(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022018
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】急性腎損傷の治療における胎盤幹細胞の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 35/50 20150101AFI20230207BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
A61K35/50
A61P13/12
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022176132
(22)【出願日】2022-11-02
(62)【分割の表示】P 2020180987の分割
【原出願日】2014-03-13
(31)【優先権主張番号】61/785,252
(32)【優先日】2013-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ジップロック
(71)【出願人】
【識別番号】520169074
【氏名又は名称】セルラリティ インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン エー.フィスクコフ
(72)【発明者】
【氏名】ホング‐ジュング チェン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】急性腎損傷(AKI)を有する対象の治療方法を提供する。
【解決手段】急性腎損傷(AKI)を有する対象の治療においてヒト胎盤幹細胞を使用する方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性腎損傷(AKI)を有する対象のAKIを治療する方法であって、該対象に治療有効量の胎
盤幹細胞を投与することを含み、ここで、該治療有効量が、該対象における、AKIの1以上
の症状もしくは合併症の検出可能な改善、又はAKIの1以上の症状もしくは合併症の進行の
低下をもたらすのに十分な量である、前記方法。
【請求項2】
急性腎損傷(AKI)を有する対象のAKIと関連する1以上の症状又は合併症を予防する方法
であって、該対象に治療有効量の胎盤幹細胞を投与することを含み、ここで、該治療有効
量が、該対象におけるAKIの1以上の症状又は合併症の発症を予防するのに十分な量である
、前記方法。
【請求項3】
前記胎盤幹細胞が、CD10+、CD34-、CD105+、CD200+胎盤幹細胞である、請求項1又は2記
載の方法。
【請求項4】
前記胎盤幹細胞がOCT-4を発現する、請求項3項記載の方法。
【請求項5】
前記胎盤幹細胞がさらに、CD45-及びCD90+である、請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
前記胎盤幹細胞がさらに、CD80-及びCD86-である、請求項3~5のいずれか一項記載の方
法。
【請求項7】
前記AKIと関連する症状が、疲労、血便、口臭、口の中の金属味、痣、手の震え、高血
圧、鼻血、吃逆、発作、息切れ、排尿パターンの変化(例えば、定期的に排尿する能力の
喪失、もしくは夜間の頻尿)、食欲不振、頭痛、吐き気及び嘔吐、不整脈、脇腹の疼痛(例
えば、腎血管の血栓症もしくは腎臓の炎症が原因で起こる)、口渇、触知可能な膀胱、四
肢の体液貯留(末梢浮腫)及び肺の体液貯留(肺水腫)、並びに/又は心タンポナーデである
、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記対象における糸球体濾過量の増加、血清クレアチニンレベルの減少、尿クレアチニ
ンレベルの減少、クレアチニンクリアランスの増加、血中尿素窒素(BUN)のレベルの減少
、及び/又はナトリウム排泄分画の減少をもたらす、請求項1~7のいずれか一項記載の方
法。
【請求項9】
前記胎盤幹細胞が、全身、静脈内、動脈内、又は局所に投与される、請求項1~8のいず
れか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その開示が引用により完全に本明細書中に組み込まれる、2013年3月14日に
出願された米国仮特許出願第61/785,252号に対する優先権を主張する。
【0002】
(1.序論)
本明細書に提供されるのは、急性腎損傷(AKI)を有する対象の治療においてヒト胎盤幹
細胞を使用する方法である。
【背景技術】
【0003】
(2.背景)
急性腎損傷(AKI)は、様々な原因によって引き起こされる腎機能の喪失を特徴とする状
態である。通常、AKIは、腎臓にとって有害な物質への暴露及び/又は尿路の閉塞によって
引き起こされ得る。AKIの具体的な原因としては、疾患、圧挫損傷、造影剤、及び抗生物
質が挙げられる。AKIは、例えば、血中尿素窒素及びクレアチニンのレベルの解析に基づ
いて、又は十分な量の尿を産生する腎臓の能力の欠如に基づいて診断することができる。
急性腎損傷を軽減するか又は急性腎損傷からの回復を促進させることができる特定の療法
は存在せず;むしろ、既存の急性腎損傷の治療は、本質的に対症的である。Bellomoらの文
献、2012, Lancet 380:356-366を参照されたい。したがって、AKIを治療するための改善
された組成物及び方法が医療分野において必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
(3.概要)
一態様において、本明細書に提供されるのは、AKIを有する対象(例えば、ヒト対象)の
急性腎損傷(AKI)を治療する方法である。一実施態様において、本明細書に提供されるの
は、AKIを有する対象のAKIを治療する方法であって、該対象に治療有効量の胎盤幹細胞を
投与することを含み、ここで、該治療有効量が、該対象における、AKIの1以上の症状の検
出可能な改善、又はAKIの1以上の症状の進行の低下をもたらすのに十分な量である、方法
である。別の態様において、本明細書に提供されるのは、AKIを治療するための医薬の製
造における胎盤幹細胞の使用である。
【0005】
別の態様において、本明細書に提供されるのは、AKIを有する対象のAKIと関連する症状
及び/又は合併症を予防する方法である。一実施態様において、本明細書に提供されるの
は、AKIを有する対象のAKIの症状及び/又は合併症を予防する方法であって、該対象に治
療有効量の胎盤幹細胞を投与することを含み、ここで、該治療有効量が、該対象における
AKIの1以上の症状及び/又は合併症の発症を予防するのに十分な量である、方法である。
【0006】
ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従ってAKIを有する対象に投与される
胎盤幹細胞の治療有効量は、該対象におけるAKIの以下の症状:疲労、血便、口臭、口の中
の金属味、痣、手の震え、高血圧、鼻血、吃逆、発作、息切れ、排尿パターンの変化(例
えば、定期的に排尿する能力の喪失、もしくは夜間の頻尿)、食欲不振、頭痛、吐き気及
び嘔吐、不整脈、脇腹の疼痛(例えば、腎血管の血栓症もしくは腎臓の炎症が原因で起こ
る)、口渇、触知可能な膀胱、四肢の体液貯留(末梢浮腫)及び肺の体液貯留(肺水腫)、並
びに/又は心タンポナーデのうちの1つ又は複数の検出可能な改善、又は進行の低下をもた
らすのに十分な量である。
【0007】
ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従ってAKIを有する対象に投与される
胎盤幹細胞の治療有効量は、該対象において、以下のもの:糸球体濾過量の増加、血清ク
レアチニンレベルの減少、尿クレアチニンレベルの減少、クレアチニンクリアランスの増
加、血中尿素窒素(BUN)のレベルの減少、ナトリウム排泄分画(腎臓によって濾過され、尿
中に排泄されるナトリウムのパーセンテージ)の減少、及び/又は尿排泄量の安定化(例え
ば、尿排泄量の増加)のうちの1つ又は複数をもたらすのに十分な量である。ある実施態様
において、本明細書に記載の方法に従ってAKIを有する対象に投与される胎盤幹細胞の治
療有効量は、AKIと関連する該対象における腎損傷の減少をもたらすのに十分な量である
。例えば、該対象の腎臓は、出血(hemorrhaging)(出血(bleeding))の低下、単核細胞浸潤
物の数の低下、及び/又は壊死(例えば、尿細管上皮の壊死)の低下を示す。
【0008】
ある実施態様において、本明細書に記載のAKIの治療方法は、治療有効量の胎盤幹細胞
及び第二の療法(例えば、第二の治療剤)の対象への投与を含む。該第二の治療剤は、該対
象におけるAKIの治療で使用される薬剤又はAKIの一因もしくは原因となる疾患もしくは状
態の治療で使用される薬剤であることができる。ある実施態様において、該第二の療法は
、ステロイド、抗生物質、利尿薬、免疫調節剤、又は免疫抑制剤である。具体的な実施態
様において、該第二の療法は、透析である。別の具体的な実施態様において、該第二の療
法は、高血圧の治療で使用される療法、例えば、利尿薬、β遮断薬、ACE阻害剤、アンジ
オテンシンII受容体遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬、α遮断薬、α2受容体アンタゴ
ニスト、末梢アドレナリン受容体、又は血管拡張薬である。
【0009】
具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIを有する対
象に、胎盤幹細胞を、抗血栓剤、例えば、デキストラン、ヘパリン、ジクマロール、アス
ピリン、クロピドグレル、ジピリダモール、及びアブシキシマブと組み合わせて投与する
。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIを有す
る対象に、胎盤幹細胞を、抗炎症剤、例えば、DMSO、アスピリン、イブプロフェン、ナプ
ロキセンと組み合わせて投与する。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方
法に従って治療されるAKIを有する対象に、胎盤幹細胞を、抗血栓剤及び抗炎症剤と組み
合わせて投与する。そのような実施態様に従って、胎盤幹細胞を、対象に、抗血栓剤及び
/又は抗炎症剤の投与の前に、その後に、又はそれと同時に投与することができる。具体
的な実施態様において、胎盤幹細胞を、抗血栓剤及び抗炎症剤を含む組成物に入れて、本
明細書に記載の方法に従って、AKIを有する対象に投与する。別の具体的な実施態様にお
いて、胎盤幹細胞を、デキストラン及びDMSOを含む組成物に入れて、本明細書に記載の方
法に従って、AKIを有する対象に投与する。
【0010】
治療有効量の胎盤幹細胞が本明細書に記載の方法に従って対象に投与されるのは、適切
とみなされる任意の経路によることができ、これには、限定するものではないが、静脈内
、動脈内、腹腔内、心室内、筋肉内、経皮、又は皮下投与が含まれる。具体的な実施態様
において、該胎盤幹細胞を該対象に全身投与する。別の具体的な実施態様において、該胎
盤幹細胞を該対象に非経口投与する。別の具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞を該
対象に静脈内投与する。別の具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞を該対象に皮下投
与する。別の具体的な実施態様において、治療有効量の胎盤幹細胞を該対象の損傷の部位
に直接(例えば、腎臓の損傷領域に直接)投与し、例えば、該胎盤幹細胞を局所投与する。
【0011】
具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法に従って使用される胎盤幹細胞は、
CD10+、CD34-、CD105+、CD200+である。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載
の方法に従って使用される胎盤幹細胞はCD200を発現し、かつHLA-Gを発現しないか;又はC
D73、CD105、及びCD200を発現するか;又はCD200及びOCT-4(POU5F1+)を発現するか;又はCD
73及びCD105を発現し、かつHLA-Gを発現しない。
【0012】
(3.1 定義)
本明細書で使用されるように、「約」という用語は、記載された数値に言及するとき、
記載された数値の±10%以内の値を示す。
【0013】
本明細書で使用されるように、「治療有効量」という用語は、本明細書に記載の胎盤幹
細胞に言及するとき、胎盤細胞の特定の数、例えば、AKIの1以上の症状及び/もしくは合
併症の、例えば、検出可能な改善、その重症度の軽減をもたらすか、又はその進行を低下
させるのに十分な、1以上の用量で投与される胎盤幹細胞の数を意味する。
【0014】
本明細書で使用されるように、「由来した」という用語は、単離されているか、又は別
の形で純化されていることを意味する。例えば、胎盤由来接着細胞は、胎盤から単離され
ている。「由来した」という用語は、組織、例えば、胎盤から直接単離された細胞、及び
初代単離株から培養又は拡大された細胞から培養される細胞を包含する。
【0015】
本明細書で使用されるように、「免疫局在化」は、免疫タンパク質、例えば、抗体又は
その断片を、例えば、フローサイトメトリー、蛍光活性化細胞選別、磁気細胞選別、イン
サイチュハイブリダイゼーション、免疫組織化学などで用いる、化合物、例えば、細胞マ
ーカーの検出を意味する。
【0016】
本明細書で使用されるように、「SH2」という用語は、マーカーCD105上のエピトープに
結合する抗体を指す。したがって、SH2+と称される細胞は、CD105+である。
【0017】
本明細書で使用されるように、「SH3」及び「SH4」という用語は、マーカーCD73上に存
在するエピトープに結合する抗体を指す。したがって、SH3+及び/又はSH4+と称される細
胞は、CD73+である。
【0018】
本明細書で使用されるように、「OCT-4」は、POU5F1に相当する。
【0019】
本明細書で使用されるように、幹細胞は、該幹細胞が天然に関連している他の細胞の少
なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、又は少なくとも99%が、例えば、該幹細
胞の回収及び/又は培養時に、該幹細胞から除去される場合、「単離された」ものとなる
。「単離された」細胞の集団は、該細胞の集団が由来する組織、例えば、胎盤の他の細胞
から実質的に分離されている細胞の集団を意味する。いくつかの実施態様において、例え
ば、幹細胞の集団は、該幹細胞の集団が天然に関連している細胞の少なくとも50%、60%
、70%、80%、90%、95%、又は少なくとも99%が、例えば、該幹細胞の集団の回収及び
/又は培養時に、該幹細胞の集団から除去される場合、「単離された」ものとなる。
【0020】
本明細書で使用されるように、「胎盤幹細胞」という用語は、形態、細胞表面マーカー
、又は初代培養後の継代数を問わず、組織培養基材(例えば、組織培養プラスチック又は
フィブロネクチンコーティング組織培養プレート)に接着する、哺乳動物胎盤に由来する
、例えば、哺乳動物胎盤から単離される、幹細胞又は前駆細胞を指す。しかしながら、本
明細書で使用される「胎盤幹細胞」という用語は、これらの細胞が当業者によって理解さ
れている通り、栄養膜も、栄養膜細胞層も、胚性生殖細胞も、胚性幹細胞も指さない。細
胞は、該細胞が、幹細胞の少なくとも1つの特性、例えば、1以上のタイプの幹細胞と関連
するマーカー又は遺伝子発現プロファイル;培養下で少なくとも10~40回複製する能力;多
能性、例えば、インビトロ、インビボ、又はその両方のいずれかで、三胚葉細胞のうちの
1つ又は複数の細胞に分化する能力;成体(すなわち、分化した)細胞の特徴の欠如などを保
持する場合、「幹細胞」とみなされる。「胎盤幹細胞」及び「胎盤由来幹細胞」という用
語は、互換的に使用することができる。本明細書に別途注記しない限り、「胎盤」という
用語には、臍帯が含まれる。本明細書に開示される胎盤幹細胞は、ある実施態様において
、インビトロで多能性であるか(すなわち、該細胞は、分化条件下、インビトロで分化す
る)、インビボで多能性であるか(すなわち、該細胞はインビボで分化する)、又はその両
方である。
【0021】
本明細書で使用されるように、幹細胞は、特定のマーカーが検出可能であるとき、その
マーカーについて「陽性」である。例えば、胎盤幹細胞は、例えば、CD73について陽性で
あるが、それは、CD73が、胎盤幹細胞上において、(例えば、任意の所与のアッセイのア
イソタイプ対照又は実験上の陰性対照と比較したときに)バックグラウンドを検出可能な
程度に上回る量で検出可能であるからである。細胞はまた、あるマーカーを用いて、該細
胞を少なくとも1つの他の細胞型と区別することができるか、又は存在するかもしくは該
細胞によって発現される場合、あるマーカーを用いて、該細胞を選択もしくは単離するこ
とができるとき、そのマーカーについて陽性である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(4.詳細な説明)
(4.1 急性腎損傷を治療する方法)
本明細書に提供されるのは、対象の急性腎損傷(AKI)を治療する方法であって、該対象
に有効量の胎盤幹細胞を投与することを含む、方法である。ある実施態様において、本明
細書に提供されるAKIを治療する方法は、該対象におけるAKIの1以上の症状又は合併症の
検出可能な改善をもたらす。ある実施態様において、本明細書に提供されるAKIの治療方
法は、該対象におけるAKIの1以上の症状又は合併症の発症の予防をもたらす。
【0023】
一実施態様において、本明細書に提供されるのは、AKIを有する対象のAKIを治療する方
法であって、該対象に治療有効量の胎盤幹細胞を投与することを含み、ここで、該治療有
効量が、該対象における、AKIの1以上の症状及び/もしくは合併症の検出可能な改善、又
はAKIの1以上の症状及び/もしくは合併症の進行の低下をもたらすのに十分な量である、
方法である。
【0024】
別の実施態様において、本明細書に提供されるのは、AKIを有する対象のAKIの症状及び
/又は合併症を予防する方法であって、該対象に治療有効量の胎盤幹細胞を投与すること
を含み、ここで、該治療有効量が、該対象におけるAKIの1以上の症状及び/又は合併症の
発症を予防するのに十分な量である、方法である。
【0025】
本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIを有する対象は、AKIの何らかの原因のた
めにAKIを有し得る。ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療される
対象のAKIは、該対象の1以上の腎臓の直接的な外傷、例えば、AKIを有する対象の1以上の
腎臓と、腎臓の外傷を引き起こすもの(例えば、腎臓の鈍器外傷)との接触によって引き起
こされる。ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療される対象のAKI
の症状(複数可)は、直接的な外傷以外のものによって引き起こされ、例えば、AKIは、該
対象における別の状態又は疾患の存在に起因する(すなわち、他の状態又は疾患は、AKIの
根本的な原因である)。ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療され
るAKIを有する対象は、以下のもの:急性尿細管壊死(ATN)、自己免疫性腎疾患、コレステ
ロールによる血栓(コレステロール塞栓)、低血圧(例えば、火傷、脱水症、出血、損傷、
敗血症性ショック、病気、もしくは外科手術が原因で起こる)による血流の減少、腎臓の
血管内で血栓形成を引き起こす障害、腎臓を直接損傷する感染症(例えば、急性腎盂腎炎
もしくは敗血症)、妊娠合併症(例えば、胎盤早期剥離もしくは前置胎盤)、及び/又は尿路
遮断のうちの1つ又複数(例えば、組合せ)によって引き起こされるAKIを有する。
【0026】
ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従ってAKIを有する対象に投与される
胎盤幹細胞の治療有効量は、該対象におけるAKIの以下の症状:疲労、血便、口臭、口の中
の金属味、痣、手の震え、高血圧、鼻血、吃逆、発作、息切れ、排尿パターンの変化(例
えば、定期的に排尿する能力の喪失、もしくは夜間の頻尿)、食欲不振、頭痛、吐き気及
び嘔吐、不整脈、脇腹の疼痛(例えば、腎血管の血栓症もしくは腎臓の炎症が原因で起こ
る)、口渇、触知可能な膀胱、四肢の体液貯留(末梢浮腫)及び肺の体液貯留(肺水腫)、並
びに/又は心タンポナーデのうちの1つ又は複数の検出可能な改善、又は進行の低下をもた
らすのに十分な量である。
【0027】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の方法に従ってAKIを有する対象に投与
される胎盤幹細胞の治療有効量は、該対象におけるAKIの以下の症状:疲労、血便、口臭、
口の中の金属味、痣、手の震え、高血圧、鼻血、吃逆、発作、息切れ、排尿パターンの変
化(例えば、定期的に排尿する能力の喪失、もしくは夜間の頻尿)、食欲不振、頭痛、吐き
気及び嘔吐、不整脈、脇腹の疼痛(例えば、腎血管の血栓症もしくは腎臓の炎症が原因で
起こる)、口渇、触知可能な膀胱、四肢の体液貯留(末梢浮腫)及び肺の体液貯留(肺水腫)
、並びに/又は心タンポナーデのうちの1つ又は複数の発症又は進行を予防するのに十分な
量である。
【0028】
AKIの1以上の症状及び/又は合併症の改善又は進行の低下の決定は、客観的に測定可能
なパラメーター、例えば、糸球体濾過量の増加、血清クレアチニンレベルの減少、尿クレ
アチニンレベルの減少、クレアチニンクリアランスの増加、血中尿素窒素(BUN)のレベル
の減少、ナトリウム排泄分画(腎臓によって濾過され、尿中に排泄されるナトリウムのパ
ーセンテージ)の減少、及び/又は尿排泄量の安定化(例えば、尿排泄量の増加);並びに主
観的に測定可能なパラメーター、例えば、患者の健康、患者によるAKIの症状の改善の認
識、AKIと関連する疼痛又は不快感の減少の認識などを含むことができる。
【0029】
糸球体濾過量(GFR)は、濾過された流体が腎臓を通る流量を指し、ある実施態様におい
て、本明細書に記載の治療方法の効力を評価するために使用することができる。理論によ
って制限されるつもりはないが、AKIを有する対象は、例えば、AKIを有しない対象と比較
して、糸球体濾過量の減少を示す。ある実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、
AKIを有する対象の糸球体濾過量を増加させるのに十分な量である。具体的な実施態様に
おいて、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象の糸球体濾過量を、少なくとも1週
間、2週間、3週間、4週間、1カ月、2カ月、3カ月、6カ月、9カ月、又は12カ月増加させる
のに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKI
を有する対象の糸球体濾過量を、治療期間中、例えば、該対象に、本明細書に記載の方法
に従って胎盤幹細胞が投与されている限り、増加させるのに十分な量である。別の具体的
な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象の糸球体濾過量を、
少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%
、65%、70%、又は75%増加させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様において
、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象の糸球体濾過量を、5%~10%、10%~15
%、15%~20%、20%~25%、25%~30%、30%~35%、35%~40%、40%~45%、45%
~50%、50%~55%、55%~60%、60%~65%、65%~70%、70%~75%、又は75%を超
えて増加させるのに十分な量である。糸球体濾過量は、当業者に公知の任意の方法によっ
て決定することができる(例えば、Hjorthの文献、2002, Pediatric Nephrology 17:847-8
51を参照されたい)。
【0030】
クレアチニンは、主として、糸球体濾過及び近位尿細管分泌を介して腎臓によって血液
から濾過される。血液中(例えば、血液の血清又は血漿中)及び尿中のクレアチニンレベル
は、腎臓の濾過が不足する場合に上昇する。ある実施態様において、胎盤幹細胞の治療有
効量は、AKIを有する対象の血液中(例えば、血液の血清もしくは血漿中)及び/又は尿中の
クレアチニンレベルを減少させるのに十分な量である。具体的な実施態様において、胎盤
幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象の血液中(例えば、血液の血清もしくは血漿中)
及び/又は尿中のクレアチニンレベルを、少なくとも1週間、2週間、3週間、4週間、1カ月
、2カ月、3カ月、6カ月、9カ月、又は12カ月減少させるのに十分な量である。別の具体的
な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象の血液中(例えば、血
液の血清もしくは血漿中)及び/又は尿中のクレアチニンレベルを、治療期間中、例えば、
該対象に、本明細書に記載の方法に従って胎盤幹細胞が投与されている限り、減少させる
のに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKI
を有する対象の血液中(例えば、血液の血清もしくは血漿中)及び/又は尿中のクレアチニ
ンレベルを、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%
、55%、60%、65%、70%、又は75%減少させるのに十分な量である。別の具体的な実施
態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象の血液中(例えば、血液の血
清もしくは血漿中)及び/又は尿中のクレアチニンレベルを、5%~10%、10%~15%、15
%~20%、20%~25%、25%~30%、30%~35%、35%~40%、40%~45%、45%~50%
、50%~55%、55%~60%、60%~65%、65%~70%、70%~75%、又は75%を超えて減
少させるのに十分な量である。
【0031】
血液中のクレアチニンレベルは、当技術分野で周知であるクレアチニンクリアランス試
験を用いて決定することができる。具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量
は、AKIを有する対象におけるクレアチニンクリアランスを、少なくとも1週間、2週間、3
週間、4週間、1カ月、2カ月、3カ月、6カ月、9カ月、又は12カ月増加させるのに十分な量
である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象
におけるクレアチニンクリアランスを、治療期間中、例えば、該対象に、本明細書に記載
の方法に従って胎盤幹細胞が投与されている限り、増加させるのに十分な量である。別の
具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象におけるクレ
アチニンクリアランスを、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%
、45%、50%、55%、60%、65%、70%、又は75%増加させるのに十分な量である。別の
具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象におけるクレ
アチニンクリアランスを、5%~10%、10%~15%、15%~20%、20%~25%、25%~30
%、30%~35%、35%~40%、40%~45%、45%~50%、50%~55%、55%~60%、60%
~65%、65%~70%、70%~75%、又は75%を超えて増加させるのに十分な量である。
【0032】
血中尿素窒素(BUN)試験は、血液中の、タンパク質代謝の廃棄物である尿素窒素の量を
測定する。健常対象では、尿素は、腎臓によって血流から除去される。したがって、血液
中の尿素窒素のレベルの測定を用いて、本明細書に記載の治療方法の効力を評価すること
ができる。具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象に
おけるBUNのレベルを、少なくとも1週間、2週間、3週間、4週間、1カ月、2カ月、3カ月、
6カ月、9カ月、又は12カ月減少させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様におい
て、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象におけるBUNのレベルを、治療期間中、
例えば、該対象に、本明細書に記載の方法に従って胎盤幹細胞が投与されている限り、減
少させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量
は、AKIを有する対象におけるBUNのレベルを、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%
、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、又は75%減少させるのに十
分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有す
る対象におけるBUNのレベルを、5%~10%、10%~15%、15%~20%、20%~25%、25%
~30%、30%~35%、35%~40%、40%~45%、45%~50%、50%~55%、55%~60%、
60%~65%、65%~70%、70%~75%、又は75%を超えて減少させるのに十分な量である
。
【0033】
ナトリウム(Na+)排泄分画は、尿中に排泄された濾過されたNa+量のパーセントを表し、
かつ腎臓の近位尿細管によるNa+再吸収の尺度である。具体的な実施態様において、胎盤
幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象におけるナトリウム排泄分画を、少なくとも1週
間、2週間、3週間、4週間、1カ月、2カ月、3カ月、6カ月、9カ月、又は12カ月減少させる
のに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKI
を有する対象におけるナトリウム排泄分画を、治療期間中、例えば、該対象に、本明細書
に記載の方法に従って胎盤幹細胞が投与されている限り、減少させるのに十分な量である
。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象におけ
るナトリウム排泄分画を、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%
、45%、50%、55%、60%、65%、70%、又は75%減少させるのに十分な量である。別の
具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象におけるナト
リウム排泄分画を、5%~10%、10%~15%、15%~20%、20%~25%、25%~30%、30
%~35%、35%~40%、40%~45%、45%~50%、50%~55%、55%~60%、60%~65%
、65%~70%、70%~75%、又は75%を超えて減少させるのに十分な量である。
【0034】
理論によって制限されるつもりはないが、尿排泄量は、AKIを有する対象で影響を受け
ることがある。ある実施態様において、本明細書に記載の方法によるAKIを有する対象へ
の胎盤幹細胞の投与は、該対象の尿排泄量の安定化をもたらし、例えば、該対象の尿排泄
量は、該対象の正常レベルにまで、又は該対象の正常レベルの5%、10%、15%、20%、2
5%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、もしくは75%以内にま
で安定化する。一実施態様において、AKIに罹患している対象は、AKIの結果として、尿排
泄量が減少している。具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有
する対象による尿排泄量を、少なくとも1週間、2週間、3週間、4週間、1カ月、2カ月、3
カ月、6カ月、9カ月、又は12カ月増加させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様
において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対象による尿排泄量を、治療期間中
、例えば、該対象に、本明細書に記載の方法に従って胎盤幹細胞が投与されている限り、
増加させるのに十分な量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効
量は、AKIを有する対象による尿排泄量を、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30
%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、又は75%増加させるのに十分な
量である。別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIを有する対
象による尿排泄量を、5%~10%、10%~15%、15%~20%、20%~25%、25%~30%、3
0%~35%、35%~40%、40%~45%、45%~50%、50%~55%、55%~60%、60%~65
%、65%~70%、70%~75%、又は75%を超えて増加させるのに十分な量である。
【0035】
具体的な実施態様において、本明細書に提供されるのは、AKIを治療する方法であって:
(i)胎盤幹細胞を、AKIを有する個体に投与すること;(ii)該胎盤幹細胞の投与後の該個体
の糸球体濾過量を決定すること;及び(iii)該糸球体濾過量が、該胎盤幹細胞の投与前の該
個体の糸球体濾過量と比較して、約5%、10%、15%、20%、もしくは25%、又は約5~10
%、10~20%、20~30%増加している場合、該胎盤幹細胞の投与を繰り返すことを含む、
方法である。ある実施態様において、該糸球体濾過量が胎盤幹細胞の投与後に増加してい
ない場合、投与される胎盤幹細胞の用量を増加させることができる。ある実施態様におい
て、該糸球体濾過量が胎盤幹細胞の投与後に増加していない場合、投与される胎盤幹細胞
の投与頻度を増加させることができる。
【0036】
具体的な実施態様において、本明細書に提供されるのは、AKIを治療する方法であって:
(i)胎盤幹細胞を、AKIを有する個体に投与すること;(ii)該胎盤幹細胞の投与後の該個体
血液中(例えば、血液の血清もしくは血漿中)及び/又は尿中のクレアチニンレベルを決定
すること;並びに(iii)血液中(例えば、血液の血清もしくは血漿中)及び/又は尿中のクレ
アチニンレベルが、該胎盤幹細胞の投与前の該個体の血液中(例えば、血液の血清もしく
は血漿中)及び/又は尿中のクレアチニンレベルと比較して、約5%、10%、15%、20%、
もしくは25%、又は約5~10%、10~20%、20~30%減少している場合、該胎盤幹細胞の
投与を繰り返すことを含む、方法である。ある実施態様において、血液中(例えば、血液
の血清もしくは血漿中)及び/又は尿中のクレアチニンレベルが該胎盤幹細胞の投与後に減
少していない場合、投与される胎盤幹細胞の用量を増加させることができる。ある実施態
様において、血液中(例えば、血液の血清もしくは血漿中)及び/又は尿中のクレアチニン
レベルが該胎盤幹細胞の投与後に減少していない場合、投与される胎盤幹細胞の投与頻度
を増加させることができる。
【0037】
具体的な実施態様において、本明細書に提供されるのは、AKIを治療する方法であって:
(i)胎盤幹細胞を、AKIを有する個体に投与すること;(ii)該胎盤幹細胞の投与後の該個体
のクレアチニンクリアランスを決定すること;及び(iii)該クレアチニンクリアランスが、
該胎盤幹細胞の投与前の該個体のクレアチニンクリアランスと比較して、約5%、10%、1
5%、20%、もしくは25%、又は約5~10%、10~20%、20~30%増加している場合、該胎
盤幹細胞の投与を繰り返すことを含む、方法である。ある実施態様において、該クレアチ
ニンクリアランスが胎盤幹細胞の投与後に増加していない場合、投与される胎盤幹細胞の
用量を増加させることができる。ある実施態様において、該クレアチニンクリアランスが
胎盤幹細胞の投与後に増加していない場合、投与される胎盤幹細胞の投与頻度を増加させ
ることができる。
【0038】
具体的な実施態様において、本明細書に提供されるのは、AKIを治療する方法であって:
(i)胎盤幹細胞を、AKIを有する個体に投与すること;(ii)該胎盤幹細胞の投与後の該個体
の血中尿素窒素(BUN)レベルを決定すること;及び(iii)該BUNレベルが、該胎盤幹細胞の投
与前の該個体のBUNレベルと比較して、約5%、10%、15%、20%、もしくは25%、又は約
5~10%、10~20%、20~30%減少している場合、該胎盤幹細胞の投与を繰り返すことを
含む、方法である。ある実施態様において、該BUNレベルが該胎盤幹細胞の投与後に減少
していない場合、投与される胎盤幹細胞の用量を増加させることができる。ある実施態様
において、該BUNレベルが該胎盤幹細胞の投与後に減少していない場合、投与される胎盤
幹細胞の投与頻度を増加させることができる。
【0039】
具体的な実施態様において、本明細書に提供されるのは、AKIを治療する方法であって:
(i)胎盤幹細胞を、AKIを有する個体に投与すること;(ii)該胎盤幹細胞の投与後の該個体
のナトリウム排泄分画を決定すること;及び(iii)ナトリウム排泄分画が、該胎盤幹細胞の
投与前の該個体のナトリウム排泄分画と比較して、約5%、10%、15%、20%、もしくは2
5%、又は約5~10%、10~20%、20~30%減少している場合、該胎盤幹細胞の投与を繰り
返すことを含む、方法である。ある実施態様において、ナトリウム排泄分画が該胎盤幹細
胞の投与後に減少していない場合、投与される胎盤幹細胞の用量を増加させることができ
る。ある実施態様において、ナトリウム排泄分画が該胎盤幹細胞の投与後に減少していな
い場合、投与される胎盤幹細胞の投与頻度を増加させることができる。
【0040】
具体的な実施態様において、本明細書に提供されるのは、AKIを治療する方法であって:
(i)胎盤幹細胞を、AKIを有する個体に投与すること;(ii)該胎盤幹細胞の投与後の該個体
の尿排泄量を決定すること;及び(iii)該尿排泄量が、該胎盤幹細胞の投与前の該個体の尿
排泄量と比較して、約5%、10%、15%、20%、もしくは25%、又は約5~10%、10~20%
、20~30%増加している場合、該胎盤幹細胞の投与を繰り返すことを含む、方法である。
ある実施態様において、該尿排泄量が胎盤幹細胞の投与後に増加していない場合、投与さ
れる胎盤幹細胞の用量を増加させることができる。ある実施態様において、該尿排泄量が
胎盤幹細胞の投与後に増加していない場合、投与される胎盤幹細胞の投与頻度を増加させ
ることができる。
【0041】
ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従ってAKIを有する対象に投与される
胎盤幹細胞の治療有効量は、AKIと関連する対象の腎損傷の減少を引き起こすのに十分な
量である。例えば、該対象の腎臓は、出血(hemorrhaging)(出血(bleeding))の低下、単核
細胞浸潤物の数の低下、及び/又は壊死(例えば、尿細管上皮の壊死)の低下を示す。
【0042】
ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIに罹患している
対象は、18歳未満である。具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治
療されるAKIに罹患している対象は、13歳未満である。別の具体的な実施態様において、
本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIに罹患している対象は、12歳未満、11歳未
満、10歳未満、9歳未満、8歳未満、7歳未満、6歳未満、又は5歳未満である。別の具体的
な実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIに罹患している対象
は、1~3歳、3~5歳、5~7歳、7~9歳、9~11歳、11~13歳、13~15歳、15~20歳、20~2
5歳、25~30歳、又は30歳よりも年上である。別の具体的な実施態様において、本明細書
に記載の方法に従って治療されるAKIに罹患している対象は、30~35歳、35~40歳、40~4
5歳、45~50歳、50~55歳、55~60歳、又は60歳よりも年上である。別の具体的な実施態
様において、本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIに罹患している対象は、60~6
5歳、65~70歳、70~75歳、75~80歳、又は80歳よりも年上である。
【0043】
ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIに罹患している
対象は、末期腎疾患を有する。ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治
療されるAKIに罹患している対象は、透析を受けている。
【0044】
ある実施態様において、本明細書に記載のAKIを治療する方法は、治療有効量の胎盤幹
細胞及び第二の療法(例えば、第二の治療剤)の対象への投与を含む。該第二の治療剤は、
該対象におけるAKIの治療で使用される薬剤又はAKIの一因もしくは原因となる疾患もしく
は状態の治療で使用される薬剤であることができる。ある実施態様において、該第二の療
法は、ステロイド、抗生物質、利尿薬、免疫調節剤、又は免疫抑制剤である。具体的な実
施態様において、該第二の療法は、透析である。別の具体的な実施態様において、該第二
の療法は、高血圧の治療で使用される療法、例えば、利尿薬、β遮断薬、ACE阻害剤、ア
ンジオテンシンII受容体遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬、α遮断薬、α2受容体アン
タゴニスト、末梢アドレナリン受容体、又は血管拡張薬(vasoldilator)である。そのよう
な実施態様に従って、胎盤幹細胞を、対象に、該第二の療法の投与の前に、その後に、又
はそれと同時に投与することができる。「前に」又は「後に」とは、該胎盤幹細胞が、該
第二の療法と比べて、約15分を超える時間、例えば、約20、30、40、50、60分、又はそれ
より長い時間のいずれかを超える時間を隔てて投与されることを意味する。「同時に」と
は、胎盤幹細胞の投与が、該第二の療法の投与と重なるか、又は該投与の約15分以内に行
われることを意味する。
【0045】
具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIを有する対
象に、胎盤幹細胞を、抗血栓剤、例えば、デキストラン、ヘパリン、ジクマロール、アス
ピリン、クロピドグレル、ジピリダモール、及びアブシキシマブと組み合わせて投与する
。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法に従って治療されるAKIを有す
る対象に、胎盤幹細胞を、抗炎症剤、例えば、DMSO、アスピリン、イブプロフェン、ナプ
ロキセンと組み合わせて投与する。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方
法に従って治療されるAKIを有する対象に、胎盤幹細胞を、抗血栓剤及び抗炎症剤と組み
合わせて投与する。そのような実施態様に従って、胎盤幹細胞を、対象に、抗血栓剤及び
/又は抗炎症剤の投与の前に、その後に、又はそれと同時に投与することができる。具体
的な実施態様において、胎盤幹細胞を、抗血栓剤及び抗炎症剤を含む組成物に入れて、本
明細書に記載の方法に従って、AKIを有する対象に投与する。別の具体的な実施態様にお
いて、胎盤幹細胞を、デキストラン及びDMSOを含む組成物に入れて、本明細書に記載の方
法に従って、AKIを有する対象に投与する。
【0046】
AKIと関連する症状もしくは合併症を有しているか、又はそれを経験している対象を、A
KIの進行中の任意の時点で、又はAKIの症状もしくは合併症が現われる前の任意の時点で
、胎盤幹細胞(及び任意に、1以上の追加の治療剤)で治療することができる。例えば、対
象を、AKIの症状もしくは合併症が現われた直後に、又はAKIの症状もしくは合併症が現わ
れてから1、2、3、4、5、6日以内に、又はAKIの症状もしくは合併症が現われてから1、2
、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、13、15、16、17、18、19、20、25、30、35、4
0、45、50日、もしくはそれより長い日数以内に、又はAKIの症状もしくは合併症が現われ
てから1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくはそれより長い年数以内に治療すること
ができる。対象を、AKIの臨床経過中に1回又は複数回治療することができる。AKIを治療
するための本明細書に記載の方法に従って、AKIを有する対象を、胎盤幹細胞、及び任意
に1以上の治療剤で連続的に治療して、AKIの症状又は合併症の発症を予防することができ
、例えば、該対象に、胎盤幹細胞を、特定のレジメンに従って(例えば、毎日、1日おきに
、週に1回、週に2回、週に3回、2週間毎に、3週間毎に、4週間毎に、月に1回、3カ月毎に
、6カ月毎に、又は年に1回)投与することができる。
【0047】
一実施態様において、AKIを有する対象に、約3億個の用量の胎盤幹細胞を投与する。し
かしながら、投与量は、対象の身体特性、例えば、体重によって変動することができ、用
量当たり100万~100億個の胎盤幹細胞、用量当たり1,000万~10億個、又は用量当たり1億
~5億個の胎盤幹細胞の範囲であることができる。一実施態様において、本明細書に記載
の方法に従って使用されるある用量の胎盤幹細胞は、ボーラス注射又はカテーテルによる
投与に好適な血液バッグ又は同様のバッグに含まれる。本明細書に記載の方法に従って使
用される胎盤幹細胞は、単一用量、又は複数用量で投与することができる。胎盤幹細胞が
、本明細書に記載の方法に従って、複数用量で投与される場合、該用量は、AKIの1以上の
症状もしくは合併症の発生もしくは進行を予防するように、AKIの1以上の症状もしくは合
併症の重症度を軽減するように、又はAKIの1以上の症状もしくは合併症を管理もしくは改
善するように設計された治療レジメンの一部であることができる。別の実施態様において
、AKIを有する対象に、約、少なくとも、又は多くとも1×105、5×105、1×106、5×106
、1×107、5×107、1×108、5×108、1×109、5×109、1×1010、5×1010、1×1011個の
用量の胎盤幹細胞が投与される。
【0048】
本明細書に記載の方法において有用な胎盤幹細胞は、本明細書に開示される胎盤幹細胞
のいずれかであることができる(第4.2節を参照されたい)。具体的な実施態様において、
本明細書に記載の方法に従って使用される胎盤幹細胞は、CD10+、CD34-、CD105+胎盤幹細
胞である。別の具体的な実施態様において、該CD10+、CD34-、CD105+胎盤幹細胞はさらに
、CD200+である。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎
盤幹細胞はCD200を発現し、かつHLA-Gを発現しないか; CD73、CD105、及びCD200を発現す
るか; CD200及びOCT-4を発現するか;又はCD73及びCD105を発現し、かつHLA-Gを発現しな
いか;又は前述のもののいずれかの組合せである。具体的な実施態様において、本明細書
に記載の方法で使用される胎盤幹細胞は、CD10+、CD105+、CD200+、CD34-胎盤幹細胞であ
る。別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞は、
CD117-である。
【0049】
一実施態様において、本明細書に記載の方法に従って使用される胎盤幹細胞は、細胞バ
ンク、例えば、胎盤幹細胞バンクに由来するものである。
【0050】
(4.2 胎盤幹細胞及び胎盤幹細胞集団)
本明細書中に記載される方法に使用するための胎盤幹細胞は、胎児起源又は母親起源の
どちらかであることができる(すなわち、母親又は胎児のどちらかの遺伝子型を有するこ
とができる)。胎盤幹細胞の集団、又は胎盤幹細胞を含む細胞の集団は、もっぱら胎児起
源もしくはもっぱら母親起源の胎盤幹細胞を含むことができ、又は胎児起源と母親起源の
両方の胎盤幹細胞の混合集団を含むことできる。胎盤幹細胞、及び胎盤幹細胞を含む細胞
の集団は、以下で論じられる形態的特性、マーカー特性、及び培養特性によって特定し、
選択することができる。
【0051】
本明細書に開示される方法において有用な、単離された胎盤幹細胞、例えば、単離され
た多能性胎盤幹細胞、及びそのような単離された胎盤幹細胞の集団は、多能性細胞又は幹
細胞の特徴を有し、かつ該幹細胞を含む細胞又は細胞の集団を同定及び/又は単離するた
めに使用することができる複数のマーカーを発現する組織培養表面接着性ヒト胎盤幹細胞
である。本明細書に記載の単離された胎盤幹細胞及び胎盤細胞集団(例えば、2以上の単離
された胎盤幹細胞)には、胎盤、又はその任意の部分(例えば、絨毛膜、胎盤葉など)から
直接得られる胎盤幹細胞、及び胎盤細胞含有細胞集団が含まれる。単離された胎盤細胞集
団には、培養下の単離された胎盤幹細胞の集団(すなわち、2以上の該単離された胎盤幹細
胞)、及び容器、例えば、バッグ中の集団も含まれる。本明細書に記載の単離された胎盤
幹細胞は、骨髄由来間葉系細胞でも、脂肪由来間葉系幹細胞でも、臍帯血、胎盤血、もし
くは末梢血から得られる間葉系細胞でもない。本明細書に記載の方法及び組成物において
有用な胎盤細胞、例えば、胎盤多能性細胞及び胎盤幹細胞は、本明細書に、並びに例えば
、その開示が引用により完全に本明細書中に組み込まれる、米国特許第7,311,904号;第7,
311,905号;及び第7,468,276号;並びに米国特許出願公開第2007/0275362号に記載されてい
る。
【0052】
(4.2.1 物理的及び形態的特性)
培養下において、本明細書に提示される方法で使用される胎盤幹細胞は、いくつかの細
胞質突起が中央の細胞体から伸びている、全般的に線維芽細胞様の星状の外観をしている
。しかしながら、該胎盤幹細胞は、線維芽細胞よりも多くの数のそのような突起を示すの
で、該胎盤幹細胞は、同じ条件下で培養された線維芽細胞と形態的に区別できる。形態的
に、胎盤幹細胞は、培養下で一般により丸みを帯びた又は敷石状の形態を示す造血幹細胞
とも区別可能である。
【0053】
(4.2.2 細胞表面マーカー、分子マーカー、及び遺伝子マーカー)
ある実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞は、初代培養で
又は細胞培養で培養したとき、組織培養基材、例えば、組織培養容器表面(例えば、組織
培養プラスチック)に接着し;かつCD10+、CD34-、CD105+である。別の実施態様において、
本明細書に記載の方法で使用されるCD10+、CD34-、CD105+胎盤幹細胞はさらに、CD200+で
ある。ある実施態様において、本明細書に記載の方法に従って使用される胎盤幹細胞は、
神経表現型の細胞、骨表現型の細胞、及び/又は軟骨表現型の細胞に分化する潜在能力を
有する。
【0054】
別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される単離された胎盤幹
細胞、例えば、CD10+、CD34-、CD105+、CD200+胎盤幹細胞はさらに、フローサイトメトリ
ーによって検出可能な、CD45-又はCD90+である。別の具体的な実施態様において、本明細
書に記載の方法で使用される単離された胎盤幹細胞はさらに、フローサイトメトリーによ
って検出可能な、CD80-及びCD86-である。ある具体的な実施態様において、本明細書に記
載の方法で使用される胎盤幹細胞はさらに、例えば、RT-PCRによって検出可能な、OCT-4+
である。
【0055】
本明細書に記載の方法で使用される単離された胎盤幹細胞、例えば、CD10+、CD34-、CD
105+、CD200+胎盤幹細胞は通常、例えば、免疫局在化によって検出可能な、α平滑筋アク
チン(αSMA)を発現しない。本明細書に記載の方法で使用される単離された胎盤幹細胞、
例えば、CD10+、CD34-、CD105+、CD200+胎盤幹細胞は通常、フローサイトメトリーによっ
て検出可能な、MHCクラスI分子、例えば、HLA-A,B,Cを発現しない。
【0056】
ある実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞は、フローサイ
トメトリーによって検出可能な、CD10+、CD34-、CD105+、CD200+であり、かつCD38-、CD4
5-、CD80-、CD86-、CD133-、HLA-DR,DP,DQ-、SSEA3-、SSEA4-、CD29+、CD44+、CD73+、CD
90+、CD105+、HLA-A,B,C+、PDL1+、及び/又はABC-p+のうちの1つ又は複数である。また別
の実施態様において、任意のそのような細胞はまた、RT-PCRによって検出可能な、Oct-4+
である。他の実施態様において、上記のCD10+、CD34-、CD105+、CD200+胎盤幹細胞のいず
れかはさらに、フローサイトメトリーによって検出可能な、CD29+、CD38-、CD44+、CD54+
、SH3+、又はSH4+のうちの1つ又複数である。別の具体的な実施態様において、該胎盤幹
細胞はさらに、フローサイトメトリーによって検出可能な、CD117-、CD133-、KDR-(VEGFR
2-)、HLA-A,B,C+、HLA-DP,DQ,DR-、もしくはプログラム死-1リガンド(PDL1)+のうちの1つ
もしく複数、又はこれらの任意の組合せである。
【0057】
別の実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞、例えば、CD10
+、CD34-、CD105+、CD200+胎盤幹細胞はさらに、フローサイトメトリーによって検出可能
な、CD13+、CD29+、CD33+、CD38-、CD44+、CD45-、CD54+、CD62E-、CD62L-、CD62P-、SH3
+(CD73+)、SH4+(CD73+)、CD80-、CD86-、CD90+、CD106/VCAM+、CD117-、CD144/VE-カドヘ
リンlow、CD184/CXCR4-、CD200+、CD133-,ABC-p+、KDR-(VEGFR2-)、HLA-A,B,C+、HLA-DP,
DQ,DR-、HLA-G-、もしくはプログラム死-1リガンド(PDL1)+のうちの1つもしくは複数、又
はその任意の組合せである。また別の実施態様において、任意のそのような細胞はまた、
RT-PCRによって検出可能な、Oct-4+である。別の実施態様において、本明細書に記載の方
法で使用される胎盤幹細胞、例えば、CD10+、CD34-、CD105+、CD200+胎盤幹細胞はさらに
、フローサイトメトリーによって検出可能な、CD13+、CD29+、CD33+、CD38-、CD44+、CD4
5-、CD54/ICAM+、CD62E-、CD62L-、CD62P-、SH3+(CD73+)、SH4+(CD73+)、CD80-、CD86-、
CD90+、CD106/VCAM+、CD117-、CD144/VE-カドヘリンlow、CD184/CXCR4-、CD200+、CD133-
、ABC-p+、KDR-(VEGFR2-)、HLA-A,B,C+、HLA-DP,DQ,DR-、HLA-G-、及びプログラム死-1リ
ガンド(PDL1)+である。
【0058】
別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞のいず
れかはさらに、フローサイトメトリーによって検出可能な、ABC-p+であるか、又は逆転写
酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によって検出可能な、OCT-4+(POU5F1+)であり、ここ
で、ABC-pは、胎盤特異的ABC輸送体タンパク質(乳癌耐性タンパク質(BCRP)又はミトキサ
ントロン耐性タンパク質(MXR)としても知られる)であり、OCT-4は、オクタマー-4タンパ
ク質(POU5F1)である。
【0059】
別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞のいず
れかはさらに、フローサイトメトリーによって検出可能な、MHC-I+(例えば、HLA-A,B,C+)
、MHC-II-(例えば、HLA-DP,DQ,DR-)、又はHLA-G-のうちの1つ又複数である。別の具体的
な実施態様において、本明細書に記載の胎盤幹細胞のいずれかはさらに、フローサイトメ
トリーによって検出可能な、MHC-I+(例えば、HLA-A,B,C+)、MHC-II-(例えば、HLA-DP,DQ,
DR-)、及びHLA-G-である。
【0060】
ある実施態様において、本明細書に提供される方法は、本明細書に記載の単離された胎
盤幹細胞の集団を含む組成物の投与を含む。例となる細胞の集団は、本明細書に記載の単
離された胎盤幹細胞を含み、ここで、該細胞の集団は、例えば、少なくとも10%、15%、
20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85
%、90%、95%、又は98%単離された胎盤幹細胞を含む;すなわち、該集団内の細胞の少
なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、
70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は98%は、単離された胎盤幹細胞である。
【0061】
具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞の集団内の
細胞の少なくとも約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、90%、85%、90
%、95%、98%、又は99%は、非母親起源である。
【0062】
別の具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される単離された胎盤幹
細胞又は単離された胎盤幹細胞の集団は、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞
の特徴、例えば、上記の特徴を示さない胎盤細胞から単離されている。
【0063】
上記の実施態様のいずれかの別の具体的な実施態様において、列挙された細胞マーカー
(複数可)(例えば、分化マーカー又は免疫原性マーカー(複数可)のクラスター)の発現は、
フローサイトメトリーによって決定される。別の具体的な実施態様において、該マーカー
(複数可)の発現は、RT-PCRによって決定される。
【0064】
遺伝子プロファイリングにより、CD10+、CD34-、CD105+、CD200+胎盤幹細胞、及びその
ような単離された胎盤幹細胞の集団が、他の細胞、例えば、間葉系幹細胞、例えば、骨髄
由来間葉系幹細胞と区別可能であることが確認される。本明細書に記載の方法で使用され
る単離された胎盤幹細胞は、その発現が、単離された胎盤幹細胞において、骨髄由来間葉
系幹細胞と比較して、有意により高い1以上の遺伝子の発現に基づいて、例えば、骨髄由
来間葉系幹細胞と区別することができる。例えば、本明細書に記載の方法で使用される単
離された胎盤幹細胞は、細胞を同等の条件下で成長させたとき、その発現が、単離された
胎盤幹細胞において、同等数の骨髄由来間葉系幹細胞よりも有意に高い(すなわち、少な
くとも2倍高い)1以上の遺伝子の発現に基づいて、骨髄由来間葉系幹細胞と区別すること
ができ、ここで、該1以上の遺伝子は、ACTG2、ADARB1、AMIGO2、ARTS-1、B4GALT6、BCHE
、C11orf9、CD200、COL4A1、COL4A2、CPA4、DMD、DSC3、DSG2、ELOVL2、F2RL1、FLJ10781
、GATA6、GPR126、GPRC5B、ICAM1、IER3、IGFBP7、IL1A、IL6、IL18、KRT18、KRT8、LIPG
、LRAP、MATN2、MEST、NFE2L3、NUAK1、PCDH7、PDLIM3、PKP2、RTN1、SERPINB9、ST3GAL6
、ST6GALNAC5、SLC12A8、TCF21、TGFB2、VTN、ZC3H12A、又は前述のもののいずれかの組
合せである。例えば、その開示が引用により完全に本明細書中に組み込まれる米国特許出
願公開第2007/0275362号を参照されたい。ある具体的な実施態様において、該1以上の遺
伝子の該発現は、例えば、RT-PCR、又は例えば、U133-Aマイクロアレイ(Affymetrix)を用
いるマイクロアレイ解析によって決定される。別の具体的な実施態様において、該単離さ
れた胎盤幹細胞は、DMEM-LG(例えば、Gibco製); 2%胎仔ウシ血清(例えば、Hyclone Labs
製); 1×インスリン-トランスフェリン-セレン(ITS); 1×リノール酸-ウシ血清アルブミ
ン(LA-BSA); 10-9Mデキサメタゾン(例えば、Sigma製); 10-4Mアスコルビン酸2-リン酸(例
えば、Sigma製);上皮成長因子10ng/mL(例えば、R&D Systems製);及び血小板由来成長因子
(PDGF-BB) 10ng/mL(例えば、R&D Systems製)を含む培地中で、何回かの集団倍加、例えば
、約3~約35回の集団倍加の間、培養したとき、該1以上の遺伝子を発現する。別の具体的
な実施態様において、該胎盤細胞に特異的な遺伝子は、CD200である。
【0065】
これらの遺伝子の代表的で具体的な配列は、GenBankにおいて、受託番号NM_001615(ACT
G2)、BC065545(ADARB1)、(NM_181847(AMIGO2)、AY358590(ARTS-1)、BC074884(B4GALT6)、
BC008396(BCHE)、BC020196(C11orf9)、BC031103(CD200)、NM_001845(COL4A1)、NM_001846
(COL4A2)、BC052289(CPA4)、BC094758(DMD)、AF293359(DSC3)、NM_001943(DSG2)、AF3382
41(ELOVL2)、AY336105(F2RL1)、NM_018215(FLJ10781)、AY416799(GATA6)、BC075798(GPR1
26)、NM_016235(GPRC5B)、AF340038(ICAM1)、BC000844(IER3)、BC066339(IGFBP7)、BC013
142(IL1A)、BT019749(IL6)、BC007461(IL18)、(BC072017)KRT18、BC075839(KRT8)、BC060
825(LIPG)、BC065240(LRAP)、BC010444(MATN2)、BC011908(MEST)、BC068455(NFE2L3)、NM
_014840(NUAK1)、AB006755(PCDH7)、NM_014476(PDLIM3)、BC126199(PKP-2)、BC090862(RT
N1)、BC002538(SERPINB9)、BC023312(ST3GAL6)、BC001201(ST6GALNAC5)、BC126160又はBC
065328(SLC12A8)、BC025697(TCF21)、BC096235(TGFB2)、BC005046(VTN)、及びBC005001(Z
C3H12A)に見出すことができる。
【0066】
ある具体的な実施態様において、該単離された胎盤幹細胞は、該細胞を同等の条件下で
成長させたとき、ACTG2、ADARB1、AMIGO2、ARTS-1、B4GALT6、BCHE、C11orf9、CD200、CO
L4A1、COL4A2、CPA4、DMD、DSC3、DSG2、ELOVL2、F2RL1、FLJ10781、GATA6、GPR126、GPR
C5B、ICAM1、IER3、IGFBP7、IL1A、IL6、IL18、KRT18、KRT8、LIPG、LRAP、MATN2、MEST
、NFE2L3、NUAK1、PCDH7、PDLIM3、PKP2、RTN1、SERPINB9、ST3GAL6、ST6GALNAC5、SLC12
A8、TCF21、TGFB2、VTN、及びZC3H12Aの各々を、同等数の骨髄由来間葉系幹細胞よりも検
出可能な程度に高いレベルで発現する。
【0067】
具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される胎盤幹細胞は、CD200
及びARTS1(1型腫瘍壊死因子のアミノペプチダーゼ調節因子); ARTS-1及びLRAP(白血球由
来アルギニンアミノペプチダーゼ); IL6(インターロイキン-6)及びTGFB2(形質転換成長因
子、β2); IL6及びKRT18(ケラチン18); IER3(前初期応答(immediate early response)3)
、MEST(中胚葉特異的転写物ホモログ)及びTGFB2; CD200及びIER3; CD200及びIL6; CD200
及びKRT18; CD200及びLRAP; CD200及びMEST; CD200及びNFE2L3(核因子(赤血球由来2)様3)
;又はCD200及びTGFB2を、同等数の骨髄由来間葉系幹細胞よりも検出可能な程度に高いレ
ベルで発現し、ここで、該骨髄由来間葉系幹細胞は、該単離された胎盤幹細胞が経た継代
数と同等の培養継代数を経たものである。他の具体的な実施態様において、本明細書に記
載の方法で使用される胎盤幹細胞は、ARTS-1、CD200、IL6、及びLRAP; ARTS-1、IL6、TGF
B2、IER3、KRT18、及びMEST ;CD200、IER3、IL6、KRT18、LRAP、MEST、NFE2L3、及びTGFB
2; ARTS-1、CD200、IER3、IL6、KRT18、LRAP、MEST、NFE2L3、及びTGFB2;又はIER3、MEST
、及びTGFB2を、同等数の骨髄由来間葉系幹細胞よりも検出可能な程度に高いレベルで発
現し、ここで、該骨髄由来間葉系幹細胞は、該単離された胎盤幹細胞が経た継代数と同等
の培養継代数を経たものである。
【0068】
上に言及した遺伝子の発現は、標準的な技術によって評価することができる。例えば、
遺伝子(複数可)の配列に基づくプローブを個々に選択し、従来の技術によって構築するこ
とができる。該遺伝子の発現は、例えば、該遺伝子のうちの1つ又は複数に対するプロー
ブを含むマイクロアレイ、例えば、Affymetrix GENECHIP(登録商標)ヒトゲノムU133A 2.0
アレイ(Santa Clara, California)で評価することができる。これらの遺伝子の発現は、
特定のGenBank受託番号の配列が修正された場合でも評価することができる。なぜなら、
修正された配列に特異的なプローブを、周知の標準的な技術を用いてすぐに作製すること
ができるからである。
【0069】
これらの遺伝子の発現のレベルを用いて、単離された胎盤幹細胞の集団の素性を確認す
るか、細胞の集団が少なくとも複数の単離された胎盤幹細胞を含むものであることを確認
するか、又は同様のことを行うことができる。例えば、その素性が確認される単離された
胎盤幹細胞の集団は、クローン性であり、例えば、単一の単離された胎盤幹細胞から拡大
された単離された胎盤幹細胞の集団、又は胎盤幹細胞の混合集団、例えば、複数の単離さ
れた胎盤幹細胞から拡大される単離された胎盤幹細胞を含む細胞の集団、もしくは本明細
書に記載の単離された胎盤幹細胞と少なくとも1つの他のタイプの細胞とを含む細胞の集
団であることができる。
【0070】
これらの遺伝子の発現のレベルを用いて、単離された胎盤幹細胞の集団の素性を確認す
るか、細胞の集団が少なくとも複数の単離された胎盤幹細胞を含むものであることを確認
するか、又は同様のことを行うことができる。例えば、その素性が確認される単離された
胎盤幹細胞の集団は、クローン性であり、例えば、単一の単離された胎盤幹細胞から拡大
された単離された胎盤幹細胞の集団、又は胎盤幹細胞の混合集団、例えば、複数の単離さ
れた胎盤幹細胞から拡大される単離された胎盤幹細胞を含む細胞の集団、もしくは本明細
書に記載の単離された胎盤幹細胞と少なくとも1つの他のタイプの細胞とを含む細胞の集
団であることができる。
【0071】
上記の遺伝子の発現のレベルを用いて、単離された胎盤幹細胞の集団を選択することが
できる。例えば、細胞の集団、例えば、クローン性に拡大された胎盤幹細胞は、上記の遺
伝子のうちの1つ又は複数の発現が、該細胞の集団由来の試料において、骨髄由来間葉系
幹細胞の同等の集団よりも有意に高い場合に選択することができる。そのような選択は、
複数の単離された胎盤幹細胞集団由来の集団、その素性が不明である複数の細胞集団由来
の集団などについてのものであることができる。
【0072】
単離された胎盤幹細胞は、例えば、骨髄由来間葉系幹細胞対照における1以上のそのよ
うな遺伝子の発現のレベルと比較したときの、該1以上の遺伝子の発現のレベルに基づい
て選択することができる。一実施態様において、同等数の骨髄由来間葉系幹細胞を含む試
料における該1以上の遺伝子の発現のレベルが対照として使用される。別の実施態様にお
いて、ある条件下で試験される、単離された胎盤幹細胞に対する対照は、該条件下での骨
髄由来間葉系幹細胞における該1以上の遺伝子の発現のレベルを表す数値である。
【0073】
本明細書に記載の単離された胎盤幹細胞は、初代培養下、又は例えば、DMEM-LG(Gibco)
、2%胎仔ウシ血清(FCS)(Hyclone Laboratories)、1×インスリン-トランスフェリン-セ
レン(ITS)、1×リノール酸-ウシ血清アルブミン(LA-BSA)、10-9Mデキサメタゾン(Sigma)
、10-4Mアスコルビン酸2-リン酸(Sigma)、上皮成長因子(EGF)10ng/ml(R&D Systems)、血
小板由来成長因子(PDGF-BB)10ng/ml(R&D Systems)、及び100Uペニシリン/1000Uストレプ
トマイシンを含む培地中での増殖中に、上記の特徴(例えば、細胞表面マーカー及び/又は
遺伝子発現プロファイルの組合せ)を示す。
【0074】
本明細書に開示される胎盤幹細胞のいずれかのある実施態様において、該細胞は、ヒト
である。本明細書に開示される胎盤細胞のいずれかのある実施態様において、該細胞マー
カー特徴又は遺伝子発現特徴は、ヒトマーカー又はヒト遺伝子である。
【0075】
本明細書に記載の方法で使用される単離された胎盤幹細胞又は該単離された胎盤幹細胞
を含む細胞の集団の別の具体的な実施態様において、該細胞又は集団は、拡大されたもの
であり、例えば、少なくとも、約、もしくは多くとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、1
1、12、13、14、15、16、17、18、19、もしくは20回継代されたものであるか、又は少な
くとも、約、もしくは多くとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、2
2、24、26、28、30、32、34、36、38、もしくは40回の集団倍加の間、増殖させられたも
のである。ある実施態様において、該細胞又は集団は、3~10回、3~8回、3~6回、又は4
、5、6、7、もしくは8回継代されたものである。ある実施態様において、該細胞又は集団
は、3~5回、5~10回、10~15回、15~20回、20~25回、又は3、4、5、6、7、8、9、もし
くは10回の集団倍加を経たものである。該単離された胎盤幹細胞又は該単離された胎盤幹
細胞を含む細胞の集団の別の具体的な実施態様において、該細胞又は集団は、初代分離株
である。本明細書に開示される、単離された胎盤幹細胞、又は単離された胎盤幹細胞を主
に含む細胞の集団の別の具体的な実施態様において、該単離された胎盤幹細胞は、胎児起
源である(すなわち、胎児の遺伝子型を有する)。
【0076】
ある実施態様において、該単離された胎盤幹細胞は、成長培地、すなわち、増殖を促進
するように調合された培地中での培養中、例えば、成長培地中での増殖中には分化しない
。別の具体的な実施態様において、該単離された胎盤幹細胞は、増殖するためにフィーダ
ー層を必要としない。別の具体的な実施態様において、該単離された胎盤幹細胞は、フィ
ーダー細胞層が存在しないというだけの理由で、フィーダー層の非存在下の培養では分化
しない。
【0077】
別の実施態様において、本明細書に記載の方法で使用される単離された胎盤細胞は、ア
ルデヒドデヒドロゲナーゼ活性アッセイによって評価したとき、アルデヒドデヒドロゲナ
ーゼ(ALDH)について陽性である。そのようなアッセイは、当技術分野で公知である(例え
ば、Bostian及びBettsの文献、Biochem.J., 173, 787(1978)を参照されたい)。具体的な
実施態様において、該ALDHアッセイは、アルデヒドデヒドロゲナーゼ活性のマーカーとし
て、ALDEFLUOR(登録商標)(Aldagen社, Ashland, Oregon)を使用する。具体的な実施態様
において、該胎盤幹細胞の約3%~約25%がALDHについて陽性である。別の実施態様にお
いて、該単離された胎盤幹細胞は、ほぼ同じ細胞数を有しかつ同じ条件下で培養された骨
髄由来間葉系幹細胞の集団よりも少なくとも3倍、又は少なくとも5倍高いALDH活性を示す
。
【0078】
本明細書に記載の単離された胎盤幹細胞を含む細胞の集団のいずれかのある実施態様に
おいて、該細胞の集団内の胎盤幹細胞は、母親の遺伝子型を有する細胞を実質的に含まず
;例えば、該集団内の胎盤幹細胞の少なくとも40%、45%、50%、55%、60%、65%、70
%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、又は99%は、胎児の遺伝子型を有する。本明
細書に記載の単離された胎盤幹細胞を含む細胞の集団のいずれかのある他の実施態様にお
いて、該胎盤幹細胞を含む細胞の集団は、母親の遺伝子型を有する細胞を実質的に含まず
;例えば、該集団内の細胞の少なくとも40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75
%、80%、85%、90%、95%、98%、又は99%は、胎児の遺伝子型を有する。
【0079】
上記の単離された胎盤幹細胞又は単離された胎盤幹細胞を含む細胞集団のいずれかの具
体的な実施態様において、該細胞、例えば、該細胞の全て、又は該集団内の該細胞の少な
くとも約95%もしくは約99%の核型は、正常である。上記の胎盤幹細胞又は胎盤幹細胞の
集団のいずれかの別の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞は、非母親起源である。
【0080】
本明細書に開示される胎盤細胞の実施態様のいずれかの具体的な実施態様において、胎
盤細胞は遺伝的に安定であり、正常な2倍体染色体数及び正常な核型を示す。
【0081】
上記のマーカーの組合せのいずれかを有する、本明細書に記載の方法で使用される単離
された胎盤幹細胞、又は本明細書に記載の方法で使用される単離された胎盤幹細胞の集団
を、任意の比で組み合わせることができる。上記の単離された胎盤幹細胞又は集団のうち
のいずれか2つ以上を組み合わせて、単離された胎盤幹細胞集団を形成させることができ
る。例えば、単離された胎盤幹細胞の集団は、上記のマーカー組合せのうちのあるものに
よって定義される単離された胎盤幹細胞の第一の集団と、上記のマーカー組合せのうちの
別のものによって定義される単離された胎盤幹細胞の第二の集団とを含むことができ、こ
こで、該第一の集団と第二の集団は、約1:99、2:98、3:97、4:96、5:95、10:90、20:80、
30:70、40:60、50:50、60:40、70:30、80:20、90:10、95:5、96:4、97:3、98:2、又は約9
9:1の比で組み合わされる。同様に、上記の単離された胎盤幹細胞又は単離された胎盤幹
細胞集団のうちのいずれか3つ、4つ、5つ、又はそれより多くを組み合わせることができ
る。
【0082】
本明細書に記載の方法及び組成物において有用な単離された胎盤幹細胞は、例えば、酵
素的消化(第4.5.3節参照)もしくは灌流(第4.5.4節参照)を伴うか又はこれらを伴わない胎
盤組織の破壊によって得ることができる。例えば、単離された胎盤幹細胞の集団は、臍帯
血が抜かれ、かつ残留血液を取り除くように灌流された哺乳動物胎盤を灌流すること;該
胎盤を灌流溶液で灌流すること;及び該灌流溶液を回収すること(ここで、灌流後の該灌流
溶液は、単離された胎盤幹細胞を含む胎盤細胞の集団を含む);及び該細胞の集団から該胎
盤幹細胞を単離することを含む方法に従って産生することができる。具体的な実施態様に
おいて、灌流溶液を臍帯静脈と臍帯動脈の両方に通し、それが胎盤から浸出した後に回収
する。別の具体的な実施態様において、灌流溶液を臍帯静脈に通して臍帯動脈から回収す
るか、又は臍帯動脈に通して臍帯静脈から回収する。
【0083】
様々な実施態様において、胎盤の灌流から得られる細胞の集団内に含まれる、単離され
た胎盤幹細胞は、該胎盤幹細胞の集団の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%
、99%、又は少なくとも99.5%である。別の具体的な実施態様において、灌流によって回
収される単離された胎盤幹細胞は、胎児細胞と母親細胞を含む。別の具体的な実施態様に
おいて、灌流によって回収される単離された胎盤幹細胞は、少なくとも50%、60%、70%
、80%、90%、95%、99%、又は少なくとも99.5%胎児の細胞である。
【0084】
別の具体的な実施態様において、本明細書に提供されるのは、灌流によって回収される
(単離される)、本明細書に記載の単離された胎盤幹細胞の集団を含む組成物であり、ここ
で、該組成物は、胎盤幹細胞を単離するために使用される灌流溶液の少なくとも一部を含
む。
【0085】
本明細書に記載の単離された胎盤幹細胞の集団は、組織破壊酵素で胎盤組織を消化して
、胎盤幹細胞を含む胎盤細胞の集団を得ること、及び該胎盤細胞の残りから胎盤幹細胞を
単離すること、又は実質的に単離することにより産生することができる。胎盤の全体又は
任意の部分を消化して、本明細書に記載の単離された胎盤幹細胞を得ることができる。具
体的な実施態様において、例えば、該胎盤組織は、全胎盤(例えば、臍帯を含む)、羊膜、
絨毛膜、羊膜と絨毛膜の組合せ、又は前述のもののいずれかの組合せであることができる
。他の具体的な実施態様において、組織破壊酵素は、トリプシン又はコラゲナーゼである
。様々な実施態様において、胎盤を消化することにより得られる細胞の集団に含まれる単
離された胎盤幹細胞は、該胎盤細胞の集団の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、
95%、99%、又は少なくとも99.5%である。
【0086】
上記の単離された胎盤幹細胞の集団、及び単離された胎盤幹細胞の集団は、通常、約、
少なくとも、又は多くとも1×105、5×105、1×106、5×106、1×107、5×107、1×108、
5×108、1×109、5×109、1×1010、5×1010、1×1011個、又はそれより多くの単離され
た胎盤幹細胞を含むことができる。本明細書に記載の方法において有用な単離された胎盤
幹細胞の集団は、例えば、トリパンブルー排出によって決定したとき、少なくとも50%、
55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、又は99%の生存してい
る単離された胎盤幹細胞を含む。
【0087】
上記の胎盤幹細胞、又は胎盤幹細胞の集団のいずれかについて、胎盤幹細胞の細胞又は
集団は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、もしくは20回、
又はそれより多く継代されたか、或いは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、1
8、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、もしくは40回、又はそれより多くの集団
倍加の間拡大された細胞であり、或いはこれらの細胞を含むことができる。ある実施態様
において、該細胞又は胎盤幹細胞の集団は、3~10回、3~8回、3~6回、又は4、5、6、7
、もしくは8回継代された細胞であるか、或いはこれらの細胞を含むことができる。ある
実施態様において、該細胞又は胎盤幹細胞の集団は、3~5回、5~10回、10~15回、15~2
0回、20~25回、又は3、4、5、6、7、8、9、もしくは10回の集団倍加を経た細胞であるか
、或いはこれらの細胞を含むことができる。
【0088】
上記の胎盤幹細胞又は胎盤幹細胞の集団のいずれかの具体的な実施態様において、該細
胞、又は該集団内の細胞の少なくとも約95%もしくは約99%の核型は、正常である。上記
の胎盤幹細胞又は胎盤幹細胞集団のいずれかの別の具体的な実施態様において、該細胞、
又は該細胞の集団内の細胞は、非母親起源である。
【0089】
上記のマーカーの組合せのいずれかを有する単離された胎盤幹細胞又は単離された胎盤
幹細胞の集団を任意の比で組み合わせることができる。上記の胎盤幹細胞集団のいずれか
2つ以上を単離又は濃縮して、胎盤幹細胞集団を形成させることができる。例えば、上記
のマーカー組合せのうちのあるものによって定義される胎盤幹細胞の第一の集団を含む単
離された胎盤幹細胞の集団を、上記のマーカー組合せのうちの別のものによって定義され
る胎盤幹細胞の第二の集団と組み合わせることができ、ここで、該第一の集団と第二の集
団は、約1:99、2:98、3:97、4:96、5:95、10:90、20:80、30:70、40:60、50:50、60:40、
70:30、80:20、90:10、95:5、96:4、97:3、98:2、又は約99:1の比で組み合わされる。同
様に、上記の胎盤幹細胞又は胎盤幹細胞集団のうちのいずれか3つ、4つ、5つ、又はそれ
より多くを組み合わせることができる。
【0090】
上記の胎盤幹細胞の具体的な実施態様において、胎盤幹細胞は、IL-6、IL-8、及び単球
走化性タンパク質(MCP-1)を構成的に分泌する。
【0091】
ある実施態様において、上記の胎盤細胞の集団は、約、少なくとも、又は多くとも1×1
05、5×105、1×106、5×106、1×107、5×107、1×108、5×108、1×109、5×109、1×1
010、5×1010、1×1011個、又はそれより多くの胎盤幹細胞を含むことができる。ある実
施態様において、上記の胎盤細胞の集団は、約1×105~約1×106、約1×105~約1×107、
約1×106~約1×107、約1×106~約1×108、約1×107~約1×108、約1×107~約1×109、
約1×108~約1×1010、約1×109~約1×1010、又は約1×1010~約1×1011個の胎盤幹細胞
を含むことができる。
【0092】
ある実施態様において、本明細書に提供される方法において有用な胎盤幹細胞は、1~1
00ng/mLのVEGFへの4~21日間の暴露後に、免疫局在化によって検出したとき、CD34を発現
しない。具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞は、組織培養プラスチックに接着する
。別の具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞は、例えば、血管内皮成長因子(VEGF)、
上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、又は塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)
などの血管新生因子の存在下、例えば、MATRIGEL(商標)などの基材上で培養したとき、内
皮細胞が新芽又は管状構造を形成するのを誘導する。
【0093】
別の態様において、本明細書に提供される方法において有用な胎盤幹細胞、或いは細胞
の集団、例えば、本明細書に提供される方法において有用な胎盤幹細胞の集団、又は該細
胞の集団内の細胞の少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、もしくは98%が
胎盤幹細胞である細胞の集団は、VEGF、HGF、IL-8、MCP-3、FGF2、フォリスタチン、G-CS
F、EGF、ENA-78、GRO、IL-6、MCP-1、PDGF-BB、TIMP-2、uPAR、又はガレクチン-1のうち
の1つもしく複数、又は全てを、例えば、1つ又は複数の細胞が成長する培養培地中に分泌
する。別の実施態様において、該胎盤幹細胞は、低酸素条件(例えば、約5%未満のO2)下
で、正常酸素条件(例えば、約20%又は約21%O2)と比較して増加したレベルのCD202b、IL
-8、及び/又はVEGFを発現する。
【0094】
別の実施態様において、本明細書に提供される方法において有用な胎盤幹細胞又は胎盤
幹細胞を含む細胞の集団のいずれかは、該胎盤幹細胞と接触している内皮細胞の集団にお
ける新芽又は管状構造の形成を引き起こすことができる。具体的な実施態様において、該
胎盤幹細胞は、ヒト内皮細胞と共培養され、これにより、I型及びIV型コラーゲンなどの
細胞外マトリクスタンパク質、並びに/又は血管内皮成長因子(VEGF)、上皮成長因子(EGF)
、血小板由来成長因子(PDGF)、もしくは塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)などの血管新生
因子の存在下、例えば、胎盤コラーゲン又はMATRIGEL(商標)などの基材中又は該基材上で
、少なくとも4日間培養したとき、新芽もしくは管状構造が形成され、又は内皮細胞新芽
の形成が支持される。別の実施態様において、本明細書に記載の胎盤幹細胞を主に含む細
胞の集団のいずれかは、血管内皮成長因子(VEGF)、肝細胞成長因子(HGF)、血小板由来成
長因子(PDGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、又はインターロイキン-8(IL-8)などの
血管新生因子を分泌し、それにより、I型及びIV型コラーゲンなどの細胞外マトリクスタ
ンパク質の存在下、例えば、胎盤コラーゲン又はMATRIGEL(商標)などの基材中又は該基材
上で培養したとき、ヒト内皮細胞が新芽又は管状構造を形成するのを誘導することができ
る。
【0095】
他の実施態様において、本明細書に提供される方法において有用な胎盤幹細胞を含む上
記の細胞の集団のいずれかは、血管新生因子を分泌する。具体的な実施態様において、該
細胞の集団は、血管内皮成長因子(VEGF)、肝細胞成長因子(HGF)、血小板由来成長因子(PD
GF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、及び/又はインターロイキン-8(IL-8)を分泌する
。他の具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞又は胎盤幹細胞を主に含む細胞の集団は
、1以上の血管新生因子を分泌し、それにより、ヒト内皮細胞がインビトロ創傷治癒アッ
セイで遊走するのを誘導する。他の具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞又は胎盤幹
細胞を主に含む細胞の集団は、ヒト内皮細胞、内皮前駆細胞、筋細胞、又は筋芽細胞の成
熟、分化、又は増殖を誘導する。
【0096】
(4.2.3 培養下での成長)
本明細書に提供される方法において有用な胎盤細胞の成長は、あらゆる哺乳動物細胞に
関して、成長のために選択される特定の培地に、ある程度依存する。最適条件下において
、そのような胎盤幹細胞は、通常、3~5日で数が倍になる。培養中、本明細書に提供され
る胎盤幹細胞は、培養下の基材、例えば、組織培養容器(例えば、組織培養ディッシュプ
ラスチック、フィブロネクチンコーティングプラスチックなど)の表面に接着し、単層を
形成する。
【0097】
本明細書に提供される方法において有用な胎盤幹細胞を含む単離された胎盤細胞の集団
は、適切な条件下で培養したとき、胚様体様体を形成することができ、すなわち、細胞の
三次元クラスターが接着幹細胞層上に成長する。間葉系幹細胞、例えば、骨髄由来間葉系
幹細胞は、培養下で胚様体様体を発生させない。
【0098】
(4.2.4 分化)
本明細書に提供される方法において有用な胎盤細胞は、ある実施態様において、運命が
決定した(committed)異なる細胞系譜に分化可能である。例えば、ある実施態様において
、該胎盤細胞は、脂肪生成系譜、軟骨形成系譜、神経性系譜、又は骨形成系譜の細胞に分
化することができる。そのような分化は、例えば、当技術分野で公知の、例えば、骨髄由
来間葉系幹細胞を類似の細胞系譜に分化させるための任意の方法によって、又は本明細書
中の別所に記載の方法によって達成することができる。胎盤細胞を特定の細胞系譜に分化
させる具体的な方法は、例えば、その開示が引用により完全に本明細書中に組み込まれる
、米国特許第7,311,905号及び第8,057,788号に開示されている。
【0099】
本明細書に提供される胎盤幹細胞は、インビトロ、インビボ、又はインビトロとインビ
ボの両方で、特定の細胞系譜に分化する能力を示すことができる。具体的な実施態様にお
いて、本明細書に提供される胎盤幹細胞は、特定の細胞系譜への分化を引き起こすか、又
はそれを促進する条件下に置かれたとき、インビトロで分化することができるが、インビ
ボ、例えば、NOD-SCIDマウスモデルでは、検出可能な程度に分化しない。
【0100】
(4.3 胎盤細胞を得る方法)
(4.3.1 幹細胞回収組成物)
胎盤細胞は、本明細書に提供される方法に従って回収及び単離することができる。通常
、幹細胞は、生理的に許容し得る溶液、例えば、幹細胞回収組成物を用いて、哺乳動物胎
盤から得られる。幹細胞回収組成物は、その開示が引用により完全に本明細書中に組み込
まれる、関連する米国特許出願公開第2007/0190042号に詳細に記載されている。
【0101】
幹細胞回収組成物は、幹細胞の回収及び/又は培養に好適な任意の生理的に許容し得る
溶液、例えば、生理食塩水(例えば、リン酸緩衝生理食塩水、クレブス溶液、改変クレブ
ス溶液、イーグル溶液、0.9%NaClなど)、培養培地(例えば、DMEM、HDMEMなど)などを含
むことができる。
【0102】
幹細胞回収組成物は、回収時から培養時まで胎盤細胞を保存する、すなわち、胎盤細胞
の死を防止し、又は胎盤細胞の死を遅延させ、死滅する細胞の集団内の胎盤細胞の数を減
少させるなどに役立つ1以上の成分を含むことができる。そのような成分は、例えば、ア
ポトーシス阻害剤(例えば、カスパーゼ阻害剤もしくはJNK阻害剤);血管拡張剤(例えば、
硫酸マグネシウム、抗高血圧薬、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、副腎皮質刺激ホ
ルモン、コルチコトロピン放出ホルモン、ニトロプルシドナトリウム、ヒドララジン、ア
デノシン三リン酸、アデノシン、インドメタシンもしくは硫酸マグネシウム、ホスホジエ
ステラーゼ阻害剤など);壊死阻害剤(例えば、2-(1H-インドール-3-イル)-3-ペンチルアミ
ノ-マレイミド、ピロリジンジチオカルバメート、もしくはクロナゼパム); TNF-α阻害剤
;及び/又は酸素運搬ペルフルオロカーボン(例えば、臭化ペルフルオロオクチル、臭化ペ
ルフルオロデシルなど)であることができる。
【0103】
幹細胞回収組成物は、1以上の組織分解酵素、例えば、メタロプロテアーゼ、セリンプ
ロテアーゼ、中性プロテアーゼ、RNアーゼ、又はDNアーゼなどを含むことができる。その
ような酵素としては、コラゲナーゼ(例えば、コラゲナーゼI、II、III、又はIV、クロス
トリジウム・ヒストリチカム(Clostridium histolyticum)由来のコラゲナーゼなど);ディ
スパーゼ、サーモリシン、エラスターゼ、トリプシン、LIBERASE、ヒアルロニダーゼなど
が挙げられるが、これらに限定されない。
【0104】
幹細胞回収組成物は、殺菌又は静菌有効量の抗生物質を含むことができる。ある非限定
的な実施態様において、抗生物質は、マクロライド(例えば、トブラマイシン)、セファロ
スポリン(例えば、セファレキシン、セフラジン、セフロキシム、セフプロジル、セファ
クロール、セフィキシム、もしくはセファドロキシル)、クラリスロマイシン、エリスロ
マイシン、ペニシリン(例えば、ペニシリンV)、又はキノロン(例えば、オフロキサシン、
シプロフロキサシン、もしくはノルフロキサシン)、テトラサイクリン、ストレプトマイ
シンなどである。特定の実施態様において、抗生物質は、グラム陽性及び/又はグラム陰
性細菌、例えば、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus au
reus)などに対して活性がある。
【0105】
幹細胞回収組成物は、以下の化合物のうちの1つ又は複数を含むこともできる:アデノシ
ン(約1mM~約50mM); D-グルコース(約20mM~約100mM);マグネシウムイオン(約1mM~約50m
M);一実施態様において、内皮の完全性及び細胞の生存能力を維持するのに十分な量で存
在する分子量20,000ダルトン超の巨大分子(例えば、約25g/l~約100g/lもしくは約40g/l
~約60g/lで存在する合成もしくは天然に存在するコロイド、デキストランもしくはポリ
エチレングリコールなどの多糖類);酸化防止剤(例えば、約25μM~約100μMで存在するブ
チル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、グルタチオン、ビタミンC
、もしくはビタミンE);還元剤(例えば、約0.1mM~約5mMで存在するN-アセチルシステイン
);細胞内へのカルシウムの流入を防止する薬剤(例えば、約2μM~約25μMで存在するベラ
パミル);ニトログリセリン(例えば、約0.05g/L~約0.2g/L);一実施態様において、残留血
液の凝固の防止を助けるのに十分な量で存在する抗凝血剤(例えば、約1000ユニット/l~
約100,000ユニット/lの濃度で存在するヘパリンもしくはヒルジン);又はアミロライド含
有化合物(例えば、約1.0μM~約5μMで存在するアミロライド、エチルイソプロピルアミ
ロライド、ヘキサメチレンアミロライド、ジメチルアミロライド、もしくはイソブチルア
ミロライド)。
【0106】
(4.3.2 胎盤の回収及び取扱い)
通常、ヒト胎盤は、出産後、娩出の直後に回収される。好ましい実施態様において、胎
盤は、インフォームドコンセントの後、かつ患者の全病歴を取得してその胎盤と関連付け
た後に、患者から回収される。この病歴は、分娩後も継続することが好ましい。そのよう
な病歴を用いて、胎盤又は胎盤から回収される幹細胞のその後の使用を調整することがで
きる。例えば、ヒト胎盤細胞は、その病歴を踏まえて、その胎盤と関係がある乳児のため
の、又はその乳児の両親、兄弟姉妹、もしくは他の血縁者のための個別化医療目的で使用
することができる。
【0107】
胎盤細胞の回収の前に、臍帯血及び胎盤血を取り除く。ある実施態様において、分娩後
に、胎盤内の臍帯血を回収する。胎盤は、従来の臍帯血回収プロセスにかけることができ
る。通常、針又はカニューレを用い、重力の助けを借りて、胎盤を放血させる(例えば、A
ndersonの米国特許第5,372,581号; Hesselらの米国特許第5,415,665号を参照されたい)。
通常、針又はカニューレを臍帯静脈内に留置し、胎盤を穏やかに揉んで、胎盤からの臍帯
血の排出を助けることができる。そのような臍帯血回収は、例えば、LifeBank社, Cedar
Knolls, N.J., ViaCord, Cord Blood Registry and Cryocellによって商業的に行われて
もよい。臍帯血回収中の組織破壊を最小限に抑えるために、胎盤から重力排出し、それ以
上操作しないことが好ましい。
【0108】
通常、例えば、灌流又は組織分離による臍帯血の回収及び幹細胞の回収のために、胎盤
を、分娩室又は出産室から別の場所、例えば、実験室に輸送する。胎盤は、滅菌した断熱
輸送装置(胎盤の温度を20~28℃に維持する)に入れて、例えば、臍帯の近位部をクランプ
した胎盤を、滅菌したジップロック式プラスチックバッグに入れ、次いで、これを断熱容
器に入れることによって、輸送することが好ましい。別の実施態様において、胎盤は、20
05年9月19日に出願された係属中の米国特許出願第11/230,760号に概ね記載されているよ
うな臍帯血回収キットに入れて輸送される。好ましくは、胎盤は、分娩から4~24時間後
に実験室に移送される。ある実施態様において、臍帯近位部を、臍帯血回収前に、好まし
くは、胎盤ディスク(placental disc)への挿入部から4~5cm(センチメートル)以内のとこ
ろでクランプする。他の実施態様において、臍帯近位部を、臍帯血回収後、ただし、胎盤
のさらなる処理前にクランプする。
【0109】
胎盤は、幹細胞回収前に、滅菌条件下、かつ室温又は5~25℃(摂氏)の温度のどちらか
で保管することができる。胎盤を灌流して残留臍帯血を取り出す前に、胎盤を、48時間よ
りも長い期間、好ましくは4~24時間の期間、保管することができる。胎盤は、5~25℃(
摂氏)の温度で、抗凝血剤溶液に入れて保管することが好ましい。好適な抗凝血剤溶液は
、当技術分野で周知である。例えば、ヘパリン又はワルファリンナトリウムの溶液を使用
することができる。好ましい実施態様において、抗凝血剤溶液は、ヘパリンの溶液(例え
ば、1:1000溶液中、1%w/w)を含む。放血された胎盤は、胎盤細胞が回収される前に、最
大で36時間保管されることが好ましい。
【0110】
哺乳動物の胎盤又はその一部は、いったん、一般に上記の通りに回収及び調製されれば
、当技術分野で公知の任意の様式で処理することができ、例えば、灌流又は破壊し、例え
ば、1以上の組織破壊酵素で消化して、幹細胞を得ることができる。
【0111】
(4.3.3 胎盤組織の物理的破壊及び酵素的消化)
一実施態様において、幹細胞を、例えば、上の第4.5.2節に記載の幹細胞回収組成物を
用いて、器官の物理的破壊、例えば、酵素的消化によって、哺乳動物胎盤から回収する。
例えば、胎盤又はその一部を、例えば、緩衝液、培地、又は幹細胞回収組成物と接触させ
ながら、例えば、圧搾するか、剪断するか、細かく切り刻むか、さいの目状に切るか、み
じん切りにするか、液体に浸して柔らかくするか、又は同様に処理して、その後、その組
織を1以上の酵素で消化することができる。胎盤又はその一部を、物理的に破壊し、1以上
の酵素で消化し、その後、得られた材料を、緩衝液、培地、又は幹細胞回収組成物に浸漬
させ又は混合することができる。任意の物理的破壊方法は、該破壊方法が、例えば、トリ
パンブルー排出によって決定したとき、該器官中の細胞の複数、より好ましくは過半数、
より好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、98%、又は99%を生存状態に
しておくという条件で使用することができる。
【0112】
胎盤は、物理的破壊及び/又は酵素的消化並びに幹細胞回収の前に、構成要素に解剖す
ることができる。例えば、胎盤細胞は、羊膜、絨毛膜、胎盤葉、もしくはその任意の組合
せ、又は臍帯、或いはこれらの任意の組合せから得ることができる。好ましくは、胎盤細
胞は、羊膜及び絨毛膜、又は羊膜-絨毛膜及び臍帯を含む胎盤組織から得られる。一実施
態様において、幹細胞は、羊膜-絨毛膜及び臍帯から、約1:1の重量比で得られる。通常、
胎盤細胞は、胎盤組織の小さなブロック、例えば、体積が約1、2、3、4、5、6、7、8、9
、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、90
0、又は約1000立方ミリメートルである胎盤組織のブロックの破壊によって得ることがで
きる。
【0113】
好ましい幹細胞回収組成物は、1以上の組織破壊酵素、例えば、トリプシン、コラゲナ
ーゼ、ディスパーゼ、パパイン、キモトリプシン、及び/又はエラスターゼを含む。セリ
ンプロテアーゼは、血清中のα2ミクログロブリンによって阻害されることがあるため、
消化のために使用される培地は、通常、無血清である。細胞回収の効率を高めるために、
EDTA及びDNアーゼが、酵素消化手順において一般的に使用される。幹細胞が粘性の消化産
物中に捕捉されることを避けるために、消化残渣を希釈することが好ましい。
【0114】
組織消化酵素の任意の組合せを使用することができる。胎盤細胞を遊離させるために、
プロテアーゼを、組み合わせて、すなわち、2以上のプロテアーゼを同じ消化反応で使用
することもできるし、連続的に使用することもできる。例えば、一実施態様において、胎
盤又はその一部を、最初に2mg/mlの適量のコラゲナーゼIで30分間消化し、その後、0.25
%トリプシンで37℃で10分間消化する。セリンプロテアーゼは、他の酵素の使用後に続け
て使用することが好ましい。
【0115】
別の実施態様において、幹細胞回収組成物を用いて幹細胞を単離する前に、幹細胞を含
む幹細胞回収組成物に、又はその中で組織を破壊及び/もしくは消化する溶液に、キレー
ト剤、例えば、エチレングリコールビス(2-アミノエチルエーテル)-N,N,N'N'-四酢酸(EGT
A)又はエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を添加することにより、組織をさらに破壊すること
ができる。
【0116】
胎盤全体又は胎盤の一部が、胎児細胞と母親細胞の両方を含む場合(例えば、胎盤の一
部が、絨毛膜又は胎盤葉を含む場合)、回収される胎盤細胞は、胎児起源と母親起源の両
方に由来する胎盤細胞の混合物を含むことになることが理解されるであろう。胎盤の一部
が、母親細胞(例えば、羊膜)を全く含まないか又は無視できる数しか含まない場合、回収
される胎盤細胞は、ほとんど胎児性胎盤細胞だけを含むことになる。
【0117】
(4.3.4 胎盤の灌流)
胎盤細胞、例えば、胎盤幹細胞は、哺乳動物胎盤の灌流によって得ることもできる。哺
乳動物胎盤を灌流して幹細胞を得る方法は、例えば、Haririの米国特許出願公開第2002/0
123141号、及び2005年12月29日に出願された「胎盤細胞を回収及び保存するための改良さ
れた組成物及び該組成物の使用方法(Improved Composition for Collecting and Preserv
ing Placental cells and Methods of Using the Composition)」という表題の関連する
米国仮特許出願第60/754,969号に開示されている。
【0118】
胎盤細胞は、例えば、灌流溶液としての幹細胞回収組成物を用いて、例えば、胎盤血管
系を通して、灌流によって回収することができる。一実施態様において、哺乳動物胎盤は
、臍帯動脈と臍帯静脈のどちらか又は両方に灌流溶液を通すことにより灌流される。胎盤
を通る灌流溶液の流れは、例えば、胎盤への重力による流れを用いて達成することができ
る。好ましくは、灌流溶液は、ポンプ、例えば、蠕動ポンプを用いて、胎盤に強制的に通
される。臍帯静脈には、例えば、滅菌チューブなどの滅菌された接続器具に接続されたカ
ニューレ、例えば、TEFLON(登録商標)又はプラスチックカニューレを挿入することができ
る。この滅菌された接続器具は、灌流マニフォールドに接続される。
【0119】
灌流に備えて、胎盤は、臍帯動脈及び臍帯静脈が胎盤の最も高い位置に位置するように
方向付けられる(例えば、吊るされる)ことが好ましい。胎盤は、灌流流体、例えば、本明
細書に提供される幹細胞回収組成物を、胎盤血管系に、又は胎盤血管系及び周囲組織に通
すことにより灌流することができる。一実施態様において、臍帯動脈及び臍帯静脈は、柔
軟なコネクタを介して灌流溶液のリザーバに接続されたピペットに同時に接続される。灌
流溶液は、臍帯静脈及び臍帯動脈に通される。灌流溶液は、血管壁から滲出し及び/又は
血管壁を通過して胎盤の周囲組織に至り、妊娠中に母親の子宮に付着していた胎盤の表面
から、好適な開放容器中に回収される。灌流溶液を臍帯開口部に通して導入し、母親の子
宮壁と接続していた胎盤壁の開口部から流出又は浸出させることもできる。別の実施態様
において、灌流溶液を臍帯静脈に通して臍帯動脈から回収するか、又は臍帯動脈に通して
臍帯静脈から回収する。
【0120】
一実施態様において、臍帯近位部を灌流中にクランプし、より好ましくは、胎盤ディス
クへの臍帯挿入部から4~5cm(センチメートル)以内のところでクランプする。
【0121】
放血プロセス中の哺乳動物胎盤からの灌流流体の最初の回収物は、通常、臍帯血及び/
又は胎盤血の残留赤血球のために色が付いている。灌流が進み、残留臍帯血細胞が胎盤か
ら洗い流されるにつれて、灌流流体は、より無色になっていく。最初に胎盤を放血させる
のに、通常、30~100ml(ミリリットル)の灌流流体で十分であるが、観察された結果に応
じて、より多い又はより少ない灌流流体を使用することができる。
【0122】
胎盤細胞を回収するために使用される灌流液の体積は、回収されるべき幹細胞の数、胎
盤の大きさ、単一の胎盤から行われるべき回収の回数などに応じて変動し得る。様々な実
施態様において、灌流液の体積は、50mL~5000mL、50mL~4000mL、50mL~3000mL、100mL
~2000mL、250mL~2000mL、500mL~2000mL、又は750mL~2000mLであり得る。通常、胎盤
は、放血後、700~800mLの灌流液を用いて灌流される。
【0123】
胎盤は、数時間又は数日間にわたって、複数回灌流することができる。胎盤が複数回灌
流されることになる場合、それを、無菌条件下、容器(container)又は他の好適な容器(ve
ssel)中で維持又は培養し、幹細胞回収組成物、或いは抗凝血剤(例えば、ヘパリン、ワル
ファリンナトリウム、クマリン、ビスヒドロキシクマリン)を含むかもしくはこれを含ま
ない、及び/又は抗菌剤(例えば、β-メルカプトエタノール(0.1mM);ストレプトマイシン(
例えば、40~100μg/ml)、ペニシリン(例えば、40U/ml)、アンホテリシンB(例えば、0.5
μg/ml)などの抗生物質を含むかもしくはこれらを含まない、標準的な灌流溶液(例えば、
リン酸緩衝生理食塩水(「PBS」)などの通常の生理食塩水)を用いて灌流することができる
。一実施態様において、単離された胎盤は、該胎盤が、灌流及び灌流液の回収前に、1、2
、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、
もしくは24時間、或いは2もしくは3日間、又はそれより長い日数の間、維持又は培養され
るように、灌流液を回収することなく、ある期間維持又は培養される。灌流された胎盤は
、さらにもう1回以上、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、
16、17、18、19、20、21、22、23、24時間、又はそれより長い時間、維持し、例えば、70
0~800mLの灌流流体を用いて、再び灌流することができる。胎盤は、1、2、3、4、5回、
又はそれより多くの回数、例えば、1、2、3、4、5、又は6時間に1回、灌流することがで
きる。好ましい実施態様において、回収される有核細胞の数が100細胞/mlを下回るまで、
胎盤の灌流と、灌流溶液、例えば、幹細胞回収組成物の回収が繰り返される。異なる時点
での灌流液をさらに主観的に(subjectly)処理して、時間に応じた細胞、例えば、幹細胞
の集団を回収することができる。異なる時点からの灌流液をプールすることもできる。
【0124】
任意の理論に束縛されることを望まないが、胎盤の放血及び十分な時間の灌流の後、胎
盤細胞は、放血及び灌流された胎盤の微小循環に移動すると考えられ、この微小循環中で
、該胎盤幹細胞を、好ましくは、灌流によって回収容器中に洗い入れることにより回収す
る。単離された胎盤を灌流することは、残留臍帯血を除去するだけではなく、胎盤に酸素
を含む適切な栄養を提供するためにも役立つ。胎盤は、残留臍帯血細胞を除去するために
使用したのと同様の溶液を用いて、好ましくは抗凝血剤を添加しないで、培養及び灌流す
ることができる。
【0125】
本明細書に記載の灌流は、該溶液で灌流されていないか、又は幹細胞を得るために別の
方法で(例えば、組織破壊、例えば、酵素的消化によって)処理されていない哺乳動物胎盤
から得ることができる数よりも有意に多くの胎盤細胞の回収をもたらす。この文脈におい
て、「有意により多くの」とは、少なくとも10%多いことを意味する。灌流は、例えば、
胎盤又はその一部が培養された培養培地から得ることができる胎盤細胞の数よりも有意に
多くの胎盤細胞を生じさせる。
【0126】
幹細胞は、1以上のプロテアーゼ又は他の組織破壊酵素を含む溶液を用いる灌流によっ
て、胎盤から単離することができる。具体的な実施態様において、胎盤又はその一部(例
えば、羊膜、羊膜及び絨毛膜、胎盤小葉もしくは胎盤葉、又は前述のもののいずれかの組
合せ)を25~37℃にし、200mLの培養培地中で1以上の組織破壊酵素とともに30分間インキ
ュベートする。灌流液由来の細胞を回収し、4℃にし、5mM EDTA、2mMジチオスレイトール
、及び2mMβ-メルカプトエタノールを含む冷たい阻害剤混合物で洗浄する。数分後、胎盤
細胞を、本明細書中の別所に記載の冷たい(例えば、4℃の)幹細胞回収組成物で洗浄する
。
【0127】
受け皿法(pan method)を用いる灌流、すなわち、灌流液が胎盤の母親側から滲出した後
に回収される灌流によって、胎児細胞と母親細胞の混合物が得られることが理解されよう
。結果として、この方法によって回収された細胞は、胎児起源と母親起源の両方の胎盤細
胞の混合集団を含む。対照的に、灌流流体が1つ又は2つの胎盤血管に通され、単に残りの
血管を通して回収される、胎盤血管系に通すだけの灌流は、ほとんど胎児起源のみの胎盤
細胞の集団の回収という結果をもたらす。
【0128】
(4.3.5 胎盤細胞の単離、選別、及び特徴付け)
哺乳動物胎盤由来の幹細胞は、灌流によって得られるものであれ、酵素的消化によって
得られるものであれ、最初に、フィコール勾配遠心分離によって他の細胞から純化する(
すなわち、単離する)ことができる。そのような遠心分離は、遠心分離速度などについて
、任意の標準的なプロトコルに従うことができる。一実施態様において、例えば、胎盤か
ら回収された細胞を、室温で15分間の5000×gでの遠心分離(これによって、細胞は、例え
ば、混入する破片及び血小板から分離される)によって灌流液から回収する。別の実施態
様において、胎盤灌流液を約200mlに濃縮し、Ficoll上に穏やかに重層し、22℃で20分間
、約1100×gで遠心分離し、細胞の低密度界面層をさらなる処理のために回収する。
【0129】
細胞ペレットを、新鮮な幹細胞回収組成物、又は幹細胞維持に好適な培地、例えば、2U
/mlヘパリン及び2mM EDTA(GibcoBRL, NY)を含むIMDM無血清培地に再懸濁させることがで
きる。全単核細胞画分を、例えば、製造業者の推奨手順に従って、Lymphoprep(Nycomed P
harma, Oslo, Norway)を用いて単離することができる。
【0130】
本明細書で使用されるように、胎盤細胞、例えば、胎盤幹細胞を「単離すること」は、
該幹細胞が無傷の哺乳動物胎盤内で通常関連している細胞の少なくとも20%、30%、40%
、50%、60%、70%、80%、90%、95%、又は99%を取り除くことを意味する。器官由来
の幹細胞は、該幹細胞が無傷の器官内で通常関連している細胞の50%未満を含む細胞の集
団内に存在する場合、「単離された」ものとなる。
【0131】
灌流又は消化によって得られる胎盤細胞を、例えば、0.2%EDTA(Sigma, St. Louis MO)
を含む0.05%トリプシンの溶液を用いる示差的なトリプシン処理によって、例えば、さら
に又は最初に単離することができる。他の接着性の集団が、通常、20~30分間を超えるイ
ンキュベーションを必要とするのに対し、胎盤細胞は、通常、約5分以内にプラスチック
表面から剥離するので、示差的なトリプシン処理が可能である。剥離した胎盤細胞は、ト
リプシン処理、及び例えば、トリプシン中和溶液(TNS, Cambrex)を用いるトリプシン中和
の後、回収することができる。接着細胞の単離の一実施態様において、一定分量の、例え
ば、約5~10×106個の細胞を、いくつかのT-75フラスコ、好ましくは、フィブロネクチン
コーティングしたT75フラスコの各々に入れる。そのような実施態様において、該細胞を
、市販の間葉系幹細胞成長培地(MSCGM)(Cambrex)を用いて培養し、組織培養インキュベー
ター(37℃、5%CO2)内に入れることができる。10~15日後、接着していない細胞を、PBS
で洗浄することによりフラスコから除去する。その後、PBSをMSCGMに置き換える。フラス
コを、様々な接着細胞型の存在について、特に、線維芽細胞様細胞の集塊の同定及び拡大
のために、毎日調べることが好ましい。
【0132】
哺乳動物胎盤から回収される細胞の数及び種類は、例えば、フローサイトメトリー、細
胞選別、免疫細胞化学(例えば、組織特異的抗体もしくは細胞マーカー特異的抗体による
染色)、蛍光活性化細胞選別(FACS)、磁気活性化細胞選別(MACS)などの標準的な細胞検出
技術を用いて形態及び細胞表面マーカーの変化を測定することにより、光学顕微鏡もしく
は共焦点顕微鏡法を用いて細胞の形態を調べることにより、並びに/又はPCR及び遺伝子発
現プロファイリングなどの当技術分野で周知の技術を用いて遺伝子発現の変化を測定する
ことによりモニタリングすることができる。これらの技術は、1以上の特定のマーカーに
ついて陽性である細胞を特定するためにも使用することができる。例えば、CD34に対する
抗体を用いて、上記の技術を用いて、細胞が、検出可能な量のCD34を含むかどうかを決定
することができ;もし含むのであれば、その細胞はCD34+である。同様に、細胞が、RT-PCR
によって検出されるのに十分なOCT-4 RNA、又は最終分化した細胞、例えば、線維芽細胞
よりも有意に多くのOCT-4 RNAを産生するならば、その細胞は、OCT-4+である。細胞表面
マーカー(例えば、CD34などのCDマーカー)に対する抗体、及びOCT-4などの幹細胞特異的
遺伝子の配列は、当技術分野で周知である。
【0133】
胎盤細胞、特に、フィコール分離、示差接着、又はその両方の組合せによって単離され
た細胞を、例えば、蛍光活性化細胞選別装置(FACS)を用いて選別することができる。蛍光
活性化細胞選別(FACS)は、細胞を含む粒子を、該粒子の蛍光特性に基づいて分離するため
の周知の方法である(Kamarchの文献、1987, Methods Enzymol, 151:150-165)。対象粒子
中の蛍光部分のレーザーによる励起によって、わずかな電荷が生じ、混合物からの正の粒
子と負の粒子の電磁分離が可能になる。一実施態様において、細胞表面マーカー特異的抗
体又はリガンドを別々の蛍光標識で標識する。細胞を細胞選別装置に通して処理し、使用
される抗体に結合する能力に基づく細胞の分離が可能になる。FACSで選別された粒子を、
96ウェル又は384ウェルプレートの対象ウェルに直接堆積させて、分離及びクローニング
を容易にすることができる。
【0134】
ある選別スキームにおいて、胎盤由来の幹細胞を、例えば、マーカーCD10、CD34、CD38
、CD44、CD45、CD73、CD80、CD86、CD90、CD105、CD200、SSEA3、SSEA4、及び/又はHLA-G
の発現に基づいて選別する。これは、幹細胞を培養下でのその接着特性に基づいて選択す
る手順と関連させて達成することができる。例えば、幹細胞の接着性による選択は、マー
カー発現に基づく選別の前又は後に行うことができる。一実施態様において、例えば、細
胞を、最初に、そのCD34発現に基づいて選別し; CD34-細胞を保持し、CD200+ HLA-G+であ
る細胞を他の全てのCD34-細胞から分離する。別の実施態様において、胎盤由来の細胞を
、そのマーカーCD200及び/又はHLA-Gの発現に基づいて選別し;例えば、これらのマーカー
のどちらかを提示する細胞を、さらなる使用のために単離する。例えば、CD200及び/又は
HLA-Gを発現する細胞を、具体的な実施態様において、そのCD73及び/もしくはCD105、又
は抗体SH2、SH3、もしくはSH4によって認識されるエピトープの発現、或いはCD34、CD38
、又はCD45の発現の欠如に基づいて、さらに選別することができる。例えば、一実施態様
において、胎盤細胞を、CD200、HLA-G、CD73、CD105、CD34、CD38、及びCD45の発現又は
その欠如によって選別し、CD200+、HLA-G-、CD73+、CD105+、CD34-、CD38-、及びCD45-で
ある胎盤細胞を、さらなる使用のために他の胎盤細胞から単離する。別の選別システムに
おいて、胎盤細胞を、CD10、CD105、及びCD200の発現によって選別し、得られた集団から
、CD34を発現する細胞を除外する。
【0135】
別の実施態様において、磁気ビーズを用いて、細胞を分離することができる。該細胞を
、磁気ビーズ(直径0.5~100μm)に結合するその能力に基づいて粒子を分離する方法であ
る磁気活性化細胞選別(MACS)技術を用いて選別することができる。特定の細胞表面分子又
はハプテンを特異的に認識する抗体の共有結合的付加を含む、種々の有用な修飾を、磁気
ミクロスフェアに対して行うことができる。次いで、ビーズを細胞と混合し、結合させる
。次いで、細胞を磁場に通して、特異的な細胞表面マーカーを有する細胞を完全に分離す
る。一実施態様において、次いで、これらの細胞を単離し、さらなる細胞表面マーカーに
対する抗体に結合した磁気ビーズと再び混合することができる。該細胞を再び磁場に通し
て、両方の抗体に結合した細胞を単離する。次いで、そのような細胞を希釈して、別々の
ディッシュ、例えば、クローン単離用のマイクロタイターディッシュに入れることができ
る。
【0136】
胎盤細胞を、細胞形態及び成長特性に基づいて特徴付け、及び/又は選別することもで
きる。例えば、胎盤細胞を、例えば、培養下で線維芽細胞様外観を有するものと特徴付け
ること、及び/又はそのような外観に基づいて選択することができる。胎盤細胞を、胚様
体様体を形成するその能力を有するものと特徴付けること、及び/又はそのような能力に
基づいて選択することもできる。一実施態様において、例えば、線維芽細胞様の形状であ
り、CD73及びCD105を発現し、かつ培養下で1以上の胚様体様体を産生する胎盤細胞を、他
の胎盤細胞から単離する。別の実施態様において、培養下で1以上の胚様体様体を産生す
るOCT-4+胎盤細胞を他の胎盤細胞から単離する。
【0137】
別の実施態様において、胎盤細胞をコロニー形成単位アッセイによって同定し、特徴付
けることができる。コロニー形成単位アッセイは、当技術分野で一般に知られており、例
えば、Mesen Cult(商標)培地(Stem Cell Technologies社, Vancouver British Columbia)
がある。
【0138】
胎盤細胞を、生存、増殖能力、及び寿命について、当技術分野で公知の標準的な技術、
例えば、(生存を評価するための)トリパンブルー排出アッセイ、二酢酸フルオレセイン取
込みアッセイ、ヨウ化プロピジウム取込みアッセイ;及び(増殖を評価するための)チミジ
ン取込みアッセイ、MTT細胞増殖アッセイを用いて評価することができる。寿命は、当技
術分野で周知の方法によって、例えば、延長培養下での集団倍加の最大数を決定すること
により決定することができる。
【0139】
胎盤細胞を、当技術分野で公知の他の技術、例えば、所望の細胞の選択的成長(陽性選
択)、望ましくない細胞の選択的破壊(陰性選択);例えば、大豆凝集素を用いる、混合集団
における示差細胞凝集力に基づく分離;凍結-解凍処置;濾過;従来のゾーン遠心分離;遠心
水簸(向流遠心分離);単位重力分離;向流分配;電気泳動;などを用いて、他の胎盤細胞から
分離することもできる。
【0140】
(4.4 胎盤細胞の培養)
(4.4.1 培養培地)
単離された胎盤細胞、又は胎盤細胞集団、又は胎盤細胞が生じる細胞もしくは胎盤組織
を用いて、細胞培養物を惹起又は播種することができる。細胞は、通常、コーティングさ
れていないか、又は細胞外マトリクスもしくはリガンド、例えば、ラミニン、コラーゲン
(例えば、天然もしくは変性)、ゼラチン、フィブロネクチン、オルニチン、ビトロネクチ
ン、及び細胞外膜タンパク質(例えば、MATRIGEL(BD Discovery Labware, Bedford, Mass.
))でコーティングされているかのいずれかの、滅菌された組織培養容器に移される。
【0141】
胎盤細胞は、幹細胞の培養のために許容し得ると当技術分野で認識されている、任意の
培地中及び任意の条件下で培養することができる。好ましくは、該培養培地は、血清を含
む。胎盤細胞は、例えば、ITS(インスリン-トランスフェリン-セレン)、LA+BSA(リノー
ル酸-ウシ血清アルブミン)、デキストロース、L-アスコルビン酸、PDGF、EGF、IGF-1、及
びペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM-LG(ダルベッコの改変必須培地、低グルコ
ース)/MCDB 201(ニワトリ線維芽細胞基本培地); 10%胎仔ウシ血清(FBS)を含むDMEM-HG(
高グルコース); 15%FBSを含むDMEM-HG; 10%FBS、10%ウマ血清、及びヒドロコルチゾン
を含むIMDM(イスコフの改変ダルベッコ培地); 10%FBS、EGF、及びヘパリンを含むM199;
10%FBS、GlutaMAX(商標)、及びゲンタマイシンを含むα-MEM(最小必須培地); 10%FBS、
GlutaMAX(商標)、及びゲンタマイシンを含むDMEMなどの中で培養することができる。好ま
しい培地は、2%FBS、ITS、LA+BSA、デキストロース、L-アスコルビン酸、PDGF、EGF、
及びペニシリン/ストレプトマイシンを含む、DMEM-LG/MCDB-201である。
【0142】
胎盤細胞を培養するために使用することができる他の培地としては、DMEM(高又は低グ
ルコース)、イーグルの基本培地、ハムのF10培地(F10)、ハムのF-12培地(F12)、イスコフ
の改変ダルベッコ培地、間葉系幹細胞成長培地(MSCGM)、ライボヴィッツのL-15培地、MCD
B、DMIEM/F12、RPMI 1640、改良DMEM(Gibco)、DMEM/MCDB201(Sigma)、及びCELL-GRO FREE
が挙げられる。
【0143】
培養培地に、例えば、血清(例えば、胎仔ウシ血清(FBS)、好ましくは、約2~15%(v/v)
;ウマ科動物(ウマ)血清(ES);ヒト血清(HS));β-メルカプトエタノール(BME)、好ましくは
、約0.001%(v/v); 1以上の成長因子、例えば、血小板由来成長因子(PDGF)、上皮成長因
子(EGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、インスリン様成長因子-1(IGF-1)、白血病抑
制因子(LIF)、血管内皮成長因子(VEGF)、及びエリスロポエチン(EPO); L-バリンを含むア
ミノ酸;並びに例えば、ペニシリンG、ストレプトマイシン硫酸塩、アンホテリシンB、ゲ
ンタマイシン、及びナイスタチンなどの、微生物混入を制御するための1以上の抗生物質
及び/又は抗真菌剤を含む1以上の成分を、単独で又は組み合わせて補充することができる
。
【0144】
(4.4.2 胎盤細胞の拡大及び増殖)
胎盤幹細胞をいったん単離すれば(例えば、該幹細胞又は幹細胞の集団がインビボで通
常関連している胎盤細胞の少なくとも50%から分離すれば)、該幹細胞又は幹細胞の集団
をインビトロで増殖及び拡大することができる。同様に、胎盤幹細胞をいったん産生すれ
ば、そのような細胞をインビトロで増殖及び拡大することもできる。例えば、胎盤幹細胞
を、組織培養容器、例えば、ディッシュ、フラスコ、マルチウェルプレートなどの中で、
胎盤幹細胞が70~90%コンフルエントまで増殖するのに十分な時間、すなわち、胎盤幹細
胞及びその子孫が組織培養容器の培養表面積の70~90%を占めるようになるまで培養する
ことができる。
【0145】
胎盤幹細胞を、培養容器に、細胞成長を可能にする密度で播種することができる。例え
ば、胎盤幹細胞を、低密度(例えば、約1,000~約5,000個の細胞/cm2)から高密度(例えば
、約50,000個以上の細胞/cm2)で播種することができる。好ましい実施態様において、胎
盤幹細胞は、大気中約0~約5体積パーセントのCO2下で培養される。いくつかの好ましい
実施態様において、胎盤幹細胞は、大気中約2~約25パーセントのO2下で、好ましくは、
大気中約5~約20パーセントのO2下で培養される。胎盤幹細胞は、約25℃~約40℃、好ま
しくは37℃で培養されることが好ましい。胎盤幹細胞は、インキュベーター内で培養され
ることが好ましい。培養培地は、静置されるか、又は例えば、バイオリアクターを用いて
撹拌されることができる。胎盤幹細胞は、(例えば、グルタチオン、アスコルビン酸、カ
タラーゼ、トコフェロール、N-アセチルシステインなどを添加して)低酸化ストレス下で
成長させることが好ましい。
【0146】
いったん、70~90%のコンフルエンスが得られれば、胎盤幹細胞を継代することができ
る。例えば、該細胞を、当技術分野で周知の技術を用いて、酵素処理、例えば、トリプシ
ン処理して、組織培養表面から分離することができる。該胎盤幹細胞をピペッティングに
よって取り出し、計数した後、約20,000~100,000個の幹細胞、好ましくは、約50,000個
の胎盤幹細胞を、新鮮な培養培地を含む新しい培養容器に継代する。通常、新しい培地は
、幹細胞を取り出した培地と同じ種類である。本明細書に提供されるのは、少なくとも1
、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、もしくは20回、又はそれより多くの回
数継代された胎盤幹細胞の集団、及び該胎盤幹細胞の集団の組合せである。
【0147】
(4.5 胎盤幹細胞の保存)
胎盤幹細胞を保存する、すなわち、長期保管を可能にする条件、又は例えば、アポトー
シスもしくは壊死による細胞死を阻害する条件下に置くことができる。
【0148】
胎盤幹細胞は、例えば、2005年12月25日に出願された「胎盤細胞を回収及び保存するた
めの改良された組成物及び該組成物の使用方法(Improved Composition for Collecting a
nd Preserving Placental Cell and Methods of Using the Composition)」という表題の
関連する米国仮特許出願第60/754,969号に記載されているような、アポトーシス阻害剤、
壊死阻害剤、及び/又は酸素運搬ペルフルオロカーボンを含む組成物を用いて保存するこ
とができる。
【0149】
一実施態様において、本明細書に提供されるのは、胎盤幹細胞を保存する方法であって
、該胎盤幹細胞を、アポトーシス阻害剤及び酸素運搬ペルフルオロカーボンを含む幹細胞
回収組成物と接触させることを含む、方法であり、ここで、該アポトーシス阻害剤は、該
アポトーシス阻害剤と接触させられていない胎盤幹細胞の集団と比較したとき、胎盤幹細
胞の集団におけるアポトーシスを低下させ又は防止するのに十分な量で、かつそれに十分
な時間存在する。具体的な実施態様において、該アポトーシス阻害剤は、カスパーゼ阻害
剤である。別の具体的な実施態様において、該アポトーシス阻害剤は、JNK阻害剤である
。より具体的な実施態様において、該JNK阻害剤は、該胎盤幹細胞の分化も増殖も調節し
ない。別の実施態様において、該幹細胞回収組成物は、該アポトーシス阻害剤及び該酸素
運搬ペルフルオロカーボンを別々の相に含む。別の実施態様において、該幹細胞回収組成
物は、該アポトーシス阻害剤及び該酸素運搬ペルフルオロカーボンをエマルジョン中に含
む。別の実施態様において、該幹細胞回収組成物は、乳化剤、例えば、レシチンをさらに
含む。別の実施態様において、該アポトーシス阻害剤及び該ペルフルオロカーボンは、幹
細胞と接触させる時点で、約0℃~約25℃である。別のより具体的な実施態様において、
該アポトーシス阻害剤及び該ペルフルオロカーボンは、幹細胞と接触させる時点で、約2
℃~10℃又は約2℃~約5℃である。別のより具体的な実施態様において、該接触は、該胎
盤幹細胞の輸送中に実施される。別のより具体的な実施態様において、該接触は、該胎盤
幹細胞の集団の凍結及び解凍中に実施される。
【0150】
別の実施態様において、胎盤幹細胞は、該胎盤幹細胞をアポトーシス阻害剤及び臓器保
存化合物と接触させることを含む方法によって保存することができ、ここで、該アポトー
シス阻害剤は、アポトーシス阻害剤と接触させられていない胎盤幹細胞と比較したとき、
胎盤幹細胞のアポトーシスを低下させ又は防止するのに十分な量でかつそれに十分な時間
存在する。具体的な実施態様において、臓器保存化合物は、UW溶液(米国特許第4,798,824
号に記載されており; ViaSpanとしても知られている; Southardらの文献、Transplantati
on 49(2):251-257(1990)も参照されたい)、又はSternらの米国特許第5,552,267号に記載
されている溶液である。別の実施態様において、該臓器保存化合物は、ヒドロキシエチル
デンプン、ラクトビオン酸、ラフィノース、又はこれらの組合せである。
【0151】
別の実施態様において、胎盤幹細胞を産生するために使用されるべき胎盤幹細胞を、灌
流中に、アポトーシス阻害剤及び酸素運搬ペルフルオロカーボン、臓器保存化合物、又は
これらの組合せを含む幹細胞回収組成物と接触させる。別の実施態様において、胎盤幹細
胞を産生するために使用されるべき該胎盤幹細胞を、組織破壊、例えば、酵素的消化のプ
ロセス中に接触させる。別の実施態様において、胎盤細胞を、灌流による回収の後に、又
は組織破壊、例えば、酵素的消化による回収の後に、該幹細胞回収化合物と接触させる。
【0152】
通常、胎盤幹細胞の回収、濃縮、及び単離中には、低酸素及び機械的ストレスによる細
胞ストレスを最小限にするか又は排除することが好ましい。したがって、本方法の別の実
施態様において、胎盤幹細胞を産生するために使用されるべき胎盤幹細胞は、回収、濃縮
、又は単離中、該保存中に6時間未満、低酸素状態に暴露され、ここで、低酸素条件は、
正常な血中酸素濃度未満である酸素の濃度である。より具体的な実施態様において、該胎
盤幹細胞は、該保存中に2時間未満、該低酸素状態に暴露される。別のより具体的な実施
態様において、該胎盤幹細胞は、回収、濃縮、又は単離中に、1時間未満もしくは30分未
満、該低酸素状態に暴露されるか、又は低酸素状態に暴露されない。別の具体的な実施態
様において、該胎盤幹細胞は、回収、濃縮、又は単離中に、剪断ストレスに暴露されない
。
【0153】
本明細書に記載の、胎盤幹細胞、及び胎盤幹細胞を産生するために使用されるべき胎盤
幹細胞は、例えば、小型の容器、例えば、アンプル中の凍結保存培地に入れて凍結保存す
ることができる。好適な凍結保存培地としては、例えば、成長培地を含む培養培地、又は
細胞凍結培地、例えば、市販の細胞凍結培地、例えば、C2695、C2639、もしくはC6039(Si
gma)が挙げられるが、これらに限定されない。具体的な実施態様において、細胞凍結培地
は、デキストラン(例えば、デキストラン40)及びDMSO(ジメチルスルホキシド)を含む。凍
結保存培地は、例えば、約10%(v/v)の濃度のDMSO(ジメチルスルホキシド)を含むことが
好ましい。凍結保存培地は、追加の物質、例えば、Plasmalyte、メチルセルロースを含む
ことができ、グリセロールは含まれていても含まれていなくてもよい。幹細胞は、凍結保
存中、約1℃/分で冷却することが好ましい。好ましい凍結保存温度は、約-80℃~約-180
℃、好ましくは、約-125℃~約-140℃である。凍結保存された細胞は、液体窒素に移した
後、使用のために解凍することができる。いくつかの実施態様において、例えば、アンプ
ルがいったん約-90℃に到達したら、液体窒素保管エリアに移す。凍結保存された細胞は
、約25℃~約40℃、好ましくは、約37℃の温度で解凍することが好ましい。
【0154】
(4.6 胎盤細胞を含む組成物)
本明細書に提供される方法は、本明細書に提供される胎盤幹細胞又は胎盤幹細胞の集団
を含む組成物を使用することができ、該組成物は、任意の生理的に許容し得る又は医学的
に許容し得る化合物、組成物、又は装置と組み合わせることができる。
【0155】
(4.8.1 凍結保存された胎盤細胞)
本明細書に提供される胎盤細胞を、後で使用するために保存する、例えば、凍結保存す
ることができる。幹細胞などの細胞の凍結保存方法は、当技術分野で周知である。胎盤幹
細胞は、対象に容易に投与できる形態で調製することができる。例えば、本明細書に記載
の胎盤幹細胞は、医療用途に好適な容器内に入れることができる。そのような容器は、例
えば、滅菌プラスチックバッグ、フラスコ、ジャー、バイアル、又は胎盤細胞集団を容易
に分注することができる他の容器であることができる。例えば、容器は、血液バッグ、又
はレシピエントへの液体の静脈内投与に好適な他のプラスチック製の医学的に許容し得る
バッグであることができる。容器は、該胎盤幹細胞の凍結保存を可能にするものであるこ
とが好ましい。
【0156】
凍結保存された胎盤幹細胞は、単一のドナー又は複数のドナーに由来する胎盤幹細胞を
含むことができる。該胎盤幹細胞は、意図されるレシピエントと完全にHLAが適合するも
のであっても、部分的又は完全にHLAが適合しないものであってもよい。
【0157】
したがって、一実施態様において、本明細書に提供されるのは、容器に入った胎盤幹細
胞を含む組成物である。具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞は、デキストラン及び
DMSOを含む培地に入っている。具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞は、凍結保存さ
れるか、又は凍結保存されたものである。別の具体的な実施態様において、容器は、バッ
グ、フラスコ、バイアル、又はジャーである。より具体的な実施態様において、該バッグ
は、滅菌プラスチックバッグである。より具体的な実施態様において、該バッグは、該胎
盤幹細胞の静脈内投与に好適であるか、又は該投与を可能にするか、又は該投与を容易に
する。該バッグは、投与前又は投与中の、胎盤幹細胞と1以上の他の溶液、例えば、薬物
との混合を可能にするために相互接続された、複数の内腔又は区画を含むことができる。
別の具体的な実施態様において、該組成物は、組み合わされた幹細胞集団の凍結保存を容
易にする1以上の化合物を含む。別の具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞は、生理
的に許容し得る水溶液中に含まれる。より具体的な実施態様において、該生理的に許容し
得る水溶液は、0.9N NaCl溶液である。別の具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞は
、該胎盤幹細胞のレシピエントとHLAが適合する。別の具体的な実施態様において、該胎
盤幹細胞は、該胎盤幹細胞のレシピエントと、少なくとも部分的にHLAが適合しない。別
の具体的な実施態様において、該胎盤幹細胞は、複数のドナーに由来するものである。
【0158】
(4.8.2 医薬組成物)
単離された胎盤幹細胞の集団、又は該単離された胎盤幹細胞を含む細胞の集団は、イン
ビボで、例えば、本明細書に提供される方法で使用するための医薬組成物に製剤化するこ
とができる。そのような医薬組成物は、医薬として許容し得る担体、例えば、生理食塩水
、又はインビボ投与のための他の認可された生理的に許容し得る溶液中に、胎盤幹細胞、
又は単離された胎盤幹細胞を含む細胞の集団を含む。本明細書に記載の単離された胎盤幹
細胞を含む医薬組成物は、本明細書中の別所に記載の、該単離された胎盤幹細胞集団、又
は単離された胎盤幹細胞のいずれか、又は任意の組合せを含むことができる。該医薬組成
物は、胎児の、母親の、又は胎児と母親の両方の単離された細胞を含むことができる。本
明細書に提供される医薬組成物は、単一の対象、臍帯、もしくは胎盤から、又は複数の対
象、臍帯、もしくは胎盤から得られた単離された胎盤幹細胞をさらに含むことができる。
本明細書中の別所に記載の該胎盤幹細胞のいずれかを、下記のような医薬組成物に製剤化
することができる。具体的な実施態様において、本明細書に提供される医薬組成物は、胎
盤幹細胞並びに抗血栓剤(例えば、デキストラン)及び/又は抗炎症剤(例えば、DMSO)を含
む。別の具体的な実施態様において、本明細書に提供される医薬組成物は、胎盤幹細胞並
びに抗血栓剤(例えば、デキストラン)及び抗炎症剤(例えば、DMSO)を含む。
【0159】
本明細書に提供される医薬組成物は、任意の数の単離された胎盤幹細胞を含むことがで
きる。例えば、単離された胎盤幹細胞の単回単位用量は、様々な実施態様において、約、
少なくとも、又は多くとも1×105、5×105、1×106、5×106、1×107、5×107、1×108、
5×108、1×109、5×109、1×1010、5×1010、1×1011個、又はそれより多くの単離され
た細胞を含むことができる。
【0160】
本明細書に提供される医薬組成物は、50%又はそれより多くの生存細胞を含む(すなわ
ち、集団内の細胞の少なくとも50%が機能している又は生きている)細胞の集団を含む。
好ましくは、集団内の細胞の少なくとも60%が生存している。より好ましくは、該医薬組
成物中の集団内の細胞の少なくとも70%、80%、90%、95%、又は99%が生存している。
【0161】
本明細書に提供される医薬組成物は、例えば、生着を促進する1以上の化合物(例えば、
抗T細胞受容体抗体、免疫抑制薬など);安定化剤、例えば、アルブミン(例えば、ヒト血清
アルブミン(HSA))、デキストラン40、ゼラチン、ヒドロキシエチルデンプン、plasmalyte
などを含むことができる。
【0162】
ある実施態様において、該胎盤幹細胞は、凍結保存の前又は後のどちらかに、例えば、
アルギネートに封入することができる。ある他の実施態様において、該胎盤幹細胞は、例
えば、局所注射又は局所投与用途のための多血小板血漿と組み合わせることができる。具
体的な実施態様において、該多血小板血漿は、自己多血小板血漿であり、例えば、該胎盤
幹細胞が投与される対象にとって自己のものである。他の具体的な実施態様において、該
多血小板血漿は、該胎盤幹細胞が投与される対象にとって同種異系のものである。別の具
体的な実施態様において、該多血小板血漿は、胎盤灌流液に由来する。他の具体的な実施
態様において、組成物中の胎盤幹細胞と多血小板血漿の容積対容積比、又は胎盤幹細胞の
数と血小板の数の比は、約10:1~1:10;約100:1~1:100であるか;又は約1:1である。
【0163】
一実施態様において、該医薬組成物は、実質的に、又は完全に非母親起源である、すな
わち、胎児表現型を有する単離された胎盤細胞を含み;例えば、少なくとも約90%、95%
、98%、99%、又は100%が、非母親起源である。
【0164】
具体的な実施態様において、該医薬組成物は、胎盤から得ていない幹細胞をさらに含む
。
【0165】
本明細書に提供される組成物、例えば、医薬組成物中の単離された胎盤幹細胞は、単一
のドナー又は複数のドナーに由来する胎盤幹細胞を含むことができる。該単離された胎盤
細胞は、意図されるレシピエントと完全にHLAが適合するものであっても、部分的又は完
全にHLAが適合しないものであってもよい。
【0166】
(4.9 胎盤細胞を含むマトリクス)
さらに本明細書に提供されるのは、胎盤幹細胞を含むマトリクス、ヒドロゲル、スキャ
フォールドなどである。本明細書に提供される胎盤幹細胞は、天然のマトリクス、例えば
、羊膜材料などの胎盤生体材料に播種することができる。そのような羊膜材料は、例えば
、哺乳動物胎盤から直接切除された羊膜;固定された又は加熱処理された羊膜、実質的に
乾燥している(すなわち、<20%H2Oの)羊膜、絨毛膜、実質的に乾燥している絨毛膜、実
質的に乾燥している羊膜と絨毛膜などであることができる。胎盤幹細胞を播種することが
できる好ましい胎盤生体材料は、その開示が引用により完全に本明細書中に組み込まれる
、Haririの米国特許出願公開第2004/0048796号に記載されている。
【0167】
本明細書に提供される胎盤細胞は、例えば、注射に好適なヒドロゲル溶液に懸濁させる
ことができる。そのような組成物のための好適なヒドロゲルとしては、RAD16などの自己
集合ペプチドが挙げられる。胎盤幹細胞は、例えば、局所注射用のアルギネートもしくは
多血小板血漿、又は他のフィブリン含有マトリクスと組み合わせることもできる。一実施
態様において、胎盤幹細胞を含むヒドロゲル溶液を、例えば、鋳型中で硬化させて、該細
胞がその中に分散している埋め込み用のマトリクスを形成させることができる。そのよう
なマトリクス中の胎盤幹細胞を、該細胞が埋め込み前に有糸分裂によって拡大されるよう
に培養することもできる。ヒドロゲルは、例えば、共有結合、イオン結合、又は水素結合
によって架橋されて、水分子を捕捉してゲルを形成する3次元の開放格子構造を生成させ
る有機ポリマー(天然又は合成)であることができる。ヒドロゲル形成材料としては、イオ
ンによって架橋される、アルギネート及びその塩などの多糖類、ペプチド、ポリホスファ
ジン、並びにポリアクリレート、又はそれぞれ温度もしくはpHによって架橋されるポリエ
チレンオキシド-ポリプロピレングリコールブロックコポリマーなどのブロックポリマー
が挙げられる。いくつかの実施態様において、ヒドロゲル又はマトリクスは生分解性であ
る。
【0168】
いくつかの実施態様において、マトリクスは、その場で重合可能なゲルを含む(例えば
、米国特許出願公開第2002/0022676号; Ansethらの文献、J. Control Release, 78(1-3):
199-209(2002); Wangらの文献、Biomaterials, 24(22):3969-80(2003)を参照されたい)。
【0169】
いくつかの実施態様において、ポリマーは、荷電側鎖基又はその一価のイオン性塩を有
する、水、緩衝塩類溶液、又は水性アルコール溶液などの水溶液に、少なくとも部分的に
溶解可能である。カチオンと反応することができる酸側鎖基を有するポリマーの例は、ポ
リ(ホスファゼン)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、アクリル酸とメタクリル酸
のコポリマー、ポリ(酢酸ビニル)、及びスルホン化ポリマー、例えば、スルホン化ポリス
チレンである。アクリル酸又はメタクリル酸とビニルエーテルモノマー又はビニルエーテ
ルポリマーとの反応によって形成される酸側鎖基を有するコポリマーを使用することもで
きる。酸基の例は、カルボン酸基、スルホン酸基、ハロゲン化(好ましくは、フッ素化)ア
ルコール基、フェノール性OH基、及び酸性OH基である。
【0170】
胎盤幹細胞を3次元フレームワーク又はスキャフォールドに播種し、インビボに埋め込
むことができる。そのようなフレームワークは、任意の1以上の成長因子、細胞、薬物、
或いは組織形成を刺激し又は本明細書中の別所に記載の方法の実施を別の形で強化もしく
は改善する他の成分と組み合わせて埋め込むことができる。
【0171】
本明細書に記載の方法で使用することができるスキャフォールドの例としては、不織マ
ット、多孔性発泡体、又は自己集合ペプチドが挙げられる。不織マットは、グリコール酸
と乳酸の合成の吸収性コポリマー(例えば、PGA/PLA)(VICRYL, Ethicon社, Somerville, N
.J.)から構成される繊維を用いて形成させることができる。フリーズドライ又は凍結乾燥
などのプロセスによって形成される、例えば、ポリ(ε-カプロラクトン)/ポリ(グリコー
ル酸)(PCL/PGA)コポリマーから構成される、発泡体(例えば、米国特許第6,355,699号参照
)をスキャフォールドとして使用することもできる。
【0172】
具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法で使用されるスキャフォールドは、
コラーゲン、例えば、胎盤コラーゲンから構成されない。別の具体的な実施態様において
、本明細書に記載の方法で使用されるスキャフォールドは、コラーゲン、例えば、胎盤コ
ラーゲンを含まない。
【0173】
別の実施態様において、スキャフォールドは、ナノ繊維スキャフォールド、例えば、電
界紡糸ナノ繊維スキャフォールドであるか、又はこれを含む。より具体的な実施態様にお
いて、該ナノ繊維スキャフォールドは、ポリ(L-乳酸)(PLLA)、I型コラーゲン、フッ化ビ
ニリデンとトリフルオロエチレンのコポリマー(PVDF-TrFE)、ポリ(-カプロラクトン)、ポ
リ(L-ラクチド-コ-ε-カプロラクトン)[P(LLA-CL)](例えば、75:25)、及び/又はポリ(3-
ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)(PHBV)とI型コラーゲンのコポリマー
を含む。ナノ繊維スキャフォールド、例えば、電界紡糸ナノ繊維スキャフォールドを製造
する方法は、当技術分野で公知である。例えば、Xuらの文献、Tissue Engineering 10(7)
:1160-1168(2004); Xuらの文献、Biomaterials 25:877-886(20040; Mengらの文献、J. Bi
omaterials Sci., Polymer Edition 18(1):81-94(2007)を参照されたい。
【0174】
本明細書に記載の胎盤幹細胞は、限定されないが、モノ-、ジ-、トリ-、α-トリ-、β-
トリ-、及びテトラ-リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、フルオロアパタイト、硫
酸カルシウム、フッ化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム
マグネシウム、BIOGLASS(登録商標)などの生体活性ガラス、並びにこれらの混合物を含む
、生理的に許容し得るセラミック材料に播種するか、又は該セラミック材料と接触させる
ことができる。現在市販されている多孔性の生体適合性セラミック材料としては、SURGIB
ONE(登録商標)(CanMedica社, Canada)、ENDOBON(登録商標)(Merck Biomaterial France,
France)、CEROS(登録商標)(Mathys, AG, Bettlach, Switzerland)、及び石灰化コラーゲ
ン骨移植用製品、例えば、HEALOS(商標)(DePuy社, Raynham, MA)、並びにVITOSS(登録商
標)、RHAKOSS(商標)、及びCORTOSS(登録商標)(Orthovita, Malvern, Pa.)が挙げられる。
フレームワークは、天然及び/又は合成材料の混合物、ブレンド、又は複合体であること
ができる。
【0175】
別の実施態様において、胎盤幹細胞は、例えば、生体吸収性材料、例えば、PGA、PLA、
PCLのコポリマーもしくはブレンド、又はヒアルロン酸でできたマルチフィラメント糸か
ら構成されることができるフェルトに播種するか、又は該フェルトと接触させることがで
きる。
【0176】
本明細書に記載の胎盤幹細胞は、別の実施態様において、複合体構造であり得る発泡体
スキャフォールドに播種することができる。そのような発泡体スキャフォールドは、有用
な形状に成形することができる。いくつかの実施態様において、細胞接着を増強するため
に、胎盤細胞の接種前に、フレームワークを、例えば、0.1M酢酸で処理し、次いで、ポリ
リジン、PBS、及び/又はコラーゲン中でインキュベートする。マトリクスの外側表面を、
例えば、マトリクスのプラズマコーティング、又は1以上のタンパク質(例えば、コラーゲ
ン、弾性繊維、網状繊維)、糖タンパク質、グリコサミノグリカン(例えば、ヘパリン硫酸
、コンドロイチン-4-硫酸、コンドロイチン-6-硫酸、デルマタン硫酸、ケラチン硫酸など
)、細胞マトリクス、並びに/もしくは他の材料、例えば、限定されないが、ゼラチン、ア
ルギネート、寒天、アガロース、及び植物ゴムなどの添加によって修飾して、細胞の接着
又は成長及び組織の分化を向上させることができる。
【0177】
いくつかの実施態様において、スキャフォールドは、スキャフォールドを非血栓形成性
にする材料を含むか、又は該材料で処理される。これらの処理及び材料は、内皮成長、移
動、及び細胞外マトリクス沈着を促進し、持続させることもできる。これらの材料及び処
理の例としては、天然材料、例えば、基底膜タンパク質、例えば、ラミニン及びIV型コラ
ーゲン、合成材料、例えば、EPTFE、及びセグメント化ポリウレタン尿素シリコーン、例
えば、PURSPAN(商標)(The Polymer Technology Group, Berkeley, Calif.)が挙げられる
が、これらに限定されない。スキャフォールドは、ヘパリンなどの抗血栓剤を含むことも
できるし;スキャフォールドを、胎盤幹細胞を播種する前に、表面電荷を変化させるよう
に処理する(例えば、プラズマコーティングする)こともできる。
【実施例0178】
(5.実施例)
(5.1 実施例1)
本実施例は、胎盤幹細胞を急性腎損傷の治療で使用することができることを示している
。
【0179】
(5.1.1 材料及び方法)
(5.1.1.1 研究設計)
250~280gの重量の雄のスプラーグ-ドーリーラット(BioLasco, Taiwan)を、下の表1に
概略が記載されているような、6つの治療群のうちの1つに割り当てた。
【表1】
【0180】
各々の群の麻酔ラットの腹腔を正中切開によって露出させ、両腎動脈を、血管鉗子を用
いて45分間閉塞させることにより、急性腎損傷(虚血-再灌流)を第2群~第6群で誘導した
。模擬対照動物(第1群)には、両腎動脈を閉塞させないで、同一の外科的処置を受けさせ
た。腎臓鉗子を取り除いた後、血液の再灌流を示す色の変化を確実にもたらすために、腎
臓をさらに1分間観察した。対照ビヒクルのDMEM(「PL」)又は凍結培地(デキストラン及び
DMSOを含むDMEM(フェノールレッド非含有);「FM」);並びにPL又はFMのどちらかに入った
胎盤幹細胞を、再流又は外科手術後すぐに、静脈内投与した。
【0181】
全ての試験動物の体重を、外科手術の24時間及び48時間前、外科手術の直前、並びに外
科手術の24時間、48時間、及び72時間;並びに96時間後に決定した。
【0182】
尿及び血漿中のNa+及びK+濃度(K+/Na+アッセイキット(Toshiba, Japan))、尿及び血漿
中のクレアチニンレベル(クレアチニンアッセイキット(Denka Seiken, Japan))、並びに
血中尿素窒素(BUN)レベル(BUNアッセイキット(Denka Seiken, Japan))の決定のために、
外科的処置の前、並びに再灌流の8時間、24時間、48時間、72時間、及び96時間後(出血の
み)、尿及び血液試料を回収した。0.4mlの血液を、尾静脈を経由して、8時間、24時間、4
8時間、及び72時間で回収し; 2mlの血液を、大静脈を経由して、96時間で回収した。
【0183】
全ての動物を安楽死させ、外科手術後4日目(96時間)に解剖した。解剖時に、右腎臓を
摘出し、氷冷生理食塩水中ですすぎ、10%中性緩衝ホルマリン中で保存した。各々を縦方
向に切り取り、パラフィンブロックに加工し、4~6ミクロンで薄切し、組織病理学的検査
のためにヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。
【0184】
データを、一元配置ANOVA、次いで、ダネットの検定又は対応のないt-検定によって解
析した。p<0.05で有意とみなす。
【0185】
(5.1.2 結果)
(5.1.2.1 体重)
模擬対照(第1群)動物の平均体重増加は、外科的処置から96時間後、該処置前の体重と
比較して最小(~3%)であった。虚血-再灌流動物(第1群~第5群)では、後続の処置に関係
なく、平均体重減少は、外科手術後96時間の間、1~10%の範囲であった。FM中の胎盤幹
細胞(第4群)又は6×106細胞/ラットの用量のPL中の胎盤幹細胞(第6群)で処置した動物は
、それぞれ、対応するビヒクル対照FM及びPLと比較して、体重増加の改善を示す傾向があ
った。
【0186】
(5.1.2.2 腎重量)
絶対的かつ標準化された(体重で標準化された左右腎重量の合計)腎重量は、後続の処置
に関係なく、模擬対照と比較して、虚血-再灌流処置を受けた全ての動物で有意に増加し
た。FM中の胎盤幹細胞を受容した動物(第4群)は、腎重量の増加を減じるように見えたが
、標準化された腎重量は、対照ビヒクルのFMで処置した動物の腎重量よりも有意に少なか
った。
【0187】
(5.1.2.3 腎機能評価)
(5.1.2.3.1 尿及び血漿解析)
虚血-再灌流処置を受けた動物における尿量の有意な増加を模擬対照と比較して観察し
た。虚血-再灌流から72時間後にFM中の6×106個の胎盤幹細胞を受容した動物は、正常尿
量の回復の改善を示した。
【0188】
模擬動物由来の尿及び血漿試料中のナトリウム及びカリウムのレベルは正常であり、研
究期間の全体を通して狭い範囲で維持された。虚血-再灌流処置を受けた動物の尿中のナ
トリウム及びカリウムのレベルは、調べた全ての時点で模擬動物におけるレベルよりも有
意に低かったが、それでも正常範囲内であった。同様に、虚血-再灌流処置を受けた動物
由来の血漿中のナトリウム及びカリウムのレベルは正常範囲内であった。
【0189】
模擬対照動物由来の尿試料中のクレアチニンレベルは、研究期間の全体を通して、かな
り一定のままであった。対照的に、尿クレアチニンレベルの有意な低下が、虚血-再灌流
処置を受けた全ての動物で観察され、その後、虚血-再灌流前のレベルの40~68%にまで
徐々に回復した。FM中の胎盤幹細胞を受容した動物(第4群)は、虚血-再灌流から48及び72
時間後、FMビヒクルで処置した虚血-再灌流動物と比較して、尿クレアチニンレベルの有
意により良好な回復を示した。
【0190】
模擬群の動物は、調べた全ての時点で、その血漿クレアチニンレベルを正常範囲に維持
したが、虚血-再灌流処置を受けた全ての動物は、早い時点で血漿クレアチニンのレベル
を上昇させ、虚血-再灌流から24時間後に最大になり、その後、血漿クレアチニンは時間
経過とともに徐々に低下した。FM中の胎盤幹細胞で処置した動物(第4群)は、虚血-再灌流
後に測定した全ての時点で、FMビヒクルで処置した動物(第3群)よりも有意に低い血漿ク
レアチニンレベルを有していた。PL中の胎盤幹細胞で処置した動物(第5群及び第6群)もま
た、PLビヒクルで処置した動物(第2群)と比較して、用量依存的な様式で、血漿クレアチ
ニンレベルの低下を示した。
【0191】
模擬群の動物のBUNレベルは、全研究期間を通して、正常範囲にあった。虚血-再灌流処
置を受けた動物は、BUNレベルの上昇を示した。虚血-再灌流を受けた動物を胎盤幹細胞で
処置したとき、BUNレベルの低下の改善の傾向が観察された。FM中の胎盤幹細胞で処置し
た動物(第4群)は、虚血-再灌流から24時間、48時間、及び72時間後、対照ビヒクルのFMで
処置した動物(第3群)と比較して、BUNレベルの減少を示し、24時間と48時間の差は、統計
的に有意であった。PL中の胎盤幹細胞で処置した動物(第5群及び第6群)のBUNレベルもま
た、用量関連低下を示し:第5群の動物は、対照ビヒクルで処置した群(第2群)と同程度のB
UNのレベルを示したが、より高い用量の胎盤幹細胞を受容した第6群の動物は、ビヒクル
対照群と比較して低下したBUNのレベルを示した。
【0192】
(5.1.2.3.2 クレアチニンクリアランス(CCr))
模擬対照群の動物は、全研究期間を通して、正常なクレアチニンクリアランスを有して
いた。虚血-再灌流処置を受けた動物は、模擬対照よりも低いクレアチニンクリアランス
有しており、腎機能障害を示した。FM中の胎盤幹細胞で処置した動物(第4群)は、ビヒク
ルのFMで処置した動物(第3群)と比較して、全研究期間にわたって、クレアチニンクリア
ランスの有意な改善を示した。PL中の6×106個の胎盤幹細胞で処置した動物(第6群)は、8
時間の時点で、対照ビヒクルのPLで処置した動物(第2群)よりも良好なクレアチニンクリ
アランスを示した。
【0193】
(5.1.2.3.3 Na+排泄分画)
模擬対照群の動物は、研究期間の全体を通して、そのNa+排泄分画(FENa)を常に正常範
囲に維持した。虚血-再灌流処置を受けた動物は全て、Na+排泄のパーセンテージの増加を
示した。概して、胎盤幹細胞による虚血-再灌流の処置(第4~6群)は、Na+排泄分画の減少
をもたらした。FM中の胎盤幹細胞で処置した動物(第4群)は、虚血-再灌流から24時間、48
時間、及び72時間後、対照ビヒクルのFMで処置した動物(第3群)と比較して、Na+再吸収の
有意な改善を示した。PL中の胎盤幹細胞で処置した動物(第5群及び第6群)もまた、対照ビ
ヒクルのPLで処置した動物(第2群)と比較して、FENaの低下の傾向を示した。
【0194】
(5.1.2.4 組織病理学的評価)
調べた腎臓の尿細管上皮傷害の最も顕著な組織学的特徴は、拡張尿細管、出血、尿細管
内ガラス状物質、間質性単核細胞浸潤物、及び尿細管上皮の壊死であった。拡張尿細管、
出血、及び単核細胞浸潤物は、ビヒクル対照(第2群及び第3群)と比較して、胎盤幹細胞で
処置した動物(第4群、第5群、及び6群)で重症度がわずかに低かった。さらに、尿細管上
皮の壊死は、ビヒクル対照(第2群及び第3群)と比較して、胎盤幹細胞で処置した動物(第4
群、第5群、及び第6群)で頻度及び重症度が明らかに低かった。
【0195】
(5.1.3 結論)
結論として、DMEMのみ又はデキストラン及びDMSOを含む培地(凍結培地)中の胎盤幹細胞
は、ラットにおいて虚血/再灌流傷害によって誘導される腎臓の機能障害に対する防御を
引き起こすことができ、胎盤幹細胞を急性腎損傷の治療で使用することができることを示
した。
【0196】
(等価物:)
本明細書に開示される組成物及び方法は、本明細書に記載の具体的な実施態様によって
範囲が限定されるべきではない。実際、記載されているものに加えて、組成物及び方法の
様々な変更が、前述の説明から、当業者に明らかになるであろう。そのような変更は、添
付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図される。
【0197】
様々な刊行物、特許、及び特許出願が本明細書に引用されており、これらの開示は、引
用により完全に本明細書中に組み込まれる。