーカーとして記載される指標の2つ以上を用いる場合、それらの指標についてそれぞれ閾値を定めることができ、必要な場合には、第1の閾値、第2の閾値、第3の閾値、第4の閾値のようにして区別して用いることができる。
【0089】
閾値は、長期生存群の検出、無効群の検出、奏効群の検出、または安定群の検出について感度が約90%超となるように決定され得る。別の実施形態では、閾値が、無効群の検出、奏効群の検出、または安定群の検出について感度が約100%となるように決定され得る。さらに別の実施形態では、閾値は、無効群の検出、奏効群の検出、または安定群の検出について特異度が約90%超となるように決定され得る。さらに別の実施形態では、閾値は、無効群の検出、奏効群の検出、または安定群の検出について特異度が約100%となるように決定され得る。
【0090】
本発明のバイオマーカーは、CD4+T細胞、樹状細胞、および/またはCD8+T細胞を含めた抗腫瘍免疫応答全体のバランスを評価するものであり、腫瘍免疫そのものを全体的に評価するものであると考えられる。そのため、本発明の方法は、幅広い癌腫に対して有効なものであるということができる。また本発明は、抗腫瘍免疫応答全体のバランスを評価するものであることから、PD-1やPD-L1に対する免疫チェックポイント阻害剤のみならず、他の免疫チェックポイントに対して作用する抗癌治療に対しても有効であることが予測される。また放射線治療や分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療についても、生体内の抗腫瘍免疫と協働して腫瘍を治癒するものであるため、抗腫瘍免疫の状態を評価し得る本発明のバイオマーカーやそれを用いた方法により、がん免疫療法以外の癌治療にも有効であるといえる。
【0091】
また本発明のCCR4-CCR6+細胞亜集団、CCR4-CCR6+CXCR3+細胞亜集団、またはCCR4-CCR6+CXCR3-細胞亜集団などの特定の細胞集団は、
その細胞集団が多く存在する場合には、本来抗腫瘍効果を発揮するのに十分なT細胞免疫が準備されていると評価することができるものであるため、その治療対象となる患者が罹患している癌種は特に限られるものではない。癌としては固形癌や造血器腫瘍のいずれであってもよく、例えば非小細胞肺癌、小細胞肺癌、腎癌、ホジキン病、頭頸部癌、乳癌、胃癌、悪性黒色腫、大腸癌、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、消化管間質腫瘍、膵神経内分泌種腫瘍、皮膚癌など、いわゆる抗腫瘍免疫が関連して治療する癌に対する癌治療の効果を予測することができる。
【0092】
理論に拘束されることは望まないが、抗PD-1抗体に代表される免疫チェックポイント阻害薬の抗腫瘍効果は、担癌宿主に予め存在しているT細胞免疫の状態により決定される。これを利用して、特許第6664684号では、末梢血T細胞クラスター解析を行うことで得られる%CD62Llow/CD4+CD3+T細胞が、PD-1阻害薬治療の短期的奏効の有無、無増悪生存期間、全生存期間を予測することを可能にしている。この性能は、CD62Lと同じ二次リンパ組織へのホーミング分子であるCCR7を用いても再現することはできず、約120種類に分類したT細胞クラスターによる予測性能解析でも、%CD62Llow/CD4+CD3+T細胞を凌ぐものはなかった。
【0093】
他方で、上記のとおり、CD4 T細胞は、エフェクター細胞として幾つかの分化状態に変化することが知られている。IFNγを主に産生し細胞性免疫に強く関わるTh1や、IL4、IL-5を主に産生しアレルギーに関わるTh2、また自己免疫疾患などに関わることが知られ、IL-17を産生するTh17などがある。それぞれに分化したCD4 T細胞は特徴的なケモカインレセプター(CCR)を発現することが知られており、発現するCCRの種類によってThタイプを分類することができる。ヒトCD4 T細胞のTh分化はマウスなどに比べると複雑であることが知られており、例えば、
図1のように分類することができる(AnnualReviewof Immunology, Vol. 34:317-334 Heterogeneity of HumanCD4+ T CellsAgainstMicrobes, Fig.1)。
【0094】
本発明では、CD62LlowCD4+CD3+T細胞が抗腫瘍免疫と強く相関することを利用し、CD62LlowCD4+CD3+T細胞をさらにCCRタイプによりTh分類して、抗腫瘍効果と最も強く相関するThクラスターを解析することで、新たなバイオマーカーを得ている。一実施形態において、抗腫瘍効果を評価する数値としてPembrolizumab治療後の無増悪生存期間(PFS)を用いている。
【0095】
また上記のとおり、本発明の方法は、CD62LlowCD4+CD3+T細胞の中でも特定のThクラスターの存在量を通じて、被験体における抗腫瘍免疫の状態を評価することができるものである。免疫状態はその被験者に対する治療の効果に関連するものであるため、本発明の方法によって、がん免疫療法のみならず、放射線治療や分子標的薬投与、および外科的手術による癌治療に対する効果を予測することができる。
【0096】
本発明の一実施形態においては、CCR4-CCR6+細胞亜集団に加えて、さらにC
XCR3+細胞亜集団を用いることも可能である。かかる細胞亜集団は、CCR4-CC
R6+CXCR3+となり、Thタイプで分類するとTh1/17に分類される。
【0097】
本発明の一実施形態においては、CCR4-CCR6+細胞亜集団に加えて、さらにC
XCR3-細胞亜集団を用いることも可能である。かかる細胞亜集団は、CCR4-CCR6+CXCR3-となり、Thタイプで分類するとCCR6 SP(single po
sitive)に分類される。
【0098】
さらに本発明の他の一実施形態においては、CCR4-CCR6+細胞亜集団に加えて
、さらにFoxP3-細胞亜集団を用いることも可能である。かかる細胞亜集団は、CC
R4-CCR6+FoxP3-となり、Thタイプで分類するとTh1/17とCCR6 SPとを組み合わせたものとなる。
【0099】
さらに本発明の他の一実施形態においては、CCR4-CCR6+細胞亜集団に加えて
、さらにCD62Llow細胞亜集団を用いることも可能である。またはCCR4-CC
R6+細胞亜集団に加えて、さらにCD45RA-細胞亜集団を用いることも可能である。
【0100】
本発明では、上記のとおり、CD62LlowCD4+CD3+T細胞が抗腫瘍免疫と強く相関することを利用し、CD62LlowCD4+CD3+T細胞をさらにCCRタイプによりTh分類して、抗腫瘍効果と最も強く相関するThクラスターを解析することで、新たなバイオマーカーを得ている。そして本発明者らは、このCD62Llowという形質の意義を調べるため、single cell RNAseqによるTCRレパトア解析を行っている。その結果、末梢血循環中CD62Llow分画は、極めて選択性の高い僅かなクローンで構成されており、放射線治療でがん抗原を放出させた後に増加するのは、CD62LlowT細胞クローンのみであったことがわかっている。このことから、本発明者らは、CD62LlowT細胞はがん抗原特異的T細胞クローンで構成され、生体内における抗腫瘍効果を発揮するための重要な役割を担っていることを見出した。
【0101】
また本発明は、
図2に示すようなCyTOFのviSNE解析によってCD4
+細胞をマッピングした場合に、CD62L
lowCD4
+T細胞に含まれる5種類のTh分類(Th1、Th1/17、Th17、CCR6 SP、TP)のうち、どのクラスターが抗腫瘍免疫に重要であるのかを見出している。理論に拘束されることを望まないが、がん抗原放出に反応しクローン増殖するT細胞はCD62L
lowCD4
+T細胞にしか見出されないことから、CD62L
lowCD4
+T細胞に含まれる5種類のTh分類のいずれかが抗腫瘍効果を担うものとなる。そのため、本発明の一局面において、CD62L
lowCD4
+T細胞に含まれる5種類のTh分類の中から、それぞれの癌種やそれに対する治療法に応じた免疫状態を適切に評価することができるクラスターまたは細胞亜集団を選択して、その細胞亜集団の存在量や相対量を用いて、被験体の癌治療に対する応答を予測するための指標として用いる方法を提供することができる。
【0102】
本発明では、実施例に示すとおり、CD62L
lowCXCR3
+CCR6
+CCR4
- CD4
+とCD62L
lowCXCR3
-CCR6
+CCR4
- CD4
+の2つのクラスターが無増悪生存期間と有意な相関を示すことを見出している。理論に拘束されることは望まないが、CyTOFのviSNE解析では、
図2に示すとおり、この2つのクラスターは隣在しており、各種分子発現が近似しているクラスターと考えられる。Single cell RNAseqを用いた結果でも、異なる遺伝子発現を持ちながら近似した遺伝子発現パターンを有していることが判明している。一方、この2つのクラスターは、Th1、Th17細胞とは遺伝子発現パターンが異なっている(
図15)。したがって、この2つのクラスターは、Th1、Th17細胞とは異なりながら、お互いに近似した細胞機能を発揮する分化状態にあると考えられる。また本発明では、実施例に示すとおり、CD4
+細胞全体に対するCXCR3
+CCR6
+CCR4
-及びCXCR3
-CCR6
+CCR4
-の細胞比率は、CD62L
lowCXCR3
+CCR6
+CCR4
-、CD62L
lowCXCR3
-CCR6
+CCR4
-及びCD62L
low CD4
+細胞割合との間に有意な相関を示すことを見出しており(
図16)、これにより、CD62Lを用いずに、CXCR3
+CCR6
+CCR4
-及びCXCR3
-CCR6
+CCR4
-の細胞比率を用いても、CD62L
lowCXCR3
+CCR6
+CCR4
-CD4
+、及びCD62L
lowCXCR3
-CCR6
+CCR4
-CD4
+細胞割合と同等の予測性能を得ることが可能であることを見出した。
【0103】
抗腫瘍免疫応答においては、T細胞組成が重要であると考えられるところ、CD62LlowCXCR3+CCR6+CCR4- CD4+細胞、CD62LlowCXCR3-CCR6+CCR4- CD4+細胞は、CD62LlowCD4+T細胞の中でも特有な遺伝子発現パターンを有し、他のCD62LlowCD4+T細胞とはT細胞レセプターclonotypeも異なっている。CD62LlowCXCR3+CCR6+CCR4- CD4+細胞、CD62LlowCXCR3-CCR6+CCR4- CD4+細胞に特有な遺伝子発現は、樹状細胞などの抗原提示細胞を介したCD8+ T細胞のプライミング、遊走能、腫瘍浸潤能、殺細胞機能をヘルプするのに必須なCD4+ T細胞機能を担い、特有なclonotypeはがん抗原特異性を有するものと考えられる。このような細胞機能と抗原特異性を有するCD62LlowCXCR3+CCR6+CCR4- CD4+細胞、および/またはCD62LlowCXCR3-CCR6+CCR4- CD4+細胞が準備されていなければ、免疫チェックポイント阻害薬を投与しても、抗腫瘍免疫応答を十分に行うことができない。そのため、CD4+T細胞中のCD62LlowCXCR3+CCR6+CCR4- CD4+細胞、および/またはCD62LlowCXCR3-CCR6+CCR4- CD4+細胞の割合は、免疫チェックポイント阻害薬による抗腫瘍効果を予測する指標となる。本発明では、数理学的ネットワーク解析の結果、同様なCCR発現パターンを示すがCD62Lを発現するCD62LhighCXCR3+CCR6+CCR4-細胞、および/またはCD62LhighCXCR3-CCR6+CCR4-細胞のCD4+T細胞に対する割合がCD62LlowCXCR3+CCR6+CCR4-CD4+細胞、および/またはCD62LlowCXCR3-CCR6+CCR4-CD4+細胞割合と一定の相関関係を有することを見出した。この結果、CD4+細胞におけるCXCR3+CCR6+CCR4-及びCXCR3-CCR6+CCR4-全体の細胞の和であるCCR4-CCR6+細胞亜集団の量または相対量か
ら、同等の予測性能を備えたまま、免疫チェックポイント阻害薬を含む癌治療による抗腫瘍効果を予測する指標となり得ることを示している。
【0104】
本発明の一局面において、本発明は、癌治療(例えば、免疫チェックポイント阻害剤による治療)に対する応答を予測するための指標を探索または決定する方法であって、
・当該癌治療前の被験体のCD62LlowCD4+T細胞における亜集団と、当該被験体の癌治療に対する応答とを相関させる工程と、
・この相関に基づいて、当該癌治療と相関する亜集団を、当該癌治療に対する応答の予測のための指標とする工程と
を包含し得る。好ましい実施形態において、この亜集団は、5種類のTh分類、すなわちTh1(CXCR3+CCR6-CCR4-)、Th1/17(CXCR3+CCR6+CCR4-)、Th17(CXCR3-CCR6+CCR4+)、CCR6 SP(CXCR3-CCR6+CCR4-)、TP(CXCR3+CCR6+CCR4+)であり得る。
【0105】
すなわち、上記のとおり本発明は、CD62LlowCD4+T細胞に含まれる5種類のTh分類の中から、それぞれの癌種やそれに対する治療法に応じた免疫状態を適切に評価することができるクラスターまたは細胞亜集団を選択して、その細胞亜集団の存在量や相対量を用いて、被験体の癌治療に対する応答を予測するための指標として用いる方法を提供することができる。5種類のTh分類に加えて、あるいは、これらの代替的に、それぞれの癌種やそれに対する治療法に応じた免疫状態を適切に評価することができるクラスターまたは細胞亜集団としては、CD62LhighCD4+T細胞に含まれる6種類のTh分類、すなわち、CD62LhighTh1(CXCR3+CCR4-CCR6-)細胞亜集団、CD62LhighTh1/17(CXCR3+CCR4-CCR6+)細胞亜集団、CD62LhighCCR6 SP(CXCR3-CCR4-CCR6+)細胞亜集団、CD62LhighTh17(CXCR3-CCR4+CCR6+)細胞亜集団、CD62LhighTh2(CXCR3-CCR4+CCR6-)細胞亜集団、CD62LhighTN(CXCR3-CCR4-CCR6-)細胞亜集団がある。
【0106】
さらに、Th分類亜集団に加えることで免疫状態を適切に評価することができるエフェクターCD4+ T細胞亜集団として、CCR7+CD62LlowCD4+T細胞亜集団、PD1+CCR7+CD62LlowCD4+T細胞亜集団、LAG-3+CCR7+CD62LlowCD4+T細胞亜集団、CD45RA-Foxp3-CD4+T細胞亜集団を、制御性T細胞亜集団として、CD127+CD25+CD4+T細胞亜集団、CD45RA-Foxp3+CD4+T細胞亜集団、Foxp3+CD25+CD4+T細胞亜集団を、エフェクターCD8+ T細胞亜集団として、CD62LlowCD8+T細胞亜集団を、それぞれ挙げることができる。
【0107】
(キット)
本発明の1つの局面において、被験体のがん免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療に対する応答を予測するための、細胞表面マーカーに対する検出剤を含むキットが提供される。被検体のT細胞が発現するこれらの細胞表面マーカーが、被験体のがん免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療に対する長期無増悪生存に関係することが本発明者によって見出された。これにより、これらの細胞表面マーカーに対する検出剤を含むキットが、がん免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療に対する長期無増悪生存の予測に有用であることが理解される。かかるキットは、本明細書に記載される細胞亜集団を検出するために適切な分子に対する1または複数の検出剤を含み得る。このような検出剤の組み合わせを、被験体のT細胞組成の決定に用いることができる。このようなキットは、被験体における、本明細書に記載される新規なバイオマーカーとしての特定の細胞亜集団の割合の測定に用いることができる。
【0108】
本発明の一実施形態において、本発明のキットは、被験体のCD4+T細胞集団中のCCR4-CCR6+細胞亜集団の相対量と、基準値との比較を、当該被験体のがん免疫療
法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療に対する応答を予測するための指標として用いることによって、被験体の癌免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療に対する応答を予測することができる。他の実施形態において、本発明のキットは、被験体のCD4+T細胞集団中のCCR4-CCR6+
細胞亜集団の相対量と、無効群閾値との比較を、当該被験体が癌免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療に対して無効群であるか否かの指標として用いることによって、被験体の癌免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療に対する応答を予測することができる。
【0109】
本発明の一実施形態において、本発明のキットは、CD4、CCR4、およびCCR6に対する検出剤を含むことができ、他の実施形態において、本発明のキットはさらにCXCR3、CD62Lに対する検出剤を含むこともできる。1つの実施形態では、検出剤は抗体である。好ましくは、抗体は適切に標識されマーカーの検出を容易にする。
【0110】
1つの実施形態では、被験体のT細胞の組成は、被験体から得られたサンプル中のT細胞の組成であり、好ましくは、サンプルは、末梢血サンプルである。本発明において提供されるバイオマーカーは、末梢血サンプルを使用して測定することができるものであるため、非侵襲的、安価で経時的に施行可能という、臨床応用における大きな優位性を有している。
【0111】
1つの実施形態では、がん免疫療法は、免疫チェックポイント阻害剤の投与を含む。本発明のバイオマーカーは、特に、このようながん免疫療法に対する被験体の応答を正確に予測することができる。
【0112】
本発明の好ましい実施形態では、被験体ががん免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療に対して応答しないことが示される場合、例えば、CD4+T細胞集団中のCCR4-CCR6+細胞亜集団の量または相対量が基準値未満の場
合に、追加の治療を行うべきことが検討される。この場合、追加の治療として、投与されているがん免疫療法に加えて、がん免疫療法ではない治療(例えば、化学療法、放射線療法、外科的手順、温熱療法など)を行うか、さらなるがん免疫療法(例えば、免疫チェックポイント阻害薬、養子細胞移入など)を行うことができる。代表的には、既に投与されている免疫チェックポイント阻害薬に対して、他の化学療法薬または第2の免疫チェックポイント阻害薬の併用を検討し得る。組み合わせる治療については、本願明細書に記載の任意の治療が行われ得る。
【0113】
1つの実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1阻害剤またはPD-L1阻害剤を含む。PD-1阻害剤としては、PD-1とPD-L1の相互作用(例えば、結合)を阻害する抗PD-1抗体、例えば、ニボルマブ、ペムブロリズマブなどの抗PD-1抗体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。PD-L1阻害剤としては、PD-1とPD-L1の相互作用(例えば、結合)を阻害する抗PD-L1抗体、例えば、デュルバルマブ、アテゾリズマブ、アベルマブなどの抗PD-L1抗体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0114】
本発明のさらなる局面は、被験体のT細胞の組成を用いて被験体のがん免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療に対する応答を予測し、がんを有する被験体を治療する方法を提供する。あるいは、特定のT細胞の組成を有する被験体において、がんを治療する方法、またはそのための組成物を提供する。がん免疫療法、特に免疫チェックポイント阻害療法は、被験体ごとの応答性の差が大きいことが知られており、本発明のバイオマーカーによって被験体を選択してがん免疫療法を施すことは、腫瘍縮小などの治療効果が奏される確率を顕著に高めることができる。
【0115】
上記のものを含めた本明細書に記載の方法を用いて、癌免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療に対して応答することが示された被験体に、癌免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療を施すことができる。癌免疫療法は、本明細書に記載の任意のものであり得る。
【0116】
本発明の別の実施形態において、がんを有する被験体を治療する方法であって、該被験体由来のサンプル中の、CD4+T細胞集団中のCCR4-CCR6+細胞亜集団の相対
量を決定する工程と、CD4+T細胞集団中のCCR4-CCR6+細胞亜集団の相対量
が基準値よりも高い場合に、前記被験体が、がん免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療に対して応答すると判定する工程と、前記被験体ががん免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療に対して応答すると判定された場合に、前記被験体に前記がん免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療を施す工程とを含む、方法が提供される。
【0117】
本発明の別の局面は、がん免疫療法に対して応答すると予測された被験体においてがんを治療するための、免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物である。本発明においてまた、添付文書と、免疫チェックポイント阻害剤とを含む製品が提供され得る。添付文書は、本明細書に記載される方法のいずれか1つまたは複数の工程に従って免疫チェックポイント阻害剤を使用するための指示を記載したものであってよい。
【0118】
本発明の1つの実施形態は、がん免疫療法に対して応答すると予測された被験体においてがんを治療するための、免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物であって、前記被験体は、CD4+T細胞集団中のCCR4-CCR6+細胞亜集団の相対量が基準値以上で
あることを特徴とする、組成物である。
【0119】
1つの実施形態では、組成物は、PD-1阻害剤を含む。PD-1阻害剤は、例えば、PD-L1とPD-1との結合を阻害する抗PD-1抗体であり、例えば、ニボルマブまたはペムブロリズマブであり得る。他の実施形態では、組成物は、PD-L1阻害剤を含む。PD-L1阻害剤は、例えば、PD-L1とPD-1との結合を阻害する抗PD-L1抗体であり、例えば、デュルバルマブ、アテゾリズマブまたはアベルマブであり得る。これらの免疫チェックポイント阻害剤を含む組成物は、本発明のバイオマーカーによって選択した被験体に投与した場合、特に高い確率で治療効果を奏すると考えられる。本発明の組成物は、任意の他の薬剤と併用されてもよい。
【0120】
本発明の一実施形態において、がん免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療を受けた被験体における細胞亜集団の組成を、がん免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療に対する応答を予測するための指標とする方法が提供される。方法は、サンプルにおける細胞亜集団の組成を分析する工程を含み得る。細胞亜集団の組成の分析は、本明細書に記載されるか、または当業者にとって公知である任意の方法によって行うことが可能である。方法は、インビトロまたはインシリコのものであってもよい。本発明の1つの実施形態において、細胞亜集団の量と適切な基準との比較により、被験体における免疫活性化の有無が示される。特に、細胞亜集団は、CD4+T細胞集団中のCCR4-CCR6+細胞亜集団を用いることができる。
【0121】
(細胞療法およびそのための目的の細胞の増殖)
本発明者は、CD4+T細胞集団中の、CCR4-CCR6+細胞亜集団、CCR4-CCR6+CXCR3+細胞亜集団、またはCCR4-CCR6+CXCR3-細胞亜集団
など特定の細胞集団の割合と、がん免疫療法(特に、がん免疫チェックポイント阻害剤によるがん免疫療法)、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療の応答との間に明確な相関関係があること、具体的には、がん免疫チェックポイント阻害剤による抗腫瘍効果が発揮されるためには、抗腫瘍効果を発揮するT細胞である特定の細胞亜集団を多く含むことが必須であることを見出した。
【0122】
理論に拘束されるものではないが、この知見から、CD4+T細胞集団中に、CR4-
CCR6+細胞亜集団(特に、CD62LlowCCR4-CCR6+細胞亜集団)、C
CR4-CCR6+CXCR3+細胞亜集団(特に、CD62LlowCCR4-CCR6+CXCR3+細胞亜集団)、またはCCR4-CCR6+CXCR3-細胞亜集団(特
に、CD62LlowCCR4-CCR6+CXCR3-細胞亜集団)など特定の細胞集
団を多く含む癌患者の場合には、本来抗腫瘍効果を発揮するのに十分なT細胞免疫が準備されながら、免疫チェックポイント分子発現による抗原認識シグナルの減弱により免疫回避されているものと理解される。他方、これらの特定の細胞集団を多く含まない患者では、免疫チェックポイント阻害剤によって免疫逃避機構をブロックしたとしても、CD8+T細胞機能をヘルプすることができるCD4+ T細胞機能の回復を望むことができず、結果として満足な抗腫瘍効果が発揮されないと考えられる。
【0123】
以上より、CD4+T細胞集団中に、CD62LlowCCR4-CCR6+細胞亜集
団、CD62LlowCCR4-CCR6+CXCR3+細胞亜集団、もしくはCD62
LlowCCR4-CCR6+CXCR3-細胞亜集団、またはCCR4-CCR6+細胞亜集団、CCR4-CCR6+CXCR3+細胞亜集団、もしくはCCR4-CCR6+CXCR3-細胞亜集団など特定の細胞集団が少なく、そのために免疫チェックポイント阻害剤による抗腫瘍効果が発揮されない患者に対しては、これらの特定の細胞集団を投与することによって免疫チェックポイント阻害剤による抗腫瘍効果を発揮/増強することが可能であると考えられる。
【0124】
したがって、本発明のさらなる局面は、特定の細胞を移入することによって、がん免疫療法の治療効果を改善、または維持・継続するための方法、またはそのための組成物である。
【0125】
CD62LlowCCR4-CCR6+CD4+T細胞、および/またはCCR4-CCR6+CD4+T細胞が、がん免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療に対する被験体の応答に重要であることが見出され、そのようなT細胞を用いることで、被験体のがん免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療に対する応答性を改善または維持することができると考えられる。本発明の1つの実施形態は、CD62LlowCCR4-CCR6+CD4+T細胞またはCCR
4-CCR6+CD4+T細胞を含む組成物である。CD62LlowCCR4-CCR6+CD4+T細胞もしくはCCR4-CCR6+CD4+T細胞、またはそれを含む組成
物は、がん免疫療法、放射線治療、分子標的薬投与、および外科的手術などの癌治療と併用するために有用である。
【0126】
例えば、CD62LlowCCR4-CCR6+CD4+T細胞またはCCR4-CCR6+CD4+T細胞を含む組成物の製造方法は、ヒト由来のT細胞集団からCD62LlowCCR4-CCR6+CD4+T細胞またはCCR4-CCR6+CD4+T細胞を純化する工程を含み得る。純化する工程は、CCR6+CD4+T細胞からCD62Lhigh細胞やCCR4+細胞を除去すること(ネガティブセレクション)を含んでよい。CCR4-CCR6+CD4+T細胞を、抗体および/または磁気ビーズ、ソーティング法などを用いてネガティブセレクションによって純化することは、使用しようとする細胞上に、抗体や磁気ビーズ等の夾雑物が残らないため好ましい。CD62LlowCCR4-CCR6+CD4+T細胞は、CD62Lhigh細胞、CCR4+細胞をネガティブセレクションした細胞群からCCR6+細胞をソーティングによりポジティブセレクションすることで得られる。
【0127】
Tリンパ球は、公知の技術に従って収集して、フローサイトメトリーおよび/または免疫磁気選択などの抗体への親和結合などの公知の技術により濃縮し、または枯渇させることができる。濃縮および/または枯渇ステップ後、所望のTリンパ球のインビトロ増殖は、公知の技術(Riddellらの米国特許第6,040,177号に記載されたものが挙げられるが、それらに限定されない)または当業者に明らかであろうそれらのバリエーションに従って実行することができる。
【0128】
例えば、所望のT細胞集団または亜集団を、インビトロで最初のTリンパ球集団を培地へ加え、その後、その培地へフィーダー細胞を加え(例えば、生じる細胞集団が、増殖されるべき最初の集団における1個のTリンパ球に対して少なくとも約5個、10個、20個、または40個、またはそれ以上のフィーダー細胞を含有するように)、その培養物を(例えば、T細胞の数を増加させるのに十分な時間)インキュベートすることにより増殖させてもよい。培養物は、典型的には、Tリンパ球の成長に適している温度などの条件下でインキュベートすることができる。ヒトTリンパ球の成長について、例えば、温度は、一般的には、少なくとも摂氏約25度、好ましくは少なくとも約30度、より好ましくは約37度であろう。
【0129】
細胞は、本明細書で記載される、または当技術分野で周知の方法に従って、分離および/または増殖したのち、必要に応じて保存し、その後被験体に投与することができる。
【0130】
本発明の細胞を含む組成物における目的の細胞(例えば、CCR4-CCR6+CD4
+T細胞)の量は、意図される効果を奏するように当業者が適切に決定することができるが、例えば、少なくとも2x108個、好ましくは少なくとも6x108個、より好ましくは少なくとも2x109個であり得る。
【0131】
本明細書に記載される細胞を含む組成物は、目的の細胞(例えば、CCR4-CCR6
+CD4+細胞)に加えて、薬学的に許容しうるキャリアもしくは賦形剤を含み得る。本明細書において「薬学的に許容しうる」は、動物、そしてより詳細にはヒトにおける使用のため、政府の監督官庁に認可されたか、あるいは薬局方または他の一般的に認められる薬局方に列挙されていることを意味する。本明細書において使用される「キャリア」は、治療剤を一緒に投与する、培養液、移入液、潅流液、希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。本発明の細胞を含む組成物は、細胞を主成分として含むため、キャリアとしては、培養液、移入液、潅流液などの、細胞を維持し得るものが好ましい。例えば、医薬組成物を静脈内投与する場合は、生理食塩水および水性デキストロースが好ましいキャリアである。好ましくは、生理食塩水溶液、並びに水性デキストロースおよびグリセロール溶液が、注射可能溶液の液体キャリアとして使用される。医薬を経口投与する場合は、水が好ましいキャリアである。適切な賦形剤には、軽質無水ケイ酸、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩等が含まれる。組成物は、望ましい場合、少量の湿潤剤または乳化剤、あるいはpH緩衝剤もまた含有することも可能である。これらの組成物は、溶液、懸濁物、エマルジョン、錠剤、ピル、カプセル、粉末、持続放出配合物等の形を取ることも可能である。伝統的な結合剤およびキャリア、例えばトリグリセリドを用いて、組成物を座薬として配合することも可能である。経口配合物は、医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリン・ナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的キャリアを含むことも可能である。適切なキャリアの例は、E.W.Martin, Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)に記載される。このような組成物は、患者に適切に投与する形を提供するように、適切な量のキャリアと一緒に、治療有効量の療法剤、好ましくは精製型のものを含有する。配合物は、投与様式に適していなければならない。これらのほか、例えば、界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含んでいてもよい。
【0132】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et
al.(1989).Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.AssociatESand Wiley-Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to
Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications: Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0133】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0134】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0135】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0136】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。したがって、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0137】
(実施例1:抗PD-1抗体の治療効果とT細胞集団組成)
1.目的
本実施例では、CD62LlowCD4+CD3+T細胞が抗腫瘍免疫と強く相関することを利用し(特許第6664684号)、CD62LlowCD4+CD3+T細胞をさらにCCRタイプによりTh分類して、抗腫瘍効果と最も強く相関するThクラスターを解析した。
【0138】
2.方法および材料
Pembrolizumab治療を受ける前の患者由来の末梢血からバキュティナスピッツTMを用いて単核球を分離し、凍結保存した(液体窒素)。保存された末梢血単核球(PBMC)を用いて、フローサイトメトリーおよびマスサイトメトリー解析を行った。抗腫瘍効果を評価する数値としては、Pembrolizumab治療後の無増悪生存期間(PFS)を用いた。
【0139】
3.結果
図3にマスサイトメトリー(CyTOF
TM)によるマッピング解析の結果を示した。その結果、以下の表1のようなThクラスターによりCD62L
low分画とCD62L
highCD45RA
-分画が構成されていることが判明した。CD62L
highCD45RA
+分画はエフェクター分化していないナイーブ細胞群と考えられ、CXCR3、CCR4、及びCCR6の発現は認められなかった(表1)。
【0140】
【0141】
CD62Llow分画(effector)の中で無増悪生存期間(PFS)と有意な相関を示したのは、CXCR3+CCR6+CCR4- (Th1/17)とCXCR3-CCR6+CCR4- (CCR6 SP)の2つであった(表2)。
【0142】
【0143】
CyTOFのviSNE解析では、この2つのクラスターは隣在しており各種分子発現が近似しているクラスターと考えられた。この2つのクラスターを足し合わせた細胞比率は、P<0.0001,r
2=0.9083(
図4)と極めて良くPFSと相関していた(ディスカバリーコホートとして非小細胞肺癌13症例の結果)。この数値は、%CD62L
low/CD4
+との相関を上回っていた。なお、CD62L
low分画は、表1で示したThクラスターで構成されることから、%Th1/17+%CCR6 SP=%CCR6
+CCR4
-と変換することが可能であることが判明した。
【0144】
CD62LhighCD45RA-分画(central memory)にも、Th1/17およびCCR6 SPタイプのクラスターが存在することから、ナイーブ細胞を除いたCD45RA-分画全体におけるThクラスター割合とPFSの相関を解析したところ、やはりTh1/17とCCR6 SPクラスターとPFSは良好に相関した(表2)。最も良い相関を示したのは、Th1/17とCCR6 SPクラスターを足し合わせた細胞割合であった。
【0145】
CD62L
highCD45RA
+ナイーブ CD4 T細胞分画には全く分化したThクラスターが認められず、CD62L
low分画、CD62L
highCD45RA
-分画にも表1に示されるThクラスターのみで構成されることから、CD4
+CD3
+ T細胞全体におけるTh1/17とCCR6 SPクラスターを足し合わせた細胞割合は、近似的に%CCR6
+CCR4
-/CD4
+で示されることが判明した。実際に、%CCR6
+CCR4
-/CD4
+とPFSとの相関関係は、P<0.0001,r
2=0.7920となり、%CD62L
lowCCR6
+CCR4
-/CD4
+に比べてr
2で劣るものの、%CD62L
low/CD4
+とPFSとの相関係数と遜色ない数値であった(
図5)。なお、通常のフローサイトメトリー解析を用いて得た%CCR6
+CCR4
-/CD4
+も、CyTOFにより得られた数値と相関し、PFSと(P=0.0002,r
2=0.8003)相関した(
図6)。
【0146】
ペムブロリズマブ治療後変化を解析したところ、奏効例のみでTh1/17、CCR6 SP細胞割合の有意な増加が認められた。
【0147】
以上の結果から、Pembrolizumab治療前のPBMC解析の結果、Th1/17とCCR6 SP CD4+T細胞クラスターのみに、PFSとの相関が認められたことがわかった。また、%CD62Llow CCR6+CCR4-/CD4+は、%CD62Llow/CD4+を上回る、極めて良好なPFSとの相関を示すことがわかった。さらに、%CCR6+CCR4-/CD4+も、%CD62Llow/CD4+と同程度の、PFSとの相関を示すことがわかった。
【0148】
またペムブロリズマブ単剤治療後の無増悪生存期間とCyTOFによるTh解析結果の相関を調べたところ、以下の表3及び
図7に示すとおり、Th1/17とCCR6 SP CD4
+T細胞クラスターはペムブロリズマブ単剤治療後の無増悪生存期間と高い相関を示した。
【0149】
【0150】
また%CD62L
lowCD4とCyTOFによる%Thクラスターの相関を調べたところ、以下の表4に示すとおり、Th1/17およびCCR6 SP細胞クラスターの存在比は、CD62L
low細胞クラスターの存在比と相関していた(
図8、9)。
【0151】
【0152】
4.結果の意義
本実施例において、CD4 T細胞全体に対するCCR6+CCR4-細胞割合を測定することにより、CD62Lを用いる場合よりも簡便に、CD62Llow CD4+細胞割合と同等の予測性能を得ることが可能であることを発見した。血液検体として、ファイコール分離などを行うことなくfixationを行うだけの簡便な検体を用いても解析が可能であり、全世界で解析することが可能となる。
【0153】
5.考察
T-bet+Th1タイプ(CXCR3+)CD4 T細胞が抗腫瘍免疫に重要であることが報告されてきたが、本発明により、CCR6+CCR4-という従来定義されたことがないTh分画の重要性が明らかになった。CCR6+CCR4-分画の中でCXCR3+であるクラスターはT-betを発現するためT-bet+分画の重要性を否定するものではないが、CXCR3+CCR4-CCR6-というclassicalなTh1分画が抗腫瘍効果と関連を持たないことは大きな発見であった。
【0154】
CCR6+CCR4-分画には、CCR7陰性と陽性細胞がいずれも含まれている。したがって、ヒトのT細胞分類に良く使用されるCCR7とCD45RAのみを用いて解析した場合に、このクラスターを同定することは不可能であった。
【0155】
また、マウスを用いて本発明者のようにCD62Lの細胞分画をさらに検討するというアプローチを採ったとしても、マウスT細胞はTh1、Th2、Th17にそれぞれ分化し、Th1/17分画をほとんど持たないため、CCR6+CCR4-分画の重要性を解析することが不可能であった。
【0156】
本発明では、ヒトCD62LlowCD4 T細胞クラスターをさらに詳細に解析したことが、CCR6+CCR4- CD4 T細胞クラスターの抗腫瘍免疫における重要性発見の基盤となっている。
【0157】
(実施例2:Thクラスターと全生存期間との相関関係)
実施例1のとおり、Thクラスターの中でも、Th1/17とCCR6 SP CD4
+T細胞クラスターはペムブロリズマブ単剤治療後の無増悪生存期間と高い相関を示すことがわかった。そこでThクラスターと全生存期間との相関関係を調べた。その結果を
図10に示す。
図10に示されるとおり、Th1/17とCCR6 SP CD4
+T細胞クラスターは無増悪生存期間のみならず全生存期間と良好に相関することがわかった。
【0158】
また35症例の肺癌でフローサイトメトリーを用いて解析した結果、CCR6
+CCR4
-CD4T細胞クラスターは、
図11に示すように、他の従来のマーカーと比較しても、無増悪生存期間および全生存期間と高い相関を示すことがわかった。
【0159】
(実施例3:感度および特異度による評価)
CCR6
+CCR4
-CD4T細胞クラスターについて、長期生存症例を予測する性能をROC解析によって評価し、その感度および特異度の結果を
図12に示した。CCR6
+CCR4
-CD4
+比率を用いた場合、4.4を閾値とすると感度100%、特異度77.3%というかなり良好なバイオマーカーであることがわかった(
図12)。
【0160】
(実施例4:局所進行非小細胞肺癌化学放射線治療後PFS)
続いて、局所進行非小細胞肺癌患者において、化学放射線治療後のPFSをCCR6
+CCR4
- CD4T細胞クラスターの存在量によって予測することができるかどうかを調べた。治療前のTh1/17(CCR6
+CCR4
-CXCR3
+)分画の存在量とPFSとの相関結果を
図13示した。
図13に示されるとおり、CCR6
+CCR4
- CD4T細胞の存在量は化学放射線治療後のPFSと極めてよく相関することがわかった。このことからも、CCR6
+CCR4
- CD4T細胞クラスターは、被験者の免疫状態を広く反映するものであるため、免疫チェックポイント阻害剤による治療の予後予測だけではなく、放射線治療後の予後予測もすることができることがわかった。
【0161】
(実施例5:EGFR-TKI効果予測)
続いて、局所進行非小細胞肺癌患者において、EGFR-TKI治療後のPFSをCCR6
+CCR4
- CD4T細胞クラスターの存在量によって予測することができるかどうかを調べた。治療前のCCR6
+CCR4
-分画の存在量とPFSとの相関結果を
図14示した。
図14に示されるとおり、CCR6
+CCR4
- CD4T細胞の存在量はEGFR-TKI治療後のPFSと極めてよく相関することがわかった。このことからも、CCR6
+CCR4
- CD4T細胞クラスターは、被験者の免疫状態を広く反映するものであるため、免疫チェックポイント阻害剤による治療の予後予測だけではなく、分子標的治療薬での治療後の予後予測もすることができることがわかった。分子標的治療薬であっても免疫との共同作業で腫瘍をコントロールしているため、CCR6
+CCR4
- CD4T細胞クラスターによって免疫の状態を評価することにより、予後を予測することができる。
【0162】
(実施例6:癌免疫療法の治療効果を改善または維持継続する細胞療法)
がん免疫療法による治療を開始する前に、被験体の末梢血サンプルからCD62LlowCCR6+CCR4-CD4+T細胞を純化し、液体窒素下に凍結保存する。凍結保存したCD62LlowCCR6+CCR4-CD4+T細胞を解凍し、ex vivoで疑似抗原刺激を与えた後IL2存在下に培養することで増殖させる。同一患者の末梢血CD16+細胞をGMCSFとIL4存在下に培養することで得た樹状細胞と放射線照射した患者がん細胞を共培養し、がん抗原取り込みを行う。がん抗原を取り込んだ樹状細胞とex vivoで増殖したCD62LlowCCR6+CCR4-CD4+T細胞を共培養することにより、がん抗原特異的サイトカイン産生を評価する。
【0163】
このex vivoで増殖したCD62LlowCCR6+CCR4-CD4+T細胞は、がん免疫療法の効果の維持を目的として、その効果が不十分であるかまたは減弱した場合に、患者に経静脈的投与される。
【0164】
被験体ががん免疫療法に対して応答性であることが判定されている場合、例えば、CCR6+CCR4-CD4+T細胞の比率が高い場合には、Nivolumabのような抗PD-1抗体による治療などのがん免疫療法を施す。治療中に被験体のCD4+T細胞組成をモニタリングする。
【0165】
ここで、被験体のCD4+T細胞組成において、CCR6+CCR4-CD4+T細胞比率等の指標が低下し、応答性ではない免疫状態となった場合には、ex vivoで増殖させたCCR6+CCR4-CD4+T細胞を移入することで、元の免疫状態に戻し、がん免疫療法の効果を持続させる。
【0166】
CCR6+CCR4-CD4+T細胞のみを培養して移入することで保存・培養コストを抑えることができ、抗PD-1抗体等の免疫チェックポイント阻害剤のみを2週間ごとに継続するよりも経済的である。
【0167】
また、被験体のCD4+T細胞組成において、CCR6+CCR4-CD4+T細胞比率等の指標が低く、応答性ではないと判定された被験体に、被験体から単離してex vivoで増殖させたCCR6+CCR4-CD4+T細胞を移入することで、応答性の免疫状態に変化させ、その後、Nivolumabのような抗PD-1抗体によるがん免疫療法を施す。これにより、従来は抗PD-1抗体によるがん免疫療法の恩恵を受けられなかった被験体においても、がん免疫療法の抗腫瘍免疫応答を生じさせることができる。
【0168】
(実施例7:Th1/17およびCCR6 SPのPFS相関)
実施例1に示したとおり、Thクラスターの中でも、Th1/17とCCR6 SP CD4
+T細胞クラスターが無増悪生存期間と高い相関を示すことがわかった。この点について、
図2を模式図化し、さらに各区画に発現しているケモカインレセプターを表にまとめたものが
図17である。この図からも明らかなとおり、破線で囲っている部分がCD62L
lowの細胞集団であり、この中には、ケモカインレセプターの発現が異なる4つのクラスター(C、D、E、H)が存在することがわかる。この中の区画DがCXCR3
+CCR4
-CCR6
+で表されるTh1/17であり、区画HがCXCR3
-CCR4
-CCR6
+で表されるCCR6 SPである。
【0169】
上記のとおり、この4つのクラスターの中で、どれが抗腫瘍効果と関連するのかを調べるため、無増悪生存期間との相関を確認すると、Th1/17とCCR6 SPが重要であることがわかっている。それを確認した結果を
図18に示す。
図18では、ケモカインレセプター発現に基づく末梢血CD4
+T細胞クラスターの抗PD-1抗体治療後のPFS相関を一覧にしている。すべてのCD4
+T細胞クラスターについて、PD-1阻害剤治療効果との相関を解析した。多重性を避けるため、FDRは0.05とし、これより小さいP値を有意とした。この図からもわかるとおり、Th1およびTh17クラスター細胞数は、PFSおよびOSのいずれとも有意に相関しなかった。CD62L
lowの細胞集団においては、Th1/17およびCCR6 SP T細胞クラスターという2つのCD4
+T細胞クラスターが、PFSおよびOSと有意な正の相関を示した。
【0170】
このTh1/17とCCR6 SPという2つの末梢血CD4
+T細胞クラスターについて、遺伝子発現解析とメチローム(メチル化)解析を行った結果が
図19である。遺伝子発現については、その類似性を探るため、CD62L
lowCD4
+画分に見られる4つのThクラスターの遺伝子発現を用いて、疑似時間解析を行った(
図19左)。その結果、CXCR3
+CCR4
-CCR6
+(Th1/17)クラスターとCXCR3
-CCR4
-CCR6
+(CCR6 SP)クラスターは、Th1とTh17を疑似時間で最も離れた位置に配置した場合、Th1とTh17の間の位置の真ん中に別のノードを形成していた。これは、この2つのクラスターが、遺伝子発現プロファイルの観点から見て、Th1とTh17の中間的な性質を持つ独立したクラスターである可能性を示している。同様に、6人の患者の遺伝子発現プロファイルを階層的にクラスタリングすると、CXCR3
+CCR4
-CCR6
+(Th1/17)とCXCR3
-CCR4
-CCR6
+(CCR6 SP)の間のユークリッド距離が最も近いことがわかった。T細胞の遺伝子発現を調節する2つの大きな要因は、TCRシグナルに影響される活性化状態と、主にDNAメチル化に起因する分化状態である。疑似時間解析で観察された遺伝子発現パターンの違いが分化状態に対応しているかどうかを調べるために、CD62L
lowCD4
+T細胞から選別した4つのT細胞クラスターを用いてメチローム解析を行った(
図19右)。メチロームの結果をもとにクラスタリング解析を行ったところ、Th1とTh17のクラスターは離れており、これらのクラスターとは別にCXCR3
+CCR4
-CCR6
+(Th1/17)クラスターが存在しており、疑似時間解析の結果と一致した(
図19右)。CXCR3
-CCR4
-CCR6
+(CCR6 SP)クラスターは、Th17クラスターとCXCR3
+CCR4
-CCR6
+クラスターの中間に位置していた。
【0171】
上記のとおり、ディスカバリーコホートとして非小細胞肺癌13症例の結果、Th1/17とCCR6 SPは無増悪生存期間と相関することがわかっているが(
図4)、Th1/17とCCR6 SPという2つの末梢血CD4
+T細胞クラスターのPFS予測性能について、バリデーションコホートとして、非小細胞肺癌初回治療および既治療症例を用いてさらに確認した。
【0172】
バリデーションコホートにおいて、Th1/17(CXCR3
+CCR4
-CCR6
+)とCCR6 SP(CXCR3
-CCR4
-CCR6
+)のT細胞クラスターの合計であるCD62L
low CCR4
-CCR6
+ CD4
+T細胞メタクラスターは、PFSと強い相関を示した(
図20a、b、P<0.0001、r=0.9599)。さらに、免疫チェックポイント阻害剤による治療のタイミングによってTh1/17とCCR6 SPのPFSとの相関に変化が見られるかどうかを確認するため、未治療の非小細胞肺がん患者にペムブロリズマブを投与した場合と、既治療の非小細胞肺がん患者にペムブロリズマブまたはニボルマブを投与した場合とで、Th1/17とCCR6 SPのPFSとの相関を調べた。具体的に、未治療の非小細胞肺がん患者にペムブロリズマブを投与した場合と、既治療の非小細胞肺がん患者にペムブロリズマブまたはニボルマブを投与した場合の2つのバリデーションコホートを用いて、Th1/17およびCCR6 SP T細胞クラスターとCD62L
low CCR4
-CCR6
+ CD4
+T細胞メタクラスターが、免疫チェックポイント阻害療法後の臨床転帰と相関するかどうかを調べた。2つのバリデーションコホートは、PD-L1 TPSが50%以上で、最初にペムブロリズマブを投与されたNSCLC患者と、腫瘍のPD-L1発現にかかわらずペムブロリズマブまたはニボルマブを投与された既治療患者とした。2つのバリデーションコホートで得られたCD62L
low CCR4
-CCR6
+ CD4
+T細胞メタクラスターとPFSの相関関係を示す回帰直線は、y-interceptおよびslopeのいずれにおいてもディスカバリーコホートで観察されたものとの有意差を示さなかった。ペムブロリズマブで一次治療を受けたグループでは、Th1およびTh17とPFSおよびOSとの有意な相関は見られなかった。しかし、CD62L
low CXCR3
+CCR4
-CCR6
+およびCXCR3
-CCR4
-CCR6
+ CD4
+T細胞クラスターは、有意な相関を示した。CD62L
low CCR4
-CCR6
+ CD4
+T細胞メタクラスターは、治療前の末梢血において、疾患進行群に比べて有意に増加していたが、Th1およびTh17には差がなかった。CD62L
low CCR4
-CCR6
+CD4
+T細胞メタクラスターは、ROC曲線解析において、200日以上のPFSを有意に予測し、曲線下面積(AUC)は0.865であった(
図20c)。CD62L
low CCR4
-CCR6
+ CD4
+ T細胞メタクラスターは、PFSだけでなく、OSとも有意に相関していた(
図20d)。PD-1阻害療法の抗腫瘍効果は、CD62L
low CCR4
-CCR6
+ CD4
+ T細胞メタクラスターに依存していることから、CD62L
low Th1/17 T細胞クラスターとCD62L
low CCR6 SP T細胞クラスターが協力して抗腫瘍免疫を媒介していると考えられる。なお、Th1/17とCCR6 SP以外のクラスターも含むCD62L
low全体の細胞集団でもPFSとの相関は確認できたが、これと比べると、Th1/17とCCR6 SPのみを取り出した場合には、さらに高いPFSとの相関を得ることができた(図示せず)。これは、CD62L
low全体の細胞集団は、Th1/17とCCR6 SPのみの場合に特に、抗腫瘍効果と関連するクラスターだけを含んでいるため、PFSとの相関が高くなったと考えられる。
【0173】
次に、末梢血ではなく、腫瘍微小環境におけるCD4T細胞のPFSとの相関を調べた。芯針生検、経気管支生検、外科生検で得られた腫瘍標本(n=46)を、サイトケラチン、CD4、CD8、PD-1、PD-L1、FoxP3で染色した。サイトケラチン+腫瘍細胞の検出に基づき、マルチカラーアナライザー(OPAL
TM)を用いて、腫瘍周囲の間質と腫瘍内の10,000個の細胞を自動的にカウントした。結果を
図21に示した。
図21の上部に示した写真は、腫瘍内および間質においてCD4、CD8、PD-1などの分子がどの程度存在しているかを調べるため、各分子を染色した写真である。腫瘍微小環境(TME)へのT細胞の浸潤を調べると、腫瘍微小環境における免疫細胞数の反復相関解析では、腫瘍周囲の間質に存在するCD8
+細胞およびCD4
+細胞の数とPFSおよびOSとの間に有意な相関関係が認められたが、多重比較解析では、腫瘍周囲の間質に存在するCD4
+T細胞に最も有意な相関関係が認められた(
図21左下および右下)。
【0174】
さらに、PD-1阻害剤の抗腫瘍効果と相関する末梢血中に見出されたCD4
+T細胞クラスターと、他の末梢血T細胞クラスターや腫瘍微小環境中のT細胞の存在との関係を明らかにするために、多重比較解析とネットワーク解析を行った。これにより、末梢血および腫瘍微小環境(TME)における各細胞クラスターの数が、どのような関係で連動しているかについて調べることができる。末梢血中のT細胞クラスターとTME中の免疫細胞のネットワーク解析を行った結果が
図22である。この図においては、ある細胞の数が完全に連動して変動する場合には1.00で示され、連動が低くなるにつれて、数字が小さくなる。この図からもわかるとおり、末梢血中のTh1/17とCCR6 SPとを合わせた細胞数と、腫瘍微小環境(TME)中のCD4
+細胞数は、ネットワーク解析結果が0.92で示され、末梢血中のTh1/17とCCR6 SPを合わせたクラスターがCD4
+細胞の腫瘍微小環境への浸潤と強く関連していることがわかった。一方、Th1細胞は腫瘍微小環境のCD8
+T細胞と直接関連していた。このように、末梢血中のTh1/17とCCR6 SPを合わせたクラスターはCD4
+T細胞の腫瘍微小環境への浸潤を促進し、CD62L
low Th1細胞はCD8
+T細胞の浸潤を促進していた。また、ネットワーク解析の結果、末梢血中のTh1/17とCCR6 SPを合わせたクラスターは、CD45RA
+CCR7
-エフェクターCD8
+T細胞(TEMRA)の頻度と正の相関関係があることも明らかになった。このことから、末梢血のTh1/17とCCR6 SPを確認することで、腫瘍内のCD4
+細胞の状態を把握することができることがわかった。
【0175】
続いて、手術前の末梢血における細胞クラスターと、手術によって腫瘍組織を取り除いた後の末梢血の細胞クラスターとを比較した。結果を
図23に示す。手術によって腫瘍組織がなくなった場合に、末梢血においても減少している細胞クラスターは、腫瘍の存在によって増加した細胞クラスターと考えることができる。
図23に示されるとおり、CD62L
low細胞は手術前(pre)と比べて手術後(post)では末梢血における細胞数が減少しており、中でも特にTh1/17とCCR6 SPについては、手術後にその細胞数が顕著に減少していることがわかった。このことからも、Th1/17とCCR6 SPは、腫瘍と関連している細胞クラスターであることがわかる。
【0176】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本願は、日本国特許庁に2020年9月8日に出願された特願2020-150620に対して優先権主張をするものであり、その内容はその全体があたかも本願の内容を構成するのと同様に参考として援用される。
本発明において提供されるバイオマーカーは、簡便、安価、正確にがん免疫チェックポイント阻害剤による応答を予測することに利用でき、医学的、社会的に必須である。本発明は、全世界、全癌腫において必要な技術と考えられ、極めて大きな市場的価値を有しているものと考えられる。