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特開2023-22014結晶粒界を調整可能なNd-Fe-B系磁性体の製造方法
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  • 特開-結晶粒界を調整可能なNd-Fe-B系磁性体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022014
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】結晶粒界を調整可能なNd-Fe-B系磁性体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20230207BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20230207BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20230207BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230207BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20230207BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20230207BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20230207BHJP
   C01B 35/04 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F7/02 E
H01F1/057 170
C22C38/00 303D
B22F3/00 F
B22F3/24 B
B22F3/24 K
C21D6/00 B
C01B35/04 D
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175982
(22)【出願日】2022-11-02
(62)【分割の表示】P 2021144433の分割
【原出願日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】202011051159.8
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】310005618
【氏名又は名称】煙台東星磁性材料株式有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100139033
【弁理士】
【氏名又は名称】日高 賢治
(72)【発明者】
【氏名】王伝申
(72)【発明者】
【氏名】楊昆昆
(72)【発明者】
【氏名】彭衆傑
(72)【発明者】
【氏名】丁開鴻
(57)【要約】
【課題】磁性体素地の成分と拡散源の成分の比率を適切に調整することにより、結晶粒界を調整可能なNd-Fe-B系磁性体の製造方法を提供する。
【解決手段】結晶粒界を調整可能なNd-Fe-B系磁性体の製造方法であって、Nd-Fe-B系磁性体を拡散源で覆って形成されるNd-Fe-B系磁性体中間体において、前記Nd-Fe-B系磁性体中間体は重希土類元素を含まない重希土類無含有型中間体であり、その化学式は重量%で、[R1R2(1-x)Fe100-a-b-cで示され、0.94≦x≦1、32≦a≦37、1.5≦b≦7、0.9≦c≦1.2、R1はNd、Pr、Ceの一つ又は複数、R2はLa、Smの一つ又は二つ、MはAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Nb、Mo、Snの複数の組み合わせであり、拡散源はNd、Pr、Ce、La、Ho、Tb、Dy、Ga、Al、Cu、Mgの複数を含み、結晶粒界厚は10nm~1μmである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶粒界を調整可能なNd-Fe-B系磁性体の製造方法であって、
(1)Nd-Fe-B系磁性体を拡散源で覆って形成されるNd-Fe-B系磁性体中間体において、前記Nd-Fe-B系磁性体中間体は重希土類元素を含まない重希土類無含有型中間体であり、その化学式は、重量%で、
[R1R2(1-x)Fe100-a-b-cで示され、
0.94≦x≦1、32≦a≦37、1.5≦b≦7、0.9≦c≦1.2であり、
R1はNd、Pr、Ceの一つ又は複数であり、
R2はLa、Smの一つ又は二つであり、
MはAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Nb、Mo、Snの複数の組み合わせであり、
及び/又は、R1がNd及びPrを含む場合、0.03≦Pr/Nd≦0.6
であり、
及び/又は、R2がLa及びSmを含む場合、La:Sm=2:1~1:2であり、
及び/又は、MがAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Nb、Mo、Snの一つ又は複数を含み、Cu及びAlを含む場合、Cu及びAlの比率は、0≦Cu/Al≦6.5であり、
及び/又は、MがAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Nb、Mo、Snの一つ又は複数を含み、Cu及びGaを含む場合、Cu及びGaの比率は、0≦Cu/Ga≦5であり、
及び/又は、MがAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Nb、Mo、Snの一つ又は複数を含み、Mg及びAlを含む場合、Mg及びAlの比率は、0≦Mg/Al≦6であり、
前記拡散源は合金であり、前記合金の元素にはNd、Pr、Ce、La、Ho、Tb、Dy、Ga、Al、Cu、Mgの複数を含み、
(2)前記拡散源で覆われた前記Nd-Fe-B系磁性体中間体を焼結炉に投入し、拡散処理及び時効処理を行い、前記時効処理において、Arガス雰囲気下で正圧循環冷却を行って前記Nd-Fe-B系磁性体の結晶粒界を調整し、
前記結晶粒界厚は10nm~1μmであり、
前記結晶粒界の構造は、主相、結晶粒界a、結晶粒界b及び結晶粒界cを含み、
前記結晶粒界中のRは希土類元素の含有量であり、前記結晶粒界中のMはAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Nb、Mo、Snの複数の組み合わせであり、
前記結晶粒界aにおいて、R≧55wt%又は35wt%≦R≦40wt%であり、10wt%≦M≦28wt%であり、3:1≦Nd:(Pr又はCe又はLa)≦2:1であり、Mは(Cu+Al+Ga)/M≧0.8であり、
前記結晶粒界bにおいて、40wt%≦R≦55wt%であり、10wt%≦M≦20wt%であり、9:10≦Nd:(Pr又はCe又はLa)≦2:1であり、(Cu+Co+Al)/M≧0.9であり、
前記結晶粒界cにおいて、25wt%≦R≦50wt%、又は、R≧60wt%であり、0wt%≦M≦10wt%であり、
wt%は、各元素が前記Nd-Fe-B系磁性体中間体において占める質量百分率である、
ことを特徴とする結晶粒界を調整可能なNd-Fe-B系磁性体の製造方法。
【請求項2】
前記Nd-Fe-B系磁性体を前記拡散源で覆う方法は、マグネトロンスパッタリングコーティング、蒸着コーティング、塗布コーティング、および粉体粘着コーティングのいずれかである、
ことを特徴とする請求項1に記載の結晶粒界を調整可能なNd-Fe-B系磁性体の製造方法。
【請求項3】
前記正圧循環冷却は、銅管フィンチューブ式熱交換器を用いた垂直又は平行冷却、或いは、垂直及び平行の交互冷却を含み、冷却時の圧力は、1000mbar~5000mbarである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の結晶粒界を調整可能なNd-Fe-B系磁性体の製造方法。
【請求項4】
前記拡散処理の温度は850~920℃、処理時間は6~20時間であり、前記時効処理の温度は420~680℃、処理時間は3~10時間である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の結晶粒界を調整可能なNd-Fe-B系磁性体の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Nd-Fe-B系磁性体の技術分野に属し、特にNd-Fe-B系永久磁性体の保磁力を高める結晶粒界を調整可能なNd-Fe-B系磁性体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「磁性体の王」と呼ばれるNd-Fe-B系永久磁性体は、誕生以来広範に用いられ、現在社会に深く根付き、電子情報機器、医療機器、新エネルギー自動車、家電、ロボット等のハイテク分野で広く利用されている。情報化及び工業化の発展に伴い、高性能磁性は今日の重要な研究テーマとなっている。
【0003】
2005年、中村氏によって、Nd-Fe-B系永久磁性体に重希土類酸化物及びフッ化物粉末を添加することで簡単に保磁力を向上させることができる「結晶粒界拡散技術」が提案された。現在、保磁力を向上させる技術には二つのメカニズムが存在し、重希土類元素を拡散・硬化させたNdFe14B主相によって大量のコアシェル構造を形成するか、或いは結晶粒界の鉄磁性相を広げて希釈することで保磁力を向上させるか、である。
【0004】
保磁力向上効果が最も顕著なのは、重希土類を拡散する方法であるが、製造コスト削減の観点から言えば、重希土類元素の存在量は極めて少なく、価格が高騰していることから、重希土類元素の使用量を低減させ、又は重希土類元素を全く使用しないで磁性体の保磁力を向上させる方法を模索する研究が進められており、重希土類元素の含有量が極めて少ない、又は重希土類元素を含まない磁性体の開発は、今日のホットな研究課題である。結晶粒界を制御すること、即ち、結晶粒界中の非磁性相を制御し且つ磁性体の磁気交換結合を効果的に遮断することは、極めて重要である。
【0005】
例えば、中国特許CN104078176A公報及び日本特開2014-209546号公報には、冷却速度を制御することで、結晶粒界中の鉄磁性相の偏析を抑制し、LaCo11Ga13型結晶構造を有するR13M相を形成して保磁力を向上させる技術が開示されている。また中国特許CN108878090A公報には、各元素の含有量及び低温焼き戻し等の工程によって重希土類元素を含まず、より明瞭な結晶粒界型Nd-Fe-B系磁性体を製造する技術が開示されている。また中国特許CN105206417A公報には、熱気化した硫黄によって磁性体粉末と結晶粒子の気相とを隔離し、低融点合金である希土類-銅-アルミニウム合金を主相から完全に隔離して高い保磁力を実現する技術が開示されている。さらに中国特許CN102290181A公報には、希土類元素を含まない、又は、重希土類元素が極めて少ない高性能Nd-Fe-B系磁性体を製造する技術が開示されている。しかしながら、上記各磁性体はいずれも結晶粒界の効果的な制御ができないと言う課題が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】中国特許CN104078176A公報
【特許文献2】日本特許2014-209546A公報
【特許文献3】中国特許CN108878090A公報
【特許文献4】中国特許CN105206417A公報
【特許文献5】中国特許CN102290181A公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、磁性体と拡散源の相乗効果により、磁性体素地の成分と拡散源の成分の比率を適切に調整し、特定のNd-Fe-B系磁性体中間体を製造し、雰囲気中のC、0、N及び昇温・冷却温度を制御し、結晶粒界を効果的に調整・制御することで、Nd-Fe-B系焼結磁性体の保磁力を向上させる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本願発明は、結晶粒界を調整可能なNd-Fe-B系磁性体の製造方法であって、
(1)Nd-Fe-B系磁性体を拡散源で覆って形成されるNd-Fe-B系磁性体中間体において、前記Nd-Fe-B系磁性体中間体は重希土類元素を含まない重希土類無含有型中間体であり、その化学式は、重量%で、
[R1R2(1-x)Fe100-a-b-cで示され、
0.94≦x≦1、32≦a≦37、1.5≦b≦7、0.9≦c≦1.2であり、
R1はNd、Pr、Ceの一つ又は複数であり、
R2はLa、Smの一つ又は二つであり、
MはAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Nb、Mo、Snの複数の組み合わせであり、
及び/又は、R1がNd及びPrを含む場合、0.03≦Pr/Nd≦0.6
であり、
及び/又は、R2がLa及びSmを含む場合、La:Sm=2:1~1:2であり、
及び/又は、MがAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Nb、Mo、Snの一つ又は複数を含み、Cu及びAlを含む場合、Cu及びAlの比率は、0≦Cu/Al≦6.5であり、
及び/又は、MがAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Nb、Mo、Snの一つ又は複数を含み、Cu及びGaを含む場合、Cu及びGaの比率は、0≦Cu/Ga≦5であり、
及び/又は、MがAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Nb、Mo、Snの一つ又は複数を含み、Mg及びAlを含む場合、Mg及びAlの比率は、0≦Mg/Al≦6であり、
前記拡散源は合金であり、前記合金の元素にはNd、Pr、Ce、La、Ho、Tb、Dy、Ga、Al、Cu、Mgの複数を含み、
(2)前記拡散源で覆われた前記Nd-Fe-B系磁性体中間体を焼結炉に投入し、拡散処理及び時効処理を行い、前記時効処理において、Arガス雰囲気下で正圧循環冷却を行って前記Nd-Fe-B系磁性体の結晶粒界を調整し、
前記結晶粒界厚は10nm~1μmであり、
前記結晶粒界の構造は、主相、結晶粒界a、結晶粒界b及び結晶粒界cを含み、
前記結晶粒界中のRは希土類元素の含有量であり、前記結晶粒界中のMはAl、Cu、Ga、Ti、Co、Mg、Zn、Nb、Mo、Snの複数の組み合わせであり、
前記結晶粒界aにおいて、R≧55wt%又は35wt%≦R≦40wt%であり、10wt%≦M≦28wt%であり、3:1≦Nd:(Pr又はCe又はLa)≦2:1であり、Mは(Cu+Al+Ga)/M≧0.8であり、
前記結晶粒界bにおいて、40wt%≦R≦55wt%であり、10wt%≦M≦20wt%であり、9:10≦Nd:(Pr又はCe又はLa)≦2:1であり、(Cu+Co+Al)/M≧0.9であり、
前記結晶粒界cにおいて、25wt%≦R≦50wt%、又は、R≧60wt%であり、0wt%≦M≦10wt%であり、
wt%は、各元素が前記Nd-Fe-B系磁性体中間体において占める質量百分率である、
ことを特徴とする。
【0009】
前記Nd-Fe-B系磁性体を前記拡散源で覆う方法は、マグネトロンスパッタリングコーティング、蒸着コーティング、塗布コーティング、および粉体粘着コーティングのいずれかである、ことを特徴とする。
【0010】
前記正圧循環冷却は、銅管フィンチューブ式熱交換器を用いた垂直又は平行冷却、或いは、垂直及び平行の交互冷却を含み、冷却時の圧力は、1000mbar~5000mbarである、ことを特徴とする。
【0011】
前記拡散処理の温度は850~920℃、処理時間は6~20時間であり、前記時効処理の温度は420~680℃、処理時間は3~10時間である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、磁性体成分の配合設計と拡散源とを組み合わせることで、特定成分の中間体を形成し、雰囲気、拡散温度、時効温度、正圧の冷却圧力を制御することにより、結晶粒界厚を効果的に制御することが可能となる。条件の要求はシンプルであり、製品の大量生産を可能となり、製造される軽希土類磁性体の保磁力は25kOeよりも高く、1.13wt%のTbを含む磁性体の保磁力は29kOeよりも高く、製造コストは大幅に低下し、工業生産に対応する。当該磁性体は重希土類の低含有又は無含有によって高保磁力の目的を達成し、磁性体の製造コストを大きく削減することができる。
【0013】
本発明は、C、0、N等の雰囲気中に対する要求が緩やかで、公知の含有量範囲でよく、大量生産が容易である。本発明は、結晶粒界のサイズを正確に調整することができ、成分の配合比と拡散源とによって形成される特定の成分の中間体を異なる条件と組み合わせることで、結晶粒界の正確な制御を実現し、磁性体の磁気特性を制御するという目的を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】Nd-Fe-B系磁性体中間体を示す図。
図2】Nd-Fe-B系磁性体の結晶粒界の構造を示す図。
図3】実施例2で形成される300nmの結晶粒界を示す図。
図4】実施例3で形成される600nmの結晶粒界を示す図。
図5】実施例7で形成される100nmの結晶粒界を示す図。
図6】実施例12で形成される80nmの結晶粒界を示す図。
図7】実施例13で形成される25nmの結晶粒界を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本願発明を実施形態と組み合わせて詳細に説明する。下記実施例は、本発明の解釈のみに用いるものであり、本願発明に係る構成を限定するものではない。
【0016】
ここで、「及び」、「又は」という用語は、排他的なものはなく網羅的なものである。これによって、羅列された要素だけでなく、列挙されていない一切の要素、方法、プロセス、アイテム及び設備も含まれる。
【0017】
本発明の製造方法によれば、Nd-Fe-B系磁性体は拡散源で覆われてNd-Fe-B系磁性体中間体を形成する。詳細については、以下の各実施例を参照されたい。
図2は、拡散処理されたNd-Fe-B系磁性体の電子後方散乱回折法による写真であり、a、b、cで示す部分は、請求項1で説明する結晶粒界a、結晶粒界b、結晶粒界cをそれぞれ示している。
【0018】
<実施例1>
(1)Nd-Fe-B系磁性体中間体を作成した。中間体はPr、Nd、Ceの総量が34.67wt%、Pr/Ndの比率が0.16、Tbの含有量が1.13wt%、Al、Cu、Ga、Mgの総量が2.22wt%、Cu/Alの比率が1.26、Cu/Gaは6.00、Co、Ti、Zn、Snの総量は1.42wt%、Bの含有量は1.04wt%、残りをFeとした。
Nd-Fe-B系磁性体中間体を900℃×10時間の高温拡散処理を行った。昇温速度は5℃/分であり、時効処理は480℃×8時間であり、Arガスで正圧循環冷却し、冷却圧力は1500mbarであった。
【0019】
(2)得られたNd-Fe-B系永久磁性体の磁気特性は、内在保磁力Hcjが29.0kOe、残留磁気Brが12.5kGs、結晶粒界厚は800nmであった。
【0020】
<実施例2>
(1)Nd-Fe-B系磁性体中間体を作成した。中間体はPr、Nd、Ceの総量が32.79wt%、Pr/Ndの比率が0.05、Dyの含有量が0.98wt%、Al、Cu、Ga、Mgの総量が1.62wt%、Cu/Alの比率が0.53、Cu/Gaは2.50、Co、Ti、Zn、Snの総量は1.47wt%、Bの含有量は1.08wt%、残りをFeとした。
Nd-Fe-B系磁性体中間体を940℃×8時間の高温拡散処理を行った。昇温速度は4℃/分であり、時効処理は500℃×6時間であり、Arガスで正圧循環冷却し、冷却圧力は1000mbarであった。
【0021】
(2)得られたNd-Fe-B系永久磁性体の磁気特性は、内在保磁力Hcjが27.0kOe、残留磁気Brが13.2kGs、結晶粒界厚は300nmであった。
【0022】
<実施例3>
(1)Nd-Fe-B系磁性体中間体を作成した。中間体はPr、Nd、Ceの総量が37.75wt%、Pr/Ndの比率が0.53、Al、Cu、Ga、Mgの総量が2.35wt%、Cu/Alは0.16、Cu/Gaは0.75、Mg/Alは1.11、Co、Ti、Zn、Snの総量は1.50wt%、Bの含有量は1.10wt%、残りをFeとした。
Nd-Fe-B系磁性体中間体を850℃×20時間の高温拡散処理を行った。昇温速度は6℃/分であり、時効処理は460℃×10時間であり、Arガスで正圧循環冷却し、冷却圧力は3000mbarであった。
【0023】
(2)得られたNd-Fe-B系永久磁性体の磁気特性は、内在保磁力Hcjが24.0kOe、残留磁気Brが12.8kGs、結晶粒界厚は600nmであった。
【0024】
<実施例4>
(1)Nd-Fe-B系磁性体中間体を作成した。中間体はPr、Nd、Ceの総量が33.15wt%、Pr/Ndの比率が0.36、Al、Cu、Ga、Mgの総量が1.41wt%、Cu/Alは0.29、Cu/Gaは1.36、Co、Ti、Zn、Snの総量は1.49wt%、Bの含有量は1.09wt%、残りをFeとした。
Nd-Fe-B系磁性体中間体を960℃×6時間の高温拡散処理を行った。昇温速度は3℃/分であり、時効処理は520℃×9時間であり、Arガスで正圧循環冷却し、冷却圧力は500mbarであった。
【0025】
(2)得られたNd-Fe-B系永久磁性体の磁気特性は、内在保磁力Hcjが22.0kOe、残留磁気Brが13.3kGs、結晶粒界厚は50nmであった。
【0026】
<実施例5>
(1)Nd-Fe-B系磁性体中間体を作成した。中間体はPr、Nd、Ceの総量が37.75wt%、Pr/Ndの比率が0.15、Al、Cu、Ga、Mgの総量が3.30wt%、Cu/Alは0.04、Cu/Gaは0.40、Mg/Alは0.55、Co、Ti、Zn、Snの総量は1.50wt%、Bの含有量は1.10wt%、残りをFeとした。
Nd-Fe-B系磁性体中間体を900℃×12時間の高温拡散処理を行った。昇温速度は7℃/分であり、時効処理は550℃×8時間であり、Arガスで正圧循環冷却し、冷却圧力は2500mbarであった。
【0027】
(2)得られたNd-Fe-B系永久磁性体の磁気特性は、内在保磁力Hcjが25.0kOe、残留磁気Brが12.6kGs、結晶粒界厚は700nmであった。
【0028】
<実施例6>
(1)Nd-Fe-B系磁性体中間体を作成した。中間体はPr、Nd、Ceの総量が33.77wt%、Pr/Ndの比率が0.05、Al、Cu、Ga、Mgの総量が1.55wt%、Cu/Alは0.45、Cu/Gaは2.15、Co、Ti、Zn、Snの総量は1.47wt%、Bの含有量は1.08wt%、残りをFeとした。
Nd-Fe-B系磁性体中間体を910℃×15時間の高温拡散処理を行った。昇温速度は5℃/分であり、時効処理は600℃×11時間であり、Arガスで正圧循環冷却し、冷却圧力は3000mbarであった。
【0029】
(2)得られたNd-Fe-B系永久磁性体の磁気特性は、内在保磁力Hcjが24.5kOe、残留磁気Brが13.0kGs、結晶粒界厚は290nmであった。
【0030】
<実施例7>
(1)Nd-Fe-B系磁性体中間体を作成した。中間体はPr、Nd、Ceの総量が33.77wt%、Pr/Ndの比率が0.05、Al、Cu、Ga、Mgの総量が1.32wt%、Cu/Alは1.10、Cu/Gaは1.25、Co、Ti、Zn、Snの総量は1.47wt%、Bの含有量は1.08wt%、残りをFeとした。
Nd-Fe-B系磁性体中間体を880℃×10時間の高温拡散処理を行った。昇温速度は4℃/分であり、時効処理は490℃×9時間であり、Arガスで正圧循環冷却し、冷却圧力は1300mbarであった。
【0031】
(2)得られたNd-Fe-B系永久磁性体の磁気特性は、内在保磁力Hcjが23.5kOe、残留磁気Brが13.2kGs、結晶粒界厚は100nmであった。
【0032】
<実施例8>
(1)Nd-Fe-B系磁性体中間体を作成した。中間体はPr、Nd、Ceの総量が37.75wt%、Pr/Ndの比率が0.15、Al、Cu、Ga、Mgの総量が2.10wt%、Cu/Alは0.07、Cu/Gaは0.25、Mg/Alは1.50、Co、Ti、Zn、Snの総量は1.50wt%、Bの含有量は1.10wt%、残りをFeとした。
Nd-Fe-B系磁性体中間体を920℃×11時間の高温拡散処理を行った。昇温速度は6℃/分であり、時効処理は420℃×10時間であり、Arガスで正圧循環冷却し、冷却圧力は3500mbarであった。
【0033】
(2)得られたNd-Fe-B系永久磁性体の磁気特性は、内在保磁力Hcjが24.0kOe、残留磁気Brが13.3kGs、結晶粒界厚は150nmであった。
【0034】
<実施例9>
(1)Nd-Fe-B系磁性体中間体を作成した。中間体はPr、Nd、Ceの総量が33.00wt%、Pr/Ndの比率が0.03、Al、Cu、Ga、Mgの総量が1.36wt%、Cu/Alは0.23、Cu/Gaは1.10、Co、Ti、Zn、Snの総量は1.54wt%、Bの含有量は1.10wt%、残りをFeとした。
Nd-Fe-B系磁性体中間体を860℃×9時間の高温拡散処理を行った。昇温速度は7℃/分であり、時効処理は680℃×3時間であり、Arガスで正圧循環冷却し、冷却圧力は800mbarであった。
【0035】
(2)得られたNd-Fe-B系永久磁性体の磁気特性は、内在保磁力Hcjが22.0kOe、残留磁気Brが13.6kGs、結晶粒界厚は20nmであった。
【0036】
<実施例10>
(1)Nd-Fe-B系磁性体中間体を作成した。中間体はPr、Nd、Ceの総量が34.00wt%、Pr/Ndの比率が0.48、La、Smの総量が0.60wt%、La/Smは0.80、Al、Cu、Ga、Mgの総量が1.40wt%、Cu/Alは1.00、Cu/Gaは0.67、Mg/Alは3.50、Co、Ti、Zn、Snの総量は1.60wt%、Bの含有量は1.10wt%、残りをFeとした。
Nd-Fe-B系磁性体中間体を930℃×9時間の高温拡散処理を行った。昇温速度は5℃/分であり、時効処理は660℃×4時間であり、Arガスで正圧循環冷却し、冷却圧力は1700mbarであった。
【0037】
(2)得られたNd-Fe-B系永久磁性体の磁気特性は、内在保磁力Hcjが23.0kOe、残留磁気Brが13.5kGs、結晶粒界厚は120nmであった。
【0038】
<実施例11>
(1)Nd-Fe-B系磁性体中間体を作成した。中間体はPr、Nd、Ceの総量が35.95wt%、Pr/Ndの比率が0.55、La、Smの総量が0.54wt%、La/Smは0.93、Al、Cu、Ga、Mgの総量が1.90wt%、Cu/Alは1.20、Cu/Gaは0.67、Mg/Alは4.20、Co、Ti、Zn、Snの総量は1.08wt%、Bの含有量は0.92wt%、残りをFeとした。
Nd-Fe-B系磁性体中間体を930℃×12時間の高温拡散処理を行った。昇温速度は8℃/分であり、時効処理は510℃×5時間であり、Arガスで正圧循環冷却し、冷却圧力は5000mbarであった。
【0039】
(2)得られたNd-Fe-B系永久磁性体の磁気特性は、内在保磁力Hcjが24.5kOe、残留磁気Brが13.1kGs、結晶粒界厚は210nmであった。
【0040】
<実施例12>
(1)Nd-Fe-B系磁性体中間体を作成した。中間体はPr、Nd、Ceの総量が31.51wt%、Pr/Ndの比率が0.37、La、Smの総量が0.53wt%、La/Smは0.50、Al、Cu、Ga、Mgの総量が1.01wt%、Cu/Alは1.90、Cu/Gaは1.25、Co、Ti、Zn、Snの総量は1.07wt%、Bの含有量は1.09wt%、残りをFeとした。
Nd-Fe-B系磁性体中間体を850℃×10時間の高温拡散処理を行った。昇温速度は4℃/分であり、時効処理は570℃×6時間であり、Arガスで正圧循環冷却し、冷却圧力は1800mbarであった。
【0041】
(2)得られたNd-Fe-B系永久磁性体の磁気特性は、内在保磁力Hcjが23.0kOe、残留磁気Brが13.3kGs、結晶粒界厚は80nmであった。
【0042】
<実施例13>
(1)Nd-Fe-B系磁性体中間体を作成した。中間体はPr、Nd、Ceの総量が31.21wt%、Pr/Ndの比率が0.35、La、Smの総量が0.90wt%、La/Smは2.00、Al、Cu、Ga、Mgの総量が1.02wt%、Cu/Alは1.48、Cu/Gaは0.90、Co、Ti、Zn、Snの総量は1.08wt%、Bの含有量は1.10wt%、残りをFeとした。
Nd-Fe-B系磁性体中間体を880℃×6時間の高温拡散処理を行った。昇温速度は3℃/分であり、時効処理は440℃×3時間であり、Arガスで正圧循環冷却し、冷却圧力は2800mbarであった。
【0043】
(2)得られたNd-Fe-B系永久磁性体の磁気特性は、内在保磁力Hcjが21.0kOe、残留磁気Brが13.5kGs、結晶粒界厚は25nmであった。
【0044】
<実施例14>
(1)Nd-Fe-B系磁性体中間体を作成した。中間体はPr、Nd、Ceの総量が31.72wt%、Pr/Ndの比率が0.41、La、Smの総量が1.10wt%、La/Smは0.93、Al、Cu、Ga、Mgの総量が1.03wt%、Cu/Alは2.75、Cu/Gaは1.83、Co、Ti、Zn、Snの総量は1.06wt%、Bの含有量は1.08wt%、残りをFeとした。
Nd-Fe-B系磁性体中間体を920℃×13時間の高温拡散処理を行った。昇温速度は7℃/分であり、時効処理は460℃×9時間であり、Arガスで正圧循環冷却し、冷却圧力は2500mbarであった。
【0045】
(2)得られたNd-Fe-B系永久磁性体の磁気特性は、内在保磁力Hcjが23.0kOe、残留磁気Brが13.4kGs、結晶粒界厚は100nmであった。
【0046】
<実施例15>
(1)Nd-Fe-B系磁性体中間体を作成した。中間体はPr、Nd、Ceの総量が30.91wt%、Pr/Ndの比率が0.35、La、Smの総量が2.00wt%、La/Smは1.00、Al、Cu、Ga、Mgの総量が0.77wt%、Cu/Alは1.35、Cu/Gaは0.90、Co、Ti、Zn、Snの総量は1.08wt%、Bの含有量は1.10wt%、残りをFeとした。
Nd-Fe-B系磁性体中間体を850℃×9時間の高温拡散処理を行った。昇温速度は6℃/分であり、時効処理は620℃×5時間であり、Arガスで正圧循環冷却し、冷却圧力は5500mbarであった。
【0047】
(2)得られたNd-Fe-B系永久磁性体の磁気特性は、内在保磁力Hcjが20.5kOe、残留磁気Brが13.8kGs、結晶粒界厚は20nmであった。
【0048】
図3~7は、上記実施例2、実施例3、実施例7、実施例12、実施例13によって作成された各Nd-Fe-B系磁性体の電子後方散乱回折法による写真であり、各Nd-Fe-B系永久磁性体のC軸に平行な断面を万能研磨機で研磨し、ZISS電子顕微鏡のBDSモード、3000倍で撮影したものである。各図に示す磁性体は、いずれも結晶粒界が均一に主相の周辺に存在しており、図3に示す実施例2の平均結晶粒界厚は300nm、図4に示す実施例3の平均結晶粒界厚は600nm、図5に示す実施例7の平均結晶粒界厚は100nm、図6に示す実施例12の平均結晶粒界厚は80nm、図7に示す実施例13の平均結晶粒界厚は25nmであることが分かる。なお、他の実施例で作成された各Nd-Fe-B系磁性体も、図示はしないが、粒界が均一に主相の周辺に存在しており、平均粒界厚さは80~600nmの範囲内であった。
【0049】
Nd-Fe-B系磁性体1及び拡散源2は、Nd-Fe-B系磁性体中間体3の各元素含有量及び比率の関係を形成する。異なる拡散温度、拡散時間、時効温度及び時効時間は調整可能な結晶粒界の幅を形成し、更には様々な磁気特性を有する磁性体を形成する。表1は各磁性体中間体の成分表であり、表2は各処理工程のパラメータ、形成される結晶粒界厚及び磁気特性を示す表である。表2に示すとおり、重希土類無含有型磁性体の保磁力は25.0kOeよりも高く、重希土類含有型磁性体の処理後の保磁力は29.0kOeよりも高いことが分かる。
【0050】
<表1>
【0051】
<表2>
【0052】
上記各実施例によって、中間体の成分を調整し条件を変更することで、様々な結晶粒界の幅を有するNd-Fe-B系磁性体を形成することがでる。そして、このNd-Fe-B系磁性体は軽希土類Nd-Fe-B系磁性体及び重希土類Nd-Fe-B系磁性体の両方を含む。その主たる性能は以下の通りである。
【0053】
(イ)結晶粒界幅の効果的な制御が実現可能である。実施例2、3、7、12、13では、結晶粒界厚はそれぞれ300、600、100、80、25nmであった。実施例5の重希土類無含有型磁性体の磁気特性は、Br=12.6kGs、Hcj=25kOeであった。実施例1の重希土類含有型磁性体はTbを1.13wt%含み、Br=12.5kGs、Hcj=29kOeであった。
【0054】
(ロ)工程の条件範囲は広く、中間体の成分の相違に応じた様々な拡散温度、昇温温度、時効温度及びArガスによる冷却圧力によって、結晶粒界の幅を多様に制御することができる。
【0055】
(ハ)C、0、N等の雰囲気中に対する要求が緩やかで、公知の含有量範囲でよく、高性能且つ低コストでNd-Fe-B系磁性体の生産が可能であり、製品製造コストが大きく削減され、競争力を高めることができる。
【0056】
(ニ)製造されたNd-Fe-B系磁性体の磁気特性は、様々な厚さの明瞭な結晶粒界構造を有し、且つその他磁性体とは異なる結晶粒界の特徴を有する。
【0057】
上記各実施例は、いずれも本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明を制限するものではなく、本発明の技術思想の範囲内で行われる修正、改良等は、全て本発明の保護範囲内に属する。
【符号の説明】
【0058】
1 Nd-Fe-B系磁性体
2 拡散源
3 Nd-Fe-B系磁性体中間体

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7